説明

ゴム製品の検査方法及びゴム製品の検査装置

【課題】ゴム製品を、AE波を利用して非破壊検査するゴム製品の検査方法及びゴム製品検査装置を提供する。
【解決手段】ゴム製品のき裂から発生するAEをAEセンサーで検知して、AEの経時変化を求める。この経時変化の特性から、AEが、ゴム製品から過飽和気体が気泡になったときに発生するAEであるか、気泡を起点としてき裂が発生したときに発生するAEであるかを判定する。また、AEの経時変化を、予め測定したデータ比較して、ゴム製品のき裂進展を把握し、ゴム製品の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製品の検査方法及びゴム製品の検査装置に関する。更に詳しくは、ゴム製品から発生する弾性波を検知して、この弾性波の特性からゴム製品の損傷状態又は良否を判定するための検査方法及びゴム製品検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Oリングに代表されるゴム製のシール部材は、家電製品から大型の機械、精密機器から建築機械まで、幅広い分野で使用されている。ゴムは、耐プラズマ性、耐熱性、クリーン性、非固着性、耐薬品性、耐溶剤性、耐油性等の優れた性質を備え、希望の形状に製造し易いという利点がある。また、ゴムは、天然の植物から採取されて工業用に利用されてから何世紀もたち、ゴム製造の歴史は古い。しかしながら、特に高温、真空、高気圧等の厳しい環境条件、高い気密性が求められる環境等で、使用されるゴム製品、ゴム製のシール材料等に関しては、その製造のときの品質管理、設計では、大変な労力と細心の注意と知識で設計され、使用されている。
【0003】
このようなシール材料は、定期的に交換するか、定期的な検査をしなければならない。ゴム製品の検査は、様々な方法と検知原理が提案され利用されている。例えば、X線で観察したり、その表面を肉眼や顕微鏡等で観察したりするものである。特許文献1には、ゴム製のベルトを複数回にわたって伸長させた後、ベルトの表面のき裂を観察する方法が開示されている。この観察のためには、ベルトに機械的エネルギー加えている。しかしながら、ゴム製品の内部のき裂を検査する方法としては、ゴム製品に負荷をかけない非破壊検査が好ましい。
【0004】
非破壊検査する方法の一つは、アコースティックエミッションを用いる方法がある。アコースティックエミッション(以下、AEという。)は、材料の変形、破壊又は、き裂発生に伴って放出される弾性波である。この弾性波は、材料の表面に設置した、検出素子で検出することができる。AEは、材料の種類とその変形、破壊やき裂等の種類によるが、通常、数kHz〜数MHzに周波数帯域を持っている。例えば、金属材料で発生するAEは、主として100kHz〜1MHzの周波数の信号である。
【0005】
ゴム材料の場合も,金属材料と同様に1MHz以下の周波数の信号を対象とする。AEを検出するためのセンサーは、一般的には圧電素子が用いられており、この圧電素子を材料の表面に密着させてAEを検出している。この例としては、免震構造物に使用している積層ゴムに取りつけたAEセンサーで、積層ゴムの欠陥から発生するAE信号を検知する積層ゴムの品質管理システムが開示されている(特許文献2、3参照)。このシステムでは、複数のAEセンサーで検知したAE信号の到達順序や時間差を計測し、欠陥の発生位置を特定している(特許文献2の明細書の段落[0026]を参照。)。
【0006】
また、このシステムでは、積層ゴム内のマイクロクラックの発生、進展に伴って発生した超音波を検知している(特許文献2の明細書の段落[0026]を参照。)。更に、特許文献4には、タイヤ等のゴム製品の破損状態を推定するための方法と装置が開示されている。タイヤのホイルリム部の内側にAEセンサーを取り付け、AE波を検知し、AE波累積数の変化の度合いと、事前に分かっているAE波累積数とタイヤ破損状態の関係データと比較して、タイヤの破損状態を推定している。
【0007】
(イベント法とリングダウン法)
AEを検出することでは、材料中で発生したクラック発生、そのクラックの進行状態の監視が可能である。AE信号は、短期間に連続的に発生する複数の周波数の弾性波から構成されており、その強度と大きさは、材料の種類やき裂の大きさ等によって異なる。AEを検出し、電気信号として出力するためのアコースティックエミッションセンサー(以下、AEセンサーという。)に検出される信号を処理する方法として、次の二つの方法がある。AEセンサーで受信されて観察されるAE信号は、性質を異にする2種類に分類できる。
【0008】
第1の方法は、1つのAE信号を1つと数えるイベント法である。このイベント法では、計数するAE信号をAEイベントカウントと呼び、単位時間当たりのAEイベントカウント数をAEイベントカウントレートと呼ぶ。このAEイベントカウントレートは、応力の繰り返しによって進展するき裂から発生するAE信号が基本的に離散的であることを考慮し、疲労き裂進展の評価に用いることが多い。
【0009】
第2の方法は、定義した基準値以上の振幅を全て数えるリングダウン法である。このリングダウン法で計数するAE信号をAEリングダウンカウントと呼び、単位時間当たりのAEリングダウンカウント数をAEリングダウンカウントレートと呼ぶ。図15には、イベント法と、リングダウン法の違いを図示している。図15(a)には、1つのAE信号を示している。図15(b)及び(c)には、このAE信号を計数する2つの方法であるイベント法とリングダウン法の違いを示している。
