説明

シャープネス計測装置、シャープネス計測方法、画像処理装置、画像処理方法、シャープネス計測プログラム、画像処理プログラム、及び記憶媒体

【課題】 好ましいシャープネスを有するディジタル画像が得られる画像処理装置及び方法と、その処理に用いるシャープネス強度として最適な計測値を得ることができるシャープネス計測装置及び方法を提供する。
【解決手段】 入力された画像信号を明度輝度信号変換部11で知覚的に等歩的な明度または輝度を示す明度輝度信号に変換した後、その明度輝度信号に対して帯域処理部12で微分処理を施して微分画像信号を得る。シャープネス強度計測部14は、微分画像信号の値と画素数の対応関係を示すヒストグラムを算出し、そのヒストグラムにおける最大値から全画素数の3〜10%の間の何れかの割合を占める頻度値を算出して、当該頻度値に対応する微分画像信号の値をシャープネス強度とする。このとき、属性情報獲得部13で獲得した属性情報に従ってシャープネス強度を補正してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル画像に対して、最適なシャープネス度合いを実現できる画像処理技術と、そのような最適なシャープネス度合いを実現する際にデジタル画像のシャープネス強度を計測するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最終印刷物の品質は、ディジタル画像信号の特性と、カラー画像記録装置や画像記録材料の特性で決定される。同様に、カラー画像処理装置は、入力されたディジタル画像信号(入力画像信号)に対して、カラー画像記録装置や画像記録材料の特性に合わせた補正または最適化を目的とする処理装置と、撮影条件や色空間が不明な入力画像信号の調整を目的とする処理装置に分類できる。
【0003】
どちらの画像処理装置であっても、画像処理装置への入力画像信号は赤(R)緑(G)青(B)色信号、CIEL* * * (CIELAB)色信号、シアン(C)マゼンタ(M)イエロー(Y)黒(K)色信号などで扱われ、入力画像信号の強度は、単色で8bit、12bitなどと多値である。また、画像処理装置の構成としては色補正処理手段、シャープネス(空間補正を含む)処理手段などがあり、一連の画像信号処理を施すことで共通している。
【0004】
上述の入力画像信号の調整を目的とする画像処理装置における色処理は、コントラスト調整や色味のバランス調整、ホワイトバランス調整、かぶり補正等の技術で構成され、シャープネス処理はエッジ強調を含むシャープネス強調、解像度変換、ノイズ除去等の技術で構成されている。
【0005】
また、入力装置や、表示装置を含む出力装置等の機器の補正を目的とした空間補正処理は、画像信号が持つ不要な周期性や画像ノイズ特性、及び画像記録装置で生じる空間周波数特性の劣化抑制処理、さらには、特定の空間周波数帯域等の強調処理を備えている。
【0006】
前述の空間補正処理は、機器の特性を前もって入手可能な限られた情報で記述したシャープネス補正フィルタを利用して、画像処理を施す仕組みになっている。しかし、機器補正の情報は、ディジタル画像そのものの情報とは独立した情報であるため、ディジタル画像にとって最適な出力条件を考慮しておらず、バランスが崩れたディジタル画像を出力されることもある。これを解決するためには、ディジタル画像信号の調整を目的とする処理装置が必要となる。
【0007】
ディジタル画像信号の調整を行う最善の施策は、利用者が利用している出力装置で、出力画像の程度を確認しつつ好みにあった処理を施す方法である。しかし、この方法では、利用者に画像処理の経験及び作業時間を要求するといった問題が生じる。そのため、画像処理装置は、最小の手間、もしくは自動で画像そのものから情報を獲得する画像計測及び画質調整を施す方法(自動画質調整技術)を備えることが期待されている。
【0008】
前述の自動画質調整技術でのシャープネス処理は、ディジタル画像からシャープネス度合い(エッジ度合いや画像ノイズ等が複合した程度を表す)を測り、計測結果に応じてシャープネス処理を施す機能が必要である。
【0009】
シャープネス処理の一つの問題は、処理を施す程度にある。単純にぼかし処理を施すと高精細な再現(キメ)がなくなり、シャープネス度合いが下がる。また、シャープネス強調処理でシャープネスが強すぎたら、肌の荒れ(肌荒れ)、無彩色部でのノイズやエッジ部の境界の破綻(リンギング)が目立つことで不快と感じられてしまう。通常のシャープネス処理技術では、鮮鋭度(シャープネス度合い)の増加とともに、シャープネス処理による欠点も顕著となり、それぞれを独立に制御できない。そのため、ディジタル画像信号の情報だけでは根本的な解決は難しい。
