説明

サクションローラ

【課題】フィルムの振動を抑制し、フィルムの張力分布を一定に保つことのできるサクションローラを提供する
【解決手段】第二配列HA2における一の吸引孔SH3は、吸引孔SH3と周方向に隣接する第一配列HA1の吸引孔SH1,SH2と、軸線方向から見て一部が重なっている。これによって、フィルムFが剥がれる境界部分では、フィルムFが第一配列HA1における吸引孔SHから剥がれるとき、フィルムFは当該第一配列HA1における吸引孔SHの全体から一斉に剥がれるのではなく、第一配列HA1と第二配列HA2とが重なっている領域V1で一度止められる。更に、フィルムFが第二配列HA2における吸引孔SHから剥がれるとき、フィルムFは第一配列HA1における吸引孔SHの一部で吸引された状態で剥がれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルムを吸引しながら回転することによって搬送するサクションローラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のサクションローラとして、外周壁に形成された吸引孔でフィルムを吸引しながら回転することによって当該フィルムを搬送する外筒と、外筒を回転可能に支持すると共に開口部から空気を吸い込むことで吸引孔に吸引力を発生させる内筒とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このサクションローラの外筒の外周壁には、軸線方向に沿って並ぶ複数の吸引孔によって配列が構成され、当該配列が全周にわたって複数形成されている。互いに隣接する配列同士の間では、吸引孔が互いに千鳥状に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−160857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のサクションローラは、フィルムを搬送する際にフィルムが振動し、フィルムの張力分布が変動するという問題を有している。このような問題は、以下のような理由によって生じる。すなわち、上述のサクションローラの吸引孔の配列は、周方向において一定間隔を空けて形成されている。従って、フィルムがサクションローラの外筒から離れる境界部分において、フィルムは、所定の配列における全ての吸引孔から一斉に離れ、次の配列における吸引孔の位置まで一度に剥がれる。その後、フィルムが次の配列における吸引孔に吸引された状態が維持され、外筒が一定量回転したときに当該吸引孔から一斉に離れる。これによって、フィルムがサクションローラから離れる位置では、真空破壊動作が一定の間隔で発生する。一方、フィルムがサクションローラに吸着される境界部分においても、一の配列における吸引孔に一斉に吸引され、一定の間隔をおいて次の配列における吸引孔に一度に吸引される。これによって、フィルムが振動し、フィルムの張力分布が変動する。このような張力分布の変動は、塗工などのフィルム処理に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、フィルムの振動を抑制し、フィルムの張力分布を一定に保つことのできるサクションローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るサクションローラは、フィルムを吸引するための複数の吸引孔を外周壁に有し、フィルムを吸引しながら回転することによって当該フィルムを搬送する外筒と、外筒を回転可能に支持すると共に、空気を吸い込むことで外筒の吸引孔に吸引力を発生させる開口部を外周壁に有する内筒と、を備え、外筒は、軸線方向に沿って並ぶ複数の吸引孔によって構成される第一配列及び第二配列を有しており、第一配列と第二配列とは、周方向に互いに隣接しており、第一配列における吸引孔と第二配列における吸引孔とは、千鳥状に配置されており、第二配列における所定の吸引孔は、第一配列において所定の吸引孔と軸線方向に隣接する吸引孔に対して、軸線方向から見て一部が重なることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るサクションローラによれば、第一配列における吸引孔と、周方向に隣接する配列である第二配列における吸引孔とは、千鳥状に配置されている。また、第二配列における所定の吸引孔は、所定の吸引孔と軸線方向に隣接する第一配列の吸引孔と、軸線方向から見て一部が重なっている。