説明

ゴム組成物、シール材、耐DME用ゴム組成物、及び、ゴム成分の耐DME性の付与方法

【課題】DMEに対して優れた耐性を有する新規なゴム組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分と、前記ゴム成分のDMEによる膨潤を抑制するとともに、前記ゴム成分に滑性を付与する膨潤抑制滑材と、を含有する。膨潤抑制滑材は、ポリエチレンパウダー、シリコーンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダーのうち少なくとも何れか一つを含有する。前記ゴム成分は、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)のうち少なくとも何れか一つを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、そのゴム組成物を用いるシール材、耐DME用ゴム組成物、及び、ゴム成分の耐DME性の付与方法に関する。より詳しくは、DMEを製造・貯蔵・輸送・供給・使用する段階で、気体または液体のDMEと接触するシール材を形成するのに適したゴム組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
ジメチルエーテル(DME)は、CHOCHという化学構造を有し、LPGに類似した物性を有する。DMEは、常温常圧ではガス体であるが、加圧あるいは低温、いずれかによって容易に液化する。
【0003】
DMEは、天然ガス・随伴ガス・石炭等をガス化して得られる合成ガス(CO、H)を原料としてDME合成によって得られる。
【0004】
DMEは、燃やした時に煤塵・SOxが発生せず、NOxも少なく、クリーンな環境性に優れた次世代の燃料として注目されている。
【0005】
近年では、このようなDMEを軽油およびLPGの代替燃料として利用しようとする動きがあり、発電用・ボイラー用・家庭用・自動車用等の燃料等としての利用が検討されている。
【0006】
DMEを燃料等として利用する場合、燃料の貯蔵タンクや配管等のシール材材として、NBRやフッ素ゴム等のゴム成分が使用されるが、これらのゴム成分はDMEに対する耐性が比較的低い。
【0007】
即ち、DMEは化学的にはエーテルに分類され、パラフィン系炭化水素であるプロパンやブタンからなるLPGとは化学的性質がまったく異なり、ゴム成分に対して、ゴムの膨潤現象並びにゴムの抽出現象が発生しやすいという特徴を有している。
【0008】
DMEによるゴムの膨潤現象とは、DMEが、ゴム組成物に含有される可塑剤成分等を押しのける形でゴム組成物内部に入り込むことによって起こる。DMEがゴム組成物内部に入ることにより、ゴム組成物自体の体積が増大する。
【0009】
そのため、DME存在下で、例えばゴム組成物で形成されたOリングパッキンとして使用すると、Oリングが膨潤して、パッキンの可動部の摺動性が著しく低下する。これにより、回栓等の操作が困難となることもある。
【0010】
また、DMEによるゴムの抽出現象とは、上述のゴム組成物の膨潤現象によってゴム組成物内部に入り込んだDMEが、その後ゴム組成物外部へ放出されることにより発生する。即ち、DMEがゴム組成物外部へ放出されても、膨潤現象の際にゴム組成物の外部へ押しのけられた可塑剤成分は再びゴム組成物の内部に入り込めず、ゴム組成物自体の体積は当初よりも減少する。
【0011】
そのため、DME存在下でOリングが膨潤し、その後にDMEがゴム組成物の外部へ放出されると、Oリングでシールしていた装着部に隙間が空き、これによりガス等の漏れが生じるおそれがある。
【0012】
そこで、DMEが燃料として有力な候補として注目されているなか、DMEに対する耐性(耐DME性)が高いゴム組成物の開発が求められる。
【0013】
特許文献1では、ニトリルゴムのアクリロニトリル含量を増加させたゴム組成物を用いることにより、ゴム成分にDMEに対する耐性を与えることが試みられている。
【0014】
しかし、特許文献1記載の技術におけるゴム組成物では、実際のDME存在下におけるパッキンとして使用しうる程度のDME耐性を持つには至っていない。
【特許文献1】特開2004−137391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、DMEに対して優れた耐性を有する新規なゴム組成物、及び、そのようなゴム組成物を使用するシール材、さらには、ゴム成分に対して新規で効果的な耐DME性付与方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、この発明の第1の観点に係るゴム組成物は、
ゴム成分と、
前記ゴム成分のジメチルエーテル(DME)による膨潤を抑制するとともに、前記ゴム成分に滑性を付与する膨潤抑制滑材と、を含有する、ことを特徴とする。
【0017】
また、前記膨潤抑制滑材は、ポリエチレンパウダー、シリコーンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダーのうち少なくとも何れか一つを含有する、ことも可能である。
