説明

ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】優れた氷上性能及び耐摩耗特性を有するゴム組成物、及び、該ゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】シス−1,4結合含有率が96%以上、かつビニル基含有率が1%未満であるブタジエンゴム20〜60重量%と、天然ゴムまたはイソプレンゴム40〜80重量%とからなるジエン系ゴム成分100重量部に対し、しゃく解剤を脂肪酸金属塩中に予め混合してなる加工助剤を0.2〜3重量部、平均粒径が0.1〜500μmである非硬質かつ非軟質の粒状体を1〜30重量部配合してなるゴム組成物である。また、該ゴム組成物からなるトレッドを備えた空気入りタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関し、より詳細には、例としてスタッドレスタイヤやスノータイヤなどの冬用タイヤ(ウインタータイヤ)のトレッドに好適に用いることのできるゴム組成物、及び、同ゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤに関するものである。特には、トラックやバス等の重荷重用タイヤのトレッドに用いられるゴム組成物、及び、該ゴム組成物を用いた重荷重用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面では一般路面に比べて著しく摩擦係数が低下し滑りやすくなる。そのため、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤのトレッドに用いられるゴム組成物においては、氷上路面での接地性を高めるために、ガラス転移点の低いブタジエンゴム等の使用や軟化剤の配合により、低温でのゴム硬度を低く維持することがなされている。また、氷上摩擦力を高めるために、トレッドに発泡ゴムを使用したり、中空粒状体や、ガラス繊維、植物性粒状体等の硬質材料を配合することがなされている。
【0003】
(1)非硬質かつ非軟質の粒状体の配合:例えば、下記特許文献1には、種子の殻又は果実の核を粉砕してなる植物性粒状体などの、適度の硬さ、及び、引っ掻き効果のある粒子をゴム成分に添加して、引っ掻き効果により氷上摩擦性能を向上させることが開示されている。同文献では特に、レゾルシン・ホルマリン樹脂初期縮合物とラテックスの混合物を主成分とするゴム接着性改良剤で植物性粒状体を表面処理し、これによりトレッドゴムと化学的に結合させて、引っ掻き効果を向上する点が提案されている。
【0004】
(2)発泡剤の配合:例えば下記特許文献2には、トレッドゴム組成物に発泡剤を配合して多孔質にすることで、除水作用により氷上路面の水膜を除去し、これにより、氷上摩擦力を高めることが開示されている。
【0005】
(3)低温での柔軟性向上:例えば下記特許文献3〜4には、トレッドゴムの低温での硬度を低くし、変形を容易にすることで、タイヤの接地面積を大きくし、凝着摩擦力を向上させることが記載されている。詳しくは、ビニル基含有量が低くシス−1,4結合含有率の高いブタジエンゴムと、天然ゴム等とを配合することで、ゴム材料のガラス転移点を低くすることが開示されている。
【0006】
(4)耐摩耗性の保持(特には、重荷重用への対応):氷雪上の制動性能及び耐摩耗性の両者を満足させるべく、上記(1)及び(3)を組み合わせることも提案されている(例えば、下記特許文献4)。すなわち、上記のガラス転移点の低いゴム成分に、特許文献1で用いたと同様の、表面処理した植物性粒状体を配合することが提案されている。低温での柔軟性とともに耐摩耗性を保持することは、重荷重用スタッドレスタイヤにおいて、特に重要である。
【0007】
しかし、上記(3)〜(4)のように、ビニル基含有量が低くシス−1,4結合含有率の高いブタジエンゴムを配合した場合、未加硫のゴム材料の粘度が上昇し、加工性に劣るという問題がある。特には、耐摩耗性を充分に向上すべく、上記のブタジエンゴムとして高分子量のものを用いた場合、粘度上昇により押出し時にゴム肌が悪化するなどの問題が生じる。混合ステップを追加することで、ゴム肌の悪化を防ぐことが可能であるが、ステップを追加した分だけ、生産コストが上昇してしまう。一方、上記(1)〜(2)の方法のみでは、氷上性能の改良効果が、最近益々厳しくなる市場の要求に照らし、必ずしも十分ではない。
【0008】
他方、下記特許文献5においては、低温加硫される航空機用タイヤにおける界面剥離やピールオフなどを防ぐべく、高級脂肪酸亜鉛塩のみからなる加工助剤を添加することが開示されている。しかし、このような加工助剤を添加した場合に、耐摩耗性が大幅に低下し、重荷重用スタッドレスタイヤには適しなくなるという問題があった。
【0009】
