説明

ゴム補強用繊維コード及びその製造方法

【課題】繊維コード物性が高く、同時に各種ゴムに対する接着力に優れたゴム補強用繊維コードを提供する。
【解決手段】1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントが、1dtex以上の太繊度長繊維フィラメントを含むマルチフィラメントコードの表層部に存在するゴム補強用繊維コード。また、細繊度長繊維フィラメントがポリエチレンテレフタレート繊維であることや、太繊度長繊維フィラメントがポリエチレンナフタレート繊維であること、コード表面に接着剤が付着していることが好ましい。またその製造方法は、1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントと1dtex以上の太繊度長繊維フィラメントを含むマルチフィラメントとを、該細繊度長繊維フィラメントの送り込み速度を該マルチフィラメントの送り込み速度よりも大きくする条件にて空気または液体による交絡を行い、次いで撚糸するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ、ホース、ベルトなどのゴム・繊維複合材料に使用されるゴム補強用繊維コードに関し、さらに詳しくは繊維コードの物理的構成により対ゴム接着性を改善したゴム補強用繊維コードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ、ホース、ベルトなどのゴム製品に対して、その製品形状保持および耐久性を向上させるために、補強用の繊維コードが広く用いられている。補強用繊維と使用ゴムとの接着力を十分に高く保持することにより、ゴム製品の耐久性を大きく向上させることができるからである。しかし補強用繊維と使用ゴムとの接着力が不十分である場合には、特に振動、屈曲、伸張、圧縮などの動きによって補強用繊維がゴムから剥離するために、ゴムと補強用繊維の一体構造が崩壊し、その部分での応力集中を引き起こしゴム破壊が生じるという問題があった。
【0003】
そこでこの補強繊維コードと使用ゴムとの一体成形を可能とするために、各種接着剤を塗布する処理が広く検討されており、その代表的な接着剤としてはRFL接着剤と呼ばれるレゾルシン・ホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスからなるものが広く知られている。これは繊維表面とレゾルシン・ホルマリンとの間の水素結合力、およびラテックスとゴムとの間で共加硫されることでの結合力を利用するものである。
【0004】
しかし近年、補強繊維の種類の増加や特殊ゴムの採用などにより、同じRFL接着剤とは言うものの、各種多様な接着剤組成でなければ適応することが困難となってきているという問題があった。最適な接着剤組成は各種の繊維やゴムの組み合わせによってそれぞれ異なり、多様な用途に広く適用される汎用的な接着技術を採用することが極めて困難になってきたのである。
【0005】
一方、このように接着剤によって化学的に接着力を向上させる手段に対し、物理的(機械的)に接着力を向上させる方法も検討されている。繊維の表面形態(凹凸)によってゴムとの絡み合いを増加させ、いわゆるアンカー(投錨)効果と呼ばれる物理的な引っかかりを増し接着効果を向上させる方法である。そしてこの方法を採用した場合、化学的な手段に比べ汎用性に優れるという利点がある。
【0006】
例えば特許文献1では、中空割れを起こした中空繊維を用いることによりコード内部に接着剤を浸透させ、アンカー効果による物理的接着によるゴムと繊維との接着性を改良する方法が開示されている。しかしこの方法では、中空糸を用いるために従来繊維が有する高い物性が低下するばかりではなく、中空割れにより補強用繊維の物性がさらに悪くなるという問題があった。
【0007】
一方、各単糸が短く切断された短繊維からなる紡績糸の適用も考えられる。この方法では、その単糸の切断部が毛羽状になって繊維の表面に分布するためにゴム表面のアンカー効果による摂理的な接着力向上効果は得られやすいからである。しかし、このような紡績糸では短い繊維が繊維間の絡み合いによってその繊維コード強力を保持しているに過ぎないために繊維強度が低く、特に強い引っ張りや屈曲に対し繊維がばらけ易く、単糸のすり抜けなどのために耐久性の面でも問題があった。
【0008】
すなわちゴム補強用の材料として、汎用的に広く繊維とゴムとの接着力が向上する技術の開発が待たれていたのである。