【0010】
図15(b)は、イベント法を示している。図15(c)は、リングダウン法を示している。図15(a)のAE信号の最大強度は、設定した閾値以上である。図15(a)のAE信号は、図15(b)に示すように、イベント法では、「1」とカウントされる。リングダウン法では、1つのAE信号を構成する複数の弾性波の中で設定した閾値以上の強度のものを全て数える。このために図15(a)のAE信号は、図15(c)に示すように、リングダウン法では、「4」とカウントされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−164499号公報
【特許文献2】特開特開平11−64098号公報
【特許文献3】特開特開平11−64099号公報
【特許文献4】特開特開2005−337929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、肉眼や顕微鏡等でゴム製品の表面を観察する方法では、ゴム製品の表面に出ている損傷は発見できたとしても、内部に発生したき裂等の損傷の発見はできない。また、AE波を検知する方法は、金属材料の非破壊検査技術として公知である。しかし、ゴム製品から発生するAE波の振幅は、金属から発生するAE波と比べ、桁違いに小さい。同様に、ゴム製品から発生するAE波の発生率も、金属の場合と比べて、桁違いに少ない。
【0013】
上述の特許文献2、3には、建築構造物に利用される大きいゴム材料の検査にAEセンサーを利用している。このゴム材料は、建築構造物等の大きな圧力を受けて支えるものである。また、特許文献2、3に記載されたものは、AEカウントの変化のみをみている。このような状況で、ゴム製のシール材料等の微小なゴム製品については、AEセンサーを用いて、その検査を行う技術がまだ確立されていない。
【0014】
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記の目的を達成する。
本発明の目的は、ゴム製品を、AE波を利用した非破壊検査により、検査するゴム製品の検査方法及びゴム製品検査装置を提供する。
本発明の他の目的は、ゴム製のシール材料を、AE波を利用した非破壊検査により、検査するゴム製品の検査方法及びゴム製品検査装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
〔用語の定義〕
本発明において、ゴム製品、き裂、アコースティックエミッション(AE)は、次に定義される意味で使用する。以下、この用語毎に説明する。
【0016】
「ゴム製品」とは、材料にゴムを利用した製品や部品を言う。ゴムの種類は、用途、適用箇所、適用機器等に応じて適宜選択して使用する。ゴムの種類としては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、ハイパロン、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、パーフロオロゴムが挙げられる。また、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水添加NBR、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。これらゴム材料に補強のために、これらに限定しないが、カーボンブラック、シリカ等のフィラー、老化防止剤、オイル等を添加したものも利用できる。
【0017】
「き裂」(英語表記では、Crack。)は、材料に、本願発明の場合はゴム製品に、生じたひび割れ、割れ目、裂け目等の欠陥である。ゴム部材が繰り返し負荷や静的な負荷を受けると、き裂は、ゴム製品又は部材の表面又は内部から発生する。発生したき裂は繰り返し負荷によって進展して、最終的には部材又はゴム製品が破壊する。き裂を有する材料に負荷を与えると、き裂に、特に、き裂の先端近傍には負荷の高い応力集中が発生する。
【0018】
この応力集中が材料の破壊靱性を上回ると、き裂の長さが伸びることでき裂進展が起こる。部材の疲労寿命の80%程度は、発生したき裂が肉眼で観察可能になるまでに進展するのに費やされる。言い換えると、部材の疲労寿命の80%程度は、肉眼で観察が困難な1mm以下のき裂が進展するのに費やされる。よって、部材の破壊を防ぐためには、肉眼で観察することが困難な1mm以下のき裂を検知する必要がある。
【0019】
「アコースティックエミッション(AE)」は、材料の変形、破壊又は、き裂の発生に伴って放出される弾性波である。この弾性波は、材料の表面に設置した、AE検出素子で検出することができる。AEセンサーは、弾性波を電気信号に変換して出力するための素子である。AEセンサーは、一般的には、圧電素子からなり、材料表面に密着させてAE信号を検出し、AE信号を電気信号に変換して出力する。
【0020】
本発明は、ゴム製品の内部に発生したき裂を検査し、その大きさ、進展状況を把握することを目的にするものである。これによって、高圧等の厳しい環境下で利用されるゴム製品の内部き裂状況を、軽微な状態で検知し、内部き裂が表面に達する前に使用を停止することができる。これにより、ゴム製品を使用する装置の故障回避、その性能維持、事故を事前に防止ができるという顕著な効果がもたらされる。無論、ゴム製品の内部き裂状況を軽微な状態で検知できるので、ゴム製品を使用する装置のメンテナンスも容易になる。
