サイトカインシグナリング
本発明は、ミエリン疾患の治療のために、CXC―ケモカインを介したシグナリングを標的とする組成物および方法に関する。本発明は、CXCケモカインシグナリングを調節するために有効な量の生物活性剤を投与するステップ含む、対象の神経障害の治療を目的とする方法を提供する。本方法は、中枢神経系(CNS)の免疫浸潤を減少させ神経細胞の移動、増殖、および/または分化を増強しうる。いくつかの実施形態においては、神経障害は、多発性硬化症を含むがこれに限られない、脱髄状態である。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(相互参照)
本願は、2006年9月26日に出願された米国仮特許出願第60/847,656号に対する優先権を主張する。米国仮特許出願第60/847,656号は、その全体が参考として本明細書中に援用される。
(政府の支援による研究に関する声明)
本発明は、National Institute of the Healthによる、Grant番号NS36674、NS47928、およびNS32151の下で、米国合衆国政府の支援によりなされた。
(発明の背景)
多発性硬化症(MS)は、再発寛解型から慢性進行型の発現パターンまで様々な臨床症状を伴う、中枢神経系(CNS)の脱髄疾患である。MSの原因は不明であるが、自己反応性CD4+T細胞反応が、ミエリンおよびオリゴデンドロサイトに対する炎症性損傷を媒介すると認められる。(Bruck等、J.Neurol.Sci.206:181―185(2003))。CNS病変は、ミエリン損傷の病巣領域を有し、軸索障害、神経細胞損傷およびアストログリア瘢痕形成とも関連する。(Compston等、Lancet.359:1221―1231(2002))。臨床症状には、失明、麻痺、感覚障害、ならびに協調および認知障害をはじめとする、様々な神経学的機能不全が含まれる。
【0002】
さらに、ミエリンへの障害または損傷は、伝導速度および神経細胞の軸索崩壊に対する脆弱性に重大な影響を有する。さらに、軸索消失と進行性の臨床的障害の間には相関関係があり、軸索の完全性の維持には完全なミエリンが重要である。(Dubois―Dalcq等、Neuron.48,9―12(2005))。ヒトMSの初期には、自発的再ミエリン化が生じうるが、病気の後期段階における持続的なCNS炎症およびミエリン修復の失敗により、最終的には永久的衰弱がもたらされる。再ミエリン化失敗の理由の一部には、1)オリゴデンドロサイトの生存不足、2)オリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖不足、3)前駆細胞の病変部位への移動不能、および/または4)前駆細胞の、成熟ミエリン形成細胞への分化不能または露出軸索髄鞘化不能が含まれうる(Franklin,Nat.Rev.Neurosci.3:705―714(2002))。
【0003】
成人オリゴデンドロサイト前駆細胞は、再ミエリン化を担うと一般に考えられ、したがって再ミエリン化の失敗は、ミエリン形成不能につながる、成熟オリゴデンドロサイト生成の不足と少なくとも部分的に関連する。ミエリン形成は、オリゴデンドロサイトおよびその前駆細胞を特に局在化するものを含む、複数のシグナルの調整に依存する(Tsai等、Cell 110:373−383(2002);Tsai等、J.Neurosci.26:1913―s1922(2006))。例えば、脊髄オリゴデンドロサイトの正常な成長(Tsai等、J.Neurosci.26:1913―1922(2006))、適切な細胞数の制御(Barres等、Cell 70:31―46(1992);Calver等、Neuron 20:869―882(1998))、およびオリゴデンドロサイトとその標的軸索の間の相互作用の媒介のために、Netrin―1が必要とされる。(ShermanおよびBrophy、Nat.Rev.Neurosci.6:683―690(2005))。オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)は、たくさんの樹枝状分枝を有し、成人CNSに遍在的に見られる(BaumannおよびPham―Dinh、Physiol.Rev.81:871―927(2001))。さらに、OPCsは、抗原マーカーNG2およびPDGFRαの発現によりin vivoで、A2B5発現によりin vitroで特徴づけされうる。軸索萎縮が、臨床的結果の低下と強く相関することが、証拠から示唆される(例えば、軸索生存に対する脱髄の効果)。
【0004】
MSにおける障害を改善するために、再ミエリン化が、軸索伝導を回復し、露出軸索に生じうるさらなる軸索障害を防ごうとする。
【0005】
増殖により、成長する軸索をミエリン化するために十分な細胞が提供されうる(BaumannおよびPham―Dinh、Physiol.Rev.81:871―927(2001))。さらに、白質の再ミエリン化されたエリアには、脱髄されていない白質よりもオリゴデンドロサイトの数が多く(Franklin.Nat.Rev.Neurosci.3:705―714(2002))、有効な再ミエリン化プロセスのために細胞動員が必要であることを示している。OPCsは、イオンチャネルおよび神経伝達物質レセプターを発現するという事実だけでなく、アストロサイトおよびミクログリアと形態が類似するにもかかわらず、成人CNSにおける前駆細胞であると考えられるが、これらの細胞は、アストロサイトとは異なる機能および抗原特性を有することが示されている(Nishiyama等、J.Neurocytol.31:437―455(2002))。さらに、OPCsは、ミクログリアおよび神経細胞とは異なるようにみえる(Nishiyama等、Hum.Cell 14:77―82(2001))。OPCsは、移動の増加と、正常および損傷CNSの両方における広範な移動後のオリゴデンドロサイトへの分化とによって、傷害に迅速に反応する能力を有する(BaumannおよびPham―Dinh、Physiol.Rev.81:871―927(2001);PolitoおよびReynolds、J.Anat.207:707―716(2005))。
【0006】
OPCsは、ケモカインレセプターCXCR2を発現する一方、そのリガンドのCXCL1は、アストロサイト、ミクログリアおよび神経細胞のサブセットにより生産される。MSプラークにおける再増殖および再ミエリン化は、成人OPCsに通常依存し、CXCR2のシグナリングが、OPC増殖および移動を調節しうる(Robinson等、Neurosurgery 48:864―874(2001);Robinson等、J.Neurosci.18:10457―10463(1998);Tsai等、Cell 110:373―383(2002);Wu等、J.Neurosci.20:2609―2617(2000))。
【0007】
ケモカインまたは走化性因子サイトカインは、白血球の活性化因子および走化性因子として典型的に機能し(Coughlan等、Neuroscience 97:591―600(2000);RansohoffおよびTani、Trends Neurosci.21:154―159(1998))、血管形成(Ueda等、Cancer Res.66:5346―5353(2006))、癒傷(Devalaraja等、J.Invest.Dermatol.115:234―244(2000))、および腫瘍化(Loukinova等、Int.J.Cancer 94):637―644(2001);Robinson等、Neurosurgery 48:864―734(2001))を調節できる、分子量の小さい(約8―10KDa)誘導可能な分泌分子のファミリーを含む(HesselgesserおよびHoruk、J.Neurovirol.5:13―26(1999))。ケモカインの機能の知識のほとんどは、その免疫調整および炎症の制御との関連により、免疫系の研究から得られる。多くの他の生物系に関わる役割が、徐々に解明されている。
【0008】
ケモカインは、アミノ末端に保存されたシステイン残基の数にしたがって、四つのサブファミリーに典型的に分類される(Nomiyama等、Genes Immun.2:110−113(2001))。ほとんどのケモカインは、四つのシステイン残基を伴う二つの主要なサブファミリーにあてはまる。これらのサブファミリーは、二つのアミノ末端のシステイン残基の間のアミノ酸の有無にしたがって典型的に分類され、そのためCCおよびCXCケモカインと呼ばれる(HesselgesserおよびHoruk、J.Neurovirol.5:13―26(1999))。高等脊椎動物に典型的に限定されるCXCケモカインは、第一システイン残基に隣接したアミノ末端上のグルタミン酸―リシン―アルギニン(ELR)モチーフの有無に従って、さらに分類されるのが通常である。以前にGro―αとして知られたCXCL1は、好ましいレセプターがCXCR2である、CXCケモカインのELRファミリーのメンバーである(Wang等、Biochemistry 42:1071―1077(2003))。
【0009】
CXCR2等のケモカインレセプターは、百日咳毒素(PTX)感受性のGiタンパク質に典型的に連結されたGタンパク質共役レセプター(GPCRs)である(Bajetto等、Front Neuroendocrinol.22:147―184(2001))。CXCRのN末端ドメインが、リガンド結合特異性を決定するために重要であると考えられる。CXCR2は、CXCケモカインのELR陽性ファミリーの可溶性の分泌走化性サイトカインであるCXCL1を結合し、それらの相互作用が、増殖、分化、および移動等のプロセスを調節する細胞内シグナルを活性化する(Bajetto等、Front Neuroendocrinol.22:147―184(2001));Miller,Prog.Neurobiol.67:451―467(2002);Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。アクチン依存性細胞プロセスおよび接着分子発現の調整により、移動に変化が生じると考えられる(Ransohoff,J.Neuroimmunol.98:57―68(1999))。CXCR2は、血管系におけるリガンドの結合時に、一部の白血球の表面上の接着分子の発現を調節して、回転、接着、停止、および組織浸潤のための血管外漏出を許容する(Smith等、Am J Physiol Heart Circ Physiol 289:H1976―84(2005))。これは、ケモカインレセプターCXCR2を発現する単球および好中球において一般に観察される。組織に入ったこれらの細胞は、典型的には走化により、ケモカインによって炎症部位へとさらに誘導される。
【0010】
各ケモカインレセプターは、通常は単一クラスのケモカインを結合するが、同じクラスのいくつかのメンバーを高親和性で結合しうる(Horuk,Cytokine Growth Factor Rev.12:313―335(2001);Horuk等、J.Immunol.158:2882―2890(1997))。さらに、一つのケモカインが、いくつかの異なるケモカインレセプターを結合できる(Horuk,Cytokine Growth Factor Rev.12:313―335(2001))。例えばCXCR2は、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL6、CXCL7、およびCXCL8を結合できる(MillerおよびMeucci、Trends Neurosci.22:471―479(1999))。
【0011】
CXCケモカインおよびそのレセプターは、脊椎動物のCNSに発現されることが現在知られている(TranおよびMiller、Nat.Rev.Neurosci.4:444―455(2003))。ケモカインおよびケモカインレセプターは、白血球および他の免疫系の細胞の活性化因子および走化性因子として、最初に特徴付けされた。(FernandezおよびLolis、Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.42:469―499(2002))。例えば、CXCL1ケモカインレセプターのCXCR2は、神経細胞(ChoおよびMiller、J.Neurovirol.8:573―84(2002);Coughlan等、Neuroscience 97:591―600(2000))、アストロサイト(Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003))、ミクログリア、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)(NguyenおよびStangel、Dev.Brain Res.128:77―81(2001))のサブセットに発現される。
【0012】
CNSでは、神経細胞(Bajetto等、2001);アストロサイト(Filipovic等、Dev.Neurosci.25:279―290(2003);Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003);)、オリゴデンドロサイト(Filipovic等、Dev.Neurosci.25:279―290(2003);Kadi等、J.Neuroimmunol.174:133―146(2006);Tsai等、Cell 110:373−383(2002);Wu等、J.Neurosci.20:2609―2617(2000))、およびミクログリア(Filipovic等、Dev.Neurosci.25:279―290(2003);Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003);)において、生理学的条件下で、機能的ケモカインレセプターの発現が示されている。ケモカインシグナリングは、免疫系およびCNSの両方において、成長過程および病変後の細胞の移動、増殖、分化、および活性化を制御できる(非特許文献1)。しかし、CXCケモカインファミリーの祖先の系統発生学的役割は、免疫系ではなく神経系に存在することが報告されている(非特許文献2)。
【0013】
さらに、CNSにおける通常の成長過程および病変プロセスにおける、いくつかのケモカインおよびCXCR2(CXCL1―3、5―8を結合)等のそのレセプターの役割が、より広く研究されはじめている(Coughlan等、Neuroscience 97:591―600(2000)Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003);Omari等、Glia 53(1):24―31(2005))、CXCR3(CXCL9―11を結合)(Coughlan等、Neuroscience 97:591―600(2000);Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003);Omari等、Brain 128))、CCR3(CCL5,7,8,11,13,15,24,26,28を結合)(Coughlan等、Neuroscience 97:591―600(2000);Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003);XiaおよびHyman,J.Neurovirol.5:32―41(1999))およびCXCR4(CXCL12を結合)(Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003)Lieberam等、Neuron 47:667―679(2005))。例えば、アストロサイトおよびミクログリアは、CXCR3を発現する(MillerおよびMeucci、Trends Neurosci.22:471―479(1999))。CXCR3のリガンド、CXCL9およびCXCL10(MillerおよびMeucci、Trends Neurosci.22:471―479(1999))が、脳損傷後にアップレギュレートされ、これらの細胞の走化を誘導する(Biber等、Neuroscience112:487―497(2002))。CXCR4シグナリングは、網膜成長円錐誘導 (Chalasani等、J.Neurosci.23:1360―1371(2003))、哺乳類の運動軸索経路探索(Lieberam等、Neuron 47:667―679(2005))、感覚神経前駆細胞の移動(Belmadani等、J.Neurosci.25:3995―4003(2005))、および四肢神経支配(Odemis等、Mol.Cell Neurosci.30:494―505(2005))に重要である。CXCR4のリガンドSDF―1/CXCL12による活性化は、神経前駆細胞をCNS内の損傷部位に誘導しうる(非特許文献3)。これらの神経前駆細胞は、神経細胞、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイトを生み出しうる(非特許文献4)。
【0014】
さらに、MSにおける脱髄領域周辺のアストロサイトおよび血管において、CXCL12がアップレギュレートされ、血液脳関門を通る免疫細胞浸潤を調節する役割をはたしうる(非特許文献5)。CXCR2は、脳および脊髄の投射神経細胞に発現され(Horuk等、J.Immunol.158:2882―2890(1997))、その活性化が、海馬神経細胞の生存を高めることが示されている。アルツハイマー病においては、アミロイドβ前駆体タンパク質と共存して老人斑周辺にも発現され(XiaおよびHyman、J.Neurovirol.5:32―41(1999))、ラットの実験的な閉鎖性頭部外傷の後には、その発現が、そのリガンドCXCL1の発現とともにアップレギュレートされる(Valles等、Neurobiol.Dis.22:312―322(2006))。最後に、CXCL1は、CNSの発達中に、オリゴデンドロサイトの反応を調節することが示されている(Robinson等、J.Neurosci.18:10457―10463(1998);Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。神経系発達および病変におけるケモカインの役割は広く研究されているが、免疫系におけるそれらの役割と比較して、今も比較的ほとんど知られていないため、研究が必要である。
【0015】
OPCsは、ケモカインレセプターCXCR2を発現し、したがってCXCL1に結合および応答しうる。マウスの初期生後発達の間には、CXCL1が、PDGF誘導性の増殖を増強し、OPCsの移動を減少させうる(Robinson等、J.Neurosci.18:10457―10463(1998);Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。アストロサイトで分泌されたCXCL1に応答したCXCR2シグナリングが、OPCsを予定白質に配置するのを助ける。それは、PDGFに対する応答も局所的に調節し、成長する軸索を良好にミエリン化するために適切なオリゴデンドロサイトの数が達成されるように、OPCsの増殖反応を強める(Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。
【0016】
CNSおよび末梢神経系に関して多くの研究がなされているにもかかわらず、脱髄を含む神経障害の治療法を開発する必要が少なからず残る。本発明は、ケモカインを介したシグナリングを標的とすることにより、神経障害を治療するための方法を目的とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Kadi等、J.Neuroimmunol.174:133―146(2006)
【非特許文献2】Huising等、Trends Immunol.24:307―313(2003)
【非特許文献3】Imitola等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:18117―18122(2004)
【非特許文献4】Ni等、Dev.Brain Res.152:159―169(2004)
【非特許文献5】Krumbholz等、Brain 129:200―211(2006)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、CXCケモカインシグナリングを調節するために有効な量の生物活性剤を投与するステップ含む、対象の神経障害の治療を目的とする方法を提供する。本方法は、中枢神経系(CNS)の免疫浸潤を減少させ神経細胞の移動、増殖、および/または分化を増強しうる。
【0019】
本発明の一態様においては、本発明は、細胞ベースのアッセイにおいて確認した場合に、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する生物活性剤を治療上有効な量、必要な対象に投与するステップを含む、神経障害を改善する方法を提供する。いくつかの実施形態においては、神経障害は、多発性硬化症を含むがこれに限られない、脱髄状態である。
【0020】
さらに別の態様においては、本発明は、グリア細胞を、グリア細胞におけるCXCRを介したシグナリングを阻害する生物活性剤に接触させるステップを含む、グリア細胞移動を促進する方法であり、当該移動が、生物活性剤と接触させないグリア細胞と比較して増加する、方法を提供する。脱髄病変がみられる対象に生物活性剤を投与するステップを含む、再ミエリン化を促進する方法であり、生物活性剤が、CXCRを介したシグナリングによるグリオーシスを抑制するのに有効であり、これにより対象における再ミエリン化を促進する、方法が、さらに提供される。いくつかの実施形態においては、CXCRを介したシグナリングは、CXCR1および/またはCXCR2を介したものである。
【0021】
本発明においては、細胞ベースのアッセイにおいて確認した場合に、グリア細胞を、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する生物活性剤に接触させるステップを含む、グリア細胞の増殖および/または分化を促進する方法であり、増殖および/または分化が、生物活性剤と接触させないグリア細胞と比較して増加する、方法も提供される。別の態様では、本発明は、細胞ベースのアッセイにおいて確認した場合に、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する生物活性剤を治療上有効な量、必要な対象に投与するステップを含む、グリオーシスを改善する方法を提供する。いくつかの実施形態においては、他のCXCレセプターは、CXCR3またはCXCR4である。
【0022】
本発明の別の態様では、生物活性剤は、CXCR1および/またはCXCR2に直接結合する。いくつかの実施形態においては、生物活性剤は、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL7、またはCXCL8を不活性化する。さらに他の実施形態においては、生物活性剤は、CXCR1および/またはCXCR2の活性を低下させる。
【0023】
いくつかの実施形態においては、生物活性剤には、ペプチド、ポリペプチド、抗体、アンチセンス分子、siRNA、低分子またはペプチドミメティックが含まれるがこれに限定されない。様々な実施形態において、生物活性剤は、図10A、10B、10Cおよび11の化合物の群より選択される。
【0024】
さらに別の態様においては、生物活性剤は、GFAP、ビメンチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、デルマタン硫酸プロテオグリカン(DSPG)、ケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)、またはコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の発現を低下させうる。
【0025】
さらに、本発明のグリア細胞は、オリゴデンドロサイト、オリゴデンドロサイト前駆細胞、シュワン、アストロサイト、ミクログリアおよびこれらの組み合わせからなる群より選択されうる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+マウスにおけるオリゴデンドロサイト系統細胞密度の領域差:(A)WTの性別をマッチさせた同腹仔と比較すると、Cxcr2−/−マウス全体が、CNSにおけるPLP/DM20―EGFP発現強度の低下を示す。この強度低下は、CNSの領域間で異なったオリゴデンドロサイト系統細胞の数の減少と相関がなかった。(B,C)皮質および前交連の、EGFP+細胞密度が低下した一方で、脊髄および脳梁は、増加したEGFP+細胞密度を含んだ。海馬(HC)または小脳(CB)においては、有意差は認められなかった。(D)WT(上)およびCxcr2−/−(下)の脊髄の後索、脳梁、および前交連からの、PLP/DM20―EGFP+細胞のマッチング画像。Cxcr2−/−の脊髄後索におけるEGFP+細胞の数が多く、前交連における数が少ないことに留意せよ。データは、少なくとも3匹のCxcr2−/−および3匹のCxcr2+/+成体マウス(≧6週)からの、平均値+/−2*SEMとしてプロットされる。一元配置ANOVAによりp値が決定された。*=p<0.05、**=p<0.01、および***=p<0.001。目盛尺=Aでは1mm、Dでは100μm。
【図2】Cxcr2−/−マウスにおけるNG2+細胞の密度および突起樹枝状分枝の増加:(A)Cxcr2−/−マウスの脊髄は、WTよりも軟膜表面に集中した、NG2+細胞の数が増加している。(B)Cxcr2−/−動物におけるNG2+細胞は、WTマウスよりも強いNG2の発現を伴う、より多くの突起を有する。(C)Cxcr2−/−の脊髄は、NG2+細胞の密度が平均22%増加している。データは、少なくとも3匹のCxcr2−/−および3匹のCxcr2+/+成体マウス(≧6週)からの平均値+/−SDとしてプロットされる。一元配置ANOVAにより、p値が決定された。*=p<0.05。目盛尺=Aでは250μm、Bでは50μm。
【図3】BALB/cおよびBALB/c:C57BL/6Cxcr2−/−マウスにおける、増殖の減少および系統関連表現型の変化:(A)混合BALB/c:C57BL/6背景のCxcr2−/−マウスは、WT同腹仔と比較して、成長低下を示した。それらには、特定の顔の特徴もみられ、顔が丸く、鼻が短くなった。(B)成長低下は、BALB/cCxcr2−/−マウスにおいても認められたが、その程度はずっと小さかった。(C)Cxcr2−/−マウスからの脳は、WTの性別をマッチさせた同腹コントロールより小さかった(混合背景のマウスからの脳が、図示される)。この減少は、体全体の大きさの減少と比例していた。体重データは、(A)出生時から異なる年齢の範囲に分類された60匹のCxcr2−/−および57匹のCxcr2+/+マウス、および(B)各背景の各遺伝子型からの約12匹の成体(≧6週)からの、平均値+/−SDとしてプロットされる。一元配置ANOVAにより、p値が決定された。*=p<0.05および***=p<0.001;NS=有意でない。
【図4】Cxcr2−/−マウスの脊髄における持続的な白質減少:(A,B)全脊髄面積に対する白質の相対的面積の比較により、Cxcr2−/−マウスにおける白質面積の減少が示される。Aの挿入図は、p7Cxcr2−/−およびWTマウスからの脊髄の半分の断面を示し、白質の減少が示される。(A)この差は、成長中に減少するが、成体期(≧6週)においてなお有意である。(B)Cxcr2−/−マウスの白質面積に全体的に平均14%の減少が認められた。個々の年齢のデータが、平均値+/−SDとしてプロットされ、累積的データが、平均値+/−2*SEMとしてプロットされる。収集されたデータは、10匹のCxcr2−/−および10匹のCxcr2+/+マウスからのものである。一元配置ANOVAにより、p値が決定された。*=p<0.05、**=p<0.01、および***=p<0.001。目盛尺=100μm。
【図5】Cxcr2−/−マウスの脊髄における持続的なミエリン形成不全:(A―E)WT(A,D)およびCxcr2−/−(B,C,E)マウスからの同様の大きさの軸索の電子顕微鏡写真は、Cxcr2−/−マウスにおいて、全ての大きさの軸索周辺でミエリン厚が減少していることを示す。(F)差を定量化し、その有意性を決定するために、様々な年齢の、マッチするCxcr2−/−およびWTの性別をマッチさせた同腹マウスの脊髄から、150〜350のランダムな軸索を測定し、それらの軸索周囲長に対するミエリン厚の比を計算した。結果は、平均値+/−2*SEMとしてプロットされる。一元配置ANOVAにより、p値が決定された。*=p<0.05、**=p<0.01および***=p<0.001。A〜Eにおける目盛尺=200nm。
【図6】Cxcr2−/−マウスにおける中枢神経伝導速度の減少:BALB/c:C57BL/6および純粋なBALB/c背景の両方の、生後2〜4ヵ月のCxcr2−/−およびCxcr2+/+マウスの腰髄を、皮下電極で刺激し、脊髄誘発電位の記録を吻側で作製した。Cxcr2−/−において、遺伝的背景に関わらず伝導速度の有意な減少が認められ、これらの変化が成長表現型と関係ないことが示された。結果は、平均値+/−SDとしてプロットされ、一元配置ANOVAによりp値が決定された。*=p<0.05および***=p<0.001。
【図7】Cxcr2−/−マウスにおける正常なミエリン圧密化および周期性、および傍絞輪部および絞輪部の構造:(A)Cxcr2−/−マウスからのミエリンは、薄いが正常な圧密化および周期性を有した。ボックスは、下のWTの画像の上に、同様の大きさの軸索からのCxcr2−/−のミエリンを重ね合せたものを表わす。(B)Cxcr2−/−マウスでは、傍絞輪部ループおよび横帯がよく発達して配向され、(C) ランビエ絞輪および傍絞輪領域の構造には、顕著な差は明らかでなかった。A〜Cにおける目盛尺=200nm。
【図8】CNS軸索を髄鞘化するオリゴデンドロサイトの概略図を示す。
【図9】Cxcr2−/−脊髄から得た混合培養における、オリゴデンドロサイト成熟不全:p8Cxcr2−/−およびWT同腹仔からの混合脊髄培養が作製され、(A―B)プレオリゴデンドロサイトのマーカーO4、および(C―D)新たに分化したオリゴデンドロサイトのマーカーO1で、プレーティングの48時間後に染色された。Cxcr2−/−およびWTマウスからの培養において、細胞の総数に対する陽染細胞の数を定量化すると、Cxcr2−/−培養は、O1+細胞の生成に有意な減少(〜60%)がみられた(F)。しかし、O4+細胞の生成には、Cxcr2−/−およびWTマウスの間で有意差がなかった(E)。結果は、平均値+/−SDとしてプロットされる。一元配置分散分析により、p値が決定された。*=p<0.05。目盛尺=50μm。
【図10A】様々なCXCR1/CXCR2アンタゴニストを示す。
【図10B】様々なCXCR1/CXCR2アンタゴニストを示す。
【図10C】様々なCXCR1/CXCR2アロステリック阻害剤を示す。
【図11】repertaxin(R(―)―2―(4―イソブチルフェニル)プロピオニルメタンスルホンアミド)の構造式を示す。図のように、repertaxinは、L―リシンにより塩化される。
【図12】Cxcr2−/−マウスのCNSにおける、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、およびグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)の発現低下:(A)生後2〜4週間目のCxcr2−/−マウスからの脳のウェスタンブロットで、性別または年齢にかかわらず、MBPの発現低下がみられた。4週間目のCxcr2−/−マウスにおいて、PLPの発現も低下し、ミエリン形成不全と整合した。4週間目のCxcr2−/−マウスからのウェスタンブロットにおいて、GFAPの検出も同様に減少した。Cxcr2+/−およびCxcr2+/+マウスの間で、これらのタンパク質のレベルの差は明らかでなかった。(B,C)Cxcr2+/+:PLP/DM20―EGFP+およびCxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+マウスの脊髄(B)および脳(C)の免疫組織化学法を用いて、ウェスタンブロットにより観察されたGFAPの減少を確認した。β―アクチンが、全てのウェスタンブロットにおいてタンパク質負荷のマーカーとして使用された。スケールバー=100μm。
【図13】CXCR2阻害が毒素誘発性脱髄の後のオリゴデンドロサイト生存を誘導すると思われる:Cxcr2+/+およびCxcr2−/−の性別をマッチさせた同腹仔の間で、クプリゾン処置の前(A―A”およびB―B”)および4週後に(C―C”およびD―D”)MBPおよびPLPの発現が比較される。PLPプロモータ誘導性のEGFPの発現が、これらのマウスにおいて、オリゴデンドロサイト系統の細胞のマーカーとして使用された。非処置群においては、Cxcr2−/−マウスは、Cxcr2+/+同腹仔(A’>B)と比較して、PLP発現が低下していた(B’<A’)。4週間のクプリゾン曝露後、Cxcr2−/−マウスには、PLP発現の変化はみられなかった(B’=D’)が、Cxcr2+/+マウスには、PLP発現の劇的な減少がみられた(A’>>>C’)。脳梁の細胞充実度も(ドットのエリアを指す矢印)、Cxcr2+/+マウスにおいては、処置前のレベル(C”<A”)および4週間のクプリゾン処置後のCxcr2−/−の性別をマッチさせた同腹仔(C”<D)のレベルと比較して、激減した。これは、野生型マウスにおいてはオリゴデンドロサイトが消失し、Cxcr2−/−マウスにおいては、オリゴデンドロサイトが細胞死から保護され、または生存が増強されることを示す。
【図14】4週間のクプリゾン処置後の、Cxcr2−/−ではなく、Cxcr2+/+マウスの脳梁における脱髄:クプリゾン処置の開始4週間後の、性別をマッチさせたCxcr2+/+およびCxcr2−/−同腹マウスの、脳のマッチするエリアのMBP免疫組織化学法では、Cxcr2+/+にミエリン消失のエリアが見られた(A、矢印))が、Cxcr2−/−マウスには見られなかった(B)。カラムA―A”’の矢印によって示されるように、Cxcr2+/+マウスの脳のMBP染色がないエリア(A)は、PLP発現低下(A’)および細胞充実性低下(A”)のエリアと相関した。これらの変化は、Cxcr2−/−マウスには見られなかった(B―B”)。
【図15】クプリゾン処置の7週後の、Cxcr2+/+マウスと比較したときの、Cxcr2−/−マウスの脳梁における病変量の減少:Cxcr2+/+マウスの脳梁における、MBPおよびPLPの両方の発現の欠如により、広範なミエリン崩壊のエリア(矢印)が観察できるが(A―A”、C―C”)、Cxcr2−/−の性別をマッチさせた同腹仔には観察できない(B―B”)。Cxcr2+/+マウスからの組織のMBP染色では、非常に低レベルのMBPを発現する一定のエリア(ドット、C)が、高密度のPLP―EGFP+細胞(ドット、C’)と相関し、これらの細胞が、脱髄病巣(ドット、C”)の再ミエリン化を試みていると考えられることが示唆された。
【図16】クプリゾン処置の4週後の、Cxcr2−/−ではなく、Cxcr2+/+マウスの脳梁におけるアストログリオーシス:Cxcr2−/−およびCxcr2+/+マウスからのCNS組織の分析から、Cxcr2−/−マウスにおけるGFAPの発現低下(B<A)が以前に明らかになり、CXCR2がアストロサイトの生理機能を調節しうることが示されている。この観察と整合して、Cxcr2+/+マウス(C)において有意なGFAPアップレギュレーションが観察される時点である、4週間クプリゾンに曝露した後に、Cxcr2−/−にGFAPのアップレギュレーションは認められなかった(D)。この差は、脳梁内で、最も顕著だった(ドットのエリア)。
【図17】クプリゾン処置の6週後の、Cxcr2−/−ではなく、Cxcr2+/+マウスの脳におけるアストログリオーシス:クプリゾン処置の6週目に、Cxcr2+/+マウスの脳梁に(ドットのエリア)顕著なアストログリオーシスがなお見られる(B)という事実にも関わらず、Cxcr2−/−組織のGFAP染色(A,C)は、処置前のレベルから区別がつかない。処置の6週目のCxcr2+/+マウスにおけるGFAP発現の増強(B)は、PLP発現低下(B’)と相関する一方、Cxcr2−/−マウスにおいては、これらのパラメータの変化は一切見られなかった(A―A’、C―C’)。6週目のCxcr2+/+マウスにおける脳梁の細胞充実性(B”、円)は、処置前より高く、GFAP発現増加(B、B”、円)およびPLP発現低下(B’、円)と相関し、オリゴデンドロサイトが常在していた病変部へのアストロサイトの浸潤が示された。
【図18】Cxcr2−/−マウスにおける、クプリゾン処置に対するミクログリアの反応の変化:非損傷Cxcr2−/−マウスは、Cxcr2+/+同腹コントロール(A)と比較すると、IBA―1発現が増加していた(B)。4および7週間のケモカイン処置は、Cxcr2+/+マウスにおいて、これらのIBA―1陽性ミクログリアの有意な活性化を誘導した(それぞれC、E)。Cxcr2−/−マウスにおいては、4週目にはミクログリア活性化は観察されず、処置の7週目ではわずかだった(それぞれD、F)。7週目までに、Cxcr2+/+マウスの脳梁内のIBA―1+細胞の密度は(E)、極めて高かったが、Cxcr2−/−マウスでは正常に近かった(F)。
【図19】Cxcr2+/+およびCxcr2−/−マウスにおける、クプリゾン処置に反応したIBA―1+細胞の数および形の変化:Cxcr2+/+およびCxcr2−/−マウスのクプリゾン処置の後にIBA―1+細胞に観察される差は、これらの細胞の数および活性化状態または構造の両方によるものと思われる。Cxcr2+/+マウスからのIBA―1+細胞(A,C)は、Cxcr2−/−マウスからのものより、概して太く、密度が高いように見受けられた。Cxcr2−/−マウスにおけるIBA―1+細胞(B,D)は、外観が太いかわりに、静止または休眠ミクログリアに典型的な複数の長く細い分枝を有することにより特徴付けられた。
【図20】末梢神経系シュワン細胞のCXCR2の発現:Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+およびCxcr2+/+:PLP/DM20―EGFP+マウスから得た座骨神経のCXCR2の免疫組織化学法では、PLP―EGFP+シュワン細胞のサブセットにCXCR2の発現が見られた。
【図21】Cxcr2−/−マウスにおける座骨神経軸索のミエリン形成不全:Cxcr2−/−マウスは、CNSに観察されるものに加えて、末梢神経系(PNS)にミエリン形成不全を有するように見受けられた。Cxcr2+/+およびCxcr2−/−マウスの座骨神経からの同様の大きさの軸索の電子顕微鏡写真が示される。ミエリンの厚みが、全てのサイズの軸索周辺で減少するが、大きな軸索周辺で多く減少するように見受けられる。差を定量化し、それらの有意性を決定するために、一匹のCxcr2−/−および二匹の野生型の性別をマッチさせた同腹マウスの座骨神経からの〜100のランダムな軸索を測定し、軸索周囲長に対するミエリン厚の比を計算した。結果は、平均値+/−2*SEMとしてプロットされる。p=0.0003。
【図22】Cxcr2−/−マウスにおける、神経インパルス伝導の低下への、末梢神経系の寄与の可能性:Cxcr2−/−動物は、WT同腹仔と比較すると、脊髄誘発電位および体感覚性誘発電位の中枢伝導の減失を示す。BALB/c:C57BL/6および純粋なBALB/c背景の両方の、生後2〜4ヵ月のCxcr2−/−およびCxcr2+/+マウスの、腰髄(CNS)または頸骨神経(PNS+CNS)を、皮下電極で刺激し、吻側で記録を作成した。Cxcr2−/−においては、遺伝的背景に関わらず、伝導速度の有意な減少(15〜30%)が認められ、これらの変化が混合背景のマウスに観察される成長表現型と関係がないことが示された。伝導速度減少のパーセントを、末梢要素を含む実験またはCNSに制限される実験の間で比較すると、末梢要素が、BALB/cマウスにおける伝導速度の減少に寄与している可能性があるように見受けられた。これは、図21に示されるミエリン形成不全と整合する。
【図23】脊髄におけるオリゴデンドロサイト前駆細胞の発生および分散:脊髄のオリゴデンドロサイトは、脳室帯(VZ)に生じ、局所的化学忌避および遠隔の化学誘引キューの組み合わせにより予定白質に移動し、そこで移動を止め、分裂促進シグナルに応答して増殖する(左)。増殖期が終わると、これらの細胞は、局所的な分化キューに応答し、最終的にミエリン形成オリゴデンドロサイトに成熟する(右)。(VZ=脳室帯;FP=底板、NTC=脊索)
【図24】オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト細胞系統:神経細胞およびタイプIアストロサイトと同様に最初に幹細胞から発生する、A2B5、NG2、および血小板由来成長因子レセプターα(PDGFRα)を発現するオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)は、in vitroでプレオリゴデンドロサイトに構成的に分化し、または骨形成医薬品4(BMP4)によりタイプIIアストロサイトを産出するように誘導される能力を典型的に有する。プレオリゴデンドロサイトは、分化時に通常、単クローン抗体(mAb)O4により同定されうるスルファチドを発現する。その後、典型的にガラクトセレブロシドを発現し、未熟オリゴデンドロサイトとして分類される。未熟オリゴデンドロサイトは、mAb O1でラベルでき、生存が特異的キュー/シグナルに典型的に依存し、その非存在下ではアポトーシスする。プログラム細胞死しない細胞は、さらに成熟しうる。未熟および非ミエリン形成およびミエリン形成成熟オリゴデンドロサイトは、典型的には、分裂促進因子PDGFにもはや応答しない。ミエリンを生産可能な最も成熟した形態は、通常ミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)等のミエリン特異的タンパク質を発現する。オリゴデンドロサイト系統の細胞は、成長の全段階で、DM20および/またはPLPを典型的に発現する。(BaumannおよびPham―Dinh、Physiol.Rev.81:871―927(2001);Miller,Prog.Neurobiol.67:451―467(2002);PolitoおよびReynolds、J.Anat.207:707―716(2005))
【図25】オリゴデンドロサイト、ミエリンおよび神経伝導:軸索に巻きつく、オリゴデンドロサイト細胞膜からの脂肪の絶縁体であるミエリンは、CNSにおける活動電位の迅速な伝達を助ける。無髄軸索(上)においては、活動電位が裸の軸索膜に沿って順に広がると同時に、連続的な脱分極波がある。有髄軸索(下)においては、エネルギーの流れは連続的ではなく、一つの絞輪から次へ「ジャンプ」し、そこに蓄積したナトリウムチャネルによって、活動電位が再び発生する。跳躍伝導と称されるプロセスにおいて脱分極が不連続になり、これにより神経インパルスの伝導が非有髄繊維よりも速くなる。(OD=オリゴデンドロサイト、N=神経細胞)
【図26】脱髄後のナトリウムチャネル再編成および伝導速度の変化:絞輪間の下の軸索膜は、活動電位を再生するために必須であるナトリウムチャネルの濃度が非常に低いため、脱髄軸索では伝導遮断が生じうる。この膜が露出すると、髄鞘のないエリアに活動電位が広がることができない。その後、適切な伝導を回復しようとする中で、髄鞘により覆われていた膜に、ナトリウムチャネルのアップレギュレーション(茶色のドット)が生じる。(OD=オリゴデンドロサイト)
【図27】多発性硬化症のタイプ:脱髄疾患の多発性硬化症は、寛解の有無および機能障害性の症状の蓄積にしたがって、様々なタイプに分類される。良性寛解型(BR)MS(約10%)においては、再発があるが、代償機構がベースライン機能を再発前のレベルに回復するのに十分であるように見受けられる。再発寛解型(RR)MS(約50%)においては、再発後の回復が完全でなく、ある程度の障害が残る。再発が何度も生じるにつれ症状が悪化し、障害が増加する。二次進行型(SP)MS(約30%)は、RRMSとして始まるが、ある時点で明白な寛解が生じず、患者の健康が悪化し続ける。一次進行型(PP)MS(約10%)においては、寛解はなく、機能障害性の症状が連続的に蓄積される。(JoyおよびJohnston、Editors.Multiple Sclerosis:Current Status and Strategies for the Future(2001))
【図28】Gタンパク質共役ケモカインレセプターCXCR2、そのリガンドおよびその機能:ケモカインレセプターCXCR2は、Gタンパク質共役レセプター(GPCR)ファミリーのメンバーである。CXCR2は、CXCケモカインのELR陽性ファミリーの可溶性分泌化学誘引サイトカインである、CXCL1を結合しうる。それらの相互作用は、増殖、分化、および移動等のプロセスを調節する細胞内シグナルを活性化する。GPCRsは、7つの膜貫通レセプターであり、それらの細胞内カルボキシ末端および細胞質ループは、三つのサブユニット(α、β、γ)で構成されるヘテロ三量体Gタンパク質複合体を結合する。活性化時には、αおよびβγ部分が分離し、二次メッセンジャーとして働く細胞内エフェクターをさらに活性化する。それらの標的のいくつかは、活性化がホスファチジルイノシトール(PI)産生および細胞内カルシウム増加をもたらすホスホリパーゼ―C(PLC)、および、生成物が走化中の極性移動のためにアクチン細胞骨格系を構築できるPI3キナーゼ(PI3K)である。ヘテロ三量体Gタンパク質複合体の活性化は、GPCRsの細胞質部分を結合し、ヘテロ三量体Gタンパク質複合体との相互作用を妨げる調節タンパク質である、アレスチンにより阻害されうる。アレスチン結合は、レセプターインターナリゼーションおよびリサイクリングも助け、これによりレセプターシグナリングを調節する。
【図29】オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)に対するCXCL1/CXCR2の効果:オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)は、化学忌避および化学誘引キューの組み合わせにより、予定の白質に導かれる。予定白質で、アストロサイトにより局所的に分泌されるケモカインCXCL1に出会うと考えられる。OPCsの表面上における、CXCL1のCXCR2への結合により、これらの細胞が移動を止め、マイトジェンPDGF(血小板由来成長因子)に反応しやすくなるように誘導される。適切な数のオリゴデンドロサイトが成長して、局所的に成長する軸索のミエリン需要を満たすことを確保するために、増殖が必要である。
【図30】ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)によるCxcr2遺伝子タイピング:テイルクリップから単離したマウスDNAサンプルを、1.2%アガロースゲルのウェルの、既知のサイズのフラグメントの標準のDNAラダーの隣にロードする。ゲルを含むチャンバが、電流を生成する。負に帯電したDNAが、チャンバ上部の負電荷により反発され、底の正電荷により引きつけられる。DNAの移動時には、大きなサイズのDNAフラグメントほどゆっくりと移動し、遠くに移動しない。Cxcr2−/−マウスは、Cxcr2遺伝子の欠失を有し、そのためDNAが短く(野生型の360bpに対して280塩基対(bp))、ゲル中でより遠くに移動する。
【図31】脊髄に対する白質面積の測定:面積を測定するために、脊髄の端ならびに灰白質(中心)と白質(緑色端)の間の境界をトレースした。脊髄面積全体から灰白質の面積を引くことにより、白質の面積を計算し、これらの値を用いて、脊髄面積全体に対する白質面積の比を計算した。
【図32】軸索周囲長に対するミエリン厚の測定:図は、黄色で重ねられた軸索周囲長のトレースと、黒色の三つの別個のミエリン厚測定値(線X,Y,Z)とを伴う、電子顕微鏡を用いて撮影された軸索の断面を示す。平均ミエリン厚を計算し、軸索周囲長で割ってそれらの比を決定した。
【図33】精製された脊髄のアストロサイトはCXCL1およびCXCR2mRNAを発現する:脊髄から得た精製アストロサイトから抽出されたRNAに、RT PCRが行われた。結果は、アストロサイトにCXCL1およびCXCR2が存在することを示す。
【図34】アストロサイトおよびグリア瘢痕の誘導に対するCXCL1の効果。精製されたアストロサイト培養物へのCXCL1(0.5ng/ml)の添加は、CSPG発現を誘導し、形態を変更する。細胞をCXCL1(0.5ng/ml)で3日間処置し、免疫細胞化学法により基質上へのCSPG沈着をアッセイし、培地に放出した。ドットブロット(挿入図)によると、CXCL1は、CSPG(CSPGに対する抗体)を増加させた。GFAP(赤)、CSPG(緑)。
【図35】脱髄病変においてCXCL1およびCXCR2が誘導される。LPC病変の3日後にCXCR1およびCXCR2を分析する免疫組織化学法。DAB染色により示されるように、CXCLタンパク質が病変内でアップレギュレートされる。CXCR2は、病変内ではGFAP+細胞と共局在するが、病変外では共局在しない。
【図36】CXCR2の中和は脱髄LPC病変を減少させる。中和抗CXCR2抗体のLPC誘導性病変への局所注入の結果、病変サイズの減少および実質的な形態回復が生じる。アイソタイプコントロール抗体(左パネル)またはCXCR2に対する中和抗体(右パネル)で処置された、10日のLPC病変のLuxol Fast Blue染色(上パネル)および三次元再構築(下パネル)。再構築は、CXCR2遮断を伴う動物における、病変体積の96%減少を示す(グラフ)。
【図37】CXCR2の中和は、病変の外部領域における、GFAP免疫反応性およびED1+反応性を低下させる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書に記載の全ての刊行物および特許出願が、個々の刊行物または特許出願が特に個々に参照により組み込まれるものと示されるのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
一般的技術:
本発明の実行は、特に明記しない限り、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ジェノミクスおよび組換えDNAの従来技術を用い、それらは技術の熟練の範囲内である。Sambrook、FritschおよびManiatis、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,第2版(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubel等編、(1987));シリーズMETHODS IN ENZYMOLOGY(Academic Press,Inc.):PCR 2:A PRACTICAL APPROACH(M.J.MacPherson、B.D.HamesおよびG.R.Taylor編(1995)),HarlowおよびLane等(1988)ANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL、およびANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney編(1987))。
定義:
本明細書および請求項において用いられるところの、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈から逆が明らかでない限り、複数への言及を含む。例えば、用語「細胞(a cell)」は、その混合物を含めて、複数の細胞を含む。
【0028】
用語「コントロール」は、実験において比較目的で使用される代替物、細胞またはサンプルである。さらに、「コントロール」は、異なる時点を比較するための、実験中の同じ物、細胞またはサンプルを表すこともできる。
【0029】
用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、互換可能に使用される。それらは、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの、任意の長さのポリマー型のヌクレオチドまたはそのアナログをさす。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有し、既知または未知の任意の機能をはたしうる。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子または遺伝子フラグメントのコードまたは非コード領域、連鎖分析から定義される座位(遺伝子座)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマ。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログ等の修飾ヌクレオチドを含みうる。存在する場合には、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーの構築の前または後に与えられうる。非ヌクレオチド成分により、ヌクレオチドの配列が中断されうる。ポリヌクレオチドは、標識成分との結合等により、重合後にさらに修飾することができる。
【0030】
本明細書で使用されるところの「発現」とは、ポリヌクレオチドがmRNAに転写されるプロセスおよび/または転写されたmRNA(「転写産物」とも呼ばれる)がその後ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に変換されるプロセスを指す。転写産物およびコードされたポリペプチドは、「遺伝子産物」と集合的に呼ばれる。ポリヌクレオチドが、ゲノムDNA由来である場合は、発現は、真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含みうる。
【0031】
用語「送達」および「投与」は、薬剤が対象、組織、または細胞に入ることを意味するために、本明細書において互換可能に使用される。本明細書の開示の全体にわたり使用される用語には、特定の用語が文法上変化したものも含まれる。例えば、「送達」は、「送達している」、「送達される」、「送達する」等を含む。生物活性剤の送達または投与の様々な方法は、公知技術である。例えば、本明細書に記載される一つ以上の薬剤が、非経口的に、経口的に、腹膜内に、静脈内に、動脈内に、経皮的に、筋肉内に、リポソームで、カテーテルまたはステントによる局所送達を介して、皮下に、脂肪内に、または髄腔内に送達されうる。さらに、薬剤の特性に応じて、プラスミドベクター、ウイルスベクター、またはリポソーム製剤およびミニ細胞を含む非ウイルスベクター系を介して、薬剤が送達されうる。
【0032】
対象における、ヌクレオチド配列またはポリペプチド配列に適用される、「特異的に発現される」という用語は、コントロールにおいて検出されるそれと比較した時の、その配列の過剰発現または過小発現をさす。過小発現は、コントロールと比較した時の、テスト対象における検出可能な発現の非存在により証明される、特定の配列の発現の非存在も含む。
【0033】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、任意の長さのアミノ酸のポリマーをさすために、本明細書において互換可能に使用される。ポリマーは線状でも分岐でもよく、修飾アミノ酸を含むことができ、非アミノ酸により中断されうる。用語は、修飾されているアミノ酸ポリマーも含む。例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または標識成分との結合等の任意の他の操作。本明細書で使用されるところの、用語「アミノ酸」は、グリシンおよびDまたはL光学異性体の両方を含む、天然および/または非天然または合成のアミノ酸、およびアミノ酸アナログおよびペプチドミメティクスをさす。
