説明

シュタケ(P.cinnabarinus)の一核株によって所定の組換えタンパク質を過剰生成する方法

本発明は、糸状菌である担子菌類のシュタケ属の一核株を、所定の組換えタンパク質の調製方法を実施するために利用することに関するものであり、前記方法は、シュタケ属の前述の一核株においてこのタンパク質をコードする遺伝子の過剰発現によって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の組換えタンパク質の調製方法を実施するために、糸状菌である担子菌類のシュタケ属(Pycnoporus)の一核株を利用することに関するものであり、前記方法は、シュタケ属の前述した一核株でこのタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現させることによって行われるものである。
【背景技術】
【0002】
現状では、金属酵素のような植物の生体内変換に関与する酵素の生成の枠組みにおいて、主要な産業グループによって菌類の二つのモデルが好んで用いられている。それはアスペルギルス(Aspergillus)とトリコデルマ(Trichoderma)であり、これらは不完全菌類に属している。しかし、これらのモデルによる生成効率、とりわけラッカーゼの生成における効率は150mg/lを超えることがない。
【特許文献1】Sigoillot J.C.,Herpoel I., Frasse P.,Moukha S.,Lesage−Meessen L.,Asther M.,1999、「Laccase production by a monokaryotic strain Pycnoporus cinnabarinus derived from a dikaryotic strain」、『World Journal of Microbiology and Biotechnology』15、481−484
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ラッカーゼをコードし、発現がシュタケのラッカーゼのpLAC内因性プロモーターと同じプロモーターの制御下にある遺伝子を有するベクターによって、ラッカーゼ活性を欠いたシュタケの一核株を形質転換すると、ラッカーゼ活性を欠いていないシュタケの一核株にエタノールを作用させてこのラッカーゼの内因性プロモーターを誘導することでラッカーゼを過剰生成させる方法を実施したときと同等のラッカーゼが生成すること、つまり、生成するg/lが等しいことが本発明者らによって明らかになったことに基づいている。
【0004】
本発明者らによって、前述したpLacプロモーターの代わりに、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)のgpdプロモーターおよびsc3プロモーターを用いて同様の結果が得られている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、所定の組換えタンパク質の調製方法を目的とするものであり、前記方法は、糸状菌である担子菌類のシュタケ属の一核株において、この所定のタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現させることによって実行されるものであり、また、該方法は、
−前述のシュタケ属の一核株を培養する過程であって、前記株が、所定の組換えタンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現が、構成的または誘導的な、前述の菌の内因性プロモーターに対応するプロモーターあるいはそうでないプロモーター(外因性プロモーターとも呼ばれる)の制御下に置かれていることを特徴とする過程と、
−誘導的プロモーターであれば、場合によっては前述のプロモーターを誘導する過程と、
−培地で生成した所定の組換えタンパク質を回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいる。
【0006】
本発明は、より具体的には、上述した方法を目的とするものであり、所定の組換えタンパク質をコードする遺伝子の過剰発現に用いるシュタケ属の一核株が、元々は二核である株を暗所で15日に渡って30℃で培養した後、担子器と呼ばれる、菌糸が分化した子実体が形成されるまで、室温で2〜3週間日光にさらすことで得られ、該子実体の中で核融合(核の合体)が起こり、その後に、性分化した四つの胞子、すなわち、遺伝的に異なった半数体の担子胞子の形成を引き起こす減数分裂が起こり、それにより発芽後に一核菌糸体が生じることを特徴としている。
【0007】
好適には、本発明の前述した方法で用いられるシュタケ属の一核株はシュタケの株である。
【0008】
本発明による方法を実施する範囲における、過剰発現させる所定の組換えタンパク質は、シュタケ属の内因性タンパク質に対応しているか、あるいは、前記組換えタンパク質の生成に用いるシュタケ属株の内因性タンパク質とは異なる、外因性タンパク質に対応するものである。とりわけ、これらの外因性タンパク質は、植物の生体内変換に関与する担子菌類の酵素のような、シュタケ属以外の担子菌類の内因性タンパク質に対応するものであるか、あるいは、前記組換えタンパク質の生成に用いるシュタケ属株とは異なるシュタケ属株の内因性タンパク質に対応するものである。
【0009】
本発明は、より具体的には、上述した方法を目的とするものであり、該方法は、所定の組換えタンパク質が、
−以下のシュタケ属の内因性タンパク質:
*ラッカーゼあるいはチロシナーゼのような金属酵素、
*または、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キシラナーゼ、βグリコシダーゼ、インベルターゼもしくはαアミラーゼ、
−以下から選択される外因性タンパク質:
*チロシナーゼの生成に用いるシュタケ属株がヒイロタケとは異なっている場合のヒイロタケのチロシナーゼのような、前記組換えタンパク質の生成に用いるシュタケ属株とは異なるシュタケ属株のチロシナーゼ、
*halocyphina villosa(好塩性担子菌)のラッカーゼのような、シュタケ属以外の担子菌類のラッカーゼ、
*クロコウジカビ(Aspergillus niger)のシンナモイルエステラーゼA(番号EMBL Y09330)およびB(番号EMBL ANI309807)、
