説明

コード状発熱線装置

【課題】1線式コード状発熱線でありながら、温度検知素線および短絡検知素線を高分子層の外周に交互に一定のピッチで螺旋状に巻き、温度制御回路と線間短絡保護回路とを分離することにより、精度が高く安定した温度制御機能とバラツキが少なく安全性の高い線間短絡保護機能を得ることができ、経済的にも優れたコード状発熱線装置を提供する。
【解決手段】巻芯1に発熱素線2を螺旋状に巻回する。その回りに高分子層3を形成し、その外周に温度検知素線4と短絡検知素線6とを交互に一定のピッチを保ち、且つ高分子層3に食込む形で螺旋状に巻き、さらにその上に絶縁被覆層5を形成する。温度検知素線4と短絡検知素線6は空間的に分離され、これにより温度検知素線4による温度制御および短絡検知素線6による線間短絡保護を各々独立して高精度でバラツキなく行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気毛布、電気カーペットなどの面状採暖具に用いられるコード状発熱線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に電気毛布、電気カーペットなどの面状採暖具に用いられるコード状発熱線はよく知られており、特に当初電気カーペットに用いられていたコード状発熱システムの形態は、コード状のセンサ線とコード状のヒータ線からなる2線式と呼ばれる構成であり、その構造を図3に示す。
【0003】
同図に於いて、コード状センサ線100はポリエステル繊維等の繊維束の巻芯1aと、巻芯1aの外周に銅または銅合金の導体を螺旋状に捻回した内側電極素線2aと、内側電極素線2aの外周に高分子感熱樹脂を押出し成形してなる高分子感熱層3aと、高分子感熱層3aの外周に銅または銅合金の導体を螺旋状に捻回した外側電極素線4aと、最外周にポリ塩化ビニル樹脂等を押出し成形した絶縁被覆層5aとからなっている。
【0004】
なお、必要に応じて外側電極素線4aと絶縁被覆層5aの間にポリエステルテープを螺旋状に捻回し、絶縁被覆層5aからの可塑剤移行に対するバリア層が設けられる場合がある。また、内側電極素線2aと外側電極素線4aが逆配置のものや、内電側極素線2aと外側電極素線4aが特殊な合金等で形成されているものが一部見受けられる。
【0005】
ここで、高分子感熱層3aの温度に対する電気的特性は、温度上昇に伴い交流インピーダンスが減少する所謂負温度係数サーミスタ特性の形を示し、感度性能を表すB定数は概ね8000Kから11000K程度を有する。なお、高分子感熱層3aは必ずしも固有の融点を持つ必要はない。
【0006】
このような構成のコード状センサ線100に於いて、温度変化による交流インピーダンスの変化は内側電極素線2aと外側電極素線4aの両端から電気信号として取り出され温度制御用として利用される。
【0007】
次に、コード状ヒータ線101は、図3と同様の形状をしているが、使用する材料が異なる。同図に於いて、ポリエステル繊維等の繊維束の巻芯1bと、巻芯1bの外周に銅または銅合金の導体を螺旋状に捻回した発熱素線2bと、発熱素線2bの外周に高分子樹脂を押出し成形してなる高分子層3bと、高分子層3bの外周に銅或いは銅合金の導体を螺旋状に捻回した短絡検知素線4bと、最外周にポリ塩化ビニル樹脂等を押出し成形した絶縁被覆層5bとからなっている。
【0008】
ここで、高分子層3bは固有の融点を持ち、過熱状態になると高分子層3bは溶融し、発熱素線2bと短絡検知素線4bが接触し、所謂線間短絡保護機能の一部として働く。尚、ここで言う線間短絡保護機能とは、線間短絡時に温度ヒューズなど他の部品と組み合わせて大もとの電源を非復帰の形で遮断し、異常過熱による火災などを防止する機能を言う。
【0009】
尚、必要に応じて短絡検知素線4bと絶縁被覆層5bの間にポリエステルテープを螺旋状に捻回し、絶縁被覆層5bからの可塑剤移行に対するバリア層が設けられる場合がある。また、発熱素線2bと短絡検知素線4bが逆配置のものが一部見受けられる。
【0010】
これら2条のコード状センサ線100とコード状ヒータ線101は略平行して布線され温度制御部に接続され、図4に示す回路接続により温度制御と線間短絡保護の動作が実現される。
【0011】
図4に於いて、コード状センサ線100からの信号は抵抗器R1、R2で低電圧に分圧され、更にダイオードD3とコンデンサC1により平滑され、小さな直流成分として電圧比較器U1のマイナス端子に入力され、予め設定された温度に相当する基準電圧Vref1と比較され電圧比較器U1より出力され、電力制御スイッチSWの開閉が駆動され発熱素線2bへの通電が制御される。
ここで符号STBは、低電圧化された安定化電源であり温度制御部に供給される。(以下、同様とする。)
【0012】
一方、コード状ヒータ線101の線間短絡保護動作は、図4に示すように短絡検知素線4bの両端が短絡され、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1と2つのダイオードを介して、AC100Vの各々の極に接続され、線間短絡保護回路が構成される。
ここで、F1は温度ヒューズ、RF1は温度ヒューズ一体形抵抗器、D1,D2は整流ダイオードである。
【0013】
図4に示すコード状ヒータ線101の線間短絡保護回路の動作は次の通りである。
コード状センサ線100の接続された温度制御部が破損し制御不能に陥った場合、電力制御スイッチSWがONのままとなり、コード状ヒータ線101の発熱素線2bへの通電が連続となり全体が過熱状態になるので、高分子層3bが固有の融点で溶融し、発熱素線2bと短絡検知素線4bが接触し、「AC電源N点→2b→4b→RF1→D1→F1→AC電源H点」と「AC電源H点→F1→2b→4b→RF1→D2→AC電源N点」の2つの経路で交流半波電流が流れ、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1が大きな電力で加熱され所定時間内に温度ヒューズが溶断し電源が遮断され、火災の発生を防止する最終的保護回路が構成される。
