説明

シクロペンテン誘導体、その製造方法及びヘキサヒドロシクロペンタピラン誘導体の製造方法

【課題】 イリドイド類の中間体として有用な新規なシクロペンテン誘導体、その製造方法及び該シクロペンテン誘導体を用いて、ジヒドロネペタラクトンとマタタビラクトンを製造する方法を提供する。
【解決手段】 一般式(1)
【化1】


(式中、R1はメチル基、エチル基又はトリクロロエチル基)
で表される構造を有するシクロペンテン誘導体、溶媒の存在下に、アセト酢酸tert−ブチルとハロゲノアセト酢酸アルキルエステルとを縮合させて、前記シクロペンテン誘導体を製造する方法、及び前記シクロペンテン誘導体を用い、(A)〜(G)工程を施すことにより、ジヒドロネペタラクトンとマタタビラクトンを製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロペンテン誘導体、その製造方法及びヘキサヒドロシクロペンタピラン誘導体の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、5員環をもつモノテルペン系香気物質であるイリドイド類の中間体として有用な新規なシクロペンテン誘導体、このものを効率よく製造する方法、及び前記シクロペンテン誘導体を用い、前記イリドイド類の1種であるヘキサヒドロシクロペンタピラン誘導体のマタタビラクトン及びジヒドロネペタラクトンを効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イソプレン単位を部分構造として含むテルペン類には、イソプレン単位を2個有するモノテルペン類、4個有するジテルペン類、6個有するトリテルペン類、8個有するテトラテルペン類、それ以上有するポリテルペン類があり、更には、1個有するヘミテルペン類、3個有するセスキテルペン類、5個有するセスタテルペン類などがある。これらのテルペン類の中でテルペン系ケトンは香気物質であるものが多く、単環式テルペン系ケトンの代表的な香気物質としてd−、又はl−カルボン、ジヒドロカルボン、プレゴン、ピペリトン、メントンなどがあり、また、二環式テルペン系ケトンの代表的な香気物質として、マタタビラクトン、ジヒドロネペタラクトン、カンファー、ミントラクトンなどがある。
ところで、テルペン系香気物質の中間原料として有用な式(4a)
【0003】
【化1】

【0004】
で表される2−エトキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンは、従来、以下に示すように、メチルシクロペンテノンを原料として4工程を経る煩雑な方法で合成されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
【化2】

【0006】
また、アセト酢酸エステルと4−ブロモアセト酢酸エステルからシクロペンテノン誘導体の合成及び、一方のカルボキシルエステル基を除いた化合物の合成が報告されているが(例えば、非特許文献2参照)、これまで、前記化合物(4a)への反応例は報告されていない。
【0007】
【化3】

【0008】
ところで、tert−ブチルエステル基とエチルエステル基の一方のカルボキシルエステル基のみを除去することが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0009】
【化4】

【0010】
一方、マタタビラクトンの新しい用途として、プリント配線板の所望の位置にはんだ供給が必要な部分のみを露出させてプリフラックスを付着させる工程と、前記プリント配線板にめっきにより金属を析出させる工程と、前記プリント配線板に活性フラックスを塗布する工程と、前記プリント配線板を加熱する工程と、前記プリント配線板を洗浄する工程を含むプリント配線板の製造方法において、前記プリフラックスの塗布に、マタタビラクトンを用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
【非特許文献1】「J.Org.Chem.」、第47巻、第1855〜1869頁(1982年)
【非特許文献2】「J.Org.Chem.」、第33巻、第4508〜4511頁(1968年)
【非特許文献3】「J.Org.Chem.」、第33巻、第460〜462頁(1968年)
【特許文献1】特開平8−264926号公報(第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような状況下で、5員環をもつモノテルペン系香気物質であるイリドイド類の中間体として有用な新規なシクロペンテン誘導体、このものを効率よく製造する方法、及び前記シクロペンテン誘導体を用い、前記イリドイド類の1種であるヘキサヒドロシクロペンタピラン誘導体のマタタビラクトン及びジヒドロネペタラクトンを効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、前記非特許文献3に記載の反応に着目し、文献未載の新規なシクロペンテン誘導体から、テルペン系香気物質の中間原料として有用な、前記化合物(4a)を含む2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンが容易に得られることを見出した。
また、前記シクロペンテン誘導体を用い、特定の工程を施すことにより、ヘキサヒドロシクロペンタピラン誘導体のマタタビランクトン及びジヒドロネペタラクトンが効率よく得られることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0014】
即ち、本発明は、
(1)一般式(1)
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、R1はメチル基、エチル基又はトリクロロエチル基を示す。)
で表される構造を有することを特徴とするシクロペンテン誘導体、
(2)溶媒の存在下、一般式(2)
CH3COCH2COOC(CH33 (2)
で表されるアセト酢酸tert−ブチルと、一般式(3)
X−CH2COCH2COOR1
(式中、R1はメチル基、エチル基又はトリクロロエチル基、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロゲノアセト酢酸アルキルエステルとを縮合させることを特徴とする、一般式(1)
【0017】
【化6】

