説明

サルCYP3A遺伝子多型の検出および利用

【課題】CYP3Aファミリーの薬物代謝酵素により代謝され得る薬物の、ヒトにおける薬物動態、薬効および安全性を推測し、評価するために有用な、この酵素群の薬物代謝への影響を適切に評価することができるモデル動物を提供することを目的とする。
【解決手段】ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するために用いるモデル動物を選択する方法であって:サル個体において、CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型を検出する工程;および前記多型が、前記薬物代謝酵素の発現および/または機能を変化するものであるか評価する工程;を含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サルにおける、CYP3Aファミリーの薬物代謝酵素をコードする遺伝子多型の検出および利用に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の代謝には、チトクロムP450(CYP)と呼ばれる酵素が深く関与している。CYPは遺伝子ファミリーを形成しており、ヒトではこれまでに50種類を超えるCYP遺伝子の存在が報告され、サルを含む他の哺乳動物も多くのCYP遺伝子を有することが知られている(特許文献1〜2)。CYPは、アミノ酸配列の相同性に基づいて分類され、各CYPは、例えば「CYP1A1」というようにCYPに続けてファミリー名(数字)、サブファミリー名(アルファベット)、固有名(数字)を表記することによって特定される。
【0003】
CYPサブファミリーのうち、CYP3Aファミリーは、ヒトにおいて非常に多くの薬物代謝に関与することが知られる、最も重要なサブファミリーの1つである。CYP3Aファミリーの中でも、特にCYP3A4とCYP3A5は、ヒト肝臓におけるCYP含量の半分以上を占め、現在病院処方されている薬物の半数以上の代謝に関与している重要なCYPである(非特許文献1)。CYP3A4とCYP3A5は、非常に似た薬物代謝能を示し、基質も大半が重複しており、それぞれに特異的な機能についてはほとんどわかっていない。ヒトにおいて、CYP3A4およびCYP3A5タンパク質の発現における個人差が多数報告されており、その少なくとも一部は遺伝子多型によって引き起こされることが知られている(非特許文献2)。
【0004】
一方、従来、新薬開発の過程では、代謝のパターンがヒトに非常に似ていることから、代謝試験を含む薬物動態試験、薬効試験、安全性試験等でサルがモデル動物として頻用されている。しかしながら、一部の薬物について、サルの代謝パターンがヒトの代謝パターンと異なる場合があるとの報告がなされている(非特許文献3〜6)。
【0005】
また、ヒトと同様、サルについても、近年多数の遺伝子多型が報告されている(非特許文献7〜9)。サルにおいて、個体間での薬物代謝能の差異も報告されており(非特許文献10〜11)、この個体差の一因は薬物代謝酵素の遺伝子多型にあると考えられる。しかしながら、サルのCYP3Aファミリーに関する遺伝子多型はこれまでに報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2006/077873号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/077874号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Thummel KE et al., Annu Rev Pharmacol Toxicol (1998) 38:389-430
【非特許文献2】Kuehl P et al., Nat Genet (2001) 27:383-391
【非特許文献3】Nartimatsu S et al., Chem Biol Interact (2000) 127:73-90
【非特許文献4】Sharer JE et al., Drug Metab Dispos (1995) 23:1231-1241
【非特許文献5】Stevens JC et al., Drg Metab Dispos (1993) 21:753-760
【非特許文献6】Weaver RJ et al., Xenobiotica (1999) 29:467-482
【非特許文献7】Ferguson B et al., BMC Genomics (2007) 8:43
【非特許文献8】Hernandez RD et al., Science (2007) 316:240-243
【非特許文献9】Street SL et al., BMC Genomics (2007) 8:480
【非特許文献10】Jacqz E et al., Mol Pharmacol (1988) 34:215-217
【非特許文献11】Zhang H et al., Drug Metab Dispos (2007) 35:795-805
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような背景のもと、ヒトにおいて、CYP3Aファミリーの酵素群およびそれらの薬物代謝能に関する研究は非常に重要であり、その研究に適したモデル動物は非常に有用である。また、そのようなモデル動物を用いた薬物動態試験、薬効試験、安全性試験等の結果から、ヒトにおける薬物動態を推測し、ヒトにおける安全性を高めるためには、この酵素群の薬物代謝への影響を適切に評価する必要がある。特に薬物代謝能の非常に似た酵素であるCYP3A4とCYP3A5については、個別にこれらの機能を解析することができるモデル動物が提供できれば、それぞれの酵素の特徴の理解に非常に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、サルにおいて、CYP3Aファミリーの遺伝子に多型が存在することを初めて見出した。また、CYP3Aファミリーのうち、特にCYP3A4およびCYP3A5について、それぞれ、これらの遺伝子の多型であって、発現タンパク質が薬物代謝活性を示さない多型を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するために用いるモデル動物を選択する方法であって:サル個体において、CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型を検出する工程;および前記多型が、前記薬物代謝酵素の発現および/または機能を変化するものであるか評価する工程;を含む方法に関する。
また、本発明は、前記CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素が、CYP3A4またはCYP3A5である、前記の方法に関する。
また、本発明は、前記CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素が、CYP3A4であり、前記多型がIVS3+1delG、c.436G>C、c.442A>T、c.475A>T、c.485G>A、c.574A>G、c.577A>G、c.878T>A、c.886G>A、c.974C>G、c.1048G>A、c.1298C>T、c.1310G>Aおよびc.1468G>Cからなる群から選択される、前記の方法に関する。
また、本発明は、前記多型がIVS3+1delGである、前記の方法に関する。
また、本発明は、前記CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素が、CYP3A5であり、前記多型がc.625A>T、c.264C>G、c.430G>A、c.463A>G、c.689T>C、c.878A>T、c.967A>T、c.1244G>A、c.1310G>Cおよびc.1437C>Gからなる群から選択される、前記の方法に関する。
また、本発明は、前記多型がc.625A>Tである、前記の方法に関する。
また、本発明は、前記サル個体がカニクイザルまたはアカゲザルである、前記の方法に関する。
また、本発明は、前記サル個体において検出された多型を、ヒトにおいてCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型と比較する工程をさらに含む、前記の方法に関する。
さらに、本発明は、ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するために用いるモデル動物を選択する方法であって:(a) サル個体において、CYP3A4をコードする遺伝子の多型1を検出する工程;(b) サル個体において、CYP3A5をコードする遺伝子の多型2を検出する工程;(c) 前記多型1が、CYP3A4の発現および/または機能を変化するものであるか評価する工程;および(d) 前記多型2が、CYP3A5の発現および/または機能を変化するものであるか評価する工程;を含む方法に関する。
また、本発明は、前記多型1がCYP3A4の発現および/または機能を変化するものでなく、かつ、前記多型2がCYP3A5の発現および/または機能を変化するものである場合に、前記サル個体をモデル動物として選択する、前記の方法に関する。
また、本発明は、前記多型2がc.625A>Tである、前記の方法に関する。
また、本発明は、前記多型1がCYP3A4の発現および/または機能を変化するものであり、かつ、前記多型2がCYP3A5の発現および/または機能を変化するものでない場合に、前記サル個体をモデル動物として選択する、前記の方法に関する。
また、本発明は、前記多型1がIVS3+1delGである、前記の方法に関する。
さらに、本発明は、ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するために用いるモデル動物を選択する方法であって、少なくとも2以上のサル集団のそれぞれについて、少なくとも2以上のサル個体において、CYP3Aファミリーの薬物代謝酵素をコードする遺伝子における多型を検出する工程;検出された多型について、前記集団内におけるアレル頻度を算出する工程;および算出されたアレル頻度を前記集団間で比較する工程を含み、アレル頻度のより高いまたはより低いサル集団からのサル個体を、モデル動物として選択する方法に関する。
さらに、本発明は、ヒトまたはサルのCYP3A4およびCYP3A5の機能を評価するための試験に用いるモデル動物を作出する方法であって、(i) CYP3A5をコードする遺伝子においてc.625A>Tをヘテロ接合体またはホモ接合体で有するサル個体を選択する工程;および(ii) 前記工程(i)で選択されたサル個体同士、または前記工程(i)で選択されたサル個体と別のサル個体とを交配させる工程;を含む方法に関する。
