説明

シクリトールおよびその誘導体ならびにその治療用途

本発明は、シクリトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体を対象とする。より詳細には、本発明は、イノシトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体に関する。本発明はまた、イノシトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体およびその他の同様のより親油性の高い誘導体の組成物、ならびにアロステリックエフェクター、細胞シグナル伝達分子類似体、および治療剤としてのそれらの使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2006年12月29日に出願された米国仮特許出願第60/877,976号の利益を主張するものであり、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、シクリトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体を対象とする。より詳細には、本発明は、イノシトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体に関する。本発明はまた、イノシトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体、およびその他の同様のより親油性の高い誘導体の組成物、ならびにアロステリックエフェクター、細胞シグナル伝達分子類似体、および治療剤としてのそれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
概してシクリトール、特にイノシトールは、生体システム中に広範な分布を呈し、これは、生物学的機能におけるその重要性を示唆している。分類として、シクリトールは、すべてのポリヒドロキシル化された同素環分子を包含する。イノシトールは、具体的にはポリヒドロキシル化されたシクロヘキサン誘導体を指す。イノシトールは、多数の既知の配座異性体(すなわち、シス−イノシトール、エピ−イノシトール、アロ−イノシトール、ミオ−イノシトール、ムコ−イノシトール、ネオ−イノシトール、シロ−イノシトール、およびカイロ−イノシトール)を有し、ミオ−イノシトールは、最も自然界に豊富であり、良く特徴付けられた配座異性体である。イノシトールの一部のポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体は、生物活性を有することが知られている。この活性は、重要な細胞シグナル伝達経路における主要な二次メッセンジャーとしての機能から、ヘモグロビンのアロステリックエフェクターとして機能する能力にまで及ぶ。
【0004】
例えば、イノシトール1,4,5−三リン酸は、多様な細胞型における高度に組織化されたCa2+シグナルの産生に関与する可溶性二次メッセンジャーである。これらのCa2+シグナルは、細胞増殖、受精、平滑筋収縮、および分泌を含む多くの細胞応答の制御において機能することが知られている(1)。加えて、イノシトール1,3,4,5四リン酸は、イノシトール1,4,5三リン酸受容体との相互作用によってCa2+を内部貯蔵から動員する(2)ことが示されており、研究は、原形質膜を横切るCa2+流入の調節にイノシトール1,3,4,5四リン酸を関係付けるものであった(3〜8、29)。イノシトール1,4二リン酸は、筋肉型6−ホスホフルクト−1−キナーゼのアロステリック活性化を発揮することが報告されている(9)。イノシトール1,3,4,5四リン酸ではなく、イノシトール4,5二リン酸およびイノシトール1,4,5三リン酸が、ラット心臓筋鞘(10)およびヒト赤血球膜(11)のCa2+−ATPアーゼを選択的に阻害することが示されている。イノシトール1,3,4,6四リン酸によって活性化されたCa2+動員は、微量注入したアフリカツメガエル卵母細胞(12)および透過化されたヒト神経芽腫細胞(13)において観察された。
【0005】
さらに、そのトリスピロリン酸誘導体を含むイノシトール六リン酸は、ヘモグロビンのアロステリックエフェクターとして機能することが示されている(Nicolauら、米国特許第7,084,115号)。ヘモグロビンは、アロステリック機構を介して酸素を送達する四量体タンパク質である。血液中において、ヘモグロビンは、2つのアロステリック構造間で平衡状態にある。「T」(緊張を表す)状態において、ヘモグロビンは脱酸素化される。「R」(弛緩を表す)状態において、ヘモグロビンは酸素化される。酸素平衡曲線をスキャンして、ヘモグロビンの親和性、および協同性の程度(アロステリック作用)を観察することができる。スキャンにおいて、Y軸はヘモグロビン酸素化率をプロットし、X軸は酸素分圧を水銀柱ミリメートル(mmHg)でプロットしている。水平線が50%酸素飽和点からスキャンした曲線まで引かれ、垂直線が水平線と曲線との交点から分圧を示すX軸まで引かれている場合、P50として一般に知られている値が決定される(すなわち、これは、スキャンしたヘモグロビン試料が酸素で50%飽和している場合のmmHg表記での圧力である)。生理的条件(すなわち、37℃、pH=7.4、および二酸化炭素分圧40mmHg)下、正常な成人のヘモグロビン(HbA)のP50値は26.5mmHg前後である。試験されているヘモグロビンについて正常なP50値よりも低い値が得られた場合、スキャンした曲線は「左にシフトしている」と考えられ、高酸素親和性ヘモグロビンの存在が示されている。逆に、試験されているヘモグロビンについて正常なP50値よりも高い値が得られた場合、スキャンした曲線は「右にシフトしている」と考えられ、低酸素親和性ヘモグロビンの存在を示している。
【0006】
哺乳動物赤血球の酸素放出能は、イノシトール六リン酸およびイノシトールトリスピロリン酸のようなアロステリックエフェクターを導入することによって増強でき、それにより、酸素に対するヘモグロビンの親和性を低下させ、血液の酸素節約を改善する。この現象は、低酸素関連疾患または肺もしくは循環系の機能不良に関連する他の病態に罹患している個体を治療するための種々の医療用途を示唆している。
【0007】
例えば、血管新生の調節におけるVEGFの役割は、熱心な研究対象であった(14〜19)。一方、VEGFは、生理的血管新生における重大な律速段階を表し、腫瘍増殖に関連する血管新生等の病的血管新生においても重要である(20)。VEGFは、血管漏出を誘発するその能力に基づいて、血管透過性因子としても知られている(21)。数種の固形腫瘍は、多量のVEGFを産生し、これが内皮細胞の増殖および移動を刺激し、それによって新血管形成を誘発する(21)。VEGF発現は、様々な種類のヒト癌の予後に著しく影響を及ぼすことが示されている。腫瘍中の酸素圧は、VEGF遺伝子の発現を調節する上で主要な役割を有する。VEGF mRNA発現は、多様な病態生理学的状況下で、低酸素圧への暴露によって誘発される(21)。増殖する腫瘍は低酸素を特徴とし、これは、VEGFの発現をもまた誘発し、転移性疾患の発生の予測因子になり得る。したがって、腫瘍中の酸素圧を上昇させる能力は、血管新生および腫瘍の増殖の阻害に役立ち得る。同様の用途はまた、血管腫、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎およびクローン病等、他の血管新生関連疾患について想定することもできる。
【0008】
加えて、内側側頭葉の酸素代謝は、軽度から中等度のアルツハイマー病に罹患している患者において顕著に影響を受けることが知られている。内側側頭葉ならびに頭頂葉および外側側頭葉皮質における平均酸素代謝は、アルツハイマー病に罹患している患者において、アルツハイマー病に罹患していない対照群よりも著しく低いこともまた知られている(22)。よって、アルツハイマー病に罹患している患者を治療する1つの潜在的手段は、アロステリックエフェクターを使用して、血液脳関門を横切る酸素を増加させることである。
【0009】
アロステリックエフェクターはまた、種々の形態の認知症に関連する多様な疾患の治療にも役立ち得る。脳は、血管網を利用して、酸素を担持する血液を血管網に運ぶため、脳に供給する酸素が欠乏すると、脳細胞は死滅する可能性が高く、これが血管性認知症の症状を引き起こし得る。これらの症状は、脳卒中に続いて突然、または一連の小さい脳卒中を経て経時的に発生し得る。よって、種々の形態の認知症に関連する血管疾患に罹患している患者を治療するための1つの潜在的手段は、例えば血液脳関門を横切って、病変部に利用可能な酸素を増加させることである。
【0010】
さらに、アロステリックエフェクターによる個体の治療は、脳卒中および引き続いてそのうち起こり得る骨粗鬆症の病態の治療の両方に有益な効果を有し得る。脳卒中および骨がもろくなる疾患である骨粗鬆症は、通常、2つの異なる健康問題と考えられているが、この2つの間には関連性があることが分かっている。脳卒中から助かった患者は、骨折のリスクを高める疾患である骨粗鬆症に極めて罹患しやすい。多くの場合、骨折は、脳卒中によって麻痺した体の側面で発生する。脳卒中は、脳への血液および酸素の供給が止まっているかまたは大幅に減少している際に発生することが知られている。脳の一部がその栄養豊富な血液および酸素の供給を失うと、脳のその部分によって制御されている身体機能(視覚、発話、歩行等)が損なわれる。米国では、年間500,000人を超える人々が脳卒中に罹患し、150,000人がその結果として死亡している。脳への酸素流量を増加させる1つの手段は、ヘモグロビンのアロステリックエフェクターの使用によるものである。
【0011】
したがって、シクリトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体が容易に合成できることは、上述の潜在的な治療上の使用に適した新たなアロステリックエフェクターを発見するための貴重なツールとなる。加えて、細胞型の多様性、ならびにCa2+シグナル伝達およびそれらのシグナルを伝える上でのシクリトールの役割を利用する細胞機能を前提とすると、ポリリン酸誘導体およびピロリン酸誘導体が容易に合成できることにより、これらの複雑なシグナル伝達経路の機能をより良く解明する上での非常に貴重なツールがもたらされる。それはまた、プロドラッグとして機能する能力を含む、これらの誘導体が有し得る任意の治療活性を測定するのにも有用となる。ミオ−イノシトールの生物活性は、極めて良く特徴付けられている。しかしながら、その生物学的機能が知られていないか、またはあまり理解されていないイノシトールの配座異性体が多数ある。したがって、イノシトールのこれらの配座異性体のポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体が容易に合成できることによってまた、多数の有用かつこれまで未知の生物活性が潜在的に明らかとなる。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、シクリトール、特にイノシトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体を含む化合物および組成物、ならびにそれらの合成方法を対象とする。加えて、本発明は、低酸素によって引き起こされる疾患、または肺もしくは循環系の機能不良に関連する他の病態を治療する際における、ヘモグロビンのアロステリックエフェクター、細胞シグナル伝達分子類似体、および治療剤としてのこれらの組成物の使用を対象とする。
【0013】
一実施形態において、本発明は、イノシトールの六リン酸誘導体である化合物である。より具体的には、シス−イノシトール、エピ−イノシトール、アロ−イノシトール、ムコ−イノシトール、ネオ−イノシトール、シロ−イノシトール、(+)カイロ−イノシトール、または(−)カイロ−イノシトールの六リン酸誘導体のトリエチルアンモニウム塩である。別の実施形態において、化合物は、アルコキシ基およびアシルオキシ基等の1種または複数の遊離ヒドロキシル基またはヒドロキシル誘導体基を含有するポリリン酸化イノシトール誘導体である。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、イノシトールのピロリン酸誘導体である化合物である。イノシトール誘導体は、モノピロリン酸、ビスピロリン酸、またはトリスピロリン酸誘導体であってよい。別の実施形態において、化合物は、イノシトールのトリスホスホルイミド誘導体またはトリスチオピロリン酸誘導体である。
【0015】
別の実施形態において、本発明は、イノシトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体の対応する塩を含む。アルカリ(alkali)金属カチオン、アルカリ性(alkaline)金属カチオン、アンモニウムカチオン、または有機カチオンと塩錯体を形成することができる。
【0016】
別の実施形態において、本発明は、イノシトールのポリリン酸化誘導体および/またはピロリン酸誘導体を含む医薬組成物を含む。
【0017】
さらに別の実施形態において、本発明は、血液に対するヘモグロビンの親和性を減少させる方法における、ポリリン酸化イノシトールおよびピロリン酸イノシトールの使用を対象とする。
【0018】
別の実施形態において、本発明の化合物および組成物は、低酸素によって引き起こされる疾患、または肺もしくは循環系の機能不良に関連する他の病態を治療するための治療剤として使用される。
【0019】
本発明の別の実施形態において、本発明の化合物および組成物は、天然型イノシトール細胞シグナル伝達化合物の類似体またはそのプロドラッグとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】イノシトールの様々な配座異性体を表す図である。
【図2】既知の提案されているイノシトール代謝経路を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明は、シクリトール、特にイノシトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体を対象とする。本発明の化合物を合成するための方法を以下に記載する。本発明はまた、ヘモグロビンのアロステリックエフェクターとしての、シクリトールのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体の使用も包含する。加えて、本発明は、低酸素関連疾患または肺もしくは循環系の機能不良に関連する他の病態の治療のための治療剤としてのそれらの使用を包含する。本発明はまた、細胞シグナル伝達経路の研究における、または、そのような経路、特にイノシトールリン脂質の切断によってシグナルを伝達する細胞シグナル伝達経路を調節するための新たな治療剤の設計における、有用な中間体としてのポリリン酸化誘導体およびピロリン酸誘導体の使用も包含する。
【0022】
(定義)
便宜のために、明細書、実施例および添付の特許請求の範囲において用いられるいくつかの用語をここにまとめる。本明細書および特許請求の範囲全体を通じて使用する場合、下記の用語は下記の意味を有する。
【0023】
「ヘモグロビン」という用語は、すべての天然型および非天然型のヘモグロビンを含む。
【0024】
「ヘモグロビン製剤」という用語は、生理的に適合する担体中のヘモグロビンまたは生理的に適合する担体によって再構成される凍結乾燥されたヘモグロビンを含むが、全血、赤血球または濃厚赤血球を含まない。
【0025】
「全血」という用語は、そのすべての天然構成物質、成分もしくは要素、またはかなりの量の天然構成物質、成分もしくは要素を含有する血液を指す。例えば、一部の成分は、血液を対象に投与する前に、精製プロセスによって除去され得ると想定される。
【0026】
「精製された」、「精製プロセス」および「精製する」は、いずれも、対象に投与された際に赤血球または全血が非毒性であるように、赤血球または全血から本発明の1種または複数の化合物を除去する状態またはプロセスを指す。
【0027】
「非天然型ヘモグロビン」は、細胞内に自然に存在するヘモグロビンのアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を有する合成ヘモグロビン、および化学修飾ヘモグロビンを含む。そのような非天然型突然変異ヘモグロビンは、その調製方法によっては制限されないが、典型的には、例えば、組換えDNA技術、形質転換DNA技術、タンパク質合成、および他の突然変異誘発方法を含む、当該技術分野においてよく知られているいくつかの技術のうち1つまたは複数を使用して作製される。
【0028】
「化学修飾ヘモグロビン」は、別の化学的部分と結合している天然型および非天然型ヘモグロビン分子である。例えば、ヘモグロビン分子は、ピリドキサール−5’−リン酸もしくは他の酸素親和性修飾部分と結合してヘモグロビン分子の酸素結合特性を変化させ、架橋剤と結合して架橋ヘモグロビンもしくは重合ヘモグロビンを形成し、または抱合剤と結合して抱合ヘモグロビンを形成することができる。
【0029】
「酸素親和性」は、酸素がヘモグロビン分子と結合する強度を意味する。高酸素親和性は、ヘモグロビンが、その結合した酸素分子を容易には放出しないことを意味する。P50は、酸素親和性の指標である。
【0030】
「協同性」は、ヘモグロビンのS字形酸素結合曲線を指し、すなわち、第1の酸素と四量体ヘモグロビン分子内の1つのサブユニットとの結合は、酸素分子と他の非結合サブユニットとの結合を増強する。これは、好都合なことに、Hill係数(n[max])によって計測される。Hb Aでは、n[max]=3.0である。
【0031】
「治療」という用語は、予防、療法および治癒も包含することが意図されている。
【0032】
「虚血」は、臓器または骨格組織への酸素供給の一時的もしくは長期的な不足または減少を意味する。虚血は、臓器が移植される際に、または、敗血症性ショックおよび鎌状赤血球貧血等の状態によって誘発され得る。
【0033】
「骨格組織」は、(それだけに限らないが)上皮、結合組織(血液、骨および軟骨を含む)、筋肉組織、および神経組織を含む細胞ならびに細胞間質からなる、骨格生物の有機体の物質を意味する。
【0034】
「虚血性傷害」は、虚血によって引き起こされる臓器または骨格組織への損傷を意味する。
【0035】
「対象」は、ヒトおよび動物を含む任意の生命体を意味する。
【0036】
「非経口投与」および「非経口投与される」という語句は、本明細書において使用する場合、通常は注射による、経腸および局所投与以外の投与形態を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、髄腔内、および胸骨内注射ならびに注入を含むが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書において使用する場合、「手術」という用語は、手動または操作的方法による疾患、負傷および変形の治療を指す。一般的な手術手順は、(それだけに限らないが)腹部手術、耳手術、ベンチ手術、心臓手術、動形成切断術、保存的手術、美容手術、腫瘍縮小術、歯科手術、顎顔面手術、一般外科手術、大手術、小手術、モース術、心臓切開術、臓器移植術、整形外科手術、形成外科手術、精神外科手術、根治手術、再建手術、音波手術、定位固定手術、構造的手術、胸部手術、および獣医外科手術を含む。本発明の方法は、(それだけに限らないが)上記の手術、およびあらゆる種類の任意の一般外科手術、大手術、小手術、または低侵襲手術を含む、身体のいずれかの部分を扱う任意の種類の手術を受けるべき患者に適している。
【0038】
「低侵襲手術」には、皮膚の穿刺もしくは切開、または体内への機器もしくは異物の挿入を含む。低侵襲手術の非限定的な例は、動脈または静脈カテーテル法、経尿道的切除術、内視鏡検査(例えば、腹腔鏡検査(laparoscopy)、気管支鏡検査、尿検査、咽頭鏡検査、膀胱鏡検査、子宮鏡検査、胃鏡検査、大腸内視鏡検査、膣鏡検査、腹腔鏡検査(celioscopy)、S状結腸鏡検査、およびオルソスコピー(orthoscopy))、および血管形成術(例えば、バルーン血管形成術、レーザー血管形成術、および経皮経管的血管形成術)を含む。
【0039】
「ED50」という用語は、その最大応答または効果の50%を生じる薬物の用量を意味する。あるいは、50%の試験対象または製剤において所定の応答を生じる用量である。
【0040】
「LD50」という用語は、50%の試験対象に致死的な薬物の用量を意味する。
【0041】
「治療指数」という用語は、LD50/ED50として定義される薬物の治療指数を指す。
【0042】
「全身投与」、「全身投与される」、「末梢投与」および「末梢投与される」という語句は、本明細書において使用する場合、化合物、薬物、または他の物質が直接ではなく中枢神経系内へ投与され、その結果それが患者の身体へ入り、したがって代謝および他の同様のプロセスにさらされること、例えば皮下投与を意味する。
【0043】
「構造活性相関(SAR)」という用語は、薬物の分子構造を変更することにより、受容体、酵素等とのそれらの相互作用を変更する手法を指す。
【0044】
「ピロリン酸」という用語は、以下の一般式を指し、
【化1】

