説明

コールドガススプレー方法

表面(16)に向かう粒子噴流(15)を作成するコールドガススプレーノズル(12)が使用される。本発明の場合には、電磁エネルギー源、例えばレーザー(24)を用いて、付加的なエネルギーを被覆させる層(20)内に導入し、この場合に、コールドガススプレーノズル(12)を通して粒子(19)中へ導入されたエネルギーは同様に層の形成のために寄与する。電磁放射線(25)を用いた付加的な活性化によりコールドスプレー法はフレキシブルに適用される。更に、レーザー(24)を用いて後処理なしに複雑な構造を有する層、例えば導体路を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆材料の粒子をコールドガススプレーノズルを用いてワークピースの被覆すべき表面に向かって加速させるワークピースを被覆する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の方法は、例えば米国特許(US−A1)第2004/0037954号明細書に記載されている。この方法により、被覆を形成すべき粒子は、いわゆるコールドガス噴流中で被覆すべき部材の表面に向かって加速される。この加速は、コールドガススプレーノズルを用いて行われる。この場合に、被覆粒子は十分な運動エネルギーが供給されるため、被覆すべき表面に層が形成される。この場合、運動エネルギーは一方で被覆粒子及び表面の変形に変えられ、他方で運動エネルギーから熱エネルギーへの変換により、ワークピースの表面の溶融が生じかつ少なくとも表面付近の領域での被覆粒子の溶融が生じるため、この被覆は被覆すべきワークピースの表面上で固着する構造を形成する。
【0003】
前記の方法は、コールドガススプレー法とも言われる。この方法を使用することにより、被覆粒子及び基材の熱負荷が、例えばプラズマ溶射と比較して低く保つことができるため、被覆粒子の構造にあまり影響を及ぼさないか又は全く影響を及ぼさない。それにより、層を製造するために特別な特性を有する被覆粒子が使用され、被覆粒子の特性はその熱負荷によって影響を及ぼされない。
【0004】
ドイツ連邦共和国実用新案登録(DE−T2)第60009823号明細書の場合には、コールドガススプレーを用いて表面を補修する方法を記載している。表面の補修すべき箇所は、被覆粒子を含むコールドガスで処理され、それにより層が形成される。被覆粒子が放射源、例えばレーザーに曝される場合に、コールドガス噴流中へのエネルギー導入を高めることができる。それにより、被覆粒子の熱エネルギーは高まり、前記被覆粒子はコールドガススプレーノズル中で加速によりほとんど温度上昇を被らない。更に、形成された層に後処理を行うことができ、この後処理は同様にレーザーを用いて行うことができる。
【0005】
特開平05−078812号公報の要約には、層を熱溶射により製造することができ、引き続きレーザーを用いて後処理して、最終的な層組成物を製造することができることが記載されている。同様に、ドイツ連邦共和国特許公開(DE−A1)第19941562号明細書の場合には、被覆を例えばシリンダー用の摺動面として製造することができ、前記被覆は熱溶射層として製造され、かつレーザー放射線を用いて引き続き再溶融され、それにより所望の組織組成を生じさせている。
【0006】
ドイツ連邦共和国特許(DE−B4)第19740205号明細書の場合には、プラズマ溶射の際にレーザーを用いて、プラズマ溶射により塗布された被覆の冷却を遅らせ、被覆の組織の形成に直接影響を及ぼすこともできる。このために、スプレー噴流の衝突した粒子は所定の時間内でなお溶融温度に保たれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、コールドガススプレーノズルを用いたワークピースの被覆方法を、前記製造方法を用いて層の製造の際にできる限り大きな余地が生じるように改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明の場合に、冒頭に記載された方法を用いて、コールドガス中の粒子に、表面での粒子の持続的な付着を引き起こすためには低すぎるエネルギー量を供給し、被覆の間に電磁放射線をコールドガス噴流の衝突箇所中に局所的に導入することにより前記表面に粒子の持続的な付着を生じさせることにより解決される。前記方法の本発明による実施形態の場合には、コールドガススプレーノズルを、コールドガススプレーにより被覆の特性が既に被覆の最終生成物に相当する被覆だけが生じるのではないように意識的に選択されたプロセスパラメーターで運転する。換言すれば、コールドガススプレーにより生じたエネルギー導入は所望の層の製造のためには十分でない。