さらに、本発明は、ヒトまたはサルのCYP3A4およびCYP3A5の機能を評価するための試験に用いるモデル動物を作出する方法であって、(i’) CYP3A4をコードする遺伝子においてIVS3+1delGをヘテロ接合体またはホモ接合体で有するサル個体を選択する工程;および(ii’) 前記工程(i')で選択されたサル個体同士、または前記工程(i')で選択されたサル個体と別のサル個体とを交配させる工程;を含む方法に関する。
さらに、本発明は、薬物動態試験、薬効試験および/または安全性試験に用いられるモデル動物であって:CYP3A4をコードする遺伝子においてIVS3+1delGをヘテロ接合体またはホモ接合体で有すること;および/またはCYP3A5をコードする遺伝子においてc.625A>Tをヘテロ接合体またはホモ接合体で有すること;を特徴とするサルに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、CYP3Aファミリーの薬物代謝酵素により代謝され得る薬物の、ヒトにおける薬物動態、薬効および安全性を推測し、評価するために非常に有用な、この酵素群の薬物代謝への影響を適切に評価することができるモデル動物が提供される。これらのモデル動物を用いた薬物動態試験、薬効試験、安全性試験等の結果から、ヒトにおける薬物動態、薬効、安全性を適切に推測し、評価することができる。また、既に薬物動態試験、薬効試験、安全性試験等に用いたサル個体について、本発明の方法を適用すれば、該試験に用いるモデル動物として適切であったか否かを判断することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明に係る方法は、サル個体において、CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型を検出する工程を含む。
【0013】
本明細書において「サル」とは、旧世界ザル、新世界ザル、原猿類等を含み、ヒトを除く霊長目(primates)に属する動物を意味する。特に、本発明が、ヒトにおける薬物代謝を調べるためのモデル動物を提供するという観点からは、旧世界ザルが好ましく、マカク属のサル(Macaca)(例えば、カニクイザル(Cynomolgus macaque、Macaca facicularisまたはMacaca irus)、アカゲザル(Rhesus macaque、Macaca mulatta)、ブタオザル(Pig-tailed macaque、Macaca nemestrina)、ニホンザル(Japanese macaque、Macaca fuscata)等)およびアフリカミドリザル(African green monkey、Cercopithecus aethiops)がより好ましい。特に、ヒトとよく似た薬物代謝能を示すことが知られるカニクイザルおよびアカゲザルが好ましい。
【0014】
本明細書中において、「CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素」は、ヒトおよび上記サルにおいて見出されるCYP3Aファミリーに属する全ての分子種を含み、例えばヒトおよびマカク属のサルで見出されているCYP3A4、CYP3A5、CYP3A7およびCYP3A43を含む。特に本発明が、ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するためのモデル動物に関するという観点からは、これらのうち、ヒト肝臓におけるCYP含量の半分以上を占め、現在病院処方されている薬物の半数以上の代謝に関与していることが知られるCYP3A4およびCYP3A5が好ましい。
【0015】
「CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子」としては、例えばヒトにおいては、ヒトCYP3A4 cDNA (配列番号5、GenBankアクセッション番号NM 017460)、ヒトCYP3A5 cDNA (配列番号6、GenBankアクセッション番号NM 000777)、CYP3A7(配列番号7、GenBankアクセッション番号NM 000765)、CYP3A43(配列番号8、GenBankアクセッション番号NM 022820)が知られている。このような、既知のCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子と、サルにおいてオーソログである遺伝子について、多型を検出することで、上記の工程を行うことができる。
【0016】
サルにおいて、CYP3A4はヒトCYP3A4と似た薬物代謝能を示すことが知られ(Carr B et al., Drug Metab Dispos (2006) 34:1703-1712、Uno Y et al., Arch Biochem Biophys (2007) 46:98-105)、ヒトCYP3A4とオーソログである遺伝子が、カニクイザルおよびアカゲザルで特性分析されており、P450 nomenclature committeeにおいて、それぞれ、CYP3A8およびCYP3A64と命名されている。これらは本明細書中において、それぞれ、カニクイザルCYP3A4およびアカゲザルCYP3A4とも言う。GenBankに登録されているこれらの遺伝子(cDNA)は、カニクイザルCYP3A4 cDNA (GenBankアクセッション番号S 53047、配列番号1)およびアカゲザルCYP3A4 (CYP3A64) cDNA (GenBankアクセッション番号NM 001040414、配列番号2)である。
【0017】
同様に、サルにおいて、ヒトCYP3A5とオーソログである遺伝子が、カニクイザルおよびアカゲザルで見出されており、P450 nomenclature committeeにおいて、それぞれ、CYP3A5およびCYP3A66と命名されている。これらは本明細書中において、それぞれ、カニクイザルCYP3A5およびアカゲザルCYP3A5とも言い、カニクイザルCYP3A5は特性分析されている。GenBankに登録されているこれらの遺伝子(cDNA)は、カニクイザルCYP3A5 cDNA (GenBankアクセッション番号DQ 074795、配列番号3)およびアカゲザルCYP3A5 cDNA (GenBankアクセッション番号NM 001040219、配列番号4)である。
【0018】
本明細書中において、「多型」とは、CYP3Aファミリーの薬物代謝酵素の遺伝子の塩基配列上の個体間での変化を意味し、かかる変化は、塩基の付加、欠失、挿入、置換のいずれであってもよく、変化を生じる塩基の数も限定されない。個体間での変化の頻度が高いものを多型と呼び、低いものを変異と呼ぶ概念もあるが、本明細書中においては、多型と変異を区別しない。
【0019】
本発明に係る方法で検出する多型としては、塩基配列上で一の塩基のみが個体間で異なる一塩基多型(SNPs)が好ましく、SNPsであればエクソンに存在するcSNPs、転写領域に存在するrSNPs、遺伝子領域でない部分に存在するgSNPsのいずれであってもよいが、好ましくはcSNPsである。本明細書中において、SNPsを記載する場合には、コーディング鎖側の塩基で記載する。
【0020】
多型を検出するために用いる遺伝子は、サル個体から当業者に公知の手法を用いて得ることができる。そのような遺伝子(ゲノム)を得るための試料は、体細胞由来であれば特に限定されず、例えば血液試料、肝臓試料などを用いることができる。サルにおいて、CYP3A4は肝臓および空腸で強く発現することが知られ(Carr B et al., Drug Metab Dispos (2006) 34:1703-1712、Uno Y et al., Arch Biochem Biophys (2007) 46:98-105)、これらの組織由来の試料はcDNAを得るために好ましく用いることができる。
【0021】
本発明の方法において、多型の検出は、CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子とオーソログである、サル個体の遺伝子領域および該遺伝子領域の両側に隣接する塩基について行うことができる。例えば、両側に隣接する2000塩基、好ましくは1000塩基、より好ましくは500塩基および該塩基に挟まれる遺伝子領域について、多型を検出することができる。
【0022】
本発明の方法において検出される多型の例を以下に示す。
CYP3A4をコードする遺伝子の多型としては、例えばIVS3+1delG、c.436G>C、c.442A>T、c.475A>T、c.485G>A、c.574A>G、c.577A>G、c.878T>A、c.886G>A、c.974C>G、c.1048G>A、c.1298C>T、c.1310G>A、c.1468G>C等が挙げられる。ここで、436、442等の数字は、カニクイザルCYP3A4遺伝子のcDNA配列としてGenBankに登録された配列番号1の塩基配列において翻訳開始点を+1として数えた場合の塩基配列の番号を表す。なお、翻訳開始点とは、配列番号1で表される塩基配列によりコードされるアミノ酸の開始コドンであるメチオニン(ATG)の最初の塩基(A)に対応し、配列番号1で表される塩基配列の55番目のAをいう。また、G>C、A>Tは、それぞれGがCに置換されていること、AがTに置換されていることを示す。IVS3+1delGはエクソン3の末端からイントロン3の第1番目の塩基にわたって存在するpolyGのうちの1塩基が欠損する遺伝子多型を示す。これによって、スプライシング・ドナーサイトが1塩基ずれることにより、スプライシングの結果生じる成熟mRNAのコード領域に1塩基の欠損が入る。従って、IVS3+1delGの多型が存在する場合には、フレームシフトが生じる。本発明者らは、カニクイザルCYP3A4において、IVS3+1delGの多型がある場合には発現タンパク質の酵素代謝能が失われることを確認している。他のサルやヒトにおいても、CYP3A4においてこの多型が存在する場合にはCYP3A4の機能が阻害される。
【0023】
CYP3A5をコードする遺伝子の多型としては、例えばc.625A>T、c.264C>G、c.430G>A、c.463A>G、c.689T>C、c.878A>T、c.967A>T、c.1244G>A、c.1310G>C、c.1437C>G等が挙げられる。ここで、625、264等の数字は、カニクイザルCYP3A5遺伝子のcDNA配列としてGenBankに登録された配列番号3の塩基配列において翻訳開始点を+1として数えた場合の塩基配列の番号を表す。なお、翻訳開始点とは、配列番号3で表される塩基配列によりコードされるアミノ酸の開始コドンであるメチオニン(ATG)の最初の塩基(A)に対応し、配列番号1で表される塩基配列の98番目のAをいう。このうち、c.625A>Tは625番目のAがTに置換される遺伝子多型を示し、これによって未熟な終止コドンが生じるため、翻訳されたとしても208番目までのアミノ酸が部分的に翻訳され、多くの機能に重要な領域(基質認識部位、ヘム結合領域を含む)が欠落したタンパク質が生じると推測される。本発明者らは、カニクイザルCYP3A5において、c.625A>Tの多型が存在する場合には発現タンパク質の酵素代謝能が失われることを確認している。他のサルやヒトにおいても、CYP3A5においてこの多型が存在する場合にはCYP3A5の機能が阻害される。