【0018】
(式中、R1は前記と同じである。)
で表されるシクロペンテン誘導体の製造方法、
(3)(A)一般式(1)で表されるシクロペンテン誘導体を脱ブトキシカルボニル化して、一般式(4)
【0019】
【化7】

【0020】
(式中、R1は前記と同じである。)
で表される2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンを得る工程、(B)前記(A)工程で得られた2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンを水素添加して、一般式(5)
【0021】
【化8】

【0022】
(式中、R1は前記と同じである。)
で表される2−アルコキシカルボニル−3−メチルシクロペンタン−1−オンを得る工程、(C)前記(B)工程で得られた2−アルコキシカルボニル−3−メチルシクロペンタン−1−オンに、シアノ酢酸アルキルエステル(エステル部分のアルキル基:メチル基又はエチル基)を反応させて、一般式(6)
【0023】
【化9】

【0024】
(式中、R2はメチル基又はエチル基を示し、R1は前記と同じである。)
で表される2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチレン)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルを得た後、水素添加して、一般式(7)
【0025】
【化10】

【0026】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルを得る工程、(D)前記(C)工程で得られた2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルのシアノ−アルコキシカルボニルメチル基にメチル基を導入して、一般式(8)
【0027】
【化11】

【0028】
(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される2−(1−シアノ−1−アルコキシカルボニルエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルを得る工程、(E)前記(D)工程で得られた2−(1−シアノ−1−アルコキシカルボニルエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルに、脱アルコキシカルボニル化処理を施して、一般式(9)
【0029】
【化12】

【0030】
(式中、R1は前記と同じである。)
で表される2−(1−シアノエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルを得る工程、(F)前記(E)工程で得られた2−(1−シアノエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルを加水分解処理して、式(10)
【0031】
【化13】

【0032】
で表される2−(1−カルボキシエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸を得た後、脱水反応させて式(11)
【0033】
【化14】

【0034】
で表される4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1,3−ジオンを得る工程、及び(G)前記(F)工程で得られた4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1.3−ジオンを還元処理して、下記の式(12)で表されるジヒドロネぺタラクトンと、式(13)で表されるイリドミルメシン(マタタビラクトン)との混合物を得る工程、
【0035】
【化15】

【0036】
を含むことを特徴とするヘキサヒドロシクロペンタピラン誘導体の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、5員環をもつモノテルペン系香気物質であるイリドイド類の中間体として有用な新規なシクロペンテン誘導体、このものを効率よく製造する方法、及び前記シクロペンテン誘導体を用い、前記イリドイド類の1種であるヘキサヒドロシクロペンタピラン誘導体のマタタビラクトン及びジヒドロネペタラクトンを効率よく製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明のシクロペンテン誘導体は、文献未載の新規な化合物であって、一般式(1)
【0039】
【化16】

【0040】
で表される構造を有する4−tert−ブトキシカルボニル−2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンである。
前記一般式(1)において、R1はメチル基、エチル基又はトリクロロエチル基を示す。この一般式(1)で表される化合物としては、4−tert−ブトキシカルボニル−2−メトキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン、4−tert−ブトキシカルボニル−2−エトキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン及び4−tert−ブトキシカルボニル−2−トリクロロエトキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンが挙げられる。
この一般式(1)で表される化合物は、例えば、適当な溶媒中において、p−トルエンスルホン酸などの酸の存在下に加熱処理することにより、下記の反応式に示されるように脱tert−ブトキシカルボニル反応が起こり、一般式(4)で表される2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンに誘導される。
【0041】
【化17】

