サイフォンによる吸引力発生装置、吸引力発生方法及び真空圧密地盤改良工法
【課題】水と気体の流れが分離せずにサイフォンの原理に従う吸引力を発生可能な吸引力発生装置及び吸引力発生方法を提供する。また、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現可能な真空圧密地盤改良工法を提供する。
【解決手段】この吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる第1の管1と、第1の管と上部で接続する第2の管2と、を有し、第1の管の下端1a側と、第2の管の先端2a側との間の水位差ΔHにより、第2の管の先端から第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用し、第2の管の先端側から第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置3を備える。
【解決手段】この吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる第1の管1と、第1の管と上部で接続する第2の管2と、を有し、第1の管の下端1a側と、第2の管の先端2a側との間の水位差ΔHにより、第2の管の先端から第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用し、第2の管の先端側から第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置3を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイフォンによる吸引力発生装置、吸引力発生方法及びこの吸引力発生装置または吸引力発生方法を用いた真空圧密地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸引力を発生させて、水を吸引し排水する装置として、真空ポンプを用いた吸引装置が知られている。従来の技術では、例えば、軟弱地盤内に鉛直ドレーンを打設後、真空ポンプによる吸引装置を用いて、負圧を作用させて地盤内を減圧することによって、地盤の圧密を促進する方法が用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-328550号公報
【特許文献2】特開2001-226951号公報
【特許文献3】特開2002-138456号公報
【特許文献4】特開2003-261929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の真空ポンプによる吸引装置では、真空ポンプの能力のみに頼って吸引を行っている。このため、従来の吸引装置によれば、真空ポンプの能力以上に圧密を促進する吸引力を作用させることができない。このため、従来の軟弱地盤の真空圧密地盤改良方法において真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用しなければならなかった。
【0005】
また、真空ポンプの力と、水面位置の差による力とを利用した吸引装置に関し、水面下の地盤の間隙水の吸引を目的にした水底軟弱地盤の減容化工法が提案されている(特許文献4参照)。この従来技術は、水面が、間隙水を吸引対象の地盤より高い位置にあることにより、水圧による圧縮力が作用して、間隙水を搾り出すものであり、改良対象の地盤が水中にあるとともに、地盤面位置が、排水部(減圧室)の水位よりも低い位置にあるという条件の下でのみ適用できるものである。この従来方法は、改良対象の地盤が陸上にあることを想定するものでなく、改良地盤面の天端位置から導かれるホースは、減圧室の側面に結合される形態としている。
【0006】
大きな吸引力を作用させる条件では、溶存空気等の気化や通水管の気密漏れ部から流入する空気の存在を考慮しなければならないが、この従来方法の形態を単純に変更して、上部から鉛直に管をつなげるだけでは、水と気体の流れが分離してしまうため、サイフォンの原理に従う吸引力は働かない。すなわち、陸上域の地盤を対象にした場合には、従来の技術によれば、真空ポンプの能力以上の吸引力を発揮させることはできなかった。
【0007】
本発明は、水と気体の流れが分離せずにサイフォンの原理に従う吸引力を発生可能な吸引力発生装置及び吸引力発生方法を提供することを目的とする。また、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現可能な真空圧密地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、前記第2の管の先端側から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置を備えることを特徴とする。
【0009】
この吸引力発生装置によれば、第2の管の先端側から空気混入率の大きい水を吸引して排水する場合でも、サイフォン機能維持装置により排水経路内に水供給を行うことで第1の管内の空気混入率を低下させることができるとともに、第1の管内を流下する水の流速を増加させることができるため、第1の管において水と気体の流れが分離せずに気液2相流が形成され、サイフォン機能を維持することができる。このように、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができるから、サイフォンによる吸引力を効率的に利用できる。なお、第1の管の下端から排水される水をサイフォン機能維持装置に送ることで排水経路内への水供給を行うようにしてもよい。
【0010】
上記吸引力発生装置において前記排水経路内に供給される水を、溶存空気量を減じた脱気水とすることでサイフォン機能を途絶えにくくすることが好ましい。排水経路内に脱気水を供給することで、負圧作用下での水からの空気発生量が少なくなり、水における空気混入量が大きくならないため、サイフォン機能が途絶えにくくなる。
【0011】
また、吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低い条件において、その高低差による負圧のロスを防ぐために、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水し、高低差のある前記排水経路内を気体で充満させることで前記負圧のロスを防止する負圧ロス防止装置を備えることが好ましい。吸引対象の水の水位面が第2の管の最上部の位置よりも低い場合は、その高低差によって負圧のロスが生じるが、この対策として、高低差のある排水経路前の水を汲み上げて排水することで高低差のある排水経路内に気体が充満することにより、負圧のロスを防ぐことができる。なお、汲みあげた水はサイフォン機能維持装置に送ることで上述の水供給に供されることが好ましい。
【0012】
また、前記排水経路内に供給される水に溶解性物質を溶解させることで溶存空気量を減じ、水の沸点を上昇させて、サイフォン機能を途絶えにくくすることが好ましい。
【0013】
また、前記第1の管及び/又は前記第2の管の外面の少なくとも一部に温度上昇防止部を設けることで、前記管内の気温及び水温を低く保つことにより負圧作用に伴う気化を抑制して、サイフォン機能を途絶えにくくすることが好ましい。
【0014】
上記吸引力発生装置は真空ポンプによる動力装置を併用することが好ましい。これにより、サイフォン機能が停止した場合に、その再開を容易に行うことができるとともに、サイフォン機能のみでは不足する吸引力を補うことができる。
【0015】
上記目的を達成するための吸引力発生方法は、上部から下部に向けて延びる第1の管の下端側と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力を作用させる吸引力発生方法であって、前記第2の管の先端側から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するようにしたことを特徴とする。
【0016】
この吸引力発生方法によれば、第2の管の先端側から空気混入率の大きい水を吸引して排水する場合でも、排水経路内に水供給を行うことで第1の管内の空気混入率を低下させることができるとともに、第1の管内を流下する水の流速を増加させることができるため、第1の管において水と気体の流れが分離せずに気液2相流が形成され、サイフォン機能を維持することができる。このように、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができるから、サイフォンによる吸引力を効率的に利用できる。なお、第1の管の下端から排水される水を排水経路内へ供給することで上記水供給を行うようにしてもよい。
【0017】
上記目的を達成するための真空圧密地盤改良工法は、上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする。
【0018】
この真空圧密地盤改良工法によれば、上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法によるサイフォン機能の吸引を併用することで地盤改良における真空圧密を促進させることができ、盛土による載荷の縮小や省略を図ることができるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、従来の真空圧密工法に比べて吸引力が増加し、かつ、吸引力を効率よく加えることができるため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0019】
上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法における第2の管を軟弱地盤中に打設したドレーン材に連結し、改良対象の軟弱地盤の地下水位面と第1の管の下端側との間の水位差に起因するサイフォン機能による吸引力によって軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで地盤の圧密を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の吸引力発生装置及び吸引力発生方法によれば、第1の管において水と気体の流れが分離せずに気液2相流が形成され、サイフォン機能を維持でき、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができる。
【0021】
本発明の真空圧密地盤改良工法によれば、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生可能な上述の吸引力発生装置を用いることで、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1のサイフォン機能維持装置から水平管内の排水経路に脱気水を供給するようにした吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【図3】図1,図2の吸引力発生装置の好ましい態様を説明するために、溶媒と溶液について温度と蒸気圧との関係を示すグラフである。