に対応するものであることを特徴としている。
【0010】
好適には、とりわけシュタケ属の内因性タンパク質に対応する所定の組換えタンパク質を調製する場合には、用いるシュタケ属の一核株が、所定の組換えタンパク質が対応する内因性タンパク質をコードする遺伝子を欠いており、前記組換えタンパク質の精製時に、所定の組換えタンパク質が対応する内因性タンパク質から該所定の組換えタンパク質を分離する必要がない。
【0011】
変形例では、とりわけシュタケ属の内因性タンパク質に対応する所定の組換えタンパク質を調製する場合には、用いるシュタケ属の一核株は、所定の組換えタンパク質が対応する内因性タンパク質をコードする遺伝子を欠いていないこともあり、このとき、前記株は、精製過程の際に内因性タンパク質から区別するために標識された所定の組換えタンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクターによって形質転換される。たとえば、所定の組換えタンパク質はヒスチジンタグ(His−tag)によって標識することができる。
【0012】
そのため、本発明は、より具体的には、シュタケ属の内因性ラッカーゼに対応する組換えラッカーゼの調製方法を目的としており、該方法は、
−シュタケ属の一核株を培養する過程であって、該株は、場合によってはシュタケ属の内因性ラッカーゼをコードする遺伝子を欠いており、場合によっては標識されたシュタケ属のラッカーゼをコードする遺伝子を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現が、このラッカーゼの内因性プロモーターに対応するプロモーターの制御下に置かれていることを特徴とする過程と、
−前述のプロモーターを誘導する過程であり、とりわけ、エタノールの添加によって、または、麦藁、トウモロコシの糠およびビートの果肉のようなリグノセルロースを含んだ農業副産物の添加によって、あるいは、2,5−キシリジン、ベラトルム酸、グアヤコール、ベラトリルアルコール、シリンガルダジン、フェルラ酸、カフェー酸およびリグノスルホン酸塩のような、芳香族化合物を添加することによって誘導する過程と、
−培地において生成した、とりわけ、Sigoillot J.C.,Herpoel I., Frasse P.,Moukha S.,Lesage−Meessen L.,Asther M.,1999、「Laccase production by a monokaryotic strain Pycnoporus cinnabarinus derived from a dikaryotic strain」、『World Journal of Microbiology and Biotechnology』15、481−484に記載されている方法によって生成した、前述のシュタケ属の内因性ラッカーゼに対応し、場合によっては標識されている組換えラッカーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいる。
【0013】
本発明は、より具体的には、上記で定義した、SEQ ID NO:2で表される、シュタケの内因性ラッカーゼに対応する組換えラッカーゼの調製方法に関するものであり、該方法は、
−シュタケの一核株を培養する過程であって、該株が、場合によってはシュタケの内因性ラッカーゼをコードする遺伝子を欠いており、場合によっては標識されている、とりわけHis−tagというタグによって標識されているSEQ ID NO:2で表される組換えラッカーゼをコードするヌクレオチド配列(または核酸配列)SEQ ID NO:1を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現が、前述のラッカーゼの内因性プロモーターに対応するpLacプロモーターの制御下に置かれ、前記pLacプロモーターの配列がSEQ ID NO:3で表されることを特徴とする過程と、
−前述のpLacプロモーターをエタノールによって誘導する過程と、
−培地において、とりわけ前述のSigoillot J.C.,et al.(1999)に記載された方法によって生成する、SEQ ID NO:2によって表され、場合によっては標識されている組換えラッカーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいることを特徴としている。
【0014】
本発明は、より具体的には、シュタケ属の内因性ラッカーゼに対応する組換えラッカーゼの調製方法を目的とするものであり、該方法は、
−シュタケ属の一核株を培養する過程であって、該株が場合によってはシュタケ属の内因性ラッカーゼをコードする遺伝子を欠き、シュタケ属のラッカーゼをコードする遺伝子を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現が、
*ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:4で表される、スエヒロタケのグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現プロモーターgpd、
*または、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:5で表される、スエヒロタケのハイドロフォビンをコードする遺伝子の発現プロモーターsc3、
から選択される外因性プロモーターの制御下に置かれていることを特徴とする過程と、
−培地において、とりわけ前述のSigoillot J.C.,et al.(1999)に記載された方法によって生成する、前述のシュタケ属の内因性ラッカーゼに対応する組換えラッカーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいることを特徴としている。
【0015】
本発明は、より具体的には、上記で定義した、SEQ ID NO:2で表される、シュタケの内因性ラッカーゼに対応するラッカーゼの調製方法に関するものであり、該方法は、
