説明

サーバ室管理用の空調システムおよび空調制御方法

【課題】省エネ効果の高い空調制御を効率良く、確実に実行することが可能なサーバ室管理用の空調システムおよび空調制御方法を提供する。
【解決手段】空調制御対象のサーバ室から流出された還気および外気の少なくとも一方を導入し、予め設定された給気温度目標範囲且つ給気絶対湿度目標範囲且つ給気相対湿度目標範囲内の状態である目標状態の給気を生成するように、フィードバック制御で空調制御内容を設定する。このとき、外気が給気絶対湿度目標範囲の上限値以下、給気相対湿度目標範囲の上限値超、および目標状態の中に該当する予め設定された第1比エンタルピ以上であり、且つ還気が第1比エンタルピ以上である場合、または、外気と還気とを混合した給気が前記給気相対湿度目標範囲の上限値超になる場合には、目標値を切り替え、第1比エンタルピよりも高い第2比エンタルピに該当する状態の給気を生成するように空調制御目標値を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、サーバ室管理用の空調システムおよび空調制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野でIT化が進むにつれ、ネットワークへの接続回線や保守・運用サービスなどを顧客に提供するデータセンターの必要性が高まってきている。
【0003】
一般的にデータセンターでは、多数のサーバが設置されているため発熱量が多く、これらのサーバを正常に稼働させるためには適切に空調を行って所定範囲の環境条件に保つ必要がある。
【0004】
データセンターのように多数のコンピュータが設置された室内を冷却するための技術として、室内の下部空間から吸い込んだ空気を上部空間において吹き出すことにより、該空気がサーバラックの上部に吸い込まれるように構成した空調システムがある。
【0005】
この技術を利用することにより室内全体の温度勾配を少なくするとともに給気温度のばらつきを少なくして効率のよい空調制御を行うことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−172309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、データセンターのように空調すべき対象の負荷が情報機器である場合、負荷のほとんどが顕熱負荷である、設定温湿度が一定範囲であればよい、負荷でCOが発生しないので、CO濃度上昇防止のための換気が不要であるなど、一般のビルの状態とは異なる特徴があるが、従来のデータセンターではこれらに対応した空調制御は行われておらず、無駄なエネルギーを消費している場合があるという問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、省エネ効果の高い空調制御を効率良く、確実に実行することが可能なサーバ室管理用の空調システムおよび空調制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本実施形態のサーバ室管理用の空調システムは、空調制御対象のサーバ室から流出された還気および外気の少なくとも一方を導入し、予め設定された給気温度目標範囲且つ給気絶対湿度目標範囲且つ給気相対湿度目標範囲内の状態である目標状態の給気を生成するように、フィードバック制御で空調制御内容を設定する。このとき、外気が、給気絶対湿度目標範囲の上限値以下、且つ給気相対湿度目標範囲の上限値超、且つ目標状態の中に該当する予め設定された第1比エンタルピ以上であり、且つ還気が、第1比エンタルピ以上である場合、または、前記外気と前記還気とを混合した給気が前記給気相対湿度目標範囲の上限値超になる場合には、目標値設定を切り替え、目標状態の中で、第1比エンタルピよりも高い第2比エンタルピに該当する状態の給気を生成するように空調制御目標値設定する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態による空調システムの構成を示す全体図である。
【図2】一実施形態による空調システムの空調制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】一実施形態による空調システムの空調制御装置で分類される外気の状態範囲を空気線図上に示すグラフである。
