説明

ゴム製品補強用スチールコードおよびその製造方法

【課題】ゴム侵入性が良好で、耐疲労性に優れ、かつ低荷重伸びが小さい単層構造のゴム製品補強用スチールコードを得る。
【解決手段】全ての素線11に螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略正弦波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを設け、それら素線を撚り合わせて単層撚り構造とし、これにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことにより、コード中心の空洞部が素線11間の隙間12を介して外部へ連通し、かつ、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線11が相互に略接触しているとともに、コード長手方向に不連続な配置で部分的に略パラレルに接触したコード10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用タイヤ、コンベアベルト等のゴム製品補強材として使用されるゴム製品補強用スチールコード(以下、単に「コード」ということもある。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤ、コンベアベルト等のゴム製品補強材として使用される単層構造のゴム製品補強用スチールコードとしては、従来、1×3、1×5構造等の単層撚りで、複数本の素線を堅く撚り合わせて密着させた、いわゆるクローズド撚り構造のコードが一般的である。しかし、このクローズド撚りコードは、コード中心に閉じられた空洞部ができ、コードを2枚のゴムシートの間に挟んで加熱圧縮して複合体シートを形成したときに、ゴム材がコード中心の空洞部に侵入することはなくて、単にコードをゴムシートによって包み込んだだけの複合体となり、ゴム材がコード中心の空洞部に完全に入り込んでゴムとコードとが一体化されたいわゆる完全な複合体にならない。そのため、従来のクローズド撚りコードをゴムシートで挟んで加熱圧縮した複合体シートを例えば自動車のタイヤに組み込むと、ゴム材とコードとの接着が不十分で、自動車の走行時にゴム材がコードから剥離する、いわゆるセパレーション現象を起こす可能性が大きく、また、ゴム材中に浸入した水分がコード中心の空洞部に達すると、その水分は空洞部を伝ってたちまちコードの長手方向に伝播してコードを腐食させ、その結果、そのコードの機械的強度を著しく低下させることになるという問題が有る。
【0003】
また、図6に示すように、単層撚り構造のコード30で、複数本の素線31の全てに施す撚り合わせのためのくせ付けを過大なものとすることで、素線31同士の間に隙間32ができてゴム材が侵入し易くなるようにしたオープン撚り構造のコードも知られている。しかし、オープン撚り構造のコードは、素線同士が非接触であり、形状が崩れ易く、また極低荷重域での伸び(以下、「低荷重伸び」という。)が大きいため、取り扱い作業性が悪い。さらに、複合体シート成形時に加えられる極低荷重の張力によって隙間32が減少しコード内部へゴム材が充分に侵入しない場合がある。
【0004】
また、図7に示すように、単層撚り構造のコード40を、複数本の素線41の内の一部の素線41に撚り合わせのためのくせとは異なる小さな螺旋状のくせを有するものとすることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このコードは、撚り合わせのためのくせとは異なる小さな螺旋状のくせを設けた素線(以下、「螺旋素線」という。)と撚り合わせのためのくせを設けただけの素線(以下、「非螺旋素線」という。)とを堅く撚り合わせたもので、素線同士が互いに密着して撚り合わされるため、クローズド撚りコードと同様に形状が崩れず、しかも、螺旋素線と非螺旋素線との間に隙間42ができてゴム材が侵入する。
【0005】
しかし、このように一部の素線だけに螺旋状のくせを設けた単層撚り構造のコードは、コードに引張り荷重が作用したとき、その引張り荷重が非螺旋素線に集中する傾向がある。
【0006】
そこで、図8に示すように、単層撚り構造のコード50で、全ての素線51を螺旋素線とすることも考えられる。こうすることで、素線51同士の間にゴム材が侵入する隙間52ができ、また、引張り荷重が全ての素線に分担されるため、引張り荷重の集中による耐疲労性の低下はなくなる。しかし、このように全ての素線51を螺旋素線とすると、コード50の低荷重伸びが大きくなる。
【0007】
【特許文献1】特開平5−140882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、ゴム侵入性が良好で、耐疲労性に優れ、かつ低荷重伸びが小さい単層撚り構造のゴム製品補強用スチールコードを得ることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、同一線径を有するn本の素線を撚り合わせた1×n(n=3〜6)の単層撚り構造のスチールコードを、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有していて、コード中心の空洞部が素線間の隙間を介して外部へ連通し、かつ、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線が相互に略接触しているよう構成することにより解決することができる。
【0010】
このコードは、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有していて、コード中心の空洞部が素線間の隙間を介して外部へ連通するため、ゴム材が容易に侵入する。
【0011】
また、このコードは、全ての素線が撚り合わせのためのくせよりピッチの小さなくせを有し、コードに引張り荷重が作用したときに全ての素線に均等に荷重が作用するため、一部の素線に荷重が集中することによる耐疲労性の低下はなく、耐疲労性に優れる。
【0012】
さらに、このコードは、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線が相互に略接触していることにより、コード伸びが小さくなり、低荷重伸びを抑制できる。
【0013】
