説明

ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

【課題】タイヤにおける低減された転がり抵抗と耐摩耗性とのバランスを高いレベルで保持しつつ、特に耐摩耗性の向上に優れたゴム組成物及びこれを用いたタイヤを提供すること。
【解決手段】本発明のゴム組成物は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)を含むゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック(B)を10〜250質量部の量で配合してなるゴム組成物であって、
前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)が、特定の製法で得られた、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体であり、かつ前記カーボンブラック(B)が、特定の製法により得られる特定の性状を有し、かつ特定の条件を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の共重合体を含むゴム成分とカーボンブラックとを含み、特に優れた耐摩耗性を発揮し得るゴム組成物、及びこれを用いて得られる高性能なタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー、省資源の社会的要請の下、自動車の燃料消費量を節約するため、転がり抵抗の小さいタイヤが求められている。このような要求に対し、タイヤの転がり抵抗を減少させる手法として、カーボンブラックの使用量を低減したり、低級カーボンブラックを使用したりすることにより、ヒステリシスロスの低下したゴム組成物をタイヤ部材、特にトレッドゴムに用いる方法が知られている。かかるヒステリシスロスの低下したゴム組成物であれば、タイヤに用いた際に有効に転がり抵抗を低減し得るものの、これと二律背反する耐摩耗性をも有用なレベルで維持するのは容易ではなく、さらに種々の試みがなされている。
【0003】
こうしたなか、例えば特許文献1には、カーボンブラックの表面特性、特に水素含有量と未分解多環芳香族炭化水素残存量に着目し、カーボンブラックへの熱履歴の最適化を行うことで、耐摩耗性等の低下を抑制し得るゴム組成物が開示されており、これによって、タイヤの耐摩耗性及びヒステリシスロス特性の両立を図っている。
【0004】
その一方、ゴム成分に含まれる共重合体に関しても種々の研究がなされており、特許文献2〜特許文献4には、共役ジエン化合物部分の立体規則性、例えば、シス-1,4構造の含有率を制御するため、配位子と金属原子とからなる金属触媒を用いて、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を生成させる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−272734号公報
【特許文献2】特許第3207502号公報
【特許文献3】特開2006−137897号公報
【特許文献4】特許第3738315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなカーボンブラックをもってしても、これら耐久性と転がり抵抗という二つの背反する性能のさらなる向上を図る観点からすれば、依然として改善の余地がある。また、ゴム成分として採用し得る芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体に関しても、上記のような手法により得られる共重合体であると、芳香族ビニル化合物部分のブロック化や低分子量化等の問題を含む場合があり、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が高ければ他のミクロ構造を多く含むものよりもタイヤに耐摩耗性や耐ウェットスキッド性を付与する傾向があるという本発明者らの見解に、充分対応し得るものではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、タイヤにおける低減された転がり抵抗と耐摩耗性とのバランスを高いレベルで保持しつつ、特に耐摩耗性の向上に優れたゴム組成物及びこれを用いたタイヤを提供することを目的としている。
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、特定の製法により得られる芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体と、特定の製法により得られる特定の性状を有するカーボンブラックとを配合したゴム組成物を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のゴム組成物は、
芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)を含むゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック(B)を10〜250質量部の量で配合してなるゴム組成物であって、
前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)が、下記一般式(I);
【0009】
【化1】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Ra〜Rfは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II);
【0010】
【化2】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III);
【0011】
【化3】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られた、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体であり、かつ
前記カーボンブラック(B)が、燃焼ガス生成帯域と、反応帯域と、反応停止帯域とが連設されてなる反応装置を用い、前記燃焼ガス生成帯域内で高温燃焼ガスを生成させ、次いで前記反応帯域に原料を噴霧導入してカーボンブラックを含む反応ガス流を形成させた後、反応停止帯域にて、多段急冷媒体導入手段により、該反応ガス流を急冷して、反応を終結させることにより得られ、該多段急冷媒体導入手段でのトルエン着色透過度が、下記式(1)及び(2);
10<X<40 ・・・ (1)
90<Z<100 ・・・ (2)
(式中、Xは原料導入位置から第1番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)で、Zは最後の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)である)の関係を満たすことを特徴とする。
【0012】
また前記カーボンブラック(B)は、
反応帯域内に原料が噴霧導入されてから、第1番目の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt1(秒)、この帯域での平均反応温度をT1(℃)とし、第1番目の急冷媒体が導入されてから、第2番目の急冷媒体導入手段(図1において、12−Y)により急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt2(秒)、この帯域での平均反応温度をT2(℃)とし、さらに、第2番目の急冷媒体が導入されてから、最後の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間(即ち、反応停止帯域通過までの帯域における滞留時間)をt3(秒)、この帯域内での平均反応温度をT3(℃)とした場合、
下記式(3)、式(4)及び式(5);
2.00≦α1≦5.00 ・・・ (3)
5.00≦α2≦9.00 ・・・ (4)
−2.5×(α1+α2)+85.0≦β≦90.0 ・・・ (5)
(式中、α1=t1×T1、α2=t2×T2、β=t3×T3である)の関係を満たすように制御して得られるものであってもよい。
【0013】
さらに前記カーボンブラック(B)は、下記式(6)、(7)及び(8);
20<X<40 ・・・ (6)