【0024】
本発明において、遺伝子の多型の検出は、当業者に公知の手法のいずれを用いても行うことができる。例えば、後述の実施例1および3に記載のように、既報のサルのCYP3Aファミリーの酵素の遺伝子と、被験対象の個体から得た対応遺伝子の配列を比較することによって行うことができる。たとえば、エクソンに存在する多型を検出したい場合には、それぞれのエクソンおよびその近傍領域を、プライマーを用いて増幅し、シーケンシングによって塩基配列を決定し、これを既報のCYP3Aファミリーの酵素の遺伝子の塩基配列と比較することができる(ダイレクトシーケンス法)。
【0025】
その他の手法としては、例えば、以下のような方法を用いることができる。
1. PCR-RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法
特定の多型を有する遺伝子では、制限酵素による切断によって生じる断片の長さが異なることを利用して、多型を検出する方法である。検出しようとする多型を含む領域をPCRによって増幅した後、増幅産物に変異部を認識する制限酵素を作用させ、断片を電気泳動法等により分離、同定する。生じた断片の長さから制限酵素による切断の有無、ひいては多型の有無を確認することができる。
2. ASP(Allele Specific Primer)-PCR
多型を含む領域にハイブリダイズするプライマーを用いてPCRを行い、多型を有する場合、当該プライマーと鋳型DNAとの間にミスマッチが生じるため伸長反応が起こらないことを利用する方法である。増幅産物を電気泳動法等により分離、同定し、増幅の有無を確認することによって、試料DNAの多型の有無を知ることができる。
3. 一本鎖DNA高次構造多型(SSCP)法
サルから抽出したDNAをPCRで増幅した後、1本鎖に解離させると、1本鎖DNAは塩基対形成をはじめとする種々の分子内相互作用で、塩基配列に依存した固有の高次構造をとり、わずかな塩基配列の違いが存在しても、高次構造が変化する。そのため1本鎖DNAをポリアクリル・アミド中で電気泳動すると、高次構造の違いに応じて移動度も異なり、この移動度の違いを検出することによって多型の有無を判定することができる。
4. 変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)法
尿素、ホルムアミド等の変性剤の濃度に勾配をつけたポリアクリルアミドゲル上で、必要に応じて制限酵素等で処理したサル由来の被検DNAサンプルと、正常DNA断片との混合物の電気泳動を行ってサンプルを分離する。多型に起因するミスマッチが存在すると、より低い濃度の変性剤で1本鎖に解離するため、ミスマッチのない2本鎖より泳動速度が速くなる。従って、正常DNAサンプルのバンドと比較することによって、1本鎖の存在の有無を検出することが可能となり、結果として多型の有無を検出することができる。
5. マイクロアレイを用いる方法
マイクロアレイ上に固定されたプローブDNAと、サル由来のDNAまたはRNAサンプルとのハイブリダイゼーションを検出して、多型の有無を解析する方法である。ハイブリダイゼーションの有無を検出する方法や、プローブDNAの3’末端を多型の予想される部位にあわせてハイブリダイゼーションさせ、標識したジデオキシヌクレオチドとDNAポリメラーゼを添加して、伸長反応の有無を検出する方法等がある。標識は、蛍光色素、放射性物質、電気化学的に検出できる化合物等各種選択することができる。
6. Pyrosequencing法
シーケンス反応を化学発光で検出する方法である。サル由来の被検DNAをPCRで増幅した後、1本鎖DNAを精製し、適当なプライマーをハイブリダイズさせてからデオキシヌクレオチドを一塩基ずつ添加する。伸長反応に伴って発生するピロリン酸がカスケード反応を開始させ、生じたATPによりルシフェリンを基質としてルシフェラーゼが発光する。この発光を検出することにより被検DNAの塩基配列を決定することができ、高精度に多型を検出できる(Alderborn, A. et ao.: Genome Res. (2000) 28:1249-1258)。
【0026】
その他の例として、質量分析計(MALDI TOF-MS等)を用いて、質量の違いにより多型を検出する方法や、クエンチャーと蛍光色素によって標識されたアレル特異的オリゴと、Taq DNAポリメラーゼを用いたPCR反応を行ってタイピングするTaqMan PCR法、標的DNAの一塩基ミスマッチの構造変化を特異的に認識する酵素を用いた蛍光シグナルの検出によるインベーダー法、LAMP法、SMAP法等が挙げられる。
【0027】
検出された多型が、前記薬物代謝酵素の発現および/または機能を変化するものであるかの評価には、例えば後述の実施例2および4に記載のように、該多型を有する遺伝子(cDNA)から発現させたタンパク質を得て、対照となるレファレンス遺伝子(cDNA)から発現させたタンパク質との物性を比較することにより判断する手法を用いることができる。また、該多型を有する遺伝子(cDNA)からの発現タンパク質について薬物代謝能を確認する手法も用いることができる。発現タンパク質による薬物代謝の確認に用いる薬物は、CYP3Aファミリーが代謝することが知られているものであれば特に限定されない。例えば、CYP3A4およびCYP3A5について、ヒトで基質特異性が確認されているミダゾラム(4’-OHまたは1’-OH)やニフェジピンを用いて薬物代謝能を確認することができる。
【0028】
検出された多型が、前記薬物代謝酵素の発現および/または機能を変化するものであるかは、該多型を有する遺伝子でコードされるアミノ酸配列を、対照となるレファレンス遺伝子でコードされるアミノ酸配列と比較することによって評価することもできる。個体の肝臓や血液由来の試料を用いて、レファレンスcDNAから発現させたタンパク質を認識する抗体を用いたウェスタンブロットにより、タンパク発現量の変化や発現タンパクの分子量がわかり、また、免疫染色によって細胞内における薬物代謝酵素の局在の変化がわかるため、これらの手法を用いて評価することもできる。RNAからcDNAを合成して塩基配列を決定することによって、スプライシングに影響を及ぼす多型において、スプライシングのパターンがどのように変化したのかという観点から評価することもできる。リアルタイムRT-PCR法によって野生型とは異なる転写産物(バリアント)の発現量を定量することによって評価することもできる。
【0029】
薬物代謝酵素の発現および機能の「変化」とは、酵素の発現の阻害、抑制および亢進ならびに酵素の機能の阻害、抑制および亢進のいずれも含み、このような変化によって、例えば、酵素の代謝活性、基質特異性、安定性等が変化し得る。
【0030】
本発明は、上記に詳述したように、サル個体において、CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型を検出し、前記多型が、前記薬物代謝酵素の発現および/または機能を変化するものであるか評価することにより、ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するために用いるモデル動物を選択する。選択されるモデル動物は、モデル動物を用いようとする試験および目的により異なる。
【0031】
例えば、CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型が存在しないかあるいは前記薬物代謝酵素の発現および/または機能を変化するものでないモデル動物は、薬物代謝パターンがヒトに近いモデルとして有用である。野生型または野生型に近い遺伝子型を有する標準個体としても有用である。ここで、「薬物代謝パターンがヒトに近い」とは、代謝される薬物の種類や代謝産物等がヒトに類似し、薬物動態試験、薬効試験、毒性試験等の結果もヒトと近似することを意味する。このようなモデル動物を用いた試験結果からは、ヒトでの試験結果を予測することができるため、医薬品開発の過程で、ヒトを用いた臨床試験に先立って行われる前臨床試験等において有用なモデル動物となる。
【0032】
また、CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型が存在しないかあるいは前記薬物代謝酵素の発現および/または機能を変化するものでないモデル動物は、個体差によるデータのばらつきの少ない試験結果を得るためのモデルとしても有用である。なお、データのばらつきの少ない試験結果を得るためには、同様の薬物代謝酵素機能(代謝活性、基質特異性、発現量等、酵素機能に関する特性のいずれも含む)を有する個体を複数頭用意し、モデル動物として試験に用いればよい。従って、上述のような、標準個体としても有用な個体のみならず、酵素機能や多型解析用のノックアウト様またはトランスジェニック様個体あるいはそれ以外の個体であっても、同等の薬物代謝酵素機能を示す個体であれば、データのばらつきの少ない試験結果を得るためのモデル動物として有用である。
【0033】
CYP3Aファミリーのうち、CYP3A4およびCYP3A5は、ヒトにおいて代謝する薬物がかなり重複する。ここで、CYP3A4をコードする遺伝子の多型を多型1とし、CYP3A5をコードする遺伝子の多型を多型2とすると、前記多型1が存在しないかあるいはCYP3A4の発現および/または機能を阻害または抑制するものでなく、かつ、前記多型2が存在しないかあるいはCYP3A5の発現および/または機能を阻害または抑制するものでないモデル動物は、薬物代謝パターンがヒトに近いモデルとして有用である。野生型または野生型に近い遺伝子型を有する標準個体としても有用である。
【0034】
また、前記多型1がCYP3A4の発現および/または機能を阻害または抑制するもの(例えばIVS3+1delG)であり、かつ、前記多型2が存在しないかあるいはCYP3A5の発現および/または機能を阻害または抑制するものでないモデル動物は、CYP3A4ノックアウト様動物としてCYP3A4の機能を評価するための試験に用いるモデル動物として有用であり、CYP3A5トランスジェニック様動物としてCYP3A5の機能を評価するための試験に用いるモデル動物としても有用である。
【0035】
また、前記多型1が存在しないかあるいはCYP3A4の発現および/または機能を阻害または抑制するものでなく、かつ、前記多型2がCYP3A5の発現および/または機能を阻害または抑制するもの(例えばc.625A>T)であるモデル動物は、CYP3A5ノックアウト様動物としてCYP3A5の機能を評価するための試験に用いるモデル動物として有用であり、CYP3A4トランスジェニック様動物としてCYP3A4の機能を評価するための試験に用いるモデル動物としても有用である。
【0036】
