説明

ゴム製品補強用ガラス繊維及びその製造方法

【課題】ガラス繊維ストランドへのRFL処理剤の含浸性が良好で、該RFL処理剤による被覆層の膨れが少なく、外観、及び物理的性能が良好で、品質にばらつきが生じにくいゴム製品補強用ガラス繊維及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ガラスフィラメントを200〜2000本集束させたガラス繊維ストランドに、該ガラス繊維ストランドを引き揃えることなく前記ガラス繊維ストランドの1本に、ゴムラテックス及びレゾルシンとホルムアルデヒドとの水溶性縮合物を主成分として含有するRFL処理剤を含浸させ、その後、該ガラス繊維ストランドに含浸した該RFL処理剤を固化させて被覆層を形成して被覆ガラス繊維を得る。次いで、この被覆ガラス繊維を下撚りして下撚り糸を得て、この下撚り糸の2本以上を合せつつ上撚りしてゴム製品補強用ガラス繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイミングベルトを始めとするゴムベルトやゴムタイヤ等の各種ゴム製品の補強材として用いられる、ゴム製品補強用ガラス繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイミングベルトを始めとするゴムベルトやゴムタイヤ等の各種ゴム製品の強度や耐久性を高めるために用いられる補強用ガラス繊維は、該ガラス繊維とゴム製品におけるゴム基材との接着性を高め、かつ、ガラス繊維自体を保護してゴム製品の耐久性を高めるために、ゴム系の処理剤により形成された被膜で被覆されているのが一般的である。このゴム系の処理剤としては、レゾルシンとホルムアルデヒドとの縮合物及びゴムラテックスを主成分として含有する水性の処理剤(以下、「RFL処理剤」ともいう)や、ゴム組成物を溶剤に溶解させた処理剤(以下、「ゴム糊」ともいう)が知られている。
【0003】
また、上記のゴム製品補強用ガラス繊維は、以下の(A)〜(C)の工程を経る製造方法によって、製造されるのが一般的である。
(A)多数のガラスフィラメントを集束剤を付与しつつ集束し乾燥させて得たガラス繊維ストランドに、RFL処理剤を含浸させた後、該ガラス繊維ストランドに含浸した該RFL処理剤を固化させて被覆層を形成して被覆ガラス繊維を得る工程
(B)被覆ガラス繊維を下撚りして下撚り糸とする工程
(C)下撚り糸の2本以上を合わせつつ上撚りする工程
【0004】
また、補強用ガラス繊維と、ゴム製品におけるゴム基材との接着性をより高めるために、上記(A)〜(C)の工程に加えて、更に以下の(D)の工程を経ることも一般的になされている。
(D)上撚り糸の表面にゴム糊を塗布した後、該上撚り糸に塗布した該ゴム糊を固化させて形成した被覆層を形成する工程
【0005】
ここで、上記(A)工程において用いられるガラス繊維ストランドは、一般的に平均直径が3〜10μmのガラスフィラメントの200〜2000本を集束させたものである。そして、このガラス繊維ストランドの複数本を引き揃えつつ、RFL処理剤を含浸させることが常法となっている。
【0006】
すなわち、下記特許文献1には、直径が8μmより大きく10μm以下である高強度ガラスフィラメントの200〜2000本を集束した高強度ガラス繊維ストランドを使用し、該高強度ガラス繊維ストランドの1〜10本を引き揃えつつRFL処理剤の中に連続的に送り込んで含浸させることが開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、直径が3〜6μmである高強度ガラスフィラメントの200〜2000本、好ましくは300〜600本を集束した高強度ガラス繊維ストランドを使用し、該高強度ガラス繊維ストランドの1〜10本、好ましくは1〜6本を引き揃えて、200〜5000本、好ましくは800〜2000本の強度ガラスフィラメントを含む特定の番手の下糸とし、該下糸の表面にRFL処理剤からなる被覆層を形成することが開示されている。
【0008】
更にまた、下記特許文献3には、直径が6〜8μmである高強度ガラスフィラメントの500〜800本を集束した高強度ガラス繊維ストランドを使用し、該高強度ガラス繊維ストランドの1〜8本を束ねることが開示されている。
【0009】
更にそのまた、下記特許文献4には、ガラス繊維のフィラメントを引き揃えたストランド又はこれを複数本集めたストランドの群を処理液に浸漬した後、少なくとも1つのダイスに貫通させて処理液を絞るとともに含浸させ、そして上記ガラス繊維表面の余剰となった処理液を少なくとも1対のローラーにて除去したことを特徴とするガラス繊維の処理方法が開示されている。
【特許文献1】特開平11−217739号公報
【特許文献2】特開平11−158744号公報
【特許文献3】実開平1−111848号公報
【特許文献4】特開平9−25141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ゴム製品補強用ガラス繊維の従来の製造方法においては、上記の各特許文献の実施例に記載されているとおり、被覆ガラス繊維を得るにあたり、特定の平均直径であるガラスフィラメントの200〜400本を集束させたガラス繊維ストランドを、3本又はそれ以上の複数本を引き揃えてRFL処理剤を含浸させ、該RFL処理剤を固化させることが常法となっている。
【0011】
しかしながら、このような常法とされている方法では、複数本数のガラス繊維ストランドを引き揃えつつRFL処理剤を満たした液槽に連続的に導いて、RFL処理剤をガラス繊維ストランドに含浸させる際に、ガラス繊維ストランドどうしの間に周囲の空気を巻き込んでしまい、この巻き込まれた空気の存在によってガラス繊維ストランドへのRFL処理剤の含浸が不十分となり、最終的に得られるゴム製品補強用ガラス繊維の物理的な性能に悪影響を及ぼす場合があった。
【0012】