【0018】
また、前記ゴム成分は、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)のうち少なくとも何れか一つを含有する、ことも可能である。
【0019】
また、前記膨潤抑制滑材の含有量が、前記ゴム成分100重量部に対して、10重量部以上50重量部以下である、ことも可能である。
【0020】
また、充填剤として、カーボンブラック、シリカ、クレーのうち少なくとも何れか一つを含有する、ことも可能である。
【0021】
また、上記目的を達成するため、この発明の第2の観点に係るシール材は、
請求項1〜5の何れかに記載のゴム組成物を用いる、ことを特徴とする。
【0022】
また、上記目的を達成するため、この発明の第3の観点に係るゴム成分の耐DME性の付与方法は、
シール材に使用されるゴム成分に、前記ゴム成分のジメチルエーテル(DME)による膨潤を抑制するとともに、前記ゴム成分に滑性を付与する膨潤抑制滑材を含有させる、ことを特徴とする。
【0023】
また、前記膨潤抑制滑材は、ポリエチレンパウダー、シリコーンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダーのうち少なくとも何れか一つを含有する、ことも可能である。
【0024】
また、前記ゴム成分は、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)のうち少なくとも何れか一つを含有する、ことも可能である。
【0025】
また、前記膨潤抑制滑材の含有量が、前記ゴム成分100重量部に対して、10重量部以上50重量部以下である、ことも可能である。
【0026】
また、充填剤として、カーボンブラック、シリカ、クレーのうち少なくとも何れか一つを含有する、ことも可能である。
【0027】
また、上記目的を達成するため、この発明の第4の観点に係る耐DME用ゴム組成物は、
ゴム成分と、
ポリエチレンパウダー、シリコーンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダーのうち少なくとも何れか一つを含有する添加剤と、を含有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るゴム組成物は、DMEに対して優れた耐性を有する新規なゴム組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
〔ゴム組成物・ゴム成分の耐DME性の付与方法〕
本実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分と、膨潤抑制滑材と、を有する。また、本実施形態に係るゴム成分の耐DME性の付与方法は、シール材に使用されるゴム成分に、膨潤抑制滑材を含有させる。
【0030】
ゴム組成物に、DMEによる膨潤を抑制させる効果のみを有する添加材を充填したとしても、仮にゴム組成物がシール材に成形された場合は摺動性が悪く、シール材としての機能が不十分となるおそれがある。
そこで、本発明では、ゴム組成物に、ゴム組成物のDMEによる膨潤を抑制し、かつ、ゴム組成物に滑性を付与する部材である、膨潤抑制滑材を含有させる。
【0031】
膨潤抑制滑材は、ポリエチレンパウダー、シリコーンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダー等、若しくは、これらの混合物を使用することができる。
さらには、膨潤抑制滑材として、ナイロンパウダー、ポリメチルメタクリレートパウダー、ポリウレタンパウダー、ポリスチレンパウダー、ポリエステルパウダー、ミクロスポンジ、メチルセスキオキサン樹脂ミクロビーズ等も使用することができる。
【0032】
ポリエチレンパウダーは、ポリエチレンを粉末状に加工したものであるならば、低密度、中密度、若しくは、高密度の何れのものであっても特に制限はされない。
【0033】
ポリエチレンパウダーは、平均分子量が3万以上であるのが好ましく、100万以上であるのがより好ましい。平均分子量が3万より小さいと、耐摩耗性が向上されない可能性がありうるためである。
【0034】
ポリエチレンパウダーの平均粒径は、1μm〜600μmであるのが好ましく、20μm〜300μmであるのがより好ましい。平均粒径が1μmよりも小さいと、ゴム組成物中での分散性が低下するおそれがありうるからである。一方、平均粒径が600μmよりも大きいと、後述するようにOリング等に成形加工したときの外観不良が発生するおそれがありうるからである。
【0035】
具体的なポリエチレンパウダーとしては、例えば、三井化学(株)のミペロンXM−220、ミペロンXM−221Uや、旭化成(株)のサンファインLH411等を用いることができる。
【0036】
シリコーンパウダーは、シリコーンレジンパウダー、シリコーンゴムパウダー、若しくは、球状のシリコーンゴムパウダーの表面をシリコーンレジンで被覆した球状粉末であるシリコーン複合パウダーのいずれであっても好適に使用することができる。