【0010】
この問題に対応するには、測定量として、シャープネス度合いとともに、シャープネスの良好さを阻害する、劣化した量(シャープネス阻害量)を反映させたシャープネスの好ましさの度合い(シャープネス嗜好度)が必要である。
【0011】
画像信号そのものから画像の特性を測る技術、特に、シャープネス計測の技術は、幾つかの方法が提案されている。例えば、鮮鋭度評価方法は、微分画像(エッジ画像)の信号強度の総和を鮮鋭度の評価値とする鮮鋭度評価手法(例えば非特許文献1など参照)が提案されている。また、前記手法と同じ原理を用いたディジタル画像の鮮鋭性評価装置、もしくは鮮鋭度を変換する画像処理装置が、例えば特許文献1や特許文献2,特許文献3などに記載されている。このうち特許文献1及び特許文献2には、総和に相当する量として、エッジ画素数(エッジ強度が0でない画素)で正規化する方法が記載されている。また、特許文献3には、総和を正規化する画素数算出工程にて、閾値以上のエッジ強度を示す画素を求める工程を備えた画像処理方法が記載されている。
【0012】
特許文献2に記載されている鮮鋭度測定装置では、前述の鮮鋭度評価手法と同様に、エッジ画像の信号強度の総和を求めた後、エッジ領域で正規化することで、単位エッジ部当たりの平均強度、もしくは前記エッジ強度の2乗値の平均強度を求めており、エッジ度合いの強度値(強弱の程度)を鮮鋭度としている。この特許文献2では、カラー画像情報ではなく輝度情報を用いることで、処理工程を簡易化している。鮮鋭化、並びに鮮鋭度の測定に利用する情報は、明暗情報よりカラー情報を利用し、処理コストに従い精度を高められることが期待できることは既知である。通常、精度が必要なら処理コストを掛け、程々の精度を所望する場合は、輝度、または明度情報を利用すればよい。
【0013】
一方、特許文献1に記載されている鮮鋭化装置では、前述の鮮鋭度評価手法や鮮鋭性評価装置の原理を利用した鮮鋭化装置である。また、特許文献3に記載されている画像処理装置では、前述の鮮鋭度評価手法や鮮鋭性評価装置の原理に加え、閾値処理方法に特徴を持たせたシャープネス判定手段を備えたものである。これらの装置は、シャープネスの強度を数値化する手段で、頻度分布での平均値を利用している。
【0014】
また、シャープネス強度と共に、シャープネス強度を阻害する量を計測することで、主観的に好ましいシャープネス度合いを算出する技術についても、特許文献4に記載されている。
【0015】
一般に鮮鋭度やシャープネス強度を測定する際には、評価対象の画像を微分し、その微分した値の頻度分布を評価することが行われている。この微分値の頻度分布(統計量)には最大値が存在し、この最大値を鮮鋭度やシャープネス強度を示す指標として利用している。しかしながら、単純に最大値を利用すると、良好な結果を示す場合があるものの、画像の欠陥のように突発的な現象に対して安定した評価ができないという問題があった。
【0016】
【特許文献1】特許第2692531号公報
【特許文献2】特許第2611723号公報
【特許文献3】特開平10−200756号公報
【特許文献4】特開2004−096291号公報
【非特許文献1】三宅洋一,「2−3 ハードコピーの画質評価」,テレビジョン学会誌,1989,Vol.43,No.11,p.1212〜1217
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、人間の視覚特性を鑑みて、好ましいシャープネスを有するディジタル画像を得ることができる画像処理装置、画像処理方法を提供するとともに、そのような画像処理装置及び画像処理方法における処理に用いるシャープネス強度として最適な計測値を得ることができるシャープネス計測装置及びシャープネス計測方法を提供することを目的とするものである。