説明

サイトカラシン誘導体およびその製造方法

【課題】種々のキャリアタンパク質または標識化合物との複合体を容易に形成できるサイトカラシン誘導体を提供する。
【解決手段】オキシラン環を有するサイトカラシンE、サイトカラシンFまたはサイトカラシンGと、アンモニアまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体とを反応させることにより、オキシラン環を開環させ、開環したオキシラン環のいずれか一方の炭素原子に、NHまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体を結合させることにより得られるサイトカラシン誘導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトカラシン誘導体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の根に寄生して、自ら分泌する毒性代謝産物によって植物を衰弱・枯死させる土壌伝染性の菌類が存在する。なかでも、白紋羽病菌(Rosellinia necatrix Prillieux)は、極めて宿主範囲が広く、リンゴ、ナシ、モモ、スモモ、ブドウ、ウメ、サクランボ、カンキツ、ビワ、イチジク、カキ、クリなどほとんど全ての果樹、バラ、ツツジ、ジンチョウゲなどの花木、さらにサツマイモなどの草本植物でも感染が確認されている。近年、白紋羽病による果樹の被害が増大しており、果樹生産者の被る経済的被害は年々深刻化している。白紋羽病は、発病後の治療が困難であるため、発病した場合は株ごと取り除き、周囲の土を消毒しなければならない。発見が遅れると果樹園全体に病気が蔓延し、その被害は甚大なものとなる。したがって、簡便で迅速な白紋羽病の早期発見法の確立は極めて重要な課題となっている。
【0003】
サイトカラシンEは、白紋羽病菌が産生する毒性代謝産物であり、下記式(I)で示される。
【0004】
【化1】

【0005】
サイトカラシンEは、樹木等の根部より感染した白紋羽病菌が徐々に樹木等に浸食する過程で分泌され、樹木内に吸収されると考えられる。従って、サイトカラシンEの高感度検出ができれば、感染を早期に発見し、白紋羽病の蔓延を未然に防ぐことが可能になると期待される。
【0006】
植物サンプル中のサイトカラシンEの分析方法としては、植物サンプルから分子インプリントカラムを用いてサイトカラシンEを抽出し、質量分析計を用いてサイトカラシンEの測定を行う方法が、本発明者らにより提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−187653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の方法によれば、植物サンプル中の微量のサイトカラシンEを測定できるものの、HPLC/MSやHPLC/MS/MSなどの高感度検出機器を用いる必要があり、果樹園などの現場で簡便に実施することができないという問題がある。そのため、このような高価な高感度検出機器を用いることなく、サイトカラシンEを高感度測定できる方法の開発が強く望まれている。
【0008】
標的化合物を簡便かつ高感度に測定できる方法の1つに、標的化合物と特異的に結合する抗体を使用する免疫学的測定法がある。標的化合物との特異性が非常に高い抗体を得ることができれば、迅速かつ低コストに多検体を検査することができる。しかしながら、通常、サイトカラシンEのような低分子化合物を免疫してもその特異抗体を得ることはできない。このため、低分子化合物(ハプテン)をキャリアタンパク質に結合させて複合体を形成させ、この複合体を免疫原として特異抗体を得る必要がある。
【0009】
また、サイトカラシンEはそれ自身に強い吸光や蛍光の性質を持たないため、抗原抗体反応を用いる分析法や高速液体クロマトグラフィーなどの分離分析法において検出感度が低いという問題がある。それゆえ、高感度検出のための標識化合物によるサイトカラシン類の誘導体化の実現も切望されている。
そこで、本発明は、サイトカラシン類の簡便かつ高感度な検出技術の開発のために、サイトカラシンEと種々のキャリアタンパク質または標識化合物との複合体を容易に形成できるサイトカラシン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、サイトカラシンEとアンモニアまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体とを反応させることにより、種々のキャリアタンパク質あるいは標識化合物との複合体を容易に形成可能なサイトカラシン誘導体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るサイトカラシン誘導体は、オキシラン環を有するサイトカラシンと、アンモニアまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体との反応により、前記オキシラン環を開環させ、開環した該オキシラン環のいずれか一方の炭素原子に、NHまたは前記エチレンジアミンまたは前記イミダゾール誘導体が結合して得られたことを特徴としている。
【0012】
オキシラン環を有するサイトカラシンは、サイトカラシンE、サイトカラシンFまたはサイトカラシンGであることが好ましい。
【0013】
本発明に係るサイトカラシン誘導体の製造方法は、オキシラン環を有するサイトカラシンと、アンモニアまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体とを反応させる工程を包含することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のサイトカラシン誘導体は、種々のキャリアタンパク質あるいは標識化合物と複合体を形成させることができるので、この複合体を免疫原としてサイトカラシンの特異抗体を作製することができる。また、抗原抗体反応を用いる分析法や高速液体クロマトグラフィーなどの分離分析法の高感度検出のための標識化合物によるサイトカラシン類の標識誘導体も作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のサイトカラシン誘導体は、オキシラン環を有するサイトカラシンと、アンモニアまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体とを反応させることにより、開環したオキシラン環のいずれか一方の炭素原子に、NHまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体が結合した構造を有している。オキシラン環を有するサイトカラシンとしては、上記式(I)で示されるサイトカラシンE以外に、下記式(II)で示されるサイトカラシンFおよび下記式(III)で示されるサイトカラシンGが知られている。
【0016】
【化2】

