説明

サンプリング方法およびその装置

【課題】装置内で凝縮、付着する重質分の影響を抑制し、精度の高い全成分の分析データを短時間で得るためのサンプリング方法を提供する。
【解決手段】炭化水素の分解ガスをサンプリングする方法であって、(a)前記分解ガスをガスの状態で冷却器に導入し、第一の凝縮オイルを回収する工程と、(b)前記第一の凝縮オイルを分離した分解ガスを冷却器に導入し、工程(a)より低温に冷却して第二の凝縮オイルを回収する工程と、(c)第一及び第二の凝縮オイルを分離した分解ガスを回収する工程とを有することを特徴とするサンプリング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフサなどを原料とし熱分解を行うことで主としてエチレンを製造するエチレン分解炉からの分解ガスをサンプリングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分解炉からの分解ガスの組成を分析し、所定の収率で製品が得られているかを把握し、当該分解炉の運転調整や性能劣化状況をモニタリングすることを目的として、分解ガスの一部をサンプリングする装置は、従来から広く使用されている。しかし分解ガスを構成する全炭化水素成分(水素〜重油成分)のうち、たとえば炭素数3〜4以下の比較的軽質な炭化水素のみをサンプリングするもの(特許文献1)で、全成分の組成を調べる装置は知られていない。
【0003】
特許文献1に記載の装置によるサンプリングによると、分解炉性能を把握するための重要な指標である軽質炭化水素の相対比率(エチレン/プロピレン比率、メタン/エチレン比率)を把握することはできる。しかしながら、各成分の絶対収率を把握することはできないため、絶対収率は、当該相対比率と各成分の絶対収率との相関から、経験等に基づき推定するより無かった。
【特許文献1】特開昭58−18143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のサンプリング装置によると、分解ガスの全成分をもれなく分析できないのは、サンプリング装置内で重質成分が凝縮して装置内に付着してしまうことに原因があると本発明者は考えた。すなわち、サンプルを採取して分析装置にかける際の回収率が低いために、精度の良い分析データが得られない。精度の高い全成分の分析データを得るためには、装置内で凝縮、付着する重質分を最小限にする必要がある。
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、装置内で凝縮、付着する重質分の影響を抑制し、精度の高い全成分の分析データを短時間で得るためのサンプリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のガスサンプリング方法は以下に記載するとおりのものである。
(1)炭化水素の分解ガスをサンプリングする方法であって、
(a)前記分解ガスをガスの状態で冷却器に導入し、第一の凝縮オイルを回収する工程と、
(b)前記第一の凝縮オイルを分離した分解ガスを冷却器に導入し、工程(a)より低温に冷却して第二の凝縮オイルを回収する工程と、
(c)第一及び第二の凝縮オイルを分離した分解ガスを回収する工程と
を有することを特徴とするサンプリング方法。
(2)前記分解ガスを急冷熱交換器で300〜500℃に冷却した後、工程(a)〜(c)に供する(1)に記載のサンプリング方法。
(3)前記分解ガスを工程(a)で30〜90℃に冷却し、工程(b)で10〜25℃に冷却することを特徴とする(1)または(2)に記載のサンプリング方法。
(4)前記分解ガスが、ナフサの分解ガスであり、工程(a)で30〜50℃に冷却し、工程(b)で10〜25℃に冷却することを特徴とする(1)または(2)に記載のサンプリング方法。
(5)前記分解ガスが、灯油の分解ガスであり、工程(a)で40〜70℃に冷却し、工程(b)で10〜25℃に冷却することを特徴とする(1)または(2)に記載のサンプリング方法。
(6)前記分解ガスが、軽油の分解ガスであり、工程(a)で60〜90℃に冷却し、工程(b)で10〜25℃に冷却することを特徴とする(1)または(2)に記載のサンプリング方法。
(7)工程(a)において水を冷媒とし、工程(b)において冷却器で5〜10℃の冷水を冷媒とする、(1)〜(4)のいずれかに記載のサンプリング方法。
(8)直列に配置された第一及び第二の冷却器並びにガスサンプリング装置を有するサンプリング装置であって、
