説明

コーヒーエキスの製造方法

【課題】
糖類や甘味料を添加しなくても甘味を有し、濁りや沈殿が少なく、すっきり感とコク味を有する、乳無添加の無糖または微糖コーヒーに使用しても嗜好性が高いコーヒーエキスの製造方法を提供する
【解決手段】
焙煎コーヒー豆を水抽出時および/または水抽出後に酵素処理を施してコーヒーエキスを製造するに当たり、酵素処理前の段階における、焙煎コーヒー豆またはコーヒースラリーの段階において水蒸気蒸留を行うことにより香気留出液を回収し、酵素処理後の抽出液に香気留出液を添加することを特徴とするコーヒーエキスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香りが良好で、沈殿や濁りが生じにくく、かつ、糖類や甘味料を添加しなくても甘味、コク味を有し、乳無添加の無糖または微糖のコーヒー飲料に使用しても十分高い嗜好性を有する飲料とすることができるコーヒーエキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーは嗜好飲料として最もポピュラーな飲料で、家庭や喫茶店、レストランなどで焙煎豆から淹れて飲むほか、インスタントコーヒー、缶コーヒー、ペットボトルに充填されたコーヒーなど、あらゆる場面で飲まれる機会の多い飲料であり、多くの人々に愛飲されている。また、缶コーヒー、ペットボトルに充填されたコーヒーなどでは、より多くのコーヒーを楽しんでもらうために、コーヒー独特の香りや風味、コクなどを引き出すために現在も研究・開発が盛んに行われている。
【0003】
コーヒーを飲用する場合、砂糖とミルクを添加することが多いが、嗜好、機会、場面次第では乳やクリームを添加せず、かつ糖類を添加しないか(無糖)またはわずかに添加(微糖)して飲むことも増えてきている。焙煎豆からの淹れたてのコーヒーの場合、乳無添加無糖または微糖での飲用においても十分に耐えうる香り高さを保っていることが多い。一方、殺菌され缶やペットボトルに充填されている、いわゆる「容器詰め飲料」の場合、味、香りのバランスが崩れてしまうことが多く、苦味が強すぎたり、すっきり感が無い、コク不足、香り不足などにより乳無添加無糖または乳無添加微糖での飲用に十分満足できるものは未だにほとんど見当たらないのが現状である。
【0004】
焙煎コーヒー豆の抽出は通常、熱水により行われるが、熱水抽出エキスは一般的に乳無添加の無糖または微糖飲料とするには苦味が強すぎ、また、濁りが強く、そのままでは乳無添加の無糖または微糖飲料に向かないことが多い。この、コーヒーエキスの濁りを解決するための方法として、酵素処理による濁り成分の分解が提案されている。コーヒーエキスの酵素による分解方法としては、例えば、殺菌工程前のコーヒー抽出液に繊維質分解酵素を作用させることによるコーヒー抽出液の混濁防止方法(特許文献1)、コーヒー抽出液を、マンナン分解酵素による処理と、アルカリ性ナトリウム塩またはアルカリ性カリウム塩添加による処理との併用処理に付すことを特徴とするコーヒー飲料の製造方法(特許文献2)、液体コーヒー抽出物を20〜80℃の温度で固定化β−マンナナーゼにより加水分解する方法(特許文献3)、コーヒー抽出液にコーヒー抽出液固形分の含量の少なくとも0.01%(重量)のガラクトマンナン分解酵素を添加し、コーヒー抽出液に含まれているガラクトマンナンを分解し、のち濃縮する方法(特許文献4)、コーヒー液を減圧下で加温して香気成分を含む蒸気を発生させ、発生した蒸気を捕集し、冷却して凝縮水を得、蒸気を発生させた後のコーヒー抽出液にコーヒー抽出液の固形分に対して1〜50units/gのガラクトマンナン分解酵素を添加し50〜90℃で50〜10分間処理し、次いで、酵素処理したコーヒー抽出液を濾過または遠心分離し、不溶性物質を除去し、不溶性物質を除去したコーヒー抽出液にアルカリ剤を添加し、先に採取しておいた香気成分を含む凝縮水を添加することを特徴とするコーヒー液の沈殿を防止する方法(特許文献5)、などが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平4−45745号公報
【特許文献2】特開平7−184546号公報
【特許文献3】特開平7−274833号公報
【特許文献4】特開平8−70774号公報
【特許文献5】特開2003−199496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に記載の方法は、いずれも、コーヒー抽出液に糖質分解酵素を作用させることにより、濁り、沈殿の防止に関する発明であるが、酵素反応には熱や時間がかかってしまうことが多く、酵素反応中に香気劣化が起こってしまい、香気的に物足りないエキスしか得られないという欠点があった。また、特許文献3および特許文献4に記載の方法は、いずれも、コーヒー抽出液に糖質分解酵素を作用させ粘度を低下させ、安定な濃縮コーヒーエキスを得る方法に関する発明であるが、やはり、同様に酵素反応において熱や時間がかかってしまうことが多く、酵素反応中に香気劣化が起こってしまい、香気的に物足りないエキスしか得られないという欠点があった。特許文献5に記載の方法は特許文献1、2と同様コーヒー抽出液に糖質分解酵素を作用させることにより、濁り、沈殿の防止に関する発明であるが、抽出液をあらかじめ減圧下で加温して香気成分を含む蒸気を発生させ、発生した蒸気を捕集し、冷却して凝縮水を得て、酵素分解後の抽出液に添加しているため、酵素分解中の香気劣化を補うべく香気の改善はされている。しかしながら、コーヒー抽出液には焙煎コーヒー豆の香気が全て抽出されるわけではなく、また、コーヒーは水抽出後、急速に香気が劣化するため、抽出液から得た凝縮水では十分な香気の補強がされてはおらず、やはり、香気的に物足りないエキスしか得られないという欠点があった。すなわち、特許文献1〜5の方法で得られたコーヒーエキスは、いずれも、濁り、沈殿の問題は解決されているが、香り、コク味、甘さ、苦味などの点で乳無添加の無糖または微糖のコーヒー飲料に使用した場合には、十分満足できるものではなかった。
【0007】
