説明

ゴム‐コード複合体およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】ゴム量を増大させることなく、ねじれを抑制することができるゴム‐コード複合体を実現する。これを用いることで、タイヤ成型工程における作業性を向上させつつ、低発熱性かつ軽量であって、転がり抵抗の低い空気入りタイヤを実現する。
【解決手段】有機繊維よりなるタイヤコード1の複数本と、タイヤコード1を被覆するゴム2とからなるゴム‐コード複合体10である。タイヤコード1が、S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとからなる。S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、下記式、
0.4≦s/(s+z)≦0.6
(式中、sはS撚りの片撚りコードの総本数であり、zはZ撚りの片撚りコードの総本数である)で示される関係を満足することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム‐コード複合体およびそれを用いた空気入りタイヤ(以下、単に「複合体」および「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、有機繊維よりなるタイヤコードの複数本と、それを被覆するゴムとからなるゴム‐コード複合体、および、それを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの補強材として、有機繊維コードをゴム被覆してなるゴム‐コード複合体からなるトリート材が用いられている。中でも、一方向にのみ撚りをかけた片撚りコードから作製されるトリート材は、低発熱性であることが従来より知られており、タイヤの低転がり抵抗化の達成のために用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、タイヤキャッププライ用に用いられる簾織物として、Z方向の下撚を施し、次いでS方向の上撚を施したポリエステル正撚コードと、S方向の下撚を施し、次いでZ方向の上撚を施したポリエステル逆撚コードとを経糸として交互に打ち込んだ簾織物が開示されている。また、特許文献2には、カーカス層の補強コードとして、脂肪族ポリケトンを原料とするフィラメント束を撚り合わせてなり、所定の物性を満足するポリケトン繊維コードを用い、かつ、カーカス層の補強コードの撚り方向を、1本ごとに異なるものとした空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、ベルト層を構成するトリート材として、有機繊維コードまたは炭素繊維コードをタイヤ赤道面に対し斜めの方向に並列させたゴム引き布と、スチールコードを、タイヤ赤道面に対し斜めの方向であって前記有機繊維コードまたは炭素繊維コードと交差する方向に並列させたゴム引き布とを用い、かつ、トリート材中で並列したベルトコードの撚り方向を、1本ごとに異なるものとした空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007‐070735号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2008‐044396号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2008‐044550号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、片撚りコードにおいては、双撚りコードに比べて、ゴムを圧着した後のトリートコード内において残留ねじれ応力が発生しやすい。そのため、この残留ねじれ応力により、図2に示すように、トリート材20自体が強くねじれてしまう結果、タイヤ成型工程において作業性を著しく悪化させるなどの問題があり、工程負荷が大きいものとなっていた。
【0007】
これに対し、トリート材の作製に際し、トリートコードにある程度の厚みを持たせることにより、トリート材のねじれを抑制することが考えられる。しかし、この場合、ゴム厚みが増すことによりトリート材自体の重量が増加して、軽量化および低転がり抵抗化を妨げてしまうという問題があった。そのため、このような問題を生ずることなく、トリート材のねじれの問題を解消できる技術の確立が求められていた。
【0008】
そこで本発明の目的は、ゴム量を増大させることなく、ねじれを抑制することができるゴム‐コード複合体を実現することにあり、これを用いることで、タイヤ成型工程における作業性を向上させつつ、低発熱性かつ軽量であって、転がり抵抗の低い空気入りタイヤを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討した結果、トリート材を構成するゴム‐コード複合体に用いるタイヤコードとして、S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとを混在させることで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のゴム‐コード複合体は、有機繊維よりなるタイヤコードの複数本と、該タイヤコードを被覆するゴムとからなるゴム‐コード複合体において、
前記タイヤコードが、S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとからなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、前記S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、下記式、
0.4≦s/(s+z)≦0.6
(式中、sはS撚りの片撚りコードの総本数であり、zはZ撚りの片撚りコードの総本数である)で示される関係を満足することが好ましい。また、前記S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、ゴム‐コード複合体の幅方向中心部に対し、対称的に配置されていることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明においては、少なくともゴム‐コード複合体の幅方向末端部において、前記S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、1本ずつ交互に配置されていることも好ましい。さらにまた、前記S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとは、複数本、特には2本ずつ交互に配置するか、または、1本ずつ交互に配置することができる。本発明のゴム‐コード複合体は、特には、タイヤ周方向に配設されるスパイラル部材として好適に用いられる。
