説明

ゴム組成物、グリップ、グリップの製造方法、テニスラケットの製造方法

【課題】水や汗に濡れたときに、手や足などの表皮との関係における摩擦係数が小さくならないゴム組成物を提供すること。
【解決手段】ゴム組成物は、ゴム組成物の原材料として、天然ゴムおよび/または合成ゴムから成る基材ポリマーと、分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有する添加剤と、架橋剤と、を含有し、架橋されたことにより形成されたことを特徴とする。これにより、ゴム組成物と、手や足などの表皮と間における水や汗に濡れたときの摩擦係数が、乾いているときの摩擦係数より小さくならないようにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水や汗に濡れたときに、手や足などの表皮との関係における摩擦抵抗が小さくならないゴム組成物、該ゴム組成物によって形成されたグリップ、該グリップの製造方法および該グリップを用いたテニスラケットの製造方法に関する。
本願において、グリップには、テニスラケット用のグリップ、ゴルフクラブ用のグリップ、バトミントンラケット用のグリップ等の種類が含まれるものとする。
ここで、「グリップ」とは、テニスラケット、ゴルフクラブ、バトミントンラケット、野球のバット等の柄などの握りの部分(把手)をいう。
【背景技術】
【0002】
従来では、特許文献1に示す如く、ゴルフクラブのグリップについて、グリップの表面が水に濡れたウェット状態におけるグリップの防滑性能を考慮したものがあった。
また、特許文献2に示す如く、ゴムの配合に粘着付与剤が加えられており、ユーザーが握ったときの「感触」であるしっとり感(手にフィットする感じ)およびしっかり感(手に対して動きにくい感じ)の両方に優れたグリップがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−282404号公報
【特許文献2】特開平8−156140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示すゴルフクラブのグリップの評価は、ゴルファーが前記ウェット状態で使用したときの主観的な評価であり、客観的な評価としては十分ではなかった。また、水に濡れていない状態、すなわち、グリップの表面が乾いた所謂、ドライ状態と対比した評価ではなかった。
ここで、図2に示すのは、本態様のラバーグリップその1、従来のA社製グリップ、B社製グリップ、C社製グリップのサンプルの摩擦抵抗を、前記ドライ状態と前記ウェット状態とを対比して示す図である。このうち、図2の横軸は、サンプルの種類を示す。一方、縦軸は摩擦抵抗の大きさを示す。測定方法の条件等の詳細については後述するが、図2に示す如く、従来のA社製グリップ、B社製グリップおよびC社製グリップのサンプルでは、前記ドライ状態のときと比較して前記ウェット状態の摩擦抵抗が小さくなる。すなわち、従来のグリップは、水に濡れることにより、乾いていたときと比較して、摩擦係数が小さくなり、滑りやすくなる。
また、特許文献2に示すグリップは、ユーザーが握ったときの「感触」を考慮した限りのものであって、水に濡れたときの摩擦係数(摩擦抵抗)を考慮したものではなかった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、水や汗に濡れたときに、手や足との関係において摩擦係数が小さくならないゴム組成物、該ゴム組成物によって形成されたグリップ、該グリップの製造方法およびテニスラケットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様のゴム組成物は、ゴム組成物の原材料として、天然ゴムおよび/または合成ゴムから成る基材ポリマーと、分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有する添加剤と、架橋剤と、を含有し、架橋されたことにより形成されたことを特徴とする。
ここで、「分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有する添加剤」とは、該水素化ブタジエン系重合体の全体としての分子量の平均に関わらず、該水素化ブタジエン系重合体の分子量が2500以上であるものを少なくとも一部に有する添加剤をいう。
また、「水素化ブタジエン系重合体」とは、ブタジエンを重合して得られる重合体に対して水素添加を行って得られる物質をいう。前記「水素化ブタジエン系重合体」には、末端がHであるものの他、末端に任意の官能基(水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等)を有するものも含まれるものとする。
【0007】
本態様によれば、添加剤として配合した分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体の作用により、人の皮膚(例えば手のひら)との間の摩擦係数が大きい、すなわち、手で持ったときに滑りにくいゴム組成物とすることができる。
また、本態様に係るゴム組成物は、前記ゴム組成物の表面が乾いている状態(ドライ状態)における人の皮膚との間の摩擦係数が大きく、手で持ったときに滑りにくいことに加え、前記ゴム組成物の表面が濡れている状態(ウェット状態)において、該ゴム組成物と人の皮膚との間の摩擦係数が、前記ドライ状態のときよりも更に大きくなる。すなわち、濡れた手で前記ゴム組成物を持ったときに、より一層滑りにくくなる。
【0008】
例えば、テニスラケットやゴルフクラブ等のグリップ、ドアの把手、ハンドル、プールや風呂場等の水周りに用いるマットや床材などの人の皮膚と接触する構成部を形成する素材として、本態様に係るゴム組成物を用いることができる。係る場合、汗や水によって滑る虞を低減することができる。
【0009】
前述のように、ウェット状態における前記ゴム組成物と手のひらとの間の摩擦係数が、ドライ状態のときよりも大きくなる理由は定かではないが、以下のように説明することができる。
通常、ゴム組成物表面に水分が付着した場合(ウェット状態)に、その濡れたゴム組成物を手で持つと、該ゴム組成物と手との間に水の膜ができるために滑りやすくなる。
【0010】
本態様に係る添加剤は、分子量が2500以上の高い分子量の水素化ブタジエン系重合体を有する。このことから、当該添加剤を配合して形成されたゴム組成物表面の撥水性が増す。これにより、前記ゴム組成物と手との間に水の膜ができにくくなると考えられる。
また、添加剤として分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を用いていることによって、得られたゴム組成物の分子状態が、該ゴム組成物の表面に水の膜が形成されにくい構造に形成される。これとともに、前記表面に付着した水分の一部を吸収することができ、その湿度によって当該ゴム組成物の表面の摩擦係数が大きくなるような構造になると推測される。
【0011】
尚、前記添加剤は、技術的思想としては、分子量2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有していれば、水に濡れたときにより滑りにくくなるという作用効果を得ることができると考えられる。
また、架橋後のゴム組成物全体において、分子量2500以上の水素化ブタジエン系重合体の含有量が質量%で極僅かな数%あれば、水に濡れたときにより滑りにくくなるという作用効果を得ることができると考えられる。
【0012】
本発明の第2の態様のゴム組成物は、第1の態様において、前記水素化ブタジエン系重合体の分子量は、数平均分子量2500以上であることを特徴とする。
本態様によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、前記水素化ブタジエン系重合体の数平均分子量は、2500以上である。
ここで、一般的に、合成された「水素化ブタジエン系重合体」の分子量には、バラツキがある。数平均分子量2500の水素化ブタジエン系重合体を用いることによって、当該重合体の分子量の分布をある程度制御することができ、第1の態様と同様の作用効果を安定して得ることができる。