また、ガラス繊維ストランドへのRFL処理剤の含浸が不十分であると、含浸し切らないRFL処理剤がガラス繊維ストランドの表面に残って余剰にRFL処理剤が存在する部分ができてしまい、加熱してRFL処理剤を乾燥固化させて被覆層とする際に、余剰なRFL処理剤が膨れて、かさぶた状の被膜となってしまうことがある。この膨れた被膜は、後の撚糸工程で被覆ガラス繊維とガイドやトラベラーとの摩擦によって剥がれ落ち、作業環境を悪化させたり、得られるゴム製品補強用ガラス繊維の外観を損なわせてしまう。
【0013】
ガラス繊維ストランドは通常、太鼓状の形状に巻き取られたケーキと呼ばれる回巻体とされており、このケーキからガラス繊維ストランドを引き出して使用する。ガラス繊維ストランドに付与された集束剤が、ケーキを加熱乾燥させる際に水分の蒸発に伴ってケーキの内側(巻き芯側)部分及び外側部分に向かって移動してしまい、この部分のガラス繊維ストランドに集束剤が偏って多く付着してしまう現象(一般的にマイグレーションと呼ばれる)が発生するが、この部分の集束剤が多く付着したガラス繊維ストランドはRFL処理剤の含浸性が比較的悪いので、含浸性が不十分である場合に発生する上記の問題が顕著になる傾向にある。このため、ケーキの最内側の部分及び最外側の部分の集束剤が多く付着しているガラス繊維ストランドはある程度の量を除去して廃棄しなければならず、これが、歩留りの低下につながっていた。
【0014】
更に、上記(A)工程において複数本数のガラス繊維ストランドを引き揃えつつRFL処理剤を含浸させる場合、それぞれのガラス繊維ストランドに均一なテンションを与えながら引き揃えるためにディスクテンサーなどのテンションコンペンセーターを用いてそれぞれのガラス繊維ストランドにテンションを与えているが、ディスクテンサーでの荷重を大きくし過ぎるとガラス繊維ストランドにダメージを与えてしまうことになるので、その荷重はできる限り小さくしなければならない。その結果、それぞれのガラス繊維ストランドに常に均一なテンションを与えつつ引き揃えることが難しくなり、テンションの与え方にばらつきが生じてしまう。これは、最終的に得られるゴム製品補強用ガラス繊維の物理的性能、特に引張り強さに悪影響を及ぼす場合がある。
【0015】
したがって、本発明の目的は、ガラス繊維ストランドにRFL処理剤が均一かつ充分に含浸され、余剰のRFL処理剤がガラス繊維ストランドの表面に残って剥がれ落ちたりすることを防止し、外観及び物理的性能が良好で、品質にばらつきが生じにくいゴム製品補強用ガラス繊維及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明のゴム製品補強用ガラス繊維は、ゴムラテックス及びレゾルシンとホルムアルデヒドとの水溶性縮合物を主成分として含有するRFL処理剤を含浸、固化させて形成した被覆層を有する被覆ガラス繊維を下撚りして得た下撚り糸の2本以上を、更に上撚りして得られるゴム製品補強用ガラス繊維であって、前記被覆ガラス繊維が、ガラスフィラメントを200〜2000本集束させた1本のガラス繊維ストランドに、前記RFL処理剤を含浸、固化させて前記被覆層を形成した被覆ガラス繊維であることを特徴とする。
【0017】
本発明のゴム製品補強用ガラス繊維によれば、ガラスフィラメントを200〜2000本集束させた1本のガラス繊維ストランドに、RFL処理剤を含浸、固化させて被覆層を形成したので、ガラス繊維ストランドにRFL処理剤を含浸させる際における空気の巻き込み等が生じることがなく、RFL処理剤がガラス繊維ストランドを構成する各フィラメントの間に均一かつ充分含浸する。そのため、このゴム製品補強用ガラス繊維は、余剰のRFL処理剤による膨れた被膜が残って、剥がれ落ちたりすることがなく、外観及び物理的性能が良好となり、特に引張り強度の面において良好となる。
【0018】
本発明のゴム製品補強用ガラス繊維は、前記上撚りして得られたガラス繊維の表面に、ゴムと溶剤とを含む処理剤による被覆層が更に形成されていることが好ましい。これによれば、ゴム製品におけるゴム基材との接着性をより高めることができる。
【0019】
また、本発明のゴム製品補強用ガラス繊維は、前記ガラス繊維ストランドが、500〜1500本のガラスフィラメントを集束させたガラス繊維ストランドであることが好ましい。これによれば、ガラス繊維ストランドの紡糸工程での生産性を良好に維持しつつ、RFL処理剤のガラス繊維ストランドへの含浸性を良好にすることができる。
【0020】
そして、本発明のゴム製品補強用ガラス繊維は、番手(g/km)と断面積(mm)とが下式(1)の関係を満たすことが好ましく、下式(2)の関係を満たすことがより好ましい。
【0021】
1450≦番手(g/km)/断面積(mm)≦1900・・・(1)
1550≦番手(g/km)/断面積(mm)≦1800・・・(2)
【0022】
一方、本発明のゴム製品補強用ガラス繊維の製造方法は、(A)ガラス繊維ストランドに、ゴムラテックス及びレゾルシンとホルムアルデヒドとの水溶性縮合物を主成分として含有するRFL処理剤を含浸させた後、該ガラス繊維ストランドに含浸した該RFL処理剤を固化させて被覆層を形成し被覆ガラス繊維とする含浸工程と、(B)該被覆ガラス繊維を下撚りして下撚り糸とする下撚り工程と、(C)前記下撚り糸の2本以上を合せつつ上撚りする上撚り工程とを有するゴム製品補強用ガラス繊維の製造方法であって、前記(A)含浸工程において、前記ガラス繊維ストランドとしてガラスフィラメントを200〜2000本集束させたものを用い、該ガラス繊維ストランドを引き揃えることなく前記ガラス繊維ストランドの1本に前記RFL処理剤を含浸させることを特徴とする。
【0023】
本発明のゴム製品補強用ガラス繊維の製造方法によれば、特定本数のガラスフィラメントを集束させたガラス繊維ストランドの複数本数を引き揃えることなく、前記ガラス繊維ストランドの1本に前記RFL処理剤を含浸させているため、RFL処理剤を含浸させる際において、空気が巻き込まれにくくなり、ガラス繊維ストランドへのRFL処理剤の含浸状態が良好となる。その結果、余剰のRFL処理剤による膨れた被膜が残って剥がれ落ちたりすることがなく、得られるゴム製品補強用ガラス繊維の外観及び物理的性能が良好となり、また、撚糸工程での作業環境の悪化を改善できる。そして、本発明においては、RFL処理剤を含浸させる際において、複数本のガラス繊維ストランドを引き揃えていないので、ガラス繊維ストランド同士のテンションのばらつきがなくなり、得られるゴム製品補強用ガラス繊維の強度、特に引張り強度の面において良好にすることができ、品質を向上できる。
