説明

サバイビン発現亢進性疾患治療薬のスクリーニング法

【課題】サバイビン発現亢進性疾患の治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】ILF3の発現を抑制すると、サバイビンの発現が抑制することを見出した。この知見に基づき、ILF3を抑制する物質を選択することによるサバイビン発現亢進性疾患の治療薬の新たなスクリーニング方法を開示する。本発明のスクリーニング方法によれば、サバイビン発現抑制剤がスクリーニングでき、癌、多発性硬化症、動脈硬化、前立腺肥大などのサバイビン発現亢進性疾患の治療薬として有用な物質をスクリーニングすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サバイビン発現亢進性疾患治療薬のスクリーニング法に関する。
【背景技術】
【0002】
サバイビン(Survivin)は約16.5 kDaの抗アポトーシス作用を有するタンパク質である(非特許文献1)。サバイビンは癌、多発性硬化症、動脈硬化、前立腺肥大で高度に発現している(非特許文献2-4)。一方、胎盤、精巣などの一部を除き、分化した正常組織の大半にはサバイビンの発現は殆ど見られない。癌におけるサバイビンの高発現は、非小細胞肺癌患者における低生存率に関連があるとされること、サバイビンの機能抑制や発現抑制は癌細胞のアポトーシスを誘導することから、サバイビンは抗癌治療における新規ターゲットとして注目を浴びている(非特許文献5-7)。
ILF3は、IL-2遺伝子プロモーター領域にあるantigen receptor response elementに結合するNFAT(nuclear factor of activated T cells)のサブユニットとして同定され、IL-2の発現制御分子であることが示された(非特許文献8)。ILF3タンパク質のドメイン解析や遺伝子解析の結果から、ILF3が二本鎖RNA結合タンパク質であることが明らかとなっている(非特許文献9)。ILF3の本質的な生理的機能については未解明の部分が多く、ILF3遺伝子の発現とサバイビン遺伝子の発現との関連は全く知られていない。
【0003】
【非特許文献1】「モレキュラー・キャンサー・セラピューティクス(Molecular Cancer Therapeutics)」、(米国)、2006年、第5巻、p.478-482
【非特許文献2】「アーカイブス・オブ・ニューロロジー(Archieves of Neurology)」、(米国)、2002年、第59巻、p.1115-1121
【非特許文献3】「ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)」、(英国)、2002年、第8巻、p.987-994
【非特許文献4】「ジャーナル・オブ・ウロロジー(Journal of Urology)」、(米国)、2005年、第174巻、p.2046-2050
【非特許文献5】「ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー(Journal of Clinical Oncology)」、(米国)、1999年、第17巻、p.2100-2104
【非特許文献6】「キャンサー・リサーチ(Cancer Research)」、(米国)、2002年、第62巻、p.2462-2467
【非特許文献7】「アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(American Journal of Pathology)」、(米国)、2001年、第158巻、p.1757-1765
【非特許文献8】「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、(米国)、1994年、第269巻、p.20682-20690
【非特許文献9】「ジーン(Gene)」、(米国)、2000年、第261巻、p.345-353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、サバイビン発現亢進性疾患の治療薬として有用な物質を得るための新たなスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究を行なった結果、癌細胞において、ILF3の発現を抑制すると、サバイビンの発現が抑制することを見出した。この知見に基づき、ILF3を抑制する物質を選択することによる新たなサバイビン発現亢進性疾患治療薬のスクリーニング方法を開発し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]ILF3を抑制するか否かを分析する工程、及びILF3を抑制する物質を選択する工程を含む、サバイビン発現亢進性疾患治療薬をスクリーニングする方法、及び
[2]抑制が発現抑制である、[1]記載のスクリーニングする方法
に関する。
【0007】
また、本発明は、
[3]サバイビン発現抑制を確認する工程をさらに含む、[1]又は[2]記載のスクリーニングする方法、及び
[4]サバイビン発現亢進性疾患モデル動物に投与し、サバイビン発現抑制を確認する工程をさらに含む、[3]記載のスクリーニングする方法
に関する。