【0013】
本発明の第3の態様のゴム組成物は、第1または第2の態様において、前記基材ポリマーは、主成分として天然ゴムを含むことを特徴とする。
本態様によれば、第1または第2の態様と同様の作用効果に加え、基材ポリマーに主成分として天然ゴムを含むことにより、ゴム組成物の表面の粘着性を低く抑えることができる。
【0014】
本態様に係るゴム組成物を所謂「把手(グリップ)」として用いる場合、「把手(グリップ)」は人が握る部分であるため、その表面性状に由来する触感は重要である。
一般的に、把手にある程度の粘着性(べたつき)があると滑りにくいため、従来のゴム組成物には難滑性を高める、すなわち、滑りにくくするための添加剤として、前記ゴム組成物に粘着性を付与する物質が用いられていた(例えば特開平8−156140号公報)。
【0015】
しかし、例えばテニスラケットのグリップでは、プレー中に打ち返されたボールに対してプレーヤーがテニスラケットの打撃面である所謂、フェースの向きを調整するため、前記グリップの握り位置を素早く変える必要があり、過度のべたつきはプレーヤーに好まれない。
また、前述したように、前記粘着性を付与する物質を添加物として加えたゴム組成物は、ウェット状態においてはドライ状態のときよりも滑りやすくなっていた。すなわち、手のひら等の皮膚とゴム組成物との間に水の膜が形成されていた。
本態様に係るゴム組成物は、ドライ状態における難滑性が高く、更に、ウェット状態において前記ドライ状態より高い難滑性を示すと共に、その表面の粘着性が抑えられた、べたつきの少ない触感を与えるものである。
【0016】
本態様に係るゴム組成物の表面の粘着性が少ない理由は定かではないが、以下のように説明することができる。
原材料を混合し、後述する製造工程における架橋工程を行って得られるゴム組成物は、鎖状のゴム分子が網目状に絡み合った構造をとる。
分子量が小さい添加剤(例えば、500〜1500程度)は、前記網目状のゴム分子間を通りやすく、経時的にゴム組成物の表面に浮き出てくる。この表面に浮き出た添加剤が、ゴム組成物にべたべたした粘着性を与える。尚、特開平8−156140号公報に記載のゴム組成物には、分子量1470の添加剤が用いられている。
【0017】
一方、本態様で用いる添加剤の分子量が2500以上のものは、前記分子量が500〜1500程度の添加剤よりも分子の大きさが大きく、前記網目状のゴム分子間を通り難い。
更に、本態様に係るゴム組成物は、天然ゴムを主成分として含む基材ポリマーを用いて形成されている。前記天然ゴムは、シスポリイソプレン[(C)n]を主成分としている。ここで、前記天然ゴムのシスポリイソプレンのイソプレン骨格は、合成ゴム中の成分の骨格と比較して、複雑となる傾向がある。従って、前記シスポリイソプレンのイソプレン骨格が絡み合って構成されたゴム組成物の分子構造は、前記添加剤の分子をより通りにくくすると考えられる。
【0018】
すなわち、添加剤の分子量が大きいことに加え、天然ゴムを主成分として含む基材ポリマーを用いて形成されるゴム組成物は、前記添加物をより通しにくい構造になるので、該添加物がゴム組成物の表面に粘着性を与えるほどに浮き出てこないものと考えられる。
尚、天然ゴムのシスポリイソプレンのイソプレン骨格との関係において、水素化ブタジエン系重合体の分子量が2500以上であれば、架橋後のゴム組成物の内部に前記水素化ブタジエン系重合体が長期間に渡り滞留することができると考えられる。
【0019】
本発明の第4の態様のゴム組成物は、第1から第3のいずれか一の態様において、前記水素化ブタジエン系重合体は、1,2−結合が過半数を占める割合で含有されていることを特徴とする。
水素化ブタジエン系重合体は、前述のようにブタジエンを重合して得られるブタジエン重合体に対して水素添加を行って得られる。
【0020】
ここで、前記ブタジエン重合体には、ブタジエンが1,4−結合で重合したシス−1,4−ポリブタジエン、またはトランス−1,4−ポリブタジエンや、ブタジエンが1,2−結合で重合したα,ω−ポリブタジエンがある。そして、一般的に、シス−1,4−結合、トランス−1,4−結合、または1,2−結合を任意の割合で含むブタジエン重合体として化学式(1)のように表される。尚、x、y、およびzはいずれも0以上、1以下の数値であり、且つ、x+y+z=1を満たすものである。また、Rは任意の末端基を示す。
【0021】
【化1】

【0022】
水素化ブタジエン系重合体は、水素添加前のブタジエン重合体に含まれる1,2−結合、シス−1,4結合、およびトランス−1,4結合の含有量に由来する1,2−結合と1,4−結合を含み、化学式(2)のように表される。x'およびy'はいずれも0以上、1以下の数値であり、且つ、x'+y'=1を満たすものである。また、Rは任意の末端基を示す。
【0023】
【化2】

【0024】
1,2−結合は分枝構造を持つため、該1,2−結合含有量が多い水素化ブタジエン系重合体は、1,4−結合含有量が多い水素化ブタジエン系重合体よりも複雑な構造となる。
本態様によれば、前記1,2−結合が過半数を占める割合(すなわち、0.5<x'≦1)の水素化ブタジエン系重合体を添加剤として用いている。従って、第1から第3のいずれか一の態様と同様の作用効果に加え、前記複雑な構造となる分、前記1,2−結合の分枝構造のために当該添加剤はゴム組成物のゴム分子の網目状構造を通りにくく、ゴム組成物の表面に浮上りにくくなる。以って、該ゴム組成物の表面の粘着性をより一層抑えることができる。
【0025】
本発明の第5の態様のグリップは、第1から第4のいずれか一の態様のゴム組成物により形成されたことを特徴とする。
本態様によれば、グリップにおいて、上記第1から第4のいずれか一の態様と同様の作用効果を得ることができる。即ち、グリップの表面と、手との間の摩擦係数について、グリップの表面が水や汗に濡れたときの摩擦係数が、グリップの表面が乾いているときの摩擦係数より小さくならないようにすることができる。
【0026】
本発明の第6の態様のグリップの製造方法は、天然ゴムおよび/または合成ゴムから成る基材ポリマーと、分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有する添加剤と、架橋剤と、を加えて練るゴム練り工程と、該ゴム練り工程において練られた練りゴムを、グリップの形状に形成し、架橋する架橋工程と、を具備することを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、添加剤は、分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有している。従って、グリップの表面と、手との間の摩擦係数について、グリップの表面が水や汗に濡れたときの摩擦係数が、グリップの表面が乾いているときの摩擦係数より小さくならない特性を有するグリップを得ることができる。
【0028】
本発明の第7の態様のグリップの製造方法は、第6の態様において、前記架橋工程の後に、前記グリップの表面を研磨する研磨工程を、さらに具備することを特徴とする。
本態様によれば、第6の態様と同様の作用効果に加え、前記グリップの内部から表面に出てきたべたべたした成分を除去することができる。ここで、水素化ブタジエン系重合体のうち、分子量が比較的低いもの、例えば、分子量1500程度のものは、分子量2500以上のものと比較して、早い段階で前記グリップの内部から表面へ浮き出てくる傾向がある。これが、べたべたした成分の原因である。そして、これを除去することにより、前記グリップの表面を、べたべたしていない状態、即ち、さらさらした状態にすることができる。
【0029】
また、研磨することにより、前記グリップの内部に滞留しているべたべたした成分が表面に浮き出てきにくいようにすることができる。ここで、ゴム分子鎖は、架橋されることにより、三次元網目構造を形成する。前記グリップの表面を研磨することにより、前記三次元網目構造を不規則にすることができる。そして、内部に滞留しているべたべたした成分が、不規則な三次元網目構造を通過しにくくすることができると考えられる。その結果、内部に滞留しているべたべたした成分が、前記グリップの表面に浮き出てきにくいようにすることができる。即ち、長い年月が経過しても、前記グリップの表面を、さらさらした状態に保つことができる。
