説明

サファイア基板およびその製造方法

【課題】基板面内の研磨ムラを抑制しつつ簡易に研磨可能なサファイア基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】サファイア基板10の両方の主面を研磨する第1研磨工程と、サファイア基板10を加熱する加熱工程と、サファイア基板10の裏面と、表面に複数の穴131を有する吸着パッド130の表面とを水20を介して圧接し、負圧によってサファイア基板10を吸着させる吸着工程と、サファイア基板10の表面11を研磨する第2研磨工程と、サファイア基板10を吸着パッド130から取り外す取外し工程と、吸着パッド130は、サファイア基板10を吸着した状態においてサファイア基板10の周側面を囲む内周壁121を有する保持部材120の開口内に収容され、内周壁121は、横断面において、互いに対向するこの内周壁121同士の間の距離が吸着パッド130から離れるに従って長くなるテーパー形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サファイア基板の研磨の際の固定方法を開示した先行文献として、特開2006−303180号公報(特許文献1)がある。特許文献1に記載されたサファイア基板の固定方法においては、サファイア基板とフィルムの第1の主面とを粘着剤により貼着する工程と、フィルムの第2の主面と支持体とをワックスにより貼着する工程とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−303180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着剤を用いて基板を固定する場合、研磨工程後に粘着剤の粘着性を低下させる工程が必要になり、工程が複雑になる。また、基板を強固に固定した状態で、回転する研磨盤に押し付けて研磨した場合、研磨盤の中心側に接触する部分より研磨盤の径方向の端部側に接触する部分の方が多く研磨されるため、基板を面内で均一に研磨することが難しい。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、基板面内の研磨ムラを抑制しつつ簡易に研磨可能なサファイア基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に基づくサファイア基板は、裏面に微細凹凸を有するエピタキシャル成長用のサファイア基板である。サファイア基板は、厚さが100μm以上、反りが50μm以下、厚みムラが30μm以下、表面の面粗度が10nm以下、および、裏面の面粗度が10nm以上である。
【0007】
本発明に基づくサファイア基板の製造方法は、サファイア基板の両方の主面を研磨する第1研磨工程と、第1研磨工程後のサファイア基板を加熱する加熱工程とを備える。また、サファイア基板の製造方法は、加熱工程後のサファイア基板の一方の主面と、表面に複数の穴を有する吸着パッドのこの表面とを液体を介して圧接させることにより、複数の穴に発生する負圧によってサファイア基板を吸着パッドに吸着させる吸着工程を備える。さらに、サファイア基板の製造方法は、吸着パッドにサファイア基板を吸着させた状態で、サファイア基板の他方の主面を研磨する第2研磨工程と、第2研磨工程後のサファイア基板を吸着パッドから取り外す取外し工程とを備える。吸着パッドは、サファイア基板を吸着した状態においてサファイア基板の周側面を囲む内周壁を有する保持部材の開口内に収容される。上記内周壁は、横断面において、互いに対向するこの内周壁同士の間の距離が吸着パッドから離れるに従って長くなるテーパー形状を有する。第2研磨工程において、サファイア基板は吸着パッドの表面および保持部材の内周壁に囲まれている。
【0008】
本発明の一形態においては、上記液体が水である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板面内の研磨ムラを抑制しつつサファイア基板を簡易に研磨できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るサファイア基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】同実施形態に係る吸着工程に用いる基板保持部100の構成を示す断面図である。
【図3】図2の基板保持部を矢印III方向から見た平面図である。
【図4】吸着パッドにサファイア基板を吸着させた状態を示す断面図である。
【図5】サファイア基板の表面を研磨している状態を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係るサファイア基板の製造方法について説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係るサファイア基板の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態においては、サファイア基板として、インゴッドからスライスされて形成されたAs−Cutサファイア基板を用いている。
【0013】
図1に示すように、まず、第1研磨工程として、図示しない両面研磨装置を用いて、サファイア基板の両方の主面を研磨する(S101)。具体的には、サファイア基板の両主面を互いに相対的に回転する銅定盤で挟み込む。定盤とサファイア基板との間に、たとえば、数十μm以上数百μm以下の粒径のボロンカーバイドまたはグリーンカーバイドなどからなる遊離砥粒を流し込む。サファイア基板の両面を研磨し、サファイア基板の一方の主面である裏面の面粗度を数十nm以上数μm以下にする。