【0045】
式中、Rは、それぞれ独立に、H、カチオンおよび炭化水素基からなる群から選択される。
【0046】
「内部ピロリン酸部分」、「内部ピロリン酸環」および「環状ピロリン酸」という用語は、以下の構造的特徴を指し、
【化2】

【0047】
式中、Rは、それぞれ独立に、H、カチオン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、アリール、およびアシル基からなる群から選択される。
【0048】
「IHP−モノピロリン酸」(「IMPP」と略される)という用語は、2個のオルトピロリン酸が1個の内部ピロリン酸環に縮合されたイノシトール六リン酸を指す。
【0049】
「IHP−トリスピロリン酸」または「イノシトールトリスピロリン酸」(いずれも「ITPP」と略される)という用語は、3個の内部ピロリン酸環を持つイノシトール六リン酸を指す。
【0050】
「2,3−ジホスホ−D−グリセリン酸」(DPG)という用語は、以下の化合物を指す。
【化3】

【0051】
「2,3−シクロピロホスホグリセラート」(CPPG)という用語は、以下の化合物を指す。
【化4】

【0052】
「アンモニウムカチオン」という用語は、以下の構造を指し、
【化5】

【0053】
式中、Rは、それぞれ独立に、Hまたは置換もしくは非置換の脂肪族基を表す。「脂肪族アンモニウムカチオン」は、少なくとも1つのRが脂肪族基である場合の上記構造を指す。「第四級アンモニウムカチオン」は、4つのすべてのRが独立に脂肪族基を表す場合の上記構造を指す。Rは、2つ以上について同じであってもよく、また4つすべてについて異なっていてもよい。
【0054】
「ヘテロ原子」という用語は、本明細書において使用する場合、炭素または水素以外の任意の元素の原子を意味する。好ましいヘテロ原子は、ホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄、およびセレンである。
【0055】
「電子求引基」という用語は、当該技術分野において認識されており、置換基が隣接原子から価電子を誘引する傾向を表しており、すなわち、この置換基は、隣接原子に対して電気的に陰性である。電子求引能のレベルの定量化は、Hammettシグマ(σ)定数によって求められる。このよく知られている定数は、多くの参考文献、例えば、J.March、Advanced Organic Chemistry、McGraw Hill Book Company、New York、(1977年版)251〜259ページに記載されている。Hammett定数値は、概して、電子供与基では負の値であり(NHではσ[P]=−0.66)、電子求引基では正の値であり(ニトロ基ではσ[P]0.78)、σ[P]はパラ置換を示している。例示的な電子求引基は、ニトロ、アシル、ホルミル、スルホニル、トリフルオロメチル、シアノ、クロリド等を含む。例示的な電子供与基は、アミノ、メトキシ等を含む。
【0056】
「アルキル」という用語は、直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、およびシクロアルキル置換アルキル基を含む飽和脂肪族基の化学基を指す。好ましい実施形態において、直鎖または分岐鎖アルキルは、その主鎖中に、30個以下の炭素原子(例えば、直鎖ではC〜C30、分岐鎖ではC〜C30)、より好ましくは20個以下の炭素原子を有する。同様に、好ましいシクロアルキルは、その環構造中に3〜10個の炭素原子を有し、より好ましくは、環構造中に5、6または7個の炭素を有する。
【0057】
「アラルキル」という用語は、本明細書において使用する場合、アリール基(例えば、芳香族基またはヘテロ芳香族基)で置換されているアルキル基を指す。
【0058】
「アルケニル」および「アルキニル」という用語は、長さおよび考えられる置換においては上記のアルキルと類似しているが、少なくとも1つの二重結合または三重結合をそれぞれ含有する、不飽和脂肪族基を指す。
【0059】
炭素の数について特に規定されていない限り、「低級アルキル」は、本明細書において使用する場合、上記で定義された通りであるが、その主鎖構造中に約1〜約10個の炭素、より好ましくは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。同様に、「低級アルケニル」および「低級アルキニル」は、同様の鎖長を有する。好ましいアルキル基は、低級アルキルである。好ましい実施形態において、本明細書においてアルキルと指定されている置換基は、低級アルキルである。
【0060】
「アリール」という用語は、本明細書において使用する場合、0〜4個のヘテロ原子を含み得る5、6および7員の単環式芳香族基、例えば、ベンゼン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、およびピリミジン等を含む。環構造中にヘテロ原子を有するそれらのアリール基を、「アリールヘテロ環」または「ヘテロ芳香族」と称する場合もある。芳香族環は、1つまたは複数の環位置で、上記のような置換基、例えば、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホナート、ホスフィナート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族またはヘテロ芳香族部分、−CF、−CN等によって置換されていてよい。「アリール」という用語はまた、2つ以上の炭素が2つの隣接環に共通である(環が「縮合環」である)2つ以上の環式環を有し、環のうちの少なくとも1つは芳香族であり、例えば、他の環式環は、シクロアルキル、シクロアルケニル、および/またはヘテロシクリルであってよい多環式環系も含む。
【0061】
オルト、メタ、およびパラという用語は、それぞれ、1,2−、1,3−および1,4−二置換ベンゼンに当てはまる。例えば、名称1,2−ジメチルベンゼンおよびオルト−ジメチルベンゼンは同義である。
【0062】
「ヘテロシクリル」または「複素環基」という用語は、3〜10員環構造、より好ましくは3〜7員環を指し、その環構造は、1〜4個のヘテロ原子を含む。ヘテロ環はまた、多環式であってもよい。ヘテロシクリル基は、例えば、チオフェン、チアントレン、フラン、ピラン、イソベンゾフラン、クロメン、キサンテン、フェノキサチイン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ピリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェナルサジン、フェノチアジン、フラザン、フェノキサジン、ピロリジン、オキソラン、チオラン、オキサゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ラクトン、アゼチジノンおよびピロリジノン等のラクタム、スルタム、スルトン等を含む。複素環は、1つまたは複数の環位置で、上記のような置換基、例えば、ハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホナート、ホスフィナート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族またはヘテロ芳香族部分、−CF、−CN等によって置換されていてよい。
【0063】
「ポリシクリル」または「多環式基」という用語は、2つ以上の炭素が2つの隣接環に共通である、例えば環が「縮合環」である、2つ以上の環(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、および/またはヘテロシクリル)を指す。非隣接原子を介して結合している環を、「架橋」環と称する。多環の環のそれぞれは、上記のような置換基、例えば、ハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホナート、ホスフィナート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族またはヘテロ芳香族部分、−CF、−CN等によって置換されていてよい。
【0064】
「炭素環」という用語は、本明細書において使用する場合、環の各原子が炭素である芳香族環または非芳香族環を指す。
【0065】
本明細書において使用する場合、「ニトロ」という用語は−NOを意味し、「ハロゲン」という用語は、−F、−Cl、−Brまたは−Iを指し、「スルフヒドリル」という用語は−SHを意味し、「ヒドロキシル」という用語は−OHを意味し、「スルホニル」という用語は−SO−を意味する。
【0066】
「アミン」および「アミノ」という用語は、当該技術分野において認識されており、非置換および置換アミンの両方、例えば、一般式
【化6】

【0067】
によって表すことができる部分を指し、式中、R、R10およびR’10は、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、−(CH−Rを表すか、あるいは、RおよびR10は、それらが結合したN原子と一緒になって、環構造中に4〜5個の原子を有するヘテロ環を完成させ、Rは、アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロ環または多環を表し、mは、0または1〜8の範囲内の整数である。好ましい実施形態において、RまたはR10の一方のみがカルボニルであってよく、例えば、R、R10および窒素は、一緒になってイミドを形成しない。さらに一層好ましい実施形態において、RおよびR10(および場合によってR’10)は、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニルまたは−(CH−Rを表す。よって、「アルキルアミン」という用語は、本明細書において使用する場合、それらに結合している置換または非置換のアルキルを有する(すなわち、RおよびR10のうちの少なくとも一方がアルキル基である)、上記で定義されたアミン基を意味する。
【0068】
「アシルアミノ」という用語は、当該技術分野において認識されており、一般式
【化7】

【0069】
によって表すことができる部分を指し、式中、Rは上記で定義された通りであり、R’11は、水素、アルキル、アルケニル、または−(CH−R[ここで、mおよびRは上記で定義された通りである]を表す。
【0070】
「アミド」という用語は、当該技術分野においてアミノ置換カルボニルとして認識されており、一般式
【化8】

【0071】
によって表すことができる部分を含み、式中、R、R10は上記で定義された通りである。アミドの好ましい実施形態は、不安定な場合があるイミドを含まない。
【0072】
「アルキルチオ」という用語は、それらに結合している硫黄基を有する、上記で定義されたアルキル基を指す。好ましい実施形態において、「アルキルチオ」部分は、−S−アルキル、−S−アルケニル、−S−アルキニル、および−(CH−R[ここで、mおよびRは上記で定義された通りである]のうちの1つによって表される。代表的なアルキルチオ基は、メチルチオ、エチルチオ等を含む。
【0073】
「カルボニル」という用語は、当該技術分野において認識されており、一般式
【化9】

【0074】
によって表すことができるような部分を含み、式中、Xは、結合であるか、または酸素もしくは硫黄を表し、R11は、水素、アルキル、アルケニル、−(CH−Rまたは薬学的に許容可能な塩を表し、R’11は、水素、アルキル、アルケニル、または−(CH−R[ここで、mおよびRは上記で定義された通りである]を表す。Xが酸素であり、R11またはR’11が水素ではない場合、式は「エステル」を表す。Xが酸素であり、R11が上記で定義された通りである場合、この部分は、本明細書においてはカルボキシル基と称され、特に、R11が水素である場合、式は「カルボン酸」を表す。Xが酸素であり、R’11が水素である場合、式は「ギ酸エステル」を表す。概して、上記式の酸素原子が硫黄によって置き換えられている場合、式は「チオールカルボニル」基を表す。Xが硫黄であり、R11またはR’11が水素ではない場合、式は「チオールエステル」を表す。Xが硫黄であり、R11が水素である場合、式は「チオールカルボン酸」を表す。Xが硫黄であり、R’11が水素である場合、式は「チオールギ酸エステル」を表す。一方、Xが結合であり、R11が水素ではない場合、上記式は「ケトン」基を表す。Xが結合であり、R11が水素である場合、上記式は「アルデヒド」基を表す。
【0075】
「アルコキシル」または「アルコキシ」という用語は、本明細書において使用する場合、それらに結合している酸素基を有する、上記で定義されたアルキル基を指す。代表的なアルコキシル基は、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、tert−ブトキシ等を含む。「エーテル」は、酸素によって共有結合されている2個の炭化水素である。したがって、アルキルをエーテルにするアルキルの置換基は、−O−アルキル、−O−アルケニル、−O−アルキニル、−O−(CH[ここで、mおよびRは上記で定義された通りである]のうちの1つによって表すことができるもの等のアルコキシルであるか、またはアルコキシルに似ている。
【0076】
「スルホナート」という用語は、当該技術分野において認識されており、一般式
【化10】