【0021】
例えば、機械の高圧流体のシール、防振等に利用されているゴム製のシール部品の場合を考える。このシール部品の内部で発生したき裂が進展して、表面に達すると、本来の役割である密封性、耐圧力等の働きができなくなる。更に、き裂がシール部品の表面まで進み、破裂すれば、機械事故の原因にもなりえる。そのために、シール部品の内部で発生したき裂をできるだけ速く検知でき、その進展も随時検査できるものが望ましい。また、シール部品の内部で発生したき裂が進展し、表面に達する時期等を予測することも望まれている。
【0022】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明のゴム製品の検査方法は、ゴム製品のき裂から発生する弾性波(AE)を弾性波検知手段(AEセンサー)で検知して、ゴム製品の損傷を検査するためのゴム製品の検査方法である。 本発明のゴム製品の検査方法は、気体からなる高圧気体雰囲気環境下で前記ゴム製品を減圧した後、前記ゴム製品から発生する前記弾性波(AE)を検知して、前記弾性波(AE)の経時変化を求め、前記経時変化の特性から、前記弾性波が、(a)前記ゴム製品から過飽和気体が気泡になったときに発生する前記弾性波であるか、(b)前記気泡を起点としてき裂が発生したときに発生する前記弾性波であるかを判定して、前記ゴム製品の損傷の状態を検査することを特徴とする。
【0023】
また、本発明のゴム製品の検査方法は、前記き裂の経時変化が、前記き裂が進展してゴム製品の表面に進展する兆候を示すとき、前記ゴム製品は損傷が大きいと推定すると良い。更に、本発明のゴム製品の検査方法は、前記判定は、前記経時変化を、予め損傷状態を分かっている前記ゴム製品の特性と比較して、求められると良い。前記ゴム製品は、Oリングであると良い。
【0024】
本発明のゴム製品検査装置は、弾性波(AE)を検知するためのもので、ゴム製品に固定又は近傍に設置された弾性波検知手段(AEセンサー)と、前記弾性波検知手段(AEセンサー)で検知されたもので、前記ゴム製品のから発生する前記弾性波(AE)を解析して、経時変化を求め、前記ゴム製品の損傷を判定する解析手段とからなるゴム製品の損傷を検査ための装置である。
【0025】
前記解析手段は、高圧ガス雰囲気環境下で前記ゴム製品を減圧した後、弾性波検知手段(AEセンサー)で検知した前記弾性波(AE)の経時変化を求め、前記経時変化の特性から、前記弾性波が、(a)前記ゴム製品から過飽和気体が気泡になったときに発生する前記弾性波であるか、(b)前記気泡を起点としてき裂が発生したときに発生する前記弾性波であるかを判定して、前記解析手段は、前記き裂から発生する前記弾性波の場合は、前記ゴム製品が損傷していると判定し、その旨の信号を出力することを特徴とする。
【0026】
前記解析手段は、前記き裂の経時変化が、前記き裂が進展してゴム製品の表面に進展する兆候を示すとき、前記ゴム製品は損傷が大きいと推定して、その旨の信号を出力すると良い。前記解析手段は、前記経時変化を、予め損傷状態を分かっている前記ゴム製品の特性データと比較する比較手段を有すると良い。前記ゴム製品は、Oリングであると良い。
【発明の効果】
【0027】
本発明ゴム製品の検査方法及びゴム製品の検査装置は、ゴム製品の内部から発生するAE波を検知して、AE波の動向から、ゴム製品を評価し、非破壊検査ができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の実施の形態のゴム製品の損傷検知システム1の概要を図示している概念図である。
【図2】図2は、本発明の本実施の形態のサンプル3のOリングの例を図示している図であり、図2(a)は、Oリングの概念図で、図2(b)は、図2(a)のA−A断面図を図示している。
【図3】図3は、本発明の実施の形態のゴム製品の損傷検知システム1の信号処理ユニット5の構造例を示しているブロック図である。
【図4】図4は、ゴム内で発生されるAEイベントカウント対AE振幅の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、ゴム内で発生されるAEイベントカウント対AE周波数の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、金属材料とゴム材料におけるAE信号の減衰を比較するための方法を示す実験1の概要を示す概念図である。
【図7】図7は、実験1の結果を示すグラフで、金属材料とゴム材料で発生するAE波の減衰量を測定した結果を示すグラフである。
【図8】図8は、実験2の測定の様子を示す概念図であり、図8(a)は試験片の寸法を示す概念図で、図8(b)は試験片にき裂を発生させてAEを測定する様子を示す概念図である。
【図9】図9は、実験2の結果を示すグラフであり、図9(a)は銅の場合であり、図9(b)はゴムの場合である。
【図10】図10は、実験3の結果を示すもので、ゴム製の試験片の断面を示す写真であり、図10(a)は高圧ガスに暴露する試験を3回繰り返した後の写真で、図10(b)は高圧ガスに暴露する試験を5回繰り返した後の写真である。
【図11】図11は、繰り返し暴露試験した後、検出されたAEを信号処理し、イベントレートを求めた結果を示すグラフである。
【図12】図12は、高圧水素ガス中で曝露した円柱試験片の減圧後の内部き裂発生状況である。
【図13】図13は、図12の試験片から発生したAEイベントカウントとAE振幅の関係を示すグラフであり、図13(a)は測定データを示すグラフであり、図13(b)は図13(a)を対数軸にしたグラフである。