【0030】
本発明の第8の態様のテニスラケットの製造方法は、ガットが張られるヘッド部と、該ヘッド部と繋がるシャフト部と、該シャフト部の自由端側に形成されるグリップ部と、を有するテニスラケットの製造方法であって、天然ゴムおよび/または合成ゴムから成る基材ポリマーと、分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有する添加剤と、架橋剤と、を含有し、架橋されたことにより形成された筒状のグリップに対して、テニスラケット本体の前記シャフト部を、圧入する圧入工程を具備することを特徴とする。
【0031】
ここで、従来のテニスラケットの製造方法について説明する。テニスラケット用のグリップとして、従来では、帯状、言い換えると、テープ状の部材であるグリップテープを製造していた。そして、グリップテープの内側となる面に接着剤を塗布していた。これを、テニスラケットのシャフト部に螺旋状に巻いて取り付けることによりグリップを形成していた。さらに、巻いて取り付けたグリップテープの端が解けないように別途、テープを巻いていた。また、前記シャフト部の端部を塞ぐ蓋である所謂、エンドキャップを取り付けていた。すなわち、グリップテープをシャフト部に巻き付けてグリップを形成するまでの工程数が多かった。また、特殊な装置も必要だった。
【0032】
そこで、本態様によれば、上記第6の態様と同様の作用効果に加え、圧入するだけで、前記テニスラケット本体に前記グリップを取り付けることができる。その結果、従来のテニスラケットの製造方法と比較して、容易に、かつ、短時間で前記テニスラケット本体に前記グリップを取り付けることができる。即ち、従来の製造方法と比較して、ラケットの組み立て工数を少なくすると共に、組み立てに必要な設備を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】摩擦抵抗の測定に用いた測定機の概略を示す側面図。
【図2】本実施例のラバーグリップその1、従来のグリップの摩擦抵抗を示す図。
【図3】本実施例のラバーグリップその1およびその2の配合および評価を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明のゴム組成物の原材料、該ゴム組成物の一例であるラバーグリップの作用効果、該ラバーグリップの製造方法、該ラバーグリップを備えるテニスラケットの製造方法の順で説明する。
【0035】
[ゴム組成物の原材料]
本発明のゴム組成物は、基材ポリマーと、分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有する添加剤と、架橋剤と、を含有し、架橋されたことにより形成されたことを特徴とする。本発明においては、少なくとも、これら三つの原材料を含有していればよく、用途等に応じて、その他の原材料を適宜加えてもよいのは勿論である。
ここで、基材ポリマーとは、ベースとなる重合体をいう。また、水素化ブタジエン系重合体とは、ブタジエンを重合して得られる重合体に対して水素添加を行って得られる物質をいう。またさらに、架橋剤とは、分子を結合させる効果がある薬品をいう。以下、詳しく説明する。
【0036】
<基材ポリマー>
本発明に係るゴム組成物の原料として用いる基材ポリマーとしては、天然ゴムおよび合成ゴムの一方のみ、または天然ゴムと合成ゴムとを任意の割合で混合したものを用いることができる。
前記合成ゴムとしては、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)等のジエン系合成ゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)等のオレフィン系合成ゴムなど、公知の合成ゴムを用いることができる。
また、前記基材ポリマーにおいて用いる合成ゴムは一種のみに限らず、二種以上の合成ゴムを任意の割合で含有させることもできる。
【0037】
基材ポリマーを成す天然ゴムまたは合成ゴムの種類、およびそれらの配合比は、製造されるゴム組成物の用途に応じて設定される。例えば、テニスラケット、ゴルフクラブ等のグリップを形成するためのゴム組成物の場合、成形容易性、安定性、耐摩耗性、機能性(強度、弾性、防振性)等に鑑み、天然ゴムとスチレン・ブタジエンゴムを混合した基材ポリマーを用いることが好ましい。また、前記天然ゴムは、前記基材ポリマーの主成分として含まれていることが好ましい。ここで、主成分とは、他の成分がある場合は該他の成分と比較して配合比が最も大きい成分をいう。
尚、基材ポリマーとして、熱可塑性エラストマー(TPE)を用いてもよい。係る場合もゴムに水素化ブタジエン系重合体を加えた場合と同様の作用効果を得ることができるからである。熱可塑性エラストマー(TPE)としては、スチレン系エラストマー(TPS)、オレフィン系エラストマー(TPO)、ポリウレタン系エラストマー(TPU)等の公知のものを用いることができる。
【0038】
<添加剤(水素化ブタジエン系重合体)>
本発明に係るゴム組成物の原料として用いる添加剤としての水素化ブタジエン系重合体は、ゴム組成物の難滑性を高める作用を奏するものである。
本実施例において、前記添加剤としては、ブタジエンを重合して得られるブタジエン重合体に対して水素添加を行った水素化ブタジエン系重合体であって、数平均分子量が3000以上の水素化ブタジエン系重合体が用いられる。
【0039】
尚、前記添加剤は、技術的思想としては、分子量2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有していれば、水に濡れたときにより滑りにくくなるという作用効果を得ることができると考えられる。
また、架橋後のゴム組成物全体において、分子量2500以上の水素化ブタジエン系重合体の含有量が質量%で極僅かな数%あれば、水に濡れたときにより滑りにくくなるという作用効果を得ることができると考えられる。該作用効果を得るための分子量2500以上の水素化ブタジエン系重合体の含有量の最小値は、ゴムの配合、水素化ブタジエン系重合体の1,2−結合含有量の割合、ゴム組成物の形状等によってゴム組成物の表面における単位面積当たりの量が変化するので、画一的には決められるものではない。また、分子量2500以上の水素化ブタジエン系重合体の含有量の最大値については、分子量が高い程、ゴム材の内部に滞留しやすいと考えられ、画一的には決められないが、20%未満とするのがよい。20%以上有していてもそれ以上に滑りにくくなるという効果を得ることはできないからである。また、20%以上になると、表面が非常にべたべたした状態となり、後述する研磨工程において、表面のべたべたした成分を除去することが、物理的にできないからである。例えば、分子量3000の場合、水に濡れたときにより滑りにくくなるという作用効果との関係では、水素化ブタジエン系重合体の含有量を2〜8%とすることが効果的である。
またさらに、前述したゴム材中の成分の骨格との関係において、水素化ブタジエン系重合体の分子量が2500以上であれば、架橋後のゴム組成物の内部に水素化ブタジエン系重合体が滞留することができると考えられる。より具体的には、ゴム材中の特に、天然ゴムのシスポリイソプレンのイソプレン骨格との関係において、水素化ブタジエン系重合体の分子量が2500以上であればよいと考えられる。前記分子量が2500以上であればよいが、3000以上が好ましい。従って、前述したように、本実施例では、数平均分子量が3000以上のものを用いる。
【0040】
ブタジエンを重合して得られるブタジエン重合体としては、ブタジエンが1,4−結合で重合したシス−1,4−ポリブタジエン、またはトランス−1,4−ポリブタジエンや、ブタジエンが1,2−結合で重合したα,ω−ポリブタジエンがあり、シス−1,4−結合、トランス−1,4−結合、または1,2−結合を任意の割合で含むブタジエン重合体[化学式(1)を参照]を水素化した水素化ブタジエン系重合体[化学式(2)を参照]を用いることができる。特に、1,2−結合の含有量が多いことが好ましく、より好ましくは1,2−結合含有量が90%以上である。
