説明

シミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラム

【課題】デバイスシミュレーションにおける解析領域の一部を回路によって置き換えた場合において、電子と正孔の輸送特性の違いを考慮した高精度なシミュレーションを実現すること。
【解決手段】シミュレーション装置は、離散化された偏微分方程式に基づいてデバイスシミュレーションを行うための領域の一部を回路によって置き換える置換部と、当該回路において、第1の回路方程式に基づいて電子電流及び電子ポテンシャルを決定するとともに、第2の回路方程式に基づいて正孔電流及び正孔ポテンシャルを決定する解析部と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラムに関し、特に、半導体素子の電気特性を数値解析によって求めるシミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の研究開発において、半導体素子の電気特性を数値解析によって求めるデバイスシミュレーションが広く用いられている。デバイスシミュレーションにおいては、一般に、電流の連続方程式とポアソン方程式を連立させて解く。これらの偏微分方程式は非線形であるため、ニュートン法に基づく反復解法によって解が求められる。
【0003】
これらの偏微分方程式は、線形化されるとともに離散化され、有限個のメッシュ点における電位及びキャリア密度を未知数とする近似方程式に置き換えらえる。各反復においては、これらの近似方程式が解かれる。したがって、離散化メッシュのメッシュ点数が増加するにつれて、解析に要する時間が長くなる。特に、解析領域を3次元とした場合や解析領域を広く採った場合にはメッシュ点数が多くなるため、長い解析時間を要する。
【0004】
特許文献1においては、解析時間を短くするために、3次元のMISトランジスタ構造を、複数の2次元のトランジスタ構造と、それらの間をつなぐ抵抗によって代替する方法が記載されている。
【0005】
また、複数のトランジスタを含むような小規模の回路の動作を計算する場合には、特定のトランジスタなど、詳細な解析が必要な部分のみをデバイスシミュレーションで計算し、残りの部分は回路モデルで計算するという、ミックスモード(mixed mode)・シミュレーション手法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−260973号公報(図11)
【特許文献2】特開2005−242470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体素子内を荷電粒子が通過し、その飛跡の周囲に生成された電子・正孔対が拡散層に収集される過程において、発生した電子・正孔は半導体基板内に三次元的に拡散する。したがって、このような過程に対する数値シミュレーションを行う場合には、三次元解析が必要とされる。
【0008】
この種の解析においては、トランジスタの近傍に発生した電子又は正孔がどのように基板内に広がり、拡散層に収集されるかを精度良く計算する必要がある。側面の解析領域端では通常は反射型の境界条件が使われるため、解析領域が狭すぎる場合には、キャリアがそれ以上拡散することができず、トランジスタの拡散層に、本来収集されるより多くのキャリアが収集されてしまい、計算精度が低下する。しかしながら、解析領域を広げるとメッシュ点数が増加して長い解析時間を必要とする。
【0009】
特許文献1に示されている計算例は、MISトランジスタのチャネル長方向の電流が支配的であり、チャネル幅方向の電流成分については高い精度が要求されない場合を想定している。しかしながら、上記の電子・正孔対の収集過程の解析においては、電子・正孔の動きは特許文献1のように単純なものではない。拡散層近傍の空乏層内に発生した電子・正孔対は、電界によって逆方向に動き、その分極作用によって等電位面がじょうご状に歪むファネリング現象が発生する。すると、その電界の影響を受けてキャリアが移動する。ファネリング現象が収まると、キャリアは三次元的に拡散する。したがって、特定方向へのキャリアの流れが支配的にならないことから、特許文献1の方法を適用することができない。
【0010】
また、ミックスモード・シミュレーション手法を用いて効率的な計算をする場合には、電子・正孔対が発生した場所からある程度の距離だけ離れたところで解析領域を打ち切り、側面に電極を付して、その電極に外部抵抗をつなげる方法が考えられる。このとき、電極を付した部分は等電位となる。しかしながら、電子又は正孔の収集状況に応じて基板内の電位も変化し得ることから、かかる方法は不適切である。
【0011】
