説明

ゴム補強用ポリエステル繊維コードおよびその製造方法

【課題】高温に曝された場合のポリエステル繊維とゴムとの耐熱接着性を改善し、かつ耐熱強力保持率を改善したゴム補強用ポリエステル繊維コードおよびその製造方法の提供。
【解決手段】内外二層の接着剤層が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドであって、コ−ド内層部分接着剤の主成分が、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とから、コ−ド外層部分接着剤の主成分が、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとからそれぞれなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ、ホースおよびベルトなどに使用されるゴム補強用ポリエステル繊維コード、よびその製造方法に関する。さらに詳しくは、ゴム加硫工程や製品使用中に、ゴム中で長時間高温に曝された時の耐熱接着性及び耐熱強力保持性を著しく改善したゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、特にラヂアルタイヤのキャッププライコ−ド用として好適なゴム補強用ポリエステル繊維コードおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、優れた強度、弾性率および熱寸法安定性を有するため、タイヤ、ホース、及びベルトなどのゴム製品用補強材として従来から広く使用されている。
【0003】
しかるに、ポリエステル繊維は、補強材としてゴム製品中に埋め込まれて使用される時に、その高温環境下では熱劣化することが問題視されていた。その化学的熱劣化は、ゴム自身及びゴム中に配合されている種々の添加物の影響を受ける。すなわち、ゴム中には、チウラム系、スルフェンアミド系あるいはグアニジン系などの加硫促進剤やアミン系老化防止剤などが配合されており、ゴム中で高温処理を受けたポリエステル繊維は、主にこれらのアミン系化合物やゴム自身の酸化劣化によって生じた低分子量化合物、水分子及びゴム中に含まれていた水分等によってアミン分解や加水分解されるのである。そして、かかるアミン分解およびまたは加水分解されたポリエステル繊維は、接着性や強力等初期の特性を著しく低下させ使用に耐えられなくなるという問題があった。
【0004】
ポリエステル繊維をゴム補強用繊維として用いた場合には、ポリエステル繊維がアミン分解や加水分解して、分子鎖切断に伴う強力低下やゴムと繊維層との接着性の低下を生じるという欠点を有するものの、ポリエステル繊維自体は高強力、高弾性率、熱寸法安定性に優れるという特性を有し、かつ耐疲労性や接着性の改良も進み、またタイヤ製造技術も向上していることから、近年では殆どの乗用車ラヂアルタイヤのカ−カス材としてポリエステル繊維が用いられている。
【0005】
しかしながら、ポリエステル繊維コードは、上記本質的な欠点を有しているため、タイヤ高速走行時に発熱した熱がこもりにくく化学劣化し難い、比較的小さなタイヤサイズの乗用車用カ−カス材に限られて使用されており、トラック、バス等の大型タイヤではごく一部に使用されているに過ぎないのが現状である。つまり一般には、トラック、バス用タイヤ、航空機用タイヤ、大型乗用車用タイヤ及びレ−シングカ−タイヤ等にはポリエステル繊維コ−ドは使用されていない。
【0006】
しかも、近年益々高速走行に適した高性能タイヤの実現が要求され、その要求を満たすために開発されたラヂアルタイヤには、高速走行時の遠心力によるタイヤの膨張と接地時の圧縮をスチ−ルベルトの上からしっかりと抑えるため、キャッププライコ−ドが用いられるようになった。このキャッププライコ−ドは、カ−カス部に比べ一段と発熱し高温となることから、従来のポリエステル繊維コ−ドでは使用に耐えることができないため、高温時の接着性に優れたナイロン66繊維が用いられている。
【0007】
しかしながら、キャッププライコ−ドには高弾性率が要求されるため、繊維素材としてはポリエステ繊維が好ましく、またポリエステル繊維は価格も安いこともあり、キャッププライ用として使用可能なポリエステル繊維コ−ドの開発が強く要望されていた。この要望に応えるためには、第一に耐熱接着性の大幅な改善が、さらには耐熱強力保持性の改善が必要である。
【0008】
ポリエステル繊維の耐熱接着性の改善に関しては、従来から種々の検討がなされており、例えば予めポリエポキシド化合物で前処理された線状芳香族ポリエステルを、ポリエポキシド化合物及びN−メトキシメチルナイロンを含む第1処理剤で処理し、次いでレゾルシン・ホルマリン・ラテックスにエチレン尿素化合物と、クレゾ−ルノボラック型エポキシ化合物からなる第2処理剤で処理するポリエステル繊維の処理方法(例えば、特許文献1参照)、線状芳香族ポリエステル繊維をポリエポキシド化合物及び水溶性ナイロンを含む前処理剤で処理し、次いでポリエポキシド化合物、ブロックドイソシアネ−ト化合物及びゴムラテックスを含む第1処理剤で処理し、更にレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスに上述のエチレン尿素化合物とフェノ−ルノボラック型エポキシ化合物とからなる第2処理剤で処理する方法(例えば、特許文献2参照)、線状芳香族ポリエステル繊維をクレゾ−ルノボラック型エポキシ化合物及び水溶性ナイロンを含む前処理剤で処理し、次いでポリエポキシド化合物、ブロックドイソシアネ−ト化合物及びゴムラテックスを含む第1処理剤で処理し、更にレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスに上述のエチレン尿素化合物とフェノ−ルノボラック型エポキシ化合物からなる第2処理剤で処理する方法(例えば、特許文献3参照)、及び線状芳香族ポリエステル繊維をエチレン尿素化合物及び水溶性ナイロンを含む前処理剤で処理し、次いで、エポキシド化合物及びゴムラテックスを含む第1処理剤で処理し、更にレゾルシン・ホルマリン・ラテックスに上述のエチレン尿素化合物とフェノ−ルノボラック型エポキシ化合物とを加えてなる第2処理剤で処理する方法(例えば、特許文献4参照)等が提案されている。
【0009】
上記従来技術は、それまでのポリエステル繊維の接着方法に比べれば、高温下での耐熱接着性及び耐熱強力保持性の改善が認められるものの、十分満足すべき程度にまではいたらず、特にラヂアルタイヤのキャッププライ用コ−ドとしては実用化できるレベルではなかった。
【特許文献1】特開昭62− 21875号公報
【特許文献2】特開昭62−276089号公報
【特許文献3】特開昭62−276083号公報
【特許文献4】特開昭62−276084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来技術した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、高温に曝された場合のポリエステル繊維とゴムとの耐熱接着性を改善し、かつ耐熱強力保持性を改善したゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、特にラヂアルタイヤのキャッププライコ−ドに好適なゴム補強用ポリエステル繊維コードおよびその製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために本発明によれば、内外二層の接着剤層が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドであって、コ−ド内層部分接着剤の主成分が、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とから、コ−ド外層部分接着剤の主成分が、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとからそれぞれなることを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドが提供される。