【図14】図14は、ゴム製品内で気泡とき裂が発生するメカニズムを様式的に示した図であり、図14(a)は過飽和の状態、図14(b)は気泡の発生、図14(c)は気泡を起点としてき裂が発生する様子を図示している。
【図15】図15は、計測されるAEの種類を説明した図であり、図15(a)は1つのAE信号を示し、図15(b)はイベント法、図15(c)リングダウン法を概念的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔ゴム製品の損傷検知システムの全体概要〕
図1は、ゴム製品の損傷検知システム1の概要を図示している図である。図1に示すゴム製品の損傷検知システム1は、ゴム製品の損傷を実験により確認、検証するためのシステムであり、圧力装置2、サンプル3、AEセンサー4、信号処理ユニット5、コンピュータ6等から構成されている。圧力装置2は、その内部にサンプル3を置き、ポンプ7等のガス供給・排気手段で、圧力装置2内に水素ガス等のガスを供給するか、圧力装置2内のガスを排気して、ガス圧力を所定圧力に調整する装置である。
【0030】
高圧ガス中に曝されたゴム材料中に、き裂や巨視的な欠陥が存在する場合、通常ではき裂が発生又は発生したき裂が進展しない圧力での曝露において、減圧後にき裂が発生又は、既に発生したき裂が進展する。このき裂の発生と進展に伴うAE信号が計測される。なお、図1のようにゴム製品を圧力装置内に入れずに、稼働中のゴム製品に直接、AEセンサーを取り付け、稼働中でのAE信号を計測しても良い。本実施の形態では、サンプル3は、ゴム製品である。本実施の形態においては、サンプル3は、シール部品の一つであるゴム製のOリング(O-ring)である。
【0031】
しかし、サンプル3は、シール部品、Oリング等に限定するものではなく、ゴム製の部品、製品であれば任意の形状であっても良い。図2には、本実施の形態に用いるサンプル3のOリングの例を図示している。図2(a)に示すように、このOリングは、その内側の半径R1と外側の半径R2を持ち、断面形状が円形でゴム製の材料からできているリングである。図2(b)は、図2(a)のA−A断面図を示している。この断面は、所定の直径D(=R2−R1)の円になっている。後述する測定では、断面直径Dが3.23mm、内側半径R1が5.95mmのOリングを使用した。
【0032】
AEセンサー4は、サンプル3から発生するAEを検知するものである。AEセンサー4は、任意の形状、動作原理のものが利用できるが、本実施の形態においては、圧電体からなるものである。AEセンサー4は、検知したAEを、電気信号に変換して、出力する。この出力は、AEセンサー4に接続された後段の装置に入力される。図1に示した例では、AEセンサー4の出力信号は、信号処理ユニット5に入力される。信号処理ユニット5は、AEセンサー4から受信した検出信号を、解析するためのものである。
【0033】
図3には、信号処理ユニット5の回路例をブロック図で図示したものである。信号処理ユニット5は、メモリ11、CPU10、入力インターフェース12、出力インターフェース13等からなる。メモリ11には、信号処理ユニット5を制御するための制御プログラム(図示せず。)が格納される。信号処理ユニット5の起動時に、この制御プログラムが呼び出されて動作する。入力インターフェース12は、AE信号を信号処理ユニット5に入力するためのインターフェースである。入力インターフェース12は、AEセンサー4に直接接続されていて、AEセンサー4で受信したAE信号を受信する。
【0034】
受信されたAE信号は、メモリ11に保存されて、制御プログラムによって読み出されて処理される。CPU10は、メモリ11に格納されている制御プログラムの命令を順次実行して、信号処理ユニット5を動作させる。出力インターフェース13は、信号処理ユニット5でAE信号を処理した結果を出力するためのものである。つまり、制御プログラムでAE信号であるデータを処理した結果を出力する。この出力されたAE信号データは、コンピュータ6に提供される。例えば、このAE信号データは、コンピュータ6では、作業者が確認可能な形式で出力され、ディスプレイ等に表示される。
【0035】
また、出力インターフェース13に接続された他の電子計算機に提供することも可能である。本実施の形態のシステム1は、図3に破線で示したように、AEセンサー4で受信した信号を増幅して、信号処理ユニット5に出力するためのプリアンプ16を有している。信号処理ユニット5は、電源供給用に電源用インターフェース15を有する。電源用インターフェース15は、直流又は交流の電源等に接続されている。信号処理ユニット5は、バッテリー等の電源を内蔵し、電源用インターフェース15はこの内蔵電源に接続さている。
【0036】
次に、信号処理ユニット5は、AE信号を処理する概要を示す。AE信号の処理は、制御プログラムによって行なわれる。これらの処理は、この制御プログラムと同様な機能を持つ回路でも実現できる。信号処理ユニット5は、AEセンサー4から受信したデータから、AE信号をメモリ11に保存する。このとき、受信した時間を示す受信時間データを関連付けて保存する。また、圧力装置2の内圧等に関する他のデータも保存する。信号処理ユニット5は、メモリ11に保存されたAE信号と受信時間データを読み出して、データ処理してAEイベントカウントとAE振幅を計算する。