したがって本発明の目的は、糖類や甘味料を添加しなくても甘味を有し、濁りや沈殿が少なく、すっきり感とコク味を有する、乳無添加の無糖または微糖コーヒーに使用しても嗜好性が高いコーヒーエキスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行ってきた結果、コーヒー抽出液またはコーヒーのスラリーを糖質分解酵素などを用いて分解するに際し、酵素処理中の香気劣化を補うため、酵素処理前の段階における、焙煎コーヒー豆またはコーヒースラリーの段階において水蒸気蒸留を行うことにより香気を回収し、酵素処理後の抽出液に香気を添加することにより、濁りや沈殿が生成せず、かつ、香気が良好なコーヒーエキスを開発することに成功した。また、コーヒー抽出液またはコーヒーのスラリーを糖質分解酵素において、コーヒー豆またはコーヒー抽出液中に含まれる多糖類を強く分解し、単糖または二糖類にまで分解することにより、砂糖などの糖類を後から添加しなくても甘味があり、その結果苦味がマスキングされ、コク味を有するコーヒーエキスを得ることができ、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、焙煎コーヒー豆を水抽出時および/または水抽出後に酵素処理を施してコーヒーエキスを製造するに当たり、酵素処理前の段階である、焙煎コーヒー豆またはコーヒースラリーから水蒸気蒸留法により香気留出液を回収し、酵素処理後の抽出液に香気留出液を添加することを特徴とするコーヒーエキスの製造方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明では、コーヒーエキス中の可溶性固形分に対するグルコース、マンノースおよびガラクトースの合計量の含有率が10重量%〜80重量%であることを特徴とする前記のコーヒーエキスの製造方法が提供するものである。
【0011】
さらに、本発明は、酵素処理がガラクトマンナン分解酵素とグルコアミラーゼの併用であることを特徴とする前記のコーヒーエキスの製造方法を提供する。
【0012】
さらにまた、本発明は、水蒸気蒸留法がコーヒースラリーを使用した気−液向流接触法であることを特徴とする前記のコーヒーエキスの製造方法を提供する。
【0013】
さらにまた、本発明は、水蒸気蒸留法がカラムに充填した焙煎コーヒー豆に水蒸気を接触させ、接触後の水蒸気を凝縮させる方法であることを特徴とする前記のコーヒーエキスの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法により得られたコーヒーエキスは、濁り、沈殿を生じにくく、コーヒーらしい自然な香りを有し、さらに、ほのかな甘味を有し、コク味があり、苦味が少ない。そのため通常のミルク入りコーヒー飲料に使用可能であることはもちろんであるが、乳無添加の無糖または微糖のコーヒー飲料に使用しても、十分おいしく飲料することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の態様について更に詳しく説明する。
本発明で使用するコーヒー豆は、焙煎したコーヒー豆であれば、いかなる方法にて得られたものでも良い。例えば原料生豆としてはアラビカ種、リベリカ種、ロブスタ種等いずれでも良く、その種類、産地を問わずブラジル、コロンビア、インドネシア種等いずれの産地のコーヒー豆も使用することができる。また、コーヒー豆は、一種類の豆のみを単独で使用しても、またブレンドした二種類以上の豆を使用してもよい。これらの生豆をコーヒーロースターにより焙煎したものを原料とすることができる。焙煎の方法としてはコーヒーロースターなどを用い常法により行うことができる。例えば、コーヒー生豆を回転ドラムの内部に投入し、この回転ドラムを回転攪拌しながら、下方からガスバーナー等で加熱することで焙煎できる。かかるコーヒー豆の焙煎の程度は、通常飲用に供される程度の焙煎であればいかなる範囲内でも良いが、L値として16〜30に焙煎することを例示できる。L値とはコーヒーの焙煎の程度を表す指標で、コーヒー焙煎豆の粉砕物の明度を色差計で測定した値である。黒をL値0で、白をL値100で表す。従って、コーヒー豆の焙煎が深いほど数値は低い値となり、浅いほど高い値となる。参考までに、通常飲用に利用される焙煎豆のL値はほぼ次に示す程度である。イタリアンロースト:16〜19、フレンチロースト:19〜21、フルシティーロースト:21〜23、シティーロースト:23〜25、ハイロースト:25〜27、ミディアムロースト:27〜29。焙煎コーヒー豆は引き続き粉砕を行うが、粉砕方法についても特に制限はなく、いかなる粉砕方法、粉砕粒度も採用することができ、粉砕装置も、特に限定されるものではない。しかしながら、外気と接触せず、不活性気体中で適宜冷却でき短時間で粉砕できる装置を採用することにより香気の飛散が防止できるためより好ましい。
【0016】
本発明の特徴はコーヒーエキスの水抽出時および/または水抽出後に酵素処理を施してコーヒーエキスを製造するに当たり、酵素処理前の段階における、焙煎コーヒー豆またはコーヒースラリーの段階において水蒸気蒸留法により香気留出液を回収し、酵素処理後の抽出液に香気留出液を添加することが特徴である。したがって、まず、焙煎粉砕したコーヒー豆は引き続き水蒸気蒸留法により香気留出液の回収を行う必要がある。コーヒーにおける酵素処理は前述の通り、濁り、沈殿などの品質改良方法として、さまざまな提案がなされているが、酵素処理の反応自体には熱と時間を必要するため、必然的にコーヒー香気の劣化を伴ってしまう。本発明ではこの問題を解決するために、焙煎コーヒー原料がフレッシュで香ばしい香気を有しているうちに、あらかじめ水蒸気蒸留法により香気留出液を回収しておき、酵素処理を有効に行った後、先に回収しておいたフレッシュで香ばしいコーヒー香気を抽出液に添加する。このことにより、焼きたて、挽きたてのコーヒー豆の香気を維持しながら酵素処理による品質の向上を実現することが可能となる。
【0017】
香気留出液の回収の方法としては、焙煎粉砕コーヒー豆を水と混合しスラリーとして、それを気−液向流接触法により香気回収する方法、または、粉砕したコーヒー豆をカラムなどの容器に充填し、カラムに水蒸気を送り込み、コーヒー豆を水蒸気を接触させ、接触後の水蒸気を凝縮させ回収する方法を採用することができる。