すなわち、フィルムがサクションローラへ吸着される境界部分あるいはフィルムがサクションローラから剥がれる境界部分において、従来のサクションローラは、第一配列における吸引孔と第二配列における吸引孔の両方でフィルムを吸引できる領域を有しないのに対し、本発明に係るサクションローラは、第一配列における吸引孔と第二配列における吸引孔の両方でフィルムを吸引できる領域を有している。本発明に係るサクションローラからフィルムが剥がれる境界部分では、フィルムが第一配列における吸引孔から剥がれるとき、フィルムは当該第一配列における吸引孔の全体から一斉に剥がれるのではなく、第一配列と第二配列が重なっている領域で一度止められる。更に、フィルムが第二配列における吸引孔から剥がれるとき、フィルムは第一配列における吸引孔の一部で吸引された状態で剥がれる。従って、フィルムの振動を抑制することができる。一方、フィルムがサクションローラへ吸着される境界部分においても、本発明に係るサクションローラは、第一配列における吸引孔と第二配列における吸引孔が重なる領域を有している。従って、本発明に係るサクションローラは、一定間隔でフィルムを吸着する従来のサクションローラに比して、フィルムを徐々に吸着することができる。以上によって、本発明に係るサクションローラは、フィルムの振動を抑制し、フィルムの張力分布を一定に保つことができる。
【0008】
また、本発明に係るサクションローラにおいて、第一配列または第二配列を構成する複数の吸引孔は、軸線方向における端部側に配置されるものほど、外筒の回転方向における後側に配置されることが好ましい。このような構成により、第一配列または第二配列は、回転方向の前側に向かって突出するV字を描く配列となる。フィルムがサクションローラから剥がれる境界部分及びフィルムがサクションローラに吸着される境界部分では、同一配列内における吸引孔の中で、剥がれ、あるいは吸着のタイミングが異なる。具体的には、フィルムは、軸線方向における中央側の吸引孔から端部側の吸引孔の順番で、徐々に剥がれ、あるいは吸着される。これによって、フィルムの振動が一層抑制され、フィルムの張力分布が一層一定に保たれる。また、フィルムがサクションローラに吸着される境界部分では、フィルムは、中央側の吸引孔から端部側の吸引孔の順番で徐々に吸着されるので、余分なエアは中央側から端部側へ向かって吐き出される。従って、吸着の際に、吸引孔同士の間の領域にエアが巻き込まれること、及び皺が発生することを防止することができる。これによって、フィルムは滑らかに着脱される。更に、フィルムが中央側の吸引孔から端部側の吸引孔の順番で徐々に吸着及び剥がれが生じるため、フィルムが一方の端部側に偏った状態で吸着されること及び偏った状態で剥離されることが防止される。
【0009】
また、本発明に係るサクションローラにおいて、第一配列は、第二配列よりも回転方向の前側に配置されており、第一配列における軸線方向の端部に配置される吸引孔の中心は、第二配列における複数の吸引孔のうち、回転方向における最も前側に配置される吸引孔の中心よりも、回転方向における前側に配置されることが好ましい。例えば、第一配列の端部に配置される吸引孔の中心と、第二配列の中央側の吸引孔の中心とが一致している場合、軸線方向における中央側と端部側で同時にフィルムの剥がれ及び吸着が発生する。しかし、本発明に係るサクションローラでは、第一配列の端部に配置される吸引孔からのフィルムの剥がれ及び吸着が発生した後で、第二配列の中央側の吸引孔からのフィルムの剥がれ及び吸着が発生する。これによって、エアの巻き込みや皺の発生が一層確実に防止される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フィルムの振動を抑制し、フィルムの張力分布を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一実施形態に係るサクションローラを適用したフィルムの搬送装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るサクションローラの一部断面図である。
【図3】外筒及び内筒の断面を示す概略図である。
【図4】外筒の外周壁に形成された吸引孔の配列を示す図である。
【図5】従来及び本実施形態に係るサクションローラにおいて、フィルムがサクションローラから剥がれる境界部分を周方向から見た概略図である。