【0034】
「対象」、「個体」、または「患者」は、本明細書において互換可能に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトをさす。哺乳類には、マウス、ラット、イヌ、ブタ、サル(シミアン)ヒト、家畜、スポーツ用動物、およびペットが含まれるが、これらに限定されない。in vivoで得られた、またはin vitroで培養された、生物学的存在の組織、細胞およびそれらの子孫も含まれる。
【0035】
「シグナル伝達」は、刺激または阻害シグナルが細胞内へまたは内部で伝達されて細胞内反応を誘発するプロセスである。「シグナル伝達経路のモジュレータ」は、同じ特異的シグナル伝達経路にマッピングされた一つ以上の細胞タンパク質の活性を調節する物質をさす。モジュレータは、シグナリング分子の活性および/または発現量またはパターンを増大または抑制しうる。CXCケモカインシグナリングの場合には、シグナリング経路の調節には、CXCケモカインまたはその対応するレセプターの発現量またはパターン、ならびにCXCケモカインまたはその対応するレセプターがメンバーである経路(単数または複数)の任意の下流または上流のシグナリング分子のそれの変更が含まれる。
【0036】
本明細書で使用されるところの「細胞」は、その通常の生物学的意味で使用され、多細胞生物全体をさすものではない。細胞は、例えばin vitroで、例えば細胞培養にあり、または、鳥類、植物、およびヒト、ウシ、ヒツジ、類人猿、サル、ブタ、イヌ、ネコ、マウスまたはラットなどの哺乳類等を含む多細胞生物に存在しうる。
【0037】
本明細書で使用されるところの、「治療」または「治療する」または「改善する」は、本明細書において互換可能に使用される。これらの用語は、臨床的結果を含み、好ましくは臨床的結果である、有益または所望の結果を得るためのアプローチをさす。本発明の目的においては、有益または所望の臨床的結果には、以下の一つ以上が含まれるが、これに限定されない:(例えば、脱髄疾患の場合において)脱髄病変のサイズを縮小すること、OPCの増殖および成長または病変部位への移動を促進すること、オリゴデンドロサイトの分化を促進すること、神経障害の開始を遅らせること、脱髄疾患の発症を遅らせること、神経障害から生じる症状を減少させること、病気を患う者の生活の質を高めること、病気を治療するために必要な他の薬の量を減少させること、ターゲッティングおよび/またはインターナリゼーション等により、別の薬の効果を高めること、病気の進行を遅らせること、および/または個体の生存を延長すること。治療には、病気の予防、すなわち、病気の誘導前に保護組成物を投与することにより、病気の臨床症状が出ないようにすること;病気の抑制、すなわち、誘導事象の後であるが臨床的出現または再発の前に、保護組成物を投与することにより、病気の臨床症状が出ないようにすること;病気の阻害、すなわち、最初の所見の後に保護組成物を投与することにより、臨床症状の発症を妨げること;病気の再発防止、および/または病気の軽減、すなわち、最初の所見の後に保護組成物を投与することにより、臨床症状を退行させることが含まれる。
【0038】
用語「薬剤」、「生物学的に活性な薬剤」、「生物活性剤」、「生物活性化合物」または「生物学的に活性な化合物」は、互換可能に使用され、さらに、記載の文脈において複数の言及を含む。本明細書に記載の本発明の一つ以上の組み合わせ治療法において利用されるこのような化合物には、単純または複合有機または無機分子、ペプチド、ペプチドミメティック、タンパク質(例えば抗体)、DNA、RNAおよびそのアナログを含む核酸分子、炭水化物を含む分子、ホスホリピド、リポソーム、低分子干渉RNA、ポリヌクレオチド(例えばアンチセンス)、または組み合わせ外部ガイド配列(EGS)等の生物または化学化合物が含まれるが、これに限定されない。
【0039】
本明細書で使用されるところの「アンタゴニスト」という用語は、標的ポリペプチドの生物学的機能を阻害する能力を有する分子をさす。したがって、用語「アンタゴニスト」は、標的ポリペプチドの生物学的役割の文脈において定義される。本明細書における一定のアンタゴニストは、標的と特異的に相互作用する(例えば、結合する)が、標的ポリペプチドがメンバーであるシグナル伝達経路の他のメンバーと相互作用することにより、標的ポリペプチドの生物活性を阻害する分子も、この定義に特に含まれる。アンタゴニストにより阻害される生物活性の一つは、OPCの増殖の増加、脱髄の阻害、および/または再ミエリン化の促進に関連する。例えば、アンタゴニストは、CXCケモカインおよび/またはCXCケモカインレセプターと直接または間接的に相互作用して、CXCケモカインシグナリングの減少をもたらしうる。本明細書で定義されるところのアンタゴニストには、おとりオリゴヌクレオチド、アプタマー(apatmers)、抗ケモカイン抗体および抗体変異体、ペプチド、ペプチドミメティクス、非ペプチド低分子、アンチセンス分子、および小有機分子が、非限定的に含まれる。
【0040】
本明細書で使用されるところの「アゴニスト」という用語は、標的ポリペプチドの生物学的機能を開始または増強する能力を有する分子をさす。したがって、用語「アゴニスト」は、標的ポリペプチドの生物学的役割の文脈において定義される。様々な実施形態において、本明細書のアゴニストは、標的と特異的に相互作用する(例えば、結合する)が、標的ポリペプチドがメンバーであるシグナル伝達経路の他のメンバーと相互作用することにより標的ポリペプチドの生物活性を阻害する分子も、この定義に特に含まれる。
【0041】
例えば、アゴニストにより増強される生物活性の一つは、OPCの増殖の増加、脱髄の阻害、および/または再ミエリン化の促進に関連する。本明細書で定義されるところのアゴニストには、おとりオリゴヌクレオチド、アプタマー(apatmers)、抗ケモカイン抗体および抗体変異体、ペプチド、ペプチドミメティクス、非ペプチド低分子、アンチセンス分子、小有機分子、および本明細書に開示される任意の他の生物学的に活性な薬剤が、非限定的に含まれる。
【0042】
用語「有効量」または「治療上有効量」は、(例えば、脱髄疾患の場合において)脱髄病変のサイズを縮小すること、OPC移動、増殖、および成長を促進すること、神経障害の開始を遅らせること、脱髄疾患の発症を遅らせること、神経障害から生じる症状を減少させること、病気を患う者の生活の質を高めること、病気を治療するために必要な他の薬の量を減少させること、ターゲッティングおよび/またはインターナリゼーション等により、別の薬の効果を高めること、病気の進行を遅らせること、神経痕を減少させること、および/または個体の生存を延長すること等の臨床的結果を非限定的に含む、有益または所望の結果をもたらすために十分である薬剤の量をさす。治療上有効量は、治療される対象および病状、対象の体重および年齢、病状の重症度、投与の様式などにより変化し、従来技術の当業者により容易に決定されうる。用語は、本明細書に記載の画像化方法のいずれか一つによる検出のための画像を提供する用量にもあてはまる。具体的な用量は、選択される特定の薬剤、採用される薬剤投与計画、他の化合物と組み合わせて投与されるかどうか、投与のタイミング、画像化される組織、担持される物理的送達システムにより変化する。
【0043】
本明細書で用いられるところの「抗体」という用語は、組換え抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体、融合タンパク質、単クローン抗体等の、全ての形の抗体を含む。本発明は、ケモカインに結合(例えば、CXCレセプター(CXCR)またはインターロイキン、例えばIL―8等のCXCRリガンドに結合)できる抗体機能的フラグメントにも適用できる。例示的な抗体は、結合する標的の生物活性および/または発現を増減できる。
【0044】
用語「調節する」、「調節される」または「調節」は、互換可能に使用され、所与の文脈において直接的または間接的変化を意味する。例えば、エフェクターT細胞増殖/刺激の調節は、このような増殖が下方または上方へ調節されうることを意味する。別の例においては、調節は、エフェクターまたは自己反応性T細胞またはその機能/活性対これらの機能/活性の制御性T細胞のバランスの調節でありうる。
【0045】
「アプタマー」という用語には、特定の分子に対する特異的結合特性に基づいて選択されるDNA、RNAまたはペプチドが含まれる。例えば、アプタマー(単数または複数)は、従来技術で公知の方法を使用して、特定のCXCRを結合するために選択されうる。その後、当該アプタマー(単数または複数)が、免疫反応を調節または制御するために、対象に投与されうる。特定のタンパク質、DNA、アミノ酸およびヌクレオチドに親和性を有するいくつかのアプタマーが記載されている(例えば、K.Y.Wang等、Biochemistry 32:1899―1904(1993);Pitner等、米国特許第5,691,145号;Gold等、Ann.Rev.Biochem.64:763―797(1995);Szostak等、米国特許第5,631,146号)。高親和性および高特異性で結合するアプタマーが、コンビナトリアルライブラリから得られている(上記、Gold等)。アプタマーは、高親和性を有し、平衡解離定数は、使用されるセレクションによりミクロモルからサブナノモルまで変動する。アプタマーは例えば、7―メチルGおよびGの間(HallerおよびSarnow、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:8521―8526(1997))またはDおよびL―トリプトファンの間(上記、Gold等)で1,000倍の選別を示すなど、高い選択性も有しうる。
【0046】
用語「おとり」は、所定のリガンドまたは未知のリガンドに優先的に結合するように設計された核酸分子、例えばRNAまたはDNA、またはアプタマーを含む意味である。このような結合により、標的分子の阻害または活性化が生じうる。おとりまたはアプタマーは、特異的リガンドの結合を天然の結合標的と争いうる。例えば、HIVトランス活性化応答(TAR)RNAの過剰発現は、「おとり」として働くことができ、HIV tatタンパク質を効率的に結合し、これによりHIV RNAにコードされるTAR配列への結合を妨げることが明らかになっている(Sullenger等、Cell 63,601―608(1990))。これは特定の例にすぎず、当業者には当然のことながら、従来技術で公知の技術を使用して他の実施形態が容易に生成されうる。例えば、Gold等、Annu.Rev.Biochem.,64,763―797(1995);BrodyおよびGold、J.Biotechnol.,74,5―13(2000);Sun,Curr.Opin.Mol.Ther.,2,100―105(2000);Kusser,J.Biotechnol.,74,27―38(2000);HermannおよびPatel、Science,287,820―825(2000);およびJayasena,Clinical Chemistry,45,1628―1650(1999)を参照。同様におとりは、標的抗原に結合してその活性部位を占めるように設計され、または、おとりは、標的分子に結合して別のリガンドタンパク質(単数または複数)との相互作用を妨げ、これにより細胞増殖または分化に関わる細胞シグナリング経路を短絡させるように設計されうる。
I.ケモカインシグナリング
本発明は、CXCRを介したシグナリングを調節することにより再ミエリン化を促進するための、組成物および方法を提供する。一態様では、本発明の方法は、CXCRを介したシグナリングを遮断または阻害することにより、グリオーシス(例えばアストログリオーシス)を減少または除去することを目的とする。本発明の別の態様は、対象に一つ以上の薬剤を投与することにより、神経障害を治療する方法であり、そのような一つ以上の薬剤が、CXCRを介したシグナリングを遮断または阻害する、方法を目的とする。様々な実施形態において、ミエリン修復細胞の増殖、分化または移動を促進するために、細胞に接触するための方法が提供される。
【0047】
本発明の他の態様においては、方法は、病変部位への前駆神経細胞(例えばOPCs)の移動を促進することを対象とする。いくつかの実施形態においては、ミエリン修復細胞の病変部位への移動を促進するために、細胞または対象に薬剤を投与するための方法が提供される。さらなる実施形態においては、成熟細胞への前駆細胞の増殖および/または分化(例えばOPCsからオリゴデンドロサイトへ)を促進するために、一つ以上の薬剤が投与される。さらに、このような増殖および/または分化は、動物のCNSまたは他の場所(例えば末梢神経系)で生じうる。例えば、このような増殖および/または分化は、造血環境(例えば幹細胞)またはCNS自体において生じうる。
【0048】
一実施形態においては、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)の、成熟オリゴデンドロサイトへの分化を促進するために、薬剤が投与される。いくつかの実施形態においては、投与される単一の薬剤が、移動、増殖および/または分化を促進しうる。他の実施形態においては、二つ以上の薬剤の組み合わせが投与され、一つの薬剤が細胞の移動に有効であり、他方の薬剤が増殖および/または分化に有効である。このような実施形態の任意のものにおいて、細胞は神経細胞、または、より具体的にはグリア細胞である。
【0049】
他の実施態様においては、このような薬剤が、ミエリン形成に関連する細胞またはミエリン形成に関係する機能的相互作用に関わる細胞の増殖を誘導しうる。このような細胞には、OPCs、シュワン細胞(SCs)、嗅球鞘細胞、アストロサイト、ミクログリアおよび神経幹細胞(NSCs)が含まれるが、これらに限られない。したがって、例えばグリア細胞の移動は、病変部位へのOPCsの移動を促進しうる。一実施形態においては、対象に投与され、またはOPCsに接触させられる一つ以上の薬剤が、OPCsの病変部位への/における移動、増殖、および/または分化を促進しうる。
【0050】
CXCケモカインおよびそれらの対応するレセプター機能のアンタゴニスト、アゴニストおよびモジュレータが、本発明の範囲に特に含まれる。したがって、本発明のいくつかの態様では、ケモカインシグナリングの調節をもたらすために、薬剤が投与される。ケモカインが、オリゴデンドロサイト増殖および移動を制御することが示されている。(Robinson等、J.Neurosci.18:10457―10463(1998);Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。さらに、ケモカインシグナリングが、細胞の移動、分化、活性化および増殖を制御することが示されている。(Wu等、J.Neurosci.20:2609―2617(2000);Kadi等、J.Neuroimmunol.174:133―146(2006))。一定のケモカインレセプターは、ケモカインシグナリングを調節し、したがって、ミエリン修復に関わる細胞の増殖を促進し、および/またはこのような細胞の損傷または傷害部位(例えば病変部位)への移動を促進することにより、ミエリン修復を増強しうる。CXCL1等のいくつかのケモカインが、OPC増殖を誘導するとともに、オリゴデンドログリア細胞の成長の間に移動停止シグナルを提供し、それらを成長するCNSに適切に配置することが示されている。(Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。
【0051】
いくつかの実施形態においては、CXCR2シグナリングの阻害が、OPCの可用性増加を促進し、病変中心部へのOPCsまたはオリゴデンドロサイトの移動を増強し、増殖および/または分化を増強する。したがって、ケモカイン―シグナリング阻害が、免疫浸潤を妨げることにより損傷を防ぐと同時に、ミエリン形成/再ミエリン化に関わる細胞の可用性上昇を促進することにより、修復を刺激しうる。例えば、CXCR2、CXCR1またはCXCR2およびCXCR1の両方の活性部位に直接/間接的に結合する薬剤が投与されうる。
【0052】
本発明の組成物および方法は、ケモカインを介した症状を治療するための、細胞または対象への薬剤の投与も提供することができ、薬剤が、ケモカインを介したシグナリング経路を遮断することにより、免疫調節をもたらす。免疫調節には、CNSへのT細胞浸潤等の、免疫細胞浸潤(「免疫浸潤」)の減少が含まれる(例えばMSにおける自己免疫反応)。
【0053】
本発明のいくつかの態様においては、組み合わせプロセス、すなわちミエリン修復、再ミエリン化および/または軸索保護を伴うプロセスにおいて免疫調節をもたらすために、薬剤が投与され、このような免疫調節剤には、サイトカインおよびサイトカインレセプター、ケモカインおよびケモカインレセプター、抗体、補体関連バイオマーカー、接着分子、抗原プロセシングおよび/またはプロセシングマーカー、細胞周期およびアポトーシス関連マーカーが含まれるがこれらに限られない。このような因子、レセプターおよびマーカーは従来技術において周知であり、非限定的な例には、IL―1、IL―2、IL―6、IL―10、IL―12、IL―18、TNF―α、LT―α/β、TGF―β、CCR5、CXCR3、CXCL10、CCR2/CCL2、抗ミエリン特異的タンパク質/ペプチド抗体、抗分化抗原群(CD)抗体、CSF IgG、抗MOG抗体、抗MBP抗体、C3、C4、活性化ネオC9、補体活性化制御因子、E―セレクチン、L―セレクチン、ICAM―1、VCAM―1、LFA―1、VLA―4、熱ショックタンパク質、パーフォリン、OX―40、オステオポンチン、MRP―8およびMRP―16、ネオプテリン、アミロイドAタンパク質、ソマトスタチン、Fas、Fas―L、FLIP、Bcl―2、およびTRAILが含まれる。
【0054】
CXC―シグナリングケモカインの阻害剤は、このようなケモカインを不活性のコンホメーションに固定し、または活性化部位を遮断することにより、活性化レセプター誘導性の細胞内シグナル伝達カスケードおよび免疫細胞をCNSに導くのに必要な細胞反応を妨げうる。阻害剤は、ケモカインのアロステリック阻害剤でもよい。したがって、このような阻害剤が、伝達カスケード、または脱髄を生じる免疫細胞浸潤、例えばT細胞浸潤に必要な細胞反応を妨げうる。さらに、CXC―シグナリングケモカインの阻害剤は、免疫浸潤に必要な細胞経路/機構を短絡(例えば、シグナリングを妨害または阻害)させ、これにより治療をもたらす任意の化合物でありうる。いくつかの実施形態においては、阻害剤は、ペプチド、ポリペプチド、アプタマー、siRNA、小有機分子、調合薬または抗体、またはそれらの組み合わせである。
【0055】
様々な実施形態において、方法は、CXCR、CXC―リガンド(CXCL)またはインターロイキン(IL)に特異的な薬剤を、治療的に有効な量で投与することにより、CXCRシグナリングを遮断することを目的とし、このような投与が、CXCを介したシグナリングを妨げることにより、T細胞、B細胞または組み合わせのT細胞/B細胞反応の低下を含めて、免疫反応を調節する。
【0056】
いくつかの実施形態においては、CXCR2、またはCXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL6、CXCL7またはCXCL8等のCXCR2リガンドに特異的な一つ以上の薬剤を、治療的に有効な量で投与することにより、CXCR2によるCXCRシグナリングが遮断または阻害される。いくつかの実施形態においては、こうして投与されるこのような薬剤が、CXCR2シグナリングおよびCXCR1シグナリングを減少または除去する。このような実施形態においては、一つ以上の薬剤が、他のCXCRsと比較して、CXCR2および/またはCXCR1を選択的に遮断または阻害する。
【0057】
一実施形態においては、CXCR1および/またはCXCR2シグナリングの特異的遮断または阻害により、再ミエリン化が促進される。一実施形態においては、CXCR1および/またはCXCR2シグナリングのこのような遮断または阻害により、グリオーシスが減少または除去される。
【0058】
いくつかの実施形態においては、CXCR阻害または遮断薬剤は、ポリペプチド、ペプチド、アプタマー、アンチセンス分子、siRNA、リボザイム、ペプチドミメティック、小有機分子または化学化合物、またはその機能的変異体である。いくつかの実施形態においては、このような薬剤は、CXCRレセプター、CXCRリガンドまたは同族のインターロイキンに特異的である。さらなる実施形態においては、薬剤は、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、またはIL―1からIL―18に特異的である。いくつかの実施形態においては、薬剤は、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL5、CXCL8またはIL―8のアンタゴニストであり、このような薬剤の投与により、CXCを介したシグナリングが阻害される。一実施形態においては、このような薬剤が、他のCXCRsに対してCXCR1を選択的に遮断/阻害する。一実施形態においては、このような薬剤が、他のCXCRsに対してCXCR2を選択的に遮断/阻害する。別の実施形態においては、このような薬剤が、他のCXCRsに対してCXCR1および/またはCXCR2を選択的に遮断または阻害する。さらなる実施形態においては、他のCXCRsと比較して、CXCR1および/またはCXCR2を選択的に遮断または阻害しうる、二つ以上の薬剤が投与される。
【0059】
本明細書に開示される方法は、例えば神経細胞の変性が生じる、任意の神経病理学的状態、または脱髄を対象としうる。神経細胞脱髄は、CNSおよびPNSの多数の遺伝性および後天性疾患において現れる。神経病理には、多発性硬化症(MS)、進行性多病巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎、橋中心髄鞘崩壊(CPM)、抗MAG病、ロイコジストロフィー:アドレノロイコジストロフィー(ALD)、アレキサンダー病、カナヴァン病、クラッベ病、異染性ロイコジストロフィー(MLD)、ペリツェウス―メルツバッヘル病、レフサム病、コケイン症候群、ファンデルクナップ症候群、およびツェルウェーガー症候群、ギラン―バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー(MMN)、脊髄損傷(例えば外傷または切断)、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、グリオーシス、アストログリオーシスおよび視神経炎が含まれるが、これに限定されない。これらは、CNSの特定の位置における神経細胞の変性に結び付けられており、神経細胞または脳の領域が本来の機能を果たせなくなる。さらに、本明細書に開示される方法は、はしか、狂犬病を引き起こす病原体、スクレイピーのような病原体、コイ病原体、パラミクソウイルス、コロナウイルス、エプスタイン―バーウイルス、帯状ヘルペス、単純ヘルペスウイルス、ヒトヘルペスウイルス6、風疹、耳下腺炎、イヌジステンパー、マレックセムリキ森林ウイルス、動物およびヒトレトロウイルス、およびヒトT細胞リンパ腫ウイルスI型を含むがこれに限られない病原体を原因とする、またはこれに関連する神経病理に等しく適用できる。
II.生物活性剤
本明細書に開示される組成物および方法は、例えば、神経細胞の変性が生じる任意の神経病理学的状態、グリオーシス(例えばアストログリオーシス)または脱髄を対象としうる。生物活性剤は、このような神経病理学的状態を対象としうる。生物活性剤は、ケモカインレセプターまたはリガンドのアゴニストまたはアンタゴニストでありうる。本発明のいくつかの実施形態においては、結合部位で同じ三次元構造を有する化合物が、アンタゴニストとして使用されうることが想定される。ケモカインの結合部位を含む活性部位の構造を決定するために、化学構造の三次元解析が用いられる。例えば、ハイスループットスクリーニングによるリード化合物が、CXCR2の選択的アンタゴニストを生成し、化学的に最適化するために用いられている。(Ganju等、J.Biol Chem,273:10095―10098(1998))。さらに、ELRおよび非ELRのCXCケモカインを含む、CXCRsのリガンドの三次元構造を明らかにするために、核磁気共鳴分光法(NMR)が利用されうる。NMRの情報により、リガンドのレセプター特異性を実質的に変更しうるように、複数のケモカインのレセプター結合部位内で複数の置換が生成されうる。(例えば、Wells等、J.Leuk.Biol.1996;59:53―60)。したがって、神経障害の治療を含む本発明の方法に使用するために、ケモカインを介したシグナリングを遮断または阻害する薬剤が設計されうる。さらに、本明細書に開示されるように、グリオーシスを減少または除去するとともに、再ミエリン化を促進する方法において、このような薬剤が使用されうる。
【0060】
本発明の別の態様においては、CXCケモカインの発現を調節し、これによりCXCを介したシグナリングに影響を与えるために、生物活性剤(単数または複数)が、治療上有効量で投与されうる。そして、このような調節が、グリア細胞移動、増殖および/または分化に影響しうる。さらなる実施形態においては、このような調節が、CNSへの免疫細胞浸潤に影響を与えうる。
【0061】
様々な実施形態において、このような薬剤には、ペプチド、ポリペプチド、アンチセンス分子、アプタマー、siRNAs、外部ガイド配列(EGS)小有機分子、抗体またはペプチドミメティクスが含まれるがこれに限られない。このような生物活性剤は、CXCケモカインの発現量を直接または間接的に調節し、したがってCXCを介したシグナリングを減少または増強しうる。様々な実施形態において、発現が調節されるCXC―ケモカインには、CXCL1、CXCL5、CXCL8、CXCR1、CXCR2またはCXCR5が含まれる。いくつかの実施形態においては、CXCL1および/またはCXCR2の発現が調節される。いくつかの実施形態においては、グリア細胞が培養され、in vitroで発現コンストラクトによりトランスフェクションされ、その後対象に投与され、発現コンストラクトが、CXCR1および/またはCXCR2をコードする。したがって、いくつかの実施形態においては、ex vivoの方法により、発現調節がもたらされる。
【0062】
他の態様においては、標的細胞が、ミエリン修復を促進するもう一つの追加的薬剤を発現するように設計されうる。例えば、いくつかの実施形態においては、ミエリン修復促進神経成長因子等の薬剤が、例えば、標的細胞に形質転換される核酸配列によりコードされる。したがって、細胞ゲノムに統合されるか、従来技術において周知のプラスミドまたはウイルスベクターに存在しうる核酸配列から、所望の成長因子が発現される。
【0063】
したがって、いくつかの実施形態においては、CXCRを介したシグナリングを調節する薬剤をコードする核酸が、再ミエリン化を促進する薬剤をコードする核酸と、コンビナトリアル様式で共同投与されうる。例えば、核酸から発現される二つ以上の共同投与された薬剤が、グリオーシスを阻害または減少させるだけでなく、グリア細胞の移動、増殖および/または分化を促進しうる。核酸から発現される薬剤は、例えば、CXCR2活性またはCXCR2リガンドを阻害することにより、CXCシグナリングを遮断または阻害しうる。他の実施態様においては、このような薬剤が、CXCR1およびCXCR2を介したシグナリングを遮断または阻害する。さらに他の実施形態においては、このような薬剤が、CXCR1を介したシグナリングを遮断または阻害する。したがって、CXCRを介した(またはCXCLを介した)シグナリングを阻害または遮断する薬剤が、オリゴデンドロサイト生存を増強または促進すること等によりミエリン修復を促進する薬剤と組み合わせられうる。
【0064】
薬剤に影響を受けたCXCR媒介するシグナリングと共同投与されるこのような薬剤には、血小板由来成長因子(PDGF)(Jean等、Neuroreport 13:627―631(2002))、甲状腺ホルモン(TH)(Calza等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:3258―3263(2002))、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)(Zavala等、J.Immunol.168:2011―2019.(2002))、シリア線毛神経栄養因子(CNTF)(Linker等、Nat.Med.8:620―624(2002))、線維芽細胞成長因子―2(FGF―2)(Armstrong等、J.Neurosci.22:8574―8585(2002).)、白血病抑制因子(LIF)(Butzkueven等、Nat.Med.8:613―619(2002).)、インシュリン様成長因子―1(IGF―1)(Beck等、Neuron 14:717―730(1995))、グリア成長因子―2/ニューレグリン(GGF―2/NRG)(Kerber等、J.Mol.Neurosci.21:149―165(2003))およびCXCLl/成長制御癌遺伝子α(Gro―a)(Omari等、Glia 53:24―31(2006);Omari等、Brain 128:1003―1015(2005);Tsai等、Cell 110:373−383(2002))等の、オリゴデンドロサイト生存、増殖、移動および分化のプロセスに影響を与えことが示されている、いくつかの生体分子が含まれる。
【0065】
さらなる実施形態においては、このような薬剤をコードする核酸配列の発現が誘導可能であり、したがって時間的に制御される。このような誘導可能または時間制御される転写制御エレメントは、従来技術において公知であり、本明細書にさらに開示されるとおりである。
【0066】
いくつかの実施形態においては、グリア細胞が、CXCケモカインの発現変更を提供するように、生物活性剤をコードする発現ベクター(または「発現コンストラクト」)によりトランスフェクションされうる。一実施形態においては、発現コンストラクトが、オリゴデンドロサイトにトランスフェクションされ、このような発現ベクターが、in vitroまたはin vivoで細胞に投与され、トランスフェクションされたオリゴデンドロサイトが、非トランスフェクションオリゴデンドロサイトと比較して、CXCR2またはCXCL1の発現量を変化させる。他の実施態様においては、このようなトランスフェクション細胞には、SCs、NSCs、OPCs、アストロサイト、ミクログリア細胞、またはこのような細胞の組み合わせが含まれ、それらも培養またはin vivoでトランスフェクションされる。いくつかの実施形態では、発現コンストラクトは、グリア細胞に特異的な細胞特異的または誘導性プロモータを含み、従来技術の当業者に公知であるとともに、本明細書に上述される。
【0067】
典型的には、遺伝子発現が、構成的または誘導性プロモータ、組織特異的制御エレメント、およびエンハンサを含む一定の制御エレメントの制御下におかれる。このような遺伝子は、制御エレメントに「操作可能に連結される」といわれる。例えば、構成的、誘導性、または細胞/組織特異的プロモータが、宿主細胞に発現される遺伝子の発現を制御するために、発現ベクターに取り入れらうる。
【0068】
いくつかの実施形態においては、CXCRシグナリングの阻害剤は、このような阻害剤をコードする核酸配列から発現されうるポリペプチドであり、阻害剤をコードする核酸が、神経細胞に特異的な転写制御配列に、操作可能に連結されうる。典型的な転写制御配列/エレメントには、以下のタンパク質をコードする遺伝子より選択される転写制御配列/エレメントが含まれる:PDGFαレセプター、プロテオリピドタンパク質(PLP)、グリア線維酸性遺伝子(GFAP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、神経細胞特異的エノラーゼ(NSE)、オリゴデンドロサイト特異的タンパク質(OSP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)および微小管関連タンパク質1B(MAP1B)、Thy1.2、CC1、セラミドガラクトシル転移酵素(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、オリゴデンドロサイト―ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質0(MPZ)、末梢性ミエリンタンパク質22(PMP22)、タンパク質2(P2)、チロシン水酸化酵素、BSF1、ドーパミン3―ヒドロキシラーゼ、セロトニン2レセプター、コリンアセチルトランスフェラーゼ、ガラクトセレブロシド(GalC)、およびスルファチド。さらに、神経細胞特異的プロモータの例は、米国特許出願公開第2003/0110524号等に開示されるように、従来技術において周知である。ウェブサイト<chinook.uoregon.edu/promoters.html>も参照。さらに、細胞/組織特異的プロモータも、従来技術において周知である。
【0069】
いくつかの実施形態においては、転写制御エレメントは誘導性である。例えば、誘導性プロモータの非限定的な例には、メタロチオニンプロモータおよびマウス乳癌ウイルスプロモータが含まれる。本発明の組換えベクターの使用に有効なプロモータおよびエンハンサの他の例には、CMV(サイトメガロウイルス)、SV40(シミアンウイルス40)、HSV(単純ヘルペスウイルス)、EBV(エプスタイン―バーウイルス)、レトロウイルス、アデノウイルスプロモータおよびエンハンサ、および平滑筋特異的プロモータおよびエンハンサが含まれるが、これらに限定されない。異種プロモータとしての使用に適しうる強力な構成的プロモータには、アデノウイルス主要後期プロモータ、サイトメガロウイルス最初期プロモータ、β―アクチンプロモータ、またはβ―グロビンプロモータが含まれる。RNAポリメラーゼIIIにより活性化されるプロモータも、用いられうる。
【0070】
いくつかの実施形態では、遺伝子発現を制御するために使用されている誘導性プロモータには、テトラサイクリンオペロン、RU486、メタロチオネインプロモータ等の重金属イオン誘導性プロモータ;MMTVプロモータまたは成長ホルモンプロモータ等のステロイドホルモン誘導性プロモータ;アデノウイルスE1Aタンパク質により誘導可能なアデノウイルス初期遺伝子プロモータまたはアデノウイルス主要後期プロモータ等の、ヘルパーウイルスにより誘導可能なプロモータ;VP16または1CP4等の、ヘルペスウイルスタンパク質により誘導可能なヘルペスウイルスプロモータ;ワクシニアまたはポックスウイルス誘導性プロモータまたはポックスウイルスRNAポリメラーゼにより誘導可能なプロモータ;ポックスウイルスRNAポリメラーゼにより誘導可能である、T7ファージからのもの等の細菌プロモータ;またはT7 RNAポリメラーゼまたはエクジソンからのもの等の細菌プロモータが含まれる。一実施形態においては、プロモータエレメントは、低酸素ストレス中にタンパク質安定性および固有の転写能力の両方の大幅な増加を示す主要な哺乳類の転写因子の一つである、低酸素―誘引因子―1(HIF―1)により認識される低酸素応答性エレメント(HRE)である。HREは、VEGFおよびEpoおよびいくつかの他の遺伝子の5’または3’隣接領域において報告されている。コア共通塩基配列は、(A/G)CGT(G/C)Cである。EpoおよびVEGF遺伝子から単離されたHREsが、低酸素腫瘍における自殺遺伝子およびアポトーシス遺伝子発現等、いくつかの遺伝子を制御することにより、腫瘍死滅を増強するために用いられている。
【0071】
さらに、特定の細胞内位置における導入遺伝子の発現が所望される場合には、導入遺伝子が、従来技術で広く実践される組換えDNA技術により、対応する細胞内局在化配列に操作可能に連結されうる。例示的な細胞内局在化配列には、(a)遺伝子産物の分泌を細胞外に導くシグナル配列;(b)細胞の形質膜または他の膜コンパートメントへのタンパク質の付着を許容する、膜アンカードメイン;(c)コードされたタンパク質の核への転位を媒介する核局在化配列;(d)コードされたタンパク質を主にERに限定する小胞体保留配列(例えばKDEL配列);(e)タンパク質を細胞膜と結合するために、タンパク質がファルネシル化されるように設計されうる;または、(f)コードされたタンパク質生成物の特異的細胞内分布に関わる任意の他の配列が含まれるが、これに限定されない。
【0072】
in vivoまたはin vitroの方法で利用されるベクターには、SV―40、アデノウイルスの誘導体、レトロウイルス由来のDNA配列および機能的哺乳類ベクターおよび機能的プラスミドおよびファージDNAの組み合わせから得られるシャトルベクターが含まれうる。真核生物発現ベクターは、例えば参照により本明細書に組み込まれる、SouthernおよびBerg、J.Mol.Appl.Genet.1:327―341(1982);Subramini等、Mol.Cell.Biol.1:854―864(1981),KaufinannおよびSharp、J.Mol.Biol.159:601―621(1982);Scahill等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:4654―4659(1983)およびUrlaubおよびChasin Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216―4220(1980)により記載されるもののように、周知である。本発明の方法で使用されるベクターは、ウイルスベクター、好ましくはレトロウイルスのベクターでありうる。複製欠損アデノウイルスが、好ましい。例えば、末端反復配列に含まれるウイルス制御配列の制御下で、レトロウイルスの構造遺伝子が目的の単一遺伝子により置き換えられる「単一遺伝子ベクター」、例えばマロニーマウス白血病ウイルス(MoMulV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、およびマウス骨髄増殖性肉腫ウイルス(MuMPSV)、および、細網内皮症ウイルス(Rev)およびニワトリ肉腫ウイルス(RSV)等のトリレトロウイルスが使用されればよく、参照により本明細書に組み込まれるEglitisおよびAndersen、BioTechniques 6:608―614(1988)に記載される。
【0073】
複数の遺伝子が導入されうる組換えレトロウイルスベクターも、本発明の方法に従って使用されうる。独立プロモータの制御下のcDNAを含む内部プロモータを伴うベクター、例えば、ヒトアデノシンデアミナーゼ(hADA)のcDNAがそれ自体の制御配列、SV40ウイルス(SV40)からの初期プロモータを伴って挿入された選択可能マーカー(neoR)を伴うN2ベクターに由来するSAXベクターが設計され、従来技術において公知の方法により本発明の方法にしたがって使用されうる。
【0074】
哺乳動物宿主細胞においては、多数のウイルスベースの発現系が利用されうる。アデノウイルスが発現ベクターとして使われる場合においては、(例えば、治療可能薬剤をコードする)目的のヌクレオチド配列が、アデノウイルス転写または翻訳制御複合体、例えば後期プロモータおよびトリパータイトリーダー配列に連結されうる。その後このキメラ遺伝子が、in vitroまたはin vivo組換えにより、アデノウイルスゲノムに挿入されうる。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば領域E1またはE3)への挿入により、感染宿主において生存可能およびAQP1遺伝子産物を発現可能な組換えウイルスが生じる(例えばLogan & Shenk,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 8 1:3655―3659(1984)を参照)。
【0075】
挿入された治療ヌクレオチド配列の効率的な翻訳のために、特異的開始シグナルも必要とされうる。これらのシグナルは、ATG開始コドンおよび隣接配列を含む。治療遺伝子またはcDNA全体が、それ自体の開始コドンおよび隣接配列を含めて、適切な発現ベクターに挿入される場合には、追加的な翻訳制御シグナルは必要ないであろう。しかし、治療コード配列の一部だけが挿入される場合には、おそらくATG開始コドンを含む外来性の翻訳制御シグナルが提供されればよい。さらに、インサート全体の翻訳を確保するために、開始コドンが所望のコード配列の読み枠とそろっていればよい。これらの外来性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の様々な起源のものでありうる。適切な転写エンハンサエレメント、転写ターミネータなどの包含により、発現の効率が高められうる。(例えばBittner等、Methods in Enzymol,153:516−544(1987)を参照)。
【0076】
いくつかの実施形態においては、CXCRシグナリングの遮断または阻害に向けられた生物活性剤を変更されたレベルで産出するために、前述のベクターの利用により、グリア細胞等の神経細胞が遺伝子操作される。一実施形態においては、このような薬剤は、CXCR1および/またはCXCR2シグナリングを遮断または阻害する。in vitroまたはin vivoでの細胞の遺伝子操作またはトランスフェクションは、本明細書に上述した参考文献にて説明され、米国特許第6,998,118号;6,670,147号または6,465,246号に開示されるような、公知技術の方法を利用して行われうる。
【0077】
いくつかの実施形態においては、生物活性剤が投与され、CXCケモカインを介したシグナリングに関わる一つ以上のタンパク質の発現レベルの変更をもたらしうる。あるいは、例えば神経細胞を生物活性剤と接触させて、CXCケモカインを介したシグナリングに関わる一つ以上のタンパク質の発現の変化を提供することにより、本明細書に記載の神経細胞が修飾されうる。一実施形態においては、このようなシグナリングはCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングである。さらに、ポリペプチドの発現レベルを測定する方法は、従来技術の当業者に公知である。
【0078】
本発明の一つ以上の方法で使用される神経細胞の例には、グリア細胞が含まれる。グリアは、アストロサイト、オリゴデンドロサイトを含むマクログリア、およびミクログリアに分けられる。CNSの微細環境中では、アストロサイトが支持および栄養を提供し、オリゴデンドロサイトは絶縁を提供し、ミクログリアが免疫防御を提供する。中間フィラメントタンパク質のグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)の発現により一般に同定されるアストロサイトは、脳のホメオスタシスの維持を助け、神経興奮性を変更しうる、様々なイオンチャネル、輸送体、および神経伝達物質レセプターを有する。さらに、アストロサイトは、内皮細胞と相互作用し、これらの相互作用は、血液脳関門(BBB)の発達および維持に重要であると考えられる。アストロサイトは、増殖、形態変更、増加プロセス、およびGFAP発現の増加により、CNS損傷に反応することが知られている。アストロサイトーシスまたはアストログリオーシスと称されるこの活性化は、細胞外基質分子(ECM)の緻密繊維性瘢痕への沈着をもたらしうる。損傷に対するこのような反応は、修復に有害であると考えられる。さらに、損傷の後に、アストロサイトが、グルタミン酸レセプターを活性化して、興奮毒性および周辺細胞の死がもたらされうる。
【0079】
本発明の神経細胞には、軸索を包んで情報が伝達される速度および確実性を高める脂肪絶縁体であるCNSミエリンの、産生および維持を典型的に担うマクログリア細胞である、オリゴデンドロサイトも含まれる。オリゴデンドロサイトは、CNSにおいて、典型的にはまず脊髄および脳の腹側の脳室帯および脳室下帯から発生する。脊髄のオリゴデンドロサイトは、胚発生の間に典型的に脳室帯から生じ、その後白質に移動し、そこで増殖および分化する(Miller,Prog.Neurobiol.67:451―467(2002))(図23)。それらの成熟および分化の間に、オリゴデンドロサイトは典型的に、細胞形態および特異的分子マーカー発現の明白な変化(図24)により特徴づけられる、一連の成長段階を経る。各細胞集団に対するこれらのマーカーの特異性により、異なる段階にある細胞の同定および単離が可能になる。
【0080】
いくつかの実施形態においては、グリア細胞はミクログリアであり、それは、名から示唆されるとおり三つのCNSグリア細胞の中で最も小さく、それらが関連する骨髄由来単球およびマクロファージと特性を共有する。それらは、リンパ系組織の骨髄前駆細胞に由来し、その発達上の血管形成の間にCNSに至ると考えられる。静止ミクログリアは、垂直な脊椎のような突起を伴う細長い双極細胞体を有する。ミクログリアは、高運動性の細胞であり、活性化されると、食作用、抗原の提示、および炎症性サイトカインの分泌を伴って、CNSにおいて免疫細胞のように働くと考えられる。アストロサイトおよびミクログリアは、抗原提示細胞として働きうるため、この細胞挙動が免疫反応を増幅し、無制御のミエリン崩壊につながりうる。
【0081】
ある実施形態では、本発明の方法で利用される一つ以上の薬剤(例えばアゴニスト、アンタゴニスト、またはモジュレータ)は、CXCケモカインおよびその対応するレセプターに結合する、抗体および免疫グロブリン変異体である。これらの薬剤は、線状または環化された形において提供されればよく、自然において一般に見られない少なくとも一つのアミノ酸残基または少なくとも一つのアミド同配体を選択的に含む。これらの化合物は、グリコシル化、リン酸化、硫酸化、脂質化または他のプロセスにより修飾されうる。
【0082】
様々な実施形態において、このような抗体により標的とされる一定のケモカインは、ELRケモカインである。‘ELR’ケモカインは、そのCXCR1およびCXCR2レセプターを介して炎症細胞を化学的に誘引し、活性化する(Baggiolini,Nature 392:565―568(1998);AhujaおよびMurphy、J.Biol.Chem.271:20545―20550(1996))。CXCR1は典型的に、CXCL8およびCXCL6/顆粒球走化性タンパク質―2(GCP―2)に特異的であり、CXCR2は典型的に、CXCL8を高親和性で結合するが、マクロファージ炎症性タンパク質―2(MIP―2)、CXCL1、CXCL5/ENA―78、およびCXCL6もやや低い親和性で結合する(例えば、BaggioliniおよびMoser、Rev.Immunol.,15:675―605(1997)を参照)。ヒトCXCR1またはCXCR2によりトランスフェクションされた細胞株におけるCXCL8シグナリングは、概して等力の走化性応答を誘導する(Wuyts等、Eur.J.Biochem.255:67―73(1998);Richardson等、J.Biol.Chem.273:23830―23836(1998))。
【0083】
様々な実施形態において、CXCを介したシグナリングを調節するために、抗CXCRまたは抗CXCL抗体が対象に投与されて、グリア細胞増殖および/または分化の増強、および/または免疫細胞浸潤の減少がもたらされる。一実施形態においては、このような抗体は、例えば、CXCRまたはCXCLの活性または発現レベルを阻害することにより、CXCを介したシグナリングを減少する。いくつかの実施形態では、CXC―シグナリングを阻害する方法において、抗体がCXCR1、CXCR2、CXCR3、ELR+CXCケモカイン、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7またはCXCL8に特異的でありうる細胞/対象に、抗体が投与される。様々な実施形態において、抗体は、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL8、CXCL6またはIL―8に特異的である。一実施形態においては、抗体は、AMX―IL―8である(Abgenix)。(Mahler等、Chest 126:926―934(2004))。別の実施形態においては、抗体は、CXCL1、CXCR1、またはCXCR2に特異的である。いくつかの実施形態においては、一つ以上の薬剤が、CXCR1および/またはCXCR2シグナリングを遮断または阻害する。別の実施形態においては、このような一つ以上の薬剤が、CXCL1、CXCL5またはCXCL8を含むがこれに限られない、CXCLsを遮断または阻害する。一実施形態においては、CXCR1、CXCR2、CXCL1、CXCL5、CXCL8、またはそれらの組み合わせを遮断するために、一つ以上の薬剤が投与される。
【0084】
本明細書に記載のケモカイン抗原に特異的な抗体の生産は、参照により各関連部分が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,491,916号;6,982,321号;5,585,097号;5,846,534号;6,966,424号および米国特許出願公開第20050054832号;20040006216号;20030108548号;2006002921号および20040166099号に開示されるもの等、当業者に公知である。単なる一例においては、抗原を含む組成物をマウスに注射するステップと、血清サンプルを除去することにより抗体産生の存在を検証するステップと、Bリンパ球を得るために脾臓を除去するステップと、ハイブリドーマを生産するためにBリンパ球を骨髄腫細胞と融合するステップと、ハイブリドーマをクローニングするステップと、注射された抗原に対する抗体を産生する陽性クローンを選択するステップと、抗原に対する抗体を産生するクローンを培養するステップと、ハイブリドーマ培養から抗体を単離するステップにより、単クローン抗体が得られる。様々な確立した技術により、ハイブリドーマ培養から単クローン抗体が単離および精製されうる。このような単離技術には、プロテインAセファロースによるアフィニティークロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、およびイオン交換クロマトグラフィが含まれる。例えば、Coliganの2.7.1 2.7.12頁および2.9.1 2.9.3頁を参照。METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,VOL.10,79 104頁のBaines等、“Purification of Immunoglobulin G(IgG),”(The Humana Press,Inc.1992)も参照。
【0085】
標準的な技術を用いて、抗体作製のための、適切な量の十分に特徴づけされた抗原が得られる。例えば、Tedder等、米国特許第5,484,892号明細書(1996)により記載される沈殿した抗体を用いて、細胞からケモカイン抗原が免疫沈降されうる。あるいは、目的の抗原を過剰生産するトランスフェクションされた培養細胞から、ケモカイン抗原タンパク質が得られる。公開されたヌクレオチド配列を用いて、これらのタンパク質の各々をコードするDNA分子を含む発現ベクターが構築されうる。例えば、Wilson等、J.Exp.Med.173:137―146(1991);Wilson等、J.Immunol.150:5013―5024(1993)を参照。例として、相互プライミングロングオリゴヌクレオチドを用いてDNA分子を合成することにより、CD3をコードするDNA分子が得られる。例えば、Ausubel等、(編)、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,8.2.8〜8.2.13頁(1990)を参照。また、Wosnick等、Gene 60:115―127(1987);およびAusubel等(編)、SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,第3版、8―8〜8―9頁(John Wiley & Sons,Inc.1995)も参照。ポリメラーゼ連鎖反応法を用いた確立された技術により、長さが1.8キロベースの大きさの遺伝子を合成することができる。(Adang等、Plant Molec.Biol.21:1131―1145(1993);Bambot等、PCR Methods and Applications 2:266―271(1993);METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,15巻:PCR PROTOCOLS:CURRENT METHODS AND APPLICATIONS,White(編)、263 268頁の、Dillon等、“Use of the Polymerase Chain Reaction for the Rapid Construction of Synthetic Genes,”(Humana Press,Inc.1993))。変化形においては、目的の抗原をコードするcDNAで安定的にトランスフェクションされたネズミ前B細胞株で免疫したマウスからの脾臓細胞と骨髄腫細胞を融合することにより、単クローン抗体が得られる。(Tedder等、米国特許第5,484,892号を参照。)
一実施形態においては、比較的低用量の、裸の抗体全体または裸の抗体全体の組み合わせが使用される。いくつかの実施形態においては、抗体フラグメント、したがって完全抗体未満のものが利用される。他の実施形態においては、薬物、毒素または治療ラジオアイソトープと抗体の結合体が、有用である。二つ以上の抗原に結合するハイブリッド抗体を含む、ケモカイン抗原に結合する二重特異性抗体融合タンパク質が本発明により使用されうる。好ましくは、二重特異性およびハイブリッド抗体は、T細胞、形質細胞またはマクロファージ抗原をさらに標的とする。したがって、抗体には、単一特異性または多重特異性でありうる、裸の抗体および結合抗体および抗体フラグメントが含まれる。
【0086】
本発明の一つ以上の方法において、マーカータンパク質およびその機能的フラグメントが、抗原特異的免疫調節成分として、抗原特異的寛容を誘導するために利用され、ミエリン修復を誘導するために送達される薬剤と組み合わされて相乗的治療結果をもたらしうる。(オリゴデンドロサイトおよびシュワン細胞を含む)ミエリン形成細胞のマーカータンパク質の非限定的な例は、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシル基転移酵素(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、オリゴデンドロサイト―ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質0(MPZ)、末梢性ミエリンタンパク質22(PMP22)、タンパク質2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群より選択されうる。MPZ、PMP22およびP2は、シュワン細胞のいくつかのマーカーである。
【0087】
いくつかの実施形態においては、ケモカイン―シグナリング阻害剤は、repertaxin(図11)、CXCR1/CXCR2アンタゴニスト(図10A〜10B)(Bizzarri等、Pharmacology.& Therapeutics,112:139―149(2006))、CXCR1/CXCR2アロステリック阻害剤(図10C)(Bizzarri等、Pharmacology.& Therapeutics,112:139―149(2006))および米国特許第7,008,962号に開示されるジアニリノスクアレート等のIL―8アンタゴニストを含むがこれに限られない、低分子である。他の阻害剤には、3,4,5―トリ置換アリールニトロン(米国特許出願公開第20050215646号)および米国特許出願公開第20060014794号に開示されるCXCR1およびCXCR2アンタゴニストが含まれうる。いくつかの実施形態においては、生物活性剤は、米国特許出願公開第20060233748号(ペプチド)に開示されるようなIL―8ミメティクスまたは第20070167360号に開示されるようなsRAGEでありうる。