−シュタケの一核株を培養する過程であって、該株が場合によってはシュタケの内因性ラッカーゼをコードする遺伝子を欠き、場合によっては標識されている、とりわけHis−tagというタグで標識されているSEQ ID NO:2で表される組換えラッカーゼをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:1を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現が外因性プロモーターgpdまたはsc3の制御下に置かれていることを特徴とする過程と、
−培地において、とりわけ前述のSigoillot J.C.,et al.(1999)に記載されている方法によって生成する、SEQ ID NO:2で表され、場合によっては標識されている組換えラッカーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいることを特徴としている。
【0016】
本発明は、より具体的には、上記で定義した、SEQ ID NO:16によって表される、ヒイロタケのチロシナーゼに対応する組換えチロシナーゼの調製方法を目的とするものであり、該方法は、
−シュタケの一核株を培養する過程であって、該株が、SEQ ID NO:16で表され場合によっては標識されている組換えチロシナーゼをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:15を有する発現ベクターによって形質転換されており、配列SEQ ID NO:15が、好適には、SEQ ID NO:2における最初の21個のアミノ酸によって画定されたシュタケのシグナルペプチドをコードする、SEQ ID NO:1の128位および190位のヌクレオチドによって画定されたヌクレオチド配列の後ろにあり、また、その発現が、シュタケのラッカーゼの内因性プロモーターに対応するpLacプロモーターの制御下に置かれ、前記pLacプロモーターの配列がSEQ ID NO:3で表されることを特徴とする過程と、
−前述のpLacプロモーターをエタノールで誘導する過程と、
−培地で生成した、SEQ ID NO:16で表され、場合によっては標識されている組換えチロシナーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいることを特徴としている。
【0017】
本発明は、より具体的には、上記で定義した、図12に示したhalocyphina villosaのラッカーゼに対応する組換えラッカーゼ(SEQ ID NO:18)の調製方法に関するものであり、該方法は、
−シュタケの一核株を培養する過程であって、該株が、場合によってはシュタケの内因性ラッカーゼをコードする遺伝子を欠き、SEQ ID NO:18で表され場合によっては標識されている組換えラッカーゼをコードする、図12に示したヌクレオチド配列(SEQ ID NO:17)を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現がシュタケのラッカーゼの内因性プロモーターに対応するpLacプロモーターの制御下に置かれ、前記pLacプロモーターの配列がSEQ ID NO:3で表されることを特徴とする過程と、
−前述のpLacプロモーターをエタノールによって誘導する過程と、
−培地において生成した、SEQ ID NO:18で表され、場合によっては標識されている組換えラッカーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含むことを特徴としている。
【0018】
また、本発明は、シュタケの内因性ラッカーゼのpLacプロモーターをコードする、配列SEQ ID NO:3に対応するヌクレオチド配列、または、一つまたは複数のヌクレオチドを置換、付加、あるいは削除することでこのプロモーターから誘導され、配列の発現プロモーターとしての特性を保持しているあらゆる配列も目的とするものである。
【0019】
また、本発明は、プラスミドpELPのようなあらゆる発現ベクターにも関するものであり、該ベクターは、前述のpLacプロモーターの配列SEQ ID NO:3、または、上記で定義した誘導配列を有することを特徴としている。
【0020】
本発明は、より具体的には、上記で定義したあらゆる発現ベクターを目的とするものであり、該発現ベクターは、所定の組換えタンパク質をコードする遺伝子を有し、その発現が前述のpLacプロモーターまたは上記で定義した誘導配列の制御下に置かれていることを特徴としている。
【0021】
本発明は、より具体的には、上記で定義したあらゆる発現ベクターに関するものであり、該発現ベクターは、所定の組換えタンパク質が、
−以下のシュタケ属の内因性タンパク質:
*ラッカーゼもしくはチロシナーゼのような金属酵素、
*または、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キシラナーゼ、βグリコシダーゼ、インベルターゼもしくはαアミラーゼ、
−以下から選択される外因性タンパク質:
*チロシナーゼの生成に用いるシュタケ属株がヒイロタケとは異なる場合のヒイロタケのチロシナーゼのような、前記組換えタンパク質の生成に用いるシュタケ属株とは異なるシュタケ属株のチロシナーゼ、
*halocyphina villosa(好塩性担子菌)のラッカーゼのような、シュタケ属以外の担子菌類のラッカーゼ、
*クロコウジカビのシンナモイルエステラーゼAおよびB、
に対応するタンパク質であることを特徴としている。
【0022】
また、本発明は上記で定義した発現ベクターによって形質転換されたあらゆる宿主細胞にも関するものである。
【0023】
本発明は、より具体的には、シュタケの株のようなシュタケ属株の一核の細胞に対応する、前述のあらゆる宿主細胞を目的とするものである。
【0024】
また、本発明は、上記で定義した所定の組換えタンパク質を過剰生成させる方法を実施するために、上記で定義した発現ベクターまたは前述の宿主細胞を利用することも目的としている。
【0025】
本発明は、SEPC:Systeme d’Expression Pycnoporus cinnabarinus(シュタケの発現系)、すなわち、現状で欧州の主なグループによって用いられている産業モデル(アスペルギルスとトリコデルマ)を用いないことを可能にする、有効な菌類の発現モデルの開発についての以下の詳細な説明によってより良く説明されるものである。
【0026】