【0012】
なお、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドにおいては、
前記親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)との配合割合N:Eが、90:10〜50:50(重量比)であること、
前記親水性化合物が、窒素環状化合物及び/またはポリアルキレングリコールを有する構造であること、及び
キャッププライ用コードであること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0013】
また、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドの製造方法は、内外二層の接着剤層が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドを2浴ディップ法によって製造する方法であって、1浴目で親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とを主成分とする接着剤を付与した後熱処理を施し、次に2浴目でレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとを主成分とする接着剤を付与して熱処理することを特徴とし、この方法においては、
前記1浴目に用いられる親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)との配合割合N:Eが、90:10〜50:50(重量比)であること、及び
前記親水性化合物が、窒素環状化合物及び/またはポリアルキレングリコールを有する構造であること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下に説明するとおり、ゴム加硫工程や製品使用中に、ゴム中で長時間高温に曝された時の耐熱接着性及び耐熱強力保持性が著しく改善され、特にラヂアルタイヤのキャッププライ用コ−ドとして好適なゴム補強用ポリエステル繊維コードを得ることができる。したがって、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードで補強されたゴム製品は、タイヤ、ベルト及びホースなどとして用いた時に長期間の過酷な使用に耐えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明について具体的に説明する。
【0016】
本発明で用いるポリエステル繊維は、ジカルボン酸とグリコール成分とからなるポリエステルからなり、特にテレフタ−ル酸とエチレングリコ−ルとから得られるポリエチレンテレフタレートからなることが好ましい。
【0017】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、高強度、高タフネス、高弾性率、低収縮、高耐疲労性等の優れた機械的特性を有し、かつゴム中で高温に長時間曝されても優れた耐加水分解性や耐アミン分解性等の優れた化学的耐久性を有するため、本発明で用いるポリエステル繊維は、以下の特性を有することが好ましい。
【0018】
(1)固有粘度(IV)=0.7〜1.2、より好ましくは0.8〜1.1、
(2)カルボキシル末端基(COOH)=10〜30eq/t、より好ましくは12〜25eq/t、
(3)ジエチレングリコ−ル(DEG)=0.5〜1.5、好ましくは0.5〜1.2%、
(4)強度(T)=6.0〜10.0cN/dtex、より好ましくは7.0〜9.0cN/dtex、
(5)伸度(E)=8〜20%、より好ましくは10〜16%、
(6)中間伸度(ME)=4.0〜6.5%、より好ましくは4.5〜6.0%、
(7)乾熱収縮率(ΔS150℃)=2.0〜12.0%、より好ましくは3.0〜10.0%。
【0019】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードに用いるポリエステル繊維が、特に化学的耐久性を有するためには、粘度が高く、カルボキシル末端基が少なく、ジエチレングリコ−ルが少ないことが有利である。
【0020】
本発明で用いるポリエステルは、カルボキシ末端基を少なくするため、例えばカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物及びオキサゾリン化合物などの末端カルボキシル基封鎖剤を用いて改質されていてもよい。
【0021】
本発明で用いるポリエステル繊維は、繊度、フィラメント数、断面形状等の制約を受けないが、通常、200〜5000dtex、30〜1000フィラメント、円断面糸が用いられ、250〜3000dtex、50〜500フィラメント、円断面糸であることがより好ましい。
【0022】
本発明ゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドは、上記ポリエステル繊維を撚糸して生コ−ドとし、生コ−ドそのまま、または生簾反に製織した後接着剤処理して得られる。通常のカ−カス用タイヤコ−ドに用いる生コ−ドは、SまたはZ方向に下撚りした後、2本または3本の下撚りコ−ドを合わせて下撚りと反対方向に通常同数の上撚りをかけ諸撚りコ−ドとしたものである。次いで、この生コ−ドを経糸とし、緯糸に綿糸、またはポリエステル繊維に綿糸をカバリングして緯糸とし、生簾反に製織する。次に、この生簾反を接着剤処理することによりディップ反が得られる。
【0023】
一方、ホ−スやベルト、及びキャッププライコ−ドの場合には、下撚りをかけ、下撚りコ−ドのまま、あるいは前記と同様、2本または3本合わせて下撚りと反対方向に通常同数の上撚りをかけて諸撚りコ−ドとし、コ−ド形態のまま接着剤処理してディップコ−ドとする。
【0024】
本発明の接着剤が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドとは、上記ディップ反及びディップコ−ドの両者を指す。
【0025】
本発明の接着剤が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドは、コ−ド内層部分接着剤層の主成分が、親水性化合物共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とからなり、コ−ド外層側部分接着剤層の主成分が、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとからなる。
【0026】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドに付与されたコ−ド内層部分接着剤層とは、主に後述する本発明の2浴ディップ法において、1浴目の接着剤成分の付着部分を意味し、ポリエステルコ−ドの表面および一部コ−ド内に浸透した部分である。また、コ−ド外層部分接着剤層とは、前記内層部分接着剤層に上塗りされた部分であり、内層部分と外層部分の接着剤成分が一部混合した境界部も存在する。