【0042】
(式中、R1は前記と同じである。)
前記2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンは、テルペン系香気物質の中間原料として有用な化合物であり、従来は[背景技術]で説明したように、4工程を経て合成されているが、本発明によれば極めて簡単なプロセスで合成することができる。
本発明の一般式(1)で表される化合物は、以下に示す反応式に従って、容易に製造することができる。
【0043】
【化18】

【0044】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、R1は前記と同じである。)
即ち、溶媒の存在下、式(2)で表されるアセト酢酸 tert−ブチルと、一般式(3)で表されるハロゲノアセト酢酸アルキルエステルとを縮合させることにより、一般式(1)で表される4−tert−ブトキシカルボニル−2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンが得られる。
この際、溶媒としては、反応に不活性であって、各反応原料を溶解し得るものであればよく、特に制限はないが、例えば、テトラヒドロフラン、エタノール、1,2−ジメトキシエタンなどを単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
また、縮合剤として、水素化ナトリウム、金属ナトリウムなどを用いることができる。この縮合反応は、20〜70℃で行うことができる。
反応終了後、塩酸などの酸を加えて酸性にしてから、適当な溶媒で抽出処理し、得られた有機層を洗浄、乾燥後、溶媒を留去した後、減圧蒸留に付すことにより、目的の一般式(1)で表される4−tert−ブトキシカルボニル−2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンを得ることができる。
【0045】
次に、本発明のヘキサヒドロシクロペンタピラン誘導体の製造方法について説明する。
この方法は、前記本発明の一般式(1)で表される4−tert−ブトキシカルボニル−2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンを用い、5員環をもつモノテルペン系化合物(イリドイド類)の1種のヘキサヒドロシクロペンタピラン誘導体である、香気物質のマタタビラクトン及びジヒドロネペタラクトンを製造する方法である。
マタタビラクトンは、天然には植物の「またたび」に存在し、またジヒドロネペタラクトンは、植物の「イヌハッカ」に存在しており、いずれも猫類が好むことが知られている。
本発明の方法によれば、以下に示す反応式に従い、(A)〜(G)工程によって、ジヒドロネペタラクトン(化合物12)及びイリドミルメシン(化合物13:マタタビラクトン)を製造することができる。
【0046】
【化19】