【0077】
によって表すことができる部分を含み、式中、R41は、電子対、水素、アルキル、シクロアルキル、またはアリールである。
【0078】
トリフリル、トシル、メシル、およびノナフリルという用語は、当該技術分野において認識されており、それぞれ、トリフルオロメタンスルホニル、p−トルエンスルホニル、メタンスルホニル、およびノナフルオロブタンスルホニル基を指す。トリフラート、トシラート、メシラート、およびノナフラートという用語は、当該技術分野において認識されており、それぞれ、トリフルオロメタンスルホナートエステル、p−トルエンスルホナートエステル、メタンスルホナートエステル、およびノナフルオロブタンスルホナートエステル官能基、ならびにこれらの基を含有する分子を指す。
【0079】
Me、Et、Ph、Tf、Nf、TsおよびMsという略号は、それぞれ、メチル、エチル、フェニル、トリフルオロメタンスルホニル、ノナフルオロブタンスルホニル、p−トルエンスルホニル、およびメタンスルホニルを表す。有機化学の当業者によって利用される略号のさらに包括的なリストは、Journal of Organic Chemistryの各巻の創刊号に掲載されており、このリストは、典型的には、Standard List of Abbreviationsと題された表中に提示されている。このリストに収められている略号、および有機化学の当業者によって利用されるすべての略号は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0080】
「スルファート」という用語は、当該技術分野において認識されており、一般式
【化11】

【0081】
によって表すことができる部分を含み、式中、R41は、上記で定義された通りである。
【0082】
「スルホンアミド」という用語は、当該技術分野において認識されており、一般式
【化12】

【0083】
によって表すことができる部分を含み、式中、RおよびR’11は、上記で定義された通りである。
【0084】
「スルファモイル」という用語は、当該技術分野において認識されており、一般式
【化13】

【0085】
によって表すことができる部分を含み、式中、RおよびR10は、上記で定義された通りである。
【0086】
「スルホニル」という用語は、本明細書において使用する場合、一般式
【化14】

【0087】
によって表すことができる部分を指し、式中、R44は、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、またはヘテロアリールからなる群から選択される。
【0088】
「スルホキシド」という用語は、本明細書において使用する場合、一般式
【化15】