ここで、AC電源のH点、N点は回路図上の位置を示す呼称であり、電気的意味は含まない。尚、ダイオードD1及びD2の方向が各々逆向きに接続されても同様の動作となる。
【0014】
上記線間短絡保護回路の優れている点は次の通りである。
(1)短絡検知素線4bの抵抗値は温度ヒューズ一体形抵抗器RF1よりずっと小さくでき、工業的には発熱素線2bの抵抗値以下に小さくすることも可能であり、線間短絡時の温度ヒューズ溶断時間のバラツキを非常に小さくすることもできるが、どの程度まで小さくするかはコストとの兼ね合いによる。
(2)短絡検知素線4bの両端を接続して使うことにより、短絡検知素線4bの合成抵抗は短絡位置にかかわらず両端開放の元の抵抗値の1/4以下になるので、前記第(1)項に示す短絡検知素線4bの低抵抗化を図ることは、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の抵抗値に対して4倍以上の大きな縮小効果をもたらす。
(3)温度ヒューズ一体形抵抗器RF1には、2つの経路で交流半波電流が流れるので、線間短絡位置や電力制御スイッチSWのON、OFF状態による消費電力のバラツキを小さくすることができるうえに、コード状ヒータ線101はコード状センサ線100と空間的に離れているので、電気的相互干渉がなく極めて安全性が高く安定した線間短絡機能を提供することができる。
【0015】
次に、図4に基づき温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の消費電力の概略計算値を表3に示す。
ここで、発熱素線2bの抵抗値を28.6Ω、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の抵抗値を180Ω、短絡検知素線4bの抵抗値は温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の抵抗値の1/2程度と云う目安及びコストとを考慮し、発熱素線2bの抵抗値の3倍程度に相当する90Ωとする。尚、ダイオードD1,D2の順方向電圧降下分は僅かなので計算から省略する(以降同様とする)。
【表3】

【0016】
表3によれば、2線式コード状ヒータ線101(従来例1)に於いては、線間短絡位置や電力制御スイッチSWのON、OFF状態の各モードによる温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の消費電力は、実使用上では13.9W÷9.6W=1.4倍の違いしか発生しない。
【0017】
上記は、線間短絡保護機能が電力制御スイッチSWのON、OFFに関係なく機能するので、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の消費電力は各モードでの最大値が有効に働くことによる。
ここで、温度ヒューズF1の溶断時間が消費エネルギーによると仮定すると、消費電力13.9Wに対し9.6Wの場合の溶断時間は1.4倍しか増加しないと予想されるが、実測された溶断時間は上記の予想に対し、概ね妥当な値が得られている。
【0018】
このようにコード状センサ線とコード状ヒータ線よりなる従来の2線式コード状発熱線の形態は、温度制御機能と安全保護機能を完全に分離できる優れた構成になっており、線間短絡位置による溶断時間の差は許容できる範囲に余裕を持って収めることができ、極めて安全性の優れた形態であるが、2本の線条を使うのでコストが非常に高く経済的でない上に、高分子感熱層3aの経時変化が大きいため、長期間にわたって安定した温度制御ができないと云う大きな問題があった。
上記説明と外観や構成が類似するものとして特許文献1〜6が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭48−55480号公報
【特許文献2】特開昭5−3071号公報
【特許文献3】特開昭5−306819号公報
【特許文献4】特開平6−5175号公報
【特許文献5】特開平6−124771号公報
【特許文献6】特開平7−216174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
近年、電気毛布や電気カーペットに於いて大面積化とともに視覚や感触の面から生地やカバーが厚手になる一方、単位面積当たりのコード状発熱線の布線密度は少なめにすると云う市場の強いコストダウンと長期にわたる経時変化の少ない安定した温度制御と云う要求により、急速に1線式コード状発熱線と呼ばれる発熱線構造が普及してきたが、前記2線式に比べ異常過熱時の線間短絡保護機能にバラツキが多く、火災の発生を防止する最終的保護機能が十分な安全性を保有しておらず大きな問題になっている。
【0021】
図3に示す1線式コード状発熱線102は、ポリエステル繊維等の繊維束の巻芯1cと、巻芯1cの外周に銅または銅合金の導体を螺旋状に捻回した発熱素線2cと、発熱素線2cの外周に高分子樹脂を押出成形してなる高分子層3cと、高分子層3c外周にニッケルなどの導体を螺旋状に捻回した温度検知素線4cと、最外周にポリ塩化ビニル樹脂等を押出成形した絶縁被覆層5cとからなっている。
【0022】
なお、必要に応じて温度検知素線4cと絶縁被覆層5cの間にポリエステルテープを螺旋状に捻回し、絶縁被覆層5cからの可塑剤移行に対するバリア層が設けられる場合がある。また、発熱素線2cと温度検知素線4cが逆配置のものが一部見受けられる。
【0023】
このような構造のコード状発熱線102に於いて、加熱による温度変化が正の温度係数を有するニッケルからなる温度検知素線4cの抵抗値を変化させ、その変化は電気信号に変換されて取り出され温度制御用として利用される。尚、ニッケル線による温度検知素線は、イオン性伝導を使う高分子感熱層と異なり、その抵抗値も温度係数も精度が高く安定しており、長期間にわたって安定した精度の高い温度制御を実現できている。
