説明

シスタス抽出物(CistusExtracts)

本発明は、口腔及び咽頭腔のウイルス性疾患及び/又は細菌性疾患の予防及び/又は治療のためのシスタス抽出物(Cistus Extracts)からなるスプレー式点鼻薬の利用に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔及び咽頭腔のウイルス性疾患及び/又は細菌性疾患の予防及び/又は治療のためのシスタス抽出物(Cistus extracts)からなるスプレー式点鼻薬の利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「流感(flu)」という名称でも知られているインフルエンザは、世界中で季節的に流行する接触伝染性のウイスル性疾患である。ウイルスは、A型、B型、C型の3つのタイプに分けられる。BとCは人類に限られるが、A型は哺乳類、鳥類に及ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】DE 20 2005 014 459 U1 は、シスタス属(genus Cistus)の植物成分の抽出物からなるエアゾールに関するものである。
【特許文献2】EP 1 837 029 A1 は基本的にシスタス植物(Cistus plants)から抽出した成分を含むスプレー式点鼻薬について述べられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基本的にエアゾールを使った治療法の対象は肺であり、敏感な対象者、例えばアレルギーがある人には耐えられないかもしれない。肺に入った抽出物の成分がどのように体から排出されるのか、特に長期投与の場合は、という問題についてはまだ未解決である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
通常、異なる堆積のメカニズムは、それぞれ区別される。従って、鼻腔、口腔、又は咽頭腔用にと指定されたスプレーに対する粒子サイズは、薬が肺に入るのを防ぐために30μmより大きく(>30μm)あるべきである。吸入によって肺の最も小さい細気管支に薬が届くようにするべきであるならば、状況は変わる。この場合、最適な粒子サイズの範囲は0.5μmから5μmである。
【0006】
抗ウイルス性の薬剤はウイスル性の病気の予防とその治療に対して効果的である。ウイルス性の病気に対する薬による直接的な治療はまだ成功していない。
【0007】
更にエルダーベリー抽出物(elderberry extract)は、顕著な予防効果は示さないが、所定の状況下でインフルエンザにかかっている期間を短くする働きで知られている(Zakay−Rones, Z.; Varsano, N.; Zlotnik, M.; Manor, O.; Regev, L.; Schlesinger, M.; Mumcuoglu, M.J. Altern. Complement. Med. 1995, 1 (4), 361−9)。
【0008】
またシスタス属(genus Cistus)の植物からの抽出物に対して、殺菌活性や抗ウイルス活性もまた知られている。シスタス種インカンヌス(Cistus species incanus)とその亜種タウリクス(subspecies tauricus)は両方とも地中海地方に分布しており、既にこの地方の伝統的な薬として使われている。動物の飼育において、シスタス インカンヌス(Cistus incanus)は、自然療法として、そして、一般に動物の健康状態を向上させるために使用されてきた(Pieroni, A.; Howard, P.; Volpato, G.; Santoro, R.F. Vet. Res. Commun. 2004, 28 (1), 55−80)。ギリシャの北部域において、C.インカヌス タウリクス亜種(Cistus incanus ssp. tauricus)は伝統的に皮膚病の治療に使われていた(Petereit F., Kolodziej H.; Nahrstedt A. Phytochemistry 1991, 30 (3), 981−985)。
【0009】
シスタス種(Cistus species)は、特にフラボノイド(Flavanoide)とプロアントシアニジン(Proanthocyanidine)を含み(Petereit F., Kolodziej H., Nahrstedt A. Phytochemistry 1991, 30 (3), 981−985)、これらは体内で抗酸化物質の働きをするであろう(Attaguile, G.; Russo, A.; Campisi, A.; Savoca, F.; Acquaviva, R.; Ragusa, N.; Vanella, A. Cell Biol. Toxicol. 2000, 16 (2), 83−90)。シスタス インカンヌス(Cistus incanus)の葉からの抽出物は抗菌性、抗真菌活性の働きがある(Bouamama, N. et al. Therapie 1999, 54 (6), 731−3)。