【0089】
によって表すことができる部分を指し、式中、R44は、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アラルキル、またはアリールからなる群から選択される。
【0090】
同様の置換をアルケニル基およびアルキニル基に行い、例えば、アミノアルケニル、アミノアルキニル、アミドアルケニル、アミドアルキニル、イミノアルケニル、イミノアルキニル、チオアルケニル、チオアルキニル、カルボニル置換アルケニルまたはアルキニルを生成することができる。
【0091】
本明細書において使用する場合、各表現、例えば、アルキル、m、n等の定義は、それが任意の構造中に複数回出現する場合、同じ構造中の他の場所におけるその定義とは無関係であることが意図されている。
【0092】
「置換」または「で置換されている」は、そのような置換が、置換されている原子および置換基の容認される価数に従っていること、ならびにその置換が、安定な化合物、例えば、転位、環化、脱離等による変換を自発的にはしない化合物をもたらすことという、暗黙の条件を含むことが理解されるであろう。
【0093】
本明細書において使用する場合、「置換されている」という用語は、有機化合物の容認できる置換基をすべて含むことを企図している。広範な態様において、容認できる置換基は、有機化合物の、非環式および環式、分岐鎖および非分岐鎖、炭素環式および複素環式、芳香族および非芳香族の置換基を含む。実例となる置換基は、例えば、本明細書において上記したものを含む。容認できる置換基は、適切な有機化合物について、1つまたは複数であってよく、同じであっても異なっていてもよい。本発明の目的のために、窒素等のヘテロ原子は、水素置換基、および/または、ヘテロ原子の価数を満たす、本明細書に記載されている有機化合物の任意の容認できる置換基を有し得る。本発明は、有機化合物の容認できる置換基により、いかなる様式にも限定されることを意図しない。
【0094】
「保護基」という語句は、本明細書において使用する場合、潜在的に反応性の官能基を望ましくない化学変換から保護する一時的な置換基を意味する。そのような保護基の例は、カルボン酸のエステル、アルコールのシリルエーテル、ならびにそれぞれアルデヒドおよびケトンのアセタールおよびケタールを含む。保護基化学の分野は総説されている(Greene,T.W.;Wuts,P.G.M.,Protective Groups in Organic Synthesis、第2版;Wiley:New York、1991)。
【0095】
「血管新生関連疾患」は、本明細書で定義されている通り、(それだけに限らないが)内皮細胞の過剰もしくは異常刺激(例えば、アテローム性動脈硬化症)、血液由来腫瘍、固形腫瘍および腫瘍転移、良性腫瘍、例えば、血管腫、聴神経腫、神経線維腫、トラコーマおよび化膿性肉芽腫、血管機能不全、異常な創傷治癒、炎症性および免疫障害、ベーチェット病、痛風もしくは痛風性関節炎、糖尿病性網膜症、ならびに未熟児網膜症(水晶体後線維増殖症)、黄斑変性症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障等の他の眼球血管新生疾患、ならびにOsler Weber症候群(Osler−Weber−Rendu病)を含む。本発明によって治療することができる癌は、(それだけに限らないが)乳癌、前立腺癌、腎細胞癌、脳腫瘍、卵巣癌、結腸癌、膀胱癌、膵癌、胃癌、食道癌、皮膚黒色腫、肝癌、肺癌、精巣癌、腎癌、膀胱癌、子宮頸癌、リンパ腫、副甲状腺癌、陰茎癌、直腸癌、小腸癌、甲状腺癌、子宮癌、ホジキンリンパ腫、口唇および口腔癌、皮膚癌、白血病、または多発性骨髄腫を含む。
【0096】
本発明のいくつかの化合物は、特定の幾何異性形態または立体異性形態で存在し得る。本発明は、シス−およびトランス−異性体、R−およびS−エナンチオマー、ジアステレオマー、(D)−異性体、(L)−異性体、それらのラセミ混合物、ならびにそれらの他の混合物を含む、このような化合物すべてを本発明の範囲内に入るものとして企図する。さらなる不斉炭素原子が、アルキル基等の置換基中に存在し得る。そのような異性体およびそれらの混合物はすべて、本発明に含まれることが意図されている。
【0097】
例えば、本発明の化合物の特定のエナンチオマーが望ましい場合、この異性体は、不斉合成によって、またはキラル補助基による誘導によって調製することができ、ここで、結果として生じたジアステレオマー混合物を分離し、補助基を切断して、純粋な所望のエナンチオマーを提供する。あるいは、分子がアミノ等の塩基性官能基またはカルボキシル等の酸性官能基を含有する場合、適切な光学活性な酸または塩基とのジアステレオマー塩が形成され、続いて、そのようにして形成されたジアステレオマーを、当該技術分野においてよく知られている分別結晶またはクロマトグラフ手段によって光学分割し、その後、純粋なエナンチオマーを回収する。
【0098】
上記の化合物の企図される均等物は、その他の点ではこの化合物に対応し、その化合物と同じ一般的性質を有しているが、化合物の効能に悪影響を及ぼさない1つまたは複数の単純な置換基の変動が為されている化合物を含む。概して、本発明の化合物は、例えば以下に記載するような一般的な反応スキームに示されている方法によって、または容易に入手可能な出発材料、試薬、および従来の合成手順を使用するその変更形態によって調製することができる。これらの反応において、それ自体既知であるがここでは言及しない変形形態を活用することも可能である。
【0099】
本発明の目的のために、化学元素は、Periodic Table of the Elements、CAS版、Handbook of Chemistry and Physics、第67版、1986〜87、内表紙に従って特定され、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0100】
(アロステリックエフェクターおよび治療剤としての使用)
本発明は、ヘモグロビンのアロステリックエフェクターおよび治療剤としての、本発明のポリリン酸化シクリトール誘導体およびピロリン酸シクリトール誘導体の使用を包含する。一実施形態において、アロステリックエフェクターはポリリン酸化イノシトールである。さらに別の実施形態において、アロステリックエフェクターはイノシトールピロリン酸誘導体である。ヘモグロビンを低酸素親和性状態へとアロステリックに修飾するプロセスは、虚血、癌等の血管新生関連疾患、および、アルツハイマー病、認知症、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、骨粗鬆症、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)等の虚血介在性疾患の治療において、および血液の保存期限を延長または期限切れの血液の酸素運搬能を回復させる上で、およびx線照射用の増感剤としての多様な用途に、ならびに多くの他の用途に使用することができる。
【0101】
本発明の化合物、組成物および方法は、ヘモグロビンをアロステリックに修飾して低酸素親和性「T」状態を促進することができるため、本発明の化合物は、その組織が、癌、虚血、アルツハイマー病、認知症、および脳卒中等の低酸素圧に罹患している、ヒトを含む哺乳動物における多様な病態を治療する上で有用となり得る。さらに、Hirstら(23)によって記載されている通り、循環血液中のヘモグロビンの酸素親和性を低下させることは、腫瘍の放射線療法において有益であることが示されている。本発明の化合物はまた、酸素に対するヘモグロビンの親和性が異常に高い患者に投与してもよい。例えば、いくつかの異常ヘモグロビン症、いくつかの呼吸窮迫症候群、例えば、高い胎児性ヘモグロビンレベルによって増悪される新生児の呼吸窮迫症候群、および組織へのヘモグロビン/酸素のアベイラビリティが低下している状態(例えば、末梢血管疾患、冠動脈閉塞、うっ血性心不全、脳血管発作、または組織移植等の虚血状態において)である。化合物および組成物はまた、血小板凝集阻害、抗血栓目的、および創傷治癒に使用することもできる。
【0102】
さらに、ヘモグロビンからの酸素の解離を促進し、血液の酸素送達能を改善するために、本発明の化合物および組成物を、好ましくは貯蔵時または輸血時に、全血または濃厚血球(packed cells)に添加することができる。血液が貯蔵されている場合、血液中のヘモグロビンは、2,3−ジホスホグリセリドを失って酸素に対するその親和性を上昇させる傾向がある。上記の通り、本発明の化合物および組成物は、全血または濃厚血球が貯蔵されている場合に観察される、ヘモグロビンの機能的異常を逆転および/または予防することができる。化合物および組成物は、貯蔵前に化合物もしくは組成物を入れる適切な容器、または血液収集バッグ内の抗凝固溶液中に存在する適切な容器を使用し、閉鎖系内の全血または赤血球画分に添加することができる。
【0103】
本発明の化合物、組成物および方法を使用して、低血流量および低温でより多くの酸素を送達させ、典型的には低酸素状態に関連する、例えば、心筋またはニューロンの細胞損傷を低下させるか、または予防する能力を提供することができる。
【0104】
本発明の化合物、組成物および方法を使用して、酸素を送達する効率を上昇させることにより、出血性ショックを治療するために必要な赤血球の数を減少させることができる。
【0105】
より良好な血流量および酸素圧の上昇があれば、損傷組織はより速く治癒する。したがって、本発明の化合物、組成物および方法を使用して、創傷治癒を促進することができる。さらに、創傷組織への酸素送達を増加させることにより、本発明の化合物、組成物および方法は、創傷における感染を引き起こすバクテリアの破壊において役割を果たすことができる。
【0106】
本発明の化合物、組成物および方法は、特に、脳卒中後に発生し得るもの等の、フリーラジカル形成によって完全閉塞および再灌流傷害が発生する前に、脳への酸素の送達を増加させる上で有効となり得る。加えて、内側側頭葉の酸素代謝は、軽度から中等度のアルツハイマー病に罹患している患者において顕著に影響を受けることが知られている。内側側頭葉、ならびに頭頂葉および外側側頭葉皮質における平均酸素代謝は、アルツハイマー病に罹患している患者において、アルツハイマー病に罹患していない対照群よりも著しく低いことも知られている(22)。よって、アルツハイマー病に罹患している患者を治療する1つの手段は、本発明に従うアロステリックエフェクターを使用して、血液脳関門を横切る酸素を増加させることである。
【0107】
本発明の化合物、組成物および方法は、塞がった動脈ならびに周囲の筋肉および組織への酸素送達を増加させることができ、それにより、狭心症発作の苦痛を緩和する。
【0108】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、間質および/または肺胞の損傷および出血、ならびにヒアリン膜に関連する脈管周囲の肺水腫、コラーゲン繊維の増殖、および飲作用の増加による上皮の腫大を特徴とする。本発明の化合物、組成物および方法によってRBCに提供される酸素送達能の増強は、正常よりも低い肺への酸素送達を緩和することにより、ARDSの治療および予防において使用することができる。
【0109】
本発明の化合物または組成物または方法の使用を魅力的にする心臓バイパス手術の態様がいくつかある。第1に、本発明の化合物および組成物は、神経保護剤として作用することができる。心臓バイパス手術後、患者の最大50%は、認知機能の試験に基づく脳虚血の兆候をいくつか示す。これらの患者の最大5%は、脳卒中の痕跡を示す。第2に、心停止法は、心臓手術中、心臓を停止させ、心臓を虚血から保護するプロセスである。心停止法は、冠血管に塩化カリウムの溶液を灌流させ、氷水中に心臓を浸すことによって実施される。しかしながら、血液心停止法もまた使用される。これは、塩化カリウムが、塩水の代わりに血液中に溶解されている場合である。手術中、心臓からは酸素が奪われ、冷温が代謝の減速に役立つ。このプロセス中、周期的に、心臓に心停止液を灌流させて代謝産物および反応種を洗い流す。血液を冷却することによりヘモグロビンの酸素親和性を上昇させ、よって、酸素放出の効率を低くする。しかしながら、本発明の化合物または組成物であらかじめ処理し、その後精製したRBCまたは全血による血液心停止法の治療は、酸素親和性に対する冷温の効果を相殺し、虚血心筋への酸素放出をより効率的にすることができ、それにより、心臓が再度拍動し始めた後の心機能を改善する。第3に、バイパス手術中、患者の血液は、ポンプ充填(pump prime)のプロセスのために希釈される。この血液希釈は、本質的には急性貧血である。本発明の化合物および組成物は、酸素輸送をより効率的にするため、血液希釈中におけるそれらの使用は、(バイパス手術であるか、整形外科または血管等の他の手術であるかにかかわらず)さもなければ損なわれた状態において組織の酸素化を増強するであろう。さらに、本発明の化合物および方法はまた、血管形成術を受けており、例えばこの方法において使用される染料による急性虚血性傷害を経験し得る患者において有用である。
【0110】
最近では、Nicolauら(米国特許出願公開第2006/0258626号)が、VEGF発現を低下させるイノシトールトリピロリン酸の能力を実証した。VEGFは、生理的血管新生における重大な律速段階を表し、VEGFはまた、腫瘍増殖に関連する血管新生等の病的血管新生においても重要である(20)。VEGFはまた、血管漏出を誘発するその能力に基づいて、血管透過性因子としても知られている(21)。数種の固形腫瘍は、多量のVEGFを産生し、これが内皮細胞の増殖および移動を刺激し、それによって新血管形成を誘発する(21、30)。VEGF発現は、様々な種類のヒト癌の予後に著しく影響を及ぼすことが示されている。腫瘍中の酸素圧は、VEGF遺伝子の発現を調節する上で主要な役割を有する。VEGF mRNA発現は、多様な病態生理学的状況下、低酸素圧への暴露によって誘発される(21)。増殖する腫瘍は低酸素を特徴とし、これが、VEGFの発現を誘発し、転移性疾患の発生の予測因子にもなり得る。したがって、本発明の化合物および組成物は、VEGF発現の下方制御においても有用となり得、癌等の血管新生関連疾患を治療する際に使用することができる。
【0111】
(細胞シグナル伝達類似体としての使用)
多様な細胞表面受容体の活性化は、イノシトール1,4,5−三リン酸およびジアシルグリセロールの同時形成とともに、副次的な原形質膜リン脂質ホスファチジルイノシトール4,5−二リン酸のホスホリパーゼC触媒加水分解をもたらす(4)。イノシトール1,4,5−三リン酸は、小胞体に関連する貯蔵からCa2+を放出する重大な第2メッセンジャーであること、ならびにこのような細胞質ゾルCa2+シグナルは、細胞増殖および発育、受精、分泌、平滑筋収縮、知覚、および神経調節を含む多種多様な細胞応答を誘発することが認識されている(24、25)。しかしながら、キナーゼ、ホスファターゼ、および受容体を含み、それによってイノシトール中間体がこのシグナル伝達を促進する代謝経路は、図2に示されている通り、驚くほど複雑である。実際には、イノシトールの他のポリリン酸化形態が、重大な細胞内メッセンジャーとしての役割、またはおそらくタンパク質リン酸化における独自の役割を果たし得るという認識が増加しつつある(26、27)。イノシトール(1,4,5)−三リン酸に対するイノシトール三リン酸受容体の高親和性は、細胞および組織抽出物からイノシトール三リン酸の質量を数量化するための単純な放射性受容体アッセイの開発を可能にした(28)。このメッセンジャー、ならびにその脂質前駆体およびそのキナーゼ由来の生成物イノシトール四リン酸についての質量アッセイの利用しやすさは、これらの細胞内経路の最近の研究において、およびこのシグナル伝達経路を使用する膨大な数のGPCRの評価においては、非常に貴重であった(24)。
【0112】
イノシトール受容体特異的リガンドを開発することができるか、またはイノシトールを代謝する酵素の細胞透過性阻害剤が有用な治療剤であることが判明するか否かを判断するために、このシグナル伝達経路およびその関連タンパク質についてのより良い理解が必要となる(24)。本発明によって提供されるポリリン酸化誘導体およびピロリン酸イノシトール誘導体が容易に合成できることは、このシグナル伝達経路をさらに理解し、有効な治療標的を特定および設計する上で有用となる。
【0113】
(製剤および医薬組成物)
本明細書に記載されている化合物および組成物は、既知の技術を使用して、生理的に許容可能な製剤として提供することができ、この製剤は、標準的な経路によって投与することができる。概して、組成物は、局所、経口、直腸、経鼻、吸入、または非経口(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、皮内、眼内、気管内、もしくは硬膜外)経路によって投与することができる。加えて、組成物をポリマー中に組み込んで持続放出を可能にすることができ、ポリマーは、送達が所望される場所の近傍、例えば、腫瘍部位、または眼内もしくはその付近に埋め込まれてもよく、またポリマーは、組成物の類似体の全身送達をもたらすために、例えば、皮下もしくは筋肉内に埋め込まれるか、または静脈内もしくは腹腔内に送達されてもよい。本発明において有用な治療剤の制御された長時間放出のための他の製剤は、米国特許第6,706,289号において開示されている。
【0114】
本発明の一部として企図される製剤は、米国特許出願第10/392,403号(公開第2004/0033267号)に開示されている方法によって作製されるナノ粒子製剤を含む。ナノ粒子を形成することにより、本明細書において開示されている組成物は、バイオアベイラビリティが増大していることが示されている。好ましくは、本発明の化合物の粒子は、光散乱法、顕微鏡検査法、または当業者に既知である他の適切な方法によって計測した場合、約2ミクロン未満、約1900nm未満、約1800nm未満、約1700nm未満、約1600nm未満、約1500nm未満、約1400nm未満、約1300nm未満、約1200nm未満、約1100nm未満、約1000nm未満、約900nm未満、約800nm未満、約700nm未満、約600nm未満、約500nm未満、約400nm未満、約300nm未満、約250nm未満、約200nm未満、約150nm未満、約100nm未満、約75nm未満、または約50nm未満の有効平均粒径を有する。
【0115】
本発明に従う製剤は、錠剤、カプセル、ロゼンジ錠、カシェ剤、溶液、懸濁液、エマルション、散剤、エアロゾル、坐剤、スプレー、香錠、軟膏、クリーム、ペースト、フォーム、ゲル、タンポン、ペッサリー、顆粒剤、ボーラス、洗口液、または経皮貼布の形態で投与することができる。
【0116】
製剤は、経口、直腸、経鼻、吸入、局所(皮膚、経皮、口腔内、および舌下を含む)、膣内、非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、眼内、気管内、および硬膜外を含む)、または吸入投与に適切なものを含む。製剤は、好都合なことに、単位剤形で提示することができ、従来の医薬技術によって調製することができる。そのような技術は、活性成分と医薬担体または賦形剤とを組み合わせるステップを含む。概して、製剤は、活性成分を液体担体もしくは微粉化した固体担体またはその両方と均一かつ緊密に組み合わせ、その後、必要に応じて、生成物を成形することによって調製される。
【0117】
経口投与に適した本発明の製剤は、それぞれが所定量の活性成分(1種または複数)を含有するカプセル、カシェ剤、または錠剤等の別個の単位として、散剤または顆粒剤として、水性液体または非水性液体中の溶液または懸濁液として、あるいは、水中油型液体エマルションまたは油中水型エマルション等として提示することができる。
【0118】
錠剤は、場合によって1種または複数の副成分とともに圧縮または成型することにより、作製することができる。圧縮錠は、場合によって結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、保存剤、界面活性剤、または分散剤と混合された散剤または顆粒剤等の自由流動形態の活性成分を適切な機械で圧縮することにより、調製することができる。成型錠は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化化合物(1種または複数)の混合物を、適切な機械で成型することにより、作製することができる。錠剤は、場合によって、コーティングするかまたは刻み目を付けてよく、錠剤中の活性成分の徐放または制御放出を提供するように製剤化することができる。
【0119】
口内への局所投与に適した製剤は、風味付けした基剤、通常はスクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカント中に成分を含むロゼンジ錠、ゼラチンおよびグリセリン等の不活性基剤またはスクロースおよびアラビアゴム中に活性成分を含む香錠、ならびに適切な液体担体中で投与される成分を含む洗口液を含む。
【0120】
皮膚への局所投与に適した製剤は、薬学的に許容可能な担体中で投与される成分を含む軟膏、クリーム、ゲル、またはペーストとして提示することができる。一実施形態において、局所送達システムは、投与される成分を含有する経皮貼布である。
【0121】
直腸投与用の製剤は、例えば、カカオ脂またはサリチラートを含む適切な基剤を用いて坐剤として提示することができる。
【0122】
経鼻投与に適した製剤は、担体が固体である場合、薬用粉末を摂取する様式で、すなわち鼻に近づけて保持された粉末の容器からの鼻孔を介する迅速な吸入により投与される、例えば20〜500ミクロンの範囲内の粒径を有する粗粉末を含む。例えば鼻腔用スプレーまたは点鼻薬としての投与に適切な製剤は、担体が液体である場合、活性成分の水性または油性溶液を含む。
【0123】
膣内投与に適した製剤は、活性成分に加えて、適切であることが当該技術分野において既知である担体等の成分を含有する、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、またはスプレー製剤として提示することができる。
【0124】
吸入に適した製剤は、活性成分に加えて、適切であることが当該技術分野において既知である担体等の成分を含有する、ミスト、ダスト、粉末、またはスプレー製剤として提示することができる。
【0125】
非経口投与に適した製剤は、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、およびこの製剤を対象レシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性および非水性無菌注射液、ならびに懸濁化剤および増粘剤を含み得る水性および非水性無菌懸濁液を含む。非経口投与に適した製剤は、(それだけに限らないが)低ミクロンまたはナノメートル(例えば、平均断面積が、2000ナノメートル未満、好ましくは1000ナノメートル未満、最も好ましくは500ナノメートル未満、特に75ナノメートル未満)サイズの粒子であって、2−メトキシエストラジオール類似体および/または1種もしくは複数の抗癌剤を単独で、あるいは副成分と組み合わせて、または持続放出用のポリマー中に含有する粒子を含む、抗血管新生剤の粒子製剤を含む。製剤は、単位用量または複数回用量の容器、例えば、密閉されたアンプルおよびバイアル中に提示することができ、使用直前に、無菌液体担体、例えば注射用水を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵することができる。既に記載した種類の無菌散剤、顆粒剤、および錠剤から、即席の注射液および懸濁液を調製することができる。
【0126】
本発明の製剤は、具体的に上述した成分に加えて、当該製剤の種類を考慮して、当技術分野で慣行の他の作用物質を含み得ること、例えば、経口投与に適した製剤は矯味剤を含んでよく、ナノ粒子製剤(例えば、平均断面積が、2000ナノメートル未満、好ましくは1000ナノメートル未満、最も好ましくは500ナノメートル未満、特に75ナノメートル未満)は、粒子凝集を防止するために選択された1種または1種を超える賦形剤を含んでよいことを理解すべきである。
【0127】
(本発明の化合物)
一実施形態において、ポリリン酸化シクリトール誘導体はポリリン酸化イノシトールである。ポリリン酸化イノシトールは、1種または複数の遊離ヒドロキシル基またはヒドロキシル誘導体基を含み得る。遊離ヒドロキシル基またはヒドロキシル誘導体基は、立体選択的または非立体選択的な様式で合成することができる。イノシトールのすべての配座異性体のポリリン酸化誘導体が本発明に包含される。
【0128】
別の実施形態において、シクリトールのピロリン酸誘導体はイノシトールのピロリン酸誘導体である。ピロリン酸誘導体は、モノピロリン酸、ビスピロリン酸、またはトリスピロリン酸イノシトールであってよい。本発明のシクリトールピロリン酸、特にイノシトールピロリン酸は、その対応するホスホルイミドまたはチオピロリン酸に変換できる。イノシトールのすべての配座異性体のピロリン酸誘導体が本発明に包含される。
【0129】
以下のスキーム1〜7および実験的記述は、本発明の化合物を調製するために使用できる合成方法を概説する。以下で概説される合成変換は、所望の反応を実現するように機能する多様な代替試薬によって行い得ることが理解される。
【0130】
(シクリトールのポリリン酸エステル)
活性化剤の存在下、シクリトールとリン酸化剤との反応により、保護されたポリリン酸化誘導体を得て、その後、これを脱保護し、得られたポリリン酸化シクリトールを最適に単離し、精製し、そのナトリウム塩として保存する。アンモニウム塩、またはアルカリ土類金属、アルカリ性土類金属、もしくは有機カチオンの塩等の他の塩を調製し、同様の目的に供してよい。
【0131】
これらのポリリン酸化誘導体を調製するための合成経路は、スキーム2の化合物10および11、スキーム4の化合物8および9、ならびにスキーム5の化合物1および2の調製において以下に記載する。
【0132】
さらに、アルコキシ、アシルオキシ、またはアリールオキシ化合物等、正確に配置された遊離ヒドロキシル基またはその誘導体を含有するシクリトールの選択的にリン酸化された誘導体を調製することが可能である。本発明のシクリトールの選択的にリン酸化された誘導体はまた、ピニトール、クエブラキトール、およびボルネシトール等の−OMe誘導体;クエルシトール等の、ヒドロキシル基のうちの1つが除去されたシクロヘキサン−ペントール;および2個のヒドロキシル基が除去されたシクロヘキサン−テトラオールも含む。これらの化合物はまた、上記に示したような塩の形態で調製してもよい。
【0133】
本発明によって開示されている選択的にリン酸化されたシクリトールの調製のための合成経路は、スキーム1、2、3および4に要約されている。スキーム1、2および3は、遊離ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、およびアシルオキシ基を含有するポリリン酸化シクリトールの調製を示す。スキーム4は、保護された2,4,6−三リン酸の調製を示す。特定の事例において、保護基の性質または上記反応の順序は、所望の生成物に到達するために変更しなくてはならない場合がある。一般合成スキームに対するこれらの変更は、当業者には十分に理解されるであろう。これらの合成経路は、イノシトールの配座異性体すべてに適用可能である。
【0134】
スキーム1および2において、保護されたジオールシクリトール誘導体が、NaH、DMF、およびヨウ化アルキルまたは臭化アリールと反応し、ジアルキルまたはジアリールエーテルが得られる。その後、ジアルキルまたはジアリールエーテルをトリフルオロ酢酸と反応させ、テトラオールを得る。次に、テトラオールをアセトニトリル中のテトラゾール、およびジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイトと反応させ、続いて、CHCl中のm−クロロ−過安息香酸を添加することにより、テトラオールを四リン酸エステルに変換する。その後、パラジウム触媒を使用して四リン酸エステルを水素化し、対応するナトリウム塩を調製する。
【化16】

【化17】

【0135】
スキーム3において、2,4,6−O−トリアシル−イノシトールに、テトラゾール、続いてジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイトおよびm−クロロ過安息香酸を添加し、化合物10を生成する(スキーム3に示す)。次に、パラジウム触媒を使用して化合物10を水素化し、1,3,5−(2,4,6−トリ−O−アシル)−イノシトール三リン酸六ナトリウムを生成する。
【化18】

【0136】
スキーム4において、イノシトールモノオルトギ酸をテトラゾールおよびジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイトおよびm−クロロ過安息香酸と反応させ、化合物8を得る(スキーム4に示す)。パラジウム触媒を使用して化合物8を水素化し、2,4,6−三リン酸イノシトールのオルトギ酸エステルを得る。
【0137】
以下のスキーム6に記載されているように、その対応するピロリン酸誘導体の加水分解および加アルコール分解から、ポリリン酸シクリトール誘導体を誘導することも可能である。
【化19】