【0024】
コード状発熱線102に於いて、高分子層3cは固有の融点を持ち、過熱状態になると高分子層3cは溶融し、発熱素線2cと温度検知素線4cが接触する、所謂線間短絡保護機能として働く。即ち、1線式コード状発熱線102に於いては、温度検知素線4cは短絡検知素線を兼ねている。
又、高分子層3cには、温度上昇に伴いインピーダンスが減少する負温度係数サーミスタ特性を持たせたものがある。
【0025】
1線式コード状発熱線102の温度制御と線間短絡保護の動作は、図5に示すような回路接続で実現される。
温度制御動作は、温度検知素線4cの抵抗変化が、抵抗器R1とR2で分圧され電圧比較器U1のマイナス端子に入力され、予め設定された温度に相当する基準電圧Vref1と比較され電圧比較器U1より出力され、電力制御スイッチSWの開閉が駆動され発熱素線2cへの通電が制御される。
ここで符号STBは、低電圧化された安定化電源であり温度制御部に供給される。
【0026】
線間短絡保護動作は、温度検知素線4cの両端にダイオードD1とD2のアノードが各々接続され、ダイオードD1,D2のカソードはまとめて温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の一端に接続され、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の他端がAC100Vの一端に接続されて構成される。
【0027】
ここで、前記温度制御部が破損し制御不能に陥った場合は、電力制御スイッチSWがONのままとなり、発熱素線2cへの通電が連続となり全体が過熱状態になるので、高分子層3cが固有の融点で溶融し、発熱素線2cと温度検知素線4cが接触し、「AC電源N点→2c→4c→D1又はD2→RF1→F1→AC電源H点」の経路で電流が流れ、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1が加熱され所定時間内に温度ヒューズが溶断し電源が遮断され、火災の発生を防止する最終的保護回路が構成される。
【0028】
上記の線間短絡機能の中で特に重要な点は、コード状発熱線102のどの位置で線間短絡が発生してもバラツキの少ない状態で保護機能が働かなければならないことである。この要求を満たすため、図5に示す回路接続に於いて、温度検知素線4cと温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の抵抗値を下げる方向で線間短絡位置の影響を低減し、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の均一な加熱による温度ヒューズF1の均一な溶断時間を確保する努力が払われてきたが、短絡検知素線を兼ねる温度検知素線4cの抵抗値を、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の抵抗値より小さくすることは経済的に不可能に近い。
【0029】
図5に基づき温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の消費電力の概略計算値を表3に示してある。ここで、温度検知素線4cの抵抗値を60℃で1176Ω、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の抵抗値を180Ω、発熱素線2cの抵抗を28.6Ωとする。また、その他の条件は2線式の場合と同様である。
【0030】
表3によれば、1線式コード状発熱線102(従来例2)に於いては、線間短絡位置や電力制御スイッチSWのON、OFF状態の各モードによる温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の消費電力は、実使用上では13.9W/1.9W=7.3倍の違いが発生する。ここで、温度ヒューズF1の溶断時間が消費エネルギーによると仮定すると、消費電力13.9Wに対し、1.9Wの場合の溶断時間は7.3倍になると予想されるが、実測された溶断時間は予想に対し概ね妥当な値が得られている。
【0031】
更に、温度検知素線4cの60℃の前記抵抗値1176Ωを1/2の588Ωまで下げると云う極端な場合を想定し、電力制御スイッチSWがOFFの期間について試算すると、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の消費電力は3.9W程度となり、溶断時間は13.9W/3.9W=3.6倍にまで短縮されると予想され許容範囲に近づく。
【0032】
しかしながら、温度検知素線4cの抵抗値を1/2にすれば、その温度信号は半減してしまうので、温度検知素線4cに流す電流を2倍にしなければならず、それは低電圧化する定電化電源部の発熱を増大させ、温度制御器の収納ケースの表面温度を上げ、使用上の違和感と安全上の問題を発生させる。
【0033】
次に、1線式コード状発熱線の別の構造として、図6のような構造の発熱線が提案されている(特許文献5)。
【0034】
同図に於いて、ポリエステル繊維等の繊維束の巻芯1dと、巻芯1dの外周に銅または銅合金の導体を螺旋状に捻回した発熱素線2dと、発熱素線2dの外周に高分子感熱樹脂を押出し成形してなる高分子感熱層3dと、高分子感熱層3dの外周には絶縁被覆された温度検知素線4dと裸の過熱検知素線6dが相互の間隔を設けて一定のピッチで螺旋巻きされ、その外周が絶縁被覆層5dで絶縁されコード状発熱線103とされている。ここで高分子感熱層3dは、温度の上昇に伴いインピーダンスが減少する所謂負温度係数サーミスタ特性を有するものである。
【0035】
図6の構造図に基づき、絶縁被覆された温度検知素線4dは他の部分と電気的に独立しており、純粋な温度検知信号のみを検出できるとともに、高分子感熱層3dの過熱信号は発熱素線2dと過熱検知素線6dの間から温度検知信号の混入なく純粋に過熱信号を検出できるので、過熱が進み高分子感熱層3dが溶融し発熱素線2dと過熱検知素線6dとが接触する所謂線間短絡の発生よりずっと手前の温度で前記過熱信号により発熱素線2dへの通電を遮断し、線間短絡を防止できることが示されている。
