説明

シランガス検出材

【課題】水素化物ガスの一種であるシランガスを、セルローステープ等のシート状担体に呈色剤と反応させて生じる反応痕から、光学的に検出するガス検出材に関して、サンプリング時間の延長を可能にすることができるシランガス検知材を提供すること。
【解決手段】ガス吸着剤を含有させた通気性シート状担体に、呈色剤としての銀塩と、耐光性向上剤としてのパラトルエンスルホン酸と、ブタンジオールとを含浸させる。前記銀塩が、過塩素酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、パラトルエンスルホン酸銀、硝酸銀のいずれか1種類または複数種の混合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化物ガスの一種であるシランガスをセルロ−ステ−プ等のシート状担体に呈色剤と反応させて生じる反応痕から光学的に検出するのに最適なガス検出材に関する。
【背景技術】
【0002】
極めて強い毒性を有している水素化物ガスのうち、シラン(SiH4)のガスを検出する検出材としては、特許文献1に見られるようにガス吸着剤を含有させた通気性シート状担体に、呈色剤としての過塩素酸銀と、耐光性向上剤としてのパラトルエンスルホン酸と、エチレングリコールとを含浸させたシランガス検出材が実用化されている。
この検知材によればサンプリング時間を延長して検出材に作用するガスの量を多くすれば、対象ガスの濃度が低い場合であっても積分効果により反応痕を生じさせることができ、この反応痕を光学濃度測定装置により測定すれば、漏洩を確実に検出できる。
【特許文献1】特開平6−186166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この検知材を使用して環境中のガス漏洩を監視する場合には、ランニングコストを抑えるために目的ガスが検出されるまでは同一の検知材を使用して検知動作が継続される。
しかしながら、担体に含有されているエチレングリコールが気流により揮散して検出感度が低下するため、比較的短時間で検知材を更新することが必要となる。
また、極微量のガスを検出するためにサンプリング時間を延長して積算効果を求めようとすると、検出感度に寄与しているエチレングリコールの揮散量が増加して測定誤差が高くなるという不都合がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところはサンプリング時間の延長を可能にすることができるシランガス検知材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような課題を達成するために本発明においては、ガス吸着剤を含有させた通気性シート状担体に、呈色剤としての銀塩と、耐光性向上剤としてのパラトルエンスルホン酸と、ブタンジオールとを含浸させた。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の発明によれば、テ−プ上に担持されている銀塩は、これを溶解しているブタンジオールに取り込まれたシランガスと反応してガスの濃度に応じた量だけ還元されてコロイド銀を析出し反応痕を生じる。反応痕の濃度が水素化物の濃度に比例するので、これの光学的濃度を測定することにより水素化物ガスの濃度を知ることができる。そしてブタンジオールは、分子量が 90.12とエチレングリコールの約1.5倍で沸点、融点がエチレングリコールよりも高いため、サンプリングによる気流での揮散が小さく、30分程度の長時間に亘ってサンプリングを継続しても初期の感度を維持することができ、ガス検知材の更新の期間を延長することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
そこで、以下に本発明の詳細を実施例に基づいて説明する。試薬を担持する担体は、この実施例では植物繊維を梳いて通気性を有するシ−ト体が用いられ、この好ましくはケイ酸(H2SiO3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al2O3)等のガス吸着材を含有させて構成されている。
【0007】
この担体に、1平方米当り過塩素酸銀を0.6乃至4.5グラム、パラトルエンスルホン酸を0.4乃至3.5グラム、ブタンジオールを3.8乃至15.5グラム程度含浸担持させる。
【0008】
これら試薬を担体に担持させる手法としては、メタノ−ルなどの有機溶媒に、過塩素酸銀を濃度0.75乃至6.0w/vパ−セント、パラトルエンスルホン酸を0.5乃至4.5w/vパ−セント、ブタンジオールを5乃至20vパ−セント溶解させてなる調製液に、上述した担体を所定時間浸漬して含浸させる。
【0009】
ついでテ−プを調製液から担体を引上げ、有機溶媒を室温で蒸発させることにより過塩素酸銀、パラトルエンスルホン酸、及びブタンジオールだけを担体に残留させる。
このような操作を調製液に含まれている試薬の濃度に応じて1回若しくは複数回繰り返すことにより、所定濃度で各試薬をテ−プ上に担持させることができる。すなわち、過塩素酸銀及びパラトルエンスルホン酸はブタンジオールに溶解された状態で担体に存在している。
【0010】
