シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬
【課題】シグレック14タンパク質の発現、類似するシグレック5タンパク質とその機能或いは遺伝子レベルでの関係等を明らかにし、医学的に有用な手段を提供する。
【解決手段】シグレック14タンパク質の発現は個人差があり、シグレック14タンパク質を発現しない者は、シグレック14/5融合遺伝子を有し、シグレック14遺伝子には多型が存在する。シグレック14タンパク質は白血球上に発現し、この個人差は輸血事故の1因になる。シグレック14タンパク質を発現する細胞とシグレック14タンパク質を発現しない細胞とではTNF-αの産生量において顕著な差違を有し、感染症に対する反応が異なる。このため、シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対、該シグレック14遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブ或いはシグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を含有する、シグレック14遺伝子の多型の検出用試薬を開発した。
【解決手段】シグレック14タンパク質の発現は個人差があり、シグレック14タンパク質を発現しない者は、シグレック14/5融合遺伝子を有し、シグレック14遺伝子には多型が存在する。シグレック14タンパク質は白血球上に発現し、この個人差は輸血事故の1因になる。シグレック14タンパク質を発現する細胞とシグレック14タンパク質を発現しない細胞とではTNF-αの産生量において顕著な差違を有し、感染症に対する反応が異なる。このため、シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対、該シグレック14遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブ或いはシグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を含有する、シグレック14遺伝子の多型の検出用試薬を開発した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シグレック14(SIGLEC14)遺伝子多型に基づく対立遺伝子型の検出試薬及び該検出方法に関する。本発明はまた、抗シグレック14抗体を検出するため試薬、及びそれを用いたヒト血液試料中の抗シグレック14抗体の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シグレックファミリータンパク質は免疫グロブリンスーパーファミリーに属するI型膜貫通タンパク質の一群であり、シアル酸を含む各種糖鎖構造を特異的に認識するレクチン活性を有する(非特許文献1)。シグレックファミリーに属する分子はそのほとんどが細胞外領域でシアル酸を含む糖鎖と結合すること、また細胞内領域でシグナル伝達分子と結合してシグナル伝達に関与することが知られている。
【0003】
一方、細胞の正常分化、癌性変化や免疫疾患などに伴って細胞表面の糖鎖構造が変化することが知られており、これらの変化を検出するものには、糖鎖を認識する抗体がよく用いられている(特許文献1)。また、このような抗体以外の、ヒト細胞或いは組織に発現する糖鎖構造を特異的に認識する蛋白質も、ガン細胞等の検出や抗体医療に類するドラッグデリバリーに有用であると考えられている(特許文献2、特許文献3)。一方、例えば、シグレック2タンパク質(別名CD22)、シグレック3タンパク質(別名CD33)等のシグレックファミリーに属する蛋白質は、抗体医療の標的として有用であることが知られている(非特許文献2、非特許文献3)。また、シグレック5タンパク質に関しても、骨髄性白血病細胞の検出に有用であることが報告されている(非特許文献4)。
【0004】
本発明者は、このような状況下、シグレックファミリータンパク質としてシグレック14タンパク質及びその遺伝子を見いだしており、シグレック14タンパク質は上記従来のシグレックファミリータンパク質にみられる免疫受容体チロシン含有抑制モチーフ(ITIM)を有せず、また、良好な糖鎖認識能を有すること、及びこのシグレック14タンパク質は、シグレック5タンパク質と部分的に99%以上の相同性を示すが、これら遺伝子の染色体上の所在及び糖鎖に対する活性が異なり別タンパク質であるとの知見を得ている(特許文献4)。
【0005】
しかし、このシグレック14タンパク質については、その発現状況と生体に対する影響或いは類似するシグレック5タンパク質との関係等についての詳細は未だ明らかにはなっていない。
【0006】
非溶血性輸血副作用は、輸血療法による副作用であって、溶血性副作用および感染性副作用ならびに輸血後GVHDなどを除いた副作用に総称される。その原因は、抗血漿成分抗体、抗白血球抗体、血液製剤中の炎症性サイトカインなどが想定されているが、未だ十分には解明されていない。非溶血性輸血副作用の頻度は、医療機関から日本赤十字社に報告される輸血副作用報告(年間約2,000例)のうち約90%を占め、軽微な副作用症例は報告されないことから、実際の症例数はこれを大幅に上回ると予想される。非溶血性輸血副作用の症例は、蕁麻疹や発熱などの軽症例が大部分を占めるが、重篤なアナフィラキシー反応、輸血関連急性肺障害(TRALI)による死亡例も報告されている(非特許文献5、6)。当該分野においては、非溶血性輸血副作用の原因特定と、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-67700号公報
【特許文献2】特開2004-244411号公報
【特許文献3】特開2003-246799号公報
【特許文献4】特開2006-345786号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nat Rev Immunol 7(4), 255-266(2007)
【非特許文献2】N Engl J Med. 345(4), 241-247(2001)
【非特許文献3】Blood 97(10), 3197-3204(2001)
【非特許文献4】Br J Haematol 123(3), 420-430(2003)
【非特許文献5】Japanese Journal of Transfusion Medicine, 49(4):553-558(2003)
【非特許文献6】日本赤十字社 輸血情報0807-114 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、シグレック14タンパク質が個人においてその発現状況に違いがあるか否か、或いは類似するシグレック5タンパク質とその機能において、或いはその遺伝子レベルで何らかの関係があるのか否か等について調べることにより、シグレック14タンパク質及び遺伝子に関連する新たな知見を得て、この知見に基づき医学的に有用な手段を提供する点にある。
【0010】
本発明の課題はまた、非溶血性輸血副作用に関与する血液製剤の特定方法、および非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保するための方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、シグレック14タンパク質は個人によって発現している者と発現していない者が存在し、シグレック14タンパク質を発現していない者は、シグレック14/5融合遺伝子を有し、シグレック14遺伝子には多型が存在することを見いだした。そして、この融合遺伝子のホモ接合型を有する者はシグレック14/5融合タンパク質(シグレック5タンパク質と同じアミノ酸配列を有する)を発現するが、シグレック14タンパク質を発現しておらず、この個人差が輸血事故の1因になりうるとの知見を得るとともに、シグレック14タンパク質を発現する細胞とシグレック14タンパク質を発現しない細胞とではTNF-αの産生量において顕著な差違を有するとの知見も得た。
【0012】
したがって、このシグレック14遺伝子の多型或いはこれに基づく対立遺伝子型を検出することは、上記輸血事故の防止或いは感染症に対する治療方針の決定において極めて重要であることを見出した。
【0013】
また、本発明者は、非溶血性輸血副作用に関与した血液と一般献血を比較すると、シグレック14に対するアロ抗体を含む頻度が前者において有意に高い事、また好中球を抗シグレック14抗体で刺激すると、好中球が活性化される事を見出した。これらの事実は、抗シグレック14アロ抗体が非溶血性輸血副作用に関与する可能性を強く示唆し、抗シグレック14アロ抗体を検出する事は、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保する上で極めて重要であることを見出した。
本発明者はこれらの知見を基に本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)配列番号1に示されるシグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対、該シグレック14遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブ又は配列番号4に示されるシグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬。
(2)シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、上記(1)に記載の検出用試薬。
(3)シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、配列番号7及び配列番号8で示される塩基配列を有するものであることを特徴とする、上記(2)に記載の検出用試薬。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の検出用試薬と、配列番号3で示されるシグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対とを組み合わせてなることを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬キット。
(5)シグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、上記(4)に記載の検出用試薬キット。
(6)シグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が配列番号7及び配列番号10で示される塩基配列を有するものであることを特徴とする、上記(5)に記載の検出用試薬キット。
(7)血液適合性検査薬として使用することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の検出用試薬。
(8)血液適合性検査薬として使用することを特徴とする、上記(4)〜(6)のいずれかに記載の検出用試薬キット。
(9)感染症の治療方針の決定のために使用することを特徴とする、上記(7)に記載の検出用試薬。
(10)感染症の治療方針の決定のために使用することを特徴とする、上記(8)に記載の検出用試薬キット。
【0015】
(11)配列番号3に示されるシグレック14/5融合遺伝子。
(12)上記(11)に記載のシグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対。
(13)シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、上記(12)に記載のプライマー対。
(14)配列番号7及び配列番号10で示される塩基配列を有する、上記(11)に記載のプライマー対。
(15)ヒトゲノムDNAを鋳型とし、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対或いは上記(4)又は(5)に記載の検出用試薬キットを用いてPCRを行い、シグレック14遺伝子の存在の有無或いはさらにシグレック14/5遺伝子の存在の有無を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
(16)上記(1)に記載のシグレック14遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブを、ヒトゲノムDNAに対しハイブリダイズさせ、シグレック14遺伝子の存在の有無を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
(17)上記(1)に記載のシグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を用いて、ヒト血液試料中のシグレック14タンパク質を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
(18)配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列を含むアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列を含むアミノ酸配列を有するタンパク質を発現する細胞を含有することを特徴とする、抗シグレック14抗体の検出用試薬。
(19)上記(18)に記載の抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いた、ヒト血液試料中の抗シグレック14抗体の検出方法。
(20)上記(18)に記載の抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いた、抗シグレック14抗体を含む血液製剤の特定方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、シグレック14遺伝子に多型が存在することを初めて見いだしたことに基づく。この知見に基づき作製された本発明の試薬は、シグレック14遺伝子を有する対立遺伝子型とシグレック14遺伝子を有しないシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型とを識別して検出することができる。この様な対立遺伝子型の検出結果は、輸血事故等の危険性を事前に排除し、或いは感染症などの治療方針を決定するために利用することができる。
【0017】
また本発明のシグレック14タンパク質又はシグレック14タンパク質発現細胞を含む抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いることによって、ヒト血液試料中の抗シグレック14抗体を検出することが可能である。この様な抗シグレック14抗体の検出結果は、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、シグレック14タンパク質特異的な抗体を用いた白血球のフローサイトメトリーによる解析の結果を示す図である。
【図2A】図2Aは、シグレック14タンパク質発現及びシグレック5タンパク質発現における個人差並びに遺伝子のフローサイトメトリーによる多型解析結果を示す図である。
【図2B】図2Bは、シグレック14遺伝子及びその多型に関するゲノムPCR解析の概略図を示す図である。図中の矢頭は各プライマーの位置と向きを示す。
【図2C】図2Cは、シグレック14遺伝子及びその多型に関するゲノムPCR解析の結果を示す模式図である。
【図2D】図2Dは、シグレック14遺伝子及びその多型に関するゲノムPCR解析の結果を示す図である。
【図3A】図3Aは、シグレック14タンパク質の強制発現とTNF-αの発現量の関係を解析した結果を示す図である。
【図3B】図3Bは、シグレック14タンパク質の強制発現とDAP12タンパク質の発現を抑制するsiRNAの導入によるTNF-αの発現量の解析結果を示す図である。
【図4】図4は、シグレック14発現細胞株を用いた抗シグレック14アロ抗体の検出方法を示す模式図である。
【図5】図5は、シグレック5又はシグレック14発現細胞株における導入遺伝子の発現解析結果を示す図である。
【図6】図6は、シグレック5又はシグレック14発現細胞株を用いた非溶血性輸血副作用の原因製剤中の抗シグレック14アロ抗体の検出結果を示す図である。
【図7】図7は、抗シグレック14抗体陽性血清を用いて刺激した好中球におけるMac-1抗原発現量の解析結果を示す図である。
【図8】図8は、抗シグレック14抗体陽性血清を用いて刺激した好中球によるHBP放出量の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型を検出するための試薬、及びこれを使用した同対立遺伝子型の検出方法に関する。
【0020】
従来、シグレック5(SIGLEC5)遺伝子とシグレック14(SIGLEC14)遺伝子の存在は知られていたが、その両者の融合遺伝子であるシグレック14/5遺伝子(SIGLEC14/5)の存在は知られていなかった。本発明においてはじめて見いだされたこの融合遺伝子は、シグレック14(SIGLEC14)タンパク質の特異的アミノ酸配列部分をコードする領域を欠損しており、その産物のアミノ酸配列はシグレック5(SIGLEC5)タンパク質と同一である。これらのシグレック14タンパク質のアミノ酸配列及びシグレック14遺伝子の塩基配列を、配列表の配列番号4及び1(うちタンパク質をコードする領域は塩基配列中1001番目〜4405番目)にそれぞれ示し、また、シグレック14/5融合遺伝子の産物(シグレック5タンパク質と同じ)のアミノ酸配列、及び該融合遺伝子の塩基配列を、同配列番号6及び配列番号3(うちタンパク質をコードする領域は塩基配列中1001番目〜19105番目)に示す。
【0021】
本発明者が得た知見によれば、シグレック14タンパク質の発現状況を個人毎に見れば、シグレック14タンパク質を発現している者と発現しない者が存在し、シグレック14遺伝子を有する者はシグレック14タンパク質及びシグレック5タンパク質を発現するが、上記シグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型の対立遺伝子型を有する者は、シグレック14タンパク質を欠損し、シグレック14/5融合タンパク質(シグレック5タンパク質と同じアミノ酸配列を有する)を発現する。また、シグレック14/5融合遺伝子を有するが、シグレック14遺伝子とのヘテロ接合型の対立遺伝子型を有する者はシグレック14タンパク質とシグレック5タンパク質及びシグレック14/5融合タンパク質(シグレック5タンパク質と同じアミノ酸配列を有する)を発現する。このシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型の対立遺伝子型を有する者の割合は世界において地域毎に異なるという興味深い結果も得られている(実施例4表1参照)。
【0022】
一方、シグレック14タンパク質は白血球上に発現しており、シグレック14タンパク質を欠損する個人にシグレック14タンパク質を発現する個人の血液を輸血すると、該輸血血液中の白血球表面に提示されたシグレック14タンパク質が血液型抗原として認識され、白血球に対する抗体が産生される可能性がある。
【0023】
輸血事故の原因抗原が多数知られているものの、その全容は明らかではないが、上記のようなシグレック14遺伝子の多型は、輸血事故の1因になり得、このような危険性はなるべく排除しておくことが必要である。
【0024】
また、シグレック14タンパク質を発現する細胞は、細菌由来のリポ多糖への炎症性サイトカイン(TNF-α)応答が、シグレック5タンパク質を発現する細胞を含めてシグレック14を発現しない細胞よりも強いというデータが得られている。この結果は、ウイルス、細菌、真菌、原虫などの感染に伴う炎症性サイトカインの産生をシグレック14タンパク質が制御していることを示すものと考えられ、シグレック14遺伝子の多型により感染症への感受性が変わる可能性が示唆され、シグレック14遺伝子の多型を検出することは、感染症に対する治療方針を決定する上で重要である。
【0025】
上記知見によれば、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子の型は、シグレック14遺伝子のみ有するホモ接合型〈野生型〉、シグレック14遺伝子とシグレック14/5遺伝子を有するヘテロ接合型及びシグレック14/5融合遺伝子のみを有するホモ接合型の3者に分けられる。前2者はともにシグレック14タンパク質とシグレック5タンパク質(又はシグレック5タンパク質と同じアミノ酸配列を有するシグレック14/5融合タンパク質)を発現し、一方、後者のシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型は、シグレック14タンパク質を発現せず、シグレック5タンパク質と同じアミノ酸配列を有するシグレック14/5融合タンパク質を発現するから、例えば、上記血液適合性及び感染症への対応においては、上記前2者とシグレック14/5融合遺伝子のみを有するホモ接合型とを識別できればよいことになり、このためには、シグレック14遺伝子の有無或いはシグレック14タンパクの有無を検出すれば良いことになる。
【0026】