【0008】
本発明のサバイビン発現亢進性疾患治療薬をスクリーニングする方法により、癌、多発性硬化症、動脈硬化、前立腺肥大などのサバイビン発現亢進性疾患の治療薬をスクリーニングすることができる。
【0009】
本明細書において、「ILF3」とは、二本鎖RNA結合タンパク質であり、同じ分子種として同定されるものである限り、いずれの種由来のものであってもよく、例えばヒト(GenBankアクセッション番号 NM_012218)、マウス(GenBankアクセッション番号 NM_010561)、ラット(GenBankアクセッション番号 NM_053412)など哺乳動物由来のものが含まれる。ヒトILF3は、マウスILF3のアミノ酸配列との同一性が91%であり、ラットILF3のアミノ酸配列との同一性が90%である。
ILF3は、(1) 配列番号11で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、しかも二本鎖RNAと結合するポリペプチド、又は
(2) 配列番号11で表されるアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、更に好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも二本鎖RNAと結合するポリペプチドが好ましい。また、ILF3は配列番号11で表されるアミノ酸配列を含み、しかも二本鎖RNAと結合するポリペプチドがより好ましく、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが更に好ましい。
【0010】
本明細書における前記「同一性」とは、BLAST(Basic local alingment search tool; J. Mol. Biol., 215, 403-410, 1990)検索により得られた値Identitiesを意味し、アミノ酸配列の同一性は、BLAST検索アルゴリズムを用いて決定することができる。具体的には、BLASTパッケージ(バージョン2.2.16)のbl2seqプログラム(FEMS Microbiol. Lett., 174, 247-250, 1999)を用い、デフォルトパラメーターに従って算出することができる。ペアワイズ・アラインメント・パラメーターとして、プログラム名「blastp」を使用し、Gap挿入cost値を「11」で、Gap伸長cost値を「1」で、Query配列のフィルターとして「SEG」を、Matrixとして「BLOSUM62」をそれぞれ使用する。
【0011】
ILF3が二本鎖RNAと結合するか否かは、ILF3をSDS-PAGEに供し、メンブレンへのブロッティング、及びタンパク再生後に、ラベル化した二本鎖RNAをプローブとしてハイブリダイゼーションを行うNorthwestern法により、ILF3へのラベル化した二本鎖RNAのハイブリダイゼーションが検出された場合に、ILF3が二本鎖RNAと結合すると判断することができる(J. Biol. Chem., 280, 18981-18989, 2005)。
【0012】
本明細書において、「サバイビン」とは、アポトーシス阻害因子であり、同じ分子種として同定されるものである限り、いずれの種由来のものであってもよく、例えばヒト(GenBankアクセッション番号 NM_001168)、マウス(GenBankアクセッション番号 NM_009689)、ラット(GenBankアクセッション番号 NM_022274)など哺乳動物由来のものが含まれる。
【0013】
本明細書において、「サバイビン発現亢進性疾患」とは、組織におけるサバイビンの発現が増強する疾患をいい、癌(Molecular Cancer Therapeutics, 5, 478-482, 2006)、多発性硬化症(Archieves of Neurology, 59, 1115-1121, 2002)、動脈硬化(Nature Medicine, 8, 987-994, 2002)、前立腺肥大(Journal of Urology, 174, 2046-2050, 2005)などが含まれる。サバイビンは胎児期を除くと胸腺などの一部の正常組織にしか発現が見られない。サバイビン発現亢進性疾患に罹患しているか否かは、組織におけるサバイビン mRNAの発現量を定量的RT-PCR法で測定し、サバイビン発現亢進性疾患に罹患していない組織におけるサバイビン mRNAの発現量のmean±2SDをカットオフ値とし、それ以上のサバイビン mRNA発現量を示す組織をサバイビン発現亢進性疾患に罹患していると判断する(Lab. Clin. Pract., 23, 8-11, 2005)。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスクリーニング方法によれば、サバイビン発現抑制剤がスクリーニングでき、サバイビン発現亢進性疾患の治療薬として有用な物質をスクリーニングすることができる。前記サバイビン発現亢進性疾患には、癌、多発性硬化症、動脈硬化、前立腺肥大などが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明のスクリーニング方法を詳細に説明する。
