説明

ゴムラテックスモルタル施工方法

【課題】ゴムラテックスモルタル複合鋼床版を製作する際のゴムラテックスモルタル施工方法において、鋼床版とゴムラテックスモルタル層の密着性を高め、ゴムラテックスモルタル層を緻密化し、剛性・強度を高めること。ゴムラテックスモルタル層の乾燥時の初期クラックを防止すること。
【解決手段】鋼床版5の鋼板の表面にショットブラスト処理を施す研掃工程と、次に、鋼床版5の鋼板の表面にゴムラテックスモルタルを打設するモルタル打設工程と、次に、打設されたゴムラテックスモルタルを養生させる養生工程と、モルタル打設工程の後且つ養生工程の前に、表面養生剤を塗布する養生剤塗布工程を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムラテックスモルタル施工方法において、道路橋や橋桁に適用されるゴムラテックスモルタル複合鋼床版を製作する際のゴムラテックスモルタル施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高架道路や橋桁において適用される一般的な複合鋼床版の製作においては、舗装基層として、鋼床版の上にグースアスファルトを舗装するグースアスファルト施工方法が実用に供されている。このグースアスファルトは、通常のアスファルトよりも耐久性及び防水性に優れている。
【0003】
この施工方法では、鋼床版の鋼板の上面にグースアスファルトが舗装され、このグースアスファルトの上面には透水性のある通常のアスファルトが舗装されて複合鋼床版が形成される。しかし、グースアスファルトは、夏場に軟化して軟らかくなり、弾性係数が低下する傾向にある。このため、グースアスファルト層の剛性・強度の低下により、輪荷重による歪み量が増加し、振動しやすくなるだけでなく、アスファルトの表層にも多数のクラックが発生するという問題があった。
【0004】
この問題を解決するために、グースアスファルトに替えて、セメントモルタルに対してゴムラテックスを混合したゴムラテックス混入モルタルを採用する技術が提案され、実用に供されている。
例えば、特許文献1の鋼板面に対する生コンクリートの打設工法においては、鋼床版の鋼板の精密平面上にゴムラテックス混入モルタルが舗装され、そのモルタルの上面に通常の生コンクリートが舗装されて、ゴムラテックスモルタル複合鋼床版が形成される。
【0005】
他方、複合鋼床版を製作するに際し、舗装基層として繊維補強セメントコンクリート(FRC)を採用した鋼繊維補強セメントコンクリート(SFRC)を施工する技術が提案され、実用に供されている。例えば、特許文献2に記載の鋼床版舗装工法においては、鋼床版の上に複数のスタッドジベルを突設し、このスタッドジベルの表面を含めて鋼床版の上に予めエポキシ系塗膜材による防水層を形成し、その防水層の上面にFRCが舗装される。
【0006】
特許文献3には、鋼床版の表面にゴムラテックスモルタル層が形成され、そのゴムラテックスモルタル層の上にアスファルト層を形成してなるゴムラテックスモルタル複合鋼床版が開示されている。
【特許文献1】特開2003−321871号公報
【特許文献2】特開2005−314992号公報
【特許文献3】特開2006−9353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術のように、鋼板の表面に形成されたミルスケールや塗布された有機ジンクの塗膜の上面にゴムラテックスモルタルを舗装する方法では、輪荷重に起因する曲げ応力や剪断力により、鋼板の表面からミルスケールや有機ジンクが剥離して、鋼床版とゴムラテックスモルタル層との間にずれが生じ、そのずれにより生じた空隙に雨水が侵入して鋼板の腐食が進行し、鋼床版の耐久性が低下する虞がある。
【0008】
この施工方法では、鋼板とゴムラテックスモルタルとの密着力を高めにくく、鋼床版とゴムラテックスモルタル層の一体化が図れないので複合鋼床版の剛性・強度を十分に高めることが困難であり、輪荷重に起因する大きな曲げモーメントの繰り返しにより、複合鋼床版の疲労耐久性を長期間確保することが難しい。
【0009】