【図4】図1,図2の吸引力発生装置の水平管と鉛直管に温度上昇防止部を設けた例を示す図である。
【図5】図1,図2の吸引力発生装置の水平管と鉛直管に温度上昇防止部を設けた別の例を示す図である。
【図6】図2の吸引力発生装置において発生する負圧ロスを説明するための図である。
【図7】図2の吸引力発生装置に負圧ロスを防止するための負圧ロス防止装置を設けた構成を概略的に示す図である。
【図8】第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【図9】第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの変形例を示す部分図である。
【図10】本実施例で用いた実験装置を概略的に示す図である。
【図11】本実施例において、供給水量を20L/分に維持してサイフォンが機能した条件と、供給水量が10L/分と少なくサイフォンが機能しない条件としたとき、水平通水管内に作用する負圧を計測した結果を示す図である。
【図12】図1の吸引力発生装置におけるサイフォン機能による水と空気との気液2相流を説明するための模式図(a)及び水と空気との気液2相流を実現できない状態を説明するための模式図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0024】
〈第1の実施形態〉
図1は第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【0025】
図1の吸引力発生装置は、上部から下部に向けて鉛直方向に延びる第1の管である鉛直管1と、鉛直管1の上部で水平方向に延びる第2の管である水平管2と、水平管2に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置3と、を備える。水平管2の先端2a側から鉛直管1の下端1a側に向けて排水経路が形成される。鉛直管1及び水平管2は金属製またはプラスチック製の円筒管からなる。
【0026】
サイフォン機能維持装置3は、水平管2の上部に配置されて水を貯留するタンク4と、タンク4の底部と水平管2との間に設けられた水供給管5と、水供給管5の途中に設けられたバルブ6と、を備え、タンク4内の水を、バルブ6を開くことで水供給管5を通して水平管2の排水経路内に供給する。
【0027】
図1のように、鉛直管1の下端1aが水中にあるとき、その排水位面H1と水平管2の先端2a側の水位面H0との間の水位差ΔHに起因するサイフォン機能により水平管2の先端2a側から鉛直管1の下端1a側に向けて吸引力が発生することで、水が水平管2内を水平方向cに流れて鉛直管1内を鉛直方向dに流れる。なお、図1の排水面が鉛直管1の下端1aに達していないときは、鉛直管1の下端1aと水平管2の先端2a側の水位面H0との間の水位差に起因するサイフォン機能により鉛直管1の下端1a側に向けて吸引力が発生する。
【0028】
ここで、水平管2内に気体が含まれる条件においてサイフォンの原理に従って吸引力を作用させるためには、鉛直管1内において水と気体を分離させず、一体的に流下させなければならない。すなわち、図12(a)のように、水平管2内において方向cに空気と水とが分離して流れても、鉛直管1内においては空気が多数の気泡Bとして取り込まれ、気液2相流として一体的に方向dに流下することで、鉛直管1内においてサイフォンの原理が成立し、水位差ΔHによる吸引力が発生する状態となる。なお、図12(b)のように、水平管内で空気と水とが分離して流れ、鉛直管内でも水と空気が分離して流下すると、サイフォンの原理が成立せず、水位差による吸引力が発生しない状態となる。
【0029】
サイフォンの原理に従う吸引力により排水を行う場合、溶存酸素等の気化や管等における気密漏れ部から空気の流入が生じることから、サイフォン機能を維持するためには、鉛直管1内で気体の流れと液体の流れとの分離を防ぎ、図12(a)のように気液2相流(気泡混合流)を形成させなければならない。図1の吸引力発生装置によれば、水平管2の先端2a側から空気混入率の大きい水が吸引されて排水される場合でも、サイフォン機能維持装置3のタンク4内の水が鉛直方向bに水供給管5を通して水平管2内に供給されることで、水平方向cに吸引されて流れる水は空気混入率が低くなるとともに、鉛直管1内を流下する水の流速が増加する。このため、鉛直管1内では、気体の流れと液体の流れとが分離せず、水と気体が混合した気液2相流が安定して形成され、サイフォンが機能する。
【0030】
上述のように、図1の水平管2内の排水経路を通過する水と空気の流れが、鉛直管1内で気液2相流(気泡混合流)となり、サイフォン機能が発揮されやすくするためには、管内の空気混入率を減じるとともに、管内を流下する水の流速を増加させることが好ましいが、本実施形態の吸引力発生装置によれば、サイフォン機能維持装置3から排水経路内に水を供給することで、鉛直管1を流下する気液2相流内の空気混入率を減少させることができるとともに、鉛直管1内を流下する水の流速を増加させることができるので、サイフォン機能を維持してサイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができる。
【0031】
また、水平管2から吸引する空気量に応じて、サイフォン機能維持装置3から供給する水の量をバルブ6によって調整することで水流量すなわち流速を管理し、空気を水とともにスムーズに流下させることができる。
【0032】
次に、本実施形態の吸引力発生装置の好ましい態様について図2〜図7を参照して説明する。
【0033】
図2の吸引力発生装置は、図1の吸引力発生装置に脱気水製造装置26及び減圧可能な密閉室21を設け、サイフォン機能維持装置3から水平管2内の排水経路に脱気水を供給するように構成したものである。
【0034】
脱気水製造装置26は、例えば、水を溜めたタンク中に超音波発生源を配置した装置、水を溜めた減圧容器内を減圧する装置、または、水を溜めたタンクを加熱する装置等であってよいが、これらを組み合わせた装置であってもよい。なお、水としては水道水、雨水、地下水、海水等を用いることができる。
【0035】
図2のように、脱気水製造装置26で製造された脱気水をサイフォン機能維持装置3のタンク4に供給し、タンク4から脱気水を水平管2内の排水経路に供給することで、排水経路の水中の溶存空気量を減じ、負圧作用下での水からの空気発生量が少なくなり、水における空気混入量が大きくならないため、鉛直管1を流下する気液2相流内の空気量をさらに減じることができ、サイフォン機能が途絶えにくくなる。
【0036】
また、図2のように、密閉構造にされた密閉室21を設け、密閉室21内に鉛直管1が延びてその下端1aから排水されるとともに、真空ポンプ25により密閉室21内を減圧することで、水平管2内にある程度の大きな負圧がかかっている場合、揚水ポンプ22により排水された水は脱気水となるので、この脱気水を排水管23を通して方向e,fに流し、その先端23aからサイフォン機能維持装置3のタンク4に供給するようにしてもよい。この場合は、図2の脱気水製造装置26を省略してもよい。
【0037】
密閉室21内で鉛直管1の下端1aが水中にあるとき、その水位面H1と水平管2の先端2a側の水位面H0との間の水位差ΔHに起因する負圧と、密閉室21の内部を真空ポンプ25で減圧することによる負圧とにより、水平管2内の負圧が大きくなり、例えば、−90kPa程度の負圧となる。
【0038】
図2の吸引力発生装置は、鉛直管1が延びて鉛直管1からの水が溜まる密閉室21と、密閉室21内を減圧する真空ポンプ25とを備えることで、真空ポンプ25による吸引力と、水平管2と鉛直管1によるサイフォン機能に起因する吸引力とを発生させることができるので、真空ポンプ25の能力以上の大きな吸引力を得ることができる。また、サイフォン機能が停止した場合などに、真空ポンプ25により、その再開が容易である。
【0039】
なお、図2のように、排水管23の途中にバルブ24aを介して外部排水管24を連結し、揚水ポンプ22により汲み上げた水をバルブ24aの開閉操作により外部排水管24を通して外部方向gに適宜排出することで、サイフォン機能維持装置3のタンク4への脱気水の供給量を調整することができる。
【0040】
次に、図1,図2の吸引力発生装置において、サイフォン機能維持装置3のタンク4から供給される水の中に塩化ナトリウム等の溶解性物質を溶かし込むことで、水の溶存空気量を減じ、水の沸点を上昇させ、サイフォン機能を途絶えにくくし、サイフォンによる吸引力を強化するようにしてもよい。
【0041】
すなわち、ある溶媒の蒸気圧をp0とし、この溶媒に不揮発性溶質を溶かしたときの溶液の蒸気圧をpとすると、同一温度では、p0>pとなり、蒸気圧が下がる。溶液の濃度があまり大きくない場合には溶液の蒸気圧降下度は溶質のモル分率に等しい。この関係をラウール(Raoult)の法則という。溶媒の物質量をN、溶質の物質量をnとすると、次の式(A)のように表すことができる。
【0042】
(p0−p)/p0=n/(N+n) (A)
【0043】
図3に溶媒と溶液について温度と蒸気圧との関係を示すが、図3からわかるように、同一温度における蒸気圧は単に溶媒のみである場合に比べ、不揮発性溶質を溶かした溶液は蒸気圧が降下する。これは、温度を一定に保ちながら、圧力を降下させていった場合、溶媒のみの場合よりも不揮発性溶質を溶かした溶液の方が沸騰しにくいことを意味する。
【0044】
したがって、サイフォン機能維持装置3から供給される水の中に塩化ナトリウム等の溶解性物質を溶かし込むことで沸点上昇と溶存酸素量の減少とを実現できる。このため、図1,図2の吸引力発生装置の排水経路内で水から空気が発生しにくくなり、サイフォン機能が途絶えにくくなる。
【0045】
次に、図1,図2の吸引力発生装置の水平管2と鉛直管1に図4,図5のような温度上昇防止部を設けることで、水平管2と鉛直管1の中の気温及び水温を低く保つことにより負圧作用に伴う気化を抑制して、サイフォン機能を途絶えにくくするようにしてもよい。
【0046】
図4の例は、図1,図2の吸引力発生装置の水平管2と鉛直管1の外周に、発泡スチロール等の断熱性材料からなる温度上昇防止カバー28を温度上昇防止部として配置したものである。図4の構成によれば、水平管2と鉛直管1が温度上昇防止カバー28により太陽熱で暖められないので、水平管2と鉛直管1の中の気温及び水温を低く保つことができ、負圧作用に伴う気化を抑制して、サイフォン機能を途絶えにくくすることができる。なお、温度上昇防止カバー28は必ずしも管1,2の全面を覆う必要はなく、例えば、太陽光に晒される部分だけに配置してもよい。
【0047】