また、前記多型1がCYP3A4の発現および/または機能を阻害または抑制するもの(例えばIVS3+1delG)であり、かつ、前記多型2がCYP3A5の発現および/または機能を阻害または抑制するもの(例えばc.625A>T)であるモデル動物は、CYP3A4/CYP3A5ノックアウト動物としてCYP3A4/CYP3A5の機能を評価するための試験に用いるモデル動物として有用であり、さらに、CYP3A4とCYP3A5がCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素の主たるものであることから、例えばCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素が関与する薬物代謝機能全般の理解に用いるモデル動物として有用である。
【0037】
またヒトよりもCYP3A活性の高いサルにおいて、前記多型1がCYP3A4の発現および/または機能を阻害または抑制するものであり、かつ、前記多型2がCYP3A5の発現および/または機能をヒトと同レベルまで阻害または抑制するものであるモデル動物;前記多型1がCYP3A4の発現および/または機能をヒトと同レベルまで阻害または抑制するものであり、かつ、前記多型2がCYP3A5の発現および/または機能を阻害または抑制するものであるモデル動物;あるいは前記多型1がCYP3A4の発現および/または機能をヒトと同レベルまで阻害または抑制するものであり、かつ、前記多型2がCYP3A5の発現および/または機能をヒトと同レベルまで阻害または抑制するものであるモデル動物であって、ヒトと同レベルのCYP3A活性を有するサルは、薬物代謝パターンがよりヒトに近いモデルとして有用である。
【0038】
また、前記多型1が存在しないかあるいはCYP3A4の発現および/または機能を阻害または抑制するもの(例えばIVS3+1delG)であり、かつ、前記多型2が存在するモデル動物は、前記CYP3A5の多型2の機能を解析するためのモデル動物として有用である。同様に、前記多型1が存在し、かつ、前記多型2が存在しないかあるいはCYP3A5の発現および/または機能を阻害または抑制するもの(例えばc.625A>T)であるモデル動物は、前記CYP3A4の多型1の機能を解析するためのモデル動物として有用である。
【0039】
なお、既にモデル動物として薬物動態試験、薬効試験、安全性試験等に用いたサル個体について、上記の本発明の選択方法を適用することによって、前記試験において異常値が観察された場合等に、該異常値が、CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型(既知または新規の多型を含む)によるものであるか評価することができ、該異常値の原因を明らかにすることができる。これにより、適切なモデル動物を用いた試験によって得られた結果のみを選択することもできる。例えば、既にモデル動物として用いたサル個体であって前記試験において異常値が観察されたサル個体からCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型が検出された場合、この多型をヒトにおいてCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型と比較することにより、該異常値がヒトでも観察され得るか判断することができる。
【0040】
本発明は、一態様において、上記の手法によりサル個体において検出された多型を、ヒトにおいてCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型と比較する工程をさらに含む。該比較の結果、サル個体において検出された多型が、ヒトで機能が解明されている多型と同じ多型であれば、サルにおいて検出された前記多型が、薬物代謝酵素の発現および/または機能を変化するものであるか推測することができる。また、該比較の結果、サル個体において検出された多型であって機能が解明されている多型と同じ多型がヒトにおいて見いだされれば、ヒトにおける該多型の機能の推測に役立つ。
【0041】
本発明はまた、ヒトまたはサルのCYP3A4およびCYP3A5の機能を評価するための試験に用いるモデル動物を作出する方法であって:
(i) CYP3A5をコードする遺伝子においてc.625A>Tをヘテロ接合体またはホモ接合体で有するサル個体を選択する工程、および (ii) 前記工程(i)で選択されたサル個体同士、または前記工程(i)で選択されたサル個体と別のサル個体とを交配させる工程を含む方法;あるいは
(i') CYP3A4をコードする遺伝子においてIVS3+1delGをヘテロ接合体またはホモ接合体で有するサル個体を選択する工程、および (ii') 前記工程(i')で選択されたサル個体同士、または前記工程(i')で選択されたサル個体と別のサル個体とを交配させる工程を含む方法も提供する。
【0042】
工程(i)または(i')で選択されるサル個体はヘテロ接合体であってもホモ接合体であってもよいが、ホモ接合体を有するサル個体を選択することがより好ましい。このような選択は、当業者に公知の手法で行うことができる。例えば、後述の実施例1および4に記載するように、サル個体の組織サンプルからゲノムDNAを抽出し、ダイレクトシークエンス法によって上記の選択を行うことができる。
【0043】
工程(ii)または(ii')における、ヘテロ接合体またはホモ接合体のサル個体同士、あるいはこれらのサル個体と別のサル個体との交配は、ヘテロ接合体−ヘテロ接合体、ヘテロ接合体−ホモ接合体、ホモ接合体−ホモ接合体、ヘテロ接合体−ワイルドタイプ、ホモ接合体−ワイルドタイプのいずれの組み合わせであってもよい。交配は、自然交配のほか、体外受精や顕微受精、人工授精などの生殖工学技術を用いて行ってもよく、所望によりこのような交配を繰り返し、前記モデル動物となるサルを作出することができる。例えば、雄1頭と雌数頭を同居させる交配方式であるハーレム形式で繁殖させて新たな集団(コロニー)を構築することもできる。
【0044】
本発明はまた、ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するために用いるモデル動物を選択するためのキットを提供する。該キットはCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型を検出するための試薬および/または装置を含む。そのような試薬および装置としては、例えば、多型を検出するために用いるプライマー、プローブ、DNAチップ等が挙げられる。例えば、実施例の表1に記載した配列番号15、16および17のプライマーは、サルCYP3A4遺伝子における多型IVS3+1delGの検出に有用である。また、実施例の表4に記載した配列番号63、64および65のプライマーは、サルCYP3A5遺伝子における多型c.625A>Tの検出に有用である。
【0045】
上記のキットはさらに、検出された多型がCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素の発現および/または機能を変化するものであるか判断するための試薬および/または装置を含んでいてもよい。そのような試薬および装置としては、レファレンスとするCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の配列情報、タンパク質発現系(ベクター、培地、宿主菌体等)、該レファレンス遺伝子(cDNA)から発現するタンパク質、該タンパク質のアミノ酸情報、該タンパク質の物性データ、該発現タンパク質が代謝することが知られる薬物等が挙げられる。
【0046】
本発明はまた、ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するために用いるモデル動物を選択する方法であって、少なくとも2以上のサル集団のそれぞれについて、少なくとも2以上のサル個体において、CYP3Aファミリーの薬物代謝酵素をコードする遺伝子における多型を検出する工程;検出された多型について、前記集団内におけるアレル頻度を算出する工程;および算出されたアレル頻度を前記集団間で比較する工程を含み、アレル頻度のより高いまたはより低いサル集団からのサル個体を、モデル動物として選択する方法も提供する。
【0047】
ここで「2以上のサル集団」は、それぞれが異なる特徴を有する集団であれば限定されず、任意の2以上の集団であることができる。例えば、異なる亜目、科、属または種に属する集団、同一種に属するが異なる地域で生息する集団、異なる種に属し異なる地域で生息する集団、同一種に属し同一地域で生息するが異なるコロニーに属する集団等を挙げることができる。例えば、選択したサルからハーレム形式で繁殖させて形成されたコロニーは、雄の遺伝的背景の影響が強い集団となる。
【0048】
検出された多型についての集団内におけるアレル頻度の算出は、当業者に公知の手法を用いて行うことができ、例えば後述の実施例1および3の記載を参照して行うことができる。算出されたアレル頻度を集団間で比較し、任意の多型についてアレル頻度のより高い集団またはより低い集団からのサル個体を、モデル動物として選択することができる。アレル頻度の、より高い集団から選択するか、より低い集団から選択するかは、アレル頻度に対応する多型が、CYP3Aファミリーの薬物代謝酵素に及ぼす影響によって異なる。該多型が、用いようとする試験に対するモデル動物として好ましい多型であれば、そのアレル頻度のより高い集団から、該多型が、用いようとする試験に対するモデル動物として好ましくない多型であれば、そのアレル頻度のより高い集団から、サル個体をモデル動物としてを選択することができる。
【0049】
さらに、本発明によれば、サル集団を用いて行った薬物動態試験、薬効試験、安全性試験等において、サル集団間で異なる結果が得られた場合(例えば、同時に2以上のサル集団を用いて行った試験、同一のサル集団についての再試験、過去に行った試験と新たに行った試験等において、薬物の代謝活性、代謝物等が異なる場合等)に、2以上のサル集団のそれぞれについて、少なくとも2以上のサル個体において、CYP3Aファミリーの薬物代謝酵素をコードする遺伝子における多型を検出し、所望により検出された多型について、前記集団内におけるアレル頻度を算出することにより、前記試験結果のサル集団間での相異の原因がCYP3A遺伝子の多型であるか調べることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0051】
実施例1 サルCYP3A4における遺伝的変異の同定および解析
78個体のカニクイザル(インドシナ産38個体、インドネシア産40個体)および34個体のアカゲザル(中国産)のゲノムサンプルを用いて、遺伝的変異を同定した。本実験の方法は、倫理委員会により承認されたものである。
【0052】
〔カニクイザルおよびアカゲザルCYP3A4における遺伝的変異の同定〕