【0027】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドにおいては、コ−ド内層部分の主成分が、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とからなる。親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂成分は、ポリエステル繊維の表面に皮膜を形成し、ゴム及びコ−ド外層側部分接着剤層の主成分であるレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとが高温長時間曝され熱分解して生成した低分子量アミン化合物や水分子が、ポリエステル繊維コ−ド内へ浸透するのを防ぎ、ポリエステルの熱分解を抑制することができる。その結果、ゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドの強力低下が抑えられるだけでなく、接着性の低下も抑えられるという画期的な効果が得られるのである。
【0028】
また、内層部分接着剤層のエポキシ化合物は、ポリエステル繊維とレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックス成分とを接着する働きを有する。そして、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックス成分はゴムと接着する。
【0029】
本発明ゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドは、コ−ドの表層部に付着せしめた親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)との成分、更にその外層に付着せしめたレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとの成分が各層をなしていることが特徴であり、それによって本発明の効果を得ることができる。すなわち、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドは、ポリエステル繊維とエポキシ化合物との反応、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとの接着反応及びレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとゴムとの接着反応等を阻害することなく、上記ナイロン樹脂成分による低分子量アミン化合物や水分子のポリエステルコ−ド内への浸透を抑え、その結果、耐熱接着性および耐熱強力保持性の向上が達成されるのである。
【0030】
次に、本発明ゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドの好ましい態様について説明する。
【0031】
内層部分接着剤層における親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)との配合割合N:Eは90:10〜50:50(重量比)である。より好ましくは、N:E=80:20〜60:40(重量比)である。上記重量配合比を外れた場合は高温に曝した時の耐熱接着性が不十分になることがあるか、またはコードが硬くなり、耐疲労性が低下するため好ましくない。
【0032】
また、内層部分接着剤層における一主成分である親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂は、常温で水に溶解するものである。この水溶性ナイロン樹脂は、親水性化合物として窒素環状化合物またはポリアルキレングリコールを有するものであることが好ましい。すなわち、前記親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂は、ε−カプロラクタムと窒素環状化合物及びジカルボン酸の反応生成物であることが好ましい。または、前記親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂は、ε−カプロラクタムとポリアルキレングリコール及びジカルボン酸の反応生成物であることが好ましい。
【0033】
本発明で用いられる親水性化合物が共重合されている水溶性ナイロンは、従来技術で用いられているN−メトキシメチルナイロンと以下の点で耐熱接着性において優位である。従来技術で使用されているN−メトキシメチルナイロンは、分子間水素結合を形成しやすいナイロン主鎖中のアミド結合にメトキシメチル基に導入する。その結果、アミド結合部の水素結合能力が失われ、ナイロンの結晶性が阻害されアルコールに溶解する。一方、本発明の親水性化合物が共重合されている水溶性ナイロンには、主鎖に窒素環状化合物及び/またはポリアルキレングリコールを共重合されているため、アミド結合部の水素結合能力はN−メトキシメチルナイロンに対して大きい。ゴム補強用コードとしてのアミド基の水素結合能力は、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとの接着性に大きく作用することから、アミド基の水素結合能力の少ない従来技術のN−メトキシメチルナイロンに比べて、本発明の親水性化合物が共重合されている水溶性ナイロンの方が耐熱接着において優位であると考えられる。
【0034】
本発明の親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂は、親水性化合物としては側鎖または主鎖に第3級アミン成分を有する窒素環状化合物、及び主鎖にポリアルキレングリコール成分を有する成分を共重合することによって得られる。第3級アミンを主鎖に持つモノマーとしては、アミノエチルピペラジン、ビスアミノプロピルピペラジンなどが、また側鎖に第3級アミンを含むモノマーとしては、α−ジメチルアミノε−カプロラプタムなどである。主鎖にポリアルキレングリコールを持たせる成分としては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどがあるが、常温水溶性の点でポリエチレングリコールが好ましい。
【0035】
ポリアミドの主鎖にポリアルキレン成分を含有させるためには、ポリアルキレングリコールの両末端をジアミンやジカルボン酸に変性したものを用いる。ジアミンに変性したものの例としては、ビスアミノプロピルポリエチレングリコールが、ジカルボン酸に変性したものの例としては、ビスカルボキシエチレングリコールがある。水溶性成分としてジアミンに変性したものを使用する場合は、それと実質上当モルのジカルボン酸を使用することが望ましい。ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカジカルボン酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸などが挙げられる。水溶性成分としてジカルボン酸に変性したものを使用する場合は、それと実質上当モルのジアミンを使用することが好ましい。ジアミンの例としては、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンやパラアミノシクロヘキシルメタンなどの脂環族ジアミンやメタキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンがある。
【0036】
本発明で使用される親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂における、ε−カプロラプロラクタムと窒素環状化合物及びジカルボン酸の反応生成物との重量配合比は、3:97〜30:70であることが好ましく、さらに好ましくは7:93〜15:85であることが好ましい。上記重量配合比を外れた場合は水溶性ナイロンが水に不溶となったり、ポリエステル繊維との接着不良を起こしたりする傾向となる。
【0037】