図5の例は、図1,図2の吸引力発生装置の水平管2と鉛直管1の外周面に、温度上昇防止部として比較的細い管29をらせん状に巻き付けるようにして長手方向に配置し、管29内に冷水を流すように構成したものである。図5の構成によれば、管29を通して冷水をらせん状に流すことで水平管2と鉛直管1が冷却され、その温度が下がるので、鉛直管1中の空気体積を減じるととともに、負圧作用による気化を抑制して、サイフォン機能を途絶えにくくすることができる。なお、管1,2に細い管29を巻き付ける範囲は管1,2の一部だけであってもよい。
【0048】
ここで、シャルルの法則によると、圧力一定条件で気体の体積Vは絶対温度Tにおいて次の式(B)で表すことができる。
【0049】
V=kT (B)
ただし、k:正の定数
【0050】
この式は、温度が高い条件では気体の体積は膨張することを示している。このため、図1,図2の鉛直管1の空気の温度を上げることは、溶存空気や、吸引空気の体積を膨張させてしまい、サイフォン機能を低下させる。したがって、図4のように水平管2と鉛直管1に対する太陽熱の影響を排除することで、また、図5のように水平管2と鉛直管1の温度を下げることで、温度上昇によるサイフォン機能低下を防止できる。
【0051】
次に、本実施形態の吸引力発生装置の原理について説明する。
浮力による気泡の上昇速度νaは、浮力と抗力のつりあいにより、次の式(1)によって評価できる。
【0052】
νa=[8gra/(3CD)]0.5 (1)
【0053】
ここで、raは気泡の半径であり、気泡の大きさは最大で管径の1/2となりえる。また、CDは抗力係数であり、0.5で与えられる。
【0054】
また、管の通水断面積をAとすると、気泡の最大半径ra(max)は、次の式(2)で表すことができる。
【0055】
ra(max)=(A/π)0.5 (2)
【0056】
また、鉛直管に流入してくる水の流量がQのとき、鉛直管を流下する水の流速νwは、次の式(3)で評価できる。
【0057】
νw=Q/A (3)
【0058】
上記式(3)は、水平管から流入してくる流量に対して、鉛直管の内径を小さくし、通水断面積を小さくすると、または、排水経路内に水を供給して流量を増加させると、流速が増加することを示している。
【0059】
ここで、鉛直管内において、鉛直管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaとなるような条件を設定することにより、気泡が水の流れに連行され、気液混相流(気液2相流)が形成されるためサイフォンが機能する。
【0060】
上記条件(νw>νa)を成立させるために次のような方法・手段が考えられる。
(1)形成されうる気泡の最大径を小さくし、気泡の上昇速度を抑える(式(1)(2))。
(2)流水の成分や温度を工夫して、気泡の最大径を小さくし、気泡の上昇速度を抑える(式(1))。
(3)鉛直管を細くする、または、供給する水の量を増加させて、水の流下速度を上昇させる(式(3))。
【0061】
本実施形態の吸引力発生装置は、上記(1)(2)(3)を利用する構成を有するものである。なお、上記(3)の効果を高めるために、鉛直管1の内径を水平管2の内径よりも小さくして鉛直管1の通水断面積を水平管2の通水断面積よりも小さくしたり、鉛直管1の途中に内径が鉛直管下方に向けて漸減する漸減部を設けるようにしてもよい。
【0062】
次に、図2の吸引力発生装置において負圧ロスを防止するための構成について図6,図7を参照して説明する。図6は図2の吸引力発生装置において発生する負圧ロスを説明するための図である。図7は図2の吸引力発生装置に負圧ロスを防止するための負圧ロス防止装置を設けた構成を概略的に示す図である。
【0063】
図6のように、最上部にある水平管2の位置でサイフォンによる負圧が大きく働くが、水平管2の先端2a側に比較的短い連結管2bを介して、水平管2の下方に別の水平管2cを配置し、吸引対象の水位面H3が下方の水平管2cの位置近傍であり、水平管2の位置よりも低い場合、その高低差Δhに応じて負圧のロスが生じる。換言すると、その高低差Δhに相当する分を揚水しなければならないため、負圧のロスが生じる。
【0064】
この負圧ロスの防止のため、図7のように、図2の吸引力発生装置に負圧ロス防止装置35を設けることが好ましい。負圧ロス防止装置35は、揚水ポンプ37及び排水管38を設置した密閉容器36を有し、密閉容器36の入口部に排水対象の水位面H3の水とつながる入口管34を接続し、出口部に水平管2と連結管2bを介してつながる出口管39を接続する。排水対象の水が方向iに入口管34から密閉容器36内に供給され、この水が揚水ポンプ37により排水管38を通して方向jに排水されるとともに、排水管38の先端38aからサイフォン機能維持装置3のタンク4に供給される。
【0065】
揚水ポンプ37による排水により、密閉容器36内の水位が下げられるため、水平管2とつながる出口管39は、気体が充満している状態となり、排水経路の高低差Δhによる負圧のロスは生じない。
【0066】
図7のように、図2の吸引力発生装置に負圧ロス防止装置35を設けることにより、高低差Δhのある排水経路前の水を汲み上げて排水するため、高低差Δhのある排水経路内には気体が充満し、負圧のロスを防ぐことができる。また、負圧ロス防止のために汲みあげた水をサイフォン機能維持装置3に送ることにより、鉛直管1内への水の供給量を増やし、空気混入率を低下させるとともに、流下する流速を増加させて、鉛直管1内でサイフォンを機能しやすくする効果を奏する。
【0067】
なお、図7の負圧ロス防止装置35では、密閉容器36に流入する水量と同等またはそれ以上に揚水ポンプ37による排水が行われる場合、密閉容器36内は気体と液体が分離された状態となる。このとき、高低差を有する排水経路内は気体で充満されるため、負圧のロスが生じず、負圧ロス防止装置35が完全に機能している状態となる。一方、密閉容器36に流入する水量が揚水ポンプ37による排水量よりも多い場合、密閉容器36内は水で飽和された状態となる。このとき、高低差を有する排水経路(連結管2b)内に水が残り、その排水経路内の水位は密閉容器36に流入する水量により変動するが、その排水経路内の水位分の負圧ロスが生じるため、負圧ロス防止装置35が部分的に機能している状態となる。上述のように、負圧ロス防止装置35において負圧ロス機能を完全に発揮させるためには、揚水ポンプ37の排水能力を常に密閉容器36に流入する水量と同等またはそれ以上として密閉容器36内で気体と液体とを分離させることが好ましいが、気体と液体が分離していなくとも負圧ロス機能を部分的には発揮させることができる。
【0068】
〈第2の実施形態〉
図8は第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【0069】
図8の真空圧密地盤改良システム50は、鉛直通水管11と水平通水管12とを有する吸引力発生装置と、真空減圧装置30と、を備える。水平通水管12は、鉛直通水管11と鉛直通水管11の上端で接続され、また、真空圧密地盤改良のために軟弱地盤G中に打設される鉛直ドレーン材31に不透気部32と接続部33とを介して連結されている。なお、鉛直通水管11と水平通水管12は、図1,図2の吸引力発生装置の鉛直管1,水平管2と同様の構成であってよい。
【0070】
また、図8の真空圧密地盤改良システム50は、図2と同様のサイフォン機能維持装置3を備え、サイフォン機能維持装置3のタンク4内の水がバルブ6を開くことで水供給管5を通して水平通水管12内に供給されるようになっている。
【0071】
図8のように、真空減圧装置30は、図2とほぼ同様に構成されてよく、密閉室21が地中に設置されている。密閉室21は、鉛直通水管11と揚水ポンプ22と排水管23とを収納し、真空ポンプ25により内部が減圧されることで、真空減圧装置30が減圧発生源として機能する。
【0072】
鉛直ドレーン材31は、軟弱地盤G内の間隙水を吸引するために軟弱地盤G内に打設され、鉛直ドレーン材31の上端に接続される不透気部32は地下水位面H3に位置する。なお、鉛直ドレーン材31は、軟弱地盤G内に必要に応じて複数本打設され、不透気部32や接続部33とともに、例えば、特許文献2〜4に開示された構成とすることができる。
【0073】
図8の真空圧密地盤改良システム50による真空圧密地盤改良工法の工程について説明する。
【0074】
(1)水平通水管12のバルブ12a,鉛直通水管11のバルブ11aを閉じておく。この際、太陽光に晒される水平通水管12と鉛直通水管11の各部分には太陽光の熱影響を受けないように養生をしておくことが好ましく、例えば、図4や図5のような温度上昇防止部を設けることが好ましい。
【0075】
(2)鉛直通水管11、水平通水管12を水にて満管状態とした後、鉛直通水管11のバルブ11aとサイフォン機能維持装置3のバルブ6を開放し、サイフォン機能により流水のある状態にする。この際に、流水の中に塩化ナトリウム等の不揮発性溶質を溶かしておくことが好ましい。
【0076】
(3)密閉室21内に流入する水を、揚水ポンプ22により排水し、サイフォン機能維持装置3のタンク4に供給する。
【0077】
(4)真空ポンプ25により徐々に密閉室21内の圧力を減じ、圧力が目的の値まで減少した時に水平通水管12のバルブ12aを開放し、地下水位面H3と密閉室21内の水位面H1との水位差ΔH(=H3−H1)に起因するサイフォン機能による吸引力に、真空ポンプ25による吸引力を併用して、鉛直ドレーン材31を通して軟弱地盤G内の間隙水を方向mに吸引する。
【0078】
(5)鉛直ドレーン材31や各管の継手部分等から流入する空気と水量に応じて、サイフォン機能維持装置3と水平通水管12の各バルブ6,12aの開閉を調整し、サイフォンが途切れないようにする。なお、排水管23を通したサイフォン機能維持装置3のタンク4への水供給量は、バルブ24aの開閉を調整し外部排水管24を通して外部に適宜排水することで調整する。
【0079】
上述のようにして、軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで地盤圧密を促進することができるが、このとき、真空減圧装置30の真空ポンプ25で密閉室21内を減圧することによる吸引力に加えて、地下水位面H3と密閉室21内の水位面H1との水位差ΔHに起因するサイフォン機能による吸引力が発生し、これらの吸引力により軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで軟弱地盤Gを圧密するので、この真空圧密を、真空ポンプ25のみで吸引する場合と比べて水位差ΔHに起因する吸引力が加わる分だけより大きな吸引力で行うことができる。
【0080】
サイフォンを吸引力として用いる場合、水に空気が混入することで容易にサイフォンが途切れてしまうことが問題となり、サイフォンを併用した真空圧密地盤改良工法では空気混入量が多い場合、サイフォン機能が容易に低下してしまうのに対し、本実施形態によれば、サイフォン機能維持装置3による水平通水管12への水供給により、鉛直通水管11中の混入空気量を減じるとともに、鉛直通水管11内を流下する流速を増加させてサイフォン機能を持続させることができる。これにより、吸引力を効率よく軟弱地盤に加えることができる。