さらに、そのようなシャープネス計測方法や画像処理方法をコンピュータによって実行するためのシャープネス計測プログラムや画像処理プログラムと、そのようなシャープネス計測プログラムや画像処理プログラムを格納した記憶媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、入力されたデジタル画像信号のシャープネス強度を測定するシャープネス計測装置及びシャープネス計測方法において、デジタル画像信号を少なくとも知覚的に等歩的な明度または輝度を示す明度輝度信号に変換し、その明度輝度信号に対して微分処理を施して微分画像信号とし、その微分画像信号の値と画素数の対応関係を示すヒストグラムを算出し、そのヒストグラムにおける最大値から全画素数の3〜10%の間の何れかの割合を占める頻度値を算出して、当該頻度値に対応する微分画像信号の値をシャープネス強度とすることを特徴とするものである。また、ヒストグラムを算出後、そのヒストグラムにおける最大値から全画素数の3〜10%の間の何れか複数の割合を占める頻度値をそれぞれ算出し、複数の頻度値のそれぞれに対応する前記微分画像信号の値に重み付けをしてシャープネス強度とすることを特徴とするものである。
【0019】
なお、シャープネス強度の計測対象領域を選択し、その計測対象領域についてヒストグラムを算出してシャープネス強度を測定するように構成することもできる。さらに、デジタル画像信号におけるシャープネス強度の計測対象領域の有効階調数、画素数、及び出力解像度または印刷線数等の属性情報を獲得して、その属性情報を加味して前記シャープネス強度を補正するように構成してもよい。
【0020】
また本発明は、入力されたデジタル画像信号に対してシャープネス処理を行う画像処理装置及び画像処理方法において、上述のような本発明のシャープネス計測方法によってシャープネス強度を得て、そのシャープネス強度からシャープネス処理を行う際の係数を決定し、決定された係数に従ってデジタル画像信号に対してシャープネス処理を行うことを特徴とするものである。
【0021】
さらに本発明は、入力されたデジタル画像信号のシャープネス強度を測定するシャープネス計測プログラムにおいて、本発明のシャープネス計測方法をコンピュータに実行させることを特徴とするものである。また、入力されたデジタル画像信号に対してシャープネス処理を行う画像処理プログラムにおいて、本発明の画像処理方法をコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【0022】
さらにまた本発明は、入力されたデジタル画像信号のシャープネス強度を測定するシャープネス計測プログラムを格納したコンピュータが読取可能な記憶媒体において、本発明のシャープネス計測方法をコンピュータに実行させるシャープネス計測プログラムを格納したことを特徴とするものである。また、入力されたデジタル画像信号に対してシャープネス処理を行う画像処理プログラムを格納したコンピュータが読取可能な記憶媒体において、本発明の画像処理方法をコンピュータに実行させる画像処理プログラムを格納したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ディジタル画像の画質を良好に自動調整するために必要となるシャープネス強度を計測することができ、このシャープネス強度から得られる係数に従ってデジタル画像に対してシャープネス処理を施すことによって、好ましいデジタル画像を得ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の画像処理装置及び画像処理方法の実施の一形態を示すブロック図である。図中、1はシャープネス計測部、2はシャープネス処理係数決定部、3はシャープネス処理部である。入力される画像信号はどのようなものでもよいが、本発明では特に自然画などを含むデジタル画像信号であるとよい。また入力される画像信号は、ここでは一例として、RGB色信号であるものとする。もちろん、他の色信号であってもよいことは言うまでもない。
【0025】
シャープネス計測部1は、入力された画像信号のシャープネス強度を測定するものであり、本発明のシャープネス計測装置である。シャープネス処理係数決定部2は、シャープネス計測部1により得られたシャープネス強度から、シャープネス処理部3でシャープネス処理を行う際に用いる処理係数を決定する。シャープネス処理部3はシャープネス処理係数決定部2で決定された処理係数に従って、入力された画像信号に対してシャープネス処理を行う。
【0026】
図2は、シャープネス計測部1の第1の例を示すブロック図である。図中、11は明度輝度信号変換部、12は帯域処理部、13は属性情報獲得部、14はシャープネス強度計測部である。図2に示すブロック図は、本発明のシャープネス計測装置及びシャープネス計測方法の実施の形態を示すものである。