【0018】
気−液向流接触抽出法はそれ自体既知の各種の方法で実施することができ、例えば、特公平7−22646号公報に記載の装置を用いて抽出する方法を採用することができる。この装置を用いて香気を回収する手段を具体的に説明すると、回転円錐と固定円錐が交互に組み合わせられた構造を有する気−液向流接触抽出装置の回転円錐上に、液状またはペースト状の嗜好性飲料用原料を上部から流下させると共に、下部から蒸気を上昇させ、該原料に本来的に存在している香気成分を回収する方法を例示することができる。この気−液向流接触抽出装置の操作条件としては、該装置の処理能力、原料の種類および濃度、香気の強度その他によって任意に選択することができる。コーヒースラリーのコーヒー豆と水の比率は、コーヒースラリーが流動性をもつ状態となる量であればいかなる比率も採用することができるがおおよそ、コーヒー豆1重量部に対し水5倍量〜30倍量を例示することができる。水が、この範囲を下回る場合、流動性が出にくく、また、水がこの範囲をはずれて多い場合、得られる留出液の香気が弱くなる傾向がある。
【0019】
気−液向流接触抽出装置の操作条件の一例を示せば、下記のごとくである。
原料供給速度:300〜700L/hr
蒸気流量:5〜50Kg/hr
蒸発量:3〜35Kg/hr
カラム底部温度:40〜100℃
カラム上部温度:40〜100℃
真空度:大気圧〜−100kPa(大気圧基準)
カラムによる水蒸気蒸留法は、原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法であり、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留のいずれかの蒸留手段を採用することができる。具体的には、例えば、コーヒー原料を仕込んだ水蒸気蒸留釜の底部から水蒸気を吹き込み、上部の留出側に接続した冷却器で留出蒸気を冷却することにより、凝縮物として揮発性香気成分を含有する留出液を捕集することができる。必要に応じて、この香気捕集装置の先に冷媒を用いたコールドトラップを接続することにより、より低沸点の揮発性香気成分をも確実に捕集することができる。また、水蒸気蒸留の際に、窒素ガスなどの不活性ガス及び/又はビタミンCなどの抗酸化剤の存在下で蒸留することにより香気成分の加熱による劣化を効果的に防止することができるので好適である。また、水蒸気蒸留する際にコーヒー豆に対コーヒー豆50〜200重量%程度の水にてあらかじめ湿潤させてから水蒸気蒸留を行うことにより、香気の質の改善を図ることが可能である。また、留出液の採取量としては使用したコーヒー豆の重量を基準として10〜400重量%を採用することができる。
【0020】
上記香気留出液は、上述した方法で得られる留出液そのものでも使用することができるが、該留出液を任意の濃縮手段を用いて香気濃縮物の形態とすることもできる。かかる濃縮手段としては、例えば、該留出液を合成吸着剤に吸着せしめ、次いでエタノールで脱着することにより得ることができる。合成吸着剤としては、特に限定されないが、例えば、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼン共重合体、2,6−ジフェニル−9−フェニルオキサイドの重合体、メタアクリル酸とジオールの重縮合ポリマー及びシリカゲル表面のシラノール基の反応性を利用して、これに例えば、アルコール類、アミン類、シラン類などを化学結合させた化学結合型シリカゲル(修飾シリカゲル)などを例示することができる。かかる合成吸着剤の好ましい例としては、その表面積が、例えば、約300m2/g以上、より好ましくは約500m2/g以上及び細孔分布が好ましくは約10Å〜約500Åである多孔性重合樹脂を例示することができる。この条件に該当する多孔性重合樹脂としては、例えば、HP樹脂(三菱化学社製)、SP樹脂(三菱化学社製)、XAD−4(ローム・ハース社製)などがあり、市場で容易に入手することができる。また、メタアクリル酸エステル系樹脂も、例えば、XAD−7およびXAD−8(ローム・ハース社製)などの商品として入手することができる。また、上述の留出液を合成吸着剤に吸着させる処理手段としては、バッチ方式あるいはカラム方式のいずれも採用できるが、作業性の点からカラム方式を好ましく採用することができる。カラム方式で吸着させる方法としては、例えば、上記のような合成吸着剤を充填したカラムに、該吸着剤の10倍〜1000倍の回収香をSV=1〜100の流速で通液することにより、香気成分を吸着させることができる。次いで、該吸着剤を水洗した後、50〜95重量%のエタノール溶液をSV=0.1〜10の流速で通液し、該吸着剤に吸着されている香気成分を溶出させることにより水溶性の香気濃縮物とすることができる。
【0021】
香気を回収した後のコーヒー豆は、次いで、水抽出を行うが、この水抽出時および/または水抽出後に酵素処理を施してコーヒーエキスを製造する。すなわち、酵素処理は、水抽出の際に同時に行っても良いし、一旦水抽出を行った後に行っても良い。さらに、これらの方法を組み合わせて行うこともできる。
【0022】
カラムを用いた水蒸気蒸留後の残渣を一旦水抽出してから酵素処理する場合の抽出エキスの製造方法を具体的に示せば、例えば、上記の残渣原料1重量部あたり1〜100重量部の水を加え、静置もしくは撹拌条件下に、室温〜約100℃にて、使用温度に応じて約2分〜約5時間抽出を行い、冷却後、遠心分離、圧搾、濾過などのそれ自体既知の方法で固液分離することによって不溶物を除去することにより得ることができる。また、例えば、残渣原料をガラス又はステンレスなど適宜な材質のカラムに充填し、該カラムの上部もしくは下部より、室温〜約100℃の熱水を、定量ポンプなどを用いて流し、カラム抽出することによって得ることができる。かかるカラム抽出は所望により複数のカラムを直列に接続して行うことができる。
【0023】
