説明

サンプリングシート

【課題】本発明は、気体、液体中や基板上の固形物の微小試料の分析に際して、赤外分光分析を行った後に熱分解ガスクロマトグラフィー分析を行うことができるサンプリングシートを提供することを目的とする。
【解決手段】赤外分光分析に用いるサンプリングシート(2)であって、前記シート(2)が赤外透過材料からなり、少なくとも、静電気発生装置(6)を備えた伝達部(5)に接続した2つの支持体(3、4)で支えられ、前記サンプリングシート(2)が900℃以下の所定温度で熱分解せず、また繊維状あるいは多孔質状であり、さらに赤外分光分析に用いた後に熱分解ガスクロマトグラフィー分析に用いることができることを特徴とする微小試料のサンプリングシートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外分光分析および熱分解ガスクロマトグラフィー分析に用いるサンプリングシートに関し、さらに詳しくは、試料としては気体、液体中や基板上の固形物に利用可能で、各種測定に供することができ、微小試料の分析に有用である。特に赤外分光分析と熱分解ガスクロマトグラフィー分析の双方に試料を供することができ、有機物の分析に効果的であるサンプリングシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子工学、生命科学等の分野では製品の高機能化及び高性能化が急速に進展しており、製品の要求品質も高まっている。
【0003】
製品製造においては、製造工程、各工程間の搬送もしくは放置の間に、製品中に微小な異物が混入、付着が起こると、外観不良、接着不良、電気的な接触不良等の製品の不具合を起こすことがある。そのため、微小異物の混入を防止することで、製品の歩留まりは向上し、製品の信頼性及び製造効率を改善することができる。かかる異物混入の防止策としては、この微小異物の組成を分析した上で、その結果に基づいて異物発生源を取り除くことが重要である。
【0004】
例えば、微小異物の組成を調べる方法として、有機物の場合、赤外分光分析、必要に応じて熱分解ガスクロマトグラフィー分析などがある。無機物が含まれる場合、エネルギー分散型X線分光分析等で主要元素を調べる。
【0005】
赤外分光分析は、試料を赤外線が通過するときに吸収されるエネルギーを各波数(波長)について観測し、得られた赤外線吸収スペクトルから分子の構造などを解析する方法である。赤外分光分析において、普通赤外領域(波数4000〜400cm-1)が分子振動の重要な情報を持っていてほとんどのピークがこの領域にあらわれる。
【0006】
また、試料に照射されるエネルギーは極めて小さく、試料を損傷することはほとんどない。
【0007】
中でも最近多用されるようになった顕微赤外測定装置は、赤外光の集光、試料観察及びマスキングの機能を併せもったフーリエ変換(FT−IR)付属装置である。これによって微小試料をそのままあるいは簡易な試料処理後に赤外測定の対象とすることができ、透過法、反射法、高感度反射法、ATR法、拡散反射法も顕微鏡と組み合わせて広く用いられている。
【0008】
一方、熱分解ガスクロマトグラフィー分析とは試料を瞬間的に高温にして熱分解させ、その熱分解生成物をクロマトグラフィーで分離・測定し、この結果に基づいてもとの化学構造を解析する方法である。
【0009】
熱分解ガスクロマトグラフィーでは、ガスクロマトグラフの試料注入口に温度制御された熱分解装置を直結した測定システムが一般に用いられる。現在頻用されている代表的な熱分解装置として、フィラメント、加熱炉、キュリーポイント(誘導加熱型)などの型式がある。高分子試料の熱分解は通常400〜900℃の一定温度で、不活性なキャリヤーガスの気流中で行われ、熱分解生成物はガスクロマトグラフの分離カラムで分離されて、記録計上にパイログラムとして記録させる。また必要に応じて、直結した質量分析計により各成分の質量スペクトルにより、同定を行う。
【0010】
先ず、基板上や液体、気体中の微小試料を分析に供するには捕集したり、基板上から被測定試料をサンプリングする必要がある。
【0011】
従来、微量試料の採取を行い、赤外分光分析を行う際には、例えばポリテトラフルオロエチレン製のシート又はポリエチレン製のシートからなる試料採取シートに試料を擦り取るといった方法が用いられてきた。(例えば、特許文献1参照。)。
【0012】
また、気体中や液体中に存在する微小試料を捕集し、その成分の赤外分光分析を行う際には、例えば次のようなフィルタが用いられてきた。これは、ポリテトラフルオロエチレンやポリエチレンから成るろ過膜の表面にパラフィンから成る粘着層を有し、ろ過膜及び粘着層に液体や気体を通過させて、液体中または気体中の微小試料を採取するものである。(例えば、特許文献2参照。)。
【0013】
以下に先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開平11−326158公報
