説明

ゴナドトロピン放出ホルモン(GNRH)変異体の組合せを免疫原として使用する医薬組成物

天然のGnRHホルモン及び/又はその模倣体の1つの組合せを用いた医薬組成物であって、一方はカルボキシル末端を介して他方はアミノ末端を介して、そのアミノ末端又はカルボキシル末端で担体分子に区別なく結合し、内因性のGnRHホルモンに対する速やかで強力な免疫応答を引き起こして、最終的にGnRHと、その結果としてGnRH/LH−FSH/テストステロン−(エストロゲン)カスケードに関与するホルモンの残りとを除去し、GnRH又はその模倣体の1つが持つ多数のエピトープの免疫系への暴露を促進し、担体により生じる立体障害を最小にする、医薬組成物。本発明は、経済的に重要な動物やペット動物の去勢、ヒトの生殖能力制御、及びホルモン感受性腫瘍、すなわち前立腺、乳房、卵巣、子宮内膜、精巣、下垂体、唾液腺の腫瘍や他の種類のヒト腫瘍の治療に直接適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学、内分泌学、腫瘍学、生殖の分野に関し、詳細には全てのGnRH分子、主にはこのホルモンのカルボキシル末端及びアミノ末端に対する強力な免疫反応を同時発生させることに基づき、したがって、その天然型又はD−アミノ酸に基づく変異体を含む模倣型のいずれでもよいGnRH分子を、異なる2つの免疫分子を形成するように一方はカルボキシル末端で他方はアミノ末端で担体分子と結合させると、このGnRH分子が免疫系に対して最良に暴露されることを利用するものである。このGnRH分子を以降、それぞれカルボキシル末端変異体及びアミノ末端変異体と呼ぶことにする。
【背景技術】
【0002】
ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)としても知られており、脳下垂体前葉に作用して卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)を血液に放出させる、視床下部性のデカペプチドである。GnRHは同時に若年男性及び青年期男性の男性生殖腺の発達に伴う精巣のステロイド合成を刺激する。女性については、このホルモンは卵巣や卵胞の発達、卵巣ステロイドの合成及び排卵を刺激する。
【0003】
生殖能力調節におけるLHRHの役割は良く知られている。それ故に、多くの疾病がゴナドトロピンや生殖腺ステロイドホルモン、具体的にはエストロゲンやテストステロンに関係している。そのような疾病としては乳癌、子宮癌及びその他の種類の婦人科癌、又は例えば子宮内膜症、子宮線維症、前立腺癌や良性前立腺過形成などの疾病がある。
【0004】
去勢は、性腺摘出としても知られるが、外科的、化学的なもののいずれも、ホルモン依存性新生物の治療的介入において最も有効な方法の1つとなる(Huggins C,Hodges CV.Studies on prostatic cancer.I.The effect of castration,of estrogen and of androgen injection on serum phosphatases in metastatic carcinoma of the prostate.Cancer Research 1941;1:293−7)。家畜生産の部門において、去勢は経済的に重要である成体雄性動物由来の肉が持つ不快な臭いと味を防ぐために実施される。(Proc.Soc.Exp.Biol.Med 175:259−281,1984.Meloen RH et al.Efficient immunocastration of male piglets by immunoneutralization of GnRH using a new GnRH−like peptide.Vaccine 1994;12:741−747.Crowley WF,Vale WW,Rivier J,MacArthur JW:LHRH in hypogonadotropic hypogonadism.In ZatuchniGL,Shelton JD,Sciarra JJ(eds):“LHRH Peptides as Female and Male Contraceptives”.Philadelphia:Harper and Row Publishers,1981,pp321−333)。
【0005】
GnRHアナログは前立腺癌、卵巣癌及び乳癌の治療に最もよく用いられる薬剤である。このGnRHアナログはエストロゲン若しくはアンドロゲンの枯渇及び/又は癌細胞に対する直接的な効果を介して作用を発揮する(Schally,Comaru−Schally AM,Redding TW:Anti−tumor effects of analogues of hypothalamic hormones in endocrine−dependent cancers)。これらGnRHアナログ及びアンタゴニストが作用を発揮する際に介する直接的なメカニズムは、これらが慢性的に投与された場合にGnRH受容体が脱感作及び脱制御されることと関連している。これら強力なアナログ及びアンタゴニストのいくつかについては異なる著者から報告がされている(Waxman JH,Wass JAH,Hendry WF,Whitfield HN,Besser GM,Malpas JS,Oliver RTD:Treatment with gonadotropin releasing hormone analogue in advanced prostate cancer.Br.Med.J.286:1309−1312,1983.Allen JM,O’Shea JP,Mashiter K,Williams G,Bloom SR:Advanced carcinoma of the prostate:Treatment with a gonadotropin releasing hormone agonist.Br.Med.J.286:1607−1609,1983).(Couillard S.Labrie C.Belanger A.Candas B.Pouliot F.Labrie F.‘‘Effect of dehydroepiandrosterone and the antiandrogen EM−800 on growth of human ZR−75−1 breast cancer xenografts’’.J.Nat.Cancer Inst.,May 20,772−778,1998;Kolle S.et al.:‘‘Expression of growth hormone receptor in human prostatic carcinoma and hyperplasia’’.Int.J.Oncol.,vol.14,No.5,p911−916,1999)。
