説明

シュー用乳化油脂組成物及びこれを用いたシュー皮

【課題】 食品添加物である合成のカゼインNaと乳化剤を使用しなくても、良好な風味と口溶けの良い食感を有しながら、形状が大きく、安定したシュー皮を生産することができるシュー用乳化油脂組成物を提供すること。
【解決手段】 シュー用乳化油脂組成物中に、乳酸発酵およびプロテアーゼ処理した乳蛋白質を含有する。また、乳酸発酵およびプロテアーゼ処理した乳蛋白質とマルトースを含有する。これらのシュー用乳化油脂組成物を用いて、上記課題のシュー皮を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な風味と口溶けの良い食感を有し、形状が大きく、安定したシュー皮を得ることができるシュー用乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシュー用乳化油脂組成物では、シュー皮のボリュームを大きく、形状を安定的に連続生産するために、食品添加物である合成のカゼインNaと乳化剤が一般に配合されている。カゼインNaはシュー生地の加熱により被膜を強化するため、シュー皮のボリュームを大きくする効果がある。しかし、シュー皮の食感を固くし、口溶けを悪くする欠点があった。また、膠臭に似た特有の風味を持つため、シュー皮の風味も損ねる欠点があった。一方、乳化剤は油脂組成物の乳化作用の他に、小麦粉中の澱粉に作用するため、シュー生地の糊化を抑制し、シュー皮の空洞を大きくして形状を安定化させる効果がある。しかし、シュー皮本来の持っている卵の風味をマスキングする欠点があった。
【0003】
特許文献1には、シュー用乳化油脂組成物中にホエー蛋白質:カゼイン蛋白質の重量比率が3:7〜5:5である乳蛋白質を含有することが記載されている。しかし、この乳蛋白質を使用しても、カゼイン蛋白質の比率が相対的に低くなるため、シュー皮のボリュームはカゼインNaと比較して小さくなる。また、含有されているカゼイン蛋白質はカゼインNaと同様に特有の風味があり、その比率を低減しても、風味は根本的に改善されない。
【0004】
特許文献2には、シュー用油脂組成物中にタンパク質のカリウム塩を含有することが記載されている。しかし、カゼインNaの製法と同様に、タンパク質を合成のカリウム塩で溶解する必要があり、食品添加物を極力低減しようとする食品の天然志向に合わない。
【0005】
【特許文献1】 特開2001−224308号公報
【特許文献2】 特開2004−267165号公報
【0006】
このように、従来からカゼインNaの食感と風味の欠点を改善しようとする試みはされてきたが、その効果や目的は不十分であった。また、乳化剤はシュー皮の品質に重要成分の一つでありながら、澱粉に作用し、シュー皮の風味が良好となる食品素材については全く検討されていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シュー皮の品質に重要成分であった合成のカゼインNaと乳化剤を使用しなくても、良好な風味と口溶けの良い食感を有し、形状が大きく、安定したシュー皮を生産することができるシュー用乳化油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、乳酸発酵およびプロテアーゼ処理した乳蛋白質を含有するシュー用乳化油脂組成物である。また、乳酸発酵およびプロテアーゼ処理した乳蛋白質とマルトースを含有するシュー用乳化油脂組成物であり、これらのシュー用乳化油脂組成物を用いて得られるシュー皮である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシュー用乳化油脂組成物によれば、食品添加物である合成のカゼインNaと乳化剤を使用しなくても、良好な風味と口溶けの良い食感を有し、形状が大きく、安定したシュー皮を生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用する乳蛋白質は、カゼイン蛋白質の比率が高く、水に分散溶解する乳蛋白質である。例えば、ホエー蛋白質:カゼイン蛋白質の重量比率が2:8であるトータルミルクプロテイン(以下、TMP)やミルクプロテインコンセレート(MPC)と呼ばれている乳蛋白質を使用することができる。これらの乳蛋白質は生乳を脱脂し、pH調整または膜ろ過により乳糖を除去して得られるものである。
【0011】
