説明

ショ糖脂肪酸エステルの製造方法

【課題】有害な有機溶媒を用いることなく、除去するのに多大の労力と多量の精製溶剤を要する脂肪酸塩の発生を抑えた、ショ糖脂肪酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】ショ糖および脂肪酸エステルを、水の存在下で、減圧下で加熱してエステル交換させることを特徴とするショ糖脂肪酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショ糖脂肪酸エステル(以下、SEと略称することがある。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから、SEの製造方法が多数提案されている。これらの方法は、直接エステル化法、エステル交換法、酵素法に分類される。
【0003】
エステル交換法の中では、溶媒法とミクロエマルション法がよく研究され、実施もされている。
【0004】
例えば、溶媒法としては、特許文献1に、砂糖をジメチルホルムアミドに溶解し、これにラウリン酸メチルとKOHを加え、90〜100℃で12時間加熱する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、ジメチルホルムアミドのような毒性溶媒を用いている問題、および、KOHが触媒として用いられることによりラウリン酸メチルの一部がラウリン酸カリウムとなり、ラウリン酸メチルがエステル化に有効に利用されない上に、このアルカリと高温で加熱されることにより、合成されたSEが分解される問題がある。また、精製にしても、脂肪酸塩の除去に多大な労力を要するという問題がある。
【0005】
また、ミクロエマルション法としては、特許文献2に、砂糖、水、ショ糖モノステアレート、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸メチル、パルミチン酸メチルを混合し、加熱して砂糖を溶解し、エマルションを形成させ、エマルション状態を保ちながら、減圧下に水を留去した後に、炭酸カリウムを加えて高温で反応させる方法が提案されている。しかしながら、この方法では、炭酸カリウムが触媒として用いられているため、ステアリン酸カリウムおよびパルミチン酸カリウムが生成し、エステル合成に脂肪酸メチルが有効に利用されないばかりか、このアルカリと高温により、合成されたSEが分解されてしまう。また、精製にしても、多大な労力と多量の精製溶剤を用いることになり、製品であるSEに溶剤が多少なりとも残留することになる。
【特許文献1】米国特許第2893990号明細書
【特許文献2】米国特許第3644333号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、有害な有機溶媒を用いることなく、除去するのに多大の労力と多量の精製溶剤を要する脂肪酸塩の発生を抑えた、ショ糖脂肪酸エステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、有害な有機溶媒および精製が困難な脂肪酸塩を用いず、安価で無味・無臭・無着色の安全なSEを製造する方法を見出した。
【0008】
本発明者は、ショ糖、脂肪酸エステルおよび水からなる反応系を、減圧下で加熱撹拌することにより、ショ糖水と脂肪酸エステルの界面にてエステル交換することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりのショ糖脂肪酸エステルの製造方法を提供するものである。
項1. ショ糖および脂肪酸エステルを、水の存在下で、減圧下で加熱してエステル交換させることを特徴とするショ糖脂肪酸エステルの製造方法。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明に使用する砂糖(ショ糖)はグラニュー糖でも良いが、充分精製されていない市販の安価な砂糖を用いても良い。本発明の方法によれば、市販の安価な砂糖を用いても、無味・無臭・無着色のSEが得られる。
【0012】