【0006】
GnRH/LHRHアナログの使用に代わる変異体は、天然のホルモン又はその模倣ペプチドを用いた能動免疫であり、これらは特に破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド若しくはそのエピトープ、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)又はBSA(ウシ血清アルブミン)などのより免疫原性の高い分子に結合した場合にワクチンとして働くことが可能である(Gual C,Garza−Flores J,Menjivar M,Gutierrez−Najar A,Pal R,Talwar GP.Ability of an anti−Luteinizing hormone−releasing hormone vaccine to inhibit gonadotropins in postmenopausal women.Fertil Steril 1997;67:404−7)。
【0007】
GnRH/LHRHを適切な抗原として用いたワクチン接種に関して、US5,897,863、US6,132,720などの異なる報告が発表されている。しかし、実施当初から存在する問題点の1つに、有効濃度の抗GnRH抗体を産生するために強力な免疫反応を誘導する能力が不十分な点がある。これは主として、全ての哺乳類においてこのデカペプチドのサイズが小さいということと、自家であるという性質によるものである。そのため、最初の試みから、類似の分子で蓄積された経験やこのペプチドの免疫系に対する認知度を増強する担体の使用が非常に役立っている。
【0008】
担体分子の破傷風トキソイドに結合したGnRH又はその模倣ペプチドに基づくワクチン候補について、雄性のブタ、齧歯類及び霊長類で実験が試行されている。これらの実験では精巣、前立腺のほか雌の卵巣でも萎縮が認められた(Talwar GP,Raina K,Gupta J.C,Ray R,Wadhwa S,Ali MM.A recombinant Luteinizing−hormone−releasing hormone immunogen bioeffective in causing prostatic atrophy.Vaccine 2004;22:3713−372.Millar RP,King JA,Davidson JS,Milton RC.Gonadotropin−releasing hormone−diversity of functions and clinical applications.S Afr Med J 1987;72:748−755)。高用量が用いられた場合でさえ免疫群の個体間で観察された結果が大きくばらつくことは、ペットや経済的に重要な動物において生殖能力に対するワクチンとしてGnRH/LHRHベースの免疫原を用いる際にしばしば言及される別の欠点である。この欠点はフロイント完全アジュバントなどの高度な反応誘導性を持つアジュバントの問題ある使用により悪化する(Hoskinson et al,Austr.J.Biotech;4,166−170(1990);Bonneau et al.,J.Anim.Sci.72,14−20(1994);U.S.Pat.No.4,608,251;Int.patent appl.WO88205109;Caraty et al.,C.R.Acad.Sc.Paris,t.303,Serie III,No.16,673−676(1986);Falvo et al.;J.Anim.Sci.63,986−994(1986)。
【0009】
同様にR.BringasらのWO98/27111特許‘‘Preparado vacunal para la inmunocastracion reversible de mamiferos’’には、合成プロセスで破傷風トキソイド(TT)と結合し、完全フロイントアジュバント(CFA)においてアジュバントになる変異GnRHを用いた春機発動前のブタの免疫去勢に関する肯定的な結果が記載されている。しかし、春機発動の動物においてこのワクチン製剤を広範囲に使用しても、上で観察された均質性は認められなかった。
【0010】
進行性前立腺癌患者及び閉経後女性での最初の臨床試験は、ゴナドトロピンの阻害に関する研究の目的で前世紀90年代の10年間で初めて行われ、Talwar GPらによって発表された((Talwar GP.Vaccines for control of fertility and hormone−dependent cancers.Immunology and Cell Biology 1997;75:184−189.Gual C,Garza−Flores J,Menjivar M,Gutierrez−Najar A,Pal R,Talwar GP.Ability of an anti−Luteinizing hormone−releasing hormone vaccine to inhibit gonadotropins in post−menopausal women.Fertil Steril 1997;67:404−7)。上述の使用されてきたワクチン候補のほか、担体としての破傷風トキソイド(TT)やジフテリアトキソイド(DT)に化学的にコンジュゲートしたLHRHはしばしば抗ハプテン性の免疫抑制を生じさせるが(Schutze M−P,Leclerc C,Jolivet M,Audibert F,Chedid L.Carrier−induced epitopic suppression,a major issue for future synthetic vaccines.J immunol 1985;135:2319−22.Gaur A,Arunan K,Singh OM,Talwar GP.By pass by an alternate carrier of acquired unresponsiveness to HCG upon repeated immunization with tetanus conjugated vaccine.Int Immunology 1990;2(2):151−5.Sad S,Gupta HM,Talwar GP,Raghupathy R.Carrier induced suppression of the antibody response to self hapten.Immunlogy 1991;74:223−7)、これは報告されているコンジュゲーションプロセスでの損失に加わるものである(Gual C,Garza−Flores J,Menjivar M,Gutierrez−Najar A,Pal R,Talwar GP.Ability of an anti−Luteinizing hormone−releasing hormone vaccine to inhibit gonadotropins in postmenopausal women.Fertil Steril 1997;67:404−7)。