すなわち、本発明のシグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型検出用試薬は、シグレック14遺伝子或いはシグレック14タンパク質の有無を検出するものであり、この検出手段の第一の態様として、本発明においてはシグレック14遺伝子をPCRにより特異的に増幅するプライマー対を使用するものである。
【0027】
シグレック14遺伝子を特異的に増幅する各プライマーは、シグレック14遺伝子中の塩基配列に基づき設計するが、シグレック14/5融合遺伝子或いはシグレック5遺伝子を増幅させないことが必要であり、各プライマーは、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子における保存領域(共通配列部分)の外側(保存領域より5’側及び3’側)の塩基配列を選択して設計する。シグレック14遺伝子の保存領域は配列番号1の塩基配列中、753番目〜2110番目にあり、シグレック14遺伝子の検出用プライマー対のうちフォワードプライマーは、753番目より5’末端側の領域を、またリバースプライマーは、2110番目より3’末端側の領域を選択して設計する。
【0028】
これら各プライマーの塩基長については特に制限はないが、アニーリング温度並びにアニーリングの特異性等の点から、15〜40塩基、好ましくは20〜35塩基である。
より具体的なプライマーとしては、フォワードプライマーとしては、配列番号7に示されるもの、リバースプライマーとしては配列番号8に示すものが挙げられる。
【0029】
これらプライマーを用いて、シグレック14遺伝子を検出する手法は、例えば以下のとおりである。
すなわち、ゲノムDNAをテンプレートに用いたPCRによりシグレック14遺伝子の有無を判定する。
【0030】
このためには、まず、例えば、被験者から採取された末梢血或いは口腔擦過試料などのヒト由来試料からゲノムDNAを抽出・精製する。精製法はプロテイナーゼ消化、フェノール・クロロホルム抽出、エタノール沈殿などの組み合わせによるものでもよく、また市販のゲノムDNA精製キットなどを用いてもよい。
【0031】
次いで、精製したゲノムDNAを鋳型に用いたPCR反応を行う。具体的には、耐熱性DNAポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオシド三リン酸混合物、PCR反応に適したバッファー、鋳型となるゲノムDNAと、シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対を添加し、反応液を調製する。反応液を適当な反応容器(反応液の蒸散を防ぐ物が望ましい)に入れ、鋳型DNAの熱溶解、鋳型DNAとプライマーのアニーリング、DNAポリメラーゼによるDNA伸長反応からなるPCR反応を行う。この反応にはサーマルサイクラーを用いるのが望ましい。
【0032】
PCR反応後、生成したPCR反応産物を検出する。これには反応液に二本鎖DNA検出試薬(例えばSYBR Greenやエチジウムブロマイドなど)を直接添加し、適当な光源の存在下で反応産物を検出するか、或いは反応産物をアガロースゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動などで分離し、二本鎖DNA検出試薬(例えばSYBR Greenやエチジウムブロマイドなど)を用いてPCR反応産物を検出する。
【0033】
遺伝子型の判定は、ある特定のヒト試料からシグレック14遺伝子特異的な反応産物が検出されない場合にシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型と判定する。
【0034】
本発明の検出手段の第二の態様として、本発明においてはシグレック14遺伝子に特異的なプローブを挙げることができる。
シグレック14遺伝子を特異的に検出する核酸プローブは、シグレック14遺伝子中の塩基配列に基づき設計するが、シグレック14/5融合遺伝子或いはシグレック5遺伝子にアニールしないことが必要である。シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の保存領域(共通配列部分)を避け、かつシグレック14遺伝子に特異的な領域はシグレック14遺伝子における保存領域の3’側であり、かつシグレック5遺伝子における保存領域の5’側である。従ってシグレック14遺伝子を特異的に検出する核酸プローブは、かかる塩基配列を選択して設計する。シグレック14遺伝子の保存領域は配列番号1の塩基配列中、753番目〜2110番目にあり、シグレック14遺伝子の検出用核酸プローブは2110番目より3’末端側の領域を選択して設計する。
【0035】
核酸プローブの塩基長については特に制限はないが、アニーリング温度やアニーリングの特異性等から、20〜10000塩基対程度、好ましくは20〜1000塩基対程度である。
より具体的な核酸プローブとしては、配列番号15〜17に示されるものが挙げられるが、当然これらと相補の配列を有する物であっても良い。
【0036】
かかる核酸プローブを用いて、シグレック14遺伝子を検出する手法は、例えば以下のとおりである。
すなわち、ヒトゲノムDNAを用いたサザンブロッティングによりシグレック14遺伝子の有無を判定する。
【0037】
このためには、まず、例えば、被験者から採取された末梢血或いは口腔擦過試料などのヒト由来試料からゲノムDNAを抽出・精製する。精製法はプロテイナーゼ消化、フェノール・クロロホルム抽出、エタノール沈殿などの組み合わせによるものでもよく、また市販のゲノムDNA精製キットなどを用いてもよい。
【0038】
次いで、かかるゲノムDNAを直接ナイロン膜などの薄膜に固相化するか、或いは適当な方法(制限酵素等による消化など)で断片化しアガロースゲル電気泳動などにより分離した後、ナイロン膜などの薄膜に転写し固相化する。
【0039】
次いで、シグレック14遺伝子と特異的にハイブリダイズする核酸プローブを調製し、ラベルを導入し、薄膜上のゲノムDNAとハイブリダイズさせる。この際に用いるラベルは放射性同位元素(32P、33P、35S等)、蛍光色素(Cy3やCy5等)、或いはビオチンやジゴキシゲニンなどのエピトープを用いる。ビオチンやジゴキシゲニンなどのエピトープを導入した場合は、核酸プローブの検出に二次検出試薬(蛍光色素を結合したストレプトアビジンや抗ジゴキシゲニン抗体など)を必要とする。ハイブリダイズしなかったプローブを洗浄操作により除いた後、ハイブリダイズした核酸プローブをラベル法に応じた至適の方法で検出する。
【0040】
或いは、シグレック14遺伝子特異的な核酸プローブを薄膜或いはガラス面などに固相化し、適当な方法(機械的剪断、制限酵素等による消化など)で断片化しラベルを導入したゲノムDNAをハイブリダイズさせる。この際に用いるラベルは放射性同位元素(32P、33P、35S等)、蛍光色素(Cy3やCy5等)、或いはビオチンやジゴキシゲニンなどのエピトープを用いる。ビオチンやジゴキシゲニンなどのエピトープを導入した場合は、核酸プローブの検出に二次検出試薬(蛍光色素を結合したストレプトアビジンや抗ジゴキシゲニン抗体)を必要とする。ハイブリダイズしなかったプローブを洗浄操作により除いた後、ハイブリダイズしたゲノムDNAをラベル法に応じた至適の方法で検出する。
【0041】
遺伝子型の判定は、ある特定のヒト試料からシグレック14遺伝子特異的な核酸プローブとゲノムDNAのハイブリダイゼーションシグナルが検出できない場合にシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型と判定する。
【0042】
本発明の検出手段の第三の態様としては、シグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を挙げることができる。該抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でも良い。
【0043】
これら抗体は従来周知の方法で調製できる。例えばポリクローナル抗体は、シグレック14タンパク質を用いて、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ロバ等の動物を免疫感作し、一定期間経過後血清を採取し、プロテインA、プロテインG、抗原タンパク質、抗原ペプチドなどを固相化したカラムなどで精製して得る。また、モノクローナル抗体は、上記と同様に免疫感作し、一定期間経過後、例えば脾臓細胞を採取し、該細胞とミエローマ細胞とを細胞融合し、得られたハイブリドーマをスクリーニングし、シグレック14タンパク質に対する抗体産生ハイブリドーマから採取する。
【0044】
ポリクローナル抗体の場合は、免疫に用いる抗原としてシグレック14タンパク質に特有の部分を用いることにより、シグレック5タンパク質を含む他のシグレックタンパク質と交差反応しない抗体を得る。或いは、シグレック14タンパク質の一部又は全体を抗原に用いて抗体を作成した後、シグレック5タンパク質の一部(シグレック14タンパク質と高い配列相同性を示す部分を含む)又は全部と交差反応する画分を吸着などにより除き、シグレック14タンパク質に特異的な抗体を得る。
【0045】
モノクローナル抗体の場合は、免疫に用いる抗原としてシグレック14タンパク質に特有の部分を用いることにより、シグレック5タンパク質と交差反応しない抗体を得る。或いは、シグレック14タンパク質の一部又は全体を抗原に用いてハイブリドーマを作成した後、シグレック5タンパク質の一部(シグレック14タンパク質と高い配列相同性を示す部分を含む)又は全部と交差反応するハイブリドーマをスクリーニングにより除き、シグレック14タンパク質に特異的な抗体を得る。
【0046】
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体いずれの場合も、ヒト由来の他のシグレック(例えばシグレック6)に交差反応しないことを確認することが望ましい。
【0047】
このような抗体を使用してシグレック14タンパク質を検出するには、白血球のフローサイトメトリーによる解析によりシグレック14タンパク質の有無を判定する。
【0048】
シグレック14タンパク質が検出されれば、シグレック14遺伝子のみ有するホモ接合型〈野生型〉か、或いはシグレック14遺伝子とシグレック14/5融合遺伝子を有するヘテロ接合型であり、シグレック14タンパク質が検出されなければ、シグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型と判定できる。
【0049】
具体的には、被験者の血液を血液凝固を防ぐ試薬(EDTA、クエン酸、ヘパリンなど)を含む採血管に採取し、試料として用いる。血液から塩化アンモニウムなどを用いた赤血球の溶血により白血球を単離してもよく、また望ましい。フィコールなどを用いた密度勾配遠心法などにより白血球を単離してもよい。
【0050】
ヒト白血球(又は全血)試料に抗シグレック14抗体を添加し、一定時間保温した後、洗浄により結合しなかった抗体を除く。抗体はラベルなしの物でも良く、また蛍光色素(フルオレセイン、R-フィコエリスリン、アロフィコシアニンなど、使用する機器で検出可能な蛍光色素)或いはビオチンなどでラベルした物を用いても良い。ラベルなしの抗シグレック14抗体を用いる場合は、この抗体の作製に用いた動物の免疫グロブリンを認識する二次抗体(蛍光色素又はビオチンなどでラベルした物)、ビオチンなどでラベルした抗体を用いる場合はこのラベルと特異的に結合するプローブ(蛍光色素ラベルしたストレプトアビジンなど)を二次試薬に用いて検出する。
【0051】
結合しなかった抗体を洗浄操作により除き、フローサイトメーターを用いて白血球上のシグレック14タンパク質の有無を検証する。この際、Tリンパ球以外の白血球画分のいずれを用いてもシグレック14タンパク質の有無を検討可能であるが、細胞数の多さとシグレック14タンパク質の発現レベルの高さなどを考慮し、顆粒球、単球、或いはBリンパ球上でのシグレック14タンパク質の発現を検討することが望ましい。
【0052】
上記した検査手段は、いずれも、シグレック14遺伝子のみ有するホモ接合型〈野生型〉、シグレック14遺伝子とシグレック14/5融合遺伝子を有するヘテロ接合型及びシグレック融合14/5遺伝子のみ有するホモ接合型の3者のうち、前2者と後一者を識別するものであるが、本発明においてはこれら3者のそれぞれを識別することも可能である。
【0053】
これには、さらに、シグレック14/5融合遺伝子の特異的増幅用プライマー対を用いてPCRを行う。
シグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマー対は、該融合遺伝子におけるシグレック14遺伝子に由来する塩基配列とシグレック5遺伝子に由来する塩基配列部分に基づき設計するが、これらプライマー対を構成する各プライマーは、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子における保存領域(共通配列部分)の外側(保存領域より5’側及び3’側)の塩基配列を選択して設計することが好ましい。
【0054】
シグレック14遺伝子の保存領域は配列番号1の塩基配列中、753番目〜2110番目にあり、シグレック14/5融合遺伝子の検出用プライマー対のうちフォワードプライマーは、753番目より5’末端側の領域を選択して設計する。すなわち、フォワードプライマーはシグレック14遺伝子検出用フォワードプライマーと同様でよい。
【0055】
シグレック5融合遺伝子の保存領域は配列番号2(うちタンパク質をコードする領域は塩基配列中1001番目〜19105番目)の塩基配列中、753番目〜2114番目にあり、シグレック14/5融合遺伝子の検出用プライマー対のうちリバースプライマーは、2114番目より3’末端側の領域を選択して設計する。
【0056】
これら各プライマーの塩基長については、上記シグレック14遺伝子増幅用プライマーと同様でよく、また、これらプライマーを用いて、シグレック14/5融合遺伝子を検出する手法も、上記シグレック14遺伝子増幅用プライマーと同様でよい。
このプライマー対の具体的塩基配列は、配列番号7及び10に示される。
【0057】
上記したように、シグレック14遺伝子増幅用プライマー、同遺伝子検出用プローブ或いはシグレック14タンパク質の認識抗体を使用してシグレック14遺伝子或いはシグレック14タンパク質が検出された場合は、シグレック14遺伝子のホモ接合型か或いはシグレック14とシグレック14/5のヘテロ接合型のいずれかである。このように判定された試料について、さらに、シグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマーを用いて、シグレック14/5融合遺伝子が検出された場合には、シグレック14とシグレック14/5のヘテロ接合型であると判定でき、シグレック14遺伝子のホモ接合型と、シグレック14とシグレック14/5のヘテロ接合型とを識別できる。
【0058】
また、シグレック14遺伝子及びシグレック14タンパク質が検出されなかった場合、このシグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマーを用いて、シグレック14/5融合遺伝子の有無を解析することにより、シグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型であることを確認でき、正確性を増す。
【0059】
このようなシグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマー対は、上記シグレック14遺伝子増幅用プライマー対、同プローブ或いはシグレック14タンパク質の抗体と組み合わされ、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬キットとして使用できる。また、シグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマー対は、シグレック14遺伝子の多型検出に用いることができる。
【0060】
一方、シグレック5遺伝子、シグレック14遺伝子、シグレック14/5融合遺伝子に保存された配列領域に注目し、二倍体ゲノムあたりの保存領域のコピー数が野生型:ヘテロ接合体:ホモ接合体で4:3:2であることを利用して遺伝子型を判定しても良い。具体的には、ヒト試料由来のゲノムDNAを鋳型に用い、上記の保存領域を増幅するプライマー対を用いて定量的PCRを実施し、遺伝子型既知の同量のヒトゲノムDNA(野生型、ヘテロ接合体、ホモ接合体)を定量標準品として用いた反応産物の定量的な比較により、遺伝子型を判定する。
【0061】
本発明は、シグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬、及びこれを使用したシグレック14タンパク質に対する抗体の検出方法に関する。
【0062】
本発明において、シグレック14タンパク質に対する抗体とは、ヒト血液試料、好ましくは血液製剤中に含まれるシグレック14タンパク質に対するアロ抗体が好ましい。下記実施例にて詳述されるように、非溶血性輸血副作用に関与した血液試料と一般献血試料とを比較すると、シグレック14に対するアロ抗体を含む頻度が前者において有意に高く、また好中球を抗シグレック14抗体陽性血漿で刺激すると、当該好中球は活性化される。これらの事実は、抗シグレック14アロ抗体が非溶血性輸血副作用に関与する可能性を強く示唆する。したがって、本発明により血液試料中の抗シグレック14アロ抗体を検出することによって、非溶血性輸血副作用に関与し得る血液試料を排除して、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保することができる。
【0063】
本発明のシグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬は、シグレック14タンパク質又はシグレック14タンパク質発現細胞を含む。
【0064】
シグレック14は公知であり、配列情報がGenBankなどのデータベースに公開されている。ヒトシグレック14の配列情報は、例えばアクセッション番号AAX47338, NP_001092082等として、GenBankに登録されておりこれらを利用することが可能である。
【0065】
シグレック14タンパク質は、GenBankなどに登録された公知のアミノ酸配列を有するシグレック14タンパク質を用いることができるが、好ましくは配列番号4で示されたアミノ酸配列を有するシグレック14タンパク質を用いる。
【0066】
また、配列番号4で示される配列は、細胞外領域であるN末端Vセット免疫グロブリン様領域及びC2セット免疫グロブリン様領域、膜貫通領域並びに細胞内領域を含む。本発明におけるシグレック14タンパク質には少なくとも、細胞外領域(配列番号4においては、1番目から358番目の配列が細胞外領域部分に相当する)に含まれるシグレック14に特異的な領域が含まれていれば良い。「シグレック14に特異的な領域」とは、シグレック14タンパク質の細胞外領域のアミノ酸配列とシグレック5タンパク質の細胞外領域のアミノ酸配列を比較した場合に、シグレック14タンパク質の細胞外領域にのみ含まれるアミノ酸配列を意味する。配列番号4においては、238番目から358番目のアミノ酸配列がシグレック14に特異的な領域に相当する。したがって、本発明におけるシグレック14タンパク質は、配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列を含む配列からなるタンパク質を含む。
【0067】
さらに、本発明におけるシグレック14タンパク質には、シグレック14の変異体も包含される。このような変異体は、抗シグレック14抗体に認識され結合され得る限り、天然の突然変異体及び人工変異体のいずれも含まれ、配列番号4又は配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列に示されるアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつ抗シグレック14抗体に認識され結合され得るタンパク質、或いは、該アミノ酸配列とBLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、例えば93%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ抗シグレック14抗体に認識され結合され得るタンパク質が含まれる。「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、或いは1個又は2個である。
【0068】
本発明におけるシグレック14タンパク質は、一般的な遺伝子組換え技術によって作製することができる。簡単に説明すると、シグレック14タンパク質の作製は、当該タンパク質をコードするDNAを用意し、このDNAを含む発現ベクターを構築し、当該ベクターで原核又は真核細胞(例えば、これらに限定されないが、E. coli、酵母、SF9細胞、SF21細胞、COS1細胞、COS7細胞、CHO細胞、HEK293細胞など)を形質転換又はトランスフェクションし、得られた細胞の培養から目的の組換えタンパク質を回収することを含む。タンパク質の精製は、タンパク質の一般的な精製法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、有機溶媒沈殿、透析、電気泳動、クロマトフォーカシング、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、HPLCなどを適宜組み合わせることによって実施可能である。