また、気−液向流接触抽出法により香気を回収した場合は、残渣がすでに抽出液を含むスラリー状となっているため、残渣中の固形分を、遠心分離、圧搾、濾過などのそれ自体既知の方法で固液分離することによって不溶物を除去することにより抽出液を得ることができる。
【0024】
以上述べたように酵素処理の前に抽出液を採取する方法も採用することができるが、本発明では、コーヒー原料を含んだ状態で酵素処理を行うこともできる。
コーヒー豆原料にはガラクトマンナン、セルロースなどを主体とする多糖類が多量に含まれている。これらの多糖類を加水分解することにより、得られるエキスの濁りや沈殿を防止するとともに、エキスに甘味を付与することができる。本発明の目的は、コーヒー飲料とした場合に乳無添加で無糖または微糖であってもすっきりしたほのかな甘さを有するコーヒーエキスを提供することにあるため、コーヒーエキス中の可溶性固形分に対する単糖類の含量率をできるだけ高くすることが好ましい。したがって、酵素処理する際においてコーヒー豆が含まれていることが好ましく、水抽出する際、同時に酵素処理することが好ましい。
【0025】
本発明における酵素処理において、コーヒー豆原料由来の多糖類成分から甘味を引き出すためには、酵素処理により、コーヒーエキス中の可溶性固形分に対するグルコース、マンノースおよびガラクトースの合計量の含有率が10重量%〜80重量%、好ましくは15重量%〜70重量%、より好ましくは20重量%〜60重量%、さらに好ましくは25重量%〜50重量%となるように分解することが好ましい。コーヒーエキス中の可溶性固形分に対するグルコース、マンノースおよびガラクトースの合計量の含有率が10%を下回る場合は、希釈して糖類を添加せずに飲用する場合、甘味があまり感じられないため好ましくない。コーヒーエキス中の可溶性固形分に対するグルコース、マンノースおよびガラクトースの合計量の含有率は分解可能な範囲では一般的に高い方が甘味が出て好ましいが、80重量%を越えてしまうと、コーヒー自体の風味が薄くなってしまうため好ましくない。これらの単糖類の含有率を高めるためには、コーヒー豆の原料中に多量に含まれているガラクトマンナンをなるべく多く分解する必要があるが、そのためには、原料豆を含んだスラリーの状態で酵素を作用させる方法が有利である。
【0026】
また、本発明では酵素処理がガラクトマンナン分解酵素とグルコアミラーゼの併用であることを特徴とする。ガラクトマンナン分解酵素は通常マンナナーゼ活性、マンノシダーゼ活性およびガラクトシダーゼ活性を有するものをいうが、本発明では、ガラクトマンナン分解酵素とグルコアミラーゼを併用することで、多糖類の分解が進み、単糖類が多く生成し、コーヒーエキス中の可溶性固形分に対するグルコース、マンノースおよびガラクトースの合計量の含有率を高めることに成功した。ガラクトマンナン分解活性を有する市販酵素製剤の具体例としては、ヘミセルラーゼ「アマノ」90、セルラーゼA、セルラーゼT(以上、天野エンザイム)、セルロシンGM5(登録商標:HBIエンザイム)、ビスコザイムL(登録商標:ノボザイムス社)等が挙げられる。また、市販のグルコアミラーゼ製剤の具体例としては、グルク(登録商標)SG、グルクザイム(登録商標)AF6、グルクザイム(登録商標)NL4.2、酒造用グルコアミラーゼ「アマノ」SD(以上、天野エンザイム(株))、GODO−ANGH(合同酒精(株))、コクラーゼ・G2、コクラーゼ・M(登録商標:MFCライフテック(株))、オプチデックスL(ジェネンコア協和(株))、スミチーム、スミチームSG(登録商標:以上、新日本化学工業(株))、グルコチーム#20000(登録商標:ナガセケムテックス(株))、AMG、サンスーパー(以上、ノボザイムズジャパン(株))、グルターゼAN(エイチビィアイ(株))、ユニアーゼ K、ユニアーゼ2K、ユニアーゼ30、ユニアーゼ60F(登録商標:以上、ヤクルト薬品工業(株))、マグナックスJW−201(登録商標:洛東化成工業(株))、グリンドアミルAG(登録商標:ダニスコジャパン(株))などを例示することができる。
本発明では、前記ガラクトマンナン分解酵素とグルコアミラーゼの他に、グルコース、マンノースおよびガラクトースの収率の向上や、コーヒー抽出液の風味、濁り、沈殿、収量などに良い結果をもたらす酵素であればいかなる酵素でも使用することができる。これらの酵素としては例えば、糖質分解酵素としてセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、アラバナーゼ、β-グルカナーゼ、キシラナーゼ、リグニナーゼ、セルロビアーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼなどを挙げることができる。また、必要に応じて、プロテアーゼ、リパーゼ、タンナーゼ、クロロゲン酸エステラーゼなどを例示することができる。
【0027】
酵素処理の条件としては、使用した酵素に応じた通常の酵素処理条件を採用することができる。例えば、酵素処理しようとするものが前記抽出液または前記スラリーであればそのまま、カラム水蒸気蒸留の残渣であればカラム内に酵素処理に必要な量の水として残渣原料1重量部あたり1〜100重量部の水を加え、攪拌または静置条件により、酵素反応を行うことができる。酵素の添加量は、使用したコーヒー豆の原料重量に対しガラクトマンナン分解酵素とグルコアミラーゼ活性を有する酵素をそれぞれ0.01〜20質量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜10質量%である。また、酵素処理のpHおよび反応温度は、例えばガラクトマンナン分解酵素とグルコアミラーゼ活性を有する酵素の併用によるコーヒー抽出液の処理では、コーヒー抽出液に酵素を添加し、pH3〜6で30〜60℃で攪拌または静置条件により反応することが好ましい。酵素反応の最適なpHは3〜6であるが、通常コーヒースラリーまたは抽出液のpHはこの範囲に入るため、重炭酸Na(重曹)やアスコルビン酸によるpH調整は不要である。また、反応時間としては5分〜24時間、好ましくは1時間〜20時間、より好ましくは4時間〜18時間反応させることが好ましい。また、コーヒーエキス中の可溶性固形分に対するグルコース、マンノースおよびガラクトースの合計量の重量比が10重量%〜80重量%、好ましくは15重量%〜70重量%、より好ましくは20重量%〜60重量%、さらに好ましくは25重量%〜50重量%となるように分解することにより、コーヒーエキスにすっきりとした甘味を付与し、コク味を増し、苦味をマスキングすることができる。このような、高度の分解を行うためには、反応時間として比較的長時間を要する場合があるが、反応の進行をHPLC分析などにより確認しながら反応時間を決定したり、酵素の追加添加などを行う方法も有効である。酵素処理液は加熱などにより酵素失活し、スラリーを含む場合は固液分離、濾過し、抽出液を得ることができる。