【0138】
(シクリトールのピロリン酸エステル)
上記のシクリトールポリリン酸は、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の作用物質または関連する作用物質を使用する脱水により、環状ピロリン酸基を含有する誘導体に変換することができる。この変換は、全体的であってもよく、あるいは、リン酸およびピロリン酸官能基の両方を含有する化合物を得てもよい。得られた化合物を最適に単離し、精製し、そのナトリウム塩として保管する。アンモニウム塩、またはアルカリ土類金属、アルカリ性土類金属、もしくは有機カチオンの塩等の他の塩を調製し、同様の目的に供してよい。完全にリン酸化されたイノシトール化合物を使用して、(+)もしくは(−)−カイロ−イノシトール、エピ−イノシトール、シロ−イノシトール、アロ−イノシトール、ムコ−イノシトール、ネオ−イノシトール、またはミオ−イノシトールのトリスピロリン酸エステル等の、1、2または3個のピロリン酸誘導体を含有する化合物を誘導することができる。
【0139】
本発明によって開示されているピロリン酸誘導体の調製のための合成経路は、スキーム5、6および7に要約されている。スキーム5は、シロ−イノシトールのトリスピロリン酸六ナトリウムの調製を示す。スキーム6は、どのようにして、シクリトールのトリピロリン酸エステルの加水分解および加アルコール分解により、非立体選択的な様式でビスピロリン酸エステルおよびポリリン酸誘導体を得ることができるかを示す。スキーム7は、どのようにして、ビスピロリン酸シクリトールを立体選択的な様式で調製することができるかを示す。特定の事例において、所望の生成物に到達するために、ステップの順序または試薬を変更することが必要になる場合がある。一般合成スキームに対するこれらの変更は、当業者には良く理解されるであろう。これらの合成経路は、イノシトールの配座異性体すべてに適用可能である。
【0140】
スキーム5において、イノシトールを、テトラゾール、ジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイトと反応させ、イノシトールヘキサキス(ジベンジルホスファート)を得る。その後、パラジウム触媒を使用してイノシトールヘキサキス(ジベンジルホスファート)を水素化し、イノシトール六リン酸を得る。脱ベンジル化生成物をトリエチルアンモニウム中に溶解し、イノシトール六リン酸のヘキサトリエチルアンモニウム塩を生成する。その後、イノシトール六リン酸の塩を1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミドと反応させ、シロ−イノシトールの1,2:3,4:5,6−トリスピロリン酸ヘキサトリエチルアンモニウム塩を得る。その後、そのナトリウム形態のDowex樹脂上での交換により、この塩を対応する六ナトリウム塩に変換する。
【化20】

【0141】
スキーム6において、イノシトールトリスピロリン酸をDowex 50WX8−200カラムに通過させ、酸分画をプールする。反応の完了後、pHを約7に調整し、部分的にリン酸化された加水分解生成物の混合物を得る。あるいは、イノシトールトリスピロリン酸を、アルコールの存在下、塩化アセチルと反応させ、スキーム6の化合物6および7によって示されているような、ピロリン酸開環生成物(open pyrophosphate product)の混合物を得てもよい。
【化21】

【0142】
スキーム7において、ミオ−イノシトールを、PTSAの存在下、シクロヘキサノンと縮合させ、1,2−シクロヘキシリデン ミオ−イノシトールを得て、これを臭化ベンジルおよびNaHで処理し、完全に保護されたミオ−イノシトールを得る。その後、シクロヘキシリデン基を除去し、続いてアシル化し、ジアシル化生成物を得る。次に、脱ベンジル化によってテトラオールを得て、これをリン酸化、続いて酸化し、テトラキス(ジベンジルホスファート)誘導体を得る。N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンの存在下Pd/Cによる脱ベンジル化、続いてDCCを用いた縮合により、ビスピロリン酸誘導体をもたらす。ビスピロリン酸誘導体の鹸化、続いてリン酸化/酸化により、ベンジル保護ビスピロリン酸二リン酸誘導体を得る。最後に、脱ベンジル化、続いてナトリウムイオン交換により、所望のビスピロリン酸二リン酸誘導体のナトリウム塩5を得る(スキーム7)。同様の合成戦略を使用して、1つのみのピロリン酸基ならびに4つのホスファート基および/またはリン酸エステル基を含有する誘導体を調製することもできる。
【化22】

【0143】
(シクリトールのホスホルイミド誘導体およびチオピロリン酸誘導体)
シクリトールピロリン酸、特にイノシトールトリスピロリン酸は、一連の開環/閉環反応により、その対応するホスホルイミドまたはチオピロリン酸エステルに変換することができる。例えば、環状ピロリン酸を一般式R−NHのアミンで開環することによりホスホロアミダートを得て、続いてDCCのような作用物質を用いてホスホロアミダートを閉環することにより、対応するホスホルイミドを得ることができる。あるいは、環状ピロリン酸を金属硫化物(NaSHまたはNaS等)を用いて開環し、チオリン酸基(−PO−SH)およびリン酸基(PO)の混合を含む化合物を生成し、その後、脱水剤を使用して閉環して環状形態−PO−S−PO−に戻し、チオピロリン酸エステルを得てもよい。これらの化合物の一般構造は式Iに提供されており、
【化23】

