説明

サーマルプリンタ

【課題】微小突起を有する搬送ローラにより記録媒体を挟持して搬送するとともに、搬送ローラで挟持されたグリップ領域に対して印刷するにあたり、印刷品質を向上させたサーマルプリンタを提供する。
【解決手段】非グリップ領域Ar2に対して熱転写することを条件に印刷指令に係る印刷階調に対応する熱データを取得し、この熱データに対応する熱量になるようにサーマルヘッド21を加熱制御する加熱制御部61を設けるとともに、印刷指令に係る印刷階調に対応する熱データを熱量の増大する方向に補正する補正部66を設け、グリップ領域Ar1の少なくとも一部に対して熱転写する場合に補正部66が補正した後の熱データによって熱転写する一方、非グリップ領域Ar2の少なくとも一部に対して熱転写する場合に補正部66で補正していない熱データによって熱転写するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドを加熱制御して記録媒体に印刷するサーマルプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリンタは、例えば特許文献1に例示されるように、表面に微小突起を有する搬送ローラとピンチローラとで用紙等の記録媒体を挟持しつつ記録媒体を搬送するとともに、印刷指令に応じてサーマルヘッドを加熱制御することによりリボンのインクやラミネート等の転写物を記録媒体に熱転写して印刷する印刷装置である。サーマルプリンタは、サーマルヘッドの熱量が大きいほど記録媒体への転写物の転写量が多く、見た目の濃度が濃くなり、ヘッドの熱量が小さいほど記録媒体への転写物の転写量が少なく、見た目の濃度が薄くなることを利用して、印刷指令に係る印刷内容をドット毎に印刷階調で表現し、印刷階調に対応する熱量になるようにサーマルヘッドの加熱制御を行うことで所望の印刷を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−15886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のサーマルプリンタでは、記録媒体のうち搬送ローラの微小突起のある部位で挟持されたグリップ領域と挟持されていない非グリップ領域の両領域に対して同じ印刷階調(熱量)で印刷すると、同じ印刷階調で印刷したにも拘わらずグリップ領域の方が非グリップ領域よりも薄く印刷されてしまう。この場合、グリップ領域での印刷結果が所望の印刷結果とズレて印刷品質が損なわれてしまう。しかも、グリップ領域の印刷結果ズレによって非グリップ領域との関係においてもグリップ領域が目立ってしまい、記録媒体全体での印刷品質も損なわれてしまう。この問題は、搬送ローラの微小突起のある部位で挟持されることによりグリップ領域にグリップ痕とも呼ばれる突起痕が形成されてしまい、突起痕が形成された後で印刷を行っても転写物が突起痕に付着せずに見た目の濃度が低下することに起因すると考えられる。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、微小突起を有する搬送ローラにより記録媒体を挟持して搬送するとともに、搬送ローラで挟持されたグリップ領域に対して印刷するにあたり、印刷品質を向上させたサーマルプリンタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0007】
すなわち、本発明のサーマルプリンタは、表面の一部位に微小突起を有する搬送ローラにより記録媒体を挟持しつつ当該記録媒体を搬送するとともに、印刷指令に応じてサーマルヘッドを加熱制御することによりリボンの転写物を記録媒体のうち前記搬送ローラの微小突起のある部位で挟持されたグリップ領域と前記搬送ローラの微小突起のある部位で挟持されていない非グリップ領域とに熱転写するサーマルプリンタであって、前記非グリップ領域に対して熱転写することを条件に所望の印刷結果が得られるように印刷階調に応じて予め関連付けた熱量に関する熱データのうち前記印刷指令に係る印刷階調に対応する熱データを取得し、この熱データに対応する熱量になるようにサーマルヘッドを加熱制御する加熱制御部を設けるとともに、前記印刷指令に係る印刷階調に対応する熱データを熱量の増大する方向に補正する補正部を設け、サーマルヘッドに対する前記グリップ領域及び前記非グリップ領域の位置情報を取得し、前記位置情報に係る前記グリップ領域の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、補正部による補正後の熱データによって前記加熱制御部が熱転写する一方、前記位置情報に係る前記非グリップ領域の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、前記補正部により補正されていない熱データによって前記加熱制御部が熱転写することを特徴とする。