一方、デバイスシミュレーションで解くべき領域の外側に金属材料を配置し、その金属材料内での電気伝導を同時に解く方法も考えられる。しかし、この方法によると、抵抗値が場所によって異なることを考慮することが難しい。特に、SRAM回路又はロジック回路のように、トランジスタが形成されているウェル層の隣に別の伝導型のウェルが配置されているような場合には、電子と正孔との間で拡散のし方が大きく異なってくるものの、このような現象を正しく扱うことができない。
【0012】
そこで、デバイスシミュレーションにおける解析領域の一部を回路によって置き換えた場合において、電子と正孔の輸送特性の違いを考慮した高精度なシミュレーションを実現することが課題となる。本発明の目的は、かかる課題を解決するシミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の視点に係るシミュレーション装置は、
離散化された偏微分方程式に基づいてデバイスシミュレーションを行うための領域の一部を回路によって置き換える置換部と、
前記回路において、第1の回路方程式に基づいて電子電流及び電子ポテンシャルを決定するとともに、第2の回路方程式に基づいて正孔電流及び正孔ポテンシャルを決定する解析部と、を備えている。
【0014】
本発明の第2の視点に係るシミュレーション方法は、
コンピュータが、離散化された偏微分方程式に基づいてデバイスシミュレーションを行うための領域の一部を回路によって置き換える工程と、
前記回路において、第1の回路方程式に基づいて電子電流及び電子ポテンシャルを決定するとともに、第2の回路方程式に基づいて正孔電流及び正孔ポテンシャルを決定する決定工程と、を含む。
【0015】
本発明の第3の視点に係るプログラムは、
離散化された偏微分方程式に基づいてデバイスシミュレーションを行うための領域の一部を回路によって置き換える処理と、
前記回路において、第1の回路方程式に基づいて電子電流及び電子ポテンシャルを決定するとともに、第2の回路方程式に基づいて正孔電流及び正孔ポテンシャルを決定する決定処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るシミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラムによると、デバイスシミュレーションにおける解析領域の一部を回路によって置き換えた場合において、電子と正孔の輸送特性の違いを考慮した高精度なシミュレーションを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るシミュレーション装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係るシミュレーション装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】デバイスの解析領域、離散化メッシュ、抵抗回路網の例を示す図である。
【図7】離散化メッシュ、抵抗回路網の例を示す図である。
【図8】デバイスの解析領域、離散化メッシュ、抵抗回路網の例を示す図である。
【図9】電荷収集計算における電荷の移動の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の展開形態のシミュレーション装置は、上記第1の視点に係るシミュレーション装置であることが好ましい。
【0019】
第2の展開形態のシミュレーション装置は、解析部が、第1の回路方程式及び第2の回路方程式と、偏微分方程式とを連立して解くことが好ましい。
【0020】
第3の展開形態のシミュレーション装置は、解析部が、回路によって置き換えられなかった領域と回路によって置き換えられた領域との境界において、前者の領域における電子擬フェルミポテンシャルと後者の領域における電子ポテンシャルとが等しくなるようにするとともに、前者の領域における正孔擬フェルミポテンシャルと後者の領域における正孔ポテンシャルとが等しくなるようにすることが好ましい。
【0021】
第4の展開形態のシミュレーション装置は、回路が抵抗素子を含んでいてもよい。
【0022】
第5の展開形態のシミュレーション装置は、解析部が、抵抗素子の抵抗値を不純物濃度に応じて決定することが好ましい。
【0023】
第6の展開形態のシミュレーション装置は、解析部が、第1の回路方程式における抵抗素子の抵抗値と、第2の回路方程式における抵抗素子の抵抗値とを独立に決定することが好ましい。
【0024】
第7の展開形態のシミュレーション方法は、上記第2の視点に係るシミュレーション方法であることが好ましい。
【0025】
第8の展開形態のシミュレーション方法は、決定工程において、コンピュータが、第1の回路方程式及び第2の回路方程式と、偏微分方程式とを連立して解く工程を含むことが好ましい。
【0026】
第9の展開形態のシミュレーション方法は、決定工程において、コンピュータが、回路によって置き換えられなかった領域と回路によって置き換えられた領域との境界において、前者の領域における電子擬フェルミポテンシャルと後者の領域における電子ポテンシャルとが等しくなるようにするとともに、前者の領域における正孔擬フェルミポテンシャルと後者の領域における正孔ポテンシャルとが等しくなるようにすることが好ましい。
