説明

サイレージ及びその調製方法

【課題】食用として利用されずこれまで廃棄されていたサトイモの親芋部分を家禽・家畜飼料として有効に利用する。
【解決手段】サトイモから可食部となる子芋等を採取した後の親芋を主原料とし、ヨーグルトを添加して乳酸発酵させた後、更に気密性のある容器で一定期間嫌気的な貯蔵をするか、あるいは微好気的良好な条件下で発酵及び貯蔵を行うことによって、高い栄養価をもち、しかも家禽・家畜の嗜好性の高い良好なサイレージを調製する。また、食品産業廃棄物の家畜への飼料化の方法として、サトイモサイレージを発酵基質に用いれば、食品産業廃棄物混合サイレージとして有効利用が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、これまで食用に適さず廃棄されていた里芋の親芋部分の有効利用に関し、とくに廃棄芋の家禽・家畜への飼料化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サトイモ(学名:Colocasia antiquorum SCHOTT)は、種芋の頂芽が伸長してその基部が肥大し親芋となり、親芋の側芽が伸長するにつれてその基部が子芋となり、同様にして子芋から孫芋、孫芋からひ孫芋ができる。子芋用種の親芋は不味で一部は種芋や家畜飼料への転用が図られているが、各生産地で大量の親芋が食用とならず廃棄されているのが現状である。
【0003】
サトイモの肉質は、澱粉含量で粉質、粘質、中間に分けられ、これらは品種によって異なるが、同一品種でも親芋と子芋の肉質は必ずしも同一でない。芋の成分は水分70〜80%、炭水化物20%、繊維質1%、蛋白質0.7%、灰分1%ぐらいである。炭水化物は主に澱粉で、固形物中71%あり、ほかにガラクタン、ペントザンなどを含む。また、微量の蓚酸を含み、フィチンも乾物中1.3%ぐらいある。ビタミンA、Dは少ないが、B1は0.14mg%、Cは10mg%ぐらいある。無機物としては加里が多く、ほかに少量ずつのソーダ、石灰、苦土、燐酸、硫酸、けい酸、鉄、銅などを含む。
【0004】
BSEや鳥インフルエンザなどの人畜共通感染症が大きな社会問題になっていることから、酪農・畜産業に対する消費者の目は厳しいものがある。このような中、食の安心・安全に直接結びつく家畜の健康管理は重要な課題となっている。腸内細菌叢はその代謝活性や免疫調節能などを通じて宿主の健康に宿主の健康に重要な役割を果たしていることが知られているが、近年、腸内細菌叢を改善するプレバイオティクス(有用菌の増殖を促進したり、その活性を高める難消化性物質)プロバイオティクス(腸内細菌叢のバランスを改善する生菌添加物)が注目を集めている。
【0005】
食品の分野では、ヨーグルトをはじめ機能性食品(発酵食品)の開発とその解明が進んでおり、近年、とくに遺伝子レベルによる検査法によって様々な有効微生物の分離・同定がなされている。これらの検査法を家畜に応用して、家畜の腸内細菌叢の状態を明らかにし、微生物叢を改善することができれば、いわゆるプレバイオティクス効果やプロバイオティクス効果を有した機能性飼料の開発が可能となる。ヨーグルトは、タンパク質に富んでいると同時に、胃液及び腸液の分泌を促進することにより他の食物の同化作用を向上させるため、栄養補給を目的として食されている。普通の牛乳を飲用すると下痢やその他消化器系の不調をもたらす体質(ラクターゼ欠乏症等)の人でも、ラクトース含量の減少している発酵乳であるヨーグルトならば摂取が可能である。また、腸内の有害菌に対するヨーグルト菌の拮抗的効果は、ヨーグルトの消化性が良いことと合わせて腸疾患の治療食として有効であることは周知のことである。
【0006】
従来、サイレージ等の乳酸発酵を主体とする発酵飼料は、気密容器内で乳酸菌により嫌気的に発酵されるものであった。例えば、芋類の残渣(ポテトパルプ)を乳酸生性能の高い糸状菌により発酵させたサイレージ及びその調製方法(特許文献1参照)や食用として利用されず廃棄されているマッシュルーム菌柄をサイレージ添加物とし、家畜飼料とするもの(特許文献2参照)が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−265118号公報
【特許文献2】特開平7−147908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記発生直後のポテトパルプは家畜の嗜好性が悪く、限られた時期に集中して排出されるため腐敗しやすく、通常のサイレージ化では品質が安定しない。したがって、これらの問題を解決する技術が求められている。
【0009】
