説明

シクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物、ポリマー、コポリマー、フィルム材料、電解質及び固体電解質フィルム

【課題】 シクロカーボネートが導入された(メタ)アクリレート化合物であって、重合により柔らかく有機溶剤への溶解性に優れるフィルム形成能を有するポリマーもしくはコポリマーとなり、固体電解質フィルムの形成に好適に用いられる(メタ)アクリレート化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)に示される(メタ)アクリロイルオキシエチルカルバミン酸エステル構造を有するシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物(式中、R1は水素又はメチル基、R2はシクロカーボネート基を含む1価の有機基、nは1〜6の整数である。)、そのポリマー及びコポリマー、それを用いたフィルム材料、電解質及び固体電解質フィルム。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロカーボネート基を有する(メタ)アクリレート化合物であるシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物、この化合物を用いて合成されるポリマー、コポリマー、これらのポリマー又はコポリマーを用いたフィルム材料、電解質及び固体電解質フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
シクロカーボネート基を有する(メタ)アクリレートの製造方法としては、グリセリン−1,2−カーボネートをアクリル酸クロライド又はアクリル酸無水物から塩基を利用して合成する方法(例えば非特許文献1参照。)、グリセリン−1,2−カーボネートとメチルメタクリレートのエステル交換反応を利用する方法(例えば特許文献1参照。)、グリシジルメタクリレートに有機アミン又はホスフィン、ハロゲン化アルカリ金属塩又はハロゲン化アルカリ土類金属塩もしくはアルカリ土類金属炭酸塩存在下で二酸化炭素を作用させる方法(例えば特許文献2参照。)などが挙げられる。一方で、電子機器の加工性、小型化及び長時間駆動の観点から、それら機器に使用される電池には電解液を用いたリチウムイオン電池が広範囲に使用されている。しかしながら安全性の観点から発火及び爆発の危険性の残る電解液リチウムイオン電池に代わり、より安全な電解液を使用しない固体電解質型リチウムイオン電池の開発が注目されている。シクロカーボネート化合物は電解液の成分として、例えばエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートのように、既に広範囲に使用されているので、シクロカーボネート構造を側鎖に有するポリマーもしくはコポリマー材料は、高いリチウムイオン伝導性を有していることが期待されている。シクロカーボネート基を有する固体電解質フィルムに関する研究としては、ビニレンカーボネートおよびプロピレンカーボネート メタクリレート(以下PCMAと略す)などの重合性モノマーから誘導されるポリマー材料に関して既に報告がある(例えば非特許文献2参照。)。特にPCMAはモノマーとしての反応性が高く、不溶性のポリマーを与えやすく、取扱性に難があり、フィルム形成能も乏しい。
【特許文献1】米国特許第2979514号明細書
【特許文献2】特許第2565875号明細書
【非特許文献1】J.Polymer Science., Polym.Chem.Ed.(1976),5(2),307−321
【非特許文献2】Macromolecules (1995), 28, 3468−3470
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の従来技術では側鎖にシクロカーボネートを有する(メタ)アクリレートを簡便に合成できる方法も見られるが、例えばプロピレンカーボネート (メタ)アクリレートなどの安定性や高反応性のために、得られる重合体は非常に硬く、もろい上に、有機溶剤への溶解性が低いなどの欠点が見られた。また、従来の方法では側鎖にイオン伝導に有利と考えられる高極性ウレタン結合とシクロカーボネート基を同時に導入することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では上記課題を解決すべく、発明者が鋭意検討した結果、フィルム形成能向上のために、側鎖に反応性の高いイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートを用い、アルコールとの反応によりウレタン結合を形成しつつ、環状カーボネート基を導入する新規(メタ)アクリレート化合物を簡便に合成する方法を開発するに至り、さらに当該化合物を用いた重合によって柔らかく有機溶剤への溶解性に優れるポリマーもしくはコポリマーを開発するに至った。さらに、リチウムイオン含有電解質塩を溶解せしめた当該ポリマー及びコポリマーからなるフィルムは固体電解質となった。
【0005】
すなわち本発明は、下記一般式(1)に示される(メタ)アクリロイルオキシエチルカルバミン酸エステル構造を有するシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物に関する。(式中、R1は水素又はメチル基、R2はシクロカーボネート基を含む1価の有機基、nは1〜6の整数である。)
【0006】
【化1】

【0007】
さらに本発明は、上記一般式(1)に示される構造を有するシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物を重合してなる下記一般式(2)に示される繰り返し単位を有するポリマーに関する。(式中、R1は水素又はメチル基、R2はシクロカーボネート基を含む1価の有機基、nは1〜6の整数、xは繰り返し単位数を示す自然数である。)
