説明

サイレンサー付きグロメット

【課題】グロメットに取り付けるサイレンサーに位置ずれによる音漏れ空間が生じるのを無くすようにする。
【解決手段】自動車のエンジンルーム側から室内側へと車体パネルの貫通穴を通して配索するワイヤハーネスにグロメットを装着し、該グロメットは前記ワイヤハーネスを密着して挿通する小径筒部と、該小径筒部の一端に連続すると共に前記貫通穴の周縁に密着する車体係止凹部を外周面に設けた大径筒部を備え、該大径筒部にゴム製のサイレンサー10を挿入して内嵌しており、該サイレンサーは前記大径筒部の中空部を軸直角方向に遮断する円板形状部11を備え、該円板形状部に前記グロメットの小径筒部と連通するワイヤハーネス挿通穴12を設けると共に、該ワイヤハーネス挿通穴にワイヤハーネスを横入れ挿通するために、該ワイヤハーネス挿通穴から円板形状部の外周面へスリット15を設け、該スリットは両端の間に鍵穴形状または蟻溝形状のラインからなる離反抑制用の異形ライン部15aを設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサイレンサー付きグロメットに関し、詳しくは、自動車の室内とエンジンルームとの仕切パネルの貫通穴に挿通するワイヤハーネスに外装するグロメットにサイレンサーを取り付け、エンジンルーム側の騒音が室内側へ伝達するのを低減するものであり、特に、該サイレンサーの位置ずれを防止して、音漏れする隙間を発生させないようにするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特開平11−46427号公報において、図5(A)に示すように、自動車のエンジンルーム(X)から室内(Y)へ配索するワイヤハーネスW/Hにグロメット100を取り付け、エンジンルームと室内との仕切パネルPの貫通穴Hにグロメット100を装着して、室内への浸水を防止している。かつ、エンジンルーム(X)からの騒音が室内(Y)へ伝達するのを低減あるいは防止するために、室内(Y)側に位置するグロメット100の先端部に、サイレンサー110を取り付けている場合がある。
【0003】
前記サイレンサー110は図5(B)に示すように、円筒形状の発泡体からなる吸音材110aの表面に塩化ビニル製の表皮110bを接着した二層構造で、吸音材110aおよび表皮110bに外周より中心穴110cに達する直線状のスリット110dを設けている。また、表皮110bの中心部に放射状に複数の切り込みを設けてワイヤハーネス取付用の複数の舌片110eを形成し、該舌片110eをワイヤハーネスにテープTを巻きつけて固定している。
【0004】
前記サイレンサー110のワイヤハーネスW/Hへの取付は、グロメット100をワイヤハーネスW/Hに装着した後に、サイレンサー110の吸音材110aの端面をグロメット100の端面100eに隙間なく当接させた状態で、サイレンサー110をワイヤハーネスW/Hに取り付けている。即ち、サイレンサー110のスリット110dを開いてワイヤハーネスW/Hを中心穴110cに挿通させた後、表皮110bの中心より切り起しで形成した取付用舌片110eをワイヤハーネスW/HにテープTで巻き付けて固定している。
【0005】
このようにグロメット100およびサイレンサー110を装着したワイヤハーネスW/Hを、一旦エンジンルーム(X)側から室内(Y)側へと仕切パネルPの貫通穴H内を通した後に、エンジンルーム(X)側に引き戻すことで、グロメット100を仕切パネルPの貫通穴Hに係止させる。該状態で、仕切パネルPの室内(Y)側に貼着したウレタンからなるサイレンサー150の表皮150aを、サイレンサー110の表皮110bに接触して隙間を無くしており、エンジンルーム(X)の騒音を遮音している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−46427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、サイレンサー110をワイヤハーネスW/Hに横入れで取り付けるため、外周から中心に向けた半径方向のスリット110dを設けているため、ワイヤハーネスで片持ち支持する状態となり、図6に示すように、スリット110dをはさんで位置ずれが発生して隙間が空き、この隙間より音漏れが生じる恐れがある。
また、前記特許文献1ではサイレンサー110をグロメット100の先端面に当接させているだけであるため、サイレンサー110のスリット110dに位置ずれが発生しやすい。