また、下記特許文献6においては、シス−1,4結合含有率の高いブタジエンゴムと、スチレン・ブタジエンゴムと、高含量のシリカとからなるタイヤにおける、ゴム成分同士の相溶性を改善し、これにより雪上での操作性を改良すべく、特定のスチレン・ブタジエンゴムを用いることが提案されている。下記特許文献6中、付随的に使用可能な添加剤が多種列挙される中で、しゃく解剤(化学的しゃく解剤、「素練り促進剤」、ペプタイザともいう)も挙げられている。しかし、他の加工助剤と予め混合した上で添加することについての示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−007841号公報
【特許文献2】特開平11−048713号公報
【特許文献3】特開2002−309038公報
【特許文献4】特開2005−344000公報
【特許文献5】特開2008−201827公報
【特許文献6】特開2008−001900公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、氷上制動に関連した低温特性を維持し、かつ加工性を良好に保ちつつ、充分な耐摩耗特性を実現できるゴム組成物、及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題に鑑み、天然ゴム及び上記ブタジエンゴムを含有するゴム組成物中に、植物性粒状体とともに様々な物質を配合し、鋭意検討していく中で、化学しゃく解剤成分を含有する脂肪酸金属塩系の加工助剤の添加を試みた。この結果、低温特性を保持しつつ、加工性及び耐摩耗性を著しく向上することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るゴム組成物は、シス−1,4結合含有率が96%以上、かつビニル基含有率が1%未満であるブタジエンゴム20〜60重量%と、天然ゴムまたはイソプレンゴム40〜80重量%とからなるジエン系ゴム成分100重量部に対し、しゃく解剤を脂肪酸金属塩中に予め混合してなる加工助剤を0.2〜3重量部、平均粒径が0.1〜500μmである非硬質かつ非軟質の粒状体を1〜30重量部配合したものである。また、本発明に係る空気入りタイヤは、かかるゴム組成物からなるトレッドを備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、氷上制動に関連した低温特性を維持し、かつ加工性を良好に保ちつつ、充分な耐摩耗特性を実現できる。特には、サイプの微細構造の維持などと関連したゴム材料の強度を確保することができ、タイヤの偏摩耗を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0016】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分は、特定の高シス−ブタジエンゴム(BR)20〜60重量%と、天然ゴム(NR)及び/又はイソプレンゴム(IR)80〜40重量%とからなる。好ましくは、ゴム成分が、高シス−ブタジエンゴム(BR)30〜50重量%と、天然ゴム(NR)及び/又はイソプレンゴム(IR)70〜50重量%とからなる。ゴム成分中における高シス−ブタジエンゴムの比率が少なすぎるとゴム組成物の低温特性が得難くなり、逆に多くなりすぎると加工性の悪化や耐引き裂き抵抗性が低下する傾向にある。なお、該ゴム成分は、基本的には、上記特定の高シス−ブタジエンゴムと、天然ゴム及び/又はイソプレンゴムとからなるが、本発明の効果を損なわない範囲で、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなど、他のジエン系ゴムを含んでも構わない。
【0017】
上記ゴム成分に用いられる特定の高シス−ブタジエンゴムは、シス−1,4結合の含有率(繰り返し単位のモル分率、以下同様)が96%以上であり、かつビニル基(1,2−ビニル結合)の含有率が1.0%未満のものである。このようなブタジエンゴムを用いることにより、耐摩耗性を向上させることができ、かつ、氷上制動に関連した低温特性を良好に保つことができる。特には、ネオジウム(ネオジム)系触媒を用いて重合された高シス−ブタジエンゴムであると、他の触媒を用いた重合したブタジエンゴムを配合する場合に比べて、加硫ゴムの損失正接tanδを下げることができ、タイヤの転がり抵抗を低減することができる。ここで、ネオジウム系触媒としては、ネオジウム単体、ネオジウムと他の金属類との化合物、及び有機化合物が挙げられ、例えば、NdCl3、Et−NdCl2等が具体例として挙げられる。なお、シス−1,4結合含有量及びビニル基含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定される値である。
【0018】