【0027】
明度輝度信号変換部11は、画像信号を少なくとも知覚的に等歩的な明度または輝度を示す明度輝度信号に変換する。ここでは画像信号をRGB色信号としており、明度輝度信号をYCrCb色空間の輝度信号Yとすると、輝度信号Yは
Y=0.30R+0.59G+0.11B
により変換することができる。もちろん、明度輝度信号はこの例に限られるものではない。例えば、三刺激値CIEXYZや、RGB色信号のうちの各成分であるR、G、B信号のいずれかだけでも良いし、高精度の処理を望むならCIELAB信号のL* 、及び主成分分析や、K−L変換した信号でもよい。つまり、明度輝度信号は明るさを表す信号であるなら適宜変更可能であり、知覚量の均等性と処理速度に応じて適宜選択可能である。
【0028】
帯域処理部12は、明度輝度信号変換部11で変換した明度輝度信号に対して微分処理を施して微分画像信号を得る。この微分処理には、一般的に、処理速度を重視するため1次微分が使われるが、像がボケる現象の基本現象の1つである拡散過程、及び視覚特性は2次微分画像と関わり深いことが知られているため、ここでは2次微分画像を微分画像信号とした。2次微分画像は、輝度画像信号fから、アンシャープマスク(USM)フィルタを作用させてぼかした輝度画像信号fbを除いた絶対値であり、シーン情報が少ない中高周波帯域成分だけの信号となる。すなわち微分画像信号をFxとすると、
Fx=|f−fb| …(1)
で得ることができる。
【0029】
図3は、アンシャープマスクフィルタの一例の説明図である。図3では5×5画素サイズのフィルタを示している。5×5画素の画像信号に対して、それぞれ対応する位置に示した数値を乗算し、加算した後、図3に示した値の総和で除算することによって、5×5画素の領域の中央の画素に対応する輝度画像信号fbが得られる。この輝度画像信号fbを用いて、上述の(1)式によって微分画像信号Fxを算出すればよい。
【0030】
図3に示したフィルタは一例であって、任意のアンシャープマスクフィルタを用いることができる。好ましくは、微分画像はガウシアン関数での2次微分画像(スカラー量)であるが、如何なる微分画像であっても問題はない。例えば、一般的な画像の1次微分(ベクトル量)の絶対値を取る方法や、フィルタ形状の異なる微分画像の差分であってもよく、特に限定されるものではない。例えばフィルタ形状は、視覚の空間周波数特性であるコントラスト応答関数(伝達関数)を利用しても良し、特に高周波成分を抽出するには、差分フィルタ、微分フィルタなどのエッジ抽出フィルタ、アンシャープマスクフィルタだけでなく、ウェーブレットフィルタなどが利用できる。また、微分画像は強度値の2乗に相当するエネルギー量であってもよい。
【0031】
図2に戻り、属性情報獲得部13は、入力された画像信号から、有効階調数、画素数、及び出力解像度または印刷線数等の属性情報を獲得してシャープネス強度計測部14に渡す。なお、シャープネス強度計測部14において属性情報を用いた補正処理を行わない場合には、この属性情報獲得部13を設けずに構成することもできる。
【0032】
シャープネス強度計測部14は、帯域処理部12で得た微分画像信号からシャープネス強度を測定する。そのための方法として、ここでは、微分画像信号の値と画素数の対応関係を示すヒストグラムを算出し、そのヒストグラムにおける最大値から全画素数の3〜10%、望ましくは5〜8%の間の何れかの割合を占める頻度値を算出して、当該頻度値に対応する前記微分画像信号の値をシャープネス強度とする。あるいは、ヒストグラムにおける最大値から全画素数の3〜10%、望ましくは5〜8%の間の何れか複数の割合を占める頻度値をそれぞれ算出し、複数の頻度値に重み付けをしてシャープネス強度とすることができる。なお、属性情報獲得部14で得た属性情報を加味して、シャープネス強度を補正するとよい。
【0033】
図4は、シャープネス強度計測部14で算出するヒストグラムの一例の説明図である。自然画などの画像信号を微分した微分画像信号の値(エッジ強度)と画素数(頻度)との関係をとると、例えば図4に示すようなヒストグラムが得られる。微分画像信号の値が小さい部分は画像がほぼ一様であったり、画像の変化が緩やかな部分である。画像の変化が急峻なほど、微分画像信号の値は大きくなる。
【0034】