要するに、本発明は、真核生物の発現系、より具体的には、糸状菌の担子菌類であるシュタケの発現系を対象とするものであり、該系は本発明者らが、産業的利益のあるタンパク質を過剰発現するように開発したものである。この作業は、ラッカーゼのような金属酵素の研究の枠組みで行われてきており、特に、該作業によって、それらの過剰発現に関与する遺伝子をクローニングすることと、発酵槽によって大量のラッカーゼを過剰生成することが可能になっており、これは、食用の産業的応用(パン製造、茶の色を調節するための飲料調製、果汁およびアルコール飲料の清澄の補助、農産物由来ポリマーの形成)および非食用の産業的応用(「ジーンズ」の処理、土壌中の芳香族の汚染物質の分解、製紙用パルプの分野におけるリグノセルロースの繊維のバイオブリーチング)において用いることを目的としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
I)菌の形質転換および有益な遺伝子の過剰生成のための、シュタケの一核株の取得。
この過程は、有益な遺伝子を発現させるための宿主として用いる、糸状菌であるシュタケの性分化した胞子に由来する半数体の細胞株を単離し、選別することを目的としている。シュタケは野生の状態では二核の形態(細胞ごとに対になっていない二つの核)である自家不和合性の菌であり、該菌から、潜在的により安定で、したがって遺伝形質の転換に有用な、一核株(細胞ごとに一つの核)を選別する。この研究の枠組みにおいて、本発明者らは、ラッカーゼ活性のない(lac-)一核株を選別するようにした。二核状態では、菌は無性生殖することができる(図1)。しかし、特殊な環境条件の影響下で、研究所では、子実体の形成を誘導することができる。担子器と呼ばれる分化した菌糸の中では核融合(核の合体)が起こり、その後、性分化した四つの胞子、すなわち遺伝的に異なる半数体の担子胞子の形成を引き起こす減数分裂が起こる。発芽後、各担子胞子は一核菌糸体を生成する。簡単な比色分析試験によって、ラッカーゼ活性のない株のみを選別することが可能になる。
【0028】
1)一核株の分離
子実体の培地は2%(P/V)の麦芽エキスと寒天(1.6%P/V)で構成される。培養物をシャーレに接種し、暗所で15日間、30℃で維持した後、室温で2〜3週間日光にさらした。子実体はオレンジ〜赤色に見えた。そして単胞子を、滅菌水でシャーレのふたに採取した。懸濁液を希釈し、コロニーを単離するために、MA2培地(2%P/Vの麦芽および2%P/Vの寒天)を入れたシャーレで培養した。単離した純粋培養物をMA2培地に釣菌し、30℃で5日間維持し、4℃で保存した。
【0029】
これらの条件で、ラッカーゼ活性を欠いた一核株を、ラッカーゼ遺伝子を過剰発現させるための発現ベクターによる形質転換のために選別した。サザンブロット法による分析を行い、それにより、この株がシュタケのラッカーゼをコードする遺伝子を欠いていることが証明された。
【0030】
2)単胞子コロニーのラッカーゼ活性を検出する迅速試験
菌糸体を少量シャーレに置き、0.1%(P/V)のシリンガルダジンのエタノール溶液の液滴で覆った。15分後、色の変化が観察された。また、ラッカーゼ活性を検出するための基質として2,2−アジノ−ビス−[3−エチルチアゾリン−6−スルホナート](ABTS)を用いることもできる。
【0031】
3)ラッカーゼを生成するための培養条件
前培養したものから接種菌を採取するのだが、該前培養したものは、200mLの合成培地を含むルー瓶において10日間30℃で生育させたもので、該合成培地は、1Lあたり、以下の組成を有している。マルトース(20g)、酒石酸ジアンモニウム(1.84g)、酒石酸ジナトリウム(2.3g)、KH2PO4(1.33g)、CaCl2・H2O(0.1g)、MgSO4・7H2O(0.5g)、FeSO4・7H2O(0.07g)、ZnSO4・7H2O(0.046g)、MnSO4・H2O(0.035g)、CuSO4・5H2O(0.1g)、酵母エキス(1g)、Tatum et al.(「Biochemical mutant strains of Neurospora produced by physical and chemical treatment」『American Journal of Botany』37、38−46、1950)によるビタミン溶液(1mL/L)。二つの瓶の菌糸体を回収し、100mLの滅菌水と混合し、Ultraturaxホモジナイザーで60秒間ホモジナイズした。ラッカーゼを生成するために、合成培地に1mLの菌糸体懸濁液を接種した。次に、培地(100mL)を、250mLのバッフル付き三角フラスコにおいて30℃で撹拌しながら(120rpm)インキュベートした。
【0032】
II)発現ベクターの構築を目的とする、シュタケのラッカーゼをコードする遺伝子とそのプロモーターのクローニング
所定の組換えタンパク質の過剰生成には、真核生物の発現系、より具体的には、糸状菌の担子菌類であるシュタケの発現系が問題となる。選択した研究モデルはシュタケのラッカーゼのモデルである。現状では、二つの菌類モデルが主要な産業グループによって好んで用いられている。それはアスペルギルスとトリコデルマであり、これらは不完全菌類に属している。したがって、この発現システムは完全に新規なものであり、産業界の要求(細胞外培地で分泌タンパク質を大量生産すること、および、発酵槽で生産者である菌類を培養することの可能性)を満たす担子菌類の発現系の開発に関する不備を埋めるものとなる。
【0033】
1)シュタケのラッカーゼ遺伝子およびそのプロモーターのクローニング
第一の過程において、本発明者らは、ラッカーゼをコードする遺伝子の断片を、縮重ヌクレオチドプライマーを用いて増幅した(図2)。上流の縮重プライマーF2(SEQ ID NO:6;CAYTGGCAYGGRTTCTTCC)および下流の縮重プライマーR8(SEQ ID NO:7;GAGRTGGAAGTCRATGTGRC)はそれぞれ、類似の菌のラッカーゼの銅IおよびIVへの結合領域から誘導し、シュタケI−937のゲノムDNAを用いてのPCR反応(ポリメラーゼ連鎖反応)に用いた。10μlの反応混合物に、100ngのゲノムDNA、0.2mMのdATP、dCTP、dTTPおよびdGTP、25pmolの各ヌクレオチドプライマー、10分の1の体積の10×Pfuポリメラーゼバッファー(100mMのTris−HCl、15mMのMgCl2、500mMのKCl、pH8.3)、ならびに1UのPfuポリメラーゼを添加した。混合物は5分間、94℃で加熱し、その後、ポリメラーゼを加えた。反応条件は、94℃で5分、55℃で30秒、そして72℃で4分を5サイクル、次いで、94℃で30秒、55℃で30秒、そして72℃で3分を25サイクルである。反応を終えるため、72℃で10分間の過程を行う。ラッカーゼ遺伝子の中央部分に対応する1.64kbpのバンドが得られた。この遺伝子部分をシーケンシングするために、DNA配列をpGEM−Tでクローニングした。