【0028】
引き続き、酵素処理抽出液は、必要に応じて濃縮を行っても良い。濃縮方法としては例えば、減圧濃縮、逆浸透膜(RO膜)濃縮、凍結濃縮など適宜な濃縮手段を採用して濃縮することにより、酵素処理抽出液の濃縮物を得ることができる。また、酵素の種類や長時間の酵素処理により酵素処理臭が発生することもあるが、このような場合は濃縮することにより、この酵素処理臭を除去することができる場合もある。酵素処理臭を除去するために好適な濃縮方法として減圧濃縮を挙げることができる。濃縮の程度は特に制限されないが、コーヒー飲料へ配合する際の作業性等を考慮すると、一般には、Bx3°〜50°、好ましくは10°〜40°の範囲内が好適である。
【0029】
得られた酵素処理液または酵素処理濃縮液に、あらかじめ水蒸気蒸留を行うことにより回収した香気留出液を添加することにより、本発明のコーヒーエキスを得ることができる。かくして得られたコーヒーエキスは、濁り、沈殿を生じにくく、コーヒーらしい自然な香りを有し、さらに、ほのかな甘味を有し、コク味があり、苦味が少ない。そのため通常のミルク入りコーヒー飲料に使用可能であることはもちろんであるが、乳無添加の無糖または微糖のコーヒー飲料に使用しても、十分おいしく飲料することができるという優れた効果を有する。本発明のコーヒーエキスは容器に充填し、冷凍してそのまま流通しても良いが、加熱殺菌後容器に充填し、冷凍、冷蔵または常温で流通することも可能である。さらに、移送先でコーヒー飲料、コーヒーゼリー、コーヒークッキー、コーヒーチョコレート、コーヒープリン、コーヒーババロア、コーヒーケーキなどあらゆるコーヒー飲食品に使用することができるが、特に本発明の特徴を活かした好ましい飲食品としては、無糖または微糖で乳無添加のコーヒー飲料を例示することができる。
以下に実施例、比較例および参考例をあげて本発明を詳しく説明する。
【実施例】
【0030】
(実施例1)(水蒸気蒸留として気−液向流接触抽出法を行い、残渣スラリーのガラクトマンナン分解酵素+グルコアミラーゼ処理を行ったもの)
焙煎、粉砕したコーヒー豆(コロンビア;L値22)40kgに水360kgを加えスラリー状態とし、気−液向流接触抽出法により下記条件にて回収フレーバー16kg(対コーヒー豆40%)を得た。
処理条件
原料供給速度:700L/hr
蒸気重量:55kg/hr
カラム下部温度:100℃
カラム上部温度:100℃
真空度:大気圧
得られた香気留出液は窒素封入後約4℃に冷却して、密封保存した。気−液向流接触抽出装置から排出されたスラリーを攪拌機付き釜に採取し、45℃に冷却後、セルロシンGM5(HBIエンザイム社製のガラクトマンナン分解酵素)800g(対コーヒー豆2%)およびスミチーム(新日本化学工業株式会社製のグルコアミラーゼ)800g(対コーヒー豆2%)を添加し、45℃にて30分間攪拌した後、同温度にて16時間静置した。静置後、再び攪拌しながら、バスケット型遠心分離機にて固液分離し、分離液309kgを得た。得られた、分離液を90℃1分間加熱殺菌後、25℃まで冷却し、分離板型遠心分離機により固形残渣と油分を除去し、水平濾板型濾過器を使用してケイソウ土を用いて濾過を行い清澄な濾液307kgを得た。得られた濾液を回転薄膜型減圧濃縮機にて濃縮しBx30°の濃縮コーヒーエキス49.7kgを得た。得られた清澄化濃縮コーヒーエキスと香気留出液を5:2(重量比)の割合で混合し、さらに水にてBx20°に調製し、Bx20°の濃縮コーヒーエキス(本発明品1)60kgを得た。
【0031】
本発明品1の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 1.15%
マンノース 3.53%
ガラクトース 0.08%
以上合計 4.76%
固形分(kett赤外線水分計)
16.7% ※)
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=28.5(%)
※)Bx20°のコーヒー濃縮液のkett赤外線水分計による固形分は必ずしも20%となるとは限らない。屈折糖度(Bx)は水溶液の屈折率をショ糖水溶液の濃度に換算した数値であるが、ショ糖と屈折率の異なる物質の水溶液では濃度と異なる値となる。しかしながら、濃度の目安として一般的に使用されることが多い。
【0032】
(実施例2)(水蒸気蒸留としてカラム水蒸気蒸留法を行い、残渣のガラクトマンナン分解酵素+グルコアミラーゼ処理を行ったもの)
焙煎、粉砕したコーヒー豆(コロンビア;L値22)1kgを3リットルカラムに充填し、系内を窒素ガス置換後、大気圧下にてカラム下部より水蒸気を送り込み水蒸気蒸留を行い、カラム上部より得られ香気を含む水蒸気を冷却管にて凝縮させ、香気留出液400g(対コーヒー豆40%)を得た。得られた香気留出液は窒素封入後約4℃に冷却して、密封保存した。カラム内の残渣を攪拌釜に移した後、45℃に加温した水9kg仕込み30分間攪拌後、セルロシンGM5(HBIエンザイム社製のガラクトマンナン分解酵素)20g(対コーヒー豆2%)およびスミチーム(新日本化学工業株式会社製のグルコアミラーゼ)20g(対コーヒー豆2%)を添加し、45℃にて30分間攪拌した後、同温度にて16時間静置した。静置後、再び攪拌しながら、バスケット型遠心分離機にて固液分離し、分離液7.8kgを得た。得られた、分離液を90℃1分間加熱殺菌後、25℃まで冷却し、ケイソウ土を用いて濾過を行い清澄な濾液7.7kgを得た。得られた濾液をロータリーエバポレータにて濃縮しBx30°の濃縮コーヒーエキス1.24kgを得た。得られた清澄化濃縮コーヒーエキスと香気留出液を5:2(重量比)の割合で混合し、さらに水にてBx20°に調製し、Bx20°の濃縮コーヒーエキス(本発明品2)1.5kgを得た。
