説明

シフト装置

【課題】クリープによる影響を低減させ、操作ノブ部とレバー部との結合部位におけるガタの発生を防止すること。
【解決手段】操作ノブ14は、レバー部12を内部に嵌合する嵌合孔14aを有し、操作ノブ14にレバー部12が嵌合された状態で、レバー部12に押圧されて外側に向けて撓み、レバー部12を弾発的に保持する撓み部60を備え、前記撓み部60は、他の部位と比較して径方向内側に向けて突出する突出部64a、64bを有し、撓み部60が設けられている位置では、レバー部12が、突出部64a、64bと、前記突出部64a、64bと反対方向の面68a、68bのみで操作ノブ14と接触するように設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速操作を行うことが可能なシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシフト装置に関し、例えば、特許文献1には、パイプ状のシフトレバーの上端部に、操作ノブの下端部を外挿すると共に、操作ノブの下端部の取付孔に挿通されたねじを、シフトレバーのねじ孔に対して螺入する取付構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−278085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された取付構造では、シフトレバーを製造する際、金属製の板材をパイプ状に加工した後、さらにねじ孔を形成するための孔加工を施す必要があり、製造コスト(加工コスト)が高騰する。この場合、前記ねじ孔を形成する孔加工の他にも、シフトレバーの筒内の内径の寸法誤差を低減させるためのリーマ加工や、シフトレバーのロックピンが通るための長孔の加工や、金型セット用の位置決め孔の加工等が必要となる場合もある。
【0005】
そこで、樹脂材料でシフトレバーを形成し、操作ノブに対して圧入することで、金属板をパイプ状に加工してねじ止めする従来の構成よりも加工コストを低減させることが考えられる。
【0006】
しかしながら、樹脂材料で形成されたシフトレバーを操作ノブに対して単に圧入すると、摩擦熱等の影響を受けてクリープが発生する。このクリープにより、シフトレバーが元の形状から変形してしまい、操作ノブとの間でガタが発生し、又は、変形によって一部の箇所に応力が集中するという不具合がある。
【0007】
なお、樹脂は、一般的に、弾性的性質(ばねのような性質)と粘性的性質(粘度の高い油のような性質)とを併有する粘弾性体からなっている。この場合、樹脂に対して荷重をかけ続けると、粘性部分が時間の経過と共に伸び続ける現象が発生し、これをクリープ(creep)という。
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、クリープによる影響を低減させ、操作ノブ部とレバー部との結合部位におけるガタの発生を防止することが可能なシフト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、走行ギヤ段又は走行レンジを選択するレバー部と、前記レバー部の上端に設けられる操作ノブとを有し、前記レバー部及び前記操作ノブの少なくともいずれか一方が樹脂材料で形成されたシフト装置において、前記操作ノブは、前記レバー部を内部に嵌合する嵌合孔を有し、前記嵌合孔に設けられ、前記操作ノブに前記レバー部が嵌合された状態で、前記レバー部に押圧されて外側に向けて撓み、前記レバー部を弾発的に保持する撓み部を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、操作ノブにレバー部が嵌合されたとき、レバー部に押圧されて外側に向けて撓んで前記レバー部を弾発的に保持する撓み部を設けることにより、例えば、高い荷重で圧入した場合と比較してクリープによる影響を低減させることができ、操作ノブとレバー部との間でガタが発生するのを防止することができる。
【0011】
また、本発明は、前記撓み部が、他の部位と比較して径方向内側に向けて突出する突出部を有し、前記操作ノブと前記レバー部とが組み付けられた状態において、前記撓み部が設けられている位置では、前記レバー部が、前記突出部と、前記突出部と反対方向の面のみで前記操作ノブと接触するように設けられることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、撓み部が設けられている位置では、操作ノブとレバー部とが、突出部とその反対方向の面のみで接触し、前記接触部位以外にはクリアランスが形成されているため、撓み部の弾発力(反力)により、突出部とその反対方向の面に押圧力が作用し、突出部と反対方向の面とを結ぶ方向においてガタが発生することを防止することができる。なお、突出部と反対方向の面とを結ぶ方向には、少なくとも、車両前後方向と車幅左右方向とが含まれる。
【0013】
さらに、本発明は、前記撓み部は、両端が支持された板状部材で形成され、前記突出部は、前記板状部材の長さに対する中間位置に設けられることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、突出部が板状部材の長さ方向における中間位置に設けられることにより、撓み部を確実に撓曲させることができ、この結果、レバー部を弾発的に保持してガタの発生を好適に回避することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、クリープの影響を低減させ、操作ノブ部とレバー部との結合部位におけるガタの発生を防止することが可能なシフト装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るシフト装置の概略斜視図である。