【0010】
従って、本発明の目的は、例えばインフルエンザや風邪のようなウイルス性疾患の予防及び/又は治療ための薬剤であって、安価に調製でき、且つ薬の投与で副作用が生じないものを供給することである。
【0011】
この目的は、鼻腔及び/又は咽頭腔のウイルス性疾患及び/又は細菌性疾患の予防及び/又は治療のためのスプレー式点鼻薬の調製のために、シスタス属(genus Cistus)の植物又は植物成分からの抽出物の使用によって達成される。
【0012】
最初の実施例において、本発明は、鼻腔及び/又は咽頭腔のウイルス性疾患及び/又は細菌性疾患の予防及び/又は治療ため、少なくとも30μmの粒子サイズを備えるシスタス属(genus Cistus)の植物又は植物成分からの抽出物からなるスプレー式点鼻薬に関する。
【0013】
驚くべきことに、シスタス(Cistus)のスプレー式点鼻薬は、同等の予防効果を生じるが、上述のような欠点を欠いている。
【0014】
本発明によれば、スプレー式点鼻薬の粒子サイズによって、それらが呼吸用には適さないが、口腔、鼻、咽頭腔において作用する一方、より小さな粒子サイズを持つエアゾールが、そこには作用を示さないか、示すとしても小さなものである。本発明によれば所望の粒子サイズは、市販されるアトマイザーやポンプ式スプレーによって調製することができる。
【0015】
本発明の意味の範囲において、スプレーは、より自由に鼻を通して呼吸することが再び可能となるように、例えば風邪の際に鼻粘膜の充血を取り除くような、例えば塩酸オキシメタゾリン(oxymetazoline hydrochloride)又は塩酸キシロメタゾリン(xylometazoline hydrochloride)のような血管収縮剤や抗生物質の含有量を持つそれらを含む。しかし、処方薬のスプレー式点鼻薬に加え、純粋に身体的な基礎に作用し例えば生理食塩水を含む医薬品もまた調製することができる。
【0016】
好ましい実施例において、本発明によるスプレー式点鼻薬は、スプレー式点鼻薬の保存安定性を延ばし、そして数週間又は数カ月間のような延長された期間にわたって数回その薬を投与できるようにするために、防腐剤を含む。延長された期間にわたって繰り返される投与が予防のために特に必要であるので、このことは好ましい。
【0017】
防腐剤として、しばしば点鼻液の分野において用いられる塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride)を使用してもよい。しかしながら、驚くべきことに、用いられる頻度がより低い、防腐剤の安息香酸やソルビン酸は、塩化ベンザルコニウムに比べて、保存安定性の顕著な期間延長を生じることが示されてきた。このような遊離酸に加え、部分的に又は完全に中和された塩をスプレー式点鼻薬に加えてもよい。
【0018】
抽出物は、シスタス属植物(plant of the genus Cistus)から得られる。シスタス属(genus Cistus)からは、約20種が知られている。
C.アルビダス L.(C. albidus L.)
C.キナマデンシス Banares & P. Romero(C. chinamadensis Banares & P. Romero)
C.クルシイ Dunal(C. clusii Dunal)
C.クリスプス L.(C. crispus L.)
C.ヘテロフィルス Desf.(C. heterophyllus Desf.)
C.インカヌス(C. incanus)(C.クレティクス(C. creticus)とも呼ばれる)
C.インフラツス Pourr. Ex Demoly(C. inflatus Pourr. Ex Demoly)(C.ヒルスツス Lam.(C. hirsutus Lam.)またはC.プシロセパルス Sweet(C. psilosepalus Sweet)とも呼ばれる)
C.ラダニフェル L.(C. ladanifer L.)
C.ラウリフォリウス L.(C. laurifolius L.)
C.リバノチス L.(C. libanotis L.)
C.モンスペリエンシス L.(C. monspeliensis L.)
C.ミュンビー Pomel(C. munbyi Pomel)
C.オクレアツス Chr. Sm. ex Buch(C. ochreatus Chr. Sm. ex Buch)
C.オズベッキーフォリウス Webb ex Christ.(C. osbeckiifolius Webb ex Christ.)
C.パルビフロルス Lam.(C. parviflorus Lam.)
C.ポプリフォリウス L.(C. populifolius L.)