III.細胞移植
本発明の別の態様では、露出軸索のミエリン修復または再ミエリン化に関わる細胞が、対象に投与され、当該細胞が、CXCシグナリングの低下、例えばCXCR2シグナリングの低下を有するように改変される。このような細胞は、培養され、適切なベクターでトランスフェクションされて、細胞増殖、分化、または損傷または傷害部位(例えば脱髄部位)への移動の増強につながるポリペプチドを発現する。いくつかの実施形態においては、再ミエリン化またはミエリン修復に関わる細胞が、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、またはCXCL8の発現低下等、CXCリガンド発現が低下するように改変される。他の実施態様においては、細胞のCXCレセプター発現が低下する。いくつかの実施形態においては、CXCR2またはそのリガンド、例えばCXCL1を遮断または阻害するように、細胞が改変される。一実施形態においては、CXCR1および/またはCXCR2を遮断または阻害するように、細胞が改変される。
【0088】
様々な実施形態において、細胞(「細胞種類」)は、本明細書に開示されるものである。例えば、このような細胞は、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)、シュワン細胞(SCs)、嗅覚鞘性細胞、アストロサイト、ミクログリアおよび神経幹細胞(NSCs)である。いくつかの実施形態においては、一つ以上の細胞種類が、ケモカイン発現およびケモカインレセプター発現を阻害するために改変され、神経障害を治療するために対象に投与される。一実施形態においては、OPCsおよびアストロサイトを含む二つの細胞種類が投与される。いくつかの実施形態においては、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)の成熟オリゴデンドロサイトへの分化を促進するために、薬剤が投与される。あるいは、このような薬剤が、ミエリン形成に関わる細胞またはミエリン形成に関連した機能的相互作用に関わる細胞の増殖を誘導しうる。このような神経細胞には、OPCs、シュワン細胞(SCs)、嗅覚鞘性細胞、アストロサイト、ミクログリアおよび神経幹細胞(NSCs)が含まれるがこれに限定されない。薬剤は、OPCs等のグリア細胞の移動も誘導しうる。生物活性剤の投与の前、同時、または後に、このような神経細胞が投与されうる。他の実施形態においては、一つ以上の種類の神経細胞が、一つ以上の種類の生物活性剤とともに投与されうる。明確のため、用語「種類」は、例えば、異なる種類の細胞(例えばオリゴデンドロサイトとアストロサイト)または異なる種類の生物活性剤(例えば抗体、アンチセンス分子、または低分子)を意味する。
【0089】
一実施形態においては、細胞は、NG2プロテオグリカンを発現するグリア細胞(NG2(+)細胞)であるが、それは、成熟オリゴデンドロサイトを生む能力に基づいて、中枢神経系(CNS)のオリゴデンドロサイト前駆体(OPCs)であると考えられる。一実施形態においては、CXCR2により媒介されるケモカイン―シグナリングを調節するために、生物活性剤が対象に投与され、その結果NG2+OPCsの数が増加する。
【0090】
いくつかの実施形態では、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)、シュワン細胞(SCs)、嗅覚鞘性細胞、アストロサイト、ミクログリアまたは神経幹細胞(NSCs)が培養され、ケモカインをコードするベクターで形質転換され、移植前にin vitroで増殖させられる。他の実施形態においては、細胞が、CXCを介したシグナリングを阻害するタンパク質を発現するように、in vivoでトランスフェクションまたは遺伝学的に改変されうる。
【0091】
いくつかの実施形態においては、ミエリン産生細胞またはその前駆細胞には、胎児または成人OPCsが含まれるが、これに限られない。一実施形態においては、OPCは、A2B5+PSA−NCAM−表現型である(初期オリゴデンドロサイトマーカーA2B5が陽性であり、ポリシアル酸化神経細胞接着因子が陰性)。
【0092】
様々な動物モデルにおいて、CNS軸索の再ミエリン化が示されている。多くの最近の研究が、脱髄疾患における細胞移植の使用と関連した新技術および新規の機構を以後示している。成人脳から単離されたヒトOPCsは、ミエリン形成異常のマウス突然変異体に移植されると、裸の軸索を有髄化できた。重要なことに、成人前駆細胞の使用は、倫理的問題を回避しうる。OP細胞が内因性再ミエリン化を担う一方、NSCsは、ミエリン修復を促進するための細胞の代用源である。NSCsは、成人CNSに見られ、in vitroで大量に増殖させることができ、分化してOLs、アストロサイト、または神経細胞を形成できる。NSCsは、再発または慢性型EAEを有する齧歯類に移植されると、CNS炎症および脱髄のエリアに移動し、グリア細胞運命を優先的に選択することが示されている。さらに、移植マウスにおける臨床疾患の減衰が、脱髄病変の修復および軸索損傷の減少に関連づけられている。組織分析により、移植されたNSCsが主にPDGFR+OP細胞に分化したことが確認された。
【0093】
興味深いことに、NSC移植EAEマウスにおいてOP細胞の数が増加する一方、これらの細胞の大部分はドナー由来でなく、移植細胞が内因性オリゴデンドログリアの増殖を制御したことが示唆される。NSCsがEAE改善および病変修復を促進する機構は、免疫抑制および神経保護機能を示す。NSCが、in vivoおよびin vitroの両方でT細胞のアポトーシスを誘導し、NSC移植EAE齧歯類においてCNS浸潤T細胞を減少させ、in vitroでミエリンペプチド特異的T細胞増殖を阻害することが示されている。CNS炎症を減少および/またはOL系統細胞生存を増強し、宿主CNSにおける再ミエリン化を促進しうる、神経栄養因子および様々な成長因子により、免疫調節および提唱される神経保護の性質が媒介されうる。
【0094】
いくつかの実施形態においては、一つ以上の所望の生物活性剤の発現を可能にするために、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)、シュワン細胞(SCs)、嗅覚鞘性細胞、および神経幹細胞(NSCs)が、従来技術において公知または本明細書に開示の方法を用いて、一つ以上の発現ベクターでトランスフェクションされる。このような生物活性剤は、CXCを介したシグナリングを妨げることにより、免疫調節を導きうる。別の実施形態においては、このような薬剤が、オリゴデンドロサイトの病変部位における増殖または病変部位への移動を促進しうる。さらに別の実施形態においては、このような薬剤が、OPCの成熟オリゴデンドロサイトへの分化および/または増殖または病変部位への移動を促進しうる。様々な実施形態において、培養における増殖の前、同時または後に、細胞がトランスフェクションされる。
【0095】
当然のことながら、侵襲性、外科的、最小限侵襲性および非外科的手順を含む、従来技術で公知の方法を使用して、移植が行われる。対象、標的部位、および送達される薬剤(単数または複数)に応じて、従来技術で公知の方法を使用して、細胞の種類および数が所望どおり選択されうる。
IV.スクリーニングアッセイ
A.細胞培養
本発明のいくつかの態様は、候補薬剤をスクリーニングして、このような薬剤がCXCを介した細胞シグナリングを阻害するかを決定する方法を対象とする。免疫調節、ミエリン修復、または軸索保護を誘導する薬剤を組み合わせにおいてスクリーニングして、どの組み合わせが神経障害の治療において有益かを決定しうる。いくつかの実施形態では、神経細胞、特にグリア細胞、より具体的にはアストロサイト、オリゴデンドロサイト、SCs、OPCsまたはNSCsがスクリーニングのために培養および/または遺伝子操作される。
【0096】
一実施形態においては、このような細胞培養に一つ以上の生物活性剤を接触させ、このような接触の前、同時、または後に、一つ以上のミエリン修復または軸索保護を誘導する薬剤も細胞に投与して、いずれの生物活性剤または生物活性剤の組み合わせが所望の効果または相乗効果をもたらすかを決定する。例えば、経時顕微鏡検査を利用して、前駆細胞種類からミエリン形成オリゴデンドロサイトへの転換を明らかにすることにより、培養において相乗効果が観察されうる。さらに、分化細胞検出における便利な蛍光顕微鏡法を促進するために、前駆細胞が膜標的化形態の強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)でトランスフェクションされうる。したがって、様々な実施形態において、米国特許第7,008,634号;6,972,195号;6,982,168号;6,962,980号;6,902,881号;6,855,504号;または6,846,625号に開示されるような、従来技術で周知の技術を利用して、細胞が組み合わせ処置またはスクリーニングプロセスの構成成分であるマーカータンパク質または生物活性剤を発現するように、培養および/または遺伝子改変されうる。
【0097】
一実施形態においては、発現ベクターが、細胞特異的プロモータエレメント(例えば、オリゴデンドロサイトを含むグリア細胞に特異的なPLPまたはPDGFα)から発現されるマーカータンパク質(例えば蛍光マーカー)をコードしうる。さらに、同じ細胞が、CXCL1またはCXCL8等のCXCケモカインをコードする第二発現ベクターでトランスフェクションされうる。あるいは、単一の発現コンストラクトが、マーカータンパク質およびCXCケモカイン等、二つ以上のポリペプチドをコードしうる。このような実施形態においては、(in vitro細胞または組織培養またはin vivo画像化等のための)蛍光顕微鏡法を含むがこれに限られない、公知技術の標準的な顕微鏡検査技術を使用して、CXCケモカインおよびマーカータンパク質を発現する細胞が検出されうる。
【0098】
いくつかの実施形態においては、構成的、誘導性または神経細胞特異的プロモータに操作可能に連結され、ケモカイン―レセプターリガンドをコードする核酸分子が、神経細胞にトランスフェクションされる。このような細胞は、CXCLを変更されたレベルで発現して、ケモカインを介したシグナリングが調節されるように形質転換されうる。さらに、このような細胞が、神経細胞増殖および/または移動を増強するために、対象動物に投与されうる。一実施形態においては、あるCXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL6、CXCL8またはCXCL10の発現変更を提供するために、細胞が遺伝的に改変される。一実施形態においては、神経細胞が遺伝子改変されることにより、CXCL1、CXCR1またはCXCR2の発現が増加する。本明細書に記載され当業者によく知られた要素および方法を利用した、homolgous組換え、組み込み、またはプラスミドまたはウイルスベクターの利用により、所望のCXCLをコードする核酸が標的細胞に形質転換されればよい。様々な実施形態実施形態において、CXCL1、CXCR1および/またはCXCR2の発現を減少させるために、神経細胞が遺伝子改変される。
【0099】
当業者には当然のことながら、グリア細胞における発現レベルは、このようなグリア細胞に投与される発現コンストラクト上にコードされる所望のポリペプチドの発現により、変更されうる。あるいは、CXCL1またはCXCR2等、所望のポリペプチドの発現にそれ自体が影響する生成物(例えばアンチセンス分子、siRNA、アプタマー)をコードする発現コンストラクトを利用することにより、発現が調節されうる。アンチセンス分子、siRNAまたはアプタマーは、当業者によく知られ、または本明細書に上述されたプロセスを利用して選択されうる。上述のもののような抗体および低分子等の他の生物活性剤も、CXCシグナリングに関わるポリペプチド等、所望のポリペプチドの発現を変更しうる。CXCR2および/またはCXCR1シグナリングは、その発現またはその上流のレギュレータまたはリガンド、またはその下流のエフェクターの発現の変更により、影響されうる。
【0100】
遺伝子発現レベルの検出は、増幅アッセイにおいて実時間で行われうる。一態様では、増幅産物が、DNAインターカレータおよびDNAグルーブバインダを含むがこれに限られない蛍光DNA―結合剤により、直接視覚化されうる。二本鎖DNA分子に取り入れられるインターカレータの量が、増幅DNA産物の量と典型的に比例するため、従来技術の光学系を使用して挿入色素の蛍光を定量化することにより増幅産物の量を都合よく決定できる。この用途に適したDNA―結合色素には、SYBRグリーン、SYBRブルー、DAPI、ヨウ化プロピジウム、Hoechste、SYBRゴールド、臭化エチジウム、アクリジン、プロフラビン、アクリジンオレンジ、アクリフラビン、フルオロクマニン(fluorcoumanin)、エリプチシン、ダウノマイシン、リン酸クロロキン、ジスタマイシンD、クロモマイシン、ホミジウム、ミトラマイシン、ルテニウムポリピリジル、アントラマイシンなどが含まれる。
【0101】
別の態様においては、増幅産物の検出および定量化を促進するために、配列特異的プローブ等の他の蛍光ラベルが、増幅反応において用いられうる。プローブベースの定量的増幅は、所望の増幅産物の配列特異的検出に依存する。それは、蛍光、標的特異的プローブ(例えばTaqManプローブ)を利用し、特異性および感受性の増加がもたらされる。プローブベースの定量的増幅を実行する方法は、従来技術において確立されており、米国特許第5,210,015号において教示される。
【0102】
さらに別の態様においては、CXC―ケモカイン関連遺伝子と配列相同性を共有するハイブリダイゼーションプローブを用いた従来のハイブリダイゼーションアッセイが実行されうる。典型的には、ハイブリダイゼーション反応において、プローブに試験対象から得られる生体試料に含まれる標的ポリヌクレオチド(例えばCXCLまたはCXCR遺伝子)との安定複合体を形成させる。当業者には当然のことながら、アンチセンスがプローブ核酸として使用される場合には、試料中に提供される標的ポリヌクレオチドが、アンチセンス核酸の配列に相補的であるように選択される。反対に、ヌクレオチドプローブがセンス核酸である場合には、標的ポリヌクレオチドが、センス核酸の配列に相補的であるように選択される。
【0103】
当業者に公知のように、ハイブリダイゼーションは様々なストリンジェンシーの条件下で実行されうる。本発明の実行に適切なハイブリダイゼーション条件は、プローブと標的CXC関連遺伝子の間の認識相互作用が、十分に特異的かつ十分に安定するようなものである。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーを高める条件は、従来技術において公知であり、公開されている。例えば、(Sambrook等、(1989),上記;Nonradioactive In Situ Hybridization Application Manual,Boehringer Mannheim,第2版)を参照。ハイブリダイゼーションアッセイは、ニトロセルロース、ガラス、シリコン、および様々な遺伝子アレイを含むがこれに限られない任意の固体担体上に固定されたプローブを使用して形成されうる。ハイブリダイゼーションアッセイは、米国特許第5,445,934号に記載されるような、高密度遺伝子チップ上で行われる。
【0104】
ハイブリダイゼーションアッセイの間に形成されるプローブ―標的複合体を都合よく検出するために、ヌクレオチドプローブが、検出可能な標識に結合される。本発明の使用に適する検出可能な標識には、光化学的、生化学的、分光学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段により検出可能な任意の組成物が含まれる。適切な検出可能な標識の様々なものが、従来技術において周知であり、蛍光または化学発光標識、放射性同位体標識、酵素または他のリガンドが含まれる。様々な実施形態においては、蛍光標識または酵素タグ、例えばジゴキシゲニン、βガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼまたはペルオキシダーゼ、アビジン/ビオチン複合体の利用が所望されうる。
【0105】
ハイブリダイゼーション強度を検出または定量化するために用いられる検出方法は、上に選択される標識に典型的に依存する。例えば、放射標識は、写真フィルムまたはホスホイメージャを使用して検出されうる。蛍光マーカーは、発光を検出するための光検出器を使用して、検出および定量化されうる。酵素標識は、酵素に基質を提供し、基質に対する酵素の反応により生成される反応生成物を測定することにより典型的に検出される。最後に、比色標識は、単に着色した標識を視覚化することにより検出される。
【0106】
対応する遺伝子産物を検査することによって、薬剤により誘導される発現CXCケモカイン関連遺伝子の変化を決定することもできる。タンパク質レベルの決定には、a)ミエリン形成細胞を含む生物サンプルに含まれるタンパク質をCXCケモカイン関連タンパク質に特異的に結合する薬剤に接触させるステップと;(b)そのようにして形成された任意の薬剤:タンパク質複合体を同定するステップを典型的に伴う。この実施形態の一態様においては、CXCケモカイン関連タンパク質を特異的に結合する薬剤は、抗体、好ましくは単クローン抗体である。
【0107】
前述の組成物および方法は、本明細書に後述される(例えば、ケモカインレセプターまたはそのリガンドによる)ケモカインシグナリングの遮断にむけられた、有効な量の治療剤のスクリーニングおよび治療のための方法に容易に適用され、ケモカインを介した免疫調節および/またはミエリン修復の増強をもたらしうることを理解されたい。
【0108】
マーカータンパク質を検出することにより、薬剤により誘導される発現CXCケモカイン関連遺伝子の変化、または薬剤により誘導される効果を決定してもよい。例えば、マーカータンパク質は、細胞の同定(例えば細胞運命マッピング)を促進するための公知技術の免疫染色技術の標的でありうる。(オリゴデンドロサイトおよびシュワン細胞を含む)ミエリン形成細胞のマーカータンパク質の非限定的な例は、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシル基転移酵素(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、オリゴデンドロサイト―ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質0(MPZ)、末梢性ミエリンタンパク質22(PMP22)、タンパク質2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群より選択されうる。MPZ、PMP22およびP2は、シュワン細胞のマーカーである。
【0109】
必要に応じて、in vivoまたは組織培養の細胞移動を追うために、たとえば、(培養またはin vivoの)細胞が、蛍光マーカータンパク質を発現するように改変されうる。本発明で使用できるマーカー遺伝子の非限定的な例には、サンゴ礁由来蛍光タンパク質(RCFPs)、HcRed1、AmCyan1、AsRed2、mRFP1、DsRed1、クラゲ蛍光タンパク質(FP)変異体、赤色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、GFP変異体H9、GFP H9―40、EGFP、テトラメチルローダミン、Lissamin、Texas Red、EBFP、ECFP、EYFP、Citrine、Kaede、Azami Green、Midori Cyan、Kusabira Orangeおよびナフトフルオレセイン、またはこれらの強化された機能的変異体が含まれる。マーカーが本発明で使用可能である、フルオロフォアタンパク質マーカーをコードする多くの遺伝子が従来技術において周知である。ウェブサイト:<cgr.harvard.edu/thornlab/gfps.htm>を参照。より強度の高い光を放出するか、波長がシフトする蛍光タンパク質の変異型も本発明の組成物および方法で利用されうる。このような変異体は従来技術において周知であり、市販される。(Clontech Catalogue,2005)を参照。
【0110】
顕微鏡観察技術により、動物から得られる細胞/組織サンプルの検査(例えば、共焦顕微鏡を用いたセクショニングおよび画像化による)ならびに生細胞の検査またはin vivoの蛍光検出のいずれかにより、蛍光(例えば蛍光タンパク質をコードするマーカー遺伝子)の視覚化が行われうる。可視化技術には、従来技術において公知の共焦顕微鏡検査または光学スキャニング技術の利用が含まれるがこれに限られない。波長が増加するにともない、バックグラウンドノイズを増加させる散乱および自己蛍光の両方が減少するため、近赤外の放出波長を伴う蛍光ラベルが、一般に深部組織画像化により適する。in vivo画像化の例は、参照により各々の開示が本明細書に組み込まれる、Mansfield等、J.Biomed.Opt.10:41207(2005);Zhang等、Drug Met.Disp.31:1054―1064(2003);Flusberg等、Nat.Methods 2:941―950(2005);Mehta等、Curr.Opin.Neurobiol.14:617―628(2004);Jung等;J.Neurophysiol.92:3121―3133(2004);米国特許第6,977,733号および6,839,586号により開示されるように、従来技術において周知である。
【0111】
スクリーニングアッセイも、特定のCXCケモカインまたはCXCRを介したシグナリング経路を選択的に阻害する薬剤をスクリーニングおよび同定するための方法を提供しうる。例えば、薬剤が、CXCR2またはそのリガンドを、CXCR1、CXCR3、またはCXCR4を介したシグナリング等の他のCXC関連タンパク質を介したシグナリング経路よりも効果的に阻害すること等により、CXCR2および/またはCXCR1が媒介するシグナリングを阻害または遮断するかを同定するために、低分子または抗体、または他のCXC関連阻害剤候補がスクリーニングされうる。あるいは、薬剤が、CXCR1を選択的に阻害し、薬剤が、CXCR2、CXCR3、またはCXCR4等、他のCXC関連タンパク質またはその経路よりも、CXCR1またはその経路の阻害において、より有効でありうる。いくつかの実施形態においては、阻害剤は、二つのCXCレセプター、例えばCXCR1および/またはCXCR2につき選択的でありうる。阻害剤は、CXCR3および/またはCXCR4と比較して、CXCR1およびCXCR2、またはそのシグナリング経路の阻害につき、より有効でありうる。阻害剤は、CXCレセプターまたはそのリガンドを直接結合しうる。阻害剤は、CXCレセプターの活性部位、またはCXCレセプターまたはリガンドの結合部位を直接結合しうる。あるいは、阻害剤は、アロステリック阻害剤でありうる。
【0112】
CXCR2発現または活性を選択的消極的に制御する、任意の種類の薬剤が、本発明の方法において選択的CXCR2阻害剤として使用されうる。CXCR1発現または活性を選択的消極的に制御する、任意の種類の薬剤が、本発明の方法において選択的CXCR1阻害剤として使用されうる。さらに、CXCR2発現または活性を選択的消極的に制御する、任意の種類の薬剤、またはCXCR1発現または活性を選択的消極的に制御し、許容可能な薬理学的性質を有する薬剤が、本発明の治療法で選択的CXCR2阻害剤および/または選択的CXCR1阻害剤して使用されうる。
【0113】
各薬剤が所定の程度に活性を阻害する濃度を決定してから、結果を比較することにより、酵素活性(または他の生物活性)の阻害剤としての薬剤の相対的効力が確立されうる。様々な実施形態において、決定は、生化学的アッセイにおいて活性の50%を阻害する濃度、すなわち、50%阻害濃度または「IC50」である。IC50決定は、従来技術において従来の公知技術を使用して行われうる。一般に、一連の濃度の検討中の阻害剤の存在下で、所与の酵素の活性を測定することにより、IC50が決定されうる。その後、実験的に得られた酵素活性の値が、使用された阻害剤濃度に対してプロットされる。(一切の阻害剤の非存在下での活性と比較して)50%の酵素活性を示す阻害剤の濃度が、IC50値とされる。同じように、他の阻害濃度が、適切な活性の測定により決定されうる。例えば、ある場合には、90%阻害濃度、すなわちIC90等を確立することが望まれうる。
【0114】
したがって、選択的CXCR2阻害剤、またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する阻害剤は、CXCR2に関して、任意または全ての他のCXCRファミリーメンバーに関するIC50値よりも少なくとも少なくとも10倍、好ましくは20倍、より好ましくは、少なくとも30倍低い、50%阻害濃度(IC50)をもつ化合物をさすものと代替的に理解されうる。したがって、選択的CXCR1阻害剤、またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する阻害剤は、CXCR1に関して、任意または全ての他のCXCRファミリーメンバーに関するIC50値よりも少なくとも少なくとも10倍、好ましくは20倍、より好ましくは少なくとも30倍低い、50%阻害濃度(IC50)をもつ化合物をさすものと代替的に理解されうる。
【0115】
例えば結合アッセイで、CXCR2に結合するCXCL8を選択的に置換する阻害剤のIC50を決定することにより、CXCR1および/またはCXCR2活性が決定されうる。コントロール細胞と比較した、好中球多形核白血球(PMNs)の動員の量により、CXCR1またはCXCR2活性が決定されてもよい。CXCR1およびCXCR2の両方のリガンドであるCXCL8は、PMN動員を促進する。CXCR1またはCXCR2阻害剤の効果を決定するために、PMN接着アッセイ、PMN活性化アッセイ、およびT細胞走化アッセイが行われうる(Castilli等、Biochem Pharma.69:385―395(2005))。他のCXCRsと比較した、遺伝子の発現レベル(例えばRT―PCRによる)またはタンパク質の発現レベル(例えば免疫細胞化学法、免疫組織化学法、ウェスタンブロットによる)により、CXCR1またはCXCR2の選択的阻害が決定されてもよい。
【0116】
別の態様においては、本発明は、グリオーシスの改善に有効な生物活性剤のスクリーニングを提供する。脱髄疾患において、アストロサイトは、自らおよびミクログリアを活性化し、グリオーシスを誘導しうる。コントロールと比較した、生物活性剤で処置した細胞における肥大した反応性アストロサイトの同定を用いて、生物活性剤がグリオーシスの改善に有効かを決定しうる。免疫細胞化学法およびドットブロットアッセイにより、脊髄アストロサイトの培養をアッセイして、分泌および結合されたコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)を分析しうる。グリア線維酸性(glial fibraillary acidic)タンパク質(GFAP)ならびに、ビメンチン等の他の中間フィラメントタンパク質、およびヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、デルマタン硫酸プロテオグリカン(DSPG)、またはケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)、およびコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)等、アストロサイトにより産生される他のプロテオグリカンの発現も検出しうる。
【0117】
グリア細胞の移動の促進に有効な生物活性剤も、決定されうる。例えば、LPCの脊柱への局所注射により成人ラットに脱髄病変を作製することにより、病変部位へのOPCsの移動が決定されうる。精製した標識されたOPCsを、病変エリアまたは隣接するスライスに注射し、それらの挙動をモニタして、この系における細胞移動を追うことができる。病変(単数または複数)内の再ミエリン化のレベルをアッセイするために、コントロールおよび治療された培養物を維持しうる。各スライスが独立しているため、単一の病変動物に複数のアッセイが行われうる。CXC―シグナリング阻害剤(例えばrepertaxin)が最も有効である、病変後間隔および用量を決定し、これによりin vivo研究を促進しうる。
B.動物モデル
いくつかの態様においては、免疫調節およびミエリン修復/再ミエリン化または軸索保護を目的とする生物活性剤の、有益な治療効果のある組み合わせを決定するためのスクリーニングアッセイが、動物モデルを利用して行われる。いくつかの実施形態においては、動物は、小型齧歯動物、またはシミアン種である。さらなる実施形態においては、動物は、マウス、ラット、モルモット、またはサルである。
【0118】
いくつかの実施形態においては、動物は、一つ以上の所望の特性を伴う、「ノックアウト」または「ノックイン」でありうる、トランスジェニック動物である。例えば、いくつかの実施形態においては、トランスジェニック動物が、免疫調節、ミエリン修復/再ミエリン化または軸索保護を促進する薬剤を発現し、または変更されたレベル(すなわちアップまたはダウン)で発現するように、改変されうる。したがって、免疫調節、ミエリン修復/再ミエリン化または軸索保護を同様に目的とした複数の異なる生物活性剤をスクリーニングするために、このような動物が利用され、トランスジェニック動物が一つのエンドポイントを目的とした薬剤を含む場合には、異なるエンドポイント(単数または複数)を目的とした薬剤が動物に投与され、逆も同様にして、本明細書に上述される神経障害または関連した状態の相乗的治療結果をもたらす治療剤の組み合わせ候補が同定される。
【0119】
上述のように、トランスジェニック動物は、「ノックアウト」および「ノックイン」という二つのタイプに広く分類できる。「ノックアウト」は、好ましくは標的遺伝子発現がわずかまたは検知不能となるように、標的遺伝子の機能の減少をもたらすトランスジェニック配列の導入による、標的遺伝子の変更を有する。「ノックイン」は、例えば、標的遺伝子の追加的コピーの導入により、または標的遺伝子の内因性コピーの発現増強を提供する制御配列を操作可能に挿入することにより、標的遺伝子の発現増加をもたらす宿主細胞ゲノムの変更を有するトランスジェニック動物である。ノックインまたはノックアウトトランスジェニック動物は、標的遺伝子に関してヘテロ接合またはホモ接合でありうる。ノックアウトおよびノックインはいずれも、「バイジェニック」でありうる。バイジェニック動物は、少なくとも二つの変更された宿主細胞遺伝子を有する。一実施形態においては、バイジェニック動物は、神経細胞特異的リコンビナーゼをコードするトランスジーンと、神経細胞特異的マーカー遺伝子をコードする別のトランスジェニック配列を担持する。
【0120】
他の実施形態においては、神経細胞の再ミエリン化を促進するかこれに有益である生物活性剤の開発にも、トランスジェニックモデル系が使用されうる。例えば、免疫調節、ミエリン修復または軸索保護の表現型をもたらす薬剤を発現するように改変されたトランスジェニック動物が、未知化合物をスクリーニングして、(1)化合物が免疫寛容を増強し、炎症反応を抑制し、または再ミエリン化を促進するか、および/または(2)化合物が動物モデルにおいて相乗的治療効果をもたらすかを決定するための方法において利用されうる。さらに、ex vivoの技術を含めて、細胞ベースまたは細胞培養の設定で行われるさらなる研究またはアッセイのために、本発明のトランスジェニック動物から神経細胞が単離されうる。さらに、モデル系を用いて、テスト薬剤が、有害効果を与えるか、または再ミエリン化を減少させるか(例えば脱髄後の傷害)をアッセイしうる。
【0121】
胚の顕微操作のための技術の進歩により、現在では哺乳類受精卵への異種DNAの導入も可能である。例えば、マイクロインジェクション、リン酸カルシウムにより媒介される沈殿、リポソーム融合、レトロウイルスインフェクションまたは他の手段により、全能性または多能性幹細胞が形質転換されうる。そして、形質転換細胞が胚に導入された後、胚がトランスジェニック動物に成長する。一実施形態においては、インフェクションされた胚からトランスジーンを発現するトランスジェニック動物が生産されうるように、成長する胚が、所望のトランスジーンを含むウイルスベクターでインフェクションされる。他の実施形態においては、好ましくは単一の細胞分裂期において、所望のトランスジーンを胚の前核または細胞質に同時注入し、胚を成熟トランスジェニック動物に成長させる。トランスジェニック動物を作製するための、これらのおよび他の様々な方法は、従来技術において確立されているため、本明細書では詳述しない。例えば、米国特許第5,175,385号および第5,175,384号を参照。
【0122】
したがって、本発明は、いくつかの実施形態において、相乗効果のある、または相乗効果が高められたコンビナトリアル処置を検出および定量化するために、動物モデルを使用する方法を提供する。一実施形態においては、方法には、(a)免疫寛容を誘導する薬剤を発現する本発明のトランスジェニック動物において、脱髄傷害を誘導するステップと;(b)候補薬剤を投与し、ミエリン修復が生じるのであればそれが生じるのを許容する時間を与えるステップと;(c)細胞特異的マーカー遺伝子(単数または複数)の発現を検出および/または定量化するステップと(d)再ミエリン化が生じたか、どのくらい生じたか、およびこのような再ミエリン化がコントロールと比較して増加したかを決定するステップが含まれる。このような例においては、コントロールは、疾患モデルが誘導される野生型、または候補薬剤が投与されないトランスジェニックでありうる。
【0123】
テスト動物に脱髄を誘導する多数の方法が、確立されている。例えば、病原体または物理的傷害、テスト動物の炎症および/または自己免疫反応を誘導する薬剤により、神経細胞脱髄をおこさせうる。様々な実施形態において、本発明の方法は、IFN―γおよびクプリゾン(ビス―シクロヘキサノンオキサルジヒドラゾン)を含むがこれに限られない、脱髄誘導性薬剤を用いる。クプリゾン誘導性脱髄モデルは、Matsushima等、(Brain Pathol.11:107―116(2001))に記載される。この方法では、試験動物に、クプリゾンを含む食餌が、約1〜約10週の範囲で数週間、典型的に供給される。
【0124】
適切な方法による脱髄状態の誘導後、先に脱髄した病変の箇所またはその付近の再ミエリン化を許容するのに十分な時間、動物を回復させる。再ミエリン化された軸索を発達させるのに必要な時間は、異なる動物の間で異なるが、一般に少なくとも約1週間、より多くの場合には少なくとも約2〜10週間、さらに多くの場合に約4〜約10週間必要である。神経系における(例えば、中枢または末梢神経系における)有髄軸索の増加を観察することにより、またはミエリン形成細胞のマーカータンパク質のレベルの増加を検出することにより、再ミエリン化を確認しうる。
【0125】
脱髄の前、同時または後に、生物活性薬が動物に投与されてもよい。グリオーシスの量が決定され、コントロール動物と生物学的に活性な薬剤で治療された動物の間で比較されうる。グリオーシスの改善に有効な生物活性剤が、確認されうる。グリオーシスは、典型的には再ミエリン化および軸索再生に対する障壁である、グリア性瘢痕に寄与しうる。反応性アストロサイトにより、グリオーシスが誘導されうる。アストログリオーシスおよびマイクログリオーシスの存在は、脱髄不全および神経炎症性疾患に典型的な特徴であるため、アストロサイト活性化およびグリオーシスが、脱髄に寄与しうる。肥大した反応性アストロサイトの同定が、免疫細胞化学的方法により決定されうる。グリオーシスを同定するために、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)、ならびにビメンチン等の他の中間フィラメントタンパク質、ならびにヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、デルマタン硫酸プロテオグリカン(DSPG)、ケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)、およびコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)等、アストロサイトにより産生されるプロテオグリカンの発現も検出されうる。薬剤がグリオーシスの改善に有効かを決定するために、GFAP、ビメンチン、HSPG、DSPG、KSPG、および/またはCSPGの発現が、生物活性剤を伴ってまたは伴わずに治療された細胞の間で比較されうる。
【0126】
CXCR2および/またはCXCR1を選択的に阻害する生物学的に活性な薬剤が、動物に投与されうる。CXCR2および/またはCXCR1タンパク質のレベルがアッセイされ、傷害エリアのグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)発現と比較されうる。脊髄が切断され、免疫組織化学法または組織学法のために処理されうる。病変全体の切片が得られ、ミエリンの染色、Luxolファストブルーで染色されればよい(図36)。病変体積および3次元イメージを構築できる3D Doctorソフトウェアプログラムを使用して、病変が再構築されうる(図36)。ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、GFAP、ED1(マクロファージ/ミクログリア)およびビメンチンに対する抗体を用いた、標準的な免疫組織化学技術を使用して、病変内のタンパク質発現が分析されうる。
V.治療法
A.用量
本明細書に開示のCXCを介したシグナリングを標的とする生物活性剤(例えば低分子、repertaxinまたはペプチド/ポリペプチド)は、治療する患者および状態、および投与ルートに応じて、一般的に1日につき体重1kgあたり0.01mg〜500mgVの用量で、例えば平均的な人では約20mg/日で投与される。範囲が広いのは、一般に異なる哺乳類に対する治療効果の有効性に幅があるためであり、用量は典型的に人間においてラットより(単位体重あたり)20、30または40倍も少ない。同様に、投与様式が、用量に大きく影響しうる。したがって、例えばラットにおける経口用量は、注射用量の十倍でありうる。典型的な用量は、毎日一回の注射または毎日複数回の注射でありうる。様々な実施形態において、このような薬剤が投与され、CXCR1および/またはCXCR2を遮断または阻害するように設計される。一実施形態においては、CXCR1、CXCR2、CXCL1、CXCL5、CXCL8またはそれらの組み合わせを遮断または阻害するために、一つ以上の薬剤が投与される。
【0127】
技術者には当然のことながら、用量レベルは、特定の化合物、症状の重症度、および対象の副作用に対する感受性の関数として変化しうる。いくつかの特定のペプチドは、他より強力である。いくつかの実施形態においては、所与の複合体の用量は、様々な手段により当業者によって容易に決定可能である。例えば、一つの手段は、所与の化合物の生理的能力を測定することである。
【0128】
いくつかの実施形態においては、ペプチド、ポリペプチドまたは抗体が、治療的であると決定された用量で投与されうる。いくつかの実施形態においては、本発明の一つ以上の組み合わせ方法の範囲内において、免疫調節成分には、1日につき体重1kgあたり0.01mg〜500mgVの用量の抗体、ペプチド、タンパク質、アプタマー、siRNA、低分子またはアンチセンスを含むがこれに限られない、ペプチドまたはポリペプチドが含まれる。いくつかの実施形態においては、このような薬剤が、同じまたは異なる用量で1日に3〜5、4〜6、5〜7、または6〜10回の間で投与される。いくつかの実施形態においては、複数のサイクルで投与が繰り返され、各サイクルに、3〜5、4〜7、6〜9、7〜10、8〜12、9〜16または10〜21日の間の薬剤投与が含まれる。
【0129】
いくつかの実施形態においては、CXCを介したシグナリングを標的とする抗体が、患者の年齢、体重、身長、性別、全般的な健康状態および過去の既往歴等のファクターに依存する用量で投与される。典型的には、レシピエントに、約1pg/kg〜10mg/kg(薬剤量/患者の体重)の範囲の、抗体成分、免疫複合体または融合タンパク質の用量を提供することが望ましいが、状況によって、それを下回るか上回る投与量も投与されうる。患者に対する抗体(または本明細書に記載の任意の生物活性剤)の投与は、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、胸膜内、髄腔内であり、局所カテーテルによる灌流または直接的な病巣内注射によればよい。治療タンパク質を注射により投与する場合には、投与は、連続注入または単回または複数回ボーラスによればよい。静脈内注射は、抗体が速やかに分布し、循環が完全であるため、有用な投与様式を提供する。このような抗体は、本明細書に開示される任意のケモカインに特異的でありうる。様々な実施形態において、このような抗体は、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL2、CXCL5、CXCL8またはIL―8に特異的であり、神経障害を治療する方法において、このような抗体が、必要とする対象を治療するために投与される。いくつかの実施形態においては、CXCRsおよび/または、CXCLsを標的とする二つ以上の抗体が、当該CXCRsおよび/またはCXCLsを発現する細胞に投与または接触させられうる。一実施形態においては、CXCR1、CXCR2、CXCL1、CXCL5、CXCL8またはそれらの組み合わせを遮断または阻害するために、一つ以上の抗体が投与される。
【0130】
他の実施形態においては、製剤における治療的に活性な抗体または抗体フラグメント(例えばFabまたはFc部分)の濃度は、約0.1〜100重量%まで変化しうる。一実施形態においては、抗体または抗体フラグメントの濃度は、0.003〜1.0モルの範囲内である。患者を治療するために、抗体または抗体フラグメントの治療上有効な用量が投与されうる。本明細書における「治療上有効な用量」とは、投与が目的とする効果(例えば、T細胞またはB細胞の同時刺激の遮断)を生じる用量を意味する。厳密な用量は、治療の目的により、当業者によって公知の技術を使用して確認可能である。用量は、体重1kgあたり0.01〜100mgまたはそれ以上の範囲、例えば体重1kgあたり0.1、1、10、または50mgであればよく、1〜10mg/kgが好ましい。従来技術において周知のように、年齢、体重、全般的な健康状態、性別、食事、投与の時間、薬物相互作用および病気の重症度だけでなく、抗体またはFc融合体の劣化、全身対局所送達、および新規プロテアーゼ合成速度を考慮した調整が必要であり得、当業者によりルーチン試験によって確認可能である。このような抗体は、本明細書に開示の任意のケモカインに特異的でありうる。様々な実施形態においては、このような抗体は、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL2、CXCL5、CXCL8またはIL―8に特異的である。いくつかの実施形態においては、一つ以上の抗体が投与され、各々がCXCR1およびCXCR2に特異的である。
【0131】
好ましくは滅菌水溶液の形での、抗体または抗体フラグメントを含む医薬組成物の投与は、経口、皮下、静脈内、鼻腔内、intraotically、経皮、局所(例えばゲル、塗剤、ローション、クリーム等)、腹膜内、筋肉内、肺内(例えば、Aradigmから市販される吸入可能技術AERx(登録商標)、またはInhale Therapeuticsから市販されるInhance(商標)肺送達システム)、膣内、非経口、直腸、または眼内を含むがこれに限られない様々な方法で行われうる。いくつかの場合には、例えば創傷、炎症等の治療のために、抗体またはFc融合体が、溶液またはスプレーとして直接適用されうる。周知のように、医薬組成物は、導入の様式に応じてしかるべく調製されうる。様々な実施形態において、抗体が、用量あたり20ミリグラム〜2グラムのタンパク質等の低タンパク質用量で、一回または反復的に、非経口投与される。あるいは、用量あたり20〜1000ミリグラムのタンパク質、用量あたり20〜500ミリグラムのタンパク質、または用量あたり20〜100ミリグラムのタンパク質の用量で、抗体は投与される。いくつかの実施形態においては、このような薬剤が、3〜5、4〜7、6〜9、7〜10、8〜12、9〜16または10〜21日の間で投与される。いくつかの実施形態においては、投与が複数のサイクルにおいて繰り返され、各サイクルに、3〜5、4〜7、6〜9、7〜10、8〜12、9〜16または10〜21日の間の薬剤投与が含まれる。
【0132】
医薬的に有用な組成物を準備するために、単独またはリポソームに結合した抗体が、公知の方法に従って調製されればよく、治療タンパク質が、薬理学上許容可能な担体と混合物において組み合わせられる。組成物は、レシピエント患者がその投与に耐えられる場合に、「薬理学上許容可能な担体」であると言われる。滅菌リン酸塩緩衝食塩水は、薬理学上許容可能な担体の一例である。他の適切な担体は、当業者に周知である。例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,第19版(1995)を参照。
【0133】
療法の目的で、抗体が、薬理学上許容可能な担体中治療上有効な量で患者に投与される。この点に関して、「治療上有効な量」は、生理的に有意なものである。その存在によって、レシピエント患者の生理機能の検出可能な変化が生じる場合に、薬剤は生理的に有意である。ここでの文脈においては、その存在によって、免疫細胞活性化、増殖または分化の遮断が生じる場合に、薬剤は生理的に有意である。いくつかの実施形態においては、免疫細胞は、T細胞またはB細胞である。
【0134】
治療的応用における抗体の作用の継続時間を制御するために、追加的な製剤方法が用いられうる。制御放出製剤が、抗体を合成または吸着するためのポリマーを用いて調製されうる。例えば、生体適合性ポリマーには、ポリ(エチレン―コ―ビニルアセテート)のマトリクスおよびステアリン酸二量体およびセバシン酸のポリアンヒドリドコポリマーのマトリクスが含まれる。(Sherwood等、Biotechnology 10:1446―1449(1992))。このようなマトリクスからの抗体の放出速度は、タンパク質の分子量、マトリクス中の抗体の量、および分散粒子のサイズに依存する。(SaltzmanおよびLanger、Biophys.J.55:163―171(1989);Sherwood等、上記)。他の固体剤形は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,第19版(1995)に記載される。
B.医薬組成物
医薬組成物は、aが製薬学的用途のために調製される場合が予定される。このような組成物には、本明細書に開示される任意のケモカインのアンタゴニストが含まれうる。いくつかの実施形態においては、このような組成物は、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL2、CXCL5、CXCL8またはIL―8のアンタゴニストである。いくつかの実施形態においては、このような組成物は、CXCR1、CXCR2、CXCL1、CXCL5、CXCL8またはそれらの組み合わせを阻害または遮断する。一実施形態においては、一つ以上の組成物が、CXCR1および/またはCXCR2を阻害または遮断する。
【0135】
所望の程度の純度を有するこのような薬剤を、任意の薬理学上許容可能な担体、賦形剤または安定剤と混合することにより(Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版、Osol,A.編、1980)、凍結乾燥製剤または水溶液の形で、このような薬剤の製剤が貯蔵のために調製される。許容可能な担体、賦形剤、または安定剤は、採用される用量および濃度においてレシピエントに対して無毒であり、リン酸、クエン酸、酢酸、および他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルオーベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベン等のアルキルパラベン類;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3―ペンタノール;およびm―クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド類;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン類等のタンパク質類;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー類;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリシン等のアミノ酸類;グルコース、マンノース、またはデキストリン類を含む単糖類、二糖類、および他の炭水化物類;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール等の糖類;甘味料および他の香味剤;微結晶性セルロース、ラクトース、トウモロコシおよび他のデンプン類等の充填剤;結合剤;添加物;着色剤;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属複合体(例えばZn―タンパク質複合体);および/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性活性剤を含む。
【0136】
いくつかの実施形態においては、本発明の生物活性剤を含む医薬組成物は、酸および塩基付加塩の両方を含む意味の薬理学上許容可能な塩類として存在するような、水溶性の形である。「薬理学上許容可能な酸付加塩」は、遊離塩基の生物学的効果を保持し、生物学的またはその他の面で不適当でない、塩化水素、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類、および酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ニッケイ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p―トルエンスルホン酸、サリチル酸等の有機酸類により形成される、塩類をさす。「薬理学上許容可能な塩基付加塩類」には、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム塩類等に由来する無機塩基が含まれる。例えば、アンモニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、およびマグネシウム塩類が使用されうる。薬理学上許容可能な有機無毒性塩基類に由来する塩類には、第一、第二、および、第三アミン類、天然の置換アミン類を含む置換アミン類、環状アミン類およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンおよびエタノールアミン等の塩基性イオン交換樹脂類の塩類が含まれる。in vivo投与に使用される製剤は、好ましくは滅菌である。これは、濾過滅菌膜による濾過または従来技術で公知の他の方法により、容易に達成される。
【0137】
CXCR―シグナリングを標的とする薬剤が、免疫リポソームとして調製されてもよい。リポソームは、哺乳類への治療剤送達に有用な様々な種類の脂質類、ホスホリピド類および/または界面活性剤を含む小さなベシクルである。生物活性剤を含むリポソームは、Eppstein等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688―3692(1985);Hwang等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4030―4034(1990);米国特許第4,485,045号;4,544,545号;および国際公開第97/38731号に記載されるような、従来技術において公知の方法により調製される。循環時間が延長されたリポソームが、米国特許第5,013,556号明細書に開示される。リポソームの成分は、生体膜の脂質配置と類似の二重層の形で一般に配置される。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG―PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発法により生成できる。所定の孔径のフィルタによりリポソームが押出されて、所望の直径のリポソームが得られる。化学療法剤または他の治療的に活性な薬剤が、リポソームに選択的に含まれる(Gabizon等、J.National Cancer Inst 81:1484―1488(1989)。
【0138】
目的の薬剤は、制御放出製剤を得るように調製されてもよい。
【実施例】
【0139】
実施例1.実験動物
全てのマウスが、Case Western Reserve UniversityのAnimal Resource Centerの、病原体のない環境でマイクロアイソレーションに保たれ、全ての手順が、承認されたIAUCガイドラインにしたがって行われた。CXCR2レセプター欠損マウス(BALB/c―Cmkar2tm1Mwm)およびマッチする野生型(WT)系統を、Jackson Laboratories(バーハーバー、メイン州)から購入した。Cxcr2−/−マウスは、C129S2(B6)―Cmkar2tm1Mwmドナー系統からこの背景に導入された、mIL―8Rh/Cxcr2遺伝子の標的変異を含む(Cacalano等、Science 265:682―684(1994))。Wendy Macklin博士により、PLP/DM20―EGFP(C57BL/6)Taconicマウスが提供された(Mallon等、J Neurosci.22:876―885(2002))。両方のマウス系統を、コロニーに近親交配することにより独立して増殖させ、そこからマウスを除去して、交配によりCxcr2+/−:PLP/DM20―EGFP+マウスを作製した。Cxcr2+/−:PLP/DM20―EGFP+マウスの兄弟交配により、混合系統のコロニーを増殖および維持し、Cxcr2+/+PLP/DM20―EGFP+およびCxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+兄弟を作製した。全ての実験が、少なくとも5回の交配からの、性別をマッチさせたCxcr2+/+およびCxcr2−/−同腹仔を用いて行われた。WTおよび標的(KO)Cxcr2対立遺伝子を同定するために、テイル溶解から単離されたDNAのPCRにより、Cxcr2遺伝子型を確認した。Cxcr2遺伝子の特異的プライマは、IMR453(5―GGTCGTACTGCGTATCCTGCCTCAG―3;SEQ ID NO:1)およびIMR454(5―TACCATGATCTTGAGAAGTCCATG―3;SEQ ID NO:2)、およびCxcr2−/−マウスにおける挿入ネオマイシン遺伝子では、JMR013(5―CTTGGGTGGAGAGGCTATTC―3;SEQ ID NO:3)、およびJMR014(5―AGGTGAGATGACAGGAGATC―3;SEQ ID NO:4)であった(Tsai等、Cell 110:373―383(2000))。PCR生成物が、1.2%のアガロースゲル上で分離された。野生型動物には、360bpの単一バンドが確認され、Cxcr2−/−マウスは、より短い280bpのバンドが確認され、ヘテロ接合体マウスは、両方が確認された。PLP/DM20―EGFPコンストラクトの発現を評価するために、マウステイルのクリップが、蛍光顕微鏡検査法により直接視覚化された。