【0144】
式中、X=Oはトリスピロリン酸エステルを示し、X=NRはトリスホスホルイミドを示し、X=Sはトリスチオピロリン酸エステルを示す。ホスホルイミドの場合、Rは、H、および有機残基、式C2n+1の炭化水素鎖、または、酸素等のヘテロ原子を含有する鎖もしくは基であってよい。
【0145】
本明細書に記載されている合成手順のいずれかにおいて必要な場合、適切な保護基を使用してよい。保護基の例は、「Protective Groups in Organic Synthesis」‐第3版(T.W.Greene、P.G.M Wuts、Wiley−Interscience、New York、NY、1999)を含む文献において見ることができる。本発明は下記実施例の参照によりさらに容易に理解されるが、これらの実施例は例示するものとして提供されており、本発明の限定を意図しない。
【実施例】
【0146】
(実験例)
1,6:3,4−ビス−[O−(2,3−ジメトキシブタン−2,3−ジイル)]−2,5−ジ−O−メチル−ミオ−イノシトール(スキーム1、化合物2)
ジオール(スキーム1、化合物1)(490mg、1.2mmol)を高真空下で8時間乾燥させた。その後、乾燥DMF(10mL)をN雰囲気下で添加し、得られた懸濁液を0℃まで冷却した。90%NaH(120mg、4.8mmol)を一度に添加し、得られたスラリーを同じ温度で1時間攪拌した。ヨウ化メチル(260μL、4.2mmol)を滴下添加し、混合物を室温で12時間攪拌し続けた。その後、MeOH(300μL)をゆっくり添加し、混合物を室温で1時間攪拌し続けた。CHCl(25mL)を添加し、反応混合物を水(25mL)で洗浄した。水相をCHCl(25mL)で逆抽出し、合わせた有機相を飽和ブライン(25mL)で洗浄し、乾燥させた(MgSO)。溶媒を減圧下除去し(30〜55℃)、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘプタン→ヘプタン中30%酢酸エチル)によって精製し、ジメチルエーテル(スキーム1、化合物2)(500mg、96%)を白色固体として得た。H NMR(CDCl,400MHz):δ 3.99(dd,J=10.2,9.6Hz,2H)、3.63(s,3H)、3.57(s,3H)、3.55(t,J=2.3Hz,1H)、3.52(dd,J=10.2Hz,2.3Hz,2H)、3.28(t,J=9.6Hz,1H,不明瞭)、3.28(s,6H)、3.25(s,6H)、1.30(s,6H)、1.29(s,6H);13C NMR(CDCl,100MHz):δ 99.5、98.9、79.9、77.8、69.7、69.4、60.8、60.4、47.9、47.7、17.8、17.6;HRMS(ESI):m/e C2036NaO10についての計算値[(M+Na)]:459.2201、実測値:459.2203。
【0147】
2,5−ジ−O−メチル−ミオ−イノシトール(スキーム1、化合物3)
ジメチルエーテル(スキーム1、化合物2)(470mg、1.1mmol)を90%トリフルオロ酢酸水溶液(5mL)中に溶解し、混合物を室温で2時間攪拌した。揮発物を減圧下除去した(40℃)後、無水エタノール(10mL)を添加し、溶媒を再度減圧下除去した。この手順を3回繰り返し、テトラオール(スキーム1、化合物3)(220mg)を白色固体として得た。この物質を、それ以上精製することなく次の反応において使用した。融点268〜270(EtOH);H NMR(DO,400MHz):δ 3.64(t,J=2.6Hz,1H)、3.57−3.47(m,4H)、3.50(s,3H)、3.49(s,3H)、2.93(t,J=8.9Hz,1H);13C NMR(DO,100MHz):δ 84.1、82.5、71.8、71.5、62.1、59.5;HRMS(ESI):m/e C16LiOについての計算値[(M+Li)]:215.1102、実測値:215.1133。
【0148】
オクタベンジル1,3,4,6−(2,5−ジ−O−メチル−ミオ−イノシチル)四リン酸(スキーム1、化合物4)
テトラオール(スキーム1、化合物3)(220mg)を高真空下で24時間乾燥させた。その後、アセトニトリル中のテトラゾールの0.45M溶液(28.3mL、12.7mmol)およびジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイト(2.3mL、6.8mmol)を、N雰囲気下、室温で添加した。得られたスラリーを室温で24時間激しく攪拌した。CHCl(10mL)を添加し、混合物を−40℃まで冷却した。CHCl(14mL)中の70%m−クロロ−過安息香酸(2.25g、9.1mmol)の溶液を滴下添加し、混合物を0℃で5時間攪拌し続けた。その後、混合物をCHCl(120mL)で希釈し、亜硫酸ナトリウムの10%水溶液(2×80mL)、重炭酸ナトリウムの飽和水溶液(2×60mL)、HO(60mL)および飽和ブライン(60mL)で連続的に洗浄した。有機相を乾燥させ(MgSO)、溶媒を減圧下除去した(30℃)。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘプタン→ヘプタン中60%酢酸エチル)によって精製し、四リン酸エステル(スキーム1、化合物4)(1.20g、2からの全収率91%)を濃厚な無色油状物質として得た。H NMR(CDCl,400MHz):δ 7.35−7.26(m,40H)、5.16−5.00(m,16H)、4.94(q,J=9.4Hz,2H)、4.50(bs,1H)、4.25(ddd,HH=9.6,2.3Hz,HP=7.6Hz,2H)、3.57(s,3H)、3.50(s,3H)、3.25(t,J=9.3Hz,1H);13C NMR(CDCl,100MHz):δ 135.4(d,CP=6.9Hz,2C)、135.1(d,CP=6.9Hz)、135.0(d,CP=6.9Hz)、128.00、127.98、127.9、127.75、127.71、127.6、127.5、127.32、127.25、80.2、77.6、76.2(t,CP=6.9Hz)、75.2、69.3(d,CP=5.3Hz)、69.0(d,CP=5.3Hz)、68.8(d,CP=6.1Hz)、68.7(d,CP=5.3Hz)、59.6、59.2;31P NMR(162MHz):δ −1.2、−1.7;HRMS(ESI):m/e C6468NaO18についての計算値[(M+Na)]:1271.3248、実測値:1271.3434。
【0149】
1,3,4,6−(2,5−ジ−O−メチル−ミオ−イノシチル)四リン酸四ナトリウム(スキーム1、化合物5)
四リン酸エステル(スキーム1、化合物4)(130mg、0.1mmol)を、エタノールおよびHOの1:1混合物(10mL)中に溶解した。得られたエマルションに、重炭酸ナトリウム(34mg、0.4mmol)、続いて10%Pd/C(100mg)を添加した。この混合物を、H雰囲気(1気圧)下、室温で24時間激しく攪拌し続けた。LCR/PTFE親水性膜(0.5μm)に通すろ過によって触媒を除去し、膜をエタノールおよびHOの1:1混合物(3×10mL)で洗浄した。合わせたろ液を減圧下蒸発させ(60℃)、得られた残渣を高真空下で24時間乾燥させ、四ナトリウム塩(スキーム1、化合物5)をガラス状の白色固体(60mg、97%)として得た。H NMR(DO,400MHz):δ 4.27(q,J=9.1Hz,2H)、4.05(t,J=10.1Hz,2H)、3.88(s,1H)、3.60(s,3H)、3.54(s,3H)、3.26(t,J=9.3Hz,1H);13C NMR(DO,100MHz):δ 83.2、81.2、75.6、74.0、61.9、59.9。
【0150】
1,6:3,4−ビス−[O−(2,3−ジメトキシブタン−2,3−ジイル)]−2,5−ジ−O−エチル−ミオ−イノシトール(スキーム1、化合物6)
ジオール(スキーム1、化合物1)(490mg、1.2mmol)を高真空下で8時間乾燥させた。その後、乾燥DMF(10mL)をN雰囲気下で添加し、得られた懸濁液を0℃まで冷却した。90%NaH(120mg、4.8mmol)を一度に添加し、得られたスラリーを同じ温度で1時間攪拌した。ヨウ化エチル(340μL、4.2mmol)を滴下添加し、混合物を室温で12時間攪拌し続けた。その後、MeOH(300μL)をゆっくり添加し、混合物を室温で1時間攪拌し続けた。CHCl(25mL)を添加し、反応混合物を水(25mL)で洗浄した。水相をCHCl(25mL)で逆抽出し、合わせた有機相を飽和ブライン(25mL)で洗浄し、乾燥させた(MgSO)。溶媒を減圧下除去し(30〜55℃)、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘプタン→ヘプタン中30%酢酸エチル)によって精製し、ジエチルエーテル(スキーム1、化合物6)(550mg、99%)を濃厚な淡黄色油状物質として得た。H NMR(CDCl,400MHz):δ 3.92(t,J=10.0Hz,2H)、3.74(q,J=7.1Hz,2H)、3.69(q,J=7.0Hz,2H)、3.57(t,J=2.2Hz,1H)、3.40(dd,J=10.2,2.2Hz,2H)、3.22(t,J=9.8Hz,1H)、3.20(s,6H)、3.16(s,6H)、1.20(2×s,2×6H)、1.10(t,J=7.0Hz,6H);13C NMR(CDCl,100MHz):δ 99.3、98.7、78.5、76.1、69.7、69.2、68.2、67.3、47.6、47.5、17.7、17.5、15.7、15.5;HRMS(ESI):m/e C2240NaO10についての計算値[(M+Na)]:487.2514、実測値:487.2466。
【0151】
2,5−ジ−O−エチル−ミオ−イノシトール(スキーム1、化合物7)
ジエチルエーテル(スキーム1、化合物6)(540mg、1.2mmol)を90%トリフルオロ酢酸水溶液(5mL)中に溶解し、混合物を室温で2時間攪拌した。揮発物を減圧下除去した(40℃)後、無水エタノール(10mL)を添加し、溶媒を再度減圧下除去した。この手順を3回繰り返し、テトラオール(スキーム1、化合物7)(270mg)を白色固体として得た。この物質を、それ以上精製することなく次の反応において使用した。H NMR(DO,400MHz):δ 3.77−3.63(m,5H)、3.52(t,J=9.6Hz,2H)、3.41(dd,J=10.2,2.6Hz,2H)、2.96(t,J=9.2Hz,1H);1.08(t,J=7.0Hz,3H)、1.05(t,J=7.0Hz,3H);13C NMR(DO,100MHz):δ 82.9、80.2、72.1、71.4、69.9、68.5、14.7;HRMS(ESI):m/e C1020NaOについての計算値[(M+Na)]:259.1152、実測値:259.1148。
【0152】
オクタベンジル1,3,4,6−(2,5−ジ−O−エチル−ミオ−イノシチル)四リン酸(スキーム1、化合物8)
テトラオール(スキーム1、化合物7)(270mg)を高真空下で24時間乾燥させた。その後、アセトニトリル中のテトラゾールの0.45M溶液(30.5mL、13.7mmol)およびジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイト(2.5mL、7.3mmol)を、N雰囲気下、室温で添加した。得られたスラリーを室温で24時間激しく攪拌した。CHCl(10mL)を添加し、混合物を−40℃まで冷却した。CHCl(15mL)中の70%m−クロロ−過安息香酸(2.42g、9.8mmol)の溶液を滴下添加し、混合物を0℃で5時間攪拌し続けた。その後、混合物をCHCl(150mL)で希釈し、亜硫酸ナトリウムの10%水溶液(2×100mL)、重炭酸ナトリウムの飽和水溶液(2×75mL)、HO(75mL)および飽和ブライン(75mL)で連続的に洗浄した。有機相を乾燥させ(MgSO)、溶媒を減圧下除去した(30℃)。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘプタン→ヘプタン中60%酢酸エチル)によって精製し、四リン酸エステル(スキーム1、化合物8)(1.31g、6からの全収率90%)を濃厚な淡黄色油状物質として得た。H NMR(CDCl,400MHz):δ 7.30−7.21(m,40H)、5.08−4.99(m,16H)、4.90(q,J=9.4Hz,2H)、4.55(bs,1H)、4.15(ddd,HH=9.6,2.0Hz,HP=7.6Hz,2H)、3.75(q,J=7.0Hz,2H)、3.71(q,J=7.0Hz,2H)、3.27(t,J=9.4Hz,1H)、1.07(t,J=7.0Hz,3H)、1.06(t,J=7.0Hz,3H);13C NMR(CDCl,100MHz):δ 135.9(d,CP=7.6Hz)、135.8(d,CP=6.9Hz)、135.5(d,CP=6.9Hz)、135.4(d,CP=6.9Hz)、128.34、128.32、128.30、128.23、128.21、128.12、128.07、128.01、128.0、127.82、127.79、127.77、127.73、127.67、78.9、77.6(t,CP=7.6Hz)、76.5、75.6(t,CP=4.2Hz)、69.6(d,CP=6.1Hz)、69.5、69.4(d,CP=5.3Hz)、69.3(d,CP=5.3Hz)、69.2(d,CP=5.3Hz)、67.7、15.5、14.7;31P NMR(162MHz):δ −1.5、−1.7;HRMS(ESI):m/e C667318についての計算値[(M+H)]:1277.3742、実測値:1277.3854。
【0153】
1,3,4,6−(2,5−ジ−O−エチル−ミオ−イノシチル)四リン酸四ナトリウム(スキーム1、化合物9)
四リン酸エステル(スキーム1、化合物8)(320mg、0.25mmol)を、エタノールおよびHOの1:1混合物(20mL)中に溶解した。得られたエマルションに、重炭酸ナトリウム(84mg、1mmol)、続いて10%Pd/C(250mg)を添加した。この混合物を、H雰囲気(1気圧)下、室温で22時間激しく攪拌し続けた。LCR/PTFE親水性膜(0.5μm)に通すろ過によって触媒を除去し、膜をエタノールおよびHOの1:1混合物(3×10mL)で洗浄した。合わせたろ液を減圧下蒸発させ(60℃)、得られた残渣を高真空下で24時間乾燥させ、四ナトリウム塩(スキーム1、化合物9)をガラス状の白色固体(160mg、99%)として得た。H NMR(DO,400MHz):δ 4.26(q,J=7.0Hz,2H)、4.04(t,J=8.8Hz,2H)、4.00(s,1H)、3.78(q,J=7.0Hz,2H)、3.74(q,J=7.0Hz,2H)、3.31(t,J=9.4Hz,1H)、1.11(t,J=7.0Hz,3H)、1.10(t,J=7.0Hz,3H);13C NMR(DO,100MHz):δ 80.4、78.5、76.5、74.5、69.9、68.5、14.8。
【0154】
1,6:3,4−ビス−[O−(2,3−ジメトキシブタン−2,3−ジイル)]−2,5−ジ−O−ブチル−ミオ−イノシトール(スキーム2、化合物10)
ジオール(スキーム2、化合物1)(490mg、1.2mmol)を高真空下で8時間乾燥させた。その後、乾燥DMF(10mL)をN雰囲気下で添加し、得られた懸濁液を0℃まで冷却した。90%NaH(120mg、4.8mmoles)を一度に添加し、得られたスラリーを同じ温度で1時間攪拌した。ヨウ化ブチル(480μL、4.2mmol)を滴下添加し、混合物を室温で12時間攪拌し続けた。その後、MeOH(300μL)をゆっくり添加し、混合物を室温で1時間攪拌し続けた。CHCl(25mL)を添加し、反応混合物を水(25mL)で洗浄した。水相をCHCl(25mL)で逆抽出し、合わせた有機相を飽和ブライン(25mL)で洗浄し、乾燥させた(MgSO)。溶媒を減圧下除去し(30〜55℃)、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘプタン→ヘプタン中30%酢酸エチル)によって精製し、ジブチルエーテル(スキーム2、化合物10)(610mg、98%)を濃厚な黄色油状物質として得た。H NMR(CDCl,400MHz):δ 3.95(t,J=9.8Hz,2H)、3.73(t,J=6.3Hz,2H)、3.66(t,J=6.4Hz,2H)、3.56(t,J=2.3Hz,1H)、3.42(dd,J=10.2,2.3Hz,2H)、3.24(t,J=9.2Hz,1H)、3.23(s,6H)、3.20(s,6H)、1.55−1.46(m,4H)、1.42−1.32(m,4H)、1.24(s,12H)、0.87(t,J=7.3Hz,3H)、0.87(t,J=7.2Hz,3H);13C NMR(CDCl,100MHz):δ 99.4、98.8、78.5、76.5、72.5、72.0、69.8、69.3、47.7、47.5、32.3、32.2、19.1、19.0、17.8、17.5、13.9、13.7;HRMS(ESL):m/e C2648NaO10についての計算値[(M+Na)]:543.3140、実測値:543.3112。
【0155】
2,5−ジ−O−ブチル−ミオ−イノシトール(スキーム2、化合物11)
ジブチルエーテル(スキーム1、化合物10)(600mg、1.2mmol)を90%トリフルオロ酢酸水溶液(5mL)中に溶解し、混合物を室温で2時間攪拌した。揮発物を減圧下除去した(40℃)後、無水エタノール(10mL)を添加し、溶媒を再度減圧下除去した。この手順を3回繰り返し、テトラオール(スキーム2、化合物11)(332mg)を白色固体として得た。この物質を、それ以上精製することなく次の反応において使用した。HRMS(ESI):m/e C1428LiOについての計算値[(M+Li)]:299.2041、実測値:299.2056。
【0156】
オクタベンジル1,3,4,6−(2,5−ジ−O−ブチル−ミオ−イノシチル)四リン酸(スキーム2、化合物12)
テトラオール(スキーム2、化合物11)(332mg)を高真空下で24時間乾燥させた。その後、アセトニトリル中のテトラゾールの0.45M溶液(30.1mL、13.6mmol)およびジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイト(2.4mL、7.2mmol)を、N雰囲気下、室温で添加した。得られたスラリーを室温で24時間激しく攪拌した。CHCl(10mL)を添加し、混合物を−40℃まで冷却した。CHCl(15mL)中の70%m−クロロ−過安息香酸(2.4g、9.7mmol)の溶液を滴下添加し、混合物を0℃で5時間攪拌し続けた。その後、混合物をCHCl(150mL)で希釈し、亜硫酸ナトリウムの10%水溶液(2×100mL)、重炭酸ナトリウムの飽和水溶液(2×75mL)、HO(75mL)および飽和ブライン(75mL)で連続的に洗浄した。有機相を乾燥させ(MgSO)、溶媒を減圧下除去した(30℃)。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘプタン→ヘプタン中60%酢酸エチル)によって精製し、四リン酸エステル(スキーム2、化合物12)(1.23g、10からの全収率82%)を濃厚な淡黄色油状物質として得た。H NMR(CDCl,400MHz):δ 7.32−7.21(m,40H)、5.11−4.98(m,16H)、4.90(q,J=9.3Hz,2H)、4.54(bs,1H)、4.18(ddd,HH=9.6,2.0Hz,HP=7.3Hz,2H)、3.67(t,J=7.3Hz,2H)、3.66(t,J=7.5Hz,2H)、3.28(t,J=9.4Hz,1H)、1.52−1.40(m,4H)、1.27−1.21(m,2H)、1.08−1.03(m,2H)、0.80(t,J=7.5Hz,3H)、0.69(t,J=7.3Hz,3H);13C NMR(CDCl,100MHz):δ 135.9(d,CP=7.6Hz)、135.8(d,CP=6.9Hz)、135.54(d,CP=7.6Hz)、135.48(d,CP=7.6Hz)、128.40、128.38、128.36、128.33、128.27、128.26、128.14、128.09、128.99、127.94、127.88、127.77、127.73、127.71、127.70、127.68、127.65、79.2、77.2(t,CP=6.9Hz)、76.6、75.7(t,CP=4.0Hz)、73.9、72.6、69.6(CP=5.3Hz)、69.4(CP=5.3Hz)、69.3(CP=5.3Hz)、69.2(CP=5.3Hz)、32.1、31.5、18.9、18.7、13.9、13.7;31P NMR(162MHz):δ −1.4、−1.7;HRMS(ESI):m/e C7080NaO18についての計算値[(M+Na)]:1355.4187、実測値:1355.4220。
【0157】
1,3,4,6−(2,5−ジ−O−ブチル−ミオ−イノシチル)四リン酸四ナトリウム(スキーム2、化合物13)
四リン酸エステル(スキーム2、化合物12)(320mg、0.24mmol)を、エタノールおよびHOの1:1混合物(10mL)中に溶解した。得られたエマルションに、重炭酸ナトリウム(81mg、0.96mmol)、続いて10%Pd/C(240mg)を添加した。この混合物を、H雰囲気(1気圧)下、室温で21時間激しく攪拌し続けた。LCR/PTFE親水性膜(0.5μm)に通すろ過によって触媒を除去し、膜をエタノールおよびHOの1:1混合物(3×10mL)で洗浄した。合わせたろ液を減圧下蒸発させ(60℃)、得られた残渣を高真空下で24時間乾燥させ、四ナトリウム塩(スキーム2、化合物13)をガラス状の白色固体(163mg、97%)として得た。H NMR(DO,400MHz):δ 4.36(q,J=9.4Hz,2H)、4.08(dt,J=9.9,2.0Hz,2H)、4.06(s,1H)、3.81(t,J=6.9Hz,2H)、3.75(t,J=7.5Hz,2H)、3.39(t,J=9.3Hz,1H)、1.61−1.52(m,4H)、1.39−1.23(m,4H)、0.87(t,J=7.5Hz,3H)、0.85(t,J=7.3Hz,3H);13C NMR(DO,100MHz):δ 80.8、78.9、76.5、74.7、74.2、72.8、31.4、18.65、18.55、13.5、13.4。
【0158】
2,5−ジ−O−ベンジル−1,6:3,4−ビス−[O−(2,3−ジメトキシブタン−2,3−ジイル)]−ミオ−イノシトール(スキーム2、化合物14)
ジオール(スキーム2、化合物1)(1.47g、3.6mmol)を高真空下で8時間乾燥させた。その後、乾燥DMF(30mL)をN雰囲気下で添加し、得られた懸濁液を0℃まで冷却した。90%NaH(345mg、14.4mmol)を一度に添加し、得られたスラリーを同じ温度で1時間攪拌した。臭化ベンジル(1.5mL、12.6mmol)を滴下添加し、混合物を40℃で20時間攪拌し続けた。その後、それを室温まで冷却し、MeOH(1mL)をゆっくり添加し、混合物を室温で1時間攪拌し続けた。CHCl(75mL)を添加し、反応混合物を水(75mL)で洗浄した。水相をCHCl(75mL)で逆抽出し、合わせた有機相を飽和ブライン(75mL)で洗浄し、乾燥させた(MgSO)。溶媒を減圧下除去し(30〜55℃)、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘプタン→ヘプタン中10%酢酸エチル)によって精製し、ジベンジルエーテル(スキーム2、化合物14)(1.74g、82%)を白色固体として得た。H NMR(CDCl,400MHz):δ 7.50(d,J=7.9Hz,2H)、7.41(d,J=7.9Hz,2H)、7.31−7.27(m,4H)、7.24−7.20(m,2H)、4.87(s,2H)、4.85(s,2H)、4.20(t,J=9.8Hz,2H)、3.80(bs,1H)、3.58(bd,J=10.5Hz,2H)、3.26(s,6H)、3.25(t,J=9.4Hz,1H,不明瞭)、3.23(s,6H)、1.33(s,6H)、1.31(s,6H);13C NMR(CDCl,100MHz):δ 139.5、127.9、127.7、127.5、127.4、127.1、126.8、99.5、98.9、78.8、76.0、74.9、73.7、69.9、69.2、47.8、47.7、17.8、17.6;HRMS(ESI):m/e C3244NaO10についての計算値[(M+Na)]:611.2827、実測値:611.2824。