【図4】一実施形態による空調システムの空調制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】一実施形態による空調システムの空調制御装置の空調制御内容設定部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〈一実施形態によるサーバ室管理システムの構成〉
本発明の一実施形態によるサーバ室管理システムの構成について、図1を参照して説明する。
【0012】
本実施形態によるサーバ室管理システム1は、データセンター等のサーバ室10と、このサーバ室10の空調を行う空調システム20とから構成される。
【0013】
サーバ室10は複数の開口部11aを有する二重床11が設置され、この二重床11上に複数のサーバ(図示せず)を格納した複数のサーバラック12−1〜12−4が設置されている。このサーバ室10では、設置されたサーバ内のファンまたはサーバラック12−1〜12−4に設置されたファンの稼働により、図1の矢印で示すように、二重床11の下部に流入した冷気が二重床11上の開口部11aから二重床11の上部に吸入され、サーバの発熱により加熱されて還気として流出するように気流が発生する。このように気流が発生することにより、二重床11の上部には、サーバラック12−1〜12−4に吸入する冷気を含んだ第1空間としてのコールドエリア13と、サーバラック12−1〜12−4から吹き出した暖気を含んだ第2空間としてのホットエリア14とが形成される。そして、サーバでは発生する熱が冷気により冷却されて正常に稼働可能となる。
【0014】
空調システム20は、還気ダクト21と、還気温度センサ22と、排気用ダンパ23と、室内ユニット24と、室外ユニット25と、給気ダクト26と、外気温度センサ27と、外気湿度センサ28と、空調制御装置29とを有する。
【0015】
還気ダクト21は空気を通す管であり、サーバ室10のホットエリア14と空調システム20の室内ユニット24とを接続する。
【0016】
還気温度センサ22は、ホットエリア14から流入した還気の温度を計測し、計測値を空調制御装置29に送信する。
【0017】
排気用ダンパ23は、還気ダクト21から外部に排出する還気量を、開度により調整する。
【0018】
室内ユニット24は、還気導入用ダンパ241と、外気導入用ダンパ242と、フィルタ243と、冷気生成装置としての加湿器244、冷却コイル245、および給気ファン246と、給気温度センサ247と、給気湿度センサ248とを有する。
【0019】
還気導入用ダンパ241は、還気ダクト21から室内ユニット24内に導入する還気量を、開度により調整する。
【0020】
外気導入用ダンパ242は、室内ユニット24内に導入する外気量を、開度により調整する。
【0021】
フィルタ243は、外気導入用ダンパ242が開状態にされたときに導入される外気、および還気導入用ダンパ241が開状態にされたときに還気ダクト21から導入される還気から、塵埃を除去する。
【0022】
加湿器244は、フィルタ243で塵埃が除去された外気および還気を、必要に応じて加湿する。
【0023】
冷却コイル245は、フィルタ243で塵埃が除去された外気および還気を、必要に応じて冷却して冷気を生成する。
【0024】
給気ファン246は、加湿器244により必要に応じて加湿されるとともに冷却コイル245により必要に応じて冷却されて生成された冷気を、給気ダクト26からサーバ室10の床下を経由してコールドエリア13に流入させる。
【0025】
給気温度センサ247は、サーバ室10に流入させる給気の温度を計測し、計測値を空調制御装置29に送信する。
【0026】
給気湿度センサ248は、サーバ室10に流入させる給気の湿度を計測し、計測値を空調制御装置29に送信する。
【0027】
室外ユニット25は、冷却コイル245に接続され、冷却コイル245で冷気を生成する際に利用される冷媒を供給する。
【0028】
給気ダクト26は空気を通す管であり、室内ユニット24と、サーバ室10のコールドエリア13に繋がる床下とを接続する。
【0029】
外気温度センサ27は、外気温度を計測し、計測値を空調制御装置29に送信する。外気湿度センサ28は、外気湿度を計測し、計測値を空調制御装置29に送信する。
【0030】
空調制御装置29は、図2に示すように、給気目標範囲情報記憶部291と、外気温湿度計測値取得部292と、空調制御内容設定部293と、機器制御部294とを有する。
【0031】
給気目標範囲情報記憶部291は、サーバ室10への給気温度目標範囲および給気湿度目標範囲を記憶する。