【図6】従来及び本実施形態に係るサクションローラにおいて、フィルムがサクションローラから剥がれる境界部分の拡大断面図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係るサクションローラの吸引孔の配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0013】
[第一実施形態]
図1〜図4を参照して、本発明の第一実施形態に係るサクションローラについて詳細に説明する。図1は、本発明の第一実施形態に係るサクションローラ1を適用したフィルムの搬送装置100の概略構成図である。図2は、本発明の第一実施形態に係るサクションローラ1の一部断面図である。図3は、外筒及び内筒の断面を示す概略図である。図4は、外筒の外周壁に形成された吸引孔の配列を示す図である。
【0014】
搬送装置100は、積層型セラミック部品などで用いるセラミックグリーンシートをフィルム上に形成し、当該フィルムを巻き取ることのできる装置である。図1に示すように、ロール状のフィルムFは、回転する繰出リール100Aから繰り出される。繰出リール100Aから繰り出されたフィルムFは、張力制御装置100Bで進行方向における張力調整が行われると共に、張力分布補正装置100Cで幅方向における張力の調整が行われる。その後、フィルムFは、ガイドローラ100Eでガイドされながら、塗工装置100Fで表面にセラミックペーストが塗布される。塗布された後、フィルムFは、サクションローラ100Gで搬送されて乾燥装置100Hで乾燥される。乾燥装置でセラミックペーストが乾燥すると、フィルムFは、ガイドローラ100Iでガイドされながらグリップロール100Jで蛇行補正が行われる。蛇行補正が行われた後、フィルムFは、ガイドローラ100Kでガイドされながら巻取リール100Lで巻き取られる。搬送されるフィルムFの厚さは、30〜50μmである。本発明によれば、特に薄いフィルムを低張力で搬送することができる。
【0015】
本発明の第一実施形態に係るサクションローラ1は、図1における100Gに該当する。図2及び図3に示すように、サクションローラ1は、回転可能な外筒2と、当該外筒2を回転可能に支持する内筒3とを備えて構成されている。また、サクションローラ1は、内筒3を固定するための内筒固定用軸受4と、外筒2を回転させるための駆動部6を備えている。外筒2と内筒3の中心軸線L1は一致しており、外筒2は固定された内筒3の回りを回転する。
【0016】
内筒3は、円筒状の外周壁7と、外周壁7の一端側に設けられた蓋部8と、外周壁7の他端側に設けられた蓋部9を備えている。また、内筒3の一端側の蓋部8の中央位置からは一端側へ向かって延びる軸部11が形成されている。内筒3の他端側の蓋部9の中央位置からは軸部12が形成されている。一端側の軸部11の端部は封止されている。一方、他端側の軸部12の端部は、開放されており、内筒3内の空気を吸引する吸引ブロワと接続されている。他端側の軸部12は、内筒固定用軸受4で固定されている。これによって、内筒3全体が回転することなく固定される。内筒3の外周壁7には抜き加工によって、矩形状の開口部13が形成される。内筒3は、開口部13から内部空間に向かって空気を吸引することができる。この開口部13は、空気を吸引することで、当該開口部13と重なっている吸引孔に対して吸引力を発生させるものである。このように、開口部13は、外筒2の複数の吸引孔を介してフィルムFを吸引する機能を有しており、外筒2の外周面における吸着領域を定めるものである。
【0017】
外筒2は、円筒状の外周壁16と、外周壁16の一端側に設けられた蓋部17と、外周壁16の他端側に設けられた蓋部18を備えている。外周壁16は、内筒3の外周面と滑動可能に接触している。また、外筒2の一端側の蓋部17の中央位置からは、一端側へ向かって軸部19が突出しており、軸部19に軸21が固定されている。軸21は、駆動部6と接続されており、これによって、外筒2全体が回転する。他端側の蓋部18の中央位置には、内筒3の軸部12が通過するように貫通孔が形成されている。外筒2の軸部19と内筒3の軸部11との間には転がり軸受22が配置されており、外筒2の蓋部18と内筒3の軸部12との間には転がり軸受23が配置されている。
【0018】
外筒2の外周壁16には、複数の吸引孔が形成される吸引孔領域Aが形成される。吸引孔領域Aに形成されている吸引孔は、外周壁16を径方向に貫通する貫通孔である。吸引孔領域Aは、外周壁16の全周にわたって複数形成されている。また、吸引孔領域Aの幅方向の大きさ、すなわち軸線L1の軸線方向大きさは、搬送するフィルムの幅に応じて決められる。図3に示すように、複数の吸引孔SHのうち、内筒3の開口部13と一致するものが、吸引力を発生する。すなわち、吸引孔領域Aのうち、内筒3の開口部13と重なっている部分が、フィルムFを吸着する吸着領域Bとして機能する。フィルムFは、吸着領域Bで吸着されながら、外筒2の回転に伴って搬送される。