また、上記課題は、同一線径を有するn本の素線を撚り合わせた1×n(n=3〜6)の単層撚り構造のスチールコードを、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有していて、コード中心の空洞部が素線間の隙間を介して外部へ連通し、かつ、隣り合う素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触する箇所がコード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するよう構成することにより解決することができる。
【0014】
このコードは、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有していて、コード中心の空洞部が素線間の隙間を介して外部へ連通するため、ゴム材が容易に侵入する。
【0015】
また、このコードは、全ての素線が撚り合わせのためのくせよりピッチの小さなくせを有し、コードに引張り荷重が作用したときに全ての素線に均等に荷重が作用するため、一部の素線に荷重が集中することによる耐疲労性の低下はなく、耐疲労性に優れる。
【0016】
さらに、このコードは、隣り合う素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触する箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在することにより、コード伸びが小さくなり、低荷重伸びを抑制できる。
【0017】
また、上記課題は、同一線径を有するn本の素線を撚り合わせた1×n(n=3〜6)の単層撚り構造のスチールコードであって、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有していて、コード中心の空洞部が素線間の隙間を介して外部へ連通し、かつ、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線が相互に略接触しているとともに、隣り合う素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触する箇所がコード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するよう構成することにより解決することができる。
【0018】
このコードは、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有していて、コード中心の空洞部が素線間の隙間を介して外部へ連通するため、ゴム材が容易に侵入する。
【0019】
また、このコードは、全ての素線が撚り合わせのためのくせよりピッチの小さなくせを有し、コードに引張り荷重が作用したときに全ての素線に均等に荷重が作用するため、一部の素線に荷重が集中することによる耐疲労性の低下はなく、耐疲労性に優れる。
【0020】
さらに、このコードは、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線が相互に略接触しているとともに、隣り合う素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触する箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在することにより、コード伸びが小さくなり、低荷重伸びを抑制できる。
【0021】
上記構成のコードにおいて、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工することにより得られたくせであるのが好ましい。所望のくせ形状に歯型を加工した一対の歯車間に素線を通してもジグザク状に折り曲げられて成る小さなくせが得られるが、そうした手段でくせ付けした素線は、折り曲げられた箇所が折り曲げられない箇所より加工度が大きくなり、この加工度が大きい折り曲げ箇所に応力が残留し、これに外力による応力が加わることで折り曲げ箇所の応力が過大になって耐疲労性が低下する。それに対し、螺旋状のくせを施した後、押圧加工したことによって得られるくせは、どの箇所においても加工度が均等になるので、過大な応力が作用せず、耐疲労性に優れたものとなる。
【0022】
また、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、ピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜2.0d(但し、dは素線径)であるのが好ましい。ピッチP1が0.2Pcより小さいと、くせ付け時に過大な応力が作用する無理な塑性変形を伴うこととなって、素線が折れやすくなるとともに生産性が低下し、ピッチP1が0.5Pcより大きいと、ゴム製品成形時のゴム材のフローによる引張り力、あるいはコード表面に負荷されるしごき力によって素線間の隙間が減少し、ゴム材の浸入が充分でなくなるためである。また、波高hが0.2dよりも小さいと、各素線間の隙間が小さくなりすぎて、流動性の良いゴム材を使用しても加圧加硫時にゴム材が内部へ充分に侵入できず、波高hが2.0dより大きいと、撚りの安定性が悪くなり耐疲労性が悪化する。なお、これら撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせのピッチP1および波高hの値は、コードから撚りをほぐして取り出した素線のものと一致する。
【0023】
本発明の同一線径を有するn本の素線を撚り合わせた1×n(n=3〜6)の単層撚り構造のゴム製品補強用スチールコードは、全ての素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせをもたせ、該略二次元波状のくせを有する素線を撚り合わせて単層撚り構造のスチールコードを形成し、該スチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことにより製造することができる。
【0024】
このように、略二次元波状くせを有する素線からなる単層撚り構造のスチールコードに長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことにより、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有していて、素線間の隙間が外部へ連通し、かつ、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線が相互に略接触しているコードとなり、また、隣り合う素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触する箇所がコード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するコードとなる。