また、主鎖に親水性基を有する水溶性ナイロン樹脂において、ε−カプロラプタムとポリアルキレングリコール及びジカルボン酸の反応性生物との重量比は、1:99〜50:50であることが好ましく、更に好ましくは3:97〜40:60であることが好ましい。上記重量配合量を外れた場合は水溶性ナイロンが水に不溶となったり、ポリエステル繊維との接着不良を起こしたりする傾向となる。
【0038】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドの内層部分接着剤層の他の主成分であるエポキシ化合物は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものである。
【0039】
分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物としては、例えば、分子内に水酸基を有する化合物から得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、分子内にアミノ基を有する化合物から得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、分子内にカルボキシル基を有する化合物から得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、分子内に不飽和結合を有する化合物から得られる環式脂肪族エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートなどの複素環式エポキシ樹脂、あるいはこれらから選ばれる2種類以上のタイプが分子内に混在するエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0040】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンのようなハロゲン含有エポキシド類との反応により得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFと前記ハロゲン含有エポキシド類との反応により得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニルと前記ハロゲン含有エポキシド類との反応により得られるビフェニル型エポキシ樹脂、レゾルシノールと前記ハロゲン含有エポキシド類との反応により得られるレゾルシノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールSと前記ハロゲン含有エポキシド類との反応により得られるビスフェノールS型エポキシ樹脂、多価アルコール類と前記ハロゲン含有エポキシド類との反応生成物であるポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ビス−(3,4−エポキシ−6−メチル−ジシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシシクロヘキセンエポキシドなどの不飽和結合部分を酸化して得られるエポキシ樹脂、その他ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、及びこれらのハロゲンあるいはアルキル置換体などを使用することができる。
【0041】
中でも、ゴム補強用ポリエステル繊維コードの耐熱接着性を効果的に向上できるエポキシ化合物は、芳香族ポリエポキシド化合物が好ましい。この芳香族ポリエポキシド化合物は、前記のポリエポキシド化合物の内、分子中に少なくとも一個の芳香環と少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物である。このような芳香族ポリエポキシド化合物の具体例としては、多価フェノール類とエポクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、例えば、レゾルシン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、クレゾール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等とエピクロルヒドリンとの反応生成物、及びビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応生成物である芳香族エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらの中では、下記式で表されるフェノール樹脂類のグリシジルエーテルが最も好ましい。
【0042】
【化1】

【0043】
式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜3のアルキル基、nは1〜5の整数を表す。
【0044】
この芳香族ポリエポキシド化合物は、通常は乳化液、又は分散液にして使用される。乳化液又は分散液にするには、例えば、該芳香族ポリエポキシド化合物をそのまま、あるいは、必要に応じて少量の溶媒に溶解したものを、公知の乳化剤、例えばアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、及びノニルフェノールエチレンオキサイド付加物等を用いて乳化又は分散すればよい。
【0045】
また、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドの内層部分接着剤層の主成分は、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とからなるが、更に第3成分として、ゴムラテックスを含有させると効果をより向上させることができる。本発明で用いることができるゴムラテックスとしては、例えば、天然ゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、スチレン・ブタジエン・ゴムラテックス、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、水素化ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、クロロスルホン化ゴムラテックス、及びエチレン・プロピレン・ジエンゴムラテックス等が挙げられ、これらを単独又は併用して使用することが出来る。中でも、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスを単独、又は他のものと併用して使用することが好ましい。さらに好ましくは、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスに、エチレン系不飽和酸が共重合されてなる変性ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスを単独又は他のものと併用して使用することが好ましい。
【0046】
ここで用いられるエチレン系不飽和酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステルなどの不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル、及びアクリル酸スルホエチルナトリウム塩、メタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩、アクリルアミドプロパンスルホン酸などの不飽和スルホン酸またはそのアルカリ塩などが挙げられ、これらは一種もしくは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