【0069】
上記DNAや発現ベクターに関しては、後述のシグレック14タンパク質発現細胞の作製についての記述、及び実施例等を参照することができる。
【0070】
本発明におけるシグレック14タンパク質は、ポリペプチドのC末端又はN末端に標識ペプチドを結合させた融合タンパク質の形態であっても良い。代表的な標識ペプチドには、6〜10残基のヒスチジンリピート(Hisタグ)、FLAG、mycペプチド、GFPポリペプチドなどが挙げられるが、標識ペプチドはこれらに限られるものではない。
【0071】
また、本発明におけるシグレック14タンパク質は、抗シグレック14抗体が認識し結合し得る限り化学修飾されていてもよい。化学修飾には、非限定的に、例えばグリコシル化、ペグ(PEG)化、アセチル化、アミド化、リン酸化などが挙げられる。
【0072】
さらに、本発明におけるシグレック14タンパク質は、固相担体に結合されていても良い。固相担体の形状や材質は特に限定されない。形状としてはプレート状、フィルム状、球状又は不定形状等の粒子状が挙げられる。また、材質としては、ガラス、セラミックス、各種プラスチックが挙げられる。
【0073】
シグレック14タンパク質発現細胞は、その細胞膜上にシグレック14タンパク質を発現する。
当該細胞は、シグレック14タンパク質をコードするDNAを用意し、このDNAを含む発現ベクターを構築し、当該ベクターで宿主細胞を形質転換又はトランスフェクションすることによって得ることができる。
【0074】
シグレック14タンパク質をコードするDNAは、好ましくは配列番号20で示された塩基配列を有するDNAを用いる。配列番号20で示される塩基配列は、シグレック14タンパク質の細胞外領域、膜貫通領域及び細胞内領域を含む。本発明においてシグレック14タンパク質をコードするDNAには、少なくとも上記シグレック14に特異的な領域をコードするが塩基配列含まれていれば良く、好ましくは少なくともシグレック14に特異的な領域及び膜貫通領域をコードする塩基配列が含まれていればよい。配列番号20においては、712番目から1074番目の配列がシグレック14に特異的な領域コードする塩基配列、1075番目から1143番目の配列が膜貫通領域コードする塩基配列に相当する。すなわち、本発明におけるシグレック14タンパク質をコードするDNAは、配列番号20の少なくとも712番目から1074番目および1075番目から1143番目の配列を含む塩基配列を含む。
【0075】
また、シグレック14タンパク質をコードするDNAには、配列番号20、または配列番号20の少なくとも712番目から1074番目および1075番目から1143番目の配列に示される配列を有するDNAにおいて、1から数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつ抗シグレック14抗体に認識され結合され得るタンパク質をコードするDNAも含まれる。「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個又は2個である。また、シグレック14タンパク質をコードするDNAには、配配列番号20、または配列番号20の少なくとも712番目から1074番目および1075番目から1143番目の配列に示される配列からなるDNAに相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ抗シグレック14抗体に認識され結合され得るタンパク質をコードするDNAも含まれる。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、ナトリウム濃度が、10mM〜300mM、好ましくは20〜100mMであり、温度が25℃〜70℃、好ましくは42℃〜55℃での条件をいう。さらに、シグレック14タンパク質をコードするDNAには配列番号20、または配列番号20の少なくとも712番目から1074番目および1075番目から1143番目の配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ抗シグレック14抗体に認識され結合され得るタンパク質をコードするDNAも含まれる。
【0076】
当該シグレック14タンパク質をコードするDNAを、公知の発現ベクターに挿入する。
本発明に用いることができるベクターとしては、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター)、非ウイルスベクターなどを用いることができるが、好ましくはウイルスベクターである。
【0077】
発現ベクターには、シグレック14タンパク質を発現するためにいくつかの制御エレメントを含むことができる。制御エレメントには、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリA付加シグナル、複製開始点、選択マーカー、リボソーム結合配列、ターミネーターなどが含まれる。
【0078】
発現ベクターを用いた宿主細胞の形質転換又はトランスフェクションとしては、当業者に公知の一般的な手法を用いることが可能であり、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、アグロバクテリウム法、ウイルス感染法、リポソーム法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法、リポフェクション法などが挙げられる。
【0079】
宿主細胞としては、健常人の血液、血清および/または血漿との反応性が低い哺乳動物細胞(好ましくはヒト細胞)を利用することが可能であり、特に好ましくはK562細胞を用いる。
【0080】
本発明のシグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬には、上記シグレック14タンパク質又は上記シグレック14タンパク質発現細胞の他に、通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、浸潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、着色料、及び安定化剤などを含んでも良い。
【0081】
本発明のシグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬を用いて、ヒト血液試料、好ましくは献血、輸血用血液、血液製剤中に含まれる抗シグレック14抗体を検出することができる。
【0082】
また、本発明のシグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬を用いて、抗シグレック14抗体を含むヒト血液試料、好ましくは献血、輸血用血液、血液製剤を判別し、除去することが可能であり、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保するために利用することができる。
【0083】
当該抗体の検出には、抗体結合を検出するための一般的な手法を用いることが可能であり、例えば、免疫組織化学、ウェスタンブロット、酵素免疫測定法(EIA)(酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)等)、ラジオイムノアッセイ(RIA)及びフローサイトメーター(FCM)等を用いることができる。例えば、本発明のシグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬と血液試料、好ましくは血液製剤とを、4℃〜37℃にて0.25時間〜一晩、好ましくは4℃にて15分間インキュベートして、シグレック14タンパク質又はシグレック14タンパク質発現細胞と血液試料、好ましくは血液製剤中に含まれる抗シグレック14抗体とを反応させる。次に、シグレック14タンパク質又はシグレック14タンパク質発現細胞へ結合した抗シグレック14抗体を上記方法により検出する。
【0084】
下記実施例にて詳述されるように、非溶血性輸血副作用に関与した血液試料と一般献血試料を比較すると、シグレック14に対するアロ抗体を含む頻度が前者において有意に高い。
【0085】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
シグレック14特異的な抗体を用いた白血球のフローサイトメトリーによる解析
ヒト末梢血由来白血球をシグレック5タンパク質とシグレック14タンパク質の両者を認識する抗体(clone 194128, R&D Systems;上段)、シグレック5タンパク質を特異的に認識する抗体(clone 4H7;中段)、シグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体(下段)でそれぞれ染色し、フローサイトメトリーで解析した。結果を図1に示す。なお、白血球の副集団(各系統マーカーによる染色性に基づいて判定)ごとに表示した。図中、灰色はコントロール抗体で染色した細胞集団のヒストグラムである。mDC:骨髄球系樹状細胞、pDC:形質細胞様樹状細胞である。
【0087】
これによれば、シグレック14タンパク質はT細胞を除く広範な白血球サブセットに発現していた。シグレック14タンパク質の発現パターンはシグレック5タンパク質のそれと重複していた。
【0088】
本実施例で行った実験手法の詳細は以下のとおりである。
抗体の作製:
抗シグレック14抗体(ウサギポリクローナル抗体)は以下の方法で作製した。
ヒトシグレック14タンパク質の細胞外領域(配列番号4のアミノ酸残基1〜342番目)とFLAG配列(DYKDDDDK)(配列番号18)及びヒト免疫グロブリンGのヒンジ+Fc領域からなるシグレック14-Fc融合タンパク質を発現するベクターを作製し、293細胞又はCHO細胞に導入し、培養上清から目的の融合タンパク質数ミリグラムを得た(特許文献4)。同様の方法により、ヒトシグレック5タンパク質の細胞外領域(配列番号5のアミノ酸残基1〜334番目又は1〜427番目)とFLAG配列及びヒト免疫グロブリンGのヒンジ+Fc領域からなるシグレック5-Fc融合タンパク質を発現するベクターを作製し、293細胞又はCHO細胞に導入し、培養上清から目的の融合タンパク質数ミリグラムを得た。これらシグレック14-Fc融合タンパク質、シグレック5-Fc融合タンパク質をそれぞれAffiGel 15(Bio-Rad社)に固相化(1 mg/0.5 ml)し、アフィニティ精製用の担体を作製した。
【0089】
一方、シグレック14-Fc融合タンパク質をエンテロキナーゼ処理したのち、ヒト免疫グロブリンGのヒンジ+Fc領域をprotein A-Sepharoseとのインキュベーションにより除去し、ヒトシグレック14タンパク質の細胞外領域とFLAG配列からなる部分タンパク質を得た。この部分タンパク質を常法に従ってウサギに免疫し、抗血清を得た。
【0090】
上記で作製したシグレック14-Fc融合タンパク質を固相化したアフィニティ精製用の担体と抗血清を混合し、4℃で終夜インキュベートした。担体に結合しなかったタンパク質を洗浄用バッファー(ダルベッコPBS)により除去したのち、担体に結合した抗体を溶出用バッファー(0.1 Mグリシン塩酸バッファー、pH 3.0)を用いて溶出し、中和バッファー(1 Mトリス塩酸、pH 8.0)で中和した。得られた抗体画分(シグレック14-Fc融合タンパク質を認識する抗体)のバッファーを限外濾過によりダルベッコPBSに置換した後、上記で作製したシグレック5-Fc融合タンパク質を固相化したアフィニティ精製用の担体と混合し、4℃で終夜インキュベートした。担体に結合しなかった抗体(すなわちシグレック14-Fc融合タンパク質を認識するがシグレック5-Fc融合タンパク質を認識しない抗体)を回収し、シグレック14タンパク質特異的な抗体とした。必要な場合はシグレック5-Fc融合タンパク質を固相化したアフィニティ精製用の担体と再度インキュベートし、シグレック5タンパク質と交差反応する抗体画分を除去した。
【0091】
抗シグレック5抗体(マウスモノクローナル抗体)は以下のような方法で作製した。
ヒトシグレック5タンパク質のシグナルペプチド、リンカー領域、免疫グロブリン様領域3及び4(配列番号5のアミノ酸残基1〜19+234〜427番目)とFLAG配列及びヒト免疫グロブリンGのヒンジ+Fc領域からなるシグレック5-Fc融合タンパク質を発現するベクターを作製し、293細胞又はCHO細胞に導入し、培養上清から目的の融合タンパク質数ミリグラムを得た。かかるシグレック5-Fc融合タンパク質をエンテロキナーゼ処理したのち、ヒト免疫グロブリンGのヒンジ+Fc領域をprotein A-Sepharoseとのインキュベーションにより除去し、ヒトシグレック5タンパク質の免疫グロブリン様領域3及び4とFLAG配列からなる部分タンパク質を得た。この部分タンパク質を常法に従ってBALB/cマウス数匹に免疫し、脾臓を採取し、ポリエチレングリコールを用いて脾細胞とマウス由来ミエローマ細胞(P3U1細胞株)を融合した。HAT選択により得られたハイブリドーマの上清を用いてシグレック5タンパク質及びシグレック14タンパク質に対する反応性を検討し、シグレック5タンパク質のみを認識する抗体を産生する株を選択した。更に限界希釈法により細胞を単クローン化し、シグレック5タンパク質を認識しシグレック14タンパク質を認識しない抗体を産生するハイブリドーマのクローン(4H7)を得た。
【0092】
白血球の染色と解析:
健常人ドナーから同意のもと末梢血数十mlを採取し、ACK溶血液(150 mM塩化アンモニウム、10 mM炭酸水素カリウム、0.1 mMエチレンジアミン四酢酸)を用いて赤血球を溶血させた。この液から遠心操作により得られた白血球を数回染色用バッファー(1%ウシ血清アルブミン、0.02%アジ化ナトリウムを含むダルベッコPBS)で洗浄した後、ヒトIgG(1 mg/ml)を含む染色用バッファーに107細胞/mlになるよう懸濁して氷浴上でインキュベートし、Fcγ受容体をブロックした。細胞懸濁液を3等分し、抗シグレック5抗体(クローン4H7)とアロフィコシアニン標識抗マウスIgG1抗体Fab断片(Zenon Mouse IgG1 Labeling Kit、Invitrogen社)の複合体、又はシグレック5とシグレック14の両者を認識する市販抗体(R&D Systems社、クローン194128)とアロフィコシアニン標識抗マウスIgG1抗体Fab断片(Zenon Mouse IgG1 Labeling Kit、Invitrogen社)の複合体、又は抗シグレック14ウサギポリクローナル抗体とアロフィコシアニン標識抗ウサギIgG抗体Fab断片(Zenon Rabbit IgG Labeling Kit、Invitrogen社)の複合体と氷浴上でインキュベートした。遠心操作により細胞を集め、さらに染色用バッファーで洗浄した後、各画分を細胞系譜マーカー抗体(フィコエリスリン標識した抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗CD19抗体、抗CD56抗体、抗CD14抗体、抗BDCA-1抗体、又は抗BDCA-2抗体)を添加し、氷浴上でインキュベートした。遠心操作により細胞を集め、さらに染色用バッファーで洗浄した後、染色用バッファーに懸濁し、488 nm及び633 nmのレーザーを搭載したフローサイトメーター(BD Flowcytometry社製FACSAria)を用いて解析した。
【0093】
(実施例2)
シグレック14遺伝子の多型の解析
1)シグレック14タンパク質を発現しない個人の同定
複数の健常人ドナーから末梢血を採取し、実施例1と同様の方法を用いて顆粒球におけるシグレック14タンパク質及びシグレック5タンパク質発現のフローサイトメトリーによる解析を行った。結果を図2Aに示す。これによれば、全ての個人はシグレック5タンパク質(又はこれと同一のアミノ酸配列を有するタンパク質)を発現するが、ドナー3と5はシグレック14タンパク質を発現していない。
【0094】
2)シグレック14タンパク質の発現とシグレック14遺伝子の多型の関連の解析
シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子は近接しており、両者の間に極めて相同性の高い領域が存在することから、この2つの遺伝子間で組み換えが起こり、シグレック14/5融合遺伝子が生じた(その産物のアミノ酸配列はシグレック5タンパク質のそれと同一である)と仮定し、シグレック14遺伝子、シグレック5遺伝子、シグレック14/5融合遺伝子をそれぞれ特異的に増幅する以下に示すプライマーセットを用いたゲノムPCRを行った。ゲノムPCRの概略図を図2Bに、PCR産物の電気泳動像の模式図を図2Cに示す。
シグレック14遺伝子増幅用プライマー
フォワードプライマー(14F)
AGGATTTATTCTCCCATCTCGCT(配列番号7)
リバースプライマー(14R)
GATGCTGATGGCGAGGTTCTG(配列番号8)
シグレック5遺伝子増幅用プライマー
フォワードプライマー(5F)
GTGGTTCTGACATCTCACCTCATC(配列番号9)
リバースプライマー(5R)
CCTGAAGATGGTGATGGTCTG(配列番号10)
シグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマー
フォワードプライマー(14F)
AGGATTTATTCTCCCATCTCGCT(配列番号7)
リバースプライマー(5R)
CCTGAAGATGGTGATGGTCTG(配列番号10)
【0095】
プライマー対5F+5Rはシグレック5遺伝子の一部を、プライマー対14F+14Rはシグレック14遺伝子の一部を特異的に増幅する。プライマー対14F + 5Rはシグレック14/5融合遺伝子が存在する場合にはこの遺伝子の約1.7 kbの領域を増幅する。同じプライマー対を用いて野生型アリルから約17 kbの断片が生じうるが、本実験で用いた反応条件下ではこの産物は生じない。
【0096】
図2Aと同じ個人のゲノムDNAを用いた遺伝子型解析の結果を図2Dに示す。予想通りドナー3と5はシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合体であった。
【0097】
本実施例で行った実験手法の詳細は以下のとおりである。
プライマーのデザイン:
ゲノムPCR用のプライマーのデザインは下記のように行った。シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子をそれぞれ特異的に増幅するためのプライマーは、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の間で高度の配列相同性を示す領域の上流(フォワードプライマー)と下流(リバースプライマー)に設定しなければならない。高度に保存された領域はシグレック14遺伝子では配列番号1の753番目〜2110番目の塩基、シグレック5遺伝子では配列番号2の753番目〜2114番目の塩基である。またDNAの増幅効率に鑑み、プライマー対で増幅するべき領域は短い方が望ましい。以上の要件から、シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対としてはフォワードプライマーを配列番号1の588番目〜610番目の塩基配列、リバースプライマーを配列番号1の2238番目〜2258番目の塩基の相補配列とした。またシグレック5遺伝子を特異的に増幅するプライマー対としてはフォワードプライマーを配列番号2の605番目〜628番目の塩基配列、リバースプライマーを配列番号2の2268番目〜2288番目の塩基の相補配列とした。シグレック14/5融合遺伝子の検出には、シグレック14遺伝子の増幅に用いたフォワードプライマーとシグレック5遺伝子の増幅に用いたリバースプライマーを用いることとした。
【0098】
ゲノムDNAの調製:
健常人ドナー5名から同意のもと末梢血約10 mlを採取し、ACK溶血液(150 mM塩化アンモニウム、10 mM炭酸水素カリウム、0.1 mMエチレンジアミン四酢酸)を用いて赤血球を溶血させた。この液から遠心操作により白血球を得た。得られた白血球(5 x 106細胞)からDNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN社)を用いてゲノムDNAを精製した。
【0099】
PCR:
PCR反応には下記のような組成の反応液(20μl)を用いた。すなわち、ゲノムDNA 100 ng、プライマー各0.3μM、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)各0.2 mM、耐熱性DNAポリメラーゼExpand High Fidelity enzyme(ロシュ・ダイアグノスティクス)0.5ユニット、塩化マグネシウム1.5 mM、1 x Expand High Fidelity Buffer(ロシュ・ダイアグノスティクス)。
【0100】
反応サイクルは下記の条件を用いた。
94℃、2分