そして、画像中の変化が最も大きな部分(エッジ)において、微分画像信号の値は最大となり、図4においてはその値を最大強度値Fmaxとして示している。この最大強度値Fmaxは、上述のように画像中の変化の最も大きな部分を示しているが、実際にはノイズなどによって不所望なエッジが画像中に発生し、そのエッジによって最大強度値Fmaxが得られている場合も多い。そのため、最大強度値Fmaxが入力された画像信号のシャープネス強度を反映した値とするには問題がある。
【0035】
本発明では、最大強度値Fmaxからカウントして、全画素数の3〜10%、望ましくは5〜8%の間の何れかの割合を占める頻度値を算出して、当該頻度値に対応する微分画像信号の値をシャープネス強度として得る。図4では、最大近傍値Pとして示した値をシャープネス強度として得ることを示している。
【0036】
さらに、最大近傍値Sdに対して適宜補正を加え、シャープネス強度とすることもできる。例えば最大強度値Fmaxから全画素数の5%に対応するシャープネス強度をSd5とすると、そのときの最大近傍値P5を用いて、例えば
Sd5=K×P5/N …(2)
により求めることができる。ここで、Nは正規化係数、Kは任意の係数である。このときの係数Kは、評価対象の画素数、階調数、画像処理装置の出力解像度、または出力線数などの属性情報により決まるパラメータである。これらの属性情報は、属性情報獲得部14から取得する。もちろん、このような補正を行わなくてもよい。
【0037】
図5は、計測したシャープネス強度と主観的なシャープネス強さの関係の一例を示すグラフである。上述のようにして計測されたシャープネス強度と、観察者が感じる主観的なシャープネス強さとを対応づけてグラフ化すると、図5に示すようになる。図5においては、最大強度値Fmaxからカウントして全画素数の3%の割合、5%の割合、10%の割合について、それぞれのグラフを示している。図5から分かるように、計測したシャープネス強度と、観察者の主観的なシャープネス強さとは、所定の関係にあることが分かる。従って、計測したシャープネス強度は、観察者の主観的なシャープネス強さを反映していることになり、計測したシャープネス強度を用いて良好なシャープネス処理を行うことができる。
【0038】
しかし、割合が3%未満であったり、10%を超えると、図5に示すようなグラフが得られない。3%未満では画像中のノイズの影響を受けやすく、ノイズのエッジにおける微分値である場合が多くなる。そのため、同じ計測値であっても観察者が感じる主観的なシャープネス強さは画像によって大きくばらついてしまい、図5に示すような関係が得られない。従って、計測したシャープネス強度を用いても良好なシャープネス補正を行うことはできない。
【0039】
また、最大強度値Fmaxから10%を超えて離れると、今度は画像の内容による影響を受けやすくなる。すなわち、平坦な画像に線が描かれている様な場合には、視覚的には線によってシャープな画像として判断される。しかし、その線におけるエッジ部分の画素が少ないと計測したシャープネス強度は低くなり、観察者の主観的なシャープネス強さを反映しなくなってしてしまう。逆の場合も同様であり、やはり図5に示すような関係は得られない。
【0040】
図6は、最大強度値Fmaxからのそれぞれの割合における計測したシャープネス強度と主観的なシャープネス強さとの対応の実験結果の説明図である。実際に最大強度値Fmaxからの割合を変えて、計測したシャープネス強度と主観的なシャープネス強さとの対応を調べると、3%〜10%の間では、計測したシャープネス強度と主観的なシャープネス強さとの間に、例えば図5に示したような良好な関係を見いだすことができ、特に5%〜8%では、良好な関係が得られた。しかし、それ以外の割合では、画像によるばらつきが大きく、図5に示すような関係を得ることができなかった。従って、最大強度値Fmaxから3%〜10%の割合、望ましくは5%〜8%の割合の範囲で、微分画像の値を取得する割合を設定すればよい。
【0041】
なお、上述の範囲において複数の割合を選択し、それぞれの割合となる画素が含まれる頻度値に対応する前記微分画像信号の値に重み付けをしてシャープネス強度としてもよい。
【0042】
また、上述の説明では、入力された画像信号をそのまま用いてシャープネス強度を測定したが、例えば画素を間引いた画像信号についてシャープネス強度を測定するように構成してもよい。
【0043】