【0140】
クプリゾンによる脱髄の誘導
Cxcr2+/+:PLP/DM20―EGFP+およびCxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+の生後8〜10週間目のマウスに、0.2%wt/wtのクプリゾン(ビス―シクロヘキサノン―オキサルジヒドラゾン、C9012、Sigma、ミズーリ州セントルイス)粉砕噛み餌を与えた。コントロールマウスには、クプリゾンを伴わない普通の食餌を与えた。ケージにつき最高三匹のマウスを一緒に収容し、マウスは性別により分離した。処置開始後3〜4週または6〜7週目の屠殺時まで、食餌を持続的にマウスに供給した。マウスの虚弱または苦痛の兆候を一日おきにモニタし、毒性による影響が強いと思われるマウスは安楽死させた。
【0141】
リゾレシチンによる脱髄の誘導
BALB/cおよびBALB/c:C57BL/6のCxcr2+/+およびCxcr2−/−マウスの両方を、これらの実験に用いた。塩酸ケタミン、塩酸キシラジン、およびアセプロマジンを含むカクテルの腹腔内注射により、生後2〜3ヵ月のマウスを麻酔した。動物に麻酔が効いたら、体重を量り、背部を剃り、O.OlmLのturbogesicを背部に皮下注射した。その後、Cunninghamマウス脊椎アダプタ(#51690,Stoelting Co.,イリノイ州ウッドデール)を伴う定位手術ベースプレートにおいて、横クランプ(#51691,Stoelting Co.,イリノイ州ウッドデール)を使用して動物を安定させた。脊柱を露出させると、この機器によるマウスの位置により、背側椎弓切除術を必要とせずに脊髄後索のセグメントが見えた。PHD200ポンプ(Harvard)に取り付けられた、1μg/μLのリゾホスファチジルコリン溶液(リゾレシチンまたはLPC;L4129、Sigma、ミズーリ州セントルイス)で満たされたホウ珪酸プルガラスマイクロピペットが、目に見える脊髄の背部血管に、ゆっくり導かれた。針を、硬膜を過ぎて脊髄後索にゆっくり挿入し、脊柱に毎分0.25μL速度でluLの1%LPCを注射する前に、やや後退させた。逆流を防ぐために、流体を注射したあと、針を1〜2分間適所にとどまらせた。将来の特定を促進するために、注射部位に隣接する軟組織に縫合を施した。動物を7〜14日間回復させてから、評価のために屠殺した。
【0142】
実施例2.組織調製
組織分析のために、マウスを、塩酸ケタミン、塩酸キシラジンおよびアセプロマジンの腹腔内注射で麻酔した後、0.1Mのリン酸緩衝液(0.1M PB)中のヘパリン(Sigma,ミズーリ州セントルイス)、続いて0.1M PB(4%PFA)中の4%のパラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences,ペンシルベニア州ハットフィールド)でかん流した。脊柱および頭蓋が除去され、4%のPFA中で一晩後固定された。脳および脊髄を、0.1M PB中の30%のスクロース(Sigma,ミズーリ州セントルイス)中で冷凍保護した。クリオスタット(Microm、ハイデルベルク)を使用して20umで切断する前に、マッチするCxcr2+/+およびCxcr2−/−の脊髄または脳を、並べてまたは独立して包埋した。切片を、ガラススライドに連続的に集め、一晩乾燥させ、分析まで−20℃で保存した。電子顕微鏡分析のために、麻酔された動物が、最初にヘパリン溶液、その後0.1Mのカコジル酸ナトリウム緩衝剤Ph=7.4中の3%ホルムアルデヒド/3%グルタルアルデヒドにより、かん流された(Electron Microscopy Sciences,ペンシルベニア州ハットフィールド)。組織を解剖し、1%のOsO4中で後固定した。試料を、段階的な一連のエタノール希釈で脱水し、Poly/Bed812樹脂(Polysciences Inc,ペンシルベニア州ワリントン)に包埋した。厚い(1μm)切片がトルイジンブルーで染色され、さらなる切断のために適切なエリアが選択された。Cxcr2−/−およびCxcr2+/+組織ブロックのマッチするエリアからの、超薄切片(100nm)が切断され、メッシュのニッケル/クーパーグリッド上に配置された。グリッドを繰り返し洗浄し、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で二重染色し、電子顕微鏡(JEOL 1200CX)を80kVで使用して視覚化した。
【0143】
免疫組織化学法
同一の脊髄および脳領域からの切片を含むスライドの、ミエリン塩基性タンパク質(MBP、ミエリン)、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP、アストロサイト)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンNG2(OPCs)、およびカルシウム結合タンパク質IBA―1(ミクログリア)の、免疫組織化学法が行われた。MBP染色では、スライドを解凍し、10分間PBS中で3回すすぎ、10分間100%のエタノールに浸し、すすぎ、一次抗体を加える前に1時間、PBS(PBST)溶液中の0.5%トリトン―X―100に浸漬した。10%NGS(普通のヤギ血清)および0.5%PBSTを含む溶液中に希釈された、ウサギ抗MBP抗体(1:100、Accurate、BMDV2017、ニューヨーク州ウェストベリー)が、加湿チャンバ内で試料に加えられ、一晩室温におかれた。GFAP染色では、スライドを解凍し、10分間PBSで3回すすいだあと、10%NGS/1%PBSTを含む溶液中に希釈されたウサギ抗GFAP抗体(1:50、DAKO Z0334、カリフォルニア州カーピンテリア)を試料に加え、一晩室温の加湿チャンバ内においた。次の日に、抗MBPおよび抗GFAPで処置されたスライドを10分間PBS中で6回すすいだ後に、10%NGS/0.5%PBSTを含む溶液中に希釈された二次抗体ヤギ抗ウサギAlexa 546(1:400、Molecular Probes/Invitrogen All010、カリフォルニア州カールズバッド)を、加湿チャンバ内で、室温で2時間加えた。その後、スライドをPBS中で6回すすぎ、4’,6―ジアミジノ―2―フェニルインドール(DAPI、D1306、Molecular Probes/Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)で対比染色し、citifluorマウンティング培地をのせた。
【0144】
CNS組織のNG2およびIBAの免疫組織化学的分析では、スライド(slites)を解凍し、0.2%PBST中ですすぎ、0.3%過酸化水素/10%トリトンX―100でインキューベートし、10%ヤギ血清/0.2%PBSTで、室温で1時間ブロックした。IBA―1染色では、1%BSA/0.2%PBST中に希釈されたマウス単クローンIBA―1抗体(1:1000、Bruce Trapp博士―CCF、オハイオ州クリーブランド寄贈)を、加湿チャンバ内で、一晩4℃で加えた。NG2染色では、切片を、抗NG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカン抗体(AB5320、Chemicon Temecula、カリフォルニア州)で、4℃で4日間インキューベートした。一次抗体ステップに続き、スライドをすすぎ、適切な二次抗体でインキューベートした。NG2では、スライドを、ビオチン化ヤギ抗―ウサギ―l:1000(BA―1000、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)で、そして1%BSA/0.2%PBST中に希釈されたABC―1:1000(PK―6100、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)でインキューベートした。切片を、DAB(3,3’―ジアミノベンジジン)/過酸化水素で室温で5分間処理し、ddHkOですすぎ、脱水し、マウントした。IBA―1染色では、1%BSA/0.2%PBST中に希釈されたヤギ抗マウスAlexa 546(1:600、Molecular Probes/Invitrogen All030、カリフォルニア州カールズバッド)を、室温で2時間加えた。その後、スライドをPBS中で6回すすぎ、DAPI(D1306、Molecular Probes/Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)で対比染色し、citifluorマウンティング培地をのせた。
【0145】
Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+およびGtcr2+/+:PLP/DM20―EGFP+マウスの切片を含むスライドの、CXCR2の免疫組織化学法を行った。これらのスライドを解凍し、10分間PBS中で3回すすぎ、十分間−20℃で5%酸性メタノールに浸し、すすぎ、20%NGS/PBS(トリトンを伴わない)で、室温で30分間ブロックした。マウス抗CXCR2抗体(1:100,Biosource/Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)をブロック中に希釈し、一晩4℃で加えた。すすぎの後、ブロック中に希釈されたヤギ抗マウスIgG Alexa 488(1:200,Molecular Probes/Invitrogen A21121、カリフォルニア州カールズバッド)を、室温で1時間加えた。その後スライドをすすぎ、DAPIで対比染色し、citifluorマウンティング培地をのせた。Cxcr2−/−組織が、陰性コントロールとして使用された。
【0146】
実施例3.PLP/EGFP+およびNG2+細胞密度の定量化
オリゴデンドロサイト系統細胞の密度を比較するため、Cxcr2+/+:PLP/DM20―EGFP+およびCxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+の性別をマッチさせた兄弟からの、脳および脊髄の所定のエリアからのマッチする切片を選択し、PLP―EGFP+細胞を自己蛍光(autoflourescence)により視覚化した。CNS組織のNG2組織学的および免疫組織化学的分析では、30μmの浮遊切片を、前述のように単離されたマウス脊髄から調製した。切片をPBST(PBS中0.2%TritonX―100)中ですすぎ、10%トリトンX―100中0.3%の過酸化水素でインキューベートし、PBST中10%ヤギ血清により、室温で1時間ブロックした。そしてこれらを、抗NG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカン抗体(AB5320、Chemicon Temecula、カリフォルニア州)で、4℃で4日間インキューベートした。5日目に、適切なビオチン化ヤギ抗ラット―1:1000(BA―9400、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)で、その後ABC―1:1000(PK―6100、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)で、組織をインキューベートした。一次抗体の添加の後の、各インキュベーションステップの後に、切片をPBSTで3度洗浄した。全ての抗体ならびにABCが、PBST中1%BSA中に希釈された。切片を、DAB/過酸化水素で、室温で5分間処理し、ddH2O中ですすぎ、脱水し、マウントした。Texas Redヤギ―抗ラット1:1000(TI―9400、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)を用いて免疫蛍光染色を行い、免疫前IgG(Sigma―Aldrich、ミュンヘン、ドイツ)を陰性コントロールとして使用した。その後、切片をガラススライドにマウントして分析した。
【0147】
蛍光顕微鏡(Leica DMR)を用いて、NG2染色またはPLP/DM20―EGFP+自己蛍光のスライドから、マッチするCNS領域を選択および記録した。画像を同様の強度レベルに調節し、所定のエリアにImage―Pro Expressソフトウェアを用いて、異なるステージのオリゴデンドロサイト系統の細胞を表すEGFP+細胞、およびOPCsを表すNG2+細胞の総数をカウントした。全てのカウントを、動物の表現型に対する盲検観察により行い、カウントしたフィールドの面積で割って密度を決定した。各領域で、各表現型の少なくとも3匹の異なる動物を比較した。データをCNS領域ごとにプールし、平均値+/−2SEMとして表わした。
【0148】
実施例4.相対的白質面積の測定
Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+およびWTの性別をマッチさせた兄弟同腹仔からの脊髄の隣り合う切片を含むスライドを、蛍光顕微鏡(Leica DMR)下で観察し、画像をOpenLab Softwareを用いて、CCDカメラ(Hamamatsu)で記録した。Image―Pro Expressソフトウェアを使用して画像を分析し、それを用いて脊髄全体の面積および灰白質の面積の測定を行った。強蛍光部の縁により灰白質と白質の間、および白質と脊髄端の間の境界を決定し、トレースして灰白質および脊髄全体の面積を得た。(脊髄全体の面積から灰白質を引くことにより計算される)白質面積の値を、全体の値で割って、脊髄全体に対する白質の面積の比を得た。各動物からの少なくとも6つの切片を、上述のように測定し、これらから、10匹のCxcr2+/+および10匹のCxcr2−/−マウスからのマッチする脊髄レベルの、脊髄全体に対する白質の面積の平均比を計算した。別々の年齢の結果が、平均値+/−標準偏差として個別に表わされる。これらをさらにプールし、平均値+/−2SEMとして表わした。
【0149】
実施例5.ミエリン厚およびランビエ絞輪の超微細構造の分析
Hewlett Packard ScanJet5300Cスキャナを使用して、背側および腹側脊髄のマッチする領域のEM画像をスキャンし、Adobe Photoshop Softwareを使用して保存した。陰性画像を逆転し、Image―Pro Expressソフトウェアを使用して、脊柱(皮質脊髄路を除く薄筋および楔状束)のランダムに選択された有髄軸索の軸索周囲長およびミエリン厚の両者の手動トレーシングにより、分析した。各軸索から、ミエリンの半径厚さの三つの別々の測定値をとり、平均して平均ミエリン厚を得た。この値を軸索周囲長の測定値で割って、軸索周囲長に対するミエリン厚の比を得た。五匹のCxcr2−/−および6匹のCxcr2+/+マウスを分析し、一連の異なる軸索サイズを評価して、軸索周囲長に対するミエリン厚の平均値を決定した。これは、繊維直径に対する軸索直径の比として定義される真のG―比ではないが、同等の測定値であり、本稿の全体にわたり擬似―G―比と呼ぶ。別個の年齢の結果が、平均値+/−2SEMとして表わされる。背側および腹側脊髄の縦断切片を、絞輪構造および組織につき分析した。
【0150】
実施例6.脊髄誘発電位および中枢神経伝導速度
Nicolet Viking IV装置(Nicolet Biomedical、ウィスコンシン州マディソン)を使用して、記録が行われた。動物を、上述のように麻酔した。0.4mmの直径の、処分可能なEEG SS―皮下の針を使用して、4.7Hzの周波数で、脊髄の腰部を刺激した。各動物につき、両側の反復性四肢収縮のあらわれにより、刺激強度をセットした。脊髄誘発電位を、頭蓋の上の、正中から等距離で垂直の二つの位置で記録した。刺激から記録電極への潜時および振幅を、動物につき少なくとも三回の試験から記録して、再現可能な波形を得た。刺激および記録電極の間の距離をセンチメートルで測り、ミリ秒での潜時で割って、各マウスの平均中枢神経伝導速度を計算した。合計10匹のCxcr2−/−および12匹のCxcr2+/+マウスを、分析した。遺伝子型および遺伝的背景によって伝導速度の結果を分け、平均値+/−標準偏差としてプロットした。
【0151】
体感覚性誘発電位(SSEPs)および化合物(CNSおよびPNS)伝導速度
Nicolet Viking IV装置(Nicolet Biomedical,ウィスコンシン州マディソン)を使用して、記録が行われた。麻酔されたマウスの後肢の脛骨領域を、3.1Hzの周波数で刺激し、脊髄の胸部で記録を行い、潜時および振幅を決定した。平均潜時および伝導速度を決定するために、各動物につき三回の記録を行った。合計7匹のCxcr2−/−および6匹のCxcr2+/+マウスを評価して、平均伝導速度を決定した。
【0152】
実施例7.ウェスタンブロット
p13Cxcr2−/−およびWTの性別をマッチさせた同腹仔からの脳および脊髄を、瞬間冷凍し、必要になるまで−80℃で保存した。RIPA溶解緩衝液/10%プロテアーゼ阻害剤の溶液中で、組織を均質化した。Peterson Modified Lowryアッセイを用いて、タンパク質濃度を決定した。約20μg/mlの上清をロードし、8〜12%SDS―PAGEゲルで分離した。タンパク質をニトロセルロース膜に転写し、TBS/Tween中3%BSA/2%ミルク/0.05%アジ化ナトリウムを含むブロック溶液の一次抗体で、一晩4℃で、以下の希釈でインキューベートした:ラビット抗GFAP多クローン抗体―1:1000(Z0334、DAKO、ミラノ、イタリア);マウス単クローンIgG1抗βアクチン―1:100(sc―8432、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州サンタクルス);マウス単クローンIgG1抗MBP―1:1000(SMI―99;Sternberger Monoclonals Inc,メリーランド州ルーサーヴィル);およびマウス単クローン抗―MBP(mAb381、Chemicon,カリフォルニア州テメキュラ)。すすぎの後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)―結合ヤギ抗ウサギIgG−1:1000(55676、MP Biomedicals、カリフォルニア州アーヴィン)またはHRP―結合ヤギ抗マウスIgG―1:1000(674281、ICN Biomedicals、カリフォルニア州アーヴィン)でブロットをインキューベートし、すすぎ、Super Signal West Pico Chemiluminescent検出試薬(Pierce,イリノイ州ロックフォード)で処理した。β―アクチン発現を、内部ローディングコントロールとして使用した。
【0153】
実施例8.脊髄細胞の解離培養の調製
WTおよびCxcr2−/−動物の間で、オリゴデンドロサイト系統細胞のin vitro成長を比較するために、出生後8日の(p8)脊髄の解離細胞培養が前述のように確立され(Warf等、J.Neurosci.11:2477―2488(1991))、in vitroで2日後に、プレオリゴデンドロサイト(proligodendrocytes)を同定するmAbO4、および新規に分化したオリゴデンドロサイトを同定するmAbO1でラベルされた(SommerおよびSchachner、Dev.Biol.83:311―327(1981))。DAPI陽性細胞の総数との関係での各異なる細胞種類の相対数を、2つの異なる調製からの、少なくとも2つの異なるカバーグラスからとったランダムに選択された10のフィールドからの表現型に対する盲検観察により、カウントした。データをプールし、平均+/−標準偏差として表わした。
【0154】
統計的分析およびプロット
OriginソフトウェアのBonferroniポストテストを用いた一元配置ANOVAおよび平均値比較により、データを分析した。有意性が、p<0.05にセットされた。値は、テキスト中で実際のp値の前に平均値+/−標準偏差として記載され、平均値+/−標準偏差または平均値+/−2SEMとしてプロットされる。全てのプロットで、アスタリスクにより有意性が示され、一つのアスタリスクはp<0.05を意味し、二つのアスタリスクはp<0.01を意味し、3つのアスタリスクはp<0.001を意味する。
【0155】
実施例9.Cxcr2−/−マウスにおけるPLP―EGFP+細胞密度の変化
CXCR2欠損がオリゴデンドロサイト系統細胞およびミエリン形成におよぼす影響を評価するために、Cxcr2−/−マウス(Cacalano等、Science 265:682―684(1994))を、PLP―EGFP+遺伝子導入マウス(Mallon等,J Neurosci.22:876―885(2002))に交配し、緑色蛍光によりオリゴデンドロサイト系統細胞の同定を可能にした。Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+マウスおよびWT同腹仔からの白質および灰白質の複数の領域の比較は、Cxcr2−/−動物におけるPLP蛍光強度の全体的な減少を示し(図1A)、オリゴデンドロサイト数の減少またはPLP発現強度の変化が示される。
【0156】
WTおよびCxcr2−/−マウスにおける、PLP―EGFP+オリゴデンドロサイト系統細胞の定量化により、脳および脊髄の両方において、ラベルされた細胞の密度の局所的相対差が明らかになった。特に、PLP―EGFP+細胞密度の増加が、Cxcr2−/−動物の脳梁(Cxcr2+/+=0.00229+/−0.00024、Cxcr2−/−=0.00256+/−0.00024、p=0.00189;平均値+/−SD、p―値)および脊髄(Cxcr2+/+=0.00240+/−0.00055、Cxcr2−/−=0.00275+/−0.00073、p=0.00059;平均値+/−SD、p―値)で観察された(図1B、C、D)。Cxcr2−/−動物の後帯状皮質(Cxcr2+/+=0.00054+/−0.00005、Cxcr2−/−=0.00045+/−0.00004、p=0.00314;平均値+/−SD、p―値)および前交連(Cxcr2+/+=0.00284+/−0.00031、Cxcr2−/−=0.00230+/−0.00021、p=0.00004;平均値+/−SD、p―値)で、減少が観察された(図1B、C、D)。海馬または脳梁では、Cxcr2−/−およびWTマウスの間にPLP―EGFP+細胞の密度の差が観察されなかった(データは図示されない、それぞれp=0.75175、p=0.41963)。
【0157】
WTおよびCxcr2−/−の脊髄のOPCsの密度を選択的に比較するために、NG2細胞の相対密度をアッセイした。Cxcr2−/−動物の脊髄は、性別をマッチさせたWT同腹仔よりも、面積あたりに有意に多くのNG2+細胞を含んだ(Cxcr2+/+=0.00263+/−0.00013、Cxcr2−/−=0.00321+/−0.00018、p=0.01126;平均値+/−SD、p―値、図2C)。さらに、Cxcr2−/−動物においては、NG2ラベル強度およびNG2+細胞突起のサイズおよび分岐が劇的に増加し(図2A,B)、細胞が軟膜表面に向かって集中した(図2A)。これらのデータを合わせると、CXCR2がオリゴデンドロサイト系統細胞数の確立に寄与し、局所的様式で寄与しうることが示される。さらに、CXCR2は、より成熟した系統段階に分化するOPCsの能力に影響し、またはOPCsの可用性を調節しうる。
【0158】
実施例10.Cxcr2−/−マウスの成長不全および早死
Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+マウスの作製により、系統差異が明らかになった。(明白な全体の表現型を有さない)BALB/cCxcr2−/−マウスをC57BL/6背景のPLP―EGFP動物に交配すると、混合背景の(BALB/c:C57BL/6)Cxcr2−/−動物には、体重増加の有意な減少(p10―15:Cxcr2+/+=6.62+/−1.40、Cxcr2−/−=4.64+/−1.53、p=0.00;平均値+/−SD、p―値、図3A)が観察され、約80%がP15前に死んだ(野生型の10倍)。WTマウスと比較してヘテロ接合体においては、死亡率増加は観察されなかった。EGFPを発現しないBALB/c:C57BL/6混合背景のCxcr2−/−マウスも、この体重および死亡率表現型を示し、EGFP発現には関係ないことが示された。動物はいずれも繁殖できなかったため、ヘテロ接合兄弟交配からBALB/c:C57BL/6Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+マウスが得られた。この混合背景のほとんどのCxcr2−/−動物には、脳重量、サイズの減少(図3B)および顔の特徴の変化(図3A)、ならびに姿勢、歩行の変化および前弯がみられた(データは図示されない)。これに対して、BALB/cCxcr2−/−動物は、前弯はあるものの、繁殖可能であり、コントロールと比較してそのような体重差または死亡率増加は特に見られなかった。
【0159】
実施例11.Cxcr2−/−マウスにおける脊髄白質面積の減少
新生仔動物においては、CXCL1/CXCR2シグナリングが、脊髄OPCの増殖および移動に影響する(Robinson等、Neurosurgery 48:864―874(2001):Robinson等、J.Neurosci.18:10457―10463(1998);Tsai等、Cell 110:373―383(2002);Wu等、J.Neurosci.20:2609―2617(2000))。CXCR2欠如によって白質形成の持続的変更が生じるかを決定するために、Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+および性別をマッチさせたWT同腹仔からのマッチする脊髄レベルにおいて、白質の相対的面積を比較した。脊髄全体における蛍光PLP―EGFP+細胞の密度増加にもかかわらず、Cxcr2−/−マウスは、アッセイした全ての年齢で、白質面積が減少していた。ミエリン形成が継続中である出生後の第一週目の終わり、p7に、白質面積の差が検出できた(図4A)。例えば、図4Aの挿入図のp7脊髄切片は、Cxcr2+/+(左)で0.393およびCxcr2−/−(右)で0.313の比を示し、Cxcr2ヌル動物における白質面積の有意な減少が示される。Cxcr2−/−およびWT動物の間の白質面積の差は、成体ではそれほど明白でなかったものの、成体までの成長の間持続した(p7:Cxcr2+/+=0.385+/−0.020、Cxcr2−/−=0.326+/−0.016、p=0.000;成体:Cxcr2+/+=0.614+/−0.011、Cxcr2−/−=0.598+/−0.014、p=0.024;平均値+/−SD、p―値;図4Aプロット)。したがって、Cxcr2−/−動物の脊髄に含まれるオリゴデンドロサイト系統細胞の数は増加したが、脊髄白質の相対的面積は減少した(図4B)。さらに、生後発育の初期の間に差がより顕著であり、Cxcr2−/−マウスが遅い速度で成長し、成熟の間に部分的に回復することが示される。
【0160】
実施例12.Cxcr2−/−マウスの脊髄白質のミエリン形成不全
成熟オリゴデンドロサイトの数の減少、ミエリン厚または軸索数の減少を含め、いくつかのファクターがCxcr2−/−動物における白質減少の原因となりえたと考えられる。Cxcr2−/−マウスにおけるNG2+およびPLP―EGFP+細胞密度の増加を前提とすると、オリゴデンドロサイトの数の減少は考えにくかった。Cxcr2−/−動物に軸索のサイズまたは数の変化、またはミエリン形成の減少があるかを決定するために、Cxcr2−/−および性別をマッチさせた同腹WTコントロールの脊髄の、電子顕微鏡(EM)分析を行った。評価した全ての年齢で、Cxcr2−/−動物に、軸索のサイズに関係なく擬似―G―比の減少が観察された(図5)。図5Bおよび5Cの軸索は、5Aおよび5Dのものよりやや小さいだけであるが、それらの周りのミエリンのターン数は大きく異なっていた。5Bおよび5Cの軸索は、それぞれ4回および6回のミエリンターンで取り巻かれていたが、5Aおよび5Dのものは11回および12回のミエリンの巻きで取り巻かれていた。図Eに示される10回の巻きを伴うもののような、Cxcr2−/−動物のより大きな軸索でも、Cxcr2+/+に見られるものと比較してミエリンが比較的薄いことが多かった。BALB/c(データは図示されない)およびBALB/c:C57Bl/6動物の両方において、Cxcr2−/−およびWT動物の間の擬似―G―比の同様の差が検出された。このミエリン形成不全は早くもp11に検出可能であり(Cxcr2+/+=0.037+/−0.010、Cxcr2−/−=0.035+/−0.010、p=0.037;平均値+/−SD、p―値)、成長の間中維持された(p15:Cxcr2+/+=0.047+/−0.010、Cxcr2−/−=0.041+/−0.011、p=0.000;p21:Cxcr2+/+=0.044+/−0.010、Cxcr2−/−=0.039+/−0.012、p=0.000;成体(BALB/c):Cxcr2+/+=0.058+/−0.017、Cxcr2−/−=0.054+/−0.017、p=0.022;平均値+/−SD、p―値、図5F)。ミエリン厚の減少は、Cxcr2−/−およびWT動物の間の軸索直径の変化と関連しなかった(データは図示されない、p=0.238―0.809)。脊髄の一致する領域の有髄および無髄軸索の総数および比率の推定値は、WT動物において単位面積あたり有髄軸索が多く無髄軸索が少ない傾向があったものの(データは図示されない、p=0.094)、Cxcr2−/−およびWTs動物の間で顕著な差はなかった。
【0161】
実施例13.中枢神経伝導速度の低下
これらの構造差により生理的表現型が生じたかを評価するために、混合背景の動物で、脊髄誘発電位の記録を行った。生後2〜3ヵ月のBALB/c:C57BL/6マウスにおいて、腰部誘発電位の中枢神経伝導速度の低下が観察された(Cxcr2+/+=0.670+/−0.037、Cxcr2−/−=0.461+/−0.032、p=0.000;平均値+/−SD、p―値;図6、左)。これらの差が、混合系統のCxcr2−/−動物の全身的変化の結果でないことを確かめるために、生後2〜4ヵ月のBALB/cマウスで研究を繰り返し、類似の結果を得た(Cxcr2+/+=0.0643+/−0.043、Cxcr2−/−=0.527+/−0.072、p=0.013;平均値+/−SD、p―値;図6、右)。BALB/cおよび混合背景のCxcr2+/+マウスの間(p=0.273)、またはBALB/cおよび混合背景のCxcr2−/−マウスの間(p=0.082)に、統計学的有意差はなかった。これらのデータは、CXCR2の非存在により、成体の神経系に機能的欠損が生じ、これらの変化が神経系に固有であり、混合背景で観察される体重およびサイズに対する全身的影響とは関係がないことを示す。CXCR2ヌルおよびWT動物の間に誘発電位振幅の有意差は見られず(データは図示されない、p=0.154)、中枢神経伝導速度の低下が固有の軸索欠損と関連しないことが示された。
【0162】
実施例14.ミエリンおよび傍絞輪ジャンクションの超微細構造の分析
ミエリン形成不全およびミエリン圧密化の変化があるマウス(Neuberg等、J.Neurosci.Res.53:542―550(1998))だけでなく、ミエリン厚または圧密化の変化がない(Bosio等、Cell Tissue Res.292:199―210(1998);Boyle等、Neuron 30:385―397(2001);Popko,Glia 29:149―153(2000))、傍絞輪ジャンクション形成不全を伴うマウスモデルにおいて、伝導速度低下が観察されている。軸索―グリアジャンクション形成またはミエリン圧密化の変化が、Cxcr2−/−動物における伝導速度低下に寄与しうるかを決定するために、傍絞輪ジャンクションの構造成分ならびにミエリンの圧密化および周期性を分析した。電子顕微鏡観察により、Cxcr2−/−のミエリン鞘は、薄いながらも、周期線および周期間線の正常な圧密化および周期性が見られることが分かった(図7A)。Cxcr2−/−およびWT動物の両方の傍絞輪ジャンクションに、無傷の良好に配向された傍絞輪ループおよび横帯(図7B)も見られ、適切な軸索―グリアジャンクション形成が示された。さらに、Cxcr2−/−およびWTマウスの間で、ランビエ絞輪のサイズまたは構造の明白な差は検出されなかった(図7C)。これらのデータは、Cxcr2ヌル動物で形成されるミエリンが構造的に正常であるが、量が減少することを示す。
【0163】
実施例15.グリアタンパク質発現の変化
Cxcr2−/−の脊髄における白質の組成をさらに分析するために、豊富なミエリンタンパク質、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)のタンパク質発現を、ウェスタンブロット分析により比較した。WTと比較して、Cxcr2−/−動物は、ミエリン形成不全と整合するMBPレベルの低下と(図12A)、PLP―EGFP発現低下を有した。興味深いことに、GFAPレベルも、Cxcr2−/−動物で低下した(図12)。GFAPの大半は白質アストロサイトにより生産されるため、この所見は、これらの動物における白質の減少と整合する。
【0164】
CXCR2シグナリングの調節は、OPCs以外の神経細胞に間接的に影響する。Cxcr2−/−動物の脊髄には、白質面積、GFAP、PLP、およびMBPの減少がみられた。正常な成長の間には、GFAPおよびMBPの発現が一致することが多く(Dziewulska等、Folia Neuropathol 37:81―6(1999);Landry等、J.Neurosci.Res.25:194―203(1990);TakashimaおよびBecker、Brain Dev.6:451―457(1984))、GFAPヌルマウスには、白質の構造的異常およびミエリン形成不全がみられる(Liedtke等、Neuron 17:607―615(1996))。正常な白質構造の確立は、部分的にケモカインシグナリングにより媒介される、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト系統細胞の間の相互作用を反映する。
【0165】
実施例16.Cxcr2−/−マウスからの脊髄培養におけるオリゴデンドロサイト分化の変化
オリゴデンドロサイト系統細胞数の差が、全身的変化の結果かCNS内の変化かを決定するために、p8Cxcr2−/−およびWT同腹マウスの培養を確立し、オリゴデンドロサイトの成長をアッセイした。in vitroで2日後に、Cxcr2−/−(図9B,E)およびWT動物(図9A,E)の培養の、O4+OPCsの数には有意差がなかった(Cxcr2+/+=0.245+/−0.137、Cxcr2−/−=0.244+/−0.093、p=0.977;平均値+/−SD、p―値)。これに対して、WT(図9C,F)と比較して、Cxcr2−/−培養(図9D,F)において、O1+分化オリゴデンドロサイトの数の有意な減少(Cxcr2+/+=0.133+/−0.071、Cxcr2−/−=0.046+/−0.024、p=0.000;平均値+/−SD、p―値)がみられた。データは、Cxcr2ヌル動物においてオリゴデンドロサイトの成熟が障害されることを示し、成体CNSに観察される構造および機能的変化の基礎となる機構を研究するためのin vitro系を提供する。
【0166】
実施例17.再ミエリン化を促進するためのCXCを介したシグナリングのモジュレータのアッセイ
脊柱へのLPCの局所注射により、成体ラットに脱髄病変を生成した。動物を傷害後最長7日まで存続させ、横および縦のスライス培養を調製する。精製されたラベルされたOPCsを、スライスの病変エリアの隣または中に注射し、それらの挙動をモニタすることにより、この系における細胞移動を追う。注射されたOPCの挙動に対するCxcr2遮断の影響をテストするために、コントロールスライスを標準の培地で成長させ、実験スライスを、異なる濃度のCXCR2阻害剤(例えばrepertaxin)の存在下で成長させる。注射された細胞の挙動を、二つの条件下で比較する。一つのコントロール実験は、薬物添加により、精製OPCsの、CXCL1により増強される、PDGFにより促進される増殖を阻害し、アッセイして、おおよその用量処方計画を確立することである。さらに、もう一つのコントロール実験は、過去の研究において有効であることが示されている抗Cxcr2抗体を使用する。
【0167】
CXCL1、および病変の隣接領域におけるOPCsのレベルを上昇させた所見に基づけば、Cxcr2阻害剤の非存在下では、注射されたOPCsは、病変に向かって移動するが隣接組織で止まり、増殖する(Omari等、Glia,53:24―31(2006))。Cxcr2の阻害剤の存在下では、病変に向かって実質的により多くの移動が生じ、したがって前ミエリン形成細胞の病変エリアへの浸潤が促進される。成長研究において、Cxcr2シグナリングの除去により、脊髄スライス培養でより広範なOPC移動が生じた。
【0168】
コントロールおよび処置された培養の一部は、病変(単数または複数)における再ミエリン化のレベルをアッセイするために、より長く維持される。各スライスが独立しているため、単一の病変動物に複数のアッセイが行われる。CXC―シグナリング阻害剤(例えばrepertaxin)が最も有効である病変後間隔および用量を決定し、これにより、より複雑なin vivo研究を促進しうる。病変/動物間の変動を考慮して、全ての研究が、少なくとも3匹の異なる病変動物からとった複数のスライスで行われる。
【0169】
実施例18.脱髄病変の修復に対するCxcr2の阻害剤の効果をアッセイする
成体ラットの脊柱に局所的脱髄病変を生成し、適切な傷害後間隔(1〜5日)をおいて、適切な用量の生物活性剤(例えばCXC―シグナリング阻害剤)を送達する浸透性ミニポンプを、動物の背部に外科的にインストールする。ポンプは、一つ以上の薬物を24〜48時間または必要に応じて送達し、動物を7〜10日間回復させる。コントロール動物は、溶媒だけを伴うミニポンプを受ける。一つの陽性コントロールは、過去の研究で使用される、市販の機能遮断抗Cxcr2抗体の使用である。生物活性剤動物およびコントロール処置動物の、3次元再構築における病変サイズを比較することにより、修復を評価する。観察される病変の小ささ(例えば再ミエリン化)に基づいて、候補治療法を選択する。
【0170】
実施例19.再ミエリン化を増強するためのCXCを介したシグナリングのモジュレータによる処置
有効な量のCXCR2―標的生物活性剤が、脱髄障害(例えばMS)を患う対象に投与される。例えば、repertaxinが、対象の体重および/または病期に基づいて決定される用量を用いて投与される。Repertaxinは、直接または全身的に対象に投与され、投与量には、約1、2、5、7、10、12、15、17、20、25、30、35または40mg/kg(mg repertaxin/kg体重)が含まれうる。さらに、毎日、毎週、または毎月の周期で、用量の複数回の投与がなされうる。例えば、複数回の投与には、毎日、毎週、または毎月1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30または40回の投与が含まれうる。
【0171】
MRI画像化、身体的器用さ、または他の臨床的評価法を含む、当業者によく知られた標準的プロセスを用いて、効力が測定される。(例えば、Noseworthy等、Curr.Opin.Neurol.10:201―210(1997)を参照)。
【0172】
実施例19.PLP発現レベルはミエリンの変化を反映し、クプリゾン曝露後にCxcr2+/+において大幅に低下するが、Cxcr2−/−マウスでは低下しない
MBPおよびPLPは、ミエリンの重要な構造タンパク質である。過去の研究により、クプリゾン処置後の、脱髄および再ミエリン化を特徴づける事象と、ミエリン関連遺伝子の発現との間の、時間的相関が示された(Jurevics等、J.Neurochem.82:126―136(2002);MatsushimaおよびMorell、Brain Pathol.11:107―116(2001))。これらの研究(Jurevics等、J.Neurochem.82:126―136(2002);MatsushimaおよびMorell、Brain Pathol.11:107―116(2001))は、脱髄とPLPおよびMBP遺伝子の発現低下との間、および、それらのその後の発現増加と再ミエリン化との間の、関連を示唆する。
【0173】
MBPおよびPLP発現は、ミエリン形成不全を呈するCxcr2−/−マウスにおいて本質的に低下する(Padovani―Claudio等、Glia 54:471―483(2006))。従って、クプリゾン処置の非存在下では、Cxcr2−/−マウス(図13B’)は、各自のCxcr2+/+の性別をマッチさせた同腹コントロール(図13 A’)よりも、PLP―EGFPの発現が低かった。しかし、Cxcr2+/+およびCxcr2−/−マウスの脳のPLP―EGFP発現を、4週間のクプリゾン処置の後に比較すると、Cxcr2+/+マウスの脳梁において、PLP―EGFPの強度の有意な減少があった(図13C’)。この減少は、評価した全ての実験の時点で、EGFPシグナルの強度においてだけでなく、Cxcr2+/+マウスにおいてEGFPリポータを発現する細胞数の、両方において明らかであり、これらの変化は、脳梁の細胞充実度の低下と相関した(13A”、B”およびD”と比較した図13C”)。処置後にCxcr2+/+マウス後にみられる減少は、処置前(図13A’)のCxcr2+/+マウスおよび処置前(図13B’)および後(図13D’)のCxcr2−/−マウスのPLPレベルの両方との関係で明白だった。Cxcr2−/−マウスには、PLPの発現の変化はなかった(図13B’をD’と比較)。
【0174】
実験の4週目時点で、MBP染色の欠如により明らかな脱髄エリアが、Cxcr2+/+(図14A、矢印)にみられたが、Cxcr2−/−マウス(図14B)にはみられなかった。これらの脱髄巣は、Cxcr2+/+マウスにおけるPLP発現低下(図14A’矢印)および細胞充実度低下(図14A’矢印)の病巣と相関した。4週目のPLP発現低下、ミエリン消失および低細胞充実度の間の相関は、クプリゾン処置後の成熟オリゴデンドロサイトのアポトーシス、ミエリン遺伝子ダウンレギュレーション、および脱髄の報告と整合する(MatsushimaおよびMorell、Brain Pathol.11:107―116(2001))。これらの変化がCxcr2−/−マウスにみられないという事実から、CXCR2の欠如により、これらのマウスにおいてオリゴデンドロサイトおよびミエリンに損傷からの保護が与えられ、またはオリゴデンドロサイト生存が促進されうることが示唆される。7週間のクプリゾン処置の後でも、Cxcr2+/+マウスからの組織には、ミエリンの広範な崩壊が認められることが多いが(図15A、A”および15C、C”)、Cxcr2−/−マウスからの組織にはみられない(図15B、B”)。ミエリンの消失は、PLP発現の消失と通常相関した(図15A、A’、矢印および15C、C’、C”、(矢印))。しかし、いくつかの場合においては、強い緑色のPLP―EGFP+細胞が、Cxcr2+/+マウスにおいて顕著なMBP減少があるエリアにみられ(図15C、C’、ドットのエリア)、マウスにおけるクプリゾン曝露により誘導される、確立された一連の事象と一致して(MatsushimaおよびMorell、Brain Pathol.11:107―116(2001))、オリゴデンドロサイトが再ミエリン化を試みている可能性があることを示唆する。
【0175】
実施例20.Cxcr2−/−マウスはCxcr2+/+マウスと異なり、クプリゾン曝露後に顕著なアストログリオーシスがみられない
PLP発現低下に加えて、以前に報告されたように、普通の食餌を与えられたCxcr2−/−マウスは、各自のCxcr2+/+のコントロールよりもGFAPの発現が低かった(Padovani―Claudio等、Glia 54:471―483(2006))。GFAPは、アストロサイトのマーカーであり、そのアップレギュレーションはアストログリオーシスと関連する。アストロサイトおよびミクログリアは、通常はクプリゾン処置の3週間後にアップレギュレートされ、このアップレギュレーションは、5週間のクプリゾン曝露によりピークに達する傾向がある(MatsushimaおよびMorell、Brain Pathol.11:107―116(2001))。これと整合して、処置前にすでにCxcr2−/−マウスより高かった(図16B)、Cxcr2+/+マウスにおけるGFAPのレベル(図16A)に、処置開始後にさらなるアップレギュレーションがみられた(図16C)。アストロサイトは、形態が変化するとともにその数が明白に増加し、反応性がより高いと思われた。それらの変化は、脳梁内で最も顕著だった(図16C)。対照的に、Cxcr2−/−マウスには、クプリゾン処置後にGFAP発現に有意な変化はみられず、これらのマウスの脳梁内には、アストロサイトがほとんど見られなかった(図16D)。GFAP発現の同様の変化のプロフィールが、6週目に、Cxcr2−/−(図17A,C)およびCxcr2+/+マウス(図17B)の両方で観察された。野生型マウスにおけるGFAP発現の増加は(図17B)、PLP―EGFP発現低下(図17B’)、および脳梁の細胞充実度増加(図17B’)と相関し、脱髄前にオリゴデンドロサイトが常在した脳梁への、アストロサイトの浸潤が示された(図17B”’、A”’およびC”’と比較)。アストロサイト瘢痕は、神経病理学的状態と関連する。したがって、Cxcr2−/−マウスにおけるPLPおよびMBP発現の維持(図16D、17A、C)とあわせたアストロサイト活性化の欠如により、CXCR2シグナリングの非存在下で病変からの保護または修復プロセスの増強があることが示される。
【0176】
実施例21.クプリゾン曝露後に、Cxcr2−/−マウスにおいてミクログリアの活性化の減少が観察される。
【0177】
ミクログリアは食細胞であり、その活性化は、食作用によるミエリン崩壊をもたらしうる。Cxcr2−/−およびCxcr2+/+マウスに普通の食餌が供給されると、ミクログリア/マクロファージ特異的カルシウム結合タンパク質IBA―1の発現レベルは、Cxcr2−/−マウスでより高かった(図18 B>A)。4週間食餌にクプリゾンを添加すると、Cxcr2+/+にはIBA―1の緩やかなアップレギュレーションがあったが(図18C)、Cxcr2−/−マウスにはなかった(図18D)。7週間のクプリゾン処置により、Cxcr2+/+マウス(図18E)においては、EBA―1発現および明白なミクログリア活性化の増加が劇的である一方で、Cxcr2−/−マウス(図18F)においては、ミクログリアはわずかに活性化されただけのように見受けられた。ミクログリアの活性化の増加は、Cxcr2+/+マウスの脳梁で特に明らかであり、そこではミクログリアが丸い形態をとっていた(図18A、C)。これに対して、Cxcr2−/−マウスにおいては、ミクログリアのアップレギュレーションは最小限であり、ほとんどのIBA―1+細胞は、静止ミクログリアに特徴的な、細胞質から伸びる長細い分枝を有した(図18B、D)。
【0178】
実施例22.脱髄病変におけるCXCL1およびCXCR2発現
成体(SD;雌)ラットの脊柱に、3≡lの1%リゾレシチン(NaCl中)を注射して、局所的脱髄病変を誘導した。CXCR2およびCXCL1タンパク質のレベルをアッセイし、傷害エリアのグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)発現と比較した(図35)。局所的脱髄病変において、CXCL1およびCXCR2発現がアップレギュレートされる。CXCR2の発現増加は、病変外ではなく病変内のGFAP+アストロサイトと関連するようである。
【0179】
実施例23.アストロサイトおよびグリア瘢痕誘導に対するCXCL1の効果
精製アストロサイト培養に対するCXCL1(0.5ng/ml)の添加は、CSPG発現を誘導し、形態を変更する。細胞をCXCL1(0.5ng/ml)で3日間処置し、免疫細胞化学法により基質上へのCSPG沈着をアッセイし、培地に放出した。ドットブロット(挿入図)によると、CXCL1が、CSPG(CSPGに対する抗体)を増加させた。GFAP(赤)、CSPG(緑)(図34)培養試験のために、脊髄アストロサイトの培養物の、CXCL1およびCXCR2のmRNA発現の基礎レベルを、RT―PCRによりアッセイした(図33)。CSPGタンパク質発現に対する3日間のCXCL1タンパク質の添加(0.5ng/ml)の効果が、脊髄アストロサイト培養に、ならびに免疫細胞化学法およびドットブロットアッセイにより行われて、分泌および結合されたCSPGが分析された(図34)。
【0180】
実施例24.成体脊髄の脱髄病変および細胞培養における中和CXCR2抗体
成体(SD;雌)ラットの脊柱に、3≡lの1%リゾレシチン(NaCl中)を注射して、局所的脱髄病変を誘導した。病変誘導の2日後に、CXCR2に対する5≡lの中和抗体またはアイソタイプIgGコントロール抗体(R&D Systems;100≡g/ml)を、病変エリアに局所注射した。全生存期間は10日であり、脊髄を切断し、免疫組織化学法または組織学法のために処理した。病変全体の切片を得、ミエリン染色のLuxolファストブルーで染色した(図36)。3D Doctorソフトウェアプログラムを使用して病変を再構築し、病変体積および3次元画像を構築した(図36)。ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、GFAP、ED1(マクロファージ/ミクログリア)およびビメンチンの抗体を用いた、標準的な免疫組織化学技術を使用して、病変内のタンパク質発現を分析した(図37)。
【0181】
実施例25.グリオーシスを改善するためのCXCを介したシグナリングのモジュレータのアッセイ
成体(SD;雌)ラットの脊柱に、1%のリゾレシチン(NaCl中)を注射して、局所的脱髄病変を誘導した。病変誘導の2日後に、グリオーシスを改善するための阻害剤候補(例えばrepertaxin、または図10に開示される化合物)を、病変エリアに局所注射する。用量は、1日につき体重1kgあたり約0.01mg〜500mgV、例えば約20mg/日である。脊髄を切断し、免疫組織化学法または組織学法のために処理する。病変全体の切片を得、ミエリン染色のLuxolファストブルーで染色する。3D Doctorソフトウェアプログラムを使用して病変を再構築し、病変体積および3次元画像を構築する。ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、GFAP、ED1(マクロファージ/ミクログリア)、およびビメンチンの抗体を用いた、標準的な免疫組織化学技術を使用して、病変内のタンパク質発現を分析する。培養試験のために、脊髄アストロサイトの培養物の、CXCレセプターおよび/またはリガンドのmRNA発現の基礎レベルを、RT―PCRによりアッセイする。脊髄アストロサイト培養物に免疫細胞化学法およびドットブロットアッセイを行って、分泌および結合されたCSPGを分析することにより、CSPGタンパク質発現が検出される。
【0182】
本発明の好ましい実施形態を、本明細書に図と共に記載したが、当業者には当然のことながら、このような実施形態は例として提供されるにすぎない。本発明から逸脱することなく、多数の変化形、変更、および置き換えが当業者によって考えられる。当然のことながら、本発明を実施する際に、本明細書に記載の本発明の実施形態の様々な代替物が用いられうる。本明細書に記載の請求が本発明の範囲を定義し、これらの請求の範囲内の方法および構造およびそれらの等価物が含まれることが意図される。
【背景技術】
【0001】
(相互参照)
本願は、2006年9月26日に出願された米国仮特許出願第60/847,656号に対する優先権を主張する。米国仮特許出願第60/847,656号は、その全体が参考として本明細書中に援用される。
(政府の支援による研究に関する声明)
本発明は、National Institute of the Healthによる、Grant番号NS36674、NS47928、およびNS32151の下で、米国合衆国政府の支援によりなされた。
(発明の背景)
多発性硬化症(MS)は、再発寛解型から慢性進行型の発現パターンまで様々な臨床症状を伴う、中枢神経系(CNS)の脱髄疾患である。MSの原因は不明であるが、自己反応性CD4+T細胞反応が、ミエリンおよびオリゴデンドロサイトに対する炎症性損傷を媒介すると認められる。(Bruck等、J.Neurol.Sci.206:181―185(2003))。CNS病変は、ミエリン損傷の病巣領域を有し、軸索障害、神経細胞損傷およびアストログリア瘢痕形成とも関連する。(Compston等、Lancet.359:1221―1231(2002))。臨床症状には、失明、麻痺、感覚障害、ならびに協調および認知障害をはじめとする、様々な神経学的機能不全が含まれる。
【0002】
さらに、ミエリンへの障害または損傷は、伝導速度および神経細胞の軸索崩壊に対する脆弱性に重大な影響を有する。さらに、軸索消失と進行性の臨床的障害の間には相関関係があり、軸索の完全性の維持には完全なミエリンが重要である。(Dubois―Dalcq等、Neuron.48,9―12(2005))。ヒトMSの初期には、自発的再ミエリン化が生じうるが、病気の後期段階における持続的なCNS炎症およびミエリン修復の失敗により、最終的には永久的衰弱がもたらされる。再ミエリン化失敗の理由の一部には、1)オリゴデンドロサイトの生存不足、2)オリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖不足、3)前駆細胞の病変部位への移動不能、および/または4)前駆細胞の、成熟ミエリン形成細胞への分化不能または露出軸索髄鞘化不能が含まれうる(Franklin,Nat.Rev.Neurosci.3:705―714(2002))。
【0003】
成人オリゴデンドロサイト前駆細胞は、再ミエリン化を担うと一般に考えられ、したがって再ミエリン化の失敗は、ミエリン形成不能につながる、成熟オリゴデンドロサイト生成の不足と少なくとも部分的に関連する。ミエリン形成は、オリゴデンドロサイトおよびその前駆細胞を特に局在化するものを含む、複数のシグナルの調整に依存する(Tsai等、Cell 110:373−383(2002);Tsai等、J.Neurosci.26:1913―s1922(2006))。例えば、脊髄オリゴデンドロサイトの正常な成長(Tsai等、J.Neurosci.26:1913―1922(2006))、適切な細胞数の制御(Barres等、Cell 70:31―46(1992);Calver等、Neuron 20:869―882(1998))、およびオリゴデンドロサイトとその標的軸索の間の相互作用の媒介のために、Netrin―1が必要とされる。(ShermanおよびBrophy、Nat.Rev.Neurosci.6:683―690(2005))。オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)は、たくさんの樹枝状分枝を有し、成人CNSに遍在的に見られる(BaumannおよびPham―Dinh、Physiol.Rev.81:871―927(2001))。さらに、OPCsは、抗原マーカーNG2およびPDGFRαの発現によりin vivoで、A2B5発現によりin vitroで特徴づけされうる。軸索萎縮が、臨床的結果の低下と強く相関することが、証拠から示唆される(例えば、軸索生存に対する脱髄の効果)。
【0004】
MSにおける障害を改善するために、再ミエリン化が、軸索伝導を回復し、露出軸索に生じうるさらなる軸索障害を防ごうとする。
【0005】