本発明のスクリーニング方法は、ILF3を抑制するか否かを分析する工程、及びILF3を抑制する物質を選択する工程を含む、サバイビン発現亢進性疾患治療薬として有用な物質のスクリーニング方法である。
本発明のスクリーニング方法は上記工程に、サバイビン発現抑制を確認する工程をさらに含んでもよい。また、このスクリーニング方法に、サバイビン発現亢進性疾患モデル動物に投与し、サバイビン発現量の低下を確認する工程をさらに含むことで、サバイビン発現亢進性疾患治療効果を確認することができる。
【0016】
(1)ILF3を抑制するか否かを分析する工程
ILF3を抑制するか否かを分析する工程とは、試験物質非存在下と比較して、試験物質の存在下でILF3の抑制が検出、又は測定されるか否かを評価する工程のことをいう。ILF3の「抑制」には、ILF3の「発現抑制」及び「機能抑制」の両方が含まれるが、「発現抑制」がより好ましい。
【0017】
(i)ILF3の発現を抑制するか否かを分析する工程
ILF3の発現を抑制するか否かを分析するには、例えば、ILF3を発現する細胞を、試験物質の存在下又は非存在下で培養し、試験物質存在下で培養した前記細胞におけるILF3のmRNA及び/又はタンパク質の量が、試験物質非存在下で培養した前記細胞と比較して減少したか否かを分析すればよい。
【0018】
ILF3を発現している細胞としては、具体的には、前立腺癌細胞、乳癌細胞、直腸結腸癌細胞、肺癌細胞、膀胱癌細胞、膵臓癌細胞、子宮頚部癌細胞、黒色腫細胞、及び白血病細胞が挙げられる。これらの細胞は、ILF3を発現している限り、いずれの種由来のものであってもよく、例えば、ヒト、マウス、ラット由来のものなど哺乳動物由来の細胞を用いることができる。好ましくはヒト由来の細胞を用いることができる。
細胞には樹立された細胞株を用いてもよく、動物の組織から剥離し、又は単離した細胞を用いてもよい。樹立された細胞株としては、PC-3細胞、HeLa細胞、Calu-6細胞(以上の細胞株はいずれもAmerican Type Culture Collection(ATCC)から入手可能)を用いることができる。ILF3を発現している組織としては、具体的には、精巣、脳、筋肉、心臓、脾臓、肺、肝臓、腎臓などが挙げられる。好ましくは精巣、脳、筋肉を用いることができる。
【0019】
細胞及び組織にILF3が発現しているか否かを調べるには、細胞若しくは組織の抽出液を用い、ILF3を検出できる抗体を使用したウエスタンブロッティング、又はILF3をコードするポリヌクレオチドを特異的に検出するプライマーを使用したPCRなどにより確認することができる。
【0020】
試験物質存在下で培養した細胞におけるILF3のmRNA及び/又はタンパク質の量を、試験物質非存在下で培養した細胞と比較するには、例えば、ILF3を発現する細胞を、試験物質の存在下又は非存在下で培養した後、細胞に含まれるILF3のmRNA及び/又はタンパク質の量を測定すればよい。ILF3のmRNA及び/又はタンパク質の量の測定は公知の測定方法、例えば、ノーザンブロット又はELISA法[例えば、ILF3を認識する抗体をプレート等の固相に吸着させた後、そこに試験物質を含むサンプルを加え、次いで、先の抗体とは抗原エピトープが異なるILF3を認識する抗体を加えて、後者の抗体の固相への結合度合いを分析する(Methods in Enzymology, 118, 742-766, 1986)]等で測定することができる。より具体的には、実施例2に記載した方法で測定することができる。
【0021】
ILF3の発現を抑制するか否かを分析する別の方法としては、例えば、ILF3のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子を連結したベクターで形質転換した細胞を、試験物質の存在下又は非存在下で培養し、試験物質存在下で培養した前記細胞におけるレポーター活性が、試験物質非存在下で培養した前記細胞と比較して減少したか否かを分析すればよい。
一般に遺伝子の発現調節はその5’上流域に存在するプロモーター領域と呼ばれる部分で制御されており、転写段階での遺伝子発現量はこのプロモーターの活性を測定することで推測することができる(田村ら、転写因子研究法、羊土社、1993年)。試験物質がプロモーター活性を抑制すれば、プロモーター領域の下流に配置されたレポーター遺伝子の転写が減少し、レポーター活性が減少する。このようにプロモーター抑制作用すなわち発現抑制作用をレポーター活性の減少に置き換えて検出することができる。
【0022】
具体的には、ILF3のプロモーター領域(例えば、ILF3のプロモーター領域としては、ゲノム登録番号AC011475の塩基配列における、開始コドンATGの上流域を用いることができる)をレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子)上流に連結した作動可能なベクターを作製し、該ベクターをヒトHEK-293細胞などの宿主細胞に形質転換させ導入する。この形質転換細胞を試験物質の存在下又は非存在下で培養し、該細胞におけるレポーター活性(例えば、ルシフェラーゼ活性)を測定する。試験物質非存在下で培養した細胞のレポーター活性と比較して、試験物質存在下で培養した細胞のレポーター活性が減少するか否かを分析することにより、試験物質がILF3の発現を抑制するか否かを分析することができる。