【0017】
例えば、上記式(I)で示されるサイトカラシンEとアンモニアまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体とを反応させることにより、下記式(IV)で示されるサイトカラシン誘導体を製造することができる。
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、XはNHまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体を表す。)
なお、Xは上記式(I)で示されるサイトカラシンEのオキシラン環を構成するいずれか一方の炭素原子に結合すればよく、本発明のサイトカラシン誘導体は、上記式(IV)の構造に限定されない。
【0020】
ここで、オキシラン環(エポキシ環)は、アミンにより開環することが報告されている(参考文献1:Najmodin Azizi and Mohammad R. Saidi, Highly Chemoselective Addition of Amines to Epoxides in Water, Org. Lett., 7 (17), 3649 -3651, 2005. 参考文献2:Shivani, Brahmam Pujala, and Asit K. Chakraborti, Zinc(II) Perchlorate Hexahydrate Catalyzed Opening of Epoxide Ring by Amines: Applications to Synthesis of (RS)/(R)-Propranolols and (RS)/(R)/(S)-Naftopidils, J. Org. Chem., 72 (10), 3713 -3722, 2007)。そこで、本発明者らは、サイトカラシンEのオキシラン環を開環させて反応性の高い官能基が導入されたサイトカラシン誘導体を合成すべく、種々のアミン類とサイトカラシンEとの反応を試みた。しかしながら、予想に反して、サイトカラシンEと各種アミンとを反応させても、目的化合物が得られない場合がほとんどであった(後段の参考例参照)。つまり、サイトカラシンEのオキシラン環は、従来の報告と異なり、アミン類によっても容易に開環しないことが明らかとなった。ところが、本発明者らは、意外にも、サイトカラシンEとアンモニア水またはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体とを反応させた場合に、サイトカラシンEのオキシラン環が開環し、オキシラン環を構成する2つの炭素原子のいずれか一方にNHまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体が結合することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
サイトカラシンとアンモニアとを反応させる場合には、アンモニア水が用いられる。サイトカラシンに対するアンモニアの添加量は、反応が進行する量であれば特に限定されないが、過剰量が好ましく、サイトカラシンの物質量に対して2〜20倍等量がより好ましい。その理由は、アンモニアが室温以上の反応温度で揮発し反応系中のアンモニア濃度が低下するため、円滑な反応進行のため過剰に加えることが好ましいからである。ただし、反応後処理の簡便化を図る理由と、大過剰量でなくても十分に反応が進行するという理由で、添加アンモニア量はサイトカラシンの物質量に対して2〜20倍等量程度の過剰量が好適である。溶媒としては、アセトニトリル、アセトニトリルと水の混合溶媒などを使用することができる。触媒は使用してもよく、使用しなくてもよい。好ましい触媒としては、亜鉛、リチウム、マグネシウム、カルシウムなどの過塩素酸塩が挙げられる。触媒を使用する場合、その添加量はサイトカラシンの物質量の0.1〜0.5倍等量が好ましい。反応温度は、室温以上が好ましく、室温以上70℃以下がより好ましい。反応時間は、0.5時間以上が好ましい。
【0022】
サイトカラシンEとアンモニアとの反応により、下記式(V)で示されるサイトカラシン誘導体を製造することができる。
【0023】
【化4】