【0032】
外気温湿度計測値取得部292は、外気温度センサ27で計測された外気温度計測値、および外気湿度センサ28で計測された外気湿度計測値を取得する。
【0033】
空調制御内容設定部293は、給気目標範囲情報記憶部291に記憶された給気温度目標範囲および給気湿度目標範囲と、外気温湿度計測値取得部292で取得された外気温度計測値および外気湿度計測値と、還気温度センサ22で取得された還気温度計測値、給気温度センサ247で取得された給気温度計測値、および給気湿度センサ248で取得された給気湿度計測値に基づいて、予め設定された給気温度目標範囲且つ給気湿度目標範囲内の給気を生成するための空調制御内容を設定する。
【0034】
機器制御部294は、空調制御内容設定部293で設定された空調制御内容に基づいて、空調システム20内の各機器の動作を制御する。
【0035】
〈一実施形態によるサーバ室管理システムの動作〉
次に、本実施形態によるサーバ室管理システム1の動作について説明する。
【0036】
本実施形態において、サーバ室管理システム1の空調制御装置29の給気目標範囲情報記憶部291には、サーバ室10への給気温度目標範囲および給気湿度目標範囲が予め記憶されている。
【0037】
本実施形態においては、サーバ室10への給気の目標状態である給気温度目標範囲および給気湿度目標範囲として、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE;American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)の規定に従って、温度:18〜27℃、絶対湿度0.0056〜0.0107kg/kg且つ相対湿度60%以下とする範囲情報が記憶されているものとする。
【0038】
このように給気目標範囲情報記憶部291に給気温度目標範囲および給気湿度目標範囲が記憶されている状態で、空調制御装置29において、各機器の制御が行われるときの動作について説明する。
【0039】
まず、外気温湿度計測値取得部292で取得された外気温度計測値および外気湿度計測値が空調制御内容設定部293で取得される。
【0040】
次に、空調制御内容設定部293において、給気目標範囲情報記憶部291に記憶された給気温度目標範囲および給気湿度目標範囲に基づいて、予め設定された給気温度目標範囲且つ給気湿度目標範囲内の給気を生成するための空調制御内容が設定される。空調制御内容設定部293で実行される空調制御内容の設定処理について、詳細に説明する。
【0041】
まず、取得された外気温度計測値および外気湿度計測値に基づいて、現在の外気の状態が、図3に示すように分割された空気線図上のどの領域に該当するかが判定される。空気線図は、線図上に温度、絶対/相対湿度、エンタルピーなどから湿り空気の状態が分かるようにした線図のことである。
【0042】
図3の空気線図では、相対湿度100%(飽和状態)以下の空気の状態が、上述した給気温度目標範囲および給気湿度目標範囲で示される値と、この給気温度目標範囲且つ給気湿度目標範囲に該当する範囲の空気状態に対応するエンタルピーの上限値および下限値とに基づいて、以下に示す4つの空気状態範囲を示す領域I〜IVに分割されている。本実施形態において、上述した給気温度目標範囲且つ給気湿度目標範囲に対応するエンタルピー上限値は50kJ/kg(DA)であり、エンタルピー下限値は35kJ/kg(DA)であるものとする。
【0043】
−領域I(第1の空気状態範囲):
領域Iは、給気温度目標範囲、且つ目標とする給気絶対湿度範囲、且つ給気相対湿度範囲と同様の範囲、つまり空気線図上において下記式(1)を満たす範囲であり、サーバ室10の給気として適した目標状態の空気である。
【0044】
〔数1〕
(温度18度以上27度以下)
∩(絶対湿度0.0056 kg/kg(DA)以上0.0107 kg/kg(DA)以下)
∩(相対湿度60%以下) 式(1)
−領域II(第2の空気状態範囲):
領域IIは、目標とする給気絶対湿度範囲の下限値未満であり且つ目標とする範囲におけるエンタルピー下限値未満の範囲、つまり空気線図上において下記式(2)を満たす範囲、および、目標とする給気絶対湿度の範囲内であり且つ目標とする給気温度範囲の下限値未満または目標とする給気相対湿度の上限値以上の範囲、つまり空気線上において下記式(3)を満たす範囲である。
【0045】