【0081】
従来の真空圧密地盤改良工法によれば真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用していたのに対し、本実施形態のようにサイフォン機能による吸引力を併用し、しかもサイフォン機能を持続させて吸引力を効率よく軟弱地盤に加えることで、盛土による載荷を縮小したり省略できるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を期待することができる。また、従来の工法に比べて吸引力が増加し、かつ、吸引力を効率よく加えることができるため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0082】
なお、揚水ポンプ22は、揚程差10m以上の高揚程タイプが好ましく、密閉室21を地中深く設置し、水位差ΔHの確保のため密閉室21内の水位面H1を地下水位面H3に対しより低くした場合でも、密閉室21内の貯留水を排水できる。
【0083】
また、前述したように、細い鉛直通水管を使用して流下速度を速くする方が、サイフォンは機能しやすい。排水量を十分に確保しながら、空気が混入した水に対してサイフォン機能を維持できる条件を満足するために、図9のように、内径の異なる複数の鉛直通水管41,42,43を密閉室21内に配置し、バルブ41a,42a,43aを介して水平通水管12に連結することで、流入水量に応じて、バルブ41a〜43aの開閉により、好ましい鉛直通水管を迅速に選択できるようにしてもよい。これにより、空気が混入した水でも排水量を十分に確保しつつサイフォン機能を維持することができる。
【実施例1】
【0084】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0085】
実験概要
サイフォン機能維持装置による水平通水管への水供給がサイフォン機能の持続に及ぼす効果を検証するために実験を行った。実験装置を図10に示す。
【0086】
図10の実験装置を用いて以下の手順で実験を行った。
ステップ1:注水管から水を注入し、水平通水管および鉛直通水管を水で飽和させる。満管にした時点で注水バルブを閉じる。
ステップ2:サイフォン機能維持装置のバルブ及び鉛直通水管のバルブを開け、サイフォンをきかせた後、徐々に密閉室内の圧力を下げる。
ステップ3:密閉室の負圧を−50kPaに保った状態で、水平通水管のバルブを開く。
ステップ4:サイフォン機能維持装置から供給される水量を計測しながら、サイフォン機能維持装置のバルブを徐々に閉じていき、サイフォンが切れるときの供給水量を計測する。
【0087】
実験結果
鉛直通水管内でサイフォンが機能すると、水頭差による吸引力が発揮されるため、水平通水管では、密閉室よりも高い負圧が作用する。サイフォン機能により、水平通水管内で、−90kPa以上の負圧が作用すると、溶存空気が気化し、空気の体積が増加することにより、サイフォンが機能しにくくなることが判明した。
【0088】
さらに、鉛直通水管の内径が3cmの条件では、サイフォン機能維持装置からの水の供給流量が15L(リットル)/分以上のとき、鉛直通水管内で気泡混合流が形成され、サイフォン機能を維持することができた。一方、供給流量が15L/分以下に低下すると、鉛直通水管内を流下する水の流速が遅くなるために、気泡が水の流れによって排出されにくくなった。その結果、気泡混合流が消失するとともに、水と空気の流れが分離し、サイフォン機能が消失した。これは、上述のように、鉛直通水管内において、鉛直通水管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaとなる条件がなりたたないため、気泡混合流(気液2相流)を形成できないからである。このとき、水平通水管に作用する負圧は、サイフォンによる吸引力が付加されないため、真空ポンプ圧と同一となる。
【0089】
なお、内径3cmの鉛直通水管を用いた本実験でサイフォン機能が成立できる水の限界供給量を、管内を流下する水の流速が同一となるように、内径5cmの管を用いた条件に換算すれば、42L/分、また、内径10cmの管を用いた条件に換算すれば、167L/分となる。
【0090】
本実験において、供給水量を20L/分に維持し、供給水量を十分に与えることによりサイフォンが機能した条件と、供給水量が10L/分と少なくサイフォンが機能しない条件とにおいて、それぞれ水平通水管内に作用する負圧を計測した結果を図11に示す。図11の計測結果から、供給水量が15L/分以上の条件を満足するとき、鉛直通水管内で気泡混合流が形成され、水平通水管に十分な負圧を作用させることができることを確認できた。また、供給水量が15L/分以上の条件を満足しないとき、サイフォンが機能せず、真空ポンプによる負圧のみが作用した。
【0091】
また、揚水ポンプにより密閉室からサイフォン機能維持装置に供給される水(脱気水)の溶存酸素量を計測した。常温下で1日放置した水道水を通常水として比較した。その容存酸素量の比較結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
通常水の溶存酸素量は、理論上19℃、常圧、酸素濃度20.9%の条件下において9.01mg/Lとなることから、通常水の計測結果は、理論値と近い値を示した。一方、揚水ポンプにより密閉室からサイフォン機能維持装置に供給される水(脱気水)は、通常水の溶存酸素量に比べ、60%程度の値となった。したがって、サイフォン機能維持装置に供給される水は、脱気されて溶存酸素量が低下しており、密閉室から供給される脱気水が好ましいことを確認できた。
【0094】
以上の本実験によれば、溶存酸素等の気化や水平通水管等の気密漏れ部から流入する気体の存在があるような条件においても、確実にサイフォンの吸引力を作用させるためには、サイフォン機能維持装置から水を供給することが、鉛直通水管において気液2相流を形成する上で重要であることを検証した。また、サイフォン機能維持装置から供給する水は脱気水であることが望ましいことを確認できた。
【0095】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図8において、サイフォン機能維持装置3の水の供給部分(タンク4)については、工場等で作製されるタンクではなく、掘削や地盤沈下により形成される凹型地盤を利用してもよい。また、図8の真空圧密地盤改良システム50に、必要に応じて図2の脱気水製造装置26や図7の負圧ロス防止装置35を設けてもよいことはもちろんである。
【0096】
また、図1,図2,図8において、サイフォン機能維持装置3の水供給管5の水平管2,水平通水管12における位置は、水平管2,水平通水管12の任意の位置(ただし、図8ではバルブ12aの下流側の任意の位置)であってよい。
【0097】
また、本発明による吸引力発生装置を真空圧密地盤改良システムに適用したが、これに限定されず、他の装置・システム・他の工法に適宜適用してよく、同様の効果を得ることができる。また、鉛直管(鉛直通水管)、水平管(水平通水管)は、円筒管以外であってもよく、例えば角筒管でもよい。
【0098】
また、図1,図2,図8のサイフォンによる吸引力発生装置では、第1の管を鉛直管(鉛直通水管)として、第2管を水平管(水平通水管)として配置したが、本発明はこれに限定されず、水位差により第2の管の先端側から第1の管の下端側に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する構成であれば、それらの配置形態はいずれでもよく、例えば、第1の管、第2の管は傾斜等していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明による吸引力発生装置及び吸引力発生方法によれば、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理による吸引力を安定して持続的に発生させることができるので、真空ポンプに頼らずにサイフォンの自然エネルギを極力使用可能となり、電力等のコストを削減可能となる。
【0100】
本発明による真空圧密地盤改良工法によれば、サイフォン機能による吸引力を併用することで盛土による載荷の縮小・省略が可能となり、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮できる。
【符号の説明】
【0101】
1 鉛直管(第1の管)
2 水平管(第2の管)
3 サイフォン機能維持装置
21 密閉室
22 揚水ポンプ
25 真空ポンプ
26 脱気水製造装置
35 負圧ロス防止装置
30 真空減圧装置
31 鉛直ドレーン材
11 鉛直通水管
12 水平通水管
50 真空圧密地盤改良システム
G 軟弱地盤
ΔH 水位差
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイフォンによる吸引力発生装置、吸引力発生方法及びこの吸引力発生装置または吸引力発生方法を用いた真空圧密地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸引力を発生させて、水を吸引し排水する装置として、真空ポンプを用いた吸引装置が知られている。従来の技術では、例えば、軟弱地盤内に鉛直ドレーンを打設後、真空ポンプによる吸引装置を用いて、負圧を作用させて地盤内を減圧することによって、地盤の圧密を促進する方法が用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-328550号公報
【特許文献2】特開2001-226951号公報
【特許文献3】特開2002-138456号公報
【特許文献4】特開2003-261929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の真空ポンプによる吸引装置では、真空ポンプの能力のみに頼って吸引を行っている。このため、従来の吸引装置によれば、真空ポンプの能力以上に圧密を促進する吸引力を作用させることができない。このため、従来の軟弱地盤の真空圧密地盤改良方法において真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用しなければならなかった。
【0005】
また、真空ポンプの力と、水面位置の差による力とを利用した吸引装置に関し、水面下の地盤の間隙水の吸引を目的にした水底軟弱地盤の減容化工法が提案されている(特許文献4参照)。この従来技術は、水面が、間隙水を吸引対象の地盤より高い位置にあることにより、水圧による圧縮力が作用して、間隙水を搾り出すものであり、改良対象の地盤が水中にあるとともに、地盤面位置が、排水部(減圧室)の水位よりも低い位置にあるという条件の下でのみ適用できるものである。この従来方法は、改良対象の地盤が陸上にあることを想定するものでなく、改良地盤面の天端位置から導かれるホースは、減圧室の側面に結合される形態としている。