【0036】
この様子を図7の回路図で具体的に更に詳しく説明する。
同図に於いて、絶縁被覆された温度検知素線4dからの信号は、抵抗器R1及びR2で分圧され電圧比較器U1−Aのマイナス端子に入力され、予め設定された温度に相当する基準電圧Vref1と比較され電圧比較器U1−Aより出力され、電力制御スイッチSWの開閉が駆動され発熱素線2dへの通電が制御される。
【0037】
次に、過熱検知素線6dからの信号は抵抗器R2及びR3で分圧され電圧比較器U1−Bのマイナス端子に入力され、線間短絡の発生よりずっと手前の予め設定された温度に相当する基準電圧Vref2と比較され電圧比較器U1−Bより出力され、電力制御スイッチSWの開閉が駆動され発熱素線2dへの通電が制御される。
このように、高分子感熱層3dが溶融し発熱素線2dと過熱検知素線6d間の線間短絡の発生以前にそれを予防できるとするのが特許文献5の主目的である。
【0038】
しかし、前述のような予防措置を講じても温度制御部が故障する場合もあり、高分子感熱層3dが溶融し発熱素線2dと過熱検知素線6dの間で線間短絡が発生した場合に備え線間短絡保護回路を設けることはできるが、「信号分離」と云う前記の主目的を堅持したまま可能となる線間短絡保護用の回路接続は、図7に示すように図3及び図5で説明した普及形の1線式コード状発熱線102を使った場合と同様にしか構成できず、バラツキの少ない線間短絡保護動作を得ることはできない。
【0039】
勿論、過熱検知素線6dについて2線式のように2つの経路で交流半波電流が流れる感度の高い線間短絡保護専用として利用することも可能であるが、主目的の過熱信号による線間短絡の予防回路は構成できなくなる。従って、特許文献5の目的である温度検知素線4dの絶縁被覆処理はその機能を発揮する必要がなくなるので、特許文献5の構造で過熱検知素線を短絡検知素線専用として使用することは、極めて不経済とならざるを得ない矛盾を生じる。
【0040】
本発明の目的は、1線式コード状発熱線でありながら、各々の部分が好適な材質で構成された温度検知素線および短絡検知素線を高分子層の外周に交互に一定のピッチを保ち、且つ高分子層に食込む形で螺旋状に巻き、温度制御回路と線間短絡保護回路とを強固に分離することにより、精度が高く安定した温度制御機能とバラツキが少なく安全性の高い線間短絡保護機能を得ることができ、経済的にも優れたコード状発熱線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0041】
前記目的を達成するために、本発明による請求項1記載のコード状発熱線装置は、巻芯に所定のピッチで螺旋巻きされ両端に交流が印加される発熱素線、前記発熱素線上に密着配置され、所定の温度で溶融する高分子層、前記高分子層の外周に相互の間隔を設けて一定のピッチを保ち、且つ前記高分子層に食込む形で螺旋巻きされた温度検知素線と短絡検知素線とからなる2条の導体、及び前記2条の導体を絶縁する被覆層を具備したコード状発熱線装置であって、前記短絡検知素線の両端が温度ヒューズ一体形抵抗器の一端に接続され、前記抵抗器の他端が2つのダイオードを介して各々AC電源の両極に接続され、前記発熱素線と前記短絡検知素線が任意の位置で短絡した場合、前記発熱素線側に印加される交流が短絡した部分を通じ前記短絡検知素線に接続した線を通って前記温度ヒューズ一体形抵抗器に流れる経路が形成され、該経路に溶断にいたる大きさの電流が流れ加熱し、短時間で温度ヒューズを切断し安全性を確保することを特徴とする。
【0042】
本発明による請求項2記載のコード状発熱線装置は、巻芯の外周に相互の間隔を設けて一定のピッチを保ち螺旋巻きされた温度検知素線と短絡検知素線とからなる2条の導体、前記2条の導体が食込むよう押圧成形された高分子層、所定の温度で溶融する前記高分子層の外周に所定のピッチで螺旋巻きされ両端に交流が印加される発熱素線及び前記発熱素線を絶縁する被覆層を具備したコード状発熱線装置であって、前記短絡検知素線の両端が温度ヒューズ一体形抵抗器の一端に接続され、前記抵抗器の他端が2つのダイオードを介して各々AC電源の両極に接続され、前記発熱素線と前記短絡検知素線が任意の位置で短絡した場合、前記発熱素線側に印加される交流が短絡した部分を通じ前記短絡検知素線に接続した線を通って前記温度ヒューズ一体形抵抗器に流れる経路が形成され、該経路に溶断にいたる大きさの電流が流れ加熱し、短時間で温度ヒューズを切断し安全性を確保することを特徴とする。
【0043】
本発明による請求項3記載のコード状発熱線装置は、請求項1または2記載のコード状発熱線装置に於いて、前記温度検知素線と前記短絡検知素線は各々厚さ或いは直径の10%以上50%以下が高分子層に食込む形で螺旋巻きされることを特徴とする。
【0044】
本発明による請求項4記載のコード状発熱線装置は、請求項1,2または3記載のコード状発熱線装置に於いて、前記高分子層はポリアミド樹脂とポリアミド・エラストマーとの混和物からなり、溶融温度が130℃以上190℃以下であることを特徴とする。
【0045】
本発明による請求項5記載のコード状発熱線装置は、請求項1,2,3または4記載のコード状発熱線装置に於いて、前記温度検知素線は正の温度係数を有する金属線であることを特徴とする。
【0046】
本発明による請求項6記載のコード状発熱線装置は、請求項1乃至5のいずれか記載のコード状発熱線装置に於いて、前記2つのダイオードは、その同極側が温度ヒューズ一体形抵抗器の一端に接続され、前記ダイオードの各々の他極側がAC電源の各極へ接続され、前記温度ヒューズ一体形抵抗器の他端が短絡検知素線の両端に接続されることを特徴とする。
【0047】
本発明による請求項7記載のコード状発熱線装置は、請求項1乃至6のいずれか記載のコード状発熱線装置に於いて、前記短絡検知素線は、その抵抗値が温度ヒューズ一体形抵抗器の抵抗値以下であることを特徴とする。
