説明

シクロオレフィン系重合体組成物の製造方法及びシクロオレフィン系重合体組成物、並びに成形体

【課題】製造時における熱履歴を少なく抑え、高度な耐光性を有するシクロオレフィン系重合体組成物を得ることのできる製造方法、及び該シクロオレフィン系重合体組成物を成形して成る成形体を目的とする。
【解決手段】シクロオレフィン系重合体の有機溶剤溶液に、特定の構造を有する単量体(a)及び他の単量体(b)を重合して得られる共重合体(A)を溶解させた後、有機溶剤を除去して重合体を回収するシクロオレフィン系重合体組成物の製造方法。また、該シクロオレフィン系重合体組成物を成形して成る成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び該製造方法により製造された熱可塑性樹脂組成物、並びに該熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体に関するものであり、より詳しくは耐光性に優れたシクロオレフィン系重合体組成物の製造方法及び該製造方法により製造されたシクロオレフィン系重合体組成物、並びに該シクロオレフィン系重合体組成物を成形して得られる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シクロオレフィン系重合体(以下、「COP」という。)は、優れた透明性、耐湿性、寸法安定性、耐熱性、電気特性を有するため、様々な分野に使用されている。
しかし、COPは耐光性が充分でない。そのため、耐光性を向上させるためにヒンダードミアン型光安定剤(以下、「HALS」という。)を少量添加することが示されている(特許文献1、2)。
【0003】
ところで、HALSの如き安定剤は、重合後に回収した重合体に適量配合され、各種押出機内で混練されることが一般的である。しかし、COPは分子内に3級炭素を多く有しており、加熱押出時の酸化劣化により着色を生じるため、押出機による混練回数を低減できるHALS添加方法が求められていた。
COPは、シクロヘキサンやトルエン等の有機溶剤中で溶液重合され、減圧脱気することにより該有機溶媒を除去して重合体を回収して製造することが多い。特許文献1には、このような製造上の特徴を活かし、COPの有機溶剤溶液にHALSを直接添加し、その後に有機溶剤を除去する方法が示されている。
【0004】
このような方法で重合体の回収を行なえば、押出機による熱履歴を受けることなく、COP中にHALSを保持できると考えられる。しかし、該方法では、有機溶剤の除去過程においてHALSの大半が除去されてしまうため、充分な耐光性が得られなかった。
【特許文献1】国際公開第2005−080467号パンフレット
【特許文献2】特開2002−220440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、押出機による混練を伴わずに熱履歴を少なく抑えてCOPにHALSを添加し、高度な耐光性を有するシクロオレフィン系重合体組成物を得ることのできる製造方法を目的とする。また、前記シクロオレフィン系重合体組成物を成形して得られる、高度な耐光性を有する成形体を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は鋭意検討した結果、熱履歴を少なく抑えてHALSを含有したCOPを製造する方法として、特定の構造を有する単量体を必須成分として含有する単量体混合物を重合して得られる共重合体をCOPの有機溶剤溶液に添加した後、有機溶剤を除去することにより重合体を回収する方法を見出し、発明を完成させるに至った。
即ち、本発明のシクロオレフィン系重合体組成物の製造方法は、シクロオレフィン系重合体の有機溶剤溶液に、下記式(I)で表される単量体(a)及び他の単量体(b)を重合して得られる共重合体(A)を溶解させた後、有機溶剤を除去して重合体を回収する方法である。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)
【0007】
また、本発明のシクロオレフィン系重合体組成物は、前記製造方法により製造された組成物である。
また、本発明の成形体は、シクロオレフィン系重合体組成物を成形して得られる成形体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、押出機による混練を伴わずにCOPにHALSを添加するため、熱履歴を少なく抑えることができ、高度な耐光性を有するシクロオレフィン系重合体組成物が得られる。
また、本発明の成形体は、高度な耐光性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のシクロオレフィン系重合体組成物(以下、「COP組成物」という。)の製造方法は、COPの有機溶剤溶液(以下、「COP溶液」という。)に、単量体(a)及び他の単量体(b)を重合して得られる共重合体(A)を溶解させた後、有機溶剤を除去して重合体を回収する方法である。
【0010】
以下、本発明の製造方法の実施形態の一例について順を追って説明する。
本発明のCOP組成物の製造方法は、溶液重合後のCOP溶液に、下記式(I)で表される単量体(a)及び他の単量体を重合して得られる共重合体(A)を溶解させる。
【0011】
【化2】

【0012】