【0011】
近年、北アメリカの研究者グループが、頻発性の感染性小児疾患に関与する微生物抗原に由来するT細胞エピトープ協力物質を使用したという報告がされている。これらの物質は、より一層強力で普遍的な反応を獲得するため、まさしく化学合成プロセスにおいてGnRHアミノ末端に結合している(Finstad C.L,Wang C.Y,Kowalsky J,Zhang M,Li M,Li X,Xia W,Bosland M,Murthy k.k,Walfield A,Koff W.C,Zamb T.J.Synthetic Luteinizing hormone releasing hormone(LHRH)vaccine for effective androgen deprivation and its application to prostate cancer immunotherapy.Vaccine 2004;22:1300−1313)。それでもなお、同一免疫原中の4つのヘルパーT細胞エピトープを使用することで良好な免疫応答を得られたにもかかわらず、油性アジュバントを伴う反復免疫を用いることが必要であった。前記処方は再現するに難しいプロセスで、費用が高額で、主要な工業プロセスにおいて実施するのは容易でない。この場合、免疫応答の潜在能力はとりわけ担体分子の多様性に基づいて活用され、アミノ及びカルボキシルが存在する混合物(GnRH又はその模倣体を含まない)を提供する潜在能力は無視される。
【0012】
最後に、GnRH又はその模倣体の異なる免疫コンジュゲートが持つ免疫原性能力のほか、コンジュゲーションを促進する追加アミノ酸の使用を含め、カルボキシル末端及びアミノ末端でコンジュゲートしたGnRH免疫分子を用いて得られた異なる著者によるばらつきのある結果についても、いくつかの文献が報告していることに注目すべきである。同様に、従来のペプチド合成若しくはDNA組換え、又は「タンデム」やMABS型の複合分子により得られる、末端の1つに結合する異なる担体分子の使用に関する報告も認められる。しかし、担体分子に結合した2つのGnRH変異体処方(アミノ末端を介して結合した一方の変異体と、カルボキシル末端を介して結合した他方の変異体を同一の医薬製剤中で用いている)の使用に関しては、免疫反応に対する相乗効果、性ホルモン濃度や標的器官(前立腺、精巣、乳房、卵巣)に対する効果を取り扱った報告は未だ認められない。
【0013】
本提案分子の構築プロセスとしては、合成による化学的結合、GnRH又はその模倣体と担体分子とのコンジュゲーション又は融合タンパク質のクローニングが挙げられる。担体分子は完全なタンパク質又はその断片若しくはエピトープであることができ、例えば破傷風トキソイド、髄膜炎菌(Nisseria Meningitidis)P64Kタンパク質、B型肝炎表面抗原、肝炎ウイルスコア抗原などがある。
【0014】
本明細書の医薬製剤を同一処方で投与すると、GnRHのないアミノ及びカルボキシル末端を標的とした相乗的な免疫応答が引き起こされる。その結果、男性及び女性の性ホルモン(それぞれアンドロゲン及びエストロゲン)は速やかに著しく除去され、積極的な免疫去勢を明確に生じさせる。この処方は、ペットや経済的に重要な動物の免疫去勢、並びにヒトの生殖能力の制御、及び例えば前立腺、乳房、卵巣、精巣及び子宮内膜の癌、さらには下垂体や唾液腺その他の腫瘍などのホルモン感受性腫瘍の治療に直接適用される。この処方の顕著な効果には、標的器官の体積減少、腫瘍塊の縮小及び個人の生存期間延長がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本提案発明の新規性及び利点
本発明は、天然、又はD−アミノ酸で合成される逆反転変異体を含む模倣体のいずれでもよい、2つのGnRH/LHRHホルモン変異体の、同一の免疫方式での組合せに基づくものである。ここでGnRH変異体は、化学合成、コンジュゲーション又はアミノ末端及びカルボキシル末端でTT型の担体分子若しくはそのエピトープと区別できないように結合したGnRH DNAキメラの使用により作製される。本発明の明確な目的は、内因性のGnRHに対するより速やかでより強力な免疫応答を見出すことである。この場合、カルボキシル末端及びアミノ末端変異体(GnRHの担体分子への結合部位に関する)を同一の製剤中で又は別個で、同一の免疫方式により順次的又は交互の形式で、同時投与することができる。
【0016】
本発明の新規性は、免疫系に対して生じる相乗的な効果、カルボキシル末端(担体がGnRH又はその模倣体のカルボキシル末端に結合している変異体)及びアミノ末端(担体がGnRH又はその模倣体のアミノ末端に結合している変異体)と呼ばれる前述の2つのGnRH変異体を用いた能動免疫にある。これら変異体が同一処方の一部として投与されると、男性及び女性の性ホルモン(それぞれアンドロゲン及びエストロゲン)を速やかに強力に除去して、積極的な免疫去勢作用を生じる。それ故ペットや経済的に重要な動物の免疫去勢において有効である。他方、本発明はヒトの生殖能力制御やヒトホルモン感受性腫瘍、すなわち前立腺、乳房、卵巣、子宮内膜、精巣、下垂体や唾液腺やその他の腫瘍の治療にも用いることができる。治療の効果は標的器官の体積減少、腫瘍塊の縮小及び個人の生存期間延長で表される。
【0017】
上記の組合せは2つの変異体(カルボキシル末端及びアミノ末端)の作用の和を表すだけでなく、先に記載された組合せで変異体が投与されると免疫系に対する相乗的な効果も標的器官に同じように表れる。
【0018】
先に記載された治療に優る利点として、本発明は、カルボキシル末端及びアミノ末端変異体の混合物を用いて得られる相乗効果により、標的器官(精巣、前立腺、卵巣など)において及び/又は性ホルモン依存性腫瘍(前立腺、乳房、卵巣、子宮内膜、唾液腺、精巣など)に対して、より速やかでより強力な作用を示す。