一方、サイレンサー110をグロメット100内部に嵌合した場合も、ワイヤハーネスW/Hをエンジンルーム(X)から室内(Y)へと挿入して配索する際、グロメット100を撓ませて無理入れするため、グロメット100に内嵌したサイレンサー110に変形が生じ、スリット110dで位置ずれが発生しやすい。
【0008】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたもので、サイレンサーに設けたスリットの位置ずれ発生を防止して音漏れが生じる隙間が発生しないようにし、遮音効果を高めることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、自動車のエンジンルーム側から室内側へと車体パネルの貫通穴を通して配索するワイヤハーネスにグロメットを装着し、該グロメットは前記ワイヤハーネスを密着して挿通する小径筒部と、該小径筒部の一端に連続すると共に前記貫通穴の周縁に密着する車体係止凹部を外周面に設けた大径筒部を備え、該大径筒部にゴム製のサイレンサーを挿入して内嵌しており、
前記サイレンサーは前記大径筒部の中空部を軸直角方向に遮断する円板形状部を備え、該円板形状部に前記グロメットの小径筒部と連通するワイヤハーネス挿通穴を設けると共に、該ワイヤハーネス挿通穴にワイヤハーネスを横入れ挿通するために、該ワイヤハーネス挿通穴から円板形状部の外周面にスリットを設け、該スリットは両端の間に鍵穴形状または蟻溝形状のラインからなる離反抑制用の異形ライン部を設けていることを特徴とするサイレンサー付きグロメットを提供している。
【0010】
本発明では、ワイヤハーネスを横入れするためにサイレンサーに設けるスリットを径方向の直線とするのではなく、前記のように、ワイヤハーネス挿通穴と円板形状部の外周面とを結ぶスリットの両端の間に、鍵穴形状または蟻溝形状のラインとした離反抑制用の異形ライン部を設けている。このように異形ライン部は径方向および周方向のいずれにも離反しにくい形状であるため、位置ずれの発生を防止し、音漏れ空間を発生させず、遮音性能を高めることができる。
【0011】
前記サイレンサーは、非発泡のゴム部品から形成していることが好ましい。
該サイレンサーをグロメットの大径筒部内に隙間なく内嵌することで、ワイヤハーネスを密着して挿通する前記小径筒部との間に密閉空間を形成でき、エンジンルーム側の騒音を前記密閉空間でより効果的に遮音することができる。
しかしながら、前記特許文献1と同様に、発泡体からなる吸音材の表面に塩化ビニル製の表皮を接着した二層構造でもよい。
【0012】
具体的には、例えば、前記サイレンサーの円板形状部に直径方向の凹部を設けると共に円板形状部の外周面に前記グロメットの大径筒部の内周面に密着させる環状リブを前記凹部で分断して設け、
かつ、前記凹部で区画された一方の半円部分の偏芯位置に前記ワイヤハーネス挿通穴を偏芯して設けると共に、前記分断スリットは前記凹部と直交して他方の半円部分に延在させ、前記異形ライン部を前記他方の半円部分に設けていることが好ましい。
【0013】
前記のように、ワイヤハーネス挿通穴が偏芯位置にある場合には、該ワイヤハーネス挿通穴が設けられていない側に前記スリットの異形ライン部を設け、かつ、該異形ライン部とワイヤハーネス挿通穴との間に直径方向の凹部を設け、ワイヤハーネス挿通穴に通すワイヤハーネスに負荷される引っ張り力あるいは押し込み力でサイレンサーに変形が発生しても前記凹部で変形を吸収し、スリットの異形ライン部への変形の影響を低減して位置ずれを発生させないようにしている。
【0014】
さらに、前記サイレンサーにワイヤハーネス挿通穴の周縁より小径筒部を突設し、該小径筒部に前記スリットに連続した延長スリットを軸線方向に設け、該小径筒部を前記グロメットの小径筒部に内嵌していることが好ましい。
このように、サイレンサーに突設した小径筒部をグロメットの小径筒部に嵌合すると、グロメット内でのサイレンサーの位置決めを図ることができ、サイレンサー自体をグロメット内部で位置ずれなく保持でき、この点からも遮音性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
前記のように、本発明に係わるサイレンサー付きグロメットでは、サイレンサーに設けるワイヤハーネス横入れ用のスリットに位置ずれが発生しにくい鍵穴形状または蟻溝形状のラインとした離反抑制用の異形ライン部を設けている。よって、グロメットを車体パネルの貫通穴に挿入する際にグロメットが変形した際、およびグロメットを貫通穴に装着した後にグロメットやワイヤハーネスに負荷が作用した際のいずれの時も、サイレンサーのスリットは位置ずれが発生しにくく、位置ずれによる音漏れ空間を発生させず、遮音性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態のサイレンサーをグロメットに取り付けた状態を示し、(A)は側面図、(B)は(A)のB−B断面図である。