【0008】
【化2】

【0009】
さらに本発明は、上記一般式(1)に示される構造を有するシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物と、当該化合物と重合可能な(メタ)アクリル酸化合物とを重合してなる一般式(3)に示される繰り返し単位を有するコポリマーに関する。(式中、R1及びR3は水素又はメチル基、R2はシクロカーボネート基を含む1価の有機基、R4は水素、炭素原子数が1〜20の炭化水素基(例えば、アルキル基)、フェニル基、ベンジル基、シクロヘキシル基又は-(CH2CH2O)mCH3で示されるオキシエチレン基(mは1〜6の整数)、nは1〜6の整数、x及びyは繰り返し単位数を示す自然数である。)
【0010】
【化3】

【0011】
さらに本発明は、上記一般式(2)に示される構造を有するポリマー又は上記一般式(3)に示される構造を有するコポリマーからなるフィルム材料に関する。
【0012】
さらに本発明は、上記フィルム材料及びリチウムイオン含有電解質塩を含有する電解質に関する。
【0013】
さらに本発明は、上記電解質からなる固体電解質フィルムに関する。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたように、本発明によれば、上述したようなプロピレンカーボネート (メタ)アクリレート(PCMA)のように不溶性のポリマーを与えることなく、柔らかいフィルム状ポリマーを作製することが可能な(メタ)アクリレートが得られ、さらに他の重合性(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリレートとのコポリマー合成も可能になることから、特性に合わせたフィルム設計が可能となる。さらに、電解質塩を溶解せしめることでイオン伝導度に優れる固体電解質ポリマーとすることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物を示す前記一般式(1)において、シクロカーボネート基を含む基を示すR2の具体例としては、2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル基等が挙げられる。
【0016】
本発明の前記一般式(1)で示されるシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物は、例えば、下記一般式(4)で示される2−(メタ)アクリロイルオキシエチル イソシアネートと、下記一般式(5)で示されるシクロカーボネート化合物とを反応させて製造することができる。反応は、反応系の水分を極力除去した環境(禁水条件下)で加熱撹拌して行なうことが好ましい。また、アルキルスズ化合物を触媒に用いると収率を向上させることができ、好ましい。
【0017】
【化4】

(式中、R1は、上記と同じ意味を有する。)
【0018】
【化5】

(式中、R2及びnは、上記と同じ意味を有する。)
【0019】
例えば、1−(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノールの2−メタクリロイルオキシエチルカルバミン酸エステル(以下MOI−Gと略す)は2−メタクリロイルオキシエチル イソシアネートとグリセロール 1,2−カーボネート(即ち、1−(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール)とを反応系の水分を極力除去した環境(禁水条件下)で加熱撹拌することで製造できる。また、アルキルスズ化合物を触媒に用いると収率を向上させることができる。
【0020】
上述のシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物の製造方法で使用できる一般式(4)で示される2−(メタ)アクリロイルオキシエチル イソシアネートの具体例としては、例えば、昭和電工(株)製、商品名「カレンズAOI」(2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート)や昭和電工(株)製、商品名「カレンズMOI」(2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート)などが使用できる。
【0021】
上述のシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物の製造方法で使用できる一般式(5)で示されるシクロカーボネート化合物の具体例としては、例えば、1−(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール、2−(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)エタノール、3−(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)プロパノール、4−(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)ブタノール、5−(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)ペンタノール、6−(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)ヘキサノール等が挙げられる。
【0022】