【0037】
シリコーンパウダーの硬度は、例えばデュロA硬度が20〜80とすることが可能であり、好ましくは35〜55である。樹脂硬度が20〜80の範囲であると、ゴム組成物の弾性率を低減するのに有効であると共に、強度の低下が少ないからである。
【0038】
シリコーンパウダーの形状は、球状若しくは略球状であることが好ましい。
【0039】
シリコーンパウダーの平均粒径は、例えば0.1〜500μmとすることが可能であり、好ましくは1〜200μmである。平均粒径が0.1μmよりも小さいと、ゴム組成物中での分散性が低下するおそれがありうるからである。一方、平均粒径が500μmよりも大きいと、成形加工したときの外観不良が発生するおそれがありうるからである。
【0040】
具体的なシリコーンレジンパウダーとしては、例えば、GE東芝シリコーン(株)のトスパール120、トスパール120A、トスパール130、トスパール145、トスパール145A、トスパール2000B*、トスパール2000B、トスパール240*、トスパール3120等を使用することができる。また、例えば、信越化学工業(株)のKMP−590、KMP−701、X−52−854等を使用することができる。
【0041】
また、具体的なシリコーンゴムパウダーとしては、例えば、信越化学工業(株)のKMP−597、KMP−598、KMP−594、X−52−875等を用いることができる。
【0042】
また、具体的なシリコーン複合パウダーとしては、例えば、信越化学工業(株)のKMP−600、KMP−601、KMP−602、KMP−605、X−52−7030等を用いることができる。
【0043】
ポリテトラフルオロエチレンパウダーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を粉末状に加工したものであるならば特に制限はされない。
【0044】
ポリテトラフルオロエチレンパウダーの平均分子量は5万〜1000万とすることが好ましい。平均分子量が1000万よりも大きいと、ポリテトラフルオロエチレンパウダーのゴム組成物中の分散性が低下するおそれがありうるからである。一方、平均分子量が5万よりも小さいと、摺動性が向上されない可能性がありうるからである。
【0045】
ポリテトラフルオロエチレンパウダーの平均粒子径は、例えば1μm〜200μmとすることが可能であり、好ましくは10〜100μmである。平均粒径が1μmよりも小さいと、ゴム組成物中での分散性が低下するおそれがありうるからである。一方、平均粒径が200μmよりも大きいと、成形加工したときの外観不良が発生するおそれがありうるからである。
【0046】
具体的なポリテトラフルオロエチレンパウダーとしては、例えば旭硝子(株)製のFluon(登録商標)G190シリーズや、ダイキン工業(株)製のニューポリフロンM−111、ルブロンL−2等を使用することができる。
【0047】
ゴム成分としては、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ニトリルゴム(NBR)、若しくは、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等を使用することができる。
【0048】
ニトリルゴム(NBR)は、アクリロニトリル含有量が、低ニトリル(含有量24%以下)、中ニトリル(含有量25%〜30%)、中高ニトリル(含有量31%〜35%)、高ニトリル(含有量36%〜42%)、極高ニトリル(含有量43%以上)のいずれのものであっても好適に使用することができる。
【0049】
水素化ニトリルゴム(HNBR)は、ニトリル−共役ジエン共重合ゴムの共役ジエン単位部分を水素化したもの、ニトリル−共役ジエン−エチレン性不飽和モノマー三元共重合ゴムの共役ジエン単位部分を水素化したもの、ニトリル−エチレン性不飽和モノマー系共重合ゴム等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)は、エチレン−プロピレン鎖中に導入される第3成分としては、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4−ヘキサジエン(1,4−HD)、ジシクロペンタジエン(DCP)等の種々のものを使用することができる。
【0051】
上述した膨潤抑制滑材の含有量は、ゴム成分100重量部に対して、10〜50重量部とすることができる。膨潤抑制滑材の含有量が10重量部よりも少ないと、DME浸漬後のゴム組成物の体積変化率が大きくなるおそれがありうるからである。一方、膨潤抑制滑材の含有量が50重量部よりも多いと、ゴム組成物自体の含有割合が相対的に小さくなることで、成形加工性が悪くなる可能性がありうるからである。なお、膨潤抑制滑材を50重量部より多く含有させることで成形加工性が若干悪化したとしても、それは成形加工手段の問題であり、膨潤抑制滑材を50重量部以上含有させることができないわけではない。
【0052】