【0008】
このように、グリップ領域の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、印刷指令に係る印刷階調に対応する熱データを熱量の増大する方向に補正部で補正し、補正後の熱データによって熱転写する一方、非グリップ領域の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、補正部により補正していない熱データによって熱転写するので、同じ印刷階調であっても非グリップ領域の少なくとも一部において補正していない熱データで熱転写する場合の熱量に比して増加させた熱量でグリップ領域の少なくとも一部に熱転写し、このグリップ領域への転写物の転写量を増やして濃度を上げ、グリップ領域での印刷結果を所望の印刷結果に近づけてグリップ領域での印刷品質を向上させることが可能となる。しかも、グリップ領域の印刷結果ズレを低減又は無くするので、非グリップ領域に対してグリップ領域が目立ちにくくなり又は目立たなくなり、記録媒体全体での印刷品質を向上させることが可能となる。
【0009】
上記補正によって印刷品質が損なわれることを回避するためには、前記補正部は、非グリップ領域とグリップ領域との境界近傍において記録媒体の搬送方向に直交する方向に沿って熱量の補正値を徐々に増加させることが好ましい。
【0010】
過補正や補正不足を回避して補正精度を高めて印刷品質を向上させるためには、前記補正部は、前記グリップ領域の少なくとも一部に熱転写する場合に、印刷階調毎に予め関連付けられた熱量に関する熱データにおいて印刷階調の単位階調差あたりの熱量の変化量に応じた大きさの補正値を用いて補正を行うことが望ましい。
【0011】
記録媒体の位置ズレによる不具合を低減するためには、前記補正部は、前記グリップ領域のうち記録媒体の搬送方向に直交する方向に沿った幅寸法よりも幅狭な領域内において前記補正を行うことが有効である。
【0012】
記録媒体の位置ズレに対応して的確な補正を実現するためには、記録媒体の位置を検出する位置センサを設けるとともに、当該位置センサと搬送ローラのうち微小突起が設けられた部位との位置関係、並びに当該位置センサとサーマルヘッドとの位置関係を予め関連付けて設定しておき、記録媒体の両面のうちいずれか一方の第一の面が搬送ローラで挟持されて搬送された後、一旦搬送ローラから記録媒体が離間し、その後、記録媒体の第一の面の裏面が搬送ローラに挟持されて搬送されながら第一の面に対して印刷が行われる場合に、搬送ローラが第一の面を挟持しているときの位置センサの検出結果に基づき第一の面におけるグリップ領域及び非グリップ領域の位置情報を取得し、取得した位置情報と、搬送ローラが第一の面の裏面を挟持しているときの位置センサの検出結果とに基づいてサーマルヘッドに対する第一の面のグリップ領域及び非グリップ領域の位置情報を取得するように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以上説明した構成であるから、同じ印刷階調であっても非グリップ領域の少なくとも一部において補正していない熱データで熱転写する場合の熱量に比して増加させた熱量でグリップ領域の少なくとも一部に熱転写し、このグリップ領域への転写物の転写量を増やして濃度を上げ、グリップ領域での印刷結果を所望の印刷結果に近づけてグリップ領域での印刷品質を向上させることが可能となる。しかも、グリップ領域の印刷結果ズレを低減又は無くするので、非グリップ領域に対してグリップ領域が目立ちにくくなり又は目立たなくなり、記録媒体全体での印刷品質を向上させることが可能となる。したがって、印刷品質を向上させたサーマルプリンタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るサーマルプリンタの全体構成を模式的に示す図。
【図2】同サーマルプリンタの加熱制御部及びそれに関連する構成を模式的に示す図。
【図3】同サーマルプリンタにおける両面印刷の動作に関する説明図。
【図4】同サーマルプリンタにおける両面印刷の動作に関する説明図。
【図5】同サーマルプリンタにおける両面印刷の動作に関する説明図。
【図6】同サーマルプリンタに予め設定される熱情報及び補正情報を模式的に示す図。
【図7】熱量及びそれによる印刷結果について従来と本実施形態のサーマルプリンタとを模式的に示す比較図。
【図8】本発明の他の実施形態に係る補正値を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るサーマルプリンタを、図面を参照して説明する。