前記第一及び第二の冷却器は冷媒が流通するジャケットを有し、
炭化水素の分解ガスが第一の冷却器に導入されて第一の凝縮オイルが分離され、
残りの分解ガスは第二の冷却器に導入されて第二の凝縮オイルが分離され、
第一及び第二の凝縮オイルが分離された分解ガスの少なくとも一部がガスサンプリング装置に導入される
ことを特徴とするサンプリング装置。
(9)前記分解ガスは300〜500℃で前記第一の冷却器に導入され、
前記第一の冷却器で30〜90℃に冷却され、
前記第二の冷却器で10〜25℃に冷却される
ことを特徴とする(6)に記載のサンプリング装置。
(10)前記分解ガスがナフサの分解ガスであり、前記第一の冷却器で30〜50℃に冷却し、前記第二の冷却器で10〜25℃に冷却することを特徴とする(8)又は(9)に記載のサンプリング装置。
(11)前記分解ガスが灯油の分解ガスであり、前記第一の冷却器で40〜70℃に冷却し、前記第二の冷却器で10〜25℃に冷却することを特徴とする(8)又は(9)に記載のサンプリング装置。
(12)前記分解ガスが軽油の分解ガスであり、前記第一の冷却器で60〜90℃に冷却し、前記第二の冷却器で10〜25℃に冷却することを特徴とする(8)又は(9)に記載のサンプリング装置。
【発明の効果】
【0006】
本サンプリング方法によれば、装置内に付着し分析精度を悪化させる粘度の高い重質分を優先的に第一の凝縮オイルを回収する工程で回収することにより、装置内での重質分の付着を抑制し、分析精度の高いデータを得ることができる。更に、同一容量の凝縮オイルを一工程で回収するサンプリング方法に比べ、分解ガスの冷却面積を広く取ることができ、サンプリングに要する時間も短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施の一形態を、図1に示す。
分解ガスは、仕切り弁(V−1,V−2)、および調節弁(V−4)を通して本発明のサンプリング装置内に導入される。仕切り弁(V−1,V−2,V−3)は、ダブルブロックブリーディングシステムを形成しており、本発明のサンプリング装置を分解ガスの母管から着脱可能にしている。
ガスは、好ましくは既知の保温材で保温された配管を通って第一の冷却器に導入され、冷媒により30〜90℃に冷却される。第一の冷却器は第一段分離槽と冷媒が流通するジャケットからなる。冷却によって凝縮したオイルは主に炭素数が9以上の粘度の高い重質なオイルであり、仕切り弁(V−6)よりガラス瓶などに回収される。使用される冷媒は、分解ガスを所定の温度まで冷却する能力を持った温度範囲にあるものであればよく、たとえばもっとも簡便な例として工業用水が使用される。第一の冷却器には、好ましくは温度を監視するための温度計を設置する。
【0008】
前記冷却され凝縮オイルを除去された後の分解ガスは、第一の冷却器上部に接続された好ましくは既知の保温材で保温された配管を通り、第二の冷却器に導入され、冷媒により10〜25℃に冷却される。第二の冷却器は第二段分離槽と冷媒が流通するジャケットからなる。冷却によって凝縮したオイルは主に炭素数が9未満の粘度の低い軽質なオイルであり、仕切り弁(V−7)よりガラス瓶などに回収される。使用される冷媒は、分解ガスを所定の温度まで冷却する能力を持った温度範囲にあるものであればよく、たとえばもっとも簡便な例として工業用水を既知の冷却器で5〜10℃に冷却した冷水が使用される。第二の冷却器には、好ましくは温度を監視するための温度計を設置する。
【0009】
第二の冷却器で冷却され凝縮オイルを除去された後の分解ガスは、好ましくは分解ガス中にミスト状となって分散しているオイルをデミスターで分離した後、流量を測定する既知の流量計および積算流量を測定する既知のガスメーターを通し、一部は注射器等で回収され、残りはサンプリング装置外に排出される。デミスターで分離されたオイルは仕切り弁(V−8)よりガラス瓶などに回収される。
【0010】
なお本発明のサンプリング装置を洗浄する簡便な方法としては、工業用窒素を仕切り弁(NV−1,NV−2)を通して装置内に導入する方法をとるのが好ましい。圧力調整のためには一般に既知の調圧弁を使用し、装置内の圧力を監視するため、たとえば圧力計を本装置に付属させるのが好ましい。
【0011】
以下に、本構成のサンプリング装置によるサンプリング方法を詳しく説明する。
図1に示すサンプリング装置において、仕切り弁(NV−1,NV−2)を全開し、所定の圧力となるまで工業用窒素を装置内に導入した後いったん仕切り弁(NV−1,NV−2)を全閉し装置に漏れがないかを圧力計の指示の変化などで確認する。