生のサトイモは約6千万/mlの乳酸菌を保有しているのみならず、この乳酸菌は10℃前後の低温度でも活発に発酵する特殊な乳酸菌であることが分かった。また、里芋は果糖やぶどう糖といった水溶性炭水化物(WSC)を20%以上含むところから、微生物を用いて発酵させることにより家畜用飼料としての有効利用が可能と考えられた。そして、本発明者らはサトイモ親芋の家畜用飼料としての利用法につき鋭意研究を進めた結果、本発明に到達したものである。
本発明の課題は、これまで廃棄されていたサトイモの親芋部分(以下、単にサトイモという)を有効に利用することであり、家禽・家畜飼料として有用なサイレージとその調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明のサイレージは、サトイモから可食部となる子芋等を採取した後の親芋を主原料とすることを第1の特徴とし、ヨーグルトを添加して乳酸発酵させることを第2の特徴とする。また、大麦、ビート、ふすまから選択される1種以上を副原料とすることを第3の特徴とする。さらに、この調整方法におけるサイロは厳重な気密性を必要とすることを第4の特徴とし、ここで得られたサイレージは、pHが4.0程度まで下がり発酵終了とすることを第5の特徴とする。さらにまた、このサイレージを発酵基質として用いて、他の食品残渣を再度混合発酵させることを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は高い栄養価をもち、しかも家禽・家畜の嗜好性の高い良好なサイレージとなるばかりでなく、家禽・家畜の肉質を向上させる。更に、一般的な食品残渣の処理にも用いて、サイレージとして飼料化が図れることから食品残渣の有効活用とコストの削減も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を以下に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0013】
まず、サトイモサイレージを調製した500kgタンクでの菌叢を表層・上層・中層でサンプリングした牧草生草(チモシー、ルーサン)及びサトイモの生菌数の分析結果を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
表1から明らかなように、サトイモは元来多量の乳酸菌を保有していることが分かる。すなわち、サトイモは生の状態での発酵が十分可能であることが分かる。
【0016】
本発明のサイレージ用ヨーグルトは次のようにして製造する。
先ず、生乳を常法により60℃〜65℃、好ましくは60℃に加温する。次いで、この原料液を均質化処理する。この均質化処理によって乳脂肪球が細かく分散されたヨーグルト原液が得られる次いで、これを殺菌冷却する。殺菌はバッチ殺菌により70℃〜75℃の温度で約30分程度行なう。これにより、大腸菌等の有害菌は死活するもののタンパク質の変性は防止できる。次いで、常法に従い乳酸菌スタータ(脱脂乳で培養させたもの)を添加後、発酵培養してヨーグルトカードを得る。このヨーグルトカードを攪拌して液状ヨーグルトを得る。脱脂乳か脱脂粉乳を用いて市販の乳酸菌と独自に開発した植物性乳酸菌を添加して、ヨーグルトを得る。
【0017】
サトイモは水洗後、チョッパーで切断し、1リットル容プラスチックサイロにサイレージを調製した。ヨーグルトを1重量%添加した。ヨーグルトは、乳酸菌(D−Culture R−707及びYo−Fast1)をスターターとしたしたもので、乳酸菌数は1グラム当たり3×10個であった。副原料としてフスマを20重量%添加した。フスマは糖分の補強と水分調整の二つの効果がある。尚、副原料として、フスマに代えて大麦やビートを用いるものでも良い。
【0018】
サイロは室温で放置し、63日後に開封してサイレージの発酵品質を調べた。その結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
表2から明らかなように、サトイモの水分含有量は88.0%で、乾物中のCP(粗蛋白質)含量、WSC(水溶性炭水化物)含量はそれぞれ11.1%及び21.3%であった。尚、腐敗臭の原因となる酪酸の発生は見られなかった。
【0021】
得られたサイレージと比較するために、通常飼料として用いられるチモシーとアルファルファの水分含有量、乾物中のCP(粗蛋白質)含量、WSC(水溶性炭水化物)含量を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
調製したサトイモサイレージの品質について得られた結果を表4に示す。
【0024】
【表4】