【0023】
(ii)ILF3の機能を抑制するか否かを分析する工程
ILF3の機能を発揮するためには、ILF3がRNAと相互作用をする必要がある。そこで、ILF3とRNAとの相互作用の抑制を指標に、ILF3の機能を抑制するか否かを分析することができる。
具体的には、ILF3を試験物質の存在下又は非存在下で、ILF3とRNAとの会合が許容される条件下で混合後、前記試験物質がILF3とRNAとの会合を減少又は抑制するか否かを分析することにより、分析することができる。前記試験物質を含むサンプルに存在する会合の量が、前記試験物質を含まないサンプルに存在する会合の量と比較して、減少していれば、前記試験物質はILF3の機能を抑制すると分析することができる。より具体的には、ILF3をSDS-PAGEに供し、メンブレンへのブロッティング、及びタンパク再生後に、試験物質の存在下又は非存在下において、ラベル化したRNAをプローブとしてハイブリダイゼーションを行うNorthwestern法により、分析することができる(J. Biol. Chem., 280, 18981-18989, 2005)。
【0024】
ILF3の機能を抑制するか否かを分析する別の方法としては、例えば、ILF3がIL-2プロモーターやPCNA(proliferating cell nuclear antigen)プロモーターなどのプロモーター活性を制御する特性を利用し(J.Biol.Chem., 269, 20682-20690, 1994; RNA, 9, 543-554, 2003)、ILF3存在下でのプロモーター活性を指標に、ILF3の機能を抑制するか否かを分析することができる。
具体的には、IL-2のプロモーター領域又はPCNAのプロモーター領域をレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子)上流に連結した作動可能なベクターを作製し、該ベクター及び、ILF3をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを宿主細胞に形質転換させ導入する。この形質転換細胞を試験物質の存在下又は非存在下で培養し、該細胞におけるレポーター活性(例えば、ルシフェラーゼ活性)を測定する。試験物質非存在下で培養した細胞のレポーター活性と比較して、試験物質存在下で培養した細胞のレポーター活性が減少するか否かを分析することにより、試験物質がILF3の機能を抑制するか否かを分析することができる。
【0025】
(2)ILF3を抑制する物質を選択する工程
前記項目(1)において、ILF3を抑制すると分析された物質を選択することで、サバイビン発現抑制剤をスクリーニングでき、サバイビン発現亢進性疾患治療薬をスクリーニングすることができる。具体的には、ILF3を抑制する物質を選択する工程とは、ILF3の発現又は機能を1/2以下に抑制させる試験物質を選択する工程であり、これによりサバイビン発現抑制剤をスクリーニングでき、サバイビン発現亢進性疾患治療薬をスクリーニングすることができる。
【0026】
(3)サバイビン発現抑制の確認
本発明のスクリーニング方法は上記(1)ILF3を抑制するか否かを分析する工程、(2)ILF3を抑制する物質を選択する工程に、サバイビン発現抑制を確認する工程をさらに含んでもよい。本発明のスクリーニング方法の上記(1)(2)の工程により、「ILF3を抑制する物質」を得ることができ、この物質によりILF3が抑制されると、サバイビンの発現が抑制される。サバイビン発現抑制を確認する工程とは、ILF3を抑制する物質によりサバイビンの発現が低下していることを確認する工程である。
サバイビンの発現が抑制されているか否かを調べるには、細胞若しくは組織の抽出液を用い、検討対象のポリペプチドを検出できる抗体を使用したウエスタンブロッティング、又は検討対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特異的に検出するプライマーを使用したPCRなどにより確認することができる。より具体的には、実施例2に記載した方法で測定することができる。
【0027】
(4)サバイビン発現亢進性疾患治療効果の確認
サバイビン発現亢進性疾患治療効果があることの確認は、当業者に公知の方法、あるいはそれを改良した方法を用いることにより実施することができる。具体的には、サバイビン発現亢進性疾患モデル動物に投与し、サバイビン発現量の低下を確認することによっても実施できる。
サバイビン発現亢進性疾患モデル動物としては、例えば、サバイビン発現亢進性疾患である癌、動脈硬化、多発性硬化症、前立腺肥大を誘発させた病態モデル動物があげられる。
【0028】
癌モデル動物は以下の方法で作製することができる。癌は、モデル動物の体の一部分に担持させてもよく、体全体に担持させてもよく、試験態様に合わせて好ましい方を選択することができる。体の一部分に担持させる手法としては、例えば、癌組織移植、癌細胞(前立腺癌(PC-3)など)移植等の手法を用いることができる。移植の具体的方法は、移植片を移植針にて移植する方法、細胞懸濁液を注射針で移植する方法等、当業者に公知の手法を用いることができる。移植する部位としては特に限定されないが、例えば背部皮下に移植することができる(Clin. Cancer. Res., 12, 6836-6843, 2006)。