【0033】
本発明品2の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 1.03%
マンノース 3.24%
ガラクトース 0.07%
以上合計 4.34%
固形分(kett赤外線水分計)
16.7%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=26.0(%)
【0034】
(実施例3)(水蒸気蒸留としてカラム水蒸気蒸留法を行い、残渣から抽出液を採取し、その後ガラクトマンナン分解酵素+グルコアミラーゼ処理を行ったもの)
焙煎、粉砕したコーヒー豆(コロンビア;L値22)1kgを3リットルカラムに充填し、系内を窒素ガス置換後、大気圧下にてカラム下部より水蒸気を送り込み水蒸気蒸留を行い、カラム上部より得られる香気を含む水蒸気を冷却管にて凝縮させ、香気留出液400g(対コーヒー豆40%)を得た。得られた香気留出液は窒素封入後約4℃に冷却して、密封保存した。カラム内の残渣に上部から90℃熱水4kgを2kg/hrの速度で送り込み、カラム内の原料が熱水で浸った後、カラム下部より抽出液を冷却管にて冷却しながら抜き取り、抽出液3661g(Bx9.0°)を得た。抽出液を攪拌釜に移し、45℃加温後、セルロシンGM5(HBIエンザイム社製のガラクトマンナン分解酵素)20g(対コーヒー豆2%)およびスミチーム(新日本化学工業株式会社製のグルコアミラーゼ)20g(対コーヒー豆2%)を添加し、45℃にて30分間攪拌した後、同温度にて16時間静置した。静置後、90℃1分間加熱殺菌した後、25℃まで冷却し、ケイソウ土を用いて濾過を行い清澄な濾液3.58kgを得た。得られた濾液をロータリーエバポレータにて濃縮しBx30°の濃縮コーヒーエキス1.07kgを得た。得られた清澄化濃縮コーヒーエキスと香気留出液を5:2(重量比)の割合で混合し、さらに水にてBx20°に調製し、Bx20°の濃縮コーヒーエキス(本発明品3)1.5kgを得た。
【0035】
本発明品3の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 0.65%
マンノース 2.15%
ガラクトース 0.03%
以上合計 2.83%
固形分(kett赤外線水分計)
16.7%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=16.9(%)
【0036】
(比較例1)(コーヒー抽出液から香気を採取し、その後、抽出液をガラクトマンナン分解酵素+グルコアミラーゼ処理したもの)
焙煎、粉砕したコーヒー豆(コロンビア;L値22)1kgを3リットルカラムに充填し、カラム内に上部から90℃熱水4kgを2kg/hrの速度で送り込み、カラム内の原料が熱水で浸った後、カラム下部より抽出液を冷却管にて冷却しながら抜き取り、抽出液3661g(Bx9.0°)を得た。抽出液をロータリーエバポレータ(フラスコ容量10L)に移し、内温82℃、減圧度51kPaにて減圧蒸留し、香気留出液400g(対コーヒー豆40%)を得た。香気分離後の抽出液を攪拌釜に移し、45℃加温後、セルロシンGM5(HBIエンザイム社製のガラクトマンナン分解酵素)20g(対コーヒー豆2%)およびスミチーム(新日本化学工業株式会社製のグルコアミラーゼ)20g(対コーヒー豆2%)を添加し、45℃にて30分間攪拌した後、同温度にて16時間静置した。静置後、90℃1分間加熱殺菌した後、25℃まで冷却し、ケイソウ土を用いて濾過を行い清澄な濾液3.57kgを得た。得られた濾液をロータリーエバポレータにて濃縮しBx30°の濃縮コーヒーエキス1.06kgを得た。得られた清澄化濃縮コーヒーエキスと香気留出液を5:2(重量比)の割合で混合し、さらに水にてBx20°に調製し、Bx20°の濃縮コーヒーエキス(比較品1)1.5kgを得た。
【0037】
比較品1の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 0.64%
マンノース 2.13%
ガラクトース 0.03%
以上合計 2.80%
固形分(kett赤外線水分計)
16.7%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=16.8(%)
【0038】
(比較例2)(水蒸気蒸留としてカラム水蒸気蒸留法を行い、酵素処理を行わないもの)
焙煎、粉砕したコーヒー豆(コロンビア;L値22)40kgに水360kgを加えスラリー状態とし、気−液向流接触抽出法により下記条件にて回収フレーバー16kg(対コーヒー豆40%)を得た。
【0039】
処理条件
原料供給速度:700L/hr
蒸気重量:55kg/hr
カラム下部温度:100℃
カラム上部温度:100℃
真空度:大気圧
得られた香気留出液は窒素封入後約4℃に冷却して、密封保存した。気−液向流接触抽出装置から排出されたスラリーをバスケット型遠心分離機にて固液分離し、分離液296kgを得た。得られた、分離液を90℃1分間加熱殺菌後、25℃まで冷却し、分離板型遠心分離機により固形残渣と油分を除去し、水平濾板型濾過器を使用してケイソウ土を用いて濾過を行い清澄な濾液294kgを得た。得られた濾液を回転薄膜型減圧濃縮機にて濃縮しBx30°の濃縮コーヒーエキス24.6kgを得た。得られた清澄化濃縮コーヒーエキスと香気留出液を5:2(重量比)の割合で混合し、さらに水にてBx20°に調製し、Bx20°の濃縮コーヒーエキス(比較品2)36.9kgを得た。
【0040】
比較品2の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 検出せず
マンノース 検出せず
ガラクトース 検出せず
固形分(kett赤外線水分計)
16.7%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=0(%)。
