説明

サーボプレスの非常停止方法およびサーボプレス

【課題】非常事態の発生時に機器干渉を回避しつつスライドを迅速かつ確実に非常停止できるようにする。
【解決手段】モータを駆動してスライドを昇降しつつ加工領域でプレス成形可能に形成されたサーボプレスにおいて、回生式ブレーキ100と発電式ブレーキ150と機械式ブレーキ200と回生ブレーキ動作可否判別手段71と第1のブレーキ動作指令手段72と回生ブレーキ動作制御手段61と機械ブレーキ動作制御手段62と第2のブレーキ動作指令手段73と発電ブレーキ動作制御手段63とを設け、非常停止指令に基づき回生ブレーキ動作が実行可能であると判別された場合に回生ブレーキ動作および機械ブレーキ動作を実行させつつ所定の停止動作パターンに従いスライドを停止させ、回生ブレーキ動作が実行可能できないと判別された場合は発電ブレーキ動作および機械ブレーキ動作を実行させつつ所定の停止動作パターンに従いスライド停止可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
モータを駆動してスライドを昇降しつつ加工領域でプレス成形可能に形成されたサーボプレスおよびサーボプレスの非常停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スライドを昇降しつつ加工領域でプレス成形可能なプレスでは、通常運転中に非常事態(例えば、加工領域内に人手が侵入する事態)が発生した場合に非常停止するように形成される。
【0003】
例えば、クラッチ・ブレーキ装置を備えた伝統的なプレス(いわゆる機械プレス)では、非常停止指令に基づきブレーキ動作(クラッチOFF・ブレーキON)させてスライドを停止させている。この場合、電源遮断状態にすることが多い。また、ワークの搬送装置を具備する場合は、クランク駆動機構の一部(回転軸、リンク等)と搬送装置の駆動軸とを連結してスライド昇降とワーク搬送とを同期運転可能に形成されている。
【0004】
また、ワーク搬送方向に複数の金型が配設された1台プレスとワークを各金型に順番に搬送するための搬送装置とを組合せた多段プレス(いわゆるトランスファプレス)の場合、プレスに関しては機械プレスの場合と同様であり、搬送装置に関しては例えば電源遮断により駆動モータを強制停止させている。
【0005】
サーボプレスは、スライドモーションを自在に選択設定でき、サーボモータを駆動してスライドを設定されたスライドモーションの通りに昇降しつつ加工領域でプレス成形できる。このサーボプレスの場合も、非常停止指令(非常停止要求)に基づきブレーキ動作させて非常停止する。ブレーキとしては、機械式ブレーキおよび電気的ブレーキとが知られている。
【0006】
機械式ブレーキとしては、電磁力を消滅させかつこれにより拘束が解かれたバネの付勢力でブレーキ動作させる電磁ブレーキ(特許文献1を参照)、空圧を利用してブレーキ動作可能に形成されたディスクブレーキ(特許文献2を参照)や摩擦抵抗式ブレーキ(特許文献3を参照)が公知である。
【0007】
また、電気式ブレーキとしては、モータの回転エネルギーを電気エネルギーに変換しかつこの電気エネルギーを抵抗で消費させてブレーキ動作させるダイナミックブレーキ(特許文献3を参照)や変換後の電気エネルギーをコンデンサに蓄積させつつブレーキ動作させる回生式ブレーキ(特許文献3を参照)が知られている。なお、特許文献3では、試験機能を付設することで電気式ブレーキや機械式ブレーキの劣化問題を解決する旨の記載がある。
【0008】
一般的には、非常停止を繰り返す程にブレーキシューが磨耗する機械式ブレーキの方が、劣化が早くかつ劣化程度が大きい。しかも、電気式ブレーキの電気部品を交換する場合に比較して、ブレーキシューやバネの交換作業や調整作業に手間と時間が掛かる。
【0009】
サーボプレスに組合される搬送装置に関しても、サーボモータを駆動して搬送動作させるサーボ駆動方式を採用するケースが増えている。特に、複数(例えば、N台)のサーボプレスと(N+1)台のサーボ搬送装置とを交互に配設しかつ各サーボプレスおよび当該各サーボ搬送装置を独立的に運転させることができる、いわゆるタンデム型プレスシステムを構築し易い。つまり、1台運転方式の機械プレスや多段同期運転方式のトランスファプレスの場合に比較して、プレス成形工程間の無駄時間を一掃化でき、生産性を飛躍的に向上できる。
【特許文献1】特開2003−290997号公報
【特許文献2】特開昭2007−44720号公報
【特許文献3】特開平2007−203353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、サーボプレスにおいて、どのブレーキを採用しても、非常停止方法の基本は機械プレス等の場合と同じ考え方である。すなわち、人身保護等の観点からスライドを確実に停止させることを第1義としている。つまり、非常事態発生からスライド停止までの途中過程については関心が薄かった。以下の技術的事項が背景にあるからと推察する。
【0011】
すなわち、機械プレスの場合はプレスと搬送装置とが機械的に連結されかつ両者が同期運転されるので、プレスと搬送装置(あるいはワーク)とが衝突(干渉)することはない。トランスファプレスの場合は、プレスおよび搬送装置のイナーシャが大きく比較的に低速運転であるから、両者間の相対的位置を余裕あるものとして干渉回避可能な値に設定することができる。
【0012】
しかし、サーボ搬送装置を設けたサーボプレスでは、採用されたブレーキのブレーキ力(制動力)は装置仕様で決まる値であり、かつ積極的に減速制御されていないから、スライド停止までの減速停止時間は不定である。しかも、減速停止時間は減速開始時点のスライドのもつ運動エネルギー量の多少によって変動する。つまり、スライドと搬送装置等との確実に回避できるという保証がない。その上に、サーボプレスおよびサーボ搬送装置の小型化、高速化、ワーク形態や加工様態に関する適応性の拡大化が一段と促進される程に、比較的に軽度の非常事態(例えば、ワーク保持ミスによるワーク落下)が発生することがあるので、非常停止の機会が増える傾向が強い。
【0013】
これでは、全体的な高速運転により生産性を向上でき、加工領域内での低速運転により製品の品質・精度を大幅に上げられるというサーボプレスの優れた特性の十二分な発現を妨げる。すなわち、これまでの慣行的な考え方(非常事態が発生した場合には通常運転を打ち切りかつスライドを非常停止させる。)では、運用上の実際において大いなる不利・不都合が生じる。サーボプレスのさらなる普及拡大のためには、これら問題の解決が是非必要である。
【0014】