【0019】
次に、図4を参照して、外筒2に形成された吸引孔の配列について説明する。図4は、本発明の第一実施形態に係るサクションローラ1における吸引孔の配置例の一部を示している。図4中において、D1で示す方向が外筒2の回転方向、すなわちフィルムFの搬送方向である。また、D1と直交する方向D2が、サクションローラ1の軸線方向である。図4に示すように、外筒2は、軸線方向D2に沿って並ぶ複数の吸引孔SHによって構成される第一配列HA1及び第二配列HA2を有している。第一配列HA1と第二配列HA2とは、サクションローラ1の周方向に互いに隣接している。第一配列HA1及び第二配列HA2における吸引孔SHは、軸線方向D2に向かって直線状に配置されている。すなわち、第一配列HA1における複数の吸引孔SHの中心同士を結んだ線を第一配列線HL1とした場合、第一配列線HL1はサクションローラ1の軸線と平行な直線となる。また、第二配列HA2における複数の吸引孔SHの中心同士を結んだ線を第二配列線HL2とした場合、第二配列線HL2はサクションローラ1の軸線と平行な直線となる。吸引孔SHは、内径が3〜3.5mmであり、同一配列内において互いの間隔が6〜8mmとなるように配置されている。
【0020】
第一配列HA1における吸引孔SHと第二配列HA2における吸引孔SHとは、千鳥状に配置されている。第一配列HA1の吸引孔SHに対して、第二配列HA2における吸引孔SHは、軸線方向D2における位相がずれるように配置されている。具体的には、第一配列HA1の一の吸引孔をSH1とし、吸引孔SH1と軸線方向D2に隣り合う吸引孔をSH2とし、吸引孔SH1と周方向に隣り合う第二配列HA2の吸引孔をSH3とした場合、第二配列HA2の吸引孔SH3は、軸線方向D2において第一配列HA1の吸引孔SH1と吸引孔SH2との間に配置される。また、第二配列HA2における吸引孔SHは、第一配列HA1における吸引孔SHの間に入り込むように配置される。具体的には、第二配列HA2における吸引孔SH3の一部は、第一配列HA1における吸引孔SH1と吸引孔SH2との間に挟まれるような配置となる。すなわち、第二配列HA2における吸引孔SH3は、当該吸引孔SH3と軸線方向D2に隣接する第一配列HA1の吸引孔SH1及び吸引孔SH2と、軸線方向D2から見て一部が重なっている。このような吸引孔SH1,SH2,SH3で説明したような位置関係は、第一配列HA1及び第二配列HA2における他の吸引孔SHについても同様に成り立つ。また、第一配列HA1と第二配列HA2の配列パターンは、外筒2の外周壁の全周にわたって繰り返し形成されている。
【0021】
次に、上述のように構成されたサクションローラ1の作用・効果について図5及び図6を参照して説明する。図5(a)は従来のサクションローラにおいて、フィルムがサクションローラから剥がれる境界部分を周方向から見た概略図である。図5(b)は本実施形態のサクションローラにおいて、フィルムがサクションローラから剥がれる境界部分を周方向から見た概略図である。図5には、フィルムFが第一配列における吸引孔から剥がれた直後における状態を示している。図5に示されるフィルムFのうち、ハッチングが付された領域はサクションローラに吸着されている領域であり、ハッチングが付されていない領域はサクションローラに吸着されていない領域である。図6(a)は従来のサクションローラにおいて、フィルムがサクションローラから剥がれる境界部分の拡大断面図である。図6(b)は本実施形態に係るサクションローラにおいて、フィルムがサクションローラから剥がれる境界部分の拡大断面図である。図6に示されるフィルムFのうち、点線で示すものが第一配列における吸引孔から剥がれる直前の様子を示しており、実線で示すものが第一配列における吸引孔から剥がれた直後の様子を示している。なお、図5及び図6では、説明を容易にするため、第一配列及び第二配列に係る吸引孔のみが示されているが、実際は周方向に第一配列及び第二配列の配列パターンが全周にわたって形成される。
【0022】