【0047】
[(A)工程]
この工程は、シクロペンテン誘導体(化合物1)を脱ブトキシカルボニル化して、2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン(化合物4)を得る工程である。
この脱ブトキシカルボニル化反応は、ベンゼンやトルエンなどの適当な溶媒中において、シクロペンテン誘導体(化合物1)を、p−トルエンスルホン酸などの酸の存在下に80〜100℃程度の温度で加熱処理することにより、実施することができる。
反応終了液を中和・水洗後、溶媒を留去した後、減圧蒸留に付すことにより、目的の2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン(化合物4)を得ることができる。
[(B)工程]
この工程は、前記(A)工程で得られた2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン(化合物4)を水素添加して、2−アルコキシカルボニル−3−メチルシクロペンタン−1−オン(化合物5)を得る工程である。
この水素添加反応は、アルコール系溶媒などの適当な溶媒中において、Pd/C触媒などの水添触媒の存在下、例えば、常圧で20〜30℃程度の温度にて水添することにより、実施することができる。
反応終了後、触媒をろ去し、溶媒を留去した後、減圧蒸留に付すことにより、目的の2−アルコキシカルボニル−3−メチルシクロペンタン−1−オン(化合物5)を得ることができる。
【0048】
[(C)工程]
この工程は、前記(B)工程で得られた2−アルコキシカルボニル−3−メチルシクロペンタン−1−オン(化合物5)に、シアノ酢酸アルキルエステル(エステル部分のアルキル基:メチル基又はエチル基)を反応させて、2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチレン)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物6)を得た後、水素添加して2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物7)を得る工程である。
化合物5とシアノ酢酸アルキルエステルとの反応は、例えば、化学量論的量より若干過剰量のシアノ酢酸アルキルエステルを用い、ピペリジンなどの触媒の存在下に室温で反応させることにより実施される。
反応終了後、エーテルなどの有機溶媒と水を加え、酸性にした後、有機層を分取し、洗浄した後、溶媒を留去して2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチレン)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物6)を得る。
次いで、この化合物6を、エタノールなどのアルコール系溶媒中において、Pd/Cなどの水添触媒の存在下、例えば、常圧で、20〜30℃程度の温度で水素添加反応を行う。
反応終了後、触媒をろ去し、溶媒を留去した後、減圧蒸留に付すことにより、目的の2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物7)を得ることができる。
【0049】
[(D)工程]
この工程は、前記(C)工程で得られた2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物7)のシアノ−アルコキシカルボニルメチル基にメチル基を導入して、2−(1−シアノ−1−アルコキシカルボニルエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物8)を得る工程である。
前記メチル基の導入反応は、例えば、テトラヒドロフランなどの適当な溶媒中において、化合物7をNaHなどで処理した後、これに、ハロゲン化メチルなどのメチル化剤を30〜50℃程度の温度で反応させることにより、実施することができる。
反応終了後、溶媒を留去した後、残渣に水を加え、酸性にしてからエーテルなどの有機溶媒で抽出する。
抽出液を洗浄後、溶媒を留去することにより、目的の2−(1−シアノ−1−アルコキシカルボニルエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物8)を得ることができる。
この化合物8は、精製することなく、次の反応に供してもよい。
【0050】
[(E)工程]
この工程は、前記(D)工程で得られた2−(1−シアノ−1−アルコキシカルボニルエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物8)に、脱アルコキシカルボニル化処理を施して、2−(1−シアノエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物9)を得る工程である。
前記脱アルコキシカルボニル化処理は、例えば、化合物8を、ジメチルスルホキシドなどの適当な溶媒中、NaClの存在下、160〜200℃程度の温度で加熱処理する方法を用いることができる。
反応終了後、溶媒を留去した後、水を加え、更にエーテルなどの有機溶媒で抽出する。
抽出液を洗浄後、溶媒を留去し、減圧蒸留に付すことにより、目的の2−(1−シアノエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物9)を得ることができる。
【0051】
[(F)工程]
この工程は、前記(E)工程で得られた2−(1−シアノエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステル(化合物9)を加水分解処理して、2−(1−カルボキシエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸(化合物10)を得た後、脱水反応させて4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1,3−ジオン(化合物11)を得る工程である。
前記加水分解処理は、例えば、プロピレングリコールなどの適当なアルコール系溶媒と水との混合溶媒中において、化合物9を水酸化アルカリなどの存在下に130〜150℃程度の温度で加熱することにより実施することができる。
反応終了後、酸性にしてから、トルエンなどの適当な溶媒で抽出処理し、抽出液を洗浄した後、溶媒を留去することにより、2−(1−カルボキシエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸(化合物10)が得られる。
次いで、この化合物10に、無水酢酸などの脱水剤を加え、130〜170℃程度の温度で加熱処理して脱水反応させた後、脱水剤を蒸留回収後、減圧蒸留に付すことにより、目的の4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1,3−ジオン(化合物11)を得ることができる。
【0052】
[(G)工程]
この工程は、前記(F)工程で得られた4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1,3−ジオン(化合物11)を還元処理して、4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1−オン(化合物12、ジヒドロネペタラクトン)及び4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−3−オン[化合物13、イリドミルメシン(マタタビラクトン)]の混合物を得る工程である。
前記還元処理は、例えば、テトラヒドロフランなどの適当な溶媒中において、化合物11を水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤により、0〜10℃程度の温度で還元処理する方法を用いることができる。
反応終了後、水を加え、酸性にした後、有機層を分取し、一方、水層は酢酸エチルなどの適当な溶媒で抽出処理し、得られた抽出層と前記有機層とを合一する。
次いで、これを洗浄後、溶媒を留去した後、減圧蒸留に付すことにより、目的のジヒドロネペタラクトン(化合物12)とイリドミルメシン(化合物13:マタタビラクトン)の混合物を得ることができる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0054】
実施例1
下記の反応式に従って、4−tert−ブトキシカルボニル−2−エトキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン(化合物1a)を製造した。
【0055】
【化20】