また、上記ブタジエンゴムは、25℃におけるトルエン溶液粘度(T−cp)が100以上であることが好ましい。T−cpが100未満であると、加工性は向上するが、耐摩耗性及び低発熱性が悪化する傾向を示し、タイヤ性能が低下する。ここで、T−cpは、ブルックフィールド(BL)型粘度計により測定される25℃、10重量%のトルエン溶液粘度の値(センチポイズ(cp)で示す値)である。上記ブタジエンゴムは、JIS K6300によるムーニー粘度(ML1+4(100℃))が、好ましくは40〜80の範囲内である。
【0019】
本発明のゴム組成物は、脂肪酸金属塩と、しゃく解剤(素練り促進剤)とのブレンド物、特には、脂肪酸金属塩中にしゃく解剤を均一に溶解または分散させてなる加工助剤を配合する。このような素練り促進効果を持つ特定の加工助剤を用いることで、後述する実施例に示すように、耐摩耗特性を維持ないし向上しつつ、低発熱性と加工性を改良することができる。すなわち、単なる脂肪酸金属塩の加工助剤を用いた場合には、加工性は改良されるものの、耐摩耗特性が悪化する傾向が見られたが、しゃく解剤を含有することで、ゴム成分ポリマーの分子鎖を適度に切断した状態として、ゴム組成物の均一性を向上し、低発熱効果を発揮することができる。
【0020】
上記加工助剤の配合量は、ジエン系ゴム成分100重量部に対して0.2〜3重量部である。この配合量が0.2重量部未満では、上記本発明の効果がほとんど得られず、逆に3重量部を超えると、加工性には優れるものの、ゴム成分ポリマーの分子鎖切断が多くなりすぎて、モジュラスが低下し、耐摩耗特性が却って悪化する。
【0021】
上記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、炭素数6〜28の飽和又は不飽和脂肪酸で、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ネルボン酸等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。好ましくは、炭素数14〜20の高級飽和脂肪酸を用いることである。また、これらの脂肪酸の塩を形成する金属としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、ニッケル、モリブデン等が挙げられ、特に亜鉛が好ましい。これらの脂肪酸金属塩は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
上記しゃく解剤としては、切断されたゴム成分ポリマーの分子鎖ラジカルと反応して再結合を抑制することができるものであれば使用でき、例えば、2,2’−ジベンズアミドジフェニルジスルフィド(DBD)、2−ベンズアミドチオフェノールの亜鉛塩、キシリルメルカプタン、β−ナフチルメルカプタン等が挙げられ、特にDBDが好ましい。
【0023】
上記加工助剤は、しゃく解剤を5〜10重量%含有することが好ましい。しゃく解剤の含有量が5重量%未満では、ゴム組成物の均一性が不十分なために耐摩耗性向上の効果を発揮させることが難しく、また、10重量%を超えると、ゴム成分ポリマーの分子鎖切断が多くなりすぎて、耐摩耗性向上の点で不利となる。なお、しゃく解剤は、予め脂肪酸金属塩中に溶解または分散させておく必要がある。しゃく解剤と、脂肪酸金属塩とを、予め混合せず、順次または同時に、バンバリーミキサー等に投入することで、別々にゴムベースに練り込む場合には、耐摩耗性向上の効果が充分でない。予め混合しておくことで、脂肪酸金属塩とともに、しゃく解剤が、迅速にゴム成分と均一混合される必要があると考えられる。
【0024】
このようなDBDを5〜10重量%含有した脂肪酸亜鉛塩の加工助剤としては、ラインケミー社製「アクチプラストMS」が好適なものとして例示され、使用することができる。
【0025】
本発明のゴム組成物には、さらに、平均粒径が0.1〜500μm、好ましくは10〜500μmである非硬質かつ非軟質の粒状体が配合される。ここで、非硬質かつ非軟質の粒状体とは、氷よりも硬く、アスファルト路面(アスファルト・コンクリート舗装の表面)よりは充分に柔らかい粒状体である。なお。アスファルト路面には、硬質の骨材が露出するため、モース硬度が8程度と考えられる。一方、アイスバーンのモース硬度は、1.5〜2.5であり、0℃付近で約1.5である。したがって、路面の損傷を充分に抑制すべく、「非硬質かつ非軟質」の粒状体は、モース硬度が、2〜6、好ましくは2〜5である。このように、氷よりも硬いので、氷上路面に対して引っ掻き効果を発揮することができる。このような粒状体の配合量は、ジエン系ゴム成分100重量部に対して1〜30重量部、好ましくは2〜10重量部である。
【0026】