動脈硬化モデル動物は、ウサギ・サル・ブタなどに高脂肪食負荷することで作製できる(疾患モデル動物ハンドブックNo.2, 114-118, 1982)。
多発性硬化症モデル動物は、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)が最も近いモデルとして利用され、その作製方法は、動物に中枢神経組織とアジュバントで感作することで作製できる。例えば、モルモットの脊髄と結核死菌を不完全フロイントアジュバントに加えてエマルジョンを作製し、両側後肢背足皮下に注射する(疾患モデル動物ハンドブックNo.2, 169-173, 1982)。
前立腺肥大モデル動物としては、前立腺肥大した老齢イヌが利用できる(YAKUGAKU ZASSHI, 126, 225-230, 2006)。
【0029】
これらのサバイビン発現亢進性疾患モデル動物に対し、有効用量の「ILF3を抑制する物質」を経口、腹腔内又は静脈内投与で、単回又は反復投与する。その後、採血し、血液中からリンパ球を回収し、総RNAを抽出した後、総RNAから合成したcDNAを用いてサバイビンの発現量を測定する。該ILF3を抑制する物質の投与前、または該ILF3を抑制する物質の非投与のコントロールと比較したサバイビンの発現量の低下により、サバイビン発現亢進性疾患の治療効果を確認することができる。
【0030】
(5)試験物質
本発明のスクリーニング方法で使用する試験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の化合物(ペプチドを含む)、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Terrettら, J. Steele. Tetrahedron, 51, 8135-8173, 1995)によって得られた化合物群、ファージ・ディスプレイ法(J. Mol. Biol., 222, 301-310, 1991)などを応用して作成されたランダム・ペプチド群、微生物の培養上清、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物、或いは本発明のスクリーニング法により選択された化合物(ペプチドを含む)を化学的、又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、公知の方法(例えば、"Molecular Cloning-A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 1989等の遺伝子操作実験マニュアル)や試薬等に添付の指示書に従った。
【0032】
[実施例1]
ILF3に特異的なsiRNAの作製
ILF3をコードする配列番号10で表される塩基配列の内、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAに対応するsiRNAとして、配列番号2で表される塩基配列からなるセンス鎖と、配列番号3で表される塩基配列からなるアンチセンス鎖とからなる、ILF3特異的なsiRNA(株式会社RNAi)を使用した。これらのsiRNA配列は、RNAi配列設計システムsiDirect(株式会社RNAi)を用いて設計された。
NCBIのBLASTサーチの結果、配列番号1で表される塩基配列は、ILF3に特異的な配列であることが示された。
非特異的なsiRNAの影響を検討する対照実験のために、哺乳類細胞に存在しない二本鎖RNAのコントロールsiRNA(Silencer Negative Control siRNA; アンビオン社)を入手した。
【0033】
[実施例2]
ILF3特異的なsiRNAの癌細胞株への導入によるILF3特異的な発現抑制
アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から入手したヒト前立腺癌由来細胞株PC-3を用いた。PC-3は、最終濃度が10%になるように熱不活化胎児ウシ血清(FBS; JRHバイオサイエンス社)を添加したRPMI1640培地に培養して維持した。
トランスフェクション実験は、以下の手順で実施した。
トランスフェクションの前日に、細胞培養用12穴プレート(イワキ)に、PC-3癌細胞株については、1穴当たり20,000細胞を播いた。トランスフェクション当日に、血清無添加培地OPTI-MEM(インビトロジェン社)で細胞を洗浄した後、OPTI-MEM 800μLを加えた。
実施例1で作製したsiRNA、及びコントロールsiRNAは、トランスフェクション試薬(RNAiMax;インビトロジェン社)を用いて、添付指示書に従い、前記状態のPC-3に導入した。
導入から24時間経過後に、培地を除去した後、最終濃度が10%になるように熱不活化胎児ウシ血清を添加したRPMI1640培地を加えた。トランスフェクションは、各サンプルに対して独立に3穴を用いて行った。