増殖により、成長する軸索をミエリン化するために十分な細胞が提供されうる(BaumannおよびPham―Dinh、Physiol.Rev.81:871―927(2001))。さらに、白質の再ミエリン化されたエリアには、脱髄されていない白質よりもオリゴデンドロサイトの数が多く(Franklin.Nat.Rev.Neurosci.3:705―714(2002))、有効な再ミエリン化プロセスのために細胞動員が必要であることを示している。OPCsは、イオンチャネルおよび神経伝達物質レセプターを発現するという事実だけでなく、アストロサイトおよびミクログリアと形態が類似するにもかかわらず、成人CNSにおける前駆細胞であると考えられるが、これらの細胞は、アストロサイトとは異なる機能および抗原特性を有することが示されている(Nishiyama等、J.Neurocytol.31:437―455(2002))。さらに、OPCsは、ミクログリアおよび神経細胞とは異なるようにみえる(Nishiyama等、Hum.Cell 14:77―82(2001))。OPCsは、移動の増加と、正常および損傷CNSの両方における広範な移動後のオリゴデンドロサイトへの分化とによって、傷害に迅速に反応する能力を有する(BaumannおよびPham―Dinh、Physiol.Rev.81:871―927(2001);PolitoおよびReynolds、J.Anat.207:707―716(2005))。
【0006】
OPCsは、ケモカインレセプターCXCR2を発現する一方、そのリガンドのCXCL1は、アストロサイト、ミクログリアおよび神経細胞のサブセットにより生産される。MSプラークにおける再増殖および再ミエリン化は、成人OPCsに通常依存し、CXCR2のシグナリングが、OPC増殖および移動を調節しうる(Robinson等、Neurosurgery 48:864―874(2001);Robinson等、J.Neurosci.18:10457―10463(1998);Tsai等、Cell 110:373―383(2002);Wu等、J.Neurosci.20:2609―2617(2000))。
【0007】
ケモカインまたは走化性因子サイトカインは、白血球の活性化因子および走化性因子として典型的に機能し(Coughlan等、Neuroscience 97:591―600(2000);RansohoffおよびTani、Trends Neurosci.21:154―159(1998))、血管形成(Ueda等、Cancer Res.66:5346―5353(2006))、癒傷(Devalaraja等、J.Invest.Dermatol.115:234―244(2000))、および腫瘍化(Loukinova等、Int.J.Cancer 94):637―644(2001);Robinson等、Neurosurgery 48:864―734(2001))を調節できる、分子量の小さい(約8―10KDa)誘導可能な分泌分子のファミリーを含む(HesselgesserおよびHoruk、J.Neurovirol.5:13―26(1999))。ケモカインの機能の知識のほとんどは、その免疫調整および炎症の制御との関連により、免疫系の研究から得られる。多くの他の生物系に関わる役割が、徐々に解明されている。
【0008】
ケモカインは、アミノ末端に保存されたシステイン残基の数にしたがって、四つのサブファミリーに典型的に分類される(Nomiyama等、Genes Immun.2:110−113(2001))。ほとんどのケモカインは、四つのシステイン残基を伴う二つの主要なサブファミリーにあてはまる。これらのサブファミリーは、二つのアミノ末端のシステイン残基の間のアミノ酸の有無にしたがって典型的に分類され、そのためCCおよびCXCケモカインと呼ばれる(HesselgesserおよびHoruk、J.Neurovirol.5:13―26(1999))。高等脊椎動物に典型的に限定されるCXCケモカインは、第一システイン残基に隣接したアミノ末端上のグルタミン酸―リシン―アルギニン(ELR)モチーフの有無に従って、さらに分類されるのが通常である。以前にGro―αとして知られたCXCL1は、好ましいレセプターがCXCR2である、CXCケモカインのELRファミリーのメンバーである(Wang等、Biochemistry 42:1071―1077(2003))。
【0009】
CXCR2等のケモカインレセプターは、百日咳毒素(PTX)感受性のGiタンパク質に典型的に連結されたGタンパク質共役レセプター(GPCRs)である(Bajetto等、Front Neuroendocrinol.22:147―184(2001))。CXCRのN末端ドメインが、リガンド結合特異性を決定するために重要であると考えられる。CXCR2は、CXCケモカインのELR陽性ファミリーの可溶性の分泌走化性サイトカインであるCXCL1を結合し、それらの相互作用が、増殖、分化、および移動等のプロセスを調節する細胞内シグナルを活性化する(Bajetto等、Front Neuroendocrinol.22:147―184(2001));Miller,Prog.Neurobiol.67:451―467(2002);Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。アクチン依存性細胞プロセスおよび接着分子発現の調整により、移動に変化が生じると考えられる(Ransohoff,J.Neuroimmunol.98:57―68(1999))。CXCR2は、血管系におけるリガンドの結合時に、一部の白血球の表面上の接着分子の発現を調節して、回転、接着、停止、および組織浸潤のための血管外漏出を許容する(Smith等、Am J Physiol Heart Circ Physiol 289:H1976―84(2005))。これは、ケモカインレセプターCXCR2を発現する単球および好中球において一般に観察される。組織に入ったこれらの細胞は、典型的には走化により、ケモカインによって炎症部位へとさらに誘導される。
【0010】
各ケモカインレセプターは、通常は単一クラスのケモカインを結合するが、同じクラスのいくつかのメンバーを高親和性で結合しうる(Horuk,Cytokine Growth Factor Rev.12:313―335(2001);Horuk等、J.Immunol.158:2882―2890(1997))。さらに、一つのケモカインが、いくつかの異なるケモカインレセプターを結合できる(Horuk,Cytokine Growth Factor Rev.12:313―335(2001))。例えばCXCR2は、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL6、CXCL7、およびCXCL8を結合できる(MillerおよびMeucci、Trends Neurosci.22:471―479(1999))。
【0011】
CXCケモカインおよびそのレセプターは、脊椎動物のCNSに発現されることが現在知られている(TranおよびMiller、Nat.Rev.Neurosci.4:444―455(2003))。ケモカインおよびケモカインレセプターは、白血球および他の免疫系の細胞の活性化因子および走化性因子として、最初に特徴付けされた。(FernandezおよびLolis、Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.42:469―499(2002))。例えば、CXCL1ケモカインレセプターのCXCR2は、神経細胞(ChoおよびMiller、J.Neurovirol.8:573―84(2002);Coughlan等、Neuroscience 97:591―600(2000))、アストロサイト(Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003))、ミクログリア、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)(NguyenおよびStangel、Dev.Brain Res.128:77―81(2001))のサブセットに発現される。
【0012】
CNSでは、神経細胞(Bajetto等、2001);アストロサイト(Filipovic等、Dev.Neurosci.25:279―290(2003);Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003);)、オリゴデンドロサイト(Filipovic等、Dev.Neurosci.25:279―290(2003);Kadi等、J.Neuroimmunol.174:133―146(2006);Tsai等、Cell 110:373−383(2002);Wu等、J.Neurosci.20:2609―2617(2000))、およびミクログリア(Filipovic等、Dev.Neurosci.25:279―290(2003);Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003);)において、生理学的条件下で、機能的ケモカインレセプターの発現が示されている。ケモカインシグナリングは、免疫系およびCNSの両方において、成長過程および病変後の細胞の移動、増殖、分化、および活性化を制御できる(非特許文献1)。しかし、CXCケモカインファミリーの祖先の系統発生学的役割は、免疫系ではなく神経系に存在することが報告されている(非特許文献2)。
【0013】
さらに、CNSにおける通常の成長過程および病変プロセスにおける、いくつかのケモカインおよびCXCR2(CXCL1―3、5―8を結合)等のそのレセプターの役割が、より広く研究されはじめている(Coughlan等、Neuroscience 97:591―600(2000)Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003);Omari等、Glia 53(1):24―31(2005))、CXCR3(CXCL9―11を結合)(Coughlan等、Neuroscience 97:591―600(2000);Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003);Omari等、Brain 128))、CCR3(CCL5,7,8,11,13,15,24,26,28を結合)(Coughlan等、Neuroscience 97:591―600(2000);Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003);XiaおよびHyman,J.Neurovirol.5:32―41(1999))およびCXCR4(CXCL12を結合)(Flynn等、J.Neuroimmunol.136:84―93(2003)Lieberam等、Neuron 47:667―679(2005))。例えば、アストロサイトおよびミクログリアは、CXCR3を発現する(MillerおよびMeucci、Trends Neurosci.22:471―479(1999))。CXCR3のリガンド、CXCL9およびCXCL10(MillerおよびMeucci、Trends Neurosci.22:471―479(1999))が、脳損傷後にアップレギュレートされ、これらの細胞の走化を誘導する(Biber等、Neuroscience112:487―497(2002))。CXCR4シグナリングは、網膜成長円錐誘導 (Chalasani等、J.Neurosci.23:1360―1371(2003))、哺乳類の運動軸索経路探索(Lieberam等、Neuron 47:667―679(2005))、感覚神経前駆細胞の移動(Belmadani等、J.Neurosci.25:3995―4003(2005))、および四肢神経支配(Odemis等、Mol.Cell Neurosci.30:494―505(2005))に重要である。CXCR4のリガンドSDF―1/CXCL12による活性化は、神経前駆細胞をCNS内の損傷部位に誘導しうる(非特許文献3)。これらの神経前駆細胞は、神経細胞、アストロサイト、およびオリゴデンドロサイトを生み出しうる(非特許文献4)。
【0014】
さらに、MSにおける脱髄領域周辺のアストロサイトおよび血管において、CXCL12がアップレギュレートされ、血液脳関門を通る免疫細胞浸潤を調節する役割をはたしうる(非特許文献5)。CXCR2は、脳および脊髄の投射神経細胞に発現され(Horuk等、J.Immunol.158:2882―2890(1997))、その活性化が、海馬神経細胞の生存を高めることが示されている。アルツハイマー病においては、アミロイドβ前駆体タンパク質と共存して老人斑周辺にも発現され(XiaおよびHyman、J.Neurovirol.5:32―41(1999))、ラットの実験的な閉鎖性頭部外傷の後には、その発現が、そのリガンドCXCL1の発現とともにアップレギュレートされる(Valles等、Neurobiol.Dis.22:312―322(2006))。最後に、CXCL1は、CNSの発達中に、オリゴデンドロサイトの反応を調節することが示されている(Robinson等、J.Neurosci.18:10457―10463(1998);Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。神経系発達および病変におけるケモカインの役割は広く研究されているが、免疫系におけるそれらの役割と比較して、今も比較的ほとんど知られていないため、研究が必要である。
【0015】
OPCsは、ケモカインレセプターCXCR2を発現し、したがってCXCL1に結合および応答しうる。マウスの初期生後発達の間には、CXCL1が、PDGF誘導性の増殖を増強し、OPCsの移動を減少させうる(Robinson等、J.Neurosci.18:10457―10463(1998);Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。アストロサイトで分泌されたCXCL1に応答したCXCR2シグナリングが、OPCsを予定白質に配置するのを助ける。それは、PDGFに対する応答も局所的に調節し、成長する軸索を良好にミエリン化するために適切なオリゴデンドロサイトの数が達成されるように、OPCsの増殖反応を強める(Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。
【0016】
CNSおよび末梢神経系に関して多くの研究がなされているにもかかわらず、脱髄を含む神経障害の治療法を開発する必要が少なからず残る。本発明は、ケモカインを介したシグナリングを標的とすることにより、神経障害を治療するための方法を目的とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Kadi等、J.Neuroimmunol.174:133―146(2006)
【非特許文献2】Huising等、Trends Immunol.24:307―313(2003)
【非特許文献3】Imitola等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:18117―18122(2004)
【非特許文献4】Ni等、Dev.Brain Res.152:159―169(2004)
【非特許文献5】Krumbholz等、Brain 129:200―211(2006)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、CXCケモカインシグナリングを調節するために有効な量の生物活性剤を投与するステップ含む、対象の神経障害の治療を目的とする方法を提供する。本方法は、中枢神経系(CNS)の免疫浸潤を減少させ神経細胞の移動、増殖、および/または分化を増強しうる。
【0019】
本発明の一態様においては、本発明は、細胞ベースのアッセイにおいて確認した場合に、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する生物活性剤を治療上有効な量、必要な対象に投与するステップを含む、神経障害を改善する方法を提供する。いくつかの実施形態においては、神経障害は、多発性硬化症を含むがこれに限られない、脱髄状態である。
【0020】
さらに別の態様においては、本発明は、グリア細胞を、グリア細胞におけるCXCRを介したシグナリングを阻害する生物活性剤に接触させるステップを含む、グリア細胞移動を促進する方法であり、当該移動が、生物活性剤と接触させないグリア細胞と比較して増加する、方法を提供する。脱髄病変がみられる対象に生物活性剤を投与するステップを含む、再ミエリン化を促進する方法であり、生物活性剤が、CXCRを介したシグナリングによるグリオーシスを抑制するのに有効であり、これにより対象における再ミエリン化を促進する、方法が、さらに提供される。いくつかの実施形態においては、CXCRを介したシグナリングは、CXCR1および/またはCXCR2を介したものである。
【0021】
本発明においては、細胞ベースのアッセイにおいて確認した場合に、グリア細胞を、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する生物活性剤に接触させるステップを含む、グリア細胞の増殖および/または分化を促進する方法であり、増殖および/または分化が、生物活性剤と接触させないグリア細胞と比較して増加する、方法も提供される。別の態様では、本発明は、細胞ベースのアッセイにおいて確認した場合に、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する生物活性剤を治療上有効な量、必要な対象に投与するステップを含む、グリオーシスを改善する方法を提供する。いくつかの実施形態においては、他のCXCレセプターは、CXCR3またはCXCR4である。
【0022】
本発明の別の態様では、生物活性剤は、CXCR1および/またはCXCR2に直接結合する。いくつかの実施形態においては、生物活性剤は、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL7、またはCXCL8を不活性化する。さらに他の実施形態においては、生物活性剤は、CXCR1および/またはCXCR2の活性を低下させる。
【0023】
いくつかの実施形態においては、生物活性剤には、ペプチド、ポリペプチド、抗体、アンチセンス分子、siRNA、低分子またはペプチドミメティックが含まれるがこれに限定されない。様々な実施形態において、生物活性剤は、図10A、10B、10Cおよび11の化合物の群より選択される。
【0024】
さらに別の態様においては、生物活性剤は、GFAP、ビメンチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、デルマタン硫酸プロテオグリカン(DSPG)、ケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)、またはコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の発現を低下させうる。
【0025】
さらに、本発明のグリア細胞は、オリゴデンドロサイト、オリゴデンドロサイト前駆細胞、シュワン、アストロサイト、ミクログリアおよびこれらの組み合わせからなる群より選択されうる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+マウスにおけるオリゴデンドロサイト系統細胞密度の領域差:(A)WTの性別をマッチさせた同腹仔と比較すると、Cxcr2−/−マウス全体が、CNSにおけるPLP/DM20―EGFP発現強度の低下を示す。この強度低下は、CNSの領域間で異なったオリゴデンドロサイト系統細胞の数の減少と相関がなかった。(B,C)皮質および前交連の、EGFP+細胞密度が低下した一方で、脊髄および脳梁は、増加したEGFP+細胞密度を含んだ。海馬(HC)または小脳(CB)においては、有意差は認められなかった。(D)WT(上)およびCxcr2−/−(下)の脊髄の後索、脳梁、および前交連からの、PLP/DM20―EGFP+細胞のマッチング画像。Cxcr2−/−の脊髄後索におけるEGFP+細胞の数が多く、前交連における数が少ないことに留意せよ。データは、少なくとも3匹のCxcr2−/−および3匹のCxcr2+/+成体マウス(≧6週)からの、平均値+/−2*SEMとしてプロットされる。一元配置ANOVAによりp値が決定された。*=p<0.05、**=p<0.01、および***=p<0.001。目盛尺=Aでは1mm、Dでは100μm。
【図2】Cxcr2−/−マウスにおけるNG2+細胞の密度および突起樹枝状分枝の増加:(A)Cxcr2−/−マウスの脊髄は、WTよりも軟膜表面に集中した、NG2+細胞の数が増加している。(B)Cxcr2−/−動物におけるNG2+細胞は、WTマウスよりも強いNG2の発現を伴う、より多くの突起を有する。(C)Cxcr2−/−の脊髄は、NG2+細胞の密度が平均22%増加している。データは、少なくとも3匹のCxcr2−/−および3匹のCxcr2+/+成体マウス(≧6週)からの平均値+/−SDとしてプロットされる。一元配置ANOVAにより、p値が決定された。*=p<0.05。目盛尺=Aでは250μm、Bでは50μm。
【図3】BALB/cおよびBALB/c:C57BL/6Cxcr2−/−マウスにおける、増殖の減少および系統関連表現型の変化:(A)混合BALB/c:C57BL/6背景のCxcr2−/−マウスは、WT同腹仔と比較して、成長低下を示した。それらには、特定の顔の特徴もみられ、顔が丸く、鼻が短くなった。(B)成長低下は、BALB/cCxcr2−/−マウスにおいても認められたが、その程度はずっと小さかった。(C)Cxcr2−/−マウスからの脳は、WTの性別をマッチさせた同腹コントロールより小さかった(混合背景のマウスからの脳が、図示される)。この減少は、体全体の大きさの減少と比例していた。体重データは、(A)出生時から異なる年齢の範囲に分類された60匹のCxcr2−/−および57匹のCxcr2+/+マウス、および(B)各背景の各遺伝子型からの約12匹の成体(≧6週)からの、平均値+/−SDとしてプロットされる。一元配置ANOVAにより、p値が決定された。*=p<0.05および***=p<0.001;NS=有意でない。
【図4】Cxcr2−/−マウスの脊髄における持続的な白質減少:(A,B)全脊髄面積に対する白質の相対的面積の比較により、Cxcr2−/−マウスにおける白質面積の減少が示される。Aの挿入図は、p7Cxcr2−/−およびWTマウスからの脊髄の半分の断面を示し、白質の減少が示される。(A)この差は、成長中に減少するが、成体期(≧6週)においてなお有意である。(B)Cxcr2−/−マウスの白質面積に全体的に平均14%の減少が認められた。個々の年齢のデータが、平均値+/−SDとしてプロットされ、累積的データが、平均値+/−2*SEMとしてプロットされる。収集されたデータは、10匹のCxcr2−/−および10匹のCxcr2+/+マウスからのものである。一元配置ANOVAにより、p値が決定された。*=p<0.05、**=p<0.01、および***=p<0.001。目盛尺=100μm。
【図5】Cxcr2−/−マウスの脊髄における持続的なミエリン形成不全:(A―E)WT(A,D)およびCxcr2−/−(B,C,E)マウスからの同様の大きさの軸索の電子顕微鏡写真は、Cxcr2−/−マウスにおいて、全ての大きさの軸索周辺でミエリン厚が減少していることを示す。(F)差を定量化し、その有意性を決定するために、様々な年齢の、マッチするCxcr2−/−およびWTの性別をマッチさせた同腹マウスの脊髄から、150〜350のランダムな軸索を測定し、それらの軸索周囲長に対するミエリン厚の比を計算した。結果は、平均値+/−2*SEMとしてプロットされる。一元配置ANOVAにより、p値が決定された。*=p<0.05、**=p<0.01および***=p<0.001。A〜Eにおける目盛尺=200nm。
【図6】Cxcr2−/−マウスにおける中枢神経伝導速度の減少:BALB/c:C57BL/6および純粋なBALB/c背景の両方の、生後2〜4ヵ月のCxcr2−/−およびCxcr2+/+マウスの腰髄を、皮下電極で刺激し、脊髄誘発電位の記録を吻側で作製した。Cxcr2−/−において、遺伝的背景に関わらず伝導速度の有意な減少が認められ、これらの変化が成長表現型と関係ないことが示された。結果は、平均値+/−SDとしてプロットされ、一元配置ANOVAによりp値が決定された。*=p<0.05および***=p<0.001。
【図7】Cxcr2−/−マウスにおける正常なミエリン圧密化および周期性、および傍絞輪部および絞輪部の構造:(A)Cxcr2−/−マウスからのミエリンは、薄いが正常な圧密化および周期性を有した。ボックスは、下のWTの画像の上に、同様の大きさの軸索からのCxcr2−/−のミエリンを重ね合せたものを表わす。(B)Cxcr2−/−マウスでは、傍絞輪部ループおよび横帯がよく発達して配向され、(C) ランビエ絞輪および傍絞輪領域の構造には、顕著な差は明らかでなかった。A〜Cにおける目盛尺=200nm。
【図8】CNS軸索を髄鞘化するオリゴデンドロサイトの概略図を示す。
【図9】Cxcr2−/−脊髄から得た混合培養における、オリゴデンドロサイト成熟不全:p8Cxcr2−/−およびWT同腹仔からの混合脊髄培養が作製され、(A―B)プレオリゴデンドロサイトのマーカーO4、および(C―D)新たに分化したオリゴデンドロサイトのマーカーO1で、プレーティングの48時間後に染色された。Cxcr2−/−およびWTマウスからの培養において、細胞の総数に対する陽染細胞の数を定量化すると、Cxcr2−/−培養は、O1+細胞の生成に有意な減少(〜60%)がみられた(F)。しかし、O4+細胞の生成には、Cxcr2−/−およびWTマウスの間で有意差がなかった(E)。結果は、平均値+/−SDとしてプロットされる。一元配置分散分析により、p値が決定された。*=p<0.05。目盛尺=50μm。
【図10A】様々なCXCR1/CXCR2アンタゴニストを示す。
【図10B】様々なCXCR1/CXCR2アンタゴニストを示す。
【図10C】様々なCXCR1/CXCR2アロステリック阻害剤を示す。
【図11】repertaxin(R(―)―2―(4―イソブチルフェニル)プロピオニルメタンスルホンアミド)の構造式を示す。図のように、repertaxinは、L―リシンにより塩化される。
【図12】Cxcr2−/−マウスのCNSにおける、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、およびグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)の発現低下:(A)生後2〜4週間目のCxcr2−/−マウスからの脳のウェスタンブロットで、性別または年齢にかかわらず、MBPの発現低下がみられた。4週間目のCxcr2−/−マウスにおいて、PLPの発現も低下し、ミエリン形成不全と整合した。4週間目のCxcr2−/−マウスからのウェスタンブロットにおいて、GFAPの検出も同様に減少した。Cxcr2+/−およびCxcr2+/+マウスの間で、これらのタンパク質のレベルの差は明らかでなかった。(B,C)Cxcr2+/+:PLP/DM20―EGFP+およびCxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+マウスの脊髄(B)および脳(C)の免疫組織化学法を用いて、ウェスタンブロットにより観察されたGFAPの減少を確認した。β―アクチンが、全てのウェスタンブロットにおいてタンパク質負荷のマーカーとして使用された。スケールバー=100μm。
【図13】CXCR2阻害が毒素誘発性脱髄の後のオリゴデンドロサイト生存を誘導すると思われる:Cxcr2+/+およびCxcr2−/−の性別をマッチさせた同腹仔の間で、クプリゾン処置の前(A―A”およびB―B”)および4週後に(C―C”およびD―D”)MBPおよびPLPの発現が比較される。PLPプロモータ誘導性のEGFPの発現が、これらのマウスにおいて、オリゴデンドロサイト系統の細胞のマーカーとして使用された。非処置群においては、Cxcr2−/−マウスは、Cxcr2+/+同腹仔(A’>B)と比較して、PLP発現が低下していた(B’<A’)。4週間のクプリゾン曝露後、Cxcr2−/−マウスには、PLP発現の変化はみられなかった(B’=D’)が、Cxcr2+/+マウスには、PLP発現の劇的な減少がみられた(A’>>>C’)。脳梁の細胞充実度も(ドットのエリアを指す矢印)、Cxcr2+/+マウスにおいては、処置前のレベル(C”<A”)および4週間のクプリゾン処置後のCxcr2−/−の性別をマッチさせた同腹仔(C”<D)のレベルと比較して、激減した。これは、野生型マウスにおいてはオリゴデンドロサイトが消失し、Cxcr2−/−マウスにおいては、オリゴデンドロサイトが細胞死から保護され、または生存が増強されることを示す。
【図14】4週間のクプリゾン処置後の、Cxcr2−/−ではなく、Cxcr2+/+マウスの脳梁における脱髄:クプリゾン処置の開始4週間後の、性別をマッチさせたCxcr2+/+およびCxcr2−/−同腹マウスの、脳のマッチするエリアのMBP免疫組織化学法では、Cxcr2+/+にミエリン消失のエリアが見られた(A、矢印))が、Cxcr2−/−マウスには見られなかった(B)。カラムA―A”’の矢印によって示されるように、Cxcr2+/+マウスの脳のMBP染色がないエリア(A)は、PLP発現低下(A’)および細胞充実性低下(A”)のエリアと相関した。これらの変化は、Cxcr2−/−マウスには見られなかった(B―B”)。
【図15】クプリゾン処置の7週後の、Cxcr2+/+マウスと比較したときの、Cxcr2−/−マウスの脳梁における病変量の減少:Cxcr2+/+マウスの脳梁における、MBPおよびPLPの両方の発現の欠如により、広範なミエリン崩壊のエリア(矢印)が観察できるが(A―A”、C―C”)、Cxcr2−/−の性別をマッチさせた同腹仔には観察できない(B―B”)。Cxcr2+/+マウスからの組織のMBP染色では、非常に低レベルのMBPを発現する一定のエリア(ドット、C)が、高密度のPLP―EGFP+細胞(ドット、C’)と相関し、これらの細胞が、脱髄病巣(ドット、C”)の再ミエリン化を試みていると考えられることが示唆された。
【図16】クプリゾン処置の4週後の、Cxcr2−/−ではなく、Cxcr2+/+マウスの脳梁におけるアストログリオーシス:Cxcr2−/−およびCxcr2+/+マウスからのCNS組織の分析から、Cxcr2−/−マウスにおけるGFAPの発現低下(B<A)が以前に明らかになり、CXCR2がアストロサイトの生理機能を調節しうることが示されている。この観察と整合して、Cxcr2+/+マウス(C)において有意なGFAPアップレギュレーションが観察される時点である、4週間クプリゾンに曝露した後に、Cxcr2−/−にGFAPのアップレギュレーションは認められなかった(D)。この差は、脳梁内で、最も顕著だった(ドットのエリア)。
【図17】クプリゾン処置の6週後の、Cxcr2−/−ではなく、Cxcr2+/+マウスの脳におけるアストログリオーシス:クプリゾン処置の6週目に、Cxcr2+/+マウスの脳梁に(ドットのエリア)顕著なアストログリオーシスがなお見られる(B)という事実にも関わらず、Cxcr2−/−組織のGFAP染色(A,C)は、処置前のレベルから区別がつかない。処置の6週目のCxcr2+/+マウスにおけるGFAP発現の増強(B)は、PLP発現低下(B’)と相関する一方、Cxcr2−/−マウスにおいては、これらのパラメータの変化は一切見られなかった(A―A’、C―C’)。6週目のCxcr2+/+マウスにおける脳梁の細胞充実性(B”、円)は、処置前より高く、GFAP発現増加(B、B”、円)およびPLP発現低下(B’、円)と相関し、オリゴデンドロサイトが常在していた病変部へのアストロサイトの浸潤が示された。
【図18】Cxcr2−/−マウスにおける、クプリゾン処置に対するミクログリアの反応の変化:非損傷Cxcr2−/−マウスは、Cxcr2+/+同腹コントロール(A)と比較すると、IBA―1発現が増加していた(B)。4および7週間のケモカイン処置は、Cxcr2+/+マウスにおいて、これらのIBA―1陽性ミクログリアの有意な活性化を誘導した(それぞれC、E)。Cxcr2−/−マウスにおいては、4週目にはミクログリア活性化は観察されず、処置の7週目ではわずかだった(それぞれD、F)。7週目までに、Cxcr2+/+マウスの脳梁内のIBA―1+細胞の密度は(E)、極めて高かったが、Cxcr2−/−マウスでは正常に近かった(F)。
【図19】Cxcr2+/+およびCxcr2−/−マウスにおける、クプリゾン処置に反応したIBA―1+細胞の数および形の変化:Cxcr2+/+およびCxcr2−/−マウスのクプリゾン処置の後にIBA―1+細胞に観察される差は、これらの細胞の数および活性化状態または構造の両方によるものと思われる。Cxcr2+/+マウスからのIBA―1+細胞(A,C)は、Cxcr2−/−マウスからのものより、概して太く、密度が高いように見受けられた。Cxcr2−/−マウスにおけるIBA―1+細胞(B,D)は、外観が太いかわりに、静止または休眠ミクログリアに典型的な複数の長く細い分枝を有することにより特徴付けられた。
【図20】末梢神経系シュワン細胞のCXCR2の発現:Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+およびCxcr2+/+:PLP/DM20―EGFP+マウスから得た座骨神経のCXCR2の免疫組織化学法では、PLP―EGFP+シュワン細胞のサブセットにCXCR2の発現が見られた。
【図21】Cxcr2−/−マウスにおける座骨神経軸索のミエリン形成不全:Cxcr2−/−マウスは、CNSに観察されるものに加えて、末梢神経系(PNS)にミエリン形成不全を有するように見受けられた。Cxcr2+/+およびCxcr2−/−マウスの座骨神経からの同様の大きさの軸索の電子顕微鏡写真が示される。ミエリンの厚みが、全てのサイズの軸索周辺で減少するが、大きな軸索周辺で多く減少するように見受けられる。差を定量化し、それらの有意性を決定するために、一匹のCxcr2−/−および二匹の野生型の性別をマッチさせた同腹マウスの座骨神経からの〜100のランダムな軸索を測定し、軸索周囲長に対するミエリン厚の比を計算した。結果は、平均値+/−2*SEMとしてプロットされる。p=0.0003。
【図22】Cxcr2−/−マウスにおける、神経インパルス伝導の低下への、末梢神経系の寄与の可能性:Cxcr2−/−動物は、WT同腹仔と比較すると、脊髄誘発電位および体感覚性誘発電位の中枢伝導の減失を示す。BALB/c:C57BL/6および純粋なBALB/c背景の両方の、生後2〜4ヵ月のCxcr2−/−およびCxcr2+/+マウスの、腰髄(CNS)または頸骨神経(PNS+CNS)を、皮下電極で刺激し、吻側で記録を作成した。Cxcr2−/−においては、遺伝的背景に関わらず、伝導速度の有意な減少(15〜30%)が認められ、これらの変化が混合背景のマウスに観察される成長表現型と関係がないことが示された。伝導速度減少のパーセントを、末梢要素を含む実験またはCNSに制限される実験の間で比較すると、末梢要素が、BALB/cマウスにおける伝導速度の減少に寄与している可能性があるように見受けられた。これは、図21に示されるミエリン形成不全と整合する。
【図23】脊髄におけるオリゴデンドロサイト前駆細胞の発生および分散:脊髄のオリゴデンドロサイトは、脳室帯(VZ)に生じ、局所的化学忌避および遠隔の化学誘引キューの組み合わせにより予定白質に移動し、そこで移動を止め、分裂促進シグナルに応答して増殖する(左)。増殖期が終わると、これらの細胞は、局所的な分化キューに応答し、最終的にミエリン形成オリゴデンドロサイトに成熟する(右)。(VZ=脳室帯;FP=底板、NTC=脊索)
【図24】オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト細胞系統:神経細胞およびタイプIアストロサイトと同様に最初に幹細胞から発生する、A2B5、NG2、および血小板由来成長因子レセプターα(PDGFRα)を発現するオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)は、in vitroでプレオリゴデンドロサイトに構成的に分化し、または骨形成医薬品4(BMP4)によりタイプIIアストロサイトを産出するように誘導される能力を典型的に有する。プレオリゴデンドロサイトは、分化時に通常、単クローン抗体(mAb)O4により同定されうるスルファチドを発現する。その後、典型的にガラクトセレブロシドを発現し、未熟オリゴデンドロサイトとして分類される。未熟オリゴデンドロサイトは、mAb O1でラベルでき、生存が特異的キュー/シグナルに典型的に依存し、その非存在下ではアポトーシスする。プログラム細胞死しない細胞は、さらに成熟しうる。未熟および非ミエリン形成およびミエリン形成成熟オリゴデンドロサイトは、典型的には、分裂促進因子PDGFにもはや応答しない。ミエリンを生産可能な最も成熟した形態は、通常ミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)等のミエリン特異的タンパク質を発現する。オリゴデンドロサイト系統の細胞は、成長の全段階で、DM20および/またはPLPを典型的に発現する。(BaumannおよびPham―Dinh、Physiol.Rev.81:871―927(2001);Miller,Prog.Neurobiol.67:451―467(2002);PolitoおよびReynolds、J.Anat.207:707―716(2005))
【図25】オリゴデンドロサイト、ミエリンおよび神経伝導:軸索に巻きつく、オリゴデンドロサイト細胞膜からの脂肪の絶縁体であるミエリンは、CNSにおける活動電位の迅速な伝達を助ける。無髄軸索(上)においては、活動電位が裸の軸索膜に沿って順に広がると同時に、連続的な脱分極波がある。有髄軸索(下)においては、エネルギーの流れは連続的ではなく、一つの絞輪から次へ「ジャンプ」し、そこに蓄積したナトリウムチャネルによって、活動電位が再び発生する。跳躍伝導と称されるプロセスにおいて脱分極が不連続になり、これにより神経インパルスの伝導が非有髄繊維よりも速くなる。(OD=オリゴデンドロサイト、N=神経細胞)
【図26】脱髄後のナトリウムチャネル再編成および伝導速度の変化:絞輪間の下の軸索膜は、活動電位を再生するために必須であるナトリウムチャネルの濃度が非常に低いため、脱髄軸索では伝導遮断が生じうる。この膜が露出すると、髄鞘のないエリアに活動電位が広がることができない。その後、適切な伝導を回復しようとする中で、髄鞘により覆われていた膜に、ナトリウムチャネルのアップレギュレーション(茶色のドット)が生じる。(OD=オリゴデンドロサイト)
【図27】多発性硬化症のタイプ:脱髄疾患の多発性硬化症は、寛解の有無および機能障害性の症状の蓄積にしたがって、様々なタイプに分類される。良性寛解型(BR)MS(約10%)においては、再発があるが、代償機構がベースライン機能を再発前のレベルに回復するのに十分であるように見受けられる。再発寛解型(RR)MS(約50%)においては、再発後の回復が完全でなく、ある程度の障害が残る。再発が何度も生じるにつれ症状が悪化し、障害が増加する。二次進行型(SP)MS(約30%)は、RRMSとして始まるが、ある時点で明白な寛解が生じず、患者の健康が悪化し続ける。一次進行型(PP)MS(約10%)においては、寛解はなく、機能障害性の症状が連続的に蓄積される。(JoyおよびJohnston、Editors.Multiple Sclerosis:Current Status and Strategies for the Future(2001))
【図28】Gタンパク質共役ケモカインレセプターCXCR2、そのリガンドおよびその機能:ケモカインレセプターCXCR2は、Gタンパク質共役レセプター(GPCR)ファミリーのメンバーである。CXCR2は、CXCケモカインのELR陽性ファミリーの可溶性分泌化学誘引サイトカインである、CXCL1を結合しうる。それらの相互作用は、増殖、分化、および移動等のプロセスを調節する細胞内シグナルを活性化する。GPCRsは、7つの膜貫通レセプターであり、それらの細胞内カルボキシ末端および細胞質ループは、三つのサブユニット(α、β、γ)で構成されるヘテロ三量体Gタンパク質複合体を結合する。活性化時には、αおよびβγ部分が分離し、二次メッセンジャーとして働く細胞内エフェクターをさらに活性化する。それらの標的のいくつかは、活性化がホスファチジルイノシトール(PI)産生および細胞内カルシウム増加をもたらすホスホリパーゼ―C(PLC)、および、生成物が走化中の極性移動のためにアクチン細胞骨格系を構築できるPI3キナーゼ(PI3K)である。ヘテロ三量体Gタンパク質複合体の活性化は、GPCRsの細胞質部分を結合し、ヘテロ三量体Gタンパク質複合体との相互作用を妨げる調節タンパク質である、アレスチンにより阻害されうる。アレスチン結合は、レセプターインターナリゼーションおよびリサイクリングも助け、これによりレセプターシグナリングを調節する。
【図29】オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)に対するCXCL1/CXCR2の効果:オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)は、化学忌避および化学誘引キューの組み合わせにより、予定の白質に導かれる。予定白質で、アストロサイトにより局所的に分泌されるケモカインCXCL1に出会うと考えられる。OPCsの表面上における、CXCL1のCXCR2への結合により、これらの細胞が移動を止め、マイトジェンPDGF(血小板由来成長因子)に反応しやすくなるように誘導される。適切な数のオリゴデンドロサイトが成長して、局所的に成長する軸索のミエリン需要を満たすことを確保するために、増殖が必要である。
【図30】ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)によるCxcr2遺伝子タイピング:テイルクリップから単離したマウスDNAサンプルを、1.2%アガロースゲルのウェルの、既知のサイズのフラグメントの標準のDNAラダーの隣にロードする。ゲルを含むチャンバが、電流を生成する。負に帯電したDNAが、チャンバ上部の負電荷により反発され、底の正電荷により引きつけられる。DNAの移動時には、大きなサイズのDNAフラグメントほどゆっくりと移動し、遠くに移動しない。Cxcr2−/−マウスは、Cxcr2遺伝子の欠失を有し、そのためDNAが短く(野生型の360bpに対して280塩基対(bp))、ゲル中でより遠くに移動する。
【図31】脊髄に対する白質面積の測定:面積を測定するために、脊髄の端ならびに灰白質(中心)と白質(緑色端)の間の境界をトレースした。脊髄面積全体から灰白質の面積を引くことにより、白質の面積を計算し、これらの値を用いて、脊髄面積全体に対する白質面積の比を計算した。
【図32】軸索周囲長に対するミエリン厚の測定:図は、黄色で重ねられた軸索周囲長のトレースと、黒色の三つの別個のミエリン厚測定値(線X,Y,Z)とを伴う、電子顕微鏡を用いて撮影された軸索の断面を示す。平均ミエリン厚を計算し、軸索周囲長で割ってそれらの比を決定した。
【図33】精製された脊髄のアストロサイトはCXCL1およびCXCR2mRNAを発現する:脊髄から得た精製アストロサイトから抽出されたRNAに、RT PCRが行われた。結果は、アストロサイトにCXCL1およびCXCR2が存在することを示す。
【図34】アストロサイトおよびグリア瘢痕の誘導に対するCXCL1の効果。精製されたアストロサイト培養物へのCXCL1(0.5ng/ml)の添加は、CSPG発現を誘導し、形態を変更する。細胞をCXCL1(0.5ng/ml)で3日間処置し、免疫細胞化学法により基質上へのCSPG沈着をアッセイし、培地に放出した。ドットブロット(挿入図)によると、CXCL1は、CSPG(CSPGに対する抗体)を増加させた。GFAP(赤)、CSPG(緑)。
【図35】脱髄病変においてCXCL1およびCXCR2が誘導される。LPC病変の3日後にCXCR1およびCXCR2を分析する免疫組織化学法。DAB染色により示されるように、CXCLタンパク質が病変内でアップレギュレートされる。CXCR2は、病変内ではGFAP+細胞と共局在するが、病変外では共局在しない。
【図36】CXCR2の中和は脱髄LPC病変を減少させる。中和抗CXCR2抗体のLPC誘導性病変への局所注入の結果、病変サイズの減少および実質的な形態回復が生じる。アイソタイプコントロール抗体(左パネル)またはCXCR2に対する中和抗体(右パネル)で処置された、10日のLPC病変のLuxol Fast Blue染色(上パネル)および三次元再構築(下パネル)。再構築は、CXCR2遮断を伴う動物における、病変体積の96%減少を示す(グラフ)。
【図37】CXCR2の中和は、病変の外部領域における、GFAP免疫反応性およびED1+反応性を低下させる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書に記載の全ての刊行物および特許出願が、個々の刊行物または特許出願が特に個々に参照により組み込まれるものと示されるのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
一般的技術:
本発明の実行は、特に明記しない限り、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ジェノミクスおよび組換えDNAの従来技術を用い、それらは技術の熟練の範囲内である。Sambrook、FritschおよびManiatis、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,第2版(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubel等編、(1987));シリーズMETHODS IN ENZYMOLOGY(Academic Press,Inc.):PCR 2:A PRACTICAL APPROACH(M.J.MacPherson、B.D.HamesおよびG.R.Taylor編(1995)),HarlowおよびLane等(1988)ANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL、およびANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney編(1987))。
定義:
本明細書および請求項において用いられるところの、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈から逆が明らかでない限り、複数への言及を含む。例えば、用語「細胞(a cell)」は、その混合物を含めて、複数の細胞を含む。
【0028】
用語「コントロール」は、実験において比較目的で使用される代替物、細胞またはサンプルである。さらに、「コントロール」は、異なる時点を比較するための、実験中の同じ物、細胞またはサンプルを表すこともできる。
【0029】
用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、互換可能に使用される。それらは、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの、任意の長さのポリマー型のヌクレオチドまたはそのアナログをさす。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有し、既知または未知の任意の機能をはたしうる。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子または遺伝子フラグメントのコードまたは非コード領域、連鎖分析から定義される座位(遺伝子座)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマ。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログ等の修飾ヌクレオチドを含みうる。存在する場合には、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーの構築の前または後に与えられうる。非ヌクレオチド成分により、ヌクレオチドの配列が中断されうる。ポリヌクレオチドは、標識成分との結合等により、重合後にさらに修飾することができる。
【0030】
本明細書で使用されるところの「発現」とは、ポリヌクレオチドがmRNAに転写されるプロセスおよび/または転写されたmRNA(「転写産物」とも呼ばれる)がその後ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に変換されるプロセスを指す。転写産物およびコードされたポリペプチドは、「遺伝子産物」と集合的に呼ばれる。ポリヌクレオチドが、ゲノムDNA由来である場合は、発現は、真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含みうる。
【0031】
用語「送達」および「投与」は、薬剤が対象、組織、または細胞に入ることを意味するために、本明細書において互換可能に使用される。本明細書の開示の全体にわたり使用される用語には、特定の用語が文法上変化したものも含まれる。例えば、「送達」は、「送達している」、「送達される」、「送達する」等を含む。生物活性剤の送達または投与の様々な方法は、公知技術である。例えば、本明細書に記載される一つ以上の薬剤が、非経口的に、経口的に、腹膜内に、静脈内に、動脈内に、経皮的に、筋肉内に、リポソームで、カテーテルまたはステントによる局所送達を介して、皮下に、脂肪内に、または髄腔内に送達されうる。さらに、薬剤の特性に応じて、プラスミドベクター、ウイルスベクター、またはリポソーム製剤およびミニ細胞を含む非ウイルスベクター系を介して、薬剤が送達されうる。
【0032】
対象における、ヌクレオチド配列またはポリペプチド配列に適用される、「特異的に発現される」という用語は、コントロールにおいて検出されるそれと比較した時の、その配列の過剰発現または過小発現をさす。過小発現は、コントロールと比較した時の、テスト対象における検出可能な発現の非存在により証明される、特定の配列の発現の非存在も含む。
【0033】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、任意の長さのアミノ酸のポリマーをさすために、本明細書において互換可能に使用される。ポリマーは線状でも分岐でもよく、修飾アミノ酸を含むことができ、非アミノ酸により中断されうる。用語は、修飾されているアミノ酸ポリマーも含む。例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または標識成分との結合等の任意の他の操作。本明細書で使用されるところの、用語「アミノ酸」は、グリシンおよびDまたはL光学異性体の両方を含む、天然および/または非天然または合成のアミノ酸、およびアミノ酸アナログおよびペプチドミメティクスをさす。
【0034】
「対象」、「個体」、または「患者」は、本明細書において互換可能に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトをさす。哺乳類には、マウス、ラット、イヌ、ブタ、サル(シミアン)ヒト、家畜、スポーツ用動物、およびペットが含まれるが、これらに限定されない。in vivoで得られた、またはin vitroで培養された、生物学的存在の組織、細胞およびそれらの子孫も含まれる。
【0035】
「シグナル伝達」は、刺激または阻害シグナルが細胞内へまたは内部で伝達されて細胞内反応を誘発するプロセスである。「シグナル伝達経路のモジュレータ」は、同じ特異的シグナル伝達経路にマッピングされた一つ以上の細胞タンパク質の活性を調節する物質をさす。モジュレータは、シグナリング分子の活性および/または発現量またはパターンを増大または抑制しうる。CXCケモカインシグナリングの場合には、シグナリング経路の調節には、CXCケモカインまたはその対応するレセプターの発現量またはパターン、ならびにCXCケモカインまたはその対応するレセプターがメンバーである経路(単数または複数)の任意の下流または上流のシグナリング分子のそれの変更が含まれる。
【0036】
本明細書で使用されるところの「細胞」は、その通常の生物学的意味で使用され、多細胞生物全体をさすものではない。細胞は、例えばin vitroで、例えば細胞培養にあり、または、鳥類、植物、およびヒト、ウシ、ヒツジ、類人猿、サル、ブタ、イヌ、ネコ、マウスまたはラットなどの哺乳類等を含む多細胞生物に存在しうる。
【0037】
本明細書で使用されるところの、「治療」または「治療する」または「改善する」は、本明細書において互換可能に使用される。これらの用語は、臨床的結果を含み、好ましくは臨床的結果である、有益または所望の結果を得るためのアプローチをさす。本発明の目的においては、有益または所望の臨床的結果には、以下の一つ以上が含まれるが、これに限定されない:(例えば、脱髄疾患の場合において)脱髄病変のサイズを縮小すること、OPCの増殖および成長または病変部位への移動を促進すること、オリゴデンドロサイトの分化を促進すること、神経障害の開始を遅らせること、脱髄疾患の発症を遅らせること、神経障害から生じる症状を減少させること、病気を患う者の生活の質を高めること、病気を治療するために必要な他の薬の量を減少させること、ターゲッティングおよび/またはインターナリゼーション等により、別の薬の効果を高めること、病気の進行を遅らせること、および/または個体の生存を延長すること。治療には、病気の予防、すなわち、病気の誘導前に保護組成物を投与することにより、病気の臨床症状が出ないようにすること;病気の抑制、すなわち、誘導事象の後であるが臨床的出現または再発の前に、保護組成物を投与することにより、病気の臨床症状が出ないようにすること;病気の阻害、すなわち、最初の所見の後に保護組成物を投与することにより、臨床症状の発症を妨げること;病気の再発防止、および/または病気の軽減、すなわち、最初の所見の後に保護組成物を投与することにより、臨床症状を退行させることが含まれる。
【0038】
用語「薬剤」、「生物学的に活性な薬剤」、「生物活性剤」、「生物活性化合物」または「生物学的に活性な化合物」は、互換可能に使用され、さらに、記載の文脈において複数の言及を含む。本明細書に記載の本発明の一つ以上の組み合わせ治療法において利用されるこのような化合物には、単純または複合有機または無機分子、ペプチド、ペプチドミメティック、タンパク質(例えば抗体)、DNA、RNAおよびそのアナログを含む核酸分子、炭水化物を含む分子、ホスホリピド、リポソーム、低分子干渉RNA、ポリヌクレオチド(例えばアンチセンス)、または組み合わせ外部ガイド配列(EGS)等の生物または化学化合物が含まれるが、これに限定されない。
【0039】
本明細書で使用されるところの「アンタゴニスト」という用語は、標的ポリペプチドの生物学的機能を阻害する能力を有する分子をさす。したがって、用語「アンタゴニスト」は、標的ポリペプチドの生物学的役割の文脈において定義される。本明細書における一定のアンタゴニストは、標的と特異的に相互作用する(例えば、結合する)が、標的ポリペプチドがメンバーであるシグナル伝達経路の他のメンバーと相互作用することにより、標的ポリペプチドの生物活性を阻害する分子も、この定義に特に含まれる。アンタゴニストにより阻害される生物活性の一つは、OPCの増殖の増加、脱髄の阻害、および/または再ミエリン化の促進に関連する。例えば、アンタゴニストは、CXCケモカインおよび/またはCXCケモカインレセプターと直接または間接的に相互作用して、CXCケモカインシグナリングの減少をもたらしうる。本明細書で定義されるところのアンタゴニストには、おとりオリゴヌクレオチド、アプタマー(apatmers)、抗ケモカイン抗体および抗体変異体、ペプチド、ペプチドミメティクス、非ペプチド低分子、アンチセンス分子、および小有機分子が、非限定的に含まれる。
【0040】