上述のような構成のシャープネス計測部1で計測したシャープネス強度を用い、シャープネス処理係数決定部2が処理係数を決定し、その処理係数に従ってシャープネス処理部3が入力された画像信号に対してシャープネス処理を施すことになる。これによって、観察者の主観に即したシャープネス処理を行うことができ、良好な画像信号を得ることができる。
【0044】
図7は、シャープネス計測部1の第2の例を示すブロック図である。図中、図2と同様の部分には同じ符号を付して説明を省略する。15は画像領域選択部である。この第2の例では、シャープネス強度の測定を、画像中の一部に限定する例を示している。
【0045】
画像領域選択部15では、シャープネス強度の測定対象となる画像中の領域を選択する。選択された測定対象領域について、第1の例と同様の処理が行われ、シャープネス強度が測定される。従って、シャープネス強度計測部14では、選択された領域における微分画像信号からヒストグラムを作成し、最大強度値Fmaxから測定対象領域の全画素数の3〜10%、望ましくは5〜8%の範囲のいずれか1ないし複数の割合の頻度値に対応する微分画像信号の値を得て、シャープネス強度を算出すればよい。なお、属性情報獲得部13についても、測定対象領域の属性情報を取得すればよい。
【0046】
このようにして、画像中の特定の領域におけるシャープネス強度を測定することができる。例えば注目している領域についてのシャープネス強度を測定したり、あるいは全領域を分割して、それぞれの分割領域ごとにシャープネス強度を測定することができる。
【0047】
シャープネス処理部3でシャープネス処理を行う際には、画像領域選択部15で選択した領域に限ってシャープネス処理を行うほか、一部の領域から計測したシャープネス強度に従って得た処理係数によって、画像全体に対してシャープネス処理を行ってもよい。例えば注目領域について測定したシャープネス強度を用いて画像全体についてシャープネス処理を行うことができる。また、画像全体を分割して、それぞれの分割領域ごとにシャープネス強度を測定した場合には、それぞれ対応する分割領域についてシャープネス処理を行えばよい。
【0048】
図8は、本発明の画像処理装置及びシャープネス計測装置の機能または本発明の画像処理方法及びシャープネス計測方法をコンピュータプログラムで実現した場合におけるコンピュータプログラム及びそのコンピュータプログラムを格納した記憶媒体の一例の説明図である。図中、21はプログラム、22はコンピュータ、31は光磁気ディスク、32は光ディスク、33は磁気ディスク、34はメモリ、41は光磁気ディスク装置、42は光ディスク装置、43は磁気ディスク装置である。
【0049】
上述の各部の処理について、その一部または全部を、コンピュータにより実行可能なプログラム21によって実現することが可能である。その場合、そのプログラム21およびそのプログラムが用いるデータなどは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶することも可能である。記憶媒体とは、コンピュータのハードウェア資源に備えられている読取装置に対して、プログラムの記述内容に応じて、磁気、光、電気等のエネルギーの変化状態を引き起こして、それに対応する信号の形式で、読取装置にプログラムの記述内容を伝達できるものである。例えば、光磁気ディスク31,光ディスク32(CDやDVDなどを含む)、磁気ディスク33,メモリ34(ICカード、メモリカードなどを含む)等である。もちろんこれらの記憶媒体は、可搬型に限られるものではない。
【0050】
これらの記憶媒体にプログラム21を格納しておき、例えばコンピュータ22の光磁気ディスク装置41,光ディスク装置42,磁気ディスク装置43,あるいは図示しないメモリスロットにこれらの記憶媒体を装着することによって、コンピュータからプログラム21を読み出し、本発明の画像処理装置及びシャープネス計測装置の機能または本発明の画像処理方法及びシャープネス計測方法を実行することができる。あるいは、あらかじめ記憶媒体をコンピュータ22に装着しておき、例えばネットワークなどを介してプログラム21をコンピュータ22に転送し、記憶媒体にプログラム21を格納して実行させてもよい。
【0051】
もちろん、一部の機能についてハードウェアによって構成することもできるし、すべてをハードウェアで構成してもよい。あるいは、他のソフトウェアの一部として組み込むことも可能である。また、例えば出力デバイスなど、他の装置の一部として組み込むことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の画像処理装置及び画像処理方法の実施の一形態を示すブロック図である。