【0041】
また、前記水素化ブタジエン系重合体は、末端がHであるものの他、末端に任意の官能基(水酸基、カルボキシル基等)を有するものを用いることができる。特に、末端に水酸基を有する水素化ブタジエン系重合体を用いると、安定性の高いゴム組成物とすることができる。
【0042】
<架橋剤>
架橋剤は、後述する架橋工程において基材ポリマーのゴム分子を結合させる作用を奏する物質である。本発明においては、硫黄、有機含硫黄化合物、有機過酸化物、キノンジオキシム類等の公知の架橋剤を用いることができる。
【0043】
[本実施例のラバーグリップの作用効果について]
<本実施例のラバーグリップその1(水素化ブタジエン系重合体を入れたもの)と、従来のグリップ(水素化ブタジエン系重合体を入れていないもの)とを比較した摩擦抵抗の結果>
本実施例のラバーグリップその1および従来のグリップについて、摩擦抵抗を測定した。
ここで、「本実施例のラバーグリップその1」は、前述した水素化ブタジエン系重合体を原材料に含むことを特徴とする。一方、「従来のグリップ」は、前述した水素化ブタジエン系重合体を原材料に含まない。
【0044】
図1に示すのは、摩擦抵抗の測定に用いた測定機の概略を示す側面図である。
図1に示す如く、測定機1は、台座部2と、摩擦子3と、牽引糸4と、滑車5と、ガイド車6とを有している。台座部2には、測定対象のグリップの一部がサンプル7としてセットされるように設けられている。具体的には、摩擦子3の移動方向に対し側視して、台座部2の上側は、略水平となるように設けられている。また、台座部2は、摩擦子3の移動方向から視て上面が弧を描くように形成されている。これは、ラバーグリップの表面におけるユーザーが握る箇所である所謂、グリップ面の外周形状と同様にするためである。
【0045】
また、摩擦子3は、台座部2にセットされたサンプル7と接触し、サンプル上を摺動することができるように設けられている。具体的には、摩擦子3は、200gの金属片3aと、該金属片3aの底面に設けられた豚皮革3bとを有している。そして、豚皮革3bがサンプル7と接触するように構成されている。ここで、豚皮革3bを採用したのは、人間の手のひらの組成に近いからである。すなわち、人間の手で握ったときと同様の状態で、滑り具合を測定することができる。
尚、摩擦子3の底面は、サンプル7と面接触するように曲面となっている。また、底面における牽引されたときの移動方向における長さは、15mmである。一方、移動方向に対する幅方向の長さは、7mmである。従って、サンプル7との接触面積は、約105平方mmとなる。
【0046】
またさらに、牽引糸4の一端は、摩擦子3と接続されており、他端は、図示しない牽引装置と接続されている。牽引装置はコンピューターによって制御されており、牽引力を徐々に変化させることができるように構成されている。
また、滑車5は、摩擦子3が引っ張られる方向が水平となるように設けられている。
またさらに、ガイド車6は、摩擦子3が牽引されたときの摩擦子3より移動方向後側となる位置に摩擦子3と連結して設けられている。これにより、牽引されたときの摩擦子3の向きを安定させることができ、摩擦抵抗を精度良く測定することができる。
そして、本実施例のラバーグリップその1、従来のグリップとしてのA社製グリップ〜C社製グリップのサンプル(7)をそれぞれ、台座部2にセットして、停止した状態の摩擦子3を1cm動かすために必要な牽引力の大きさを測定した。この牽引力の大きさが摩擦抵抗(静摩擦抵抗)である。
【0047】
図2に示すのは、本実施例のラバーグリップその1、従来のA社製グリップ、B社製グリップ、C社製グリップのサンプル(7)の摩擦抵抗を示す図である。このうち、図2の横軸は、サンプル(7)の種類を示す。一方、縦軸は摩擦抵抗の大きさを示す。また、サンプル(7)の表面(摩擦子3との接触面)が乾いているときと、水に濡れているときとに分けて測定した。
ここで、本実施例のラバーグリップその1の配合の内訳は、基材ポリマーとしてのゴム材、架橋剤、補強剤、軟化剤および添加剤である。このうち、ゴム材には、天然ゴムと、合成ゴムとが含まれる。また、架橋剤として、例えば、硫黄、有機含硫黄化合物、有機過酸化物、キノンジオキシム類等を用いることができる。通常は、ゴム材の分子を架橋するために、硫黄が用いられる。架橋は、所謂、加硫(硫化)である。
【0048】
またさらに、補強剤とは、分子結合をより強くすることができる薬品をいう。補強剤として、所謂、ホワイトカーボンや、カーボンブラックを用いることができる。ホワイトカーボンは、シリカ、二酸化ケイ素、ケイ酸等である。強度を高めるためには、カーボンブラックを用いることが望ましいが、完成品のグリップの色は黒になる。完成品のグリップの色を黒以外の色にしたいときは、ホワイトカーボンを用いる。そして、着色剤(色素)を加えることにより、所望の色にすることができる。
【0049】
また、軟化剤とは、完成品のゴム(ラバーグリップ)の弾性率が低くなるようにする薬品をいう。軟化剤として、オイル等を用いることができる。
またさらに、添加剤として、数平均分子量が3000以上の水素化ブタジエン系重合体を有するものを用いる。本願発明で前記水素化ブタジエン系重合体を加える目的は、グリップの表面が水や汗で濡れたとき、滑りにくくするためである。
【0050】
その他、必要に応じて、公知の加硫促進剤、老化防止剤、加硫遅延剤(やけ防止剤)、発泡剤、着色剤等を原材料に含めても良いのは勿論である。加硫促進剤とは、加硫を促進させる作用を有する薬品をいう。また、老化防止剤とは、架橋後における経時(経年)変化を抑制(防止)する作用を有する薬品をいう。またさらに、加硫遅延剤とは、加硫を遅延させる作用を有する薬品をいう。また、発泡剤とは、熱や水分によって化学反応を起こし製品中に泡を生じさせる薬品をいう。
【0051】
具体的な配合の詳細については、ラバーグリップ全体の質量において、一例として、天然ゴム64%、合成ゴム(スチレン・ブタジエンゴム(SBR))15%、架橋剤(硫黄)4%、水素化ブタジエン系重合体が3%、架橋促進剤(加硫促進剤)1%、老化防止剤1%、補強剤(ホワイトカーボン等)10%、軟化剤(オイル等)2%である。
尚、これをゴムの質量を基準にした部数(ゴム全体を100とする質量)で表すと、天然ゴム81.01部、合成ゴム(SBR)18.99部、架橋剤(硫黄)2.50部、水素化ブタジエン系重合体が3.80部、架橋促進剤(加硫促進剤)1.27部、老化防止剤1.27部、補強剤(ホワイトカーボン等)12.66部、軟化剤(オイル等)2.53部となる。
【0052】
前述したように、本実施例のラバーグリップその1は、原材料に前記水素化ブタジエン系重合体が使用されていることを特徴とする。一方、従来のA社製グリップ、B社製グリップ、C社製グリップは、原材料には、前記水素化ブタジエン系重合体が使用されていない。従来のA社製グリップ、B社製グリップ、C社製グリップにおけるその他の原材料の詳細な配合についての説明は省略する。
尚、本実施例のラバーグリップその1のグリップ面には、滑り止め効果を目的としたエンボス加工は施されていない。一方、従来のA社製グリップ、B社製グリップ、C社製グリップのグリップ面には、小さなエンボス加工が施されている。それぞれにおいて、エンボスの形状が多少異なるが、後述する濡れたときに摩擦抵抗が小さくなることに関しては影響がないものと考える。
【0053】
図2に示す如く、サンプル(7)の表面(摩擦子3との接触面)が乾いているときの摩擦抵抗の値は、A社製グリップでは0.43kgf、B社製グリップでは0.40kgf、C社製グリップでは0.62kgfであった。これに対して、本実施例のラバーグリップその1では0.93kgfであった。この結果から、サンプル(7)の表面(摩擦子3との接触面)が乾いているとき、本実施例のラバーグリップその1の摩擦抵抗は、他のA社製グリップ、B社製グリップ、C社製グリップと比較して大きいことがわかる。すなわち、本実施例のラバーグリップその1は滑りにくいことがわかる。
