説明

ゴム部材

【課題】剛性が同等であり、かつ破壊強度が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材の破壊レベルおよび接着レベルを向上させることにある。
【解決手段】、破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材において、前記界面から3mm以内に、好ましくは剛性が低い方のゴム側に破壊強度の極小値が実質的に存在しないか、あるいは破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材において、前記界面から3mm以内に、好ましくは剛性が低い方のゴム側にゴム剛性の極小値が実質的に存在しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム部材に関し、詳しくは破壊特性および異種ゴム同士の接着性が改善され、タイヤに好適に適用されるゴム部材およびそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは種々の異なる物性のゴムを組み合わせて作られ、例えば、スチールタイヤのように補強材としてスチールコードを使用するタイヤにおいては、スチールコードとゴムとの間の接着性を高めるため、スチールコードの被覆ゴムに硫黄を多く配合するゴム組成物を使用することが知られている。その結果、かかる硫黄多量配合ゴム組成物に接する近傍部材とは硬さが大きく違うことになる。
【0003】
このような高硬度でかつスチールコードとの接着性の要求される配合のゴム組成物と周辺のゴム組成物は強固に接着する必要があることから、硫黄多量配合ゴム組成物と硫黄少量配合ゴム組成物(ゴム成分100質量部に対し硫黄3質量部以上の差)との両者間におけるゴムとゴムとの接着性を改良するための技術が特許文献1に報告されている。
【特許文献1】特公昭61−49117号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スチールコード以外の繊維コード部材被覆ゴムとその近傍部材との界面や通常のゴムとゴムとの界面は極端な硫黄差(3重量部以上)には一般にならず、そのため、硫黄濃度差が少ないゴム同士の界面に対して充分な検討がなされていないのが現状である。タイヤはそれぞれの要求性能に応じて数種のゴムを組み合わせて作られ、それぞれ異なる配合となるため、硬さレベルや破壊レベルは異なるものである。かかる状況下において、破壊強度は同等であるが、ゴム剛性が異なるゴム同士が隣接することにより生ずる界面についてはこれまで検討されたことがなく、かかる界面近傍における破壊レベル、接着レベルを向上させるメカニズムについては知られていなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材の破壊レベルおよび接着レベルを向上させることにある。
【0006】
また、本発明の他の目的は、前記ゴム部材を用いたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接する界面近傍に着目して鋭意検討した結果、この界面から所定の範囲内にゴム剛性または破壊強度の極小値が実質的に存在しないようにすることにより破壊レベルおよび接着レベルの向上を図ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のゴム部材は、破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材において、前記界面から3mm以内に破壊強度の極小値が実質的に存在しないことを特徴とするものである。
【0009】
本発明のゴム部材においては、前記ゴム同士のうち、剛性が低い方のゴム側に破壊強度の極小値が実質的に存在しないことが好ましい。
【0010】
また、本発明の他のゴム部材は、破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材において、前記界面から3mm以内にゴム剛性の極小値が実質的に存在しないことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の他のゴム部材においては、前記ゴム同士のうち、剛性が低い方のゴム側にゴム剛性の極小値が実質的に存在しないことが好ましい。
【0012】
本発明のいずれのゴム部材においても、タイヤ、特には航空機用タイヤに好適に適用することができ、さらに特には、ラジアルタイヤの、繊維コードよりなるトレッド保護層(スチールコードとの複合部材ではなく、繊維コードとの複合部材である)間を前記ゴム同士が好適に構成することができる。
【0013】
また、本発明のタイヤは、前記ゴム部材を用いたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明は鋭意検討した結果、以下の知見に基づきなされたものである。
即ち、破壊強度が異なる2種のゴムを張り合わせた場合、破壊強度が高いゴムに歪を集中させれば界面の強度は向上するが、破壊強度が同等の場合には弱い箇所を作らないようにするために、界面近傍において破壊強度の極小値を持たないようにすることが必要である。また、界面近傍において、歪を広い範囲で均等に受けるようにするために、界面近傍において、剛性についても極小値を持たないようにすることが必要である。
【0015】
なお、本発明において、「破壊強度の極小値が実質的に存在しない」とは、破壊強度(Tb)を0.5mmの間隔で測定したとき、界面から3mmを超える部分での破壊強度(Tb)値対比で0.5ポイント以上低下しないことを意味する。「ゴム剛性の極小値が実質的に存在しない」とは、マイクロハードネスを0.01mmの間隔で測定したとき、界面から3mmを超える部分でのハードネス値対比で0.5ポイント以上低下しないことを意味する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材の破壊レベルおよび接着レベルを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のゴム部材は、破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材において、前記界面から3mm以内に、好ましくは剛性が低い方のゴム側に破壊強度の極小値が実質的に存在しないか、あるいは破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材において、前記界面から3mm以内に、好ましくは剛性が低い方のゴム側にゴム剛性の極小値が実質的に存在しないものである。
【0018】
加硫促進剤、オイル、硫黄等は接合するゴム同士の界面で移行することが知られている。この移行により互いのゴムの物性は変化するため、界面近傍での歪をコントロールするためには、移行する配合成分を考慮することが重要である。加硫促進剤や硫黄を多く含む配合系から少ない配合系へのこれらの移行は、少ない配合系のゴムを硬くするため界面近傍に破壊強度の極小値を生ずるおそれがある。一方、オイルを多く含む配合系から少ない配合系へのオイルの移行は、少ない配合系のゴムを柔らかくし、界面近傍に剛性極小値を生ずるおそれがある。よって、本発明においては、破壊強度が同等であり、かつ剛性が異なる隣接し合うゴム同士は、互いのオイル、加硫促進剤、硫黄の配合量を適宜コントロールして、破壊強度の極小値および剛性の極小値が生じないようにし、これにより破壊特性および接着性の改善を図ることが可能となる。
【0019】
本発明において用いられるゴム成分としては、天然ゴム、合成ゴムのいずれをも用いることができる。合成ゴムとしては特に制限されず、例えば、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)等が挙げられ、用途に応じて適宜選択することができる。
【0020】
また、本発明のゴム部材は、架橋剤を加えてこれを加熱することにより加硫物とする。この場合、架橋剤としては、有機過酸化物、硫黄、有機硫黄化合物などの通常ゴム組成物の架橋に使用できるものであればいずれも使用することができる。硫黄、有機硫黄化合物を架橋剤として用いる場合、通常ゴム業界で用いられる加硫促進剤を適宜用いることができる。さらに、上記各成分の他にも、ゴム業界で一般に用いられるカーボンブラック等の充填材、無機充填剤、老化防止剤、加硫助剤など、各種成分を適宜配合することができる。
【0021】
本発明のゴム部材用のゴム組成物は、ロールなどの開放式混練機、バンバリーミキサーなどの密閉式混練機等の混練機を用いて混練することによって得られ、成形加工後に加硫ゴムとすることにより、タイヤに好適に使用することができる。タイヤとしては、特には航空機用タイヤに好適に適用することができる、さらに特には、ラジアルタイヤの、繊維コードよりなるトレッド保護層間を前記ゴム同士が好適に構成することができる。ただし、かかるトレッド保護層としては、スチールコードとの複合部材(硫黄多量配合系)ではなく、有機繊維コード等との複合部材である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
実施例1〜3
ゴム組成物を下記の表1に示す割合で配合処方(質量部)し、常法に従い、実施例および比較例において夫々ゴム1およびゴム2の2種類のゴム組成物を調製した。なお、表中の数値は質量部である。
【0023】
次いで、ゴム1およびゴム2を接合させたゴム組成物を145℃で24分間加圧加硫することにより、加硫ゴムサンプルを作製し、各加硫ゴムサンプルに対して下記の方法でゴム1とゴム2の界面近傍の破壊特性(Tb)および剛性(マイクロハードネス)を測定した。また、供試加硫サンプルゴムに対し、下記の方法で接着性を評価した。
(破壊特性の評価方法)
JIS K6301により、ゴム1とゴム2の界面近傍を0.5mmの間隔で破壊強度(Tb)を測定した。
(マイクロハードネスの評価方法)
JIS K 6253−1993に従うデュロメータ硬さ試験・タイプA試験機を用い、ゴム1とゴム2の界面近傍を0.01mmの間隔で試験温度25℃にて測定した。
得られた結果を下記の表1並びに図1および図2のグラフに示す。
(接着性)
ストログラフを用いてピーリングテストを行った。試験装置は東洋精機(株)のストログラフAR−1を用い、試験条件としてはJIS−K−6256に準拠した条件にて行った。比較例を100として指数にて表示し、数値が大きいほど良好である。
【0024】
【表1】