本発明の目的は、通常プレス運転中の非常停止指令に基づき干渉回避を担保しつつスライドを迅速かつ確実に非常停止可能なサーボプレスの非常停止方法およびサーボプレスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、非常停止指令(要求)に基づき、電気式ブレーキ(回生式ブレーキ)のブレーキ動作を積極的に制御する(さらには、機械ブレーキ動作制御を併用する。)ことで、所定の停止動作パターンに従いスライドを減速させることで干渉回避を確実としかつ機械ブレーキ動作制御を併用することで所定の停止動作パターンに従いスライドを迅速かつ確実に停止させるものである。
【0016】
すなわち、請求項1の発明に係るサーボプレスの非常停止方法は、モータを駆動してスライドを昇降しつつ加工領域でプレス成形可能に形成されたサーボプレスの非常停止方法であって、非常停止要求に基づきモータの回生電力エネルギーをエネルギー蓄積装置に蓄積しつつ行なう回生ブレーキ動作が実行可能であるか否かを判別し、回生ブレーキ動作が実行可能であると判別された場合に回生ブレーキ動作を実行させつつ所定の停止動作パターンに従いスライドを停止させ、回生ブレーキ動作が実行可能できないと判別された場合は発電ブレーキ動作を実行させつつ所定の停止動作パターンに従いスライドを停止させる、ことを特徴とする。また、請求項2の発明は、回生ブレーキ動作と機械ブレーキ動作とを併用し、発電ブレーキ動作と機械ブレーキ動作とを併用する。
【0017】
請求項3の発明に係るサーボプレスは、モータを駆動してスライドを昇降しつつ加工領域でプレス成形可能なサーボプレスにおいて、交流電源側変換装置とモータ駆動用変換装置との間に接続されたエネルギー蓄積装置にモータの回生電力エネルギーを蓄積しつつ回生ブレーキ動作可能な回生式ブレーキと、モータの端子にスイッチを介して接続された抵抗体でモータの回生電力エネルギーを消費しつつ発電ブレーキ動作可能な発電式ブレーキと、モータに直接または間接的に機械摩擦を加えつつ機械ブレーキ動作可能な機械式ブレーキと、回生式ブレーキが回生ブレーキ動作可能であるか否かを判別する回生ブレーキ動作可否判別手段と、回生ブレーキ動作可能であると判別された場合に回生ブレーキ動作指令と機械ブレーキ動作指令とを出力する第1のブレーキ動作指令手段と、回生ブレーキ動作指令に基づき所定の停止動作パターンに従いスライドを停止するように回生ブレーキ動作を制御する回生ブレーキ動作制御手段と、機械ブレーキ動作指令に基づき基づき前記スライドを停止させるように機械ブレーキ動作を制御する機械ブレーキ動作制御手段と、回生ブレーキ動作可能でないと判別された場合に発電ブレーキ動作指令と機械ブレーキ動作指令とを出力する第2のブレーキ動作指令手段と、発電ブレーキ動作指令に基づき所定の停止動作パターンに従いスライドを停止するように発電ブレーキ動作を制御する発電ブレーキ動作制御手段とを設けた、サーボプレスである。
【0018】
また、請求項4の発明は、停止動作パターンは位置パターンまたは速度パターンとする。請求項5の発明は、機械式ブレーキのブレーキトルクをモータトルクと同様な値に選択することで回生式ブレーキの場合と同様な停止動作パターンでスライドを減速可能である。請求項6の発明は、発電式ブレーキのブレーキトルクを機械式ブレーキトルクと同様な値に選択することで機械式ブレーキの場合と同様な停止動作パターンでスライドを減速可能である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、通常プレス運転中の非常停止指令に基づき干渉回避を担保しつつスライドを迅速かつ確実に非常停止できるから、非常事態の解決および再プレス運転への復帰を迅速に行なえる。また、請求項2の発明によれば、機械式ブレーキを併用するので一段と確実に非常停止できる。
【0020】
請求項3の発明によれば、通常プレス運転中の非常停止指令に基づき干渉回避を担保しつつスライドを迅速かつ確実に非常停止できるから、非常事態の解決および再プレス運転への復帰を迅速に行なえる。しかも、具現化容易でかつ取扱いが簡単である。
【0021】
請求項4の発明によれば、停止動作パターンを通常プレス運転用のスライドモーションパターンに比較して簡素な位置パターン、速度パターンとすることができるから、パターンを容易かつ迅速に作成できるとともに各ブレーキ動作制御手段の構造を簡素化・単純化できる。
【0022】
請求項5の発明によれば、機械式ブレーキのみでも所定の停止動作パターンに従う非常停止運転ができるから、当該時状況により回生ブレーキ動作時間や発電ブレーキ動作時間が長短変化しても迅速で確実なスライド停止を担保できる。請求項6の発明によれば、発電ブレーキ動作でも回生ブレーキ動作の場合と同様に所定の停止動作パターンに従う非常停止運転ができる。しかも、機械式ブレーキのみでも所定の停止動作パターンに従う非常停止運転ができるから、当該時状況により発電ブレーキ動作時間が長短変化しても迅速で確実なスライド停止を担保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
本サーボプレス10は、図1〜図4に示す如く、サーボモータ(以下、モータと略称する。)11を駆動してスライド16を昇降しつつ加工領域でプレス成形可能であるとともに、回生式ブレーキ100と発電式ブレーキ150と機械式ブレーキ200と回生ブレーキ動作可否判別手段71と第1のブレーキ動作指令手段72と回生ブレーキ動作制御手段61と機械ブレーキ動作制御手段62と第2のブレーキ動作指令手段73と発電ブレーキ動作制御手段63と発電ブレーキ動作終了指令手段88とを設け、非常停止指令に基づき回生ブレーキ動作が実行可能であると判別された場合に回生ブレーキ動作および機械ブレーキ動作を実行させつつ所定の停止動作パターンに従いスライドを停止させ、回生ブレーキ動作が実行可能できないと判別された場合は発電ブレーキ動作および機械ブレーキ動作を実行させつつ所定の停止動作パターンに従いスライド16を停止させる本非常停止方法を実施可能に形成されている。つまり、非常停止指令に基づき回生式ブレーキ100、発電式ブレーキ150および機械式ブレーキ200を選択的に動作させつつ所定の停止動作パターンに従いスライド停止可能に形成されている。
【0025】
なお、この実施の形態では、機械式ブレーキ200のメンテナンス等を考慮して、機械式ブレーキ200を併用することなくかつ回生式ブレーキ100と発電式ブレーキ150とで非常停止させるように選択切換可能に形成されている。プレス駆動制御部60において選択操作する。
【0026】
タイミングチャートを示す図4において、(A)は回生ブレーキ動作可能な場合で、(B)は回生ブレーキ動作不能な場合である。以下の説明では、「図4(A)の(1)」を「図4(A1)」と略称する。図4(A)の(2)以下の場合も同様である。また、「図4(B)の(1)」を「図4(B1)」と略称する。図4(B)の(2)以下の場合も同様である。