【0054】
また、サンプル(7)の表面(摩擦子3との接触面)が濡れているときの摩擦抵抗の値は、A社製グリップでは0.35kgf、B社製グリップでは0.34kgf、C社製グリップでは0.39kgfであった。これに対して、本実施例のラバーグリップその1では1.20kgfであった。この結果から、サンプル(7)の表面(摩擦子3との接触面)が濡れることにより、A社製グリップ、B社製グリップ、C社製グリップの摩擦抵抗は、乾いているときの摩擦抵抗と比較して、小さくなることがわかる。すなわち、濡れることにより、摩擦係数が小さくなり、滑りやすくなることがわかる。これは、水に濡れることにより、サンプル(7)の表面に水の被膜が生じて滑りやすくなるものと考えられる。
【0055】
一方、本実施例のラバーグリップその1の場合は、サンプル(7)の表面(摩擦子3との接触面)が濡れた場合であっても、摩擦抵抗が小さくならないことがわかる。これは、水に濡れた場合であっても、サンプル(7)の表面に水の被膜が生じないためであると考えられる。
さらに、通常とは逆に、濡れることによって、摩擦抵抗が大きくなっていることがわかる。すなわち、濡れることにより、摩擦係数が大きくなり、より滑りにくくなることがわかる。
【0056】
この理由は、はっきりとはしないが、水に濡れることにより、本実施例のラバーグリップその1の湿度および豚皮革3bの湿度が変化して、本実施例のラバーグリップその1と豚皮革3bとの相性がより一層よくなり、より滑りにくくなるものと考えられる。
尚、摩擦子側の豚皮革3bを羊皮革に変更しても同様の結果を得ることができる。すなわち、豚皮革3bに限った結果ではない。これより、例えば、ゴルファーが手に羊皮革の手袋(グラブ)を着用してラバーグリップを握った場合も同様の結果を得ることができることがわかる。
【0057】
本実施例のラバーグリップその1の場合は、サンプル(7)の表面(摩擦子3との接触面)が乾いているときの摩擦係数が、従来のグリップと比較して大きい。また、濡れたときに摩擦係数がさらに大きくなる。従って、本実施例のラバーグリップその1では、グリップ面に滑り止め効果を目的としたエンボス加工を施す必要がない。また、従来のグリップを使用する場合、水や汗によってグリップ面が濡れたとき、通常、タオル等で水や汗を拭き取って使用する。これに対して、本実施例のラバーグリップその1を使用する場合、水や汗によってグリップ面が濡れたときであっても、タオル等で水や汗を拭き取る必要がない。ユーザーは、水や汗を気にする必要がないので、使い勝手がよい。
【0058】
<本実施例のラバーグリップその1(天然ゴム>合成ゴム配合)と、本実施例のラバーグリップその2(合成ゴム>天然ゴム配合)とを比較した結果>
続いて、ゴム材の配合について説明する。
図3に示すのは、本実施例のラバーグリップその1およびその2についての配合内容および評価について示す図である。
図3に示す如く、ゴム材の配合については、本実施例のラバーグリップその1では、質量の割合において天然ゴムを合成ゴムより多くした。具体的には、前述したように天然ゴム81.01部、合成ゴム(SBR)18.99部とした。
【0059】
一方、本実施例のラバーグリップその2では、合成ゴムを天然ゴムより多くした。言い換えると、天然ゴムの部数を50部未満、合成ゴム(SBR)の部数を50以上とした。
その他、架橋剤、補強剤、軟化剤および水素化ブタジエン系重合体については、本実施例のラバーグリップその1およびその2の両方に対して、同じ物を同様に加えた。
そして、それぞれについて同じ条件でゴム練り、成形、架橋をして、完成したものを評価した。評価は、架橋した日から三日後に行った。これは、原材料の水素化ブタジエン系重合体がべたべたした成分を有しており、グリップの内部から表面に浮いて出てくる前記べたべたした成分の量の差を明確にするためである。尚、架橋した日から一月後に行えば、差はより明確になる。
【0060】
グリップの表面については、本実施例のラバーグリップその1では、べたべた感はなく、さらさらしていた。一方、本実施例のラバーグリップその2では、べたべた感があった。
これは、前述したように、架橋後において、天然ゴムのシスポリイソプレンのイソプレン骨格は、合成ゴムの成分の骨格と比較して複雑となるためであると考えられる。すなわち、天然ゴムの部数を合成ゴムの部数より多くすることにより、ゴム材全体として複雑な骨格が占める割合を大きくすることができる。
【0061】
従って、天然ゴムの部数が多い本実施例のラバーグリップその1では、本実施例のラバーグリップその2と比較して、分子量3000以上の水素化ブタジエン系重合体がグリップの内部に滞留されやすい。その結果、グリップの表面がさらさらしていると考えられる。
一方、合成ゴムの部数が多い本実施例のラバーグリップその2では、本実施例のラバーグリップその1と比較して、分子量3000以上の水素化ブタジエン系重合体がグリップの内部から表面に浮き出やすい。その結果、グリップの表面がべたべたすると考えられる。
【0062】
また、グリップの表面を水に濡らしたときの滑り具合について測定した。測定の仕方については、前述した測定機1を用いて前述した条件で摩擦抵抗を測定した。グリップの表面を水に濡らしたときについては、前述した結果と同様、本実施例のラバーグリップその1およびその2では、滑りにくくなった。言い換えると、グリップの表面が乾いているときと比較して、摩擦抵抗(摩擦係数)が小さくならなかった。逆に、摩擦抵抗(摩擦係数)が大きくなった。
【0063】
この結果より、ラバーグリップの原材料に分子量3000以上の水素化ブタジエン系重合体を加えることで、グリップの表面を水に濡らしたときに、滑りにくくすることができることがわかる。すなわち、グリップの表面が水に濡れた場合において、摩擦抵抗(摩擦係数)が小さくなることを防止することができる。
また、べたべた感を無くすためには、ゴムの質量の割合において天然ゴムを合成ゴムより多くすることが有効であることがわかる。ユーザーがラバーグリップを握ったときの感触としては、べたべた感がない方がよい。
従って、評価判定については、本実施例のラバーグリップその1は「◎」、本実施例のラバーグリップその2は「○」となる。
【0064】
尚、ゴム材の配合について、天然ゴム100部とした場合であっても、原材料に水素化ブタジエン系重合体を加えることで、グリップの表面を水に濡らしたときに、滑りにくくすることができる。また、合成ゴム(SBR)100部とした場合も同様の作用効果を得ることができる。またさらに、他の種類の合成ゴムを用いた場合も同様の作用効果を得ることができる。
【0065】
他の合成ゴムとして、例えば、ジェン系では、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR:ネオプレン)を挙げることができる。また、オレフィン系では、ブチルゴム(IIR:イソブチレンとイソプレンとの共重合体)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)、コロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)を挙げることができる。またさらに、アクリル酸アルキルエステル系では、アクリルゴム(ACM)を挙げることができる。また、エチレンアクリル系では、所謂、VAMAC、EMA(AEM)を挙げることができる。またさらに、有酸珪素化合物系では、シリコンゴムを、弗素化合物系では、バイトン、アフラス、テクノフロンを挙げることができる。また、多硫化物系では、チオコールを、ウレタン系では、ウレタンを、ポリエーテル系では、エピクロルヒドリンゴムを挙げることができる。
【0066】
本実施例において、天然ゴム100部としなかったのは、機能性(強度、弾性、防振性)、におい、加工性等を考慮したからである。においについては、ユーザーが天然ゴム特有のにおいを好まない虞がある。また、加工性については、素練りが必要となれば、工数が増え、生産効率が低下する虞が生じる。