【0014】
次に、第1研磨工程(S101)によってサファイア基板内に発生した加工応力を緩和するためにサファイア基板を加熱する(S102)。具体的には、サファイア基板を図示しない高温炉に入れ、千数百℃の加熱温度で数時間から十数時間程度保持することで、サファイア基板の加工応力および加工歪みを緩和する。
【0015】
その後、サファイア基板の他方の主面である表面を研磨するために、サファイア基板の裏面を吸着パッドに吸着させる(S103)。図2は、本実施形態に係る吸着工程に用いる基板保持部100の構成を示す断面図である。図3は、図2の基板保持部を矢印III方向から見た平面図である。
【0016】
図2,3に示すように、吸着工程(S103)においてサファイア基板を保持する基板保持部100は、プレート110と、プレート110上に固定されて開口を有する保持部材120と、吸着パッド130とを含む。プレート110はたとえばセラミックからなり、プレート110の上面は平面である。
【0017】
保持部材120は、開口内に吸着パッド130を収容する。保持部材120は、アクリル樹脂またはガラスエポキシ樹脂などから形成され、接着剤によりプレート110上に固定されている。
【0018】
保持部材120の内周壁121は、横断面において、互いに対向する内周壁121同士の間の距離が吸着パッド130から離れるに従って長くなるテーパー形状を有している。具体的には、図2に示すように、内周壁121は、吸着パッド130の上面に対して角度θで交差している。本実施形態においては、θ=60°としたが、30°≦θ≦60°であることが好ましい。
【0019】
θ<30°の場合、保持部材120が大きくなりすぎるため好ましくない。60°<θの場合、後述するように、吸着パッド130からの吸着が解除された際にサファイア基板10が吸着パッド130に再度吸着されるまでの時間を十分に確保することができない。
【0020】
吸着パッド130としては、針で表面上に多数の微細な穴131が形成されたシリコンフィルムまたはポリウレタンからなる柔軟で撓みやすいシートなどを用いることができる。平面視において、吸着パッド130は、サファイア基板より大きな面積を有している。吸着パッド130は、接着剤132によりプレート110上に固定されている。
【0021】
図4は、吸着パッドにサファイア基板を吸着させた状態を示す断面図である。なお、図4においては、保持部材120およびプレート110は図示していない。
【0022】
図4に示すように、加熱工程後のサファイア基板10の裏面12と、吸着パッド130の表面とを水20を介して圧接させることにより、上記複数の穴131に発生する負圧によってサファイア基板10を吸着パッド130に吸着させる。
【0023】
具体的には、吸着パッド130の表面を水で濡らす。吸着パッド130の表面には、吸着パッド130の厚さ方向に延びる多数の細かい穴131が形成されているため、穴131内は水および空気が入っている状態となる。
【0024】
その状態で、吸着パッド130の表面に、サファイア基板10を裏面12側から押し付ける。すると、穴131が縮まって穴131内の空気が押し出される。サファイア基板10の押し付けを解除すると、穴131が元の大きさに戻ろうとして穴131内に空気を吸い込む。
【0025】
しかし、穴131の縁は水20を介してサファイア基板10の裏面12に密着しているため、空気を十分に吸い込むことができない。そのため、穴131は縮んだままとなり、穴131内に負圧が発生する。この負圧が、吸着パッド130のサファイア基板10を吸着する吸着力となる。
【0026】
吸着パッド130にサファイア基板10を吸着させた状態で、第2研磨工程として、サファイア基板10の表面11を研磨する(S104)。図5は、サファイア基板の表面を研磨している状態を示す一部断面図である。
【0027】
図5に示すように、まず、銅または錫などを含み比較的軟質な金属系の定盤30を用いてサファイア基板10の表面11を研磨する。具体的には、定盤30上に数μmの粒径のダイヤモンドスラリーを散布し、基板保持部100で保持したサファイア基板10を回転している定盤30に一定圧力で押し付ける。定盤30の回転数は、30rpm以上80rpm以下が好ましい。
【0028】
その後、数十nmの粒径のシリカ粒子を用いて、軟質の発泡ウレタンまたはスエード状のパッドなどの研磨布でサファイア基板10の表面11を研磨し、サファイア基板10の表面11の面粗度を0.01nm以上0.3nm以下程度にする。
【0029】
第2研磨工程(S104)において、吸着パッド130によるサファイア基板10の吸着力が低下して、サファイア基板10が吸着パッド130に対して横ズレすることがある。このとき、サファイア基板10は吸着パッド130の表面および保持部材120の内周壁121に囲まれているため、サファイア基板10の周側面と保持部材120の内周壁121とが接触することによりサファイア基板10の横ズレが抑止される。その状態で研磨を継続することにより、吸着パッド130の穴131内に再び負圧が発生して、吸着パッド130がサファイア基板10を吸着する。
【0030】
このように、仮に吸着パッド130によるサファイア基板10の吸着が一時的に解除された場合にも、サファイア基板10の研磨を継続して行なうことができる。
【0031】