【0025】
この製造方法において、素線は、螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略二次元波状のくせを付けたものを一旦リール等に巻き取り、撚線機の繰り出し装置に所定本数分をセットして撚り合わせてもよいし、撚線機の繰り出し装置から撚り口までの間でくせ付け加工を行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ゴム侵入が良好で、耐疲労性に優れ、且つ低荷重伸びが小さい単層撚り構造のゴム製品補強用スチールコードを得ることができ、このコードを例えば自動車用タイヤの補強材として使用することにより、タイヤ製造時の取り扱い作業性を低下させることなくゴム侵入性、耐疲労性に優れるタイヤを製造することができ、しかもタイヤの寿命を大幅に延長することができる。
【0027】
また、このコードは、素線のくせを、螺旋状のくせを付けた後、押圧加工して得られたくせとすることで、加工度が均等となり、過大な応力が作用せず、耐疲労性に優れたものとなるようにすることができる。
【0028】
また、このコードは、撚りをほぐした後の素線の状態で、撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせのピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)であるようにすることで、無理な塑性変形を避けるとともに生産性を高めることができ、また、ゴム製品成形時のゴム材のフローによる引張り力、あるいはコード表面に負荷されるしごき力によって素線間の隙間が減少しないようにすることができ、ゴム材が充分浸入する。また、略二次元波状くせの波高hを、h=0.2d〜2.0d(但し、dは素線径)とすることで、ゴム材が内部へ充分に浸入できるとともに耐疲労性が悪化しないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態のゴム製品補強用スチールコード(以下、「スチールコード」あるいは、単に「コード」という。)を図面を参照して説明する。
【0030】
図1は1×n(n=3〜6)の単層撚り構造の実施形態の一例として、1×3構造のスチールコードの断面構造を示している。
【0031】
図1に示すコード(スチールコード)10は、同一線径を有する3本の素線11からなる1×3の単層撚り構造で、すべての素線11に螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略正弦波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせをもたせて撚り合わせ、こうして形成した単層撚り構造のコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施したものである。
【0032】
このコード10は、全ての素線11が、撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチおよび波高の小さいくせを有している。この撚り合わせのためのくせよりピッチおよび波高の小さいくせは、素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工したことにより得られたくせであり、撚り合わせ前の素線の状態では略正弦波状である。
【0033】
撚り合わせ前の素線11の略正弦波状のくせは、図3に示すとおりで、ピッチとは波の谷から谷までまたは山から山までの長さ(周期)P1を意味し、波高とは、波の谷から山までの高さ(振幅)hを意味する。一方、撚り合わせ後のコード10の状態での素線11の撚り合わせのためのくせとは別のピッチの小さいくせは、コード10から撚りをほぐして取り出した素線11に残るくせと略同じで、撚り合わせのためのくせと、撚り合わせのためのくせとは別のピッチの小さいくせとが合成された形状を呈する。そして、撚り合わせ後のコード10の状態での素線11のくせ(撚りほぐして取り出した素線11に残るくせと略同じ)における、撚り合わせのためのくせを基準とした、撚り合わせのためのくせとは別のピッチの小さいくせの形状は、撚り合わせ前の素線11の略正弦波状のくせに近似した略二次元波状のくせであり、この略二次元波状のくせのピッチP1は、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hは、h=0.2d〜2.0d(但し、dは素線径)である。なお、素線径dは、0.15〜0.40mmであるのが好ましい。0.15mm未満であるとスチールコードの強度が低下し、0.40mmを越えると柔軟性が悪化する。撚りピッチPcは通常8.0〜18.0mmである。
【0034】
そして、このコード10は、コード長手方向のいずれかの箇所において少なくともいずれか一組の隣り合う素線11同士の間に図1に示すように隙間12が存在して、コード中心の空洞部が外部へ連通し、かつ、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線11が図1に示すように相互に略接触している。
【0035】
また、このコード10は、図4に示すように、隣り合う素線11同士がコード長手方向に不連続な配置で部分的にスチールコードの中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触し、その略パラレルに接触する箇所(範囲)Aで、素線11の撚り角αが0(ゼロ)である。
【0036】
略正弦波状の小さなくせを有する3本の素線11を撚り合わせてコードとし、このコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すと、3本の素線11は、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線11が図1に示すように相互に略接触し、且つ、コード長手方向に間隔をおいて周期的になじんで所定の撚り角αとなる部分と、押し潰れた格好で略パラレルに接触し合う部分とができ、図4に示すような撚り構造となる。
【0037】