【特許文献1】特開平10−204741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、繊維コード物性が高く、同時に各種ゴムに対する接着力に優れたゴム補強用繊維コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のゴム補強用繊維コードは、1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントが、1dtex以上の太繊度長繊維フィラメントを含むマルチフィラメントコードの表層部に存在することを特徴とする。
【0011】
さらには、細繊度長繊維フィラメントの繊度と太繊度長繊維フィラメントの繊度との比が1:3〜1:15の範囲であることや、細繊度長繊維フィラメントと太繊度長繊維フィラメントとの重量比が1:5〜1:30であることが好ましい。また、細繊度長繊維フィラメントがポリエチレンテレフタレート繊維であることや、太繊度長繊維フィラメントがポリエチレンナフタレート繊維であること、コード表面に接着剤が付着していることが好ましい。
【0012】
またもう一つの本発明のゴム補強用繊維コードの製造方法は、1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントと1dtex以上の太繊度長繊維フィラメントを含むマルチフィラメントとを、該細繊度長繊維フィラメントの送り込み速度を該マルチフィラメントの送り込み速度よりも大きくする条件にて空気または液体による交絡を行い、次いで撚糸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維コード物性が高く、同時に各種ゴムに対する接着力に優れたゴム補強用繊維コードが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のゴム補強用繊維コードは、1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントが、1dtex以上の太繊度長繊維フィラメントを含むマルチフィラメントコードの表層部に存在することを必須とする。
【0015】
ここで本発明のゴム補強用コードに含まれる繊維としては、特に限定されるものではないが、高物性を確保するためには長繊維フィラメントであることが必要であり、今までもゴム補強用繊維として一般に用いられている各種合成繊維であることが好ましい。中でもゴム補強用として十分な強力、耐久性、寸法安定性を併せ持ち、経済的なコストパフフォーマンスにも優れたポリエステル繊維であることが好ましい。ポリエステル繊維としては例えばポリエチレンテレフタレート繊維やポリエチレンナフタレート繊維を好ましく挙げることが出来る。ポリエチレンテレフタレート繊維としては、ポリエチレンテレフタレート単位を90モル%以上含むものであることが、ポリエチレンナフタレート繊維としてはエチレン−2,6−ナフタレート単位を90%以上含んでいるものであることが好ましく、物性を低下しない程度の適当な第3成分を含む共重合体であってもかまわない。
【0016】
本発明のゴム補強用繊維コードはこのような繊維から構成された繊維コードであって、1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントが、1dtex以上の太繊度長繊維フィラメントを含むマルチフィラメントコードの表層部に存在することを必須とする。芯となるマルチフィラメントコードは、1dtex以上の太繊度長繊維フィラメントを含むので、繊維コードに強い強度を発揮させることが可能となる。太繊度の長繊維フィラメントの繊度としてはさらには2〜10dtexの範囲であることが好ましい。またマルチフィラメントを構成する繊維としては、太繊度の長繊維フィラメントがその重量の50%以上、さらには90%以上をしめることが好ましく、太繊度の長繊維フィラメントの存在比が多いほど引張物性等を高めることが出来るが、マルチフィラメントとして他の中間繊度の繊維を混入させることもでき、より柔軟な繊維コードとなる。
【0017】
外層部に1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントが存在することにより、ゴムに対する物理的なアンカー(投錨)効果を発揮させることが出来る。さらには0.2〜0.8dtexの範囲であることが好ましい。外層部に存在するとは芯となるマルチフィラメントの周囲にこの細繊度長繊維フィラメントが存在することをいうが、好ましくはこの細繊度長繊維フィラメントがたるみ、ループを形成していることが好ましい。芯となるマルチフィラメントと細繊度長繊維フィラメントを単に引きそろえるだけではなく、高圧空気や水などの流体を吹き付けることにより、流体の影響を受けやすい細繊度長繊維フィラメントによる表面の大きな変化を生じさせ、このようなたるみやループを発生させることが出来る。