【0048】
以下、本発明の構成につき詳細に説明する。
本発明のコード状発熱線装置に用いられる芯線は、ポリエステル繊維束、ポリイミド繊維束、ガラス繊維束などであるが、耐熱性、柔軟性及びコストの面からポリエステル繊維束が好適であり、用途に応じて耐熱性、柔軟性に優れた繊維束であれば特に限定されないし、また多種繊維の混合束であってもよい。
【0049】
本発明のコード状発熱線装置に用いられる所定のピッチで螺旋巻きされた発熱素線は、材質として純銅線や銅と錫の合金線、または銅と銀の合金線などがあり、形状は丸線状や薄板状にすることも可能であり、それらは単線のままであったり、撚線にされたり、或いは多条に引き揃えられて螺旋巻きされるが、所定の寸法で所定の抵抗値を得るために、材質や形状の選択は何ら限定されるものではない。
ここで、発熱素線は、発熱のために電流を流す導体であるが、線間短絡時に短絡検知素線と接触する一方の電極として働くことも担う。
【0050】
本発明のコード状発熱線装置に用いられる温度検知素線と短絡検知素線は、その表面が絶縁されず裸のまま高分子層の外周に相互の間隔を設けて一定のピッチで螺旋巻きされるが、各々の素線の厚さ或いは直径の10%以上50%以下が高分子層に食込んだ形で螺旋巻きされ、上部の絶縁被覆層で強固に固定されるので、コード状発熱線が屈曲ストレスを受けても絶縁被覆されていない温度検知素線と過熱検知素線同士が接触しないようになっている。
【0051】
本発明のコード状発熱線装置に用いられる高分子層は、電気毛布や電気カーペットなどの製品の表面温度やコード状発熱線の耐熱温度より、高分子層の溶融温度は130℃以上190℃以下、好ましくは150℃〜170℃で比較的急な溶融特性を示すポリアミド樹脂とポリアミド・エラストマーとの混和物が好適である。
【0052】
ここで、高分子層の溶融温度が130℃以下では、通常の温度制御に於いて発熱素線のピーク温度が瞬間的に120℃付近まで上昇する場合があり、これが繰り返し発生すると短期間で発熱素線と短絡検知素線が短絡してしまう可能性が高くなり、190℃以上では、発熱素線の過熱が進み発煙やコゲの発生が増加するので適切ではない。
【0053】
また、温度検知素線と短絡検知素線の高分子層への食込み量と前記両素線を覆う絶縁被覆層の成形温度及び圧力との関係から、高分子層の溶融温度は前記と同じく130℃以上190℃以下、好ましくは150℃〜170℃の範囲が好適である。
【0054】
更に、前記絶縁被覆層の成形温度が低目の場合でも前記高分子層への食込みを十分深くするため、本発明のコード状発熱線装置に用いられるポリアミド樹脂とポリアミド・エラストマーの混和物に、ポリアルキレン・オキサイドを加えても良いし、前記高分子層には導電剤を配合し、温度上昇に伴い電気的インピーダンスが減少する所謂負温度係数サーミスタ特性を持たせてもよい。
【0055】
なお、万一温度検知素線と短絡検知素線が接触するような場合でも、短絡検知素線はダイオードと温度ヒューズ一体形抵抗器を介してAC電源に接続されているので、温度検知素線の接触状態を制御回路が容易に検出し電源を遮断し安全を確保することができる。
従って、本発明による温度検知素線は、図6のように絶縁被覆する細密な工程はまったく必要ない。
本発明の図2に於いて温度検知素線と短絡検知素線間の短絡の有無によるR2の端子電圧は、適切な平滑回路を通して短絡なしの場合、約0.9V,短絡ありの場合、0.4〜0.5Vとなり、明確な弁別比を確保することができる。
【0056】
本発明のコード状発熱線装置に用いられる温度検知素線は、正の温度係数を有する金属線であれば特に限定されないが、金属の中では温度係数が比較的高めで、伸線加工や巻線加工などの機械的ストレスを受けても抵抗値や温度係数が安定しているニッケルが利用され、正の温度係数を有し温度に対する抵抗特性が直線的で再現性に優れ経時変化の少ない温度検知素線とされる。
【0057】
本発明のコード状発熱線装置に用いられる2つのダイオードは、その同極性側が温度ヒューズ一体形抵抗器の一端に接続され、前記ダイオードの他極性側の各々がAC電源の各極に接続されるともに、前記温度ヒューズ一体形抵抗器の他端が短絡検知素線の両端に接続され、線間短絡時には前記温度ヒューズ一体形抵抗器へ2つの経路からの交流半波電流が流れ大きな電力印加による迅速な溶断が可能な線間短絡保護回路を構成する。ここで、前述の極性接続基準を保てば、前記2つのダイオードの正逆方向は特に限定されるものではない。
【0058】
本発明のコード状発熱線装置に用いられる短絡検知素線は、その抵抗値が温度ヒューズ一体形抵抗器の抵抗値以下、好ましくは温度ヒューズ一体形抵抗器の抵抗値の1/2以下が好適である。本発明の場合、短絡検知素線の抵抗値は温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の抵抗値よりずっと小さくでき、工業的には発熱素線の抵抗値以下に小さくすることも可能であるが、どの程度まで小さくするかはコストとの兼ね合いによる。
【0059】
温度検知素線と短絡検知素線の外周に密着して電気絶縁性が高く、しなやかで且つ安価な塩化ビニル樹脂などの絶縁被覆層が押出し成形などにより形成され、コード状発熱線装置となる。
【発明の効果】
【0060】
本発明によるコード状発熱線装置によれば、温度検知素線と短絡検知素線が高分子層の外周に相互の間隔を設けて一定のピッチ保ち、且つ前記高分子層に食込む形で螺旋巻きされているので、発熱素線と短絡検知素線との間の線間短絡検知は、温度検知素線とは関係なく短絡検知素線単独で検知でき、迅速でバラツキの少ない線間短絡保護機能を働かせ、局部的な発煙やコゲを防止することができる。
【0061】
本発明によるコード状発熱線装置によれば、温度検知素線と短絡検知素線が高分子層の厚さ或いは直径の10%以上50%以下、好ましくは20%以上40%以下が高分子層に食込んで螺旋巻きされ、上部の絶縁被覆層で強固に固定されるので、コード状発熱線が屈曲ストレスを受けても絶縁被覆されていない温度検知素線と短絡検知素線同士が接触しないようにすることができる。