50<Y<60 ・・・ (7)
90<Z<95 ・・・ (8)
(式中、Yは第2番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度を示し、X及びZは前記と同義である)の関係を満たすように制御して得られるものであってもよい。
【0014】
ここで、前記ゴム配合用カーボンブラック(B)の水素放出率は、0.3質量%を超えるのが好適であり、ジブチルフタレート吸収量(DBP)が95〜220mL/100g、圧縮DBP吸収量(24M4DBP)が90〜200mL/100g、及びセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が70〜200m2/gであるのが望ましい。
【0015】
また、前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)の共役ジエン化合物部分のビニル結合量は、10%以下であるのが望ましく、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であるのが望ましい。
【0016】
さらに前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)のDSC測定において、融点(Tm)を有するのが望ましく、前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)が、スチレン−ブタジエン共重合体であるのが望ましい。
本発明のトレッドゴム及びタイヤは、上記ゴム組成物を用いて得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特定の製法により得られる芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)と、表面に存在するタール成分、特に多環芳香族成分の少ないカーボンブラック(B)とを配合することで、これらの相乗効果により、タイヤにおける低減された転がり抵抗と耐摩耗性とのバランスを高いレベルで保持しつつ、特に耐摩耗性を極めて向上させるゴム組成物を得ることが可能となる。
【0018】
このようなゴム組成物を用いれば、耐摩耗性及び転がり抵抗が高度にバランスされた高性能なタイヤを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のゴム組成物に使用するカーボンブラック(B)を製造するためのカーボンブラック製造炉の一例の縦断正面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、必要に応じて図面を参照しつつ具体的に説明する。
本発明のゴム組成物は、
芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)を含むゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック(B)を10〜250質量部の量で配合してなるゴム組成物であって、
前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)が、下記一般式(I);
【0021】
【化4】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Ra〜Rfは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II);
【0022】
【化5】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III);
【0023】
【化6】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られた、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体であり、かつ
前記カーボンブラック(B)が、燃焼ガス生成帯域と、反応帯域と、反応停止帯域とが連設されてなる反応装置を用い、前記燃焼ガス生成帯域内で高温燃焼ガスを生成させ、次いで前記反応帯域に原料を噴霧導入してカーボンブラックを含む反応ガス流を形成させた後、反応停止帯域にて、多段急冷媒体導入手段により、該反応ガス流を急冷して、反応を終結させることにより得られ、該多段急冷媒体導入手段でのトルエン着色透過度が、下記式(1)及び(2);
10<X<40 ・・・ (1)
90<Z<100 ・・・ (2)
(式中、Xは原料導入位置から第1番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)で、Zは最後の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)である)の関係を満たすことを特徴とする。
【0024】
[芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)]
本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)「以下、共重合体(A)ともいう」は、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が非常に高く、該芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)をゴム成分として用いたゴム組成物は、アニオン重合することで得られた従来の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を用いたゴム組成物及び従来の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体とシス-1,4結合量が高い共役ジエン化合物の単独重合体とをブレンドして用いたゴム組成物と比較して、耐ウェットスキッド性を高度に維持しながら、耐摩耗性を向上させることができる。この理由は、必ずしも明らかではないが、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量に由来する結晶性により耐摩耗性の向上効果があるためだと思われる。ここで、上記共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量は、80%以上であることを要し、90%以上であることが好ましい。該共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%未満では、シス連鎖が不十分のため、融点(Tm)は測定されず、耐摩耗性は低下する。なお、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量は、1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求めることができ、その具体的な手法は特開2004−27179号公報に開示されている。
【0025】
また、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%を超えると、シス-1,4結合量が低下し、耐摩耗性の向上効果が充分に得られなくなる。
【0026】
上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)は、後で詳細に説明する重合触媒組成物を用いる以外は特に制限されず、例えば、通常の配位イオン重合触媒を用いる付加重合体の製造方法と同様にして、単量体である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との混合物を共重合して得ることができる。なお、重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法、液相塊状重合法、乳化重合法、気相重合法、固相重合法等の任意の方法を用いることができる。また、重合反応に溶媒を用いる場合、用いられる溶媒は重合反応において不活性であればよく、該溶媒の使用量は任意であるが、重合触媒組成物に含まれる錯体の濃度を0.1〜0.0001mol/lとする量であることが好ましい。ここで、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。一方、共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等が挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。従って、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)としては、スチレン−ブタジエン共重合体が特に好ましい。