ここで、「素練り」とは、ゴム材に薬品を加えて練る混練りをする前に、天然ゴムを練ることをいう。素練りによって、ゴム分子の凝集やゴム分子の絡み合いをほぐし、長いゴム分子を切断することができ、混練りを容易にすることができる。天然ゴムにしゃく解剤(ペプタイザー)を加えて練ることもある。
【0067】
また、合成ゴム100部としなかったのは、前述した本実施例のラバーグリップその2と同様、グリップの表面がべたべたした状態となるからである。
またさらに、合成ゴムとして、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)を用いたのは、べたべたした成分を内部に比較的安定して滞留させることができるからである。
【0068】
[ラバーグリップの製造工程]
続いて、本実施例のラバーグリップその1の製造工程について、順を追って以下に説明する。
<原材料の秤量工程>
練り装置において、一回分の練る量について、原材料のそれぞれの部数に応じた分量を計測する。ここで、一回分の練る量は、後述するゴム練り工程で使用する混合装置である所謂、バンバリーミキサー(以下、単に「ミキサー」)の大きさに応じて決定される。ミキサーには、大きく分けて密閉型二軸混合機と、シンプルなオープンロールとの2種類がある。いずれを用いてもよい。
【0069】
ここで、密閉型二軸混合機とは、ミキサーの内部に2軸の歯が回転するように設けられており、蓋を開けて原材料が内部に投入された後に蓋を閉めて密閉した状態で、原材料を混ぜる装置をいう。次から次へと原材料を投入して練る生産性を重視した場合に適している。
一方、オープンロールとは、2本のロールが対を成しており、2本のロールによって挟圧しながら原材料を混ぜ練る装置をいう。オープンロールを操作する者が目視しながら練るので、品質を重視した場合に適している。
【0070】
密閉型二軸混合機である場合、具体的には、一回分の練られるゴムの体積がミキサー内部を占める割合である充填率が、ミキサーの内部容量の約50〜80%となるように決められる。この理由は、この範囲において練り効率がよいからである。言い換えると、この範囲より多くても少なくても練り効率が下がるからである。
一方、オープンロールである場合、オープンロールの大きさや、オープンロールを操作する者の技量に応じて、一回分に練る量が決められる。混ぜ練る際、原材料は一方のロールにくっつきながら練られるように、2本のロール間において回転速度や温度に差が設けられている。
【0071】
続いて、具体的な秤量の仕方について説明する。
ゴム材が大きな固まり(大きなブロック状)である場合は、裁断して所望の分量にする。具体的には、天然ゴムを81.01部に応じた分量にする。また、合成ゴム(SBR)を18.99部に応じた分量にする。ゴム材が小さな固まり(小さなブロック状)である場合は、複数の固まりによって所望の分量にする。尚、秤量しやすくするために、大きな固まりのゴム材を予め細かく粉砕しておいてもよいのは勿論である。
【0072】
架橋剤、補強剤等の粉状の薬品は、例えば、所定の容器に入れて所望の分量にする。このとき、所定の容器を量りの上に配置することにより、分量を測定することができる。具体的には、架橋剤としての硫黄を2.50部に応じた分量にする。また、補強剤としてのホワイトカーボンを12.66部に応じた分量にする。同様に、加硫促進剤を1.27部、老化防止剤を1.27部に応じた分量にする。
【0073】
同様に、軟化剤、添加剤等の液状の薬品も、所定の容器に入れて所望の分量にする。具体的には、軟化剤としてのオイルを2.53部に応じた分量にする。また、添加剤としての水素化ブタジエン系重合体を3.80部に応じた分量にする。このとき、所定の容器を量りの上に配置することにより、分量を測定してもよいが、ポンプを有する注入器側において注ぐ量を量ってもよいことは勿論である。
尚、裁断および計測は、自動でもよいし、手動でもよいのは言うまでもない。
【0074】
<ゴム練り工程>
混合装置であるミキサーに秤量した原材料を投入する。そして、ミキサーの内部において、投入された複数の原材料を混ぜ合わせる。所謂、混練りである。このとき、ブロック状だったゴム材は、細かく粉砕され、練られる摩擦によってゴム材自体が発熱することにより柔らかい粘土状(所謂、練り消しゴムのように柔らかく変形する状態)になる。そして、柔らかい粘土状のゴム材に薬品が練り込まれる。
【0075】
投入する原材料の順番については、ブロック状であるゴム材、粉状の薬品、液体の薬品の順で投入することが望ましい。仮に、ゴム材よりも先に、粉状の薬品および液状の薬品を投入したとすると、薬品がミキサーの内面に付着することになり、後に投入されるゴム材がミキサーの内部でスリップして効率よく練ることができなくなるからである。尚、生産性を重視して、ブロック状であるゴム材、粉状の薬品、液体の薬品を同時に投入してもよいのは勿論である。
【0076】
本実施例では、先にゴム材を投入することにより、ミキサーの内部でゴム材をスリップさせずに効率よく練って柔らかい粘土状にすることができる。そして、後に薬品を投入することにより、柔らかい粘土状のゴム材に効率よく薬品を練り込むことができる。その結果、原材料の成分を均一に混ぜることができる。
ミキサーとして、例えば、オープンロールを使用する場合、一方のロールの温度を40℃に設定しておき、架橋剤および発泡剤(発泡剤を使用する場合に限る)を除くその他の原材料を投入し、約20分間練る。
【0077】
そして、ミキサーから練られた練りゴムが排出される。ここで、「練りゴム」とは、練られたゴムをいう。
尚、ゴム材を効率よく練るために、天然ゴムについては、前述した素練りによって、予め天然ゴムだけを練っておいてもよい。
また、ミキサーの内部において、ゴム材を練ると、前述したようにゴム材が発熱する。所謂、自然発熱である。ここで、架橋剤(硫黄)が投入されていると、化学反応が始まり、架橋(加硫)が始まる虞がある。同様に、発泡剤が投入されていると、化学反応が始まり、泡が生じる虞がある。
【0078】
そこで、第1ゴム練り工程と、第2ゴム練り工程とに分けることが望ましい。第1ゴム練り工程では、架橋剤(硫黄)および発泡剤以外の原材料を投入してゴム練りをする。第2ゴム練り工程では、第1ゴム練り工程で練られた練りゴムに、架橋剤(硫黄)および発泡剤(発泡剤を使用する場合に限る)を加えてゴム練りをする。これにより、架橋(加硫)が始まること、および泡が発生することを抑制することができる。
【0079】
第2ゴム練り工程では、架橋(加硫)が始まる温度より低く、かつ、発泡剤の化学反応が始まる温度より低く設定された所定の温度に達したとき、または、練り始めてから所定の時間が経過したとき、練りゴムを排出するように条件付けられている。
尚、架橋剤(硫黄)を遅い段階で投入する代わりに、早い段階で投入した架橋剤(硫黄)の化学反応を抑制する加硫遅延剤(やけ防止剤)を用いても良いのは勿論である。
【0080】
<圧延工程(シーチング)>
ゴム練り工程で練られた練りゴムをローラー対によってシート状に延ばす。尚、前述した第2ゴム練り工程に代えて、シート状に延ばす際、練りゴムに架橋剤(硫黄)および発泡剤(発泡剤を使用する場合に限る)を加えてからシート状に延ばすようにしてもよいのは勿論である。また、高温の練りゴムを、例えば一日置くことによって一度冷ましてから、架橋剤(硫黄)および発泡剤(発泡剤を使用する場合に限る)を加えてシート状に延ばしてもよい。架橋剤および発泡剤に対する練りゴムの余熱の影響を考慮するためである。
【0081】
シート状に延ばすことにより、所望の大きさに裁断しやすくすることができる。また、高熱の練りゴムを冷ますことができる。
この際、複数のローラー対によって徐々に厚みを薄くするようにして延ばすのが望ましい。練りゴムは粘性を有しているため、一気に薄くすることが困難であり、ローラーの軸が折れる虞があるからである。
【0082】
そして、シート状のゴムは、冷まされた後、所望の大きさに裁断される。