単量体(a)は、分子内にピペリジル基を有するエチレン性不飽和単量体である。
単量体(a)におけるRは、水素原子又はメチル基である。
また、Xは、酸素原子又はイミノ基である。
また、Yは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数1〜20のアルコキシル基の3態様のうちのいずれかである。
また、Zは、水素原子又はシアノ基である。
【0013】
共重合体(A)の合成に用いられる単量体(a)としては、ラジカル捕捉機能を有するものを使用することができ、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが挙げられる。
これらの単量体(a)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
共重合体(A)中の単量体(a)の含有率は特に規定されず、得られるCOP組成物の耐光性がより高度になる点から、重合時の全単量体(100質量%)に対して、0.1〜50質量%であることが好ましく、6〜50質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることが更に好ましい。
全単量体(100質量%)中の単量体(a)の含有率が0.1質量%以上であれば、基材樹脂であるCOPが有する特性の1つ以上を大幅に低下させない範囲内の共重合体(A)の添加量で、COP組成物に充分な耐光性を付与することが容易になる。また、全単量体(100質量%)中の単量体(a)の含有率が50質量%以下であれば、被添加樹脂であるCOPとの相溶性を確保しやすいため、高度な耐光性を付与することが容易になる。
【0015】
共重合体(A)の重合において単量体(a)と共重合させる他の単量体(b)は、特に限定されず、単量体(a)と共重合可能な単量体であればよい。
他の単量体(b)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の官能基含有ビニル単量体;
スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−クロルスチレン等の芳香族ビニル単量体;
(メタ)アクリルアミド;
ビニルピリジン、ビニルアルコール、ビニルイミダゾール、ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、酢酸ビニル等のビニル単量体;
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有ビニル単量体;
イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジプロピル、イタコン酸ジブチル等のイタコン酸エステル;
フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル等のフマル酸エステル;
マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステルが挙げられる。
これらの単量体の中でも各種COPとの相溶性に優れる点から、芳香族ビニル単量体を用いることが好ましい。
これらの単量体(b)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
単量体(a)及び単量体(b)を重合して共重合体(A)を得る方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法を用いることができる。これらの重合法で共重合体(A)を得る際は、高い重合安定性が得られる点から、塩基性化合物を添加して重合系のpHをアルカリ領域に調整しておくことが好ましい。pH調整剤(重合安定剤)として使用することができる塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0017】
共重合体(A)を乳化重合法により重合する場合は、乳化剤として、例えば、公知のアニオン性又はノニオン性の乳化剤、高分子乳化剤、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤を用いることができる。
これらの乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
また、共重合体(A)を溶液重合法により重合する場合、溶媒として、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;シクロヘキサン等の脂環系溶媒を用いることができる。
これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
また、共重合体(A)を懸濁重合法により重合する場合、分散安定剤として、例えば、燐酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、澱粉末シリカ等の水難溶性無機化合物;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、セルロース誘導体等のノニオン系高分子化合物;ポリ(メタ)アクリル酸及びその塩、メタクリル酸エステルとメタクリル酸及びその塩との共重合体等のアニオン系高分子化合物を用いることができる。