従って、本発明の場合には、被覆の領域内で正確に、表面への電磁放射線の局所的導入を可能にする他のエネルギー源が設定され、前記被覆の特性は前記電磁放射線の付加的なエネルギー導入によって最終的に生じさせることができる。それにより、有利に、コールドガススプレーノズルによるエネルギー導入を比較的低く維持して、比較的低い融点を有する粒子を被覆のために使用することができる。更に、被覆されたワークピースの表面に電磁放射線を局所的に導入することにより、局所的なエネルギー導入の程度に依存して、局所的に変化する特性を有する層を製造することも可能である。この場合、有利に層の特性の局所的変化は高い精度で作成可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
前記方法の実施形態の場合には、コールドガス噴流中のエネルギー量は粒子の一時的付着を引き起こすために十分に大きく、その際、所定の粒子の持続的付着を局所的に作成した後で、残りの一時的に付着した粒子を再び表面から除去することも考慮される。粒子の一時的付着は、粒子の運動エネルギーが被覆粒子が表面に付着するのにちょうど十分な程度であることにより達成される。このために必要なエネルギー導入は、コールドガススプレーの使用される方法により極めて正確に調節することができる。他方では、この粒子の付着は、ワークピースと粒子との可能な融合を引き起こすことがない程度で十分である。それにより、一時的に付着した粒子は再び表面から除去することができ、その際に主にワークピースの表面と粒子との間の分離が(例えば機械的に、サンドブラスト又はレーザーアブレーションにより)行われる。しかしながら、付加的エネルギー導入によって、このために設けられた粒子の局所的に持続的付着を達成することができる。このエネルギー導入は、つまり該当する粒子と表面との界面又は隣接する粒子間の界面の最終的な溶解を引き起こすため、この界面はもはや相互に分離することはできない。この場合、例えばワークピースと粒子との界面付近の領域は溶融するため、凝固の後に一体的な組織が生じる。
【0010】
前記方法の他の実施形態の場合には、コールドガス噴流中のエネルギー量は、表面での粒子の何らかの付着を引き起こすためには低すぎ、かつ電磁放射線の局所的なエネルギー導入を行って、粒子が表面と衝突するのと同時に持続的な付着を作成することが考慮される。粒子の一時的な付着を作成する方法の場合には、電磁放射線のエネルギーは、被覆と同時に又は被覆工程の完了の後に選択的に導入することができるが、コールドガス噴流中のエネルギー量が表面上での粒子の付着が生じるために十分でない場合には、層の構築を初めて可能にするために電磁放射線による同時の付加的活性化が必要である。そうでなければ、被覆粒子は表面から跳ね返り、層の構築は行われない(サンドブラストの効果に匹敵する)。この局所的なエネルギー導入は、しかしながら有利に比較的高い局所的な精度で層の構築を可能にする。前記層は、この場合、一層で又は多層で構築することができる、その際、後処理の必要がなく層の構築の間に既に任意のジオメトリーの層を作成できる。
【0011】
本発明による方法の記載された複数の実施形態において、層の製造のために必要な粒子へのエネルギー導入は、大部分は、一方でコールドガススプレーノズルに配分され、他方で電磁放射線のためのエネルギー源(例えばレーザー)に配分されることは共通している。それにより、本発明による方法は有利に方法パラメータの変更のための大きな余地が生じる。一方で、コールドガススプレーノズルの方向付けにより、ワークピースの表面への粒子噴流の比較的正確な方向付けが可能であり、他方で、電磁放射線用のエネルギー源はコールドガススプレーノズルとは無関係に極めて正確に方向付けすることができるため、高い精度のジオメトリーを有する層の構築が可能となる。
【0012】
被覆粒子を溶融させるためにいわゆるレーザークラディング法の場合に電磁放射線を使用することは、確かに例えば米国特許第4,724,299号明細書から基本的には公知であるが、しかしながら、この方法の場合に層の構築を決定するエネルギー導入はもっぱらレーザー放射線によってのみ行われる、それというのもこの方法は粒子の運動エネルギーを粒子供給に基づき重要視しないためである。この運動エネルギーは単に被覆粒子の均質な輸送が保証するだけである。これは、レーザークラディング法の場合に使用される被覆粒子用の供給装置の標準的に使用されるリング構造からも説明される、それというのも、このレーザーは中央で生成され、かつ粒子の供給はそのわずかな運動エネルギーに基づきレーザーの極めて近い焦点で行わなければならないためである。
【0013】
