説明

コールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法

【課題】 軟質樹脂中空成形体を精度良く簡単にブロー成形することができるコールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法を提供する。
【解決手段】 軟質樹脂からなるパリソンを、加熱槽内でブロー成形可能な温度に再加熱して軟化させた状態とし、その両端部にプラグを装着したうえでブロー成形型の内部に挿入して型締めを行った後、プラグを介してパリソンの内部に圧力空気を送り込むことで、軟質樹脂からなるパリソンを所定形状の中空成形体に成形する方法であり、パリソン1を再加熱して軟化させた状態とする際、パリソン1の内部には、少なくとも表面部分4がフッ素樹脂からなる保持棒2を挿入するとともに、パリソン1の両端部には、ブロー成形可能な温度における耐熱性を有する硬質材料からなる治具5を取り付けておき、パリソン1を再加熱して軟化させた状態とした後は、パリソン1の両端部に治具5を取り付けたままの状態でプラグを装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質樹脂からなるパリソンを所定形状の中空成形体に成形するコールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば飲料用ボトルや空調ダクト等といった中空成形体の成形方法として、コールドパリソン方式によるブロー成形が挙げられる。該ブロー成形は、樹脂によって中空状に形成されたパリソンを加熱槽で再加熱して軟化させた後、該パリソンの両端部にプラグを挿着したうえで金型の内部にセットして型締めを行い、一方のプラグを介して該パリソンの内部に圧力空気を送り込み、該金型のキャビティ形状にあわせて該パリソンを膨らませることで、該パリソンから所定形状の中空成形体を成形する方法である(例えば特許文献1,2参照)。
上記パリソンの材料として使用する樹脂には硬質樹脂と軟質樹脂とが挙げられるが、通常のコールドパリソン方式によるブロー成形にあっては硬質樹脂と軟質樹脂とが同様に取り扱われている。
なお上記軟質樹脂とは、ASTM D 747、同638、同882による引っ張り、あるいは曲げ試験により測定された弾性率が700kgf/cmより小さい樹脂であり、上記硬質樹脂とは、ASTM D 747、同638、同882による引っ張り、あるいは曲げ試験により測定された弾性率が7000kgf/cm以上の樹脂である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−193444号公報
【特許文献2】特開2002−67127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記コールドパリソン方式によるブロー成形において上記パリソンを加熱槽で再加熱する際には、該パリソンの形状を維持するため、形状維持手段である保持棒を該パリソンの内部に挿入した状態で加熱している。該保持棒の材料には、再加熱時の温度における耐熱性を有する硬質材料として鉄やステンレス鋼等の金属が一般的に使用されているが、上記したように硬質樹脂からなるパリソンと軟質樹脂からなるパリソンとが同様に取り扱われた場合、軟質樹脂からなるパリソンで種々の問題が生じていた。
すなわち、軟質樹脂は軟化点が低いため、軟化したパリソンが上記保持棒の表面に融着してしまったり、いとも簡単に変形してしまったりするので、軟化したパリソンの加熱槽からの取り出しが困難になる可能性が高い。さらに、軟化したパリソンは、いとも簡単に変形してしまうほど軟らかくなっているので、その両端部にプラグを挿着することが非常に困難になる。
上記のような軟質樹脂に係る問題は、加熱槽における加熱温度を下げて該パリソンの軟化を緩和することで解決することが可能ではあるが、しかし該パリソンの加熱温度を下げると該パリソンの材料である軟質樹脂の引っ張り弾性率が高くなってしまうので、ブロー成形時の収縮が大きくなり、得られる成形品の寸法安定性が悪化するという新たな問題が生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記従来の問題点を解決することを課題とし、上記課題に対して本発明では、軟質樹脂からなるパリソンを、加熱槽内でブロー成形可能な温度に再加熱して軟化させた状態とし、その両端部にプラグを装着したうえでブロー成形型の内部に挿入して型締めを行った後、該プラグを介して