【0019】
本提案の変異体の組合せは、得られる抗GnRH抗体の力価と性ホルモン(アンドロゲン及びエストロゲン)の去勢レベルへの減少との間の密接な関係を明らかにする。次にこれは標的器官で生じる効果と関連している。これらの結果から、油性アジュバント(モンタナイド)の使用で得られる効果に加えて、アルミニウム塩などのより反応誘導性の低い(無害の)他のアジュバントを使用することができる。上述の態様により、GnRHアミノ及びカルボキシル末端変異体の混合物が有する、これまでに報告されたGnRHホルモンベースの他の免疫原に優る相当の利点がもたらされる。
【0020】
同一処方におけるGnRHカルボキシル末端及びアミノ末端ペプチド変異体又はワクチン候補を用いた健常な成体ラットの免疫により生じる免疫反応で、単独の変異体(カルボキシル末端又はアミノ末端)のみが用いられる他の免疫方式と比べてより良好な結果を得ることができた。上記の結果は、免疫去勢の誘導と良性増殖性疾患(子宮内膜症など)又は悪性増殖性疾患(前立腺、乳房、子宮内膜、卵巣、精巣、顎下腺の癌)及び他のホルモン欠乏感受性疾患の治療との両方において相乗効果を示す。
【0021】
従前に用いられた技術とは違い、天然のGnRH分子又はその模倣体、特にGnRHm1は、ペプチド合成プロセスにおいて担体タンパク質に直接結合することができ、又は高い免疫原性を持つ分子と化学的にコンジュゲートし、若しくは融合タンパク質の形でクローニングすることができ、これにより異なる2つの変異体、カルボキシル末端及びアミノ末端を形成する。これら変異体は最もよく報告される担体タンパク質のいくつか、又はそのエピトープと結合することができるが、これらはすなわち破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、髄膜炎菌P64Kタンパク質、B型肝炎表面抗原、B型肝炎コア抗原などであり、これによりGnRHの除去及びGnRH/LH−FSH/テストステロン/エストロゲンのカスケードに関係するホルモンの除去につながる相乗的効果を伴う迅速で強力な免疫応答を獲得する。
【0022】
カルボキシル末端及びアミノ末端変異体は同じ処方中で異なる比率で用いることができ、カルボキシル末端変異体とアミノ末端との関係は10:90から80:20(重量/重量)まで変わることができる。このようにカルボキシル末端で結合しているGnRH分子は全ての場合において混合物全体の質の10%より少ない割合を占め、同時にアミノ末端変異体は少なくとも混合物全体の20%を占める。
【0023】
カルボキシル末端及びアミノ末端の組合せでの最良の結果は、各変異体を50%(重量/重量)の比率で混合したときに得られる。
【0024】
同様にGnRH分子、カルボキシル末端及びアミノ末端は、同じ担体において、一方はアミノ末端で他方はカルボキシル末端で区別できないように結合することができる。別の方法では、一方の変異体(カルボキシル末端)は担体タンパク質に結合することができ、他方の変異体(アミノ末端)は別の担体タンパク質に結合する。したがって免疫原性を有する混合物は、例えば、一方はTT又はそのエピトープの1つの担体に、他方は髄膜炎菌P64Kタンパク質、B型肝炎コア抗原若しくはそのエピトープ、又は高い免疫原性を持つ別の担体分子に結合したGnRH又はその模倣体で構成することができる。
【0025】
この種の組合せは、モンタナイド型の油性エマルジョン又はアルブミン型の水溶性アジュバント及びQS21でアジュバント形成された混合GnRHカルボキシル末端及びアミノ末端変異体を用いることで、他の免疫原と比べてより速やかでより強力な抗GnRH免疫応答を実現する。
【0026】
上記処方の潜在能力は、微小サイズプロテオリポソーム(VSSP)などの免疫刺激物質の添加により表面上増強することができるが、この物質は髄膜炎菌細胞壁リポタンパク質とN−アセチル若しくはN−グリコリルGM3ガングリオシド又は同様のものとの混合物をcocleatesやアルギネートのような水溶性アジュバントと混合したときに得られるものである。
【0027】
先に述べたように、本発明は広い範囲の脊椎動物の免疫に用いられることができ、ペット(イヌ、ネコなど)、野生種(齧歯類、リスその他)での哺乳類生殖能力制御に用いることが特に重要である。本提案の組合せはブタ、ヤギなどの免疫去勢において高い免疫原性率を確実なものとし、これら動物の肉や脂から生じる不快な臭いを回避する。本組合せの別の用途は、雄牛、水牛、ウマその他などの経済的に重要な動物の生殖能力及び攻撃性を制御することである。ヒトの医薬に関して、本発明の用途は、前立腺癌及び乳癌、並びに子宮、卵巣、精巣、顎下腺の癌、下垂体病変や他のホルモン感受性新生物の治療への直接適用である。
【0028】
組合せ成分の1つとしてのカルボキシル末端型の免疫原性製剤
ワクチン成分の1つであるカルボキシル末端変異体は、事例の1つにおいては、天然のGnRH分子又はその模倣体の1つ、例えばQHWSYPLRPGという配列を持つGnRHm1が破傷風トキソイドのヘルパーT細胞エピトープ(830−844)(QYIKANSKFIGITEL)又はジフテリアトキソイド、髄膜炎菌P64Kタンパク質、B型肝炎コア抗原などの他の担体に結合することで構築することができ、遺伝的構築の発現系を用いた融合タンパク質として得られる。
【0029】
完全ペプチドQHWSYPLRPG QYIKANSKFIGITELを化学合成して(モンタナイド型の)油性アジュバントでアジュバント形成させると、春機発動前の動物にはたった2回の免疫で、成体動物においては3又は4回の免疫で、強力なテストステロン除去効果を持つようになることが示された。この変異体を用いて得られた抗体力価は90%の血清変換に達した4回目の免疫後、ほとんどの個体で1/1000〜1/2000であった。
【0030】
アミノ末端、第二の組合せ成分