【0024】
本発明のゴム製品補強用ガラス繊維の製造方法においては、前記(C)上撚り工程で得られた上撚り糸の表面に、ゴムと溶剤とを含む処理剤を塗布した後、該上撚り糸に塗布した該処理剤を固化させて被覆層を形成させるオーバーコート工程(D)を更に有することが好ましい。これによれば、ゴム製品におけるゴム基材との接着性をより高めることができる。
【0025】
また、本発明のゴム製品補強用ガラス繊維の製造方法においては、前記ガラス繊維ストランドとして、500〜1500本のガラスフィラメントを集束させたガラス繊維ストランドを用いることが好ましい。これによれば、ガラス繊維ストランドの紡糸工程での生産性を良好に維持しつつ、RFL処理剤のガラス繊維ストランドへの含浸性を良好にできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ガラス繊維ストランドに対するRFL処理剤の含浸性が良好であることから、被覆層の膨れや剥がれ等が極めて少なく、外観及び物理的性能が良好であり、更には、得られるゴム製品補強用ガラス繊維の強度、特に引張り強度の面において良好であり、品質を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のゴム製品補強用ガラス繊維は、ガラス繊維ストランドの複数を引き揃えることなく、一本で該ガラス繊維ストランドに含浸させたゴムラテックス及びレゾルシンとホルムアルデヒドとの水溶性縮合物を主成分として含有するRFL処理剤を固化させて被覆層を形成することによって得た被覆ガラス繊維の下撚り糸を、2本以上を合せつつ上撚りしたものである。
【0028】
本発明で使用するガラス繊維ストランドは、200〜2000本のガラスフィラメントを集束させたガラス繊維ストランドであり、ガラス繊維ストランドの紡糸工程での生産性を良好に維持しつつ、RFL処理剤のガラス繊維ストランドへの含浸性を良好にできるという理由から、500〜1500本のガラスフィラメントを集束させたガラス繊維ストランドであることが好ましい。そして、ガラス繊維ストランドは、シランカップリング剤や被膜形成剤等を含有する集束剤を付与しつつ、ガラスフィラメントを集束させて用いることがより好ましい。
【0029】
ガラスフィラメントの平均直径は、5〜15μmが好ましく、7〜9μmがより好ましい。また、ガラスフィラメントを構成するガラスの組成は、特に制限はなく、EガラスやSガラス等が挙げられる。
【0030】
本発明で使用するRFL処理剤は、ゴムラテックス及び、レゾルシンとホルムアルデヒドとの水溶性縮合物(以下、「レゾルシンとホルムアルデヒドとの水溶性縮合物」を「RF縮合物」と記す)を含有する組成物であって、RF縮合物とゴムラテックスとを常法にしたがって水を媒体にして均一に混合した組成物である。
【0031】
RFL処理剤に配合するRF縮合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、又はアミン等のアルカリ性触媒の存在下で、レゾルシンとホルムアルデヒドとを反応させて得られた、オキシメチル基に富んだ、水溶性の付加縮合物を使用することができ、レゾルシン:ホルムアルデヒドの比率を、1:(0.3〜2.5)のモル比で反応させたRF縮合物が好ましい。
【0032】
RFL処理剤に配合するゴムラテックスとしては、ビニルピリジン‐スチレン‐ブタジエン三元共重合体のラテックス、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン三元共重合体のラテックス、アクリロニトリル‐ブタジエン共重合体のラテックス、変性アクリロニトリル‐ブタジエン共重合体のラテックス、スチレン‐ブタジエン共重合体のラテックス、ジカルボキシル化スチレン‐ブタジエン共重合体のラテックス、ポリブタジエンのラテックス、ハロゲン含有ポリマーのラテックス等が挙げられる。これらを単独、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。中でも、ビニルピリジン‐スチレン‐ブタジエン三元共重合体のラテックス(以下、「ビニルピリジンラテックス」と記す)と他のゴムラテックスとを併用することが好ましく、最終的に得られるタイミングベルト等のゴム製品の耐熱性、耐屈曲疲労性及び耐水性を良好にできるという理由から、ビニルピリジンラテックスとハロゲン含有ポリマーのラテックスとを併用することがより好ましい。なお、上記ハロゲン含有ポリマーのラテックスにおけるハロゲン含有ポリマーとしては、例えば、塩素化ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンを挙げることができ、クロロスルフォン化ポリエチレンが特に好ましい。また、上記ビニルピリジンラテックスとしては、ゴム製品の補強用繊維の処理に一般的に用いられているものを使用することができ、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエンの含有割合が質量百分率で、10〜20:10〜20:60〜80である三元共重合体から得たラテックスが好ましく、このようなビニルピリジンラテックスとしては、「Nipol−2518FS」(商品名、日本ゼオン社製)、「Pyratex」(商品名、日本エイ アンド エル社製)等を好適に使用することができる。
【0033】
RFL処理剤におけるRF縮合物とゴムラテックスとの含有比率は、ゴムラテックス100質量部に対して、RF縮合物が1〜40質量部であることが好ましく、2〜15質量部が特に好ましい。また、ビニルピリジンラテックスと他のゴムラテックスとを組み合わせて使用する場合には、ビニルピリジンラテックス100質量部に対して他のゴムラテックスが5〜100質量部であることが好ましく、10〜30質量部が特に好ましい。なお、上記の各成分の含有比率はいずれも固形分としての質量比率である。