尚、望む部材の形状に応じて、圧延工程のローラー対によってではなく、押出機によってゴムの部材を得ることができる(押出工程)。具体的には、押出機の先端に設けられた口金の形状に応じて、断面形状が様々な部材を得ることができる。例えば、断面形状がシンプルな管状や棒状から複雑な部材を得ることができる。
【0083】
<成形(成型)・架橋工程>
裁断されたシート状のゴムを、必要な形状に成形する。
ここで、ゴムを単に「成形する」とは、ゴムを必要な形状に整えることをいう。ゴムの場合は、架橋することにより形が定まるので、架橋前の段階において架橋後の形に近い形状に整えるという意味で用いることとする。
【0084】
具体的には、完成品のラバーグリップに近い形状に整える。尚、本実施例において、完成品のラバーグリップの形状は、テニスラケット用として八角形の筒状のラバーグリップであって、一端側が開口となっており、他端側は塞がっている。また、本明細書では、架橋前の段階において、形状が整えられたゴムをゴム部材という。本実施例では、筒状のラバーグリップの軸方向に沿って半分に分割した形状に近い形状に整えたゴム部材を二つ準備する。そして、該二つのゴム部材(架橋前)を、架橋機(圧縮成形機ともいう。)の二つの金型にそれぞれ入れる。
【0085】
ここで、金型は、グリップを架橋成形するための分割タイプの型である。そして、二つの金型の中心に鉄心である所謂、マンドレルが位置するように、二つの金型で両側から挟むようにして合わせることにより、筒状のグリップを成形する。
尚、ゴム部材を、二つの金型側にセットしてから成形したが、マンドレル側にセットして成形してもよい。
【0086】
そして、ゴム部材は、金型の内部で圧縮され加熱される。すると、金型の内部において、ゴム部材が型に沿って変形する。言い換えると、金型の内部で流動する。そして、架橋剤(硫黄)が化学反応を起こし、架橋(加硫)が始まる。このとき、分子が結合し、ゴム分子鎖に三次元網目構造が形成されるため、ゴムが弾性を有するようになる。尚、発泡剤が用いられている場合は、泡が生じた後に架橋(加硫)が始まることは言うまでもない。
架橋(加硫)が終了したら、グリップの形に架橋成形されたゴム、言い換えると、「ラバーグリップ」を金型から出して冷ます。
【0087】
尚、本実施例では、同じゴム種で二つのゴム部材を準備したが、異なるゴム種で複数のゴム部材を準備してもよい。例えば、ラバーグリップのグリップ面に面する外側部分のゴム部材(以下、外側用ゴム部材という)と、前記面しない内側部分のゴム部材(以下、内側用ゴム部材という)とを、異なるゴム種で準備してもよい。係る場合、少なくとも外側用ゴム部材に、前述した水素化ブタジエン系重合体を用いればよい。前述したように、水に濡れたときに摩擦係数が小さくなることを防止することができるからである。水素化ブタジエン系重合体は比較的高価であるため、外側用ゴム部材のみに用いることにより、製造コストを下げることができる。係る場合は、内側用ゴム部材をマンドレルにセットして、その上から外側用ゴム部材を貼り合わせることにより、グリップを成形してもよい。
【0088】
<色入れ工程>
金型から出したラバーグリップに、着色剤を用いて色を入れる。ラバーグリップのベースとなる色は、ゴム練り工程で投入した着色剤によって色づけがされているので、ここでは、一部について色づけをする。例えば、美感をよくするために、黒地(ベース)に赤や青の線を入れることができる。
【0089】
<研磨工程>
仕上げとして、研磨機によってラバーグリップの表面を研磨し、該表面の状態を整える。特に、ラバーグリップの表面におけるユーザーが握る箇所である所謂、グリップ面の状態を整える。ここで、研磨工程は、架橋工程から少なくとも3日後に行うことが望ましい。この理由は、水素化ブタジエン系重合体の分子量にバラツキがあり、数日内に低分子ものがべたべたした成分として内部から表面であるグリップ面に浮き出てくる傾向がある。このべたべたした成分を除去するためである。一度研磨してべたべたして成分を除去した後は、高分子のものが内部に滞留し、長い年月をかけて少しずつグリップ面に浮き出てくると考えられる。従って、一度研磨した後は、水素化ブタジエン系重合体を用いたことによってグリップ面がべたべたすることはないと考えられる。
【0090】
また、研磨してグリップ面を僅かにざらざらした状態にすることにより、グリップ面におけるゴム分子鎖に形成された三次元網目構造を不規則にすることができると考えられる。これにより、内部に滞留した高分子のべたべたした成分が、前記三次元網目構造を通過しにくくすることができると考えられる。言い換えると、水素化ブタジエン系重合体のべたべたした成分がラバーグリップの内部から長い年月をかけてグリップ面に浮き出てくる量を出来るだけ少なくするように調整することができると考えられる。
【0091】
またさらに、研磨することによって、金型で成形したことによって生じた所謂、バリやスピュー等を除去する。ここで、「バリ」とは、金型の繋ぎ目からゴムがはみ出たことによって出来た細い線またはひだをいう。また、「スピュー」とは、金型の内側から空気を逃がすために金型に設けられた孔に、ゴムが流れ込んだことにより生じる小さなヒゲのような突起をいう。
【0092】
<検査工程>
仕上がったラバーグリップの品質を検査する。ここで、検査工程は、研磨工程から少なくとも3日後に行うことが望ましい。1週間後であれば、さらによい。この理由は、水素化ブタジエン系重合体のバラツキのある分子量のうちの低分子のものが、研磨工程において十分に除去されたか否かを判断するためである。研磨工程のときに低分子のものがグリップ面に出きっていれば、検査工程のときにグリップ面はさらさらした状態である。従って、グリップ面を目視し、さらに触れてみてさらさらした状態であれば、前記十分に除去されたと判断することができる。
【0093】
ここで、グリップ面がべたべたした状態であっても、前述したように、水に濡れたときに摩擦係数が小さくならないという作用効果を得ることができるが、グリップ面がさらさらした状態の方が、ユーザーに好まれる。従って、検査工程においては、グリップ面がさらさらしたものを合格とする。一方、べたべたしたものは、再度、研磨するべく研磨工程に戻す。
尚、ラバーグリップが、その他、規格で定めた範囲のものか否かを判定することは勿論である。例えば、重量については、規格で定めた範囲内に収まっているか否かを判定する。また、色については、例えば、光の反射率によって判断することができる。
【0094】
ラバーグリップの重量については、ゴム練り工程において発泡剤を加えて、架橋することにより、重量を軽量化することができる。
例えば、ゴルフクラブ用のラバーグリップにする場合、45g未満である44gにすることができる。これは、従来のゴルフグラブ用のグリップ部と比較して軽量である。例えば、前述したA社製グリップの重量は45〜50g、B社製グリップの重量は50g、C社製グリップの重量は55gである。
また、テニスラケット用のラバーグリップにする場合も、約45gにすることが可能である。従来では、テニスラケット用の約45gのような軽量なラバーグリップは存在していなかった。本実施例のラバーグリップは極めて使い勝手がよく有効である。
【0095】
尚、本実施例のラバーグリップその1の製造工程を例に説明したが、他の形状のものを製造する場合、架橋工程において使用する型を変更することにより他の形状のものを製造することができる。また、必ずしも型を用いることを要しない。例えば、前述した押出機によって押し出した形状のまま、加熱された空間を通過させることにより、ゴムを架橋することができる。ゴムの形状が、シンプルな長いシート状や長い筒状である場合に有効である。
【0096】
[テニスラケット等へのラバーグリップの取り付け工程]
ラバーグリップが、例えば、テニスラケット用である場合は、公知の製造方法(例えば、特開平7−194740)によって製造されたテニスラケット本体のシャフト部の端部を、ラバーグリップの内部に向かって圧力を加えて押し込む。この際、シャフト部側に接着剤を塗布してもよいのは勿論である。
【0097】