【図2】(A)(B)は前記サイレンサーの斜視図である。
【図3】(A)はサイレンサーの側面図、(B)は正面図である。
【図4】第二実施形態の概略側面図である。
【図5】(A)(B)は従来例を示す図面である。
【図6】従来の問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1(A)(B)に示すようにゴムまたはエラストマー製のグロメット1は、ワイヤハーネスW/Hの電線群の外周を密着して挿通する小径筒部2と、該小径筒部2の一端と偏芯して連続する大径筒部3と備え、該大径筒部3の外周面に車体係止凹部4を設けている。大径筒部3の端面3aは前記のように小径筒部2と偏芯して連続し、他端は開口3bとしている。
【0018】
前記グロメット1の内部に図2(A)(B)の分解斜視図および図3(A)の側面図および図3(B)の正面図に示すゴム成形品からなるサイレンサー10を内嵌している。
【0019】
サイレンサー10はグロメット1の大径筒部3の中空部を軸直角方向に遮断する円板形状部11を備え、該円板形状部11にワイヤハーネス挿通穴12を偏芯させて設け、該ワイヤハーネス挿通穴12の周縁より小径筒部13を突設している。該小径筒部13は円板形状部11をグロメット1の大径筒部3に内嵌した状態でグロメット1の小径筒部2に位置を合わせて挿入できるようにしている。
【0020】
サイレンサー10の円板形状部11には、ワイヤハーネス挿通穴12から円板形状部11の外周面にかけてスリット15を設け、該スリット15は両端の間に鍵穴形状のラインとした離反抑制用の異形ライン部15aを設けている。該鍵穴形状の異形ライン部15aは、両側に連続する径方向の直線ライン15bと15cからそれぞれ直角方向に屈折した平行ライン15a1および15a2、該平行ライン15a1と15a2の先端から外方へと膨出して連続する円弧ライン15a3とからなる。言わば、円弧ライン15a3で頭部Aを描き、平行ライン15a1と15a2で首部Bを描くラインとしている。この異形ライン部15aとすることで、図3(B)に示す矢印S方向の離反する力が負荷されても頭部Aが首部Bを通過することができないため離反が抑制され、スリット15での位置ずれ発生を防止できるようにしている。
【0021】
さらに、サイレンサー10には円板形状部11に直径方向の凹部17を設けると共に、円板形状部11の外周面にグロメット1の大径筒部3の内周面に密着させる環状リブ18を前記凹部17で分断して設けている。
前記凹部17で区画された一方の半円部分11aの偏芯位置にワイヤハーネ挿通穴12を設け、該ワイヤハーネス挿通穴12の周縁より前記小径筒部13を突設している。前記スリット15を前記凹部17と直交して他方の半円部分11bに延在させ、異形ライン部15aを該半円部分11bに設けている。
【0022】
前記サイレンサー10の小径筒部13はワイヤハーネス挿通穴12の周縁から突出して円錐状に縮径し、その先端から2つ割れした半円環状のテープ巻き舌片19A、19Bを突設している。かつ、該小径筒部13に前記スリット15に連続した延長スリット20を軸線方向に設けている。
【0023】
グロメット1およびサイレンサー10へのワイヤハーネスW/Hの取り付けは、まず、サイレンサー10の円板形状部11のスリット15および小径筒部13の延長スリット20を開いて、ワイヤハーネスW/Hを軸直角方向に横入れし、サイレンサー10のワイヤハーネス挿通穴12および小径筒部13にワイヤハーネスW/Hを通す。挿通したワイヤハーネスW/Hを小径筒部13の先端のテープ巻き舌片19A、19Bとともに粘着テープ(図示せず)を巻き付けて、サイレンサー10にワイヤハーネスW/Hを固着する。
【0024】
ついで、サイレンサー10を取り付けたワイヤハーネスW/Hをグロメット1に挿通する。そのさい、小径筒部2を拡げ治具(図示せず)で拡げながら、ワイヤハーネスW/Hを通し、サイレンサー10の小径筒部13も小径筒部2に挿入する。この挿入時点で、円板形状部11がグロメット1の大径筒部3に押し込まれ、その内周面に円板形状部11の外周の環状リブ18が圧接し、サイレンサー10の円板形状部11でグロメット1の大径筒部3内部を遮断した状態で閉鎖する。よって、グロメット1の大径筒部3内に密閉空間が形成され、該密閉空間は遮音性能を高めるように機能させることができる。
【0025】
このように、グロメット1およびサイレンサー10をワイヤハーネスW/Hに組みつけた状態で、車両にワイヤハーネスW/Hを配索する。