まず、上記各個体の血液サンプルから、製造者の使用説明書に従ってPUREGENE(登録商標) DNA isolation kit (Gentra Systems、Minneapolis、MN)を用いて、ゲノムDNAを調製した。得られた各サンプルのゲノムDNAについて、プライマーを用いて、各エクソンおよびその近傍領域をPCRで増幅した。PCRは、1ngのゲノムDNA、5pmoleのPCR用プライマー(FWプライマーおよびRVプライマー)ならびに1ユニットのAmpliTaq(商標)Gold DNA polymerase (AppliedBiosystems、Foster City、CA)を含む、20μLの反応液中で行い、サーマルサイクラー(AppliedBiosystems)を用いて増幅を実施した。反応条件は、最初の変性を95℃ 10分で行った後、95℃ 20秒、55℃ 30秒、72℃ 1分のサイクルを30回繰り返し、最終伸長を72℃ 10分で行った。得られたPCR産物の配列決定は、シーケンス用プライマーおよびABI PRISM(登録商標)BigDye(商標)Terminator v3.0 Ready Reaction Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems)を用いて実施した。その後、ABI PRISM(登録商標)3730 DNA Analyzer (Applied Biosystems)を用いて電気泳動を行った。PCRおよび配列決定に用いたプライマーを表1に示す。表1中、「F」はFWプライマー、「R」はRVプライマー、「S」はシーケンス用プライマーを示す。
【表1】

【0053】
〔配列解析〕
得られた配列データについて、DNASIS Pro (Hitachi Software、Tokyo、Japan)を用いてシーケンス解析を行った。カニクイザルのゲノムサンプルからの配列データについてはGenBankに登録されたカニクイザルのCYP3A4 (CYP3A8) cDNA配列 (GenBank アクセッション番号S 53047、配列番号1)を、アカゲザルのゲノムサンプルからの配列データについてはGenBankに登録されたアカゲザルのCYP3A4 (CYP3A64) cDNA配列 (GenBank アクセッション番号NM 001040414、配列番号2)を、それぞれレファレンス配列として用いて、各ゲノムサンプルのCYP3A4遺伝子において塩基置換を探索した。
【0054】
解析の結果、5'UTRに5個、コード領域に28個および3'UTRに10個の、全部で43個の変異がエクソンにおいて検出された。検出された変異に関しては、ヒトCYP3A4配列 (GenBankアクセッション番号NM 017460、配列番号5)との比較も行った(表2)。
【表2】

【0055】
〔遺伝的変異の解析〕
検出された変異のうち13個はnon-synonymous変異(アミノ酸が変化する変異)であり、そのうちc.886G>Aおよびc.1310G>Aは、それぞれSRS4およびヘム結合領域に位置していた。カニクイザルおよびアカゲザル間でのアレル頻度の比較により、同定された43個のアレルのうち、11個(25.6 %)がこれらの種で重複しており、24個がカニクイザルのみで、8個がアカゲザルのみで、それぞれ確認された。最近の研究では、アカゲザルで見出された遺伝子多型の約半分は、カニクイザルにも存在することが示唆されており(非特許文献9)、いずれかの種のサルで同定された遺伝的変異は、他方の種における遺伝的変異の解析においても利用できることが示唆される。
【0056】
〔遺伝的多様性の解析〕
CYP3A4のコード領域における、塩基対ごとの多様性を、アレル頻度に基づいて算出した。推定された多様度は、インドシナ産カニクイザルにおいて9.21 ´ 10-4、インドネシア産カニクイザルにおいて8.84 ´ 10-4 、アカゲザルにおいて1.22 ´ 10-3 であった。ヒトCYP3A4での遺伝的多様性は、既報のアレル頻度データ(Thompson EE et al., Am J Hum Genet (2004) 75:1059-1069)に基づいて、4.68 ´ 10-5であると推定された。ヒトと比較すると、サルにおけるCYP3A4の遺伝的多様性は、10倍程度高かった。このことは、ヒトと比較して、サルにおいて、CYP3A4が関与する薬物代謝能の個体差がより大きい可能性があることを示唆する。
【0057】
〔アレル頻度の地域差の解析〕
カニクイザルにおいて同定された遺伝子変異のアレル頻度から、c.1610T>Cが、本実施例で解析した動物群におけるメジャーアレルであることがわかった。これは、カニクイザル CYP3A4 cDNA(配列番号1)の同定(クローニング)に用いられた動物と、本実験において用いた動物との間の遺伝的な差異を反映していると考えられた。カニクイザルにおいてのみ見出された24個のアレルのうち、non-synonymous変異3個を含む10個の変異がインドシナ産に、non-synonymous変異5個を含む11個の変異がインドネシア産に、それぞれ特異的であることが明らかになり、アレル頻度に地域差が存在することが示唆された。同様に、中国産アカゲザルとインド産アカゲザルとの間にアレル頻度の地域差が存在することが報告されている(非特許文献7〜8)。このような、異なる集団間での遺伝的多様性は、薬物代謝能における差異を生じる可能性があるため、薬物代謝の研究には同一集団からの動物を用いることが好ましいと考えられる。
【0058】
実施例2 変異が導入されたサルCYP3A4タンパク質の発現および該タンパク質の薬物代謝活性の測定
実施例1で得られた遺伝的変異の機能的特性解析のために、発現プラスミドの構築、タンパク質の発現および該発現タンパク質についての薬物代謝活性の測定を、Uno Y et al., Arch Biochem Biophys (2007) 46:98-105およびYamazaki H et al., Drug Metab Dispos (1999) 27:999-1004に記載の手法を用いて行った。
【0059】
Iwataらが、ヒトリダクターゼcDNAと共発現させるようにpCWベクター(Barnes, HJ., Methods Enzymol (1996) 272:3-14)をもとに作製したベクターに、カニクイザルCYP3A4のcDNA (配列番号1)を直接クローニングした。発現レベルを高めるためにCYPのN末端をウシCYP17のN末端配列MALLLAVFに改変した。遺伝子多型の解析には、該当する変異を発現プラスミドのCYP配列に導入する必要があるが、これは製造者の使用説明書に従ってQuikChange(商標)XL II kit (Stratagene、La Jolla、CA)を用いて行った。使用したプライマー対を表1に示す。変異導入後の全配列を、実施例1と同様の手法を用いてシーケンシングにより確認した。次に、DH5α competent cells (Invitrogen、Carlsbad、CA)を形質転換した後、インサートの塩基配列と配向性をシーケンシングにより確認した。バクテリアは、100μg/mlのアンピシリンを含むLuria-bertani broth中で一晩培養した後、Iwata H et al., Biochem Pharmacol (1998) 55:1315-1325の方法に従って調整した。Terrific Brothで100倍に希釈し、200μg/mlのアンピシリン存在下、30℃で6時間〜12時間、OD600が約0.6〜0.8になるまで培養した。
【0060】
続いてイソプロピル-B-D-チオガラクトシド(IPTG) (Wako Pure Chemicals、Osaka、Japan)を最終濃度が1.5mMとなるように培養液に添加した。16時間〜20時間後、培養した細胞を採取して細胞膜画分を調製し、公知の方法(Omura T et al., J Biol Chem (1964) 239:2379-2385) に従い、U-3000 spectrophotometer (Shimadzu、Kyoto、Japan)を使用して、P450スペクトルを求めた。P450の発現を確認した後、Iwata H et al., Biochem Pharmacol (1998) 55:1315-1325の方法に従って、NAPDH-P450リダクターゼの濃度を測定した。発現させたタンパク質については、Yamazaki H et al., Drug Metab Dispos (1999) 27:999-1004の方法に従い、100μMのミダゾラムまたはニフェジピンを基質として、5pmoleのP450を用いて代謝活性を測定した。カニクイザルCYP3A4およびアカゲザルCYP3A4タンパク質は、ミダゾラムの1-水酸化活性を有することが知られている (Carr B et al., Drug Metab Dispos (2006) 34:1703-1712、Uno Y et al., Arch Biochem Biophys (2007) 46:98-105)。
【0061】
Non-synonymous変異のうち、SRS4におけるc.886G>A (V296M)およびヘム結合領域におけるc.1310G>A (S437N)を有するCYP3A4 cDNAを含むプラスミドを用いて発現させたタンパク質について、上記の手法を用いて活性を測定したところ、いずれの変異CYP3A4タンパク質も、変異のないレファレンスのタンパク質と比較して、活性に実質的な変化を示さないことが明らかになった(表3)。レファレンスのタンパク質として、カニクイザルCYP3A4 cDNA(配列番号1)を含む発現プラスミドを用いて発現させたタンパク質を使用して活性を測定した。今回調べた多型では代謝機能への影響は認められなかったが、SRSまたはヘム結合領域以外の領域のアミノ酸変化もタンパク質機能に影響を与える可能性がある。
【表3】

【0062】
実施例3 サルCYP3A4において見出された潜在的ヌルアレルの解析
実施例1において、エクソン3における潜在的ヌルアレルとして、IVS3+1delGが見出された(表2)。このアレルが存在するとフレームシフトが起こり、翻訳早期終止コドンが生じることにより、全タンパク質の約4分の1しか翻訳されないと推測される。公知の方法(Omura T et al., J Biol Chem (1964) 239:2379-2385)に従いU-3000 spectrophotometer (Shimadzu、Kyoto、Japan)を使用してCO差スペクトルを調べたところ、レファレンスとしたCYP3A4 cDNA配列(配列番号1)のタンパク質で観察された、450nm付近のCYP特異的ピークは、この変異タンパク質では観察されず、IVS3+1delGがヌルアレルであることが示唆された。
【0063】
実施例1と同様の手法を用いて、追加で199個体のインドネシア産カニクイザルのゲノムサンプルをスクリーニングした結果、IVS3+1delGの変異を有するヘテロ接合体を、さらに1個体見出した。全体としては、239個体の動物中2個体が、IVS3+1delGアレルについてヘテロ接合体であり、実施例1および3で解析したインドネシア産カニクイザルにおけるアレル頻度は0.004であると推定された。
【0064】
実施例4 サルCYP3A5における遺伝的変異の同定および解析