本発明のシュー用乳化油脂組成物中における上記乳蛋白質の含有量は、0.5〜4.5重量%である。乳蛋白質が下限未満の場合、シュー皮はボリュームが出ず、形状が安定しない。乳蛋白質が上限を超えると、乳蛋白質を含有した水系部は粘度が上昇し、シュー用乳化油脂組成物を均一に乳化することが困難となる。
【0012】
本発明の乳酸発酵およびプロテアーゼ処理した乳蛋白質とは、上記の乳蛋白質を含有する水系部を乳酸発酵させながら、特定のプロテアーゼで酵素処理することである。乳酸発酵とプロテアーゼによる酵素処理を併用することで、従来にない良好な風味と口溶けの良い食感を有したシュー皮を得ることができる。乳酸発酵の方法は、予備殺菌した水系部を乳酸菌により40℃で6時間発酵させ、水系部pHを5.3〜5.5まで低下させる。また、特定のプロテアーゼとは、シュー皮の風味とボリュームに悪影響を及ぼさない酵素を使用する。酵素としては、例えば、スミチームFPまたはスミチームMP(いずれも新日本化学製)などが挙げられる。プロテアーゼ処理の方法は、これらの酵素を乳酸発酵の途中で0.00005〜0.0004重量%添加し、40℃で0.5〜6時間処理した後、90℃・2分にて酵素失活させる。
【0013】
本発明で使用するマルトースとしては、糖類の中でも澱粉の糊化抑制の効果が大きく、精製されたマルトース、無水結晶マルトース、または液状マルトースである麦芽糖水飴を0.2〜4重量%使用することができる。マルトースが下限未満の場合、シュー皮の空洞が大きくならず、形状が安定しない。マルトースが上限を超えると、シュー皮の表面が著しく褐変し、ボリュームが出にくくなる。また、糖類を増量することでシュー皮の口溶けを向上することができ、単糖類、二糖類、オリゴ糖、デキストリンなどの糖および糖アルコールをマルトースと併用することもできる。
【0014】
本発明のシュー用乳化油脂組成物に使用される油脂としては、特に限定されず、食用として供される各種植物油脂、動物油脂及び乳脂と、これらの分別、硬化あるいはエステル交換した油脂も混合使用することができる。
【0015】
本発明のシュー用乳化油脂組成物の油脂分としては、60〜95重量%である。油脂分が下限未満の場合、安定な油中水型乳化油脂組成物にするのが困難となる。油脂分が上限を超えると、本発明の乳酸発酵およびプロテアーゼ処理した乳蛋白質の含有量が少なくなり、シュー用乳化油脂組成物としての効果が得られなくなる。
【0016】
本発明のシュー用乳化油脂組成物を油中水型に乳化させる成分としては、非合成成分であればどのようなものでも良く、例えば、全卵、卵黄及びこれら酵素処理卵、卵黄油などの卵成分が挙げられる。また、大豆または卵由来のレシチン類を使用することもできる。
【0017】
本発明のシュー用乳化油脂組成物は、次のような方法で製造することができる。まず、本発明で使用する乳蛋白質を含有する水系部を加温して、所定の条件で乳酸発酵およびプロテアーゼ処理する。次に、加熱溶解した食用油脂に処理した水系部を乳蛋白質がシュー用乳化油脂組成物中に0.5〜4.5重量%となるように添加し、上記の乳化成分、マルトース0.2〜4重量%、塩などを混合乳化させた後、急冷混和して、本発明のシュー用乳化油脂組成物を得ることができる。
【0018】
本発明のシュー皮の配合は、小麦粉100重量部に対して、本発明のシュー用乳化油脂組成物を70〜150重量部、水を50〜200重量部、液卵を150〜300重量部から構成される配合が好ましい。また、必要に応じて、重炭酸アンモニウム、重炭酸ソーダ、ベーキングパウダーなどの膨張剤を加えることができる。その他、食感改良のため、小麦粉の代わりに天然および加工澱粉、ミックス粉などを使用することもできる。
【0019】
本発明のシュー皮の調製方法としては、本発明のシュー用乳化油脂組成物を水とともに加熱溶解し、粉類を添加して混合する。液卵をミキシングしながら、数回に分けて添加し、シュー生地が均一になるまで混合する。必要に応じて、膨張剤を加え、残りの液卵で生地の硬さを調整する。得られたシュー生地を必要量ずつ絞り、オーブンなどにより焼成して、本発明のシュー皮を得る。
【実施例】
【0020】
以下、実施例及び比較例を挙げながら、本発明を具体的に説明する。なお、実施例中のシュー用乳化油脂組成物の配合は重量%、生地配合は重量部で示した。
【実施例1】
【0021】
乳蛋白質の処理は、TMPが水系部中に12.3重量%含有する水系部を乳酸発酵させながら、発酵途中でスミチームMPを0.0002重量%添加して、40℃で1時間プロテアーゼ処理した。