【0006】
大きな吸引力を作用させる条件では、溶存空気等の気化や通水管の気密漏れ部から流入する空気の存在を考慮しなければならないが、この従来方法の形態を単純に変更して、上部から鉛直に管をつなげるだけでは、水と気体の流れが分離してしまうため、サイフォンの原理に従う吸引力は働かない。すなわち、陸上域の地盤を対象にした場合には、従来の技術によれば、真空ポンプの能力以上の吸引力を発揮させることはできなかった。
【0007】
本発明は、水と気体の流れが分離せずにサイフォンの原理に従う吸引力を発生可能な吸引力発生装置及び吸引力発生方法を提供することを目的とする。また、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現可能な真空圧密地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための吸引力発生装置は、上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、前記第2の管の先端側から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置を備えることを特徴とする。
【0009】
この吸引力発生装置によれば、第2の管の先端側から空気混入率の大きい水を吸引して排水する場合でも、サイフォン機能維持装置により排水経路内に水供給を行うことで第1の管内の空気混入率を低下させることができるとともに、第1の管内を流下する水の流速を増加させることができるため、第1の管において水と気体の流れが分離せずに気液2相流が形成され、サイフォン機能を維持することができる。このように、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができるから、サイフォンによる吸引力を効率的に利用できる。なお、第1の管の下端から排水される水をサイフォン機能維持装置に送ることで排水経路内への水供給を行うようにしてもよい。
【0010】
上記吸引力発生装置において前記排水経路内に供給される水を、溶存空気量を減じた脱気水とすることでサイフォン機能を途絶えにくくすることが好ましい。排水経路内に脱気水を供給することで、負圧作用下での水からの空気発生量が少なくなり、水における空気混入量が大きくならないため、サイフォン機能が途絶えにくくなる。
【0011】
また、吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低い条件において、その高低差による負圧のロスを防ぐために、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水し、高低差のある前記排水経路内を気体で充満させることで前記負圧のロスを防止する負圧ロス防止装置を備えることが好ましい。吸引対象の水の水位面が第2の管の最上部の位置よりも低い場合は、その高低差によって負圧のロスが生じるが、この対策として、高低差のある排水経路前の水を汲み上げて排水することで高低差のある排水経路内に気体が充満することにより、負圧のロスを防ぐことができる。なお、汲みあげた水はサイフォン機能維持装置に送ることで上述の水供給に供されることが好ましい。
【0012】
また、前記排水経路内に供給される水に溶解性物質を溶解させることで溶存空気量を減じ、水の沸点を上昇させて、サイフォン機能を途絶えにくくすることが好ましい。
【0013】
また、前記第1の管及び/又は前記第2の管の外面の少なくとも一部に温度上昇防止部を設けることで、前記管内の気温及び水温を低く保つことにより負圧作用に伴う気化を抑制して、サイフォン機能を途絶えにくくすることが好ましい。
【0014】
上記吸引力発生装置は真空ポンプによる動力装置を併用することが好ましい。これにより、サイフォン機能が停止した場合に、その再開を容易に行うことができるとともに、サイフォン機能のみでは不足する吸引力を補うことができる。
【0015】
上記目的を達成するための吸引力発生方法は、上部から下部に向けて延びる第1の管の下端側と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力を作用させる吸引力発生方法であって、前記第2の管の先端側から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するようにしたことを特徴とする。
【0016】
この吸引力発生方法によれば、第2の管の先端側から空気混入率の大きい水を吸引して排水する場合でも、排水経路内に水供給を行うことで第1の管内の空気混入率を低下させることができるとともに、第1の管内を流下する水の流速を増加させることができるため、第1の管において水と気体の流れが分離せずに気液2相流が形成され、サイフォン機能を維持することができる。このように、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができるから、サイフォンによる吸引力を効率的に利用できる。なお、第1の管の下端から排水される水を排水経路内へ供給することで上記水供給を行うようにしてもよい。
【0017】
上記目的を達成するための真空圧密地盤改良工法は、上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする。
【0018】
この真空圧密地盤改良工法によれば、上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法によるサイフォン機能の吸引を併用することで地盤改良における真空圧密を促進させることができ、盛土による載荷の縮小や省略を図ることができるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、従来の真空圧密工法に比べて吸引力が増加し、かつ、吸引力を効率よく加えることができるため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0019】
上述の吸引力発生装置または吸引力発生方法における第2の管を軟弱地盤中に打設したドレーン材に連結し、改良対象の軟弱地盤の地下水位面と第1の管の下端側との間の水位差に起因するサイフォン機能による吸引力によって軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで地盤の圧密を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の吸引力発生装置及び吸引力発生方法によれば、第1の管において水と気体の流れが分離せずに気液2相流が形成され、サイフォン機能を維持でき、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができる。
【0021】
本発明の真空圧密地盤改良工法によれば、サイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生可能な上述の吸引力発生装置を用いることで、地盤改良における真空圧密を促進させ盛土による載荷の縮小や省略及び地盤改良期間の短縮を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1のサイフォン機能維持装置から水平管内の排水経路に脱気水を供給するようにした吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【図3】図1,図2の吸引力発生装置の好ましい態様を説明するために、溶媒と溶液について温度と蒸気圧との関係を示すグラフである。
【図4】図1,図2の吸引力発生装置の水平管と鉛直管に温度上昇防止部を設けた例を示す図である。
【図5】図1,図2の吸引力発生装置の水平管と鉛直管に温度上昇防止部を設けた別の例を示す図である。
【図6】図2の吸引力発生装置において発生する負圧ロスを説明するための図である。
【図7】図2の吸引力発生装置に負圧ロスを防止するための負圧ロス防止装置を設けた構成を概略的に示す図である。
【図8】第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【図9】第2の実施形態による真空圧密地盤改良システムの変形例を示す部分図である。
【図10】本実施例で用いた実験装置を概略的に示す図である。
【図11】本実施例において、供給水量を20L/分に維持してサイフォンが機能した条件と、供給水量が10L/分と少なくサイフォンが機能しない条件としたとき、水平通水管内に作用する負圧を計測した結果を示す図である。
【図12】図1の吸引力発生装置におけるサイフォン機能による水と空気との気液2相流を説明するための模式図(a)及び水と空気との気液2相流を実現できない状態を説明するための模式図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0024】
〈第1の実施形態〉
図1は第1の実施形態による吸引力発生装置の構成を概略的に示す図である。
【0025】
図1の吸引力発生装置は、上部から下部に向けて鉛直方向に延びる第1の管である鉛直管1と、鉛直管1の上部で水平方向に延びる第2の管である水平管2と、水平管2に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置3と、を備える。水平管2の先端2a側から鉛直管1の下端1a側に向けて排水経路が形成される。鉛直管1及び水平管2は金属製またはプラスチック製の円筒管からなる。
【0026】
サイフォン機能維持装置3は、水平管2の上部に配置されて水を貯留するタンク4と、タンク4の底部と水平管2との間に設けられた水供給管5と、水供給管5の途中に設けられたバルブ6と、を備え、タンク4内の水を、バルブ6を開くことで水供給管5を通して水平管2の排水経路内に供給する。
【0027】
図1のように、鉛直管1の下端1aが水中にあるとき、その排水位面H1と水平管2の先端2a側の水位面H0との間の水位差ΔHに起因するサイフォン機能により水平管2の先端2a側から鉛直管1の下端1a側に向けて吸引力が発生することで、水が水平管2内を水平方向cに流れて鉛直管1内を鉛直方向dに流れる。なお、図1の排水面が鉛直管1の下端1aに達していないときは、鉛直管1の下端1aと水平管2の先端2a側の水位面H0との間の水位差に起因するサイフォン機能により鉛直管1の下端1a側に向けて吸引力が発生する。
【0028】
ここで、水平管2内に気体が含まれる条件においてサイフォンの原理に従って吸引力を作用させるためには、鉛直管1内において水と気体を分離させず、一体的に流下させなければならない。すなわち、図12(a)のように、水平管2内において方向cに空気と水とが分離して流れても、鉛直管1内においては空気が多数の気泡Bとして取り込まれ、気液2相流として一体的に方向dに流下することで、鉛直管1内においてサイフォンの原理が成立し、水位差ΔHによる吸引力が発生する状態となる。なお、図12(b)のように、水平管内で空気と水とが分離して流れ、鉛直管内でも水と空気が分離して流下すると、サイフォンの原理が成立せず、水位差による吸引力が発生しない状態となる。