【0034】
RFL処理剤には、RF縮合物及びゴムラテックスの他に、必要に応じて従来のRFL処理剤に配合されている成分を配合してもよい。例えば、ラテックスの安定剤や老化防止剤等が挙げられる。安定剤としてはアンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液等を例示でき、老化防止剤としては鉱油の液状乳化物等を例示できる。
【0035】
RFL処理剤の固形分含有量、すなわち濃度は、10〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。上記濃度が10質量%未満であると、ガラス繊維ストランドに対してRFL処理剤を十分な量で含浸させることが困難となる場合があり、50質量%を超えるとRFL処理剤の安定性が低下し、ゲル化し易くなる傾向にある。
【0036】
本発明のゴム製品の補強用繊維は、上記RFL処理剤により形成された被覆層(以下、「第1の被膜」ともいう)によってガラス繊維ストランドが被覆されているものであるが、タイミングベルトを始めとするゴムベルトやタイヤ等のゴム製品の基材となるゴム組成物との接着性をより高めるために、更に、上記第1の被膜の上に、ゴムと溶剤とを含む処理剤(以下、「オーバーコート処理剤」と記す)により形成された被覆層(以下、「第2の被膜」と記す)によって被覆されていることが好ましい。
【0037】
このようなオーバーコート処理剤は、主成分としてゴムを含有し、常法に従ってゴム及び必要に応じて配合される他の成分を溶剤に溶解させて得られる。
【0038】
オーバーコート処理剤に使用するゴムとしては、塩素化天然ゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、塩素化エチレン−プロピレン共重合体、塩素化ポリ塩化ビニル、クロロスルフォン化ポリエチレン、塩素化臭素化ポリブタジエン等のハロゲン含有ポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)等、従来のゴム糊に使用されているゴムを挙げることができる。
【0039】
オーバーコート処理剤に使用する溶剤としては、有機溶剤を使用することができ、例えば、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチル等を挙げることができる。
【0040】
オーバーコート処理剤には、上記のゴム及び溶剤の他に、加硫剤、イソシアネート、樹脂、添加剤等を必要に応じて配合することができる。
【0041】
上記加硫剤としては、ポリニトロソ芳香族化合物やベンゾキノン類等を使用することができる。ポリニトロソ芳香族化合物としては、p‐ジニトロソベンゼン、ポリp‐ジニトロソベンゼン等を挙げることができる。ベンゾキノン類としては、テトラクロロベンゾキノン、p‐,p’‐ジベンゾイルベンゾキノンジオキシム、p‐ベンゾキノンジオキシム等を挙げることができる。そして、これらの中でも、ポリp‐ジニトロソベンゼン、テトラクロロベンゾキノン、p‐,p’‐ジベンゾイルベンゾキノンジオキシム、p‐ベンゾキノンジオキシムを使用することが好ましい。
【0042】
上記イソシアネートとしては、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート(NDI)等を使用することができる。ただし、イソシアネート単量体は揮発性が大きいために、安全性と取扱い性の面で好ましくなく、2量体等の比較的分子量が小さく反応性に富んだポリイソシアネートが好ましく、重合度2〜10のポリイソシアネートがより好ましい。
【0043】
上記樹脂としては、未硬化フェノール樹脂、未硬化エポキシ樹脂等を使用することができる。未硬化フェノール樹脂とは、フェノール類とアルデヒド類とから得られる樹脂のうち未だ硬化していない状態のもの、すなわち硬化するための反応性を有するフェノール樹脂であって、ノボラック、レゾール等を挙げることができる。また、未硬化エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂のうち未だ硬化していない状態のもの、すなわち硬化するための反応性を有するエポキシ樹脂であって、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0044】
上記添加剤としては、ゴム組成物の添加剤として一般的な無機充填材、加硫促進剤、軟化剤、老化防止剤等を使用できる。無機充填材としてはシリカやカーボンブラック等がを使用することができる。また、加硫促進剤としてはマレイミド系加硫促進剤等を使用することができる。
【0045】
本発明で用いるオーバーコート処理剤の成分の好ましい例としては、例えば、ハロゲン含有ポリマーとイソシアネートと加硫剤との組み合わせ、アクリロニトリル‐ブタジエン共重合体ゴムと未硬化フェノール樹脂と未硬化エポキシ樹脂との組み合わせ等が挙げられる。
【0046】
オーバーコート処理剤の固形分含有量、すなわち濃度は、3〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。上記濃度が3質量%未満であると、ガラス繊維に対してオーバーコート処理剤を充分な量で塗布させることが困難となる場合があり、20質量%を超えるとオーバーコート処理剤の安定性が悪くなる場合がある。
【0047】
また、本発明のゴム製品補強用ガラス繊維には、例えば、特開平3−269177号公報や特開平7−190149号公報に開示されているように、ゴム製品の基材となるゴム組成物との接着性を更に向上させるため、ゴム製品のゴム基材と同質のゴムを含む処理剤によって形成された被覆層(第3の被膜)によって被覆されていてもよい。
【0048】