【0037】
そして、AEイベントカウントとAE振幅の関係を予め設定した使用限界線(後述する。)と比較して、サンプル3の良否を判定する。サンプル3のき裂の経時変化は、き裂が進展してゴム製品の表面に進展する兆候を示すとき、又は使用限界線に達するとき、サンプル3は損傷が大きいと推定される。この兆候としては、使用限界線を利用することができる。また、この経時変化は、予め損傷状態を分かっているサンプル3の特性と比較され、サンプル3の損傷が評価され、サンプル3の良否を判定することもできる。
【0038】
信号処理ユニット5は、AEイベントカウントとAE振幅の計算結果、判定の結果及び/又はメモリ11の内容を出力データとして、出力インターフェース13から出力する。出力形式、装置は、これらのデータをグラフ化、表形式にして、表示装置又は印刷装置用のデータとするものが好ましい。また、テキスト形式のデータにして、他の電子計算機等の処理用に出力するようにもできる。このグラフに、最新のデータを追加して出力することも可能である。
【0039】
このようにすると、サンプルの使用者、管理者等は、サンプル4の損傷状態の進展を把握しやすくなる。信号処理ユニット5は、上述のように、圧力装置2の内圧を測定するための、圧力測定器(図示せず。)等を有している。信号処理ユニット5は、AEセンサー4からデータを連続的に、又は定期的に、又は指定時刻に受信する。また、信号処理ユニット5は、操作者の受信要求、信号処理ユニット5に接続されたコンピュータ6や他の電子機器等のデータ要求のときに、AEセンサー4からデータを受信する。
【0040】
更に、信号処理ユニット5は、計算結果を連続的に、又は定期的に、又は指定時刻に出力する。AEセンサー4は、圧力装置2内のサンプル4の表面に接触するように固定されている。この固定時の固定手段としては、AEセンサー4をサンプル3の表面に密着させ、接触するようなものであればどのような方法でも良い。図示していないが、圧力装置2の内圧は、圧力測定器を用いて測定されているものが好ましい。圧力測定器は、圧力装置2に流体を充填する装置に含まれるデバイスであるものでも良い。
【0041】
圧力測定器は、当業者に自明なものであれば、既知の測定手段を含めどんな種類・測定原理のものでも良い。AEセンサー4は、所定の検知感度を調整するものが好ましい。つまり、AEセンサー4は、AE信号を検知するその検知感度を調整可能なものが好ましい。この検知感度は、信号処理ユニット5で設定しても良い。信号処理ユニット5は、AEセンサー4から受信した信号の内、所定基準値以上の値をAE信号として処理する。信号処理ユニット5は、AEセンサー4から受信したデータをそのまま出力インターフェース13から出力できる。
【0042】
信号処理ユニット5は、AEセンサー4から受信したデータについては、周波数や強度でフィルタリングし、初歩的な信号処理を行って、出力インターフェース13から出力する。この出力された生のデータは、出力インターフェース13に接続されたコンピュータ6で処理される。例えば、コンピュータ6は、信号処理ユニット5で処理していた、上述の、AEイベントカウントとAE振幅の計算、判定等の処理を行う。信号処理ユニット5では、フィルタによって所定の周波数のAE信号を抽出し、抽出されたAE信号がメインアンプにて増幅される。
【0043】
そして、あらかじめ設定したAE振幅値を超えたAE信号の計数、振幅値の計算およびフーリエ変換が行われ、AEイベントカウント、AE振幅およびAE信号の周波数が計測される。コンピュータ6は、信号処理ユニット5から出力された信号を解析するための電子計算機である。コンピュータ6は、図示していないが、CPU、RAM、ROM、補助記憶装置、入出力インターフェース、及び、ディスプレイ、マウス、キーボード等の入出力デバイス等を備えた電子計算機である。コンピュータ6は、本実施の形態で記述した処理を行うことができるものであれば、任意の電子計算機を使用できる。
【0044】
コンピュータ6は、AEセンサー4で検知した一連のAE信号を解析し、データベース(図示せず。)を参照して、解析を行う。データベースは、サンプル3から発するAE信号に関するデータを格納したデータベースである。データベースには、正常な、つまり、利用可能なサンプル3に関するデータ、使用不可になったサンプル3に関するデータ等が格納される。データベースは、信号処理ユニット5又はコンピュータ6からデータ更新ができる。また、管理者、ユーザ等が、手動で、データベースを更新することができる。
【0045】
データベースは、コンピュータ6の主記憶装置又は補助記憶装置又は接続された外部記憶装置に格納されている。データベースは、コンピュータ6から無線又は有線の通信手段によってアクセスできる場所に設置されたものであっても良い。コンピュータ6での解析は、次の手順で行われる。コンピュータ6での解析の結果は、サンプル3の良否の鑑定になる。例えば、サンプル3内のき裂が大きくないとき、つまり、サンプル3が本来の機能を果たせると判断した時は、検査合格を示す信号を出力する。
【0046】
サンプル3内のき裂が大きく、つまり、サンプル3が本来の機能を果たせないと判断した時は、検査不合格を示す信号を出力する。無論、き裂が大きくはないが、数が多かったりするときも、検査不合格を示す信号を出力する。コンピュータ6は、サンプル3の検査結果を、過去の検査データも含めて、全て集計して、視覚で確認可能形式のグラフ等にまとめ、そのディスプレイに表示するか、印刷装置印刷することもできる。
