説明

ゴムセメント組成物

【課題】NR配合比の高いSBR系タイヤトレッドに対して、加硫前の粘着性と加硫後の接着性を同時に満足させるゴムセメント組成物を提供する。
【解決手段】(i)SBR95〜60重量部と1,4−トランス成分を20重量%以上有するBR5〜40重量部とからなるゴム成分100重量部に対して、(ii)カーボンブラック20〜70重量部及び(iii)粘着樹脂2〜40重量部を含有し、前記(i)〜(iii)の全固形物を2〜20重量%の濃度で有機溶媒中に均一分散してなるゴムセメント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴムセメント組成物に関し、更に詳細には、従来のSBR系スプライスセメントの組成に特定のBR成分を配合することで、SBR−NR配合系タイヤトレッドにおける所要の加硫前の粘着性と加硫後の接着性とを同時に満足させるゴムセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、汎用タイヤトレッドにはSBR(スチレン−ブタジエンゴム)が使用されているため、SBR系のスプライスセメントとは相性が良い。しかしながら、NR(天然ゴム)の配合比の高いSBR系タイヤトレッドに対して当該SBR系のスプライスセメントを使用すると、未加硫時での粘着力が弱く、製造工程中における加硫前の保管時に、その接合スプライス部に口開き現象が生じるという問題があった。一方、当該セメントそのものをNR系スプライスセメントにした場合には、未加硫時での粘着力は確保されるものの、SBRとそのNRとの間に相溶性が起こらず、加硫後の接着力が劣るという問題があった。よって、NR配合比の高いSBR系タイヤトレッドに対して有効なスプライスセメントの開発が、強く望まれている。
【0003】
先行技術として、タイヤ用に使用されるセメントとして液状BR(液状ブタジエンゴム)等の液状エラストマーを配合した無溶剤セメントに係る技術が、以下の特許文献1に開示されているが、当該無溶剤セメントは液状ゴムであるためゴムとしてのバルクな強度が得にくく、加硫接着力の点で不安が残る。また、以下の特許文献2及び3には、タイヤ用スプライスセメントとして、IR(イソプレンゴム)−SBRのブレンドを主成分とするものが開示されているが、その接着性には優れているものの、相溶性が十分でなく、満足する加硫接着力が得にくいものであった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−191840号公報
【特許文献2】特開2006−241346号公報
【特許文献3】特開2006−265391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、本発明では、SBR及びNRと相溶する特定のBR成分をSBR系スプライスセメントに配合することで、NR配合比の高いSBR系タイヤトレッドに対して、加硫前の粘着性と加硫後の接着性を同時に満足させるゴムセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、(i)SBR95〜60重量部と1,4−トランス成分を20重量%以上有するBR5〜40重量部とからなるゴム成分100重量部に対して、(ii)カーボンブラック20〜70重量部及び(iii)粘着樹脂2〜40重量部を含有し、前記(i)〜(iii)の全固形物を2〜20重量%の濃度で有機溶媒中に均一分散してなるゴムセメント組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者は、上記NRの配合比の高いSBR−NR系タイヤトレッドに対して有効なスプライスセメントを鋭意探索していたところ、この度、SBR/NR双方と相溶し、かつ樹脂特性をもつ特殊なBRとしての1,4−トランス成分を20重量%以上有するBRを、特定量で従来のSBR系スプライスセメントに配合すると、加硫前の粘着性と加硫後の接着性とに良好な両立性が図られ、優れたゴムセメント組成物が得られることを見出したものである。
【0008】
よって、本発明では、具体的には、(i)SBR95〜60重量部と1,4−トランス成分を20重量%以上有するBR5〜40重量部とからなるゴム成分100重量部に対して、(ii)カーボンブラック20〜70重量部及び(iii)粘着樹脂2〜40重量部を含有し、前記(i)〜(iii)の全固形物を2〜20重量%の濃度で有機溶媒中に均一分散してなるゴムセメント組成物が提供される。
【0009】
本発明のゴムセメント組成物に配合されるSBR成分としては、好ましくは、20〜40重量%の結合スチレン含有量を有し、かつ7〜25重量%のビニル量(1,2−結合量)を有するSBRが用いられる。当該SBRの配合量としては、95〜60重量部の量で使用される。当該SBRの配合量が95重量部を超えると、NRを含むタイヤトレッドに対して未加硫時での粘着性が不十分となるので好ましくなく、逆に60重量部未満であると、SBRを含むタイヤトレッドに対して接着力が不十分となるので好ましくない。