同様に、天然のGnRH分子又はその模倣体の1つの構築物、上記の事例のようにGnRHm1がそのアミノ末端で破傷風トキソイドの830−844エピトープに結合して作られた分子(QYIKANSKFIGITELGGQHWSYPLRPG)、又はそのアミノ末端で髄膜炎菌P64Kタンパク質のP48ぺプチドに結合したもの(IPGVAYTSPEVAWVGGGGQHWSYPLRP)、又は上述のタイプの他の担体分子に結合した構築物は、既に述べたカルボキシル末端変異体により生じるものと比べ、内因性のGnRHに対してより高い免疫原性能力を持つ活性成分を構成する。意義深いことに、TT−GnRHm1で免疫した個体は初回免疫の直後に天然GnRHの血清変換を示し、3回目又は4回目の免疫後に1:6000〜1:12000という抗体力価に達することが見出された。同じくアミノ末端変異体(P48−P64K−GnRHm1)はたった1回の免疫後に90%の抗体応答を、4回目の免疫後に1:5000及び1:12000という力価を誘導する。GnRHが全ての哺乳類で保存されている非常に小さな自家分子であることを考慮すると、前記力価は非常に意味のあるものと考えることができる。このアミノ末端変異体はしかし、カルボキシル末端変異体と比べ、標的器官(男性の前立腺、精巣又は女性の卵巣)に対して著しく優れた効果を生じなかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】天然のGnRH、GnRHm1−TT、TT−GnRHm1、GnRHm1−P48−P64K及びP48−P64K−GnRHm1変異体のアミノ酸配列表示の図である。
【図2】TT担体分子に結合した異なるGnRH変異体で免疫された動物の平均抗GnRH(天然)血清変換を表す図である。
【図3】TT担体分子に結合した異なるGnRH変異体で免疫された健常コペンハーゲンラットにおける抗GnRH抗体力価を表す図である。
【図4】屠殺時(100日目)の精巣重量評価を表す図である。LSD Stat−Graphic統計的評価。1−プラセボ、2−GnRHm1−TT、3−TT−GnRHm1、4−2+3の組合せ(50/50)、5−2+3の組合せ(70/30)、6−交互方式。
【図5】屠殺時(100日目)の前立腺重量評価を表す図である。LSD統計的評価Stat−Graphic.1−プラセボ、2−GnRHm1−TT、3−TT−GnRHm1、4−2+3の組合せ(50/50)、5−2+3の組合せ(70/30)、6−交互方式。
【図6】全ての評価動物の精巣及び前立腺の肉眼的外観を表す図である(各群n=10)。群は左から右に向かって1番目がプラセボ、2番目がGnRHm1−TT(C−T)、3番目がTT−GnRHm1(A−T)、4番目が[C−T]+[A−T]の組合せ(50/50)、5番目が[C−T]+[A−T]の組合せ(70/30)、6番目が交互方式(Alt)である。
【図7】破傷風トキソイド担体分子に結合した異なるGnRH変異体の腫瘍体積平均値を表す図である。
【図8】TP48−P64K担体分子に結合した異なるGnRH変異体で免疫されたコペンハーゲンラットの抗GnRH抗体力価を表す図である。
【図9】屠殺時(100日目)の精巣重量評価を表す図である。LSD統計的評価Stat−Graphic.1−プラセボ、2−GnRHm1−P48−P64K、3−P48−P64K−GnTHm1、4−2+3の組合せ(50/50)、5−2+3の組合せ(70/30)、6−交互方式。
【図10】屠殺時(100日目)の前立腺重量評価を表す図である。LSD統計的評価Stat−Graphic.1−プラセボ、2−GnRHm1−P48−P64K、3−P48−P64K−GnTHm1、4−2+3の組合せ(50/50)、5−2+3の組合せ(70/30)、6−交互方式。
【図11】動物免疫前にコペンハーゲンラットに移植されたDunningR3327−H腫瘍細胞系の腫瘍増殖速度評価を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0032】
異なる担体分子に結合したGnRHカルボキシル末端及びアミノ末端変異体を用いた免疫原性実験及び標的器官に対する効果
(例1)担体分子としてTTを用いたカルボキシル末端及びアミノ末端変異体であるGnRHm1−TTの免疫原性
生物学的測定に用いたGnRHアミノ及びカルボキシル末端変異体及び合成TTペプチドの配列は図1a及び1bに記載されている。
【0033】
1.1.実験群
1−プラセボ
2−カルボキシル末端(GnRHm1−TT)総ペプチドで750μg
3−アミノ末端(TT−GnRHm1)総ペプチドで750μg
4−カルボキシル末端(GnRHm1−TT)変異体+アミノ末端(TT−GnRHm1)変異体の同じエマルジョン中での50/50組合せ(w/w);総ペプチドで750μg(それぞれ375μg)
5−カルボキシル末端(GnRHm1−TT)変異体+アミノ末端(TT−GnRHm1)変異体の同じエマルジョン中での70/30(w/w);総ペプチドで750μg(525μgのGnRHm1−TTと225μgのTT−GnRHm1)
6−0、30、60日目にカルボキシル末端(GnRHm1−TT)を総ペプチドで750μg、15、45日目にアミノ末端(TT−GnRHm1)を総ペプチドで750μg、交互に免疫
全ての場合において、モンタナイドアジュバントを用いて、各変異体の皮下免疫を5回行った。
【0034】
1.2.実験の進行
1.2.1.免疫原性製剤、動物の免疫及び結果の分析
1.2.2.アジュバント形成
対応する用量のカルボキシル末端ペプチド変異体GnRHm1−TT及び/又はアミノ末端ペプチド変異体TT−GnRHm1を注射のため個別に水に再懸濁した。その後、再懸濁ペプチドと油性アジュバントとの50%(v/v)の混合物を得た。最後に、混合物を機械装置で20分間振盪して、すぐに使用できる乳白色の乳剤とした。
【0035】
1.2.3.免疫
乳剤1mLを使い捨てシリンジに充填し、9〜12週齢のコペンハーゲンラットの背部に2週間ごとの方式で皮下注射した。
【0036】
1.2.4.抗GnRH抗体力価の測定
ワクチン接種後に誘導された循環している抗GnRH抗体をELISA(酵素結合免疫測定)法を用いて測定した。96穴ポリスチレンプレートを100mM NaCO(pH9.6)に溶解した天然GnRHペプチド(5μg/ml)100μLでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。PBS 1x(pH7.4)で数回洗浄した後、プレートをPBSに溶解した2%BSAを用いてブロッキングして37℃で1時間インキュベートした。動物血清試料は1%BSA、Tween20(0.01%、w/v)を含むPBSで希釈して(倍率1/60〜1/2000)、37℃で3時間インキュベートした。プレートをPBSで数回洗浄して、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたラット抗IgG抗体(SIGMA Biochemical USA)との反応に供した。プレートをさらに洗浄した後、クエン酸バッファー中にオルトフェニレンジアミン(OPD)及びH基質を含む混合液と共にインキュベートした。力価は、値が測定カットオフ値と比べて2倍を超えた試料最大希釈倍率で表した。
【0037】
1.2.5.テストステロン濃度の決定