【0047】
図4は、サンプル3のOリングから発生するAE信号のAEイベントカウントとAE振幅の関係の経時変化の模式図を示す。AEイベントカウントとAE振幅は、き裂発生の有無にかかわらずべき乗の関係がある。き裂が発生していないグラフAの場合には傾きmが4であり、サンプル3内の気泡は、き裂発生の前段階の状態である。気泡を起点としてき裂が発生するとグラフBのように傾きmが2となる。このときは、き裂は比較的に軽微な損傷である。そして、き裂損傷が激しくなると、図中の矢印で示すように、グラフB、C、及びDのようにAEイベントカウントとAE振幅の関係は、図中の右上方向にシフトしていく。
【0048】
サンプル3がグラフDの状態だと、サンプル3は、もはや機械等に使用することができない程度に損傷している。図中の破線のグラフは、サンプル3の良否を判定できる合格ライン(使用限界線)と設定した線である。データベースには、この図4のグラフと同様なデータが格納される。コンピュータ6では、新規に測定したAE信号を、データベースに格納されているこのデータと比較して、サンプル3の判定を行う。よって、コンピュータ6は、サンプル3の測定結果を、データベースに保存されている図4のデータと比較して、使用限界線を元に、サンプル3の良否を判定できる。
【0049】
図5は、AE信号をフーリエ変化して解析したAEイベントカウントとAE周波数の関係の模式図である。気泡の形成とき裂の発生により、生じるAE信号の周波数は異なり、バンドパスフィルターを用いてき裂発生に伴うAE信号のみを取り出すことが可能である。つまり、図5の例では、気泡の形成のとき発生するAE信号の周波数は、き裂の発生のときに発生するAE信号の周波数より少ないことが解る。これらの周波数をバンドパスフィルターでフィルタリングして監視することにより、気泡の形成かき裂の発生かを監視することができる。
【0050】
〔実験について〕
以下、このサンプルの解析を裏付けするいくつかの実験の測定を示す。実験1は、金属材料とゴム材料で発生するAE信号を測定して、その減衰率を比較したものである。実験2は、金属材料とゴム材料で発生するAE信号を受信して、その構成信号の違いを解析したものである。実験3は、ゴム製のサンプルを高圧ガスに配置し、ガスの圧力を高圧にし、減圧する測定を1回もしくは複数回繰り返した後、AEを測定したものである。
【0051】
〔実験1: 金属材料とゴム材料で発生するAE信号の減衰の比較〕
まず、実験1について記述する。図6は、厚みの異なるゴムの試験片を用いて、各周波数成分のAE波の減衰量を測定する概念図である。厚さの異なる3種類の円柱型のゴムの試験片を作製し、試験片の両端に第1AEセンサーと第2AEセンサーを取り付けた。試験片の寸法は、直径が13mm、厚さが2、6及び12mmであった。第1AEセンサーと第2AEセンサーは、株式会社エヌエフ回路設計ブロック(英語表記:NF Corporation、所在地:日本国神奈川県横浜市)製のAEセンサーAE−900F2で、300kHz〜2.2MHzの広帯域用AEセンサーであった。
【0052】
そして、第1AEセンサーに、発信器で生成した正弦波の電気信号を送った。この正弦波は、100kHz〜3MHzの範囲であった。発信器は、株式会社エヌエフ回路設計ブロック(英語表記:NF Corporation、所在地:日本国神奈川県横浜市)製のマルチファンクションジェネレータWF1973であった。第1AEセンサーは、広帯域のAE信号の発信器として機能した。第2AEセンサーで、第1AEセンサーから送信され試験片を透過した正弦波を受信した。第2AEセンサーは、AE信号の受信機として機能した。第2AEセンサーで受信したAE信号をプリアンプ(Pre-Amplifier 9913、株式会社エヌエフ回路設計ブロック製)で増幅し、オシロスコープ(LeCroy社(所在地:米国ニューヨーク市)製のWaveRunner 6030A)で観察した。
【0053】
実験1は、室温で、大気中にて行われた。この実験1によって、送信側の正弦波に対する受信側の正弦波の振幅低下を各試験片の厚さごとに測定して、ゴム材料のAE信号減衰に及ぼす周波数の影響を評価した。図7は、実験1の実験結果を示すグラフである。図7のグラフの縦軸は、送信側のAE信号の振幅Aに対する受信側のAE信号の振幅Aであり、横軸は試験片の厚さである。ゴム材料でのAE信号の減衰は、金属材料でのAE信号の減衰と比べて大きい。図7に図示されたグラフから明らかなように、1MHz以下の周波数のAE信号の減衰量は、試験片の厚さが10mmでも50%程度である。よって、厚さ10mm程度のゴムの試験片を想定すると、対象とするAE信号の周波数は1MHz以下とすべきである。
【0054】
〔実験2: 金属材料とゴム材料で発生するAE信号の違い〕
次に、実験2について、記述する。図8には、金属材料とゴム材料で発生するAE信号の違いを測定する実験の様子を示している。試験片はトラウザ試験片である。試験片の寸法は、図8(a)に図示している。試験片は、長さが100mmで、幅が15mmで、厚さが2mmであった。切欠きは、試験片の端から長さ方向に40mmであった。試験片は、銅とゴムの2種類を利用した。この実験2は、金属材料とゴム材料の各材料内で発生するAE信号を受信して、解析し、このAE信号の構成信号の違いを解析したものである。
【0055】