さらに上述のシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物の製造方法で使用できる溶媒としては、アルコール以外で脱水が容易にでき、溶質である一般式(4)で示される2−(メタ)アクリロイルオキシエチル イソシアネート及び一般式(5)で示されるシクロカーボネート化合物を溶解できる有機溶媒であれば、脂肪族系溶媒、芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、非プロトン性溶媒などが使用できるが、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、クロロホルム、塩化メチレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが使用できる。中でも、テトラヒドロフランや塩化メチレンが好適である。
【0023】
また、上述の製造方法で使用できる温度範囲は、使用する溶媒の沸点とも関連するが、−40℃〜150℃の範囲で行うことが好ましく、さらには0℃〜100℃の範囲で行うことがより好ましく、さらには20℃〜60℃の温度範囲で行うことが最も好ましい。
【0024】
また、上記反応に好適に用いられる触媒であるアルキルスズ化合物としては、例えば、ジ−n−ブチルスズジラウレート等が挙げられる。アルキルスズ化合物の使用量は、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル イソシアネート100モルに対して0.01〜5モルとすることが好ましく、0.5〜1モルとすることがより好ましい。
【0025】
本発明の前記一般式(2)で示される繰り返し単位を有するポリマー(以下、シクロカーボネート基含有ポリマーと呼ぶことがある。)は、前記一般式(1)で示されるシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物のラジカル重合若しくはカチオン重合によって得ることができる。また、本発明の前記一般式(3)で示される繰り返し単位を有するコポリマー(以下、シクロカーボネート基含有コポリマーと呼ぶことがある。)は、前記一般式(1)で示されるシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物と、この化合物と重合可能な化合物、即ち下記一般式(6)
【0026】
【化6】

(式中、R3及びR4は、上記と同じ意味を有する。)
で示される(メタ)アクリル酸化合物とのラジカル重合若しくはカチオン重合による共重合によって得ることができる。
【0027】
本発明の上記のシクロカーボネート基含有ポリマー及びシクロカーボネート基含有コポリマーは、数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算値)5000〜50万であることが好ましく、1万〜20万であることがより好ましい。
【0028】
一般式(3)記載のコポリマー中のx値とy値の比率は、y/(x+y)が0.2以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。また、y/(x+y)は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。y/(x+y)が0.2未満であると、フィルム形成できなかったり、不溶性のポリマーとなる傾向があり、0.9を超えると、形成できるフィルムにタックが残りやすくなる傾向がある。
【0029】
重合方法としては、特に、ラジカル重合はその反応速度の大きさ、イオン性不純物が残留しないなどの利点があり、電子材料用途のポリマー材料としての利点があるので、ラジカル重合によってポリマー又はコポリマーを得ることが好適である。
【0030】
本発明の前記一般式(2)記載のシクロカーボネート基含有ポリマー、及び、一般式(3)記載のシクロカーボネート基含有コポリマーの合成に用いるラジカル重合の開始剤としては、一般的なラジカル開始剤が使用できるが、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(AIBN)、アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル、アゾジベンゾイル等の有機アゾ化合物、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)3−ヘキシン、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物が使用できる。
【0031】
ラジカル開始剤の配合量は得られるポリマーもしくはコポリマーの分子量に大きく影響するが、上記のシクロカーボネート基含有ポリマーを合成する場合は上記のシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物の1モルに対して、上記のシクロカーボネート基含有湖ポリマーを合成する場合は上記のシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物及び上記の(メタ)アクリル酸化合物の合計1モルに対して0.01〜10モル添加することが好ましく、0.03〜1モル添加することがより好ましい。
また場合によっては、分子量を調節する目的として、ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、チオグリコール、α−メチルスチレンダイマーなどの連鎖移動剤を使用しても良い。
【0032】
重合形態としては、塊状重合も可能であるが、不用意なゲル化の可能性が高まるので、溶液重合が好ましい。溶液重合に用いる溶媒としては、重合反応を妨げない程度の溶解性を有するエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、非プロトン性溶媒などが使用できるが、例えば、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが使用できる。中でも、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリジノンやジメチルスルホキシドが好適である。
使用できる重合温度範囲としては、−40〜120℃が好ましく、0〜100℃がより好ましく、20〜80℃が最も好ましい。
【0033】
本発明の前記一般式(3)記載のコポリマーの合成においては、以下に記載の重合性モノマーを用いることができる。例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸シクロアルキルエステル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸芳香族エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸シクロアルキルエステル及びアクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸芳香族エステル、エチレングリコールモノメチルエーテルのメタクリル酸エステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルのメタクリル酸エステル、エチレングリコールモノメチルエーテルのアクリル酸エステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルのアクリル酸エステルなどのグリコールエステルがある。
【0034】
本発明のシクロカーボネート基含有ポリマー及びシクロカーボネート基含有コポリマーは、柔軟性に優れ、また、有機溶剤への溶解性に優れるため、フィルム材料として好適に用いることができる。
【0035】
また、本発明のシクロカーボネート基含有ポリマー又はシクロカーボネート基含有コポリマーにリチウムイオン電解質塩等を溶解させることにより、フィルム形成能を有する電解質とすることができ、この電解質を有機溶媒に溶解させてフィルム形成することにより、固体電解質フィルムを得ることができる。
【0036】
本発明におけるフィルム作製時の溶媒としては、本発明のシクロカーボネート基含有ポリマー又はシクロカーボネート基含有コポリマーを溶解するものであれば、極端に揮発性の低いものでなければ、どのようなものも使用可能である。例えば、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリジノン、メチルイソブチルケトン、2−ブタノン、アセトンなどが使用できるが、N−メチルピロリジノンもしくはテトラヒドロフランなどが好適である。
【0037】
また、本発明においてフィルム中に溶解せしめるLiイオン含有電解質塩としては、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiC(CF3SO23からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いるのが好ましい。またこの場合、電解質に含まれるリチウムイオン含有電解質塩の濃度は、フィルムを形成するシクロカーボネート基含有ポリマー又はコポリマー中のシクロカーボネート基に対して、モル比(リチウムイオン含有電解質塩/シクロカーボネート基)で好ましくは0.2以上、より好ましくは0.7以上、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.0以下とすることがより好ましい。添加できるリチウムイオン含有電解質塩の上限値はポリマーもしくはコポリマーに対して溶解可能な量となる。
【0038】
本発明の固体電解質フィルムは、例えば、本発明のシクロカーボネート基含有ポリマー又はシクロカーボネート基含有コポリマーとリチウムイオン含有電解質塩を有機溶媒に溶解、混合した後、テフロン(登録商標)シート等の剥離可能な基材上にキャスト後、好ましくはアルゴン等の不活性雰囲気中、乾燥させることにより形成することができる。乾燥温度は、50〜150℃とすることが好ましい。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明に係る具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例において、試料調製及びイオン伝導度測定はアルゴン雰囲気下で行った。
【0040】
(イオン伝導度の測定)
イオン伝導度の測定は、電解質をステンレス鋼(SUS316)電極で挟み込むことで電気化学セルを構成し、電極間に交流(0.1〜100kHz、10〜500mV)を印加して抵抗成分を測定する交流インピーダンス法を用いて行い、コール・コールプロットの実数インピーダンス切片から計算した。
【0041】
(実施例1) メタクリレート(MOI−G)の合成
三方コックと滴下ロートを取り付けた50ml三口ナスフラスコを窒素置換し、蒸留したジクロロメタン20ml 、グリセロール1,2−カーボネート((5.905g、50.0 mmol)、ジ−n−ブチルスズジラウレート(0.05 mmol)を加えた。次に滴下ロートより、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート[昭和電工製](7.76g、50.0 mmol)のジクロロメタン5ml溶液を滴下し、5℃で3時間攪拌した。反応終了後、ジクロロメタンを減圧留去し、得られた固体をヘキサンとジクロロメタンの混合溶媒で再結晶し、得られた白色の結晶を真空乾燥しMOI−G(一般式(1)において、R1=メチル、n=1、R2=2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル基)を得た。
収量:11.52g(84%)、融点69.1−69.8 ℃
元素分析: 理論値:C 48.35, H 5.53, N 5.13. 実測値:C 48.35, H 5.46, N 5.00.