【0016】
サーマルプリンタは、図1に示すように、巻回されたロール用紙等の記録媒体Paを保持する給紙部1と、インクやラミネート層等の塗布されたリボンRbを熱転写により記録媒体Paに熱転写して印刷を行う複数の印刷部2,3と、給紙部1から供給される記録媒体Paを搬送する基幹路Li0と、基幹路Li0に分岐部53を介して接続され基幹路Li0と各々の印刷部2,3との間を連絡する分岐路Li1,Li2と、分岐路Li1,Li2にある記録媒体Paを搬送する搬送ローラ部5と、記録媒体Paの搬送制御や印刷部2,3の印刷制御を行う制御部6とを有し、搬送ローラ部5を通じて給紙部1に保持される記録媒体Paを印刷部2,3に順次搬送し記録媒体Paへの両面印刷を行うものである。
【0017】
給紙部1は、図1に示すように、ロール状に巻回された記録媒体Paを回転可能に保持し、図示しないモータ等の動力部により記録媒体Paをロールの軸心C1を中心に正逆回転させて記録媒体Paの繰り出し及び巻き戻し動作を行い得るように構成されているとともに、対をなす送出ローラ12・12で記録媒体Paを挟持しつつ印刷部2,3に向けて供給する。
【0018】
分岐部53は、基幹路Li0にある記録媒体Paの搬送先を分岐路Li1又は分岐路Li2のいずれか一方に切り換える切り替え部の役割を担うもので、制御部6によりその切り換えが制御される。
【0019】
搬送ローラ部5は、両分岐路Li1,Li2の内側に配置されて図示しないモータ等の動力部から記録媒体Paを搬送する駆動力を得る金属製のマイクログリップローラとも呼ばれる搬送ローラ51と、搬送ローラ51と共に分岐路Li1及び分岐路Li2にある記録媒体Paをそれぞれ挟持するピンチローラ52・52とを有し、両ローラ51,52で記録媒体Paを挟持した状態で搬送ローラ51を回転させることにより記録媒体Paを搬送する。搬送ローラ51は、図2に示すように、記録媒体Paの搬送方向に直交する幅方向(主走査方向)において記録媒体Paの両端側二箇所を挟持する位置に、その表面周方向全体に亘って微小突起tが形成されており、この微小突起tにより記録媒体Paとの摩擦力を高めて高精度な搬送を可能としている。この微小突起を有する搬送ローラ51で挟持された記録媒体Paについて本明細書では、図2に示すように、記録媒体Paのうち搬送ローラ51の微小突起のある部位で挟持された領域をグリップ領域Ar1と呼び、搬送ローラ51の微小突起tのある部位で挟持されていない領域を非グリップ領域Ar2と呼ぶ。グリップ領域Ar1の表面には微小突起tにより突起痕が形成される。
【0020】
図1に示すように、印刷部2は、給紙部1から基幹路Li0及び分岐路Li1を経由して供給される記録媒体Paに対し、インク等の転写物が塗布されたリボンRbを用いてリボンRbの転写物を熱転写(印刷)する。印刷部3は、印刷部2とほぼ同様の構成をなし、給紙部1から基幹路Li0及び分岐路Li2を経由して供給される記録媒体Paに対して熱転写(印刷)する。リボンRbには、リボンの繰り出し方向に沿って順にイエロー、マゼンタ、シアン、オーバーコート層の転写物が塗布されている。印刷部2,3は、図1に示すように、通電されることにより発熱する複数の発熱抵抗体21aが1ラインを構成するように配列されたサーマルヘッド21と(図2参照)、サーマルヘッド21に対向するプラテンローラ22と、リボンRbをサーマルヘッド21に繰り出すと共にサーマルヘッド21に至ったリボンRbを巻き取る対をなすリボン搬送手段23とを有する。サーマルヘッド21及びプラテンローラ22は、相対接離自在に構成されている。
【0021】
発熱抵抗体21aは、図2に示すように、1ラインを構成する画素(ドット)毎に対応して複数配列され、通電による発熱でリボンRbのインクやラミネート層等の転写物を記録媒体Paへ転写することにより、対応する画素の印刷を行うものであり、記録媒体Paを副走査方向の何れか一方向である印刷方向に移動させて供給することにより、主走査方向の画素をライン単位で印刷しつつ、印刷方向に沿って順に画素の印刷を行う。
【0022】