【0027】
第10の展開形態のシミュレーション方法は、回路が抵抗素子を含んでいてもよい。
【0028】
第11の展開形態のシミュレーション方法は、決定工程において、コンピュータが、抵抗素子の抵抗値を不純物濃度に応じて決定する工程を含むことが好ましい。
【0029】
第12の展開形態のシミュレーション方法は、決定工程において、コンピュータが、第1の回路方程式における抵抗素子の抵抗値と、第2の回路方程式における抵抗素子の抵抗値とを独立に決定する工程を含むことが好ましい。
【0030】
第13の展開形態のプログラムは、上記第3の視点に係るプログラムであることが好ましい。
【0031】
第14の展開形態のプログラムは、決定処理において、第1の回路方程式及び第2の回路方程式と、偏微分方程式とを連立して解く処理を、コンピュータに実行させることが好ましい。
【0032】
第15の展開形態のプログラムは、決定処理において、回路によって置き換えられなかった領域と回路によって置き換えられた領域との境界において、前者の領域における電子擬フェルミポテンシャルと後者の領域における電子ポテンシャルとが等しくなるようにするとともに、前者の領域における正孔擬フェルミポテンシャルと後者の領域における正孔ポテンシャルとが等しくなるようにする処理を、コンピュータに実行させることが好ましい。
【0033】
第16の展開形態のプログラムは、回路が抵抗素子を含んでいてもよい。
【0034】
第17の展開形態のプログラムは、決定処理において、抵抗素子の抵抗値を不純物濃度に応じて決定する処理を、コンピュータに実行させることが好ましい。
【0035】
第18の展開形態のプログラムは、決定処理において、第1の回路方程式における抵抗素子の抵抗値と、第2の回路方程式における抵抗素子の抵抗値とを独立に決定する処理を、コンピュータに実行させることが好ましい。
【0036】
第16の展開形態の記録媒体は、上記のプログラムが記録されている、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であることが好ましい。
【0037】
(実施形態1)
本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション装置40について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るシミュレーション装置40の構成を示すブロック図である。図1を参照すると、シミュレーション装置40は、置換部41と解析部42を有している。
【0038】
置換部41は、離散化された偏微分方程式に基づいてデバイスシミュレーションを行うための領域の一部を回路によって置き換える。
【0039】
解析部42は、置換部41により置き換えられた回路において、第1の回路方程式に基づいて電子電流及び電子ポテンシャルを決定するとともに、第2の回路方程式に基づいて正孔電流及び正孔ポテンシャルを決定する。
【0040】
解析部42は、第1の回路方程式及び第2の回路方程式と、偏微分方程式とを連立して解くことが好ましい。さらに、解析部42は、回路によって置き換えられなかった領域と回路によって置き換えられた領域との境界において、前者の領域における電子擬フェルミポテンシャルと後者の領域における電子ポテンシャルとが等しくなるようにするとともに、前者の領域における正孔擬フェルミポテンシャルと後者の領域における正孔ポテンシャルとが等しくなるようにすることが好ましい。
【0041】
なお、置換部41により置き換えられた回路は抵抗素子を含んでいてもよい。このとき、解析部42は、第1の回路方程式における抵抗素子の抵抗値と、第2の回路方程式における抵抗素子の抵抗値とを独立とすることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係るシミュレーション装置40によると、デバイスシミュレーションにおける解析領域の一部を回路によって置き換えた場合において、電子と正孔の輸送特性の違いを考慮した高精度なシミュレーションを実現することができる。
【0043】
(実施形態2)
本発明の第2の実施形態に係るシミュレーション装置について図面を参照して説明する。図2は、本実施形態に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【0044】
図2を参照すると、シミュレーション装置は、演算装置20と記憶装置30を有している。演算装置20は、プログラム制御により動作するデータ演算装置である。演算装置20は、制御部21、デバイス構造等生成部22、抵抗回路網生成部23、デバイス部計算構造初期化部24、回路部計算構造初期化部25、デバイス部求解部26、及び、回路部求解部27を有している。