これらの中でも、極少量で分散安定性を保持でき、懸濁重合の分散剤として非常に優れている点から、アニオン系高分子化合物が特に好ましい。これらの分散安定剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
各種重合法によって重合された共重合体(A)は、各々の重合法に適した方法で固形分(樹脂分)を回収すればよい。
【0020】
例えば、共重合体(A)を乳化重合法により重合した場合は、スプレードライ法、塩析凝固法、遠心分離法、凍結乾燥法等の方法で樹脂分を回収すればよい。また、共重合体(A)を溶液重合法により重合した場合は、再沈殿法、溶媒揮発除去法等の方法で固形分を回収すればよい。尚、溶液重合で共重合体(A)を得た場合、固形分回収後にCOP溶液に添加してもよいが、重合した共重合体溶液をそのままCOP溶液に添加することも可能である。また、懸濁重合により共重合体(A)を得た場合は、濾過回収が最も簡便な方法である。
【0021】
共重合体(A)は、ラジカル重合開始剤を用いて重合することができる。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]及びその塩、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}及びその塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)及びその塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]及びその塩等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物が挙げられる。
これらのラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、乳化重合法により重合を行なう場合には、例えば、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤を前記過硫酸塩又は有機過酸化物と組み合わせて用いることが好ましい。
【0022】
共重合体(A)の質量平均分子量(以下、「Mw」という。)は、特に規定されないが、揮発性とCOP中での分散性のバランスから、5,000〜200,000であることが好ましく、5,000〜100,000であることがより好ましく、5,000〜50,000であることが特に好ましい。
共重合体(A)のMwが5,000以上であれば、共重合体(A)を添加した後のCOP溶液からCOP組成物を回収する際の減圧脱溶剤の際に、共重合体(A)の揮発を抑制しやすく、COP組成物に充分な耐光性を付与することが容易になる。また、共重合体(A)のMwが200,000以下であれば、COP中の共重合体(A)の分散性が高くなることで、高度な耐光性を発現させることが容易になる。
【0023】
共重合体(A)のMwを調節する方法は特に限定されないが、ラジカル重合開始剤の使用量を調節する方法の他、連鎖移動剤を用いる方法も有効な手段である。
共重合体(A)の重合に使用できる連鎖移動剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン等のメルカプタン化合物;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤が挙げられる。
これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の種類や単量体混合物における単量体(a)と他の単量体(b)との構成比に応じて適宜選択すればよい。
【0024】
以上説明した共重合体(A)を用いることにより、COP溶液にHALSを溶解させた後、有機溶剤を除去する際に該HALSが揮発してしまうことを抑制することができ、得られるCOP組成物に高度な耐光性を付与できる。これに対し、共重合体(A)以外のHALSを用いた場合は、重合体の回収過程、即ち、減圧脱溶剤過程においてHALSが揮発除去され耐光性向上効果が充分に発現しない。
本発明のCOP組成物の製造方法において用いられる共重合体(A)は、同一組成の共重合体(A)を単独で使用してもよく、組成、分子量等の異なる共重合体(A)を2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0025】
COP溶液に対する共重合体(A)の添加量は特に規定されないが、COP溶液中のCOPと共重合体(A)の合計を100質量部としたとき、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましく、0.1〜3質量部であることが更に好ましい。
COPと共重合体(A)の合計(100質量部)中の共重合体(A)の添加量が0.1質量部以上であれば、COP組成物に充分な耐光性を付与しやすい。また、COPと共重合体(A)の合計(100質量部)中の共重合体(A)の添加量が10質量部以下であれば、COPの特性のうち1つ以上を大幅に低下させることを抑制しやすい。
【0026】
本発明のCOP組成物の製造方法におけるCOP溶液とは、COPを溶液重合にした際に得られるCOPの有機溶剤溶液を指す。また、COPは、分子内に単環もしくは多環の環状炭化水素構造を有するノルボルネン系単量体を必須構成成分とするオレフィン系重合体を指す。