【0034】
サザンブロット技術(図3)により、我々はラッカーゼ遺伝子の全体を含んでいる可能性のある最小のDNA断片を得るために、欠損した5’末端および3’末端を増幅することに役立つ可能性のある、適切な制限酵素認識部位を決定した。サザンブロット法を、酵素BamHI、EcoRI、PstI、PvuII、SacI、SmaIおよびXbaIを用いてシュタケのゲノムDNAで行い、該方法によって、ゲノムDNAの消化によって3.5kbpのバンドを示すPstIを選択することができた。遺伝子の欠損部分を増幅するために、インバースPCR技術を、先に単離した中央部分に特異的なヌクレオチドプライマーとシュタケのゲノムDNAを有するPCR混合物に対して用いた。PCR反応は、PstIによって切断し、セルフライゲーションによって再環状化した150ngのDNAと、ヌクレオチドプライマーFex(SEQ ID NO:8;GGATAACTACTGGATCCGCG)およびRex(SEQ ID NO:9;CGCAGTATTGCGTGGAGAG)を用いて行った。反応条件は、94℃で5分、55℃で30秒、および72℃で5分を5サイクル、次いで、94℃で30秒、55℃で30秒、および72℃で4分を25サイクルであり、72℃で10分間の最終過程も含まれる。増幅したDNA断片は、pGEM−Tでクローニングし、シーケンシングした、2.7kbpのバンドに対応した。
【0035】
次に、ラッカーゼをコードする遺伝子の全体を、中央部分と増幅した5’部分および3’部分を組み合わせて画定した。この配列を確認するために、遺伝子全体を、シュタケのゲノムDNAから、ヌクレオチドプライマーFin(SEQ ID NO:10;GACATCTGGAGCGCCTGTC)およびRin(SEQ ID NO:11;ATCGAAGGTTCCGATGACTGACATGAC)を用いて増幅した(3331kbp、図4)。また、この遺伝子はシュタケss3のゲノムDNAからもクローニングされ、シュタケI−937で単離されたものと同一であることが明らかになった。
【0036】
2)ラッカーゼ遺伝子のプロモーターを用いた発現ベクターの構築
ラッカーゼの遺伝子配列から、本発明者らは、先に遺伝子の単離に用いたものと同じ方法を用いて、つまり、制限酵素BglIIによって今回は切断したゲノムDNA断片(3.5kbp)に対するインバースPCR技術によって、この遺伝子のプロモーターをクローニングした(図5)。このようにして、ラッカーゼ遺伝子の前方の2527kbpをインバースPCRでクローニングし、シーケンシングした。このプロモーターを、細菌におけるプロモーターのサブクローニングのためのアンピシリン耐性と、菌における選択マーカーとして用いるフレオマイシン耐性を有するベクターに組み込んだ。スエヒロタケのハイドロフォビンsc3をコードする遺伝子のターミネーターを、転写過程を終わらせるために下流に置いた。pELPと呼ばれるこのベクターを、ラッカーゼの同種の発現に用いる(図6)。他の二つの異なったプロモーターをこの研究では用いた。それらは、スエヒロタケのグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(gpd)をコードする遺伝子のプロモーターとハイドロフォビン(sc3)をコードする遺伝子のプロモーターであり(図6)、それぞれ、発現ベクターpEGTおよびpESCを構成する。ベクターpEGT(SEQ ID NO:12)、pESC(SEQ ID NO:13)およびpELP(SEQ ID NO:14)のヌクレオチド配列の全体を、プロモーター、選択マーカーおよびターミネーターの位置とともに図7、図8および図9に示した。
【0037】
III)発現ベクターによる一核株の形質転換(研究モデル:シュタケのラッカーゼ)
1)プロトプラストを得るための菌糸体の調製
固形培地で培養した(10日間)コロニーの四分の一を、50mlのYM培地(1リットルあたり、10gのグルコース、5gのペプトン、3gの酵母エキス、3gの麦芽エキス)において一分間、ホモジナイザー(Ultraturaxタイプ、低速度)を用いてホモジナイズした。ホモジネートを、50mlのYM培地を入れた250mlの滅菌した三角フラスコに移し、次に、30℃で、撹拌しながら(225rpm)20時間にわたってインキュベートした。培養物を改めて1分間ホモジナイズし(低速度)、100mlのYM培地を加えた。ホモジネートを500mlの三角フラスコに移し、30℃で一晩培養した。
【0038】
2)プロトプラストの調製
菌の培養物を振動型ローター(50mlのチューブ)において、2000rpmで10分間遠心分離した。16g(湿重量)を、40mlの、0.5MのMgSO4溶液または0.5Mのスクロース溶液で洗浄した。スクロースを用いる場合、細胞壁を消化するために用いる溶解酵素をスクロースで希釈する。次に、菌糸体を2000rpmで10分間遠心分離し、上澄みを除去した。菌の細胞壁の溶解に関しては、50mlの培養物に由来する菌糸体に、0.5MのMgSO4溶液で1mg/mlに希釈した10mlの溶解酵素(Glucanex、Sigma社)を加えた。消化は、500mlの三角フラスコにおいて、3〜4時間にわたる弱い撹拌のもと、30℃で行った。このインキュベーションの間、プロトプラストの出現を顕微鏡で確認した。10mlの滅菌水を加え、穏やかに混合した。プロトプラストを10分間、水と平衡する間放置した(プロトプラストは表面に浮かぶようになる)。次に該プロトプラストを、振動型ローターにおいて、2000rpmで10分間遠心分離した。プロトプラストを含む上澄みを慎重に50mlの新しい容器に移した。底に残った塊を0.5MのMgSO4溶液25mlで再びインキュベートすることで、最大量のプロトプラストを回収することができる(このとき遠心分離過程を繰り返す)。プロトプラストの調製物の量に等しい量の1Mソルビトールを加えた。10分間、液体中でプロトプラストを凝集させた。次に、この調製物を2000rpmで10分間遠心分離した。上澄みを除去し、少量のソルビトールが残った。プロトプラストを新しいチューブに移した。前のチューブを1Mのソルビトール溶液ですすぎ、回収されたプロトプラストを新しいチューブに加えた。プロトプラストを計数し、2000rpmで10分間遠心分離した。次に、プロトプラストを1Mのソルビトール溶液で、1mlあたり2×107個のプロトプラストを含む濃度に希釈した。0.5MのCaCl2溶液(1/10)をプロトプラストに加えた。