C.ポウゾルジー Delile(C. pouzolzii Delile)
C.サルウィーフォリウス L.(C. salviifolius L.)
C.シンテニシィー Litard.(C. sintenisii Litard.)(C.アルバニクス E.F. Warburg ex Heywood(C. albanicus E.F. Warburg ex Heywood)とも呼ばれる)
C.シンフィチフォリウス Lam.(C. symphytifolius Lam.)
【0019】
好ましくは、抽出物はC.インカンヌス種(species C. incanus)から得られる。C.インカンヌス(C. incanus)はC.インカヌス タウリクス亜種(C. incanus ssp. tauricus)とC.インカヌス ウンデュラツス亜種(C. incanus ssp. undulatus)の2つの種を含む。これらのうち、亜種のC.インカヌス タウリクス亜種(C. incanus ssp. tauricus)は、抽出のためにより好まれて使用される。
【0020】
抽出物は、特に植物の地上部(aerial parts)から得られる。好ましくはその年に再成長した植物の地上部の新芽(aerial shoots)が用いられる。その植物の部分は、摘み取り後直ぐ、即ち生の状態において、抽出に用いられる。その代わりとして、その植物の部分は抽出の前に乾燥される。そして、その植物の葉は、例えば摩擦又は切断によって好適に粉砕される。
【0021】
抽出は、適した溶媒で達成される。適した溶媒は、特に、メタノール、エタノール、若しくはイソプロパノールのようなアルコールや水という水性溶媒又は有機性溶媒、又は、ジクロロメタンのような塩素系溶媒、アセトン、アセチルアセトン、アンモニア、二酸化炭素、又は氷酢酸を含む。上述したような溶媒の混合物を用いてもよい。好ましくは、メタノール又はエタノールと水との混合物が用いられる。
【0022】
抽出は、通常室温で行われる。しかし、25℃から用いられる溶媒の沸点までの昇温された温度で抽出を行うことも可能である。室温での抽出が好ましい。
【0023】
できるだけ生産量を多くするために、植物材料を、数回抽出することができる。また、異なる溶媒を異なる抽出ステップにおいて用いてもよい。
【0024】
水抽出物は、稀釈されるか、又は稀釈されずに更に処理されてもよい。有機抽出物又は有機−水抽出物は、通常溶媒が使われず、乾燥抽出物へと処理(加工)される。そして乾燥抽出物は、本発明によってスプレー式点鼻薬へと処理される。
【0025】
上述した液体抽出物、又は乾燥抽出物は、本来既知の助剤や添加剤を加えた後、インフルエンザの予防及び/又は治療のために用いられることができる。
【0026】
薬剤へと処理される前に、原材料(raw product)もまた、濃縮され、及び/又は、更に処理されてもよい。処理は、抽出物から懸濁物を取り除くために、例えば遠心分離、ろ過、及びデカンテーション(上澄み液移動)のような当業者に知られた精製ステップを含んでよい。
【0027】
上述される抽出物は、インフルエンザ、特に風邪、流感(flu)、例えば鳥インフルエンザのようなインフルエンザに似た感染症の予防及び/又は治療のために好適に用いられる。
【0028】
本発明の範囲に包含される包装された薬剤又は医薬品は、例えば防腐剤及び/又は溶媒のような通常のガレノス製剤(galenic auxiliaries)を含んでよい。抽出物は、1μg/mlから100mg/ml、好ましくは25μg/mlから50mg/mlの濃度で含まれてよい。
【0029】
作用のメカニズムは物理的のようであり、抵抗は起こりそうにないので、ロックローズ(rock rose)(シスタス(Cistus))調製方法は、上気道のウイルス感染の治療と予防の両方に極めて適している。それが知られた調製方法であるならば、医薬品又は食品サプリメントは、口でなめるタブレット又はお茶の形で用いられ、咽頭腔におけるウィルス性疾患の予防は、このような投薬形態で達成されるが、ウィルスが、まだ鼻を通して入ること、及び、鼻咽頭腔に付着後に増殖することを防ぐことはできない。
【発明の効果】
【0030】
しかしながら、本発明によって、ウイルスが鼻の中に入り、付着することを防ぐことが可能である。
【0031】
驚くべきことに、ロックローズ抽出物(rock rose extract)を使用したスプレー式点鼻薬は風邪に感染するリスクを引き下げるということが分かってきた。
【0032】
三ヶ月間に少なくとも1回風邪をひいた7人の被検者が、本発明によるスプレー式点鼻薬を翌年の同じ期間において、1日に約10回使用した。この期間において、一人だけが病気になった。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実験例:
シスタスタウリクス(Cistus tauricus)からの抽出物の調製は、4対1の薬剤対抽出物の割合において50体積%のエタノールで、DE 20 2005 014 459 U1の実験例に倣うことにより達成される。
【0034】
シスタス(Cistus)の煎じ汁の調合液は、10gのシスタス草(Cistus herb)に1000mlの熱湯を注ぎ、5分後にろ過して作成される。
【0035】
実験例1:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
30gのシスタス煎じ汁
0.9gの塩化ナトリウム
0.02gの塩化ベンザルコニウム
70gの水
【0036】
実験例2:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
50mgの4対1のシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
0.02gの塩化ベンザルコニウム
100gの水
【0037】
実験例3:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
200mgの4対1のシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