テストステロン濃度はTESTO CT2キット(CisBio,International,France)を用いて決定した。各血清試料25μLをコーティング済チューブに直接加えた。試料は2連でインキュベートした。最後にチューブを蒸留水で洗浄し、ガンマを用いて読み取った。結果はnmol/Lで表した。
【0038】
1.2.6.動物の屠殺及び統計分析
動物は5回目の免疫から1カ月後(100日目)に、医薬品安全性試験実施基準に従って麻酔し屠殺した。精巣及び前立腺の大きさについての統計的有意差はDuncan検定を用いて評価した(Stat−Graphic software)。同様に、テストステロン濃度を同じ統計手法を用いて分析した(SAS Institute Inc.,SAS/STATTM User’s Guide,Release 6.03 Edition.Cary,NC:SAS Institute Inc.,1988.1028pp)。
【0039】
1.3 実験結果
1.3.1 血清変換分析
GnRH分子は、前述のように、全ての哺乳類及び多数の高等脊椎動物において100%の相同性を有する。この分子はまたサイズが非常に小さく(たった10アミノ酸)、これが内因的である性質に起因する高い寛容原性能力と対照的に、非常に低い免疫原性力を与えている。
【0040】
記載している例において、アミノ末端変異体(TT−GnRHm1)で免疫された群は初回免疫後に100%の血清変換を獲得したのに対し、カルボキシル末端変異体(GnRHm1−TT)で免疫された群は3回目の免疫をして初めて90%の血清変換を示した。混合したアミノ及びカルボキシル末端変異体の組合せ(50/50)は2回目の免疫後に100%の血清変換を示し、最後に、アミノ及びカルボキシル末端変異体混合物の組合せ(70/30)は3回目の免疫後に100%の血清変換に達した(図2)。
【0041】
1.3.2.抗GnRH抗体力価の評価
各実験群の血清試料における抗GnRH抗体力価を図3に示す。グラフに見られるように、TT−GnRHm1群は抗GnRH力価の出現と相関したより高速の免疫反応を示し、実験開始後75日目と100日目にそれぞれ1/6000〜1/12000の範囲にあった。50/50及び70/30の組合せ変異体は同じような抗GnRH抗体力価を示したが、第一のものはより高速の力価応答を示した。GnRHm1−TT変異体とTT−GnRHm1変異体との交互免疫方式は50/50組合せのような高力価を維持できなかったが、同様の力価誘導速度に達している。GnRHm1−TT変異体で免疫された群ではその他の実験群よりも遅く力価が出現し(3回目の免疫後)、1/1000より高い力価レベルに達することができなかった。
【0042】
1.3.3.異なるGnRH部位に対して誘導された抗GnRH抗体力価と標的器官に対する効果との相関
抗GnRH抗体力価と標的器官(前立腺、精巣)に対する効果との相関分析が行われた。図3に示すように、アミノ末端部TT−GnRHm1での免疫は高い免疫原性プロファイルを示す一方、カルボキシル末端変異体(GnRHm1−TT)はより遅い血清変換と顕著に低いGnRHに対する抗体力価を示した。標的器官に対する効果において、屠殺時に同様の結果が認められた。アミノ末端変異体(TT−GnRHm1)で免疫された群は1:12000という高い力価を達成した一方で、標的器官(前立腺及び精巣)に対する効果はカルボキシル末端変異体(GnRHm1−TT)で免疫された群と比較して同様であった(図4及び5)。
【0043】
免疫方式が同じで比率の異なるアミノ及びカルボキシル末端変異体混合物は、単一のカルボキシル末端ペプチドで得られるよりも顕著に高い免疫応答を誘導し、これにより2つの変異体を個別に投与する場合よりも顕著に高い生物学的効果を生じる。とはいえ、アミノ末端変異体の使用で得られるもののように完全な力価の値には達しない。同じ免疫方式で両ペプチドを交互形式で接種した場合にも同様の結果が得られた(図4、5、6)。
【0044】
(例2)担体分子としてP48−P64Kを用いたカルボキシル末端及びアミノ末端変異体であるGnRHm1−TTの免疫原性
2.1.実験群
1−プラセボ
2−カルボキシル末端(GnRHm1−P48−P64K)総ペプチドで750μg
3−アミノ末端(P48−P64K−GnRHm1)総ペプチドで750μg
4−カルボキシル末端(GnRHm1−P48−P64K)変異体+アミノ末端(P48−P64K−GnRHm1)変異体の同じエマルジョン中での50/50組合せ(w/w);総ペプチドで750μg(それぞれ375μg)
5−カルボキシル末端(GnRHm1−P48−P64K)変異体+アミノ末端(P48−P64K−GnRHm1)変異体の同じエマルジョン中での70/30(w/w);総ペプチドで750μg(525μgのGnRHm1−P48−P64Kと225μgのP48−P64K−GnRHm1)
6−0、30、60日目にカルボキシル末端(GnRHm1−P48−P64K)を総ペプチドで750μg、15、45日目にアミノ末端(P48−P64K−GnRHm1)を総ペプチドで750μg、(2と3の)交互免疫
全ての場合において、モンタナイドアジュバントを用いて、各変異体の皮下免疫を5回行った。
【0045】
2.2.実験の進行
免疫原性製剤、動物の免疫並びに結果及び統計的データの分析は1.2.1から1.3.3.に記載されているように処理を行った。
【0046】
2.3.実験結果
2.3.1.血清変換分析:
本実験では、アミノ末端ペプチド変異体(P48−P64K−GnRHm1)で免疫された群は初回免疫後に100%の血清変換を獲得した一方、カルボキシル末端ペプチド変異体(GnRHm1−P48−P64K)で免疫された群は3回目の免疫をして初めて70〜80%の血清変換を示した。しかし、カルボキシル末端及びアミノ末端混合変異体の組合せ(50/50)は2回目の免疫後に100%の血清変換を示した。他方、カルボキシル末端及びアミノ末端変異体の組合せ(70/30)及び交互免疫方式は3回目の免疫後に100%の血清変換を示した(図7)。
【0047】
2.3.2.抗GnRH抗体力価の評価
図8に各実験群の血清抗GnRH抗体力価を示す。本グラフにおいて、P48−P64K−GnRHm1群はより速く抗GnRH力価が出現し、実験終了時に1/5000から1/8000の範囲にあることが観察された。組合せ変異体である50/50及び70/30変異体の間では、同じような抗GnRH抗体力価が誘導された。しかし50/50変異体を用いると、力価はより速く応答した。他方、GnRHm1−P48−P64K変異体とP48−P64K−GnRHm1変異体との交互免疫方式は、70/30変異体で誘導されたのと同様の免疫原性レベルを発現した。しかし、交互免疫方式の力価は第一のものほど高く維持されなかった。GnRHm1−P48−P64K変異体で免疫された群についてはその他の実験群よりも遅く力価が出現し、一番良好な事例の1/1000より高い濃度に達しなかった。