【0039】
3)プロトプラストの形質転換
形質転換のために、滅菌した10mlのチューブにおいて、100μlのプロトプラストを5〜10μgのベクター(最大量で10μl)で形質転換した。該プロトプラストを氷中で10〜15分間インキュベートした。一定量の40%PEG4000溶液を加え、混合し、プロトプラストを室温で5分間インキュベートした。2.5mlの再生培地(100mlあたり、2gのグルコース、12.5gのMgSO4・7H2O、0.046gのKH2PO4、0.1gのK2HPO4、0.2gのバクト(bacto)ペプトン、0.2gの酵母エキス)をプロトプラストに加え、該プロトプラストを30℃で一晩インキュベートした。選択用ケース(7μg/mlのフレオマイシンを含むYM培地、四角のケース)を37℃に予め加熱した。7.5mlのトップアガーの混合物(7〜10μg/mlのフレオマイシンを含むYM培地で希釈した1%低融点アガロース)を、プロトプラストを含む再生培地に加え、予め加熱した選択用ケースに入れた。トップアガー溶液が固化すると、ケースを30℃で4日間インキュベートした。そうして、形質転換体を新しい選択用ケースに移した。
【0040】
4)形質転換体のターゲティング
16gの菌糸体から、一般的にはおよそ1〜2×107個のプロトプラストが得られる。再生のパーセンテージは10%である。ベクターpESCに関しては、一核を、シュタケのラッカーゼをコードするcDNA(BRFM472、473および474)または遺伝子(BRFM470および471)を有するベクターで形質転換した(図10)。同様に、その他の一核を、ラッカーゼをコードする遺伝子を含んだプロモーターpEGT(GPD11、12および13)またはベクターpELP(12.3、12.7および12.8)によって形質転換した(図10)。結果を見ると、二つの形質転換体12.7およびGPD14は、同等の活性で他のものよりもぬきんでている。形質転換体GPD14および12.7については、活性を時間の経過を追って調査した(図11)。活性は3〜4日目から検出可能で、培地にエタノールを加えることで、12日目まで上昇し、およそ1200nkatal/ml、すなわち72000U/lに達した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ラッカーゼ活性のない一核株の単離
【図2】シュタケのラッカーゼをコードする遺伝子の単離
【図3】シュタケのラッカーゼをコードする遺伝子のサザンブロット法による分析
【図4】シュタケのラッカーゼをコードする遺伝子の配列
【図5】シュタケのラッカーゼをコードする遺伝子のpLacプロモーター配列(ラッカーゼのメチオニンをコードするATGまで)
【図6】シュタケにおけるラッカーゼの生成に用いた三つの発現ベクターpEGT、pESC、pELPの物理的地図
【図7】gpd遺伝子プロモーター(4480〜5112)、フレオマイシン耐性マーカー(507〜1822)およびsc3遺伝子ターミネーター(71〜507)を有するベクターpEGTのヌクレオチド配列
【図8】sc3遺伝子プロモーター(1〜1033)、フレオマイシン耐性マーカー(1540〜2855)およびsc3遺伝子ターミネーター(1104〜1540)を有するベクターpESCのヌクレオチド配列
【図9】ラッカーゼ遺伝子のプロモーター(4457〜6983)、フレオマイシン耐性マーカー(507〜1822)およびsc3遺伝子ターミネーター(71〜507)を有するベクターpELPのヌクレオチド配列
【図10】もっとも強い活性を示す形質転換体の生成結果。培養はエタノールを伴ってまたは伴わずに(対照)行った。
【図11】エタノールを伴うまたは伴わない(対照)、時間経過に応じた形質転換体GPD14および12.7のラッカーゼ活性の追跡調査
【図12】halocyphina villosaのラッカーゼをコードする遺伝子の配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の組換えタンパク質の調製方法であり、前記方法が、糸状菌である担子菌類のシュタケ属の一核株において、この所定のタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現させることによって行われ、また、
−前述のシュタケ属の一核株を培養する過程であって、前記株が、所定の組換えタンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現が、構成的または誘導的な、前述の菌の内因性プロモーターに対応するプロモーターまたはそうでないプロモーター(外因性プロモーターとも呼ばれる)の制御下に置かれていることを特徴とする過程と、
−プロモーターが誘導的であるとき、場合によっては前述のプロモーターを誘導する過程と、
−培地で生成した所定の組換えタンパク質を回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいる方法。
【請求項2】
所定の組換えタンパク質をコードする遺伝子の過剰発現に用いるシュタケ属の一核株が、元々は二核である株を30℃で15日間、暗所で培養した後、担子器と呼ばれる、菌糸が分化した子実体が形成されるまで、室温で2〜3週間日光にさらすことで得られ、該担子器の中で核融合が起こり、その後、性分化した四つの胞子、すなわち遺伝的に異なった半数体の担子胞子の形成を引き起こす減数分裂が起こり、それにより発芽後に一核菌糸体が生じることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
用いるシュタケ属の一核株がシュタケの株であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