【0027】
この実施の形態では、図5に示すように、複数(N)台のサーボプレス10A、10B、…、10Nをワークの搬送方向(X方向)に配設し、(N+1)台のサーボ搬送装置300A、300B、…、300N、300(N+1)を各サーボプレス10間に位置するように配設したタンデム型プレスシステムを構成する場合について説明する。
【0028】
サーボ搬送装置300の搬送方式や構造は限定されないが、この実施の形態のサーボ搬送装置300は次の搬送動作ができる。すなわち、サーボ搬送装置(例えば、300B)はワーク保持部(図示省略)をX方向に後進移動させて前置のサーボプレス10Aからワークを取出しかつそのワークを保持したままX方向に前進移動させて後置のサーボプレス10Bの金型に取付け(セットし)、セット終了後にワーク保持部を後進移動しかつ前後のサーボプレス10A、10Bの中間位置(初期位置)に待機させる一連の搬送動作を自動的に行なえる。ワーク保持部は、ワークの平面四隅に対向可能とされ、空気噴流により生成した負圧でワークを保持(吸着)する構造である。
【0029】
図1において、交流サーボモータからなるモータ11のモータ軸11Sに接続されたギヤ2にメインギヤ13が噛み合わされ、メインギヤ13にはスライド駆動機構(クランク機構)のクランク軸14と、コンロッド15が接続されている。モータ11を駆動することで、スライド16を静止側のボルスタ17に対して昇降しつつ加工領域でプレス成形可能である。クランク軸14はモータ11の正転、逆転、速度可変制御により自由に回転駆動されるので、各種スライドモーションを自在に設定でき、これらの組合せや切換使用が可能である。プレス成形品の精度および生産性を向上でき、プレス成形態様に対する適応性が広い。
【0030】
モータ11の回転速度や回転位置は図2に示すエンコーダ45で検出され、信号Denとして位置速度制御部43およびプレス駆動制御部60に入力される。
【0031】
なお、モータ11としては、永久磁石を用いた同期モータや、誘導モータ、リラクタンスモータなどが利用できる。ここでは、同期モータとして説明する。さらに、交流サーボモータでなく直流サーボモータでもよい。また、スライド駆動機構はクランク機構としたが、他の機構(例えば、リンク機構、ボールネジ機構や直動機構)を用いても実施することができる。
【0032】
図2において、モータ11を駆動制御するモータ駆動制御装置30は、交流電源装置20と、交流電源側変換装置を形成する電源コンバータ31と、モータ駆動用変換装置を形成するインバータ41からなる。21は交流電路で、25が駆動側交流電路である。電源コンバータ31とインバータ41とを接続する直流電路(直流母線)23には、エネルギー蓄積装置51が接続されている。電源コンバータ31は、回生動作可能型とされる。
【0033】
電圧制御部33は、電源コンバータ31の直流電圧を所定値にするように動作し、インバータ41の力行、回生に伴う所要電力に応じて、エネルギー蓄積装置51のエネルギー蓄積制御や電源コンバータ31の電力授受制御を行なう。なお、直流電圧の所定値は一定値としても、サーボプレス10の運転状況に応じて可変としてもよい。この実施の形態では、プレス駆動制御部60から設定変更可能である。電圧制御部33の制御方法は周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0034】
位置速度制御部43は、モータ11の位置制御、速度制御、電流制御、PWM制御を実施可能である。通常プレス運転中は位置速度制御に基づくPWM制御により電流を制御しつつモータ11を回転駆動する。この実施の形態の位置速度制御部43は、非常停止運転に際しては位置制御部または速度制御部として動作するように選択切換可能である。
【0035】
後記する速度パターン(または、位置パターン)が選択された場合は、非常停止運転に際し、プレス駆動制御部60から選択切換後の速度制御部(または、位置制御部)43にモータ11の速度制御指令(または、位置制御指令)が入力される。すなわち、速度制御部(または、位置制御部)43は、プレス駆動制御部60からの速度制御指令(または、位置制御指令)を入力信号としかつエンコーダ45からの検出信号Denおよび電流検出器46からの検出信号Diをフィードバック信号として速度制御信号(または、位置制御信号)を生成しかつインバータ41に出力する。インバータ41は、PWM制御によりモータ11の電流制御を行なう。インバータ41から可変周波、可変電圧の3相交流電圧がモータ11に出力され、モータ11はこれに従って運転(回転駆動)される。
【0036】
プレス駆動制御部60は、いずれも図示しない演算装置60C、メモリ60M、操作部、表示部、インターフェイス等を含み、各サーボプレス10を駆動制御するための信号を生成・出力する。詳細後記の各制御手段61,62,63、回生ブレーキ動作可否判別手段71、各確認手段65,84、各指令手段72,73,88は、当該各プログラムを格納させたメモリ60Mと当該各プログラムを実行する演算装置60Cとから形成されている。また、かかる構成の手段につては、手段(60C、60M)として表現する場合もある。
【0037】
システム運転管理部90は、プレス駆動制御部60および搬送駆動制御部(図示省略)に共通の上位コンピュータで、各サーボプレス10のプレス駆動制御部60にプレス運転信号Sprを出力し、各サーボ搬送装置の搬送駆動制御部に搬送運転信号Strを出力する。
【0038】
サーボプレス10ごとに出力されるプレス運転信号Sprは、通常運転指令部91から通常運転指令が入力された場合に設定スライドモーションに対応する通常運転信号として出力され、非常停止指令部95から非常運転指令(信号Semj)が入力された場合は非常停止運転信号として出力される。
【0039】
非常停止用の上記した各手段61,62,…,88は、プレス駆動制御部60(位置速度制御部43)が通常運転制御モードから非常停止制御モードに切換えられた以降(図3のST10でYES、ST11)に動作可能となる。非常停止制御モードが解除された場合(ST21)は動作不能となる。制御モード切換指令手段は、システム運転管理部90内の図示しないCPU90Cとメモリ90Mとから形成され、非常停止指令(信号Semj)に基づく非常停止制御信号を出力して制御モードを切換える。
【0040】
同様に、各搬送運転信号Strは、サーボプレス10ごとに出力されるプレス運転信号(通常運転信号および非常停止運転信号)Sprに対応する信号とされかつサーボ搬送装置300ごとに出力される。
【0041】