【0027】
本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)の合成に用いる重合触媒組成物は、上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも一種の錯体を含むことを要し、更に、通常のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物に含有される他の成分、例えば助触媒等を含むことが好ましい。
【0028】
上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体において、式中のCpRは、無置換インデニル又は置換インデニルである。インデニル環を基本骨格とするCpRは、C97-XX又はC911-XXで示され得る。ここで、Xは0〜7又は0〜11の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基又はメタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。置換インデニルとして、具体的には、2-フェニルインデニル、2-メチルインデニル等が挙げられる。なお、一般式(I)及び式(II)における二つのCpRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0029】
上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体において、式中のCpR’は、無置換もしくは置換のシクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルであり、これらの中でも、無置換もしくは置換のインデニルであることが好ましい。シクロペンタジエニル環を基本骨格とするCpR’は、C55-XXで示される。ここで、Xは0〜5の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基;メタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。シクロペンタジエニル環を基本骨格とするCpR’として、具体的には、以下のものが例示される。
【0030】
【化7】

(式中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示す。)
【0031】
一般式(III)において、上記インデニル環を基本骨格とするCpR’は、一般式(I)のCpRと同様に定義され、好ましい例も同様である。
【0032】
一般式(III)において、上記フルオレニル環を基本骨格とするCpR’は、C139-XX又はC1317-XXで示され得る。ここで、Xは0〜9又は0〜17の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基;メタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。
【0033】
一般式(I)、式(II)及び式(III)における中心金属Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムである。ランタノイド元素には、原子番号57〜71の15元素が含まれ、これらのいずれでもよい。中心金属Mとしては、サマリウムSm、ネオジムNd、プラセオジムPr、ガドリニウムGd、セリウムCe、ホルミウムHo、スカンジウムSc及びイットリウムYが好適に挙げられる。
【0034】
一般式(I)で表されるメタロセン錯体は、ビストリアルキルシリルアミド配位子[−N(SiR3)2]を含む。ビストリアルキルシリルアミドに含まれるアルキル基R(一般式(I)におけるRa〜Rf)は、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基であり、メチル基であることが好ましい。
【0035】
一般式(II)で表されるメタロセン錯体は、シリル配位子[−SiX3]を含む。シリル配位子[−SiX3]に含まれるXは、下記で説明される一般式(III)のXと同様に定義される基であり、好ましい基も同様である。
【0036】
一般式(III)において、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基及び炭素数1〜20の炭化水素基からなる群より選択される基である。ここで、上記アルコキシド基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の脂肪族アルコキシ基;フェノキシ基、2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシ基、2,6-ジイソプロピルフェノキシ基、2,6-ジネオペンチルフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-ネオペンチルフェノキシ基、2-イソプロピル-6-ネオペンチルフェノキシ基等のアリールオキシド基が挙げられ、これらの中でも、2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシ基が好ましい。
【0037】
一般式(III)において、Xが表すチオラート基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオプロポキシ基、チオn-ブトキシ基、チオイソブトキシ基、チオsec-ブトキシ基、チオtert-ブトキシ基等の脂肪族チオラート基;チオフェノキシ基、2,6-ジ-tert-ブチルチオフェノキシ基、2,6-ジイソプロピルチオフェノキシ基、2,6-ジネオペンチルチオフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルチオフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-チオネオペンチルフェノキシ基、2-イソプロピル-6-チオネオペンチルフェノキシ基、2,4,6-トリイソプロピルチオフェノキシ基等のアリールチオラート基が挙げられ、これらの中でも、2,4,6-トリイソプロピルチオフェノキシ基が好ましい。
【0038】
一般式(III)において、Xが表すアミド基としては、ジメチルアミド基、ジエチルアミド基、ジイソプロピルアミド基等の脂肪族アミド基;フェニルアミド基、2,6-ジ-tert-ブチルフェニルアミド基、2,6-ジイソプロピルフェニルアミド基、2,6-ジネオペンチルフェニルアミド基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルフェニルアミド基、2-tert-ブチル-6-ネオペンチルフェニルアミド基、2-イソプロピル-6-ネオペンチルフェニルアミド基、2,4,6-tert-ブチルフェニルアミド基等のアリールアミド基;ビストリメチルシリルアミド基等のビストリアルキルシリルアミド基が挙げられ、これらの中でも、ビストリメチルシリルアミド基が好ましい。
【0039】
一般式(III)において、Xが表すシリル基としては、トリメチルシリル基、トリス(トリメチルシリル)シリル基、ビス(トリメチルシリル)メチルシリル基、トリメチルシリル(ジメチル)シリル基、トリイソプロピルシリル(ビストリメチルシリル)シリル基等が挙げられ、これらの中でも、トリス(トリメチルシリル)シリル基が好ましい。
【0040】
一般式(III)において、Xが表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれでもよいが、塩素原子又は臭素原子が好ましい。また、Xが表す炭素数1〜20の炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分枝鎖の脂肪族炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;ベンジル基等のアラルキル基等の他;トリメチルシリルメチル基、ビストリメチルシリルメチル基等のケイ素原子を含有する炭化水素基等が挙げられ、これらの中でも、メチル基、エチル基、イソブチル基、トリメチルシリルメチル基等が好ましい。