続いて(94℃、15秒;56℃、30秒;72℃、90秒)を10サイクル
続いて(94℃、15秒;56℃、30秒;72℃、90秒+各サイクル5秒ずつ延長)を20サイクル
続いて72℃、7分
【0101】
アガロースゲル電気泳動:
上記のPCR反応産物(各レーン10μl)を、1%アガロースゲルを用いてTAEバッファー(40 mMトリス、40 mM酢酸、0.1 mMエチレンジアミン四酢酸)中で電気泳動し、反応産物を分離した。エチジウムブロマイドでゲルを染色し、紫外線ランプで照射してDNAを検出し、撮影した。
【0102】
(実施例3)
シグレック14タンパク質強制発現によるTNF-αの発現増強
1)ヒト単球系細胞株であるTHP-1細胞に、それぞれシグレック5タンパク質、シグレック14タンパク質の野生型又は点変異体(R119A又はR362A)を発現するcDNAを導入し、空ベクター導入細胞とともに、マクロファージ様細胞に分化させた後、リポ多糖を加えてTNF-αの産生量を測定した。結果を図3Aに示す。
【0103】
これによれば、シグレック14タンパク質を発現する細胞ではコントロールの細胞と比較してTNF-αの産生が約2倍に亢進していた。
【0104】
なお、図中、統計的有意差(StudentのT検定にてP < 0.01)を示した組を***で示した。シグレック14タンパク質の野生型及びR119A変異体を発現する細胞におけるTNF-α産生が他の細胞に比べて有意に高いことが明らかである。シグレック14タンパク質のR119A変異体は糖鎖認識能を欠損し、R362A点変異体はシグナルアダプタータンパク質DAP12との結合能を欠損する。上記の結果はシグレック14を介したTNF-α産生増強にはDAP12との会合が必須であるが、糖鎖認識能は必須ではないことを示唆する。
【0105】
2)空ベクター、シグレック14タンパク質の野生型又はR362A点変異体を発現するTHP-1細胞をマクロファージ様細胞に分化させ、シグナルアダプタータンパク質DAP12の発現を抑制するsiRNAを添加した後、リポ多糖を加えてTNF-αの産生量を測定した。結果を図3Bに示す。これによれば、野生型シグレック14タンパク質を発現する細胞で、DAP12タンパク質の発現を抑制することにより、TNF-αの産生が抑制された。すなわちシグレック14タンパク質を介したTNF-αの産生亢進にDAP12タンパク質が関与していることが強く示唆される。一方、同じsiRNAはコントロール細胞からのTNF-α産生を抑制しなかった。またコントロールsiRNAはTNF-αの産生量に影響を及ぼさなかった。図中、統計的有意差(StudentのT検定にてP < 0.01)を示した組を***で示した(ただし、同じ細胞に異なる処理を行った場合のみを比較した)。野生型シグレック14タンパク質を発現する細胞にDAP12タンパク質の発現を抑制するsiRNAを導入することにより、統計的に有為なTNF-αの産生抑制が認められることが明らかである。
【0106】
本実施例で行った実験手法の詳細は以下のとおりである。
シグレック14タンパク質及びシグレック5タンパク質発現用ベクターの作製:
野生型シグレック14の全長cDNAをテンプレートに用い、シグレック14 R119A点変異体(119番目のアルギニンのアラニンへの変異体)cDNAの作製には配列番号11と12のオリゴヌクレオチドを、シグレック14 R362A点変異体(362番目のアルギニンのアラニンへの変異体)cDNAの作製には配列番号13と14のオリゴヌクレオチドを用いて、QuickChange II(Stragtagene)製品添付のプロトコルに従って変異を導入した。
【0107】
野生型シグレック14、シグレック14 R119A点変異体、シグレック14 R362A点変異体とシグレック5の全長cDNAをそれぞれレトロウイルスベクターであるpMSCV-IRES-EGFP(自治医科大学・久米晃啓先生より恵与)に導入した。
【0108】
pMSCV-IRES-EGFPはIRES(Internal Ribosome Entry Site)の下流にEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)cDNAを有するため、IRESの上流に発現するべき遺伝子のcDNAを導入することにより、該遺伝子とEGFPの両者を1つのmRNAから発現することができる。よってEGFPの発現に基づいて目的遺伝子を発現する細胞の同定と選別が可能である。
【0109】
THP-1細胞への遺伝子導入
THP-1細胞(ヒト単球系細胞株)はRPMI 1640培地+10%ウシ胎児血清+抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)を用いて培養した。上記のコンストラクト或いはベクターであるpMSCV-IRES-EGFPをレトロウイルスパッケージング細胞であるPLAT-A細胞(東京大学医科学研究所・北村俊雄先生より恵与)にリポフェクションにより導入し、レトロウイルス粒子を含む培養上清を得た。THP-1細胞への遺伝子導入はRetroNectin(タカラバイオ)存在下で上記のレトロウイルス粒子を含む培養上清と24時間インキュベートすることにより実施した。感染後の細胞を通常の培地で数日間培養して回復させた後、蛍光セルソーターを用いてEGFP陽性の細胞を選別・回収した。必要に応じてソーティングを繰り返し、95%以上の細胞がEGFP陽性細胞(すなわち目的のタンパク質を発現する細胞)からなる細胞集団を樹立した。
【0110】
THP-1細胞のマクロファージへの分化誘導、LPS刺激とTNF-α産生の測定
遺伝子導入したTHP-1細胞を96ウェルプレートに2 x 104細胞ずつ播種し、50 nMの12-O-テトラデカノイルホルボール 13-アセテートを含む培地0.1 ml中で4日間培養することにより、マクロファージ様細胞に分化させた。通常の培地で数回洗った後、大腸菌(O111:B4)由来のリポ多糖50 ng/mlを含む培地0.1 ml中で24時間培養した。培地中に分泌されたTNF-αはBD OptEIA Human TNF ELISA Set(BD Bioscience)を用いて定量した。
【0111】
RNA干渉
DAP12 mRNAの部分配列である5'-UAGAGCAACUGCAAUCGCUCUGGGC-3'(配列番号19)を標的とするStealth RNA及びコントロールStealth RNAはInvitrogen社から購入した。上記と同様にしてTHP-1細胞をマクロファージ様細胞に分化誘導した後、Stealth RNA(終濃度100 nM)をLipofectamine RNAi MAXを用いて細胞に導入し、48時間培養した。通常の培地で数回洗った後、大腸菌(O111:B4)由来のリポ多糖50 ng/mlを含む培地0.1 ml中で24時間培養した。培地中に分泌されたTNF-αはBD OptEIA Human TNF ELISA Set(BD Bioscience)を用いて定量した。
【0112】
(実施例4)
シグレック14/5融合遺伝子の世界各地のヒト集団における分布
世界各地のヒト集団由来のゲノムDNA(Coriell Institute for Medical Researchより入手)を用い、上記実施例2と同様のゲノムPCRを行った。
【0113】
結果を表1に示す。シグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型は東南アジア、中国などアジアのヒト集団で高頻度に見出され、ヒト集団毎に異なるという結果が得られた。
【0114】
【表1】
【0115】
(実施例5)
(シグレック5タンパク質又はシグレック14タンパク質発現細胞)
シグレック5、シグレック14遺伝子導入細胞の選択
シグレック14遺伝子を導入する細胞株を選択するために、6種類の非接着性細胞及び5種類の接着性細胞と3種類の健常人血清(ノーマル血清)との反応性をフローサイトメーターで測定し、バックグラウンドシグナルの増大の有無をそれぞれ解析した。L-細胞、Hela細胞、293T細胞、3T3細胞、CHO細胞は、ノーマル血清と高い反応性を示し、バックグラウンドシグナルが上昇した。しかし、5種類の非接着性細胞(K562細胞、Jurkat細胞、THP-1細胞、Namalwa細胞、及びCMK細胞)と1種類の接着性細胞(Cos7細胞)は、ノーマル血清に対して殆ど反応性を示さず低いバックグラウンドシグナルであった。次に、HLA、Human Neutrophil Antigen (HNA)、シグレック5及びシグレック14の発現によるバックグラウンドシグナルの増大の可能性を抗HLA抗体、抗HNA抗体、抗シグレック5抗体或いは抗シグレック14抗体とそれぞれ反応させ検討したところ、K562細胞のみがいずれの血清とも反応せず低いバックグラウンドシグナルであった。以上の結果から、シグレック5もしくはシグレック14遺伝子を導入する細胞株としてK562細胞を採用した。
【0116】
シグレック5、シグレック14発現細胞の調製方法
シグレック5及びシグレック14のcDNAは、IMAGEコンソーシアムによる全長cDNAクローンIMAGE:5178889およびIMAGE:5756894をそれぞれ用いた。それぞれのcDNAは、市販のレトロウィルスベクターであるpQCXIP(Becton Dickinson, SanJose, CA)の制限酵素EcoRIとNotIサイトにサブクローニングし、pQCXIP-シグレック5及びpQCXIP-シグレック14を得た。次に、Lipofetamine Plus試薬(Invitrogen)の標準プロトコールに従い、pQCXIP-シグレック5或いはpQCXIP-シグレック14とpVSV-G(Becton Dickinson)をgp-293Tパッケージング細胞株(Becton Dickinson)に遺伝子導入した。この際、Siglec遺伝子を導入していないpQCXIPのみを同様の操作で遺伝子導入したものも作製した。上記の遺伝子導入したgp-293T細胞を48時間培養し、105/mlの組換えウイルス粒子を含む上清を得た。この上清0.1mlに0.9mlの感染用培地(10% FBSを含むRPMI1640培地に終濃度8μg/mlになるようにpolybreneを添加)に懸濁した1x106個のK562細胞を加えて、2時間培養した後、R10培地(10% FBSを含むRPMI1640培地)で2回洗浄し、R10培地で2日間培養した。次に、組換えウイルスを感染させた細胞のうちピューロマイシン耐性のものを限界希釈法でクローニングし、シグレック5或いはシグレック14をそれぞれ発現する、KY-シグレック5、KY-シグレック14及び、ベクターのみが導入されたKY-mock細胞株をそれぞれ得た(図4)。
【0117】
(フローサイトメーター(FCM)による解析)
a.KY-シグレック5細胞とKY-シグレック14細胞のシグレック抗原発現の検討
KY-シグレック5細胞、KY-シグレック14細胞及びKY-mock細胞に抗シグレック5/14抗体(シグレック5及びシグレック14に反応する)、抗シグレック14抗体(シグレック14に反応する)を加え4℃で15分間反応させた。PBSにて洗浄後、FITC標識抗マウスIgG抗体もしくはFITC標識抗ウサギIgG抗体で4℃、15分間染色し、PBSにて再度洗浄し、FCMを用いて解析した。その結果を図5に示す。シグレック5遺伝子を導入したKY-シグレック5細胞はシグレック5抗原を、シグレック14遺伝子を導入したKY-シグレック14細胞はシグレック14抗原をそれぞれ特異的に発現していることが確認された。また、KY-mock細胞には非特異的な反応は見られなかった。
【0118】
b.KY-シグレック5細胞及びKY-シグレック14細胞を用いたヒト血清または血漿中の抗シグレック14抗体検出
ヒト血清または血漿中に含まれる抗シグレック14アロ抗体を上記KY-シグレック5細胞株及びKY-シグレック14細胞株にて検出した。すなわち、KY-シグレック5細胞、KY-シグレック14細胞及びKY-mock細胞に非溶血性輸血副作用の原因製剤由来血漿(日本赤十字社より入手)を加え、4℃で15分間反応させた。PBSにて洗浄後、FITC標識抗ヒトIgG抗体又はPE標識抗ヒトIgM抗体で4℃、15分間染色し、PBSにて再度洗浄し、FCMを用いて解析した。その代表的なヒストグラムを図6に示す。
【0119】
さらに、非溶血性輸血副作用の原因製剤由来血漿(168種類)と健常人血清(500種類)とで、抗シグレック14アロ抗体の検出割合を比較した。抗シグレック14アロ抗体の陽性率は、健常人血清で2.4%(12/500)であるのに対して非溶血性輸血副作用原因製剤では11.9%(20/168)と有意に高かった(p<0.0001、Fisher検定)。
一方、抗シグレック5アロ抗体の陽性率は健常人血清と非溶血性輸血副作用原因製剤とで差はなかった。
【0120】
(実施例6)
(抗シグレック14抗体陽性血漿による好中球活性化)
a. 抗シグレック14抗体陽性血漿と好中球との反応
全血200μLに種々の刺激剤(抗シグレック14抗体陰性血漿(日本赤十字社より入手)、抗シグレック14抗体陽性血漿(日本赤十字社より入手)、又はβ-acetyl-γ-o-alkyl-α-phosphatidylcholine、phorbol 12-myristate 13-acetate:fMLP)10μLを添加し、37℃で30分間インキュベートし、その後遠心分離(1,000g、3分間)して全血より血球と上清をそれぞれ分取した。血球についてはフローサイトメーター(FCM)により、好中球活性化マーカーであるMac-1抗原の発現量を測定し、上清についてはELISAにより、放出されたHeparin Binding Protein(HBP、炎症性血管作動性因子で、血液細胞では好中球のみが産生する顆粒タンパク質)の濃度を測定した(詳細は下記)。
【0121】
b. FCMによる白血球におけるMac-1抗原発現量の測定
各種刺激剤による刺激後の全血より白血球を分画し、PBS-BSA (10mM EDTA、0.5%BSA)で洗浄した後、同細胞をPE標識抗Mac-1モノクローナル抗体(Becton Dickinson、カタログ番号347557)で4℃、15分間染色した。PBS-BSA にて洗浄後、BD FACS Lysing Solution(Becton Dickinson社)で溶血させ、好中球分画でのMac-1の発現量をFCMで測定した。
【0122】
fMLP(陽性コントロール)を用いて刺激した好中球表面では、Mac-1抗原の発現量が増加していることが確認された。また、抗シグレック14抗体陽性血漿を用いて刺激した場合、抗シグレック14抗体陰性血漿を用いて刺激した場合に比べ、Mac-1抗原の発現量が有意に増加していることが観察された(図7)。
【0123】
c. ELISA法による上清中のHBP濃度の測定
上清中のHBP濃度は、TapperらのELISA法を用いて測定した(Blood 2002; 99: 1785-93.)。ELISA用マイクロプレート(Nunc社、C8 Maxisorp)に抗HBP モノクローナル抗体(R&D社、50μg/mL)を50μl添加し、4℃で一晩インキュベートし、抗体を吸着させた。同プレートをT-PBS-BSA(PBS溶液に0.5% Tween20、1% BSAを添加)でブロックした後(タンパク質の非特異結合阻害)、1/6に希釈した上清(上記a)もしくは種々の濃度に希釈した組換えヒトHBP(R&D社)を加え、37℃で60分間インキュベートした。なお、血漿(血清)の希釈はCan Get Signal I溶液(Toyobo社)を用いた。T-PBS(PBS溶液に0.5% Tween20を添加)で洗浄後、抗HBP ポリクローナル抗体(R&D社、50μg/mL、50μL/well)を37℃で45分間反応させ、洗浄後さらに結合した同ポリクローナル抗体をHRP標識抗ヤギIgG抗体(Promega社、1/5000希釈、50μL/well)で検出した。発色はTMB発色溶液(Kirkegaard&Perry社)を用い、マイクロプレートリーダー(Corona社、MTP-120)で450nmの吸光度を測定した。抗シグレック14抗体陽性血漿を用いて刺激した場合、抗シグレック14抗体陰性血漿を用いて刺激した場合と比べて、上清中のHBP濃度が高いことが観察された(図8)。
【0124】
上記の結果は、抗シグレック14抗体陽性血漿により好中球が活性化されることを示し、抗シグレック14抗体陽性血漿が非溶血性輸血副作用を引き起こすことを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のシグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬により、シグレック14遺伝子を有する対立遺伝子型とシグレック14遺伝子を有しないシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型とを識別して検出することができ、輸血事故等の危険性を事前に排除し、或いは感染症などの治療方針を決定するために利用することができる。
【0126】
また本発明の抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いることによって、ヒト血液試料中の抗シグレック14抗体を検出することができ、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保するために利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シグレック14(SIGLEC14)遺伝子多型に基づく対立遺伝子型の検出試薬及び該検出方法に関する。本発明はまた、抗シグレック14抗体を検出するため試薬、及びそれを用いたヒト血液試料中の抗シグレック14抗体の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シグレックファミリータンパク質は免疫グロブリンスーパーファミリーに属するI型膜貫通タンパク質の一群であり、シアル酸を含む各種糖鎖構造を特異的に認識するレクチン活性を有する(非特許文献1)。シグレックファミリーに属する分子はそのほとんどが細胞外領域でシアル酸を含む糖鎖と結合すること、また細胞内領域でシグナル伝達分子と結合してシグナル伝達に関与することが知られている。
【0003】
一方、細胞の正常分化、癌性変化や免疫疾患などに伴って細胞表面の糖鎖構造が変化することが知られており、これらの変化を検出するものには、糖鎖を認識する抗体がよく用いられている(特許文献1)。また、このような抗体以外の、ヒト細胞或いは組織に発現する糖鎖構造を特異的に認識する蛋白質も、ガン細胞等の検出や抗体医療に類するドラッグデリバリーに有用であると考えられている(特許文献2、特許文献3)。一方、例えば、シグレック2タンパク質(別名CD22)、シグレック3タンパク質(別名CD33)等のシグレックファミリーに属する蛋白質は、抗体医療の標的として有用であることが知られている(非特許文献2、非特許文献3)。また、シグレック5タンパク質に関しても、骨髄性白血病細胞の検出に有用であることが報告されている(非特許文献4)。
【0004】
本発明者は、このような状況下、シグレックファミリータンパク質としてシグレック14タンパク質及びその遺伝子を見いだしており、シグレック14タンパク質は上記従来のシグレックファミリータンパク質にみられる免疫受容体チロシン含有抑制モチーフ(ITIM)を有せず、また、良好な糖鎖認識能を有すること、及びこのシグレック14タンパク質は、シグレック5タンパク質と部分的に99%以上の相同性を示すが、これら遺伝子の染色体上の所在及び糖鎖に対する活性が異なり別タンパク質であるとの知見を得ている(特許文献4)。
【0005】
しかし、このシグレック14タンパク質については、その発現状況と生体に対する影響或いは類似するシグレック5タンパク質との関係等についての詳細は未だ明らかにはなっていない。
【0006】
非溶血性輸血副作用は、輸血療法による副作用であって、溶血性副作用および感染性副作用ならびに輸血後GVHDなどを除いた副作用に総称される。その原因は、抗血漿成分抗体、抗白血球抗体、血液製剤中の炎症性サイトカインなどが想定されているが、未だ十分には解明されていない。非溶血性輸血副作用の頻度は、医療機関から日本赤十字社に報告される輸血副作用報告(年間約2,000例)のうち約90%を占め、軽微な副作用症例は報告されないことから、実際の症例数はこれを大幅に上回ると予想される。非溶血性輸血副作用の症例は、蕁麻疹や発熱などの軽症例が大部分を占めるが、重篤なアナフィラキシー反応、輸血関連急性肺障害(TRALI)による死亡例も報告されている(非特許文献5、6)。当該分野においては、非溶血性輸血副作用の原因特定と、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-67700号公報
【特許文献2】特開2004-244411号公報
【特許文献3】特開2003-246799号公報
【特許文献4】特開2006-345786号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nat Rev Immunol 7(4), 255-266(2007)
【非特許文献2】N Engl J Med. 345(4), 241-247(2001)
【非特許文献3】Blood 97(10), 3197-3204(2001)
【非特許文献4】Br J Haematol 123(3), 420-430(2003)