しかも、ゴムラテックスモルタルを吹き付けや刷毛塗りなどの方法により塗布するので、鋼床板の表面全体に亙って塗布むらなく均一厚さのゴムラテックスモルタル層を形成するのが難しい。さらに、ゴムラテックスモルタルの硬化時に乾燥収縮してゴムラテックスモルタルの表層部に初期クラックが発生するため、ゴムラテックスモルタル層の防水性能が低下してしまい、鋼床板の耐蝕性が低下する。
尚、特許文献3の技術では、基本的に特許文献1の技術と同様の問題が残っている。
【0010】
特許文献2の技術では、鋼板とSFRC層との接着性を高める為に、スタッドジベルが使用されている。この場合、SFRCを舗装する前に、鋼板の上面にスタッドジベルを突設する為の作業が必要となるので、材料費と施工費が高価になる。
【0011】
本発明の目的は、ゴムラテックスモルタル複合鋼床版を製作する際のゴムラテックスモルタル施工方法において、鋼床版とゴムラテックスモルタル層の密着性を高めること、ゴムラテックスモルタル層を緻密化し、剛性・強度を高めること、ゴムラテックスモルタル層の乾燥時の初期クラックの発生を防止すること、などである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1のゴムラテックスモルタル施工方法は、鋼床版の上にゴムラテックスモルタル層とアスファルト層とを順に形成したゴムラテックスモルタル複合鋼床版を製作する際のゴムラテックスモルタル施工方法において、鋼床版の鋼板の表面にショットブラスト処理又はサンドブラスト処理を施す研掃工程と、次に、鋼床版の鋼板の表面にゴムラテックスモルタルを打設するモルタル打設工程と、次に、打設されたゴムラテックスモルタルを養生させる養生工程とを備えたものである。
【0013】
ゴムラテックスモルタル複合鋼床版において、ゴムラテックスモルタル層は、ゴムラテックスを混入したモルタルからなる層であり、ゴムラテックスはスチレンブタジエンゴム(SBR)を主剤とするものである。
【0014】
先ず、研掃工程において、ショットブラスト処理又はサンドブラスト処理により、鋼床版の鋼板の表面に付着している錆やゴミが除去されると共に、鋼板の表面に形成されたミルスケールや塗布された有機ジンクの塗膜が除去される。次に、モルタル打設工程において、予め準備されたゴムラテックスモルタルが、表面処理された鋼板の表面に打設される。打設後養生が行われ、養生後ゴムラテックスモルタル層の上面に、アスファルトが舗装され、耐久性に優れたゴムラテックスモルタル複合鋼床版が製作される。
【0015】
請求項2のゴムラテックスモルタル施工方法は、請求項1の発明において、モルタル打設工程において、打設したゴムラテックスモルタルを振動締め固め手段を用いて均一厚さに締め固めることを特徴としている。
【0016】
請求項3のゴムラテックスモルタル施工方法は、請求項2の発明において、モルタル打設工程の後且つ養生工程の前に、締め固められたゴムラテックスモルタルの表面にクラック発生を防止する為の表面養生剤を塗布する養生剤塗布工程を有することを特徴としている。
請求項4のゴムラテックスモルタル施工方法は、請求項3の発明において、表面養生剤はゴムラテックスと収縮低減剤を主成分とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、ゴムラテックスモルタルが、ショットブラスト処理又はサンドブラスト処理された鋼板の表面に打設されるので、鋼板の表面処理を適切に行うことにより、鋼板とゴムラテックスモルタルとの接合性(密着性)を格段に高めることができる。このため、輪荷重による曲げ応力や剪断力により、鋼板とゴムラテックスモルタルとの間に隙間が生じないので、雨水等の侵入による鋼板の腐食を抑制し、耐久性に優れたゴムラテックスモルタル複合鋼床版を製作することができる。
【0018】
さらに、接合性能を高めることにより、ゴムラテックスモルタル層と鋼床版の一体化と複合化を高めて、ゴムラテックスモルタル複合鋼床版の剛性・強度を高めることができる。