本発明に使用する脂肪酸エステルとしては、炭素数8〜22の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸と、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の低沸点のアルコールとのエステル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のグリコールとのエステル、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとのエステル等が挙げられる。これらの中でも、炭素数8〜22の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸と、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の低沸点アルコールとのエステルが、高純度のSEを得るのに好ましい。中でも、食品・医薬・化粧品に用いるSEを得る場合には、エチルアルコールとの脂肪酸エステルが好ましい。
【0013】
脂肪酸エステルの使用量は、ショ糖100重量部に対して、30〜450重量部であるのが好ましく、50〜300重量部であるのがより好ましい。
【0014】
水の使用量は、ショ糖100重量部に対して、50〜600重量部であるのが好ましく、100〜400重量部であるのがより好ましい。
【0015】
本発明の反応温度は、60〜100℃であるのが好ましく、80〜100℃であるのがより好ましい。
【0016】
反応の際は、反応系の減圧度が大きいほど反応が促進される。反応初期においては、反応系は、ショ糖、脂肪酸エステルおよび水からなる組成物であるために、泡立ちして溢れることはないが、反応が進むにつれてSEが合成されるため、SEによる泡立ちや、粘度、水分量等に注意しながら、0.01〜0.11MPaの範囲で減圧度を調整しながら反応を行う。
【0017】
なお、反応には脱水・脱アルコールが伴うため、水を適宜加えるのが好ましい。
【0018】
反応時間は、5〜30時間であるのが好ましく、5〜12時間であるのがより好ましい。
【0019】
反応終了後の反応液には、未反応のショ糖および脂肪酸エステルが若干残っている。SEの用途によっては、このまま製品として用いても良い。精製が必要な場合には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、イソブタノール、n−ブタノール、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、石油エーテル、ジエチルエーテル、流動パラフィン、植物油、動物油およびこれらの混合物を用いて精製することができる。
【0020】
食品・医薬・化粧品に用いるSEを得る場合には、水、エタノール、流動パラフィン、植物油、動物油およびこれらの混合物を用いて精製するのが好ましい。反応粗製物には、未反応のショ糖と未反応の脂肪酸エステルが残存している。精製するには、例えば、反応粗製物を脱水し、エタノールのようなショ糖を溶解しない溶剤を加えると、未反応のショ糖が析出してくるので除去する。次いで、脱溶剤(脱エタノール)を行って得られた組成物を水に分散溶解した後、オリーブ油のような水に溶解しない溶剤を加えて、よく撹拌して、未反応の脂肪酸エステルを水に溶解しない溶剤(例えば、オリーブ油)に溶解させる。水に溶解しない溶剤層(例えば、オリーブ油層)を分離した後の水層を濃縮することによって、ショ糖脂肪酸エステルを得る。また逆に、反応粗製物に、水に溶解しない溶剤(例えば、オリーブ油)を加えて未反応の脂肪酸エステルを除去した後に、残った水層を脱水濃縮し、ショ糖を溶解しない溶剤(例えば、エタノール)を加えて、未反応のショ糖を除去する。次いで、脱溶剤してショ糖脂肪酸エステルを得ることもできる。
【0021】
本発明には、反応補助剤として、SE、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の界面活性剤、カルボキシメチルセルロース塩、アルギン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、キサンタンガム、グアーガム等の保護コロイド剤を用いても良い。
【0022】
また、本発明には、エステル化触媒を用いても良い。例えば、得られるショ糖脂肪酸エステルを、食品、医薬品、化粧品等の用途に用いる場合には、酢酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸およびこれらのK、Na、Ca塩等か、または、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン等のアミノ酸およびこれらのK、Na、Ca塩等を、エステル化触媒として用いるのが好ましい。これらのエステル化触媒を用いると、反応時間が短縮でき、収率も向上する。また、反応後の精製も容易である。
【0023】