なお、カルボキシル基は、エチレン性不飽和酸エステル単量体またはエチレン系不飽和酸無水物単量体を共重合した後に加水分解することによってラテックスに導入してもよい。エチレン系不飽和酸エステル単量体やエチレン系不飽和酸無水物単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸のモノ、ジ、又はトリエステル、及びマレイン酸無水物などが例示され、これらの一種または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
また、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドの内層部分接着剤層の主成分は、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とからなり、更にゴムラテックスを含有させて効果を向上させることができるが、更に第4成分として、ブロックドポリイソシアネート化合物、及び/またはエチレンイミン化合物を含有させることによってより効果を高めることができる。
【0049】
本発明に使用できるブロックドポリイソシアネート化合物及び/又はエチレンイミン化合物としては、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物と、フェノール、クレゾール、レゾルシンなどのフェノール類、ε−カプロラクタム、バレロラクタムなどのラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム類及びエチレンイミンなどのブロック化剤との反応物が挙げられる。これらの化合物のうち、特にε−カプロラクタムでブロックされた芳香族ポリイソシアネート化合物、及びジフェニルメタンジエチレン尿素などの芳香族エチレン尿素化合物が好ましく用いることができる。
【0050】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドにおいて、内層部分接着剤層の主成分は、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とからなるが、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)の全固形分付着量に対する割合は、10重量%〜70重量%であり、好ましくは20重量%〜60重量%である。10重量%未満の場合は、耐熱接着性が不十分であり、70重量%を越えると、初期の接着性が不十分になる。
【0051】
ポリエステル繊維に対する内層部分接着剤層の固形分付着量は、繊維重量に対して0.5重量%〜10重量%の範囲であり、好ましくは1重量%〜5重量%の範囲である。固形分付着量が低すぎると接着性が低下し、一方固形分付着量が高すぎるとコードが硬くなり、耐疲労性が低下するため好ましくない。
【0052】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードにおける外層部分接着剤層の主成分は、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとからなる。このレゾルシン・ホルムアルデヒドは、特にアルカリ触媒下で初期縮合して得たレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を用いて調製することが好ましい。例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性化合物を含むアルカリ性水溶液内に、レゾルシンとホルムアルデヒドを添加混合して、室温で数時間静置し、レゾルシンとホルムアルデヒドを初期縮合させた後、ゴムラテックスを加えて混合エマルジョンとする方法により調製される。
【0053】
レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物は、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比が1:0.3〜1:5、好ましくは1:0.75〜1:2.0の範囲のものを用いる。ホルムアルデヒドのモル比が前記範囲よりも少ないと処理コードが粘着性を帯び、処理機の汚れを招くことがあり、一方ホルムアルデヒドのモル比がこの範囲よりも多いと接着性が不十分になる。
【0054】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードにおける外層部分接着剤層のは、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとを主成分とするが、外層部分接着剤は、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物と共に、下記一般式で示されるフェノール系化合物を含むことによって、更にポリエステル繊維の劣化を抑制できるようになる。
【0055】
【化2】

【0056】
ただし、式中のWはCH2、またはSnを、X、YはCl、Br、I、H、OHおよびC1〜C6のアルキル基から選ばれた基を示し、nは1〜8の整数、mは1〜15の整数である。
【0057】
上記一般式で示されるフェノール系化合物は、ハロゲン化フェノール化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物、硫黄変性レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物またはハロゲン化硫黄変性レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物である。
【0058】
これらフェノール系化合物の調整方法は特に限定されないが、例えば、パラクロロフェノール、オルソクロロフェノール、パラブロモフェノール、パラヨウドフェノール、オルソクレゾール、パラクレゾール、パラターシャルブチルフェノール及び2,5−ジメチルフェノールなどが出発原料として挙げられ、なかでもパラクロロフェノール、パラブロモフェノール、パラクレゾール、及びパラターシャルブチルフェノールが、とくにパラクロロフェノールが好ましく用いられる。
【0059】
このような出発原料をアルカリ触媒存在下にホルムアルデヒドと縮合させることによって、または、出発原料を予め酸触媒の存在下で反応させ得られた縮合物をアルカリ触媒の存在下で反応させ得られた縮合物をアルカリ触媒の存在下でホルムアルデヒドと反応させることによって、フェノール系化合物を得ることができる。
【0060】
レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックスの調製に用いるゴムラテックスとしては、例えば、天然ゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、スチレン・ブタジエン・ゴムラテックス、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、水素化ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、クロロスルホン化ゴムラテックス、及びエチレン・プロピレン・ジエンゴムラテックス等が挙げられ、これらを単独、又は併用して使用することが出来る。中でも、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスを単独又は他のものと併用して使用することが好ましい。さらに好ましくは、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスに、エチレン系不飽和酸が共重合されてなる変性ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスを単独又は他のものと併用して使用することが好ましい。