0.02gの塩化ベンザルコニウム
100gの水
【0038】
実験例4:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
60gのシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
40gの水
0.02gの塩化ベンザルコニウム
【0039】
実験例5:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
100gのシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
0.02gの塩化ベンザルコニウム
【0040】
実験例6:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
100mgの4対1のシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
100gの水
0.02gの塩化ベンザルコニウム
【0041】
実験例7:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
30gのシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
70gの水
【0042】
実験例8:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
50mgの4対1のシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
100gの水
【0043】
実験例9:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
200mgの4対1のシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
100gの水
【0044】
実験例10:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
60gのシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
40gの水
【0045】
実験例11:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
100gのシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
【0046】
実験例12:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
100mgの4対1のシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
100gの水
【0047】
実験例13:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
0.4gの4対1のシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
0.4の安息香酸
0.123gの水酸化ナトリウム
【0048】
実験例14:
以下の成分を含む、100mlのスプレー式点鼻薬:
0.4gの4対1のシスタス抽出物
0.9gの塩化ナトリウム
0.12gのソルビン酸カリウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻腔及び/又は咽頭腔のウイルス性疾患及び/又は細菌性疾患の予防及び/又は治療のためのものであって、少なくとも30μmの粒子サイズを備えるシスタス属の植物又は植物成分からの抽出物からなるスプレー式点鼻薬。
【請求項2】
シスタス インカヌスからの植物又は植物成分が用いられることを特徴とする請求項1に記載のスプレー式点鼻薬。
【請求項3】
水抽出物及び/又は有機抽出物、特にアルコール抽出物が用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載のスプレー式点鼻薬。
【請求項4】
前記抽出物が、風邪、インフルエンザ、特に鳥インフルエンザのようなインフルエンザに似た感染症の予防及び/又は治療のために用いられることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のスプレー式点鼻薬。
【請求項5】
抗生物質、血管収縮剤、オキシメタゾリン、及び/又は、キシロメタゾリンを含むことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のスプレー式点鼻薬。
【請求項6】
少なくとも50μmの粒子サイズを持つことを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のスプレー式点鼻薬。
【請求項7】
防腐剤として安息香酸及び/又はソルビン酸及び/又はそれらの塩を含むことを特徴とする請求項1から6の何れかに記載のスプレー式点鼻薬。
【請求項8】
少なくとも30μmの粒子サイズを持つシスタス属の植物又は植物成分からの抽出からなるスプレー式点鼻薬を適用することにより、鼻腔及び/又は咽頭腔のウイルス性疾患及び/又は細菌性疾患の予防及び/又は治療のためのプロセス。

【公表番号】特表2010−517956(P2010−517956A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547652(P2009−547652)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050966
【国際公開番号】WO2008/092826
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(509215167)クレウェル メウセルバッハ ゲー・エム・ベー・ハー (1)
【Fターム(参考)】