【0056】
60質量%油性水素化ナトリウム8gをペンタンで洗った後、あらかじめ水素化カルシウムを加えて蒸留したテトラヒドロフラン(THF)200mLに懸濁させた。
この懸濁液を氷水浴で冷却し、アセト酢酸tertブチル(化合物2)32gを滴下した。
滴下後、氷水浴をはずし、室温で1時間攪拌した。
この反応液に4−ブロモアセト酢酸エチル(化合物3a)21gを滴下した。
滴下後、室温で2時間攪拌した後、反応液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、水100mLを加えた。
塩酸を加え水層を酸性にした後、酢酸エチルで3回抽出した。
有機層を集め、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。
溶媒を留去し、減圧蒸留に付し、bp134−140℃(53Pa)の油状物17.3g(収率64%)を得た。
前記油状物の分析結果を以下に示す。
これにより該油状物は、4−tert−ブトキシカルボニル−2−エトキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン(化合物1a)であることが確認された。
MS(FAB、高分解能):C14215(M+H)+:測定値269.1374;計算値269.1384
IRν(CHCl3):1735,1635cm-1
1H−NMR(CDCl3,60MHz):δ1.37(t,3H,J=7Hz),1.50(s,9H),2.40(s,3H),2.70(d,2H,J=5Hz)3.65(t,1H,J=5Hz),4.35(q,2H,J=7Hz)
【0057】
実施例2
下記の反応式に従って、ジヒドロネペタラクトン(化合物12)及びマタタビラクトン(化合物13)を製造した。
【0058】
【化21】