該パリソンの内部に圧力空気を送り込むことで、軟質樹脂からなるパリソンを所定形状の中空成形体に成形するコールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法であって、上記パリソンを再加熱して軟化させた状態とする際、該パリソンの内部には、少なくとも表面部分がフッ素樹脂からなる保持棒を挿入しておき、更に該パリソンの両端部には、上記ブロー成形可能な温度における耐熱性を有する硬質材料からなる治具を取り付けておき、上記パリソンを再加熱して軟化させた状態とした後は、該パリソンの両端部に上記治具を取り付けたままの状態で上記プラグを装着することを特徴とするコールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法が提供される。
一般に上記軟質樹脂とは、ASTM D 747、同638、同882による引っ張り、あるいは曲げ試験により測定された弾性率が700kgf/cmより小さい樹脂であると定義される。
上記治具は、上記パリソンの内部に挿入される筒状の本体部と、該本体部の一端外周縁から外側へ折り返すようにして延設された折返部と、を有するカラー状に形成されており、上記折返部には、上記本体部の軸方向に沿って複数個の切込部が設けられるとともに、上記本体部と上記折返部との間で形成される挟持部に上記パリソンの端部が挟持されるように構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
〔作用〕
本発明において、上記パリソンをブロー成形可能な温度に再加熱する際に該パリソンの形状等を保持する保持手段として用いる保持棒は、その少なくとも表面部分がフッ素樹脂からなるものであるから、再加熱時に軟化したパリソンが該保持棒の表面に融着してしまうことを抑制することができるので、加熱槽からの取り出し時に該パリソンが該保持棒に融着して取り出しが困難となることがない。
再加熱時における上記パリソンの両端には、治具が取り付けられている。この治具は、上記パリソンをブロー成形可能な温度における耐熱性を有する硬質材料によって形成されているので、再加熱時の温度における変形や軟化を防止される。また再加熱後の上記パリソンは、その両端部に上記治具を取り付けたままの状態とされるので、該治具が該パリソンの形状を保持することで、上記加熱槽から取り出す際の該パリソンの変形を抑制することができるとともに、プラグの挿着を極めて容易なものとすることができる。
上記治具は、筒状の本体部と、該本体部の一端外周縁から外側へ折り返すようにして延設された折返部と、によってカラー状に形成されたものであり、本体部と折返部との間に形成されている挟持部に上記パリソンの端部を挿入し、該挟持部で該パリソンの端部を挟持することで、上記パリソンの端部に上記治具を容易かつしっかりと取り付けることができる。また上記折返部には、本体部の軸方向に沿って複数個の切込部が設けられているので、該切込部が広がるように上記折返部が撓んで放射状に開きやすくなるため、上記治具の上記挟持部に対する上記パリソンの端部の挿入を容易に行うことができる。
【0007】
〔効果〕
本発明では、コールドパリソン方式によって軟質樹脂中空成形体を精度良く簡単にブロー成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】パリソンに保持棒を挿入した状態の説明図。
【図2】治具をパリソンの一端に取り付ける状態の説明図。
【図3】治具をパリソンの一端に取り付けた状態を示す側断面図。
【図4】プラグの斜視図。
【図5】プラグを取り付けた状態の側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のコールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法を具体化した一実施形態について説明する。
上記コールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法においては、押出成形や射出成形等の成形方法で中間成形体であるパリソンを中空状に形成したうえで、軟化工程において、加熱槽で該パリソンをブロー成形可能な温度で再加熱して軟化させた後、膨張成形工程において、軟化させた該パリソンを金型内にセットし、該パリソンの内部に圧力空気を圧入し、該金型の内部形状(キャビティ形状)に合わせて該パリソンを膨張させることで、中空成形体を得ている。