〔数2〕
(絶対湿度0.0056 kg/kg(DA)未満)
∩(比エンタルピー35kJ/kg(DA)未満) 式(2)
〔数3〕
(絶対湿度0.0056 kg/kg(DA)以上0.0107 kg/kg(DA)以下)
∩{(温度18度未満)∪(相対湿度60%以上)} 式(3)
−領域III(第3の空気状態範囲):
領域IIIは、目標とする給気温度および給気湿度の範囲に対応するエンタルピー範囲内であり、且つ、目標とする給気絶対湿度範囲の下限値未満または目標とする給気温度範囲の上限値を超える範囲、つまり空気線上において下記(4)を満たす範囲である。
【0046】
〔数4〕
(比エンタルピー35kJ/kg(DA)以上比エンタルピー50kJ/kg(DA)以下)
∩{(絶対湿度0.0056 kg/kg(DA)未満)∪(温度27度超)} 式(4)
−領域IV(第4の空気状態範囲):
領域IVは、上記の領域I〜III以外の範囲である。
【0047】
現在の外気の状態がこれらの領域I〜IVのうちいずれの領域に該当するかが判定されると、空調制御内容設定部293において、外気温湿度計測値取得部292で取得された外気温度計測値、外気湿度計測値、および還気温度センサ22で計測された還気温度計測値、給気温度センサ247で計測された給気温度計測値、給気湿度センサ248で計測された給気湿度計測値が用いられ、それぞれ領域ごとに以下のように空調制御内容が設定される。ここでは空調制御対象となるのはサーバ室10内のサーバから発生する熱による顕熱負荷であり、人の呼気等による潜熱負荷は発生しないものと仮定し、還気湿度値は、給気湿度センサ248で計測される給気湿度計測値と同一であるものとする。
【0048】
−領域Iに該当する場合の空調制御内容:
現在の外気の状態が領域Iの範囲内にあるときは、外気がサーバ室10の環境に適した目標状態であるため、そのまま給気とすることが可能である。このため、排気用ダンパ23を全開にし、還気導入用ダンパ241を閉じ、外気導入用ダンパ242を全開にすることで、外気導入比率が100%になるように制御内容が決定される。またこのときは、加湿器244による加湿処理、および冷却コイル245による混合した空気の冷却処理は行われない。
【0049】
−領域IIに該当する場合の空調制御内容:
現在の外気の状態が領域IIの範囲内にあるときは、外気に還気を混合することで外気温度を加温するとともに必要に応じて加湿を行って目標状態(領域Iの状態)となるように制御内容が決定される。具体的には、排気用ダンパ23、還気導入用ダンパ241、および外気導入用ダンパ242の開度が外気導入比率に応じて0〜100%の間で調整されるとともに、必要に応じて加湿器244により加湿が行われるように制御内容が決定される。
【0050】
このとき外気導入比率の目標値αは、混合後の空気が、給気目標範囲情報記憶部291に記憶された給気温度目標範囲且つ給気湿度目標範囲内で予め設定された給気温度目標値になるように、外気温度計測値および還気温度計測値により調整される。
【0051】
このようにして外気導入比率が調整されて外気と還気とが混合された空気の絶対湿度値Xは、外気絶対湿度計測値Xo、還気絶対湿度計測値Xr、外気導入比率目標値αを用いると、下記式(5)のように表される。
【0052】
〔数5〕
X = Xo×α + Xr ×(1-α) 式(5)
このため混合された空気が目標とする給気湿度範囲の下限値以下であるときには、給気絶対湿度目標値Xs0との差分である Xs0-X 分の加湿が必要である。この差分の湿度値を上げるための必要加湿量は、給気流量Fsを用いると Fs×(Xs0-X)となり、この必要加湿量が供給されるように加湿器の水量を制御するための弁(図示せず)の制御内容が決定される。このとき、冷却コイル245による混合した空気の冷却処理は行われない。
【0053】
なお、外気と還気とを混合後に加湿を行う際の必要加湿量は上記のように決定されるが、還気をあらかじめ絶対湿度目標値{Xr+ (X-Xs0)/ (1-α) }になるように加湿しておくことで、混合後の加湿を不要にすることも可能である。
【0054】
この場合、外気導入比率目標値αは、外気温度計測値To、加湿後の還気温度値Tr2、給気温度目標値Ts0とすると、下記式(6)で表される。
【0055】
〔数6〕
α = (Tr2 - Ts0)/(Tr2 - To)×100(%) 式(6)
−領域IIIに該当する場合の空調制御内容:
現在の外気の状態が領域IIIの範囲内にあるときは、外気に加湿を行って目標状態(領域Iの状態)となるように制御内容が決定される。具体的には、排気用ダンパ23を全開にし、還気導入用ダンパ241を閉じ、外気導入用ダンパ242を全開にすることで、外気導入比率が100%にされるとともに、加湿器244により必要量の加湿が行われるように制御内容が決定される。
【0056】
この場合、外気絶対湿度計測値Xo、給気湿度目標値Xs0とすると、必要加湿量はXs0-Xoである。このとき、加湿に伴って外気温度がToからTに低下する。給気温度目標値Ts0がTより低い場合は、外気が給気温度目標値になるように冷却コイル245により冷却処理が行われるように制御される。
【0057】
−領域IVに該当する場合の空調制御内容:
現在の外気の状態が領域IVの範囲内にあるときは、還気を冷却して目標状態(領域Iの状態)となるように制御内容が決定される。具体的には、排気用ダンパ23を閉じ、還気導入用ダンパ241を全開にし、外気導入用ダンパ242を閉じることで、外気導入比率が0%にされるとともに、冷却コイル245により冷却、除湿処理が行われるように制御内容が決定される。このとき、加湿器244による加湿処理は行われない。
【0058】
なお、現在の外気の状態が領域IVの範囲内にあるときでも、サーバ室10内に作業者がおり換気が必要な場合は、一定量の外気を取り入れるように、予め外気導入比率に下限値を設定して制御してもよい。
【0059】
上述した処理により空調制御内容設定部293において空調制御内容が設定されると、これに基づいて排気用ダンパ23、還気導入用ダンパ241、および外気導入用ダンパ242の開度、加湿器244、冷却コイル245の制御量、給気ファン246の回転数を制御する制御信号が機器制御部294で生成され、各機器に送信されることにより制御が行われ、目標とする範囲内の給気温度値および給気湿度値の給気が生成される。
【0060】
上述したように空調制御目標値が設定される際には、例えば上記領域I内において、最も好適な比エンタルピ状態として予め設定された第1の比エンタルピである42kJ/kg(DA)の範囲を第1の目標設定範囲Yとし、この目標設定範囲Y上のいずれかの位置に該当する状態のときの温度値および絶対湿度値が、給気温度目標値Ts0および給気湿度目標値Xs0として設定される。
【0061】
このような設定処理において、外気の状態が上記領域IIに範囲にあるときには、図4のフローチャートに示すように実行される。
【0062】
現在の外気の状態が上記領域IIの範囲にあるときには、まずこの第1の比エンタルピ42kJ/kg(DA)に該当する図3の空気線図の点線上のいずれかの状態の空気になるような比率で外気と還気とが混合され、その後必要に応じて加湿されて気化冷却されることで目標設定範囲Y内の給気温度目標値Ts0および給気湿度目標値Xs0に該当する状態の空気に調整される。
【0063】
この一連の制御は、通常状態では、調整後の空気の温度値および湿度値と、給気温度目標値Ts0および給気湿度目標値Xs0との差分がなくなるように、フィードバック制御により効率よく実行されている(S1)。
【0064】
しかし、上記領域IIのうち、外気が、下記式(7)を満たす範囲の状態(図3の空気線図上の斜線部分;領域Iの給気絶対湿度目標範囲の上限値以下且つ給気相対湿度目標範囲の上限値超、且つ比エンタルピが第1の比エンタルピ以上の状態)にあり、還気が、第1の比エンタルピ以上の状態にある場合、または外気と還気とを混合した給気が第1の比エンタルピ程度であるが相対湿度が、給気条件の制約範囲である領域Iの上限値である60%より高くなる場合には(S2の「YES」)、外気と還気とを混合しても比エンタルピ42kJ/kg(DA)の状態の空気に調整することができない。
【0065】
〔数7〕
(絶対湿度0.0107 kg/kg(DA)以下)
∩(相対湿度60%以上)}
∩(比エンタルピー42kJ/kg(DA)以上) 式(7)
そのため空調制御装置29では、外気のみを取り込む状態で停滞してしまい、サーバ室10内を、サーバ室10に好適な上記領域Iで示される状態にすることができない。
【0066】
また、外気と還気とを混合した給気が、第1の比エンタルピ42kJ/kg(DA)程度であっても、相対湿度が60%より高くなる場合には、給気条件が制約範囲である領域Iを外れてしまう。
【0067】