図1及び図2に示す制御部6は、例えば図3に示すように、給紙部1から印刷部2に対し搬送ローラ部5の挟持により記録媒体Paを供給して印刷部2で記録媒体Paの或る面fに印刷し、印刷部2での印刷が完了すると、図4に示すように、記録媒体Paを給紙部1側に巻き取り、一旦記録媒体Paの先端を搬送ローラ部5から離間させ、その後、図5に示すように、分岐部53による搬送先を切り換えて、再度記録媒体Paを搬送ローラ部5に繰り出して搬送ローラ部5で記録媒体Paを挟持し、印刷部3に対し搬送ローラ部5の挟持により記録媒体Paを供給して印刷部3で記録媒体Paの或る面fの裏側の面bに印刷するという両面印刷に必要な一連の動作や他の所要の動作を行うために、各部1〜5の駆動を制御するものである。制御部6は、周知のサーマルプリンタと同様にCPU、メモリ及びインターフェイスを具備する通常のマイクロコンピュータユニットにより構成されて、メモリ内に図示しない印刷制御処理ルーチン等の所要のプログラムが書き込まれており、CPUは適宜必要なプログラムを呼び出して実行することにより、周辺ハードリソースと協働して、図2に示すように、印刷指令に係る印刷階調に応じた熱量となるように発熱抵抗体21aへの通電を制御することでサーマルヘッド21の加熱を制御する加熱制御部61を実現する。
【0023】
加熱制御部61は、図2に示すように、非グリップ領域Ar2に対して転写物することを条件に所望の印刷結果が得られる熱量に関する熱データを印刷階調毎に予め関連付けてメモリに記憶した熱情報62と、印刷指令に係る印刷階調に応じた熱データを上記熱情報62に基づき取得する熱データ取得部63と、熱データに対応する熱量になるように発熱抵抗体21aにパルス通電する通電部64とを有している。なお、ここでいう熱量や熱データは、発熱抵抗体21aに通電する通電量(パルス数)に対応しており、通電量や通電データとも呼ばれる。
【0024】
本実施形態において熱情報62は、図6に示すように、適切な色表現(所望の印刷結果)が得られるように印刷階調毎に熱量(通電パルス数)に関する熱データを関連付けた情報であり、その結果、印刷階調に応じて熱量(通電パルス数)がリニアに変化するのではなく、印刷階調の単位階調差あたりの熱量の変化量Δ(傾き)が図中のΔやΔのように印刷階調によって変化するように設定されている。
【0025】
上記構成に対し本実施形態では、更に下記の構成を加えている。すなわち、図1に示すように、搬送ローラ部5とサーマルヘッド21の間の分岐路Li1,Li2には、記録媒体Paの位置を検出する遮光型の位置センサ7・7がそれぞれ設けられている。これら位置センサ7は、図2に示すように、搬送ローラ51のうち微小突起tの設けられている部位との位置関係を予め関連付けて設定されているとともに、サーマルヘッド21の発熱抵抗体21aとの位置関係を予め関連付けて設定されている。具体的には、位置センサ7は、予め定めた基準位置X0を基点として記録媒体Paの主走査方向(幅方向)側縁egの相対位置を検出する。具体例として図2に示す例では、主走査方向をX座標軸として基準位置X0をX座標値0としており、位置センサ7は、記録媒体Paの幅方向側縁egをX座標値X1であると検出する。また、搬送ローラ51のうち微小突起tの設けられている部位は、基準位置X0を基点として座標値X2〜X座標値X3にあると設定されている。また、サーマルヘッド21の発熱抵抗体21aは、基準位置X0を基点とするX座標に関連付けて設定されている。
【0026】
また、制御部6には、図2に示すように、上記位置センサ7の検出結果に基づきサーマルヘッド21(発熱抵抗体21a)に対するグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報を取得する位置情報取得部65が設けられている。この位置情報取得部65は、上記予め設定された位置関係と位置センサ7の検出結果とに基づき記録媒体Paにおけるグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報を取得可能に構成されているとともに、取得した記録媒体Paにおけるグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報と上記予め設定された位置関係と位置センサ7の検出結果とに基づきサーマルヘッド21(発熱抵抗体21a)に対するグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報を取得可能に構成されている。具体的には、図2に示すように、位置センサ7により記録媒体Paの側縁egの位置がX1(X0が零点)であると検出した場合、記録媒体Paにおけるグリップ領域Ar1の位置は、当該記録媒体Paの幅方向の一側縁egを基点としてX座標値(X2−X1)からX座標値(X3−X1)の範囲にあると取得し、他の領域が非グリップ領域Ar2であると取得する。この特定の下、記録媒体Paが幅方向に位置ズレして位置センサ7により記録媒体Paの側縁egの位置がX1’(X0が零点)であると検出すると、サーマルヘッド21に対するグリップ領域Ar1の位置は、基準位置X0を基点としてX座標(X2−X1+X1’)からX座標(X3−X1+X1’)の範囲にあると取得し、他の領域が非グリップ領域Ar2であると取得する。
【0027】