【0013】
また、本発明の空気入りタイヤは、上記本発明のゴム‐コード複合体を、構成部材として用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記構成としたことにより、ゴム量を増大させることなくゴム‐コード複合体のねじれを抑制することができ、タイヤ成型工程における作業性を向上させつつ、低発熱性かつ軽量であって、転がり抵抗の低い空気入りタイヤを実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のゴム‐コード複合体の一例を示す概略説明図である。
【図2】従来のゴム‐コード複合体のねじれた状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明のゴム‐コード複合体の一例を示す概略説明図を示す。図示するように、本発明のゴム‐コード複合体10は、有機繊維よりなるタイヤコード1の複数本、図示例では4本と、このタイヤコード1を被覆するゴム2とからなる。図中、タイヤコード1における矢印は、タイヤコード1の撚り方向を示す。
【0017】
本発明においては、かかるゴム‐コード複合体10を構成するタイヤコード1が、S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとからなる。ゴム‐コード複合体10中のタイヤコード1として、S撚りのものとZ撚りのものを混在させることで、片撚りコードの残留応力が、S撚りのものとZ撚りのものとの間で打ち消しあう。これにより、ゴム‐コード複合体10に働く残留応力を抑制して、ゴム‐コード複合体10のねじれを抑制することが可能となる。また、本発明によれば、従来のように被覆ゴム2のゴムゲージGを厚くする必要がないので、かかるゴム‐コード複合体10を適用したタイヤにおいて、軽量化および転がり抵抗の低減を実現することが可能である。
【0018】
本発明のゴム‐コード複合体10においては、タイヤコード1として、S撚りのものとZ撚りのものとを混在させるものであればよいが、好適には、S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、下記式、
0.4≦s/(s+z)≦0.6
(式中、sはS撚りの片撚りコードの総本数であり、zはZ撚りの片撚りコードの総本数である)で示される関係を満足するものとする。S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとの比率が上記範囲を満足しない場合、いずれか一方の片撚りコードが偏って存在することとなって、タイヤ巻き付け成型時にゴム‐コード複合体10が反り返ってしまうなどの作業性の悪化を生ずるおそれがある。
【0019】
また、本発明においては、S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとを、ゴム‐コード複合体10の幅方向中心部に対し、対称的に配置することが好ましい。これにより、ゴム‐コード複合体10の幅方向両側における特性のバラツキを抑制する効果が得られる。
【0020】
さらに、本発明においては、少なくともゴム‐コード複合体10の幅方向末端部において、S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとを、1本ずつ交互に配置することが好ましい。ゴム‐コード複合体10の幅方向末端部のほうが、幅方向中心部に比べて、残留応力がねじれに与える影響が大きいため、少なくとも幅方向末端部についてS撚りのコードとZ撚りのコードを交互に配置することで、残留応力の打ち消し効果により、ねじれの発生をより効果的に抑制することが可能となる。ここで、本発明において、ゴム‐コード複合体10の幅方向末端部とは、ゴム‐コード複合体10の幅方向両端における、ゴム‐コード複合体10の総幅の15%の部分を意味する。
【0021】
さらにまた、本発明においては、S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとを、複数本、特には2本ずつ、交互に配置することが好ましく、また、1本ずつ交互に配置することも好ましい。このように、S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとを、複数本または1本ずつ交互に配置することで、残留応力の打消し効率を高めることができる。
【0022】
本発明においては、上記のように、ゴム‐コード複合体10中のタイヤコード1として、S撚りのものとZ撚りのものを適宜配置にて混在させる点のみが重要であり、これによりゴム‐コード複合体10のねじれを抑制して、本発明の所期の効果を得ることができる。ゴム‐コード複合体10中のタイヤコード1に用いる有機繊維の種類やタイヤコード1の総デシテックス数等のコード条件、被覆ゴム2のゴム配合やゴムゲージ等については、所望に応じ適宜決定することができ、特に制限されるものではない。本発明のゴム‐コード複合体10は、例えば、タイヤ周方向に配設されるスパイラル部材として好適に用いることができる。
【0023】
また、本発明の空気入りタイヤは、上記本発明のゴム‐コード複合体を、カーカスやベルト、キャップレイヤー等の少なくともいずれかの構成部材として用いたものであり、これにより、成型工程における作業性に優れ、低発熱性かつ軽量であって、転がり抵抗の低い空気入りタイヤとすることができる。本発明のタイヤにおいては、上記ゴム‐コード複合体を構成部材として用いる以外の点については特に制限されるものではなく、常法に従い適宜構成することが可能である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を、実施例を用いて具体的に説明する。