しかも、鋼板とゴムラテックスモルタルとの間に、ジベル等のずれ止め構造を設ける必要がないので、製作費の低減を図ることができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、モルタル打設工程において、打設したゴムラテックスモルタルを振動締め固め手段を用いて均一厚さに締め固めるので、振動締め固めにより、モルタル層を平坦化し、モルタルへの空気の混入を防止でき、緻密な表面性状に優れたゴムラテックスモルタルを形成できるので、剛性・強度に優れたゴムラテックスモルタル層を形成することができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、モルタル打設工程の後且つ養生工程の前に、締め固められたゴムラテックスモルタルの表面にクラック発生を防止する為の表面養生剤を塗布する養生剤塗布工程を有するので、ゴムラテックスモルタル層の表面が表面養生剤で被覆され、締め固められたゴムラテックスモルタル層の完全に硬化する前の乾燥収縮による初期クラックの発生を抑制することができ、ゴムラテックスモルタル層の品質を高めることができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、表面養生剤はゴムラテックスと収縮低減剤を主成分とするので、ゴムラテックスモルタル層の防水性能を一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係るゴムラテックスモルタル施工方法は、鋼床版の上にゴムラテックスモルタル層とアスファルト層とを順に形成したゴムラテックスモルタル複合鋼床版を製作する際、鋼床版の鋼板の表面にショットブラスト処理又はサンドブラスト処理を施す研掃工程と、次に、鋼床版の鋼板の表面にゴムラテックスモルタルを打設するモルタル打設工程と、 次に、打設されたゴムラテックスモルタルを養生させる養生工程とを備えたものである。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面及び表に基づいて説明する。
図1〜2に示すように、本実施例は、高架高速道路の橋桁1に適用されるゴムラテックスモルタル複合鋼床版2及びこのゴムラテックスモルタル複合鋼床板2を製作する際のゴムラテックスモルタル施工方法に、本発明を適用した場合の一例である。
この高架高速道路の橋桁1は、ゴムラテックスモルタル複合鋼床版2と、この複合鋼床版2の下面の両端付近部に固着されて橋軸方向に延びる主桁3と、ゴムラテックスモルタル複合鋼床版2の下面に橋軸方向に所定間隔おきに橋桁の幅方向(橋軸方向と直交する方向)へ延びるように配設されてゴムラテックスモルタル複合鋼床版2に固着された複数の横桁4とを有する。
【0024】
ゴムラテックスモルタル複合鋼床版2には、鋼床版5と、この鋼床版5の上に形成されたゴムラテックスモルタル層6と、このゴムラテックスモルタル層6の上に形成されたアスファルト層7とを有する。
鋼床版5は、鋼板製のデッキプレート8(例えば厚さ12mm)と、このデッキプレート8の下面に橋軸方向へ延びるように配設され且つ橋軸と直交する幅方向に所定間隔おきに配設されてデッキプレート8に溶接されデッキプレート8と閉断面を形成する逆台形状の複数の補剛材9とで構成されている。
【0025】
次に、ゴムラテックスモルタル層6について説明する。
ゴムラテックスは、スチレンブタジエン(SBR)を主剤とするセメントモルタル混和用乳剤である。水で希釈でき、セメントペースト又はモルタル混和時に水と混和するタイプの接着増強剤である。
【0026】
ゴムラテックスモルタル層6は、鋼床版5の上に厚み40mm〜60mmに形成されるが、このゴムラテックスモルタル層6は、セメントモルタルに対してゴムラテックスを混合したゴムラテックスモルタルで形成される。ゴムラテックスを混入する比率は、セメントに対するゴムラテックス中のポリマーの重量比(ポリマーセメント比P/C)にて18%である。ゴムラテックスモルタルは、普通モルタルと比較して弾性に富み、重量や圧力の吸収度が大きく、衝撃吸収性能が高く、防水性があり、普通モルタルに比べてゴム混入の特性を発揮し、振動や歪みの大きい鋼材から剥離しにくく追従性がある。
【0027】
そのため、ゴムラテックスモルタル層6を有効活用して、デッキプレート8とゴムラテックスモルタル層6との複合板曲げ剛性を高める為には、ゴムラテックスモルタル層6の板曲げ剛性を鋼板製のデッキプレート8の板曲げ剛性よりも大きく設定することが望ましい。ゴムラテックスは、モルタル内部の空隙を固形ゴムによって充填して水の侵入を防止し、優れた防水性を発揮し、塗料に代わる防錆剤としても活用可能である。
【0028】