COPとしては、例えば、商品名「アートンF5023」、「同4520」、「同D4531F」、「同D4531」、「同D4532」、「FX4727」(以上、JSR(株)製)、商品名「ゼオネックス480」、「同480R」、「同E48R」、「同330R」、「同RS420」、「ゼオノア1020R」、「同1060R」(以上、日本ゼオン(株)製)、商品名「アペル」(三井化学(株)製)が挙げられる。
【0027】
一般にCOPを溶液重合する際の有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等が使用される。これらの有機溶剤の除去は、加熱、減圧等の手段を用いて行なわれる。溶剤除去装置としては、円筒型濃縮乾燥機、ロータリーエバポレーター、加熱真空乾燥機等が挙げられる。
【0028】
COP組成物は、必要に応じて共重合体(A)以外の添加剤として、フェノール系酸化防止剤、燐系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、滑剤、離型剤、着色剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤等を添加してもよい。
【0029】
本発明の成形体は、前述のCOP組成物を成形して得られる成形体であり、高度な耐光性を有する。
成形体は、例えば、カメラレンズ、ビデオカメラレンズ、ファインダーレンズ、光ディスク用ピックアップレンズ、眼鏡レンズ、医療検査用プラスチックレンズ、プロジェクションテレビ用投影レンズ等の光学レンズ部材;ルームミラー、ヘッドランプカバー、テールランプカバー等の自動車内外装用部材;建材用部材;外装部材;OA機器部材;各種フィルムに用いることができる。
COP組成物の成形方法は、例えば、射出成形法、圧縮成形法、押出成形法等の公知の方法を用いることができる。
【0030】
従来の製造方法では、COP溶液にHALSを添加した後に有機溶剤を除去すると耐光性が充分に得られないことがあった。これは、添加するHALSの分子量が低く、有機溶剤を除去する過程でHALSの大半が揮発除去されていたためである。
一方、本発明のCOP組成物の製造方法によれば、押出機による混練を伴わずに製造時における熱履歴が少なく抑えられ、かつHALSの揮発を抑えることができるため、高度な耐光性を有するCOP組成物が得られる。そのため、COPの優れた透明性、耐湿性、寸法安定性、耐熱性、電気特性に加え、高度な耐光性が付与されたCOP組成物を得ることができる。
また、本発明の成形体は、前記COP組成物を用いているため、高度な耐光性が付与されている。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。尚、以下の記載において「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0032】
(製造例1)共重合体(A−1)の製造
攪拌装置、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ及び窒素導入管を備えたフラスコに、下記混合物を投入し、フラスコ内部を窒素で置換しながら70℃まで昇温した。
重合安定剤 水酸化ナトリウム 0.015部
乳化剤 ネオペレックスG−15(商品名、花王(株)製)
(有効成分16%) (固形分として) 9部
脱イオン水 200部
還元剤水溶液:
硫酸第一鉄七水塩 0.0008部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0024部
トナリウムアルデヒドスルホキシレート 0.62部
脱イオン水 10部
【0033】
その後、下記原料混合物を2時間かけて滴下し、さらにフラスコの内温を80℃まで昇温させて1時間保持し、共重合体(A−1)のラテックスを得た。
原料混合物:
単量体(a) 4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン 30部
他の単量体(b) イソブチルメタクリレート 60部
スチレン 10部
連鎖移動剤 n−オクチルメルカプタン 0.3部
重合開始剤 t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.3部
【0034】
得られた共重合体(A−1)のラテックスを室温まで冷却し、酢酸カルシウム30部を含む熱水300部中に滴下して、ラテックスの凝析を行なった。
凝析物を分離洗浄後、65℃で20時間乾燥し、共重合体(A−1)を得た。得られた共重合体(A−1)のMwは20,000であった。
【0035】
(製造例2及び3)共重合体(A−2)及び共重合体(A−3)の製造
単量体(a)、他の単量体(b)、連鎖移動剤の組成を表1に示すように変更した以外は、製造例1と同様にして共重合体(A−2)及び(A−3)を得た。得られた共重合体(A−2)のMwは17,000であり、共重合体(A−3)のMwは19,000であった。
【0036】
【表1】

【0037】
ただし、表1中の略号は以下の意味を示す。
HALS1:4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン
iBMA :イソブチルメタクリレート