【図2】シャープネス計測部1の第1の例を示すブロック図である。
【図3】アンシャープマスクフィルタの一例の説明図である。
【図4】シャープネス強度計測部14で算出するヒストグラムの一例の説明図である。
【図5】計測したシャープネス強度と主観的なシャープネス強さの関係の一例を示すグラフである。
【図6】最大強度値Fmaxからのそれぞれの割合における計測したシャープネス強度と主観的なシャープネス強さとの対応の実験結果の説明図である。
【図7】シャープネス計測部1の第2の例を示すブロック図である。
【図8】本発明の画像処理装置及びシャープネス計測装置の機能または本発明の画像処理方法及びシャープネス計測方法をコンピュータプログラムで実現した場合におけるコンピュータプログラム及びそのコンピュータプログラムを格納した記憶媒体の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1…シャープネス計測部、2…シャープネス処理係数決定部、3…シャープネス処理部、11…明度輝度信号変換部、12…帯域処理部、13…属性情報獲得部、14…シャープネス強度計測部、15…画像領域選択部、21…プログラム、22…コンピュータ、31…光磁気ディスク、32…光ディスク、33…磁気ディスク、34…メモリ、41…光磁気ディスク装置、42…光ディスク装置、43…磁気ディスク装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたデジタル画像信号のシャープネス強度を測定するシャープネス計測装置において、前記デジタル画像信号を少なくとも知覚的に等歩的な明度または輝度を示す明度輝度信号に変換する明度輝度変換手段と、前記明度輝度信号に対して微分処理を施して微分画像信号を得る帯域処理手段と、前記微分画像信号からシャープネス強度を測定するシャープネス強度計測手段を有し、前記シャープネス強度計測手段は、前記微分画像信号の値と画素数の対応関係を示すヒストグラムを算出し、前記ヒストグラムにおける最大値から全画素数の3〜10%の間の何れかの割合を占める頻度値を算出して、当該頻度値に対応する前記微分画像信号の値をシャープネス強度とすることを特徴とするシャープネス計測装置。
【請求項2】
入力されたデジタル画像信号のシャープネス強度を測定するシャープネス計測装置において、前記デジタル画像信号を少なくとも知覚的に等歩的な明度または輝度を示す明度輝度信号に変換する明度輝度変換手段と、前記明度輝度信号に対して微分処理を施して微分画像信号を得る帯域処理手段と、前記微分画像信号からシャープネス強度を測定するシャープネス強度計測手段を有し、前記シャープネス強度計測手段は、前記微分画像信号の値と画素数の対応関係を示すヒストグラムを算出し、前記ヒストグラムにおける最大値から全画素数の3〜10%の間の何れか複数の割合を占める頻度値をそれぞれ算出し、複数の頻度値のそれぞれに対応する前記微分画像信号の値に重み付けをしてシャープネス強度とすることを特徴とするシャープネス計測装置。
【請求項3】
さらに、シャープネス強度の計測対象領域を選択する画像領域選択手段を有し、前記シャープネス強度計測手段は、前記計測対象領域の前記ヒストグラムを算出してシャープネス強度を測定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシャープネス計測装置。
【請求項4】
さらに、前記デジタル画像信号におけるシャープネス強度の計測対象領域の有効階調数、画素数、及び出力解像度または印刷線数等の属性情報を獲得する情報獲得手段を有し、前記シャープネス強度計測手段は、前記情報獲得手段で獲得した前記属性情報を加味して前記シャープネス強度を補正することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のシャープネス計測装置。
【請求項5】
入力されたデジタル画像信号のシャープネス強度を測定するシャープネス計測方法において、前記デジタル画像信号を少なくとも知覚的に等歩的な明度または輝度を示す明度輝度信号に明度輝度変換手段で変換し、前記明度輝度信号に対して帯域処理手段で微分処理を施して微分画像信号とし、シャープネス強度計測手段によって、前記微分画像信号の値と画素数の対応関係を示すヒストグラムを算出し、前記ヒストグラムにおける最大値から全画素数の3〜10%の間の何れかの割合を占める頻度値を算出して当該頻度値に対応する前記微分画像信号の値をシャープネス強度とすることを特徴とするシャープネス計測方法。