次に、鋼床版5の上にゴムラテックスモルタル層6とアスファルト層7とを順に形成したゴムラテックスモルタル複合鋼床版2を製作する際のゴムラテックスモルタル施工方法について、図3に示す工程図に基づいて説明する。尚、図3中のPi(i=1,2,・・)は各工程を示す。
【0029】
図3に示すように、P1(準備工程)において、現場に鋼床版5などの資材が搬入された後、鋼床版5の鋼板の表面の周縁部に型枠を設置する。P2(研掃工程)において、鋼床版5の鋼板の表面を研掃処理する。この研掃処理は、ブラスト装置を用いたショットブラスト処理により、投射材としての粗く硬い粒子(鋳鉄や鋳鋼の球形粒子)を鋼床版5の鋼板の表面に吹き付けることにより、鋼床版5の鋼板の表面に付着している錆やゴミ、鋼床版5の鋼板の表面のミルスケールや塗布された有機ジンク塗膜を除去する。
【0030】
このとき、鋼床版5の表面へのブラスト条件は、投射密度300kg/m2 で速度1.1m/minで施工することが望ましい。次に、P3(清掃工程)において、研掃処理後にエアーブローにより鋼床版5の表面を清掃して清浄にする。
【0031】
次に、P4(モルタル準備工程)において、セメントモルタルに対してゴムラテックスを混合したゴムラテックスモルタルを準備する。ゴムラテックスを混入する比率は、セメントに対するゴムラテックス中のポリマーの重量比(ポリマーセメント比P/C)にて10〜18%程度が望ましい。尚、ゴムラテックスモルタルは半固体状の殆ど流動性がないものである。
【0032】
次に、P5(ゴムラテックスモルタル打設工程)において、ゴムラテックスモルタルを、鋼床版5の鋼板の表面の全体に亙って均等に打設するが、このとき、ゴムラテックスモルタルをシャベル等で小さな塊状にちぎったものを、鋼板の表面にほぼ一様の厚さに分配する。この場合では、ゴムラテックスモルタルの小さな塊の間に多数の空隙が残った状態になっている。
【0033】
次に、P6(振動締め固め工程)において、振動締め固め装置(振動締め固め手段)を用いて、打設されたゴムラテックスモルタルが、均一厚さで且つ表面が平坦化された状態に緻密に締め固められる。この振動締め固め時に、モルタルの塊と塊の間の空気を排除できるので、高密度化され、緻密な表面性状を有する優れたゴムラテックスモルタル層6が形成される。
【0034】
次に、P7(養生剤塗布工程)において、ゴムラテックスと収縮低減剤を主成分とする表面養生剤が、スプレーガンにてゴムラテックスモルタルの表面に吹き付けられ、ゴムラテックスモルタルの表面にゴムラテックスと収縮低減剤を主成分とする皮膜を形成するため、ゴムラテックスモルタル層6の硬化前の乾燥収縮による初期クラックの発生が抑制される。
【0035】
その後、P8(養生工程)において、ゴムラテックスモルタル層6を約1〜2日程度の間養生させて十分に硬化させる。その結果、剛性・強度に優れたゴムラテックスモルタル層6が形成される。次に、P9(アスファルト打設工程)において、このゴムラテックスモルタル層6の上面に、透水性のあるアスファルトが打設され、P10(養生工程)において、打設後のアスファルト養生が行われ、アスファルト層7が形成される。このように、上記工程を経て、剛性・強度に優れ、耐久性、防水性に優れたゴムラテックスモルタル複合鋼床版2が得られる。
【0036】
次に、上記ゴムラテックスモルタル施工方法による鋼板とゴムラテックスモルタルとの接合性(密着性)や、ゴムラテックスモルタル層6と鋼床版5の複合構造の剛性強度を確認する為に、種々の試験を実施した。
先ず、表面処理した鋼板の表面にゴムラテックスモルタルを打設したゴムラテックスモルタル複合鋼床版5の歪みを確認する目的で行った、鋼板の表面にゴムラテックスモルタル層を形成したゴムラテックスモルタル複合鋼板の3点曲げ試験とその試験結果について説明する。
【0037】
3点曲げ試験について簡単に説明すると、図4に示すように、ゴムラテックスモルタル複合鋼板Sを両端支持し、そのスパン中央部に荷重Fをかけた。
4種類の複合鋼板の供試体S2〜S5(供試体S1は、鋼板)は、夫々、モルタルへのゴムラテックスを混入する比率と、鋼板の表面処理に着目して作成されたゴムラテックスモルタル複合鋼板である。これら供試体S2〜S5には、鋼板の表面に、P/C=18%のゴムラテックスモルタル(厚さ20mm)が複合化されている。
【0038】