【0062】
本発明によるコード状発熱線装置によれば、高分子層の溶融温度が130℃以上190℃以下、好ましくは150℃以上170℃以下で比較的急峻な溶融特性を示すポリアミド樹脂とポリアミド・エラストマーとの混和物から成っているので、食込み量や溶融温度、溶融時間に関し適切な品種と配合を選択することにより、最終的な線間短絡保護機能を柔軟に確保することができる。
【0063】
本発明によるコード状発熱線装置によれば、温度検知素線は正の温度係数を有する金属線であるため温度係数は小さいが、温度対抵抗特性が直線的で高分子感熱層に比べ経時変化が非常に小さいので、精密で安定性があり再現性に優れた温度制御が可能となる。
【0064】
本発明によるコード状発熱線装置によれば、2つのダイオードは、その同極性側が温度ヒューズ一体形抵抗器の一端に接続され、前記ダイオードの他極性側の各々がAC電源の各極に接続され、前記温度ヒューズ一体形抵抗器の他端が短絡検知素線の両端に接続され、線間短絡時には温度ヒューズ一体形抵抗器に2つの経路からの交流半波電流が流れ、大きな電力印加による線間短絡保護回路を構成できるので、温度ヒューズの溶断時間は短縮され、安全性の大幅な向上を確保することができる。
【0065】
本発明によるコード状発熱線装置によれば、短絡検知素線は、その抵抗値が温度ヒューズ一体形抵抗器の抵抗値以下、好ましくは1/2以下とされるので、不要な抵抗損失分が低減され、線間短絡位置や電力制御スイッチのON、OFF状態の影響を受け難く、バラツキの少ない溶断時間を実現し大幅な安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明によるコード状発熱線装置の実施の形態を示す図で、発熱線の一部を省略して示した構造図である。
【図2】本発明によるコード状発熱線装置の回路部分の実施の形態を示す回路図である。
【図3】2線式の従来例1と1線式の従来例2のコード状発熱線の一例を示す図で、発熱線の一部を省略して示した構造図である。
【図4】2線式の従来例1のコード状発熱線の回路部分の一例を示す回路図である。
【図5】1線式の従来例2のコード状発熱線の回路部分の一例を示す回路図である。
【図6】1線式の従来例3のコード状発熱線の一例を示す図で、発熱線の一部を省略して示した構造図である。
【図7】1線式の従来例3のコード状発熱線の回路部分の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、図面などを参照して本発明によるコード状発熱線の実施の形態を更に詳しく説明する。なお、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の内容に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施形態にかかるコード状発熱線1Hの一方端を示すもので、絶縁被膜層および高分子層などを一部省略して示した図である。
【0068】
このコード状発熱線1Hは、ガラス繊維またはポリエステル繊維等の繊維束の巻芯1と、巻芯1の外周に銅或いは銅合金の平角導体を螺旋状に捻回した発熱素線2と、発熱素線2の外周に高分子感熱樹脂を押出し成形してなる高分子層3と、高分子層3の外周には相互の間隔を設けて一定のピッチで螺旋巻きされた温度検知素線4と短絡検知素線6と、最外周にポリ塩化ビニル等を押出し成形した絶縁被覆層5とから構成されている。
【0069】
ここで、高分子層3はポリアミド樹脂の中でも吸水率の小さいナイロン12とポリアミド・エラストマーの混和物が好ましく、絶縁被覆層5の成形温度が低目の場合は、前記混和物にポリエチレン・グリコールやポリエチレン・オキサイド等のポリアルキレン・オキサイドを添加し、高分子層3の軟化点を下げてもよい。これらの材料をニーダー、または多軸押出機にて混練し、混和物としての高分子層3が得られる。尚、これらの材料は一度に投入され混練される場合もあるが、順次投入され、複数回にわたり混練される場合もある。
【0070】
又、高分子層3の外周には、温度検知素線4と短絡検知素線6とからなる2条の導体が、各々厚さ或いは直径の10%以上50%以下の部分が高分子層3に食込む状態で相互の間隔を設けて一定のピッチで螺旋巻きされる。この食込みの深さは通常巻線機のテンション管理により実現されるが、その手段のみならず絶縁被覆層5の押出し圧力を調整することにより、定量的に安定した食込み量を得ることができ、本発明を量産化に導く重要な工法であり核心の一つである。
尚、食込み量を決定するには絶縁被覆層の押出温度の調整と云う手段もあるが、押出温度は絶縁被覆層の材質により最適な流動性を確保する重要な手段であり、これを任意に変更することは好ましくない。
【0071】
また、絶縁被覆層5のポリ塩化ビニル樹脂混和物に含まれる可塑剤が高分子層3へ移行するのを防止するため、温度検知素線4及び短絡検知素線6と絶縁被覆層5の間にポリエステルテープを縦添え形成したバリア層を設けてもよい。
【0072】
図1に示した実施形態についての諸データは次の通りである。
巻芯1の材質 :ポリエステル繊維束
発熱素線2の材質 :0.7%錫銅合金
発熱素線2の寸法 :断面0.060×0.420mm(平角導体)、ピッチ0.86mm
高分子層3の材質 :表1
高分子層3の寸法 :厚さ0.33mm
温度検知素線4の材質 :ニッケル
温度検知素線4の寸法 :断面径φ0.080mm(丸線状の導体)、ピッチ0.86mm
短絡検知素線6の材質 :0.7%錫銅合金
短絡検知素線6の寸法 :断面径φ0.083mm(丸線状の導体)、ピッチ0.86mm
絶縁被覆層5の材質 :ポリ塩化ビニル樹脂混和物
絶縁被覆層5の寸法 :厚さ0.4mm
【0073】