このコード10は、全ての素線11が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有することにより、コード中心の空洞部が素線11間の隙間12を介して外部へ連通する構成となる。そのため、ゴム材が容易に侵入する。
【0038】
また、このコード10は、全ての素線11が撚り合わせのためのくせよりピッチの小さなくせを有し、コードに引張り荷重が作用したときに全ての素線11に均等に荷重が作用するため、一部の素線11に荷重が集中することによる耐疲労性の低下はなく、耐疲労性に優れる。
【0039】
さらに、このコード10は、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線11が相互に略接触しているとともに、隣り合う素線11同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触する箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するため、コード伸びが小さくなり、低荷重伸びを抑制できる。
【0040】
図2は1×n(n=3〜6)の単層撚り構造の実施形態の他の例として、1×5構造のスチールコードの断面構造を示している。
【0041】
図2に示すコード(スチールコード)20は、同一線径を有する3本の素線21からなる1×5の単層撚り構造で、すべての素線21に螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略正弦波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせをもたせて撚り合わせ、こうして形成した単層撚り構造のコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施したものである。
【0042】
このコード20は、全ての素線21が、撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチおよび波高の小さいくせを有している。この撚り合わせのためのくせよりピッチおよび波高の小さいくせは、素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工したことにより得られたくせであり、撚り合わせ前の素線の状態では略正弦波状である。
【0043】
このコード20の場合も、撚り合わせのためのくせを基準とした、撚り合わせのためのくせとは別のピッチの小さい略二次元波状のくせは、ピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜2.0d(但し、dは素線径)である。なお、素線径dは、0.15〜0.40mmであるのが好ましい。0.15mm未満であるとスチールコードの強度が低下し、0.40mmを越えると柔軟性が悪化する。撚りピッチPcは通常8.0〜18.0mmである。
【0044】
そして、このコード20は、コード長手方向のいずれかの箇所において少なくともいずれか一組の隣り合う素線21同士の間に図2に示すように隙間22が存在して、コード中心の空洞部が外部へ連通し、かつ、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線21が図2に示すように相互に略接触している
【0045】
また、このコード20は、図5に示すように、隣り合う素線21同士がコード長手方向に不連続な配置で部分的にスチールコードの中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触し、その略パラレルに接触する箇所(範囲)Aで、素線21の撚り角αが0(ゼロ)である。
【0046】
略正弦波状の小さなくせを有する5本の素線21を撚り合わせてコードとし、このコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すと、5本の素線21は、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線21が図2に示すように相互に略接触し、且つ、コード長手方向に間隔をおいて周期的になじんで所定の撚り角αとなる部分と、押し潰れた格好で略パラレルに接触し合う部分とができ、図5に示すような撚り構造となる。
【0047】
このコード20は、全ての素線21が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有することにより、コード中心の空洞部が素線21間の隙間22を介して外部へ連通する構成となる。そのため、ゴム材が容易に侵入する。
【0048】
また、このコード20は、全ての素線21が撚り合わせのためのくせよりピッチの小さなくせを有し、コードに引張り荷重が作用したときに全ての素線21に均等に荷重が作用するため、一部の素線21に荷重が集中することによる耐疲労性の低下はなく、耐疲労性に優れる。
【0049】
さらに、このコード20は、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線21が相互に略接触しているとともに、隣り合う素線21同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触する箇所が、コード長手方向に不連続な配置で部分的に存在するため、コード伸びが小さくなり、低荷重伸びを抑制できる。
【実施例】
【0050】
実施例として、直径5.5mmのスチール線材を、パテンティングおよび伸線加工を繰り返した後、表面にブラスメッキを施して、線径0.25mmの素線とし、この素線を用いて、1×3構造および1×5構造の単層撚りスチールコードを製造した。
【0051】
これらの実施例の1×3構造および1×5構造の単層撚りコードは、それぞれ螺旋状のくせを付けた後、押圧加工によって略正弦波状の小さなくせ(撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせ)を有する素線に加工し、それら略正弦波状の小さなくせを有する素線を撚り合わせ、こうして形成した単層撚りコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施して製造したものである。
【0052】
いずれの場合も、螺旋状のくせは、供給される素線を軸芯として回転するくせ付け装置(特公昭63−63293号公報記載のくせ付け装置)を用いて付与した。くせ形状は、くせ付けピンの間隔、くせ付けピンの寸法および、素線を軸芯として回転する回転数で調整した。