さらに、制御部6には、図2に示すように、印刷指令に係る印刷階調に対応する熱データを熱量の増大する方向に補正する補正部66が設けられている。そして、制御部6は、位置情報取得部65によって取得したグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報を参照し、イエロー、マゼンタ、シアン等の色インクの転写物をグリップ領域Ar1の少なくとも一部に対して熱転写を行う場合に、この補正部66によって補正された後の熱データに対応する熱量になるように通電部64が発熱抵抗体21aにパルス通電する一方、色インクの転写物を非グリップ領域Ar2の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、この補正部66によって補正されていない熱データに対応する熱量になるように通電部64が発熱抵抗体21aにパルス通電するように構成されている。
【0028】
補正部66によるグリップ領域Ar1での熱量の補正値は、図2に示すように、印刷階調毎に予め関連付けて補正情報66aとして記憶してあり、図6に模式的に示すように、熱情報62として印刷階調に応じて予め関連付けられた熱量に関する熱データにおいて印刷階調の単位階調差あたりの熱量の変化量Δ(傾き)に応じた大きさの補正値が設定されている。すなわち、印刷階調の単位階調差あたりの熱量の変化量Δが大きいほど(すなわち傾きが急であるほど)、補正値が大きくなるように設定されており、逆に単位階調差あたりの熱量の変化量Δが小さいほど(すなわち傾きが緩やかであるほど)、補正値が小さくなるように設定されている。これは単位階調差あたりの熱量の変化量Δに拘わらず同一の補正値を用いると、熱量の変化量Δが大きな印刷階調では補正不足となる一方で、熱量の変化量Δが小さな印刷階調では過補正となってしまうためであり、過補正や補正不足を回避して補正精度を向上させている。
【0029】
また、図2に示す補正部66は、図7(b)に示すように、非グリップ領域Ar2とグリップ領域Ar1との境界近傍において記録媒体Paの搬送方向に直交する幅方向(主走査方向)に沿って熱量の補正値を徐々に変化させるように構成されている。具体的には、図7(b)に示すように、熱量の補正値を非グリップ領域Ar2からグリップ領域Ar1に向けて徐々に増加させている。これにより急激な熱量変化を回避して、急激な熱量変化が視認者に対して境目として認識され目立つことを防止している。本実施形態では、記録媒体Paの幅方向(主走査方向)に沿って矩形状で表されるグリップ領域Ar1の補正値に対しその幅方向両側に、グリップ領域Ar1から遠ざかるに従いグリップ領域Ar1の補正値H2の四分の一程度の大きさから徐々に補正値0となる緩和部位as(なまし部位)を設けている。言い換えると、このなまし部分では、上記幅方向(主走査方向)に沿ってグリップ領域Ar1から非グリップ領域Ar2に向けて熱量の補正値を徐々に減少させている。この緩和部位as(なまし部位)は、図7(b)に示すように、印刷結果に現れない程度の大きさであれば非グリップ領域Ar2に設けてもよく、グリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の両領域Ar1,Ar2に亘って設けてもよい。すなわち、補正部66は非グリップ領域Ar2に対して熱転写する場合にも補正する場合がある。
【0030】
上記構成のサーマルプリンタの動作を説明すると、図3に示すように、給紙部1から印刷部2に記録媒体Paを供給し、記録媒体Paの両面のうちいずれか一方の第一の面bが搬送ローラ51で挟持されて搬送されながら第一の面bの裏面fに印刷が行われる。この場合、搬送ローラ51が第一の面bを挟持しているときの位置センサ7の検出結果に基づき第一の面bにおけるグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報を取得する。
【0031】
印刷部2での印刷が完了すると、図4に示すように、記録媒体Paを給紙部1側に巻き取り、一旦搬送ローラ51から記録媒体Paを離間させ、その後、図5に示すように、再度記録媒体Paを搬送ローラ部5を介して印刷部3に繰り出し、搬送ローラが第一の面bの裏面fを挟持する。この場合、既に取得した記録媒体Paにおけるグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報と、搬送ローラ51が第一の面bの裏面fを挟持しているときの位置センサ7の検出結果に基づいてサーマルヘッド21の発熱抵抗体21aに対する第一の面bのグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報を取得する。
【0032】