図8(b)に図示したように、試験片にAEセンサーを密着するよう設置した。そして、矢印で示すように試験片を引っ張って引裂いた。引裂いた際に切欠きから進展するき裂に伴って発生する弾性波を計測した。実験2は室温で大気中にて行われた。この測定結果は、図9のグラフに示している。図9(a)に図示したグラフは銅の場合で、図9(b)に図示したグラフはゴムの場合である。このグラフの横軸は、測定時の経過時間を示している。右側の縦軸は、AEヒットカウントを示している。
【0056】
また、左側の縦軸は、試験片を引裂くときの引裂力を示している。図9のグラフから解るように、応力が平坦になる領域において、き裂が進展する。これらのグラフから解るように、ゴムの場合も、銅の場合も、き裂の進展に伴って、AEが発生している。しかし、ゴムの場合、鋼に比べて発生するAEイベントカウントレートは少ない。
【0057】
〔実験3: ゴム材料に繰り返し高圧ガスを暴露する試験〕
実験3について記述する。この実験3では、円柱型のゴムの試験片を高圧水素ガス用のチャンバ内に置き、高圧水素ガスの加減圧を繰返して試験片の内部にき裂を発生させた。試験片の寸法は、直径が29mm、厚さが12.5mmの円柱形状であった。試験片の材料は、未充填過酸化物架橋エチレンプロピレンゴムを使用した。
【0058】
試験片は透明である。試験片は、チャンバ内におき、圧力0.7MPa、温度25℃の高圧水素ガスの環境で24時間曝露した。その後、チャンバ内を減圧して試験片内にき裂を発生させた。試験片は減圧後にチャンバ内から取り出した。そして、試験片の内部き裂の発生状況をマイクロスコープで観察すると共に、試験片の表面にAEセンサーを装着し、発生するAE信号を計測した。図10は、ゴム製の試験片を繰り返し、ガス暴露した後で、観察するときの写真である。図10(a)は、高圧ガスに暴露する試験を3回繰り返した後の写真である。
【0059】
図10(b)は、高圧ガスに暴露する試験を5回繰り返した後の写真である。図中には、発生したき裂がはっきりと観察できる。この写真からわかるように、3回の場合に比べて、5回の場合は、き裂が大きくなり、き裂の数も多くなっている。図11は、検出されたAEを信号処理し、イベントレートを求めた結果を示すグラフである。このグラフの縦軸は、AEイベントカウントレートを示し、横軸は経過時間を示している。このグラフからは、暴露試験の繰り返し回数が多くなると、き裂損傷に伴い、AEイベントカウントレートも増加している。
【0060】
図12に、ゴムの試験片を、水素ガス中で24時間曝露後、室温で大気中に放置したものを示している。このゴムの試験片は、未充填硫黄加硫エチレンプロピレンゴムから作製した円柱型のものであり、直径が29mm、厚さが12.5mmであった。水素ガスの条件は、圧力0.7、10、30MPa、温度30℃であった。試験片は、減圧して3日後に、試験片の断面をカッタにて切断し、この試験片の断面を光学顕微鏡によって観察したものである。水素ガスの圧力が0.7MPaの場合、試験片にはき裂が発生していなかった。水素ガスの圧力が10MPa及び30MPaの場合、試験片には、内部にき裂が観察された。
【0061】
水素ガスの曝露圧力が高いほど、試験片のき裂の損傷が激しくなった。図12(a)の試験片の表面にAEセンサーを取り付け、減圧後に生じたAE信号を計測した。図13は、減圧後に計測されたAE信号のAEイベントカウントとAE振幅の関係を示すグラフである。AEイベントカウントとAE振幅はべき乗の関係にある。き裂が発生していない圧力0.7MPaでの傾きはm=4であった。これに対して、き裂が認められた圧力10MPa及び30MPaではm=2であった。また、き裂損傷が激しいほど、AEイベントカウントとAE振幅の関係が図中の右上方向にシフトした。
【0062】
〔実験データのまとめ〕
これらの一連の試験からは、ゴム製品の中に次のような挙動があったと推測できる。圧力装置2の中にゴム製のサンプル3を置き、高圧にすると、圧力装置2の水素ガスは過飽和状態になる。図14(a)には、この様子を様式的に図示したものである。そして、圧力装置2から内部のガスを抜きとって減圧にすると、ゴム内の過飽和の水素が、ゴム内に気泡化する。図14(b)には、この様子を様式的に図示しており、気泡は矢印で示している。そして、更に減圧していくと、この気泡を起点としてき裂が発生する。
【0063】
図14(c)には、この様子を様式的に図示しており、大きくなった気泡から発生するき裂を矢印で示している。き裂の進展によってサンプルから漏れる水素量が増加する。そして、この水素がサンプルを貫通することによって、著しいき裂ができる予想される。気泡が形成されるときと、き裂が発生するときの、両方で、AEが発生する。しかし、気泡の形成と、き裂の発生では、発生されるAEの特性が異なる。この様子は、図13(b)に示すグラフの通り、一般できる。図13(b)のグラフの縦軸は、AEのイベントカウントを示している。
【0064】
横軸は、AEの振幅を示している。また、気泡が形成されるときのグラフは、き裂発生のときグラフとより、緩やかである。よって、このAEカウントレートと振幅の関係に着目する。上の図13(a)による、繰返しによりAEカウントレートと振幅の関係は、圧力が大きくなると図中の右上方向のグラフにシフトしている。そして、最後のグラフは、激しい損傷がある場合のグラフである。き裂の発生、その進展によると、グラフの傾きは、気泡形成時より緩やかになっている。気泡形成時のAEの振幅は、き裂発生時より小さくて、カウントレートも小さい。
【0065】