【0012】
装置からの漏れがないことを確認後、仕切り弁(V−1,V−2,V−5)を全開し、調節弁(V−4)を徐々にあけ、装置内の窒素を分解ガスで置き換える。流量計が所定のガス流量となるよう調節弁(V−4)の開度を調整する。また仕切り弁(WV−1,WV−2)を全開し、所定の量の工業用水を第一の冷却器に流れるように調節弁(WV−4)の開度を調整するとともに、所定の量の工業用水を冷却器に流れるように調節弁(WV−5)の開度を調整する。また冷却器からの冷水が所定の量分離槽に流れるように調節弁(WV−6)の開度を調整する。第一の冷却器に流れる工業用水の流量は、第一の冷却器の分解ガス温度が30〜90℃の範囲になるように決定される。また、第二の冷却器に流れる冷水の流量は、2段分離槽内の分解ガス温度が10〜25℃の範囲になるように決定される。
【0013】
分解ガス量、第一の冷却器に流れる工業用水量、第二の冷却器に流れる冷水量を調整後、仕切り弁(V−6,V−7,V−8)を開けて所要時間経過後のオイルはガラス瓶などで回収される。回収されたオイルはその重量を天秤などで測定される。回収されたオイルに水が含まれる場合は分液ロートでオイルと水を分離しそれぞれの重量を測定すればよい。
【0014】
また、この所要時間でのガス積算量はガスメーターで測定され、別途分析によって得られた密度から重量に換算される。また、ガスの一部は注射器などで回収される。回収されたオイルおよびガスの一部は、それぞれガスクロマトグラフィーなどの分析計で組成が分析され、それぞれの重量割合に応じて合成され分解ガス全体の組成が容易に算出される。
なお本発明におけるガス流量およびサンプリング時間は、分析に必要なガスおよびオイル量が得られるように決められる。
【実施例】
【0015】
本発明のサンプリング方法を用いた実施例を以下に示す。サンプルガスは、表1に示す性状の原料を既知の熱分解炉において、反応温度802℃、スチーム/原料比率0.39wt/wtの条件で熱分解を施した後、400℃に冷却した後のガスを用いた。
【0016】
【表1】

【0017】
サンプリング装置内に前記ガスを1時間流通させ、第一冷却器で34℃、第二冷却器で15℃に冷却するよう冷媒量を調整した後、2時間この条件を保ったままガスを流通しこの間に回収したオイルの重量及び組成を分析した。またこの間にオイルが分離された後のガス積算量を記録するとともにガスの組成を分析した。本サンプリング方法で得られたサンプルガス中の水素含有率とあらかじめ分析した原料の水素含有率を表2に示す。サンプリング装置内で相対的に水素比率の低い重質留分が蓄積した場合、サンプリング分析したガスの水素含有率は原料の水素含有率より高くなる。本結果においても同様な傾向は見られるが、その差は小さく、本実施例に拠れば高い回収率でサンプリングできていることは明らかである。
【0018】
[比較例]
実施例のサンプリング装置において第二冷却器を取り外し第一冷却器で所定のガス温度まで冷却しオイルを回収した後のガスをデミスターに送気した結果を比較例として示す。使用したサンプルガスは実施例と同じサンプルガスとし、サンプルガス流通量、サンプル時間は実施例と同じとした。
【0019】
【表2】

【0020】
実施例及び比較例において、収率分析データから収率を計算する方法を以下に示す。
凝縮オイルのうちXwt%のみ回収でき、残りは装置内で付着ロスしたため原料の水素含有率と分析データから得られた水素含有率に差が生じた場合、下記に示す補正係数100/Xを回収オイルの収率分析データに乗じることで収率を計算することができる。
100/X = {(Hn−Hg)×Wg}/{(Hn−Ho)×Wo}
Hn:原料の水素含有率
Hg:積算ガスの水素含有率
Ho:回収オイルの水素含有率
Wg:積算ガス量
Wo:回収オイル量
【0021】
計算によって得られた収率(補正後)を分析データ(補正前)とともに表3に示す。オイル回収率の低い比較例では補正係数が大きく収率の精度が期待できないことは明らかである。
【0022】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のサンプリング方法によれば、高い回収率でサンプリングすることができ、精度の高い分析データを得ることができるので、ナフサなどを原料とし熱分解を行うことで主としてエチレンを製造するエチレン分解炉からの分解ガスのサンプリング方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態のサンプリング方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0025】