【請求項6】
入力されたデジタル画像信号のシャープネス強度を測定するシャープネス計測方法において、前記デジタル画像信号を少なくとも知覚的に等歩的な明度または輝度を示す明度輝度信号に明度輝度変換手段で変換し、前記明度輝度信号に対して帯域処理手段で微分処理を施して微分画像信号とし、シャープネス強度計測手段によって、前記微分画像信号の値と画素数の対応関係を示すヒストグラムを算出し、前記ヒストグラムにおける最大値から全画素数の3〜10%の間の何れか複数の割合を占める頻度値をそれぞれ算出し、複数の頻度値のそれぞれに対応する前記微分画像信号の値に重み付けをしてシャープネス強度とすることを特徴とするシャープネス計測方法。
【請求項7】
さらに、シャープネス強度の計測対象領域を選択し、前記計測対象領域について前記ヒストグラムを算出してシャープネス強度を測定することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のシャープネス計測方法。
【請求項8】
さらに、前記デジタル画像信号におけるシャープネス強度の計測対象領域の有効階調数、画素数、及び出力解像度または印刷線数等の属性情報を獲得して、前記属性情報を加味して前記シャープネス強度を補正することを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか1項に記載のシャープネス計測方法。
【請求項9】
入力されたデジタル画像信号に対してシャープネス処理を行う画像処理装置において、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のシャープネス計測装置と、前記シャープネス計測装置により得られたシャープネス強度からシャープネス処理を行う際の係数を決定するシャープネス処理係数決定手段と、前記シャープネス処理係数決定手段で決定された係数に従って前記デジタル画像信号に対してシャープネス処理を行うシャープネス処理手段を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項10】
入力されたデジタル画像信号に対してシャープネス処理を行う画像処理方法において、請求項5ないし請求項8のいずれか1項に記載のシャープネス計測方法によってシャープネス強度を得て、該シャープネス強度からシャープネス処理を行う際の係数をシャープネス処理係数決定手段で決定し、決定された係数に従って前記デジタル画像信号に対してシャープネス処理手段でシャープネス処理を行うことを特徴とする画像処理方法。
【請求項11】
入力されたデジタル画像信号のシャープネス強度を測定するシャープネス計測プログラムにおいて、請求項5ないし請求項8のいずれか1項に記載のシャープネス計測方法をコンピュータに実行させることを特徴とするシャープネス計測プログラム。
【請求項12】
入力されたデジタル画像信号に対してシャープネス処理を行う画像処理プログラムにおいて、請求項10に記載の画像処理方法をコンピュータに実行させることを特徴とする画像処理プログラム。
【請求項13】
入力されたデジタル画像信号のシャープネス強度を測定するシャープネス計測プログラムを格納したコンピュータが読取可能な記憶媒体において、請求項5ないし請求項8のいずれか1項に記載のシャープネス計測方法をコンピュータに実行させるシャープネス計測プログラムを格納したことを特徴とするコンピュータが読取可能な記憶媒体。
【請求項14】
入力されたデジタル画像信号に対してシャープネス処理を行う画像処理プログラムを格納したコンピュータが読取可能な記憶媒体において、請求項10に記載の画像処理方法をコンピュータに実行させる画像処理プログラムを格納したことを特徴とするコンピュータが読取可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−24097(P2006−24097A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203186(P2004−203186)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】