そして、本発明のゴム製品補強用ガラス繊維は、番手(g/km)と断面積(mm)とが、下式(1)の関係を満たすものであることが好ましく、下式(2)の関係を満たすものであることがより好ましい。
【0049】
1450≦番手(g/km)/断面積(mm)≦1900・・・(1)
1550≦番手(g/km)/断面積(mm)≦1800・・・(2)
【0050】
ゴム製品補強用ガラス繊維の番手(g/km)を、その断面積(mm)で除した値が上記範囲内であれば、ゴム製品補強用ガラス繊維を構成する下撚り糸どうしの密着性が高い状態となり、水に浸漬したときに当該繊維の内部まで水が浸入することを抑えられるのでゴム製品補強用ガラス繊維自体の耐水性が高くなり、更には、ゴム製品補強用ガラス繊維が良好な柔軟性を保持することができる。このようなゴム製品補強用ガラス繊維を使用することで、その結果として、最終的に得られるタイミングベルト等のゴム製品の耐水性が良好となる。
【0051】
次に、本発明のゴム製品補強用ガラス繊維の製造方法について説明する。
【0052】
本発明のゴム製品補強用ガラス繊維は、(A)ガラス繊維ストランドにRFL処理剤を含浸させた後、該ガラス繊維ストランドに含浸した該RFL処理剤を固化させて被覆層を形成して被覆ガラス繊維を得る含浸工程と、(B)該被覆ガラス繊維を下撚りして下撚り糸とする下撚り工程と、(C)該下撚り糸の2本以上を合わせつつ上撚りする上撚り工程とを経て製造される。
【0053】
すなわち、まず(A)含浸工程において、RFL処理剤を満たした液槽に、被覆されるべきガラス繊維ストランドを連続的に導き、RFL処理剤を繊維に付着、含浸させる。そして、このRFL処理剤の付着したガラス繊維ストランドを、200〜350℃の熱風炉等の中で連続的に加熱して、RFL処理剤を乾燥、固化させることにより第1の被膜を形成させ、第1の被膜を有する被覆ガラス繊維を得る。
【0054】
本発明は、この含浸工程において、ガラス繊維ストランドを引き揃えることなく、1本でRFL処理剤を満たした液槽に連続的に導き、ガラス繊維ストランドにRFL処理剤を含浸させることを特徴としている。
【0055】
この含浸工程において、従来技術のように複数本のガラス繊維ストランドを引き揃えながら、RFL処理剤を満たした液槽に導入した場合、ガラス繊維ストランド同士の間に周囲の空気を巻き込みながら液層に導入されるので、空気ごと含浸する傾向にあり、第1の被膜に微小な気泡が残留しやすく、その結果として第1の被膜に膨れた部分ができたり、その膨れ部分の剥がれが生じたりしやすかった。特に、マイグレーションの発生したケーキの最内部や最外部から取り出したガラス繊維ストランドにおいては集束剤の付着量が高めであるために、RFL処理剤の含浸性が悪く、特に第1の微小な気泡が残留しやすく、膨れや剥がれが生じやすかった。
【0056】
また、この従来技術によって得られたゴム製品補強用ガラス繊維は、強度、特に引っ張り強さが劣りやすく、更には品質を安定させ難かった。
【0057】
これは、ガラス繊維ストランドにRFL処理剤を含浸させる際、それぞれのガラス繊維ストランドに均一なテンションを与えながら引き揃える必要があるが、テンションを大きくし過ぎるとガラス繊維ストランドにダメージを与えてしまい、物理的性能が低下する虞れや、断線が生じる虞れがあることから、そのテンションをできる限り小さくする必要があり、そのため、それぞれのガラス繊維ストランドに常に均一なテンションを与えることが困難となり、その結果、ゴム製品補強用ガラス繊維に引張り応力がかかった際に、それを構成するガラス繊維ストランドそれぞれが応力を均分して対抗できないためであると考えられる。
【0058】
しかしながら、ガラス繊維ストランドを引き揃えることなく、1本でRFL処理剤を満たした液槽に連続的に導き、ガラス繊維ストランドにRFL処理剤を含浸させるようにすることで、RFL処理剤を効率よく含浸させることができ、第1の被膜に微細な気泡が残留し難くなり、また、ガラス繊維ストランドに対するテンションが不均一になることもないので、引っ張り強さが充分得られ、更には、品質のばらつき等を抑制できる。
【0059】
また、RFL処理剤を効率よく含浸させることができることから、マイグレーションが発生して集束剤が偏って多く付着しているケーキの内側及び外側部分のガラス繊維ストランドであっても、第1の被膜に膨れや剥がれが生じにくくなり、ガラス繊維ストランドの歩留まりを向上させることができる。
【0060】
また、ケーキの設置台(クリール)のスペースを縮小でき、製造装置全体の小型化を図ることができ、設置スペース、装置コストを削減できる。
【0061】
本発明において、被覆ガラス繊維に対する第1の被膜の付着量は、被覆ガラス繊維の質量を基準にして、固形分として、12〜25質量%が好ましく、16〜22質量%がより好ましい。付着量が12質量%未満であると、被覆ガラス繊維の個々のガラスフィラメントが第1の被膜によって十分に被覆され難くなるので、ガラスフィラメントどうしが接触してそれらの摩擦によって摩耗しやすくなり、最終的に得られるタイミングベルト等の耐屈曲疲労性が低下する傾向があり、付着量が25質量%を超えると、被膜の柔軟性が乏しくなって、やはり最終的に得られるゴムベルト等の耐屈曲疲労性が低下する傾向がある。
【0062】
次いで、(B)下撚り工程において、上記含浸工程で得られた被覆ガラス繊維を1本ずつ個々に、或いは複数本合わせつつ、リング撚糸機等の撚糸機を用いて撚って下撚り糸とする。この下撚り工程においては、被覆ガラス繊維の撚り数は、0.5〜4回/25mmであることが好ましい。なお、本発明においては、上記含浸工程で得られた被覆ガラス繊維を、一旦巻き取った後、該被覆ガラス繊維を撚って下撚り糸としてもよく、上記含浸工程で得られた被覆ガラス繊維を、巻き取ることなくそのまま下撚りして下撚り糸としてもよい。
【0063】
その後、(C)上撚り工程において、上記下撚り工程で得られた下撚り糸の2本以上、好ましくは5〜20本を合わせつつ、リング撚糸機又はフライヤー撚糸機等の撚糸機を用いて撚って上撚り糸とする。この上撚り工程での撚り数は、0.5〜4回/25mmであることが好ましい。そして、上撚り工程での撚り方向は、下撚り工程での撚り方向と逆方向にすることが好ましい。
