説明

ゴムシートの成形装置及び成形方法

【課題】収縮が大きい材料であっても、圧延後のゴムシートの収縮を改善することのできるゴムシートの成形方法及び成形方法を提供する。
【解決手段】ゴムシートの成形装置は、未加硫ゴムを圧延してゴムシートsを形成するカレンダー装置1よりもゴムシートsの移動方向下流側に設けられた伸張装置4を備える。この伸張装置4は、ゴムシートsの移動方向と直交するゴムシートsの幅方向に、当該ゴムシートsの幅寸法を、元の寸法の110%以上に拡大させる装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムシートの成形装置及び成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのインナーライナーなどに用いられるゴムシートは、未加硫ゴムをカレンダー装置により圧延することで所定の幅、厚さに製造される。カレンダー装置のローラーにより圧延後のゴムシートは収縮するため、ゴムシートは巻取機で巻取って巻ロールとするまでの間に搬送コンベア上を所定の時間をかけて搬送され、この搬送過程で冷却と共に自然収縮がなされていた。
【0003】
巻取機で巻取るまでのゴムシートの自然収縮が十分でないと、後工程において巻ロールからゴムシートを巻出したときに製品寸法が安定せず、また、シワが発生したり、重ね合わせ部材と適切に重ね合わせることができずに部材が歪んだりする。これらは、製品不良の原因になりかねない。また、巻ロールの状態での収縮が強いと、巻ロールの巻き締まりが生じてしまい、たとえゴムシート間に剥離用のフィルムが介在していても密着度が強く、よって後工程で巻ロールを巻き出してゴムシートを用いる時にトラブルを生じるおそれがある。
【0004】
従来、カレンダートレーンのカレンダーローラーと巻取機との間に設けられた搬送コンベアを所定の長さで設けて、搬送コンベア上でゴムシートを自然収縮させるようにした圧延トレーンにおいては、圧延後のゴムシートを十分に収縮させるために、その収縮量に応じて搬送コンベアの搬送速度をカレンダーローラーの圧延速度よりも遅くし、かつ、巻取機の巻取り速度を搬送コンベアの搬送速度を遅くしていた。
【0005】
また、カレンダーローラーと巻取機との間に、搬送コンベアの他にフリーロール等を追加配設して、カレンダーローラーから巻取機までの距離、搬送時間を長くすることにより、十分に自然収縮をさせることもなされていた。
【0006】
更に、圧延後のゴムシートを、カレンダーロールとは独立して配置された加熱ロールで樹脂フィルムを介して全幅にわたって加熱することにより、未加硫のゴムシートのゴム配向の歪を緩和させ、早期に寸法安定化を図る方法があった(特許文献1)。
【0007】
また更に、押圧制御ロールにより圧延後のゴムシートを押圧しながら冷却することにより、ゴムシートの寸法安定化を早める方法があった(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−283376号公報
【特許文献2】特開平5−245864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、圧延後のゴムシートを十分に収縮させるために自然収縮させた場合は、今までのゴム組成物よりなるゴムシートは既存の設備で対応可能であったが、新規なゴム組成物のように、新しい材料で今までよりも性能はよいが圧延後の収縮が大きいゴムシートの場合は、十分に自然収縮できないことがあった。そのために圧延速度を低下させて圧延後のゴムシートの搬送時間を長くすると生産性が低下し、また、圧延トレーンにおける搬送コンベアでの搬送長さを長くすると、設備投資が嵩むという問題が生じる。
【0010】
また、圧延後のゴムシートを全幅にわたって加熱してゴムシートのゴム配向の歪を緩和させる方法では、加熱ロール等の加熱設備と、この加熱ロールによって加熱されたゴムシートを冷却するための冷却設備とが必要となり、設備投資が嵩む。また、ゴムの組成等により圧延後の収縮が大きい材料の場合には、この方法では大きな効果は得られなかった。
【0011】
更に、押圧制御ロールによりゴムシートを押圧しながら強制冷却する方法では、冷却後の一時的に収縮力は小さくなるが、収縮するための内部応力は残留したままであり、そのため、ゴムシートが所定の温度以上になった場合には、再度収縮してしまう。
【0012】
このように、従来の技術では、収縮が大きい材料の場合には、後工程で問題ないレベルまでゴムシートの収縮を改善することが困難であった。
【0013】