また、本実施形態に係るゴム組成物には、充填剤を含有させることができる。充填材としては、カーボンブラック、シリカ、クレー等を好適に使用することができる。
【0053】
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等を使用することができる。
【0054】
シリカ、クレー以外の無機系充填剤としては、アルミニウム、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀等の金属粉、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ベリリウム等の酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アルミネート水和物等の水酸化物、タルク、マイカ、アスベスト、ベントナイト、ゼビオライト、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト等のケイ酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩、硫酸塩硫酸カルシウム、亜硫酸塩硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩を使用することが可能であり、さらに、二硫化モリブデン、チタン酸カリウム、炭化ケイ素等も無機系充填剤として使用できる。
【0055】
さらには、充填剤としては、有機系充填剤も使用することが可能であり、例えば、リンター、リネン、サイザル木粉、絹、皮革粉、コラーゲン繊維、ビスコース、アセテート等を使用することができる。
【0056】
その他、本実施形態に係るゴム組成物には、ゴム成分及び膨潤抑制滑材以外にも、所定の配合量の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤等を含有させることができる。加硫剤としては、例えば、硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド等の硫黄系加硫剤の他に、有機過酸化物、金属酸化物等の非硫黄系加硫剤も用いることができる。加硫促進剤としては、例えば、チウラム系、チアゾール系、スルフェンアミド系、スルフィド系、チオ尿素系の化合物等を用いることができる。加硫遅延剤としては、例えば、サリチル酸等を使用できる。
【0057】
さらに、本実施形態に係るゴム組成物には、品質改良等を目的として、可塑剤、酸化防止剤、軟化剤、粘着性付与剤、老化防止剤等の各種添加剤を含有させることができる。可塑剤としては、具体的には、例えば、フタル酸エステル、ジアリルフタレート、アジピン酸エステル、脂肪酸エステル、トリメリット酸エステル等の合成可塑剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ジオクチル化ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン等のp−フェニレンジアミン系酸化防止剤等を含有させることができる。軟化剤としては、例えば、脂肪酸、トール油等を使用することができる。老化防止剤は、耐熱性老化防止剤、耐候性老化防止剤等でゴム組成物に通常使用されるものであれば特に限定されないが、その具体例としては、N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N,N′−ジナフチル−p−フェニレンジアミン(DNPD)、N−イソプロピル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン(IPPD)、スチレン化フェノール(SP)等が挙げられる。
【0058】
本実施形態に係るゴム組成物は、下記の方法により製造される。
即ち、まず、HNBR等のゴム成分100重量部あたり、ポリエチレンパウダー等の膨潤抑制滑材を例えば10〜50重量部含有させ、そして、硫黄等の加硫剤や、チウラム系加硫促進剤等を含有させて、加硫されていないゴム組成物を得る。
【0059】
このゴム組成物を例えば130℃〜200℃程度の所定の温度で、例えば10〜20分間の間、一次加硫した後に、例えば140℃〜180℃程度の所定の温度で、例えば30分〜2時間の間、二次加硫することにより得ることができる。
【0060】
〔耐DME用ゴム組成物〕
本実施形態に係る耐DME用ゴム組成物は、DME耐性を有し、気体または液体のDMEと接触する環境下にて使用されるという用途に用いられるゴム組成物である。
【0061】
耐DME用ゴム組成物は、ゴム成分と、添加剤と、を有する。
【0062】
ゴム成分としては、上述したように、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ニトリルゴム(NBR)、若しくは、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等を使用することができる。
【0063】