*1)ISAF,東海カーボン(株)製, シースト3H
*2)1,3−ジフェニルグアニジン, 大内新興化学工業製「ノクセラーD」
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例および比較例の、ゴム1およびゴム2の界面近傍の距離とマイクロハードネスとの関係を示すグラフである。
【図2】実施例および比較例の、ゴム1およびゴム2の界面近傍の距離と破壊強度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材において、前記界面から3mm以内に破壊強度の極小値が実質的に存在しないことを特徴とするゴム部材。
【請求項2】
前記ゴム同士のうち、剛性が低い方のゴム側に破壊強度の極小値が実質的に存在しない請求項1記載のゴム部材。
【請求項3】
破壊強度が同等であり、かつ、剛性が異なるゴム同士が隣接し界面が存在するゴム部材において、前記界面から3mm以内にゴム剛性の極小値が実質的に存在しないことを特徴とするゴム部材。
【請求項4】
前記ゴム同士のうち、剛性が低い方のゴム側にゴム剛性の極小値が実質的に存在しない請求項3記載のゴム部材。
【請求項5】
タイヤに適用される請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム部材。
【請求項6】
前記タイヤが航空機用タイヤである請求項5記載のゴム部材。
【請求項7】
前記タイヤがラジアルタイヤであり、繊維コードよりなるトレッド保護層間を前記ゴム同士が構成する請求項6記載のゴム部材。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか一項記載のゴム部材を用いたことを特徴とするタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−189777(P2008−189777A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24710(P2007−24710)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】