【0061】
ここで用いられるエチレン系不飽和酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン
酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステルなどの不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル、及びアクリル酸スルホエチルナトリウム塩、メタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩、アクリルアミドプロパンスルホン酸などの不飽和スルホン酸またはそのアルカリ塩などが挙げられ、これらは一種もしくは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
なお、カルボキシル基はエチレン性不飽和酸エステル単量体またはエチレン系不飽和酸無水物単量体を共重合した後に加水分解することによってラテックスに導入してもよい。エチレン系不飽和酸エステル単量体やエチレン系不飽和酸無水物単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸のモノ、ジ、又はトリエステル、及びマレイン酸無水物などが例示され、これらの一種または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックスにおけるレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスの配合比率は、固形分重量比で1:3〜1:8であることが好ましく、1:4〜1:6の範囲であることがさらに好ましい。この範囲を外れると接着性が不十分になることがある。また、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックスと、上記フェノール系化合物の配合比率は、固形分重量比で、10:1〜10:5であることが好ましく、より好ましくは10:2〜10:4であることが良い。この範囲を外れると接着性が不十分になることがある。
【0064】
ポリエステル繊維コードにおける外層部分接着剤層の固形分付着量は、繊維重量に対して1.0重量%〜10重量%の範囲であり、好ましくは1.5重量%〜5重量%の範囲である。固形分付着量が低すぎると接着性が低下し、一方固形分付着量が高すぎるとコードが硬くなり、耐疲労性が低下したり、また工程中のロールに固形分がガムアップしたりして、操業安定性が悪化する傾向となる。
【0065】
上記によって特徴づけられる本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドは、ゴム加硫工程やゴム製品使用中、長時間高温に曝された時の耐熱接着性、耐熱強力保持性が著しく改善される。本発明によるポリエステル繊維コードで補強されたゴム製品は、タイヤ、ベルトおよびホースとして用いた時に長期間の過酷な使用に耐えることができる。特に、従来のポリエステル繊維コ−ドでは適用できなかったラヂアルタイヤのキャッププライコ−ドとして好適である。
【0066】
次に、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法について説明する。
【0067】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、接着剤が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドを2浴ディップ法によって製造する方法において、1浴目で親水性化合物が共重合有されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とを付与し、2浴目でレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとを付与することによって得られる。
【0068】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法に用いられるポリエステル繊維は、前記した特性、すなわち、(1)固有粘度(IV)、(2)カルボキシル末端基(COOH)、(3)ジエチレングリコ−ル(DEG)、(4)強度(T)=6.0〜10.0cN/dtex、(5)伸度(E)=8〜20%、(6)中間伸度(ME)、および(7)乾熱収縮率(ΔS150℃)を満足するものであることが好ましい。
【0069】
このポリエステル繊維は、次いで撚糸して前記した撚り係数の生コ−ドとなし、次いで同様に簾織り用織機を用いてコ−ド簾反とする。ホ−ス、ベルトおよびキャッププライコ−ドの場合には下撚りコ−ドまたは諸糸コ−ドのまま、製織することなく次のディッピング工程に供する。
【0070】
本発明の方法は2浴ディップ法であって、1浴目で親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とを付与し、2浴目でレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとを付与する。
【0071】
1浴目で用いる親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)およびエポキシ化合物(E)、第3成分として加えるゴムラテックス、第4成分として加えるブロックドポリイソシアネート化合物及び/またはエチレンイミン化合物は、上記したものと同じものを用いる。
【0072】
また、本発明は製糸段階でポリエステル繊維に一部の接着剤を付与する必要性がない。製糸段階で一部の接着剤を付与する場合は製糸性を考慮し接着剤を選別する必要性があるが、この製造方法ではディップ時に接着剤を付与せしめるため、本発明の課題であるゴム中での耐熱性に考慮した接着剤を選定することができる。
【0073】
そして、接着剤が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドを2浴ディップ法によ
り製造するが、予め前処理によって一部の接着剤を付与することなく、1浴目で親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とを付与し、2浴目でレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとを付与することによって、内層部分接着剤層の主成分が、主鎖に親水性化合物を有する水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)からなり、該接着剤のコ−ド側外層部分の主成分がレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとからなるようにしてゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドを製造する。同様に、1浴目で付与する接着剤成分及び2浴目で付与する接着剤成分は上記で述べたと同様である。
【0074】
更に、前記1浴目に用いられる、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)との配合割合N:Eを90:10〜50:50(重量比)とすること、前記親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)の親水性化合物として窒素環状化合物及び/またはポリアルキレングリコールを用いること、及び前記親水性化合物として用いる窒素環状化合物として、ε−カプロラプタムと窒素環状化合物およびジカルボン酸の反応生成物を用いること等いずれも前記と同様の組成で行う。