そして、第一の面bに印刷を行う場合に、図2に示すように、熱データ取得部63が、発熱抵抗体21a毎に印刷指令に係る印刷階調Pに対応する熱データ(熱量H1)を熱情報62に基づき取得する。ここでは、説明の簡略化のために全ての発熱抵抗体(グリップ領域Ar1や非グリップ領域Ar2を含む全印刷領域)の印刷階調が同じであるとしている。熱データ取得部63が取得した熱データに対応する熱量H1で印刷を行った場合は、図7(a)において視認者に認識される見た目濃度を模式的に示すように、同じ印刷階調(熱量H1)であるにも拘わらず、グリップ領域Ar1の見た目濃度が非グリップ領域Ar2の見た目濃度N1(所望の印刷結果)よりも低くなる。そこで、グリップ領域Ar1に対して熱転写する場合には、図7(b)に模式的に示すように、補正部66が、補正情報66aとして記憶された印刷階調Pに応じた熱量の補正値H2等を用いて熱データを熱量の増大する方向に補正し、補正後の熱データに対応する熱量(H1+H2)等で熱転写を行う。また、非グリップ領域Ar2の一部に対して熱転写する場合には、図7(b)に模式的に示すように、補正部66により補正されてない熱データに対応する熱量(H1)で熱転写を行うとともに、非グリップ領域の他の領域に対して熱転写する場合には、図7(b)に模式的に示すように、補正部66により緩和部位as(なまし部位)として補正された補正後の熱データによって熱転写を行う。すると、同図に模式的に示すように、グリップ領域Ar1への転写物の転写量が増えて視認者の認識する見た目濃度が上がり、グリップ領域Ar1での印刷結果を所望の印刷結果に近づけることが可能となる。
【0033】
以上のように、本実施形態に係るサーマルプリンタは、表面の一部位に微小突起tを有する搬送ローラ51により記録媒体Paを挟持しつつ記録媒体Paを搬送するとともに、印刷指令に応じてサーマルヘッド21を加熱制御することによりリボンRbの転写物を記録媒体Paのうち搬送ローラ51の微小突起tのある部位で挟持されたグリップ領域Ar1と搬送ローラ51の微小突起tのある部位で挟持されていない非グリップ領域Ar2とに熱転写するサーマルプリンタであって、非グリップ領域Ar2に対して熱転写することを条件に所望の印刷結果が得られるように印刷階調に応じて予め関連付けた熱量に関する熱データのうち印刷指令に係る印刷階調Pに対応する熱データを取得し、この熱データに対応する熱量H1になるようにサーマルヘッド21を加熱制御する加熱制御部61を設けるとともに、印刷指令に係る印刷階調Pに対応する熱データ(熱量H1)を熱量の増大する方向に補正する補正部66を設け、サーマルヘッド21に対するグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報を取得し、位置情報に係るグリップ領域Ar1の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、補正部66による補正後の熱データ(熱量H1+H2)によって加熱制御部61が熱転写する一方、位置情報に係る非グリップ領域Ar2の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、補正部66により補正されていない熱データ(熱量H1)によって加熱制御部61が熱転写することようにしている。
【0034】
このように、グリップ領域Ar1の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、印刷指令に係る印刷階調Pに対応する熱データ(熱量はH1)を熱量の増大する方向に補正部66で補正し、補正後の熱データ(熱量はH1+H2)によって熱転写する一方、非グリップ領域Ar2の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、補正部66により補正していない熱データ(熱量H1)によって熱転写するので、同じ印刷階調であっても非グリップ領域Ar2の少なくとも一部において補正していない熱データで熱転写する場合の熱量H1に比して増加させた熱量(H1+H2)でグリップ領域Ar1の少なくとも一部に熱転写し、このグリップ領域Ar1への転写物の転写量を増やして濃度を上げ、グリップ領域Ar1での印刷結果を所望の印刷結果に近づけてグリップ領域Ar1での印刷品質を向上させることが可能となる。しかも、グリップ領域Ar1の印刷結果ズレを低減又は無くするので、非グリップ領域Ar2に対してグリップ領域Ar1が目立ちにくくなり又は目立たなくなり、記録媒体全体での印刷品質を向上させることが可能となる。
【0035】