すなわち、この実施の形態では、任意のサーボプレス(例えば、10B)が非常停止指令(信号Semj)に基づき所定の停止動作パターン(例えば、速度パターン)で急速に減速しかつスライド16を非常停止させる際に、サーボ搬送装置300を同期的に停止運転可能に形成してある。このサーボプレス10Bに対応する前置サーボ搬送装置300Bと後置サーボ搬送装置300Cについては所定の停止搬送パターンで急速に減速停止させる。通常運転の場合に関しては、公知であるので、説明を省略する。
【0042】
非常停止指令部95は、作業者により非常停止ボタンが押されたときのみならず、人身の安全および機器の保全を害するような非常事態の発生が自動検出されたときに、非常停止指令(信号Semj)を生成出力する。例えば、光電センサーにより侵入禁止領域内への人の侵入あるいは干渉発生が検出された場合、電圧検出器等によりモータ11の暴走あるいは電源電圧極低下が検出され場合、インターロックにより非常停止要求が通知された場合である。
【0043】
また、例えば、ワークの掴み損ない、ワークの不完全保持、ワークの落下等を発見した作業者が非常停止ボタンを押したときや、ワーク保持検出器や光線利用や画像処理等により非常事態(ワーク落下等)が自動検出されたときなどでも、非常停止指令(信号Semj)を生成出力可能に形成されている。
【0044】
いずれにしても、システム運転管理部90、プレス駆動制御部60、モータ駆動制御部30等の電源(直流電源および交流電源)を正常に維持しておけば、モータ11を所定の速度パターンに従って積極的に回転制御(回生ブレーキ動作)することができ、スライド16を急減速しつつ確実に停止できる。ここに、非常停止指令に基づき、少なくとも各ブレーキ動作を実行可能とする制御電源は遮断しない。要すれば、非常停止時間との関係で言えば数百msec程度以上の短時間維持用のコンデンサやUPSを付設させる電源とすればよい。
【0045】
エネルギー蓄積装置51としては、2次電池、大容量電解コンデンサ、電気二重層コンデンサなどが採用される。エネルギー蓄積装置51はモータ11からの回生電力エネルギーを蓄積し、回生ブレーキ動作可能期間を延長させることができる。この実施の形態では、エネルギー蓄積装置51は直流電路23に直接接続されている。エネルギー蓄積装置51と直流電路23との電圧が相異する場合には、エネルギー蓄積装置51を双方向に電力授受可能なDC/DCコンバータを介して直流電路23に接続する構成としてもよい。
【0046】
また、エネルギー蓄積装置51は、加速時やプレス成形時のようにモータ11が大量の電力を必要とするときに、蓄積した電力エネルギーをモータ11側に放電(供給)することができる。エネルギー蓄積装置51から電力を充放電することにより、電源コンバータ31や交流電源装置20の設備容量を低減しかつシステム効率を向上させるためにも有効である。
【0047】
エネルギー蓄積装置51に接続された蓄積エネルギー量検出部52は、構造簡素化および低コスト化を図れる電圧検出型を採用している。エネルギー蓄積装置51を電解コンデンサや電気二重層コンデンサから形成した場合は、検出された端子電圧を用いて実際に蓄積されている電力エネルギー量を算出することができる。この実施の形態では、電解コンデンサを用いている。
【0048】
なお、プレス駆動制御部60の演算機能を活用して実際蓄積電力エネルギー量を算出可能とするために、蓄積エネルギー量検出部52の検出端子電圧値(検出信号Dep)を図2に示すようにプレス駆動制御部60に出力している。
【0049】
回生式ブレーキ100は、モータ11、駆動側交流電路25、インバータ41、直流電路23およびエネルギー蓄積装置51から形成され、モータ11の回生電力エネルギーを交流電源側変換装置(31)とモータ駆動用変換装置(41)との間(直流電路23)に接続されたエネルギー蓄積装置51に蓄積しつつ回生ブレーキ動作可能に形成されている。
【0050】
回生ブレーキ動作制御手段61は、メモリ60Mに格納された所定の停止動作パターンに対応する回生ブレーキ動作指令に対応する制御信号Sebを位置速度制御部43に出力することで、停止動作パターン従いスライド16を停止するため回生式ブレーキ100の回生ブレーキ動作を制御する。
【0051】
停止動作パターンは、位置パターン(位置パターン停止動作)または速度パターン(停止動作速度パターン)として選択可能である。位置パターンは、通常プレス運転に用いるスライドモーションの場合よりも簡素化された時刻ごとのスライド位置を規定する情報である。速度パターンは、時刻ごとのスライド速度を規定する情報である。つまり、減速パターンである。このように、停止動作パターンを通常プレス運転用のスライドモーションパターンに比較して簡素な位置パターンや速度パターンとすることができるから、非常事態に対するパターン作成を容易かつ迅速に作成できるとともに回生ブレーキ動作制御手段等の構造を簡素化・単純化できる。
【0052】
回生ブレーキ動作用の制御信号Sebには、選択された動作停止パターンに対応する情報とともに、位置速度制御部43を位置制御部(位置パターンに対応)として機能させるか、あるいは速度制御部(位置パターンに対応)として機能させるかの切換情報が含まれる。位置速度制御部43は、この切換情報により位置制御部または速度制御部に切換わる。
【0053】
図4(A1)は、実線で示した速度パターン(減速信号)が選択されている場合を示す。破線は、当該減速信号に追従するスライド速度である。位置パターンによる減速信号を選択することもできる。速度パターンは、周辺装置(サーボ搬送装置300など)と衝突しないように予め定めた減速パターン、周辺装置との衝突を回避させるために演算されたパターンである。この速度パターンが選択された場合、位置速度制御部43等は速度制御系としてモータ11の回転制御を行なう。
【0054】
なお、位置速度制御部43は通常運転専用としかつ非常停止運転に専用の速度制御部を設けるようにしても非常停止動作を実施することができる。
【0055】
機械式ブレーキ(メカブレーキ)200は、モータ11のモータ軸11Sに連結され、モータ軸11Sに直接(または、間接的でもよい。)に機械摩擦力を加えつつ機械ブレーキ動作する。開放されたバネの圧力による。この機械式ブレーキ200は、ブレーキ駆動部201に図4(A2)に示すブレーキ解放信号が入力されない場合(信号Lレベルの場合)が機械ブレーキ動作指令とされ、この指令から図4(A3)に示すタイムラグ△T(=t2−t1)の経過後に実際に機械ブレーキ動作する。
【0056】
他方、ブレーキ解放信号が入力された場合(信号Hレベルの場合)は、空気圧力や電磁力によりバネが拘束される。つまり、図4(A3)に示す時刻t0〜時刻t2の間のように非ブレーキ動作(ブレーキ解放状態)となる。
【0057】
なお、機械式ブレーキ200はモータ11の回転軸11Sに接続されているが、その役割(スライドを停止および停止保持する。)を達成できるならば、他の部位に取り付けてもよい。