1 第一の冷却器
2 第二の冷却器
3 デミスター
4 流量計
5 ガスメーター
6 調圧弁
V−1 仕切り弁
V−2 仕切り弁
V−3 仕切り弁
V−4 調節弁
V−5 仕切り弁
V−6 仕切り弁
V−7 仕切り弁
V−8 仕切り弁
NV−1 仕切り弁
NV−2 仕切り弁
NV−3 仕切り弁
WV−1 仕切り弁
WV−2 仕切り弁
WV−3 仕切り弁
WV−4 調節弁
WV−5 調節弁
WV−6 調節弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素の分解ガスをサンプリングする方法であって、
(a)前記分解ガスをガスの状態で冷却器に導入し、第一の凝縮オイルを回収する工程と、
(b)前記第一の凝縮オイルを分離した分解ガスを冷却器に導入し、工程(a)より低温に冷却して第二の凝縮オイルを回収する工程と、
(c)第一及び第二の凝縮オイルを分離した分解ガスを回収する工程と
を有することを特徴とするサンプリング方法。
【請求項2】
前記分解ガスを急冷熱交換器で300〜500℃に冷却した後、工程(a)〜(c)に供する請求項1に記載のサンプリング方法。
【請求項3】
前記分解ガスを工程(a)で30〜90℃に冷却し、工程(b)で10〜25℃に冷却することを特徴とする請求項1又は2に記載のサンプリング方法。
【請求項4】
前記分解ガスが、ナフサの分解ガスであり、工程(a)で30〜50℃に冷却し、工程(b)で10〜25℃に冷却することを特徴とする請求項1又は2に記載のサンプリング方法。
【請求項5】
前記分解ガスが、灯油の分解ガスであり、工程(a)で40〜70℃に冷却し、工程(b)で10〜25℃に冷却することを特徴とする請求項1又は2に記載のサンプリング方法。
【請求項6】
前記分解ガスが、軽油の分解ガスであり、工程(a)で60〜90℃に冷却し、工程(b)で10〜25℃に冷却することを特徴とする請求項1又は2に記載のサンプリング方法。
【請求項7】
工程(a)において水を冷媒とし、工程(b)において冷却器で5〜10℃の冷水を冷媒とする、請求項1〜5のいずれかに記載のサンプリング方法。
【請求項8】
直列に配置された第一及び第二の冷却器並びにガスサンプリング装置を有するサンプリング装置であって、
前記第一及び第二の冷却器は冷媒が流通するジャケットを有し、
炭化水素の分解ガスが第一の冷却器に導入されて第一の凝縮オイルが分離され、
残りの分解ガスは第二の冷却器に導入されて第二の凝縮オイルが分離され、
第一及び第二の凝縮オイルが分離された分解ガスの少なくとも一部がガスサンプリング装置に導入される
ことを特徴とするサンプリング装置。
【請求項9】
前記分解ガスは300〜500℃で前記第一の冷却器に導入され、
前記第一の冷却器で30〜90℃に冷却され、
前記第二の冷却器で10〜25℃に冷却される
ことを特徴とする請求項8に記載のサンプリング装置。
【請求項10】
前記分解ガスがナフサの分解ガスであり、前記第一の冷却器で30〜50℃に冷却し、前記第二の冷却器で10〜25℃に冷却することを特徴とする請求項8又は9に記載のサンプリング装置。
【請求項11】
前記分解ガスが灯油の分解ガスであり、前記第一の冷却器で40〜70℃に冷却し、前記第二の冷却器で10〜25℃に冷却することを特徴とする請求項8又は9に記載のサンプリング装置。
【請求項12】
前記分解ガスが軽油の分解ガスであり、前記第一の冷却器で60〜90℃に冷却し、前記第二の冷却器で10〜25℃に冷却することを特徴とする請求項8又は9に記載のサンプリング装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−79954(P2009−79954A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248407(P2007−248407)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(390018728)山陽石油化学株式会社 (1)
【出願人】(502053100)石油コンビナート高度統合運営技術研究組合 (72)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000231707)新日本石油精製株式会社 (33)
【Fターム(参考)】