【0159】
2,5−ジ−O−ベンジル−ミオ−イノシトール(スキーム2、化合物15)
ジベンジルエーテル(スキーム2、化合物14)(2.07g、3.5mmol)をCHCl(2.8mL)中に溶解した。90%トリフルオロ酢酸水溶液(14mL)を添加し、混合物を室温で75分間攪拌した。揮発物を減圧下除去した(40℃)後、無水エタノール(25mL)を添加し、溶媒を再度減圧下除去した。この手順を3回繰り返し、テトラオール(スキーム2、化合物15)(1.06g)を白色固体として得た。この物質を、それ以上精製することなく次の反応において使用した。HRMS(ESI):m/e C2024NaOについての計算値[(M+Na)]:383.1456、実測値:383.1442。
【0160】
オクタベンジル1,3,4,6−(2,5−ジ−O−ベンジル−ミオ−イノシチル)四リン酸(スキーム2、化合物16)
テトラオール(スキーム2、化合物15)(1.06g)を高真空下で24時間乾燥させた。その後、アセトニトリル中のテトラゾールの0.45M溶液(93mL、42mmol)およびジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイト(7.5mL、22.4mmol)を、N雰囲気下、室温で添加した。得られたスラリーを室温で24時間激しく攪拌した。CHCl(35mL)を添加し、混合物を−40℃まで冷却した。CHCl(50mL)中の70%m−クロロ−過安息香酸(5.8g、23.4mmol)の溶液を滴下添加し、混合物を0℃で5時間攪拌し続けた。その後、混合物をCHCl(500mL)で希釈し、亜硫酸ナトリウムの10%水溶液(2×350mL)、重炭酸ナトリウムの飽和水溶液(2×250mL)、HO(250mL)および飽和ブライン(250mL)で連続的に洗浄した。有機相を乾燥させ(MgSO)、溶媒を減圧下除去した(30℃)。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘプタン→ヘプタン中50%酢酸エチル)によって精製し、四リン酸エステル(スキーム2、化合物16)(3.90g、スキーム2、化合物14からの全収率80%))を濃厚な淡黄色油状物質として得た。H NMR(CDCl,400MHz):δ 7.44(bd,J=6.4Hz,2H)、7.28−7.11(m,44H)、7.00(bd,J=7.8Hz,4H)、5.09(q,J=9.4Hz,2H)、5.04−4.94(m,10H)、4.91−4.86(m,6H)、4.78(bs,3H)、4.70(dd,J=11.7,9.1Hz,2H)、4.29(ddd,HH=9.7,2.1Hz,HP=7.4Hz,2H)、3.51(t,J=9.4Hz,1H);13C NMR(CDCl,100MHz):δ 138.0、137.8、135.8(d,CP=7.6Hz)、135.7(d,CP=6.9Hz)、135.5(d,CP=6.9Hz)、135.4(d,CP=6.9Hz)、128.43、128.40、128.3、128.22、128.18、128.11、128.08、128.0、127.95、127.91、127.7、127.4、127.3、127.2、127.1、78.9、77.2(t,CP=6.9Hz)、77.1、75.8、75.6(d,CP=5.3Hz)、73.8、69.8(d,CP=6.1Hz)、69.5(d,CP=5.3Hz)、69.3(d,CP=6.1Hz)、69.2(d,CP=5.3Hz);HRMS(ESI):m/e C7676NaO18についての計算値[(M+Na)]:1423.3874、実測値:1423.3884。
【0161】
1,3,4,6−ミオ−イノシチル四リン酸四ナトリウム(スキーム2、化合物17)
オクタベンジル化四リン酸エステル(スキーム2、化合物16)(380mg、0.27mmol)を、エタノールおよびHOの1:1混合物(20mL)中への溶解により、水素化分解した。得られたエマルションに、重炭酸ナトリウム(91mg、1.08mmol)、続いて10%Pd/C(270mg)を添加した。この混合物を、H雰囲気(1気圧)下、出発物質が完全に消費されるまで、室温で激しく攪拌し続けた。
【0162】
ヘキサベンジル1,3,5−(2,4,6−トリ−O−ブチリル−ミオ−イノシチル)三リン酸(スキーム3、化合物10)
DCM(5mL)中の2,4,6−トリ−O−ブチリル−ミオ−イノシトール31(230mg、0.58mmol、1当量)の溶液に、CHCN中のテトラゾール(0.45M、5.89mL、2.65mmol、4.5当量)、続いてジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイト(0.87mL、2.65mmol、4.5当量)を室温で添加した。24時間攪拌後、反応混合物を−40℃まで冷却し、m−クロロ過安息香酸(508mg、2.94mmol、5当量)を少量ずつ添加し、−40℃から室温まで12時間攪拌した。反応混合物をEtOAcで希釈し、1N HCl、飽和NaHCO、ブラインで洗浄し、乾燥させ(NaSO)、真空下濃縮した。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc/n−ヘプタン、10:90〜90:10)によって精製し、471mg(68%)のヘキサベンジル1,3,5−(2,4,6−トリ−O−ブチリル−ミオ−イノシチル)三リン酸(スキーム3、化合物10)を得た。TLC(SiO):R=0.24(EtOAc/n−ヘプタン、60:40);H NMR(CDCl,400MHz,25℃):δ=7.34−7.23(m,30H)、5.94(t,J=2.8Hz,1H)、5.58(t,J=9.9Hz,2H)、5.03−4.89(m,12H)、4.43(dt,J=10.0,2.8Hz,2H)、4.39(q,J=9.5Hz,1H)、2.38(t,J=7.4Hz,2H)、2.06(t,J=7.4Hz,2H)、2.05(t,J=7.4Hz,2H)、1.67−1.58(m,2H)、1.39−1.29(m,4H)、0.93(t,J=7.4Hz,3H)、0.65(t,J=7.5Hz,6H);13C NMR(CDCl,100MHz,25℃):δ=172.7、172.0、135.5(d,CP=7.2Hz)、135.4(d,CP=6.0Hz)、135.3(d,CP=5.9Hz)、128.63、128.59、128.0、127.96、127.95、75.9(d,J=5.6Hz)、72.9(d,J=5.1Hz)、69.8(d,J=5.7Hz)、69.63(d,J=6.2Hz)、69.56(d,J=6.1Hz)、69.4(bs)、35.9、35.5、18.5、17.5、13.5;31P NMR(CDCl,162MHz,25℃):δ=−1.50、−1.73;HRMS(ESI−MS):m/z:C606918Naについての計算値:608.1741[M+2Na]+2;実測値:608.1704。
【0163】
1,3,5−(2,4,6−トリ−O−ブチリル−ミオ−イノシチル)三リン酸六ナトリウム(スキーム3、化合物11)
EtOH:HO(1:1、6mL)中の化合物10(スキーム3)(160mg、0.13mmol、1.0当量)に、10%Pd炭素(96mg)を添加し、室温で5時間水素化した。溶液をLCR/PTFE親水性膜フィルターに通してろ過し、EtOH:HO(1:1、10mL)で洗浄し、合わせたろ液を濃縮した。残渣を水中に再溶解し、0.1N NaOH溶液で中和した。溶媒を濃縮し、高真空下で乾燥させ、1,3,5−(2,4,6−トリ−O−ブチリル−ミオ−イノシチル)三リン酸六ナトリウム(スキーム3、化合物11)(102mg、98%)を得た。H NMR(DO,400MHz,25℃):δ=5.83(bs,1H)、5.29(t,J=9.8Hz,2H)、4.25(q,J=9.4Hz,1H)、4.19(t,J=9.7Hz,2H)、2.55(t,J=7.4Hz,2H)、2.54(t,J=7.4Hz,4H)、1.78−1.68(m,2H)、1.66−1.57(m,4H)、1.01(t,J=7.4Hz,3H)、0.94(t,J=7.4Hz,6H);31P NMR(DO,162MHz,25℃):δ=3.68、2.79。
【0164】
ミオ−イノシトール2,4,6−トリス(ジベンジルホスファート)のオルトギ酸エステル(スキーム4、化合物8)
DCM(5mL)中のミオ−イノシトールモノオルトギ酸32(400mg、2.1mmol、1当量)の溶液に、CHCN中のテトラゾール(0.45M、21.0mL、9.47mmol、4.5当量)、続いてジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイト(3.1mL、9.47mmol、4.5当量)を室温で添加した。24時間攪拌後、反応混合物を−40℃まで冷却し、m−クロロ過安息香酸(1.81g、10.5mmol、5当量)を少量ずつ添加し、−40℃から室温まで12時間攪拌した。反応混合物をEtOAcで希釈し、1N HCl、飽和NaHCO、ブラインで洗浄し、乾燥させ(NaSO)、真空下濃縮した。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc/n−ヘプタン、10:90〜80:20)によって精製し、1.85g(90%)の化合物8(スキーム4)を得た。TLC(SiO):R=0.25(EtOAc/n−ヘプタン、50:50);H NMR(CDCl,400MHz,25℃):δ=7.33−7.25(m,30H)、5.49(d,J=1.2Hz,1H)、5.10−5.02(不明瞭,2H)、5.06(d,CH=8.0Hz,4H)、5.01(d,CH=8.5Hz,8H)、4.89(dd,J=7.1,1.3Hz,1H)、4.43−4.40(m,1H)、4.37(dd,J=2.5,1.6Hz,2H);13C NMR(CDCl,100MHz,25℃):δ=135.2(d,CP=6.9Hz)、135.1(d,CP=6.4Hz)、128.45、128.40、128.36、127.8、127.7、102.3、70.2−70.0(m)、69.7(d,J=5.5Hz)、69.67(d,J=5.4Hz)、69.4(d,J=5.7Hz)、67.6−67.4(m)、65.5(d,J=4.8Hz);31P NMR(CDCl,121MHz,25℃):δ=−0.63;HRMS(ESI−MS):m/z:C494915Liについての計算値:977.2440[M+Li];実測値:977.2491。
【0165】
ミオ−イノシトール2,4,6−三リン酸六ナトリウムのオルトギ酸エステル(スキーム4、化合物9)
EtOH:HO(1:1、10mL)中の化合物8(スキーム4)(310mg、0.31mmol、1.0当量)に、10%Pd炭素(160mg)、NaHCO(161mg、1.91mmol、6.0当量)を添加し、室温で12時間水素化した。溶液をLCR/PTFE親水性膜フィルターに通してろ過し、EtOH:HO(1:1、20mL)で洗浄し、合わせたろ液を濃縮し、高真空下で乾燥させ、175mg(97%)の化合物9(スキーム4)を得た。H NMR(DO,400MHz,25℃):δ=5.62(s,1H)、4.84−4.75(不明瞭,2H)、4.61(d,J=9.2Hz,1H)、4.48(bs,1H)、4.43(bs,2H);13C NMR(DO,100MHz,25℃):δ=102.3、73.0(t,J=3.1Hz)、70.0(t,J=3.9Hz)、68.4(d,J=4.3Hz)、62.6(d,J=4.1Hz);31P NMR(DO,162MHz,25℃):δ=4.43、4.06;HRMS(ESI−MS):m/z:C15Naについての計算値:562.8457[M+H];実測値:562.8488。
【0166】
シロ−イノシトールヘキサキス(ジベンジルホスファート)(スキーム5、化合物1)
DMF(40mL)中のシロ−イノシトール(360mg、2mmol、1当量)の溶液に、CHCN中のテトラゾール(0.45M、53.3mL、24mmol、12当量)、続いてジベンジルN,N−ジイソプロピルホスホロアミダイト(5.9mL、18mmol、9当量)を室温で添加した。24時間攪拌後、反応混合物を0℃まで冷却した。その後、リン酸ナトリウム緩衝液(1N、pH=7、50mL)、続いて30%H(50mL)を添加し、0℃から室温まで12時間攪拌した。反応混合物をEtOAcで希釈し、水相を分離した。有機層を、1N HCl、飽和NaHCO、ブラインで洗浄し、乾燥させ(NaSO)、真空下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc/n−ヘプタン、10:90〜80:20)によって精製し、1.94g(55%)のシロ−イノシトールヘキサキス(ジベンジルホスファート)(スキーム5、化合物1)を淡黄色油状物質として得た。TLC(SiO):R=0.25(EtOAc/n−ヘプタン、50:50);H NMR(CDCl,400MHz,25℃):δ=7.22−7.18(m,60H)、5.18(d,HP=7.4Hz,6H)、5.07−4.95(m,24H);13C NMR(CDCl,100MHz,25℃):δ=135.6(d,CP=7.0Hz)、128.37、128.27、128.02、76.6(d,J=7.7Hz)、69.9(d,CP=5.6Hz);31P NMR(CDCl,121MHz,25℃):δ=−0.73;HRMS(ESI−MS):m/z:C909024NaLiについての計算値:885.2148[M+Na+Li]+2;実測値:885.2293。
【0167】
ヘキサトリエチルアンモニウム シロ−イノシトール六リン酸(スキーム5、化合物2)
EtOH:HO(1:1、50mL)中のシロ−イノシトールヘキサキス(ジベンジルホスファート)(スキーム5、化合物1)(870mg、0.50mmol、1.0当量)に、10%Pd炭素(500mg)を添加し、室温で12時間水素化した。溶液をLCR/PTFE親水性膜フィルターに通してろ過し、EtOH:HO(1:1、40mL)で洗浄し、合わせたろ液を蒸発させ、高真空下で乾燥させ、脱ベンジル化生成物を得た。この生成物(323mg、0.49mmol、1.0当量)をHO(5mL)中に溶解し、EtN(1.63mL、11.76mmol、24当量)を室温で添加し、30分間攪拌した。その後、溶媒を濃縮し、高真空下で乾燥させ、607mg(2ステップで98%)のヘキサトリエチルアンモニウム シロ−イノシトール六リン酸(スキーム5、化合物2)を得た。H NMR(DO,400MHz,25℃):δ=4.20(d,HP=4.8Hz,6H)、3.16(q,J=7.3Hz,36H)、1.23(t,J=7.3Hz,54H);13C NMR(DO,100MHz,25℃):δ=76.6(bs)、46.8、8.4;31P NMR(DO,121MHz,25℃):δ=1.67。
【0168】
ヘキサトリエチルアンモニウム シロ−イノシトール1,2:3,4:5,6−トリスピロリン酸(スキーム5、化合物3)
O(3mL)中のヘキサトリエチルアンモニウム シロ−イノシトール六リン酸(スキーム5、化合物2)(607mg、0.48mmol、1当量)の溶液に、CHCN(6mL)中の1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(594mg、2.87mmol、6当量)を添加し、6時間還流させた。さらに2当量の1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(99mg、0.48mmol、1当量)を4時間間隔で添加し、さらに8時間還流させた。反応混合物を水(5mL)で希釈し、ジシクロヘキシル尿素を焼結漏斗に通してろ過し、水(2×10mL)で洗浄した。合わせたろ液をロータリエバポレーター(55℃)で蒸発させ、高真空下で乾燥させた。得られた残渣を20mLの水中に再溶解し、焼結漏斗に通してろ過し、水(2×5mL)で洗浄し、アセトニトリル中に溶解していたすべての更なる量のジシクロヘキシル尿素を除去した。合わせたろ液をロータリエバポレーター(55℃)で蒸発させ、高真空下で乾燥させ、ヘキサトリエチルアンモニウム シロ−イノシトール1,2:3,4:5,6−トリスピロリン酸(スキーム5、化合物3)を得た。H NMR(DO,400MHz,25℃):δ=4.41(bs,6H)、3.20(q,J=7.3Hz,36H)、1.28(t,J=7.3Hz,54H);13C NMR(DO,100MHz,25℃):δ=76.2(bs)、46.8、8.4;31P NMR(DO,121MHz,25℃):δ=−10.10。
【0169】
シロ−イノシトール1,2:3,4:5,6−トリスピロリン酸六ナトリウム(スキーム5、化合物4)
ヘキサトリエチルアンモニウム シロ−イノシトール1,2:3,4:5,6−トリスピロリン酸(スキーム5、化合物3)を水(10mL)中に溶解し、Dowex Na形態(10g)で1時間処理した。溶液をろ過し、水(2×5mL)で洗浄した。ろ液に新鮮なDowex Na形態(10g)を添加し、1時間攪拌し、ろ過した。すべてのトリエチルアンモニウムイオンがナトリウムイオンと交換されるまで、このプロセスを繰り返した。最後に、溶媒を減圧下蒸発させ、高真空下で乾燥させ、シロ−イノシトール1,2:3,4:5,6−トリスピロリン酸六ナトリウム 4(スキーム5、339mg、96%)を少量のピロリン酸加水分解生成物とともに得た。H NMR(DO,400MHz,25℃):δ=4.44(s,6H);13C NMR(DO,100MHz,25℃):δ=76.2(s);31P NMR(DO,121MHz,25℃):δ=−9.92;HRMS(ESI−MS):m/z:C21Naについての計算値:760.7106[M+Na];実測値:760.7142。
【0170】
ミオ−イノシトール1,6:2,3:4:5−トリスピロリン酸六ナトリウム塩の加水分解および加アルコール分解(スキーム6)
水(5mL)中のミオ−イノシトール1,6:2,3:4:5−トリスピロリン酸六ナトリウム塩(400mg、0.54mmol、1当量)の溶液をDowex 50WX8−200(10g)カラムに通過させ、カラムを水(4×5mL)で洗浄した。あるいは、トリスピロリン酸六ナトリウム塩を1規定のHCl溶液中に溶解することにより、加水分解を実現することができる。酸性画分をプールし、室温で24時間攪拌した。その後、溶液のpHを、0.1N NaOH溶液で7前後に調整した。その後、溶媒を蒸発乾固させ、部分的ピロリン酸加水分解生成物5の混合物(スキーム6、424mg)を白色固体として得た。H NMR(DO,400MHz,25℃):δ=4.99−4.88(d,J=9.8Hz,全体的積分 1H)、4.62−4.35(m,全体的積分 5H);31P NMR(DO,162MHz,25℃):δ=0.41、0.17、0.07、−0.24、−0.31、−0.45、−0.90、−1.12、−1.28、−1.34、−1.42(それぞれ一重線,全体的積分 2.7P)、−10.81、−11.16から−11.42(ABおよび多重線,PP=17.5Hz,全体的積分 3.3P);HRMS(ESI−MS):m/z:C22Naについての計算値:800.7031[M+H];実測値:800.7031。
【0171】
乾燥MeOH(4mL)中のミオ−イノシトール1,6:2,3:4:5−トリスピロリン酸六ナトリウム塩(300mg、0.4mmol、1当量)の溶液に、塩化アセチル(1.0mL、14.0mmol、35当量)を0℃で添加し、0℃から室温まで4時間攪拌した。その後、溶液を減圧下蒸発させ、高真空下で乾燥させた。得られた残渣を水中に溶解し、0.1N NaOH溶液でpHを7前後に調整した。その後、溶媒を濃縮し、高真空下で乾燥させ、ピロリン酸開環生成物(pyrophosphate opened product)6の混合物(スキーム6、365mg)を白色固体として得た。H NMR(DO,400MHz,25℃):δ=5.05、4.97、4.89−4.86(各二重線および多重線,J=9.2Hz,J=8.8Hz,全体的積分 1H)、4.56−4.45(m,全体的積分 2H)、4.25−4.08(m,全体的積分 3H)、3.73−3.64(m,全体的積分 9H);31P NMR(DO,162MHz,25℃):δ=2.24、2.11、1.83、1.69、1.50、1.45、1.32、1.17、1.10、1.01、0.89、0.63、0.44、0.01、−0.46、(各一重線,全体的積分 6P);HRMS(ESI−MS):m/z:C1524Na10についての計算値:922.7350[M+Na];実測値:922.7408。
【0172】
乾燥MeOH(4mL)中のミオ−イノシトール1,6:2,3:4:5−トリスピロリン酸六ナトリウム塩(300mg、0.4mmol、1当量)の溶液に、塩化アセチル(0.1mL、1.4mmol、3.5当量)を0℃で添加し、0℃から室温まで36時間攪拌した。その後、溶液を真空下濃縮し、得られた残渣を水中に溶解し、0.1N NaOH溶液でpHを7前後に調整した。その後、溶媒を蒸発させ、高真空下で乾燥させ、部分的ピロリン酸開環生成物7の混合物(スキーム6、321mg)を少量の出発物質とともに得た。H NMR(DO,400MHz,25℃):δ=5.19−4.87(m,全体的積分 1H)、4.67−4.13(m,全体的積分 5H)、3.78−3.67(m,全体的積分 3H);31P NMR(DO,162MHz,25℃):δ=2.36から−1.11(多数の一重線,全体的積分 3.5P)、−9.38、−10.04から−11.51、−14.18(ABおよび多重線,PP=21.6Hz,全体的積分 2.5P);HRMS(ESI−MS):m/z:C22Naについての計算値:814.7187[M+H];実測値:814.7201。
【0173】
(実施例1)
遊離ヘモグロビンおよびヒト全血に対してインビトロ実験を実施した。
【0174】
本明細書に記載されている化合物のうちのいくつかを、120mM溶液として、遊離ヘモグロビン(Hb)およびヒト全血(WB)に対するP50について試験した。ヘモグロビン溶液は、1倍体積量の生理食塩水(1500×g、10分間)で3回洗浄することによって、赤血球濃縮物(EFS−Alsace)から調製し、2倍体積量の冷蒸留水の添加によって赤血球を溶血させた。ストロマの除去のために遠心分離(7000×g、30分間)した後、5mlの透明なヘモグロビン溶液を、0.1M塩化ナトリウム+10−5M EDTAで平衡化したSephadex G−25の2.5cm×30cmカラム上に載置した。約20ml/時の速度で、同じ溶液によってタンパク質を溶離した[Benesch,R.;Benesch,R.E.およびYu,C.I.Reciprocal binding of oxygen and diphosphoglycerate by human hemoglobin、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1968)59、526〜532]。
【0175】
p50、半飽和の酸素分圧における変化により、エフェクターのアロステリック調節を計測した。ミオ−イノシトール六リン酸(ミオ−IHP)はSigmaから購入した。下記条件下、Hemox Analyzer(TCS Scientific Co.)を用いて酸素平衡曲線(OEC)を行った:pH7.4、135mMのNaCl、5mMのKCl、および30mMのTES(N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]−2−アミノエタンスルホン酸)緩衝液、37℃。遊離ヘモグロビンの濃度は100μM(577nm、ε=四量体1分子当たり58.4mM−1cm−1)であり、キュベット中のアロステリックエフェクターの最終濃度は2mMであったため、エフェクター/Hb比は20という結果になった。
【0176】
ヒト血液は、へパリン化した管内へ新たに吸引した。化合物溶液のpHを約7.0に調整し、体積比1:1の全血を個々に、上記化合物とともに、37℃で2時間インキュベーションした。インキュベーションに続いて、血球をBis−Tris緩衝液で3回洗浄した。酸素解離曲線の計測をHemox−Analyzer計器(TCS Scientific Corp.)で行った。化合物によって誘発された全血についてのP50値の概要を表1に提示する。
【表1】