尚、ポリ塩化ビニル樹脂混和物は、耐熱グレードのポリ塩化ビニル樹脂を用いた電源電線用の市販の混和物である(VM−163、アプコ製)、ポリアミド樹脂は、市販のナイロン12(3020X15、UBE製)及びポリアミド12エラストマー(9048X1、UBE製)を使用した。
【0074】
表1に示す3種類の実施例と2種類の従来例の各材料をニーダーまたは2軸押出機で混練し、図1に示す構造のコード状発熱線1Hとし、これを36mの長さに切断し測定用の試料とした。
【表1】

【0075】
本発明の実施例に関する回路構成を図2に示し、各部品の電気的な値とその動作を簡単に説明する。
同図に於いて、全長36mのコード状発熱線1Hの構成要素である発熱素線2の抵抗値は28.6Ω、温度検知素線4の抵抗値は60℃で1176Ω(温度係数は0.44%/℃)、短絡検知素線6の抵抗値90Ω、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の抵抗値は180Ωである。3は高分子層、R1,R2,R3は固定抵抗であり、R1=1.5KΩF,R2=470ΩF,R3=10KΩである。C1は電解コンデンサであり、C1=10μF,耐圧16V、D1,D2は整流ダイオード1N4004、U1は電圧比較器、SWは電圧比較器U1の結果により発熱素線2への通電を制御する電力制御スイッチであり、STBはAC100Vから温度制御部へ直流Vcc=5Vを供給する安定化回路部である。
【0076】
図2の回路の動作はつぎの通りである。
温度制御動作は、温度検知素線4の抵抗変化が、抵抗器R1とR2で分圧され電圧比較器U1のマイナス端子に入力され、予め設定された温度に相当する基準電圧Vref1と比較され電圧比較器U1より出力され、電力制御スイッチSWの開閉が駆動され発熱素線2への通電が制御される。
【0077】
線間短絡保護動作は、短絡検知素線6の両端が温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の一端に接続され、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の他端にはダイオードD1とD2の各々のアノードが接続され、ダイオードD1,D2のカソード側が各々AC電源の各極へ接続され、線間短絡が発生した場合には、温度ヒューズ一体形抵抗器RF1に2つの経路で交流半波電流が流れる。
【0078】
図2に基づき温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の消費電力の概略計算値を表3に示してある。表3によれば、本発明による実施例1、2及び3のコード状発熱線1Hに於いては、線間短絡位置や電力制御スイッチSWのON、OFF状態による温度ヒューズ一体形抵抗器RF1の消費電力は、2線式の場合と同じく実使用上では13.9W÷9.6W=1.4倍の違いしか発生しないと見積もられる。
【0079】
[温度制御試験]
36mのコード状発熱線1Hは、交差しないよう広げられ、上下をフェルトなどの断熱材で覆われ測定に供される。
温度検知素線4の平均温度が65℃で制御されるよう、予め電圧比較器U1のプラス入力電圧Vref1を設定し、通電により温度制御されたコード状発熱線1Hの中央位置の表面に直接温度センサを接触させて温度を測定した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0080】
[線間短絡保護試験]
コード状発熱線1Hの過熱による高分子層3の溶融に伴う発熱素線2と短絡検知素線6の間の線間短絡試験は擬似的に次のように実施した。図2の回路図に於いて、電力制御スイッチSWを表2の状態にし、発熱素線2と短絡検知素線6の片端A2とH2の間を強制的に短絡した場合と、発熱素線2と短絡検知素線6の各々の中央部を強制的に短絡した場合について温度ヒューズF1の溶断時間を測定した。
実施例1,2,3と従来例1(発熱素線2bと短絡検知素線4bの短絡による),2(発熱素線2cと温度検知素線4cによる)についてそれらの溶断時間を表2に示す。
【0081】
[素線の食込み量の測定]
実施例1,2,3及び従来例1,2に於いて、高分子層3(従来例1,2ではそれぞれ3b,3c)への温度検知素線4(従来例2では4c)と短絡検知素線6(従来例1では4b)の食込み量について、その断面を投影機で測定し素線径に対する平均的食込み量の百分率を表2に示す。また、180度屈曲試験1万回での前記両素線の接触の有無を表2に同時に示す。
【0082】
[溶融温度試験]
コード状発熱線1Hの過熱による高分子層3の溶融・短絡試験は次のように実施した。長さ0.5mに切断したコード状発熱線1Hの中央部を弛ませた状態で両端を固定して恒温槽に入れ、1℃/1分のレートで昇温する。尚、発熱素線2と短絡検知素線6には延長線が接続され、恒温槽外で抵抗計に接続される。昇温過程で前記抵抗計がゼロオームとなり短絡を検知した時の恒温槽温度を読み取って溶融温度とした。実施例1,2,3と従来例1(高分子層3b),2(高分子層3c)についての溶融温度を表2に示してある。
【0083】
各測定値についての評価はつぎの通りである。
[温度制御試験の評価]
表2の表面温度のバラツキを見ると、実施例と従来例の間には大きな差は見られず、本発明によりコード状発熱線の構造が変わっても、温度制御性能は従来に遜色ないことが実証できた。
【0084】
[線間短絡保護試験の評価]
2線式の従来例1の温度ヒューズ溶断時間の値は伝統を引き継ぐ優れた値を示したが、1線式の従来例2はコード状発熱線の中央部の線間短絡に於いて、問題となっている値、溶断時間が遅い189秒を再現した。これに対し、本発明による実施例1,2,3の何れも2線式の従来例1と同様に、コード状発熱線の端部の線間短絡と中央部の線間短絡との間で大きなバラツキのない値を示し、高い安全性を確保したことを実証できた。
【0085】
[溶融温度試験の評価]