【非特許文献5】Japanese Journal of Transfusion Medicine, 49(4):553-558(2003)
【非特許文献6】日本赤十字社 輸血情報0807-114 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、シグレック14タンパク質が個人においてその発現状況に違いがあるか否か、或いは類似するシグレック5タンパク質とその機能において、或いはその遺伝子レベルで何らかの関係があるのか否か等について調べることにより、シグレック14タンパク質及び遺伝子に関連する新たな知見を得て、この知見に基づき医学的に有用な手段を提供する点にある。
【0010】
本発明の課題はまた、非溶血性輸血副作用に関与する血液製剤の特定方法、および非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保するための方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、シグレック14タンパク質は個人によって発現している者と発現していない者が存在し、シグレック14タンパク質を発現していない者は、シグレック14/5融合遺伝子を有し、シグレック14遺伝子には多型が存在することを見いだした。そして、この融合遺伝子のホモ接合型を有する者はシグレック14/5融合タンパク質(シグレック5タンパク質と同じアミノ酸配列を有する)を発現するが、シグレック14タンパク質を発現しておらず、この個人差が輸血事故の1因になりうるとの知見を得るとともに、シグレック14タンパク質を発現する細胞とシグレック14タンパク質を発現しない細胞とではTNF-αの産生量において顕著な差違を有するとの知見も得た。
【0012】
したがって、このシグレック14遺伝子の多型或いはこれに基づく対立遺伝子型を検出することは、上記輸血事故の防止或いは感染症に対する治療方針の決定において極めて重要であることを見出した。
【0013】
また、本発明者は、非溶血性輸血副作用に関与した血液と一般献血を比較すると、シグレック14に対するアロ抗体を含む頻度が前者において有意に高い事、また好中球を抗シグレック14抗体で刺激すると、好中球が活性化される事を見出した。これらの事実は、抗シグレック14アロ抗体が非溶血性輸血副作用に関与する可能性を強く示唆し、抗シグレック14アロ抗体を検出する事は、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保する上で極めて重要であることを見出した。
本発明者はこれらの知見を基に本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)配列番号1に示されるシグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対、該シグレック14遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブ又は配列番号4に示されるシグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬。
(2)シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、上記(1)に記載の検出用試薬。
(3)シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、配列番号7及び配列番号8で示される塩基配列を有するものであることを特徴とする、上記(2)に記載の検出用試薬。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の検出用試薬と、配列番号3で示されるシグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対とを組み合わせてなることを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬キット。
(5)シグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、上記(4)に記載の検出用試薬キット。
(6)シグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が配列番号7及び配列番号10で示される塩基配列を有するものであることを特徴とする、上記(5)に記載の検出用試薬キット。
(7)血液適合性検査薬として使用することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の検出用試薬。
(8)血液適合性検査薬として使用することを特徴とする、上記(4)〜(6)のいずれかに記載の検出用試薬キット。
(9)感染症の治療方針の決定のために使用することを特徴とする、上記(7)に記載の検出用試薬。
(10)感染症の治療方針の決定のために使用することを特徴とする、上記(8)に記載の検出用試薬キット。
【0015】
(11)配列番号3に示されるシグレック14/5融合遺伝子。
(12)上記(11)に記載のシグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対。
(13)シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、上記(12)に記載のプライマー対。
(14)配列番号7及び配列番号10で示される塩基配列を有する、上記(11)に記載のプライマー対。
(15)ヒトゲノムDNAを鋳型とし、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対或いは上記(4)又は(5)に記載の検出用試薬キットを用いてPCRを行い、シグレック14遺伝子の存在の有無或いはさらにシグレック14/5遺伝子の存在の有無を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
(16)上記(1)に記載のシグレック14遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブを、ヒトゲノムDNAに対しハイブリダイズさせ、シグレック14遺伝子の存在の有無を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
(17)上記(1)に記載のシグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を用いて、ヒト血液試料中のシグレック14タンパク質を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
(18)配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列を含むアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列を含むアミノ酸配列を有するタンパク質を発現する細胞を含有することを特徴とする、抗シグレック14抗体の検出用試薬。
(19)上記(18)に記載の抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いた、ヒト血液試料中の抗シグレック14抗体の検出方法。
(20)上記(18)に記載の抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いた、抗シグレック14抗体を含む血液製剤の特定方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、シグレック14遺伝子に多型が存在することを初めて見いだしたことに基づく。この知見に基づき作製された本発明の試薬は、シグレック14遺伝子を有する対立遺伝子型とシグレック14遺伝子を有しないシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型とを識別して検出することができる。この様な対立遺伝子型の検出結果は、輸血事故等の危険性を事前に排除し、或いは感染症などの治療方針を決定するために利用することができる。
【0017】
また本発明のシグレック14タンパク質又はシグレック14タンパク質発現細胞を含む抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いることによって、ヒト血液試料中の抗シグレック14抗体を検出することが可能である。この様な抗シグレック14抗体の検出結果は、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、シグレック14タンパク質特異的な抗体を用いた白血球のフローサイトメトリーによる解析の結果を示す図である。
【図2A】図2Aは、シグレック14タンパク質発現及びシグレック5タンパク質発現における個人差並びに遺伝子のフローサイトメトリーによる多型解析結果を示す図である。
【図2B】図2Bは、シグレック14遺伝子及びその多型に関するゲノムPCR解析の概略図を示す図である。図中の矢頭は各プライマーの位置と向きを示す。
【図2C】図2Cは、シグレック14遺伝子及びその多型に関するゲノムPCR解析の結果を示す模式図である。
【図2D】図2Dは、シグレック14遺伝子及びその多型に関するゲノムPCR解析の結果を示す図である。
【図3A】図3Aは、シグレック14タンパク質の強制発現とTNF-αの発現量の関係を解析した結果を示す図である。
【図3B】図3Bは、シグレック14タンパク質の強制発現とDAP12タンパク質の発現を抑制するsiRNAの導入によるTNF-αの発現量の解析結果を示す図である。
【図4】図4は、シグレック14発現細胞株を用いた抗シグレック14アロ抗体の検出方法を示す模式図である。
【図5】図5は、シグレック5又はシグレック14発現細胞株における導入遺伝子の発現解析結果を示す図である。
【図6】図6は、シグレック5又はシグレック14発現細胞株を用いた非溶血性輸血副作用の原因製剤中の抗シグレック14アロ抗体の検出結果を示す図である。
【図7】図7は、抗シグレック14抗体陽性血清を用いて刺激した好中球におけるMac-1抗原発現量の解析結果を示す図である。
【図8】図8は、抗シグレック14抗体陽性血清を用いて刺激した好中球によるHBP放出量の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型を検出するための試薬、及びこれを使用した同対立遺伝子型の検出方法に関する。
【0020】
従来、シグレック5(SIGLEC5)遺伝子とシグレック14(SIGLEC14)遺伝子の存在は知られていたが、その両者の融合遺伝子であるシグレック14/5遺伝子(SIGLEC14/5)の存在は知られていなかった。本発明においてはじめて見いだされたこの融合遺伝子は、シグレック14(SIGLEC14)タンパク質の特異的アミノ酸配列部分をコードする領域を欠損しており、その産物のアミノ酸配列はシグレック5(SIGLEC5)タンパク質と同一である。これらのシグレック14タンパク質のアミノ酸配列及びシグレック14遺伝子の塩基配列を、配列表の配列番号4及び1(うちタンパク質をコードする領域は塩基配列中1001番目〜4405番目)にそれぞれ示し、また、シグレック14/5融合遺伝子の産物(シグレック5タンパク質と同じ)のアミノ酸配列、及び該融合遺伝子の塩基配列を、同配列番号6及び配列番号3(うちタンパク質をコードする領域は塩基配列中1001番目〜19105番目)に示す。
【0021】
本発明者が得た知見によれば、シグレック14タンパク質の発現状況を個人毎に見れば、シグレック14タンパク質を発現している者と発現しない者が存在し、シグレック14遺伝子を有する者はシグレック14タンパク質及びシグレック5タンパク質を発現するが、上記シグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型の対立遺伝子型を有する者は、シグレック14タンパク質を欠損し、シグレック14/5融合タンパク質(シグレック5タンパク質と同じアミノ酸配列を有する)を発現する。また、シグレック14/5融合遺伝子を有するが、シグレック14遺伝子とのヘテロ接合型の対立遺伝子型を有する者はシグレック14タンパク質とシグレック5タンパク質及びシグレック14/5融合タンパク質(シグレック5タンパク質と同じアミノ酸配列を有する)を発現する。このシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型の対立遺伝子型を有する者の割合は世界において地域毎に異なるという興味深い結果も得られている(実施例4表1参照)。
【0022】
一方、シグレック14タンパク質は白血球上に発現しており、シグレック14タンパク質を欠損する個人にシグレック14タンパク質を発現する個人の血液を輸血すると、該輸血血液中の白血球表面に提示されたシグレック14タンパク質が血液型抗原として認識され、白血球に対する抗体が産生される可能性がある。
【0023】
輸血事故の原因抗原が多数知られているものの、その全容は明らかではないが、上記のようなシグレック14遺伝子の多型は、輸血事故の1因になり得、このような危険性はなるべく排除しておくことが必要である。
【0024】
また、シグレック14タンパク質を発現する細胞は、細菌由来のリポ多糖への炎症性サイトカイン(TNF-α)応答が、シグレック5タンパク質を発現する細胞を含めてシグレック14を発現しない細胞よりも強いというデータが得られている。この結果は、ウイルス、細菌、真菌、原虫などの感染に伴う炎症性サイトカインの産生をシグレック14タンパク質が制御していることを示すものと考えられ、シグレック14遺伝子の多型により感染症への感受性が変わる可能性が示唆され、シグレック14遺伝子の多型を検出することは、感染症に対する治療方針を決定する上で重要である。
【0025】
上記知見によれば、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子の型は、シグレック14遺伝子のみ有するホモ接合型〈野生型〉、シグレック14遺伝子とシグレック14/5遺伝子を有するヘテロ接合型及びシグレック14/5融合遺伝子のみを有するホモ接合型の3者に分けられる。前2者はともにシグレック14タンパク質とシグレック5タンパク質(又はシグレック5タンパク質と同じアミノ酸配列を有するシグレック14/5融合タンパク質)を発現し、一方、後者のシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型は、シグレック14タンパク質を発現せず、シグレック5タンパク質と同じアミノ酸配列を有するシグレック14/5融合タンパク質を発現するから、例えば、上記血液適合性及び感染症への対応においては、上記前2者とシグレック14/5融合遺伝子のみを有するホモ接合型とを識別できればよいことになり、このためには、シグレック14遺伝子の有無或いはシグレック14タンパクの有無を検出すれば良いことになる。
【0026】
すなわち、本発明のシグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型検出用試薬は、シグレック14遺伝子或いはシグレック14タンパク質の有無を検出するものであり、この検出手段の第一の態様として、本発明においてはシグレック14遺伝子をPCRにより特異的に増幅するプライマー対を使用するものである。
【0027】
シグレック14遺伝子を特異的に増幅する各プライマーは、シグレック14遺伝子中の塩基配列に基づき設計するが、シグレック14/5融合遺伝子或いはシグレック5遺伝子を増幅させないことが必要であり、各プライマーは、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子における保存領域(共通配列部分)の外側(保存領域より5’側及び3’側)の塩基配列を選択して設計する。シグレック14遺伝子の保存領域は配列番号1の塩基配列中、753番目〜2110番目にあり、シグレック14遺伝子の検出用プライマー対のうちフォワードプライマーは、753番目より5’末端側の領域を、またリバースプライマーは、2110番目より3’末端側の領域を選択して設計する。
【0028】
これら各プライマーの塩基長については特に制限はないが、アニーリング温度並びにアニーリングの特異性等の点から、15〜40塩基、好ましくは20〜35塩基である。
より具体的なプライマーとしては、フォワードプライマーとしては、配列番号7に示されるもの、リバースプライマーとしては配列番号8に示すものが挙げられる。
【0029】
これらプライマーを用いて、シグレック14遺伝子を検出する手法は、例えば以下のとおりである。
すなわち、ゲノムDNAをテンプレートに用いたPCRによりシグレック14遺伝子の有無を判定する。
【0030】
このためには、まず、例えば、被験者から採取された末梢血或いは口腔擦過試料などのヒト由来試料からゲノムDNAを抽出・精製する。精製法はプロテイナーゼ消化、フェノール・クロロホルム抽出、エタノール沈殿などの組み合わせによるものでもよく、また市販のゲノムDNA精製キットなどを用いてもよい。
【0031】
次いで、精製したゲノムDNAを鋳型に用いたPCR反応を行う。具体的には、耐熱性DNAポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオシド三リン酸混合物、PCR反応に適したバッファー、鋳型となるゲノムDNAと、シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対を添加し、反応液を調製する。反応液を適当な反応容器(反応液の蒸散を防ぐ物が望ましい)に入れ、鋳型DNAの熱溶解、鋳型DNAとプライマーのアニーリング、DNAポリメラーゼによるDNA伸長反応からなるPCR反応を行う。この反応にはサーマルサイクラーを用いるのが望ましい。
【0032】
PCR反応後、生成したPCR反応産物を検出する。これには反応液に二本鎖DNA検出試薬(例えばSYBR Greenやエチジウムブロマイドなど)を直接添加し、適当な光源の存在下で反応産物を検出するか、或いは反応産物をアガロースゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動などで分離し、二本鎖DNA検出試薬(例えばSYBR Greenやエチジウムブロマイドなど)を用いてPCR反応産物を検出する。
【0033】
遺伝子型の判定は、ある特定のヒト試料からシグレック14遺伝子特異的な反応産物が検出されない場合にシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型と判定する。
【0034】
本発明の検出手段の第二の態様として、本発明においてはシグレック14遺伝子に特異的なプローブを挙げることができる。
シグレック14遺伝子を特異的に検出する核酸プローブは、シグレック14遺伝子中の塩基配列に基づき設計するが、シグレック14/5融合遺伝子或いはシグレック5遺伝子にアニールしないことが必要である。シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の保存領域(共通配列部分)を避け、かつシグレック14遺伝子に特異的な領域はシグレック14遺伝子における保存領域の3’側であり、かつシグレック5遺伝子における保存領域の5’側である。従ってシグレック14遺伝子を特異的に検出する核酸プローブは、かかる塩基配列を選択して設計する。シグレック14遺伝子の保存領域は配列番号1の塩基配列中、753番目〜2110番目にあり、シグレック14遺伝子の検出用核酸プローブは2110番目より3’末端側の領域を選択して設計する。
【0035】
核酸プローブの塩基長については特に制限はないが、アニーリング温度やアニーリングの特異性等から、20〜10000塩基対程度、好ましくは20〜1000塩基対程度である。
より具体的な核酸プローブとしては、配列番号15〜17に示されるものが挙げられるが、当然これらと相補の配列を有する物であっても良い。
【0036】
かかる核酸プローブを用いて、シグレック14遺伝子を検出する手法は、例えば以下のとおりである。
すなわち、ヒトゲノムDNAを用いたサザンブロッティングによりシグレック14遺伝子の有無を判定する。
【0037】
このためには、まず、例えば、被験者から採取された末梢血或いは口腔擦過試料などのヒト由来試料からゲノムDNAを抽出・精製する。精製法はプロテイナーゼ消化、フェノール・クロロホルム抽出、エタノール沈殿などの組み合わせによるものでもよく、また市販のゲノムDNA精製キットなどを用いてもよい。
【0038】
次いで、かかるゲノムDNAを直接ナイロン膜などの薄膜に固相化するか、或いは適当な方法(制限酵素等による消化など)で断片化しアガロースゲル電気泳動などにより分離した後、ナイロン膜などの薄膜に転写し固相化する。
【0039】
次いで、シグレック14遺伝子と特異的にハイブリダイズする核酸プローブを調製し、ラベルを導入し、薄膜上のゲノムDNAとハイブリダイズさせる。この際に用いるラベルは放射性同位元素(32P、33P、35S等)、蛍光色素(Cy3やCy5等)、或いはビオチンやジゴキシゲニンなどのエピトープを用いる。ビオチンやジゴキシゲニンなどのエピトープを導入した場合は、核酸プローブの検出に二次検出試薬(蛍光色素を結合したストレプトアビジンや抗ジゴキシゲニン抗体など)を必要とする。ハイブリダイズしなかったプローブを洗浄操作により除いた後、ハイブリダイズした核酸プローブをラベル法に応じた至適の方法で検出する。