本発明のSEの製造には、通常の撹拌機でも充分であるが、ミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等を使用しても良い。
【0024】
また、本発明のSEの製造には、より着色の少ない製品を得るために、減圧時にNガスを流しても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明のSEの製造方法によれば、特殊な製造装置や苛酷な反応条件、有害な有機溶媒を用いることなく、容易に、安全性の高い無味・無臭・無着色のSEを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部および%は重量基準である。
【0027】
実施例1
砂糖200g(0.585モル)を200mlの水に溶解した。これをオレイン酸エチル181.6g(0.585モル)とともに、減圧機に連結した冷却管を付けた2Lの3口フラスコに入れた。温度を85±5℃に保持しながら、内容物が溢れ出ないように、0.03〜0.1MPaの減圧下で、24時間エステル交換反応を行った。反応終了後、脱水して固形物を得て、エタノールを500ml加え、反応物を完全に溶解した。この際、未反応の砂糖が少量分散していたので、濾過した。次いで、1Lのナス型フラスコを用いて濾液からエバポレーターでエタノールを除去して、固形物を得た。これに水を400ml加え、SEの約50%液を調製した。この50%液を2Lのビーカーに移し、流動パラフィンを400ml加え、80℃でよく撹拌した後、2Lの分液ロートに注ぎ静置した。水層を取り出して脱水すると、モノエステルを70.2%、ジ・トリ・ポリエステルを29.8%含有するSEが362.3g得られた。収率は95%であった。
【0028】
次に、流動パラフィン層をエタノールでよく洗浄すると、未反応のオレイン酸エチルがエタノール層に移動してきた。このエタノールを除去して得られたオレイン酸エチルおよびオレイン酸エチルを除去された流動パラフィンは、次回の反応に使用することができた。
【0029】
また、エステル交換反応時の脱水・脱エタノールと同時にオレイン酸エチルも少量出たが、分液して反応液に戻すか、次回の反応に利用した。以下、同様にした。
【0030】
実施例2
砂糖150g(0.439モル)を200mlの水に溶解した。これをオレイン酸エチル272.6g(0.878モル)とともに、実施例1と同様の2Lの3口フラスコに入れた。温度を85±5℃に保持しながら、内容物が溢れ出ないように、0.03〜0.1MPaの減圧下で、26時間エステル交換反応を行った。反応終了後、後の操作は、実施例1に準じて行った。モノエステルを50.9%、ジ・トリ・ポリエステルを49.1%含有するSEが388.4g得られた。収率は92%であった。
【0031】
実施例3
砂糖100g(0.292モル)を400mlの水に溶解した。これをオレイン酸エチル272.6g(0.878モル)とともに、実施例1と同様の2Lの3口フラスコに入れた。温度を95±5℃に保持しながら、内容物が溢れ出ないように、0.03〜0.1MPaの減圧下で、28時間エステル交換反応を行った。反応終了後、後の操作は、実施例1に準じて行った。モノエステルを17.6%、ジ・トリ・ポリエステルを82.4%含有するSEが323.8g得られた。収率は87%であった。
【0032】
実施例4
砂糖150g(0.439モル)を200mlの水に溶解した。これをステアリン酸エチル137g(0.439モル)とともに、実施例1と同様の2Lの3口フラスコに入れた。温度を95±5℃に保持しながら、内容物が溢れ出ないように、0.03〜0.1MPaの減圧下で、28時間エステル交換反応を行った。反応終了後、脱水し、エタノールを500ml加え、70℃で反応物を完全に溶解した。70℃に保持したまま、未反応の砂糖を濾過した。次に、脱エタノールの操作を行い、残った反応物に80℃の水400mlを加え、溶解した。80℃に保持したまま、オリーブオイルを400ml加え、よく撹拌した後、オリーブオイル層と水層に分別した。水層からは、モノエステルを65%、ジ・トリ・ポリエステルを35%含有するSEが243.9g得られた。収率は85%であった。オリーブオイル層からは、エタノールを用いてステアリン酸エチルを回収した。
【0033】
実施例5