表2の高分子層3(従来例1,2では3b,3c)の溶融温度を見ると、実施例1,2,3は、従来例1,2より低温側で溶融している。これはポリアミド・エラストマーの配合によるものであり、早めの溶融による早めの線間短絡を誘導しており、従来より安全性の向上を確保したことを実証できた。
[素線の食込み量の評価]
表1及び表2を対比すると、食込み量は素線の螺旋巻きテンションより、絶縁被覆層の押出し圧力、即ち押出しダイス径や押出し速度の調整により確実な値を得ることができ、その確実性と信頼性は屈曲試験の結果から十分に実証することができた。
【0086】
以上の実施例1,2,3は、巻芯に発熱素線を螺旋巻きし、その周囲を密着配置した高分子層の外周に相互の間隔を設けて一定のピッチを保ち、かつ高分子層に食込む形で温度検知素線と短絡検知素線とを螺旋巻きしその周囲に絶縁被膜層を形成する構造のコード状発熱線について説明したが、他の実施例として巻芯の外周に相互の間隔を設けて一定のピッチを保ち螺旋巻きされた温度検知素線と短絡検知素線とからなる2条の導体、前記2条の導体が食込むよう押圧成形された高分子層、所定の温度で溶融する前記高分子層の外周に所定のピッチで螺旋巻きされた発熱素線及び前記発熱素線を絶縁する被覆層を具備したコード状発熱線でも適用することができる。
この、他の実施例は、実施例1,2,3の発熱素線と、温度検知素線および短絡検知素線の配置位置が内外逆であり、回路は図2に示す構成を採用するものである。
【0087】
以上説明したように本発明によれば、1線式コード状発熱線でありながら、各々が好適な材質で構成された温度検知素線、および短絡検知素線が高分子層の外周に交互に一定のピッチを保ち、且つ高分子層に食込む形で螺旋状に巻かれ上部の絶縁被覆層で強固に分離固定されるので、温度制御回路では精度の高い安定した温度制御機能が得られるとともに、線間短絡保護回路では抵抗の高い温度検知素線をまったく介さず、短絡検知素線の低抵抗値化によりバラツキの少ない安全性の高い線間短絡保護機能が得られ、経済的にも優れたコード状発熱線装置を提供することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0088】
電気毛布、電気カーペットなどの面状採暖具に用いられるコード状発熱線装置である。
【符号の説明】
【0089】
1 巻芯
1H コード状発熱線
2 発熱素線
3 高分子層
4 温度検知素線
5 絶縁被覆層
6 短絡検知素線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯に所定のピッチで螺旋巻きされ両端に交流が印加される発熱素線、前記発熱素線上に密着配置され、所定の温度で溶融する高分子層、前記高分子層の外周に相互の間隔を設けて一定のピッチを保ち、且つ前記高分子層に食込む形で螺旋巻きされた温度検知素線と短絡検知素線とからなる2条の導体、及び前記2条の導体を絶縁する被覆層を具備したコード状発熱線装置であって、
前記短絡検知素線の両端が温度ヒューズ一体形抵抗器の一端に接続され、前記抵抗器の他端が2つのダイオードを介して各々AC電源の両極に接続され、
前記発熱素線と前記短絡検知素線が任意の位置で短絡した場合、前記発熱素線側に印加される交流が短絡した部分を通じ前記短絡検知素線に接続した線を通って前記温度ヒューズ一体形抵抗器に流れる経路が形成され、該経路に溶断にいたる大きさの電流が流れ加熱し、短時間で温度ヒューズを切断し安全性を確保することを特徴とするコード状発熱線装置。
【請求項2】
巻芯の外周に相互の間隔を設けて一定のピッチを保ち螺旋巻きされた温度検知素線と短絡検知素線とからなる2条の導体、前記2条の導体が食込むよう押圧成形された高分子層、所定の温度で溶融する前記高分子層の外周に所定のピッチで螺旋巻きされ両端に交流が印加される発熱素線及び前記発熱素線を絶縁する被覆層を具備したコード状発熱線装置であって、
前記短絡検知素線の両端が温度ヒューズ一体形抵抗器の一端に接続され、前記抵抗器の他端が2つのダイオードを介して各々AC電源の両極に接続され、
前記発熱素線と前記短絡検知素線が任意の位置で短絡した場合、前記発熱素線側に印加される交流が短絡した部分を通じ前記短絡検知素線に接続した線を通って前記温度ヒューズ一体形抵抗器に流れる経路が形成され、該経路に溶断にいたる大きさの電流が流れ加熱し、短時間で温度ヒューズを切断し安全性を確保することを特徴とするコード状発熱線装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のコード状発熱線装置に於いて、
前記温度検知素線と前記短絡検知素線は各々厚さ或いは直径の10%以上50%以下が高分子層に食込む形で螺旋巻きされることを特徴とするコード状発熱線装置。
【請求項4】
請求項1,2または3記載のコード状発熱線装置に於いて、
前記高分子層はポリアミド樹脂とポリアミド・エラストマーとの混和物からなり、溶融温度が130℃以上190℃以下であることを特徴とするコード状発熱線装置。
【請求項5】
請求項1,2,3または4記載のコード状発熱線装置に於いて、
前記温度検知素線は正の温度係数を有する金属線であることを特徴とするコード状発熱線装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載のコード状発熱線装置に於いて、
前記2つのダイオードは、その同極側が温度ヒューズ一体形抵抗器の一端に接続され、前記ダイオードの各々の他極側がAC電源の各極へ接続され、前記温度ヒューズ一体形抵抗器の他端が短絡検知素線の両端に接続されることを特徴とするコード状発熱線装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか記載のコード状発熱線装置に於いて、
前記短絡検知素線は、その抵抗値が温度ヒューズ一体形抵抗器の抵抗値以下であることを特徴とするコード状発熱線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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