【0064】
本発明においては、上撚り工程後、(D)上記上撚り糸の表面に、オーバーコート処理剤を塗布し、該上撚り糸に塗布したオーバーコート処理剤を固化させて第2の被膜を形成させるオーバーコート工程を行なうことが好ましい。第2の被膜を形成させることで、補強用ガラス繊維とゴム製品の基材となるゴム組成物との接着性を向上させることができる。
【0065】
第2の被膜は、上記上撚り工程後、オーバーコート処理剤を満たした液槽に上撚り糸を連続的に浸漬するか、オーバーコート処理剤を上撚り糸の表面に噴霧又は塗布等を施して、オーバーコート処理剤を上撚り糸に付与し、続いて、その上撚り糸を120〜200℃の熱風炉等の中で連続的に加熱して、オーバーコート処理剤を乾燥、固化させることで、形成することができる。
【0066】
このとき、補強用ガラス繊維に対する第2の被膜の付着量は、補強用ガラス繊維の質量を基準にして、固形分として、1〜15質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。付着量が1質量%未満であると、補強用ガラス繊維とゴム製品の基材となるゴム組成物との接着性を高める効果が不充分となる場合があり、また、付着量が15質量%を超えても接着性を高める効果は余り大きくならず、かえって接着性を阻害する場合がある。
【0067】
そして、本発明においては、以下の(a)〜(e)方法の中から適宜選択して実施して、ゴム製品補強用ガラス繊維の番手(g/km)と断面積(mm)とが、下式(1)の関係を満たすように調整することが好ましく、下式(2)の関係を満たすように調整することがより好ましい。
【0068】
1450≦番手(g/km)/断面積(mm)≦1900・・・(1)
1550≦番手(g/km)/断面積(mm)≦1800・・・(2)
【0069】
(a)ガラス繊維ストランドに含浸させるRFL処理剤の各成分の配合量、特にビニルピリジンラテックスの配合量を適宜調整することによって、被覆ガラス繊維に適度なタック性(被覆ガラス繊維を被覆しているRFL処理剤による被覆層の粘着性の度合い)を持たせて、後の上撚り工程で被覆ガラス繊維(下撚り糸)どうしが密着しやすくする。
(b)含浸工程において、RFL処理剤を含浸させたガラス繊維ストランドを加熱する熱風炉の温度を適宜調整することによって、被覆ガラス繊維に適度なタック性を持たせる。
(c)上撚り工程において、上撚り用の撚糸機の下撚り糸を供給する部分(一般的にクリールと呼ばれる)のテンション調整機構によって、撚り合わせる複数の下撚り糸それぞれにかけるテンションを適宜調整する。
(d)上撚り工程において、リング撚糸機を用いる場合、その巻き取り部分(一般的にスピンドルと呼ばれる)の回転数を適宜調整し、かつ、使用するトラベラーの重量や大きさを適宜選択する。
(e)上撚り工程において、フライヤー撚糸機を用いる場合、特開2001−114906号公報に記載されているような下撚り糸を芯材及び側材として配置させるために各下撚り糸を個々に導くための小孔を有する糸分けガイドを用いて、上撚り糸を構成する複数の下撚り糸を芯材と側材とに分けて配置する。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明を実施例によって更に詳細に説明する。なお、以下の各例において、RFL処理剤、及びオーバーコート剤は、以下の製造方法によって得られたものを用いた。
【0071】
<RFL処理剤の製造方法>
ビニルピリジンラテックス(商品名「Pyratex」、日本エイ アンド エル社製)100質量部に、クロロスルフォン化ポリエチレンのラテックス(商品名「CSM450」、住友精化社製)11.1質量部と、RF縮合物(固形分7%)6.7質量部と、イオン交換水とを混合して濃度30%のRFL処理剤を得た。なお、上記の各成分の比率は固形分としての比率である。
【0072】
<オーバーコート処理剤>
ハロゲン含有ポリマーとしてのクロロスルフォン化ポリエチレン(商品名「ハイパロン40」、デュポン・ダウ・エラストマー社製)10質量部、ポリイソシアネート(商品名「MR−200」、日本ポリウレタン社製)5質量部部、加硫剤としてのp,p’−ジベンゾイルベンゾキノンジオキシム2質量部、無機充填材としてのカーボンブラック5質量部、、溶剤としてのトルエンを混合して濃度10%のオーバーコート処理剤を得た。
【0073】
(実施例1)
高強度ガラス(Sガラス)からなる平均直径7μmのガラスフィラメントの600本を、アミノシランカップリング剤を主成分とする集束剤を付与しつつ集束し、巻き取り装置で巻き取った後、乾燥させて質量3300gのガラス繊維ストランドのケーキを得た そして、このケーキの最内側からガラス繊維ストランドを引き出し、下記の〔1〕〜〔7〕の7ヶ所の部分から、それぞれ500mずつ引き出し、それぞれの部分において、そこから引き出したガラス繊維ストランドの1本を、RFL処理剤を満たした液槽に連続的に浸漬させて、RFL処理剤をガラス繊維ストランドに付着、含浸させた。
その後、このガラス繊維ストランドを、温度250℃の熱風炉の中で1分間連続的に加熱して、RFL処理剤を乾燥、固化させて、RFL処理剤からなる被覆層(第1の被膜)を有する被覆ガラス繊維を得た。次いで、この被覆ガラス繊維を巻き取り装置としてのリング撚糸機を用いて巻き取り、撚り数が2回/25mmである下撚り糸を7本得た。なお、前記第1の被膜の付着量は、下撚り糸の質量を基準にして、固形分として18%とした。
〔1〕ケーキの最内側からガラス繊維ストランドを引き取り、約50g除去した部分(ケーキ残量約3250g)。
〔2〕ケーキの最内側からガラス繊維ストランドを引き取り、約150g除去した部分(ケーキ残量約3150g)。
〔3〕ケーキの最内側からガラス繊維ストランドを引き取り約1300g除去した部分(ケーキ残量約2000g)。
〔4〕ケーキの最内側からガラス繊維ストランドを引き取り約2300g除去した部分(ケーキ残量約1000g)。