【0041】
一般式(III)において、Xとしては、ビストリメチルシリルアミド基又は炭素数1〜20の炭化水素基が好ましい。
【0042】
一般式(III)において、[B]で示される非配位性アニオンとしては、例えば、4価のホウ素アニオンが挙げられる。該4価のホウ素アニオンとして、具体的には、テトラフェニルボレート、テトラキス(モノフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トリル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、[トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル]ボレート、トリデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート等が挙げられ、これらの中でも、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。
【0043】
上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、更に0〜3個、好ましくは0〜1個の中性ルイス塩基Lを含む。ここで、中性ルイス塩基Lとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルアニリン、トリメチルホスフィン、塩化リチウム、中性のオレフィン類、中性のジオレフィン類等が挙げられる。ここで、上記錯体が複数の中性ルイス塩基Lを含む場合、中性ルイス塩基Lは、同一であっても異なっていてもよい。
【0044】
また、上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、単量体として存在していてもよく、二量体又はそれ以上の多量体として存在していてもよい。
【0045】
上記一般式(I)で表されるメタロセン錯体は、例えば、溶媒中でランタノイドトリスハライド、スカンジウムトリスハライド又はイットリウムトリスハライドを、インデニルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)及びビス(トリアルキルシリル)アミドの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)と反応させることで得ることができる。なお、反応温度は室温程度にすればよいので、温和な条件で製造することができる。また、反応時間は任意であるが、数時間〜数十時間程度である。反応溶媒は特に限定されないが、原料及び生成物を溶解する溶媒であることが好ましく、例えばトルエンを用いればよい。以下に、一般式(I)で表されるメタロセン錯体を得るための反応例を示す。
【0046】
【化8】

(式中、X’’はハライドを示す。)
【0047】
上記一般式(II)で表されるメタロセン錯体は、例えば、溶媒中でランタノイドトリスハライド、スカンジウムトリスハライド又はイットリウムトリスハライドを、インデニルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)及びシリルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)と反応させることで得ることができる。なお、反応温度は室温程度にすればよいので、温和な条件で製造することができる。また、反応時間は任意であるが、数時間〜数十時間程度である。反応溶媒は特に限定されないが、原料及び生成物を溶解する溶媒であることが好ましく、例えばトルエンを用いればよい。以下に、一般式(II)で表されるメタロセン錯体を得るための反応例を示す。
【0048】
【化9】

(式中、X’’はハライドを示す。)
【0049】
上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、例えば、次の反応により得ることができる。
【0050】
【化10】

【0051】
ここで、一般式(IV)で表される化合物において、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、それぞれ独立して無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す。また、一般式[A][B]で表されるイオン性化合物において、[A]は、カチオンを示し、[B]は、非配位性アニオンを示す。
【0052】
[A]で表されるカチオンとしては、例えば、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アミンカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプタトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオン等が挙げられる。カルボニウムカチオンとしては、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ(置換フェニル)カルボニウムカチオン等の三置換カルボニウムカチオン等が挙げられ、トリ(置換フェニル)カルボニルカチオンとして、具体的には、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン等が挙げられる。アミンカチオンとしては、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン等のトリアルキルアンモニウムカチオン;N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオン等のN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン;ジイソプロピルアンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオン等のジアルキルアンモニウムカチオン等が挙げられる。ホスホニウムカチオンとしては、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオン等のトリアリールホスホニウムカチオン等が挙げられる。これらカチオンの中でも、N,N-ジアルキルアニリニウムカチオン又はカルボニウムカチオンが好ましく、N,N-ジアルキルアニリニウムカチオンが特に好ましい。
【0053】
上記反応に用いる一般式[A][B]で表されるイオン性化合物としては、上記の非配位性アニオン及びカチオンからそれぞれ選択し組み合わせた化合物であって、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が好ましい。また、一般式[A][B]で表されるイオン性化合物は、メタロセン錯体に対して0.1〜10倍モル加えることが好ましく、約1倍モル加えることが更に好ましい。なお、一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を重合反応に用いる場合、一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体をそのまま重合反応系中に提供してもよいし、上記反応に用いる一般式(IV)で表される化合物と一般式[A][B]で表されるイオン性化合物を別個に重合反応系中に提供し、反応系中で一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を形成させてもよい。また、一般式(I)又は式(II)で表されるメタロセン錯体と一般式[A][B]で表されるイオン性化合物とを組み合わせて使用することにより、反応系中で一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を形成させることもできる。
【0054】
一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体の構造は、X線構造解析により決定することが好ましい。
【0055】