【0053】
また、螺旋状のくせを略正弦波状のくせに加工する押圧加工および、撚り線加工後の押圧加工は、複数個の自由回転するローラーを千鳥状に配置した周知の押圧加工装置で行った。ただし、押圧加工の手段はこれらに限られるものではない。
【0054】
こうして製造した実施例のコードのゴム浸入性、低荷重伸び、および耐疲労性を従来例のコードと比較して評価した。
【0055】
ゴム侵入性は、各コードを49Nの引張荷重をかけた状態でゴム材中に埋め込み、加圧加硫した後コードを取りだし、そのコードを分解して一定長さを観察し、観察した長さに対するゴムと接触した形跡のある長さの比をパーセント表示して評価した。
【0056】
低荷重伸びは、49N荷重負荷時の伸びをパーセント表示して評価した。
【0057】
耐疲労性は、複数本のコードをゴム材中に埋め込んで複合体シートを作成し、このシートを用いて2層ベルト疲労試験機により、フレッティング摩耗、座屈等を経てコードが破断するまでの繰り返し回数を求め、従来例のクローズド撚りコードを100として指数表示した。
【0058】
取り扱い作業性は、従来例のクローズド撚りコードと比較して劣るものを×、少し劣るものを△、同等のものを○として評価した。
【0059】
従来例は、直径5.5mmのスチール線材を、パテンティングおよび伸線加工を繰り返した後、表面にブラスメッキを施して、線径0.25mmの素線とし、この素線を用いて、1×3構造でクローズド構造、オープン構造、および全ての素線に螺旋状のくせ付けを施したコードの従来の1×3構造の3種類のコードと、1×5構造でクローズド構造、オープン構造、および全ての素線に螺旋状のくせ付けを施したコードの従来の1×5構造の3種類のコードを製造した。
【0060】
評価の結果を表1に示す。
【表1】

表1から、実施例のコードは全ての評価で従来コードより優れていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態の1×3の単層撚り構造のスチールコードの断面図である。
【図2】本発明の実施形態の1×5の単層撚り構造のスチールコードの断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る略正弦波状のくせのピッチおよび波高の説明図である。
【図4】本発明の実施形態の一例に係る撚り構造の説明図である。
【図5】本発明の実施形態の他の例に係る撚り構造の説明図である。
【図6】従来の1×3の単層撚り構造で、全ての素線の撚り合わせのためのくせを過大にしたオープン構造のスチールコードの断面図である。
【図7】従来の1×3の単層撚り構造で、1本の素線が撚り合わせのためのくせとは異なる螺旋状のくせを有しているスチールコードの断面図である。
【図8】従来の1×3の単層撚り構造で、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは異なる螺旋状のくせを有しているスチールコードの断面図である。
【符号の説明】
【0062】
10、20 コード(スチールコード)
11、21 素線
12、22 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一線径を有するn本の素線を撚り合わせた1×n(n=3〜6)の単層撚り構造のスチールコードであって、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有していて、コード中心の空洞部が素線間の隙間を介して外部へ連通し、かつ、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線が相互に略接触していることを特徴とするゴム製品補強用スチールコード。
【請求項2】
同一線径を有するn本の素線を撚り合わせた1×n(n=3〜6)の単層撚り構造のスチールコードであって、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有していて、コード中心の空洞部が素線間の隙間を介して外部へ連通し、かつ、隣り合う素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触する箇所がコード長手方向に不連続な配置で部分的に存在することを特徴とするゴム製品補強用スチールコード。
【請求項3】
同一線径を有するn本の素線を撚り合わせた1×n(n=3〜6)の単層撚り構造のスチールコードであって、全ての素線が撚り合わせのためのくせとは別に撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせを有していて、コード中心の空洞部が素線間の隙間を介して外部へ連通し、かつ、コード長手方向のいずれの箇所においても少なくともいずれか一組の隣り合う素線が相互に略接触しているとともに、隣り合う素線同士がコード中心軸に略平行となるよう略パラレルに接触する箇所がコード長手方向に不連続な配置で部分的に存在することを特徴とするゴム製品補強用スチールコード。
【請求項4】
前記撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工して得られたくせである請求項1、2または3記載のゴム製品補強用スチールコード。
【請求項5】
前記撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせは、ピッチP1が、P1=0.2Pc〜0.5Pc(但し、Pcは撚り合わせのピッチ)で、波高hが、h=0.2d〜2.0d(但し、dは素線径)である請求項1、2、3または4記載のゴム製品補強用スチールコード。
【請求項6】
同一線径を有するn本の素線を撚り合わせた1×n(n=3〜6)の単層撚り構造のゴム製品補強用スチールコードの製造方法であって、全ての素線に螺旋状のくせを付けた後押圧加工して略二次元波状で撚り合わせのためのくせよりピッチの小さいくせをもたせ、該略二次元波状のくせを有する素線を撚り合わせて単層撚り構造のスチールコードを形成し、該スチールコードにコード長手方向に直交する方向から押圧加工を施すことを特徴とするゴム製品補強用スチールコードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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