まず、比較のために従来のサクションローラについて説明する。図5(a)に示すように、従来のサクションローラの吸引孔PSHの第一配列PHA1と第二配列PHA2は、周方向において一定間隔を空けて形成されている。具体的には、第二配列PHA2における吸引孔PSH3の一部は、第一配列PHA1における吸引孔PSH1と吸引孔PSH2との間に挟まれないような配置となる。すなわち、図6(a)に示すように、第二配列PHA2における吸引孔PSH3は、当該吸引孔SH3と軸線方向に隣接する第一配列PHA1の吸引孔PSH1及び吸引孔PSH2と、軸線方向から見て重ならない。従って、フィルムFがサクションローラの外筒2から剥がれる境界部分において、フィルムFは、第一配列PHA1における全ての吸引孔PSHに吸引されている状態(図6(a)において点線で示す状態)から一斉に離れ、次の第二配列PHA2における吸引孔PSHで吸引される位置まで一度に剥がれる(図6(b)において実線で示す状態)。その後、フィルムFが第二配列PHA2における吸引孔PSHに吸引された状態が維持され、外筒2が一定量回転したときに当該吸引孔PSHから一斉に離れる。これによって、フィルムFがサクションローラから離れる位置では、真空破壊動作が一定の間隔で発生する。一方、フィルムFがサクションローラ1に吸着される境界部分においても、第一配列PHA1における吸引孔PSHに一斉に吸引され、一定の間隔をおいて第二配列PHA2における吸引孔PSHに吸引される。これによって、フィルムFが振動し、フィルムFの張力分布が変動する。
【0023】
一方、本実施形態に係るサクションローラ1によれば、図5(b)に示すように、第二配列HA2における吸引孔SHは、周方向に隣接する配列である第一配列HA1における吸引孔SHに対して、千鳥状に配置されている。また、第二配列HA2における一の吸引孔SH3は、吸引孔SH3と軸線方向に隣接する第一配列HA1の吸引孔SH1,SH2と、軸線方向から見て一部が重なっている。すなわち、フィルムFがサクションローラへ吸着される境界部分あるいはフィルムがサクションローラから剥がれる境界部分において、従来のサクションローラは、第一配列PHA1における吸引孔PSHと第二配列PHA2における吸引孔PSHの両方でフィルムFを吸引できる領域を有しないのに対し、本実施形態に係るサクションローラ1は、第一配列HA1における吸引孔SHと第二配列HA2における吸引孔SHの両方でフィルムFを吸引できる領域を有している。具体的には、この領域は、図5(b)及び図6(b)においてV1で示される領域である。
【0024】
本実施形態に係るサクションローラ1からフィルムFが剥がれる境界部分では、フィルムFが第一配列HA1における吸引孔SHから剥がれるとき、フィルムFは当該第一配列HA1における吸引孔SHの全体から一斉に剥がれるのではなく、第一配列HA1と第二配列HA2とが重なっている領域V1で一度止められる(図6(b)において実線で示す状態)。更に、フィルムFが第二配列HA2における吸引孔SHから剥がれるとき、フィルムFは第一配列HA1における吸引孔SHの一部で吸引された状態で剥がれる。従って、フィルムFの振動を抑制することができる。一方、フィルムFがサクションローラ1へ吸着される境界部分においても、本実施形態に係るサクションローラ1は、第一配列HA1における吸引孔SHと第二配列HA2における吸引孔SHが重なる領域V1を有しているため、一定間隔でフィルムFを吸着する従来のサクションローラに比して、フィルムFを徐々に吸着することができる。以上によって、本実施形態に係るサクションローラ1は、フィルムFの振動を抑制し、フィルムFの張力分布を一定に保つことができる。
【0025】
[第二実施形態]
図7を参照して、本発明の第二実施形態に係るサクションローラについて詳細に説明する。図7は、本発明の第二実施形態に係るサクションローラの吸引孔の配列を示す図である。なお、第二実施形態に係るサクションローラは、吸引孔の配列以外の構成は第一実施形態に係るサクションローラと同様である。
【0026】
図7に示すように、外筒2は、軸線方向D2に沿って並ぶ複数の吸引孔SHによって構成される第一配列VHA1及び第二配列VHA2を有している。第一配列VHA1と第二配列VHA2とは、サクションローラの周方向に互いに隣接している。第一配列VHA1及び第二配列VHA2における吸引孔SHは、軸線方向D2における端部側に配置されるものほど、外筒2の回転方向D1における後側に配置される。すなわち、第一配列VHA1における複数の吸引孔SHの中心同士を結んだ線を第一配列線VHL1とした場合、第一配列線VHL1はサクションローラの回転方向D1側に突出したV字状を描く。また、第二配列VHA2における複数の吸引孔SHの中心同士を結んだ線を第二配列線VHL2とした場合、第二配列線VHL2はサクションローラの回転方向D1側に突出したV字状を描く。