【図2】前記シフト装置の概略分解斜視図である。
【図3】操作ノブからノブカバーを外した状態を示す拡大側面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った横断面図である。
【図5】(a)は、車両前後方向におけるガタ止め構造を示す縦断面図、(b)は、車幅方向におけるガタ止め構造を示す縦断面図である。
【図6】参考実施形態に係る操作ノブとレバー部との結合状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るシフト装置の概略斜視図、図2は、前記シフト装置の概略分解斜視図である。
【0018】
本発明の実施形態に係るシフト装置10は、図示しない車両に搭載された自動変速機の走行レンジ又は走行ギヤ段を変更する機能を有し、例えば、運転席と助手席との間のフロアコンソール(フロアシフト)やインストルメントパネル(インパネシフト)の略中央部下部側等に配設される。
【0019】
図1に示すように、シフト装置10は、図示しない自動変速機における所望の走行ギヤ段又は走行レンジを選択するレバー部12と、前記レバー部12の上端に設けられる操作ノブ14と、前記レバー部12を回動可能に支持する回動軸50が設けられ、図示しない車体側に前記レバー部12を取り付けるブラケット16と、所定の操作部位に取り付けられるエスカッションカバー18と、前記レバー部12を囲繞し前記レバー部12と共に変位するレバーカバー20とを備えて構成されている。
【0020】
操作ノブ14は、図2に示されるように、操作ノブ14の外郭を形成するノブアウタ部22と、前記ノブアウタ部22に内包され前記レバー部12の上端部が挿入されるノブインナ部24とから構成され、ノブアウタ部22及びノブインナ部24は、それぞれ樹脂材料で形成される。また、操作ノブ14を構成するノブインナ部24には、レバー部12を内部に嵌合する嵌合穴14a(図4参照)が設けられる。
【0021】
前記ノブアウタ部22は、ノブインナ部24を囲繞する枠体を有するアウタケーシング22aと、前記アウタケーシング22aの開口部を閉塞するノブカバー22bとの2分割で構成される。この場合、ノブカバー22bに設けられた複数の位置決め突起片26をアウタケーシング22aの内壁と嵌め合い嵌合させることにより、アウタケーシング22aとノブカバー22bとが位置決めされた状態で一体的に組み付けられる。
【0022】
図3は、操作ノブからノブカバーを外した状態を示す拡大側面図、図4は、図3のIV−IV線に沿った横断面図、図5(a)は、車両前後方向におけるガタ止め構造を示す縦断面図、図5(b)は、車幅方向におけるガタ止め構造を示す縦断面図、図6は、参考実施形態に係る操作ノブとレバー部との結合状態を示す縦断面図である。
【0023】
図3及び図4に示されるように、ノブインナ部24には、操作ノブ14に対してレバー部12が嵌合された状態で、レバー部12に押圧されて外側に向けて撓み、レバー部12を弾発的に保持する撓み部60が設けられる。この撓み部60は、車両前後方向におけるガタ止め機能を発揮する第1撓み部60aと、車幅方向におけるガタ止め機能を発揮する第2撓み部60bとから構成される。以下、第1撓み部60aと第2撓み部60bとの両者を総称するときは、「撓み部60」という。
【0024】
第1撓み部60aは、ノブインナ部24に設けられ、上下方向に沿った両端が支持された(両持ち支持された)第1板状部材62aを有し(図3参照)、この第1板状部材62aの長さ方向の中間位置には、他の部位と比較して径方向内側に向けて突出する第1突出部64aが形成される。
【0025】
第2撓み部60bは、ノブインナ部24に設けられ、車両前後方向に沿った両端が支持された(両持ち支持された)第2板状部材62bを有し、この第2板状部材62bの長さ方向の中間位置(略中央部)には、他の部位と比較して径方向内側に向けて突出する第2突出部64bが形成される。なお、第1突出部64aと第2突出部64bとの両者を総称するときは、「突出部64」という。
【0026】
操作ノブ14とレバー部12とが組み付けられた状態において、撓み部60が設けられている位置では、レバー部12が、突出部64と、突出部64と後記する反対方向の面68a、68bのみで操作ノブ14と接触するように設けられる。一方、前記接触部分を除いた他の部位は、操作ノブ14(ノブインナ部24)の内壁とレバー部12の外壁67との間にクリアランスが形成される。
【0027】
図4に示されるように、嵌合穴14aを介して操作ノブ14とレバー部12とが組み付けられた際、第1撓み部60aでは、第1突出部64aとレバー部12の縦条壁66とが接触し、上下方向に沿って支持された第1板状部材62aがレバー部12の縦条壁66に押圧されて外側に向けて撓む(図4中の2点鎖線参照)。その際、第1板状部材62aの弾発力によって矢印A方向の反力が発生し、この反力で第1突出部64aと反対方向の面68aに矢印A方向の押圧力が作用し、前記反対方向の面68aがノブインナ部24の内壁に当接する。この結果、第1突出部64aとその反対方向の面68aとを結ぶ車両前後方向においてガタが発生することを防止することができる。
【0028】
また、図4に示されるように、嵌合穴14aを介して操作ノブ14とレバー部12とが組み付けられた際、第2撓み部60bでは、第2突出部64bとレバー部12の平坦な外壁67とが接触し、車両前後方向に沿って支持された第2板状部材62bがレバー部12の外壁67に押圧されて外側に向けて撓む(図4中の2点鎖線参照)。その際、第2板状部材62bの弾発力によって矢印B方向の反力が発生し、この反力で第2突出部64bと反対方向の面68bに矢印B方向の押圧力が作用し、前記反対方向の面68bがノブインナ部24の内壁に当接する。この結果、第2突出部64bとその反対方向の面68bとを結ぶ車幅方向においてガタが発生することを防止することができる。