そこで、ゴム製品の場合は、激しい損傷がある時点より前に使用限界線を設けて、AEカウントレートと振幅の関係がこの使用限界線に達しているか否かを確認し、ゴム製品の良否を判定できる。これにより、ゴム製品に、その表面に損傷を起こすき裂があるか否かも判定できる。よって、産業に利用する視点から言えば、この使用限界線を越えた、ゴム製品は、安全性の確保の意味からその使用を停止すべきである。これは、機械検査等の現場では、おおいに役立つものである。
【0066】
このように、き裂に対するAEの経時変化から、ゴム製品、例えばOリング、の内部から発生したき裂が、その表面を貫通する前に使用を停止する。このシステムにて,内部き裂が表面に達する前に,ゴム製品の損傷を検知することができる。上述の実験1〜3では、圧力装置2には、水素を使用したが、ゴム製品に支障がない任意のガス、例えば、ヘリウムや窒素等の不活性ガスも使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、ゴム製品を利用する産業分野に利用するとよい。本発明は、ゴム製のシール材料を利用する分野に利用すると良い。本発明は、特に、ゴムパッキンのようなき裂による損傷を事前に検知し防ぐ必要がある製品に利用されると良い。
【符号の説明】
【0068】
1…ゴム製品の損傷検知システム
2…圧力装置
3…サンプル(ゴム製品)
4…AEセンサー
5…信号処理ユニット
6…コンピュータ
16…プリアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製品のき裂から発生する弾性波(AE)を弾性波検知手段(AEセンサー)で検知して、ゴム製品の損傷を検査するためのゴム製品の検査方法であって、
気体からなる高圧気体雰囲気環境下で前記ゴム製品を減圧した後、前記ゴム製品から発生する前記弾性波(AE)を検知して、前記弾性波(AE)の経時変化を求め、
前記経時変化の特性から、前記弾性波が、(a)前記ゴム製品から過飽和気体が気泡になったときに発生する前記弾性波であるか、(b)前記気泡を起点としてき裂が発生したときに発生する前記弾性波であるかを判定して、前記ゴム製品の損傷の状態を検査する
ことを特徴とするゴム製品の検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載のゴム製品の検査方法において、
前記き裂の経時変化が、前記き裂が進展してゴム製品の表面に進展する兆候を示すとき、前記ゴム製品は損傷が大きいと推定する
ことを特徴とするゴム製品の検査方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム製品の検査方法において、
前記判定は、前記経時変化を、予め損傷状態を分かっている前記ゴム製品の特性と比較して、求められる
ことを特徴とするゴム製品の検査方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の中から選択される1項に記載のゴム製品の検査方法において、
前記ゴム製品は、Oリングである
ことを特徴とするゴム製品の破損状態推定方法。
【請求項5】
弾性波(AE)を検知するためのもので、ゴム製品に固定又は近傍に設置された弾性波検知手段(AEセンサー)と、
前記弾性波検知手段(AEセンサー)で検知されたもので、前記ゴム製品のから発生する前記弾性波(AE)を解析して、経時変化を求め、前記ゴム製品の損傷を判定する解析手段と
からなるゴム製品の損傷を検査ためのゴム製品検査装置であって、
前記解析手段は、
高圧ガス雰囲気環境下で前記ゴム製品を減圧した後、弾性波検知手段(AEセンサー)で検知した前記弾性波(AE)の経時変化を求め、
前記経時変化の特性から、前記弾性波が、(a)前記ゴム製品から過飽和気体が気泡になったときに発生する前記弾性波であるか、(b)前記気泡を起点としてき裂が発生したときに発生する前記弾性波であるかを判定して、
前記解析手段は、
前記き裂から発生する前記弾性波の場合は、前記ゴム製品が損傷していると判定し、その旨の信号を出力する
ことを特徴とするゴム製品検査装置。
【請求項6】
請求項5に記載のゴム製品検査装置において、
前記解析手段は、前記き裂の経時変化が、前記き裂が進展してゴム製品の表面に進展する兆候を示すとき、前記ゴム製品は損傷が大きいと推定して、その旨の信号を出力する
ことを特徴とするゴム製品検査装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のゴム製品のゴム製品検査装置において、
前記解析手段は、前記経時変化を、予め損傷状態を分かっている前記ゴム製品の特性データと比較する比較手段を有する
ことを特徴とするゴム製品検査装置。
【請求項8】
請求項5乃至7の中から選択される1項に記載のゴム製品検査装置において、
前記ゴム製品は、Oリングである
ことを特徴とするゴム製品検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−196799(P2011−196799A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63164(P2010−63164)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素先端科学基礎研究事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】