この方法の付加的な実施形態の場合に、粒子に供給されるエネルギー量は、前記粒子の加速に基づきコールドガススプレーノズル中で生じる運動エネルギー量の他に、熱エネルギー量も有し、前記熱エネルギー量が付加的エネルギー源によりコールドガス噴流中で生じることが考慮される。コールドガススプレーノズル中で粒子を、前記粒子の溶融温度より低く正確に加熱することにより、電磁放射線により導入されるエネルギーは減少される。それにより、有利に、層の構築に影響を及ぼすことができるより広い方法パラメータが生じる。
【0014】
これは、電気絶縁性ワークピースを使用し、かつ電磁放射線で前記ワークピースに粒子から導電性導体路を製造する場合に特に有利である。このようにして、例えば非導電性表面に、複雑なジオメトリーの電子回路構造用の導体路を製造することも有利にできる。この使用される粒子は、例えば導電性材料を含有することができ、前記導電性材料は電磁放射線を用いて処理することにより初めて活性化され、それにより導電性が製造される。付加的に、被覆の導電性領域は、電気特性の改善のために例えば電着被覆させることができる、それというのも、前記被覆はこのための導電性の基層を提供するためである。
【0015】
さらに、前記電磁放射線の生成のためにレーザーを使用することが有利である。これは、電磁放射線を形成されるべき層中へ極めて局所的に導入することを可能にする。これは、被覆すべき部材が複雑な表面形状である場合でも可能である。
【実施例】
【0016】
本発明の更なる詳細を、次に図面を用いて記載する。それぞれの図面において、同じ又は対応する部材はそれぞれ同じ符号が付けられていて、それぞれの図面の間での差異が生じるような場合にだけ繰り返し説明される。
【0017】
図1には、コールドガススプレーのための変更された装置が図示されている。前記装置は真空容器11を有し、前記真空容器中に一方でコールドガススプレーノズル12が、他方でワークピース13が配置されている(取り付けは詳細に記載していない)。第1の導管14を通して、プロセスガスがコールドガススプレーノズル12に供給することができる。このノズルは、輪郭により示されているようにラバルノズルとして構成されていて、前記ラバル(Laval)ノズルによってプロセスガスが放圧され、ガス噴流(矢印15)の形で基材13の表面16に向かって加速される。このプロセスガスは、反応性ガスとして酸素17を含有していてもよい。さらに、前記プロセスガスは、図示されていない方法で加熱されていてもよく、それにより真空容器12中で必要なプロセス温度が調節される。
【0018】
第2の導管18を介して、コールドガススプレーノズル12に粒子19を供給することができ、前記粒子はガス噴流中で加速され、表面16に衝突する。前記粒子の運動エネルギーは、前記粒子の表面16への付着を引き起こし、その際、場合により酸素17も形成される層20中に組み込まれる。層の形成のために、基材13はコールドガススプレーガン12の前で両端矢印21の方向で往復運動することができる。この被覆プロセスの間に、真空容器11中では真空ポンプ22により持続的に真空が維持され、その際、前記プロセスガスは導入の前に真空ポンプ22を通してフィルター23を通過して送られ、表面16に衝突した際に前記表面に結合されなかった粒子はフィルターにより除去される。
【0019】
ヒーター23を用いて粒子19はコールドガススプレーノズルの内側で付加的に加熱することができる。それにより、付加的なエネルギー導入が行われ、前記の付加的なエネルギー導入は熱エネルギーとして直接又はラバルノズル中での放圧により運動エネルギーの形で粒子19に供給される。他のエネルギー源として、レーザー24が真空容器11中に設置されていて、前記レーザーはワークピース13の表面16上のコールドガス噴流が衝突する箇所に向けられている。前記衝突箇所では、レーザー放射線の電磁エネルギーが、粒子19の運動エネルギー及び場合による熱エネルギーと関連して、粒子19が表面16で持続的に付着するために供給され、それにより層20が形成される。
【0020】
図2では、被覆粒子が加速されるエネルギーEpがグラフで示されている。このエネルギーは、コールドガス噴流中の粒子の運動エネルギー並びに場合による熱エネルギーに基づく成分からなる。先行技術によるコールドガススプレー法のために使用される範囲26が示されている。この範囲は粒子の溶融により上限値が限定されていて、この溶融はコールドガススプレーの場合には考慮されていない。粒子表面の場合による表面的な溶融は、場合によりなお受け入れることができる。この範囲の下限値は、粒子が所定のエネルギー量Epを下回る際にもはや被覆すべき表面に付着したままにならず、再び跳ね返る(図3参照)ことにより限定される。本発明による方法を実施するためのエネルギーを内容とする範囲27が斜線で示されている。この範囲は、領域26の下側の部分と重なり合っている。範囲27の上限値は、粒子が被覆すべき表面上になお一時的な付着が保証される程度にエネルギーEpが大きくなることにより決定され、つまり、引き続く粒子の除去の可能性が含まれている。この下限値は電磁放射線の生成の出力により規定される、それというのも、Epは電磁放射線によるエネルギー導入と一緒に層の形成が保証できる程度に十分でなければならないためである。図2から明らかなように、本発明による方法のEpについての範囲は、先行技術によるコールドガススプレーと関連して低エネルギー方向にシフトされている。