本明細書で使用されるところの「アゴニスト」という用語は、標的ポリペプチドの生物学的機能を開始または増強する能力を有する分子をさす。したがって、用語「アゴニスト」は、標的ポリペプチドの生物学的役割の文脈において定義される。様々な実施形態において、本明細書のアゴニストは、標的と特異的に相互作用する(例えば、結合する)が、標的ポリペプチドがメンバーであるシグナル伝達経路の他のメンバーと相互作用することにより標的ポリペプチドの生物活性を阻害する分子も、この定義に特に含まれる。
【0041】
例えば、アゴニストにより増強される生物活性の一つは、OPCの増殖の増加、脱髄の阻害、および/または再ミエリン化の促進に関連する。本明細書で定義されるところのアゴニストには、おとりオリゴヌクレオチド、アプタマー(apatmers)、抗ケモカイン抗体および抗体変異体、ペプチド、ペプチドミメティクス、非ペプチド低分子、アンチセンス分子、小有機分子、および本明細書に開示される任意の他の生物学的に活性な薬剤が、非限定的に含まれる。
【0042】
用語「有効量」または「治療上有効量」は、(例えば、脱髄疾患の場合において)脱髄病変のサイズを縮小すること、OPC移動、増殖、および成長を促進すること、神経障害の開始を遅らせること、脱髄疾患の発症を遅らせること、神経障害から生じる症状を減少させること、病気を患う者の生活の質を高めること、病気を治療するために必要な他の薬の量を減少させること、ターゲッティングおよび/またはインターナリゼーション等により、別の薬の効果を高めること、病気の進行を遅らせること、神経痕を減少させること、および/または個体の生存を延長すること等の臨床的結果を非限定的に含む、有益または所望の結果をもたらすために十分である薬剤の量をさす。治療上有効量は、治療される対象および病状、対象の体重および年齢、病状の重症度、投与の様式などにより変化し、従来技術の当業者により容易に決定されうる。用語は、本明細書に記載の画像化方法のいずれか一つによる検出のための画像を提供する用量にもあてはまる。具体的な用量は、選択される特定の薬剤、採用される薬剤投与計画、他の化合物と組み合わせて投与されるかどうか、投与のタイミング、画像化される組織、担持される物理的送達システムにより変化する。
【0043】
本明細書で用いられるところの「抗体」という用語は、組換え抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体、融合タンパク質、単クローン抗体等の、全ての形の抗体を含む。本発明は、ケモカインに結合(例えば、CXCレセプター(CXCR)またはインターロイキン、例えばIL―8等のCXCRリガンドに結合)できる抗体機能的フラグメントにも適用できる。例示的な抗体は、結合する標的の生物活性および/または発現を増減できる。
【0044】
用語「調節する」、「調節される」または「調節」は、互換可能に使用され、所与の文脈において直接的または間接的変化を意味する。例えば、エフェクターT細胞増殖/刺激の調節は、このような増殖が下方または上方へ調節されうることを意味する。別の例においては、調節は、エフェクターまたは自己反応性T細胞またはその機能/活性対これらの機能/活性の制御性T細胞のバランスの調節でありうる。
【0045】
「アプタマー」という用語には、特定の分子に対する特異的結合特性に基づいて選択されるDNA、RNAまたはペプチドが含まれる。例えば、アプタマー(単数または複数)は、従来技術で公知の方法を使用して、特定のCXCRを結合するために選択されうる。その後、当該アプタマー(単数または複数)が、免疫反応を調節または制御するために、対象に投与されうる。特定のタンパク質、DNA、アミノ酸およびヌクレオチドに親和性を有するいくつかのアプタマーが記載されている(例えば、K.Y.Wang等、Biochemistry 32:1899―1904(1993);Pitner等、米国特許第5,691,145号;Gold等、Ann.Rev.Biochem.64:763―797(1995);Szostak等、米国特許第5,631,146号)。高親和性および高特異性で結合するアプタマーが、コンビナトリアルライブラリから得られている(上記、Gold等)。アプタマーは、高親和性を有し、平衡解離定数は、使用されるセレクションによりミクロモルからサブナノモルまで変動する。アプタマーは例えば、7―メチルGおよびGの間(HallerおよびSarnow、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:8521―8526(1997))またはDおよびL―トリプトファンの間(上記、Gold等)で1,000倍の選別を示すなど、高い選択性も有しうる。
【0046】
用語「おとり」は、所定のリガンドまたは未知のリガンドに優先的に結合するように設計された核酸分子、例えばRNAまたはDNA、またはアプタマーを含む意味である。このような結合により、標的分子の阻害または活性化が生じうる。おとりまたはアプタマーは、特異的リガンドの結合を天然の結合標的と争いうる。例えば、HIVトランス活性化応答(TAR)RNAの過剰発現は、「おとり」として働くことができ、HIV tatタンパク質を効率的に結合し、これによりHIV RNAにコードされるTAR配列への結合を妨げることが明らかになっている(Sullenger等、Cell 63,601―608(1990))。これは特定の例にすぎず、当業者には当然のことながら、従来技術で公知の技術を使用して他の実施形態が容易に生成されうる。例えば、Gold等、Annu.Rev.Biochem.,64,763―797(1995);BrodyおよびGold、J.Biotechnol.,74,5―13(2000);Sun,Curr.Opin.Mol.Ther.,2,100―105(2000);Kusser,J.Biotechnol.,74,27―38(2000);HermannおよびPatel、Science,287,820―825(2000);およびJayasena,Clinical Chemistry,45,1628―1650(1999)を参照。同様におとりは、標的抗原に結合してその活性部位を占めるように設計され、または、おとりは、標的分子に結合して別のリガンドタンパク質(単数または複数)との相互作用を妨げ、これにより細胞増殖または分化に関わる細胞シグナリング経路を短絡させるように設計されうる。
I.ケモカインシグナリング
本発明は、CXCRを介したシグナリングを調節することにより再ミエリン化を促進するための、組成物および方法を提供する。一態様では、本発明の方法は、CXCRを介したシグナリングを遮断または阻害することにより、グリオーシス(例えばアストログリオーシス)を減少または除去することを目的とする。本発明の別の態様は、対象に一つ以上の薬剤を投与することにより、神経障害を治療する方法であり、そのような一つ以上の薬剤が、CXCRを介したシグナリングを遮断または阻害する、方法を目的とする。様々な実施形態において、ミエリン修復細胞の増殖、分化または移動を促進するために、細胞に接触するための方法が提供される。
【0047】
本発明の他の態様においては、方法は、病変部位への前駆神経細胞(例えばOPCs)の移動を促進することを対象とする。いくつかの実施形態においては、ミエリン修復細胞の病変部位への移動を促進するために、細胞または対象に薬剤を投与するための方法が提供される。さらなる実施形態においては、成熟細胞への前駆細胞の増殖および/または分化(例えばOPCsからオリゴデンドロサイトへ)を促進するために、一つ以上の薬剤が投与される。さらに、このような増殖および/または分化は、動物のCNSまたは他の場所(例えば末梢神経系)で生じうる。例えば、このような増殖および/または分化は、造血環境(例えば幹細胞)またはCNS自体において生じうる。
【0048】
一実施形態においては、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)の、成熟オリゴデンドロサイトへの分化を促進するために、薬剤が投与される。いくつかの実施形態においては、投与される単一の薬剤が、移動、増殖および/または分化を促進しうる。他の実施形態においては、二つ以上の薬剤の組み合わせが投与され、一つの薬剤が細胞の移動に有効であり、他方の薬剤が増殖および/または分化に有効である。このような実施形態の任意のものにおいて、細胞は神経細胞、または、より具体的にはグリア細胞である。
【0049】
他の実施態様においては、このような薬剤が、ミエリン形成に関連する細胞またはミエリン形成に関係する機能的相互作用に関わる細胞の増殖を誘導しうる。このような細胞には、OPCs、シュワン細胞(SCs)、嗅球鞘細胞、アストロサイト、ミクログリアおよび神経幹細胞(NSCs)が含まれるが、これらに限られない。したがって、例えばグリア細胞の移動は、病変部位へのOPCsの移動を促進しうる。一実施形態においては、対象に投与され、またはOPCsに接触させられる一つ以上の薬剤が、OPCsの病変部位への/における移動、増殖、および/または分化を促進しうる。
【0050】
CXCケモカインおよびそれらの対応するレセプター機能のアンタゴニスト、アゴニストおよびモジュレータが、本発明の範囲に特に含まれる。したがって、本発明のいくつかの態様では、ケモカインシグナリングの調節をもたらすために、薬剤が投与される。ケモカインが、オリゴデンドロサイト増殖および移動を制御することが示されている。(Robinson等、J.Neurosci.18:10457―10463(1998);Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。さらに、ケモカインシグナリングが、細胞の移動、分化、活性化および増殖を制御することが示されている。(Wu等、J.Neurosci.20:2609―2617(2000);Kadi等、J.Neuroimmunol.174:133―146(2006))。一定のケモカインレセプターは、ケモカインシグナリングを調節し、したがって、ミエリン修復に関わる細胞の増殖を促進し、および/またはこのような細胞の損傷または傷害部位(例えば病変部位)への移動を促進することにより、ミエリン修復を増強しうる。CXCL1等のいくつかのケモカインが、OPC増殖を誘導するとともに、オリゴデンドログリア細胞の成長の間に移動停止シグナルを提供し、それらを成長するCNSに適切に配置することが示されている。(Tsai等、Cell 110:373―383(2002))。
【0051】
いくつかの実施形態においては、CXCR2シグナリングの阻害が、OPCの可用性増加を促進し、病変中心部へのOPCsまたはオリゴデンドロサイトの移動を増強し、増殖および/または分化を増強する。したがって、ケモカイン―シグナリング阻害が、免疫浸潤を妨げることにより損傷を防ぐと同時に、ミエリン形成/再ミエリン化に関わる細胞の可用性上昇を促進することにより、修復を刺激しうる。例えば、CXCR2、CXCR1またはCXCR2およびCXCR1の両方の活性部位に直接/間接的に結合する薬剤が投与されうる。
【0052】
本発明の組成物および方法は、ケモカインを介した症状を治療するための、細胞または対象への薬剤の投与も提供することができ、薬剤が、ケモカインを介したシグナリング経路を遮断することにより、免疫調節をもたらす。免疫調節には、CNSへのT細胞浸潤等の、免疫細胞浸潤(「免疫浸潤」)の減少が含まれる(例えばMSにおける自己免疫反応)。
【0053】
本発明のいくつかの態様においては、組み合わせプロセス、すなわちミエリン修復、再ミエリン化および/または軸索保護を伴うプロセスにおいて免疫調節をもたらすために、薬剤が投与され、このような免疫調節剤には、サイトカインおよびサイトカインレセプター、ケモカインおよびケモカインレセプター、抗体、補体関連バイオマーカー、接着分子、抗原プロセシングおよび/またはプロセシングマーカー、細胞周期およびアポトーシス関連マーカーが含まれるがこれらに限られない。このような因子、レセプターおよびマーカーは従来技術において周知であり、非限定的な例には、IL―1、IL―2、IL―6、IL―10、IL―12、IL―18、TNF―α、LT―α/β、TGF―β、CCR5、CXCR3、CXCL10、CCR2/CCL2、抗ミエリン特異的タンパク質/ペプチド抗体、抗分化抗原群(CD)抗体、CSF IgG、抗MOG抗体、抗MBP抗体、C3、C4、活性化ネオC9、補体活性化制御因子、E―セレクチン、L―セレクチン、ICAM―1、VCAM―1、LFA―1、VLA―4、熱ショックタンパク質、パーフォリン、OX―40、オステオポンチン、MRP―8およびMRP―16、ネオプテリン、アミロイドAタンパク質、ソマトスタチン、Fas、Fas―L、FLIP、Bcl―2、およびTRAILが含まれる。
【0054】
CXC―シグナリングケモカインの阻害剤は、このようなケモカインを不活性のコンホメーションに固定し、または活性化部位を遮断することにより、活性化レセプター誘導性の細胞内シグナル伝達カスケードおよび免疫細胞をCNSに導くのに必要な細胞反応を妨げうる。阻害剤は、ケモカインのアロステリック阻害剤でもよい。したがって、このような阻害剤が、伝達カスケード、または脱髄を生じる免疫細胞浸潤、例えばT細胞浸潤に必要な細胞反応を妨げうる。さらに、CXC―シグナリングケモカインの阻害剤は、免疫浸潤に必要な細胞経路/機構を短絡(例えば、シグナリングを妨害または阻害)させ、これにより治療をもたらす任意の化合物でありうる。いくつかの実施形態においては、阻害剤は、ペプチド、ポリペプチド、アプタマー、siRNA、小有機分子、調合薬または抗体、またはそれらの組み合わせである。
【0055】
様々な実施形態において、方法は、CXCR、CXC―リガンド(CXCL)またはインターロイキン(IL)に特異的な薬剤を、治療的に有効な量で投与することにより、CXCRシグナリングを遮断することを目的とし、このような投与が、CXCを介したシグナリングを妨げることにより、T細胞、B細胞または組み合わせのT細胞/B細胞反応の低下を含めて、免疫反応を調節する。
【0056】
いくつかの実施形態においては、CXCR2、またはCXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL6、CXCL7またはCXCL8等のCXCR2リガンドに特異的な一つ以上の薬剤を、治療的に有効な量で投与することにより、CXCR2によるCXCRシグナリングが遮断または阻害される。いくつかの実施形態においては、こうして投与されるこのような薬剤が、CXCR2シグナリングおよびCXCR1シグナリングを減少または除去する。このような実施形態においては、一つ以上の薬剤が、他のCXCRsと比較して、CXCR2および/またはCXCR1を選択的に遮断または阻害する。
【0057】
一実施形態においては、CXCR1および/またはCXCR2シグナリングの特異的遮断または阻害により、再ミエリン化が促進される。一実施形態においては、CXCR1および/またはCXCR2シグナリングのこのような遮断または阻害により、グリオーシスが減少または除去される。
【0058】
いくつかの実施形態においては、CXCR阻害または遮断薬剤は、ポリペプチド、ペプチド、アプタマー、アンチセンス分子、siRNA、リボザイム、ペプチドミメティック、小有機分子または化学化合物、またはその機能的変異体である。いくつかの実施形態においては、このような薬剤は、CXCRレセプター、CXCRリガンドまたは同族のインターロイキンに特異的である。さらなる実施形態においては、薬剤は、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、またはIL―1からIL―18に特異的である。いくつかの実施形態においては、薬剤は、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL5、CXCL8またはIL―8のアンタゴニストであり、このような薬剤の投与により、CXCを介したシグナリングが阻害される。一実施形態においては、このような薬剤が、他のCXCRsに対してCXCR1を選択的に遮断/阻害する。一実施形態においては、このような薬剤が、他のCXCRsに対してCXCR2を選択的に遮断/阻害する。別の実施形態においては、このような薬剤が、他のCXCRsに対してCXCR1および/またはCXCR2を選択的に遮断または阻害する。さらなる実施形態においては、他のCXCRsと比較して、CXCR1および/またはCXCR2を選択的に遮断または阻害しうる、二つ以上の薬剤が投与される。
【0059】
本明細書に開示される方法は、例えば神経細胞の変性が生じる、任意の神経病理学的状態、または脱髄を対象としうる。神経細胞脱髄は、CNSおよびPNSの多数の遺伝性および後天性疾患において現れる。神経病理には、多発性硬化症(MS)、進行性多病巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎、橋中心髄鞘崩壊(CPM)、抗MAG病、ロイコジストロフィー:アドレノロイコジストロフィー(ALD)、アレキサンダー病、カナヴァン病、クラッベ病、異染性ロイコジストロフィー(MLD)、ペリツェウス―メルツバッヘル病、レフサム病、コケイン症候群、ファンデルクナップ症候群、およびツェルウェーガー症候群、ギラン―バレー症候群(GBS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー(MMN)、脊髄損傷(例えば外傷または切断)、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、グリオーシス、アストログリオーシスおよび視神経炎が含まれるが、これに限定されない。これらは、CNSの特定の位置における神経細胞の変性に結び付けられており、神経細胞または脳の領域が本来の機能を果たせなくなる。さらに、本明細書に開示される方法は、はしか、狂犬病を引き起こす病原体、スクレイピーのような病原体、コイ病原体、パラミクソウイルス、コロナウイルス、エプスタイン―バーウイルス、帯状ヘルペス、単純ヘルペスウイルス、ヒトヘルペスウイルス6、風疹、耳下腺炎、イヌジステンパー、マレックセムリキ森林ウイルス、動物およびヒトレトロウイルス、およびヒトT細胞リンパ腫ウイルスI型を含むがこれに限られない病原体を原因とする、またはこれに関連する神経病理に等しく適用できる。
II.生物活性剤
本明細書に開示される組成物および方法は、例えば、神経細胞の変性が生じる任意の神経病理学的状態、グリオーシス(例えばアストログリオーシス)または脱髄を対象としうる。生物活性剤は、このような神経病理学的状態を対象としうる。生物活性剤は、ケモカインレセプターまたはリガンドのアゴニストまたはアンタゴニストでありうる。本発明のいくつかの実施形態においては、結合部位で同じ三次元構造を有する化合物が、アンタゴニストとして使用されうることが想定される。ケモカインの結合部位を含む活性部位の構造を決定するために、化学構造の三次元解析が用いられる。例えば、ハイスループットスクリーニングによるリード化合物が、CXCR2の選択的アンタゴニストを生成し、化学的に最適化するために用いられている。(Ganju等、J.Biol Chem,273:10095―10098(1998))。さらに、ELRおよび非ELRのCXCケモカインを含む、CXCRsのリガンドの三次元構造を明らかにするために、核磁気共鳴分光法(NMR)が利用されうる。NMRの情報により、リガンドのレセプター特異性を実質的に変更しうるように、複数のケモカインのレセプター結合部位内で複数の置換が生成されうる。(例えば、Wells等、J.Leuk.Biol.1996;59:53―60)。したがって、神経障害の治療を含む本発明の方法に使用するために、ケモカインを介したシグナリングを遮断または阻害する薬剤が設計されうる。さらに、本明細書に開示されるように、グリオーシスを減少または除去するとともに、再ミエリン化を促進する方法において、このような薬剤が使用されうる。
【0060】
本発明の別の態様においては、CXCケモカインの発現を調節し、これによりCXCを介したシグナリングに影響を与えるために、生物活性剤(単数または複数)が、治療上有効量で投与されうる。そして、このような調節が、グリア細胞移動、増殖および/または分化に影響しうる。さらなる実施形態においては、このような調節が、CNSへの免疫細胞浸潤に影響を与えうる。
【0061】
様々な実施形態において、このような薬剤には、ペプチド、ポリペプチド、アンチセンス分子、アプタマー、siRNAs、外部ガイド配列(EGS)小有機分子、抗体またはペプチドミメティクスが含まれるがこれに限られない。このような生物活性剤は、CXCケモカインの発現量を直接または間接的に調節し、したがってCXCを介したシグナリングを減少または増強しうる。様々な実施形態において、発現が調節されるCXC―ケモカインには、CXCL1、CXCL5、CXCL8、CXCR1、CXCR2またはCXCR5が含まれる。いくつかの実施形態においては、CXCL1および/またはCXCR2の発現が調節される。いくつかの実施形態においては、グリア細胞が培養され、in vitroで発現コンストラクトによりトランスフェクションされ、その後対象に投与され、発現コンストラクトが、CXCR1および/またはCXCR2をコードする。したがって、いくつかの実施形態においては、ex vivoの方法により、発現調節がもたらされる。
【0062】
他の態様においては、標的細胞が、ミエリン修復を促進するもう一つの追加的薬剤を発現するように設計されうる。例えば、いくつかの実施形態においては、ミエリン修復促進神経成長因子等の薬剤が、例えば、標的細胞に形質転換される核酸配列によりコードされる。したがって、細胞ゲノムに統合されるか、従来技術において周知のプラスミドまたはウイルスベクターに存在しうる核酸配列から、所望の成長因子が発現される。
【0063】
したがって、いくつかの実施形態においては、CXCRを介したシグナリングを調節する薬剤をコードする核酸が、再ミエリン化を促進する薬剤をコードする核酸と、コンビナトリアル様式で共同投与されうる。例えば、核酸から発現される二つ以上の共同投与された薬剤が、グリオーシスを阻害または減少させるだけでなく、グリア細胞の移動、増殖および/または分化を促進しうる。核酸から発現される薬剤は、例えば、CXCR2活性またはCXCR2リガンドを阻害することにより、CXCシグナリングを遮断または阻害しうる。他の実施態様においては、このような薬剤が、CXCR1およびCXCR2を介したシグナリングを遮断または阻害する。さらに他の実施形態においては、このような薬剤が、CXCR1を介したシグナリングを遮断または阻害する。したがって、CXCRを介した(またはCXCLを介した)シグナリングを阻害または遮断する薬剤が、オリゴデンドロサイト生存を増強または促進すること等によりミエリン修復を促進する薬剤と組み合わせられうる。
【0064】
薬剤に影響を受けたCXCR媒介するシグナリングと共同投与されるこのような薬剤には、血小板由来成長因子(PDGF)(Jean等、Neuroreport 13:627―631(2002))、甲状腺ホルモン(TH)(Calza等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:3258―3263(2002))、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)(Zavala等、J.Immunol.168:2011―2019.(2002))、シリア線毛神経栄養因子(CNTF)(Linker等、Nat.Med.8:620―624(2002))、線維芽細胞成長因子―2(FGF―2)(Armstrong等、J.Neurosci.22:8574―8585(2002).)、白血病抑制因子(LIF)(Butzkueven等、Nat.Med.8:613―619(2002).)、インシュリン様成長因子―1(IGF―1)(Beck等、Neuron 14:717―730(1995))、グリア成長因子―2/ニューレグリン(GGF―2/NRG)(Kerber等、J.Mol.Neurosci.21:149―165(2003))およびCXCLl/成長制御癌遺伝子α(Gro―a)(Omari等、Glia 53:24―31(2006);Omari等、Brain 128:1003―1015(2005);Tsai等、Cell 110:373−383(2002))等の、オリゴデンドロサイト生存、増殖、移動および分化のプロセスに影響を与えことが示されている、いくつかの生体分子が含まれる。
【0065】
さらなる実施形態においては、このような薬剤をコードする核酸配列の発現が誘導可能であり、したがって時間的に制御される。このような誘導可能または時間制御される転写制御エレメントは、従来技術において公知であり、本明細書にさらに開示されるとおりである。
【0066】
いくつかの実施形態においては、グリア細胞が、CXCケモカインの発現変更を提供するように、生物活性剤をコードする発現ベクター(または「発現コンストラクト」)によりトランスフェクションされうる。一実施形態においては、発現コンストラクトが、オリゴデンドロサイトにトランスフェクションされ、このような発現ベクターが、in vitroまたはin vivoで細胞に投与され、トランスフェクションされたオリゴデンドロサイトが、非トランスフェクションオリゴデンドロサイトと比較して、CXCR2またはCXCL1の発現量を変化させる。他の実施態様においては、このようなトランスフェクション細胞には、SCs、NSCs、OPCs、アストロサイト、ミクログリア細胞、またはこのような細胞の組み合わせが含まれ、それらも培養またはin vivoでトランスフェクションされる。いくつかの実施形態では、発現コンストラクトは、グリア細胞に特異的な細胞特異的または誘導性プロモータを含み、従来技術の当業者に公知であるとともに、本明細書に上述される。
【0067】
典型的には、遺伝子発現が、構成的または誘導性プロモータ、組織特異的制御エレメント、およびエンハンサを含む一定の制御エレメントの制御下におかれる。このような遺伝子は、制御エレメントに「操作可能に連結される」といわれる。例えば、構成的、誘導性、または細胞/組織特異的プロモータが、宿主細胞に発現される遺伝子の発現を制御するために、発現ベクターに取り入れらうる。
【0068】
いくつかの実施形態においては、CXCRシグナリングの阻害剤は、このような阻害剤をコードする核酸配列から発現されうるポリペプチドであり、阻害剤をコードする核酸が、神経細胞に特異的な転写制御配列に、操作可能に連結されうる。典型的な転写制御配列/エレメントには、以下のタンパク質をコードする遺伝子より選択される転写制御配列/エレメントが含まれる:PDGFαレセプター、プロテオリピドタンパク質(PLP)、グリア線維酸性遺伝子(GFAP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、神経細胞特異的エノラーゼ(NSE)、オリゴデンドロサイト特異的タンパク質(OSP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)および微小管関連タンパク質1B(MAP1B)、Thy1.2、CC1、セラミドガラクトシル転移酵素(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、オリゴデンドロサイト―ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質0(MPZ)、末梢性ミエリンタンパク質22(PMP22)、タンパク質2(P2)、チロシン水酸化酵素、BSF1、ドーパミン3―ヒドロキシラーゼ、セロトニン2レセプター、コリンアセチルトランスフェラーゼ、ガラクトセレブロシド(GalC)、およびスルファチド。さらに、神経細胞特異的プロモータの例は、米国特許出願公開第2003/0110524号等に開示されるように、従来技術において周知である。ウェブサイト<chinook.uoregon.edu/promoters.html>も参照。さらに、細胞/組織特異的プロモータも、従来技術において周知である。
【0069】
いくつかの実施形態においては、転写制御エレメントは誘導性である。例えば、誘導性プロモータの非限定的な例には、メタロチオニンプロモータおよびマウス乳癌ウイルスプロモータが含まれる。本発明の組換えベクターの使用に有効なプロモータおよびエンハンサの他の例には、CMV(サイトメガロウイルス)、SV40(シミアンウイルス40)、HSV(単純ヘルペスウイルス)、EBV(エプスタイン―バーウイルス)、レトロウイルス、アデノウイルスプロモータおよびエンハンサ、および平滑筋特異的プロモータおよびエンハンサが含まれるが、これらに限定されない。異種プロモータとしての使用に適しうる強力な構成的プロモータには、アデノウイルス主要後期プロモータ、サイトメガロウイルス最初期プロモータ、β―アクチンプロモータ、またはβ―グロビンプロモータが含まれる。RNAポリメラーゼIIIにより活性化されるプロモータも、用いられうる。
【0070】
いくつかの実施形態では、遺伝子発現を制御するために使用されている誘導性プロモータには、テトラサイクリンオペロン、RU486、メタロチオネインプロモータ等の重金属イオン誘導性プロモータ;MMTVプロモータまたは成長ホルモンプロモータ等のステロイドホルモン誘導性プロモータ;アデノウイルスE1Aタンパク質により誘導可能なアデノウイルス初期遺伝子プロモータまたはアデノウイルス主要後期プロモータ等の、ヘルパーウイルスにより誘導可能なプロモータ;VP16または1CP4等の、ヘルペスウイルスタンパク質により誘導可能なヘルペスウイルスプロモータ;ワクシニアまたはポックスウイルス誘導性プロモータまたはポックスウイルスRNAポリメラーゼにより誘導可能なプロモータ;ポックスウイルスRNAポリメラーゼにより誘導可能である、T7ファージからのもの等の細菌プロモータ;またはT7 RNAポリメラーゼまたはエクジソンからのもの等の細菌プロモータが含まれる。一実施形態においては、プロモータエレメントは、低酸素ストレス中にタンパク質安定性および固有の転写能力の両方の大幅な増加を示す主要な哺乳類の転写因子の一つである、低酸素―誘引因子―1(HIF―1)により認識される低酸素応答性エレメント(HRE)である。HREは、VEGFおよびEpoおよびいくつかの他の遺伝子の5’または3’隣接領域において報告されている。コア共通塩基配列は、(A/G)CGT(G/C)Cである。EpoおよびVEGF遺伝子から単離されたHREsが、低酸素腫瘍における自殺遺伝子およびアポトーシス遺伝子発現等、いくつかの遺伝子を制御することにより、腫瘍死滅を増強するために用いられている。
【0071】
さらに、特定の細胞内位置における導入遺伝子の発現が所望される場合には、導入遺伝子が、従来技術で広く実践される組換えDNA技術により、対応する細胞内局在化配列に操作可能に連結されうる。例示的な細胞内局在化配列には、(a)遺伝子産物の分泌を細胞外に導くシグナル配列;(b)細胞の形質膜または他の膜コンパートメントへのタンパク質の付着を許容する、膜アンカードメイン;(c)コードされたタンパク質の核への転位を媒介する核局在化配列;(d)コードされたタンパク質を主にERに限定する小胞体保留配列(例えばKDEL配列);(e)タンパク質を細胞膜と結合するために、タンパク質がファルネシル化されるように設計されうる;または、(f)コードされたタンパク質生成物の特異的細胞内分布に関わる任意の他の配列が含まれるが、これに限定されない。
【0072】
in vivoまたはin vitroの方法で利用されるベクターには、SV―40、アデノウイルスの誘導体、レトロウイルス由来のDNA配列および機能的哺乳類ベクターおよび機能的プラスミドおよびファージDNAの組み合わせから得られるシャトルベクターが含まれうる。真核生物発現ベクターは、例えば参照により本明細書に組み込まれる、SouthernおよびBerg、J.Mol.Appl.Genet.1:327―341(1982);Subramini等、Mol.Cell.Biol.1:854―864(1981),KaufinannおよびSharp、J.Mol.Biol.159:601―621(1982);Scahill等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:4654―4659(1983)およびUrlaubおよびChasin Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216―4220(1980)により記載されるもののように、周知である。本発明の方法で使用されるベクターは、ウイルスベクター、好ましくはレトロウイルスのベクターでありうる。複製欠損アデノウイルスが、好ましい。例えば、末端反復配列に含まれるウイルス制御配列の制御下で、レトロウイルスの構造遺伝子が目的の単一遺伝子により置き換えられる「単一遺伝子ベクター」、例えばマロニーマウス白血病ウイルス(MoMulV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、およびマウス骨髄増殖性肉腫ウイルス(MuMPSV)、および、細網内皮症ウイルス(Rev)およびニワトリ肉腫ウイルス(RSV)等のトリレトロウイルスが使用されればよく、参照により本明細書に組み込まれるEglitisおよびAndersen、BioTechniques 6:608―614(1988)に記載される。
【0073】
複数の遺伝子が導入されうる組換えレトロウイルスベクターも、本発明の方法に従って使用されうる。独立プロモータの制御下のcDNAを含む内部プロモータを伴うベクター、例えば、ヒトアデノシンデアミナーゼ(hADA)のcDNAがそれ自体の制御配列、SV40ウイルス(SV40)からの初期プロモータを伴って挿入された選択可能マーカー(neoR)を伴うN2ベクターに由来するSAXベクターが設計され、従来技術において公知の方法により本発明の方法にしたがって使用されうる。
【0074】
哺乳動物宿主細胞においては、多数のウイルスベースの発現系が利用されうる。アデノウイルスが発現ベクターとして使われる場合においては、(例えば、治療可能薬剤をコードする)目的のヌクレオチド配列が、アデノウイルス転写または翻訳制御複合体、例えば後期プロモータおよびトリパータイトリーダー配列に連結されうる。その後このキメラ遺伝子が、in vitroまたはin vivo組換えにより、アデノウイルスゲノムに挿入されうる。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば領域E1またはE3)への挿入により、感染宿主において生存可能およびAQP1遺伝子産物を発現可能な組換えウイルスが生じる(例えばLogan & Shenk,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 8 1:3655―3659(1984)を参照)。
【0075】
挿入された治療ヌクレオチド配列の効率的な翻訳のために、特異的開始シグナルも必要とされうる。これらのシグナルは、ATG開始コドンおよび隣接配列を含む。治療遺伝子またはcDNA全体が、それ自体の開始コドンおよび隣接配列を含めて、適切な発現ベクターに挿入される場合には、追加的な翻訳制御シグナルは必要ないであろう。しかし、治療コード配列の一部だけが挿入される場合には、おそらくATG開始コドンを含む外来性の翻訳制御シグナルが提供されればよい。さらに、インサート全体の翻訳を確保するために、開始コドンが所望のコード配列の読み枠とそろっていればよい。これらの外来性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の様々な起源のものでありうる。適切な転写エンハンサエレメント、転写ターミネータなどの包含により、発現の効率が高められうる。(例えばBittner等、Methods in Enzymol,153:516−544(1987)を参照)。
【0076】
いくつかの実施形態においては、CXCRシグナリングの遮断または阻害に向けられた生物活性剤を変更されたレベルで産出するために、前述のベクターの利用により、グリア細胞等の神経細胞が遺伝子操作される。一実施形態においては、このような薬剤は、CXCR1および/またはCXCR2シグナリングを遮断または阻害する。in vitroまたはin vivoでの細胞の遺伝子操作またはトランスフェクションは、本明細書に上述した参考文献にて説明され、米国特許第6,998,118号;6,670,147号または6,465,246号に開示されるような、公知技術の方法を利用して行われうる。
【0077】
いくつかの実施形態においては、生物活性剤が投与され、CXCケモカインを介したシグナリングに関わる一つ以上のタンパク質の発現レベルの変更をもたらしうる。あるいは、例えば神経細胞を生物活性剤と接触させて、CXCケモカインを介したシグナリングに関わる一つ以上のタンパク質の発現の変化を提供することにより、本明細書に記載の神経細胞が修飾されうる。一実施形態においては、このようなシグナリングはCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングである。さらに、ポリペプチドの発現レベルを測定する方法は、従来技術の当業者に公知である。
【0078】
本発明の一つ以上の方法で使用される神経細胞の例には、グリア細胞が含まれる。グリアは、アストロサイト、オリゴデンドロサイトを含むマクログリア、およびミクログリアに分けられる。CNSの微細環境中では、アストロサイトが支持および栄養を提供し、オリゴデンドロサイトは絶縁を提供し、ミクログリアが免疫防御を提供する。中間フィラメントタンパク質のグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)の発現により一般に同定されるアストロサイトは、脳のホメオスタシスの維持を助け、神経興奮性を変更しうる、様々なイオンチャネル、輸送体、および神経伝達物質レセプターを有する。さらに、アストロサイトは、内皮細胞と相互作用し、これらの相互作用は、血液脳関門(BBB)の発達および維持に重要であると考えられる。アストロサイトは、増殖、形態変更、増加プロセス、およびGFAP発現の増加により、CNS損傷に反応することが知られている。アストロサイトーシスまたはアストログリオーシスと称されるこの活性化は、細胞外基質分子(ECM)の緻密繊維性瘢痕への沈着をもたらしうる。損傷に対するこのような反応は、修復に有害であると考えられる。さらに、損傷の後に、アストロサイトが、グルタミン酸レセプターを活性化して、興奮毒性および周辺細胞の死がもたらされうる。
【0079】
本発明の神経細胞には、軸索を包んで情報が伝達される速度および確実性を高める脂肪絶縁体であるCNSミエリンの、産生および維持を典型的に担うマクログリア細胞である、オリゴデンドロサイトも含まれる。オリゴデンドロサイトは、CNSにおいて、典型的にはまず脊髄および脳の腹側の脳室帯および脳室下帯から発生する。脊髄のオリゴデンドロサイトは、胚発生の間に典型的に脳室帯から生じ、その後白質に移動し、そこで増殖および分化する(Miller,Prog.Neurobiol.67:451―467(2002))(図23)。それらの成熟および分化の間に、オリゴデンドロサイトは典型的に、細胞形態および特異的分子マーカー発現の明白な変化(図24)により特徴づけられる、一連の成長段階を経る。各細胞集団に対するこれらのマーカーの特異性により、異なる段階にある細胞の同定および単離が可能になる。
【0080】
いくつかの実施形態においては、グリア細胞はミクログリアであり、それは、名から示唆されるとおり三つのCNSグリア細胞の中で最も小さく、それらが関連する骨髄由来単球およびマクロファージと特性を共有する。それらは、リンパ系組織の骨髄前駆細胞に由来し、その発達上の血管形成の間にCNSに至ると考えられる。静止ミクログリアは、垂直な脊椎のような突起を伴う細長い双極細胞体を有する。ミクログリアは、高運動性の細胞であり、活性化されると、食作用、抗原の提示、および炎症性サイトカインの分泌を伴って、CNSにおいて免疫細胞のように働くと考えられる。アストロサイトおよびミクログリアは、抗原提示細胞として働きうるため、この細胞挙動が免疫反応を増幅し、無制御のミエリン崩壊につながりうる。
【0081】
ある実施形態では、本発明の方法で利用される一つ以上の薬剤(例えばアゴニスト、アンタゴニスト、またはモジュレータ)は、CXCケモカインおよびその対応するレセプターに結合する、抗体および免疫グロブリン変異体である。これらの薬剤は、線状または環化された形において提供されればよく、自然において一般に見られない少なくとも一つのアミノ酸残基または少なくとも一つのアミド同配体を選択的に含む。これらの化合物は、グリコシル化、リン酸化、硫酸化、脂質化または他のプロセスにより修飾されうる。
【0082】
様々な実施形態において、このような抗体により標的とされる一定のケモカインは、ELRケモカインである。‘ELR’ケモカインは、そのCXCR1およびCXCR2レセプターを介して炎症細胞を化学的に誘引し、活性化する(Baggiolini,Nature 392:565―568(1998);AhujaおよびMurphy、J.Biol.Chem.271:20545―20550(1996))。CXCR1は典型的に、CXCL8およびCXCL6/顆粒球走化性タンパク質―2(GCP―2)に特異的であり、CXCR2は典型的に、CXCL8を高親和性で結合するが、マクロファージ炎症性タンパク質―2(MIP―2)、CXCL1、CXCL5/ENA―78、およびCXCL6もやや低い親和性で結合する(例えば、BaggioliniおよびMoser、Rev.Immunol.,15:675―605(1997)を参照)。ヒトCXCR1またはCXCR2によりトランスフェクションされた細胞株におけるCXCL8シグナリングは、概して等力の走化性応答を誘導する(Wuyts等、Eur.J.Biochem.255:67―73(1998);Richardson等、J.Biol.Chem.273:23830―23836(1998))。
【0083】
様々な実施形態において、CXCを介したシグナリングを調節するために、抗CXCRまたは抗CXCL抗体が対象に投与されて、グリア細胞増殖および/または分化の増強、および/または免疫細胞浸潤の減少がもたらされる。一実施形態においては、このような抗体は、例えば、CXCRまたはCXCLの活性または発現レベルを阻害することにより、CXCを介したシグナリングを減少する。いくつかの実施形態では、CXC―シグナリングを阻害する方法において、抗体がCXCR1、CXCR2、CXCR3、ELR+CXCケモカイン、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7またはCXCL8に特異的でありうる細胞/対象に、抗体が投与される。様々な実施形態において、抗体は、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL8、CXCL6またはIL―8に特異的である。一実施形態においては、抗体は、AMX―IL―8である(Abgenix)。(Mahler等、Chest 126:926―934(2004))。別の実施形態においては、抗体は、CXCL1、CXCR1、またはCXCR2に特異的である。いくつかの実施形態においては、一つ以上の薬剤が、CXCR1および/またはCXCR2シグナリングを遮断または阻害する。別の実施形態においては、このような一つ以上の薬剤が、CXCL1、CXCL5またはCXCL8を含むがこれに限られない、CXCLsを遮断または阻害する。一実施形態においては、CXCR1、CXCR2、CXCL1、CXCL5、CXCL8、またはそれらの組み合わせを遮断するために、一つ以上の薬剤が投与される。
【0084】
本明細書に記載のケモカイン抗原に特異的な抗体の生産は、参照により各関連部分が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,491,916号;6,982,321号;5,585,097号;5,846,534号;6,966,424号および米国特許出願公開第20050054832号;20040006216号;20030108548号;2006002921号および20040166099号に開示されるもの等、当業者に公知である。単なる一例においては、抗原を含む組成物をマウスに注射するステップと、血清サンプルを除去することにより抗体産生の存在を検証するステップと、Bリンパ球を得るために脾臓を除去するステップと、ハイブリドーマを生産するためにBリンパ球を骨髄腫細胞と融合するステップと、ハイブリドーマをクローニングするステップと、注射された抗原に対する抗体を産生する陽性クローンを選択するステップと、抗原に対する抗体を産生するクローンを培養するステップと、ハイブリドーマ培養から抗体を単離するステップにより、単クローン抗体が得られる。様々な確立した技術により、ハイブリドーマ培養から単クローン抗体が単離および精製されうる。このような単離技術には、プロテインAセファロースによるアフィニティークロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、およびイオン交換クロマトグラフィが含まれる。例えば、Coliganの2.7.1 2.7.12頁および2.9.1 2.9.3頁を参照。METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,VOL.10,79 104頁のBaines等、“Purification of Immunoglobulin G(IgG),”(The Humana Press,Inc.1992)も参照。
【0085】
標準的な技術を用いて、抗体作製のための、適切な量の十分に特徴づけされた抗原が得られる。例えば、Tedder等、米国特許第5,484,892号明細書(1996)により記載される沈殿した抗体を用いて、細胞からケモカイン抗原が免疫沈降されうる。あるいは、目的の抗原を過剰生産するトランスフェクションされた培養細胞から、ケモカイン抗原タンパク質が得られる。公開されたヌクレオチド配列を用いて、これらのタンパク質の各々をコードするDNA分子を含む発現ベクターが構築されうる。例えば、Wilson等、J.Exp.Med.173:137―146(1991);Wilson等、J.Immunol.150:5013―5024(1993)を参照。例として、相互プライミングロングオリゴヌクレオチドを用いてDNA分子を合成することにより、CD3をコードするDNA分子が得られる。例えば、Ausubel等、(編)、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,8.2.8〜8.2.13頁(1990)を参照。また、Wosnick等、Gene 60:115―127(1987);およびAusubel等(編)、SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,第3版、8―8〜8―9頁(John Wiley & Sons,Inc.1995)も参照。ポリメラーゼ連鎖反応法を用いた確立された技術により、長さが1.8キロベースの大きさの遺伝子を合成することができる。(Adang等、Plant Molec.Biol.21:1131―1145(1993);Bambot等、PCR Methods and Applications 2:266―271(1993);METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,15巻:PCR PROTOCOLS:CURRENT METHODS AND APPLICATIONS,White(編)、263 268頁の、Dillon等、“Use of the Polymerase Chain Reaction for the Rapid Construction of Synthetic Genes,”(Humana Press,Inc.1993))。変化形においては、目的の抗原をコードするcDNAで安定的にトランスフェクションされたネズミ前B細胞株で免疫したマウスからの脾臓細胞と骨髄腫細胞を融合することにより、単クローン抗体が得られる。(Tedder等、米国特許第5,484,892号を参照。)
一実施形態においては、比較的低用量の、裸の抗体全体または裸の抗体全体の組み合わせが使用される。いくつかの実施形態においては、抗体フラグメント、したがって完全抗体未満のものが利用される。他の実施形態においては、薬物、毒素または治療ラジオアイソトープと抗体の結合体が、有用である。二つ以上の抗原に結合するハイブリッド抗体を含む、ケモカイン抗原に結合する二重特異性抗体融合タンパク質が本発明により使用されうる。好ましくは、二重特異性およびハイブリッド抗体は、T細胞、形質細胞またはマクロファージ抗原をさらに標的とする。したがって、抗体には、単一特異性または多重特異性でありうる、裸の抗体および結合抗体および抗体フラグメントが含まれる。
【0086】
本発明の一つ以上の方法において、マーカータンパク質およびその機能的フラグメントが、抗原特異的免疫調節成分として、抗原特異的寛容を誘導するために利用され、ミエリン修復を誘導するために送達される薬剤と組み合わされて相乗的治療結果をもたらしうる。(オリゴデンドロサイトおよびシュワン細胞を含む)ミエリン形成細胞のマーカータンパク質の非限定的な例は、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシル基転移酵素(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、オリゴデンドロサイト―ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質0(MPZ)、末梢性ミエリンタンパク質22(PMP22)、タンパク質2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群より選択されうる。MPZ、PMP22およびP2は、シュワン細胞のいくつかのマーカーである。
【0087】
いくつかの実施形態においては、ケモカイン―シグナリング阻害剤は、repertaxin(図11)、CXCR1/CXCR2アンタゴニスト(図10A〜10B)(Bizzarri等、Pharmacology.& Therapeutics,112:139―149(2006))、CXCR1/CXCR2アロステリック阻害剤(図10C)(Bizzarri等、Pharmacology.& Therapeutics,112:139―149(2006))および米国特許第7,008,962号に開示されるジアニリノスクアレート等のIL―8アンタゴニストを含むがこれに限られない、低分子である。他の阻害剤には、3,4,5―トリ置換アリールニトロン(米国特許出願公開第20050215646号)および米国特許出願公開第20060014794号に開示されるCXCR1およびCXCR2アンタゴニストが含まれうる。いくつかの実施形態においては、生物活性剤は、米国特許出願公開第20060233748号(ペプチド)に開示されるようなIL―8ミメティクスまたは第20070167360号に開示されるようなsRAGEでありうる。
III.細胞移植
本発明の別の態様では、露出軸索のミエリン修復または再ミエリン化に関わる細胞が、対象に投与され、当該細胞が、CXCシグナリングの低下、例えばCXCR2シグナリングの低下を有するように改変される。このような細胞は、培養され、適切なベクターでトランスフェクションされて、細胞増殖、分化、または損傷または傷害部位(例えば脱髄部位)への移動の増強につながるポリペプチドを発現する。いくつかの実施形態においては、再ミエリン化またはミエリン修復に関わる細胞が、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、またはCXCL8の発現低下等、CXCリガンド発現が低下するように改変される。他の実施態様においては、細胞のCXCレセプター発現が低下する。いくつかの実施形態においては、CXCR2またはそのリガンド、例えばCXCL1を遮断または阻害するように、細胞が改変される。一実施形態においては、CXCR1および/またはCXCR2を遮断または阻害するように、細胞が改変される。
【0088】
様々な実施形態において、細胞(「細胞種類」)は、本明細書に開示されるものである。例えば、このような細胞は、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)、シュワン細胞(SCs)、嗅覚鞘性細胞、アストロサイト、ミクログリアおよび神経幹細胞(NSCs)である。いくつかの実施形態においては、一つ以上の細胞種類が、ケモカイン発現およびケモカインレセプター発現を阻害するために改変され、神経障害を治療するために対象に投与される。一実施形態においては、OPCsおよびアストロサイトを含む二つの細胞種類が投与される。いくつかの実施形態においては、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)の成熟オリゴデンドロサイトへの分化を促進するために、薬剤が投与される。あるいは、このような薬剤が、ミエリン形成に関わる細胞またはミエリン形成に関連した機能的相互作用に関わる細胞の増殖を誘導しうる。このような神経細胞には、OPCs、シュワン細胞(SCs)、嗅覚鞘性細胞、アストロサイト、ミクログリアおよび神経幹細胞(NSCs)が含まれるがこれに限定されない。薬剤は、OPCs等のグリア細胞の移動も誘導しうる。生物活性剤の投与の前、同時、または後に、このような神経細胞が投与されうる。他の実施形態においては、一つ以上の種類の神経細胞が、一つ以上の種類の生物活性剤とともに投与されうる。明確のため、用語「種類」は、例えば、異なる種類の細胞(例えばオリゴデンドロサイトとアストロサイト)または異なる種類の生物活性剤(例えば抗体、アンチセンス分子、または低分子)を意味する。
【0089】
一実施形態においては、細胞は、NG2プロテオグリカンを発現するグリア細胞(NG2(+)細胞)であるが、それは、成熟オリゴデンドロサイトを生む能力に基づいて、中枢神経系(CNS)のオリゴデンドロサイト前駆体(OPCs)であると考えられる。一実施形態においては、CXCR2により媒介されるケモカイン―シグナリングを調節するために、生物活性剤が対象に投与され、その結果NG2+OPCsの数が増加する。
【0090】
いくつかの実施形態では、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)、シュワン細胞(SCs)、嗅覚鞘性細胞、アストロサイト、ミクログリアまたは神経幹細胞(NSCs)が培養され、ケモカインをコードするベクターで形質転換され、移植前にin vitroで増殖させられる。他の実施形態においては、細胞が、CXCを介したシグナリングを阻害するタンパク質を発現するように、in vivoでトランスフェクションまたは遺伝学的に改変されうる。
【0091】
いくつかの実施形態においては、ミエリン産生細胞またはその前駆細胞には、胎児または成人OPCsが含まれるが、これに限られない。一実施形態においては、OPCは、A2B5+PSA−NCAM−表現型である(初期オリゴデンドロサイトマーカーA2B5が陽性であり、ポリシアル酸化神経細胞接着因子が陰性)。
【0092】
様々な動物モデルにおいて、CNS軸索の再ミエリン化が示されている。多くの最近の研究が、脱髄疾患における細胞移植の使用と関連した新技術および新規の機構を以後示している。成人脳から単離されたヒトOPCsは、ミエリン形成異常のマウス突然変異体に移植されると、裸の軸索を有髄化できた。重要なことに、成人前駆細胞の使用は、倫理的問題を回避しうる。OP細胞が内因性再ミエリン化を担う一方、NSCsは、ミエリン修復を促進するための細胞の代用源である。NSCsは、成人CNSに見られ、in vitroで大量に増殖させることができ、分化してOLs、アストロサイト、または神経細胞を形成できる。NSCsは、再発または慢性型EAEを有する齧歯類に移植されると、CNS炎症および脱髄のエリアに移動し、グリア細胞運命を優先的に選択することが示されている。さらに、移植マウスにおける臨床疾患の減衰が、脱髄病変の修復および軸索損傷の減少に関連づけられている。組織分析により、移植されたNSCsが主にPDGFR+OP細胞に分化したことが確認された。