【0045】
制御部21は、各部(22〜27)を用いて半導体素子の電気特性を計算する。
【0046】
記憶装置30は、演算装置20の各部によって参照、生成及び変更がなされる各種のデータを格納する。記憶装置30は、デバイス構造等記述データ31、周辺構造等記述データ32、デバイス構造等データ33、回路網等データ34、デバイス部計算構造データ35、及び、回路部計算構造データ36を記憶する。
【0047】
本実施形態のシミュレーション装置の動作について、図面を参照して説明する。図3は、本実施形態に係るシミュレーション装置の動作を示すフローチャートである。
【0048】
図3を参照すると、まず、デバイス構造等生成部22は、デバイス構造等記述データ31を参照して、デバイス構造等データ33を生成する(ステップS11)。デバイス構造等記述データ31は、デバイス構造及び不純物分布に関する記述データ並びに離散化メッシュの発生条件に関する記述データである。デバイス構造等データ33は、デバイス構造データ及び離散化メッシュデータを含む。
【0049】
次に、抵抗回路網生成部23は、周辺構造等記述データ32を参照して、回路網等データ34を生成する(ステップS12)。周辺構造等記述データ32は、離散化メッシュを発生させた領域の周辺領域におけるデバイス構造及び不純物分布に関する記述データ並びに回路網の発生条件に関する記述データである。回路網等データ34は、抵抗回路網及び離散化メッシュとの接続データを含む。ここで、不純物分布の情報に基づいて、半導体中で不純物濃度によって抵抗率が変わることを考慮することができる。
【0050】
次に、デバイス部計算構造初期化部24は、通常のデバイスシミュレーションを実施する領域に関して、離散化メッシュで離散化したデバイス部計算構造データ35の構築及び初期化を行う(ステップS13)。
【0051】
また、回路部計算構造初期化部25は、回路方程式を解く領域に関して、回路部計算構造データ36の構築と初期化を行う(ステップS14)。ここでは、電子電流と電子ポテンシャルを未知数とする回路方程式と、正孔電流と正孔ポテンシャルを未知数とする回路方程式を解くものとする。したがって、回路部計算構造データ36は、電子電流、電子ポテンシャル、正孔電流、正孔ポテンシャルを含む。
【0052】
デバイス部求解部26は、デバイス部の求解においては、回路部との接続節点での境界条件を用いて、通常のデバイスシミュレーションを実行する(ステップS15)。例えば、初期状態において接続節点における回路部の電子電流及び正孔電流を0とし、これを境界条件として用いる場合には、最初のデバイス部の解析では、回路部との電流のやりとりがないため、接続節点において反射型の境界条件を設定したのと等価な計算が行われる。
【0053】
回路部求解部27は、デバイスシミュレーションの結果から接続節点における電子ポテンシャル及び正孔ポテンシャルを導出して、回路部の求解を行う(ステップS16)。
【0054】
接続節点における電子ポテンシャル、正孔ポテンシャルとして、それぞれ、電子の擬フェルミポテンシャル、正孔の擬フェルミポテンシャルを設定することが好ましい。抵抗回路網には、接地された節点を配置し、そこでの電子ポテンシャル、正孔ポテンシャルを、熱平衡状態のフェルミポテンシャルとする。これによって、熱平衡状態からずれた接続節点では回路部との電荷のやりとりが発生する。
【0055】
制御部21は、デバイス部及び回路部の求解が終わった後に、解の収束判定を行う(ステップS17)。解が収束していない場合には(ステップS17のNo)、ステップS15〜S17の処理を繰り返す。一例として、解の更新量が十分小さい場合には、解は収束した(ステップS17のYes)と判定してもよい。
【0056】
荷電粒子によって生成された電子・正孔対が拡散層などに収集される過程のシミュレーションでは過渡解析が必要になる。この場合には、ステップS15〜S17の求解を初期時刻・初期条件で行った後、時間依存を加味した方程式を元に生成したデバイス部、回路部の計算構造データを使って、次の時刻の解を求める計算をステップS15〜S17を繰り返す。以下、同様に時刻を更新しながら解を求めることによって、過渡解析が可能となる。
【0057】
本実施形態のシミュレーション装置においては、通常のデバイスシミュレーションによって解析する領域の外部に抵抗回路網を発生させて離散化メッシュと接続し、回路部分の求解において、電子電流と電子ポテンシャルを未知量とする電子に関する回路方程式、及び正孔電流と正孔ポテンシャルを未知量とする正孔に関する回路方程式を解く。
【0058】