78個体のカニクイザル(インドシナ産38個体、インドネシア産40個体)および34個体のアカゲザル(中国産)のゲノムサンプルを用いて、遺伝的変異を同定した。本実験は、倫理委員会により承認されたものである。
【0065】
〔カニクイザルおよびアカゲザルCYP3A5における遺伝的変異の同定〕
表4に記載のプライマーを用いた以外は、実施例1と同様の手法を用いて実施した。表4中、「F」はFWプライマー、「R」はRVプライマー、「S」は配列プライマーを示す。
【表4】

【0066】
〔配列解析〕
得られた配列データについて、DNASIS Pro (Hitachi Software、Tokyo、Japan)を用いてシーケンス解析を行った。カニクイザルのゲノムサンプルからの配列データについてはGenBankに登録されたカニクイザルのCYP3A5 cDNA配列(GenBank アクセッション番号DQ 074795、配列番号3)を、アカゲザルのゲノムサンプルからの配列データについてはGenBankに登録されたアカゲザルのCYP3A5 cDNA配列(GenBank アクセッション番号NM 001030219、配列番号4)を、それぞれレファレンス配列として用いて、各ゲノムサンプルのCYP3A5遺伝子における塩基置換を探索した。
【0067】
解析の結果、5'UTRに5個、コード領域に29個の、全部で34個の変異がエクソンにおいて検出された。3’UTRには、変異は検出されなかった。検出された変異に関し、ヒトCYP3A5 cDNA配列(GenBank アクセッション番号NM 000777、配列番号6)との比較も行った(表5)。
【表5】

【0068】
〔遺伝的変異の解析〕
検出された変異のうち9個はnon-synonymous変異であり、そのうちc.1310G>Cおよびc.1437C>Gは、それぞれヘム結合領域およびSRS6に位置していた。カニクイザルおよびアカゲザル間でのアレル頻度の比較により、同定された43個のアレルのうち、6個(17.6 %)がこれらの種で重複しており、22個がカニクイザルのみで、6個がアカゲザルのみで、それぞれ確認された。
【0069】
〔遺伝的多様性の解析〕
CYP3A5のコード領域における、塩基対ごとの多様性を、アレル頻度に基づいて算出した。推定された多様度は、インドシナ産カニクイザルにおいて9.70 ´ 10-4、インドネシア産カニクイザルにおいて6.39 ´ 10-4であり、アカゲザルにおける値(1.02 ´ 10-3)と比較して若干低かった。ヒトCYP3A5での遺伝的多様性は、既報のアレル頻度データ(Thompson EE et al., Am J Hum Genet (2004) 75:1059-1069)に基づいて、1.10 ´ 10-4であると推定された。ヒトと比較すると、サルにおけるCYP3A5の遺伝的多様性は高かった。このことは、ヒトと比較して、サルにおいて、CYP3A5が関与する薬物代謝の個体差がより大きい可能性があることを示唆する。
【0070】
〔アレル頻度の地域差の解析〕
同定された遺伝的変異のアレル頻度から、c.387T>Aおよびc.1310G>Cが、本実施例で解析した動物群におけるメジャーアレルであることがわかった。これは、カニクイザル CYP3A5 cDNA(配列番号3)の同定(クローニング)に用いられた動物と、本実験において用いた動物との間の遺伝的な差異を反映していると考えられた。カニクイザルにおいて見出された変異のアレルのうち、non-synonymous変異3個を含む11個の変異がインドシナ産のみで、non-synonymous変異6個を含む10個の変異がインドネシア産のみで、それぞれ認められ、実施例1と同様、CYP3A5についても、アレル頻度の地域差が存在することが示唆された。
【0071】
実施例5 変異が導入されたサルCYP3A5タンパク質の発現および該タンパク質による薬物代謝活性の測定
ヘム結合領域およびSRSはタンパク質の機能に重要であると考えられているため、実施例2で得られた遺伝的変異のうち、コードされるアミノ酸が変化するc.1310G>C(ヘム結合領域)、c.1437C>G(SRS6)およびc.625A>T(SRS2)の遺伝的変異について、機能解析のために、発現プラスミドの構築、タンパク質の発現および該発現タンパク質についてのミダゾラムまたはニフェジピンを用いた薬物代謝活性の測定を行った。カニクイザルCYP3A5 cDNA(配列番号3)を含む発現プラスミドを用い、変異導入のためのプライマーとして表4に示したプライマー対を用いた以外は、実施例2と同様の手法を用いて行った。結果を表6に示す。レファレンスとして、カニクイザルCYP3A5 cDNA(配列番号3)から発現させたタンパク質を用いて活性を測定した。以下の実施例6に詳述するc.625A>T以外は、レファレンス配列から発現させたタンパク質と比較して代謝活性に顕著な変化を示さなかった。
【表6】

【0072】
実施例6 サルCYP3A5において見出された潜在的ヌルアレルの解析
実施例4において、エクソン7における潜在的ヌルアレルとして、c.625A>T (K209X)が見出された(表5)。このアレルが存在すると、翻訳早期終止コドンが生ずることにより、翻訳されたタンパク質は、ヘム結合領域および5つのSRSを含む、全アミノ酸の半分以上が欠損すると考えられ、完全なタンパク質が合成されない。この変異を有するタンパク質は、実施例4と同様の手法を用いて測定し場合にCO差スペクトルによる450nmのピークを示さなかった。
【0073】
実施例4と同様の手法を用いて、追加で218個体のインドネシア産カニクイザルのゲノムサンプルをスクリーニングした結果、c.625A>Tの変異を有するヘテロ接合体を、さらに2個体見出した。全体としては、258個体の動物中3個体が、c.625A>Tアレルについてヘテロ接合体であり、実施例4および6で解析したインドネシア産のカニクイザルにおけるアレル頻度は0.006であると推定された。
【配列表フリーテキスト】
【0074】
配列番号1は、カニクイザルCYP3A4 cDNAの塩基配列である(GenBank アクセッション番号S 53047)。
配列番号2は、アカゲザルCYP3A4 cDNAの塩基配列である(GenBank アクセッション番号NM 001040414)。
配列番号3は、カニクイザルCYP3A5 cDNAの塩基配列である(GenBank アクセッション番号DQ 074795)。
配列番号4は、アカゲザルCYP3A4 cDNAの塩基配列である(GenBank アクセッション番号NM 001040219)。
配列番号5は、ヒトCYP3A4 cDNAの塩基配列である(GenBank アクセッション番号NM 017460)。
配列番号6は、ヒトCYP3A5 cDNAの塩基配列である(GenBank アクセッション番号NM 000777)。
配列番号7は、ヒトCYP3A7 cDNAの塩基配列である(GenBank アクセッション番号NM 000765)。
配列番号8は、ヒトCYP3A43 cDNAの塩基配列である(GenBank アクセッション番号NM 022820)。
配列番号9は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン1を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号10は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン1を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号11は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン1のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号12は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン2を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号13は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン2を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号14は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン2のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号15は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン3を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号16は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン3を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号17は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン3のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号18は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン4を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号19は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン4を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号20は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン4のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号21は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン5〜6を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号22は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン5〜6を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号23は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン5〜6のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号24は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン7を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