ここで、テニスラケット用のグリップとして、従来では、帯状、言い換えると、テープ状の部材であるグリップテープを製造していた。そして、グリップテープの内側となる面に接着剤を塗布していた。これを、テニスラケットのシャフト部に螺旋状に巻いて取り付けることによりグリップを形成していた。さらに、巻いて取り付けたグリップテープの端が解けないように別途、テープを巻いていた。また、前記シャフト部の端部を塞ぐ蓋である所謂、エンドキャップを取り付けていた。すなわち、グリップテープをシャフト部に巻き付けてグリップを形成するまでの工程数が多かった。また、特殊な装置も必要だった。
【0098】
そこで、本実施例のラバーグリップを用いた場合、圧力を加えて押し込むだけで、テニスラケットのシャフト部にラバーグリップを取り付けることができる。その結果、従来のテニスラケットと比較して、製造工程を少なくすることができる。すなわち、短時間で製造することができる。また、従来のテニスラケットの製造に用いていたグリップテープをシャフト部に螺旋状に巻き付ける複雑な装置を必要としない。また、本実施例のラバーグリップは、前記エンドキャップの役割をも果たす。従って、従来取り付けられていた前記エンドキャップを必要としない。即ち、分品点数をも少なくすることができる。
【0099】
尚、上記実施例では、前記水素化ブタジエン系重合体を加えたゴム組成物の一例としてテニスラケット用のラバーグリップについて説明したが、形状および用途についてはこの限りではない。ゴルフクラブ用のラバーグリップ、バトミントンラケット用のラバーグリップ、ヨガ用マット、サーフボード用デッキパッド、その他水や汗で人の手や足が滑る虞があるものについて幅広く用いることができる。
【0100】
また、本実施例のラバーグリップその1およびその2について説明したように、ゴム材の配合については、質量の割合において天然ゴムを合成ゴムより多くすることにより、グリップ面のべたべた感を低減することができる(本実施例のラバーグリップその1)。さらに、前述した研磨工程において研磨することにより、ラバーグリップが完成した後におけるべたべた感を無にすることができる。これは、特に、テニスラケット用のラバーグリップとして有効である。
【0101】
ここで、テニスプレーヤーは、プレー中にラケットのグリップを片手で握りながら、瞬時に握力を弱めてテニスラケットの打撃面である所謂、フェースの向きを変える。そして、場面に応じて相手側のコートに返球する。この際、フォアハンドストローク、バックハンドストローク、ボールに回転をかける、回転をかけない、等に応じて所謂、イースタングリップの握り方、コンチネンタルグリップの握り方、ウエスタングリップの握り方、セミウエスタングリップの握り方間で大きく握り方を切り替えることや、ボールコントロールのため適宜、フェースの向きを微妙に変えるために握り直すことが多々ある。グリップ面においてべたべた感が無いと、前記フェースの向きを変えやすく、テニスプレーヤーにとって使い勝手が非常によい。
【0102】
仮に、グリップ面にべたべた感があると、テニスプレーヤーがフェースの向きを瞬時に変えようと思って握力を弱めた場合であっても、グリップが手にくっついたままの感覚があり、手から離れるような感覚である手離れ感を得ることができない。このとき、テニスプレーヤーが戸惑ってしまう虞がある。また、実際にグリップが手にくっついたままであり、前記フェースの向きを変えることができない虞がある。
このような理由で、本実施例のラバーグリップその1は、特に、テニスラケット用のラバーグリップとして有効である。
【0103】
[他の実施例]
上記実施例では基材ポリマーをゴムとして説明したが、基材ポリマーを、熱可塑性エラストマー(TPE)としてもよい。係る場合のグリップ(以下、熱可塑性エラストマーグリップという)の製造方法は、基本的には、公知の熱可塑性エラストマーの射出成形または押出成形による製造方法(成形方法)と同様であるが、前述したラバーグリップと製造方法が異なるので、以下に説明する。
先ず、ペレット状の熱可塑性エラストマーに前記水素化ブタジエン系重合体を加える。このとき、必要に応じて、着色剤を加えてもよい。次に、混ぜながら熱を加えて溶かす。そして、金型に流し込んで冷ましてから、金型から取り出す。その後、研磨してバリ等を除去することにより、熱可塑性エラストマーグリップを完成させることができる。
【0104】
熱可塑性エラストマー(TPE)を用いた場合、前述した練り工程を必要としない。また、架橋しなくてもよい場合がある。従って、ラバーグリップの製造と比較して、容易に熱可塑性エラストマーグリップを製造することができる。また、ラバーグリップと比較して、容易に着色することができる。所謂、スケルトンタイプである半透明にすることも可能である。
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0105】
1 測定機、2 台座部、3 摩擦子、3a 金属片、3b 豚皮革、4 牽引糸、
5 滑車、6 ガイド車、7 グリップのサンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物の原材料として、
天然ゴムおよび/または合成ゴムから成る基材ポリマーと、
分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有する添加剤と、
架橋剤と、を含有し、架橋されたことにより形成されたゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のゴム組成物において、前記水素化ブタジエン系重合体の分子量は、数平均分子量2500以上であることを特徴とするゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物において、前記基材ポリマーは、主成分として天然ゴムを含むこと、を特徴とするゴム組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のゴム組成物において、前記水素化ブタジエン系重合体は、1,2−結合が過半数を占める割合で含有されていること、を特徴とするゴム組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載されたゴム組成物により形成されたグリップ。
【請求項6】
天然ゴムおよび/または合成ゴムから成る基材ポリマーと、分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有する添加剤と、架橋剤と、を加えて練るゴム練り工程と、
該ゴム練り工程において練られた練りゴムを、グリップの形状に形成し、架橋する架橋工程と、を具備するグリップの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のグリップの製造方法において、前記架橋工程の後に、前記グリップの表面を研磨する研磨工程を、さらに具備するグリップの製造方法。
【請求項8】
ガットが張られるヘッド部と、該ヘッド部と繋がるシャフト部と、該シャフト部の自由端側に形成されるグリップ部と、を有するテニスラケットの製造方法であって、
天然ゴムおよび/または合成ゴムから成る基材ポリマーと、
分子量が2500以上の水素化ブタジエン系重合体を有する添加剤と、
架橋剤と、を含有し、架橋されたことにより形成された筒状のグリップに対して、テニスラケット本体の前記シャフト部を、圧入する圧入工程を具備するテニスラケットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−21063(P2012−21063A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158971(P2010−158971)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【特許番号】特許第4775979号(P4775979)
【特許公報発行日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(510192983)オーイソ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】