【0022】
シュー用乳化油脂組成物は、加熱溶解した食用油脂72重量%に上記の処理した水系部22重量%(TMP2.7重量%相当)、酵素処理卵黄1重量%、マルトース1重量%、塩0.2重量%、残り水を乳化し、急冷混和して、本発明のシュー用乳化油脂組成物1を得た。得られたシュー用乳化油脂組成物1を用いて、下記の配合(全卵225重量部)及び調製方法でシュー皮を作成し、評価した。
【0023】
(シュー皮の配合)
薄力粉 100重量部
シュー用乳化油脂組成物 110重量部
水 135重量部
全卵(殺菌卵) 220〜230重量部
重炭酸アンモニウム 1重量部
【0024】
(シュー皮の調製方法)
まず、ミキサーボールに水とシュー用乳化油脂組成物を混合し、沸騰するまで加熱溶解する。これに薄力粉をふるい加え、高速で約1分間混合する。次に、低速で全卵の90%を徐々に加え、高速で3分間混合する。最後に、低速で膨張剤を加えた残りの全卵を適量加え、高速で2分間混合する。得られたシュー生地を天板に33gずつ絞り、220℃で20分間焼成する。
【実施例2】
【0025】
乳蛋白質の処理は、TMPが水系部中に12.3重量%含有する水系部を乳酸発酵させながら、発酵途中でスミチームFPを0.0002重量%添加して、40℃で30分間プロテアーゼ処理した。
【0026】
シュー用乳化油脂組成物は、加熱溶解した食用油脂72重量%に上記の処理した水系部22重量%(TMP2.7重量%相当)、酵素処理卵黄1重量%、塩0.2重量%、残り水を乳化し、急冷混和して、本発明のシュー用乳化油脂組成物2を得た。得られたシュー用乳化油脂組成物2を用いて、実施例1と同様の配合(ただし、全卵230重量部)及び調製方法でシュー皮を作成し、評価した。
【比較例1】
【0027】
シュー用乳化油脂組成物は、食用油脂72重量%にモノグリセリン脂肪酸エステル0.2重量%を加熱溶解し、乳酸発酵およびプロテアーゼ処理していない、TMP使用の水系部22重量%(TMP2.7重量%相当)、塩0.2重量%、残り水を乳化し、急冷混和して、シュー用乳化油脂組成物3を得た。得られたシュー用乳化油脂組成物3を用いて、実施例1と同様の配合(ただし、全卵220重量部)および調製方法でシュー皮を作成し、評価した。
【比較例2】
【0028】
シュー用乳化油脂組成物は、食用油脂72重量%にモノグリセリン脂肪酸エステル0.2重量%を加熱溶解し、乳酸発酵およびプロテアーゼ処理していない、カゼインNa使用の水系部22重量%(カゼインNa2.7重量%相当)、塩0.2重量%、残り水を乳化し、急冷混和して、シュー用乳化油脂組成物4を得た。得られたシュー用乳化油脂組成物4を用いて、実施例1と同様の配合(ただし、全卵220重量部)および調製方法でシュー皮を作成し、評価した。
【0029】
得られたシュー皮は、一晩箱に放置後、それぞれ高さ、幅、底径を測定し、その平均値(単位:cm)を示し、形状はボリューム感について評価した。また、官能評価により風味は卵感、食感は口溶けについて評価し、◎:最も良好、○:良好、×:不良と示した。これらの結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
上記の結果の通り、比較例1ではシュー皮は縦伸びでボリュームが小さく、形状、風味、食感において不良であった。また、比較例2ではシュー皮の形状はボリュームがあり、良好であったが、風味、食感において不良であった。一方、実施例1,2ではシュー皮の形状は比較例2以上に良好であり、風味、食感においてもシュー皮本来の優れたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸発酵およびプロテアーゼ処理して得られる乳蛋白質を含有することを特徴とするシュー用乳化油脂組成物。
【請求項2】
マルトースを含有することを特徴とする請求項1記載のシュー用乳化油脂組成物。
【請求項3】
請求項1,2記載のシュー用乳化油脂組成物を使用したシュー皮。

【公開番号】特開2007−185177(P2007−185177A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31640(P2006−31640)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000165284)月島食品工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】