抵抗回路網を離散化メッシュのメッシュ点に接続するため、抵抗が接続されたメッシュ点の電位は個別の値を持っていて構わない。抵抗回路網中の抵抗値として、実際の半導体素子構造における不純物濃度値などに応じた値を設定することで、場所によって抵抗値が異なることも考慮できる。隣接ウェル層が存在する場合においても、電子に関する回路方程式で用いる抵抗値と正孔に関する回路方程式で用いる抵抗値とで異なった値を設定することにより、電子と正孔の拡散のし方の違いを反映させることができる。
【0059】
このように、従来の方法の問題点を回避しつつ、通常のデバイスシミュレーションによって解析する領域を限定し、周辺領域については回路方程式を解くことによって、効率的で高精度な計算が可能となる。
【0060】
また、デバイス部の計算領域の周辺に抵抗回路網を接続した構成で計算を行うことから、全体を通常のデバイスシミュレーションによって解析するよりも高速に計算できることである。さらに、回路部の求解においては、電子に関する回路方程式と正孔に関する回路方程式の両方を扱うので、電子と正孔に対して異なった抵抗値を使うことが可能になり、電子と正孔とで流れ方が異なる状況においても精度の良い解析が可能となる。
【0061】
(実施形態3)
本発明の第3の実施形態に係るシミュレーション装置について図面を参照して説明する。図4は、本実施形態に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【0062】
図4を参照すると、シミュレーション装置は、演算装置50と記憶装置60を有している。演算装置50は、プログラム制御により動作するデータ演算装置である。演算装置50は、制御部21、デバイス構造等生成部22、抵抗回路網生成部23、デバイス部計算構造初期化部24、回路部計算構造初期化部25、及び、デバイス部・回路部一括求解部28を有している。
【0063】
記憶装置30は、演算装置20の各部によって参照、生成及び変更がなされる各種のデータを格納する。記憶装置30は、デバイス構造等記述データ31、周辺構造等記述データ32、デバイス構造等データ33、回路網等データ34、デバイス部計算構造データ35、及び、回路部計算構造データ36を記憶する。
【0064】
本実施形態の演算装置50は、上記の第2の実施形態の演算装置20におけるデバイス部求解部26及び回路部求解部27の代わりに、デバイス部・回路部一括求解部28を有している。
【0065】
本実施形態のシミュレーション装置の動作について、図面を参照して説明する。図5は、本実施形態に係るシミュレーション装置の動作を示すフローチャートである。
【0066】
図5を参照すると、デバイス部・回路部一括求解部28は、デバイス部、回路部の求解を一括して実施する(ステップS18)。こうした求解手法を用いるために、デバイス部と回路部の接続節点においては、回路部の電子ポテンシャルにはデバイス部の電子擬フェルミポテンシャルを、回路部の正孔ポテンシャルにはデバイス部の正孔擬フェルミポテンシャルを対応させる。デバイス部計算構造データ35では、通常行われる、電子濃度、正孔濃度を未知量に含む定式化の代わりに、電子擬フェルミポテンシャル、正孔擬フェルミポテンシャルを未知量に含む定式化を採用し、一括求解を可能にする。
【0067】
デバイス部と回路部との間で電荷のやりとりが大きい場合には、このように一括して解を求めた方が、解の収束性が向上する。
【実施例】
【0068】
図6は、解析領域、対応する離散化メッシュ、及び、これに接続された抵抗回路網を一例として示す。図6(a)は、解析すべきデバイス領域を模式的に示す。図6(b)は、図6(a)の領域に対応して生成された離散化メッシュと、これに接続された抵抗回路網を一例として示す。
【0069】
図6(a)を参照すると、中央部は通常のデバイスシミュレーション手法で解析される領域3であり、その両側は抵抗回路網で解析される領域4である。領域3の上部及び下部には抵抗回路網で解析される領域4が配置されていないものの、必要な場合には、上部及び下部にも領域4を配置してもよい。抵抗回路網で解析される領域4は、側面の全面に繋がるように配置されているが、一部に繋げるようにしてもよい。例えば、素子分離層などが存在し、側面の一部が絶縁膜である場合には、絶縁膜部分には抵抗回路網を接続しない。また、図6においては、通常のデバイスシミュレーション手法で解析される領域3が中央にある場合を示しているが、必要に応じて、抵抗回路網が内側にある構成としてもよい。
【0070】
図6(b)を参照すると、領域3において離散化メッシュ5が生成され、生成された離散化メッシュ5に抵抗回路網6が接続されている。図6(b)においては、一例として、接続節点のそれぞれに抵抗が一つだけ付された単純な回路網を示しているが、必要に応じてより複雑な構成としてもよい。
【0071】
図7は、直交メッシュ状に配置された抵抗回路網の例を示す。通常のデバイスシミュレーション手法で解析される領域が三次元である場合において、同様の回路網を使用するときには、三次元の直交メッシュ状に配置された抵抗回路網を生成する。
【0072】