【0010】
本発明のゴムセメント組成物に配合されるBR成分としては、そのミクロ構造中に1,4−トランス構造単位を20重量%以上含むBRが有効に用いられる。当該BRとして、その分子内部に適度なトランス構造を有すると、樹脂化による粘着性と対象のタイヤトレッド部材中に含まれるSBR及びNRとの相溶性による加硫接着性とを併せ有することが可能となる。当該トランス構造が20重量部以下のBRでは、樹脂化が十分でないので特にNRとの接着性が不十分となり、好ましくない。また、当該1,4−トランス成分を20重量部以上有するBRの配合量は、5〜40重量部、より好ましくは20〜35重量部の量で使用される。当該1,4−トランス成分を20重量%以上有するBRの配合量が、5重量部未満では所期の粘着、接着力を得ることができず、逆に40重量部を超えると、ゴムセメント組成物の粘度が上がり、ハンドリング性が損われるので好ましくない。
【0011】
本発明のゴムセメント組成物に配合されるカーボンブラックとしては、その等級がHAFと同等あるいはHAFより細かいものを使用することが、加硫接着時の強度を上げるなどの理由で好ましい。当該カーボンブラックの配合量としては、20〜70重量部の量で使用される。この配合量が20重量部未満では、加硫接着時の強度が不十分になるので好ましくなく、逆に70重量部を超えると、ゴムセメント組成物の粘度が上がり、ハンドリング性が損われるので好ましくない。
【0012】
本発明のゴムセメント組成物に配合される粘着樹脂としては、例えば、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、水添テルペン系樹脂、ロジン系樹脂又はクマロン−インデン樹脂などが挙げられる。これらの粘着樹脂は、一種以上の混合粘着樹脂として用いられてもよい。当該粘着性樹脂の配合量としては、2〜40重量部の量で用いられる。この配合量が2重量部未満では、ゴムセメント組成物の加硫前の粘着力が十分でなく、逆に、40重量部を超ええると、ゴムセメント組成物の粘度が上がり、ハンドリング性が損われるので好ましくない。
【0013】
以上の各成分(i)〜(iii)は、その全固形物が2〜20重量%の濃度となるように有機溶媒中に均一分散されて、本発明のゴムセメント組成物となる。かかる有機溶媒として使われるものには、例えば、ゴム成分を溶解させるヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、シクロヘキサン、又はトルエンが挙げられる。この固形物濃度が2重量%未満では、タイヤトレッドのゴム成分とゴムセメント組成物中のゴム分子の相互浸透性の低下により接着不良となり、また20重量%を超えるとゴムセメント組成物の粘度が上がり、ハンドリング性が損われるので好ましくない。
【0014】
このゴムセメント組成物には、その他の配合剤として、例えば、老化防止剤、亜鉛華等の加硫助剤、硫黄加硫剤、加硫促進剤が適宜配合され、それらの配合量も通常の範囲内で配合することができる。
【実施例】
【0015】
以下に示す実施例及び比較例を参照して、本発明を更に詳しく説明するが、本発明の技術的範囲がその実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0016】
実施例1〜比較例1〜4
1)粘着性試験: 以下の表2で示すタイヤトレッド用ゴム配合A及びBを混練して得られたゴム組成物を、所定の金型を用いて裏打ち材の布と共に幅10mm、ゲージ2mm厚で押出してゴム帯状片とし、これを長さ150mmに切断してゴム試験片を作製した。このゴム試験片上に、以下の表1に示す配合から得た各例のゴムセメント組成物を塗付し、1時間放置して完全に有機溶剤を揮発させて、試験体とした。試験は、PICMAタックメーターを用いて、各試験体について、圧着荷重:4.9N 、圧着時間:0秒、剥離速度:120mm/分、温度:20℃、湿度:65%の条件下に、タック値を測定した。数値が大きい程、粘着性が良好であることを示す。
【0017】
2)接着性試験: 以下の表2で示すタイヤトレッド用ゴム配合A及びBを混練して得られたゴム組成物からなる所定の195/60R15タイヤのトレッドのスプライス部分に、以下の表1に示す配合から得た各例のゴムセメント組成物を塗付後、加硫して、試験タイヤとした。この試験タイヤの前記スプライス部を当該トレッドが剥がれる方向にグラインダーで逆バフを行い、深さ2mmの剥離亀裂が発生した場合を×、2mm未満の剥離亀裂が発生した場合を△、全く亀裂が発生しなかった場合を○として評価した。亀裂の発生しない方が、接着力は良好である。
【0018】
粘着試験及び接着試験の結果を、以下の表1に示す。
【表1】