上記重合触媒組成物に用いることができる助触媒は、通常のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物の助触媒として用いられる成分から任意に選択され得る。該助触媒としては、例えば、アルミノキサン、有機アルミニウム化合物、上記のイオン性化合物等が好適に挙げられる。これら助触媒は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
上記アルミノキサンとしては、アルキルアルミノキサンが好ましく、例えば、メチルアルミノキサン(MAO)、修飾メチルアルミノキサン等が挙げられる。また、修飾メチルアルミノキサンとしては、MMAO−3A(東ソーファインケム社製)等が好ましい。なお、上記重合触媒組成物におけるアルミノキサンの含有量は、メタロセン錯体の中心金属Mと、アルミノキサンのアルミニウム元素Alとの元素比率Al/Mが、10〜1000程度、好ましくは100程度となるようにすることが好ましい。
【0057】
一方、上記有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムクロライド、アルキルアルミニウムジクロライド、ジアルキルアルミニウムハイドライド等が挙げられ、これらの中でも、トリアルキルアルミニウムが好ましい。また、トリアルキルアルミニウムとしては、例えば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等が挙げられる。なお、上記重合触媒組成物における有機アルミニウム化合物の含有量は、メタロセン錯体に対して1〜50倍モルであることが好ましく、約10倍モルであることが更に好ましい。
【0058】
さらに、上記重合触媒組成物においては、一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体をそれぞれ、適切な助触媒と組み合わせることで、シス-1,4結合量や得られる共重合体の分子量を増大できる。
【0059】
上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)の製造方法は、上記一般式(I)及び一般式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合させる工程を含むことを特徴とする。また、かかる製造方法は、重合触媒として上述した重合触媒組成物を用いること以外は、従来の配位イオン重合触媒を用いる付加重合反応による付加重合体の製造方法と同様とすることができる。ここで、かかる製造方法は、例えば、(1)単量体として芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を含む重合反応系中に、重合触媒組成物の構成成分を別個に提供し、該反応系中において重合触媒組成物としてもよいし、(2)予め調製された重合触媒組成物を重合反応系中に提供してもよい。また、(2)においては、助触媒によって活性化されたメタロセン錯体(活性種)を提供することも含まれる。なお、重合触媒組成物に含まれるメタロセン錯体の使用量は、単量体に対して1/10000〜1/100倍モルの範囲が好ましい。
【0060】
また、得られる本発明の共重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、特に限定されず、低分子量化の問題が起きることもない。さらに、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、3以下が好ましく、2以下が更に好ましい。ここで、平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレンを標準物質として求めることができる。
【0061】
また、上記付加重合反応は、不活性ガス、好ましくは窒素ガスやアルゴンガスの雰囲気下において行われることが好ましい。
【0062】
上記付加重合反応の重合温度は、特に制限されないが、例えば−100℃〜200℃の範囲が好ましく、室温程度とすることもできる。なお、重合温度を上げると、重合反応のシス-1,4選択性が低下することがある。一方、上記付加重合反応の反応時間も特に制限されず、例えば1秒〜10日の範囲が好ましいが、重合される単量体の種類、触媒の種類、重合温度等の条件によって適宜選択することができる。
【0063】
また、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)は、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることが好ましく、7%以下であることが更に好まく、0%であることが特に好ましい。上記重合触媒組成物を用いて得られる本発明の共重合体は、芳香族ビニル化合物がランダムに重合する傾向があり、芳香族ビニル化合物のブロック化を抑制することができる。ここで、ランダムとは、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量(以下、ブロック芳香族ビニル化合物含有率と称することがある)が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることをいい、ブロックとは、芳香族ビニル化合物−芳香族ビニル化合物の結合を有する芳香族ビニル化合物部分を指す。上記ブロック芳香族ビニル化合物含有率が10%を超えると、芳香族ビニル化合物の単独重合体としての挙動が現われ、ガラス転移温度が上昇し、耐摩耗性が低下する場合がある。なお、ブロック芳香族ビニル化合物含有率は、1H-NMRスペクトルの積分比より求めることができる。
【0064】
さらに、本発明の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)は、DSC測定(示差走査熱量測定)において、融点(Tm)を示す。ここで、DSC測定における融点(Tm)は、共役ジエン化合物部分の連鎖に由来する静的結晶の融点を指す。
【0065】
なお、本発明のゴム組成物で用いるゴム成分としては、上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)のほか、通常ゴム業界で用いられるゴム成分を組み合わせて用いてもよい。具体的には、例えば、天然ゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、ポリブタジエン(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、フッ素エラストマー、エチレン・アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエンモノマー(EPDM)ゴム、ブチルゴム、ポリクロロプレン、水素化ニトリルゴム、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0066】
[カーボンブラック(B)]
本発明で用いる(B)カーボンブラックは、燃焼ガス生成帯域と、反応帯域と、反応停止帯域とが連設されてなる反応装置を用い、前記燃焼ガス生成帯域内で高温燃焼ガスを生成させ、次いで前記反応帯域に原料を噴霧導入してカーボンブラックを含む反応ガス流を形成させた後、反応停止帯域にて、多段急冷媒体導入手段により、該反応ガス流を急冷して、反応を終結させることにより製造されることを特徴としており、以下に、図を参照しながら、該カーボンブラックの製造方法を詳細に説明する。
【0067】
図1は、カーボンブラック(B)を製造するためのカーボンブラック製造炉の一例の縦断正面説明図である。カーボンブラック製造炉1は、その内部が燃焼帯域と反応帯域と反応停止帯域とを連設した構造であり、その全体が耐火物で覆われている。また、カーボンブラック製造炉1は、燃焼帯域として、可燃性流体導入室と、炉頭部外周から酸素含有ガス導入管によって導入された酸素含有ガスを、整流板を用いて整流して可燃性流体導入室へ導入する酸素含有ガス導入用円筒と、酸素含有ガス導入用円筒の中心軸に設置され、可燃性流体導入室へ燃焼用炭化水素を導入する燃料油噴霧装置導入管とを備える。燃焼帯域内では、燃焼用炭化水素の燃焼により高温燃焼ガスを生成する。
【0068】