【0075】
1浴目で親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とを付与する方法は、水溶性ナイロン樹脂とエポキシ化合物を含む接着剤を水溶液または水分散体として調整したディップ液に、ポリエステル繊維生コードまたは生コ−ド簾を浸漬し、次いで乾燥、熱処理することによって行われる。1浴目のディップ液の総固形分濃度は、2重量%〜20重量%、好ましくは3重量%〜15重量%の範囲で使用することがよい。固形分濃度が低すぎると接着剤表面張力が増加し、ポリエステル繊維表面に対する均一付着性が低下すると共に、固形分付着量が低下することによって接着性が低下し、また固形分濃度が高すぎると固形分付着量が多くなり過ぎるため、コードが硬くなり、耐疲労性が低下することがあることから好ましくない。
【0076】
また、1浴目のディップ液には、分散剤、すなわち界面活性剤をディップ液の全固形分に対し10重量%以下、好ましくは5重量%以下で用いることが好ましい。10重量%を越えると接着性が低下する傾向となる。
【0077】
ポリエステル繊維に対する1浴目のディップ液の固形分付着量は、繊維重量に対して0.5重量%〜10重量%の範囲であり、好ましくは1重量%〜5重量%の範囲である。固形分付着量が低すぎると、接着性が低下し、一方固形分付着量が高すぎると、コードが硬くなり、耐疲労性が低下することがある。ポリエステル繊維に対する固形分付着量を制御するためには、例えば、ディップ液に浸漬した後圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、圧力空気による飛ばし、吸引等の方法を使用することができる。また、付着量を多くするために、複数回付着させることもできる。
【0078】
1浴目のディップ液を付与したポリエステル繊維コ−ドは、70〜150℃で、0.5〜5分間乾燥後、200〜255℃で0.5〜5分間熱処理して繊維表面に接着剤被膜を形成させるが、場合によっては乾燥を省略することもできる。
【0079】
上記熱処理の温度が200℃未満では、繊維上への接着剤被膜の形成及びゴムとの反応が不十分で、接着力が不十分となることがあり、一方、255℃を越える高温では、繊維上に形成された処理剤被膜が劣化して接着力が低下したり、ポリエステル繊維が熱劣化し、強力が低下したりするため好ましくない。
【0080】
上記のように1浴目のディップ液を付与した後、引き続き、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ゴムラテックスを含む2浴目ディップ液を付着する。
【0081】
レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックスを含む2浴目ディップ液は、固形分濃度が5〜30重量%であり、好ましくは10〜25重量%である。5重量%未満であると、2浴目のディップ液の固形分付着量が不十分となり、接着力が十分でないことがある。固形分濃度が30重量%を超えると、該ディップ液の保存安定性が悪くなり、固形分が凝集して濃度変化がおこり、ポリエステル繊維コード表面にディップ液を均一に付着させることが困難となる。
【0082】
ポリエステル繊維コードに対する2浴目の固形分付着量は、1.0重量%〜10重量%の範囲であり、好ましくは1.5重量%〜5重量%の範囲である。固形分付着量が低すぎると、接着性が低下することがあり、一方固形分付着量が高すぎると、コードが硬くなり、耐疲労性が低下することがあり、また、処理工程上でのロールに固形分のガムアップが生じ、操業安定性が悪化することがある。
【0083】
ポリエステル繊維に対する固形分付着量を制御するには、例えば、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、圧空による吹き飛ばし、吸引等の方法を使用することができる。また、付着量を多くするために、複数回付着させてもよい。
【0084】
2浴目ディップ液を付与したポリエステル繊維コードは、70〜150℃で、0.5〜5分間乾燥した後、200〜255℃で0.5〜5分間熱処理することによって、繊維表面に接着剤被膜を形成できるが、場合によっては乾燥を省略することもできる。熱処理の温度が200℃未満では、繊維上への接着剤被膜の形成およびゴムとの接着が不十分となることがあり、一方、255℃を越える高温では、繊維上に形成された処理剤被膜が劣化して接着力が低下したり、ポリエステル繊維が熱劣化を起こし強力低下したりするため好ましくない。
【0085】
上記2浴ディップ法によって製造された本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドは、内層部分接着剤層の主成分が、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とからなり、外層部分接着剤層の主成分が、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとからなるため、耐熱接着性および耐熱強力保持性に優れ、タイヤカ−カス材、ホ−スおよびベルト等のゴム資材として用いたとき、長期間過酷な使用に耐え、従来適用できなかったキャッププライコ−ドとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、本発明においてゴム補強用ポリエステル繊維コードの評価方法は以下に示すとおりである。
【0087】
(1)T−初期接着力およびT−耐熱接着力
処理コードとゴムとの接着力を示すものである。JIS L−1017(1983)の接着力−A法に準じて、処理コードを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で初期接着力は、150℃、30分、耐熱接着力は170℃、70分間プレス加硫を行い、放冷後、コードをゴムブロックから300mm/minの速度で引き抜き、その引き抜きに要した荷重をN/cmで表示した。
【0088】
(2)ゴム中耐熱性
ゴム中での加硫後の強力保持率を示すものである。コードをゴム中で定張下、170℃、3時間加硫後、または6時間加硫後、ゴム中よりコードを取り出し、300mm/minの速度で引張破断強力を求め、初期強力に対する強力保持率を100分率で示した。
【0089】
なお、T−接着力の測定に使用したゴムコンパウンドの組成は下記のとおりである。
天然ゴム (RSS#1) 70(重量部)
SBR(JSR1501) 20(重量部)
SRFカーボンブラック 40(重量部)
ステアリン酸 2(重量部)
硫黄 2(重量部)
亜鉛華 5(重量部)
2,2‘−ジチオベンゾチアゾール 2(重量部)
ナフテン酸プロセスオイル 3(重量部)
【0090】
[実施例1〜7]
水溶性ナイロン樹脂(東レファインケミカル社製:AQナイロン)、エポキシ化合物(ナガセ化成社製:EM−150)、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックス(日本A&L社製:V9625)を、それぞれ表1に示す固形分重量比にて混合し固形分重量比それぞれ総固形分量8.0重量%の接着剤を得た(内層接着剤)。なお、表1における記号内容は以下に示すとおりである。
【0091】
A:水溶性ナイロン樹脂の種類
a:親水性化合物が窒素環状化合物を含む水溶性ナイロン樹脂(AQナイロン−Aタイプ)
b:親水性化合物がポリアルキレングリコールを含む水溶性ナイロン樹脂(AQナイロン−Pタイプ)