【0041】
(比較例3)(コーヒー豆から回収香を採取せず、スラリーのガラクトマンナン分解酵素+グルコアミラーゼ処理を行ったもの)
焙煎、粉砕したコーヒー豆(コロンビア;L値22)4kgに水36kgを加えスラリー状態とし、90℃、1時間攪拌抽出、その後45℃に冷却し、セルロシンGM5(HBIエンザイム社製のガラクトマンナン分解酵素)80g(対コーヒー豆2%)およびスミチーム(新日本化学工業株式会社製のグルコアミラーゼ)80g(対コーヒー豆2%)を添加し、45℃にて30分間攪拌した後、同温度にて16時間静置した。静置後、再び攪拌しながら、バスケット型遠心分離機にて固液分離し、分離液30.9kgを得た。得られた、分離液を90℃1分間加熱殺菌後、25℃まで冷却し、分離板型遠心分離機により固形残渣と油分を除去し、水平濾板型濾過器を使用してケイソウ土を用いて濾過を行い清澄な濾液30.7kgを得た(比較品3)。
【0042】
比較品3の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 0.222%
マンノース 0.682%
ガラクトース 0.016%
以上合計 0.920%
固形分(kett赤外線水分計)
3.21%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=28.7(%)
【0043】
実施例4(実施例1の酵素としてガラクトマンナン分解酵素のみを使用したもの)
実施例1において、酵素としてセルロシンGM5(HBIエンザイム社製のガラクトマンナン分解酵素)800gのみを使用する以外は、実施例1と全く同様に操作することにより、本発明品4(60kg)を得た。
【0044】
本発明品4の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 0.58%
マンノース 1.19%
ガラクトース 0.08%
以上合計 1.85%
固形分(kett赤外線水分計)
16.7%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=11.1(%)

【0045】
実施例5(実施例1の酵素としてガラクトマンナン分解酵素+グルコアミラーゼ+プロテアーゼを使用したもの)
実施例1において、酵素としてセルロシンGM5(HBIエンザイム社製のガラクトマンナン分解酵素)800g、スミチーム(新日本化学工業株式会社製のグルコアミラーゼ)20g(対コーヒー豆2%)に加え、さらにスミチームFP(新日本化学工業(株)社製のプロテアーゼ)400gを使用する以外は、実施例1と全く同様に操作することにより、本発明品5(60kg)を得た。
【0046】
本発明品5の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 1.65%
マンノース 2.82%
ガラクトース 0.26%
以上合計 4.73%
固形分(kett赤外線水分計)
16.7%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=28.3(%)
以上の実施例1〜5および比較例1〜3の実施内容および分析結果のまとめを表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示したとおり、コーヒーの抽出時において酵素を作用させない、比較品3では単糖(グルコース、マンンースおよびガラクトース)が全く生成していないことがわかった。一方、コーヒー豆の抽出時にガラクトマンナン分解酵素およびグルコアミラーゼ処理をした本発明品1、本発明品2、本発明品5および比較品3はいずれも可溶性固形分に占める単糖(グルコース、マンンースおよびガラクトース)の割合が非常に高く、いずれも25%を越えていた。さらに、プロテアーゼを併用している本発明品5では、原料コーヒー豆からの可溶性固形分収率が向上している点が特徴的であった。また、コーヒー豆からいったん抽出液を採取した後、抽出液をガラクトマンナン分解酵素およびグルコアミラーゼ処理をした本発明品3および比較品3でもかなりの量の単糖が生成しており、いずれも可溶性固形分に占める単糖(グルコース、マンンースおよびガラクトース)の割合が15%を越えていた。また、ガラクトマンナン分解酵素単独で処理した場合は溶性固形分に占める単糖(グルコース、マンンースおよびガラクトース)の割合は11.1%であり、ガラクトマンナン分解酵素およびグルコアミラーゼを併用した系と比較してやや低い値となっていた。
【0049】
実施例6
本発明品1〜5および比較品1〜3のそれぞれのエキスを使用して、乳・糖無添加の缶入りコーヒー飲料を調製した。すなわち、本発明品1〜5および比較品1〜3のそれぞれのエキスをBx1.0°となるように水にて希釈し、90℃に昇温後、190gずつ缶に充填し、レトルト殺菌を行い(121℃、20分間、F=39)缶入りコーヒー飲料を得た。それぞれのコーヒー飲料は、10名のパネラーにて10点を最高点として評点を付け官能評価を行った(評価基準;2:悪い、4:やや悪い、6:普通、8:良い、10:非常に良い)。その平均的な風味評価結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示したとおり、本発明品を使用したコーヒー飲料はコーヒーエキス以外に糖類を添加していないにもかかわらず、甘味を有しており、苦味がすっきりとしてさわやかで、飲みやすいとの評価であった。表1と表2を合わせてみてみると、可溶性固形分に占める単糖(グルコース、マンンースおよびガラクトース)の割合が多いほど甘味が強い傾向があり、その分、風味的に苦味がマスキングされて飲みやすい傾向があった。コーヒー豆原料からあらかじめ気−液向流接触抽出法により香気を採取し、その後残渣スラリーをガラクトマンナン分解酵素とグルコアミラーゼの併用処理にて酵素分解した本発明品1を使用したコーヒー飲料は、甘味を有しているだけではなく、香気においても、コーヒーの自然な淹れたて感を有しており、乳および糖無添加でも十分おいしく飲むことができるという評価であった。