【0040】
或いは、シグレック14遺伝子特異的な核酸プローブを薄膜或いはガラス面などに固相化し、適当な方法(機械的剪断、制限酵素等による消化など)で断片化しラベルを導入したゲノムDNAをハイブリダイズさせる。この際に用いるラベルは放射性同位元素(32P、33P、35S等)、蛍光色素(Cy3やCy5等)、或いはビオチンやジゴキシゲニンなどのエピトープを用いる。ビオチンやジゴキシゲニンなどのエピトープを導入した場合は、核酸プローブの検出に二次検出試薬(蛍光色素を結合したストレプトアビジンや抗ジゴキシゲニン抗体)を必要とする。ハイブリダイズしなかったプローブを洗浄操作により除いた後、ハイブリダイズしたゲノムDNAをラベル法に応じた至適の方法で検出する。
【0041】
遺伝子型の判定は、ある特定のヒト試料からシグレック14遺伝子特異的な核酸プローブとゲノムDNAのハイブリダイゼーションシグナルが検出できない場合にシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型と判定する。
【0042】
本発明の検出手段の第三の態様としては、シグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を挙げることができる。該抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でも良い。
【0043】
これら抗体は従来周知の方法で調製できる。例えばポリクローナル抗体は、シグレック14タンパク質を用いて、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ロバ等の動物を免疫感作し、一定期間経過後血清を採取し、プロテインA、プロテインG、抗原タンパク質、抗原ペプチドなどを固相化したカラムなどで精製して得る。また、モノクローナル抗体は、上記と同様に免疫感作し、一定期間経過後、例えば脾臓細胞を採取し、該細胞とミエローマ細胞とを細胞融合し、得られたハイブリドーマをスクリーニングし、シグレック14タンパク質に対する抗体産生ハイブリドーマから採取する。
【0044】
ポリクローナル抗体の場合は、免疫に用いる抗原としてシグレック14タンパク質に特有の部分を用いることにより、シグレック5タンパク質を含む他のシグレックタンパク質と交差反応しない抗体を得る。或いは、シグレック14タンパク質の一部又は全体を抗原に用いて抗体を作成した後、シグレック5タンパク質の一部(シグレック14タンパク質と高い配列相同性を示す部分を含む)又は全部と交差反応する画分を吸着などにより除き、シグレック14タンパク質に特異的な抗体を得る。
【0045】
モノクローナル抗体の場合は、免疫に用いる抗原としてシグレック14タンパク質に特有の部分を用いることにより、シグレック5タンパク質と交差反応しない抗体を得る。或いは、シグレック14タンパク質の一部又は全体を抗原に用いてハイブリドーマを作成した後、シグレック5タンパク質の一部(シグレック14タンパク質と高い配列相同性を示す部分を含む)又は全部と交差反応するハイブリドーマをスクリーニングにより除き、シグレック14タンパク質に特異的な抗体を得る。
【0046】
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体いずれの場合も、ヒト由来の他のシグレック(例えばシグレック6)に交差反応しないことを確認することが望ましい。
【0047】
このような抗体を使用してシグレック14タンパク質を検出するには、白血球のフローサイトメトリーによる解析によりシグレック14タンパク質の有無を判定する。
【0048】
シグレック14タンパク質が検出されれば、シグレック14遺伝子のみ有するホモ接合型〈野生型〉か、或いはシグレック14遺伝子とシグレック14/5融合遺伝子を有するヘテロ接合型であり、シグレック14タンパク質が検出されなければ、シグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型と判定できる。
【0049】
具体的には、被験者の血液を血液凝固を防ぐ試薬(EDTA、クエン酸、ヘパリンなど)を含む採血管に採取し、試料として用いる。血液から塩化アンモニウムなどを用いた赤血球の溶血により白血球を単離してもよく、また望ましい。フィコールなどを用いた密度勾配遠心法などにより白血球を単離してもよい。
【0050】
ヒト白血球(又は全血)試料に抗シグレック14抗体を添加し、一定時間保温した後、洗浄により結合しなかった抗体を除く。抗体はラベルなしの物でも良く、また蛍光色素(フルオレセイン、R-フィコエリスリン、アロフィコシアニンなど、使用する機器で検出可能な蛍光色素)或いはビオチンなどでラベルした物を用いても良い。ラベルなしの抗シグレック14抗体を用いる場合は、この抗体の作製に用いた動物の免疫グロブリンを認識する二次抗体(蛍光色素又はビオチンなどでラベルした物)、ビオチンなどでラベルした抗体を用いる場合はこのラベルと特異的に結合するプローブ(蛍光色素ラベルしたストレプトアビジンなど)を二次試薬に用いて検出する。
【0051】
結合しなかった抗体を洗浄操作により除き、フローサイトメーターを用いて白血球上のシグレック14タンパク質の有無を検証する。この際、Tリンパ球以外の白血球画分のいずれを用いてもシグレック14タンパク質の有無を検討可能であるが、細胞数の多さとシグレック14タンパク質の発現レベルの高さなどを考慮し、顆粒球、単球、或いはBリンパ球上でのシグレック14タンパク質の発現を検討することが望ましい。
【0052】
上記した検査手段は、いずれも、シグレック14遺伝子のみ有するホモ接合型〈野生型〉、シグレック14遺伝子とシグレック14/5融合遺伝子を有するヘテロ接合型及びシグレック融合14/5遺伝子のみ有するホモ接合型の3者のうち、前2者と後一者を識別するものであるが、本発明においてはこれら3者のそれぞれを識別することも可能である。
【0053】
これには、さらに、シグレック14/5融合遺伝子の特異的増幅用プライマー対を用いてPCRを行う。
シグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマー対は、該融合遺伝子におけるシグレック14遺伝子に由来する塩基配列とシグレック5遺伝子に由来する塩基配列部分に基づき設計するが、これらプライマー対を構成する各プライマーは、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子における保存領域(共通配列部分)の外側(保存領域より5’側及び3’側)の塩基配列を選択して設計することが好ましい。
【0054】
シグレック14遺伝子の保存領域は配列番号1の塩基配列中、753番目〜2110番目にあり、シグレック14/5融合遺伝子の検出用プライマー対のうちフォワードプライマーは、753番目より5’末端側の領域を選択して設計する。すなわち、フォワードプライマーはシグレック14遺伝子検出用フォワードプライマーと同様でよい。
【0055】
シグレック5融合遺伝子の保存領域は配列番号2(うちタンパク質をコードする領域は塩基配列中1001番目〜19105番目)の塩基配列中、753番目〜2114番目にあり、シグレック14/5融合遺伝子の検出用プライマー対のうちリバースプライマーは、2114番目より3’末端側の領域を選択して設計する。
【0056】
これら各プライマーの塩基長については、上記シグレック14遺伝子増幅用プライマーと同様でよく、また、これらプライマーを用いて、シグレック14/5融合遺伝子を検出する手法も、上記シグレック14遺伝子増幅用プライマーと同様でよい。
このプライマー対の具体的塩基配列は、配列番号7及び10に示される。
【0057】
上記したように、シグレック14遺伝子増幅用プライマー、同遺伝子検出用プローブ或いはシグレック14タンパク質の認識抗体を使用してシグレック14遺伝子或いはシグレック14タンパク質が検出された場合は、シグレック14遺伝子のホモ接合型か或いはシグレック14とシグレック14/5のヘテロ接合型のいずれかである。このように判定された試料について、さらに、シグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマーを用いて、シグレック14/5融合遺伝子が検出された場合には、シグレック14とシグレック14/5のヘテロ接合型であると判定でき、シグレック14遺伝子のホモ接合型と、シグレック14とシグレック14/5のヘテロ接合型とを識別できる。
【0058】
また、シグレック14遺伝子及びシグレック14タンパク質が検出されなかった場合、このシグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマーを用いて、シグレック14/5融合遺伝子の有無を解析することにより、シグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型であることを確認でき、正確性を増す。
【0059】
このようなシグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマー対は、上記シグレック14遺伝子増幅用プライマー対、同プローブ或いはシグレック14タンパク質の抗体と組み合わされ、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬キットとして使用できる。また、シグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマー対は、シグレック14遺伝子の多型検出に用いることができる。
【0060】
一方、シグレック5遺伝子、シグレック14遺伝子、シグレック14/5融合遺伝子に保存された配列領域に注目し、二倍体ゲノムあたりの保存領域のコピー数が野生型:ヘテロ接合体:ホモ接合体で4:3:2であることを利用して遺伝子型を判定しても良い。具体的には、ヒト試料由来のゲノムDNAを鋳型に用い、上記の保存領域を増幅するプライマー対を用いて定量的PCRを実施し、遺伝子型既知の同量のヒトゲノムDNA(野生型、ヘテロ接合体、ホモ接合体)を定量標準品として用いた反応産物の定量的な比較により、遺伝子型を判定する。
【0061】
本発明は、シグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬、及びこれを使用したシグレック14タンパク質に対する抗体の検出方法に関する。
【0062】
本発明において、シグレック14タンパク質に対する抗体とは、ヒト血液試料、好ましくは血液製剤中に含まれるシグレック14タンパク質に対するアロ抗体が好ましい。下記実施例にて詳述されるように、非溶血性輸血副作用に関与した血液試料と一般献血試料とを比較すると、シグレック14に対するアロ抗体を含む頻度が前者において有意に高く、また好中球を抗シグレック14抗体陽性血漿で刺激すると、当該好中球は活性化される。これらの事実は、抗シグレック14アロ抗体が非溶血性輸血副作用に関与する可能性を強く示唆する。したがって、本発明により血液試料中の抗シグレック14アロ抗体を検出することによって、非溶血性輸血副作用に関与し得る血液試料を排除して、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保することができる。
【0063】
本発明のシグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬は、シグレック14タンパク質又はシグレック14タンパク質発現細胞を含む。
【0064】
シグレック14は公知であり、配列情報がGenBankなどのデータベースに公開されている。ヒトシグレック14の配列情報は、例えばアクセッション番号AAX47338, NP_001092082等として、GenBankに登録されておりこれらを利用することが可能である。
【0065】
シグレック14タンパク質は、GenBankなどに登録された公知のアミノ酸配列を有するシグレック14タンパク質を用いることができるが、好ましくは配列番号4で示されたアミノ酸配列を有するシグレック14タンパク質を用いる。
【0066】
また、配列番号4で示される配列は、細胞外領域であるN末端Vセット免疫グロブリン様領域及びC2セット免疫グロブリン様領域、膜貫通領域並びに細胞内領域を含む。本発明におけるシグレック14タンパク質には少なくとも、細胞外領域(配列番号4においては、1番目から358番目の配列が細胞外領域部分に相当する)に含まれるシグレック14に特異的な領域が含まれていれば良い。「シグレック14に特異的な領域」とは、シグレック14タンパク質の細胞外領域のアミノ酸配列とシグレック5タンパク質の細胞外領域のアミノ酸配列を比較した場合に、シグレック14タンパク質の細胞外領域にのみ含まれるアミノ酸配列を意味する。配列番号4においては、238番目から358番目のアミノ酸配列がシグレック14に特異的な領域に相当する。したがって、本発明におけるシグレック14タンパク質は、配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列を含む配列からなるタンパク質を含む。
【0067】
さらに、本発明におけるシグレック14タンパク質には、シグレック14の変異体も包含される。このような変異体は、抗シグレック14抗体に認識され結合され得る限り、天然の突然変異体及び人工変異体のいずれも含まれ、配列番号4又は配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列に示されるアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつ抗シグレック14抗体に認識され結合され得るタンパク質、或いは、該アミノ酸配列とBLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、例えば93%以上、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ抗シグレック14抗体に認識され結合され得るタンパク質が含まれる。「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、或いは1個又は2個である。
【0068】
本発明におけるシグレック14タンパク質は、一般的な遺伝子組換え技術によって作製することができる。簡単に説明すると、シグレック14タンパク質の作製は、当該タンパク質をコードするDNAを用意し、このDNAを含む発現ベクターを構築し、当該ベクターで原核又は真核細胞(例えば、これらに限定されないが、E. coli、酵母、SF9細胞、SF21細胞、COS1細胞、COS7細胞、CHO細胞、HEK293細胞など)を形質転換又はトランスフェクションし、得られた細胞の培養から目的の組換えタンパク質を回収することを含む。タンパク質の精製は、タンパク質の一般的な精製法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、有機溶媒沈殿、透析、電気泳動、クロマトフォーカシング、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、HPLCなどを適宜組み合わせることによって実施可能である。
【0069】
上記DNAや発現ベクターに関しては、後述のシグレック14タンパク質発現細胞の作製についての記述、及び実施例等を参照することができる。
【0070】
本発明におけるシグレック14タンパク質は、ポリペプチドのC末端又はN末端に標識ペプチドを結合させた融合タンパク質の形態であっても良い。代表的な標識ペプチドには、6〜10残基のヒスチジンリピート(Hisタグ)、FLAG、mycペプチド、GFPポリペプチドなどが挙げられるが、標識ペプチドはこれらに限られるものではない。
【0071】
また、本発明におけるシグレック14タンパク質は、抗シグレック14抗体が認識し結合し得る限り化学修飾されていてもよい。化学修飾には、非限定的に、例えばグリコシル化、ペグ(PEG)化、アセチル化、アミド化、リン酸化などが挙げられる。
【0072】
さらに、本発明におけるシグレック14タンパク質は、固相担体に結合されていても良い。固相担体の形状や材質は特に限定されない。形状としてはプレート状、フィルム状、球状又は不定形状等の粒子状が挙げられる。また、材質としては、ガラス、セラミックス、各種プラスチックが挙げられる。
【0073】
シグレック14タンパク質発現細胞は、その細胞膜上にシグレック14タンパク質を発現する。
当該細胞は、シグレック14タンパク質をコードするDNAを用意し、このDNAを含む発現ベクターを構築し、当該ベクターで宿主細胞を形質転換又はトランスフェクションすることによって得ることができる。
【0074】
シグレック14タンパク質をコードするDNAは、好ましくは配列番号20で示された塩基配列を有するDNAを用いる。配列番号20で示される塩基配列は、シグレック14タンパク質の細胞外領域、膜貫通領域及び細胞内領域を含む。本発明においてシグレック14タンパク質をコードするDNAには、少なくとも上記シグレック14に特異的な領域をコードするが塩基配列含まれていれば良く、好ましくは少なくともシグレック14に特異的な領域及び膜貫通領域をコードする塩基配列が含まれていればよい。配列番号20においては、712番目から1074番目の配列がシグレック14に特異的な領域コードする塩基配列、1075番目から1143番目の配列が膜貫通領域コードする塩基配列に相当する。すなわち、本発明におけるシグレック14タンパク質をコードするDNAは、配列番号20の少なくとも712番目から1074番目および1075番目から1143番目の配列を含む塩基配列を含む。
【0075】
また、シグレック14タンパク質をコードするDNAには、配列番号20、または配列番号20の少なくとも712番目から1074番目および1075番目から1143番目の配列に示される配列を有するDNAにおいて、1から数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつ抗シグレック14抗体に認識され結合され得るタンパク質をコードするDNAも含まれる。「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個又は2個である。また、シグレック14タンパク質をコードするDNAには、配配列番号20、または配列番号20の少なくとも712番目から1074番目および1075番目から1143番目の配列に示される配列からなるDNAに相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ抗シグレック14抗体に認識され結合され得るタンパク質をコードするDNAも含まれる。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、ナトリウム濃度が、10mM〜300mM、好ましくは20〜100mMであり、温度が25℃〜70℃、好ましくは42℃〜55℃での条件をいう。さらに、シグレック14タンパク質をコードするDNAには配列番号20、または配列番号20の少なくとも712番目から1074番目および1075番目から1143番目の配列とBLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ抗シグレック14抗体に認識され結合され得るタンパク質をコードするDNAも含まれる。
【0076】
当該シグレック14タンパク質をコードするDNAを、公知の発現ベクターに挿入する。
本発明に用いることができるベクターとしては、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター)、非ウイルスベクターなどを用いることができるが、好ましくはウイルスベクターである。
【0077】
発現ベクターには、シグレック14タンパク質を発現するためにいくつかの制御エレメントを含むことができる。制御エレメントには、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリA付加シグナル、複製開始点、選択マーカー、リボソーム結合配列、ターミネーターなどが含まれる。
【0078】
発現ベクターを用いた宿主細胞の形質転換又はトランスフェクションとしては、当業者に公知の一般的な手法を用いることが可能であり、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、アグロバクテリウム法、ウイルス感染法、リポソーム法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法、リポフェクション法などが挙げられる。
【0079】
宿主細胞としては、健常人の血液、血清および/または血漿との反応性が低い哺乳動物細胞(好ましくはヒト細胞)を利用することが可能であり、特に好ましくはK562細胞を用いる。
【0080】