図1(B)に示すように、グロメット1に通したワイヤハーネスW/Hは、エンジンルーム(X)側から室内(Y)側へと仕切パネルPの貫通穴H内にグロメット1を通した後に、エンジンルーム(X)側に引き戻すことで、グロメット1を仕切パネルPの貫通穴Hに係止させる。
【0026】
該状態で、グロメット1の大径筒部3内にサイレンサー10を内嵌しているため、エンジンルーム(X)から室内(Y)に伝わる騒音をサイレンサー10で遮断して低減することができる。
【0027】
かつ、スリット15は異形ライン部15aを設けているため、グロメット1を貫通穴Hに装着する際にグロメット1が変形し、グロメット1の内部のサイレンサー10が変形してもスリット15で位置ずれが発生するのを防止できる。同様に、貫通穴Hにグロメット1を装着した後、ワイヤハーネスW/Hに引っ張り力等の負荷がかかりサイレンサー10が変形してもスリット15で位置ずれが発生するのを防止できる。
よって、位置ずれ発生による音漏れ隙間が生じる恐れがなく、遮音性能を向上させることができる。
【0028】
図4に第二実施形態を示す。
第二実施形態では、グロメット(図示せず)は中心にワイヤハーネス挿通穴を設けて大径筒部に小径筒部を連続させている。よって、サイレンサー10の円板形状部11に設けるワイヤハーネス挿通穴12も中心に設け、該ワイヤハーネス挿通孔12から半径方向に延在するスリット15を設け、該スリット15の途中に異形ライン部15aを設け、該異形ライン部15aは蟻溝形状としている。他の構成は第一実施形態と同様としている。
前記のようにスリット15の異形ライン部を蟻溝形状とした場合にも、鍵穴形状と同様に互いに分離しにくくなり、位置ずれ発生を低減、防止することができる。
他の形状および作用効果は第一実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0029】
本発明は前記実施形態に限定されず、例えば、ワイヤハーネス挿通穴の周縁から小径筒部を必ずしも突出しなくともよい等、本発明の要旨から逸脱しない範囲の種々の形態が含まれる。
【符号の説明】
【0030】
1 グロメット
2 小径筒部
3 大径筒部
10 サイレンサー
11 円板形状部
12 ワイヤハーネス挿通穴
13 小径筒部
15 スリット
15a 異形ライン部
P 仕切パネル
H 貫通穴
W/H ワイヤハーネス
X エンジンルーム
Y 室内

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のエンジンルーム側から室内側へと車体パネルの貫通穴を通して配索するワイヤハーネスにグロメットを装着し、該グロメットは前記ワイヤハーネスを密着して挿通する小径筒部と、該小径筒部の一端に連続すると共に前記貫通穴の周縁に密着する車体係止凹部を外周面に設けた大径筒部を備え、該大径筒部にゴム製のサイレンサーを挿入して内嵌しており、
前記サイレンサーは前記大径筒部の中空部を軸直角方向に遮断する円板形状部を備え、該円板形状部に前記グロメットの小径筒部と連通するワイヤハーネス挿通穴を設けると共に、該ワイヤハーネス挿通穴にワイヤハーネスを横入れ挿通するために、該ワイヤハーネス挿通穴から円板形状部の外周面へスリットを設け、該スリットは両端の間に鍵穴形状または蟻溝形状のラインからなる離反抑制用の異形ライン部を設けていることを特徴とするサイレンサー付きグロメット。
【請求項2】
前記サイレンサーの円板形状部に直径方向の凹部を設けると共に円板形状部の外周面に前記グロメットの大径筒部の内周面に密着させる環状リブを前記凹部で分断して設け、
かつ、前記凹部で区画された一方の半円部分の偏芯位置に前記ワイヤハーネス挿通穴を偏芯して設けると共に、前記スリットは前記凹部と直交して他方の半円部分に延在させ、前記異形ライン部を前記他方の半円部分に設けている請求項1に記載のサイレンサー付きグロメット。
【請求項3】
前記サイレンサーにワイヤハーネス挿通穴の周縁より小径筒部を突設し、該小径筒部に前記スリットに連続した延長スリットを軸線方向に設け、該小径筒部を前記グロメットの小径筒部に内嵌している請求項1または請求項2に記載のサイレンサー付きグロメット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−151894(P2011−151894A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9385(P2010−9385)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】