1H−NMR(270MHz、CDCl3、室温、δ、ppm):1.95(s,3H,CH2=CCH3−)、3.53(dt,J=5.13(d),5.67(t)Hz,2H,−CH2CH2NH−)、4.25−4.33(m,4H,−NHCOOCH2CHCH2−)、4.55(t,J=8.64Hz,2H,−OCH2CH2NH−)、4.92(m,1H,−NHCOOCH2CH−)、5.25(m,1H,−CH2NHCOO−)、5.62(s,1H,CH2=CCH3−)、6.14(s,H,CH2=CCH3−).
13C−NMR(270MHz、d6−ジメチルスルホキシド、室温、δ、ppm):18.02(CH2=CCH3−)、40.58(−CH2CH2NH−)、63.33(−NHCOOCH2CHCH2−)、63.50(−CH2CH2NH−)、66.03(−NHCOOCH2−)、74.98(−NHCOOCH2CHCH2−)、126.26(CH2=CCH3−)、136.13(CH2CCH3−)、154.81(−NHCOOCH2CHOCOO−)、156.19(−NHCOO−)、166.93(CH2CCH3COO−).
IR(KBr、cm−1):1727(C=O in −NHCOO− and CCOO)、1805(C=O in −OCOO−)、3369(NH).
【0042】
(実施例2) MOI−Gのラジカル重合
重合管に、MOI−G(0.201g、0.720 mmol)、AIBN(3mol%:3.54mg、0.021 mmol)を入れ窒素置換後、蒸留したジメチルスルホキシド 0.72mlを加えて脱気封管し、60 ℃、24時間攪拌し反応させた。反応終了後、反応溶液を少量のジメチルスルホキシドに溶かし、クロロホルムにより沈殿精製を行い、得られた固体を真空乾燥することでポリMOI−G(一般式(2)において、R1=メチル、n=1、R2=2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル基)を得た。収量:0.182g(90%)、Tg(ガラス転移点)=72.3 ℃、数平均分子量:76,500
1H−NMR(270MHz、d6−ジメチルスルホキシド、80℃、δ、ppm)0.67−1.04(3H,−CH2CCH3COO−)、1.66−1.97(2H,−CH2CCH3COO−)、3.20−3.34(2H,−COOCH2CH2NH−)、3.84−4.02(2H,−NHCOOCH2CHCH2−)、4.15−4.34(2H,−NHCOOCH2CHCH2−)、4.53−4.63(2H,−COOCH2CH2NH−)、4.93−5.06(1H,−NHCOOCH2CHCH2−)、6.95−7.21(1H,−COOCH2CH2NH−)
13C−NMR(270MHz、d6−ジメチルスルホキシド、室温、δ、ppm):15.99−18.83(−CH2CCH3COO−)、44.03−44.91(−CH2CCH3COOCH2CH2NH−)、51.03−57.41(−NHCOOCH2CHCH2−)、62.77−64.07(−COOCH2CH2NH−)、65.83−66.48(−NHCOOCH2CHCH2−)、74.71−75.27(−NHCOOCH2CHCH2−)、155.00−156.36(−NHCOOCH2CHOCOO−)、156.09−156.34(−CH2NHCOO−)、176.40−177.83(−CH2CCH3COOCH2−).
IR(KBr、cm−1)1720(C=O in −NHCOO− and CCOO),、1797(C=O in −OCOO−)、3372(NH).