【0177】
(参考文献)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
イノシトールがシス−イノシトール、エピ−イノシトール、アロ−イノシトール、ムコ−イノシトール、ネオ−イノシトール、シロ−イノシトール、(+)カイロ−イノシトール、または(−)カイロ−イノシトールである、イノシトール六リン酸誘導体。
【請求項2】
前記イノシトール誘導体がカチオンと錯体を形成して塩となり、前記カチオンが、アルカリ金属カチオン、アルカリ性金属カチオン、アンモニウムカチオン、または有機カチオンである、請求項1に記載のイノシトール六リン酸誘導体。
【請求項3】
請求項2に記載のイノシトール六リン酸誘導体を含む医薬組成物。
【請求項4】
イノシトールが1つまたは複数の遊離ヒドロキシル基またはヒドロキシル誘導体基を含む、ポリリン酸化イノシトール誘導体。
【請求項5】
前記ヒドロキシル誘導体がアルコキシ(−OR)またはアシルオキシ(−OCOR)誘導体である、請求項4に記載のイノシトール誘導体。
【請求項6】
Rが、アルキル、アリール、アシル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、ヘテロシクリル、ポリシクリル、炭素環、アミノ、アシルアミノ、アミド、アルキルチオ、カルボニル、スルホナート、アルコキシル、スルホニル、またはスルホキシドのうち1つまたは複数から選択される、請求項5に記載のイノシトール誘導体。
【請求項7】
前記イノシトール誘導体がカチオンと錯体を形成して塩となり、前記カチオンが、アルカリ金属カチオン、アルカリ性金属カチオン、アンモニウムカチオン、または有機カチオンである、請求項5に記載のイノシトール誘導体。
【請求項8】
請求項7に記載のイノシトール誘導体を含む医薬組成物。
【請求項9】
イノシトールがシス−イノシトール、エピ−イノシトール、アロ−イノシトール、ムコ−イノシトール、ネオ−イノシトール、シロ−イノシトール、(+)カイロ−イノシトール、または(−)カイロ−イノシトールであり、イノシトール誘導体がモノピロリン酸、ビスピロリン酸、またはトリスピロリン酸誘導体である、ピロリン酸イノシトール誘導体。
【請求項10】
前記イノシトール誘導体がカチオンと錯体を形成して塩となり、前記カチオンが、アルカリ金属カチオン、アルカリ性金属カチオン、アンモニウムカチオン、または有機カチオンである、請求項9に記載のピロリン酸イノシトール誘導体。
【請求項11】
請求項10に記載のピロリン酸誘導体を含む医薬組成物。
【請求項12】
ミオ−イノシトールがビスピロリン酸を含む、ピロリン酸ミオ−イノシトール誘導体。
【請求項13】
前記ミオ−イノシトール誘導体がカチオンと錯体を形成して塩となり、前記カチオンが、アルカリ金属カチオン、アルカリ性金属カチオン、アンモニウムカチオン、または有機カチオンである、請求項12に記載のピロリン酸ミオ−イノシトール誘導体。
【請求項14】
請求項13に記載のピロリン酸ミオ−イノシトール誘導体を含む医薬組成物。
【請求項15】
チオホスホルイミドイノシトール誘導体。
【請求項16】
前記イノシトール誘導体がカチオンと錯体を形成して塩となり、前記カチオンが、アルカリ金属カチオン、アルカリ性金属カチオン、アンモニウムカチオン、または有機カチオンである、請求項15に記載のトリスホスホルイミドイノシトール誘導体。
【請求項17】
請求項16に記載のトリスホスホルイミドイノシトール誘導体を含む医薬組成物。
【請求項18】
トリスチオピロリン酸イノシトール誘導体。
【請求項19】
前記イノシトール誘導体がカチオンと錯体を形成して塩となり、前記カチオンが、アルカリ金属カチオン、アルカリ性金属カチオン、アンモニウムカチオン、または有機カチオンである、請求項18に記載のトリスチオピロリン酸イノシトール誘導体。
【請求項20】
請求項19に記載のトリスチオピロリン酸誘導体を含む医薬組成物。
【請求項21】
ヒトまたは動物における赤血球に対するヘモグロビンの親和性を減少させる方法であって、前記ヒトまたは動物に、有効量のイノシトールのポリリン酸誘導体またはピロリン酸誘導体を投与するステップを含む方法。
【請求項22】
前記ポリリン酸誘導体が、シス−イノシトール、エピ−イノシトール、アロ−イノシトール、ムコ−イノシトール、ネオ−イノシトール、シロ−イノシトール、(+)カイロ−イノシトール、または(−)カイロ−イノシトールの六リン酸誘導体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ポリリン酸誘導体が、1つまたは複数の遊離ヒドロキシル基またはヒドロキシル誘導体基を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記ピロリン酸誘導体が、シス−イノシトール、エピ−イノシトール、アロ−イノシトール、ムコ−イノシトール、ネオ−イノシトール、シロ−イノシトール、(+)カイロ−イノシトール、または(−)カイロ−イノシトールのトリスピロリン酸エステルである、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記ピロリン酸誘導体がミオ−イノシトール二リン酸である、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記ピロリン酸誘導体がトリスホスホルイミドである、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記ピロリン酸誘導体がトリスチオピロリン酸誘導体である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
虚血介在性疾患を治療する方法であって、虚血性疾患に罹患している患者に、治療有効量の請求項1に記載のイノシトール六リン酸誘導体を投与するステップを含む方法。
【請求項29】
前記虚血介在性疾患が、アルツハイマー病、認知症、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、骨粗鬆症、または成人呼吸窮迫症候群(ARDS)である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
血管新生介在性疾患を治療する方法であって、虚血性疾患に罹患している患者に、治療有効量の請求項1に記載のイノシトール六リン酸誘導体を投与するステップを含む方法。
【請求項31】
前記血管新生介在性疾患が、内皮細胞の過剰もしくは異常刺激(例えば、アテローム性動脈硬化症)、血液由来腫瘍、固形腫瘍および腫瘍転移、良性腫瘍、例えば、血管腫、聴神経腫、神経線維腫、トラコーマおよび化膿性肉芽腫、血管機能不全、異常な創傷治癒、炎症性および免疫障害、ベーチェット病、痛風もしくは痛風性関節炎、糖尿病性網膜症、ならびに未熟児網膜症(水晶体後線維増殖症)、黄斑変性症、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障等の他の眼球血管新生疾患、ならびにOsler Weber症候群(Osler−Weber−Rendu病)、乳癌、前立腺癌、腎細胞癌、脳腫瘍、卵巣癌、結腸癌、膀胱癌、膵癌、胃癌、食道癌、皮膚黒色腫、肝癌、肺癌、精巣癌、腎癌、膀胱癌、子宮頸癌、リンパ腫、副甲状腺癌、陰茎癌、直腸癌、小腸癌、甲状腺癌、子宮癌、ホジキンリンパ腫、口唇および口腔癌、皮膚癌、白血病、または多発性骨髄腫である、請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−514772(P2010−514772A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544119(P2009−544119)
【出願日】平成19年12月31日(2007.12.31)
【国際出願番号】PCT/US2007/026495
【国際公開番号】WO2008/082658
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(507310101)ノームオクシス インコーポレイテッド (5)
【出願人】(509228260)ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール (8)
【Fターム(参考)】