【0048】
2.3.3.異なるGnRH部位に対して誘導された抗GnRH抗体力価と標的器官に対する効果との相関
図7及び8に示すように、P48−P64K−GnRHm1アミノ末端変異体での免疫は高い免疫原性を誘導した一方、カルボキシル末端変異体(GnRHm1−P48−P64K)は血清変換がより遅く、また抗GnRH抗体力価も顕著に低かった。血清変換において観察された相違点は、屠殺時の標的器官効果に関しては明白でなかった。このようにしてアミノ末端変異体(P48−P64K−GnRHm1)で免疫された群における1:8000という高い力価は、カルボキシル末端変異体GnRHm1−P48−P64K)で免疫された群と比べて標的器官(精巣、前立腺)に対する同じような効果を引き起こした(図9及び10)。
【0049】
免疫方式が同じで異なる比率で混合したカルボキシル末端及びアミノ末端変異体は、個々のカルボキシル末端ペプチドで得られるものよりも顕著に優れた免疫応答を獲得し、アミノ末端変異体を用いて得られる力価より低いにもかかわらず、その生物学的効果は個別投与の2つの変異体より顕著に優れている。同じ免疫方式で両ペプチドを交互形式で接種した場合にも同様の結果が得られた(図8、9及び10)。
【0050】
(例3)異なるGnRH部位に対して誘導された体液性応答と標的器官に対する効果との相関、組合せ効果
抗体力価の分析後すぐに、これら力価と標的器官(前立腺及び精巣)に対する効果との間の相関分析を行った。図3及び8に示すように、カルボキシル末端及びアミノ末端変異体に対応する実験群2及び3において、免疫原性能力に関して完全に異なる挙動が観察された。それに伴って、TT−GnRHm1及びP48−P64K−GnRHm1TTペプチドで表されるアミノ末端は、使用されたモデルにおいてより速い抗GnRH抗体産生のほかこのホルモンに対する高い力価を示した一方、カルボキシル末端変異体(GnRHm1−TT及びGnRHm1−P48−P64K)ではさらに遅い血清変換と顕著に低いGnRHに対する抗体力価が得られた。これらの血清変換及び血清力価決定は、異なるものであるにもかかわらず、動物屠殺時の評価では標的器官に及ぼす作用において同じような結果を生じた。それに伴って、アミノ末端変異体で免疫された群における1:12000という高い抗体力価は、カルボキシル末端変異体で免疫された群と比べて標的器官(前立腺及び精巣)に対する同じような効果を発揮したことが観察できた(図4と5、及び9と10)。しかし、同じ免疫方式のカルボキシル末端及びアミノ末端変異体が異なる比率で混合された場合、個別のカルボキシル末端ペプチドのものよりも顕著に高い免疫応答が得られる。この応答はアミノ末端変異体で得られるような高い力価の値には達しないが、個別投与の2つの変異体より顕著に高い生物学的効果を生じる。同じ免疫方式で両ペプチドを交互形式で接種した場合に同様の結果が得られた(図4、5、9及び10)。
【0051】
これらの結果から、GnRHがアミノ末端で又はカルボキシルから離れた他のアミノ酸で担体分子に結合する場合、GnRH中の遊離のカルボキシル基がこのホルモンに対する免疫応答を強く刺激するという結論が導かれる。逆に、カルボキシル末端で担体分子に結合しているGnRHm1−TTは、このカルボキシル末端部の免疫系への暴露を損なってアミノ末端のみを暴露しているように見える。このアミノ末端部は第一のものと同じような高い免疫刺激能力を持たないが、10倍弱いにもかかわらず、TT−GnRHm1変異体と同じ用量で投与されると、同様にホルモンを中和する反応を起こすことができる。
【0052】
これらの知見に基づいて、GnRHの場合、最も免疫原性の高い部位は必ずしも免疫中和領域ではないことが確認できる。同じことが他のタンパク質やペプチドで生じている。
【0053】
上述の結果から、一方はアミノ末端で他方はカルボキシル末端で担体分子と結合している同じ免疫方式の2つのGnRH変異体又はその模倣体を混合物中で同時に使用することにより抗GnRH免疫応答の相乗効果が生み出されるという結論を出すことができる。この場合、免疫応答に対する効果は組み合わせていない変異体で期待される効果の単なる総和より高い。
【0054】
50/50及び70/30の変異体組合せでは、ペプチド混合物が免疫プロセスに用いられた場合、前立腺及び精巣のサイズ減少に対する顕著な相乗的効果が認められた。交互且つ順次的な方式もまた組合せ効果を生じるが、同時方式より弱い。この効果は主として精巣及び前立腺の委縮に現れた。
【0055】
治療効果(Etreatment)は、1からプラセボ動物における標的器官の平均重量(Pplacebo)に対する処置動物における標的器官(前立腺及び精巣)の平均重量(Ptreatment)の比を引いたものとして考えた。
treatment=1−(Ptreatment/Pplacebo) (1)
【0056】
表1a及び1bに示すように、カルボキシル末端及びアミノ末端の50/50組合せによって得られた前立腺及び精巣に対する実験の効果は期待された理論的な効果より高く、したがって、図1に記載された分子のいずれを用いても上の組合せが標的器官サイズの減少における相乗的な効果を示すことを証明した。2つのペプチドの70/30組合せの場合、カルボキシル+アミノ末端(50/50)組合せの場合と結果は非常に類似していた。交互免疫方式を用いた場合は、標的器官(前立腺及び精巣)に対する生物学的効果に関して、得られた力価は個々の免疫変異体より優れていたにもかかわらず、単なる効果の総和のみが認められた。
【0057】
健常な成体動物への免疫で用いられた際の、個別の各ペプチド変異体を別々に用いた場合と比べ組合せ免疫で得られる総合的な相乗効果を表1a及び1bに示した。
【表1】

【0058】
(例4)Dunning R3327−H細胞系を移植した成体コペンハーゲンラットでの個別のGnRHm1−TT変異体及びTT−GnRHm1変異体並びにその組合せ(GnRHm1−TT+TT−GnRHm1)を用いた治療実験
4.1.動物、腫瘍モデル