本発明は、上記の問題を有利に解決するものであり、収縮が大きい材料であっても、圧延後のゴムシートの収縮を改善することのできるゴムシートの成形装置及び成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のゴムシートの成形装置は、未加硫ゴムを圧延してゴムシートを形成するカレンダー装置よりもゴムシートの移動方向下流側に設けられ、このゴムシートの移動方向と直交するゴムシート幅方向に、当該ゴムシートの幅寸法を、元の寸法の110%以上に拡大させる伸張装置を備えることを特徴とする。
【0015】
この伸張装置は、ゴムシートの移動経路上に設けられることが好ましい。また、伸張装置は、カレンダー装置と、ゴムシートを巻取る巻取機との間に設けられるか、巻取機により巻き取られたゴムシートを巻出す巻出機と、この巻出機から巻出されたゴムシートを巻取る巻取機との間に設けられるか、又は前記巻出機と、この巻出機から巻出されたゴムシートを使用する後工程との間に設けられることができる。更に、伸張装置よりも下流側のゴムシートの移動経路に、自由収縮領域があることが望ましい。
【0016】
更に、本発明のゴムシートの成形方法は、未加硫ゴムをカレンダー装置で圧延して形成されたゴムシートを、このカレンダー装置よりもゴムシートの移動方向下流側において、このゴムシートの移動方向と直交するゴムシート幅方向に、当該ゴムシートの幅寸法を元の寸法の110%以上に拡大させるように伸張することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のゴムシートの成形装置及び成形方法によれば、伸張装置によりゴムシートの幅寸法を、元の寸法の110%以上に拡大させることにより、ゴムシートの移動方向に収縮するための内部応力が緩和されることから、収縮を早期に、かつ簡便に終了させることができ、よってゴムシートの収縮の改善が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】圧延トレーンの一例の模式図である。
【図2】伸張装置により幅方向の寸法が拡大されるゴムシートの模式図である。
【図3】ゴムシートから切り出したテストピースの説明図である。
【図4】伸張装置により変形されたテストピースの説明図である。
【図5】伸張装置に用いる回転体の説明図である。
【図6】発明の別の実施形態の模式図である。
【図7】実施例におけるゴムシートの圧延後の放置時間と収縮率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のゴムシートの成形方法及び成形装置の実施形態を、図面を用いて具体的に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態の成形装置を説明するためのゴムシートを製造するための圧延トレーンの一例の模式図である。図1においてカレンダー装置1は、一対又は複数対のローラー11を備え、図示しない押出機から押し出された未加硫ゴムをローラー対の間に導入して圧延し、ゴムシートsを得る。得られたゴムシートsは、複数のロール21間を循環するエンドレスベルト22を備える搬送コンベア2上で搬送されつつ冷却された後、ゴムシートの移動経路の下流側に設けられた巻取機3により巻き取られる。
【0021】
本実施形態では、カレンダー装置1から巻取機3までのゴムシートの移動経路の間に、より具体的には図1に示した例では、カレンダー装置1と搬送コンベア2との間に、伸張装置4を備えている。この伸張装置4は、圧延されて不断に移動するゴムシートsに連続的に接触して、カレンダー装置1のローラー11出側におけるゴムシートの移動方向と直交する方向の寸法、すなわちゴムシートの幅方向の寸法を、元の寸法の110%以上に拡大させる装置である。
【0022】
図2(a)、(b)に伸張装置4により幅方向の寸法が拡大されるゴムシートsを模式的な斜視図(同図(a))及び平面図(同図(b))で示す。伸張装置4はゴムシートsよりも幅が広い回転体41を備えている。回転体41は、カレンダー装置1のローラー11の下流側で移動するゴムシートsの移動速度と同期して回転し、この回転体41の表面上で接したゴムシートsを当該シート幅方向に伸張させて拡幅する。回転体41の入側のゴムシートsの幅をW、回転体41の出側のゴムシートsの幅をWとするとW/W≧1.1の関係、即ち元の寸法の110%以上の関係にある。
【0023】
伸張装置4の回転体41によりゴムシートsの幅を拡大させることについて、より詳しく説明する。
【0024】