非硬質かつ非軟質の粒状体として、最も好ましくは、種子の殻又は果実の核を粉砕してなる植物性粒状体、及び/又は、植物の多孔質性炭化物の粉砕物を配合する。これらの植物性粒状体や多孔質性炭化物の粉砕物を併用することにより、氷上性能を更に向上することができる。非硬質かつ非軟質の粒状体としては、ホタテ貝の貝殻の粉砕物(特開2004−196944)、貝化石の粉砕物などの無機粒状体も好適に使用可能である。なお、植物性粒状体、及び無機粒状体を適宜併用することもできる。
【0027】
上記植物性粒状体としては、胡桃(クルミ)、杏(あんず)、椿、桃、梅などの果実の核、またはトウモロコシの穂芯などを公知の方法で粉砕してなる粉砕品を用いることができる。これらは、いずれもモース硬度が2〜5程度である。一方、植物の多孔質性炭化物は、木材、竹材、やし殻、クルミ殻などの植物質材料を炭化して得られるものであり、この中でも、竹炭の粉砕物を好ましいものとして挙げることができる。竹炭はその特有の多孔質性により優れた吸着性を発揮することから、氷上路面に発生する水膜を効果的に吸水、除去し路面との摩擦力を高め、ゴム組成物の氷上性能を著しく向上させることができる。上記の植物性粒状体と、多孔質炭化物とを併用するならば、引っ掻き効果及び吸水効果を共に実現できるため、氷上制動性能を向上させる上で特に好ましい。なお、このような組み合わせに代えて、貝殻の粉砕物と、多孔性の無機粉状物とを組みあせても、類似の効果を得ることができる。
【0028】
植物性粒状体は、ゴムとのなじみを良くして脱落を防ぐために、ゴム接着性改良剤の樹脂液で表面処理されたものを用いることが好ましい。ゴム接着性改良剤としては、例えば、レゾルシン・ホルマリン樹脂初期縮合物とラテックスの混合物を主成分とするもの(RFL液)が挙げられる。なお、このように表面処理した植物性粒状体と、表面処理をしないままの非処理の植物性粒状体とを、例えば3:7〜6:4の重量比で併用するならば、氷上制動性能を向上させる上で、さらに好ましい。
【0029】
植物性粒状体の平均粒子径は、特に限定されないが、引っ掻き効果を発揮するとともにトレッドからの脱落を防止するため、100〜500μmであることが好ましい。なお、平均粒子径は、前述の場合も含め、レーザ回折・散乱法により測定される値である。
【0030】
本発明のゴム組成物は、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているカーボンブラックやシリカなどの補強剤や充填剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、老化防止剤(アミン−ケトン系、芳香族第2アミン系、フェノール系、イミダゾール系等)、加硫剤、加硫促進剤(グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系等)などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0031】
ここで、カーボンブラックとしては、スタッドレスタイヤのトレッド部に用いる場合、ゴム組成物の低温性能、耐摩耗性やゴムの補強性などの観点から、窒素吸着比表面積(N2SA)(JIS K6217−2)が70〜150m2/gであり、かつDBP吸油量(JIS K6217−4)が100〜150ml/100gであるものが好ましく用いられる。具体的にはSAF,ISAF,HAF級のカーボンブラックが例示され、配合量としてはジエン系ゴム100重量部に対して10〜80重量部程度の範囲で使用されることが好ましい。
【0032】
また、シリカを用いる場合は、湿式シリカ、乾式シリカ或いは表面処理シリカなどが使用され、配合量はゴムのtanδのバランスや補強性、電気伝導度の観点からジエン系ゴム100重量部に対して50重量部未満が好ましく、カーボンブラックとの合計量では10〜120重量部程度が好ましい。また、シリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましい。
【0033】
本発明のゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダなどの混合機を用いて混練し作製することができる。該ゴム組成物は、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどの冬用タイヤ(ウインタータイヤ)のトレッド部のためのゴム組成物として好適に用いられる。