c:親水性化合物が窒素環状化合物およびポリアルキレングリコールを含む水溶性ナイロン樹脂(AQナイロン−Tタイプ)
B:水溶性ナイロン樹脂の配合割合ポリエポキシド化合物の配合割合(重量部)
C:エポキシ化合物の配合割合(重量部)
D:ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックスの配合割合(重量部)
【0092】
レゾルシン/ホルマリンのモル比を1/1.4の割合で、苛性ソーダの存在下混合し、固形分濃度が10%となるように調整し、2時間熟成することで、レゾルシン/ホルマリンの初期縮合物を得た。次にこの初期縮合物と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックス(V9625(日本A&L社製))を固形分重量比で100/30の割合で混合し、24時間熟成した。さらに、クロロ変性レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(デナボンド−E(ナガセ化成製))を、上記レゾルシン・ホルマリン・ラテックスの固形分重量100重量部に対し、20重量部混合させ、さらに20時間熟成した。この混合物を水で希釈し、固形分重量10%の接着剤を得た(外層接着剤)。
【0093】
粘度0.95のポリエチレンテレフタレートを、常法により溶融紡糸し、延伸して得られた1100dTexのマルチフィラメント糸の2本を、下撚り21回/10cm、上撚り21回/10cmの撚り数で撚糸して、未処理コードとした。
【0094】
未処理コードをコンピュートリーター処理機(CAリッツラー株式会社製)を用いて、前記の内層接着剤に浸漬した後、120℃で2分間乾燥し、引き続き240℃で1分間の熱処理を行った。続いて、外層接着剤に浸漬した後、120℃で2分間乾燥し、引き続き240℃で1分間熱処理を行った。得られた処理コードは、内層接着剤の固形分が3.1重量%、外層接着剤の固形分が2.0重量%付着していた。
【0095】
得られた処理コードを、未加硫ゴムに埋め込み、加硫を行った後、T−初期接着力、T−耐熱接着力、ゴム中耐熱性をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0096】
[比較例1]
内層接着剤に水溶性ナイロン樹脂を含まない接着剤を使用した以外は、実施例1と全く同様の操作を行った。この結果を表1に示した。
【0097】
[比較例2]
内層接着剤にナイロン樹脂のみを含ませた以外は、実施例1と全く同様の操作を行った。この結果を表1に併せて示した。
【0098】
[比較例3]
内層接着剤の処理を行わない以外は、実施例1と全く同様の操作を行った。この結果を表1に併せて示した。ただし、得られた処理コードの樹脂付着量は3.2%であった。
【0099】
[比較例4]
メタノール溶解のナイロン樹脂(ナガセケムテックス(株)製:トレジン、ナイロン樹脂濃度20%)を水に溶解し、エポキシ化合物エポキシ化合物(ナガセ化成社製:EM−150)、をそれぞれ表1に示す固形分重量比にて混合し固形分重量比それぞれ総固形分量8.0重量%の接着剤を得た(内層接着剤)。ここで、表1では便宜上メタノール溶解のナイロン樹脂をdで表した。外層接着剤および熱処理は実施例と全く同様の操作で行った。この結果を表1に併せて示した。ただし得られた処理コードの樹脂付着量は内層接着剤3.0%、外層接着剤は2.0%であった。
【0100】
【表1】

【0101】
表1の結果のように、本発明による実施例1〜7の場合は、従来のゴム補強用ポリエステル繊維コード(比較例1〜3)よりも、ゴム中での劣化を大幅に改善できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、ゴム加硫工程や製品使用中に、ゴム中で長時間高温に曝された時の耐熱接着性及び耐熱強力保持性が著しく改善されたものであり、このゴム補強用ポリエステル繊維コードで補強されたゴム製品は、タイヤ、ベルトおよびホースとして用いた時に長期間の過酷な使用に耐えることができる。
【0103】
そして、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、特にラヂアルタイヤのキャッププライ用コ−ドとして好適であり、比較的小さなタイヤサイズの乗用車用カ−カス材ばかりか、トラック、バス用タイヤ、航空機用タイヤ、大型乗用車用タイヤ及びレ−シングカ−タイヤ等にも適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外二層の接着剤層が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドであって、コ−ド内層部分接着剤の主成分が、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とから、コ−ド外層部分接着剤の主成分が、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとからそれぞれなることを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維コ−ド。
【請求項2】
前記親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)との配合割合N:Eが、90:10〜50:50(重量比)であることを特徴とする請求項1記載のゴム補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項3】
前記親水性化合物が、窒素環状化合物及び/またはポリアルキレングリコールを有する構造であることを特徴とする請求項1または2項記載のゴム補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項4】
キャッププライ用コードであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項5】
内外二層の接着剤層が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドを2浴ディップ法によって製造する方法であって、1浴目で親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)とを主成分とする接着剤を付与した後熱処理を施し、次に2浴目でレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とゴムラテックスとを主成分とする接着剤を付与して熱処理することを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維コ−ドの製造方法。
【請求項6】
前記1浴目に用いられる、親水性化合物が共重合されてなる水溶性ナイロン樹脂(N)とエポキシ化合物(E)との配合割合N:Eが、90:10〜50:50(重量比)であることを特徴とする請求項5記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。
【請求項7】
前記親水性化合物が、窒素環状化合物及び/またはポリアルキレングリコールを有する構造であることを特徴とする請求項5または6記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードの製造方法。

【公開番号】特開2006−200076(P2006−200076A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13747(P2005−13747)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】