【0093】
興味深いことに、NSC移植EAEマウスにおいてOP細胞の数が増加する一方、これらの細胞の大部分はドナー由来でなく、移植細胞が内因性オリゴデンドログリアの増殖を制御したことが示唆される。NSCsがEAE改善および病変修復を促進する機構は、免疫抑制および神経保護機能を示す。NSCが、in vivoおよびin vitroの両方でT細胞のアポトーシスを誘導し、NSC移植EAE齧歯類においてCNS浸潤T細胞を減少させ、in vitroでミエリンペプチド特異的T細胞増殖を阻害することが示されている。CNS炎症を減少および/またはOL系統細胞生存を増強し、宿主CNSにおける再ミエリン化を促進しうる、神経栄養因子および様々な成長因子により、免疫調節および提唱される神経保護の性質が媒介されうる。
【0094】
いくつかの実施形態においては、一つ以上の所望の生物活性剤の発現を可能にするために、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)、シュワン細胞(SCs)、嗅覚鞘性細胞、および神経幹細胞(NSCs)が、従来技術において公知または本明細書に開示の方法を用いて、一つ以上の発現ベクターでトランスフェクションされる。このような生物活性剤は、CXCを介したシグナリングを妨げることにより、免疫調節を導きうる。別の実施形態においては、このような薬剤が、オリゴデンドロサイトの病変部位における増殖または病変部位への移動を促進しうる。さらに別の実施形態においては、このような薬剤が、OPCの成熟オリゴデンドロサイトへの分化および/または増殖または病変部位への移動を促進しうる。様々な実施形態において、培養における増殖の前、同時または後に、細胞がトランスフェクションされる。
【0095】
当然のことながら、侵襲性、外科的、最小限侵襲性および非外科的手順を含む、従来技術で公知の方法を使用して、移植が行われる。対象、標的部位、および送達される薬剤(単数または複数)に応じて、従来技術で公知の方法を使用して、細胞の種類および数が所望どおり選択されうる。
IV.スクリーニングアッセイ
A.細胞培養
本発明のいくつかの態様は、候補薬剤をスクリーニングして、このような薬剤がCXCを介した細胞シグナリングを阻害するかを決定する方法を対象とする。免疫調節、ミエリン修復、または軸索保護を誘導する薬剤を組み合わせにおいてスクリーニングして、どの組み合わせが神経障害の治療において有益かを決定しうる。いくつかの実施形態では、神経細胞、特にグリア細胞、より具体的にはアストロサイト、オリゴデンドロサイト、SCs、OPCsまたはNSCsがスクリーニングのために培養および/または遺伝子操作される。
【0096】
一実施形態においては、このような細胞培養に一つ以上の生物活性剤を接触させ、このような接触の前、同時、または後に、一つ以上のミエリン修復または軸索保護を誘導する薬剤も細胞に投与して、いずれの生物活性剤または生物活性剤の組み合わせが所望の効果または相乗効果をもたらすかを決定する。例えば、経時顕微鏡検査を利用して、前駆細胞種類からミエリン形成オリゴデンドロサイトへの転換を明らかにすることにより、培養において相乗効果が観察されうる。さらに、分化細胞検出における便利な蛍光顕微鏡法を促進するために、前駆細胞が膜標的化形態の強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)でトランスフェクションされうる。したがって、様々な実施形態において、米国特許第7,008,634号;6,972,195号;6,982,168号;6,962,980号;6,902,881号;6,855,504号;または6,846,625号に開示されるような、従来技術で周知の技術を利用して、細胞が組み合わせ処置またはスクリーニングプロセスの構成成分であるマーカータンパク質または生物活性剤を発現するように、培養および/または遺伝子改変されうる。
【0097】
一実施形態においては、発現ベクターが、細胞特異的プロモータエレメント(例えば、オリゴデンドロサイトを含むグリア細胞に特異的なPLPまたはPDGFα)から発現されるマーカータンパク質(例えば蛍光マーカー)をコードしうる。さらに、同じ細胞が、CXCL1またはCXCL8等のCXCケモカインをコードする第二発現ベクターでトランスフェクションされうる。あるいは、単一の発現コンストラクトが、マーカータンパク質およびCXCケモカイン等、二つ以上のポリペプチドをコードしうる。このような実施形態においては、(in vitro細胞または組織培養またはin vivo画像化等のための)蛍光顕微鏡法を含むがこれに限られない、公知技術の標準的な顕微鏡検査技術を使用して、CXCケモカインおよびマーカータンパク質を発現する細胞が検出されうる。
【0098】
いくつかの実施形態においては、構成的、誘導性または神経細胞特異的プロモータに操作可能に連結され、ケモカイン―レセプターリガンドをコードする核酸分子が、神経細胞にトランスフェクションされる。このような細胞は、CXCLを変更されたレベルで発現して、ケモカインを介したシグナリングが調節されるように形質転換されうる。さらに、このような細胞が、神経細胞増殖および/または移動を増強するために、対象動物に投与されうる。一実施形態においては、あるCXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL6、CXCL8またはCXCL10の発現変更を提供するために、細胞が遺伝的に改変される。一実施形態においては、神経細胞が遺伝子改変されることにより、CXCL1、CXCR1またはCXCR2の発現が増加する。本明細書に記載され当業者によく知られた要素および方法を利用した、homolgous組換え、組み込み、またはプラスミドまたはウイルスベクターの利用により、所望のCXCLをコードする核酸が標的細胞に形質転換されればよい。様々な実施形態実施形態において、CXCL1、CXCR1および/またはCXCR2の発現を減少させるために、神経細胞が遺伝子改変される。
【0099】
当業者には当然のことながら、グリア細胞における発現レベルは、このようなグリア細胞に投与される発現コンストラクト上にコードされる所望のポリペプチドの発現により、変更されうる。あるいは、CXCL1またはCXCR2等、所望のポリペプチドの発現にそれ自体が影響する生成物(例えばアンチセンス分子、siRNA、アプタマー)をコードする発現コンストラクトを利用することにより、発現が調節されうる。アンチセンス分子、siRNAまたはアプタマーは、当業者によく知られ、または本明細書に上述されたプロセスを利用して選択されうる。上述のもののような抗体および低分子等の他の生物活性剤も、CXCシグナリングに関わるポリペプチド等、所望のポリペプチドの発現を変更しうる。CXCR2および/またはCXCR1シグナリングは、その発現またはその上流のレギュレータまたはリガンド、またはその下流のエフェクターの発現の変更により、影響されうる。
【0100】
遺伝子発現レベルの検出は、増幅アッセイにおいて実時間で行われうる。一態様では、増幅産物が、DNAインターカレータおよびDNAグルーブバインダを含むがこれに限られない蛍光DNA―結合剤により、直接視覚化されうる。二本鎖DNA分子に取り入れられるインターカレータの量が、増幅DNA産物の量と典型的に比例するため、従来技術の光学系を使用して挿入色素の蛍光を定量化することにより増幅産物の量を都合よく決定できる。この用途に適したDNA―結合色素には、SYBRグリーン、SYBRブルー、DAPI、ヨウ化プロピジウム、Hoechste、SYBRゴールド、臭化エチジウム、アクリジン、プロフラビン、アクリジンオレンジ、アクリフラビン、フルオロクマニン(fluorcoumanin)、エリプチシン、ダウノマイシン、リン酸クロロキン、ジスタマイシンD、クロモマイシン、ホミジウム、ミトラマイシン、ルテニウムポリピリジル、アントラマイシンなどが含まれる。
【0101】
別の態様においては、増幅産物の検出および定量化を促進するために、配列特異的プローブ等の他の蛍光ラベルが、増幅反応において用いられうる。プローブベースの定量的増幅は、所望の増幅産物の配列特異的検出に依存する。それは、蛍光、標的特異的プローブ(例えばTaqManプローブ)を利用し、特異性および感受性の増加がもたらされる。プローブベースの定量的増幅を実行する方法は、従来技術において確立されており、米国特許第5,210,015号において教示される。
【0102】
さらに別の態様においては、CXC―ケモカイン関連遺伝子と配列相同性を共有するハイブリダイゼーションプローブを用いた従来のハイブリダイゼーションアッセイが実行されうる。典型的には、ハイブリダイゼーション反応において、プローブに試験対象から得られる生体試料に含まれる標的ポリヌクレオチド(例えばCXCLまたはCXCR遺伝子)との安定複合体を形成させる。当業者には当然のことながら、アンチセンスがプローブ核酸として使用される場合には、試料中に提供される標的ポリヌクレオチドが、アンチセンス核酸の配列に相補的であるように選択される。反対に、ヌクレオチドプローブがセンス核酸である場合には、標的ポリヌクレオチドが、センス核酸の配列に相補的であるように選択される。
【0103】
当業者に公知のように、ハイブリダイゼーションは様々なストリンジェンシーの条件下で実行されうる。本発明の実行に適切なハイブリダイゼーション条件は、プローブと標的CXC関連遺伝子の間の認識相互作用が、十分に特異的かつ十分に安定するようなものである。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーを高める条件は、従来技術において公知であり、公開されている。例えば、(Sambrook等、(1989),上記;Nonradioactive In Situ Hybridization Application Manual,Boehringer Mannheim,第2版)を参照。ハイブリダイゼーションアッセイは、ニトロセルロース、ガラス、シリコン、および様々な遺伝子アレイを含むがこれに限られない任意の固体担体上に固定されたプローブを使用して形成されうる。ハイブリダイゼーションアッセイは、米国特許第5,445,934号に記載されるような、高密度遺伝子チップ上で行われる。
【0104】
ハイブリダイゼーションアッセイの間に形成されるプローブ―標的複合体を都合よく検出するために、ヌクレオチドプローブが、検出可能な標識に結合される。本発明の使用に適する検出可能な標識には、光化学的、生化学的、分光学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段により検出可能な任意の組成物が含まれる。適切な検出可能な標識の様々なものが、従来技術において周知であり、蛍光または化学発光標識、放射性同位体標識、酵素または他のリガンドが含まれる。様々な実施形態においては、蛍光標識または酵素タグ、例えばジゴキシゲニン、βガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼまたはペルオキシダーゼ、アビジン/ビオチン複合体の利用が所望されうる。
【0105】
ハイブリダイゼーション強度を検出または定量化するために用いられる検出方法は、上に選択される標識に典型的に依存する。例えば、放射標識は、写真フィルムまたはホスホイメージャを使用して検出されうる。蛍光マーカーは、発光を検出するための光検出器を使用して、検出および定量化されうる。酵素標識は、酵素に基質を提供し、基質に対する酵素の反応により生成される反応生成物を測定することにより典型的に検出される。最後に、比色標識は、単に着色した標識を視覚化することにより検出される。
【0106】
対応する遺伝子産物を検査することによって、薬剤により誘導される発現CXCケモカイン関連遺伝子の変化を決定することもできる。タンパク質レベルの決定には、a)ミエリン形成細胞を含む生物サンプルに含まれるタンパク質をCXCケモカイン関連タンパク質に特異的に結合する薬剤に接触させるステップと;(b)そのようにして形成された任意の薬剤:タンパク質複合体を同定するステップを典型的に伴う。この実施形態の一態様においては、CXCケモカイン関連タンパク質を特異的に結合する薬剤は、抗体、好ましくは単クローン抗体である。
【0107】
前述の組成物および方法は、本明細書に後述される(例えば、ケモカインレセプターまたはそのリガンドによる)ケモカインシグナリングの遮断にむけられた、有効な量の治療剤のスクリーニングおよび治療のための方法に容易に適用され、ケモカインを介した免疫調節および/またはミエリン修復の増強をもたらしうることを理解されたい。
【0108】
マーカータンパク質を検出することにより、薬剤により誘導される発現CXCケモカイン関連遺伝子の変化、または薬剤により誘導される効果を決定してもよい。例えば、マーカータンパク質は、細胞の同定(例えば細胞運命マッピング)を促進するための公知技術の免疫染色技術の標的でありうる。(オリゴデンドロサイトおよびシュワン細胞を含む)ミエリン形成細胞のマーカータンパク質の非限定的な例は、CC1、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、セラミドガラクトシル基転移酵素(CGT)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、オリゴデンドロサイト―ミエリン糖タンパク質(OMG)、サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNP)、NOGO、ミエリンタンパク質0(MPZ)、末梢性ミエリンタンパク質22(PMP22)、タンパク質2(P2)、ガラクトセレブロシド(GalC)、スルファチドおよびプロテオリピドタンパク質(PLP)からなる群より選択されうる。MPZ、PMP22およびP2は、シュワン細胞のマーカーである。
【0109】
必要に応じて、in vivoまたは組織培養の細胞移動を追うために、たとえば、(培養またはin vivoの)細胞が、蛍光マーカータンパク質を発現するように改変されうる。本発明で使用できるマーカー遺伝子の非限定的な例には、サンゴ礁由来蛍光タンパク質(RCFPs)、HcRed1、AmCyan1、AsRed2、mRFP1、DsRed1、クラゲ蛍光タンパク質(FP)変異体、赤色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、GFP変異体H9、GFP H9―40、EGFP、テトラメチルローダミン、Lissamin、Texas Red、EBFP、ECFP、EYFP、Citrine、Kaede、Azami Green、Midori Cyan、Kusabira Orangeおよびナフトフルオレセイン、またはこれらの強化された機能的変異体が含まれる。マーカーが本発明で使用可能である、フルオロフォアタンパク質マーカーをコードする多くの遺伝子が従来技術において周知である。ウェブサイト:<cgr.harvard.edu/thornlab/gfps.htm>を参照。より強度の高い光を放出するか、波長がシフトする蛍光タンパク質の変異型も本発明の組成物および方法で利用されうる。このような変異体は従来技術において周知であり、市販される。(Clontech Catalogue,2005)を参照。
【0110】
顕微鏡観察技術により、動物から得られる細胞/組織サンプルの検査(例えば、共焦顕微鏡を用いたセクショニングおよび画像化による)ならびに生細胞の検査またはin vivoの蛍光検出のいずれかにより、蛍光(例えば蛍光タンパク質をコードするマーカー遺伝子)の視覚化が行われうる。可視化技術には、従来技術において公知の共焦顕微鏡検査または光学スキャニング技術の利用が含まれるがこれに限られない。波長が増加するにともない、バックグラウンドノイズを増加させる散乱および自己蛍光の両方が減少するため、近赤外の放出波長を伴う蛍光ラベルが、一般に深部組織画像化により適する。in vivo画像化の例は、参照により各々の開示が本明細書に組み込まれる、Mansfield等、J.Biomed.Opt.10:41207(2005);Zhang等、Drug Met.Disp.31:1054―1064(2003);Flusberg等、Nat.Methods 2:941―950(2005);Mehta等、Curr.Opin.Neurobiol.14:617―628(2004);Jung等;J.Neurophysiol.92:3121―3133(2004);米国特許第6,977,733号および6,839,586号により開示されるように、従来技術において周知である。
【0111】
スクリーニングアッセイも、特定のCXCケモカインまたはCXCRを介したシグナリング経路を選択的に阻害する薬剤をスクリーニングおよび同定するための方法を提供しうる。例えば、薬剤が、CXCR2またはそのリガンドを、CXCR1、CXCR3、またはCXCR4を介したシグナリング等の他のCXC関連タンパク質を介したシグナリング経路よりも効果的に阻害すること等により、CXCR2および/またはCXCR1が媒介するシグナリングを阻害または遮断するかを同定するために、低分子または抗体、または他のCXC関連阻害剤候補がスクリーニングされうる。あるいは、薬剤が、CXCR1を選択的に阻害し、薬剤が、CXCR2、CXCR3、またはCXCR4等、他のCXC関連タンパク質またはその経路よりも、CXCR1またはその経路の阻害において、より有効でありうる。いくつかの実施形態においては、阻害剤は、二つのCXCレセプター、例えばCXCR1および/またはCXCR2につき選択的でありうる。阻害剤は、CXCR3および/またはCXCR4と比較して、CXCR1およびCXCR2、またはそのシグナリング経路の阻害につき、より有効でありうる。阻害剤は、CXCレセプターまたはそのリガンドを直接結合しうる。阻害剤は、CXCレセプターの活性部位、またはCXCレセプターまたはリガンドの結合部位を直接結合しうる。あるいは、阻害剤は、アロステリック阻害剤でありうる。
【0112】
CXCR2発現または活性を選択的消極的に制御する、任意の種類の薬剤が、本発明の方法において選択的CXCR2阻害剤として使用されうる。CXCR1発現または活性を選択的消極的に制御する、任意の種類の薬剤が、本発明の方法において選択的CXCR1阻害剤として使用されうる。さらに、CXCR2発現または活性を選択的消極的に制御する、任意の種類の薬剤、またはCXCR1発現または活性を選択的消極的に制御し、許容可能な薬理学的性質を有する薬剤が、本発明の治療法で選択的CXCR2阻害剤および/または選択的CXCR1阻害剤して使用されうる。
【0113】
各薬剤が所定の程度に活性を阻害する濃度を決定してから、結果を比較することにより、酵素活性(または他の生物活性)の阻害剤としての薬剤の相対的効力が確立されうる。様々な実施形態において、決定は、生化学的アッセイにおいて活性の50%を阻害する濃度、すなわち、50%阻害濃度または「IC50」である。IC50決定は、従来技術において従来の公知技術を使用して行われうる。一般に、一連の濃度の検討中の阻害剤の存在下で、所与の酵素の活性を測定することにより、IC50が決定されうる。その後、実験的に得られた酵素活性の値が、使用された阻害剤濃度に対してプロットされる。(一切の阻害剤の非存在下での活性と比較して)50%の酵素活性を示す阻害剤の濃度が、IC50値とされる。同じように、他の阻害濃度が、適切な活性の測定により決定されうる。例えば、ある場合には、90%阻害濃度、すなわちIC90等を確立することが望まれうる。
【0114】
したがって、選択的CXCR2阻害剤、またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する阻害剤は、CXCR2に関して、任意または全ての他のCXCRファミリーメンバーに関するIC50値よりも少なくとも少なくとも10倍、好ましくは20倍、より好ましくは、少なくとも30倍低い、50%阻害濃度(IC50)をもつ化合物をさすものと代替的に理解されうる。したがって、選択的CXCR1阻害剤、またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する阻害剤は、CXCR1に関して、任意または全ての他のCXCRファミリーメンバーに関するIC50値よりも少なくとも少なくとも10倍、好ましくは20倍、より好ましくは少なくとも30倍低い、50%阻害濃度(IC50)をもつ化合物をさすものと代替的に理解されうる。
【0115】
例えば結合アッセイで、CXCR2に結合するCXCL8を選択的に置換する阻害剤のIC50を決定することにより、CXCR1および/またはCXCR2活性が決定されうる。コントロール細胞と比較した、好中球多形核白血球(PMNs)の動員の量により、CXCR1またはCXCR2活性が決定されてもよい。CXCR1およびCXCR2の両方のリガンドであるCXCL8は、PMN動員を促進する。CXCR1またはCXCR2阻害剤の効果を決定するために、PMN接着アッセイ、PMN活性化アッセイ、およびT細胞走化アッセイが行われうる(Castilli等、Biochem Pharma.69:385―395(2005))。他のCXCRsと比較した、遺伝子の発現レベル(例えばRT―PCRによる)またはタンパク質の発現レベル(例えば免疫細胞化学法、免疫組織化学法、ウェスタンブロットによる)により、CXCR1またはCXCR2の選択的阻害が決定されてもよい。
【0116】
別の態様においては、本発明は、グリオーシスの改善に有効な生物活性剤のスクリーニングを提供する。脱髄疾患において、アストロサイトは、自らおよびミクログリアを活性化し、グリオーシスを誘導しうる。コントロールと比較した、生物活性剤で処置した細胞における肥大した反応性アストロサイトの同定を用いて、生物活性剤がグリオーシスの改善に有効かを決定しうる。免疫細胞化学法およびドットブロットアッセイにより、脊髄アストロサイトの培養をアッセイして、分泌および結合されたコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)を分析しうる。グリア線維酸性(glial fibraillary acidic)タンパク質(GFAP)ならびに、ビメンチン等の他の中間フィラメントタンパク質、およびヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、デルマタン硫酸プロテオグリカン(DSPG)、またはケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)、およびコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)等、アストロサイトにより産生される他のプロテオグリカンの発現も検出しうる。
【0117】
グリア細胞の移動の促進に有効な生物活性剤も、決定されうる。例えば、LPCの脊柱への局所注射により成人ラットに脱髄病変を作製することにより、病変部位へのOPCsの移動が決定されうる。精製した標識されたOPCsを、病変エリアまたは隣接するスライスに注射し、それらの挙動をモニタして、この系における細胞移動を追うことができる。病変(単数または複数)内の再ミエリン化のレベルをアッセイするために、コントロールおよび治療された培養物を維持しうる。各スライスが独立しているため、単一の病変動物に複数のアッセイが行われうる。CXC―シグナリング阻害剤(例えばrepertaxin)が最も有効である、病変後間隔および用量を決定し、これによりin vivo研究を促進しうる。
B.動物モデル
いくつかの態様においては、免疫調節およびミエリン修復/再ミエリン化または軸索保護を目的とする生物活性剤の、有益な治療効果のある組み合わせを決定するためのスクリーニングアッセイが、動物モデルを利用して行われる。いくつかの実施形態においては、動物は、小型齧歯動物、またはシミアン種である。さらなる実施形態においては、動物は、マウス、ラット、モルモット、またはサルである。
【0118】
いくつかの実施形態においては、動物は、一つ以上の所望の特性を伴う、「ノックアウト」または「ノックイン」でありうる、トランスジェニック動物である。例えば、いくつかの実施形態においては、トランスジェニック動物が、免疫調節、ミエリン修復/再ミエリン化または軸索保護を促進する薬剤を発現し、または変更されたレベル(すなわちアップまたはダウン)で発現するように、改変されうる。したがって、免疫調節、ミエリン修復/再ミエリン化または軸索保護を同様に目的とした複数の異なる生物活性剤をスクリーニングするために、このような動物が利用され、トランスジェニック動物が一つのエンドポイントを目的とした薬剤を含む場合には、異なるエンドポイント(単数または複数)を目的とした薬剤が動物に投与され、逆も同様にして、本明細書に上述される神経障害または関連した状態の相乗的治療結果をもたらす治療剤の組み合わせ候補が同定される。
【0119】
上述のように、トランスジェニック動物は、「ノックアウト」および「ノックイン」という二つのタイプに広く分類できる。「ノックアウト」は、好ましくは標的遺伝子発現がわずかまたは検知不能となるように、標的遺伝子の機能の減少をもたらすトランスジェニック配列の導入による、標的遺伝子の変更を有する。「ノックイン」は、例えば、標的遺伝子の追加的コピーの導入により、または標的遺伝子の内因性コピーの発現増強を提供する制御配列を操作可能に挿入することにより、標的遺伝子の発現増加をもたらす宿主細胞ゲノムの変更を有するトランスジェニック動物である。ノックインまたはノックアウトトランスジェニック動物は、標的遺伝子に関してヘテロ接合またはホモ接合でありうる。ノックアウトおよびノックインはいずれも、「バイジェニック」でありうる。バイジェニック動物は、少なくとも二つの変更された宿主細胞遺伝子を有する。一実施形態においては、バイジェニック動物は、神経細胞特異的リコンビナーゼをコードするトランスジーンと、神経細胞特異的マーカー遺伝子をコードする別のトランスジェニック配列を担持する。
【0120】
他の実施形態においては、神経細胞の再ミエリン化を促進するかこれに有益である生物活性剤の開発にも、トランスジェニックモデル系が使用されうる。例えば、免疫調節、ミエリン修復または軸索保護の表現型をもたらす薬剤を発現するように改変されたトランスジェニック動物が、未知化合物をスクリーニングして、(1)化合物が免疫寛容を増強し、炎症反応を抑制し、または再ミエリン化を促進するか、および/または(2)化合物が動物モデルにおいて相乗的治療効果をもたらすかを決定するための方法において利用されうる。さらに、ex vivoの技術を含めて、細胞ベースまたは細胞培養の設定で行われるさらなる研究またはアッセイのために、本発明のトランスジェニック動物から神経細胞が単離されうる。さらに、モデル系を用いて、テスト薬剤が、有害効果を与えるか、または再ミエリン化を減少させるか(例えば脱髄後の傷害)をアッセイしうる。
【0121】
胚の顕微操作のための技術の進歩により、現在では哺乳類受精卵への異種DNAの導入も可能である。例えば、マイクロインジェクション、リン酸カルシウムにより媒介される沈殿、リポソーム融合、レトロウイルスインフェクションまたは他の手段により、全能性または多能性幹細胞が形質転換されうる。そして、形質転換細胞が胚に導入された後、胚がトランスジェニック動物に成長する。一実施形態においては、インフェクションされた胚からトランスジーンを発現するトランスジェニック動物が生産されうるように、成長する胚が、所望のトランスジーンを含むウイルスベクターでインフェクションされる。他の実施形態においては、好ましくは単一の細胞分裂期において、所望のトランスジーンを胚の前核または細胞質に同時注入し、胚を成熟トランスジェニック動物に成長させる。トランスジェニック動物を作製するための、これらのおよび他の様々な方法は、従来技術において確立されているため、本明細書では詳述しない。例えば、米国特許第5,175,385号および第5,175,384号を参照。
【0122】
したがって、本発明は、いくつかの実施形態において、相乗効果のある、または相乗効果が高められたコンビナトリアル処置を検出および定量化するために、動物モデルを使用する方法を提供する。一実施形態においては、方法には、(a)免疫寛容を誘導する薬剤を発現する本発明のトランスジェニック動物において、脱髄傷害を誘導するステップと;(b)候補薬剤を投与し、ミエリン修復が生じるのであればそれが生じるのを許容する時間を与えるステップと;(c)細胞特異的マーカー遺伝子(単数または複数)の発現を検出および/または定量化するステップと(d)再ミエリン化が生じたか、どのくらい生じたか、およびこのような再ミエリン化がコントロールと比較して増加したかを決定するステップが含まれる。このような例においては、コントロールは、疾患モデルが誘導される野生型、または候補薬剤が投与されないトランスジェニックでありうる。
【0123】
テスト動物に脱髄を誘導する多数の方法が、確立されている。例えば、病原体または物理的傷害、テスト動物の炎症および/または自己免疫反応を誘導する薬剤により、神経細胞脱髄をおこさせうる。様々な実施形態において、本発明の方法は、IFN―γおよびクプリゾン(ビス―シクロヘキサノンオキサルジヒドラゾン)を含むがこれに限られない、脱髄誘導性薬剤を用いる。クプリゾン誘導性脱髄モデルは、Matsushima等、(Brain Pathol.11:107―116(2001))に記載される。この方法では、試験動物に、クプリゾンを含む食餌が、約1〜約10週の範囲で数週間、典型的に供給される。
【0124】
適切な方法による脱髄状態の誘導後、先に脱髄した病変の箇所またはその付近の再ミエリン化を許容するのに十分な時間、動物を回復させる。再ミエリン化された軸索を発達させるのに必要な時間は、異なる動物の間で異なるが、一般に少なくとも約1週間、より多くの場合には少なくとも約2〜10週間、さらに多くの場合に約4〜約10週間必要である。神経系における(例えば、中枢または末梢神経系における)有髄軸索の増加を観察することにより、またはミエリン形成細胞のマーカータンパク質のレベルの増加を検出することにより、再ミエリン化を確認しうる。
【0125】
脱髄の前、同時または後に、生物活性薬が動物に投与されてもよい。グリオーシスの量が決定され、コントロール動物と生物学的に活性な薬剤で治療された動物の間で比較されうる。グリオーシスの改善に有効な生物活性剤が、確認されうる。グリオーシスは、典型的には再ミエリン化および軸索再生に対する障壁である、グリア性瘢痕に寄与しうる。反応性アストロサイトにより、グリオーシスが誘導されうる。アストログリオーシスおよびマイクログリオーシスの存在は、脱髄不全および神経炎症性疾患に典型的な特徴であるため、アストロサイト活性化およびグリオーシスが、脱髄に寄与しうる。肥大した反応性アストロサイトの同定が、免疫細胞化学的方法により決定されうる。グリオーシスを同定するために、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)、ならびにビメンチン等の他の中間フィラメントタンパク質、ならびにヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、デルマタン硫酸プロテオグリカン(DSPG)、ケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)、およびコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)等、アストロサイトにより産生されるプロテオグリカンの発現も検出されうる。薬剤がグリオーシスの改善に有効かを決定するために、GFAP、ビメンチン、HSPG、DSPG、KSPG、および/またはCSPGの発現が、生物活性剤を伴ってまたは伴わずに治療された細胞の間で比較されうる。
【0126】
CXCR2および/またはCXCR1を選択的に阻害する生物学的に活性な薬剤が、動物に投与されうる。CXCR2および/またはCXCR1タンパク質のレベルがアッセイされ、傷害エリアのグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)発現と比較されうる。脊髄が切断され、免疫組織化学法または組織学法のために処理されうる。病変全体の切片が得られ、ミエリンの染色、Luxolファストブルーで染色されればよい(図36)。病変体積および3次元イメージを構築できる3D Doctorソフトウェアプログラムを使用して、病変が再構築されうる(図36)。ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、GFAP、ED1(マクロファージ/ミクログリア)およびビメンチンに対する抗体を用いた、標準的な免疫組織化学技術を使用して、病変内のタンパク質発現が分析されうる。
V.治療法
A.用量
本明細書に開示のCXCを介したシグナリングを標的とする生物活性剤(例えば低分子、repertaxinまたはペプチド/ポリペプチド)は、治療する患者および状態、および投与ルートに応じて、一般的に1日につき体重1kgあたり0.01mg〜500mgVの用量で、例えば平均的な人では約20mg/日で投与される。範囲が広いのは、一般に異なる哺乳類に対する治療効果の有効性に幅があるためであり、用量は典型的に人間においてラットより(単位体重あたり)20、30または40倍も少ない。同様に、投与様式が、用量に大きく影響しうる。したがって、例えばラットにおける経口用量は、注射用量の十倍でありうる。典型的な用量は、毎日一回の注射または毎日複数回の注射でありうる。様々な実施形態において、このような薬剤が投与され、CXCR1および/またはCXCR2を遮断または阻害するように設計される。一実施形態においては、CXCR1、CXCR2、CXCL1、CXCL5、CXCL8またはそれらの組み合わせを遮断または阻害するために、一つ以上の薬剤が投与される。
【0127】
技術者には当然のことながら、用量レベルは、特定の化合物、症状の重症度、および対象の副作用に対する感受性の関数として変化しうる。いくつかの特定のペプチドは、他より強力である。いくつかの実施形態においては、所与の複合体の用量は、様々な手段により当業者によって容易に決定可能である。例えば、一つの手段は、所与の化合物の生理的能力を測定することである。
【0128】
いくつかの実施形態においては、ペプチド、ポリペプチドまたは抗体が、治療的であると決定された用量で投与されうる。いくつかの実施形態においては、本発明の一つ以上の組み合わせ方法の範囲内において、免疫調節成分には、1日につき体重1kgあたり0.01mg〜500mgVの用量の抗体、ペプチド、タンパク質、アプタマー、siRNA、低分子またはアンチセンスを含むがこれに限られない、ペプチドまたはポリペプチドが含まれる。いくつかの実施形態においては、このような薬剤が、同じまたは異なる用量で1日に3〜5、4〜6、5〜7、または6〜10回の間で投与される。いくつかの実施形態においては、複数のサイクルで投与が繰り返され、各サイクルに、3〜5、4〜7、6〜9、7〜10、8〜12、9〜16または10〜21日の間の薬剤投与が含まれる。
【0129】
いくつかの実施形態においては、CXCを介したシグナリングを標的とする抗体が、患者の年齢、体重、身長、性別、全般的な健康状態および過去の既往歴等のファクターに依存する用量で投与される。典型的には、レシピエントに、約1pg/kg〜10mg/kg(薬剤量/患者の体重)の範囲の、抗体成分、免疫複合体または融合タンパク質の用量を提供することが望ましいが、状況によって、それを下回るか上回る投与量も投与されうる。患者に対する抗体(または本明細書に記載の任意の生物活性剤)の投与は、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、胸膜内、髄腔内であり、局所カテーテルによる灌流または直接的な病巣内注射によればよい。治療タンパク質を注射により投与する場合には、投与は、連続注入または単回または複数回ボーラスによればよい。静脈内注射は、抗体が速やかに分布し、循環が完全であるため、有用な投与様式を提供する。このような抗体は、本明細書に開示される任意のケモカインに特異的でありうる。様々な実施形態において、このような抗体は、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL2、CXCL5、CXCL8またはIL―8に特異的であり、神経障害を治療する方法において、このような抗体が、必要とする対象を治療するために投与される。いくつかの実施形態においては、CXCRsおよび/または、CXCLsを標的とする二つ以上の抗体が、当該CXCRsおよび/またはCXCLsを発現する細胞に投与または接触させられうる。一実施形態においては、CXCR1、CXCR2、CXCL1、CXCL5、CXCL8またはそれらの組み合わせを遮断または阻害するために、一つ以上の抗体が投与される。
【0130】
他の実施形態においては、製剤における治療的に活性な抗体または抗体フラグメント(例えばFabまたはFc部分)の濃度は、約0.1〜100重量%まで変化しうる。一実施形態においては、抗体または抗体フラグメントの濃度は、0.003〜1.0モルの範囲内である。患者を治療するために、抗体または抗体フラグメントの治療上有効な用量が投与されうる。本明細書における「治療上有効な用量」とは、投与が目的とする効果(例えば、T細胞またはB細胞の同時刺激の遮断)を生じる用量を意味する。厳密な用量は、治療の目的により、当業者によって公知の技術を使用して確認可能である。用量は、体重1kgあたり0.01〜100mgまたはそれ以上の範囲、例えば体重1kgあたり0.1、1、10、または50mgであればよく、1〜10mg/kgが好ましい。従来技術において周知のように、年齢、体重、全般的な健康状態、性別、食事、投与の時間、薬物相互作用および病気の重症度だけでなく、抗体またはFc融合体の劣化、全身対局所送達、および新規プロテアーゼ合成速度を考慮した調整が必要であり得、当業者によりルーチン試験によって確認可能である。このような抗体は、本明細書に開示の任意のケモカインに特異的でありうる。様々な実施形態においては、このような抗体は、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL2、CXCL5、CXCL8またはIL―8に特異的である。いくつかの実施形態においては、一つ以上の抗体が投与され、各々がCXCR1およびCXCR2に特異的である。
【0131】
好ましくは滅菌水溶液の形での、抗体または抗体フラグメントを含む医薬組成物の投与は、経口、皮下、静脈内、鼻腔内、intraotically、経皮、局所(例えばゲル、塗剤、ローション、クリーム等)、腹膜内、筋肉内、肺内(例えば、Aradigmから市販される吸入可能技術AERx(登録商標)、またはInhale Therapeuticsから市販されるInhance(商標)肺送達システム)、膣内、非経口、直腸、または眼内を含むがこれに限られない様々な方法で行われうる。いくつかの場合には、例えば創傷、炎症等の治療のために、抗体またはFc融合体が、溶液またはスプレーとして直接適用されうる。周知のように、医薬組成物は、導入の様式に応じてしかるべく調製されうる。様々な実施形態において、抗体が、用量あたり20ミリグラム〜2グラムのタンパク質等の低タンパク質用量で、一回または反復的に、非経口投与される。あるいは、用量あたり20〜1000ミリグラムのタンパク質、用量あたり20〜500ミリグラムのタンパク質、または用量あたり20〜100ミリグラムのタンパク質の用量で、抗体は投与される。いくつかの実施形態においては、このような薬剤が、3〜5、4〜7、6〜9、7〜10、8〜12、9〜16または10〜21日の間で投与される。いくつかの実施形態においては、投与が複数のサイクルにおいて繰り返され、各サイクルに、3〜5、4〜7、6〜9、7〜10、8〜12、9〜16または10〜21日の間の薬剤投与が含まれる。
【0132】
医薬的に有用な組成物を準備するために、単独またはリポソームに結合した抗体が、公知の方法に従って調製されればよく、治療タンパク質が、薬理学上許容可能な担体と混合物において組み合わせられる。組成物は、レシピエント患者がその投与に耐えられる場合に、「薬理学上許容可能な担体」であると言われる。滅菌リン酸塩緩衝食塩水は、薬理学上許容可能な担体の一例である。他の適切な担体は、当業者に周知である。例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,第19版(1995)を参照。
【0133】
療法の目的で、抗体が、薬理学上許容可能な担体中治療上有効な量で患者に投与される。この点に関して、「治療上有効な量」は、生理的に有意なものである。その存在によって、レシピエント患者の生理機能の検出可能な変化が生じる場合に、薬剤は生理的に有意である。ここでの文脈においては、その存在によって、免疫細胞活性化、増殖または分化の遮断が生じる場合に、薬剤は生理的に有意である。いくつかの実施形態においては、免疫細胞は、T細胞またはB細胞である。
【0134】
治療的応用における抗体の作用の継続時間を制御するために、追加的な製剤方法が用いられうる。制御放出製剤が、抗体を合成または吸着するためのポリマーを用いて調製されうる。例えば、生体適合性ポリマーには、ポリ(エチレン―コ―ビニルアセテート)のマトリクスおよびステアリン酸二量体およびセバシン酸のポリアンヒドリドコポリマーのマトリクスが含まれる。(Sherwood等、Biotechnology 10:1446―1449(1992))。このようなマトリクスからの抗体の放出速度は、タンパク質の分子量、マトリクス中の抗体の量、および分散粒子のサイズに依存する。(SaltzmanおよびLanger、Biophys.J.55:163―171(1989);Sherwood等、上記)。他の固体剤形は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,第19版(1995)に記載される。
B.医薬組成物
医薬組成物は、aが製薬学的用途のために調製される場合が予定される。このような組成物には、本明細書に開示される任意のケモカインのアンタゴニストが含まれうる。いくつかの実施形態においては、このような組成物は、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCL1、CXCL2、CXCL5、CXCL8またはIL―8のアンタゴニストである。いくつかの実施形態においては、このような組成物は、CXCR1、CXCR2、CXCL1、CXCL5、CXCL8またはそれらの組み合わせを阻害または遮断する。一実施形態においては、一つ以上の組成物が、CXCR1および/またはCXCR2を阻害または遮断する。
【0135】
所望の程度の純度を有するこのような薬剤を、任意の薬理学上許容可能な担体、賦形剤または安定剤と混合することにより(Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版、Osol,A.編、1980)、凍結乾燥製剤または水溶液の形で、このような薬剤の製剤が貯蔵のために調製される。許容可能な担体、賦形剤、または安定剤は、採用される用量および濃度においてレシピエントに対して無毒であり、リン酸、クエン酸、酢酸、および他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルオーベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベン等のアルキルパラベン類;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3―ペンタノール;およびm―クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド類;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン類等のタンパク質類;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー類;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリシン等のアミノ酸類;グルコース、マンノース、またはデキストリン類を含む単糖類、二糖類、および他の炭水化物類;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール等の糖類;甘味料および他の香味剤;微結晶性セルロース、ラクトース、トウモロコシおよび他のデンプン類等の充填剤;結合剤;添加物;着色剤;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属複合体(例えばZn―タンパク質複合体);および/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性活性剤を含む。
【0136】
いくつかの実施形態においては、本発明の生物活性剤を含む医薬組成物は、酸および塩基付加塩の両方を含む意味の薬理学上許容可能な塩類として存在するような、水溶性の形である。「薬理学上許容可能な酸付加塩」は、遊離塩基の生物学的効果を保持し、生物学的またはその他の面で不適当でない、塩化水素、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類、および酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ニッケイ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p―トルエンスルホン酸、サリチル酸等の有機酸類により形成される、塩類をさす。「薬理学上許容可能な塩基付加塩類」には、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム塩類等に由来する無機塩基が含まれる。例えば、アンモニウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、およびマグネシウム塩類が使用されうる。薬理学上許容可能な有機無毒性塩基類に由来する塩類には、第一、第二、および、第三アミン類、天然の置換アミン類を含む置換アミン類、環状アミン類およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンおよびエタノールアミン等の塩基性イオン交換樹脂類の塩類が含まれる。in vivo投与に使用される製剤は、好ましくは滅菌である。これは、濾過滅菌膜による濾過または従来技術で公知の他の方法により、容易に達成される。
【0137】
CXCR―シグナリングを標的とする薬剤が、免疫リポソームとして調製されてもよい。リポソームは、哺乳類への治療剤送達に有用な様々な種類の脂質類、ホスホリピド類および/または界面活性剤を含む小さなベシクルである。生物活性剤を含むリポソームは、Eppstein等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688―3692(1985);Hwang等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4030―4034(1990);米国特許第4,485,045号;4,544,545号;および国際公開第97/38731号に記載されるような、従来技術において公知の方法により調製される。循環時間が延長されたリポソームが、米国特許第5,013,556号明細書に開示される。リポソームの成分は、生体膜の脂質配置と類似の二重層の形で一般に配置される。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG―PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発法により生成できる。所定の孔径のフィルタによりリポソームが押出されて、所望の直径のリポソームが得られる。化学療法剤または他の治療的に活性な薬剤が、リポソームに選択的に含まれる(Gabizon等、J.National Cancer Inst 81:1484―1488(1989)。
【0138】
目的の薬剤は、制御放出製剤を得るように調製されてもよい。
【実施例】
【0139】
実施例1.実験動物
全てのマウスが、Case Western Reserve UniversityのAnimal Resource Centerの、病原体のない環境でマイクロアイソレーションに保たれ、全ての手順が、承認されたIAUCガイドラインにしたがって行われた。CXCR2レセプター欠損マウス(BALB/c―Cmkar2tm1Mwm)およびマッチする野生型(WT)系統を、Jackson Laboratories(バーハーバー、メイン州)から購入した。Cxcr2−/−マウスは、C129S2(B6)―Cmkar2tm1Mwmドナー系統からこの背景に導入された、mIL―8Rh/Cxcr2遺伝子の標的変異を含む(Cacalano等、Science 265:682―684(1994))。Wendy Macklin博士により、PLP/DM20―EGFP(C57BL/6)Taconicマウスが提供された(Mallon等、J Neurosci.22:876―885(2002))。両方のマウス系統を、コロニーに近親交配することにより独立して増殖させ、そこからマウスを除去して、交配によりCxcr2+/−:PLP/DM20―EGFP+マウスを作製した。Cxcr2+/−:PLP/DM20―EGFP+マウスの兄弟交配により、混合系統のコロニーを増殖および維持し、Cxcr2+/+PLP/DM20―EGFP+およびCxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+兄弟を作製した。全ての実験が、少なくとも5回の交配からの、性別をマッチさせたCxcr2+/+およびCxcr2−/−同腹仔を用いて行われた。WTおよび標的(KO)Cxcr2対立遺伝子を同定するために、テイル溶解から単離されたDNAのPCRにより、Cxcr2遺伝子型を確認した。Cxcr2遺伝子の特異的プライマは、IMR453(5―GGTCGTACTGCGTATCCTGCCTCAG―3;SEQ ID NO:1)およびIMR454(5―TACCATGATCTTGAGAAGTCCATG―3;SEQ ID NO:2)、およびCxcr2−/−マウスにおける挿入ネオマイシン遺伝子では、JMR013(5―CTTGGGTGGAGAGGCTATTC―3;SEQ ID NO:3)、およびJMR014(5―AGGTGAGATGACAGGAGATC―3;SEQ ID NO:4)であった(Tsai等、Cell 110:373―383(2000))。PCR生成物が、1.2%のアガロースゲル上で分離された。野生型動物には、360bpの単一バンドが確認され、Cxcr2−/−マウスは、より短い280bpのバンドが確認され、ヘテロ接合体マウスは、両方が確認された。PLP/DM20―EGFPコンストラクトの発現を評価するために、マウステイルのクリップが、蛍光顕微鏡検査法により直接視覚化された。
【0140】
クプリゾンによる脱髄の誘導
Cxcr2+/+:PLP/DM20―EGFP+およびCxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+の生後8〜10週間目のマウスに、0.2%wt/wtのクプリゾン(ビス―シクロヘキサノン―オキサルジヒドラゾン、C9012、Sigma、ミズーリ州セントルイス)粉砕噛み餌を与えた。コントロールマウスには、クプリゾンを伴わない普通の食餌を与えた。ケージにつき最高三匹のマウスを一緒に収容し、マウスは性別により分離した。処置開始後3〜4週または6〜7週目の屠殺時まで、食餌を持続的にマウスに供給した。マウスの虚弱または苦痛の兆候を一日おきにモニタし、毒性による影響が強いと思われるマウスは安楽死させた。
【0141】
リゾレシチンによる脱髄の誘導
BALB/cおよびBALB/c:C57BL/6のCxcr2+/+およびCxcr2−/−マウスの両方を、これらの実験に用いた。塩酸ケタミン、塩酸キシラジン、およびアセプロマジンを含むカクテルの腹腔内注射により、生後2〜3ヵ月のマウスを麻酔した。動物に麻酔が効いたら、体重を量り、背部を剃り、O.OlmLのturbogesicを背部に皮下注射した。その後、Cunninghamマウス脊椎アダプタ(#51690,Stoelting Co.,イリノイ州ウッドデール)を伴う定位手術ベースプレートにおいて、横クランプ(#51691,Stoelting Co.,イリノイ州ウッドデール)を使用して動物を安定させた。脊柱を露出させると、この機器によるマウスの位置により、背側椎弓切除術を必要とせずに脊髄後索のセグメントが見えた。PHD200ポンプ(Harvard)に取り付けられた、1μg/μLのリゾホスファチジルコリン溶液(リゾレシチンまたはLPC;L4129、Sigma、ミズーリ州セントルイス)で満たされたホウ珪酸プルガラスマイクロピペットが、目に見える脊髄の背部血管に、ゆっくり導かれた。針を、硬膜を過ぎて脊髄後索にゆっくり挿入し、脊柱に毎分0.25μL速度でluLの1%LPCを注射する前に、やや後退させた。逆流を防ぐために、流体を注射したあと、針を1〜2分間適所にとどまらせた。将来の特定を促進するために、注射部位に隣接する軟組織に縫合を施した。動物を7〜14日間回復させてから、評価のために屠殺した。
【0142】
実施例2.組織調製
組織分析のために、マウスを、塩酸ケタミン、塩酸キシラジンおよびアセプロマジンの腹腔内注射で麻酔した後、0.1Mのリン酸緩衝液(0.1M PB)中のヘパリン(Sigma,ミズーリ州セントルイス)、続いて0.1M PB(4%PFA)中の4%のパラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences,ペンシルベニア州ハットフィールド)でかん流した。脊柱および頭蓋が除去され、4%のPFA中で一晩後固定された。脳および脊髄を、0.1M PB中の30%のスクロース(Sigma,ミズーリ州セントルイス)中で冷凍保護した。クリオスタット(Microm、ハイデルベルク)を使用して20umで切断する前に、マッチするCxcr2+/+およびCxcr2−/−の脊髄または脳を、並べてまたは独立して包埋した。切片を、ガラススライドに連続的に集め、一晩乾燥させ、分析まで−20℃で保存した。電子顕微鏡分析のために、麻酔された動物が、最初にヘパリン溶液、その後0.1Mのカコジル酸ナトリウム緩衝剤Ph=7.4中の3%ホルムアルデヒド/3%グルタルアルデヒドにより、かん流された(Electron Microscopy Sciences,ペンシルベニア州ハットフィールド)。組織を解剖し、1%のOsO4中で後固定した。試料を、段階的な一連のエタノール希釈で脱水し、Poly/Bed812樹脂(Polysciences Inc,ペンシルベニア州ワリントン)に包埋した。厚い(1μm)切片がトルイジンブルーで染色され、さらなる切断のために適切なエリアが選択された。Cxcr2−/−およびCxcr2+/+組織ブロックのマッチするエリアからの、超薄切片(100nm)が切断され、メッシュのニッケル/クーパーグリッド上に配置された。グリッドを繰り返し洗浄し、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で二重染色し、電子顕微鏡(JEOL 1200CX)を80kVで使用して視覚化した。
【0143】
免疫組織化学法