下記の表中に示す条件に従い、複数本のタイヤコード(材質:ポリエチレンテレフタレート(PET))と、それを被覆するゴムとからなる従来例および各実施例のゴム‐コード複合体を、それぞれ製造した。従来例のタイヤコードとしては、Z撚りの片撚りコードのみを用い、各実施例のタイヤコードとしては、S撚りの片撚りコードおよびZ撚りの片撚りコードを用いた。また、得られた各ゴム‐コード複合体を2枚のカーカスプライに適用して、タイヤサイズ195/65R15にて、従来例および各実施例の供試タイヤを製造した。
【0025】
<作業性の評価>
従来例および各実施例で得られたゴム‐コード複合体につき、タイヤ成形時の作業性を、従来例を基準として、作業者の官能評価により評価した。
【0026】
<重量の評価>
従来例および各実施例で得られたゴム‐コード複合体につき、重量を測定した。結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほどゴム‐コード複合体が軽量であって、良好である。
【0027】
<転がり抵抗の評価>
従来例および各実施例で得られたタイヤにつき、転がり抵抗を評価した。転がり抵抗は、各供試タイヤを、内圧2.0kgf/cm、荷重440kgfの条件下で、外径1.7mのドラム上に設置してドラムを回転させ、回転速度を120km/時まで上昇させた後、ドラムを惰行させて、回転速度80km/時のときの慣性モーメントを算出し、下記式に基づき評価した。結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が小さく、良好である。
指数値=[(従来例のタイヤの慣性モーメント)/(供試タイヤの慣性モーメント)]×100
これらの結果を、下記表中に、併せて示す。
【0028】
【表1】

*1)式中、sはS撚りの片撚りコードの総本数であり、zはZ撚りの片撚りコードの総本数である。
【0029】
上記表中に示すように、Z撚りの片撚りコードのみを用いた従来例のゴム‐コード複合体に対して、ゴム‐コード複合体の厚みを同等として、タイヤコードとしてS撚りの片撚りコードおよびZ撚りの片撚りコードの双方を用いた実施例1のゴム‐コード複合体においては、重量は同等であって、タイヤ成形時の作業性が向上していることがわかる。また、タイヤコードとしてS撚りの片撚りコードおよびZ撚りの片撚りコードの双方を用いて、さらに、従来例よりもゴム‐コード複合体の厚みを薄くした実施例2のゴム‐コード複合体においては、タイヤ成形時の作業性に加えて、重量性も向上している。さらに、従来例よりもゴム‐コード複合体の厚みを薄くしつつ、S撚りの片撚りコードおよびZ撚りの片撚りコードの比率を変えた実施例3のゴム‐コード複合体においては、タイヤ成形時の作業性は従来例と同等であって、重量性が向上している。さらにまた、従来例よりもゴム‐コード複合体の厚みを薄くした実施例2,3のゴム‐コード複合体を用いたタイヤにおいては、従来例と比較して、低転がり抵抗化が図られていることがわかる。
【0030】
以上の結果、タイヤコードとしてS撚りの片撚りコードおよびZ撚りの片撚りコードの双方を用いた各実施例においては、タイヤの成形作業性、重量性および転がり抵抗につき、いずれも従来例以上の良好な結果が得られていることが確かめられた。
【符号の説明】
【0031】
1 タイヤコード
2 被覆ゴム
10 ゴム‐コード複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維よりなるタイヤコードの複数本と、該タイヤコードを被覆するゴムとからなるゴム‐コード複合体において、
前記タイヤコードが、S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとからなることを特徴とするゴム‐コード複合体。
【請求項2】
前記S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、下記式、
0.4≦s/(s+z)≦0.6
(式中、sはS撚りの片撚りコードの総本数であり、zはZ撚りの片撚りコードの総本数である)で示される関係を満足する請求項1記載のゴム‐コード複合体。
【請求項3】
前記S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、ゴム‐コード複合体の幅方向中心部に対し、対称的に配置されている請求項1または2記載のゴム‐コード複合体。
【請求項4】
少なくともゴム‐コード複合体の幅方向末端部において、前記S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、1本ずつ交互に配置されている請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム‐コード複合体。
【請求項5】
前記S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、複数本ずつ交互に配置されている請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム‐コード複合体。
【請求項6】
前記S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、2本ずつ交互に配置されている請求項5記載のゴム‐コード複合体。
【請求項7】
前記S撚りの片撚りコードとZ撚りの片撚りコードとが、1本ずつ交互に配置されている請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム‐コード複合体。
【請求項8】
タイヤ周方向に配設されるスパイラル部材として用いられる請求項1〜7のうちいずれか一項記載のゴム‐コード複合体。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか一項記載のゴム‐コード複合体を、構成部材として用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−235864(P2011−235864A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111471(P2010−111471)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】