【0059】
(1)2−エトシキカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン(化合物4a)の合成
実施例1で得た4−tert−ブトキシカルボニル−2−エトキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン(化合物1a)17.3gをベンゼン100mLに溶解しパラトルエンスルホン酸一水和物2.0gを加え、2時間加熱還流した。
冷却後、反応液を10質量%炭酸ナトリウム水溶液で洗った。
次いで、飽和食塩水で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。
溶媒を留去し、減圧蒸留に付し、bp91−96℃(27Pa)の油状物7.0g(収率65%)を得た。
前記油状物の分析結果を以下に示す。
元素分析:C9123:計算値C;64.27%,H;7.13%、測定値C;64.20%,H;7.13%
IRν(CHCl3):1760,1735,1650cm-1
1H−NMR(CDCl3,60MHz):δ1.35(t,3H,J=7Hz),1.82−2.86(m,4H),2.38(s,3H),4.32(q、2H,J=7Hz)。
(文献値に一致。A.B.Smith,III,S.J.Branca,N.N.Pilla,andM.A.Guaciaro.J.Org.Chem.,47,1855−1869(1982))
【0060】
(2)2−エトキシカルボニル−3−メチルシクロペンタン−1−オン(化合物5a)の合成
上記(1)と同様にして得た2−エトキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン(化合物4a)95gをエタノール600mLに溶解し、5質量%Pd/C(含水)8gを加え、常圧で20〜30℃にて水添反応を行った。
8時間で水素13.093Lを吸収した。
触媒をろ去した後、溶媒を留去した。
減圧蒸留し、bp42−61℃(13Pa)の油状物86gを得た。
(3)2−(シアノ−メトキシカルボニルメチレン)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸エチル(化合物6a)の合成
上記(2)で得た2−エトキシカルボニル−3−メチルシクロペンタン−1−オン(化合物5a)100g(0.59mol)にシアノ酢酸メチル70g(1.2eq)及びピペリジン13g(0.25eq)を加え、窒素雰囲気下室温で17時間攪拌した。
エーテル600mL及び水100mLを反応液に加え、4モル/L HClで酸性とした。
有機層を取り、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去した。精製することなく、次の水添反応に供した。
溶媒を留去して得られた化合物の分析結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3,60MHz):δ1.20(d,3H,J=7Hz),1.25(t,3H,J=7Hz),1.72−3.38(m,6H),3.80(s,3H),4.17(q,2H)
IRν(neat):2228,1732,1624cm-1
MS(EI):251(2%,M+),220(8),205(86),190(46),177(100),164(77),146(49),132(66),118(26),104(15),91(30),77(21),65(9)
【0061】
(4)2−(シアノ−メトキシカルボニルメチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸エチル(化合物7a)の合成
上記(3)で得た2−(シアノ−メトキシカルボニルメチレン)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸エチル(化合物6a)に5質量%Pd/C(含水)8g及びエタノール500mLを加え、常庄で20〜30℃にて水添反応を行った。
水素14.331Lを吸収した。
触媒をろ去し、溶媒を留去した後、未反応の2−エトキシカルボニル−3−メチルシクロペンタン−1−オン〔bp55−59℃(12Pa)〕14.4gを回収した。
蒸留残渣として油状物124.9gを得た。
前記油状物の分析結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3,60MHz):δ0.89−1.58(m,6H),1.58−3.23(m,8H),3.79(s,3H),4.16(q,2H,J=7Hz)
IRν(neat):2249,1753,1724,1665,1626cm-1
MS(EI):253(0.2%,M+),222(8),208(39),193(10),179(15),127(8),109(19),81(100)
【0062】
(5)2−(1−シアノ−1−メトキシカルボニルエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸エチル(化合物8a)の合成
55質量%NaH19.4gをTHF1000mLに懸濁し、氷水で冷却しながら、上記(4)で得た2−(シアノ−メトキシカルボニルメチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸エチル(化合物7a)124.9g(THF200mLに溶解)を2時間で滴下した。反応温度は6〜9℃。
滴下後、40℃水浴で加温しながら、ヨウ化メチル65gを30分間で滴下した。
40℃で1時間半攪拌した後、加温を止め、溶媒を留去した。
残渣に水400mLを加え、4モル/L HClで酸性にしエーテル(200mL×4)で抽出した。
有機層を集め、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去した。
精製することなく直ちに次の反応に用いた。
溶媒を留去して得られた化合物の分析結果を以下に示す。
Bp88−92℃/12Pa
1H−NMR(CDCl3,60MHz):δ0.88−1.46(m,6H),1.46−3.02(m,7H),1.72(s,3H),3.85(s,3H),4.16(q,2H,J=7Hz)
IRν(neat):2245,1744cm-1
MS(EI):267(0.4%,M+),252(1),236(5),222(38),207(15),193(6),178(9),166(9),155(31),134(10),109(21),81(100)
【0063】
(6)2−(1−シアノエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸エチル(9a)の合成
上記(5)で得た2−(1−シアノ−1−メトキシカルボニルエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸エチル(化合物8a)にNaCl30g及びジメチルスルホキシド(DMSO、含水1.6質量%)400mLを加え、180℃オイルバスで2時間加熱攪拌した後、DMSOを減圧下回収した。
水400mLを加え食塩を溶解した後、エーテル400mL及び300mLで抽出した。
有機層を集め、水洗の後、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。
溶媒を留去後、減圧蒸留に付し油状物bp60−62℃(6.7Pa)43.0gを得た。
前記油状物の分析結果を以下に示す。
1H−NMR(CDCl3,60MHz):δ0.83−1.51(m,9H),1.51−3.12(m,8H),4.15(q,2H,J=7Hz)
IRν(neat):2240,1728,1655cm-1
MS(EI):209(1%,M+),194(2),181(4),164(31),154(30),136(18),126(18),115(44),108(11),95(13),81(100),67(14),55(24),41(13)
MS(EI,高分解能):C1219NO2:測定値209.1411;計算値209.1416
【0064】
(7)4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1,3−ジオン(化合物11)の合成
上記(6)で得た2−(1−シアノエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸エチル(化合物9a)20gに、水酸化カリウム32gと水30mLを含む溶液及びプロピレングリコール80mLを加え、140℃オイルバスで3時間半加熱攪拌した。
冷却後、水100mLを加えた後、濃塩酸を加え酸性とし、トルエン100mL×4で抽出した。
有機層を集め、飽和食塩水で洗った後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。
溶媒を留去後、得られた2−(1−カルボキシエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸(化合物10)に無水酢酸80mLを加え、150℃のオイルバスで1時間加熱攪拌した。
無水酢酸を減圧下、回収した後、減圧蒸留に付し、4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1,3−ジオン(化合物11)bp79−84℃(2.7Pa)7.9gを得た。
この化合物の分析結果を以下に示す。
IRν(neat):1806,1767cm-1
MS(EI):110(44%),95(59),81(100),67(96),56(43),41(25)
【0065】
(8)4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1−オン(化合物12、ジヒドロネペタラクトン)及び4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−3−オン[化合物13、イリドミルメシン(マタタビラクトン)]の合成
NaBH43.74gをTHF(蒸留)100mLに懸濁し、上記(7)で得た4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1,3−ジオン(化合物11)18g(THF50mL溶液)を1時間で滴下した。反応温度は4〜9℃。
氷水バスをはずし、室温で1時間攪拌した。
氷水バスで冷却し、水30mLを20分間で滴下した。反応温度は10℃。
更に4モル/L HClを加え酸性とした。
有機層が分離したので分取し、水層は酢酸エチル100mL×3で抽出した。
有機層を集め、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去後、減圧蒸留に付し、油状物bp64−84℃(6.7Pa)9.2gを得た。
この油状物はガスマス分析により、化合物12のジヒドロネぺタラクトン、〔MS(EI):168(8%,M+),153(69),139(5),126(21),123(14),113(100),109(12),95(35),81(83),69(29),67(52),55(16),41(27)〕と、化合物13のイリドミルメシン〔MS(EI):168(2%,M+),109(31),95(53),81(100),68(44),67(75),55(19),41(24)〕の混合物であることを確認した。
文献値(T.Sakai,K.Nakajima,andT.Sakan,Bull.Chem.Soc.Jpn.,53,3683−3686(1980))と一致した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のシクロペンテン誘導体は、文献未戴の新規な化合物であり、5員環をもつモノテルペン系香気物質であるイリドイド類の中間体として有用である。
前記シクロペンテン誘導体を用い、特定の工程を施すことにより、イリドイド類の香気物質であるジヒドロネペタラクトン及びマタタビラクトンを効率よく製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1はメチル基、エチル基又はトリクロロエチル基を示す。)
で表される構造を有することを特徴とするシクロペンテン誘導体。
【請求項2】
溶媒の存在下、一般式(2)
CH3COCH2COOC(CH33 (2)
で表されるアセト酢酸tert−ブチルと、一般式(3)
X−CH2COCH2COOR1
(式中、R1はメチル基、エチル基又はトリクロロエチル基、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるハロゲノアセト酢酸アルキルエステルとを縮合させることを特徴とする、一般式(1)
【化2】