表1中の鋼板の表面処理Aは、鋼板表面をショットブラスト処理すること。表面処理Bは、ブラスト処理された鋼板表面にアクリル系の接着材を塗布すること。表面処理Cは、ブラスト処理された鋼板表面に有機ジンクを塗布することを示す。C/Sは、モルタル中の骨材(砂)に対するセメントの重量比率、W/Cは、セメントに対する水の重量比率を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
ここで、3点曲げ試験で使用したゴムラテックスモルタルの材料特性試験結果について表2に基づいて説明する。なお、表2中の値は平均値を示す。表2から、ゴムラテックスの混入率は、セメントに対するゴムラテックス中のポリマーの重量比率(P/C)にて9%〜18%程度が望ましい。9%未満では、18%と比較して引張強度が低いので、ゴムラテックスを混入したことによる剛性と強度の性能向上があまり期待できない。
【0041】
【表2】

【0042】
3点曲げ試験中の載荷状況においては、載荷最終段階付近まで、鋼板表面からゴムラテックスモルタルが剥がれることはなかった。但し、載荷点近傍では、ゴムラテックスモルタルは支圧により剪断破壊した。また、鋼板とゴムラテックスモルタルの間に生じる水平剪断力により、載荷最終段階においては、両者の間にずれが生じた。
【0043】
次に、上記試験結果を図5、図6に示す。図中の縦軸のM/Myは、載荷モーメント(M)を鋼板の断面に対しての初期降伏モーメント(My)で無次元化した載荷荷重を示す。図5に示すように、供試体S3が最も付着性が良好であり、剛性に優れることが確認された(供試体S4も同程度)。供試体S3は、載荷荷重M/My=4.0までは、鋼板とゴムラテックスモルタルとの付着切れが生じず、剛性に優れる(供試体S4も同程度)。
【0044】
これに対して、供試体S5は、載荷荷重M/My=1.0で、鋼板とゴムラテックスモルタルとの付着切れが生じ、鋼板の表面からの有機ジンクの剥離が早期に確認された。つまり、供試体S3は、供試体S5と比較して、4倍の複合効果があることが確認された。それ故、ショットブラスト処理された鋼板の表面上にゴムラテックスモルタルを打設することで、鋼板とゴムラテックスモルタル層6の密着性、複合化性能を格段に高めることができる。
【0045】
次に、図6に示す試験結果から、モルタルへのゴムラテックスを混入する比率(P/C)を増やすことで、鋼板の表面に対するゴムラテックスモルタルの付着強度が上がり、剛性が向上することが確認された。特に、ショットブラスト処理後の鋼板の表面にP/C=18%のゴムラテックスモルタルを打設した場合、載荷初期の1.3程度までは、複合断面の挙動と一致する。
【0046】
載荷点付近の剪断破壊などの影響もあり、徐々に非線形性が現れるが、載荷荷重M/My=4.0(載荷荷重10kN)までは、鋼板とゴムラテックスモルタルとの付着切れは生じず、鋼板からゴムラテックスモルタルが剥がれず一体挙動している。つまり、ショットブラスト処理後の鋼板表面に、P/C=18%のゴムラテックスモルタルを打設した場合、最も高い複合効果を得ることになる。これに対して、P/C=9%のゴムラテックスモルタルの場合、載荷荷重M/My=3.5で鋼板とゴムラテックスモルタルとの付着切れが生じるので、P/C=18%のゴムラテックスモルタルよりも複合効果が劣る。
【0047】
次に、前記の供試体S3(P/C=18%)の3点曲げ試験の最大荷重時(P=10kN)において、ゴムラテックスモルタルと鋼板の界面に生じるずれに関する水平剪断力を算出した。梁理論により算出した結果、詳細な計算式は省略して、水平剪断応力はτ=2.45N/mm2 となる。つまり、この値が、ゴムラテックスモルタルの剥離に対する限界水平剪断応力となる。なお、前記供試体S3と同様の後述の解析モデルによる有限要素法解析(FEM解析)の結果についても、梁理論による結果と概ね一致していたことが確認された。
【0048】
次に、FEM解析で精度良く再現した鋼床版の解析モデルから、ゴムラテックスモルタル層6を複合化することにより、鋼床版5に発生する応力がどの程度低減されるか検証するための試験を行った。