【0024】
なお、NHは上記式(I)で示されるサイトカラシンEのオキシラン環を構成するいずれか一方の炭素原子に結合すればよく、サイトカラシンEとアンモニアとの反応により得られるサイトカラシン誘導体は、上記式(V)の構造に限定されない。
【0025】
サイトカラシンとエチレンジアミンとを反応させる場合、サイトカラシンに対するエチレンジアミンの添加量は、反応が進行する量であれば特に限定されないが、過剰量が好ましく、サイトカラシンの物質量に対して2〜20倍等量がより好ましい。その理由は、円滑な反応の進行のためと、大過剰のエチレンジアミンの存在下ではエチレンジアミンにサイトカラシン類が2当量反応してしまうためである。溶媒としては、アセトニトリル、アセトニトリルと水の混合溶媒などを使用することができる。触媒は使用してもよく、使用しなくてもよい。好ましい触媒としては、亜鉛、リチウム、マグネシウム、カルシウムなどの過塩素酸塩が挙げられる。触媒を使用する場合、その添加量はサイトカラシンの物質量の0.1〜0.5倍等量が好ましい。反応温度は、室温以上が好ましく、室温以上70℃以下がより好ましい。反応時間は、0.5時間以上が好ましい。
【0026】
サイトカラシンEとエチレンジアミンとの反応により、下記式(VI)で示されるサイトカラシン誘導体を製造することができる。
【0027】
【化5】

【0028】
なお、エチレンジアミンは上記式(I)で示されるサイトカラシンEのオキシラン環を構成するいずれか一方の炭素原子に結合すればよく、サイトカラシンEとエチレンジアミンとの反応により得られるサイトカラシン誘導体は、上記式(VI)の構造に限定されない。
【0029】
サイトカラシンとイミダゾール誘導体とを反応させる場合、イミダゾール誘導体としては、イミダゾール基を有する化合物であればよく、例えば、イミダゾール、ナフチルメチルイミダゾールなどが挙げられる。サイトカラシンに対するイミダゾール誘導体の添加量は、反応が進行する量であれば特に限定されないが、過剰量が好ましく、サイトカラシンの物質量に対して2〜20倍等量がより好ましい。その理由は、当量条件での反応速度が遅いためである。溶媒としては、サイトカラシン類とイミダゾール化合物を溶解することができるものであればよく、例えばアセトニトリルが挙げられる。触媒を使用することが好まく、例えば、亜鉛、シリカなどが挙げられる。触媒の添加量は亜鉛触媒であればサイトカラシンの物質量に対して2〜20倍等量、シリカであればサイトカラシンの質量に対して当量以上が好ましい。反応温度は、室温以上が好ましく、室温以上70℃以下が好ましい。反応時間は、48時間以上が好ましい。
【0030】
サイトカラシンEとイミダゾールとの反応により、下記式(VII)で示されるサイトカラシン誘導体を製造することができる。また、サイトカラシンEとナフチルメチルイミダゾールとの反応により、下記式(VIII)で示されるサイトカラシン誘導体を製造することができる。
【0031】
【化6】