カーボンブラック製造炉1は、反応帯域として、円筒が次第に収れんする収れん室と、収れん室の下流側に4つの原料油噴霧口を含む原料油導入室と、原料油導入室の下流側に反応室10とを備える。該原料油噴霧口は、燃焼帯域からの高温燃焼ガス流中に原料炭化水素を噴霧導入する。反応帯域内では、高温燃焼ガス流中に原料炭化水素を噴霧導入し、不完全燃焼又は熱分解反応により、原料炭化水素をカーボンブラックに転化する。
【0069】
カーボンブラック製造炉1は、反応停止帯域として、多段急冷媒体導入手段12を有する反応継続兼冷却室11を備える。多段急冷媒体導入手段12は、反応帯域からの高温燃焼ガス流に対して、水などの急冷媒体を噴霧する。反応停止帯域内では、高温燃焼ガス流を急冷媒体により急冷して反応を終結する。また、カーボンブラック製造炉1は、反応帯域あるいは反応停止帯域において、ガス体を導入する装置をさらに備えてもよい。ここで、「ガス体」としては、空気、酸素と炭化水素の混合物、これらの燃焼反応による燃焼ガス等が使用可能である。このようにして、カーボンブラックの製造において、反応ガス流が反応停止帯域に入るまでの各帯域における平均反応温度と滞留時間を制御して、各段階でのカーボンブラックのトルエン着色透過度X、Y及びZを所望の値にすることにより、カーボンブラック(B)が得られる。
【0070】
次に、上記カーボンブラック製造炉1における各帯域について説明する。燃焼帯域とは、燃料と空気との反応により高温ガス流が生成される領域であり、この下流端は原料油が反応装置内に導入される点(複数位置で導入される場合は最も上流側)を指す。また、反応帯域とは、原料炭化水素が導入された点(複数位置の場合は最も上流側)から反応継続兼冷却室11内の多段急冷水噴霧手段12(これらの手段は反応継続兼冷却室11内で抜き差し自在であり、生産する品種、特性により使用位置は選択される)の作動(水等の冷媒体を導入する)点までを指す。すなわち、原料油噴霧口で原料油を導入し、多段急冷媒体導入手段12で水を導入した場合、この間の領域が反応帯域となる。反応停止帯域とは、急冷水圧入噴霧手段を作動させた点よりも下側(図1では右側)の帯域を指す。図1において、反応継続兼冷却室11という名称を用いたのは、原料導入時点から前記反応停止用急冷水圧入噴霧手段の作動時点までが反応帯域、それ以降が反応停止帯域であり、この急冷水導入位置が要求されるカーボンブラック性能により移動することがあるためである。
【0071】
上記製造方法により得られるカーボンブラック(B)は、下記式(1)及び式(2)の関係を満たすことを要する。なお、図1においては、Xが、第一番目の急冷媒体導入手段12−Xより急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)であり、Zが、最後の急冷媒体導入手段12−Zにより急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)である。ここで、カーボンブラック(B)が下記式(1)及び式(2)の関係を満たせば、段階的にトルエン着色透過度を規定することにより、カーボンブラックの粒径と表面物性のバランス化を図ることができ、補強性を上げ、耐摩耗性を向上させることができる。
10<X<40 ・・・ (1)
90<Z<100 ・・・ (2)
【0072】
上記したように、このような性状を有するカーボンブラック(B)は、反応温度及び滞留時間を制御することにより、得ることができる。例えば、反応帯域内に原料が噴霧導入されてから、第1番目の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt1(秒)、この帯域での平均反応温度をT1(℃)とし、第1番目の急冷媒体が導入されてから、第2番目の急冷媒体導入手段(図1において、12−Y)により急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt2(秒)、この帯域での平均反応温度をT2(℃)とし、さらに、第2番目の急冷媒体が導入されてから、最後の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間(即ち、反応停止帯域通過までの帯域における滞留時間)をt3(秒)、この帯域内での平均反応温度をT3(℃)とした場合、それらの滞留時間及び平均反応温度が、下記式(3)、式(4)及び式(5):
2.00≦α1≦5.00 ・・・ (3)
5.00≦α2≦9.00 ・・・ (4)
−2.5×(α1+α2)+85.0≦β≦90.0 ・・・ (5)
(式中、α1=t1×T1、α2=t2×T2、β=t3×T3である)の関係を満たすように制御されることにより、カーボンブラック(B)を確実に得ることができる。
【0073】
上記カーボンブラック製造炉1は、炉内の温度をモニターするため、任意の数箇所に熱電対を炉内に挿入できる構造を備える。平均反応温度T1、T2、T3を算出するために、各工程(各帯域)で、少なくとも2箇所、望ましくは3〜4箇所の温度を測定することが好ましい。さらに、滞留時間t1、t2、t3の算出は、公知の熱力学的計算方法によって導入反応ガス流体の体積を算出し、次式により算出するものとする。なお、原料油の分解反応及び急冷媒体による体積増加は無視するものとする。
滞留時間t1(sec)=原料炭化水素導入位置から第1番目の急冷媒体導入位置までの反応炉内通過容積(m3)/反応ガス流体の体積(m3/sec)
滞留時間t2(sec)=第1番目の急冷媒体導入位置から第2番目の急冷媒体が導入されるまでの反応炉内通過容積(m3)/反応ガス流体の体積(m3/sec)
滞留時間t3(sec)=第2番目の急冷媒体導入位置から最後の急冷媒体が導入されるまでの反応炉内通過容積(m3)/反応ガス流体の体積(m3/sec)
【0074】
さらに、上記カーボンブラック(B)として、下記の関係式(6)、(7)及び(8)
20<X<40 ・・・ (6)
50<Y<60 ・・・ (7)
90<Z<95 ・・・ (8)
(式中、Yは第2番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度を示し、X及びZは前記と同義である)の関係を満たすように制御して得られたものを好適に用いることができる。
なお、上記トルエン着色透過度は、JIS K 6218:1997の第8項B法に記載の方法により測定され、純粋なトルエンとの百分率で表示される。
【0075】
上記カーボンブラック(B)は、水素放出率が、0.3質量%を超えるのが好ましく、0.35質量%以上であるのがより好ましい。上限値については特に制限されないが、通常0.4質量%程度である。この水素放出率が0.3質量%を超えると、本発明のゴム組成物の耐摩耗性がさらに向上し、かつ発熱性もより低減される。
【0076】
なお、上記水素放出率は、(1)カーボンブラック試料を105℃の恒温乾燥機中で1時間乾燥し、デシケータ中で室温まで冷却し、(2)スズ製のチューブ状サンプル容器に約10mgを精秤して、圧着及び密栓し、(3)水素分析装置(堀場製作所EMGA621W)でアルゴン気流下、2000℃で15分間加熱したときの水素ガス発生量を測定し、その質量分率で表示される。
【0077】
さらに、上記カーボンブラック(B)は、ジブチルフタレート吸収量(DBP)が95〜220mL/100g、圧縮DBP吸収量(24M4DBP)が90〜200mL/100g、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が70〜200m2/gであるものが好ましい。
【0078】
なお、ジブチルフタレート吸収量(DBP)及び圧縮DBP吸収量(24M4DBP)は、ASTM D2414−88(JIS K6217−4:2001)に記載の方法により測定され、カーボンブラック100g当たりに吸収されるジブチルフタレート(DBP)の体積mLで表示される。また、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)は、JIS K6217−3:2001に記載の方法により測定され、カーボンブラック単位質量当たりの比表面積m2/gで表示される。
【0079】
上記カーボンブラック(B)は、上述の方法で製造され、かつ上述の物性を有するものが用いられるが、かかるカーボンブラックの形態としては、例えばFEF、SRF、HAF、ISAF、ISAF−LS、SAF−LS等が挙げられる。
【0080】