添加剤としては、上述した、ポリエチレンパウダー、シリコーンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダー等を使用することができる。
【0064】
また、耐DME用ゴム組成物には、上述した、充填剤、所定の配合量の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤等を含有させることが可能である。
【0065】
〔シール材〕
本実施形態に係るシール材は、その材質として本実施形態に係るゴム組成物を使用して成形加工するものである。
【0066】
シール材は例えば図1に示されるようなOリング900に加工することができる。横配管100の一端には、縦配管400が接続される。縦配管400の上端には、管の内面の円周方向に沿って凹設したOリング溝が形成されている。そして、Oリング溝にはOリング900が嵌め込まれる。Oリング900に接するように金属等で形成される栓200が縦配管400内部に嵌め込まれる。栓200の上部にはハンドル300が設けられている。
【0067】
たとえ横配管100の他端から液体若しくは気体のDMEが流れ、図1に矢印で示すように、栓200の近傍に流れてきて、Oリング900に接触したとしても、Oリング900は本実施形態に係るゴム組成物で形成されている。そのため、DMEの膨潤・抽出現象により、Oリング900のシール性能が悪化しにくいだけではなく、摺動性の向上によりスムーズな開栓等が可能である。
【0068】
なお、Oリング900の形状としては、図1に示すような横断面形状が中実丸型のものに限定されるのではなく、種々の形状が可能であり、例えば横断面形状が中心に空孔を有する円環型でもよい。
【0069】
また、Oリング900の設置される場所も、図1に示されるものに限定されることはなく、例えば、配管の端部近傍の外周面に設置されることも可能である。
【0070】
さらには、本実施形態に係るゴム組成物を加工して形成されるシール材の具体的形状はOリングに限定されるものではなく、例えば、Vパッキン、Uパッキン、カップパッキン、フランジパッキン等の種々の形状が可能である。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
ゴム成分としてHNBR(日本ゼオン株式会社製、Zetpol 0020)を100重量部、膨潤抑制滑材としてポリエチレンパウダー(三井化学株式会社製 ミペロンXM−220)を10重量部、加硫剤として有機過酸化物を5重量部配合したゴム組成物を、170℃で10分間一次加硫した後に、150℃で2時間二次加硫し、その後成形することでゴム組成物の試験片を作成した。
【0072】
(実施例2)
膨潤抑制滑材としてのポリエチレンパウダーを50重量部含有させる以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物の試験片を作成した。
【0073】
(実施例3)
膨潤抑制滑材としてのポリエチレンパウダーを150重量部含有させる以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物の試験片を作成した。
【0074】
(比較例)
膨潤抑制滑材としてのポリエチレンパウダーを含有させない以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物の試験片を作成した。
【0075】
このようにして作成したゴム組成物の試験片に対して、圧縮永久歪み率(%)、DME浸漬後の体積変化率(%)、動摩擦係数、破断点強度(MPa)、破断点伸び(%)、硬さ(デュロA硬度)、をそれぞれ測定した。
【0076】
圧縮永久歪み率(%)は、ゴム組成物のシール性を試験するものであり、JIS K6262に準拠して試験を行った。試験片の形状は、大径試験片を使用した。即ち、直径が290±0.5mmであり、厚さが12.5±0.5mmであった。試験片の硬さがIRHDで10〜79であったので、試験片を圧縮する割合として25%を選択した。試験時間は、72時間とした。
【0077】
試験室の標準状態にて、試験片を圧縮装置の圧縮板の間の中央部に、規定のスペーサを試験片の外側にそれぞれ挿入し、その後、圧縮板がスペーサに密着するまで圧縮し、保持具を締め付けてその状態に固定した。
試験片を圧縮後、あらかじめ試験温度に調節した恒温槽に、直ちに圧縮装置をいれた。このときを試験開始時間とし、100±1℃で加熱した。
加熱処理の終了後、圧縮装置を恒温槽から取り出し、試験片を素早く圧縮装置から取り外し、台の上に置き、試験室の標準状態で30±3分間放置した後、試験片の中央部の厚さの測定を数式(1)にて行った。
【0078】
【数1】

【0079】
ここで、Csは圧縮永久歪み(%)であり、tは試験片のもとの厚さ(mm)であり、tはスペーサの厚さ(mm)であり、tは試験片を圧縮装置から取り外して30分後の厚さ(mm)である。
【0080】
実施例1の圧縮永久歪み率は30%で、実施例2の圧縮永久歪み率は40%で、実施例3の圧縮永久歪み率は61%で、比較例の圧縮永久歪み率は25%であった。