同一の脊髄および脳領域からの切片を含むスライドの、ミエリン塩基性タンパク質(MBP、ミエリン)、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP、アストロサイト)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンNG2(OPCs)、およびカルシウム結合タンパク質IBA―1(ミクログリア)の、免疫組織化学法が行われた。MBP染色では、スライドを解凍し、10分間PBS中で3回すすぎ、10分間100%のエタノールに浸し、すすぎ、一次抗体を加える前に1時間、PBS(PBST)溶液中の0.5%トリトン―X―100に浸漬した。10%NGS(普通のヤギ血清)および0.5%PBSTを含む溶液中に希釈された、ウサギ抗MBP抗体(1:100、Accurate、BMDV2017、ニューヨーク州ウェストベリー)が、加湿チャンバ内で試料に加えられ、一晩室温におかれた。GFAP染色では、スライドを解凍し、10分間PBSで3回すすいだあと、10%NGS/1%PBSTを含む溶液中に希釈されたウサギ抗GFAP抗体(1:50、DAKO Z0334、カリフォルニア州カーピンテリア)を試料に加え、一晩室温の加湿チャンバ内においた。次の日に、抗MBPおよび抗GFAPで処置されたスライドを10分間PBS中で6回すすいだ後に、10%NGS/0.5%PBSTを含む溶液中に希釈された二次抗体ヤギ抗ウサギAlexa 546(1:400、Molecular Probes/Invitrogen All010、カリフォルニア州カールズバッド)を、加湿チャンバ内で、室温で2時間加えた。その後、スライドをPBS中で6回すすぎ、4’,6―ジアミジノ―2―フェニルインドール(DAPI、D1306、Molecular Probes/Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)で対比染色し、citifluorマウンティング培地をのせた。
【0144】
CNS組織のNG2およびIBAの免疫組織化学的分析では、スライド(slites)を解凍し、0.2%PBST中ですすぎ、0.3%過酸化水素/10%トリトンX―100でインキューベートし、10%ヤギ血清/0.2%PBSTで、室温で1時間ブロックした。IBA―1染色では、1%BSA/0.2%PBST中に希釈されたマウス単クローンIBA―1抗体(1:1000、Bruce Trapp博士―CCF、オハイオ州クリーブランド寄贈)を、加湿チャンバ内で、一晩4℃で加えた。NG2染色では、切片を、抗NG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカン抗体(AB5320、Chemicon Temecula、カリフォルニア州)で、4℃で4日間インキューベートした。一次抗体ステップに続き、スライドをすすぎ、適切な二次抗体でインキューベートした。NG2では、スライドを、ビオチン化ヤギ抗―ウサギ―l:1000(BA―1000、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)で、そして1%BSA/0.2%PBST中に希釈されたABC―1:1000(PK―6100、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)でインキューベートした。切片を、DAB(3,3’―ジアミノベンジジン)/過酸化水素で室温で5分間処理し、ddHkOですすぎ、脱水し、マウントした。IBA―1染色では、1%BSA/0.2%PBST中に希釈されたヤギ抗マウスAlexa 546(1:600、Molecular Probes/Invitrogen All030、カリフォルニア州カールズバッド)を、室温で2時間加えた。その後、スライドをPBS中で6回すすぎ、DAPI(D1306、Molecular Probes/Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)で対比染色し、citifluorマウンティング培地をのせた。
【0145】
Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+およびGtcr2+/+:PLP/DM20―EGFP+マウスの切片を含むスライドの、CXCR2の免疫組織化学法を行った。これらのスライドを解凍し、10分間PBS中で3回すすぎ、十分間−20℃で5%酸性メタノールに浸し、すすぎ、20%NGS/PBS(トリトンを伴わない)で、室温で30分間ブロックした。マウス抗CXCR2抗体(1:100,Biosource/Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)をブロック中に希釈し、一晩4℃で加えた。すすぎの後、ブロック中に希釈されたヤギ抗マウスIgG Alexa 488(1:200,Molecular Probes/Invitrogen A21121、カリフォルニア州カールズバッド)を、室温で1時間加えた。その後スライドをすすぎ、DAPIで対比染色し、citifluorマウンティング培地をのせた。Cxcr2−/−組織が、陰性コントロールとして使用された。
【0146】
実施例3.PLP/EGFP+およびNG2+細胞密度の定量化
オリゴデンドロサイト系統細胞の密度を比較するため、Cxcr2+/+:PLP/DM20―EGFP+およびCxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+の性別をマッチさせた兄弟からの、脳および脊髄の所定のエリアからのマッチする切片を選択し、PLP―EGFP+細胞を自己蛍光(autoflourescence)により視覚化した。CNS組織のNG2組織学的および免疫組織化学的分析では、30μmの浮遊切片を、前述のように単離されたマウス脊髄から調製した。切片をPBST(PBS中0.2%TritonX―100)中ですすぎ、10%トリトンX―100中0.3%の過酸化水素でインキューベートし、PBST中10%ヤギ血清により、室温で1時間ブロックした。そしてこれらを、抗NG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカン抗体(AB5320、Chemicon Temecula、カリフォルニア州)で、4℃で4日間インキューベートした。5日目に、適切なビオチン化ヤギ抗ラット―1:1000(BA―9400、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)で、その後ABC―1:1000(PK―6100、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)で、組織をインキューベートした。一次抗体の添加の後の、各インキュベーションステップの後に、切片をPBSTで3度洗浄した。全ての抗体ならびにABCが、PBST中1%BSA中に希釈された。切片を、DAB/過酸化水素で、室温で5分間処理し、ddH2O中ですすぎ、脱水し、マウントした。Texas Redヤギ―抗ラット1:1000(TI―9400、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)を用いて免疫蛍光染色を行い、免疫前IgG(Sigma―Aldrich、ミュンヘン、ドイツ)を陰性コントロールとして使用した。その後、切片をガラススライドにマウントして分析した。
【0147】
蛍光顕微鏡(Leica DMR)を用いて、NG2染色またはPLP/DM20―EGFP+自己蛍光のスライドから、マッチするCNS領域を選択および記録した。画像を同様の強度レベルに調節し、所定のエリアにImage―Pro Expressソフトウェアを用いて、異なるステージのオリゴデンドロサイト系統の細胞を表すEGFP+細胞、およびOPCsを表すNG2+細胞の総数をカウントした。全てのカウントを、動物の表現型に対する盲検観察により行い、カウントしたフィールドの面積で割って密度を決定した。各領域で、各表現型の少なくとも3匹の異なる動物を比較した。データをCNS領域ごとにプールし、平均値+/−2SEMとして表わした。
【0148】
実施例4.相対的白質面積の測定
Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+およびWTの性別をマッチさせた兄弟同腹仔からの脊髄の隣り合う切片を含むスライドを、蛍光顕微鏡(Leica DMR)下で観察し、画像をOpenLab Softwareを用いて、CCDカメラ(Hamamatsu)で記録した。Image―Pro Expressソフトウェアを使用して画像を分析し、それを用いて脊髄全体の面積および灰白質の面積の測定を行った。強蛍光部の縁により灰白質と白質の間、および白質と脊髄端の間の境界を決定し、トレースして灰白質および脊髄全体の面積を得た。(脊髄全体の面積から灰白質を引くことにより計算される)白質面積の値を、全体の値で割って、脊髄全体に対する白質の面積の比を得た。各動物からの少なくとも6つの切片を、上述のように測定し、これらから、10匹のCxcr2+/+および10匹のCxcr2−/−マウスからのマッチする脊髄レベルの、脊髄全体に対する白質の面積の平均比を計算した。別々の年齢の結果が、平均値+/−標準偏差として個別に表わされる。これらをさらにプールし、平均値+/−2SEMとして表わした。
【0149】
実施例5.ミエリン厚およびランビエ絞輪の超微細構造の分析
Hewlett Packard ScanJet5300Cスキャナを使用して、背側および腹側脊髄のマッチする領域のEM画像をスキャンし、Adobe Photoshop Softwareを使用して保存した。陰性画像を逆転し、Image―Pro Expressソフトウェアを使用して、脊柱(皮質脊髄路を除く薄筋および楔状束)のランダムに選択された有髄軸索の軸索周囲長およびミエリン厚の両者の手動トレーシングにより、分析した。各軸索から、ミエリンの半径厚さの三つの別々の測定値をとり、平均して平均ミエリン厚を得た。この値を軸索周囲長の測定値で割って、軸索周囲長に対するミエリン厚の比を得た。五匹のCxcr2−/−および6匹のCxcr2+/+マウスを分析し、一連の異なる軸索サイズを評価して、軸索周囲長に対するミエリン厚の平均値を決定した。これは、繊維直径に対する軸索直径の比として定義される真のG―比ではないが、同等の測定値であり、本稿の全体にわたり擬似―G―比と呼ぶ。別個の年齢の結果が、平均値+/−2SEMとして表わされる。背側および腹側脊髄の縦断切片を、絞輪構造および組織につき分析した。
【0150】
実施例6.脊髄誘発電位および中枢神経伝導速度
Nicolet Viking IV装置(Nicolet Biomedical、ウィスコンシン州マディソン)を使用して、記録が行われた。動物を、上述のように麻酔した。0.4mmの直径の、処分可能なEEG SS―皮下の針を使用して、4.7Hzの周波数で、脊髄の腰部を刺激した。各動物につき、両側の反復性四肢収縮のあらわれにより、刺激強度をセットした。脊髄誘発電位を、頭蓋の上の、正中から等距離で垂直の二つの位置で記録した。刺激から記録電極への潜時および振幅を、動物につき少なくとも三回の試験から記録して、再現可能な波形を得た。刺激および記録電極の間の距離をセンチメートルで測り、ミリ秒での潜時で割って、各マウスの平均中枢神経伝導速度を計算した。合計10匹のCxcr2−/−および12匹のCxcr2+/+マウスを、分析した。遺伝子型および遺伝的背景によって伝導速度の結果を分け、平均値+/−標準偏差としてプロットした。
【0151】
体感覚性誘発電位(SSEPs)および化合物(CNSおよびPNS)伝導速度
Nicolet Viking IV装置(Nicolet Biomedical,ウィスコンシン州マディソン)を使用して、記録が行われた。麻酔されたマウスの後肢の脛骨領域を、3.1Hzの周波数で刺激し、脊髄の胸部で記録を行い、潜時および振幅を決定した。平均潜時および伝導速度を決定するために、各動物につき三回の記録を行った。合計7匹のCxcr2−/−および6匹のCxcr2+/+マウスを評価して、平均伝導速度を決定した。
【0152】
実施例7.ウェスタンブロット
p13Cxcr2−/−およびWTの性別をマッチさせた同腹仔からの脳および脊髄を、瞬間冷凍し、必要になるまで−80℃で保存した。RIPA溶解緩衝液/10%プロテアーゼ阻害剤の溶液中で、組織を均質化した。Peterson Modified Lowryアッセイを用いて、タンパク質濃度を決定した。約20μg/mlの上清をロードし、8〜12%SDS―PAGEゲルで分離した。タンパク質をニトロセルロース膜に転写し、TBS/Tween中3%BSA/2%ミルク/0.05%アジ化ナトリウムを含むブロック溶液の一次抗体で、一晩4℃で、以下の希釈でインキューベートした:ラビット抗GFAP多クローン抗体―1:1000(Z0334、DAKO、ミラノ、イタリア);マウス単クローンIgG1抗βアクチン―1:100(sc―8432、Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州サンタクルス);マウス単クローンIgG1抗MBP―1:1000(SMI―99;Sternberger Monoclonals Inc,メリーランド州ルーサーヴィル);およびマウス単クローン抗―MBP(mAb381、Chemicon,カリフォルニア州テメキュラ)。すすぎの後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)―結合ヤギ抗ウサギIgG−1:1000(55676、MP Biomedicals、カリフォルニア州アーヴィン)またはHRP―結合ヤギ抗マウスIgG―1:1000(674281、ICN Biomedicals、カリフォルニア州アーヴィン)でブロットをインキューベートし、すすぎ、Super Signal West Pico Chemiluminescent検出試薬(Pierce,イリノイ州ロックフォード)で処理した。β―アクチン発現を、内部ローディングコントロールとして使用した。
【0153】
実施例8.脊髄細胞の解離培養の調製
WTおよびCxcr2−/−動物の間で、オリゴデンドロサイト系統細胞のin vitro成長を比較するために、出生後8日の(p8)脊髄の解離細胞培養が前述のように確立され(Warf等、J.Neurosci.11:2477―2488(1991))、in vitroで2日後に、プレオリゴデンドロサイト(proligodendrocytes)を同定するmAbO4、および新規に分化したオリゴデンドロサイトを同定するmAbO1でラベルされた(SommerおよびSchachner、Dev.Biol.83:311―327(1981))。DAPI陽性細胞の総数との関係での各異なる細胞種類の相対数を、2つの異なる調製からの、少なくとも2つの異なるカバーグラスからとったランダムに選択された10のフィールドからの表現型に対する盲検観察により、カウントした。データをプールし、平均+/−標準偏差として表わした。
【0154】
統計的分析およびプロット
OriginソフトウェアのBonferroniポストテストを用いた一元配置ANOVAおよび平均値比較により、データを分析した。有意性が、p<0.05にセットされた。値は、テキスト中で実際のp値の前に平均値+/−標準偏差として記載され、平均値+/−標準偏差または平均値+/−2SEMとしてプロットされる。全てのプロットで、アスタリスクにより有意性が示され、一つのアスタリスクはp<0.05を意味し、二つのアスタリスクはp<0.01を意味し、3つのアスタリスクはp<0.001を意味する。
【0155】
実施例9.Cxcr2−/−マウスにおけるPLP―EGFP+細胞密度の変化
CXCR2欠損がオリゴデンドロサイト系統細胞およびミエリン形成におよぼす影響を評価するために、Cxcr2−/−マウス(Cacalano等、Science 265:682―684(1994))を、PLP―EGFP+遺伝子導入マウス(Mallon等,J Neurosci.22:876―885(2002))に交配し、緑色蛍光によりオリゴデンドロサイト系統細胞の同定を可能にした。Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+マウスおよびWT同腹仔からの白質および灰白質の複数の領域の比較は、Cxcr2−/−動物におけるPLP蛍光強度の全体的な減少を示し(図1A)、オリゴデンドロサイト数の減少またはPLP発現強度の変化が示される。
【0156】
WTおよびCxcr2−/−マウスにおける、PLP―EGFP+オリゴデンドロサイト系統細胞の定量化により、脳および脊髄の両方において、ラベルされた細胞の密度の局所的相対差が明らかになった。特に、PLP―EGFP+細胞密度の増加が、Cxcr2−/−動物の脳梁(Cxcr2+/+=0.00229+/−0.00024、Cxcr2−/−=0.00256+/−0.00024、p=0.00189;平均値+/−SD、p―値)および脊髄(Cxcr2+/+=0.00240+/−0.00055、Cxcr2−/−=0.00275+/−0.00073、p=0.00059;平均値+/−SD、p―値)で観察された(図1B、C、D)。Cxcr2−/−動物の後帯状皮質(Cxcr2+/+=0.00054+/−0.00005、Cxcr2−/−=0.00045+/−0.00004、p=0.00314;平均値+/−SD、p―値)および前交連(Cxcr2+/+=0.00284+/−0.00031、Cxcr2−/−=0.00230+/−0.00021、p=0.00004;平均値+/−SD、p―値)で、減少が観察された(図1B、C、D)。海馬または脳梁では、Cxcr2−/−およびWTマウスの間にPLP―EGFP+細胞の密度の差が観察されなかった(データは図示されない、それぞれp=0.75175、p=0.41963)。
【0157】
WTおよびCxcr2−/−の脊髄のOPCsの密度を選択的に比較するために、NG2細胞の相対密度をアッセイした。Cxcr2−/−動物の脊髄は、性別をマッチさせたWT同腹仔よりも、面積あたりに有意に多くのNG2+細胞を含んだ(Cxcr2+/+=0.00263+/−0.00013、Cxcr2−/−=0.00321+/−0.00018、p=0.01126;平均値+/−SD、p―値、図2C)。さらに、Cxcr2−/−動物においては、NG2ラベル強度およびNG2+細胞突起のサイズおよび分岐が劇的に増加し(図2A,B)、細胞が軟膜表面に向かって集中した(図2A)。これらのデータを合わせると、CXCR2がオリゴデンドロサイト系統細胞数の確立に寄与し、局所的様式で寄与しうることが示される。さらに、CXCR2は、より成熟した系統段階に分化するOPCsの能力に影響し、またはOPCsの可用性を調節しうる。
【0158】
実施例10.Cxcr2−/−マウスの成長不全および早死
Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+マウスの作製により、系統差異が明らかになった。(明白な全体の表現型を有さない)BALB/cCxcr2−/−マウスをC57BL/6背景のPLP―EGFP動物に交配すると、混合背景の(BALB/c:C57BL/6)Cxcr2−/−動物には、体重増加の有意な減少(p10―15:Cxcr2+/+=6.62+/−1.40、Cxcr2−/−=4.64+/−1.53、p=0.00;平均値+/−SD、p―値、図3A)が観察され、約80%がP15前に死んだ(野生型の10倍)。WTマウスと比較してヘテロ接合体においては、死亡率増加は観察されなかった。EGFPを発現しないBALB/c:C57BL/6混合背景のCxcr2−/−マウスも、この体重および死亡率表現型を示し、EGFP発現には関係ないことが示された。動物はいずれも繁殖できなかったため、ヘテロ接合兄弟交配からBALB/c:C57BL/6Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+マウスが得られた。この混合背景のほとんどのCxcr2−/−動物には、脳重量、サイズの減少(図3B)および顔の特徴の変化(図3A)、ならびに姿勢、歩行の変化および前弯がみられた(データは図示されない)。これに対して、BALB/cCxcr2−/−動物は、前弯はあるものの、繁殖可能であり、コントロールと比較してそのような体重差または死亡率増加は特に見られなかった。
【0159】
実施例11.Cxcr2−/−マウスにおける脊髄白質面積の減少
新生仔動物においては、CXCL1/CXCR2シグナリングが、脊髄OPCの増殖および移動に影響する(Robinson等、Neurosurgery 48:864―874(2001):Robinson等、J.Neurosci.18:10457―10463(1998);Tsai等、Cell 110:373―383(2002);Wu等、J.Neurosci.20:2609―2617(2000))。CXCR2欠如によって白質形成の持続的変更が生じるかを決定するために、Cxcr2−/−:PLP/DM20―EGFP+および性別をマッチさせたWT同腹仔からのマッチする脊髄レベルにおいて、白質の相対的面積を比較した。脊髄全体における蛍光PLP―EGFP+細胞の密度増加にもかかわらず、Cxcr2−/−マウスは、アッセイした全ての年齢で、白質面積が減少していた。ミエリン形成が継続中である出生後の第一週目の終わり、p7に、白質面積の差が検出できた(図4A)。例えば、図4Aの挿入図のp7脊髄切片は、Cxcr2+/+(左)で0.393およびCxcr2−/−(右)で0.313の比を示し、Cxcr2ヌル動物における白質面積の有意な減少が示される。Cxcr2−/−およびWT動物の間の白質面積の差は、成体ではそれほど明白でなかったものの、成体までの成長の間持続した(p7:Cxcr2+/+=0.385+/−0.020、Cxcr2−/−=0.326+/−0.016、p=0.000;成体:Cxcr2+/+=0.614+/−0.011、Cxcr2−/−=0.598+/−0.014、p=0.024;平均値+/−SD、p―値;図4Aプロット)。したがって、Cxcr2−/−動物の脊髄に含まれるオリゴデンドロサイト系統細胞の数は増加したが、脊髄白質の相対的面積は減少した(図4B)。さらに、生後発育の初期の間に差がより顕著であり、Cxcr2−/−マウスが遅い速度で成長し、成熟の間に部分的に回復することが示される。
【0160】
実施例12.Cxcr2−/−マウスの脊髄白質のミエリン形成不全
成熟オリゴデンドロサイトの数の減少、ミエリン厚または軸索数の減少を含め、いくつかのファクターがCxcr2−/−動物における白質減少の原因となりえたと考えられる。Cxcr2−/−マウスにおけるNG2+およびPLP―EGFP+細胞密度の増加を前提とすると、オリゴデンドロサイトの数の減少は考えにくかった。Cxcr2−/−動物に軸索のサイズまたは数の変化、またはミエリン形成の減少があるかを決定するために、Cxcr2−/−および性別をマッチさせた同腹WTコントロールの脊髄の、電子顕微鏡(EM)分析を行った。評価した全ての年齢で、Cxcr2−/−動物に、軸索のサイズに関係なく擬似―G―比の減少が観察された(図5)。図5Bおよび5Cの軸索は、5Aおよび5Dのものよりやや小さいだけであるが、それらの周りのミエリンのターン数は大きく異なっていた。5Bおよび5Cの軸索は、それぞれ4回および6回のミエリンターンで取り巻かれていたが、5Aおよび5Dのものは11回および12回のミエリンの巻きで取り巻かれていた。図Eに示される10回の巻きを伴うもののような、Cxcr2−/−動物のより大きな軸索でも、Cxcr2+/+に見られるものと比較してミエリンが比較的薄いことが多かった。BALB/c(データは図示されない)およびBALB/c:C57Bl/6動物の両方において、Cxcr2−/−およびWT動物の間の擬似―G―比の同様の差が検出された。このミエリン形成不全は早くもp11に検出可能であり(Cxcr2+/+=0.037+/−0.010、Cxcr2−/−=0.035+/−0.010、p=0.037;平均値+/−SD、p―値)、成長の間中維持された(p15:Cxcr2+/+=0.047+/−0.010、Cxcr2−/−=0.041+/−0.011、p=0.000;p21:Cxcr2+/+=0.044+/−0.010、Cxcr2−/−=0.039+/−0.012、p=0.000;成体(BALB/c):Cxcr2+/+=0.058+/−0.017、Cxcr2−/−=0.054+/−0.017、p=0.022;平均値+/−SD、p―値、図5F)。ミエリン厚の減少は、Cxcr2−/−およびWT動物の間の軸索直径の変化と関連しなかった(データは図示されない、p=0.238―0.809)。脊髄の一致する領域の有髄および無髄軸索の総数および比率の推定値は、WT動物において単位面積あたり有髄軸索が多く無髄軸索が少ない傾向があったものの(データは図示されない、p=0.094)、Cxcr2−/−およびWTs動物の間で顕著な差はなかった。
【0161】
実施例13.中枢神経伝導速度の低下
これらの構造差により生理的表現型が生じたかを評価するために、混合背景の動物で、脊髄誘発電位の記録を行った。生後2〜3ヵ月のBALB/c:C57BL/6マウスにおいて、腰部誘発電位の中枢神経伝導速度の低下が観察された(Cxcr2+/+=0.670+/−0.037、Cxcr2−/−=0.461+/−0.032、p=0.000;平均値+/−SD、p―値;図6、左)。これらの差が、混合系統のCxcr2−/−動物の全身的変化の結果でないことを確かめるために、生後2〜4ヵ月のBALB/cマウスで研究を繰り返し、類似の結果を得た(Cxcr2+/+=0.0643+/−0.043、Cxcr2−/−=0.527+/−0.072、p=0.013;平均値+/−SD、p―値;図6、右)。BALB/cおよび混合背景のCxcr2+/+マウスの間(p=0.273)、またはBALB/cおよび混合背景のCxcr2−/−マウスの間(p=0.082)に、統計学的有意差はなかった。これらのデータは、CXCR2の非存在により、成体の神経系に機能的欠損が生じ、これらの変化が神経系に固有であり、混合背景で観察される体重およびサイズに対する全身的影響とは関係がないことを示す。CXCR2ヌルおよびWT動物の間に誘発電位振幅の有意差は見られず(データは図示されない、p=0.154)、中枢神経伝導速度の低下が固有の軸索欠損と関連しないことが示された。
【0162】
実施例14.ミエリンおよび傍絞輪ジャンクションの超微細構造の分析
ミエリン形成不全およびミエリン圧密化の変化があるマウス(Neuberg等、J.Neurosci.Res.53:542―550(1998))だけでなく、ミエリン厚または圧密化の変化がない(Bosio等、Cell Tissue Res.292:199―210(1998);Boyle等、Neuron 30:385―397(2001);Popko,Glia 29:149―153(2000))、傍絞輪ジャンクション形成不全を伴うマウスモデルにおいて、伝導速度低下が観察されている。軸索―グリアジャンクション形成またはミエリン圧密化の変化が、Cxcr2−/−動物における伝導速度低下に寄与しうるかを決定するために、傍絞輪ジャンクションの構造成分ならびにミエリンの圧密化および周期性を分析した。電子顕微鏡観察により、Cxcr2−/−のミエリン鞘は、薄いながらも、周期線および周期間線の正常な圧密化および周期性が見られることが分かった(図7A)。Cxcr2−/−およびWT動物の両方の傍絞輪ジャンクションに、無傷の良好に配向された傍絞輪ループおよび横帯(図7B)も見られ、適切な軸索―グリアジャンクション形成が示された。さらに、Cxcr2−/−およびWTマウスの間で、ランビエ絞輪のサイズまたは構造の明白な差は検出されなかった(図7C)。これらのデータは、Cxcr2ヌル動物で形成されるミエリンが構造的に正常であるが、量が減少することを示す。
【0163】
実施例15.グリアタンパク質発現の変化
Cxcr2−/−の脊髄における白質の組成をさらに分析するために、豊富なミエリンタンパク質、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)のタンパク質発現を、ウェスタンブロット分析により比較した。WTと比較して、Cxcr2−/−動物は、ミエリン形成不全と整合するMBPレベルの低下と(図12A)、PLP―EGFP発現低下を有した。興味深いことに、GFAPレベルも、Cxcr2−/−動物で低下した(図12)。GFAPの大半は白質アストロサイトにより生産されるため、この所見は、これらの動物における白質の減少と整合する。
【0164】
CXCR2シグナリングの調節は、OPCs以外の神経細胞に間接的に影響する。Cxcr2−/−動物の脊髄には、白質面積、GFAP、PLP、およびMBPの減少がみられた。正常な成長の間には、GFAPおよびMBPの発現が一致することが多く(Dziewulska等、Folia Neuropathol 37:81―6(1999);Landry等、J.Neurosci.Res.25:194―203(1990);TakashimaおよびBecker、Brain Dev.6:451―457(1984))、GFAPヌルマウスには、白質の構造的異常およびミエリン形成不全がみられる(Liedtke等、Neuron 17:607―615(1996))。正常な白質構造の確立は、部分的にケモカインシグナリングにより媒介される、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト系統細胞の間の相互作用を反映する。
【0165】
実施例16.Cxcr2−/−マウスからの脊髄培養におけるオリゴデンドロサイト分化の変化
オリゴデンドロサイト系統細胞数の差が、全身的変化の結果かCNS内の変化かを決定するために、p8Cxcr2−/−およびWT同腹マウスの培養を確立し、オリゴデンドロサイトの成長をアッセイした。in vitroで2日後に、Cxcr2−/−(図9B,E)およびWT動物(図9A,E)の培養の、O4+OPCsの数には有意差がなかった(Cxcr2+/+=0.245+/−0.137、Cxcr2−/−=0.244+/−0.093、p=0.977;平均値+/−SD、p―値)。これに対して、WT(図9C,F)と比較して、Cxcr2−/−培養(図9D,F)において、O1+分化オリゴデンドロサイトの数の有意な減少(Cxcr2+/+=0.133+/−0.071、Cxcr2−/−=0.046+/−0.024、p=0.000;平均値+/−SD、p―値)がみられた。データは、Cxcr2ヌル動物においてオリゴデンドロサイトの成熟が障害されることを示し、成体CNSに観察される構造および機能的変化の基礎となる機構を研究するためのin vitro系を提供する。
【0166】
実施例17.再ミエリン化を促進するためのCXCを介したシグナリングのモジュレータのアッセイ
脊柱へのLPCの局所注射により、成体ラットに脱髄病変を生成した。動物を傷害後最長7日まで存続させ、横および縦のスライス培養を調製する。精製されたラベルされたOPCsを、スライスの病変エリアの隣または中に注射し、それらの挙動をモニタすることにより、この系における細胞移動を追う。注射されたOPCの挙動に対するCxcr2遮断の影響をテストするために、コントロールスライスを標準の培地で成長させ、実験スライスを、異なる濃度のCXCR2阻害剤(例えばrepertaxin)の存在下で成長させる。注射された細胞の挙動を、二つの条件下で比較する。一つのコントロール実験は、薬物添加により、精製OPCsの、CXCL1により増強される、PDGFにより促進される増殖を阻害し、アッセイして、おおよその用量処方計画を確立することである。さらに、もう一つのコントロール実験は、過去の研究において有効であることが示されている抗Cxcr2抗体を使用する。
【0167】
CXCL1、および病変の隣接領域におけるOPCsのレベルを上昇させた所見に基づけば、Cxcr2阻害剤の非存在下では、注射されたOPCsは、病変に向かって移動するが隣接組織で止まり、増殖する(Omari等、Glia,53:24―31(2006))。Cxcr2の阻害剤の存在下では、病変に向かって実質的により多くの移動が生じ、したがって前ミエリン形成細胞の病変エリアへの浸潤が促進される。成長研究において、Cxcr2シグナリングの除去により、脊髄スライス培養でより広範なOPC移動が生じた。
【0168】
コントロールおよび処置された培養の一部は、病変(単数または複数)における再ミエリン化のレベルをアッセイするために、より長く維持される。各スライスが独立しているため、単一の病変動物に複数のアッセイが行われる。CXC―シグナリング阻害剤(例えばrepertaxin)が最も有効である病変後間隔および用量を決定し、これにより、より複雑なin vivo研究を促進しうる。病変/動物間の変動を考慮して、全ての研究が、少なくとも3匹の異なる病変動物からとった複数のスライスで行われる。
【0169】
実施例18.脱髄病変の修復に対するCxcr2の阻害剤の効果をアッセイする
成体ラットの脊柱に局所的脱髄病変を生成し、適切な傷害後間隔(1〜5日)をおいて、適切な用量の生物活性剤(例えばCXC―シグナリング阻害剤)を送達する浸透性ミニポンプを、動物の背部に外科的にインストールする。ポンプは、一つ以上の薬物を24〜48時間または必要に応じて送達し、動物を7〜10日間回復させる。コントロール動物は、溶媒だけを伴うミニポンプを受ける。一つの陽性コントロールは、過去の研究で使用される、市販の機能遮断抗Cxcr2抗体の使用である。生物活性剤動物およびコントロール処置動物の、3次元再構築における病変サイズを比較することにより、修復を評価する。観察される病変の小ささ(例えば再ミエリン化)に基づいて、候補治療法を選択する。
【0170】
実施例19.再ミエリン化を増強するためのCXCを介したシグナリングのモジュレータによる処置
有効な量のCXCR2―標的生物活性剤が、脱髄障害(例えばMS)を患う対象に投与される。例えば、repertaxinが、対象の体重および/または病期に基づいて決定される用量を用いて投与される。Repertaxinは、直接または全身的に対象に投与され、投与量には、約1、2、5、7、10、12、15、17、20、25、30、35または40mg/kg(mg repertaxin/kg体重)が含まれうる。さらに、毎日、毎週、または毎月の周期で、用量の複数回の投与がなされうる。例えば、複数回の投与には、毎日、毎週、または毎月1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30または40回の投与が含まれうる。
【0171】
MRI画像化、身体的器用さ、または他の臨床的評価法を含む、当業者によく知られた標準的プロセスを用いて、効力が測定される。(例えば、Noseworthy等、Curr.Opin.Neurol.10:201―210(1997)を参照)。
【0172】
実施例19.PLP発現レベルはミエリンの変化を反映し、クプリゾン曝露後にCxcr2+/+において大幅に低下するが、Cxcr2−/−マウスでは低下しない
MBPおよびPLPは、ミエリンの重要な構造タンパク質である。過去の研究により、クプリゾン処置後の、脱髄および再ミエリン化を特徴づける事象と、ミエリン関連遺伝子の発現との間の、時間的相関が示された(Jurevics等、J.Neurochem.82:126―136(2002);MatsushimaおよびMorell、Brain Pathol.11:107―116(2001))。これらの研究(Jurevics等、J.Neurochem.82:126―136(2002);MatsushimaおよびMorell、Brain Pathol.11:107―116(2001))は、脱髄とPLPおよびMBP遺伝子の発現低下との間、および、それらのその後の発現増加と再ミエリン化との間の、関連を示唆する。
【0173】
MBPおよびPLP発現は、ミエリン形成不全を呈するCxcr2−/−マウスにおいて本質的に低下する(Padovani―Claudio等、Glia 54:471―483(2006))。従って、クプリゾン処置の非存在下では、Cxcr2−/−マウス(図13B’)は、各自のCxcr2+/+の性別をマッチさせた同腹コントロール(図13 A’)よりも、PLP―EGFPの発現が低かった。しかし、Cxcr2+/+およびCxcr2−/−マウスの脳のPLP―EGFP発現を、4週間のクプリゾン処置の後に比較すると、Cxcr2+/+マウスの脳梁において、PLP―EGFPの強度の有意な減少があった(図13C’)。この減少は、評価した全ての実験の時点で、EGFPシグナルの強度においてだけでなく、Cxcr2+/+マウスにおいてEGFPリポータを発現する細胞数の、両方において明らかであり、これらの変化は、脳梁の細胞充実度の低下と相関した(13A”、B”およびD”と比較した図13C”)。処置後にCxcr2+/+マウス後にみられる減少は、処置前(図13A’)のCxcr2+/+マウスおよび処置前(図13B’)および後(図13D’)のCxcr2−/−マウスのPLPレベルの両方との関係で明白だった。Cxcr2−/−マウスには、PLPの発現の変化はなかった(図13B’をD’と比較)。
【0174】
実験の4週目時点で、MBP染色の欠如により明らかな脱髄エリアが、Cxcr2+/+(図14A、矢印)にみられたが、Cxcr2−/−マウス(図14B)にはみられなかった。これらの脱髄巣は、Cxcr2+/+マウスにおけるPLP発現低下(図14A’矢印)および細胞充実度低下(図14A’矢印)の病巣と相関した。4週目のPLP発現低下、ミエリン消失および低細胞充実度の間の相関は、クプリゾン処置後の成熟オリゴデンドロサイトのアポトーシス、ミエリン遺伝子ダウンレギュレーション、および脱髄の報告と整合する(MatsushimaおよびMorell、Brain Pathol.11:107―116(2001))。これらの変化がCxcr2−/−マウスにみられないという事実から、CXCR2の欠如により、これらのマウスにおいてオリゴデンドロサイトおよびミエリンに損傷からの保護が与えられ、またはオリゴデンドロサイト生存が促進されうることが示唆される。7週間のクプリゾン処置の後でも、Cxcr2+/+マウスからの組織には、ミエリンの広範な崩壊が認められることが多いが(図15A、A”および15C、C”)、Cxcr2−/−マウスからの組織にはみられない(図15B、B”)。ミエリンの消失は、PLP発現の消失と通常相関した(図15A、A’、矢印および15C、C’、C”、(矢印))。しかし、いくつかの場合においては、強い緑色のPLP―EGFP+細胞が、Cxcr2+/+マウスにおいて顕著なMBP減少があるエリアにみられ(図15C、C’、ドットのエリア)、マウスにおけるクプリゾン曝露により誘導される、確立された一連の事象と一致して(MatsushimaおよびMorell、Brain Pathol.11:107―116(2001))、オリゴデンドロサイトが再ミエリン化を試みている可能性があることを示唆する。
【0175】
実施例20.Cxcr2−/−マウスはCxcr2+/+マウスと異なり、クプリゾン曝露後に顕著なアストログリオーシスがみられない
PLP発現低下に加えて、以前に報告されたように、普通の食餌を与えられたCxcr2−/−マウスは、各自のCxcr2+/+のコントロールよりもGFAPの発現が低かった(Padovani―Claudio等、Glia 54:471―483(2006))。GFAPは、アストロサイトのマーカーであり、そのアップレギュレーションはアストログリオーシスと関連する。アストロサイトおよびミクログリアは、通常はクプリゾン処置の3週間後にアップレギュレートされ、このアップレギュレーションは、5週間のクプリゾン曝露によりピークに達する傾向がある(MatsushimaおよびMorell、Brain Pathol.11:107―116(2001))。これと整合して、処置前にすでにCxcr2−/−マウスより高かった(図16B)、Cxcr2+/+マウスにおけるGFAPのレベル(図16A)に、処置開始後にさらなるアップレギュレーションがみられた(図16C)。アストロサイトは、形態が変化するとともにその数が明白に増加し、反応性がより高いと思われた。それらの変化は、脳梁内で最も顕著だった(図16C)。対照的に、Cxcr2−/−マウスには、クプリゾン処置後にGFAP発現に有意な変化はみられず、これらのマウスの脳梁内には、アストロサイトがほとんど見られなかった(図16D)。GFAP発現の同様の変化のプロフィールが、6週目に、Cxcr2−/−(図17A,C)およびCxcr2+/+マウス(図17B)の両方で観察された。野生型マウスにおけるGFAP発現の増加は(図17B)、PLP―EGFP発現低下(図17B’)、および脳梁の細胞充実度増加(図17B’)と相関し、脱髄前にオリゴデンドロサイトが常在した脳梁への、アストロサイトの浸潤が示された(図17B”’、A”’およびC”’と比較)。アストロサイト瘢痕は、神経病理学的状態と関連する。したがって、Cxcr2−/−マウスにおけるPLPおよびMBP発現の維持(図16D、17A、C)とあわせたアストロサイト活性化の欠如により、CXCR2シグナリングの非存在下で病変からの保護または修復プロセスの増強があることが示される。
【0176】
実施例21.クプリゾン曝露後に、Cxcr2−/−マウスにおいてミクログリアの活性化の減少が観察される。
【0177】
ミクログリアは食細胞であり、その活性化は、食作用によるミエリン崩壊をもたらしうる。Cxcr2−/−およびCxcr2+/+マウスに普通の食餌が供給されると、ミクログリア/マクロファージ特異的カルシウム結合タンパク質IBA―1の発現レベルは、Cxcr2−/−マウスでより高かった(図18 B>A)。4週間食餌にクプリゾンを添加すると、Cxcr2+/+にはIBA―1の緩やかなアップレギュレーションがあったが(図18C)、Cxcr2−/−マウスにはなかった(図18D)。7週間のクプリゾン処置により、Cxcr2+/+マウス(図18E)においては、EBA―1発現および明白なミクログリア活性化の増加が劇的である一方で、Cxcr2−/−マウス(図18F)においては、ミクログリアはわずかに活性化されただけのように見受けられた。ミクログリアの活性化の増加は、Cxcr2+/+マウスの脳梁で特に明らかであり、そこではミクログリアが丸い形態をとっていた(図18A、C)。これに対して、Cxcr2−/−マウスにおいては、ミクログリアのアップレギュレーションは最小限であり、ほとんどのIBA―1+細胞は、静止ミクログリアに特徴的な、細胞質から伸びる長細い分枝を有した(図18B、D)。
【0178】
実施例22.脱髄病変におけるCXCL1およびCXCR2発現
成体(SD;雌)ラットの脊柱に、3≡lの1%リゾレシチン(NaCl中)を注射して、局所的脱髄病変を誘導した。CXCR2およびCXCL1タンパク質のレベルをアッセイし、傷害エリアのグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)発現と比較した(図35)。局所的脱髄病変において、CXCL1およびCXCR2発現がアップレギュレートされる。CXCR2の発現増加は、病変外ではなく病変内のGFAP+アストロサイトと関連するようである。
【0179】
実施例23.アストロサイトおよびグリア瘢痕誘導に対するCXCL1の効果
精製アストロサイト培養に対するCXCL1(0.5ng/ml)の添加は、CSPG発現を誘導し、形態を変更する。細胞をCXCL1(0.5ng/ml)で3日間処置し、免疫細胞化学法により基質上へのCSPG沈着をアッセイし、培地に放出した。ドットブロット(挿入図)によると、CXCL1が、CSPG(CSPGに対する抗体)を増加させた。GFAP(赤)、CSPG(緑)(図34)培養試験のために、脊髄アストロサイトの培養物の、CXCL1およびCXCR2のmRNA発現の基礎レベルを、RT―PCRによりアッセイした(図33)。CSPGタンパク質発現に対する3日間のCXCL1タンパク質の添加(0.5ng/ml)の効果が、脊髄アストロサイト培養に、ならびに免疫細胞化学法およびドットブロットアッセイにより行われて、分泌および結合されたCSPGが分析された(図34)。
【0180】
実施例24.成体脊髄の脱髄病変および細胞培養における中和CXCR2抗体
成体(SD;雌)ラットの脊柱に、3≡lの1%リゾレシチン(NaCl中)を注射して、局所的脱髄病変を誘導した。病変誘導の2日後に、CXCR2に対する5≡lの中和抗体またはアイソタイプIgGコントロール抗体(R&D Systems;100≡g/ml)を、病変エリアに局所注射した。全生存期間は10日であり、脊髄を切断し、免疫組織化学法または組織学法のために処理した。病変全体の切片を得、ミエリン染色のLuxolファストブルーで染色した(図36)。3D Doctorソフトウェアプログラムを使用して病変を再構築し、病変体積および3次元画像を構築した(図36)。ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、GFAP、ED1(マクロファージ/ミクログリア)およびビメンチンの抗体を用いた、標準的な免疫組織化学技術を使用して、病変内のタンパク質発現を分析した(図37)。
【0181】
実施例25.グリオーシスを改善するためのCXCを介したシグナリングのモジュレータのアッセイ
成体(SD;雌)ラットの脊柱に、1%のリゾレシチン(NaCl中)を注射して、局所的脱髄病変を誘導した。病変誘導の2日後に、グリオーシスを改善するための阻害剤候補(例えばrepertaxin、または図10に開示される化合物)を、病変エリアに局所注射する。用量は、1日につき体重1kgあたり約0.01mg〜500mgV、例えば約20mg/日である。脊髄を切断し、免疫組織化学法または組織学法のために処理する。病変全体の切片を得、ミエリン染色のLuxolファストブルーで染色する。3D Doctorソフトウェアプログラムを使用して病変を再構築し、病変体積および3次元画像を構築する。ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、GFAP、ED1(マクロファージ/ミクログリア)、およびビメンチンの抗体を用いた、標準的な免疫組織化学技術を使用して、病変内のタンパク質発現を分析する。培養試験のために、脊髄アストロサイトの培養物の、CXCレセプターおよび/またはリガンドのmRNA発現の基礎レベルを、RT―PCRによりアッセイする。脊髄アストロサイト培養物に免疫細胞化学法およびドットブロットアッセイを行って、分泌および結合されたCSPGを分析することにより、CSPGタンパク質発現が検出される。
【0182】
本発明の好ましい実施形態を、本明細書に図と共に記載したが、当業者には当然のことながら、このような実施形態は例として提供されるにすぎない。本発明から逸脱することなく、多数の変化形、変更、および置き換えが当業者によって考えられる。当然のことながら、本発明を実施する際に、本明細書に記載の本発明の実施形態の様々な代替物が用いられうる。本明細書に記載の請求が本発明の範囲を定義し、これらの請求の範囲内の方法および構造およびそれらの等価物が含まれることが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞ベースのアッセイで確認した場合に、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する、治療的に有効な量の生物活性剤を、必要とする対象に投与するステップを含む、神経障害を改善する方法。
【請求項2】
グリア細胞を、前記グリア細胞におけるCXCRを介したシグナリングを阻害する生物活性剤に接触させるステップを含む、グリア細胞遊走を促進する方法であり、前記生物活性剤に接触させないグリア細胞と比較して、前記遊走が増加する、方法。
【請求項3】
グリア細胞を、細胞ベースのアッセイで確認した場合に、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する、生物活性剤に接触させるステップを含む、グリア細胞増殖および/または分化を促進する方法であり、前記生物活性剤に接触させないグリア細胞と比較して、前記増殖および/または分化が増加する、方法。
【請求項4】
脱髄病変がみられる対象に生物活性剤を投与するステップを含む、再ミエリン化を促進する方法であり、前記生物活性剤が、CXCRを介したシグナリングによるグリオーシスの減少に有効であり、これにより前記対象における再ミエリン化を促進する、方法。
【請求項5】
細胞ベースのアッセイで確認した場合に、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する、治療上有効な量の生物活性剤を、必要とする対象に投与するステップを含む、グリオーシスを改善する方法。
【請求項6】
前記神経障害が、多発性硬化症である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記他のCXCレセプターが、CXCR3またはCXCR4である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記CXCRを介したシグナリングが、CXCR1および/またはCXCR2を介したものである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記生物活性剤が、CXCR1および/またはCXCR2に直接結合する、請求項1または5に記載の方法。
【請求項10】
前記生物活性剤が、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL7、またはCXCL8を不活性化する、請求項2または4に記載の方法。
【請求項11】
前記生物活性剤が、CXCR1および/またはCXCR2の活性を低下させる、請求項1または5に記載の方法。
【請求項12】
前記生物活性剤が、ペプチド、ポリペプチド、抗体、アンチセンス分子、siRNA、低分子またはペプチドミメティックである、請求項2または4に記載の方法。
【請求項13】
前記生物活性剤が、図10A、図10B、図10Cおよび図11の化合物の群より選択される、請求項1、2、4、または5に記載の方法。
【請求項14】
前記生物活性剤が、GFAP、ビメンチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、デルマタン硫酸プロテオグリカン(DSPG)、ケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)、またはコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の発現を低下させる、請求項1または4に記載の方法。
【請求項15】
前記グリア細胞が、オリゴデンドロサイト、オリゴデンドロサイト前駆細胞、シュワン、アストロサイト、ミクログリアおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項1】
細胞ベースのアッセイで確認した場合に、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する、治療的に有効な量の生物活性剤を、必要とする対象に投与するステップを含む、神経障害を改善する方法。
【請求項2】
グリア細胞を、前記グリア細胞におけるCXCRを介したシグナリングを阻害する生物活性剤に接触させるステップを含む、グリア細胞遊走を促進する方法であり、前記生物活性剤に接触させないグリア細胞と比較して、前記遊走が増加する、方法。
【請求項3】
グリア細胞を、細胞ベースのアッセイで確認した場合に、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する、生物活性剤に接触させるステップを含む、グリア細胞増殖および/または分化を促進する方法であり、前記生物活性剤に接触させないグリア細胞と比較して、前記増殖および/または分化が増加する、方法。
【請求項4】
脱髄病変がみられる対象に生物活性剤を投与するステップを含む、再ミエリン化を促進する方法であり、前記生物活性剤が、CXCRを介したシグナリングによるグリオーシスの減少に有効であり、これにより前記対象における再ミエリン化を促進する、方法。
【請求項5】
細胞ベースのアッセイで確認した場合に、他のCXCレセプターに対してCXCR1および/またはCXCR2を介したシグナリングを選択的に阻害する、治療上有効な量の生物活性剤を、必要とする対象に投与するステップを含む、グリオーシスを改善する方法。
【請求項6】
前記神経障害が、多発性硬化症である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記他のCXCレセプターが、CXCR3またはCXCR4である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記CXCRを介したシグナリングが、CXCR1および/またはCXCR2を介したものである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記生物活性剤が、CXCR1および/またはCXCR2に直接結合する、請求項1または5に記載の方法。
【請求項10】
前記生物活性剤が、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL7、またはCXCL8を不活性化する、請求項2または4に記載の方法。
【請求項11】
前記生物活性剤が、CXCR1および/またはCXCR2の活性を低下させる、請求項1または5に記載の方法。
【請求項12】
前記生物活性剤が、ペプチド、ポリペプチド、抗体、アンチセンス分子、siRNA、低分子またはペプチドミメティックである、請求項2または4に記載の方法。
【請求項13】
前記生物活性剤が、図10A、図10B、図10Cおよび図11の化合物の群より選択される、請求項1、2、4、または5に記載の方法。
【請求項14】
前記生物活性剤が、GFAP、ビメンチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)、デルマタン硫酸プロテオグリカン(DSPG)、ケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)、またはコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の発現を低下させる、請求項1または4に記載の方法。
【請求項15】
前記グリア細胞が、オリゴデンドロサイト、オリゴデンドロサイト前駆細胞、シュワン、アストロサイト、ミクログリアおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2または3に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
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【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
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【図32】
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【図34】
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【図36】
【図37】
【公表番号】特表2010−504996(P2010−504996A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530582(P2009−530582)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/079602
【国際公開番号】WO2008/039876
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(597138069)ケース ウエスタン リザーブ ユニバーシティ (16)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/079602
【国際公開番号】WO2008/039876
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(597138069)ケース ウエスタン リザーブ ユニバーシティ (16)
【Fターム(参考)】
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