【0043】
(実施例3) MOI−Gとn−ブチルアクリレートとの共重合
重合管にMOI−G(0.273 g、1.00 mmol)とAIBN(0.060 mmol)を加えて窒素置換後、蒸留したn−ブチルアクリレート(0.128 g、1.00 mmol)とジメチルスルホキシド 2.0 mlを加えて脱気封管した。60 ℃、24時間攪拌後、反応溶液に少量のジメチルスホキシドを加えて水とメタノールの混合溶液(1:2)により沈殿精製を行った。得られた固体を濾過して真空乾燥し、MOI−Gとn−ブチルアクリレートとの共重合体(一般式(3)において、R1=メチル基、n=1、R2=2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル基、R3=水素、R4=n−ブチル基、y/(x+y)=0.5)を得た。収量:0.258g(69%)、Tg(ガラス転移点)=54.4℃、数平均分子量:122,300
1H−NMR(270MHz、d6−ジメチルスルホキシド、室温、δ、ppm):0.57−0.92(7H,−CH2C(CH3)COO−,−CH2CHCOOCH2CH2CH2CH3)、1.17−1.33(2H,−CH2CH2CH2CH3)、1.37−1.54(2H,−CH2CH2CH2CH3)、1.74−2.05(3H,−CH2C(CH3)COO−,−CH2CHCOO−)、3.24−3.29(2H,−CH2CH2NH−)、3.68−4.20(2H,−NHCOOCH2CHCH2−)、4.07−4.26(2H,−NHCOOCH2CH−,−COOCH2CH2CH2CH3)、4.45−4.57(2H,−CH2CH2NH−)、4.88−4.99(1H,−NHCOOCH2CHCH2−)、7.39(1H,−CH2CH2NH−).
【0044】
(実施例4) MOI−Gとn−ブチルメタクリレートとの共重合
重合管にMOI−G (0.273 g、1.00 mmol)とAIBN(0.06 mmol)を加えて窒素置換後、蒸留したn−ブチルメタクリレート(0.142g、 1.00 mmol) とジメチルスルホキシド 2.0mlを加えて脱気封管した。60℃、24時間攪拌し反応させ、反応終了後、反応溶液に少量のジメチルスルホキシドを加えて水により沈殿精製を行った。得られた固体を濾過して真空乾燥し、MOI−Gとn−ブチルメタクリレートとの共重合体(一般式(3)において、R1=メチル基、n=1、R2=2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル基、R3=メチル基、R4=n−ブチル基、y/(x+y)=0.5)を得た。収量:0.337 g(81%)、Tg(ガラス転移点)=63.0℃、数平均分子量:58,300
1H−NMR(270MHz、d6−ジメチルスルホキシド、室温、δ、ppm):0.59−1.01(9H,−CH2C(CH3)COO−,−CH2C(CH3)COOCH2CH2CH2CH3)、1.25−1.45(2H,−CH2CH2CH2CH3)、1.47−1.64(2H,−CH2CH2CH2CH3)、1.66−1.95(4H,−CH2C(CH3)COO−,−CH2C(CH3)COO−)、3.36−3.38(2H,−CH2CH2NH−)、3.78−4.02(2H,−NHCOOCH2CHCH2−)、4.14−4.35(4H,−NHCOOCH2CHCH2−,−CH2CH2CH2CH3)、4.52−4.55(2H,−CH2CH2NH−)、4.96−5.08(1H,−NHCOOCH2CHCH2−)、7.40−7.54(1H,−CH2CH2NH−).
【0045】
(実施例5) MOI−Gとジエチレングリコールモノメチルエーテルのメタクリル酸エステル(DEGMEM)との共重合
重合管にMOI−G (0.273 g、1.00 mmol)とAIBN(0.06 mmol)を加えて窒素置換後、蒸留したDEGMEM(0.188 g、1.00 mmol)とジメチルスルホキシド 2.0 mlを加えて脱気封管した。60 ℃、24時間攪拌し反応させ、反応終了後、反応溶液に少量のジメチルスルホキシドを加えてメタノールにより沈殿精製を行った。得られた固体を濾過して真空乾燥し、MOI−GとDEGMEMとの共重合体(一般式(3)において、R1=メチル基、n=1、R2=2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル基、R3=メチル基、R4=-(CH2CH2O)mCH3、m=2、y/(x+y)=0.5)を得た。収量:0.304 g(66%)、Tg(ガラス転移点=31.0 ℃)、数平均分子量:65,700
1H−NMR(270MHz、d6−ジメチルスルホキシド、室温、δ、ppm):0.61−1.08(6H,−CH2CCH3)COO−,−CH2C(CH3)COO−)、1.61−2.04(4H,−CH2C(CH3)COO−,−CH2C(CH3)COO−)、3.18−3.30(3H,−OCH2CH2OCH3)、3.42−3.73(8H,−CH2CH2NH−,−COOCH2CH2OCH2CH2OCH3)、3.80−4.13(4H,−NHCOOCH2CHCH2−,−COOCH2CH2O−)、4.15−4.36(2H,−NHCOOCH2CHCH2−)、4.53−4.65(2H,−CH2CH2NH−)、4.96−5.08(1H,−NHCOOCH2CHCH2−)、7.38−7.50(1H,−CH2CH2NH−).