【0021】
図3には、ワークピース13の表面16への少なくとも一時的な付着が達成されるために運動エネルギーが十分ではない個々の粒子19が示されている。従って、前記粒子は表面16から跳ね返り、この場合、前記表面は前記粒子の跳ね返りにより生じる変形を被る。図2中では、図3による現象は、領域26の外側の27により暗示されている。
【0022】
図4には、適切な運動エネルギーを有する粒子19がワークピース13の表面16に衝突し、前記ワークピースに一時的な被覆が設けられる。粒子19と表面16との結合はいまだに弱いため、粒子19は表面16から再び除去することができる。図4による現象は、図2の場合に領域27及び26の重複する領域にある。
【0023】
図5には、レーザー放射線25により個々の粒子19に適切なエネルギー量が提供され、前記の個々の粒子が層20になってワークピース13と融合することが図示的に示されている。この場合、新たな組織が形成され、これは粒界28によって示されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】模式図としての本発明による被覆装置の実施例を表す。
【図2】先行技術によるコールドガススプレーの場合に適用される範囲と比較した本発明の場合の粒子のエネルギー供給領域を定性的に表す。
【図3】粒子が表面に付着しない例を示す。
【図4】粒子が表面に一時的に付着する例を示す。
【図5】粒子が表面に、レーザーを用いる処理により最終的に付着する例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆材料の粒子(19)を、コールドガススプレーノズル(12)を用いてワークピース(13)の被覆すべき表面(16)に向かって加速させる、ワークピース(13)を被覆する方法において、前記粒子に、コールドガス噴流(15)中で、前記表面(16)上で前記粒子(19)が持続的な付着を引き起こすためには低すぎるエネルギー量を供給し、前記被覆の間に前記粒子の持続的な付着を、前記表面上でコールドガス噴流の衝突箇所内への電磁放射線(25)の局所的導入によって生じさせることを特徴とする、ワークピースを被覆する方法。
【請求項2】
コールドガス噴流中のエネルギー量は粒子(19)の一時的付着を引き起こすために十分に大きく、その際、所定の粒子(19)の持続的付着を局所的に作成した後で、残りの一時的に付着している粒子を再び表面(16)から除去することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コールドガス噴流中のエネルギー量は、表面(16)への粒子(19)の何らかの付着を引き起こすためには低すぎ、かつ電磁放射線(25)の局所的な導入を行って、粒子(19)が表面(16)と衝突するのと同時に持続的な付着を生じさせることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
粒子に供給されるエネルギー量は、前記粒子の加速に基づきコールドガススプレーノズル(12)中で生じる運動エネルギー量の他に、熱エネルギー量も有し、前記熱エネルギー量を付加的エネルギー源によりコールドガス噴流(15)中で生じさせることを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項5】
電気絶縁性表面を有するワークピースを使用し、電磁放射線(25)を用いて前記ワークピース上に粒子から導電性の導体路を製造することを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の方法。
【請求項6】
電磁放射線(25)の生成のためにレーザーを使用することを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−528800(P2008−528800A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552655(P2007−552655)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/050518
【国際公開番号】WO2006/082170
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】