【0018】
また、細繊度長繊維フィラメントの繊度と太繊度長繊維フィラメントの繊度との比が1:3〜1:15の範囲であることが好ましい。さらにはこの比は1:5〜1:10であることが好ましい。これら単糸の繊度比が小さいと、補強用繊維コード表面に生じる形態変化が乏しくなり、物理的接着力向上効果が減少する傾向にある。逆にこの比が大きすぎると単糸強力に大きな差異が発生するために、ゴムの動きに対して強力の低い単糸が切断し、ゴム繊維構造体の物性や接着力が低下する傾向にある。
【0019】
さらに、細繊度長繊維フィラメントと太繊度長繊維フィラメントとの重量比は、1:5〜1:30であることが好ましき、特には1:10〜1:20の範囲内であることが好ましい。この2つの長繊維フィラメントの重量比が小さいと補強用繊維コード表面に生じる形態変化が乏しくなり、物理的接着力向上効果が減少する傾向にある。逆に重量比が大きすぎる場合には細繊度長繊維フィラメントの存在量が少なくなるために、繊維コードの外層部に存在する細繊度長繊維フィラメントが少なくなり、物理的接着力の向上幅が低下する傾向にある。
【0020】
繊維コードとしての物性を発揮するためには、その形態としては撚りの掛けられた撚りコードであることが好ましい。撚り数としては全体の繊度にもよるが、10〜1000回/mであることが好ましい。撚りを掛けることにより、細繊度長繊維フィラメントと太繊度長繊維フィラメントとの絡み合いが高まり、繊維の物性をより有効にゴム補強に活用することが可能となる。
【0021】
また、本発明のゴム補強用繊維コードは、細繊度長繊維フィラメントがポリエチレンテレフタレート繊維であることや、さらには他の長繊維フィラメント、特に太繊度長繊維フィラメントがポリエチレンナフタレート繊維であることが好ましい。細繊度長繊維フィラメントが柔軟なポリエチレンテレフタレートであることにより、細繊度長繊維フィラメントがループやたるみなどを構成したとしても、繊維コードにおける接着性などの物性の低下を最小限に抑えることが可能であり、またゴムでの屈曲などの疲労に対しても高い物性を維持し続けることが可能である。また太繊度長繊維フィラメントなどのゴム補強用繊維コードを構成する他の長繊維フィラメントがポリエチレンナフタレート繊維であることにより、より高い強度、モジュラスを付与することが可能となる。
【0022】
さらに、本発明のゴム補強用繊維コードには、そのコード表面に接着剤が付着していることが好ましい。接着剤としては、ゴムと繊維との接着剤として汎用されているレゾルシン・ホルマリン・ラテックス系の接着処理剤(以下、RFL接着剤とする)であることが好ましい。RFL接着剤とは、ゴム/繊維用途に汎用的に用いられている、水系接着剤であるレゾルシン・ホルマリン縮合物とゴムラテックス系のRFL系接着剤であり、より具体的にはレゾルシンとホルマリンをアルカリまたは酸性触媒下で反応させて得られる初期縮合物と、ゴムラテックスの混合物である。さらにはRFL接着剤処理の前にエポキシ化合物による処理を行うことが好ましい。
【0023】
このような本発明のゴム補強用繊維コードは、もう一つの本発明のゴム補強用繊維コードの製造方法により得ることが可能である。すなわち、1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントと1dtex以上の太繊度長繊維フィラメントを含むマルチフィラメントとを、その細繊度長繊維フィラメントの送り込み速度を細繊度長繊維フィラメント以外の他のマルチフィラメントの送り込み速度よりも大きくする条件にて空気または液体による交絡を行い、次いで撚糸することを必須とするゴム補強用繊維コードの製造方法である。
【0024】
ここで、細繊度長繊維フィラメントの送り込み速度と他のマルチフィラメントの送り込み速度との比は、1.05〜1.5倍であることが好ましい。さらには1.1〜1.3倍の範囲であることが最適である。また空気または液体などの流体による交絡を必須とするが、作業性などの面からは空気による交絡であることが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法ではこのような流体による交絡に引き続いて撚糸を行い実撚りを付与することによってマルチフィラメントの外層部に1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントを存在させることになるのである。撚り数としては全体の繊度にもよるが、10〜1000回/mであることが好ましい。
【0026】