砂糖200g(0.585モル)を300mlの水に溶解した。これをカプリン酸エチル100.6g(0.585モル)とともに、実施例1と同様の2Lの3口フラスコに入れた。温度を65±5℃に保持しながら、内容物が溢れ出ないように、0.02〜0.1MPaの減圧下で、24時間エステル交換反応を行った。反応終了後、脱水し、室温でエタノールを400ml加え、反応物を完全に溶解した。未反応の砂糖を濾過した後、脱エタノールの操作を行い、残った反応物に水を400ml加えて溶解した。次いで、オリーブオイルを400ml加え、80℃でよく撹拌した後に、オリーブオイル層と水層に分別した。水層からは、モノエステルを72%、ジ・トリ・ポリエステルを28%含有するSEが273.5g得られた。収率は91%であった。オリーブオイル層からは、エタノールを用いてカプリン酸エチルを回収した。
【0034】
比較例1
米国特許第3644333号を参考にしたミクロエマルション法による比較例を以下に示す。
【0035】
砂糖200g(0.585モル)およびステアリン酸ナトリウム100gを2Lの反応器に仕込み、水100mlを加えて均一な砂糖・石けん溶液を調製した。100〜125℃で大部分の水を除き、触媒としてKCOを4g加え、さらに150℃まで加熱した。次いで、0.1MPaまで減圧し、微量の水分を除いて、174g(0.585モル)のステアリン酸メチルを加えた。ステアリン酸メチルの添加終了後、150℃で3時間反応させて褐色で異臭のする反応物を得た。この反応物にn−ブタノールを800ml加え、次いで、水200mlを加えて55℃で撹拌した。次いで、アルカリにて系内をpH7.5に保ちながら、沈殿が生成しなくなるまで塩化第二鉄水溶液を少量ずつ加えた。反応後、反応液を遠心分離にかけると有機層が上澄として分離した。この有機層を減圧すると、モノエステルを52%、ジ・トリ・ポリエステルを48%含有するSEが149.6g得られた。収率は40%であった。このSEには、微量のn−ブタノールと塩化第二鉄が含まれていた。
【0036】
比較例2
米国特許第2893990号を参考にして、溶媒としてジメチルホルムアミドを用いた比較例を以下に示す。
【0037】
砂糖200g(0.585モル)およびジメチルホルムアミド800mlを3Lの反応器に仕込み、これにラウリン酸メチル125g(0.585モル)およびKOH4gを加え、90〜100℃で12時間加熱反応した。反応終了後、冷却して800mlのヘキサンで5回抽出して未反応のラウリン酸メチルを除いた。ジメチルホルムアミド溶液を1/2容に濃縮した後、5倍量のアセトンを加えて、未反応砂糖を沈殿させた。沈殿物をn−ブタノールで洗浄し、洗液をジメチルホルムアミド・アセトン溶液と合わせて蒸留した。粘ちょうなシラップを濾過して、析出した残余の砂糖を取り除き、乾燥して、モノエステルを60%、ジ・トリ・ポリエステルを40%含有するSEが151.8g得られた。収率は46.7%であった。得られたSEには、微量のジメチルホルムアミド、メタノール、n−ブタノール、およびアセトンが残存していた。
【0038】
実施例6
砂糖200g(0.585モル)を300mlの水に溶解した。これをオレイン酸エチル181.6g(0.585モル)およびセロゲン7A(第一工業製薬(株)製のカルボキシメチルセルロースナトリウム)100gとともに、実施例1と同様の2Lの3口フラスコに入れた。温度を85±5℃に保持しながら、内容物が溢れ出ないように、0.03〜0.1MPaの減圧下で、21時間エステル交換反応を行った。反応終了後、後の操作は、実施例1に準じて行った。モノエステルを68.7%、ジ・トリ・ポリエステルを31.3%含有するSEが351g得られた。収率は92%であった。
【0039】
実施例7
砂糖200g(0.585モル)を300mlの水に溶解した。これをオレイン酸エチル181.6g(0.585モル)およびリョートーシュガーエステルO−1570(三菱化学フーズ(株)製のショ糖オレイン酸エステル)40gとともに、実施例1と同様の2Lの3口フラスコに入れた。温度を85±5℃に保持しながら、内容物が溢れ出ないように、0.03〜0.1MPaの減圧下で、19時間エステル交換反応を行った。反応終了後、後の操作は、実施例1に準じて行った。モノエステルを65.4%、ジ・トリ・ポリエステルを34.6%含有するSEが368.2g得られた。収率は96.5%であった。
【0040】
実施例8〜14
実施例1〜7における原料の使用量、反応温度、減圧度および精製方法を変更せずに、表1に示す触媒を用いて反応させた。その結果を表1に示す。表1の実施例番号において、( )内の数字は、ベースとなった実施例の番号を示す。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショ糖および脂肪酸エステルを、水の存在下で、減圧下で加熱してエステル交換させることを特徴とするショ糖脂肪酸エステルの製造方法。