【0058】
機械ブレーキ動作制御手段62は、メモリ60Mに設定記憶された所定の停止動作パターン(速度パターン)に対応する機械ブレーキ動作制御信号Smbをブレーキ駆動部201に出力することで、機械ブレーキ動作を制御する。
【0059】
この実施の形態では、機械式ブレーキ200のブレーキトルク(モータ軸11Sに換算したブレーキトルク)の値が、回生式ブレーキ100として働く際のモータ11のモータトルクと同様な値になるように選択的に形成してある。つまり、機械式ブレーキ200が回生式ブレーキ100の図4(A1)に実線で示した速度パターンの場合と同様な速度パターンでスライド16を破線で示すように減速することができる。
【0060】
このようにすると、機械式ブレーキ200のみでも所定の減速度で非常停止運転ができるから、確実なスライド停止が実現できる。
【0061】
“同様な値”とは、理想的には同一の値(等しい値)であるが、非常停止中に結果として干渉を回避できる限りにおいて略同一の値(ほぼ等しい値)であってもよい。必要によっては、ブレーキ駆動部201の空気圧等を増減調整することで機械的摩擦力を調整可能に形成しかつ機械ブレーキ動作指令および当該制御信号Smbに摩擦力増減調整情報を含ませることで、同一値に調整することも可能である。「同様な停止動作パターン」の“同様”についても共通する。
【0062】
この機械式ブレーキ200は、通常停止運転によるスライド停止後にモータ11(スライド16)を静止状態に保持するための機械式ブレーキと兼用したものである。
【0063】
次に、発電式ブレーキ150はモータ11の端子にスイッチ152を介して接続された抵抗体151に電流を流してモータ11の回生電力エネルギーを消費しつつ発電ブレーキ動作可能である。スイッチ152はトランジスタ、サイリスタ等を用いた電子スイッチである。発電制御部153によるトルク(電流)制御との関係で高速スイッチング動作可能であることが望まれる。このスイッチ152は図4(A5)に示す如く常時はオフであるが、モータ11の端子を抵抗体151で短絡して制動する発電ブレーキ動作の場合に(B5)のようにオンされる。
【0064】
発電制御部153は、スイッチ開閉機能およびトルク調整機能を有する。トルク調整機能は、例えばPWM制御に従うスイッチング制御より抵抗体151への電流量調整を行ない、結果として発電ブレーキトルクを積極的に調整する。ただし、プレス能力や搬送速度等によっては、このトルク調整機能を設けなくても本発明は実施することができる。本実施例では、後者を採用している。
【0065】
発電ブレーキ動作制御手段63は、発電ブレーキ動作指令信号Sdbに基づきメモリ60Mに設定記憶された所定の停止動作パターン(速度パターン)に従いてスライド16を停止するように発電ブレーキ動作を制御する。この実施の形態では、図4(B5)に示すスイッチ152をオン(閉成)およびオフ(開成)させる(A5)の電子スイッチオン信号(Hレベル)およびトルク調整用信号を含む発電ブレーキ動作指令信号Sdbを発電制御部153に出力することで、発電ブレーキ動作を制御する。
【0066】
この発電式ブレーキ150の発電ブレーキトルクは、機械式ブレーキ200の機械ブレーキトルクと同様な値に選択され、発電式ブレーキ150が機械式ブレーキ100の場合と同様な停止動作パターンでスライド16を減速可能に形成されている。同様な値とは、上記したように理想的には同一の値(等しい値)であることが望ましいが、非常停止中に結果として干渉を回避できる限りにおいて略同一の値(ほぼ等しい値)であってもよい。
【0067】
すなわち、抵抗体151の抵抗値は次のように選定する。発電式ブレーキ150がプレス最高速付近で発電ブレーキ動作したときの減速トルク(最高速付近の誘起電圧が出ているモータ端子を抵抗体151で短絡したときの電流によるトルク)が、機械式ブレーキ200が単独動作したときの減速度を得るトルクと同様(ほぼ等しくなる)ように選定する。こうすると発電ブレーキ動作で減速停止するときの減速度と、機械ブレーキ動作で減速停止するときの減速度は同様になる(ほぼ等しくなる)。したがって、図4(B1)に示すようにスムースな減速が行なえるとともに、ほぼ所定の減速度で停止できる。
【0068】
つまり、この実施の形態では、機械式ブレーキ200のブレーキトルクと発電式ブレーキ150のブレーキトルクと回生式ブレーキ100のブレーキトルクとをほぼ同じに選択することで、図4(A1)、(B1)に実線で示すように減速特性をほぼ同じにしてある。なお、投入当初の発電ブレーキ効果が大きいことから、実際のスライド減速カーブは図4(B1)に破線で示すやや下方に落ちる部分を有する減速度カーブとなる。図4(A1)の破線で示した一定の実際減速度カーブに比較して少々異なる。
【0069】
ここに、回生ブレーキ動作可否判別手段71は、回生式ブレーキ100が回生ブレーキ動作可能であるか否かを判別する(図3のST12)。インバータ41を含む速度制御系が正常に動作しない(例えば、インバータ41の故障)ときは、回生式ブレーキ100が利用できない(回生ブレーキ動作不能)と判別される。また、交流電源(20)が停電しており、このとき、エネルギー蓄積装置51の蓄積量が蓄積限界値または蓄積限界値に近いときも利用できないと判別される。
【0070】
第1のブレーキ動作指令手段72は、回生ブレーキ動作可能であると判別された場合(ST12でYES)に回生ブレーキ動作指令と機械ブレーキ動作指令とを出力する(ST13)。これらの指令に従って回生ブレーキ動作制御手段61は制御信号Sebを、機械ブレーキ動作制御手段62は制御信号Smbを出力する。
【0071】
回生式ブレーキ100は、図4に示す時刻t1から回生ブレーキ動作に入る。この際のモータ11のトルクは図4(A6)に示す一定のブレーキトルクで、インバータ電力(回生電力)は(A7)に示される。モータ速度の低下とともに回生電力は低下する。
【0072】
機械式ブレーキ200は、制御信号Smbを受けてからリレー動作しかつその後にブレーキシューがブレーキ面(モータ軸面)に当接されるまでに機械的構成要素の時間遅れがある。つまり、図4(A2)のタイムラグ△T(=t2−t1)の経過後である時刻t2から実際機械ブレーキ動作に入る。
【0073】
タイムラグ△Tは、装置構成にもよるが、およそ数十〜百msである。このタイムラグ△Tは、非常停止時間(例えば、数百ms)に対して無視できない時間遅れである。この点からしても、ST13において、直ちに積極的な回生ブレーキ動作制御を行なうので、安全確実にスライド停止できると理解される。ST17の発電ブレーキ動作の場合も同様である。
【0074】