カーボンブラック(B)は、上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)を含むゴム成分100質量部に対して、10〜250質量部、好ましくは20〜150質量部、より好ましくは30〜120質量部の量で含有される。カーボンブラック(B)の配合量が10質量部未満では、ゴム組成物の補強性を充分に確保することができず、一方、250質量部を超えると、カーボンブラック(B)の分散性が低下し、ゴム組成物の耐摩耗性、耐テアー性及び耐発熱性が低下する場合がある。
【0081】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物には、上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)、カーボンブラック(B)のほか、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、老化防止剤、軟化剤、カーボンブラック(B)以外の充填剤、シランカップリング剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。なお、上記カーボンブラック(B)以外の充填剤としては、シリカが挙げられ、湿式シリカ及び乾式シリカ等が好ましく、湿式シリカがさらに好ましい。
【0082】
本発明のゴム組成物は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A)に、カーボンブラック(B)及び必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0083】
[トレッド及びタイヤ]
上記ゴム組成物はタイヤ部材のいずれにも適用し得るが、トレッドに用いるのが好適である。かかるトレッドを採用したタイヤは、転がり抵抗が低く、特に耐摩耗性に優れる。なお、本発明のタイヤは、上述のゴム組成物をトレッドに用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0085】
[カーボンブラックA〜Dの製造]
図1に示すカーボンブラック製造炉1を用いて、カーボンブラックA〜Dを製造した。ここで、多段冷却媒体導入手段12としては、第1番目の急冷媒体導入手段12−X、第2番目の急冷媒体導入手段12−Y及び最後の急冷媒体導入手段12−Zからなる3段急冷媒体導入手段を用いた。また、製造炉内の温度をモニターするため、任意の数カ所に熱電対を炉内に挿入できる構造を備える上記製造炉を用いた。カーボンブラック製造炉において、燃料には比重0.8622(15℃/4℃)のA重油を用い、原料油としては表1に示した性状の重質油を使用した。また、各々表2に示すカーボンブラック製造炉の操作条件により、下記に示す物性を備えたカーボンブラックA〜Dを製造した。
【0086】
得られたカーボンブラックA〜Dについて、ASTM D2414-88(JIS K6217-97)に準拠してジブチルフタレート(DBP)吸収量を、ASTM D3037-88に準拠して窒素吸着比表面積(N2SA)を、ASTM D3265-88に準拠して比着色力(TINT)を、JIS K6218-97に準拠してトルエン着色透過度を各々測定した。結果を表2に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
[一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体の合成]
以下に示す重合体A〜Bの製造において、共通して使用した一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体([(2-MeC96)GdN(SiMe3)2(THF)3][B(C65)4])を合成し、その構造を1H-NMR及びX線結晶構造解析により確認した。なお、1H-NMRはTHF-d8を溶媒とし、室温で測定を行った。X線結晶構造解析は、RAXIS CS(リガク)を用いて行った。
【0090】
窒素雰囲気下、(2-MeC96)2GdN(SiMe3)2(0.150g,0.260mmol)のTHF溶液5mLに、トリエチルアニリニウムテトラキスフェニルボレート(Et3NHB(C66)4)(0.110g,0.260mmol)を添加し室温で12時間攪拌した。その後、THFを減圧留去し、得られた残査をヘキサンで3回洗浄したところ、オイル状化合物を得た。その残査をTHF/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行い、白色結晶として[(2-MeC96)GdN(SiMe3)2(THF)3][B(C65)4](150mg,59%)を得た。構造確認はX線結晶解析で行った。
【0091】
[重合体Aの製造]
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、充分に乾燥した1L耐圧ガラスボトルに、スチレン104g(1mol)及びトルエン50gを添加し、ボトルを打栓した。その後、グローブボックスからボトルを取り出し、1,3-ブタジエンを54g(1mol)仕込み、モノマー溶液とした。一方、窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器に、ビス(2-メチルインデニル)ガドリニウム(トリメチルシリルアミド)[(2-MeC96)2GdN(SiMe3)2]を40μmol、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C65)4)を40μmol、ジイソブチルアルミニウムハライドを1mmol仕込み、トルエン10mlで溶解させ触媒溶液とした。その後、グローブボックスから触媒溶液を取り出し、モノマー溶液へ添加し、70℃で30分間重合を行った。重合後、2,6-ビス(t-ブチル)-4-メチルフェノール(BHT)の10質量%のメタノール溶液10mlを加えて反応を停止させ、さらに大量のメタノール/塩酸混合溶媒で重合体を分離させ、60℃で真空乾燥した。得られた重合体Aの収量は47gであった。
【0092】
[重合体Bの製造]
触媒溶液におけるジイソブチルアルミニウムハライドの使用量を0.8mmolとした以外は、重合体Aと同様の方法で重合を行った。得られた重合体Bの収量は46gであった。
【0093】
上記のようにして製造した重合体A〜B及び下記重合体C〜Dについて、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、ミクロ構造、結合スチレン量、ブロックスチレン含有率、ガラス転移点(Tg)、融点(Tm)を下記の方法で測定した。結果を表3に示す。
【0094】
《数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)》
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8020、カラム:東ソー製GMH−XL(2本直列)、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、各重合体のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0095】
《ミクロ構造及び結合スチレン量》
重合体のミクロ構造を1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求め、各重合体の結合スチレン量を1H-NMRスペクトルの積分比より求めた。なお、1H-NMR及び13C-NMRは1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶媒とし、120℃で測定を行った。
【0096】
《ブロックスチレン含有率》
スチレン部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量(ブロックスチレン含有率)が全スチレン部分に占める割合を1H-NMRスペクトルの積分比より求めた。
【0097】
《ガラス転移点(Tg)(℃)及び融点(Tm)(℃)》
サンプルを10mg±0.5mg秤量し、アルミニウム製の測定パンに入れ蓋をしたものを、DSC装置(TAインスツルメント社製)にて、室温から50℃まで加温し、10分間安定させた後、-80℃まで冷却し、-80℃で10分間安定させてから、10℃/minの昇温速度で50℃まで昇温しながらガラス転移点(Tg)及び融点(Tm)を測定した。