【0025】
【表5】

【0026】
【表6】

【0027】
【表7】

【0028】
上記、表4・表5・表6・表7から分かるように、乳酸菌数は1千万個/g中〜9億個/gと安定しており、pHが4.0程度と低いことで大腸菌群は死滅する。サトイモサイレージには乳酸および酢酸の生成が見られ、特に酢酸が非常に高い数値を呈した事で、殺菌性が強く保存性が優れている。また、家畜の嗜好性も良く、サイレージとしての品質は良好であり、家禽・家畜に対する嗜好性は極めて良好であった。
【0029】
次に、鶏を対象家畜として、サトイモサイレージを給餌し微生物叢の改善試験を行った。
[試験方法]
(1)試験区
配合飼料のみで飼育した配合区
配合飼料にサトイモサイレージを30%添加したサトイモサイレージ区
(配合区 8羽 サトイモサイレージ区 8羽)
(2)品種
ハヤマ地鶏 父:レッドコーニッシュ・母:ロードアイランドレッド
(3)飼育から屠殺までの経緯
導入日2006年5月10日前後 森孵化場から生産者は宮崎県内で放し飼いした後、航空機で移送。
屠殺 8月18日 北海道酪農大学内
(4)飼育方法
配合区は、ヒナ飼料は0〜20日令、後期飼料(抗生物質添加配合)は20〜50又は60日令
仕上げ飼料はそれ以降100日令まで飼育した。
サトイモサイレージ区は、ヒナ飼料を10日令まで給与し、それ以降はサトイモサイレージを混合配合した飼料で飼育した。
混合割合は、サトイモサイレージ30%、煮サトイモ10%を仕上げ飼料60%に混合、攪拌したもので、約100日令まで飼育
した。
【0030】
調査項目:1.腸内細菌叢(盲腸内容物)
鶏のOTU(便宜的分類)の試験に対して、ヒト腸内細菌叢で確立しているOTUを参考にして分類した。鶏にサトイモサイレージを配合して与えた区と既存の配合設計で与えた区の盲腸内の細菌叢をOTUで比較した場合、サトイモサイレージを与えた区において細菌叢の改善が確認できた。とくに、乳酸菌の増加は、胃や十二指腸内で死滅せず生きたまま通過し、盲腸内に到達し増加したものと考えられる。このことから、与えた飼料に含まれていた乳酸菌又は飼料中の成分が盲腸内に既存していた乳酸菌等に影響して増加したと考えられる。以上の結果からサトイモサイレージは機能性を持った飼料と考察される。とくに、盲腸内で既存している細菌叢に働きかけて改善がみられることからプレバイオティクス効果が認められた。
【0031】
調査項目:2.肉質:脂肪融点とTAB価
【0032】
【表8】

表8及び図3から分かるように、肉質の融点とTAB価では変化は見受けられなかったことで、配合飼料に対してサトイモで40%代替しても肉質は配合区と同様の結果が得られることが分かった。腸内細菌叢の結果は、BsiIで消化したときの各検体のOTUにおけるピーク面積比を図1に示した。
【0033】
鶏の盲腸内菌叢で推定される分類群と異なる可能性があるが、参考として図2に各OTUで推定されるヒト腸内フローラ分類群を示した。OTUでは、338値はClostridium11で、配合区では検出されずサトイモサイレージ区のみ2.0検出された。また、369値のClostridium4においては、配合区で14.0の値がサトイモサイレージ区では20.0と約4倍増加した。Clostridium11は、Clostridium b aruettii11と、Clostridium4は、Clostridium orbiscindensとに分類される。また、657値は乳酸菌で、配合区が1.5に対してサトイモサイレージ区では4.0と約3倍弱増した。この分類群はラクトバチルス属やストレプトコッカス属が属する。この結果から、サトイモサイレージを生後10日令から与えることで、腸内細菌叢が配合区と比較して改善されたことが分かる。これは給与するサトイモサイレージの細菌叢の影響の結果と十分推測される。
【0034】
食品産業廃棄物を家畜の飼料する処理方法して、サトイモサイレージを用いた時の分析結果を表9と表10に示す。今回、サトイモサイレージ25%とオカラ25%そして配合飼料50%混合サイレージの分析結果を示した、尚サトイモサイレージ25%+オカラ35%+配合飼料40%でも良質のサイレージは得られた。オカラの他、病院の食品残渣35%に変えて混合サイレージにしても同様の結果得られる。
【0035】
【表9】

【0036】
【表10】

【0037】
サトイモサイレージは、食品残渣と混合してサイレージになる事は、これからの食品産業廃棄物を家畜の飼料化に関して新しい方法である事が分かった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】鶏の盲腸内容物の細菌叢(フローラ)で推定される細菌群を示すグラフである。
【図2】ヒト腸内細菌叢(フローラ)で推定される細菌群を示すグラフである。
【図3】鶏のTAB(酸化)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サトイモから可食部となる子芋等を採取した後の親芋を主原料とするサイレージ。
【請求項2】
ヨーグルトを添加して乳酸発酵させることを特徴とする請求項1記載のサイレージ。
【請求項3】
大麦、ビート、ふすまから選択される1種以上を副原料とすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のサイレージ。
【請求項4】
詰込時のサイロが厳重な気密性を要することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のサイレージの調整方法。
【請求項5】
pHが4.0程度まで下がることで、発酵完了することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のサイレージの調整方法。
【請求項6】
他の食品残渣と混合して再度乳酸発酵させる発酵基質を持った請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のサイレージの調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−5833(P2008−5833A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140489(P2007−140489)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(398052678)
【出願人】(599177330)
【Fターム(参考)】