図7に示す複合鋼床版のモデルは、鋼床版2主箱桁橋の橋軸方向に30m取り出したモデルの断面図を想定したものである。荷重は、自動車の後輪10の荷重として幅150mm×長さ250mmの等分布荷重2個(5ton×2)とした。なお、本解析では死荷重は考慮していない。表3は、このFEM解析に用いた材料特性であって、デッキプレート8の上面に打設されるゴムラテックスモルタルやアスファルトの材料特性を示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表4は、鋼床版デッキプレート8上面に打設されるゴムラテックスモルタルの厚みを変えてモデル化した解析ケースの一覧を示すものである。また、ケース5は、比較対象としてアスファルトの場合も考慮したものである。ケース6は、ゴムラテックスモルタルにひび割れが生じた場合を想定し、ひび割れを模擬した幅10mmのスリットを全長に亙って設けたケースを設定している。
【0051】
【表4】

【0052】
表5は、ゴムラテックスモルタルの厚み毎にFEM解析より得られた輪荷重直下の鋼床版デッキプレート8の上縁・下縁に発生した応力の値を示す。
【0053】
【表5】

【0054】
表5,図8,図9に示すように、補剛材9直下では、補剛材接合部(A点,B点,C点)を支点とした負曲げに伴う比較的大きな応力が発生しているが、ゴムラテックスモルタルを複合化することによりこの応力は減少しているので、補剛材9の溶接部疲労強度を高めるのに有効である。特に、鋼床版5にゴムラテックスモルタルを40mm〜60mm複合化することにより、発生応力が、鋼床板のみの場合と比較して低減される(表5中の比率参照:ゴムラテックスモルタル40mmの場合、応力の発生が、鋼床板と比較して、54/467=0.12で約9割低減される)。
【0055】
また、ゴムラテックスモルタル(厚さ40mm〜60mm)を複合化する場合、アスファルトを60mmで積層する場合と比較して、鋼床版5の上縁・下縁に発生する応力が1/6程度に減少する。ゴムラテックスモルタルにひび割れ(スリット)が生じた場合でも、ゴムラテックスモルタルにスリットがない場合と比較して鋼床版5に発生する応力に差異は殆どないことが確認された。
【0056】
図10は、ゴムラテックスモルタルとデッキプレート8間の界面に発生するずれに関係する水平剪断力を示す。図10に示すように、上記の鋼床版の解析モデルにおいて最も大きな荷重がかかるB点での水平剪断応力が、上述の3点曲げ試験時の限界水平剪断応力(τ=2.45N/mm2 )を概ね下回っていることが確認された。
【0057】
つまり、ゴムラテックスモルタルとデッキプレート8の界面に発生する水平剪断力に対して、ゴムラテックスモルタルの剥離が生じないと予測することができる。それ故、ゴムラテックスモルタル複合鋼床版2を製作する際に、ショットブラスト処理後の鋼板の表面にP/C=18%のゴムラテックスモルタルを打設し、厚み40〜60mmで合成する場合、鋼板の表面とゴムラテックスモルタルの間にスタッドジベルによるずれ止め構造を設ける必要がないことが確認された。
【0058】
次に、実施例のゴムラテックスモルタル施工方法の作用効果について説明する。
ショットブラスト処理された鋼板の表面にゴムラテックスモルタル層を形成して接合させるので、鋼板とゴムラテックスモルタル層との接合性を格段に高めることができ、鋼板とゴムラテックスモルタル層との一体性を高め、完全に複合化された複合鋼床版2にすることができる。そのため、輪荷重による曲げ応力や剪断力により、鋼板とゴムラテックスモルタルとの間に剥離が生じないので、雨水等の侵入による鋼板の腐食を防止し、耐久性に優れたゴムラテックスモルタル複合鋼床版2を製作することができる。
【0059】
さらに、ゴムラテックスモルタル層6と鋼床版5の一体化と複合化を高めて、ゴムラテックスモルタル複合鋼床版2の剛性・強度を高めることができる。しかも、鋼板とゴムラテックスモルタルとの間に、ジベル等のずれ止め構造を設ける必要がないので、製作費の低減を図ることができる。
【0060】
モルタル打設工程において、打設したゴムラテックスモルタルを振動締め固め手段を用いて均一厚さに締め固めるので、振動締め固めにより、モルタル層6を緻密化し、平坦化し、モルタルへの空気の混入を防止でき、緻密な表面性状の優れたゴムラテックスモルタルを形成できるので、剛性・強度に優れたゴムラテックスモルタル層6を形成することができる。
【0061】