特に、補正によって熱量が急激に変化して印刷結果が急激に変化する部位が生じ、この部位が視認者に認識されてしまうという補正による印刷品質の低下が考えられるが、本実施形態では、補正部66は、非グリップ領域Ar2とグリップ領域Ar1との境界近傍において記録媒体Paの搬送方向に直交する方向に沿って非グリップ領域Ar2からグリップ領域Ar1に向けて熱量の補正値を徐々に増加させるので、補正による急激な熱量変化を抑制して、補正によって印刷品質が損なわれることを回避することが可能となる。
【0036】
さらに、本実施形態では、補正部66は、グリップ領域Ar1の少なくとも一部に熱転写する場合に、印刷階調毎に予め関連付けられた熱量に関する熱データにおいて印刷階調の単位階調差あたりの熱量の変化量Δに応じた大きさの補正値を用いて補正を行うので、過補正や補正不足を回避して補正精度を高めて印刷品質を向上させることが可能となる。
【0037】
その他、本実施形態では、記録媒体Paの位置を検出する位置センサ7を設けるとともに、位置センサ7と搬送ローラ51のうち微小突起tが設けられた部位との位置関係、並びに位置センサ7とサーマルヘッド21との位置関係を予め関連付けて設定しておき、記録媒体Paの両面のうちいずれか一方の第一の面bが搬送ローラ51で挟持されて搬送された後、一旦搬送ローラ51から記録媒体Paが離間し、その後、記録媒体Paの第一の面bの裏面fが搬送ローラ51に挟持されて搬送されながら第一の面bに対して印刷が行われる場合に、搬送ローラ51が第一の面bを挟持しているときの位置センサ7の検出結果に基づき第一の面bにおけるグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報を取得し、取得した位置情報と、搬送ローラ51が第一の面bの裏面fを挟持しているときの位置センサ7の検出結果とに基づいてサーマルヘッド21に対する第一の面bのグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報を取得するように構成されているので、記録媒体Paが搬送ローラ51から抜かれて離間する場合でも、サーマルヘッド21に対するグリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2の位置情報を取得でき、記録媒体Paが搬送ローラ51から離間するときに生じ得る記録媒体Paの位置ズレに対応して的確な補正を行うことが可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0039】
例えば、本実施形態では、記録媒体Paの搬送方向に直交する方向(幅方向)においてグリップ領域Ar1の幅寸法に合わせた領域に係る熱データに対し補正を行っているが、図8(a)及び図8(b)に示すように、グリップ領域Ar1の幅寸法w1よりも幅狭w2な領域内において補正を行うようにしてもよい(w1>w2)。グリップ領域に合わせた領域に係る熱データに対して補正を行うと、万一、記録媒体Paの位置が幅方向にズレた場合に、非グリップ領域Ar2の一部に対して過大な熱量で印刷することになり、その部位が目立ってしまうおそれが考えられるが、本発明の場合は、グリップ領域Ar1の幅寸法w1よりも幅狭w2な領域に係る熱データに補正を行っているので、万一、記録媒体Paの位置が幅方向にズレた場合でも、ズレをグリップ領域Ar1で吸収することができ、位置ズレによる不具合を低減することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態では、補正値に対して緩和部位as(なまし部位)を設けているが、これを省略することも可能であり、また、緩和部位asの変化の態様は、リニアな変化に限らず、曲線状や波状、階段状等のその他の種々の形態を採用することが可能である。また、本実施形態では、補正部66が印刷指令に係る印刷階調に対応する熱データに対し熱量を増加させる補正を行っているが、補正部を印刷指令に係る印刷階調に対応する熱データに対し熱量を増加又は減少させる補正を実施可能にし、この補正部が、非グリップ領域に対してグリップ領域の熱量の補正値が相対的に増加するように構成してもよい。
【0041】
本実施形態では、イエロー、マゼンタ、シアン等の色インクの転写物を熱転写する場合に、グリップ領域Ar1の濃度を非グリップ領域Ar2の濃度よりも高めることでグリップ領域Ar1を目立たなくしているが、グリップ領域Ar1を目立たなくする他の手段として、透明な保護層であるオーバーコート層を熱転写するにあたり、グリップ領域Ar1での熱量を非グリップ領域Ar2での熱量と異ならせることが挙げられる。具体的には、非グリップ領域Ar2では熱量をほぼ一定に保ってベタ塗り(グロス)して光沢プリントする一方、グリップ領域Ar1では熱量をランダム又は特定パターンで変化させて階調差を持たせたマット印刷を行うことが挙げられる。このようにすると、マット印刷によりグリップ領域Ar1におけるオーバーコート層が階調差(転写量差)によって起伏のあるザラザラ状態となり、グリップ領域Ar1の印刷結果ズレを目立たなくすることができる場合がある。さらに、グリップ領域Ar1及び非グリップ領域Ar2を含めた印刷領域全体に対し熱量をランダム又は特定パターンで変化させたマット印刷を行うことによってもグリップ領域Ar1の印刷結果ズレを目立たなくすることができる場合がある。