号25は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン7を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号26は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン7のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号27は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン8を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号28は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン8を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号29は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン8のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号30は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン9を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号31は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン9を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号32は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン9のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号33は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン10を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号34は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン10を増幅するためのプライマー(RV)およびシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号35は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン11を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号36は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン11を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号37は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン11のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号38は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン12を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号39は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン12を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号40は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン12のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号41は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン13を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号42は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン13を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号43は、サルCYP3A4遺伝子のエクソン13のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号44は、サルCYP3A4遺伝子の変異IVS3+1delGをプラスミドに導入するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号45は、サルCYP3A4遺伝子の変異IVS3+1delGをプラスミドに導入するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号46は、サルCYP3A4遺伝子の変異c.886G>Aをプラスミドに導入するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号47は、サルCYP3A4遺伝子の変異c.886G>Aをプラスミドに導入するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号48は、サルCYP3A4遺伝子の変異c.1310G>Aをプラスミドに導入するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号49は、サルCYP3A4遺伝子の変異c.1310G>Aをプラスミドに導入するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号50は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン1を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号51は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン1を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号52は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン1のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号53は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン2を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号54は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン2を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号55は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン2のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号56は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン3を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号57は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン3を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号58は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン3のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号59は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン4を増幅するためのプライマー(FW)およびシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号60は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン4を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号61は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン5〜6を増幅するためのプライマー(FW)およびシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号62は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン5〜6を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号63は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン7を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号64は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン7を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号65は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン7のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号66は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン8を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号67は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン8を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号68は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン8のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号69は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン9を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号70は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン9を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号71は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン9のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号72は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン10を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号73は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン10を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号74は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン10のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号75は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン11を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号76は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン11を増幅するためのプライマー(RV)およびシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号77は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン12を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号78は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン12を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号79は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン12のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号80は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン13を増幅するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号81は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン13を増幅するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号82は、サルCYP3A5遺伝子のエクソン13のシーケンス用プライマー(S)の塩基配列である。
配列番号83は、サルCYP3A5遺伝子の変異c.625A>Tをプラスミドに導入するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号84は、サルCYP3A5遺伝子の変異c.625A>Tをプラスミドに導入するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号85は、サルCYP3A5遺伝子の変異c.1310G>Cをプラスミドに導入するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号86は、サルCYP3A5遺伝子の変異c.1310G>Cをプラスミドに導入するためのプライマー(RV)の塩基配列である。
配列番号87は、サルCYP3A5遺伝子の変異c.1437C>Gをプラスミドに導入するためのプライマー(FW)の塩基配列である。
配列番号88は、サルCYP3A4遺伝子の変異c.1437C>Gをプラスミドに導入するためのプライマー(RV)の塩基配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するために用いるモデル動物を選択する方法であって:
サル個体において、CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型を検出する工程;および
前記多型が、前記薬物代謝酵素の発現および/または機能を変化するものであるか評価する工程;
を含む方法。
【請求項2】
前記CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素が、CYP3A4またはCYP3A5である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素が、CYP3A4であり、
前記多型がIVS3+1delG、c.436G>C、c.442A>T、c.475A>T、c.485G>A、c.574A>G、c.577A>G、c.878T>A、c.886G>A、c.974C>G、c.1048G>A、c.1298C>T、c.1310G>Aおよびc.1468G>Cからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多型がIVS3+1delGである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記CYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素が、CYP3A5であり、
前記多型がc.625A>T、c.264C>G、c.430G>A、c.463A>G、c.689T>C、c.878A>T、c.967A>T、c.1244G>A、c.1310G>Cおよびc.1437C>Gからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記多型がc.625A>Tである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記サル個体がカニクイザルまたはアカゲザルである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記サル個体において検出された多型を、ヒトにおいてCYP3Aファミリーに属する薬物代謝酵素をコードする遺伝子の多型と比較する工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するために用いるモデル動物を選択する方法であって:
(a) サル個体において、CYP3A4をコードする遺伝子の多型1を検出する工程;
(b) サル個体において、CYP3A5をコードする遺伝子の多型2を検出する工程;
(c) 前記多型1が、CYP3A4の発現および/または機能を変化するものであるか評価する工程;および
(d) 前記多型2が、CYP3A5の発現および/または機能を変化するものであるか評価する工程;を含む方法。
【請求項10】
前記多型1がCYP3A4の発現および/または機能を変化するものでなく、かつ、前記多型2がCYP3A5の発現および/または機能を変化するものである場合に、前記サル個体をモデル動物として選択する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記多型2がc.625A>Tである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記多型1がCYP3A4の発現および/または機能を変化するものであり、かつ、前記多型2がCYP3A5の発現および/または機能を変化するものでない場合に、前記サル個体をモデル動物として選択する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記多型1がIVS3+1delGである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ヒト用の医薬品候補化合物についての薬物動態、薬効および/または安全性を試験するために用いるモデル動物を選択する方法であって、
少なくとも2以上のサル集団のそれぞれについて、少なくとも2以上のサル個体において、CYP3Aファミリーの薬物代謝酵素をコードする遺伝子における多型を検出する工程;
検出された多型について、前記集団内におけるアレル頻度を算出する工程;および
算出されたアレル頻度を前記集団間で比較する工程を含み、
アレル頻度のより高いまたはより低いサル集団からのサル個体を、モデル動物として選択する方法。
【請求項15】
ヒトまたはサルのCYP3A4およびCYP3A5の機能を評価するための試験に用いるモデル動物を作出する方法であって、
(i) CYP3A5をコードする遺伝子においてc.625A>Tをヘテロ接合体またはホモ接合体で有するサル個体を選択する工程;および
(ii) 前記工程(i)で選択されたサル個体同士、または前記工程(i)で選択されたサル個体と別のサル個体とを交配させる工程;
を含む方法。
【請求項16】
ヒトまたはサルのCYP3A4およびCYP3A5の機能を評価するための試験に用いるモデル動物を作出する方法であって、
(i') CYP3A4をコードする遺伝子においてIVS3+1delGをヘテロ接合体またはホモ接合体で有するサル個体を選択する工程;および
(ii') 前記工程(i')で選択されたサル個体同士、または前記工程(i')で選択されたサル個体と別のサル個体とを交配させる工程;
を含む方法。
【請求項17】
薬物動態試験、薬効試験および/または安全性試験に用いられるモデル動物であって:
CYP3A4をコードする遺伝子においてIVS3+1delGをヘテロ接合体またはホモ接合体で有すること;および/または
CYP3A5をコードする遺伝子においてc.625A>Tをヘテロ接合体またはホモ接合体で有すること;
を特徴とするサル。

【公開番号】特開2010−220546(P2010−220546A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71595(P2009−71595)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(393030626)株式会社新日本科学 (5)
【Fターム(参考)】