【特許文献2】特開2000−46702公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記の手法には、以下のような問題点があった。ポリテトラフルオロエチレンは1250〜500cm-1、ポリエチレンは3000〜700cm-1に数本の強いピークがあらわれる。上記のサンプリングシートを用いた場合、赤外分光分析においては分析対象とピークが重なる可能性が高い。また、粘着物質が不純物となり、精度よく分析することが困難となる場合もある。例えば、パラフィンもまた3000〜700cm-1に数本の強いピークを有している。
【0015】
さらに、試料の分析には赤外分光分析だけでなく、複数の分析方法を用いる場合がある。例えば熱分解ガスクロマトグラフィー分析を行う場合、一般に上記の材料は、500℃程度で熱分解するため、そのまま上記のサンプリングシートを用いると、上記材料の熱分解生成物と試料の熱分解生成物が混在したパイログラムとなってしまい解析が困難である。
【0016】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、気体、液体中や基板上の固形物の微小試料の分析に際して、赤外分光分析を行った後に熱分解ガスクロマトグラフィー分析を行うことができるサンプリングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、本発明の請求項1に係る発明は、赤外分光分析に用いるサンプリングシート(2)であって、前記シート(2)が赤外透過材料からなり、少なくとも、静電気発生装置(6)を備えた伝達部(5)に接続した2つの支持体(3、4)で支えられていることを特徴とする微小試料のサンプリングシートである。
【0018】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1記載の微小試料のサンプリングシートにおいて、前記サンプリングシート(2)が900℃以下の所定温度で熱分解しないことを特徴とする微小試料のサンプリングシートである。
【0019】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の微小試料のサンプリングシート
において、前記サンプリングシート(2)が繊維状であることを特徴とする微小試料のサンプリングシートである。
【0020】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1又は2記載の微小試料のサンプリングシートにおいて、前記サンプリングシート(2)が多孔質状であることを特徴とする微小試料のサンプリングシートである。
【0021】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の微小試料のサンプリングシートにおいて、前記サンプリングシート(2)が赤外分光分析に用いた後に熱分解ガスクロマトグラフィー分析に用いることができることを特徴とする微小試料のサンプリングシートである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る微小試料のサンプリングシートは、赤外分光分析に用いるサンプリングシートであって、前記シートが赤外透過材料からなり、少なくとも、静電気発生装置を備えた伝達部に接続した2つの支持体で支えられ、また前記サンプリングシートが繊維状あるいは多孔質状であり、さらに該サンプリングシートが900℃以下の所定温度で熱分解しないことにより、静電吸着によりシートに試料を付着でき、静電吸着機構を外してもシートに保持したまま赤外分光分析および熱分解ガスクロマトグラフィー分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態を図1に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明に係るサンプリングシートの構成の1実施例を示す断面概念図である。
【0025】
本発明の1実施例のサンプリングシートは、図1に示すように、静電気を発生するための静電気発生装置(6)と、静電気発生装置(6)から発生した静電気をシート(2)に伝え、該シート(2)に試料(1)を静電吸着するための伝達部(5)と、前記シート(2)を保持するための支持体(3、4)から構成されている。
【0026】
前記シート(2)の材質は、熱分解装置中で熱分解しなく、赤外線の透過率が高く、例えば、石英ガラスなどを用いることができる。さらに石英ガラスは、普通赤外領域において主として1100cm-1付近にピークを有しているだけの赤外分光スペクトルを示すため、多くの有機、高分子材料のスペクトルと重ならない。加えて、石英ガラスは不活性であり、熱分解ガスクロマトグラフィー分析において、試料ホルダーや熱分解装置内壁の構造材料との接触反応で二次的な反応を起こすおそれがないという特長も有している。熱分解ガスクロマトグラフィー測定後もシートは熱分解や溶融しないため、回収し、再利用が可能である。