本発明のシグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬には、上記シグレック14タンパク質又は上記シグレック14タンパク質発現細胞の他に、通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、浸潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、着色料、及び安定化剤などを含んでも良い。
【0081】
本発明のシグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬を用いて、ヒト血液試料、好ましくは献血、輸血用血液、血液製剤中に含まれる抗シグレック14抗体を検出することができる。
【0082】
また、本発明のシグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬を用いて、抗シグレック14抗体を含むヒト血液試料、好ましくは献血、輸血用血液、血液製剤を判別し、除去することが可能であり、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保するために利用することができる。
【0083】
当該抗体の検出には、抗体結合を検出するための一般的な手法を用いることが可能であり、例えば、免疫組織化学、ウェスタンブロット、酵素免疫測定法(EIA)(酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)等)、ラジオイムノアッセイ(RIA)及びフローサイトメーター(FCM)等を用いることができる。例えば、本発明のシグレック14タンパク質に対する抗体を検出するための試薬と血液試料、好ましくは血液製剤とを、4℃〜37℃にて0.25時間〜一晩、好ましくは4℃にて15分間インキュベートして、シグレック14タンパク質又はシグレック14タンパク質発現細胞と血液試料、好ましくは血液製剤中に含まれる抗シグレック14抗体とを反応させる。次に、シグレック14タンパク質又はシグレック14タンパク質発現細胞へ結合した抗シグレック14抗体を上記方法により検出する。
【0084】
下記実施例にて詳述されるように、非溶血性輸血副作用に関与した血液試料と一般献血試料を比較すると、シグレック14に対するアロ抗体を含む頻度が前者において有意に高い。
【0085】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
シグレック14特異的な抗体を用いた白血球のフローサイトメトリーによる解析
ヒト末梢血由来白血球をシグレック5タンパク質とシグレック14タンパク質の両者を認識する抗体(clone 194128, R&D Systems;上段)、シグレック5タンパク質を特異的に認識する抗体(clone 4H7;中段)、シグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体(下段)でそれぞれ染色し、フローサイトメトリーで解析した。結果を図1に示す。なお、白血球の副集団(各系統マーカーによる染色性に基づいて判定)ごとに表示した。図中、灰色はコントロール抗体で染色した細胞集団のヒストグラムである。mDC:骨髄球系樹状細胞、pDC:形質細胞様樹状細胞である。
【0087】
これによれば、シグレック14タンパク質はT細胞を除く広範な白血球サブセットに発現していた。シグレック14タンパク質の発現パターンはシグレック5タンパク質のそれと重複していた。
【0088】
本実施例で行った実験手法の詳細は以下のとおりである。
抗体の作製:
抗シグレック14抗体(ウサギポリクローナル抗体)は以下の方法で作製した。
ヒトシグレック14タンパク質の細胞外領域(配列番号4のアミノ酸残基1〜342番目)とFLAG配列(DYKDDDDK)(配列番号18)及びヒト免疫グロブリンGのヒンジ+Fc領域からなるシグレック14-Fc融合タンパク質を発現するベクターを作製し、293細胞又はCHO細胞に導入し、培養上清から目的の融合タンパク質数ミリグラムを得た(特許文献4)。同様の方法により、ヒトシグレック5タンパク質の細胞外領域(配列番号5のアミノ酸残基1〜334番目又は1〜427番目)とFLAG配列及びヒト免疫グロブリンGのヒンジ+Fc領域からなるシグレック5-Fc融合タンパク質を発現するベクターを作製し、293細胞又はCHO細胞に導入し、培養上清から目的の融合タンパク質数ミリグラムを得た。これらシグレック14-Fc融合タンパク質、シグレック5-Fc融合タンパク質をそれぞれAffiGel 15(Bio-Rad社)に固相化(1 mg/0.5 ml)し、アフィニティ精製用の担体を作製した。
【0089】
一方、シグレック14-Fc融合タンパク質をエンテロキナーゼ処理したのち、ヒト免疫グロブリンGのヒンジ+Fc領域をprotein A-Sepharoseとのインキュベーションにより除去し、ヒトシグレック14タンパク質の細胞外領域とFLAG配列からなる部分タンパク質を得た。この部分タンパク質を常法に従ってウサギに免疫し、抗血清を得た。
【0090】
上記で作製したシグレック14-Fc融合タンパク質を固相化したアフィニティ精製用の担体と抗血清を混合し、4℃で終夜インキュベートした。担体に結合しなかったタンパク質を洗浄用バッファー(ダルベッコPBS)により除去したのち、担体に結合した抗体を溶出用バッファー(0.1 Mグリシン塩酸バッファー、pH 3.0)を用いて溶出し、中和バッファー(1 Mトリス塩酸、pH 8.0)で中和した。得られた抗体画分(シグレック14-Fc融合タンパク質を認識する抗体)のバッファーを限外濾過によりダルベッコPBSに置換した後、上記で作製したシグレック5-Fc融合タンパク質を固相化したアフィニティ精製用の担体と混合し、4℃で終夜インキュベートした。担体に結合しなかった抗体(すなわちシグレック14-Fc融合タンパク質を認識するがシグレック5-Fc融合タンパク質を認識しない抗体)を回収し、シグレック14タンパク質特異的な抗体とした。必要な場合はシグレック5-Fc融合タンパク質を固相化したアフィニティ精製用の担体と再度インキュベートし、シグレック5タンパク質と交差反応する抗体画分を除去した。
【0091】
抗シグレック5抗体(マウスモノクローナル抗体)は以下のような方法で作製した。
ヒトシグレック5タンパク質のシグナルペプチド、リンカー領域、免疫グロブリン様領域3及び4(配列番号5のアミノ酸残基1〜19+234〜427番目)とFLAG配列及びヒト免疫グロブリンGのヒンジ+Fc領域からなるシグレック5-Fc融合タンパク質を発現するベクターを作製し、293細胞又はCHO細胞に導入し、培養上清から目的の融合タンパク質数ミリグラムを得た。かかるシグレック5-Fc融合タンパク質をエンテロキナーゼ処理したのち、ヒト免疫グロブリンGのヒンジ+Fc領域をprotein A-Sepharoseとのインキュベーションにより除去し、ヒトシグレック5タンパク質の免疫グロブリン様領域3及び4とFLAG配列からなる部分タンパク質を得た。この部分タンパク質を常法に従ってBALB/cマウス数匹に免疫し、脾臓を採取し、ポリエチレングリコールを用いて脾細胞とマウス由来ミエローマ細胞(P3U1細胞株)を融合した。HAT選択により得られたハイブリドーマの上清を用いてシグレック5タンパク質及びシグレック14タンパク質に対する反応性を検討し、シグレック5タンパク質のみを認識する抗体を産生する株を選択した。更に限界希釈法により細胞を単クローン化し、シグレック5タンパク質を認識しシグレック14タンパク質を認識しない抗体を産生するハイブリドーマのクローン(4H7)を得た。
【0092】
白血球の染色と解析:
健常人ドナーから同意のもと末梢血数十mlを採取し、ACK溶血液(150 mM塩化アンモニウム、10 mM炭酸水素カリウム、0.1 mMエチレンジアミン四酢酸)を用いて赤血球を溶血させた。この液から遠心操作により得られた白血球を数回染色用バッファー(1%ウシ血清アルブミン、0.02%アジ化ナトリウムを含むダルベッコPBS)で洗浄した後、ヒトIgG(1 mg/ml)を含む染色用バッファーに107細胞/mlになるよう懸濁して氷浴上でインキュベートし、Fcγ受容体をブロックした。細胞懸濁液を3等分し、抗シグレック5抗体(クローン4H7)とアロフィコシアニン標識抗マウスIgG1抗体Fab断片(Zenon Mouse IgG1 Labeling Kit、Invitrogen社)の複合体、又はシグレック5とシグレック14の両者を認識する市販抗体(R&D Systems社、クローン194128)とアロフィコシアニン標識抗マウスIgG1抗体Fab断片(Zenon Mouse IgG1 Labeling Kit、Invitrogen社)の複合体、又は抗シグレック14ウサギポリクローナル抗体とアロフィコシアニン標識抗ウサギIgG抗体Fab断片(Zenon Rabbit IgG Labeling Kit、Invitrogen社)の複合体と氷浴上でインキュベートした。遠心操作により細胞を集め、さらに染色用バッファーで洗浄した後、各画分を細胞系譜マーカー抗体(フィコエリスリン標識した抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗CD19抗体、抗CD56抗体、抗CD14抗体、抗BDCA-1抗体、又は抗BDCA-2抗体)を添加し、氷浴上でインキュベートした。遠心操作により細胞を集め、さらに染色用バッファーで洗浄した後、染色用バッファーに懸濁し、488 nm及び633 nmのレーザーを搭載したフローサイトメーター(BD Flowcytometry社製FACSAria)を用いて解析した。
【0093】
(実施例2)
シグレック14遺伝子の多型の解析
1)シグレック14タンパク質を発現しない個人の同定
複数の健常人ドナーから末梢血を採取し、実施例1と同様の方法を用いて顆粒球におけるシグレック14タンパク質及びシグレック5タンパク質発現のフローサイトメトリーによる解析を行った。結果を図2Aに示す。これによれば、全ての個人はシグレック5タンパク質(又はこれと同一のアミノ酸配列を有するタンパク質)を発現するが、ドナー3と5はシグレック14タンパク質を発現していない。
【0094】
2)シグレック14タンパク質の発現とシグレック14遺伝子の多型の関連の解析
シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子は近接しており、両者の間に極めて相同性の高い領域が存在することから、この2つの遺伝子間で組み換えが起こり、シグレック14/5融合遺伝子が生じた(その産物のアミノ酸配列はシグレック5タンパク質のそれと同一である)と仮定し、シグレック14遺伝子、シグレック5遺伝子、シグレック14/5融合遺伝子をそれぞれ特異的に増幅する以下に示すプライマーセットを用いたゲノムPCRを行った。ゲノムPCRの概略図を図2Bに、PCR産物の電気泳動像の模式図を図2Cに示す。
シグレック14遺伝子増幅用プライマー
フォワードプライマー(14F)
AGGATTTATTCTCCCATCTCGCT(配列番号7)
リバースプライマー(14R)
GATGCTGATGGCGAGGTTCTG(配列番号8)
シグレック5遺伝子増幅用プライマー
フォワードプライマー(5F)
GTGGTTCTGACATCTCACCTCATC(配列番号9)
リバースプライマー(5R)
CCTGAAGATGGTGATGGTCTG(配列番号10)
シグレック14/5融合遺伝子増幅用プライマー
フォワードプライマー(14F)
AGGATTTATTCTCCCATCTCGCT(配列番号7)
リバースプライマー(5R)
CCTGAAGATGGTGATGGTCTG(配列番号10)
【0095】
プライマー対5F+5Rはシグレック5遺伝子の一部を、プライマー対14F+14Rはシグレック14遺伝子の一部を特異的に増幅する。プライマー対14F + 5Rはシグレック14/5融合遺伝子が存在する場合にはこの遺伝子の約1.7 kbの領域を増幅する。同じプライマー対を用いて野生型アリルから約17 kbの断片が生じうるが、本実験で用いた反応条件下ではこの産物は生じない。
【0096】
図2Aと同じ個人のゲノムDNAを用いた遺伝子型解析の結果を図2Dに示す。予想通りドナー3と5はシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合体であった。
【0097】
本実施例で行った実験手法の詳細は以下のとおりである。
プライマーのデザイン:
ゲノムPCR用のプライマーのデザインは下記のように行った。シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子をそれぞれ特異的に増幅するためのプライマーは、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の間で高度の配列相同性を示す領域の上流(フォワードプライマー)と下流(リバースプライマー)に設定しなければならない。高度に保存された領域はシグレック14遺伝子では配列番号1の753番目〜2110番目の塩基、シグレック5遺伝子では配列番号2の753番目〜2114番目の塩基である。またDNAの増幅効率に鑑み、プライマー対で増幅するべき領域は短い方が望ましい。以上の要件から、シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対としてはフォワードプライマーを配列番号1の588番目〜610番目の塩基配列、リバースプライマーを配列番号1の2238番目〜2258番目の塩基の相補配列とした。またシグレック5遺伝子を特異的に増幅するプライマー対としてはフォワードプライマーを配列番号2の605番目〜628番目の塩基配列、リバースプライマーを配列番号2の2268番目〜2288番目の塩基の相補配列とした。シグレック14/5融合遺伝子の検出には、シグレック14遺伝子の増幅に用いたフォワードプライマーとシグレック5遺伝子の増幅に用いたリバースプライマーを用いることとした。
【0098】
ゲノムDNAの調製:
健常人ドナー5名から同意のもと末梢血約10 mlを採取し、ACK溶血液(150 mM塩化アンモニウム、10 mM炭酸水素カリウム、0.1 mMエチレンジアミン四酢酸)を用いて赤血球を溶血させた。この液から遠心操作により白血球を得た。得られた白血球(5 x 106細胞)からDNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN社)を用いてゲノムDNAを精製した。
【0099】
PCR:
PCR反応には下記のような組成の反応液(20μl)を用いた。すなわち、ゲノムDNA 100 ng、プライマー各0.3μM、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)各0.2 mM、耐熱性DNAポリメラーゼExpand High Fidelity enzyme(ロシュ・ダイアグノスティクス)0.5ユニット、塩化マグネシウム1.5 mM、1 x Expand High Fidelity Buffer(ロシュ・ダイアグノスティクス)。
【0100】
反応サイクルは下記の条件を用いた。
94℃、2分
続いて(94℃、15秒;56℃、30秒;72℃、90秒)を10サイクル
続いて(94℃、15秒;56℃、30秒;72℃、90秒+各サイクル5秒ずつ延長)を20サイクル
続いて72℃、7分
【0101】
アガロースゲル電気泳動:
上記のPCR反応産物(各レーン10μl)を、1%アガロースゲルを用いてTAEバッファー(40 mMトリス、40 mM酢酸、0.1 mMエチレンジアミン四酢酸)中で電気泳動し、反応産物を分離した。エチジウムブロマイドでゲルを染色し、紫外線ランプで照射してDNAを検出し、撮影した。
【0102】
(実施例3)
シグレック14タンパク質強制発現によるTNF-αの発現増強
1)ヒト単球系細胞株であるTHP-1細胞に、それぞれシグレック5タンパク質、シグレック14タンパク質の野生型又は点変異体(R119A又はR362A)を発現するcDNAを導入し、空ベクター導入細胞とともに、マクロファージ様細胞に分化させた後、リポ多糖を加えてTNF-αの産生量を測定した。結果を図3Aに示す。
【0103】
これによれば、シグレック14タンパク質を発現する細胞ではコントロールの細胞と比較してTNF-αの産生が約2倍に亢進していた。
【0104】
なお、図中、統計的有意差(StudentのT検定にてP < 0.01)を示した組を***で示した。シグレック14タンパク質の野生型及びR119A変異体を発現する細胞におけるTNF-α産生が他の細胞に比べて有意に高いことが明らかである。シグレック14タンパク質のR119A変異体は糖鎖認識能を欠損し、R362A点変異体はシグナルアダプタータンパク質DAP12との結合能を欠損する。上記の結果はシグレック14を介したTNF-α産生増強にはDAP12との会合が必須であるが、糖鎖認識能は必須ではないことを示唆する。
【0105】
2)空ベクター、シグレック14タンパク質の野生型又はR362A点変異体を発現するTHP-1細胞をマクロファージ様細胞に分化させ、シグナルアダプタータンパク質DAP12の発現を抑制するsiRNAを添加した後、リポ多糖を加えてTNF-αの産生量を測定した。結果を図3Bに示す。これによれば、野生型シグレック14タンパク質を発現する細胞で、DAP12タンパク質の発現を抑制することにより、TNF-αの産生が抑制された。すなわちシグレック14タンパク質を介したTNF-αの産生亢進にDAP12タンパク質が関与していることが強く示唆される。一方、同じsiRNAはコントロール細胞からのTNF-α産生を抑制しなかった。またコントロールsiRNAはTNF-αの産生量に影響を及ぼさなかった。図中、統計的有意差(StudentのT検定にてP < 0.01)を示した組を***で示した(ただし、同じ細胞に異なる処理を行った場合のみを比較した)。野生型シグレック14タンパク質を発現する細胞にDAP12タンパク質の発現を抑制するsiRNAを導入することにより、統計的に有為なTNF-αの産生抑制が認められることが明らかである。
【0106】
本実施例で行った実験手法の詳細は以下のとおりである。
シグレック14タンパク質及びシグレック5タンパク質発現用ベクターの作製:
野生型シグレック14の全長cDNAをテンプレートに用い、シグレック14 R119A点変異体(119番目のアルギニンのアラニンへの変異体)cDNAの作製には配列番号11と12のオリゴヌクレオチドを、シグレック14 R362A点変異体(362番目のアルギニンのアラニンへの変異体)cDNAの作製には配列番号13と14のオリゴヌクレオチドを用いて、QuickChange II(Stragtagene)製品添付のプロトコルに従って変異を導入した。
【0107】
野生型シグレック14、シグレック14 R119A点変異体、シグレック14 R362A点変異体とシグレック5の全長cDNAをそれぞれレトロウイルスベクターであるpMSCV-IRES-EGFP(自治医科大学・久米晃啓先生より恵与)に導入した。
【0108】
pMSCV-IRES-EGFPはIRES(Internal Ribosome Entry Site)の下流にEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)cDNAを有するため、IRESの上流に発現するべき遺伝子のcDNAを導入することにより、該遺伝子とEGFPの両者を1つのmRNAから発現することができる。よってEGFPの発現に基づいて目的遺伝子を発現する細胞の同定と選別が可能である。
【0109】
THP-1細胞への遺伝子導入
THP-1細胞(ヒト単球系細胞株)はRPMI 1640培地+10%ウシ胎児血清+抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)を用いて培養した。上記のコンストラクト或いはベクターであるpMSCV-IRES-EGFPをレトロウイルスパッケージング細胞であるPLAT-A細胞(東京大学医科学研究所・北村俊雄先生より恵与)にリポフェクションにより導入し、レトロウイルス粒子を含む培養上清を得た。THP-1細胞への遺伝子導入はRetroNectin(タカラバイオ)存在下で上記のレトロウイルス粒子を含む培養上清と24時間インキュベートすることにより実施した。感染後の細胞を通常の培地で数日間培養して回復させた後、蛍光セルソーターを用いてEGFP陽性の細胞を選別・回収した。必要に応じてソーティングを繰り返し、95%以上の細胞がEGFP陽性細胞(すなわち目的のタンパク質を発現する細胞)からなる細胞集団を樹立した。
【0110】
THP-1細胞のマクロファージへの分化誘導、LPS刺激とTNF-α産生の測定
遺伝子導入したTHP-1細胞を96ウェルプレートに2 x 104細胞ずつ播種し、50 nMの12-O-テトラデカノイルホルボール 13-アセテートを含む培地0.1 ml中で4日間培養することにより、マクロファージ様細胞に分化させた。通常の培地で数回洗った後、大腸菌(O111:B4)由来のリポ多糖50 ng/mlを含む培地0.1 ml中で24時間培養した。培地中に分泌されたTNF-αはBD OptEIA Human TNF ELISA Set(BD Bioscience)を用いて定量した。
【0111】
RNA干渉