電子に関する回路方程式と正孔に関する回路方程式のそれぞれを解くことから、電子に対する抵抗値と正孔に対する抵抗値は独立としてもよい。また、電子と正孔との間で、抵抗回路網の構成が異なるようにしてもよい。
【0073】
図8(a)は、隣接するウェル層を含む、解析すべきデバイス領域を模式的に示す。図8(b)は、図8(a)の領域に対応して生成された離散化メッシュと、それに接続された抵抗回路網を一例として示す。
【0074】
図8(a)を参照すると、基板のpウェル層の中にn型拡散層2と、n型ウェル層7がある。n型ウェル層7と基板pウェル層との間には空乏層領域8が形成される。ここでは電子と正孔とで同じ回路網構成を使う。空乏層領域8に対応するpn接合では通常逆バイアスがかけられていて正孔はn型ウェル層7には殆ど入らない。これを再現するためには、空乏層領域8に位置する抵抗群10では、正孔に対する抵抗値を大きくする。また、n型ウェル層7の内部及び空乏層領域8では、電子は基板領域よりも動きやすくなるため、これらの領域に対応する抵抗群9において、電子に対する抵抗値を小さくする。
【0075】
このようにすると、電子と正孔との間で、回路網の構成が同一であっても、流れやすさが異なるようにすることができ、実際の拡散に近い解析が可能となる。
【0076】
この例で、n型ウェル層7に対応する回路網内の一部の節点を接地しているが、n型ウェル層7に逆バイアスがかけられている場合においても、接地されていると見なした解析を行う。すなわち、逆バイアスによる電位差は、空乏層領域8の空間電荷によって生じる電位差に相当するとみなす。
【0077】
さて、電子と正孔との間で異なった抵抗値とするために、図2又は図4の抵抗回路網生成部23は、そのような回路網を構築する必要がある。したがって、抵抗回路網生成部23によって参照される周辺構造等記述データ32に含まれる回路網発生条件記述において、適切な記述がなされている必要がある。例えば、不純物分布を参照して異なった抵抗値を設定したり、別途ポアソン方程式を解いた結果から空乏層を検知して自動的に抵抗値を調整したり、ユーザ指定によって抵抗値を設定又は調整する機能によって回路網の抵抗値を設定することが好ましい。
【0078】
図9は、荷電粒子によって生成された電子・正孔対が拡散層に収集される過程をシミュレーションする様子を模式的に示す。荷電粒子の飛跡12に沿って電子・正孔対13が生成される。電子(図中の「e」)の一部は、n型拡散層2に収集され、それに接続された電極11における収集電流となる。正孔(図中の「h」)の一部は、基板の底部に付された電極11に収集される。電子・正孔対の発生領域や電荷収集に寄与する主要な拡散層を含む部分は通常のデバイスシミュレーションを行う領域3の中に収め、その周辺は抵抗回路網で解く領域4とする。
【0079】
こうした領域4を付けない場合には、通常のデバイスシミュレーションを行う領域3の端で反射型境界となり、キャリアがそれ以上に広がることができないため、拡散層への収集電荷量が過大に見積もられるおそれがある。一方、周辺領域に抵抗回路網を設けることによって、外部へのキャリアの流れを再現でき、高精度な解析が可能になる。このとき、通常のデバイスシミュレーションを行う領域3を広げる必要がないため、解析領域やメッシュ数の増大を防ぎ、高速なデバイスシミュレーションが可能となる。
【0080】
以上の記載は実施形態及び実施例に基づいて行ったが、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 半導体基板
2 n型拡散層
3、4 領域
5 離散化メッシュ
6 抵抗回路網
7 n型ウェル層
8 空乏層領域
9、10 抵抗群
11 電極
12 飛跡
13 電子・正孔対
20、50 演算装置
21 制御部
22 デバイス構造等生成部
23 抵抗回路網生成部
24 デバイス部計算構造初期化部
25 回路部計算構造初期化部
26 デバイス部求解部
27 回路部求解部
28 デバイス部・回路部一括求解部
30、60 記憶装置
31 デバイス構造等記述データ
32 周辺構造等記述データ
33 デバイス構造等データ
34 回路網等データ
35 デバイス部計算構造データ
36 回路部計算構造データ
40 シミュレーション装置
41 置換部
42 解析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離散化された偏微分方程式に基づいてデバイスシミュレーションを行うための領域の一部を回路によって置き換える置換部と、
前記回路において、第1の回路方程式に基づいて電子電流及び電子ポテンシャルを決定するとともに、第2の回路方程式に基づいて正孔電流及び正孔ポテンシャルを決定する解析部と、を備えているシミュレーション装置。
【請求項2】