【0029】
図2に戻って、ノブインナ部24には、ロックピン38の傾斜面38aに係合し、図示しないスプリングのばね力によってノブカバー22bの開口部から外部に露呈するように付勢されたロック解除ボタン40が設けられる。このロック解除ボタン40は、操作ノブ14を把持する操作者がレンジを変更する際にロック解除ボタン40を押圧してロックピン38を下方側に変位させることにより、所定レンジのロック状態を解除するためのものである。
【0030】
レバー部12は、図2に示されるように、操作ノブ14の嵌合穴14aに挿入される樹脂製のレバー外周部34を備える。レバー外周部34の下部側には、波形形状を有し、図示しないディテントプランジャを介して節度感(ディテント荷重)を付与すると共に、所定のレンジポジションを保持するディテント部44が設けられる。
【0031】
樹脂製のレバー外周部34の中間部には、貫通する支持孔48が設けられる。この支持孔48には、前記支持孔48を回動中心として操作ノブ14及びレバー部12を所定角度だけ回動自在に支持する回動軸50(図1参照)が挿入される。
【0032】
本実施形態に係るシフト装置10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0033】
本実施形態では、操作ノブ14の嵌合穴14aに対してレバー部12が嵌合されたとき、レバー部12に押圧されて外側に向けて撓んで前記レバー部12を弾発的に保持する撓み部60を設けることにより、例えば、高い荷重で圧入した場合と比較してクリープによる影響を低減させることができ、操作ノブ14とレバー部12との間でガタが発生するのを防止することができる。
【0034】
この場合、本実施形態では、撓み部60が、車両前後方向におけるガタ止め機能を発揮する第1撓み部60aと、車幅方向におけるガタ止め機能を発揮する第2撓み部60bとによって構成され、車両前後方向及び車幅方向に発生するガタを好適に防止することができる。
【0035】
また、本実施形態では、第1撓み部60a及び第2撓み部60bが設けられている位置では、操作ノブ14とレバー部12とが、第1突出部64a及び第2突出部64bと、その反対方向の面68a、68bのみで接触し、前記接触部位以外にはクリアランスが形成されている。このため、第1板状部材62a及び第2板状部材62bの弾発力(反力)により、第1突出部64a及び第2突出部64bとその反対方向の面68a、68bに押圧力が作用し、第1突出部64a及び第2突出部64bとその反対方向の面68a、68bとを結ぶ車両前後方向及び車幅方向(左右方向)においてガタが発生することを好適に防止することができる。
【0036】
さらに、本実施形態では、径方向の内側に向かって突出する第1突出部64a及び第2突出部64bが第1板状部材62a及び第2板状部材62bの長さ方向における中間位置(略中央部)に設けられることにより、第1撓み部60a及び第2撓み部60bを確実に撓曲させることができ、この結果、レバー部12を弾発的に保持してガタの発生を好適に回避することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、突出部64a、64bがノブインナ部24の内壁に径方向の内側に向かって突出する場合を示しているが、例えば、図6の参考実施形態に示されるように、突出部64を、レバー部12の外壁(例えば、縦条壁66等)に径方向外側に向かって突出するようにしてもよい。
【0038】
加えて、本実施形態では、操作ノブ14及びレバー部12(レバー外周部34)の両者をそれぞれ樹脂材料で形成した場合を例示しているが、少なくともいずれか一方が樹脂材料で形成されていればよい。
【符号の説明】
【0039】
10 シフト装置
12 レバー部
14 操作ノブ
14a 嵌合穴
60、60a、60b 撓み部
62a、62b 板状部材
64a、64b 突出部
68a、68b 反対方向の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行ギヤ段又は走行レンジを選択するレバー部と、前記レバー部の上端に設けられる操作ノブとを有し、前記レバー部及び前記操作ノブの少なくともいずれか一方が樹脂材料で形成されたシフト装置において、
前記操作ノブは、前記レバー部を内部に嵌合する嵌合孔を有し、
前記嵌合孔に設けられ、前記操作ノブに前記レバー部が嵌合された状態で、前記レバー部に押圧されて外側に向けて撓み、前記レバー部を弾発的に保持する撓み部を備えることを特徴とするシフト装置。
【請求項2】
前記撓み部は、他の部位と比較して径方向内側に向けて突出する突出部を有し、
前記操作ノブと前記レバー部とが組み付けられた状態において、前記撓み部が設けられている位置では、前記レバー部が、前記突出部と、前記突出部と反対方向の面のみで前記操作ノブと接触するように設けられることを特徴とする請求項1記載のシフト装置。
【請求項3】
前記撓み部は、両端が支持された板状部材で形成され、
前記突出部は、前記板状部材の長さに対する中間位置に設けられることを特徴とする請求項2記載のシフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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