【0029】
サイフォンの原理に従う吸引力により排水を行う場合、溶存酸素等の気化や管等における気密漏れ部から空気の流入が生じることから、サイフォン機能を維持するためには、鉛直管1内で気体の流れと液体の流れとの分離を防ぎ、図12(a)のように気液2相流(気泡混合流)を形成させなければならない。図1の吸引力発生装置によれば、水平管2の先端2a側から空気混入率の大きい水が吸引されて排水される場合でも、サイフォン機能維持装置3のタンク4内の水が鉛直方向bに水供給管5を通して水平管2内に供給されることで、水平方向cに吸引されて流れる水は空気混入率が低くなるとともに、鉛直管1内を流下する水の流速が増加する。このため、鉛直管1内では、気体の流れと液体の流れとが分離せず、水と気体が混合した気液2相流が安定して形成され、サイフォンが機能する。
【0030】
上述のように、図1の水平管2内の排水経路を通過する水と空気の流れが、鉛直管1内で気液2相流(気泡混合流)となり、サイフォン機能が発揮されやすくするためには、管内の空気混入率を減じるとともに、管内を流下する水の流速を増加させることが好ましいが、本実施形態の吸引力発生装置によれば、サイフォン機能維持装置3から排水経路内に水を供給することで、鉛直管1を流下する気液2相流内の空気混入率を減少させることができるとともに、鉛直管1内を流下する水の流速を増加させることができるので、サイフォン機能を維持してサイフォンの原理に従う吸引力を持続的に発生させることができる。
【0031】
また、水平管2から吸引する空気量に応じて、サイフォン機能維持装置3から供給する水の量をバルブ6によって調整することで水流量すなわち流速を管理し、空気を水とともにスムーズに流下させることができる。
【0032】
次に、本実施形態の吸引力発生装置の好ましい態様について図2〜図7を参照して説明する。
【0033】
図2の吸引力発生装置は、図1の吸引力発生装置に脱気水製造装置26及び減圧可能な密閉室21を設け、サイフォン機能維持装置3から水平管2内の排水経路に脱気水を供給するように構成したものである。
【0034】
脱気水製造装置26は、例えば、水を溜めたタンク中に超音波発生源を配置した装置、水を溜めた減圧容器内を減圧する装置、または、水を溜めたタンクを加熱する装置等であってよいが、これらを組み合わせた装置であってもよい。なお、水としては水道水、雨水、地下水、海水等を用いることができる。
【0035】
図2のように、脱気水製造装置26で製造された脱気水をサイフォン機能維持装置3のタンク4に供給し、タンク4から脱気水を水平管2内の排水経路に供給することで、排水経路の水中の溶存空気量を減じ、負圧作用下での水からの空気発生量が少なくなり、水における空気混入量が大きくならないため、鉛直管1を流下する気液2相流内の空気量をさらに減じることができ、サイフォン機能が途絶えにくくなる。
【0036】
また、図2のように、密閉構造にされた密閉室21を設け、密閉室21内に鉛直管1が延びてその下端1aから排水されるとともに、真空ポンプ25により密閉室21内を減圧することで、水平管2内にある程度の大きな負圧がかかっている場合、揚水ポンプ22により排水された水は脱気水となるので、この脱気水を排水管23を通して方向e,fに流し、その先端23aからサイフォン機能維持装置3のタンク4に供給するようにしてもよい。この場合は、図2の脱気水製造装置26を省略してもよい。
【0037】
密閉室21内で鉛直管1の下端1aが水中にあるとき、その水位面H1と水平管2の先端2a側の水位面H0との間の水位差ΔHに起因する負圧と、密閉室21の内部を真空ポンプ25で減圧することによる負圧とにより、水平管2内の負圧が大きくなり、例えば、−90kPa程度の負圧となる。
【0038】
図2の吸引力発生装置は、鉛直管1が延びて鉛直管1からの水が溜まる密閉室21と、密閉室21内を減圧する真空ポンプ25とを備えることで、真空ポンプ25による吸引力と、水平管2と鉛直管1によるサイフォン機能に起因する吸引力とを発生させることができるので、真空ポンプ25の能力以上の大きな吸引力を得ることができる。また、サイフォン機能が停止した場合などに、真空ポンプ25により、その再開が容易である。
【0039】
なお、図2のように、排水管23の途中にバルブ24aを介して外部排水管24を連結し、揚水ポンプ22により汲み上げた水をバルブ24aの開閉操作により外部排水管24を通して外部方向gに適宜排出することで、サイフォン機能維持装置3のタンク4への脱気水の供給量を調整することができる。
【0040】
次に、図1,図2の吸引力発生装置において、サイフォン機能維持装置3のタンク4から供給される水の中に塩化ナトリウム等の溶解性物質を溶かし込むことで、水の溶存空気量を減じ、水の沸点を上昇させ、サイフォン機能を途絶えにくくし、サイフォンによる吸引力を強化するようにしてもよい。
【0041】
すなわち、ある溶媒の蒸気圧をp0とし、この溶媒に不揮発性溶質を溶かしたときの溶液の蒸気圧をpとすると、同一温度では、p0>pとなり、蒸気圧が下がる。溶液の濃度があまり大きくない場合には溶液の蒸気圧降下度は溶質のモル分率に等しい。この関係をラウール(Raoult)の法則という。溶媒の物質量をN、溶質の物質量をnとすると、次の式(A)のように表すことができる。
【0042】
(p0−p)/p0=n/(N+n) (A)
【0043】
図3に溶媒と溶液について温度と蒸気圧との関係を示すが、図3からわかるように、同一温度における蒸気圧は単に溶媒のみである場合に比べ、不揮発性溶質を溶かした溶液は蒸気圧が降下する。これは、温度を一定に保ちながら、圧力を降下させていった場合、溶媒のみの場合よりも不揮発性溶質を溶かした溶液の方が沸騰しにくいことを意味する。
【0044】
したがって、サイフォン機能維持装置3から供給される水の中に塩化ナトリウム等の溶解性物質を溶かし込むことで沸点上昇と溶存酸素量の減少とを実現できる。このため、図1,図2の吸引力発生装置の排水経路内で水から空気が発生しにくくなり、サイフォン機能が途絶えにくくなる。
【0045】
次に、図1,図2の吸引力発生装置の水平管2と鉛直管1に図4,図5のような温度上昇防止部を設けることで、水平管2と鉛直管1の中の気温及び水温を低く保つことにより負圧作用に伴う気化を抑制して、サイフォン機能を途絶えにくくするようにしてもよい。
【0046】
図4の例は、図1,図2の吸引力発生装置の水平管2と鉛直管1の外周に、発泡スチロール等の断熱性材料からなる温度上昇防止カバー28を温度上昇防止部として配置したものである。図4の構成によれば、水平管2と鉛直管1が温度上昇防止カバー28により太陽熱で暖められないので、水平管2と鉛直管1の中の気温及び水温を低く保つことができ、負圧作用に伴う気化を抑制して、サイフォン機能を途絶えにくくすることができる。なお、温度上昇防止カバー28は必ずしも管1,2の全面を覆う必要はなく、例えば、太陽光に晒される部分だけに配置してもよい。
【0047】
図5の例は、図1,図2の吸引力発生装置の水平管2と鉛直管1の外周面に、温度上昇防止部として比較的細い管29をらせん状に巻き付けるようにして長手方向に配置し、管29内に冷水を流すように構成したものである。図5の構成によれば、管29を通して冷水をらせん状に流すことで水平管2と鉛直管1が冷却され、その温度が下がるので、鉛直管1中の空気体積を減じるととともに、負圧作用による気化を抑制して、サイフォン機能を途絶えにくくすることができる。なお、管1,2に細い管29を巻き付ける範囲は管1,2の一部だけであってもよい。
【0048】
ここで、シャルルの法則によると、圧力一定条件で気体の体積Vは絶対温度Tにおいて次の式(B)で表すことができる。
【0049】
V=kT (B)
ただし、k:正の定数
【0050】
この式は、温度が高い条件では気体の体積は膨張することを示している。このため、図1,図2の鉛直管1の空気の温度を上げることは、溶存空気や、吸引空気の体積を膨張させてしまい、サイフォン機能を低下させる。したがって、図4のように水平管2と鉛直管1に対する太陽熱の影響を排除することで、また、図5のように水平管2と鉛直管1の温度を下げることで、温度上昇によるサイフォン機能低下を防止できる。
【0051】
次に、本実施形態の吸引力発生装置の原理について説明する。
浮力による気泡の上昇速度νaは、浮力と抗力のつりあいにより、次の式(1)によって評価できる。
【0052】
νa=[8gra/(3CD)]0.5 (1)
【0053】
ここで、raは気泡の半径であり、気泡の大きさは最大で管径の1/2となりえる。また、CDは抗力係数であり、0.5で与えられる。
【0054】
また、管の通水断面積をAとすると、気泡の最大半径ra(max)は、次の式(2)で表すことができる。
【0055】
ra(max)=(A/π)0.5 (2)
【0056】
また、鉛直管に流入してくる水の流量がQのとき、鉛直管を流下する水の流速νwは、次の式(3)で評価できる。
【0057】
νw=Q/A (3)
【0058】
上記式(3)は、水平管から流入してくる流量に対して、鉛直管の内径を小さくし、通水断面積を小さくすると、または、排水経路内に水を供給して流量を増加させると、流速が増加することを示している。
【0059】
ここで、鉛直管内において、鉛直管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaとなるような条件を設定することにより、気泡が水の流れに連行され、気液混相流(気液2相流)が形成されるためサイフォンが機能する。
【0060】
上記条件(νw>νa)を成立させるために次のような方法・手段が考えられる。
(1)形成されうる気泡の最大径を小さくし、気泡の上昇速度を抑える(式(1)(2))。
(2)流水の成分や温度を工夫して、気泡の最大径を小さくし、気泡の上昇速度を抑える(式(1))。
(3)鉛直管を細くする、または、供給する水の量を増加させて、水の流下速度を上昇させる(式(3))。
【0061】
本実施形態の吸引力発生装置は、上記(1)(2)(3)を利用する構成を有するものである。なお、上記(3)の効果を高めるために、鉛直管1の内径を水平管2の内径よりも小さくして鉛直管1の通水断面積を水平管2の通水断面積よりも小さくしたり、鉛直管1の途中に内径が鉛直管下方に向けて漸減する漸減部を設けるようにしてもよい。
【0062】
次に、図2の吸引力発生装置において負圧ロスを防止するための構成について図6,図7を参照して説明する。図6は図2の吸引力発生装置において発生する負圧ロスを説明するための図である。図7は図2の吸引力発生装置に負圧ロスを防止するための負圧ロス防止装置を設けた構成を概略的に示す図である。
【0063】