【0027】
第二配列VHA2における吸引孔SHは、第一配列VHA1における吸引孔SHに対して、千鳥状に配置されている。第一配列VHA1の吸引孔SHに対して、第二配列VHA2における吸引孔SHは、軸線方向D2における位相がずれるように配置されている。具体的には、第一配列VHA1の一の吸引孔をSH1とし、吸引孔SH1と軸線方向D2に隣り合う吸引孔をSH2とし、吸引孔SH1と軸線方向D2に隣り合う第二配列VHA2の吸引孔をSH3とした場合、第二配列VHA2の吸引孔SH3は、軸線方向D2において第一配列VHA1の吸引孔SH1と吸引孔SH2との間に配置される。また、第二配列HA2における吸引孔SHは、第一配列HA1における吸引孔SHの間に入り込むように配置される。具体的には、第二配列VHA2における吸引孔SH3の一部は、第一配列VHA1における吸引孔SH1と吸引孔SH2との間に挟まれるような配置となる。すなわち、第二配列VHA2における吸引孔SH3は、当該吸引孔SH3と周方向に隣接する第一配列VHA1の吸引孔SH1及び吸引孔SH2と、軸線方向D2から見て一部が重なっている。なお、吸引孔SH3に重なる量は、中央側の吸引孔SH2に比して端部側の吸引孔SH1の方が多くなる。図7において、吸引孔SH2は第一配列VHA1の中央位置における吸引孔であり、吸引孔SH1は中央位置の吸引孔SH2よりも一つ端部側の吸引孔であり、吸引孔SH3は第二配列VHA2の中央位置における吸引孔である。このような吸引孔SH1,SH2,SH3で説明したような位置関係は、第一配列VHA1及び第二配列VHA2における他の吸引孔SHについても同様に成り立つ。また、第一配列VHA1と第二配列VHA2の配列パターンは、外筒2の外周壁の全周にわたって繰り返し形成されている。
【0028】
また、第一配列VHA1における軸線方向D2の端部に配置される吸引孔SHの中心は、第二配列VHA2における複数の吸引孔SHのうち、回転方向D1における最も前側に配置される吸引孔SHの中心よりも、回転方向D1における前側に配置される。具体的には、第一配列VHA1の端部に配置される吸引孔SH4の中心P4は、第二配列VHA2の中央位置の吸引孔SH3の中心P3よりも、回転方向D1において前側に配置されている。図7に示す例では、端部の吸引孔SH4の中心P4は、次の配列における中央位置の吸引孔SH3の中心P3よりも、tだけ前側に配置されている。
【0029】
ここで、本実施形態における「配列」の定め方について説明する。配列は、配列線を引いた場合に、V字形状の当該配列線を最も平らにすることができる吸引孔の集合によって構成される。一の吸引孔の中心と、当該一の吸引孔に対して軸線方向D2に隣接する吸引孔の中心との間を直線で結ぶ。このとき、結んだ直線の軸線方向D2に対する角度が最も浅くなるような吸引孔が、一の吸引孔と同一配列を構成する吸引孔となる。具体的に、吸引孔SH1と吸引孔SH3は、何れも吸引孔SH2に対して、軸線方向D2に隣接すると見ることができる。しかし、吸引孔SH2の中心と吸引孔SH1の中心とを結んだ直線は、吸引孔SH2の中心と吸引孔SH3の中心とを結んだ直線よりも、軸線方向D2に対する角度が浅くなる。従って、吸引孔SH2と同一配列を構成する吸引孔は、吸引孔SH1であって、吸引孔SH3ではない。
【0030】
以上によって、本実施形態に係るサクションローラにおいて、第一配列VHA1及び第二配列VHA2を構成する複数の吸引孔SHは、軸線方向D2における端部側に配置されるものほど、外筒2の回転方向D1における後側に配置されている。このような構成により、第一配列VHA1及び第二配列VHA2は、回転方向D1の前側に向かって突出するV字を描く配列となる。従って、フィルムFがサクションローラから剥がれる境界部分及びフィルムFがサクションローラに吸着される境界部分では、同一配列内における吸引孔SHの中で、剥がれ、あるいは吸着のタイミングが異なる。具体的には、フィルムFは、軸線方向D2における中央側の吸引孔SH2から端部側の吸引孔SH1の順番で、徐々に剥がれ、あるいは吸着される。これによって、フィルムFの振動が一層抑制され、フィルムFの張力分布が一層一定に保たれる。また、フィルムFがサクションローラに吸着される境界部分では、フィルムが吸着する際に、吸引孔同士の間にエアが巻き込まれ、皺が発生する可能性もある。しかし、本実施形態に係るサクションローラにおいて、フィルムFは、中央側の吸引孔SH2から端部側の吸引孔SH1の順番で徐々に吸着されるので、余分なエアは中央側から端部側へ向かって吐き出される。従って、吸着の際に、吸引孔同士の間の領域にエアが巻き込まれること、及び皺が発生することを防止することができる。これによって、フィルムFは滑らかに着脱される。更に、フィルムFが中央側の吸引孔SH2から端部側の吸引孔SH1の順番で徐々に吸着及び剥がれが生じるため、フィルムFが一方の端部側に偏った状態で吸着されること及び偏った状態で剥離されることが防止される。