前記解析部は、前記第1の回路方程式及び前記第2の回路方程式と、前記偏微分方程式とを連立して解く、請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記回路によって置き換えられなかった領域と前記回路によって置き換えられた領域との境界において、前者の領域における電子擬フェルミポテンシャルと後者の領域における電子ポテンシャルとが等しくなるようにするとともに、前者の領域における正孔擬フェルミポテンシャルと後者の領域における正孔ポテンシャルとが等しくなるようにする、請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記回路は、抵抗素子を含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記解析部は、前記抵抗素子の抵抗値を不純物濃度に応じて決定する、請求項4に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
前記解析部は、前記第1の回路方程式における前記抵抗素子の抵抗値と、前記第2の回路方程式における前記抵抗素子の抵抗値とを独立に決定する、請求項4又は5に記載のシミュレーション装置。
【請求項7】
コンピュータが、離散化された偏微分方程式に基づいてデバイスシミュレーションを行うための領域の一部を回路によって置き換える工程と、
前記回路において、第1の回路方程式に基づいて電子電流及び電子ポテンシャルを決定するとともに、第2の回路方程式に基づいて正孔電流及び正孔ポテンシャルを決定する決定工程と、を含むシミュレーション方法。
【請求項8】
前記決定工程において、コンピュータが、前記第1の回路方程式及び前記第2の回路方程式と、前記偏微分方程式とを連立して解く工程を含む、請求項7に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記決定工程において、コンピュータが、前記回路によって置き換えられなかった領域と前記回路によって置き換えられた領域との境界において、前者の領域における電子擬フェルミポテンシャルと後者の領域における電子ポテンシャルとが等しくなるようにするとともに、前者の領域における正孔擬フェルミポテンシャルと後者の領域における正孔ポテンシャルとが等しくなるようにする、請求項8に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記回路は、抵抗素子を含む、請求項7乃至9のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項11】
前記決定工程において、コンピュータが、前記抵抗素子の抵抗値を不純物濃度に応じて決定する工程を含む、請求項10に記載のシミュレーション方法。
【請求項12】
前記決定工程において、コンピュータが、前記第1の回路方程式における前記抵抗素子の抵抗値と、前記第2の回路方程式における前記抵抗素子の抵抗値とを独立に決定する工程を含む、請求項10又は11に記載のシミュレーション方法。
【請求項13】
離散化された偏微分方程式に基づいてデバイスシミュレーションを行うための領域の一部を回路によって置き換える処理と、
前記回路において、第1の回路方程式に基づいて電子電流及び電子ポテンシャルを決定するとともに、第2の回路方程式に基づいて正孔電流及び正孔ポテンシャルを決定する決定処理と、をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項14】
前記決定処理において、前記第1の回路方程式及び前記第2の回路方程式と、前記偏微分方程式とを連立して解く処理を、コンピュータに実行させる、請求項13に記載のプログラム。
【請求項15】
前記決定処理において、前記回路によって置き換えられなかった領域と前記回路によって置き換えられた領域との境界において、前者の領域における電子擬フェルミポテンシャルと後者の領域における電子ポテンシャルとが等しくなるようにするとともに、前者の領域における正孔擬フェルミポテンシャルと後者の領域における正孔ポテンシャルとが等しくなるようにする処理を、コンピュータに実行させる、請求項14に記載のプログラム。
【請求項16】
前記回路は、抵抗素子を含む、請求項13乃至15のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項17】
前記決定処理において、前記抵抗素子の抵抗値を不純物濃度に応じて決定する処理を、コンピュータに実行させる、請求項16に記載のプログラム。
【請求項18】
前記決定処理において、前記第1の回路方程式における前記抵抗素子の抵抗値と、前記第2の回路方程式における前記抵抗素子の抵抗値とを独立に決定する処理を、コンピュータに実行させる、請求項16又は17に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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