【0098】
なお、サンプルの詳細NMRデータから、特にスチレン−スチレン結合が確認されなかった。
【0099】
【表3】

【0100】
*1:スチレン−ブタジエン共重合体,旭化成工業社製,商品名:タフデン1000
*2:スチレン−ブタジエン共重合体,旭化成工業社製,商品名:タフデン2000
【0101】
[実施例1〜2、比較例1〜4]
上記カーボンブラックA〜D及び重合体A〜Dを用いて、表4に示す配合処方のゴム組成物を調製し、通常の条件で加硫して得た加硫ゴムに対し、該ゴム組成物の耐ウェットスキッド性及び耐摩耗性を下記の方法により測定した。結果を表5に示す。
【0102】
《耐摩耗性》
ランボーン型摩耗試験機を使用して室温で摩耗量を測定し、該摩耗量の逆数を算出し、比較例1を100として指数表示をした。指数値が大きい程、摩耗量が少なく、耐摩耗性が良好であることを示す。
【0103】
《転がり抵抗》
供試タイヤに対し、正規荷重及び内圧の下、80km/hでの転がり抵抗を測定し、比較例1の転がり抵抗を100として指数表示した。指数値が小さい程、転がり抵抗が小さいことを示す。
【0104】
【表4】

【0105】
*3:実施例1〜2及び比較例1〜4で使用した各重合体の種類を表5に示す。
*4:実施例1〜2及び比較例1〜4で使用した各カーボンブラックの種類を表5に示す。
*5:ノクラック6C、N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製
*6:ノクセラーCZ、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学工業社
【0106】
【表5】

【0107】
表5によれば、特定の芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)とカーボンブラック(B)とを含有する実施例1〜2に比べ、かかる共重合体(A)を含まない比較例1〜2及びかかるカーボンブラック(B)を含まない比較例3〜4に比べ、耐摩耗性と転がり抵抗の双方において優れた結果を明示しており、これら共重合体(A)とカーボンブラック(B)とが、特に耐摩耗性の向上において極めて優れた相乗効果を発揮することがわかる。
【符号の説明】
【0108】
1 カーボンブラック製造炉
10 反応室
11 反応継続兼冷却室
12 多段急冷媒体導入手段
12−X 第1番目の急冷媒体導入手段
12−Y 第2番目の急冷媒体導入手段
12−Z 最後の急冷媒体導入手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)を含むゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック(B)を10〜250質量部の量で配合してなるゴム組成物であって、
前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)が、下記一般式(I);
【化1】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Ra〜Rfは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II);
【化2】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III);
【化3】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られた、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体であり、かつ
前記カーボンブラック(B)が、燃焼ガス生成帯域と、反応帯域と、反応停止帯域とが連設されてなる反応装置を用い、前記燃焼ガス生成帯域内で高温燃焼ガスを生成させ、次いで前記反応帯域に原料を噴霧導入してカーボンブラックを含む反応ガス流を形成させた後、反応停止帯域にて、多段急冷媒体導入手段により、該反応ガス流を急冷して、反応を終結させることにより得られ、該多段急冷媒体導入手段でのトルエン着色透過度が、下記式(1)及び(2);
10<X<40 ・・・ (1)
90<Z<100 ・・・ (2)
(式中、Xは原料導入位置から第1番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)で、Zは最後の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度(%)である)の関係を満たすことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラック(B)が、
反応帯域内に原料が噴霧導入されてから、第1番目の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt1(秒)、この帯域での平均反応温度をT1(℃)とし、第1番目の急冷媒体が導入されてから、第2番目の急冷媒体導入手段(図1において、12−Y)により急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間をt2(秒)、この帯域での平均反応温度をT2(℃)とし、さらに、第2番目の急冷媒体が導入されてから、最後の急冷媒体が導入されるまでの帯域における滞留時間(即ち、反応停止帯域通過までの帯域における滞留時間)をt3(秒)、この帯域内での平均反応温度をT3(℃)とした場合、
下記式(3)、式(4)及び式(5);
2.00≦α1≦5.00 ・・・ (3)
5.00≦α2≦9.00 ・・・ (4)
−2.5×(α1+α2)+85.0≦β≦90.0 ・・・ (5)
(式中、α1=t1×T1、α2=t2×T2、β=t3×T3である)の関係を満たすように制御して得られることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラック(B)が、下記式(6)、(7)及び(8);
20<X<40 ・・・ (6)
50<Y<60 ・・・ (7)
90<Z<95 ・・・ (8)
(式中、Yは第2番目の急冷媒体導入後のカーボンブラックのトルエン着色透過度を示し、X及びZは前記と同義である)の関係を満たすように制御して得られることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記カーボンブラック(B)の水素放出率が、0.3質量%を超えることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記カーボンブラック(B)において、ジブチルフタレート吸収量(DBP)が95〜220mL/100g、圧縮DBP吸収量(24M4DBP)が90〜200mL/100g、及びセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が70〜200m2/gであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)の共役ジエン化合物部分のビニル結合量が、10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)の芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)のDSC測定において、融点(Tm)を有することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合体(A)が、スチレン−ブタジエン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のゴム組成物を用いて得られたトレッドゴム。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載のゴム組成物を用いて得られたタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−79876(P2011−79876A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230760(P2009−230760)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】