上記パリソンは、軟質樹脂からなるものであり、主として円筒状等の筒状に形成されている。該軟質樹脂は、ASTM D747、同638、同882による引っ張りあるいは曲げ試験により測定された弾性率が、700kgf/cm以上より小さい樹脂であり、軟質ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー等が例示される。
【0010】
図1に示すように、上記軟化工程で上記パリソン1は、その内部に保持棒2が挿入されることにより、再加熱時の軟化による変形等が抑制される。
上記保持棒2は、棒状をなす芯材3と、該芯材3の周面全体を覆う表面部分4と、によって構成されている。該芯材3は、上記再加熱時の温度において変形や軟化を防止するべく、鉄やステンレス鋼等のような金属によって形成されている。該表面部分4は、上記再加熱時の温度における溶融や割れや変形等を防止するとともに、軟質樹脂からなる上記パリソン1が軟化状態で該保持棒2へ融着してしまうことを防止するため、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)等のフッ素樹脂によって形成されている。
なお上記表面部分4の形成方法として、上記芯材3の表面へ液状とした上記フッ素樹脂を塗布あるいはコーティングする、上記フッ素樹脂からなる筒状のカバー材を上記芯材3の表面に被せる等、種々の方法が挙げられる。
【0011】
図2及び図3に示すように、上記軟化工程で上記パリソン1の両端部には、治具5が取り付けられる。
上記治具5は、円筒状をなす本体部6と、該本体部6の一端側(図2中で奥側となる外端側)の該周縁から外側へ折り返すように延設された折返部7と、を有するカラー状に形成されている。該折返部7は、その中間で外面に凹溝8が形成されることで、該凹溝8の部分で薄肉とされている。さらに該折返部7には、該凹溝8から先端(図2中で手前側となる内端)にわたり、複数個の切込部9が上記本体部6の軸方向に沿って延びるように設けられている。そして、該治具5においては、該本体部6と該折返部7との間に間隙を設けるようにすることで、挟持部10が形成されている。
上記治具5は、上記加熱槽における上記パリソン1の再加熱時に加熱されるものであることから、再加熱時の温度(上記パリソン1をブロー成形可能な温度)において、耐熱性を有する硬質材料によって形成されている。このような耐熱性を有する硬質材料としては、上記保持棒2の芯材3で例示した金属、他にフェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは繊維強化樹脂(FRP)や炭素繊維強化樹脂(CFRP)などが例示される。
【0012】
上記治具5は、上記軟化工程において、再加熱に際して予め上記パリソン1の両端部に取り付けられるものであり、該パリソン1への取り付けは、該治具5の上記挟持部10へ該パリソン1の端部を挿入するのみで、至極容易かつ短時間で行われる。
上記挟持部10への上記パリソン1の端部の挿入に際し、上記折返部7は、複数個の切込部9が設けられているうえ、その外面に設けられた上記凹溝8の部分で薄肉とされているので、該凹溝8を起点に外側へ撓みやすく、各切込部9を広げるようにして放射状に開きやすくなっている。従って、上記挟持部10へ上記パリソン1の端部を挿入しやすく、また上記したように上記治具5が硬質材料で形成されていることから、上記折返部7は、該パリソン1の端部の挿入で放射状に広がった状態から元の形状へ復元しようとすることで、好適に該パリソン1の端部を挟持する。
さらに上記折返部7の先端で内面には、爪7Aが凸設されており、該爪7Aが上記挟持部10に挟持された該パリソン1の端部に食い込み、係止することで、該パリソン1の端部をしっかりと挟持する。
【0013】
上記軟化工程において、上記パリソン1は、上記治具5が両端部に取り付けられたままの状態で、その内部に上記保持棒2を挿入することによって、該保持棒2に保持され、図示しない加熱槽内に挿入されて、ブロー成形可能な状態になる程度に再加熱されて軟化される。該保持棒2の挿入においては、上記治具5の本体部6が筒状をなしており、その外端側が開口されているので、該本体部6の内部を介して該保持棒2を上記パリソン1の内部に挿入する。
そして、上記軟化工程の後、上記パリソン1は加熱槽から取り出され、上記保持棒2から抜き取ったうえで、その両端部に上記治具5が取り付けられたままの状態で、上記膨張成形工程へ移行される。
【0014】
上記膨張成形工程において、上記パリソン1には、一端部に取り付けられた上記治具5の外側からプラグ11が挿着される。