【0027】
シート(2)の形状は繊維状や多孔質状であることが好ましく、例えば石英ガラスファイバーなどが例示できる。
【0028】
静電気発生装置(6)は静電気を発生するために設けられる。静電気発生装置(6)としては、直流電圧を発生させることができる電源装置と極性を変えることができる切り替えスイッチを具備していれば特に制限はない。シート(2)の静電気による帯電方法としては、外部装置を設けたり、コロナ放電機のイオン雰囲気中にシートを曝して帯電させる方法を用いることができる。
【0029】
伝達部(5)は静電気発生装置(6)から発生した静電気をシート(2)に伝え、試料
(1)を静電吸着するために設けられる。該伝達部(5)の材質としては導電性材料であれば特に制限はないが、好ましくは金属がよい。伝達部(5)はシート(2)と平行に取り付けられていることが好ましい。
【0030】
支持体(3、4)はシート(2)の両側に取り付けられており、該支持体(3、4)はシート(2)から取り外せることが好ましい。例えば、形状はクリップ状やネジで固定などが挙げられる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明に係るサンプリングシートについて実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0032】
<実施例1>
本発明のサンプリングシートは、シートに用いる材料としてシリカ繊維ウールマットを用い、支持体がクリップ状であり、伝達部がアルミニウム製であり、静電気発生装置を備えたサンプリングシートを用意した。
【0033】
前記サンプリングシートを静電気発生装置により帯電させ、ステンレス基板上に付着しているニトリルゴム片を採取した。
【0034】
試料を採取したサンプリングシートごと赤外分光測定用のダイヤモンドセル上に置いた。2枚の平滑なダイヤモンドセル間に試料を含むシートを挟み、圧力をかけて試料を平坦化し薄膜化した後、顕微FT−IR測定を行った。
【0035】
次に、支持体からシートを取り外し、通常の熱分解ガスクロマトグラフィー測定用の試料カップにシートをそのまま詰めた。
【0036】
加熱炉型の熱分解装置を用いて、試料の熱分解ガスクロマトグラフィー分析を行った。試料の熱分解における操作は次のとおりである。試料カップをチャックに装着し、次に試料落下ボタンを押すことにより、予め590℃に設定した加熱部の中心部に落下させ、試料の瞬間熱分解を行った。
【0037】
本構成によれば、基板上の試料を簡単に採取でき、また採取した試料を赤外分光分析用の基板上に移し換えたりすることなく、赤外分光分析をすることができ、作業を効率的に行うことができた。さらに、有機物のスペクトルと重ならず、容易に赤外分光分析を行うことができた。
【0038】
また、シートが繊維状であるため、支持体から外した後も試料はシートに絡みついており、シートごと熱分解ガスクロマトグラフィー分析を行うことができた。また、シリカ繊維ウールマットの最高使用温度が1100℃であるため、熱分解装置中で熱分解することなく、測定結果に影響を与えずに分析できた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るサンプリングシートの構成の1実施例を示す断面概念図である。
【符号の説明】
【0040】
1・・・試料
2・・・シート
3、4・・・支持体
5・・・伝達部
6・・・静電気発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外分光分析に用いるサンプリングシートであって、前記シートが赤外透過材料からなり、少なくとも、静電気発生装置を備えた伝達部に接続した2つの支持体で支えられていることを特徴とする微小試料のサンプリングシート。
【請求項2】
前記サンプリングシートが900℃以下の所定温度で熱分解しないことを特徴とする請求項1記載の微小試料のサンプリングシート。
【請求項3】
前記サンプリングシートが繊維状であることを特徴とする請求項1又は2記載の微小試料のサンプリングシート。
【請求項4】
前記サンプリングシートが多孔質状であることを特徴とする請求項1又は2記載の微小試料のサンプリングシート。
【請求項5】
前記サンプリングシートが赤外分光分析に用いた後に熱分解ガスクロマトグラフィー分析に用いることができることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の微小試料のサンプリングシート。

【図1】
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