図3(a)に示すように、カレンダー装置1のローラー11により圧延して得られたゴムシートsを、圧延直後に幅方向に切断してテストピースpを作成し、観察してみる。すると、このテストピースpは、圧延直後のテストピースをp、収縮後のテストピースをpとして図3(b)にそれぞれ平面形状を模式的に示すように、収縮後は、圧延方向、すなわちゴムシートsの移動方向に大きく収縮し、最終的にテストピースpにおける圧延方向に沿った長さが小さくなると共に、幅寸法が大きくなる傾向にある。これは、圧延方向の収縮力が、ゴムシート幅方向の収縮力よりも大きいためである。
【0025】
そこで、伸張装置4によってゴムシートsの収縮前に、このゴムシートsをその幅方向に強制的に変形させる。より具体的には、この変形により図3(a)に示したテストピースpは、伸張装置4で変形させる前のテストピースをp、変形させた後のテストピースをpとして図4に、それぞれ平面形状を模式的に示すように、変形前に比べて幅が大きくなるようにする。このことによって、収縮の原因となる、圧延方向に沿った方向の内部応力を緩和させることができ、よって収縮を早期に、かつ簡便に終了させることができる。したがって、収縮が大きい材料であっても、圧延後のゴムシートの収縮を改善することが可能となる。
【0026】
伸張装置4を用いて、ゴムシートsの幅寸法は、元の寸法の110%以上に拡大させる。これは、ゴムシートsを幅方向に伸張させるときには、ゴムシートsを塑性変形する領域まで伸張させる必要があるためである。この塑性変形する領域は、ゴムシートsのゴム配合、加硫度、シート温度、シート寸法などにより異なるが、少なくとも110%程度の伸張は必要となる。もっとも、過大な伸張はシート幅方向に残留応力が生じ、この残留応力によりシート幅方向の収縮力が強くなって、シート幅方向に収縮してしまうので好ましくない。よって、上記したゴムシートsのゴム配合、加硫度、シート温度、シート寸法などを勘案して、残留応力が生じない程度の範囲内で伸張させる。好ましくは110〜150%、より好ましくは110〜130%の範囲で伸張させる。また、ゴムシートの伸張率は、伸張装置部分のみでの数値であり、伸張装置を経たゴムシートは、巻取機までの移動経路中に、自由収縮する領域があることが、より好ましい。更に、伸張装置で幅拡張した後の巻き取り(最終製品)時には、自由収縮によって伸張装置直後の幅以下になっていてもよい。例えば圧延装置での幅を100%としたとき、圧延直後の自由収縮領域を経て伸張装置直前での幅が110%、伸張装置直後の幅が120%であり、伸張装置後の自由収縮領域を経て巻取機での巻き取り時の幅が115%であってもよい。伸張装置での望ましい伸張率は、ゴムシートの生産速度の影響を大きく受ける。この生産速度が遅ければ、巻き取り時に残留する応力がもともと小さく、ある程度は現行設備で除去できるために伸張率は小さくてもよい。生産速度が速ければ、巻き取り時に残留する応力がもともと大きく、現行設備で除去できないし、自由収縮部分を通過する時間が短く、ゴムシートの発熱が大きく、冷却効率が低くなる等の影響があるため、伸張率を大きくするのが望ましい。なお、伸張装置を使用すべき望ましい生産速度は10m/min以上である。また、伸張させる際は、シート幅方向に均一に伸張させる必要がある。
【0027】
伸張装置4に用いる回転体41の例を図5に示す。図5(a)に示すロール41Aは、ロール表面の長手方向中央部から両端部に向かって、リード角が相反する方向に傾斜したらせん溝を有するロールである。また、図5(b)に示すロール41Bは、湾曲ロールである。これらの他、いわゆるエキスパンダーロールを応用して回転体41に適用することができる。もっとも、伸張装置4に用いる回転体41は、公知のエキスパンダーロールの使途の一つであるシワ伸ばし程度のわずかな変形を行うものではなく、ゴムシートの幅方向の寸法を、元の寸法の110%以上に拡大させる程の変形を行うものとする。
【0028】
図6に本発明の別の実施形態の模式図を示す。図6は、一旦巻き取られた巻ロールrを巻出機5によりゴムシートsを巻き出して、搬送コンベア6上で加熱処理等の何らかの処理を施すか、又は処理を施すことなく搬送させた後、巻取機7で巻取るまでのゴムシートsの移動経路間に、伸張装置4を備えている。また、図6において、巻取機7で巻取る代わりに、後工程の装置、設備にゴムシートsを供することもできる。この伸張装置4は、先に述べた構成と同様の構成とすることができる。
【0029】