図4及び図5に示すように、上記プラグ11は、内部に圧力空気導入孔13が形成された筒状の挿着部12と、該挿着部12よりも大径なフランジ部14と、該挿着部12の圧力空気導入孔13に通じる圧力空気排出路15と、該圧力空気排出路15に直交する圧力空気導入路16と、からなる。
上記プラグ11は、上記挿着部12を上記治具5の本体部6内に挿入するようにして挿着される。従って、上記治具5の本体部6は、圧力空気の漏出を抑えるべく、その内径が上記挿着部12の外径と略等しくなるように形成されている。また該挿着部12の外周面上にはパッキン17が装着されており、該パッキン17が本体部6と挿着部12との間を封止することにより、圧力空気の漏出が効果的に抑制されている。
なお、上記パリソン1の他端部には、上記治具5の本体部6の開口を塞ぐように、図示しない盲プラグが挿着され、圧力空気によって好適に膨張されるように構成される。
上記パリソン1は、一端部の治具5にプラグ11が、他端部の治具5に盲プラグが挿着された状態とし、この状態で図示しないブロー成形用の金型に装着される。その後、該金型の型締めを行い、該プラグ11の圧力空気導入路16から圧力空気が該パリソン1の内部へと圧入されることで、該金型のキャビティ形状に合わせて該パリソン1が膨張され、冷却、型開き等が行われることで、コールドパリソン方式のブロー成形による中空成形体が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明にあっては、コールドパリソン方式によるブロー成形において、軟質樹脂のパリソンを再加熱する場合に保持する保持棒として、少なくとも表面にフッ素樹脂を存在させるので、該保持棒に加熱軟化したパリソンが融着せず、また加熱軟化したパリソンにブロー成形用のプラグが容易に取り付けられるので、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0016】
1 パリソン
2 保持棒
5 治具
6 本体部
7 折返部
10 挟持部
11 プラグ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質樹脂からなるパリソンを、加熱槽内でブロー成形可能な温度に再加熱して軟化させた状態とし、その両端部にプラグを装着したうえでブロー成形型の内部に挿入して型締めを行った後、該プラグを介して該パリソンの内部に圧力空気を送り込むことで、軟質樹脂からなるパリソンを所定形状の中空成形体に成形するコールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法であって、
上記パリソンを再加熱して軟化させた状態とする際、該パリソンの内部には、少なくとも表面部分がフッ素樹脂からなる保持棒を挿入するとともに、該パリソンの両端部には、上記ブロー成形可能な温度における耐熱性を有する硬質材料からなる治具を取り付けておき、
上記パリソンを再加熱して軟化させた状態とした後は、該パリソンの両端部に上記治具を取り付けたままの状態で上記プラグを装着する
ことを特徴とするコールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法。
【請求項2】
上記軟質樹脂とは、ASTM D 747、同638、同882による引っ張り、あるいは曲げ試験により測定された弾性率が700kgf/cmより小さい樹脂である
請求項1に記載のコールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法。
【請求項3】
上記治具は、上記パリソンの内部に挿入される筒状の本体部と、該本体部の一端外周縁から外側へ折り返すようにして延設された折返部と、を有するカラー状に形成されており、
上記折返部には、上記本体部の軸方向に沿って複数個の切込部が設けられるとともに、
上記本体部と上記折返部との間で形成される挟持部に上記パリソンの端部が挟持されるように構成されている
請求項1又は請求項2に記載のコールドパリソン方式による軟質樹脂用ブロー成形方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−1040(P2013−1040A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136604(P2011−136604)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】