そこで、外気が領域II内の上記式(7)を満たす範囲の状態にあり、還気が第1の比エンタルピ以上の状態にある場合、または外気と還気とを混合した給気が第1の比エンタルピ程度であるが相対湿度が60%より高くなる場合には、目標値設定を切り替え(S3)、給気温度目標値Ts0および給気湿度目標値Xs0を、領域Iの範囲内で、第1の比エンタルピよりも高い第2の比エンタルピに該当する設定範囲Z内の値にシフトさせる(S4)。
【0068】
これにより、シフト後の給気温度目標値Ts0および給気湿度目標値Xs0になるような比率で外気と還気とが混合され、領域I内の好ましい状態の空気が調整されるようになる。
【0069】
このとき例えば、図3の空気線図上で、外気の状態を示す位置と還気の状態を示す位置とを結ぶ線と、領域Iの給気相対湿度目標範囲の上限値である相対湿度60%を示す線との交点を給気温度目標値Ts0および給気湿度目標値Xs0とすることで、少ないエネルギーで効率良く制御することができる。
【0070】
図5に、上記システムを実現するための空調制御装置29の構成を示す。図5は、図2の空調制御装置29の空調制御内容設定部293の内部構造を示している。
【0071】
図4でも示したように、空調制御内容設定部293は、通常は外気条件(外気温度計測値、外気湿度計測値)、還気条件(還気温度計測値、還気温度計測値)を入力とし、機器の制御指示値を出力するようにフィードバック制御機能部293aが動作している。
【0072】
このとき、フィードバック制御の目標値は、外気が「上記式(7)を満たす範囲の状態にあり、還気が第1の比エンタルピ以上の状態にある場合、または外気と還気とを混合した給気が第1の比エンタルピ程度であるが相対湿度が60%より高くなる場合」に該当しないと目標値切替え機能部293cの判定部293c1で判定された場合(図4のS2の出力が「NO」)には、空調目標値(標準値)保持部293bに保存されている標準値(第1の比エタンルピ上の目標設定範囲Yの値)が用いられるように、目標値切替え機能部293cの切り替えスイッチ293c2で接続される。
【0073】
これに対して、外気が上記式(7)の範囲にあるかまたは外気と給気とを混合した給気の相対湿度が60%より高くなると目標値切替え機能部293cの判定部293c1で判定され、目標値変更要の場合(図4のS2の出力が「Yes」)、外気条件、還気条件を入力とする空調目標値作成機能部293dにより作成した第2の比エンタルピの目標値に、目標値切替え機能部293cの切り替えスイッチ293c2により切替えが行われる。これが図5中の目標値切替え機能である。この場合、切替えられた目標値に従ってフィードバック制御が行われる。
【0074】
その後外気条件が、「上記式(7)を満たす範囲の状態にあり、還気が第1の比エンタルピ以上の状態にある場合、または外気と還気とを混合した給気が第1の比エンタルピ程度であるが相対湿度が60%より高くなる場合」に該当しなくなった場合には(S5の「YES」)、再度通常の制御目標値設定に切り替え(S6)、空調制御が実行される。
【0075】
以上の実施形態によれば、外気の状態に応じて空調制御内容を切り替え、外気を利用した冷却を行う時間を長くするとともにサーバ管理に適した制御を確実に行うことで、省エネ効果の高いサーバ管理のための空調制御を行うことができる。
【0076】
このとき、外気、還気ともに比エンタルピが目標よりも高く、外気と還気とを混合することで目標の比エンタルピにすることができないために目標状態の空気に調整できないときにも、目標値設定を一定の範囲で切替え、目標状態の空気を得られるように調整可能とする。
【0077】
これにより、給気が目標状態からはずれている時間を短くすることができ、サーバ室を好適な状態に保つことができる。
【0078】
また、上記の各実施形態においては、給気温度目標範囲および給気湿度目標範囲として、米国空調学会(ASHRAE)の規定に従った値を用いたがこれには限定されず、制御対象の状態等に応じて他の値を用いてもよい。また、図3のように分割された各領域は、一部もしくは全部が他の領域と重なっていてもよい。
【0079】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1…サーバ室管理システム
10…サーバ室
11…二重床
12−1〜12−4…サーバラック
13…コールドエリア
14…ホットエリア
20…空調システム
21…還気ダクト
22…還気温度センサ
23…排気用ダンパ
24…室内ユニット
25…室外ユニット
26…給気ダクト
27…外気温度センサ