(式中、R1は前記と同じである。)
で表されるシクロペンテン誘導体の製造方法。
【請求項3】
(A)一般式(1)で表されるシクロペンテン誘導体を脱ブトキシカルボニル化して、一般式(4)
【化3】

(式中、R1は前記と同じである。)
で表される2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンを得る工程、(B)前記(A)工程で得られた2−アルコキシカルボニル−3−メチル−2−シクロペンテン−1−オンを水素添加して、一般式(5)
【化4】

(式中、R1は前記と同じである。)
で表される2−アルコキシカルボニル−3−メチルシクロペンタン−1−オンを得る工程、(C)前記(B)工程で得られた2−アルコキシカルボニル−3−メチルシクロペンタン−1−オンに、シアノ酢酸アルキルエステル(エステル部分のアルキル基:メチル基又はエチル基)を反応させて、一般式(6)
【化5】

(式中、R2はメチル基又はエチル基を示し、R1は前記と同じである。)
で表される2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチレン)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルを得た後、水素添加して、一般式(7)
【化6】

(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルを得る工程、(D)前記(C)工程で得られた2−(シアノ−アルコキシカルボニルメチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルのシアノ−アルコキシカルボニルメチル基にメチル基を導入して、一般式(8)
【化7】

(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
で表される2−(1−シアノ−1−アルコキシカルボニルエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルを得る工程、(E)前記(D)工程で得られた2−(1−シアノ−1−アルコキシカルボニルエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルに、脱アルコキシカルボニル化処理を施して、一般式(9)
【化8】

(式中、R1は前記と同じである。)
で表される2−(1−シアノエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルを得る工程、(F)前記(E)工程で得られた2−(1−シアノエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸アルキルエステルを加水分解処理して、式(10)
【化9】

で表される2−(1−カルボキシエチル)−5−メチルシクロペンタンカルボン酸を得た後、脱水反応させて式(11)
【化10】

で表される4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1,3−ジオンを得る工程、及び(G)前記(F)工程で得られた4,7−ジメチルヘキサヒドロシクロペンタ[c]ピラン−1,3−ジオンを還元処理して、下記の式(12)で表されるジヒドロネぺタラクトンと、式(13)で表されるイリドミルメシン(マタタビラクトン)との混合物を得る工程、
【化11】

を含むことを特徴とするヘキサヒドロシクロペンタピラン誘導体の製造方法。


【公開番号】特開2006−312608(P2006−312608A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136198(P2005−136198)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000139861)株式会社井上香料製造所 (3)
【Fターム(参考)】