前記siRNAを導入してから48、72時間経過後に4℃に冷却したPBSで細胞を洗浄した後、RNeasy Micro kit(キアゲン社)に内包されているBuffer RLT 350μLを加えて細胞を溶解した。前述の細胞溶解液は、RNeasy Micro kitの添付指示書に従い総RNAの抽出に使用した。抽出した総RNA 0.25μgから、SuperScript FirstStrand System(インビトロジェン社)を用い、添付指示書に従って、相補的DNA(cDNA)を合成し、20μLのcDNA溶液を得た。
【0034】
作製したcDNAを鋳型として、定量的PCR法にてヒトサバイビン遺伝子、ヒトILF3遺伝子、ハウスキーピング遺伝子としてヒトG3PDH(glucose 3 phosphate dehydrogenase)遺伝子の発現量を定量した。解析はシークエンスディテクター(ABI PRISM 7900 Sequence Detection System;Perkin-Elmer Applied Biosystems社)を用いて行った。
ヒトサバイビン遺伝子を特異的に認識するプライマーセットとして、配列番号4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号5で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとをプライマーセットとし、ヒトILF3遺伝子を特異的に認識するプライマーセットとして、配列番号6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号7で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとをプライマーセットとし、ヒトG3PDH遺伝子を特異的に認識するプライマーセットとして、配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと、配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとをプライマーセットとして用いた。反応液は、50倍希釈したcDNA溶液 4μL、2×SYBR Green PCR Master Mix 5μL(Perkin-Elmer Applied Biosystems社)、forward primer (40μM) 0.0752μL、reverse primer(40μM) 0.0752μL、DNase-free 蒸留水 0.8496μLから成る。PCRは95℃で10分間インキュベーションした後、95℃(15秒間)/60℃(60秒間)からなるサイクルを45回繰り返した。その後、95℃(15秒間)/60℃(15秒間)/95℃(15秒間)を1サイクル行い終了とした。また、mRNA発現量算出の標準曲線を得るために、ヒトゲノムDNA(CLONTECH社)を鋳型として、前記プライマーセットを用いて同条件のPCRを行った。
【0035】
各試料におけるヒトサバイビン遺伝子発現量、ヒトILF3遺伝子発現量は、下記式に基づいてG3PDH遺伝子の発現量で補正し、補正発現量とした。
[サバイビン補正発現量]=[サバイビン遺伝子の発現量(生データ)]/[G3PDH遺伝子の発現量(生データ)]
[ILF3補正発現量]=[ILF3遺伝子の発現量(生データ)]/[G3PDH遺伝子の発現量(生データ)]
さらに、下記式に基づいてコントロールsiRNA添加群のサバイビン補正発現量を100%としたときの、ILF3特異的siRNA添加群のサバイビン補正発現量の相対的発現量を求めた。
[サバイビン相対的発現量(%)]=[ILF3特異的siRNA添加群のサバイビン補正発現量]/[コントロールsiRNA添加群のサバイビン補正発現量]×100
下記式に基づいて、コントロールsiRNA添加群のILF3補正発現量を100%としたときの、ILF3特異的siRNA添加群のILF3補正発現量の相対的発現量を求めた。
[ILF3相対的発現量(%)]=[ILF3特異的siRNA添加群のILF3補正発現量]/[コントロールsiRNA添加群のILF3補正発現量]×100
siRNA添加後48時間経過時のILF3相対的発現量は29.4%であり、サバイビン相対的発現量は42.9%だった。また、siRNA添加後72時間経過時のILF3相対的発現量は33.9%であり、サバイビン相対的発現量は31.5%だった。
以上の結果から、ILF3特異的siRNAによりILF3遺伝子の発現を約30%に抑制すると、サバイビン遺伝子の発現が約30〜40%に抑制されており、ILF3遺伝子の発現抑制は、サバイビン遺伝子の発現抑制を誘導することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ILF3を抑制するか否かを分析する工程、及びILF3を抑制する物質を選択する工程を含む、サバイビン発現亢進性疾患治療薬をスクリーニングする方法。
【請求項2】
抑制が発現抑制である、請求項1記載のスクリーニングする方法。

【公開番号】特開2008−263887(P2008−263887A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112959(P2007−112959)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】