【0034】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いてゴム用押し出し機などによりタイヤのトレッド部を作製し未加硫タイヤを成形した後、常法に従い加硫工程を経ることで製造することができる。キャップベース構造のスタッドレスタイヤに適用される場合は、接地面側のキャップトレッドにのみに本発明のゴム組成物を適用すればよい。このようにして得られた本発明の空気入りタイヤは、特には、トラックやバスなどの重荷重用スタッドレスタイヤのトレッド部、特にはトレッドキャップ部に好適である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の一実施例を示す。バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合に従い、スタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物を調製した。表1中の各成分は以下の通りである。用いたブタジエンゴムのビニル基含有率は、いずれも1%以下である。
【0036】
・天然ゴム:RSS#3、
・BR−1:ランクセス社製のネオジム触媒ブタジエンゴム「Buna CB 22」, ムーニー粘度(ML1+4(100℃))63, シス−1,4結合含有率>96%, 1,2−ビニル基含有率<1%、
・BR−2:ランクセス社製のネオジム触媒ブタジエンゴム「Buna CB 24」, ムーニー粘度(ML1+4(100℃))44, シス−1,4結合含有率>96%, 1,2−ビニル基含有率<1%、
・BR−3:宇部興産社製のコバルト触媒ブタジエンゴム「BR150L」, ムーニー粘度(ML1+4(100℃))43, シス−1,4結合含有率98%, 1,2−ビニル基含有率1%、
・カーボンブラック:東海カーボン株式会社製「シースト6」(N220,ISAF)、
・パラフィンオイル:株式会社ジャパンエナジー製「JOMOプロセスP200」。
【0037】
・加工助剤1:しゃく解剤としてDBDを5〜10重量%含有する脂肪酸亜鉛塩(構成脂肪酸は炭素数18の飽和脂肪酸を主成分とする。)、ラインケミー社製「アクチプラストMS」、
・加工助剤2:飽和脂肪酸亜鉛塩、ラインケミー社製「アクチプラストPP」、
・非処理植物性粒状体:クルミ殻粉砕物(株式会社日本ウォルナット製「ソフトグリット#80」)をそのまま用いたもの、
・表面処理植物性粒状体:クルミ殻粉砕物(株式会社日本ウォルナット製「ソフトグリット#60」)に対し、特開平10−7841号公報に記載に方法に準じてRFL処理液で表面処理を施したもの(処理後の植物性粒状体の粒子径は200〜300μm)。
【0038】
各ゴム組成物には、共通配合として、ジエン系ゴム100重量部に対し、ステアリン酸(花王株式会社製「ルナックS−20」)2重量部、亜鉛華(三井金属鉱業株式会社製「亜鉛華1種」)2重量部、老化防止剤(住友化学株式会社製「アンチゲン6C」)2重量部、加硫促進剤(三新化学製「TBBS」)1重量部、及び、硫黄(鶴見化学工業株式会社製「粉末硫黄」)2重量部を配合した。
【0039】
得られた各ゴム組成物について、加工性の指標としてのムーニー粘度を測定するとともに、加硫後に、低温での硬度(−5℃)及び破断強度を測定した。また、各ゴム組成物を用いてスタッドレスタイヤを作製し、耐摩耗性と、氷上路面における制動性能(氷上制動性能)を評価した。タイヤサイズは11R22.5 14PRとして、そのトレッドに各ゴム組成物を適用し、常法に従い加硫成形することにより製造した。各使用リムは22.5×7.50とした。各測定・評価方法は次の通りである。
【0040】
・加工性:JIS K6300に準拠して、100℃でのムーニー粘度を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、加工性に優れることを示す。
【0041】
・低温硬度:JIS K6253に準拠して、160℃×20分で加硫したサンプル(厚みが12mm以上のもの)について、−5℃での硬度を、タイプAデュロメータを用いて測定した。
【0042】
・破断強度:各ゴム組成物を加硫した試験片を用いて、JIS K6251に準拠して引張試験(ダンベル状3号)を行い、破断強度を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。
【0043】
・300%モジュラス:各ゴム組成物を加硫した試験片を用いて、JIS K6251に準拠して引張試験(ダンベル状3号)を行い、300%モジュラスを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。
【0044】
・耐摩耗性:各ゴム組成物を加硫した試験片を用いて、JIS K6264に準拠したランボーン試験にて摩耗量を測定した。標準条件は、スリップ率30%、負荷荷重40N、落砂量20g/分とし、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど耐摩耗性に優れることを示す。
【0045】
・氷上制動性能:上記タイヤを25トントラックに装着し、−3±3℃の氷盤路上で30km/h走行から急ブレーキをかけて(ABS非作動)、制動距離(m)を測定した上で、その逆数をとった。このように得られた制動距離の逆数(n=10の平均値)を比較し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、制動性能に優れることを示す。