〔5〕ケーキの最内側からガラス繊維ストランドを引き取り約3050g除去した部分(ケーキ残量約250g)。
〔6〕ケーキの最内側からガラス繊維ストランドを引き取り約3080g除去した部分(ケーキ残量約220g)。
〔7〕ケーキの最内側からガラス繊維ストランドを引き取り約3120g除去した部分(ケーキ残量約180g)。
【0074】
(比較例1)
高強度ガラス(Sガラス)からなる平均直径7μmのガラスフィラメントの200本を、アミノシランカップリング剤を主成分とする集束剤を付与しつつ集束し、巻き取り装置で巻き取った後、乾燥させて質量3300gのガラス繊維ストランドのケーキを得た。
そして、このケーキ3個から、該ケーキの最内側からガラス繊維ストランドを引き出し、実施例1と同様の部分(〔1〕〜〔7〕の7ヶ所)において、それぞれ500mずつ引き出して、このガラス繊維ストランドの3本を引き揃えつつ、RFL処理剤を満たした液槽に連続的に浸漬させて、RFL処理剤をガラス繊維ストランドに付着、含浸させた。
次いで、このガラス繊維ストランドを、温度250℃の熱風炉の中で1分間連続的に加熱して、上記第1の被膜を有する被覆ガラス繊維を得た。
そして、この被覆ガラス繊維を巻き取り装置としてのリング撚糸機を用いて巻き取り、撚り数が2回/25mmの下撚り糸を7本得た。なお、前記第1の被膜の付着量は、下撚り糸の質量を基準にして、固形分として18質量%とした。
【0075】
<試験例1>
上記の実施例1及び比較例1によって得られた14本の下撚り糸それぞれについて、番手及び引張り強さを測定し、引張り強さを番手で除した値を物理的強度の指標とした。また、下撚り糸それぞれについて、RFL処理剤の含浸度合いの評価を次の方法によって行った。これらの結果を表1に示す。
【0076】
<引張り強さの測定方法>
引張り試験機を用いて、チャック間隔250mm、引張り速度250mm/分の条件で破断する際の応力を測定した。
【0077】
<ガラス繊維ストランドへのRFL処理剤の含浸度合いの評価>
それぞれの下撚り糸の終端(巻き終り)部分の40cmを引き出して目視で観察し、第1の被膜の膨れや剥がれ(かさぶた状の被膜やそれが剥がれた部分)の数を測定し、10cm当たりの数に換算し、その少なさをガラス繊維ストランドへのRFL処理剤の含浸度合いの指標とした。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示すように、含浸工程において、ガラス繊維ストランドを引き揃えることなく1本で用いた実施例1の下撚り糸は、ガラス繊維ストランドの3本を引き揃えて用いた比較例1の下撚り糸に比べて、引張り強さが高いことが分かる。これは、複数のガラス繊維ストランドを引き揃える際に問題となるテンションのばらつきが生じないためであると推測できる。また、実施例1では、ケーキの内側部分と外側部分のガラス繊維ストランドを用いた場合に膨れの個数が少なく、マイグレーションによる影響が少ないことが分かる。これは、ガラスフィラメントに対するRFL処理剤の含浸性が向上したためであると推測できる。
このことから、本発明によれば、ガラス繊維ストランドへのRFL処理剤の含浸度合いが良好となり、特に、従来ではRFL処理剤が含浸し難い集束剤が偏って多く付着しているケーキの部分でのガラス繊維ストランドであっても、RFL処理剤の含浸度合いが良好となる。
【0080】
(実施例2)
実施例1と同様の方法によって、質量3300gのガラス繊維ストランド(ガラスフィラメント600本集束)のケーキを得た。
そして、このケーキの最内側からガラス繊維ストランドを取り出し、該ガラス繊維ストランドを200g除去した部分(ケーキ残量約3100g)から引き出したガラス繊維ストランドの1本を、RFL処理剤を満たした液槽に連続的に浸漬させて、RFL処理剤をガラス繊維ストランドに付着、含浸させた。
その後、このガラス繊維ストランドを、温度250℃の熱風炉の中で1分間連続的に加熱して、RFL処理剤を乾燥、固化させて、RFL処理剤からなる被覆層(第1の被膜)を有する被覆ガラス繊維を得た。
次いで、この被覆ガラス繊維を巻き取り装置としてのリング撚糸機を用いて巻き取り、撚り数が2回/25mmである500mの下撚り糸11本を得た。なお、前記第1の被膜の付着量は、下撚り糸の質量を基準にして、固形分として18質量%とした。
そして、この下撚り糸の11本を引き揃えつつ、下撚りとは逆の撚り方向で撚り数が2回/25mmとなるように、下撚り工程とは別のリング撚糸機を用いて上撚りして上撚り糸を得た。このとき、上撚り用のリング撚糸機で使用するトラベラーの重量を、市販されているものの中から適宜選択して、得られるゴム製品補強用ガラス繊維の番手と断面積との関係が、上記式(1)の関係の範囲に入るように調整した。
次いで、この上撚り糸を、上記オーバーコート処理剤を満たした液槽に連続的に浸漬させて、オーバーコート処理剤を上撚り糸に付着させた後、該上撚り糸を温度130℃の熱風炉の中で1分間連続的に加熱して、オーバーコート処理剤を乾燥、固化させて該オーバーコート処理剤による被覆層(第2の被膜)を形成させ、実施例2のゴム製品補強用ガラス繊維を得た。なお、前記第2の被膜の付着量は、ゴム製品補強用ガラス繊維の質量を基準にして固形分として4質量%とした。
【0081】
(実施例3)
実施例2で用いたトラベラーよりも重量が28.6%軽いトラベラーを用いる以外は実施例2と同様のリング撚糸機及び条件によって、実施例2と同様の方法によって得た下撚糸の11本を引き揃えつつ上撚りして、上撚り糸を得た。このとき、実施例2で用いたトラベラーよりも軽いトラベラーを用いたことで、得られるゴム製品補強用ガラス繊維の番手と断面積との関係が上記式(1)の関係の範囲から外れる(下限値に満たない)ようにした。
次いで、この上撚糸について、実施例2と同様の処理剤及び条件のオーバーコート工程を経ることによって、実施例3のゴム製品補強用ガラス繊維を得た。
【0082】
(比較例2)