また、吸着パッド130による吸着が一時的に解除された状態において、サファイア基板10は定盤30の回転による慣性力を受けつつ内周壁121に接触して、サファイア基板10の周方向に回転して自転する。保持部材120の内周壁121はテーパー形状を有しているため、内周壁121に接触したサファイア基板10は吸着パッド130から離れる方向に力を受けるため、再び吸着パッド130に吸着されるまでの時間が、内周壁121がテーパー形状でない場合に比べて長くなる。
【0032】
そのため、サファイア基板10が吸着パッド130に再度吸着されたときのサファイア基板10の自転による回転角度を大きくすることができる。その状態でサファイア基板10は研磨されるため、定盤30の中心側に接触する部分と径方向の端部側に接触する部分との位置を、サファイア基板10の面内において比較的大きく変えることができる。よって、サファイア基板10の基板面内における研磨ムラを抑制することができる。
【0033】
最後に、第2研磨工程(S104)後のサファイア基板10を吸着パッド130から取り外す(S105)。サファイア基板10の裏面12と吸着パッド130の表面との間の負圧を解消することで、サファイア基板10を容易に取り外すことができる。
【0034】
上記のようにサファイア基板10を研磨することにより、研磨工程後に粘着剤の粘着性を低下させる工程が不要となるため、工程を簡略化して研磨時間の短縮および研磨コストの低減を図ることが可能となる。
【0035】
なお、本実施形態においては、吸着工程S103において吸着パッド130の表面に付着させる液体として水を用いたが、その他にも、たとえばシリコーンオイルなどを用いてもよい。
【0036】
以下、本実施形態に係るサファイア基板の製造方法で研磨したサファイア基板の特性値を測定した実験結果について説明する。
【0037】
(実験例)
まず、直径が4inch、厚みが1.3mmのAs−Cutサファイア基板を準備した。そのサファイア基板を両面研磨装置のキャリアにセットして銅定盤により挟み込んだ。回転している銅定盤とサファイア基板との間に数十μmの粒径のボロンカーバイドを流し込み、サファイア基板の厚みが0.95mmになるまで研磨した。その後、サファイア基板を高温炉に入れて、1300℃の温度で10時間加熱した。
【0038】
その後、数μmの粒径のダイヤモンドスラリーを銅定盤上に散布してサファイア基板の表面を研磨した。さらに、数十nmの粒径のシリカを用いて研磨布でサファイア基板の表面を研磨した。
【0039】
ハイトゲージを用いて測定した研磨後のサファイア基板の厚みは0.9mmであった。また、Nidek社製の高精度デジタルフラットネステスターを用いて測定した、研磨後のサファイア基板の反りは5μm、厚みムラは6μmであった。
【0040】
原子間力顕微鏡を用いて測定したサファイア基板の表面の面粗度は0.01nm〜0.3nmであった。表面段差測定装置を用いて測定したサファイア基板の裏面の面粗度は0.6μmであった。
【0041】
上記の実験結果から、本実施形態に係るサファイア基板の製造方法による研磨後のサファイア基板の特性値は、半導体層をエピタキシャル成長させるために好ましい条件である、厚さ100μm以上、反り50μm以下、厚みムラ30μm以下、表面の面粗度10nm以下、および、裏面の面粗度10nm以上を満たすことが確認された。このサファイア基板は、裏面に微細凹凸が形成されており、半導体層をエピタキシャル成長させた際に、成膜結晶との格子定数差に起因する転位を低減できる。
【0042】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0043】
10 サファイア基板、11 表面、12 裏面、20 水、30 定盤、100 基板保持部、110 プレート、120 保持部材、121 内周壁、130 吸着パッド、131 穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面に微細凹凸を有するエピタキシャル成長用のサファイア基板であって、
厚さが100μm以上、反りが50μm以下、厚みムラが30μm以下、表面の面粗度が10nm以下、および、裏面の面粗度が10nm以上である、サファイア基板。
【請求項2】
サファイア基板の両方の主面を研磨する第1研磨工程と、
前記第1研磨工程後の前記サファイア基板を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後の前記サファイア基板の一方の主面と、表面に複数の穴を有する吸着パッドの該表面とを液体を介して圧接させることにより、前記複数の穴に発生する負圧によって前記サファイア基板を前記吸着パッドに吸着させる吸着工程と、
前記吸着パッドに前記サファイア基板を吸着させた状態で、前記サファイア基板の他方の主面を研磨する第2研磨工程と、
前記第2研磨工程後の前記サファイア基板を前記吸着パッドから取り外す取外し工程と
を備え、
前記吸着パッドは、前記サファイア基板を吸着した状態において前記サファイア基板の周側面を囲む内周壁を有する保持部材の開口内に収容され、
前記内周壁は、横断面において、互いに対向する該内周壁同士の間の距離が前記吸着パッドから離れるに従って長くなるテーパー形状を有し、
前記第2研磨工程において、前記サファイア基板は前記吸着パッドの前記表面および前記保持部材の前記内周壁に囲まれている、サファイア基板の製造方法。
【請求項3】
前記液体が水である、請求項2に記載のサファイア基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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