図6のように、最上部にある水平管2の位置でサイフォンによる負圧が大きく働くが、水平管2の先端2a側に比較的短い連結管2bを介して、水平管2の下方に別の水平管2cを配置し、吸引対象の水位面H3が下方の水平管2cの位置近傍であり、水平管2の位置よりも低い場合、その高低差Δhに応じて負圧のロスが生じる。換言すると、その高低差Δhに相当する分を揚水しなければならないため、負圧のロスが生じる。
【0064】
この負圧ロスの防止のため、図7のように、図2の吸引力発生装置に負圧ロス防止装置35を設けることが好ましい。負圧ロス防止装置35は、揚水ポンプ37及び排水管38を設置した密閉容器36を有し、密閉容器36の入口部に排水対象の水位面H3の水とつながる入口管34を接続し、出口部に水平管2と連結管2bを介してつながる出口管39を接続する。排水対象の水が方向iに入口管34から密閉容器36内に供給され、この水が揚水ポンプ37により排水管38を通して方向jに排水されるとともに、排水管38の先端38aからサイフォン機能維持装置3のタンク4に供給される。
【0065】
揚水ポンプ37による排水により、密閉容器36内の水位が下げられるため、水平管2とつながる出口管39は、気体が充満している状態となり、排水経路の高低差Δhによる負圧のロスは生じない。
【0066】
図7のように、図2の吸引力発生装置に負圧ロス防止装置35を設けることにより、高低差Δhのある排水経路前の水を汲み上げて排水するため、高低差Δhのある排水経路内には気体が充満し、負圧のロスを防ぐことができる。また、負圧ロス防止のために汲みあげた水をサイフォン機能維持装置3に送ることにより、鉛直管1内への水の供給量を増やし、空気混入率を低下させるとともに、流下する流速を増加させて、鉛直管1内でサイフォンを機能しやすくする効果を奏する。
【0067】
なお、図7の負圧ロス防止装置35では、密閉容器36に流入する水量と同等またはそれ以上に揚水ポンプ37による排水が行われる場合、密閉容器36内は気体と液体が分離された状態となる。このとき、高低差を有する排水経路内は気体で充満されるため、負圧のロスが生じず、負圧ロス防止装置35が完全に機能している状態となる。一方、密閉容器36に流入する水量が揚水ポンプ37による排水量よりも多い場合、密閉容器36内は水で飽和された状態となる。このとき、高低差を有する排水経路(連結管2b)内に水が残り、その排水経路内の水位は密閉容器36に流入する水量により変動するが、その排水経路内の水位分の負圧ロスが生じるため、負圧ロス防止装置35が部分的に機能している状態となる。上述のように、負圧ロス防止装置35において負圧ロス機能を完全に発揮させるためには、揚水ポンプ37の排水能力を常に密閉容器36に流入する水量と同等またはそれ以上として密閉容器36内で気体と液体とを分離させることが好ましいが、気体と液体が分離していなくとも負圧ロス機能を部分的には発揮させることができる。
【0068】
〈第2の実施形態〉
図8は第2の実施形態による真空圧密地盤改良工法を行う真空圧密地盤改良システムの構成を概略的に示す図である。
【0069】
図8の真空圧密地盤改良システム50は、鉛直通水管11と水平通水管12とを有する吸引力発生装置と、真空減圧装置30と、を備える。水平通水管12は、鉛直通水管11と鉛直通水管11の上端で接続され、また、真空圧密地盤改良のために軟弱地盤G中に打設される鉛直ドレーン材31に不透気部32と接続部33とを介して連結されている。なお、鉛直通水管11と水平通水管12は、図1,図2の吸引力発生装置の鉛直管1,水平管2と同様の構成であってよい。
【0070】
また、図8の真空圧密地盤改良システム50は、図2と同様のサイフォン機能維持装置3を備え、サイフォン機能維持装置3のタンク4内の水がバルブ6を開くことで水供給管5を通して水平通水管12内に供給されるようになっている。
【0071】
図8のように、真空減圧装置30は、図2とほぼ同様に構成されてよく、密閉室21が地中に設置されている。密閉室21は、鉛直通水管11と揚水ポンプ22と排水管23とを収納し、真空ポンプ25により内部が減圧されることで、真空減圧装置30が減圧発生源として機能する。
【0072】
鉛直ドレーン材31は、軟弱地盤G内の間隙水を吸引するために軟弱地盤G内に打設され、鉛直ドレーン材31の上端に接続される不透気部32は地下水位面H3に位置する。なお、鉛直ドレーン材31は、軟弱地盤G内に必要に応じて複数本打設され、不透気部32や接続部33とともに、例えば、特許文献2〜4に開示された構成とすることができる。
【0073】
図8の真空圧密地盤改良システム50による真空圧密地盤改良工法の工程について説明する。
【0074】
(1)水平通水管12のバルブ12a,鉛直通水管11のバルブ11aを閉じておく。この際、太陽光に晒される水平通水管12と鉛直通水管11の各部分には太陽光の熱影響を受けないように養生をしておくことが好ましく、例えば、図4や図5のような温度上昇防止部を設けることが好ましい。
【0075】
(2)鉛直通水管11、水平通水管12を水にて満管状態とした後、鉛直通水管11のバルブ11aとサイフォン機能維持装置3のバルブ6を開放し、サイフォン機能により流水のある状態にする。この際に、流水の中に塩化ナトリウム等の不揮発性溶質を溶かしておくことが好ましい。
【0076】
(3)密閉室21内に流入する水を、揚水ポンプ22により排水し、サイフォン機能維持装置3のタンク4に供給する。
【0077】
(4)真空ポンプ25により徐々に密閉室21内の圧力を減じ、圧力が目的の値まで減少した時に水平通水管12のバルブ12aを開放し、地下水位面H3と密閉室21内の水位面H1との水位差ΔH(=H3−H1)に起因するサイフォン機能による吸引力に、真空ポンプ25による吸引力を併用して、鉛直ドレーン材31を通して軟弱地盤G内の間隙水を方向mに吸引する。
【0078】
(5)鉛直ドレーン材31や各管の継手部分等から流入する空気と水量に応じて、サイフォン機能維持装置3と水平通水管12の各バルブ6,12aの開閉を調整し、サイフォンが途切れないようにする。なお、排水管23を通したサイフォン機能維持装置3のタンク4への水供給量は、バルブ24aの開閉を調整し外部排水管24を通して外部に適宜排水することで調整する。
【0079】
上述のようにして、軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで地盤圧密を促進することができるが、このとき、真空減圧装置30の真空ポンプ25で密閉室21内を減圧することによる吸引力に加えて、地下水位面H3と密閉室21内の水位面H1との水位差ΔHに起因するサイフォン機能による吸引力が発生し、これらの吸引力により軟弱地盤G内の間隙水を吸引することで軟弱地盤Gを圧密するので、この真空圧密を、真空ポンプ25のみで吸引する場合と比べて水位差ΔHに起因する吸引力が加わる分だけより大きな吸引力で行うことができる。
【0080】
サイフォンを吸引力として用いる場合、水に空気が混入することで容易にサイフォンが途切れてしまうことが問題となり、サイフォンを併用した真空圧密地盤改良工法では空気混入量が多い場合、サイフォン機能が容易に低下してしまうのに対し、本実施形態によれば、サイフォン機能維持装置3による水平通水管12への水供給により、鉛直通水管11中の混入空気量を減じるとともに、鉛直通水管11内を流下する流速を増加させてサイフォン機能を持続させることができる。これにより、吸引力を効率よく軟弱地盤に加えることができる。
【0081】
従来の真空圧密地盤改良工法によれば真空ポンプのみでは吸引力が不足する場合は、盛土による載荷を併用していたのに対し、本実施形態のようにサイフォン機能による吸引力を併用し、しかもサイフォン機能を持続させて吸引力を効率よく軟弱地盤に加えることで、盛土による載荷を縮小したり省略できるため、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を期待することができる。また、従来の工法に比べて吸引力が増加し、かつ、吸引力を効率よく加えることができるため、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮することができる。
【0082】
なお、揚水ポンプ22は、揚程差10m以上の高揚程タイプが好ましく、密閉室21を地中深く設置し、水位差ΔHの確保のため密閉室21内の水位面H1を地下水位面H3に対しより低くした場合でも、密閉室21内の貯留水を排水できる。
【0083】
また、前述したように、細い鉛直通水管を使用して流下速度を速くする方が、サイフォンは機能しやすい。排水量を十分に確保しながら、空気が混入した水に対してサイフォン機能を維持できる条件を満足するために、図9のように、内径の異なる複数の鉛直通水管41,42,43を密閉室21内に配置し、バルブ41a,42a,43aを介して水平通水管12に連結することで、流入水量に応じて、バルブ41a〜43aの開閉により、好ましい鉛直通水管を迅速に選択できるようにしてもよい。これにより、空気が混入した水でも排水量を十分に確保しつつサイフォン機能を維持することができる。
【実施例1】
【0084】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0085】
実験概要
サイフォン機能維持装置による水平通水管への水供給がサイフォン機能の持続に及ぼす効果を検証するために実験を行った。実験装置を図10に示す。
【0086】
図10の実験装置を用いて以下の手順で実験を行った。
ステップ1:注水管から水を注入し、水平通水管および鉛直通水管を水で飽和させる。満管にした時点で注水バルブを閉じる。
ステップ2:サイフォン機能維持装置のバルブ及び鉛直通水管のバルブを開け、サイフォンをきかせた後、徐々に密閉室内の圧力を下げる。
ステップ3:密閉室の負圧を−50kPaに保った状態で、水平通水管のバルブを開く。
ステップ4:サイフォン機能維持装置から供給される水量を計測しながら、サイフォン機能維持装置のバルブを徐々に閉じていき、サイフォンが切れるときの供給水量を計測する。
【0087】
実験結果
鉛直通水管内でサイフォンが機能すると、水頭差による吸引力が発揮されるため、水平通水管では、密閉室よりも高い負圧が作用する。サイフォン機能により、水平通水管内で、−90kPa以上の負圧が作用すると、溶存空気が気化し、空気の体積が増加することにより、サイフォンが機能しにくくなることが判明した。
【0088】
さらに、鉛直通水管の内径が3cmの条件では、サイフォン機能維持装置からの水の供給流量が15L(リットル)/分以上のとき、鉛直通水管内で気泡混合流が形成され、サイフォン機能を維持することができた。一方、供給流量が15L/分以下に低下すると、鉛直通水管内を流下する水の流速が遅くなるために、気泡が水の流れによって排出されにくくなった。その結果、気泡混合流が消失するとともに、水と空気の流れが分離し、サイフォン機能が消失した。これは、上述のように、鉛直通水管内において、鉛直通水管を流下する水の流速νw>気泡の上昇速度νaとなる条件がなりたたないため、気泡混合流(気液2相流)を形成できないからである。このとき、水平通水管に作用する負圧は、サイフォンによる吸引力が付加されないため、真空ポンプ圧と同一となる。