【0081】
次に、動摩擦係数は、ゴム組成物の摺動性を試験するものであり、JIS K6264に準拠して試験を行った。オリエンテック社製鈴木・松原式摩擦摩耗試験機を使用し、荷重10kgf/cm2、速度60m/分、距離10mmの下で測定した。
【0082】
実施例1の動摩擦係数は0.84で、実施例2の動摩擦係数は0.83で、実施例3の動摩擦係数は0.98で、比較例の動摩擦係数は0.83であった。
【0083】
次に、DME浸漬後の体積変化率は、JIS K6258に準拠して測定を行った。
耐圧容器に、20mm×50mm×厚さ2mmの試験片を3枚いれ、液化DMEを注入した。
そして40℃にて24時間放置した。その後、DMEを抜き、速やかに試験片を取り出してデシケータに入れた。デシケータから試験片を取り出し、12分後の体積変化率を数式(2)にて行った。
【0084】
【数2】

【0085】
ここで、Vaは浸漬後の体積であり、Vbは浸漬前の体積であり、Vcは体積変化率である。
【0086】
実施例1の体積変化率は30%で、実施例2の体積変化率は30%で、実施例3の体積変化率は22%で、比較例の体積変化率は39%であった。
【0087】
次に、破断点強度(MPa)は、JIS K6251に準拠して試験を行った。
実施例1の破断点強度は15.4MPaで、実施例2の破断点強度は16.9MPaで、実施例3の破断点強度は14.3MPaで、比較例の破断点強度は18.4MPaであった。
【0088】
次に、破断点伸び(%)は、JIS K6251に準拠して試験を行った。
実施例1の破断点伸びは400%で、実施例2の破断点伸びは390%で、実施例3の破断点伸びは240%で、比較例の破断点伸びは400%であった。
【0089】
次に、硬さ(デュロA)は、JIS K6253に準拠して試験を行った。
実施例1の硬さは90で、実施例2の硬さは91で、実施例3の硬さ97で、比較例の硬さは84であった。
【0090】
これらの試験の結果を下記表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
動摩擦係数に関しては、実施例1〜実施例3において、良好な結果であった。特に実施例1と実施例2は、実施例3に比較して動摩擦係数が低く、シール材に成形加工した場合に特に摺動性に優れていることがわかる。
【0093】
圧縮永久歪に関しては、実施例1〜実施例3において、良好な結果であった。特に実施例1と実施例2は、実施例3に比較して圧縮永久歪が低く、シール材に成形加工した場合に特にシール性に優れていることがわかる。
【0094】
DME浸漬後の体積変化率に関しては、比較例は39%という大きな体積変化率であった。しかしながら、実施例1は30%、実施例2は30%、実施例3は22%といずれも良好な値であり、実施例1〜実施例3は、比較例と異なり、耐DME性を有していることがわかった。
【0095】
従って、ゴム成分に膨潤抑制滑材としてのポリエチレンパウダーを含有させたゴム組成物の場合、Oリング等のシール材に成形加工したとしても、そのようなシール材は、摺動性に優れ、シール性に優れることはもちろんのこと、耐DME性に優れるという非常に優れた物性を示すことが理解される。
【0096】
(実施例4)
ゴム成分としてHNBR(日本ゼオン株式会社製、Zetpol 0020)を100重量部、膨潤抑制滑材としてシリコーンパウダー(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、トスパール2000B)を10重量部、加硫剤として有機過酸化物を5重量部配合したゴム組成物を、170℃で10分間一次加硫した後に、150℃で2時間二次加硫し、その後成形することでゴム組成物の試験片を作成した。
【0097】
(実施例5)
膨潤抑制滑材としてのシリコーンパウダーを50重量部含有させる以外は、実施例4と同様にしてゴム組成物の試験片を作成した。
【0098】
このようにして作成したゴム組成物の試験片に対して、圧縮永久歪み率(%)、DME浸漬後の体積変化率(%)、動摩擦係数、破断点強度(MPa)、破断点伸び(%)、硬さ(デュロA硬度)、上述と同様の手法にて、それぞれ測定した。
【0099】
実施例4の圧縮永久歪み率は28%で、実施例5の圧縮永久歪み率は30%であった。
【0100】
実施例4の体積変化率は32%で、実施例5の体積変化率は32%であった。
【0101】
実施例4の動摩擦係数は0.82で、実施例5の動摩擦係数は0.73であった。
【0102】
実施例4の破断点強度は14.9MPaで、実施例5の破断点強度は13.7MPaであった。
【0103】
実施例4の破断点伸びは360%で、実施例5の破断点伸びは350%であった。
【0104】
実施例4の硬さは89で、実施例5の硬さは90であった。
【0105】
これらの試験の結果を下記表2に示す。
【0106】
【表2】

【0107】
動摩擦係数に関しては、実施例4及び実施例5において、良好な結果であった。また、圧縮永久歪についても、実施例4及び実施例5において、良好な結果であった。