一方、香気採取方法を、本発明品1の気−液向流接触抽出法に替えて、カラム水蒸気蒸留法とした本発明品2を使用したコーヒー飲料でも、同様の呈味を有しており、香りの自然な淹れたて感に替えて、ロースト感、力強さが目立っており、こちらも乳無添加無糖でも十分おいしく飲むことができるという評価であった。さらに、また、ガラクトマンナン分解酵素とグルコアミラーゼの併用処理をコーヒー抽出後に行った本発明品3を使用した飲料でも、かなりの甘味を有しており、良好な風味であるとの評価であった。一方、本発明品1の酵素処理(ガラクトマンナン分解酵とグルコアミラーゼの併用)をガラクトマンナン分解酵素単独に替えた本発明品4を用したコーヒー飲料は、香りは自然な淹れたて感があり、すっきりとした甘味もあるが、本発明品1、2と比べると、やや甘さが少ないという結果であった。さらに、ガラクトマンナン分解酵素、グルコアミラーゼと共にプロテアーゼを作用させた本発明品5を使用した飲料は、甘味に加え、コク味が付与されており、良好であるとの評価であった。
【0052】
一方、コーヒー豆から一旦エキスを抽出し、抽出液から回収香を採取した比較品1を使用したコーヒー飲料では原料豆の段階で回収香を採取した本発明品と比べて香りが弱く、コーヒー感が不足していた。また、酵素処理を全く行っていない比較品2では、苦味が強く、味にすっきり感が無く、乳および糖無添加のコーヒー飲料として飲むには不向きとの評価であった。さらにまた、原料コーヒー豆から回収香採取の工程を行わず、抽出液をガラクトマンナン分解酵素およびグルコアミラーゼ処理した比較品3を使用したコーヒー飲料では味は甘味があり、苦味は少ないものの、コーヒーの香気が弱いのみならず、香りにやや発酵臭的な異臭有り良くないという評価であった。
【0053】
実施例7
酵素反応時間と糖の生成量および風味の関係を調べるため、実施例1において酵素処理の時間を0.5時間、1時間、1.5時間、4時間に変える以外は実施例1と全く同じ操作を行い、参考品1(0.5時間反応)、参考品2(1時間反応)、本発明品6(1.5時間反応)、本発明品7(4時間反応)を得た。それぞれの分析値は以下の通りであった
参考品1の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 0.26%
マンノース 0.48%
ガラクトース 0.01%
以上合計 0.75%
固形分(kett赤外線水分計)
16.7%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=4.5(%)

参考品2の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 0.36%
マンノース 1.13%
ガラクトース 0.02%
以上合計 1.51%
固形分(kett赤外線水分計)
16.7%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=9.0(%)

本発明品6の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 0.65%
マンノース 1.35%
ガラクトース 0.04%
以上合計 2.04%
固形分(kett赤外線水分計)
16.7%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=12.2(%)

本発明品7の分析値
糖組成(HPLC法)
グルコース 1.21%
マンノース 2.13%
ガラクトース 0.03%
以上合計 3.37%
固形分(kett赤外線水分計)
16.7%
(グルコース+マンノース+ガラクトース)/固形分×100=20.2(%)
比較品2、参考品1、参考品2、本発明品6、本発明品7、本発明品1それぞれのエキスを使用して、実施例5と同様に乳・糖無添加の缶入りコーヒー飲料を調製した。それぞれのコーヒー飲料は、10名のパネラーにて10点を最高点として評点を付け官能評価を行った(評価基準;2:悪い、4:やや悪い、6:普通、8:良い、10:非常に良い)。その平均的な風味評価結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3に示したとおり、酵素反応が進行するにつれて単糖(グルコース、マンノースおよびガラクトース)の生成量が増加し、コーヒーエキス中における前記単糖の割合が増加する。前記単糖の増加に伴い、コーヒー特有の苦味がマスキングされ、甘味が増すと共にコク味が出てくることが判った。特に単糖(グルコース、マンノースおよびガラクトース)の割合がコーヒーエキスの可溶性固形分中10%を越る本発明品6は、単糖の割合が10%を下回る参考品2と比べて風味に差があり、風味の評点も高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎コーヒー豆を水抽出時および/または水抽出後に酵素処理を施してコーヒーエキスを製造するに当たり、酵素処理前の段階である、焙煎コーヒー豆またはコーヒースラリーから水蒸気蒸留法により香気留出液を回収し、酵素処理後の抽出液に香気留出液を添加することを特徴とするコーヒーエキスの製造方法。
【請求項2】
コーヒーエキス中の可溶性固形分に対するグルコース、マンノースおよびガラクトースの合計量の含有率が10重量%〜80重量%であることを特徴とする請求項1に記載のコーヒーエキスの製造方法。
【請求項3】
酵素処理がガラクトマンナン分解酵素とグルコアミラーゼの併用であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコーヒーエキスの製造方法。
【請求項4】
水蒸気蒸留法がコーヒースラリーを使用した気−液向流接触法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーヒーエキスの製造方法。
【請求項5】
水蒸気蒸留法がカラムに充填した焙煎コーヒー豆に水蒸気を接触させ、接触後の水蒸気を凝縮させる方法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーヒーエキスの製造方法。