比較例1と同様の方法によって、質量3300gのガラス繊維ストランド(ガラスフィラメント200本集束)のケーキを3個得た。この3個のケーキそれぞれの最内側からガラス繊維ストランドを200g除去した部分(ケーキ残量約3100g)から引き出したガラス繊維ストランドの3本を引き揃えつつ、RFL処理剤を満たした液槽に連続的に浸漬させて、RFL処理剤をガラス繊維ストランドに付着、含浸させた以外は、実施例2と同様にして比較例2のゴム製品補強用ガラス繊維を得た。
【0083】
<試験例2>
上記の実施例2、3及び比較例2によって得られたゴム製品補強用ガラス繊維について、番手及び引張り強さ測定し、引張り強さを番手で除した値を物理的強度の指標とした。また、煮沸処理後の引張り強さを測定し、常態での引張り強さと煮沸処理後の引張り強さとの比率(煮沸前後の保持率)を算出してゴム製品補強用ガラス繊維の耐水性の指標とした。更に、ゴム製品補強用ガラス繊維の直径を測定して断面積を算出し、番手を断面積で除して断面積と番手との関係を算出した。これらの結果を表2に示す。
【0084】
<常態での引張り強さの測定方法>
引張り試験機を用いて、チャック間隔250mm、引張り速度250mm/分の条件で破断する際の応力を測定した。
【0085】
<煮沸処理後の引張り強さの測定方法>
ゴム製品補強用ガラス繊維を、沸騰しているイオン交換水の中に1時間浸漬した後、常温のイオン交換水の中に5分間浸漬して冷却し、ゴム製品補強用ガラス繊維の表面に付着している水分を軽く拭ってから、引張り試験機を用いて、チャック間隔250mm、引張り速度250mm/分の条件で破断する際の応力を測定した。
【0086】
<直径の測定方法>
定圧厚さ測定器を用いて、隙間なく平行に並べたゴム製品補強用ガラス繊維の4本を、226g/cmの圧力で5秒間加圧した後、4本並べた状態での厚さを測定して、これを直径と読み替えた。
【0087】
【表2】

【0088】
表2に示すように、実施例2、3は、比較例2に比べて、引張り強さが高いことが分かる。これは、実施例においては、ガラス繊維ストランドへのRFL処理剤の含浸度合いが良好であることと、従来技術のような複数のガラス繊維ストランドを引き揃える際のテンションのばらつきが生じないことが起因していると思われる。
【0089】
そして、ゴム製品補強用ガラス繊維の番手と断面積との関係が、上記式(1)の関係を満たす実施例2は、上記式(1)の関係を満たしていない実施例3に比べて耐水性が良好であることが分かる。これは、ゴム製品補強用ガラス繊維を構成する下撚糸同士の密着性が高まり、当該繊維の内部への水の浸入が抑えられているためと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、タイミングベルトを始めとするゴムベルトやゴムタイヤ等の各種ゴム製品の補強材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムラテックス及びレゾルシンとホルムアルデヒドとの水溶性縮合物を主成分として含有するRFL処理剤を含浸、固化させて形成した被覆層を有する被覆ガラス繊維を下撚りして得た下撚り糸の2本以上を、更に上撚りして得られるゴム製品補強用ガラス繊維であって、
前記被覆ガラス繊維が、ガラスフィラメントを200〜2000本集束させた1本のガラス繊維ストランドに、前記RFL処理剤を含浸、固化させて前記被覆層を形成した被覆ガラス繊維であることを特徴とするゴム製品補強用ガラス繊維。
【請求項2】
前記上撚りして得られたガラス繊維の表面に、ゴムと溶剤とを含む処理剤による被覆層が更に形成されている請求項1に記載のゴム製品補強用ガラス繊維。
【請求項3】
前記ガラス繊維ストランドが、500〜1500本のガラスフィラメントを集束させたガラス繊維ストランドである請求項1又は2記載のゴム製品補強用ガラス繊維。
【請求項4】
番手(g/km)と断面積(mm)とが下式(1)の関係を満たす請求項1〜3のいずれか一つに記載のゴム製品補強用ガラス繊維。
1450≦番手(g/km)/断面積(mm)≦1900・・・(1)
【請求項5】
番手(g/km)と断面積(mm)とが下式(2)の関係を満たす請求項4に記載のゴム製品補強用ガラス繊維。
1550≦番手(g/km)/断面積(mm)≦1800・・・(2)
【請求項6】
(A)ガラス繊維ストランドに、ゴムラテックス及びレゾルシンとホルムアルデヒドとの水溶性縮合物を主成分として含有するRFL処理剤を含浸させた後、該ガラス繊維ストランドに含浸した該RFL処理剤を固化させて被覆層を形成し被覆ガラス繊維とする含浸工程と、(B)該被覆ガラス繊維を下撚りして下撚り糸とする下撚り工程と、(C)前記下撚り糸の2本以上を合せつつ上撚りする上撚り工程とを有するゴム製品補強用ガラス繊維の製造方法であって、
前記(A)含浸工程において、前記ガラス繊維ストランドとしてガラスフィラメントを200〜2000本集束させたものを用い、該ガラス繊維ストランドを引き揃えることなく前記ガラス繊維ストランドの1本に前記RFL処理剤を含浸させることを特徴とするゴム製品補強用ガラス繊維の製造方法。
【請求項7】
前記(C)上撚り工程で得られた上撚り糸の表面に、ゴムと溶剤とを含む処理剤を塗布した後、該上撚り糸に塗布した該処理剤を固化させて被覆層を形成させるオーバーコート工程(D)を更に有する請求項6に記載のゴム製品補強用ガラス繊維の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス繊維ストランドとして、500〜1500本のガラスフィラメントを集束させたガラス繊維ストランドを用いる請求項6又は7に記載のゴム製品補強用ガラス繊維の製造方法

【公開番号】特開2007−162161(P2007−162161A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358718(P2005−358718)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(306014725)オーウェンスコーニング製造株式会社 (20)
【Fターム(参考)】