モルタル打設工程の後且つ養生工程の前に、締め固められたゴムラテックスモルタルの表面にゴムラテックスと収縮低減剤を主成分とする表面皮膜剤を塗布する養生剤塗布工程を有するので、ゴムラテックスモルタル層6の表面がゴムラテックスと収縮低減剤を主成分とする皮膜で被覆され、締め固められたゴムラテックスモルタル層6が完全に硬化する前の乾燥収縮による初期クラックの発生を抑制することができ、ゴムラテックスモルタル層6の品質を高めることができる。
【0062】
次に、前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
1]ゴムラテックスモルタル施工方法の研掃工程において、鋼床版の鋼板の表面をサンドブラスト処理で研掃してもよい。
2]実施例のゴムラテックスモルタル施工方法は、高架高速道路以外に種々の橋桁や家屋の屋根の施工に際しても適用可能である。
【0063】
3]実施例の養生剤塗布工程においては、ゴムラテックスモルタルの表面に収縮低減剤を主成分とする表面養生剤を塗布してもよい。
4]その他、本発明は前記の実施例に限定されるものではなく、当業者ならば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態をも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例に係る橋桁の斜視図である。
【図2】デッキプレートとゴムラテックスモルタル層とアスファルト層を示す斜視図である。
【図3】ゴムラテックスモルタル施工方法の工程図である。
【図4】ゴムラテックスモルタル複合鋼板の3点曲げ試験の方法を示す図である。
【図5】鋼板の表面処理を異ならせて行った3点曲げ試験結果を示す線図である。
【図6】ゴムラテックスの混入率を変えて行ったゴムラテックスモルタル複合板の3点曲げ試験結果を示す線図である。
【図7】ゴムラテックスモルタル複合鋼床版の解析モデルを示す図である。
【図8】輪荷重直下の鋼床版デッキプレート下縁に発生する応力を示す線図である。
【図9】輪荷重直下の鋼床版デッキプレート下縁に発生する応力を示す線図である。
【図10】ゴムラテックスモルタルとデッキプレートの界面に発生する水平剪断応力を示す線図である。
【符号の説明】
【0065】
2 ゴムラテックスモルタル複合鋼床版
5 鋼床版
6 ゴムラテックスモルタル層
7 アスファルト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼床版の上にゴムラテックスモルタル層とアスファルト層とを順に形成したゴムラテックスモルタル複合鋼床版を製作する際のゴムラテックスモルタル施工方法において、
鋼床版の鋼板の表面にショットブラスト処理又はサンドブラスト処理を施す研掃工程と、
次に、鋼床版の鋼板の表面にゴムラテックスモルタルを打設するモルタル打設工程と、 次に、打設されたゴムラテックスモルタルを養生させる養生工程と、
を備えたことを特徴とするゴムラテックスモルタル施工方法。
【請求項2】
前記モルタル打設工程において、打設したゴムラテックスモルタルを振動締め固め手段を用いて均一厚さに締め固めることを特徴とする請求項1に記載のゴムラテックスモルタル施工方法。
【請求項3】
前記モルタル打設工程の後且つ前記養生工程の前に、前記締め固められたゴムラテックスモルタルの表面にクラック発生を防止する為の表面養生剤を塗布する養生剤塗布工程を有することを特徴とする請求項2に記載のゴムラテックスモルタル施工方法。
【請求項4】
前記表面養生剤はゴムラテックスと収縮低減剤を主成分とすることを特徴とする請求項3に記載のゴムラテックスモルタル施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−179993(P2008−179993A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14460(P2007−14460)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(592182698)株式会社竹中道路 (14)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】