図6に示したように巻取機7よりもゴムシートの移動方向の下流側に伸張装置4を配置することにより、圧延トラックにおいては伸張装置4を設けることなく、又は伸張装置4でシート幅方向に伸張することなくゴムシートsの自然収縮を行った場合において、その結果、圧延トラックの巻取り時にはゴムシートsの収縮が不十分だった場合でも、巻出機の下流側に設けた伸張装置4によってシート幅方向に伸張させることにより、ゴムシートsの収縮の改善を図ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
(実施例)
天然ゴム0〜20%、ブチルゴム100〜80%の組成の混合未加硫ゴムから幅500mm、厚み1.5mmのゴムシートを圧延した時、圧延ローラー後における、シート表面温度が70〜75℃のところで、ゴムシートを伸張装置により伸張させ、ゴムシートの幅500mmを580〜620mm(116〜124%)にし、その後、自然収縮、冷却工程を経て、巻取機にて巻取った。巻取りの4時間後に巻き出し、ゴムシートがどのように収縮するか測定した。生産速度は15m/minであった。
【0031】
(比較例1)
比較例1として、実施例の伸張装置を用いない以外は実施例と同様にして、ゴムシートを圧延した後、自然収縮、冷却工程を経て、巻取機にて巻取った。巻取りの4時間後に巻き出し、ゴムシートがどのように収縮するか測定した。
【0032】
(比較例2)
比較例2として、実施例の伸張装置の代りに、遠赤外線ヒーターを伸張装置と同じ位置に取付け、ゴムシート表面温度を80〜85℃まで上昇させた以外は実施例と同様にしてゴムシートを圧延した後、自然収縮、冷却工程を経て、巻取機にて巻取った。巻取りの4時間後に巻き出し、ゴムシートがどのように収縮するか測定した。
【0033】
ここにおいて、伸張装置4の回転体には、図5の(a)に示すようなエキスパンダーロールを用いた。エキスパンダーロール直径は50mmであった。また、エキスパンダーロールの周面に近接して2本のゴムロールを設け、ゴムロールとエキスパンダーロールとの間にゴムシートを挟んだ状態でゴムロールをエキスパンダーロールに向けて押圧して、2本のゴムロール間でゴムシートをエキスパンダーロールの周面に押さえつけるようにした。このようなエキスパンダーロールは、生産速度が速い場合には複数本を連続して用いることができる。
【0034】
図7に収縮を測定した結果をグラフで示す。図7より、伸張装置によりゴムシートを圧延方向と直交する、ゴムシート幅方向に伸張させることにより、収縮を効果的に低減させることができた。
【符号の説明】
【0035】
1 カレンダー装置
2 搬送コンベア
3 巻取機
4 伸張装置
s ゴムシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴムを圧延してゴムシートを形成するカレンダー装置よりもゴムシートの移動方向下流側に設けられ、このゴムシートの移動方向と直交するゴムシート幅方向に、当該ゴムシートの幅寸法を、元の寸法の110%以上に拡大させる伸張装置を備えることを特徴とするゴムシートの成形装置。
【請求項2】
前記伸張装置は、前記ゴムシートの移動経路上に設けられることを特徴とする請求項1に記載のゴムシートの成形装置。
【請求項3】
前記伸張装置は、カレンダー装置と、ゴムシートを巻取る巻取機との間に設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴムシートの成形装置。
【請求項4】
前記伸張装置は、巻取機により巻き取られたゴムシートを巻出す巻出機と、この巻出機から巻出されたゴムシートを巻取る巻取機との間に設けられるか、又は前記巻出機と、この巻出機から巻出されたゴムシートを使用する後工程との間に設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の成形装置。
【請求項5】
前記伸張装置よりも下流側のゴムシートの移動経路に、自由収縮領域があることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形装置。
【請求項6】
未加硫ゴムをカレンダー装置で圧延して形成されたゴムシートを、このカレンダー装置よりもゴムシートの移動方向下流側にて、このゴムシートの移動方向と直交するゴムシート幅方向に、当該ゴムシートの幅寸法を元の寸法の110%以上に拡大させるように伸張することを特徴とするゴムシートの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−126099(P2011−126099A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285747(P2009−285747)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】