【表1】

【0046】
結果は表1に示す通りであり、しゃく解剤を含有する脂肪酸金属塩(加工助剤1)と、植物性粒状体とを配合した実施例1〜5であると、しゃく解剤または植物性粒状体を含まない比較例1〜6に比べて、氷上制動性能を実質的に悪化させずに、かつ、良好な加工性(低粘度)及び低温硬度を実現しながら、耐摩耗性を有意に向上させることができた。なお、データには、示さないが、各実施例により、タイヤの偏摩耗性が著しく低減した。これは、300%モジュラス、または、破断強度に関連したゴム材料の強度が向上することにより、サイプをなす突起部分についての、倒れ込みに対する抵抗性が向上したためと考えられる。
【0047】
実施例1と実施例2とでは加工助剤の添加量のみ異なるが、加工助剤が多い実施例2で、加工性が、やや優れるが、破断強度が、やや小さかった。実施例3では、ゴム成分中における、ブタジエンゴムの量を天然ゴムよりも多くした結果として、破断強度及び300%モジュラスが、やや低下したが、耐摩耗性が向上した。また、実施例4では、植物性粒状体の量、及び加工助剤の量を少なくした結果として、強度及びモジュラスが大きく向上したものの、氷上制動性能において、少し劣るものとなった。実施例5では、ムーニー粘度が低めのブタジエンゴムを用いたために、耐摩耗性及び強度特性が、少し低めとなった。
【0048】
比較例1は、加工助剤または可塑剤を含まず、かつ実施例1〜4と同一の、ネオジム触媒によるポリブタジエンを用いたことから、他の比較例及び各実施例よりも加工性が劣る。比較例2は、コバルト触媒によるポリブタジエンであって、かつ、ムーニー粘度が低めであることから、加工性において各実施例と同等であるが、耐摩耗性が低く、また、氷上制動性能が大幅に低い。比較例3は、実施例で用いた加工助剤に代えて、プロセスオイルを可塑剤として添加した結果、氷上制動性能に優れるが、耐摩耗性、及び、強度特性において、顕著に低かった。
【0049】
比較例4では、しゃく解剤を含有しない加工助剤を用いた結果、破断強度及び300%モジュラスにおいて、著しく低かった。ランボーン試験による耐摩耗性では、大きな低下が見られないが、タイヤ偏摩耗が、実施例の各タイヤに比べて、顕著に大きかった。
【0050】
比較例5では、引っ掻き効果等のための粒状体を含まない結果、強度特性及び耐摩耗特性において非常に良好であるが、氷上制動性能において非常に劣っていた。一方、比較例6では、実施例と同様の組成において加工助剤の添加量を過度に大きくした結果、氷上制動性能において優れるものの、破断強度が有意に低く、耐摩耗性においても、やや低かった。データとして示さないが、比較例6であると、タイヤ偏摩耗が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係るゴム組成物は、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどの冬用タイヤ、産業車両用タイヤなどの各種空気入りタイヤを始めとして、靴底、マット類、床材等の防滑性が要求されるゴム製品に広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス−1,4結合含有率が96%以上、かつビニル基含有率が1%未満であるブタジエンゴム20〜60重量%と、天然ゴムまたはイソプレンゴム40〜80重量%とからなるジエン系ゴム成分100重量部に対し、しゃく解剤を脂肪酸金属塩中に予め混合してなる加工助剤を0.2〜3重量部、平均粒径が0.1〜500μmである非硬質かつ非軟質の粒状体を1〜30重量部配合してなるゴム組成物。
【請求項2】
前記しゃく解剤が2,2’−ジベンズアミドジフェニルジスルフィド(DBD)である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ブタジエンゴムが、ネオジウム触媒を用いて合成されたものである請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記粒状体が、モース硬度2〜5の植物性粒状体である請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物からなるトレッドを備えた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2010−265427(P2010−265427A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119865(P2009−119865)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】