過剰発現した所定の組換えタンパク質が、シュタケ属の内因性タンパク質に対応するか、または、外因性タンパク質に、とりわけ、植物の生体内変換に関与する担子菌類の酵素のような、シュタケ属以外の担子菌類の内因性タンパク質に対応する外因性タンパク質、あるいは、前記組換えタンパク質の生成に用いるシュタケ属株とは異なるシュタケ属株の内因性タンパク質に対応する外因性タンパク質に対応することを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
所定の組換えタンパク質が、
−以下のシュタケ属の内因性タンパク質:
*ラッカーゼまたはチロシナーゼのような金属酵素、
*または、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キシラナーゼ、βグリコシダーゼ、インベルターゼもしくはαアミラーゼ、
−以下から選択される外因性タンパク質:
*チロシナーゼの生成に用いるシュタケ属株がヒイロタケとは異なる場合のヒイロタケのチロシナーゼのような、前記組換えタンパク質の生成に用いるシュタケ属株とは異なるシュタケ属株のチロシナーゼ、
*halocyphina villosa(好塩性担子菌)のラッカーゼのような、シュタケ属以外の担子菌類のラッカーゼ、
*クロコウジカビのシンナモイルエステラーゼAおよびB、
に対応することを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
シュタケ属の内因性タンパク質に対応する所定の組換えタンパク質の調製方法であり、用いるシュタケ属の一核株が、所定の組換えタンパク質が対応する内因性タンパク質をコードする遺伝子を欠いていることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
シュタケ属の内因性タンパク質に対応する所定の組換えタンパク質の調製方法であり、用いるシュタケ属の一核株が、標識された、とりわけヒスチジンタグによって標識された所定の組換えタンパク質をコードする遺伝子を有する発現ベクターによって形質転換されることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
シュタケ属の内因性ラッカーゼに対応する組換えラッカーゼの調製方法であり、
−シュタケ属の一核株を培養する過程であって、該株が、場合によってはシュタケ属の内因性ラッカーゼをコードする遺伝子を欠き、場合によっては標識されているシュタケ属のラッカーゼをコードする遺伝子を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現がこのラッカーゼの内因性プロモーターに対応するプロモーターの制御下に置かれている過程と、
−前述のプロモーターを誘導する過程であり、とりわけ、エタノール、または、麦藁、トウモロコシの糠およびビートの果肉のようなリグノセルロースを含んだ農業副産物、あるいは、2,5−キシリジン、ベラトルム酸、グアヤコール、ベラトリルアルコール、シリンガルダジン、フェルラ酸、カフェー酸およびリグノスルホン酸塩のような芳香族化合物の添加によって誘導する過程と、
−培地で生成した前述のシュタケ属の内因性ラッカーゼに対応する、場合によっては標識されている組換えラッカーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含むことを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
SEQ ID NO:2で表されるシュタケの内因性ラッカーゼに対応する組換えラッカーゼの調製方法であり、
−シュタケの一核株を培養する過程であって、該株が場合によってはシュタケの内因性ラッカーゼをコードする遺伝子を欠き、SEQ ID NO:2で表される、場合によっては標識されている組換えラッカーゼをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:1を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現が前述のラッカーゼの内因性プロモーターに対応するpLacプロモーターの制御下に置かれ、前記pLacプロモーターの配列がSEQ ID NO:3で表されることを特徴とする過程と、
−前述のpLacプロモーターをエタノールで誘導する過程と、
−培地で生成した、SEQ ID NO:2で表され、場合によっては標識されている組換えラッカーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
シュタケ属の内因性ラッカーゼに対応する組換えラッカーゼの調製方法であり、
−シュタケ属の一核株を培養する過程であり、該株が、場合によってはシュタケ属の内因性ラッカーゼをコードする遺伝子を欠き、場合によっては標識されているシュタケ属のラッカーゼをコードする遺伝子を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現が、
*ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:4で表される、スエヒロタケのグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現プロモーターgpd、
*または、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:5で表される、スエヒロタケのハイドロフォビンをコードする遺伝子の発現プロモーターsc3、
から選択される外因性プロモーターの制御下にある過程と、
−培地で生成した、前述のシュタケ属の内因性ラッカーゼに対応し、場合によっては標識されている組換えラッカーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
SEQ ID NO:2で表される、シュタケの内因性ラッカーゼに対応する組換えラッカーゼの調製方法であり、
−シュタケの一核株を培養する過程であって、該株が場合によってはシュタケ属の内因性ラッカーゼをコードする遺伝子を欠き、場合によっては標識されているSEQ ID NO:2で表される組換えラッカーゼをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:1を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現が外因性プロモーターgpdまたはsc3の制御下に置かれていることを特徴とする過程と、