【0032】
なお、イミダゾール誘導体は上記式(I)で示されるサイトカラシンEのオキシラン環を構成するいずれか一方の炭素原子に結合すればよく、サイトカラシンEとイミダゾールとの反応により得られるサイトカラシン誘導体は、上記式(VII)の構造に限定されず、サイトカラシンEとナフチルメチルイミダゾールとの反応により得られるサイトカラシン誘導体は、上記式(VIII)の構造に限定されない。
【0033】
〔本発明のサイトカラシン誘導体の用途〕
本発明のサイトカラシン誘導体は、種々のキャリアタンパク質と複合体を形成させることができるので、この複合体を免疫原としてサイトカラシンの特異抗体作製に利用することができる。また、本発明のサイトカラシン誘導体は、標識化合物と容易に反応させることができ、蛍光標識、酵素標識、ビオチン誘導体標識などの非放射性標識化を容易に達成することができ、標識誘導体化サイトカラシン類を利用したサイトカラシン類の高感度検出技術にも応用可能である。
【0034】
もともと、サイトカラシン類のオキシラン部位は、サイトカラシン類の他の部位である水酸基、アミド基、ケトン基、炭酸エステルの各部位と比較して非共有結合を形成する能力に乏しく、オキシラン部位は抗体の結合部位中の抗原決定部位には相互作用しないことが予想される。従って、このオキシラン部分をリンカーに用いた誘導体化によって得られるサイトカラシン類とタンパク質や標識化合物の複合体は、抗体作成の際障害とはならず、作成した抗体への標識化サイトカラシン類の結合性は損なわれないなど、本発明によって得られるサイトカラシン類の誘導体は極めて有用である。
【実施例】
【0035】
〔実施例1〕
サイトカラシンE1.25mg(2.5μmol)を1.5mLのスクリューバイアルに取り、28%アンモニア水を200μL加えた(不溶)。続いて、室温下で0.5μmolのZn(ClOアセトニトリル溶液を50μL滴下した。ボルテックスで攪拌し、サイトカラシンEを完全に溶解させた。薄層クロマトグラフィー(以下、TLCと記す。)およびMALDI−TOF MSで反応をモニタリングしながら室温下で攪拌した。TLCは、展開溶媒にエチルアセトン/ヘキサン=2/1を用い、ヨウ素蒸気に曝して検出した。MALDI−TOF MSによる測定は、マトリクスにcyano−4−hydroxycinnamic acidを用い、リニアモード、極性はポジティブ、加速電圧は15000Vで行った。
【0036】
図1に、24時間後のMALDI−TOF MSのチャートを示した。図1から明らかなように、目的物(C2836、Mol.Wt.:512.59)のピークが観察された。
【0037】
〔実施例2〕
アンモニアの添加量を変更して、目的物が得られるか否かを検討した。なお、本実施例では、Zn(ClOを添加しなかった。
【0038】
(2−1)
サイトカラシンE1.25mg(2.5μmol)を1.5mLのスクリューバイアルに取った。28%のアンモニア水をアセトニトリルで希釈し25mMのNH溶液を調製した。25mMのNH溶液を100μL(2.5μmol)をサイトカラシンEに加えた。室温下で攪拌し、TLCおよびMALDI−TOF MSで反応をモニタリングした。0.5時間後、3時間後、16時間後に反応を確認したが原料成分だけが確認された。
【0039】
(2−2)
サイトカラシンE1.25mg(2.5μmol)を1.5mLのスクリューバイアルに取った。28%のアンモニア水をアセトニトリルで希釈し250mMのNH溶液を調製した。250mMのNH溶液を100μL(25μmol)をサイトカラシンEに加えた。室温下で攪拌し、TLCおよびMALDI−TOF MSで反応をモニタリングした。0.5時間後には反応の進行が見られなかった。しかし、3時間後には目的物のピークが見られ、5時間後には目的物がメインピークとして観察された。
【0040】
図2に、15時間後のMALDI−TOF MSのチャートを示した。図2から明らかなように、目的物(C2836、Mol.Wt.:512.59)ピーク以外に原料のピーク(496、519、535)も観察され、原料が残存していることが示された。
【0041】
(2−3)
サイトカラシンE1.25mg(2.5μmol)に対して、28%アンモニア水を200μL加えた(不溶)。続いて、室温下でアセトニトリルを50μL滴下した。この場合は、0.5時間後に反応の進行が認められた。
【0042】
以上の結果を、表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
〔参考例1〕
サイトカラシンE1.5mg(3.2μmol)を1.5mLのスクリューバイアルに取り、下記式(IX)で示されるアミノスチレン(9.6μmol)のジクロロメタン溶液60μLを加えた。ボルテックスでよく混合し溶解を確認した後、Zn(OTf)を固体状態で0.5mg添加した。サーモミキサーにて一晩攪拌した(25℃、1000rpm)。12時間後、TLCおよびMALDI−TOF MSで反応の進行を確認した。目的物のピークは観察できなかった。
【0045】
【化7】

【0046】
〔参考例2〕
サイトカラシンE5mg(10μmol)を1.5mLのスクリューバイアルに取り、下記式(X)で示される5−フェニルペンチルアミン(10μmol)のアセトニトリル溶液100μLを加えた。室温で6時間、ミキサーで攪拌した。さらに、Zn(OTf)を固体状態で5mg添加して12時間攪拌した。さらに、これを70℃に昇温して2日間攪拌を続けた。この間、TLCおよびMALDI−TOF MSで反応の進行を確認した。目的物のピークは観察できなかった。
【0047】
【化8】

【0048】
〔参考例3〕
参考例2において、5−フェニルペンチルアミンを下記式(XI)で示されるピレンメチルアミンに変更した以外は、参考例2と同様に行った。目的物のピークは観察できなかった。
【0049】
【化9】

【0050】
〔参考例4〕
サイトカラシンE2.5mg(5μmol)を1.5mLのスクリューバイアルに取り、下記式(XII)で示されるフェネチルアミン(5μmol)のアセトニトリル溶液100μLを加えた。シリカゲルを約10mg加え、50℃、36時間サーモミキサー内で攪拌した。TLCおよびMALDI−TOF MSで反応の進行を確認した。目的物のピークは観察できなかった。
【0051】
【化10】