【0019】
上記試験体および試験タイヤの作製に用いたタイヤトレッド用ゴム配合を、以下の表2に示す。
【表2】

【0020】
表1の結果によれば、比較例1では、従来のSBR系スプライスセメントゴム組成物を使用すると、SBR系タイヤトレッドとの粘着性に問題はないが、NR系タイヤトレッドとの粘着性が極度に劣り、加硫接着性でも劣っていることが分る。比較例2では、同セメントゴム組成物にNRを配合すると、粘着性の問題は無くなるが、SBR系タイヤトレッドとの加硫接着性が劣っていることが分る。また、比較例3では、従来のSBR系スプライスセメントゴム組成物に一般的なBRを配合した場合には、これがSBR/NR両者の中間的なSP値(溶解度パラメーター)を有することで、中庸的な加硫接着性を得ることができるが、高シスBR分子は樹脂化しないので、NR系タイヤトレッドとの粘着性が改善されないことが分る。更に、比較例4では、比較例3の配合BRに代えてビニル含有量が高いBRを従来のSBR系スプライスセメントゴム組成物に加えていることで、当該BRによる樹脂化が期待できるものの、その樹脂化の度合いが不十分であって、NR系タイヤトレッドとの粘着性が改善されていないことが分る。これに対して、実施例1のように、分子内部に樹脂化するトランス構造を含有する特定のBRを従来のSBR系スプライスセメントゴム組成物に配合した場合には、NR系タイヤトレッドに対して、そのSBR/NRとの相溶性に基づく加硫接着性と、樹脂化による粘着性の向上が見られ、優れた粘着性と加硫接着性の両立が図られていることが分る。
【産業上の利用可能性】
【0021】
よって、本発明のゴムセメント組成物を用いてタイヤトレッドのスプライス部を接合したタイヤトレッドとなせば、極めて優れたタイヤトレッド部材が得られることは、明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)SBR95〜60重量部と1,4−トランス成分を20重量%以上有するBR5〜40重量部とからなるゴム成分100重量部に対して、(ii)カーボンブラック20〜70重量部及び(iii)粘着樹脂2〜40重量部を含有し、前記(i)〜(iii)の全固形物を2〜20重量%の濃度で有機溶媒中に均一分散してなるゴムセメント組成物。
【請求項2】
前記粘着樹脂が、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、水添テルペン系樹脂、ロジン系樹脂及びクマロン−インデン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1項に記載のゴムセメント組成物。
【請求項3】
前記有機溶媒が、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、シクロヘキサン及びトルエンからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載のゴムセメント組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴムセメント組成物を用いて接合したタイヤトレッド。

【公開番号】特開2008−144014(P2008−144014A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331790(P2006−331790)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】