【0046】
(実施例6) MOI−G/DEGMEMコポリマーのイオン伝導度評価
実施例5で得られたMOI−G:DEGMEM(50:50)のコポリマーの10 質量%アセトニトリル溶液とLiN(SO2SF32の10 質量%アセトニトリル溶液を等量で混合し、テフロン(登録商標)シート上にキャスト後、アルゴン中、室温で12時間、80℃常圧で12時間、80℃減圧で12時間真空乾燥して電解質を得た。当該電解質サンプルを2枚のSUS316板で挟み、前述の交流インピーダンス法によって20℃でのイオン伝導度を測定した結果、0.9×10−5 (S/cm)(20℃)であった。
【0047】
(比較例1) PCMAの重合
500 ml丸底セパラブルフラスコにPCMA(5.03 g、0.027 mol)とAIBN(0.16 g、0.97 mmol)と2−ブタノン(12.05 g)を入れ、ジムロート型冷却器、かく拌棒、温度計を取り付けた。窒素気流下、撹拌しながら80℃で重合させた。10分後白色沈殿の生成を確認し、60分後にはかく拌羽根の周囲に白色岩石様の固体が析出した。その固体をかく拌羽から分離し、乳鉢で粉砕したところ有機溶剤、水に不要な白色粉体が得られた。収量は4.59gであった。得られたPCMAポリマのスペクトルデータを以下に示す。溶解性が悪いためフィルム系性能もない。粉体の加熱溶融後、フィルム化を試みたがフィルム形成はできなかった。
IR(KBr、cm−1):1798(O2C=O,CycloCarbonate)、1734(CH2=C(CH3)(C=O)O)
【0048】
(比較例2) イオン伝導度評価
PCMAはそのままではフィルムを形成しなかったので、実施例6のMOI−G:DEGMEM(50:50)の代わりにPCMAモノマ用い、PCMAと重合開始剤AIBNとPCMAに対して0.2 mmol当量のLiN(SO2SF32を溶解した溶液を調整し、それを2枚のステンレス板で挟み、アルゴン中、100℃常圧で15時間加熱乾燥して透明なフィルム状電解質を得た。交流インピーダンス法によって120℃でのイオン伝導度を測定した結果、1.8×10−8 (S/cm)(120℃)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示される(メタ)アクリロイルオキシエチルカルバミン酸エステル構造を有するシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物。(式中、R1は水素又はメチル基、R2はシクロカーボネート基を含む1価の有機基、nは1〜6の整数である。)
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載のシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物を重合してなる下記一般式(2)に示される繰り返し単位を有するポリマー。(式中、R1は水素又はメチル基、R2はシクロカーボネート基を含む1価の有機基、nは1〜6の整数、xは繰り返し単位数を示す自然数である。)
【化2】

【請求項3】
請求項1に記載のシクロカーボネート含有(メタ)アクリレート化合物と、当該化合物と重合可能な(メタ)アクリル酸化合物とを重合してなる一般式(3)に示される繰り返し単位を有するコポリマー。(式中、R1及びR3は水素又はメチル基、R2はシクロカーボネート基を含む1価の有機基、R4は水素、炭素原子数が1〜20の炭化水素基、フェニル基、ベンジル基、シクロヘキシル基又は-(CH2CH2O)mCH3で示されるオキシエチレン基(mは1〜6の整数)、nは1〜6の整数、x及びyは繰り返し単位数を示す自然数である。)
【化3】

【請求項4】
請求項2〜3のいずれかに記載のポリマー又はコポリマーからなるフィルム材料。
【請求項5】
請求項4記載のフィルム材料及びリチウムイオン電解質塩を含んでなる電解質。
【請求項6】
請求項5記載の電解質からなる固体電解質フィルム。

【公開番号】特開2008−127498(P2008−127498A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315863(P2006−315863)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】