【0089】
なお、内径3cmの鉛直通水管を用いた本実験でサイフォン機能が成立できる水の限界供給量を、管内を流下する水の流速が同一となるように、内径5cmの管を用いた条件に換算すれば、42L/分、また、内径10cmの管を用いた条件に換算すれば、167L/分となる。
【0090】
本実験において、供給水量を20L/分に維持し、供給水量を十分に与えることによりサイフォンが機能した条件と、供給水量が10L/分と少なくサイフォンが機能しない条件とにおいて、それぞれ水平通水管内に作用する負圧を計測した結果を図11に示す。図11の計測結果から、供給水量が15L/分以上の条件を満足するとき、鉛直通水管内で気泡混合流が形成され、水平通水管に十分な負圧を作用させることができることを確認できた。また、供給水量が15L/分以上の条件を満足しないとき、サイフォンが機能せず、真空ポンプによる負圧のみが作用した。
【0091】
また、揚水ポンプにより密閉室からサイフォン機能維持装置に供給される水(脱気水)の溶存酸素量を計測した。常温下で1日放置した水道水を通常水として比較した。その容存酸素量の比較結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
通常水の溶存酸素量は、理論上19℃、常圧、酸素濃度20.9%の条件下において9.01mg/Lとなることから、通常水の計測結果は、理論値と近い値を示した。一方、揚水ポンプにより密閉室からサイフォン機能維持装置に供給される水(脱気水)は、通常水の溶存酸素量に比べ、60%程度の値となった。したがって、サイフォン機能維持装置に供給される水は、脱気されて溶存酸素量が低下しており、密閉室から供給される脱気水が好ましいことを確認できた。
【0094】
以上の本実験によれば、溶存酸素等の気化や水平通水管等の気密漏れ部から流入する気体の存在があるような条件においても、確実にサイフォンの吸引力を作用させるためには、サイフォン機能維持装置から水を供給することが、鉛直通水管において気液2相流を形成する上で重要であることを検証した。また、サイフォン機能維持装置から供給する水は脱気水であることが望ましいことを確認できた。
【0095】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図8において、サイフォン機能維持装置3の水の供給部分(タンク4)については、工場等で作製されるタンクではなく、掘削や地盤沈下により形成される凹型地盤を利用してもよい。また、図8の真空圧密地盤改良システム50に、必要に応じて図2の脱気水製造装置26や図7の負圧ロス防止装置35を設けてもよいことはもちろんである。
【0096】
また、図1,図2,図8において、サイフォン機能維持装置3の水供給管5の水平管2,水平通水管12における位置は、水平管2,水平通水管12の任意の位置(ただし、図8ではバルブ12aの下流側の任意の位置)であってよい。
【0097】
また、本発明による吸引力発生装置を真空圧密地盤改良システムに適用したが、これに限定されず、他の装置・システム・他の工法に適宜適用してよく、同様の効果を得ることができる。また、鉛直管(鉛直通水管)、水平管(水平通水管)は、円筒管以外であってもよく、例えば角筒管でもよい。
【0098】
また、図1,図2,図8のサイフォンによる吸引力発生装置では、第1の管を鉛直管(鉛直通水管)として、第2管を水平管(水平通水管)として配置したが、本発明はこれに限定されず、水位差により第2の管の先端側から第1の管の下端側に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する構成であれば、それらの配置形態はいずれでもよく、例えば、第1の管、第2の管は傾斜等していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明による吸引力発生装置及び吸引力発生方法によれば、水に気体が含まれる場合でもサイフォンの原理による吸引力を安定して持続的に発生させることができるので、真空ポンプに頼らずにサイフォンの自然エネルギを極力使用可能となり、電力等のコストを削減可能となる。
【0100】
本発明による真空圧密地盤改良工法によれば、サイフォン機能による吸引力を併用することで盛土による載荷の縮小・省略が可能となり、使用資材・機材の節減や作業工期の短縮を実現でき、また、軟弱地盤が所定の強度に達するまでに要する地盤改良期間を短縮できる。
【符号の説明】
【0101】
1 鉛直管(第1の管)
2 水平管(第2の管)
3 サイフォン機能維持装置
21 密閉室
22 揚水ポンプ
25 真空ポンプ
26 脱気水製造装置
35 負圧ロス防止装置
30 真空減圧装置
31 鉛直ドレーン材
11 鉛直通水管
12 水平通水管
50 真空圧密地盤改良システム
G 軟弱地盤
ΔH 水位差
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、
前記第2の管の先端側から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置を備えることを特徴とする吸引力発生装置。
【請求項2】
前記排水経路内に供給される水を、溶存空気量を減じた脱気水とすることでサイフォン機能を途絶えにくくしたことを特徴とする請求項1に記載の吸引力発生装置。
【請求項3】
吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低い条件において、その高低差による負圧のロスを防ぐために、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水し、高低差のある前記排水経路内を気体で充満させることで前記負圧のロスを防止する負圧ロス防止装置を備える請求項1または2に記載の吸引力発生装置。
【請求項4】
前記排水経路内に供給される水に溶解性物質を溶解させることで溶存空気量を減じ、水の沸点を上昇させて、サイフォン機能を途絶えにくくしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項5】
前記第1の管及び/又は前記第2の管の外面の少なくとも一部に温度上昇防止部を設けることで、前記管内の気温及び水温を低く保つことにより負圧作用に伴う気化を抑制して、サイフォン機能を途絶えにくくしたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項6】
真空ポンプによる動力装置を併用する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項7】
上部から下部に向けて延びる第1の管の下端側と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力を作用させる吸引力発生方法であって、
前記第2の管の先端側から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するようにしたことを特徴とする吸引力発生方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の吸引力発生装置または請求項7に記載の吸引力発生方法を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする真空圧密地盤改良工法。
【請求項1】
上部から下部に向けて延びる第1の管と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管と、を有し、前記第1の管の下端側と、前記第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力が作用する吸引力発生装置であって、
前記第2の管の先端側から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するサイフォン機能維持装置を備えることを特徴とする吸引力発生装置。
【請求項2】
前記排水経路内に供給される水を、溶存空気量を減じた脱気水とすることでサイフォン機能を途絶えにくくしたことを特徴とする請求項1に記載の吸引力発生装置。
【請求項3】
吸引し排水する対象の水の水位面が前記第2の管の最上部よりも低い条件において、その高低差による負圧のロスを防ぐために、水が前記第2の管における排水経路に流入する前に排水し、高低差のある前記排水経路内を気体で充満させることで前記負圧のロスを防止する負圧ロス防止装置を備える請求項1または2に記載の吸引力発生装置。
【請求項4】
前記排水経路内に供給される水に溶解性物質を溶解させることで溶存空気量を減じ、水の沸点を上昇させて、サイフォン機能を途絶えにくくしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項5】
前記第1の管及び/又は前記第2の管の外面の少なくとも一部に温度上昇防止部を設けることで、前記管内の気温及び水温を低く保つことにより負圧作用に伴う気化を抑制して、サイフォン機能を途絶えにくくしたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項6】
真空ポンプによる動力装置を併用する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の吸引力発生装置。
【請求項7】
上部から下部に向けて延びる第1の管の下端側と、前記第1の管と前記上部で接続する第2の管の先端側との間の水位差により、前記第2の管の先端から前記第1の管の下端に向けてサイフォン機能により吸引力を作用させる吸引力発生方法であって、
前記第2の管の先端側から前記第1の管の下端側に向けて形成される排水経路内に水供給を行うことでサイフォン機能を維持するようにしたことを特徴とする吸引力発生方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の吸引力発生装置または請求項7に記載の吸引力発生方法を用いて軟弱地盤において真空圧密による地盤改良を行うことを特徴とする真空圧密地盤改良工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−90696(P2010−90696A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2009−251873(P2009−251873)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251873(P2009−251873)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
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