図1は、上述のように構成された担体をテープ状に裁断してシランガス検出テ−プとして構成したものを用いてシランの濃度を測定するための装置の一例を示すものであって、図中符号1は、テ−プ2の搬送経路に対向させて配置されたガス吸引部で、テ−プ2に対向する面には直径1センチメ−トル程度の通孔3が穿設されており、パイプ4を介して吸引ポンプ5からの陰圧が作用するように構成されている。
【0011】
図中符号6は、ガス吸引部1の通孔3に対向するテ−プ2の他面側に配置された測定ヘッド部で、吸引部1の通孔3と対向する位置に通孔7が形成された遮光容器として構成されており、内部に発光素子8と受光素子9を、テ−プ2上に形成された反応痕を検出できるような関係でもって配置収容し、さらに一端に被検ガスの導入口10を設けて構成されている。
【0012】
シランガス検出用テ−プをリ−ル11、12にテ−プをセットし、吸引部1に吸引ポンプ5からの吸引圧を作用させると、導入口10から測定ヘッド部6にシランを含む空気が吸込まれる。この空気は、通孔7から検出用テ−プ2の細孔、つまり繊維の隙間を通過して通孔3に排出される。被検ガスが検出用テ−プ2を通過する過程でテ−プ2上の過塩素酸銀がシランに反応し、シランの濃度に比例した量のコロイド銀がテ−プ表面に析出する。
【0013】
このようにして所定のサンプリング時間、例えば60秒程度が経過した時点で、吸引を停止して反応痕の光学的濃度の測定工程に移る。発光素子8からの光は、テ−プ表面に形成された反応痕の光学的濃度に応じて吸収を受けるので、測定開始前の光学的濃度、つまりテ−プのバックグランドとの光学的な濃度差を求めることによりテ−プ2を通過した水素化物ガスの濃度、もしくは積算量を知ることができる。
【0014】
一方、上記測定によっても目的ガスの漏洩が検出されない場合には再度、サンプリングを開始して上述と同様の工程を繰り返す。
【0015】
このようにして目的ガスが検出されることなく検出用テープの同一箇所での積算のサンプリング時間が所定時間を越えた時点で紙送り機構13を駆動してリ−ル11に収容されている検出用テ−プの未使用部分を測定領域に移動させる。
【0016】
図2は、上述の測定装置を用いて濃度5ppmのシランを、サンプリング時間を変えながら出力値を調査したもので、サンプリング時間に比例して出力値、つまり光学濃度が上昇している。
【0017】
さらにシランを含有しない標準エアだけを吸引させた後、規定濃度のシランを含む標準ガスを一定時間吸引させて測定した場合、図3に示したように標準エアを連続30分程度吸引させた程度では検知材の光学濃度差は略一定であった。なお、参考のため、標準エアを60分まで吸引させて同様に検出感度を調査したところ、図中点線で示したように最大で6パーセント低下したが、エチレングリコールを使用した場合よりも感度の低下は少なかった。
【0018】
なお、担持させるブタンジオールの量と感度との関係をシランガスの濃度を一定にして調べたところ、図4に示したようにテープ上の担持量が4g/平方メートル以上であれば担持量とともに感度が向上するものの、12g/平方メートル以上になると通気性の減少による感度の低下が認められた。
なお、上述の実施例においては目的ガスと反応して呈色する銀塩として過塩素酸銀を使用しているが、トリフルオロメタンスルホン酸銀やパラトルエンスルホン酸銀、硝酸銀を使用することもできる。さらに、過塩素酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、パラトルエンスルホン酸銀、硝酸銀を混合して使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のシラン検知材をテープに整形して使用するのに適した検出装置の一例を示す図である。
【図2】本発明のシラン検知材を用いて規定濃度のシランを検出した場合のサンプリング時間と出力値との関係を示す線図である。
【図3】本発明のシラン検知材に標準エアを所定時間透過させた後におけるシランの検出感度を示す線図である。
【図4】本発明のシラン検知材におけるブタンジオールの含有量と検出感度との関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ガス吸引部 2 テ−プ 6 測定ヘッド部 8 発光素子 9 受光素子 10 被検ガスの導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス吸着剤を含有させた通気性シート状担体に、呈色剤としての銀塩と、耐光性向上剤としてのパラトルエンスルホン酸と、ブタンジオールとを含浸させてなるシランガス検出材。
【請求項2】
前記銀塩が、過塩素酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、パラトルエンスルホン酸銀、硝酸銀のいずれか1種類、または複数種の混合物である請求項1に記載のシランガス検出材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−20285(P2008−20285A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191614(P2006−191614)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】