スライド停止確認手段65が、エンコーダ45の出力を監視しつつスライド16が停止したことを確認(ST14でYES)すると、サーボオフ制御手段(60M,60C)が図4(A4)に示すサーボオフ信号(Lレベル)を出力する(ST15)。電気的な回生ブレーキ動作制御はゲートブロックなどで終了(ST15)される。次いで、非常停止制御モードが解除される(ST21)。なお、スライド停止は上記したエンコーダ45からのパルス信号有無(監視)の他、停止までの時間は予め分かることから、その時間をセットしたタイマ値で確認判定するように形成してもよい。
【0075】
第2のブレーキ動作指令手段73は、回生ブレーキ動作可能でないと判別された場合(ST12でNO)に発電ブレーキ動作指令と機械ブレーキ動作指令とを出力する(ST17)。これらの指令に伴い発電ブレーキ動作制御手段63は制御信号Sdb(例えば、レベルH)を出力し、機械ブレーキ動作制御手段62は制御信号Smb(例えば、レベルH)を出力する。発電ブレーキ動作用の制御信号Sdbは、図4(B5)に示す電子スイッチオン信号(レベルH)を含む。これにより、スイッチ152がオンされ抵抗体151により回生電力が消費される。つまり、時刻t1から発電ブレーキ動作が実行される。
【0076】
実際機械ブレーキ動作確認手段84は、実際に機械ブレーキ動作が実行されたことを確認する手段で、この実施の形態ではタイムラグ△Tがほぼ一定であることから時間管理(タイマ値)方式で実際機械ブレーキ動作に入ったことを確認する。なお、実動作突入を検出可能なセンサーを用いたセンサー信号で確認判定するように形成することもできる。
【0077】
実際に機械ブレーキ動作に入った(実行された)ことが確認される(ST18でYES)と、これを条件に発電ブレーキ動作終了指令手段88が発電ブレーキ動作終了指令信号を出力する。この発電ブレーキ動作終了指令信号に基づき制御信号Sdbが出力される。図4(A5)、(B5)に示す電子スイッチオン信号(レベルL)でスイッチ152はオフされる。発電ブレーキ動作は終了する。
【0078】
引続き、スライド停止確認手段65がスライド停止を確認(ST20でYES)すると、非常停止制御モードが解除される(ST21)。いずれにしても、機械式ブレーキ200で減速停止されかつスライド16の静止状態は保持される。
【0079】
なお、サーボオフ制御手段(60M,60C)は、ST12でNO判別された場合には、ST16でサーボオフ信号(Lレベル)を出力する。安全のために回生ブレーキ動作不能と確実化しておく。
【0080】
図4(B4)〜(B7)に示すように時刻t1から回生ブレーキ動作制御に入る。また、機械式ブレーキ200は、制御信号Smbの入力時点(時刻t1)からタイムラグ△T(=t2−t1)だけ遅れた時刻t2から実際に機械ブレーキ動作する。期間(t1〜t2)中は、回生ブレーキ動作と機械ブレーキ動作の双方が実行される。
【0081】
なお、上記したように図4(A)は回生ブレーキ動作指令および機械ブレーキ動作指令が同時(時刻t1)に出力された場合を示し、図4(B)では発電ブレーキ動作指令および機械ブレーキ動作指令が同時(時刻t1)に出力された場合を示している。しかし、第1のブレーキ動作指令手段72を、先に回生ブレーキ動作制御手段61を起動させかつその後に機械ブレーキ動作制御手段62を起動させるように設定変更可能に形成してもよい。同様に、第2のブレーキ動作指令手段73を、先に発電ブレーキ動作制御手段63を起動させかつその後に機械ブレーキ動作制御手段62を起動させるように設定変更可能に形成してもよい。
【0082】
つまり、回生ブレーキ動作制御手段61および発電ブレーキ動作制御手段63の起動指令出力タイミングと機械ブレーキ動作制御手段62の起動指令出力タイミングに時間差をもたせる。かくすれば、摩滅が生じる機械式ブレーキ200の保護に有益である。つまり、機械式ブレーキ200の長寿命化を図れる。
【0083】
かかる構成のサーボプレス10では、図4(A)および図4(B)に示すように時刻t0〜t1までの期間中は、通常プレス運転が行なわれている。例えば、通常プレス運転中のサーボプレス(例えば、10B)内にワークが落下したことを発見した作業者が、時刻t1において非常停止ボタンを押した場合を考える。
【0084】
すると、図2の非常停止指令部97からシステム運転管理部90に非常停止指令(信号Semj)が入力される。制御モード切換指令手段(90C,90M)は、通常運転制御モードから非常停止制御モードに切換わる(図3のST10でYES、ST11)。非常停止用の各手段61,62,…,69,88等が動作可能となる。
【0085】
まず、回生ブレーキ動作可否判別手段71によって回生式ブレーキ100が回生ブレーキ動作可能であると判別(図3のST12でYES)されると、第1のブレーキ動作指令手段72が働く(ST13)。回生ブレーキ動作不能であると判別(図3のST12でNO)されると、サーボオフ制御手段(60M,60C)および第2のブレーキ動作指令手段73が働く(ST16、ST17)。
【0086】
ST13において、第1のブレーキ動作指令手段72が指令信号を出力すると、回生ブレーキ動作制御手段61が起動して予め選択された速度パターンに対応する図4(A1)に実線で示した減速信号(制御信号Seb)を速度制御部43に出力する。機械ブレーキ単独動作による減速とほぼ同じ減速度の速度パターンやトルク指令が出力され、回生ブレーキ動作が積極的に制御される。回生ブレーキ力と機械ブレーキ力とがほぼ等しい減速度であるから、下記のように実際に機械ブレーキ動作に入ったときの速度変動を小さく出来る。
【0087】
同時に、第1のブレーキ動作指令手段72から出力された機械ブレーキ動作指令に基づき、機械ブレーキ動作制御手段62が起動して予め選択された速度パターンに対応する減速信号(制御信号Smb)をブレーキ駆動部201に出力する。機械ブレーキ動作用の制御信号Smbは機械式ブレーキ200の開放を止める信号として出力され、機械ブレーキ動作が制御される。
【0088】
すなわち、この時点t1で、(A1)のブレーキ開放信号(Hレベルでブレーキ開放状態、Lレベルでブレーキ状態の信号)が出力される。タイムラグ△Tとの関係で時刻t2から実際の機械ブレーキ動作に入る。速度制御部43は減速停止速度パターンに従って動作し、モータ速度は、(A1)に破線で示すように実線で示す速度パターンとほぼ同じ速度に制御される。まず、モータ11のトルクだけによって減速するから、機械ブレーキ動作する時刻t2までは(A6)のようにモータトルクが出力されるが、時刻t2からは実際に機械ブレーキ動作が行なわれるのでモータトルクは(A6)のようにほぼゼロになる。
【0089】