28…外気湿度センサ
29…空調制御装置
241…還気導入用ダンパ
242…外気導入用ダンパ
243…フィルタ
244…加湿器
245…冷却コイル
246…給気ファン
247…給気温度センサ
248…給気湿度センサ
291…給気目標範囲情報記憶部
292…外気温湿度計測値取得部
293…空調制御内容設定部
294…機器制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調制御対象のサーバ室から流出された還気の導入量を調整する手段と、
外気の導入量を調整する手段と、
前記導入された還気および外気の少なくとも一方から、予め設定された給気温度目標範囲、且つ給気絶対湿度目標範囲、且つ給気相対湿度目標範囲内の状態である目標状態の給気を生成するために、前記目標状態の中で予め設定された第1比エンタルピに該当する状態の給気を生成するように空調制御を行い、
前記外気が、前記給気絶対湿度目標範囲の上限値以下、前記給気相対湿度目標範囲の上限値超、および前記第1比エンタルピ以上であり、且つ前記還気が、前記第1比エンタルピ以上である場合、または、前記外気と前記還気とを混合した給気が前記給気相対湿度目標範囲の上限値超になる場合には、前記目標状態の中で、前記第1比エンタルピよりも高い第2比エンタルピに該当する状態の給気を生成するように、空調制御内容を切り替えて設定する空調制御内容設定部と、
この空調制御内容設定部で設定された空調制御内容に基づいて、外気導入量、還気導入量、および空調制御量を決定して前記サーバ室を空調するための空調機器を制御する機器制御部と、
を備えることを特徴とするサーバ室管理用の空調システム。
【請求項2】
前記空調制御内容設定部は、前記外気が、前記給気絶対湿度目標範囲の上限値以下、且つ前記給気相対湿度目標範囲の上限値超、且つ前記第1比エンタルピ以上であり、且つ前記還気が、前記第1比エンタルピ以上である場合、または、前記外気と前記還気とを混合した給気が前記給気相対湿度目標範囲の上限値超になる場合に、空気線図上において、当該外気の状態を示す位置と当該還気の状態を示す位置とを結ぶ線と、前記目標状態の給気相対湿度目標範囲の上限値を示す線との交点の状態の給気を生成するように空調制御内容を切り替えて設定する
ことを特徴とする請求項1に記載のサーバ室管理用の空調システム。
【請求項3】
サーバ室管理用の空調システムが、
前記サーバ室から流出された還気および外気の少なくとも一方を導入し、予め設定された給気温度目標範囲、且つ給気絶対湿度目標範囲、且つ給気相対湿度目標範囲内の状態である目標状態の給気を生成するために、前記目標状態の中で予め設定された第1比エンタルピに該当する状態の給気を生成するように空調制御を行い、
前記外気が、前記給気絶対湿度目標範囲の上限値以下、前記給気相対湿度目標範囲の上限値超、および前記第1比エンタルピ以上であり、且つ前記還気が、前記第1比エンタルピ以上である場合、または、前記外気と前記還気とを混合した給気が前記給気相対湿度目標範囲の上限値超になる場合には、前記目標状態の中で、前記第1比エンタルピよりも高い第2比エンタルピに該当する状態の給気を生成するように、空調制御内容を切り替えて設定し、
この設定された空調制御内容に基づいて、外気導入量、還気導入量、および空調制御量を決定して前記サーバ室を空調するための空調機器を制御する
ことを特徴とするサーバ室管理用の空調制御方法。
【請求項4】
前記外気が、前記給気絶対湿度目標範囲の上限値以下、且つ前記給気相対湿度目標範囲の上限値超、且つ前記第1比エンタルピ以上であり、且つ前記還気が、前記第1比エンタルピ以上である場合、または、前記外気と前記還気とを混合した給気が前記給気相対湿度目標範囲の上限値超になる場合に、空気線図上において、当該外気の状態を示す位置と当該還気の状態を示す位置とを結ぶ線と、前記目標状態の給気相対湿度目標範囲の上限値を示す線との交点の状態の給気を生成するように空調制御内容を切り替えて設定する
ことを特徴とする請求項3に記載のサーバ室管理用の空調制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−11427(P2013−11427A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145729(P2011−145729)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】