【0052】
〔実施例3〕
サイトカラシンE7mg(14μmol)を1.5mLのスクリューバイアルに取り、下記式(XIII)で示されるイミダゾール(140μmol)のアセトニトリル溶液500μLを加えた。ボルテックスでよく混合し(25℃、1000rpm)溶解を確認した。シリカゲル(WAKO−300HG)を適量添加し攪拌し反応させた。1時間後、2時間後および6時間後にTLCおよびMALDI−TOF MSで反応の追跡を行ったが原料の残存のみが確認された。そのまま2日間攪拌を続けた。TLCで確認したところ原料サイトカラシンEのスポットが消失し、新たに極性の高い(Rf=0.1、EA/Hx=2/1、v/v)スポットが見られた。MALD−TOF MSで確認したところ、目的物(MW=563.26)のピークがほぼシングルピークとして観測された。
【0053】
【化11】

【0054】
〔参考例5〕
サイトカラシンE2.5mg(5μmol)を1.5mLのスクリューバイアルに取り、上記式(IX)で示されるアミノスチレン(50μmol)のアセトニトリル溶液200μLを加えた。室温下で触媒Zn(ClOを3.8μmol加えミキサーで攪拌した。72時間後、生成した沈殿物を桐山ろ過で除き、アセトニトリルでよく洗浄してから、ろ液を回収した。このろ液について、TLCおよびMALDI−TOF MSで反応の進行を確認した。TLCでサイトカラシンEの消失を確認したが、ALDI−TOF MSで目的物のピークは観察できなかった。
【0055】
〔参考例6〕
参考例5において、アミノスチレンを下記式(XIV)で示されるp−キシレンジアミンに変更した以外は、参考例5と同様に行った。参考例5と同様に、TLCでサイトカラシンEの消失を確認したが、ALDI−TOF MSで目的物のピークは観察できなかった。
【0056】
【化12】

【0057】
〔実施例4〕
参考例5において、アミノスチレンを下記式(XV)で示されるナフチルメチルイミダゾールに変更した以外は、参考例5と同様に行った。目的物分子量(MW=703)の二価イオン体と予想されるイオンピーク(705.6254)がメインピークとして観察された。
【0058】
【化13】

【0059】
〔実施例5〕
サイトカラシンE0.94mg(1.90μmol)を1.5mLのスクリューバイアルに取り、エチレンジアミン0.34mg(5.69μmol)のアセトニトリル溶液300μLを加えた。ボルテックスでよく混合し溶解を確認した後、TLCおよびMALDI−TOF MSで反応の進行を確認した。その結果、MALDI−TOF MSでは、生成物と考えられる分子量580付近のピークが反応開始直後から確認できた。また、TLCでは反応開始から3時間後まではサイトカラシンEのスポットが残っていたが、一夜(約12時間)反応させたところサイトカラシンEのスポットは消失した。エチレンジアミンを5倍等量加えて反応させた場合には、3時間後にサイトカラシンEのスポットが消失した。サイトカラシンEのスポット消失後、CHCl/水で抽出を行い原料のエチレンジアミンを取り除き、ESI−TOF−MSで測定したところ、目的物の分子量(Mw=555)が確認された。
【0060】
上記参考例1〜6、実施例3〜5の結果を表2に示した。
【0061】
【表2】

【0062】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例1において本発明のサイトカラシンE誘導体が得られたことを示すMALDI−TOF MSのチャートである。
【図2】実施例2において本発明のサイトカラシンE誘導体が得られたことを示すMALDI−TOF MSのチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシラン環を有するサイトカラシンと、アンモニアまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体との反応により、前記オキシラン環を開環させ、開環した該オキシラン環のいずれか一方の炭素原子に、NHまたは前記エチレンジアミンまたは前記イミダゾール誘導体が結合して得られたサイトカラシン誘導体。
【請求項2】
前記オキシラン環を有するサイトカラシンが、サイトカラシンE、サイトカラシンFまたはサイトカラシンGである請求項1に記載のサイトカラシン誘導体。
【請求項3】
オキシラン環を有するサイトカラシンと、アンモニアまたはエチレンジアミンまたはイミダゾール誘導体とを反応させる工程を包含する請求項1または2に記載のサイトカラシン誘導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−4762(P2010−4762A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165151(P2008−165151)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000156581)日鉄環境エンジニアリング株式会社 (67)
【Fターム(参考)】