なお、機械式ブレーキ200の制動トルクはブレーキ面の状態により多少異なる。減速パターンに必要な減速トルクとの差異は速度制御系の動作でモータトルクによって補正される。このように、機械式ブレーキ200の動作状態にかかわらず、停止速度パターンになるように制御される。このとき、インバータ41からは(A7)のような回生電力が発生する。つまり、回生式ブレーキ100と機械ブレーキ200の両方で停止させる。
【0090】
もっとも、第1のブレーキ動作指令手段72に、先に回生ブレーキ動作制御手段61を起動させかつその後に機械ブレーキ動作制御手段62を起動させることができるように設定変更しておけば、機械式ブレーキ200を減速停止途中で動作させることもできる。
【0091】
なお、電源コンバータ31で回生ブレーキ電力を交流電源側に回生できるときや、エネルギー蓄積装置51に回生電力を吸収できるとき、あるいは両者で回生電力を処理できるときは、機械式ブレーキ200を動作させないように選択して運転することもできる。
【0092】
次いで、スライダ16が停止したかどうか確認(ST14)する。時刻t3でスライド停止が確認判別されると、(A4)のように時刻t4でサーボオフ(Lレベルでサーボオフ)を実施して非常停止を終了する。なお、図4(A)の場合には、(A5)で示すようにスイッチ(Hレベルでオン)152は動作しない。
【0093】
停止確認判定後(S14でYES)、サーボオフ制御手段がインバータ41のゲート信号停止などによるサーボオフを実施し(ST15)、一連の非常停止動作を終了する。スライド16は、図4(A1)に破線で示したように減速される。減速率は最大的でかつ一定に設定されているので、スライド16を急減速で確実に停止できる。
【0094】
回生ブレーキ動作可否判別手段71によって回生式ブレーキ100が回生ブレーキ動作不能であると判別(図3のST12でNO)されると、回生式ブレーキ200を利用することができないので、サーボオフ制御手段が時刻t1において(B4)に示すようにサーボオフを実施(ST16)する。
【0095】
また、第2のブレーキ動作指令手段73が発電ブレーキ動作指令と機械ブレーキ動作指令とを出力する(ST17)。発電ブレーキ動作指令は電子スイッチ152のオンにより実行する。
【0096】
図4(B2)に示すブレーキ開放信号(Hレベルでブレーキ開放状態、Lレベルでブレーキ状態の信号)が出力される。(B3)に示すように時刻t2で実際の機械ブレーキ動作に入る。また、ブレーキ開放信号を出力すると同時に(B5)のように電子スイッチ152がオンされる。モータトルクに発電ブレーキ動作させる。モータ端子に接続される抵抗体151の抵抗値が、この抵抗体151をモータ端子に挿入したときの電流による減速トルクが機械式ブレーキ200の単独動作時の減速トルクにほぼ等しくなるように選定されるので、モータ11は(B1)に破線で示すように、所定減速パターン(実線)とほぼ等しいパターンで減速される。
【0097】
時刻t2で実際に機械ブレーキ動作に入ったことが確認される(ST18でYES)と、(B5)のようにスイッチ(電子スイッチ)152をオフして発電ブレーキ動作を停止(ST19)する。その後は機械ブレーキ動作だけで減速される。この動作時のモータトルクとインバータ電力は(B6)、(B7)のようになる。
【0098】
なお、図4では時刻t2で電子スイッチ152をオフしているが、機械ブレーキ動作時の全ブレーキトルク(機械ブレーキ動作によるトルク+発電ブレーキ動作によるトルク)の変化が小さいならば、電子スイッチ152のオフ時点は多少変動してもよい。さらに、変化が非常に小さい場合は電子スイッチ152はスライド停止までオフさせなくてもよい。
【0099】
このように、非常停止信号が出力されると、回生式ブレーキ100が動作可能であるかどうかによらず、必ず電気的なブレーキ(回生式ブレーキ100または発電式ブレーキ150)をブレーキ動作させる。この理由は、機械式ブレーキ200だけを動作させて非常停止させる場合の減速開始遅れを回避するためである。
【0100】
なお、電子スイッチ152のオンによる発電ブレーキ動作だけによる減速トルクと、機械ブレーキ動作だけのよる減速トルクが違う場合、所望減速パターンになるように電子スイッチ152および/または機械式ブレーキ200の動作信号をPWM制御させて、ブレーキ力を制御することができる。この場合は、抵抗体151の抵抗値は制御しない場合に比較して小さく選定する。このように回生ブレーキ動作ではスライド停止できない場合でも所望減速パターンにほぼ近い形でモータは減速停止することができる。
【0101】
発電ブレーキ動作終了後に、スライド16が停止したかどうかを判別(ST20)し、一連の非常停止動作を終了する(ST21)。この結果、サーボプレス10に非常状態が発生した場合、非常停止指令に基づき常に所定速度パターンでスライドを減速停止するので、安全が確保されるとともに、サーボ搬送装置300との衝突も生じない。
【0102】
すなわち、この実施の形態では、例えば数百msの減速停止時間でスライド16を非常停止することができる。したがって、再起動前に代替ワークを当該所定位置にセットすれば、僅かなプレス停止時間(例えば、5〜10秒)だけ生産中断するだけで、早急に通常プレス運転に復帰させることができる。従来の非常停止の場合の復帰までの時間(例えば、10分)と比較すれば、大幅な生産性低下を招かないと理解される。
【0103】
しかして、この実施の形態によれば、回生式ブレーキ100と発電式ブレーキ150と機械式ブレーキ200と回生ブレーキ動作可否判別手段71と第1、第2のブレーキ動作指令手段72、73と回生ブレーキ動作制御手段61と機械ブレーキ動作制御手段62と発電ブレーキ動作制御手段63とを設けたサーボプレス10であるから、非常停止指令(信号Semj)に基づき回生ブレーキ動作が実行可能であると判別された場合に回生ブレーキ動作および機械ブレーキ動作を実行させつつ所定の停止動作パターンに従いスライド16を停止させ、回生ブレーキ動作が実行可能できないと判別された場合は発電ブレーキ動作および機械ブレーキ動作を実行させつつ所定の停止動作パターンに従いスライド停止させる本非常停止方法を円滑かつ確実に実施することができる。
【0104】
また、このサーボプレス10は、通常プレス運転中に発生される非常停止指令に基づき干渉回避を担保しつつスライド16を迅速かつ確実に停止可能に形成されているので、非常事態の解決および再プレス運転への復帰を迅速に行なえる。しかも、上記の構成からして具現化容易でかつ取扱いが簡単である。
【0105】
また、積極的に減速制御しない非常停止用ブレーキの場合に比較して、スライド16とサーボ搬送装置200等との干渉を確実に回避できるとともに、サーボプレス10とサーボ搬送装置300との相対的な位置を極限的な小範囲に、速度を極限的な高速に設定した運用ができる。サーボプレス10の特性(高速性)を十二分に発現できる。したがって、サーボプレス10の一層の普及拡大に大きく貢献できる。