DAP12 mRNAの部分配列である5'-UAGAGCAACUGCAAUCGCUCUGGGC-3'(配列番号19)を標的とするStealth RNA及びコントロールStealth RNAはInvitrogen社から購入した。上記と同様にしてTHP-1細胞をマクロファージ様細胞に分化誘導した後、Stealth RNA(終濃度100 nM)をLipofectamine RNAi MAXを用いて細胞に導入し、48時間培養した。通常の培地で数回洗った後、大腸菌(O111:B4)由来のリポ多糖50 ng/mlを含む培地0.1 ml中で24時間培養した。培地中に分泌されたTNF-αはBD OptEIA Human TNF ELISA Set(BD Bioscience)を用いて定量した。
【0112】
(実施例4)
シグレック14/5融合遺伝子の世界各地のヒト集団における分布
世界各地のヒト集団由来のゲノムDNA(Coriell Institute for Medical Researchより入手)を用い、上記実施例2と同様のゲノムPCRを行った。
【0113】
結果を表1に示す。シグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型は東南アジア、中国などアジアのヒト集団で高頻度に見出され、ヒト集団毎に異なるという結果が得られた。
【0114】
【表1】
【0115】
(実施例5)
(シグレック5タンパク質又はシグレック14タンパク質発現細胞)
シグレック5、シグレック14遺伝子導入細胞の選択
シグレック14遺伝子を導入する細胞株を選択するために、6種類の非接着性細胞及び5種類の接着性細胞と3種類の健常人血清(ノーマル血清)との反応性をフローサイトメーターで測定し、バックグラウンドシグナルの増大の有無をそれぞれ解析した。L-細胞、Hela細胞、293T細胞、3T3細胞、CHO細胞は、ノーマル血清と高い反応性を示し、バックグラウンドシグナルが上昇した。しかし、5種類の非接着性細胞(K562細胞、Jurkat細胞、THP-1細胞、Namalwa細胞、及びCMK細胞)と1種類の接着性細胞(Cos7細胞)は、ノーマル血清に対して殆ど反応性を示さず低いバックグラウンドシグナルであった。次に、HLA、Human Neutrophil Antigen (HNA)、シグレック5及びシグレック14の発現によるバックグラウンドシグナルの増大の可能性を抗HLA抗体、抗HNA抗体、抗シグレック5抗体或いは抗シグレック14抗体とそれぞれ反応させ検討したところ、K562細胞のみがいずれの血清とも反応せず低いバックグラウンドシグナルであった。以上の結果から、シグレック5もしくはシグレック14遺伝子を導入する細胞株としてK562細胞を採用した。
【0116】
シグレック5、シグレック14発現細胞の調製方法
シグレック5及びシグレック14のcDNAは、IMAGEコンソーシアムによる全長cDNAクローンIMAGE:5178889およびIMAGE:5756894をそれぞれ用いた。それぞれのcDNAは、市販のレトロウィルスベクターであるpQCXIP(Becton Dickinson, SanJose, CA)の制限酵素EcoRIとNotIサイトにサブクローニングし、pQCXIP-シグレック5及びpQCXIP-シグレック14を得た。次に、Lipofetamine Plus試薬(Invitrogen)の標準プロトコールに従い、pQCXIP-シグレック5或いはpQCXIP-シグレック14とpVSV-G(Becton Dickinson)をgp-293Tパッケージング細胞株(Becton Dickinson)に遺伝子導入した。この際、Siglec遺伝子を導入していないpQCXIPのみを同様の操作で遺伝子導入したものも作製した。上記の遺伝子導入したgp-293T細胞を48時間培養し、105/mlの組換えウイルス粒子を含む上清を得た。この上清0.1mlに0.9mlの感染用培地(10% FBSを含むRPMI1640培地に終濃度8μg/mlになるようにpolybreneを添加)に懸濁した1x106個のK562細胞を加えて、2時間培養した後、R10培地(10% FBSを含むRPMI1640培地)で2回洗浄し、R10培地で2日間培養した。次に、組換えウイルスを感染させた細胞のうちピューロマイシン耐性のものを限界希釈法でクローニングし、シグレック5或いはシグレック14をそれぞれ発現する、KY-シグレック5、KY-シグレック14及び、ベクターのみが導入されたKY-mock細胞株をそれぞれ得た(図4)。
【0117】
(フローサイトメーター(FCM)による解析)
a.KY-シグレック5細胞とKY-シグレック14細胞のシグレック抗原発現の検討
KY-シグレック5細胞、KY-シグレック14細胞及びKY-mock細胞に抗シグレック5/14抗体(シグレック5及びシグレック14に反応する)、抗シグレック14抗体(シグレック14に反応する)を加え4℃で15分間反応させた。PBSにて洗浄後、FITC標識抗マウスIgG抗体もしくはFITC標識抗ウサギIgG抗体で4℃、15分間染色し、PBSにて再度洗浄し、FCMを用いて解析した。その結果を図5に示す。シグレック5遺伝子を導入したKY-シグレック5細胞はシグレック5抗原を、シグレック14遺伝子を導入したKY-シグレック14細胞はシグレック14抗原をそれぞれ特異的に発現していることが確認された。また、KY-mock細胞には非特異的な反応は見られなかった。
【0118】
b.KY-シグレック5細胞及びKY-シグレック14細胞を用いたヒト血清または血漿中の抗シグレック14抗体検出
ヒト血清または血漿中に含まれる抗シグレック14アロ抗体を上記KY-シグレック5細胞株及びKY-シグレック14細胞株にて検出した。すなわち、KY-シグレック5細胞、KY-シグレック14細胞及びKY-mock細胞に非溶血性輸血副作用の原因製剤由来血漿(日本赤十字社より入手)を加え、4℃で15分間反応させた。PBSにて洗浄後、FITC標識抗ヒトIgG抗体又はPE標識抗ヒトIgM抗体で4℃、15分間染色し、PBSにて再度洗浄し、FCMを用いて解析した。その代表的なヒストグラムを図6に示す。
【0119】
さらに、非溶血性輸血副作用の原因製剤由来血漿(168種類)と健常人血清(500種類)とで、抗シグレック14アロ抗体の検出割合を比較した。抗シグレック14アロ抗体の陽性率は、健常人血清で2.4%(12/500)であるのに対して非溶血性輸血副作用原因製剤では11.9%(20/168)と有意に高かった(p<0.0001、Fisher検定)。
一方、抗シグレック5アロ抗体の陽性率は健常人血清と非溶血性輸血副作用原因製剤とで差はなかった。
【0120】
(実施例6)
(抗シグレック14抗体陽性血漿による好中球活性化)
a. 抗シグレック14抗体陽性血漿と好中球との反応
全血200μLに種々の刺激剤(抗シグレック14抗体陰性血漿(日本赤十字社より入手)、抗シグレック14抗体陽性血漿(日本赤十字社より入手)、又はβ-acetyl-γ-o-alkyl-α-phosphatidylcholine、phorbol 12-myristate 13-acetate:fMLP)10μLを添加し、37℃で30分間インキュベートし、その後遠心分離(1,000g、3分間)して全血より血球と上清をそれぞれ分取した。血球についてはフローサイトメーター(FCM)により、好中球活性化マーカーであるMac-1抗原の発現量を測定し、上清についてはELISAにより、放出されたHeparin Binding Protein(HBP、炎症性血管作動性因子で、血液細胞では好中球のみが産生する顆粒タンパク質)の濃度を測定した(詳細は下記)。
【0121】
b. FCMによる白血球におけるMac-1抗原発現量の測定
各種刺激剤による刺激後の全血より白血球を分画し、PBS-BSA (10mM EDTA、0.5%BSA)で洗浄した後、同細胞をPE標識抗Mac-1モノクローナル抗体(Becton Dickinson、カタログ番号347557)で4℃、15分間染色した。PBS-BSA にて洗浄後、BD FACS Lysing Solution(Becton Dickinson社)で溶血させ、好中球分画でのMac-1の発現量をFCMで測定した。
【0122】
fMLP(陽性コントロール)を用いて刺激した好中球表面では、Mac-1抗原の発現量が増加していることが確認された。また、抗シグレック14抗体陽性血漿を用いて刺激した場合、抗シグレック14抗体陰性血漿を用いて刺激した場合に比べ、Mac-1抗原の発現量が有意に増加していることが観察された(図7)。
【0123】
c. ELISA法による上清中のHBP濃度の測定
上清中のHBP濃度は、TapperらのELISA法を用いて測定した(Blood 2002; 99: 1785-93.)。ELISA用マイクロプレート(Nunc社、C8 Maxisorp)に抗HBP モノクローナル抗体(R&D社、50μg/mL)を50μl添加し、4℃で一晩インキュベートし、抗体を吸着させた。同プレートをT-PBS-BSA(PBS溶液に0.5% Tween20、1% BSAを添加)でブロックした後(タンパク質の非特異結合阻害)、1/6に希釈した上清(上記a)もしくは種々の濃度に希釈した組換えヒトHBP(R&D社)を加え、37℃で60分間インキュベートした。なお、血漿(血清)の希釈はCan Get Signal I溶液(Toyobo社)を用いた。T-PBS(PBS溶液に0.5% Tween20を添加)で洗浄後、抗HBP ポリクローナル抗体(R&D社、50μg/mL、50μL/well)を37℃で45分間反応させ、洗浄後さらに結合した同ポリクローナル抗体をHRP標識抗ヤギIgG抗体(Promega社、1/5000希釈、50μL/well)で検出した。発色はTMB発色溶液(Kirkegaard&Perry社)を用い、マイクロプレートリーダー(Corona社、MTP-120)で450nmの吸光度を測定した。抗シグレック14抗体陽性血漿を用いて刺激した場合、抗シグレック14抗体陰性血漿を用いて刺激した場合と比べて、上清中のHBP濃度が高いことが観察された(図8)。
【0124】
上記の結果は、抗シグレック14抗体陽性血漿により好中球が活性化されることを示し、抗シグレック14抗体陽性血漿が非溶血性輸血副作用を引き起こすことを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のシグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬により、シグレック14遺伝子を有する対立遺伝子型とシグレック14遺伝子を有しないシグレック14/5融合遺伝子のホモ接合型とを識別して検出することができ、輸血事故等の危険性を事前に排除し、或いは感染症などの治療方針を決定するために利用することができる。
【0126】
また本発明の抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いることによって、ヒト血液試料中の抗シグレック14抗体を検出することができ、非溶血性輸血副作用を防止し輸血の安全性を確保するために利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるシグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対、該シグレック14遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブ又は配列番号4に示されるシグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬。
【請求項2】
シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の検出用試薬。
【請求項3】
シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、配列番号7及び配列番号8で示される塩基配列を有するものであることを特徴とする、請求項2に記載の検出用試薬。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の検出用試薬と、配列番号3で示されるシグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対とを組み合わせてなることを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬キット。
【請求項5】
シグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、請求項4に記載の検出用試薬キット。
【請求項6】
シグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が配列番号7及び配列番号10で示される塩基配列を有するものであることを特徴とする、請求項5に記載の検出用試薬キット。
【請求項7】
血液型適合性検査薬として使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の検出用試薬。
【請求項8】
血液型適合性検査薬として使用することを特徴とする、請求項4〜6のいずれかに記載の検出用試薬キット。
【請求項9】
感染症の治療方針の決定のために使用することを特徴とする、請求項7に記載の検出用試薬。
【請求項10】
感染症の治療方針の決定のために使用することを特徴とする、請求項8に記載の検出用試薬キット。
【請求項11】
配列番号3に示されるシグレック14/5融合遺伝子。
【請求項12】
請求項11に記載のシグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対。
【請求項13】
シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、請求項12に記載のプライマー対。
【請求項14】
配列番号7及び配列番号10で示される塩基配列を有する、請求項11に記載のプライマー対。
【請求項15】
ヒトゲノムDNAを鋳型とし、請求項1〜3のいずれかに記載のシグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対又は請求項4又は5に記載の検出用試薬キットを用いてPCRを行い、シグレック14遺伝子の存在の有無、又はさらにシグレック14/5遺伝子の存在の有無を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
【請求項16】
請求項1に記載のシグレック14遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブを、ヒトゲノムDNAに対しハイブリダイズさせ、シグレック14遺伝子の存在の有無を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
【請求項17】
請求項1に記載のシグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を用いて、ヒト血液試料中のシグレック14タンパク質を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
【請求項18】
配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列を含むアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列を含むアミノ酸配列を有するタンパク質を発現する細胞を含有することを特徴とする、抗シグレック14抗体の検出用試薬。
【請求項19】
請求項18に記載の抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いた、ヒト血液試料中の抗シグレック14抗体の検出方法。
【請求項20】
請求項18に記載の抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いた、抗シグレック14抗体を含む血液製剤の特定方法。
【請求項1】
配列番号1に示されるシグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対、該シグレック14遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブ又は配列番号4に示されるシグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬。
【請求項2】
シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の検出用試薬。
【請求項3】
シグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、配列番号7及び配列番号8で示される塩基配列を有するものであることを特徴とする、請求項2に記載の検出用試薬。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の検出用試薬と、配列番号3で示されるシグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対とを組み合わせてなることを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出用試薬キット。
【請求項5】
シグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が、シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、請求項4に記載の検出用試薬キット。
【請求項6】
シグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対が配列番号7及び配列番号10で示される塩基配列を有するものであることを特徴とする、請求項5に記載の検出用試薬キット。
【請求項7】
血液型適合性検査薬として使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の検出用試薬。
【請求項8】
血液型適合性検査薬として使用することを特徴とする、請求項4〜6のいずれかに記載の検出用試薬キット。
【請求項9】
感染症の治療方針の決定のために使用することを特徴とする、請求項7に記載の検出用試薬。
【請求項10】
感染症の治療方針の決定のために使用することを特徴とする、請求項8に記載の検出用試薬キット。
【請求項11】
配列番号3に示されるシグレック14/5融合遺伝子。
【請求項12】
請求項11に記載のシグレック14/5融合遺伝子を特異的に増幅するプライマー対。
【請求項13】
シグレック14遺伝子とシグレック5遺伝子の塩基配列における保存領域の外側領域の塩基配列に対応する配列を有することを特徴とする、請求項12に記載のプライマー対。
【請求項14】
配列番号7及び配列番号10で示される塩基配列を有する、請求項11に記載のプライマー対。
【請求項15】
ヒトゲノムDNAを鋳型とし、請求項1〜3のいずれかに記載のシグレック14遺伝子を特異的に増幅するプライマー対又は請求項4又は5に記載の検出用試薬キットを用いてPCRを行い、シグレック14遺伝子の存在の有無、又はさらにシグレック14/5遺伝子の存在の有無を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
【請求項16】
請求項1に記載のシグレック14遺伝子に特異的にハイブリダイズするプローブを、ヒトゲノムDNAに対しハイブリダイズさせ、シグレック14遺伝子の存在の有無を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
【請求項17】
請求項1に記載のシグレック14タンパク質を特異的に認識する抗体を用いて、ヒト血液試料中のシグレック14タンパク質を検出することを特徴とする、シグレック14遺伝子の多型に基づく対立遺伝子型の検出方法。
【請求項18】
配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列を含むアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号4の少なくとも238番目から358番目の配列を含むアミノ酸配列を有するタンパク質を発現する細胞を含有することを特徴とする、抗シグレック14抗体の検出用試薬。
【請求項19】
請求項18に記載の抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いた、ヒト血液試料中の抗シグレック14抗体の検出方法。
【請求項20】
請求項18に記載の抗シグレック14抗体の検出用試薬を用いた、抗シグレック14抗体を含む血液製剤の特定方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2010−35551(P2010−35551A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134590(P2009−134590)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000231729)日本赤十字社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000231729)日本赤十字社 (7)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]