【0042】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0043】
21…サーマルヘッド
51…搬送ローラ
61…加熱制御部
7…位置センサ
Ar1…グリップ領域
Ar2…非グリップ領域
b…第一の面
f…第一の面の裏面
t…微小突起
Pa…記録媒体
Rb…リボン
P…印刷階調
H1…熱データに対応する熱量
Δ…印刷階調の単位階調差あたりの熱量の変化量
w1…グリップ領域の幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の一部位に微小突起を有する搬送ローラにより記録媒体を挟持しつつ当該記録媒体を搬送するとともに、印刷指令に応じてサーマルヘッドを加熱制御することによりリボンの転写物を記録媒体のうち前記搬送ローラの微小突起のある部位で挟持されたグリップ領域と前記搬送ローラの微小突起のある部位で挟持されていない非グリップ領域とに熱転写するサーマルプリンタであって、
前記非グリップ領域に対して熱転写することを条件に所望の印刷結果が得られるように印刷階調に応じて予め関連付けた熱量に関する熱データのうち前記印刷指令に係る印刷階調に対応する熱データを取得し、この熱データに対応する熱量になるようにサーマルヘッドを加熱制御する加熱制御部を設けるとともに、前記印刷指令に係る印刷階調に対応する熱データを熱量の増大する方向に補正する補正部を設け、
サーマルヘッドに対する前記グリップ領域及び前記非グリップ領域の位置情報を取得し、前記位置情報に係る前記グリップ領域の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、補正部による補正後の熱データによって前記加熱制御部が熱転写する一方、前記位置情報に係る前記非グリップ領域の少なくとも一部に対して熱転写する場合に、前記補正部により補正されていない熱データによって前記加熱制御部が熱転写することを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項2】
前記補正部は、非グリップ領域とグリップ領域との境界近傍において記録媒体の搬送方向に直交する方向に沿って熱量の補正値を徐々に増加させる請求項1に記載のサーマルプリンタ。
【請求項3】
前記補正部は、前記グリップ領域の少なくとも一部に熱転写する場合に、印刷階調毎に予め関連付けられた熱量に関する熱データにおいて印刷階調の単位階調差あたりの熱量の変化量に応じた大きさの補正値を用いて補正を行う請求項1又は2に記載のサーマルプリンタ。
【請求項4】
前記補正部は、前記グリップ領域のうち記録媒体の搬送方向に直交する方向に沿った幅寸法よりも幅狭な領域内において前記補正を行う請求項1〜3のいずれかに記載のサーマルプリンタ。
【請求項5】
記録媒体の位置を検出する位置センサを設けるとともに、当該位置センサと搬送ローラのうち微小突起が設けられた部位との位置関係、並びに当該位置センサとサーマルヘッドとの位置関係を予め関連付けて設定しておき、
記録媒体の両面のうちいずれか一方の第一の面が搬送ローラで挟持されて搬送された後、一旦搬送ローラから記録媒体が離間し、その後、記録媒体の第一の面の裏面が搬送ローラに挟持されて搬送されながら第一の面に対して印刷が行われる場合に、搬送ローラが第一の面を挟持しているときの位置センサの検出結果に基づき第一の面におけるグリップ領域及び非グリップ領域の位置情報を取得し、取得した位置情報と、搬送ローラが第一の面の裏面を挟持しているときの位置センサの検出結果とに基づいてサーマルヘッドに対する第一の面のグリップ領域及び非グリップ領域の位置情報を取得するように構成されている請求項1〜4のいずれかに記載のサーマルプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−125987(P2012−125987A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278624(P2010−278624)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】