【0106】
また、電源遮断をしない非常停止運転なので、非常事態の解決後に必要とされる電源遮断に起因する作業(例えば、主電源の電圧確立に要する時間)を必要としない。つまり、電源遮断をする非常停止の場合の生産性低下を払拭できる。
【0107】
従来の非常停止をした場合に比較して、任意1台のサーボプレス10の非常事態が発生することで他の正常なサーボプレス10と当該サーボ搬送装置300との間に干渉が誘発されるという心配がない。
【0108】
さらに、停止動作パターンを通常プレス運転用のスライドモーションパターンに比較して簡素な位置パターン、速度パターンとすることができるから、パターンを容易かつ迅速に作成できるとともに回生ブレーキ動作制御手段等の構造を簡素化・単純化できる。
【0109】
さらに、回生ブレーキ動作後に、機械式ブレーキが動作した場合は、機械式ブレーキのみでも所定の停止動作パターンに従う非常運転ができるから、モータの回生ブレーキによる電力発生はなく、エネルギー蓄積装置などの電源系に擾乱を与えずに確実なスライド停止できる。
【0110】
さらにまた、発電ブレーキ動作でも回生ブレーキ動作の場合と同様に所定の停止動作パターンに従う非常停止運転ができる。しかも、機械式ブレーキのみでも所定の停止動作パターンに従う非常停止運転ができるから、当該時状況により発電ブレーキ動作時間が長短変化しても迅速で確実なスライド停止を担保できる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、スライドを迅速かつ確実に非常停止させることができるので、サーボプレスの通常運転中に発生した非常事態の対処策として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の実施の形態に係るサーボプレスを説明するための図である。
【図2】同じく、主にモータ駆動制御装置、各指令手段および各制御手段を説明するための回路図である。
【図3】同じく、非常停止動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】同じく、非常停止動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図5】同じく、複数台のサーボプレスを配設して構築されたタンデムプレスシステムを説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
【0113】
10 サーボプレス
11 モータ(サーボモータ)
12 スライド
20 交流電源装置
30 モータ駆動制御装置
31 電源コンバータ(交流電源側変換装置)
33 電圧制御部
41 インバータ(モータ駆動用変換装置)
43 位置速度制御部 51 エネルギー蓄積装置
52 蓄積エネルギー検出部
60 プレス駆動制御部
90 システム運転管理部
100 回生式ブレーキ
150 発電式ブレーキ
151 抵抗体
200 機械式ブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動してスライドを昇降しつつ加工領域でプレス成形可能に形成されたサーボプレスの非常停止方法であって、
非常停止要求に基づき前記モータの回生電力エネルギーをエネルギー蓄積装置に蓄積しつつ行なう回生ブレーキ動作が実行可能であるか否かを判別し、
回生ブレーキ動作が実行可能であると判別された場合に回生ブレーキ動作を実行させつつ所定の停止動作パターンに従いスライドを停止させ、回生ブレーキ動作が実行可能できないと判別された場合は発電ブレーキ動作を実行させつつ所定の停止動作パターンに従いスライドを停止させる、ことを特徴とするサーボプレスの非常停止方法。
【請求項2】
前記回生ブレーキ動作が実行可能であると判別された場合に前記回生ブレーキ動作と機械ブレーキ動作とを併用し、前記回生ブレーキ動作が実行可能できないと判別された場合は前記発電ブレーキ動作と機械ブレーキ動作とを併用しかつ実際に機械ブレーキ動作が実行された場合に発電ブレーキ動作を停止させる、請求項1記載にサーボプレスの非常停止方法。
【請求項3】
モータを駆動してスライドを昇降しつつ加工領域でプレス成形可能なサーボプレスにおいて、
交流電源側変換装置とモータ駆動用変換装置との間に接続されたエネルギー蓄積装置に前記モータの回生電力エネルギーを蓄積しつつ回生ブレーキ動作可能な回生式ブレーキと、
前記モータの端子にスイッチを介して接続された抵抗体で前記モータの回生電力エネルギーを消費しつつ発電ブレーキ動作可能な発電式ブレーキと、
前記モータに直接または間接的に機械摩擦を加えつつ機械ブレーキ動作可能な機械式ブレーキと、
回生式ブレーキが回生ブレーキ動作可能であるか否かを判別する回生ブレーキ動作可否判別手段と、
回生ブレーキ動作可能であると判別された場合に回生ブレーキ動作指令と機械ブレーキ動作指令とを出力する第1のブレーキ動作指令手段と、
回生ブレーキ動作指令に基づき所定の停止動作パターンに従い前記スライドを停止するように回生ブレーキ動作を制御する回生ブレーキ動作制御手段と、
機械ブレーキ動作指令に基づき前記スライドを停止させるように機械ブレーキ動作を制御する機械ブレーキ動作制御手段と、
回生ブレーキ動作可能でないと判別された場合に発電ブレーキ動作指令と機械ブレーキ動作指令とを出力する第2のブレーキ動作指令手段と、
発電ブレーキ動作指令に基づき所定の停止動作パターンに従い前記スライドを停止するように発電ブレーキ動作を制御する発電ブレーキ動作制御手段と、
を設け、非常停止指令に基づき回生式ブレーキ、発電式ブレーキおよび機械式ブレーキを選択的に動作させつつ所定の停止動作パターンに従いスライド停止可能に形成されている、サーボプレス。
【請求項4】
前記停止動作パターンは前記スライドの位置パターンまたは速度パターンである、請求項3記載のサーボプレス。
【請求項5】
前記機械式ブレーキの前記モータのモータ軸に換算した機械ブレーキトルクが前記回生ブレーキとして動作する際のモータのモータトルクと同様な値に選択され、前記機械式ブレーキが前記回生式ブレーキの場合と同様な停止動作パターンで前記スライドを減速可能に形成されている、請求項4記載のサーボプレス。
【請求項6】
前記発電式ブレーキの発電ブレーキトルクが前記機械式ブレーキの機械ブレーキトルクと同様な値に選択され、前記発電式ブレーキが前記機械式ブレーキの場合と同様な停止動作パターンで前記スライドを減速可能に形成されている、請求項5記載のサーボプレス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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