EHA :2−エチルヘキシルアクリレート
St :スチレン
nOM :n−オクチルメルカプタン
重合開始剤:t−ブチルハイドロパーオキサイド
【0038】
(実施例1)
COPとして「アートン4520」(商品名、JSR(株)製)99部、製造例1で得られた共重合体(A−1)1部、有機溶剤としてトルエン200部を配合し、COP及び共重合体(A−1)が溶解するまで静置と攪拌を繰り返した。
得られた溶液をアルミ板上に約50μmの厚さになるようにアプリケーターで塗布し、室温で1晩放置後、ギアーオーブンに入れて50℃で1時間、次いで100℃で1時間加熱処理した。
ギアーオーブンからアルミ板を取り出し、真空乾燥機「LHV−112」(商品名、TABAI(株)製)に入れて、1.3kPa以下の圧力で80℃に保持し、5日間乾燥処理を行なった。
得られた皮膜をアルミ板から剥がし取り、縦5cm×横5cmに切り出したフィルム状試験体(成形体)を得た。
【0039】
(実施例2及び3)
COP、共重合体(A)、有機溶剤の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルム状試験体を得た。
【0040】
(比較例1)
共重合体(A)を「アデカスタブ LA−57」(商品名、(株)ADEKA製、Mw:790)に変更した以外は、実施例1と同様にしてフィルム状試験体を得た。
【0041】
(比較例2)
低分子量HALSとして、「アデカスタブ LA−63P」(商品名、(株)ADEKA製、Mw:約2,000)を用いた以外は、比較例1と同様にしてフィルム状試験体を得た。
【0042】
(比較例3)
共重合体(A−1)を添加しない以外は実施例1と同様にしてフィルム状試験体を得た。
【0043】
実施例及び比較例で得られたフィルム状試験体の耐光性の評価は、以下に示すようにして行なった。
(耐光性試験)
実施例及び比較例で得られた耐光性評価用フィルムを、評価装置「デューパネル光コントロールウエザーメーター」(商品名、スガ試験機(株)製)に入れ、連続照射、試験温度63℃の条件で、72時間経過後の△YI値を測定したものを耐光性の指標とし、以下の基準で判定した。尚、YI値測定は偏光光沢計「VG−2000型」(商品名、日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
○:△YI値が「6」未満
×:△YI値が「6」以上
実施例及び比較例で得られたフィルム状試験体の耐光性試験の結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
ただし、表2中の略号は以下の意味をしめす。
COP1:「アートン4520」(商品名、JSR(株)製)
HALS2:「アデカスタブ LA−57」(商品名、(株)ADEKA製)
HALS3:「アデカスタブ LA−63P」(商品名、(株)ADEKA製)
【0046】
表2に示すように、本発明のCOP組成物の製造方法を用いた実施例1〜3では、COP溶液にHALSを添加した後に有機溶剤を除去する操作を行なっているにもかかわらず、得られたCOP組成物の成形体はHALSの効果が充分に保持されており、高い耐光性を発現した。
一方、比較例1及び2では、比較的分子量の低いHALSを添加したことから、有機溶剤を除去する過程において該HALSが揮発除去されてしまうため、HALSを用いていない比較例3と同様に耐光性に劣っていた。
以上の結果から、本発明のCOP組成物の製造方法は、高度な耐光性を発現するCOP組成物を得ることができるため極めて有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のCOP組成物の製造方法によれば、高度な耐光性を有するCOP組成物を得ることができる。このようなCOP組成物は、カメラレンズ、ビデオカメラレンズ、ファインダーレンズ、光ディスク用ピックアップレンズ、眼鏡レンズ、医療検査用プラスチックレンズ、プロジェクションテレビ用投影レンズ等の光学レンズ部材;ルームミラー、ヘッドランプカバー、テールランプカバー等の自動車内外装用部材;建材用部材;外装部材;OA機器部材;各種フィルム等に用いることができ、工業上極めて有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィン系重合体の有機溶剤溶液に、下記式(I)で表される単量体(a)及び他の単量体(b)を重合して得られる共重合体(A)を溶解させた後、有機溶剤を除去して重合体を回収するシクロオレフィン系重合体組成物の製造方法。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造されたシクロオレフィン系重合体組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のシクロオレフィン系重合体組成物を成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2010−18682(P2010−18682A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179365(P2008−179365)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】