−培地で生成した、SEQ ID NO:2で表され、場合によっては標識されている組換えラッカーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
SEQ ID NO:16で表されるヒイロタケのチロシナーゼに対応する組換えチロシナーゼの調製方法であり、
−シュタケの一核株を培養する過程であって、該株が、SEQ ID NO:16で表され場合によっては標識されている組換えチロシナーゼをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:15を有する発現ベクターによって形質転換されており、配列SEQ ID NO:15が、好適には、SEQ ID NO:2における最初の21個のアミノ酸によって画定されたシュタケのシグナルペプチドをコードするSEQ ID NO:1の128位および190位のヌクレオチドによって画定されたヌクレオチド配列の後ろにあり、また、その発現がシュタケのラッカーゼの内因性プロモーターに対応するpLacプロモーターの制御下に置かれ、前記pLacプロモーターの配列がSEQ ID NO:3で表されることを特徴とする過程と、
−前述のpLacプロモーターをエタノールによって誘導する過程と、
−培地において生成した、SEQ ID NO:16で表され、場合によっては標識されている組換えチロシナーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含んでいることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
図12に示したhalocyphina villosaのラッカーゼに対応する組換えラッカーゼ(SEQ ID NO:18)の調製方法であり、
−シュタケの一核株を培養する過程であって、該株が、場合によってはシュタケの内因性ラッカーゼをコードする遺伝子を欠き、SEQ ID NO:18で表され、場合によっては標識されている組換えラッカーゼをコードする、図12に示されたヌクレオチド配列(SEQ ID NO:17)を有する発現ベクターによって形質転換されており、その発現が、シュタケのラッカーゼの内因性プロモーターに対応するpLacプロモーターの制御下に置かれ、前記pLacプロモーターの配列がSEQ ID NO:3で表されることを特徴とする過程と、
−前述のpLacプロモーターをエタノールによって誘導する過程と、
−培地において生成した、SEQ ID NO:18で表され、場合によっては標識されている組換えラッカーゼを回収し、場合によっては精製すること、
を含むことを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
シュタケの内因性ラッカーゼのpLacプロモーターをコードし、配列SEQ ID NO:3に対応するヌクレオチド配列、または、一つまたは複数のヌクレオチドを置換、付加または削除することでこのプロモーターから誘導され、配列の発現プロモーターとしての特性を保持しているあらゆる配列。
【請求項15】
請求項14に記載のpLacプロモーターの配列SEQ ID NO:3を有することを特徴とする発現ベクター。
【請求項16】
所定の組換えタンパク質をコードし、発現が請求項14に記載のpLacプロモーターの制御下に置かれた遺伝子を有することを特徴とする、請求項15に記載の発現ベクター。
【請求項17】
所定の組換えタンパク質が、
−以下のシュタケ属の内因性タンパク質:
*ラッカーゼもしくはチロシナーゼのような金属酵素、
*または、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キシラナーゼ、βグリコシダーゼ、インベルターゼもしくはαアミラーゼ
−以下から選択される外因性タンパク質:
*チロシナーゼの生成に用いるシュタケ属株がヒイロタケとは異なる場合のヒイロタケのチロシナーゼのような、前記組換えタンパク質の生成に用いるシュタケ属株とは異なるシュタケ属株のチロシナーゼ、
*halocyphina villosa(好塩性担子菌)のラッカーゼのような、シュタケ属以外の担子菌類のラッカーゼ、
*クロコウジカビのシンナモイルエステラーゼAおよびB、
に対応するタンパク質であることを特徴とする、請求項15または請求項16に記載の発現ベクター。
【請求項18】
請求項15〜請求項17のいずれか一つに記載の発現ベクターによって形質転換される宿主細胞。
【請求項19】
シュタケの株のようなシュタケ属株の一核の細胞に対応する、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
請求項15〜請求項17のいずれか一つに記載の発現ベクター、あるいは、請求項18または請求項19に記載の宿主細胞を利用して実施することを特徴とする、請求項1〜請求項13のいずれか一つに記載の所定の組換えタンパク質を過剰生成させる方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−518407(P2007−518407A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548355(P2006−548355)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/FR2005/000093
【国際公開番号】WO2005/073381
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(505129079)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ アグロノミック (15)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE
【出願人】(506243312)ユニヴェルシテ ドゥ プロヴァンス (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE PROVENCE
【Fターム(参考)】