このようにして得られた本発明のゴム補強用繊維コードは、その特異な繊維構成のため、化学的な接着処理に比べても高い物理的アンカー(投錨)効果による高い接着性を確保し、接着処理による繊維物性の阻害が発生せず高物性を保つことが出来るようになったのであり、タイヤ、ホース、ベルト等の各種ゴム補強用途に適した繊維コードである。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例における特性の測定は次の測定法を用いて行った。
【0028】
(1)剥離接着力
天然ゴムを主成分とする未加硫ゴムシートの表層近くに25本の繊維コードを埋め、150℃、30分間、500N/cmのプレス圧力にて加硫する。次いで全てのコードの端をつかんでゴムシート面に対し90度の方向へ200mm/分の速度で剥離するために要する最大強力をNで示したものである。
【0029】
[実施例1、2]
使用する繊維としてポリエチレンナフタレート(PEN)からなる太繊度長繊維フィラメント1100dtex/250フィラメント(単繊度4.4dtex)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)からなる細繊度長繊維フィラメント71dtex/144フィラメント(単繊度0.49dtex)を用意し、それぞれを引き揃えながら太繊度長繊維フィラメントに対して細繊度長繊維フィラメントの送り込み速度を1.2倍としながら5kgf/cmの高圧空気ノズル中を通過させ、その後一旦巻き取った。その後撚糸機を使ってS方向に100回/mの撚りを施して撚糸コードとした。この撚糸コードは強力83N、伸度9%であり、太繊度のPEN繊維をほぼ中心に配し、外周を細繊度のPET繊維の細い単糸が多数のたるみ・ループを形成している繊維コードであった。
【0030】
また常法によってエポキシ化合物及びレゾルシン・ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスよりなるRFL接着剤にてディップ処理を行い、繊維に対する接着剤付着率を3重量%となるようにした。
この接着処理の有無の2種の繊維コードを用い、剥離接着力を測定し、表1に物性を示した。
【0031】
[比較1、2]
ポリエチレンナフタレート(PEN)からなる太繊度長繊維フィラメント1100dtex/250フィラメント(単繊度4.4dtex)を、撚糸機を使ってS方向に100回/mの撚りを施して撚糸コードとした。
また常法によってエポキシ化合物及びレゾルシン・ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスよりなるRFL接着剤にてディップ処理を行い、繊維に対する接着剤付着率を3重量%となるようにした。
この接着処理の有無の2種の繊維コードを用い、剥離接着力を測定し、表1に物性を併せて示した。
【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントが、1dtex以上の太繊度長繊維フィラメントを含むマルチフィラメントコードの表層部に存在することを特徴とするゴム補強用繊維コード。
【請求項2】
細繊度長繊維フィラメントの繊度と太繊度長繊維フィラメントの繊度との比が1:3〜1:15の範囲である請求項1記載のゴム補強用繊維コード。
【請求項3】
細繊度長繊維フィラメントと太繊度長繊維フィラメントとの重量比が1:5〜1:30である請求項1または2記載のゴム補強用繊維コード。
【請求項4】
細繊度長繊維フィラメントがポリエチレンテレフタレート繊維である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用繊維コード。
【請求項5】
太繊度長繊維フィラメントがポリエチレンナフタレート繊維である請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用繊維コード。
【請求項6】
コード表面に接着剤が付着している請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム補強用繊維コード。
【請求項7】
1dtex未満の細繊度長繊維フィラメントと1dtex以上の太繊度長繊維フィラメントを含むマルチフィラメントとを、該細繊度長繊維フィラメントの送り込み速度を該マルチフィラメントの送り込み速度よりも大きくする条件にて空気または液体による交絡を行い、次いで撚糸することを特徴とするゴム補強用繊維コードの製造方法。

【公開番号】特開2010−70865(P2010−70865A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236488(P2008−236488)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】