【0108】
DME浸漬後の体積変化率に関しては、比較例は39%であったにもかかわらず、実施例4は32%、実施例5は32%といずれも良好な値であり、実施例4及び実施例5は、比較例と異なり、耐DME性を有していることがわかった。
【0109】
従って、ゴム成分に膨潤抑制滑材としてのシリコーンパウダーを含有させたゴム組成物の場合、Oリング等のシール材に成形加工したとしても、そのようなシール材は、摺動性に優れ、シール性に優れることはもちろんのこと、耐DME性に優れるという非常に優れた物性を示すことが理解される。
【0110】
以上より、HNBR等のゴム成分に、膨潤抑制滑材としてポリエチレンパウダーやシリコーンパウダーを含有させたゴム組成物は、摺動性に優れ、耐DME性に優れ、さらにOリング等のシール材に成形加工したとしてもシール性に優れることが判明した。膨潤抑制滑材としてポリテトラフルオロエチレンパウダーを含有させた場合も同様に摺動性に優れ、耐DME性に優れ、さらにOリング等のシール材に成形加工したとしてもシール性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本実施形態に係るシール材の使用形態を説明する図である。
【符号の説明】
【0112】
100 横配管
200 栓
300 ハンドル
400 縦配管
900 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、
前記ゴム成分のジメチルエーテル(DME)による膨潤を抑制するとともに、前記ゴム成分に滑性を付与する膨潤抑制滑材と、を含有する、
ことを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項2】
前記膨潤抑制滑材は、ポリエチレンパウダー、シリコーンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダーのうち少なくとも何れか一つを含有する、
ことを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分は、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)のうち少なくとも何れか一つを含有する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記膨潤抑制滑材の含有量が、前記ゴム成分100重量部に対して、10重量部以上50重量部以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
充填剤として、カーボンブラック、シリカ、クレーのうち少なくとも何れか一つを含有する、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のゴム組成物を用いたシール材。
【請求項7】
シール材に使用されるゴム成分に、前記ゴム成分のジメチルエーテル(DME)による膨潤を抑制するとともに、前記ゴム成分に滑性を付与する膨潤抑制滑材を含有させる、
ことを特徴とする、ゴム成分の耐DME性の付与方法。
【請求項8】
前記膨潤抑制滑材は、ポリエチレンパウダー、シリコーンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダーのうち少なくとも何れか一つを含有する、
ことを特徴とする請求項7記載のゴム成分の耐DME性の付与方法。
【請求項9】
前記ゴム成分は、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)のうち少なくとも何れか一つを含有する、
ことを特徴とする請求項7又は8記載のゴム成分の耐DME性の付与方法。
ゴム組成物。
【請求項10】
前記膨潤抑制滑材の含有量が、前記ゴム成分100重量部に対して、10重量部以上50重量部以下である、
ことを特徴とする請求項7乃至9の何れか1項に記載のゴム成分の耐DME性の付与方法。
【請求項11】
充填剤として、カーボンブラック、シリカ、クレーのうち少なくとも何れか一つを含有する、
ことを特徴とする請求項7乃至10の何れか1項に記載のゴム成分の耐DME性の付与方法。
【請求項12】
ゴム成分と、
ポリエチレンパウダー、シリコーンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダーのうち少なくとも何れか一つを含有する添加剤と、を含有する、
ことを特徴とする、耐DME用ゴム組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−298936(P2009−298936A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155670(P2008−155670)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【出願人】(591148369)株式会社ハマイ (9)
【Fターム(参考)】