【0031】
また、本実施形態に係るサクションローラにおいて、第一配列VHA1における軸線方向D2の端部に配置される吸引孔SH4の中心P4は、第二配列VHA2における複数の吸引孔SHのうち、回転方向D1における最も前側に配置される吸引孔SH3の中心P3よりも、回転方向D1における前側に配置されている。例えば、第一配列VHA1の端部に配置される吸引孔SH4の中心P4と、第二配列VHA2の中央側の吸引孔SH3の中心P3とが一致している場合、軸線方向D2における中央側と端部側で同時にフィルムFの剥がれ及び吸着が発生する。しかし、本実施形態に係るサクションローラでは、第一配列VHA1の端部に配置される吸引孔SH4からのフィルムFの剥がれ及び吸着が発生した後で、第二配列VHA2の中央側の吸引孔SH3からのフィルムFの剥がれ及び吸着が発生する。これによって、エアの巻き込みや皺の発生が一層確実に防止される。
【0032】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0033】
図4や図7に示す吸引孔の数は、説明をするために少なくしているが、更に増やしてもよい。また、図7に示す実施形態では、吸引孔の配列における配列線が完全なV字状をなしていたが、完全にV字状をなしていなくても、一部に軸線方向に直線状となる部分があってもよい。例えば、V字状の中央部分の頂部における吸引孔が一部直線状に並んでいてもよく、軸線方向の端部における吸引孔が一部直線状に並んでいてもよく、中央部分と端部との間の一部の領域が一部直線状に並んでいてもよい。
【0034】
図7に示す実施形態では、第一配列における軸線方向の端部に配置される吸引孔の中心は、第二配列における複数の吸引孔のうち、回転方向における最も前側に配置される吸引孔の中心よりも、回転方向における前側に配置されていた。しかし、前側に配置されていなくてもよく、例えば、回転方向において一致していてもよく、あるいは後側に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…サクションローラ、2…外筒、3…内筒、13…開口部、16…外周壁、HA1…第一配列、HA2…第二配列、SH,SH1,SH2,SH3…吸引孔、F…フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを吸引するための複数の吸引孔を外周壁に有し、前記フィルムを吸引しながら回転することによって当該フィルムを搬送する外筒と、
前記外筒を回転可能に支持すると共に、空気を吸い込むことで前記外筒の前記吸引孔に吸引力を発生させる開口部を外周壁に有する内筒と、を備え、
前記外筒は、軸線方向に沿って並ぶ複数の前記吸引孔によって構成される第一配列及び第二配列を有しており、
前記第一配列と前記第二配列とは、周方向に互いに隣接しており、
前記第一配列における前記吸引孔と前記第二配列における前記吸引孔と、千鳥状に配置されており、
前記第二配列における所定の吸引孔は、前記第一配列において前記所定の吸引孔と前記軸線方向に隣接する吸引孔に対して、前記軸線方向から見て一部が重なることを特徴とするサクションローラ。
【請求項2】
前記第一配列または前記第二配列を構成する複数の前記吸引孔は、前記軸線方向における端部側に配置されるものほど、前記外筒の回転方向における後側に配置されることを特徴とする請求項1記載のサクションローラ。
【請求項3】
前記第一配列は、前記第二配列よりも前記回転方向の前側に配置されており、前記第一配列における前記軸線方向の端部に配置される吸引孔の中心は、前記第二配列における複数の前記吸引孔のうち、前記回転方向における最も前側に配置される吸引孔の中心よりも、前記回転方向における前側に配置されることを特徴とする請求項2記載のサクションローラ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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