(2x2x2mm)のマウス腫瘍モデルDunning R3327−Hの腫瘍断片を、体重150〜200gの成体コペンハーゲンラット(CENPALAB,Cuba)の右後肢遠位域に皮下(s.c)移植した。これは、体積倍加時間が17日間のホルモン依存性高度分化腫瘍細胞系である。腫瘍増殖速度を決定するため、週に1回腫瘍を定期的に測定した。腫瘍体積はrを平均半径とした4/3πrの式を用いて計算した。動物は市販飼料と新鮮な水を自由摂取させて維持した。
【0059】
4.2.実験計画
実験群
1.プラセボ動物(モンタナイドISA51中のPBSで免疫)
2.外科的去勢動物
3.GnRHm1−TTペプチド免疫動物
4.ペプチドGnRHm1−TT+TT−GnRHm1混合物(50/50)で免疫された動物
5.GnRHm1−P48−P64Kペプチド免疫群
6.ペプチドGnRHm1−P48−P64K+P48−P64K−GnRHm1混合物(50/50)で免疫された動物
【0060】
4.3.動物の処置
動物の処置は、パラグラフ3.1.1に記載されているようにDunning R3327−H腫瘍細胞系断片を接種した治療モデルを用いて行われた。腫瘍が直径およそ10mmに達した時に治療的介入(免疫)を開始した。免疫は2週間ごとに行われた。
群3〜7の実験で使用した用量はパラグラフ1.1に記載されたものと同じであった。
【0061】
4.4.実験結果
Dunning R3327−H腫瘍細胞系を移植したコペンハーゲンラットにおける腫瘍増殖速度の評価
図11に示すように、プラセボ群では急激な腫瘍増殖が観察された一方、去勢群及び免疫群では腫瘍増殖が著しく阻害された。全ての変異体のうち、去勢動物とGnRHm1−TT+TT−GnRHm1(50/50)とGnRHm1−P48−P64K+P48−P64K−GnRHm1(50/50)組合せ変異体とが最も優れた阻害能力を示した。これら3つの実験的変異体の阻害は非常に類似していて、プラセボ及び他の群と比べて顕著に異なることがわかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの天然及び/又は改変GnRH変異体の混合物を含む医薬組成物であって、変異体の一方はカルボキシル末端に結合した担体分子を有し、他方はアミノ末端に結合した同一の又は別の担体分子を有する、上記医薬組成物。
【請求項2】
GnRH分子が天然型又は改変変異型で現れることができ、特に破傷風トキソイドがGnRHの担体分子であることができる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
破傷風トキソイド及び/又はそのエピトープ以外の担体分子が、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)P64Kタンパク質、B型肝炎コア抗原、KLH、オボアルブミン、BSA又はヒト及び動物に感染を引き起こす微生物由来の他のタンパク質及びペプチドにより構成され得る、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
破傷風トキソイド830−844及び髄膜炎菌(Neisseria Meningitides)P48−P64Kペプチド若しくは髄膜炎菌(Neisseria Meningitides)P64Kタンパク質の他の断片、B型肝炎コア抗原、KLH、オボアルブミン、BSA又はヒト及び動物に感染を引き起こす微生物由来の他のペプチド若しくはタンパク質が基本的に担体分子である、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
GnRHアミノ及びカルボキシル末端変異体又はその模倣体の混合物が、化学結合を介して、合成、コンジュゲーション又はクローニングにより得られる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
GnRH又はその模倣体がD−アミノ酸を用いて化学的に合成され、担体分子への結合が担体分子との化学的コンジュゲーション又は同一プロセスでの直接合成のいずれかにより実施され得る、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
カルボキシル末端変異体がペプチド混合物の50及び/又は70%を占め、アミノ末端変異体が混合物全体の30及び/又は50%である組合せを最良の組合せとして含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ウシ、水牛、ウマなど経済的に重要な動物の行動を管理及び制御するために、又は良性疾患及び悪性疾患のいずれも、特に、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、精巣癌、顎下腺癌などのいくつかのホルモン依存性癌、並びにとりわけ肝癌を制御及び治療するための治療ツールとしてヒト生殖能力を制御するために使用される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載されているように得られるGnRHに対するポリクローナル若しくはモノクローナル抗体及び/又はキメラ抗体、ヒト化抗体若しくは抗体断片の混合物を含む医薬組成物。
【請求項10】
イヌ、ネコその他の家畜動物の不妊化のための、齧歯類の種における生殖能力の制御のための、ウシ、ブタ、ヤギなどの動物の去勢のための、同様に去勢していない動物の不快な肉及び脂の臭い、並びに上記動物における生理的濃度のアンドロステノン及びスカトールを防ぐための免疫去勢の使用のための、哺乳動物における免疫原としての、請求項1、2、3、4、5、6、7、8及び9のいずれか一項に記載のGnRH変異体混合物の使用。
【請求項11】
良性疾患及び悪性疾患、特に前立腺癌、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、精巣癌、並びにとりわけ顎下腺癌などのいくつかのホルモン依存性癌を制御するための治療ツールとしての、請求項1、2、3、4及び5、6、7、8、9及び10のいずれか一項に記載のGnRH変異体混合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−504151(P2012−504151A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529440(P2011−529440)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/CU2009/000007
【国際公開番号】WO2010/037352
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】