説明

シリコン−アクリル系樹脂組成物

【課題】耐汚染性の向上したシリコン−アクリル系樹脂組成物を得ることを目的とする。
【解決手段】下記の(A)成分0.1〜30重量%、及び(B)成分の(共)重合体70〜99.9重量%(但し、(A)成分と(B)成分の(共)重合体との合計量を100重量%とする。)を含むシリコン−アクリル系樹脂組成物を用いる。
(A)成分:アルキレンオキシド基含有アルコキシシラン縮合物。
(B)成分:(メタ)アクリル系単量体からなる単量体、又は(メタ)アクリル系単量体と、これと共重合可能な単量体とからなる単量体混合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料等に用いられるシリコン−アクリル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全及び安全衛生のため、塗料の無公害化が強く要望されており、従来の溶剤型塗料の水系化が行なわれつつある。シリコン−アクリル系塗料も同様で、フッ素樹脂塗料についで耐候性、撥水性、耐汚染性にすぐれているため、広範囲に使用されており、この塗料の水性化も強く要望されている。
【0003】
しかし、水性化すると、樹脂に含まれるアルコキシシリル基が加水分解してシラノール基が生成するが、生成したシラノール基は経時的に縮合して、塗料の粘度が上昇したり、ゲル化したりするという問題がある。
【0004】
これらの問題を解決するため、特許文献1には、メチルトリメトキシシラン等の重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物を用いた水系エマルジョンからなるシリコン−アクリル系樹脂組成物が開示されている。
【0005】
重合性二重結合を含有しないアルコキシシラン化合物は、水の存在下で加水分解し、Si−O−Si結合を形成する性質を有する。このアルコキシシラン化合物が合成樹脂エマルジョン中に含まれると、アルコキシシリル基が合成樹脂粒子中に取り込まれて、水との接触が少なくなり、加水分解が起こりにくくなる。したがって、このようなアルコキシシラン含有エマルジョンは、塗料としたときの安定性が改良される。
【0006】
【特許文献1】特開平07−268301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、最近、美観の維持という観点から、前記特許文献1に開示されているシリコン−アクリル系樹脂組成物から得られる塗膜に対しても、耐汚染性の向上が求められる。
【0008】
そこで、この発明は、耐汚染性の向上したシリコン−アクリル系樹脂組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、下記の(A)成分0.1〜30重量%、及び(B)成分の(共)重合体70〜99.9重量%(但し、(A)成分及び(B)成分の(共)重合体の合計量を100重量%とする。)を含むシリコン−アクリル系樹脂組成物や、下記の(A)成分の存在下、(B)成分を(共)重合して得られ、前記(A)成分0.1〜30重量%に対し、前記(B)成分を70〜99.9重量%を含有する(但し、(A)成分及び(B)成分の合計量を100重量%とする。)、シリコン−アクリル系樹脂組成物に関する。
(A)成分:アルキレンオキシド基含有アルコキシシラン縮合物。
(B)成分:(メタ)アクリル系単量体からなる単量体、又は(メタ)アクリル系単量体と、これと共重合可能な単量体とからなる単量体混合物。
【発明の効果】
【0010】
この発明の塗料用樹脂組成物は、(A)成分として、アルキレンオキシド基含有アルコキシシラン縮合物を用いるので、耐候性を保持できると共に、耐汚染性が向上し、低汚染性を発現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明にかかるシリコン−アクリル系樹脂組成物は、シロキサン系化合物として、アルキレンオキシド基含有アルコキシシラン縮合物(以下、「(A)成分」と称する。)を有すると共に、(メタ)アクリル系単量体を含む単量体又はその混合物(以下、「(B)成分」と称する。)を重合した重合体又は共重合体(以下、「(共)重合体」と称する。)を有する樹脂組成物、又は(A)成分の存在下に、(B)成分の(共)重合を行って得られる樹脂組成物である。
【0012】
[(A)成分]
前記の(A)成分たるアルキレンオキシド基含有アルコキシシラン縮合物は、アルキレンオキシド基を有するシロキサン化合物を水等で加水分解・縮合して得られた縮合物であり、耐汚染性の向上に寄与する成分である。この(A)成分の例としては、分子量が500〜3000のポリエチレンオキシド基含有アルコキシシランが挙げられ、具体的には、Degussa(株)製:「ダイナシラン4144」(商品名)等があげられる。
【0013】
[(B)成分]
前記(B)成分たる(メタ)アクリル系単量体を含む単量体又はその混合物とは、(メタ)アクリル系単量体からなる単量体、又は(メタ)アクリル系単量体と、これと共重合可能な単量体(以下、単に「共重合単量体」と称する。)とからなる単量体混合物をいい、これを、乳化重合して得られる重合物は、乳化安定性の向上や、耐候性の向上等に寄与する。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」との表記は、「アクリル又はメタクリル」を意味する。
【0014】
前記(メタ)アクリル系単量体の例としては、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド系単量体等があげられる。
【0015】
また、前記(メタ)アクリル酸アルキルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等があげられる。
【0016】
さらに、前記(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル等があげられる。
【0017】
また、前記(メタ)アクリルアミド系単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等があげられる。
【0018】
これらの(メタ)アクリル系単量体は、単独で用いてもよいが、用途、目的等にあわせて、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、及び(メタ)アクリル酸t−ブチルから選ばれる1種又は複数種の単量体又はその混合物を用いると、耐候性の点でより好ましい。
【0019】
次に、前記共重合単量体は、前記(メタ)アクリル系単量体と共重合可能な単量体であり、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル等があげられる。これらの単量体は、単独で用いても、2種以上併用してもよい。さらに、架橋性モノマーとして、(メタ)アクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアネート、ジビニルベンゼン等を用いることもできる。
【0020】
これらの(B)成分中の共重合単量体の含有比率は、共重合単量体/(メタ)アクリル系単量体=0/100〜50/50(重量比)とするのがよく、0.1/99.9〜30/70とするのが好ましい。共重合単量体の含有比率が50重量%より多いと、耐候性が悪化したり、造膜性が低下するという問題が有する場合がある。
【0021】
前記共重合単量体として、アルコキシ基を有する単量体を用いるのが好ましい。その共重合単量体の、上記(B)成分である単量体混合物中における含有比率は、0.1重量%以上がよく、0.5重量%以上が好ましい。0.1重量%より少ないと、耐水性、防水性が劣る傾向となる。一方、含有比率の上限は、5重量%がよく、1重量%が好ましい。5重量%より多いと、エマルジョンの安定性が悪化してゲル化することがあり、また得られる重合体の柔軟性が悪化して、造膜性が劣ることがある。
【0022】
[シリコン−アクリル系樹脂組成物の製造]
次に、前記の(A)成分及び(B)成分を用いてシリコン−アクリル系樹脂組成物を製造する方法について説明する。
【0023】
この発明にかかるシリコン−アクリル系樹脂組成物の製造方法としては、(B)成分の(共)重合を行い、その後、(A)成分と混合する方法(以下、「第1製造方法」と称する。)や、前記の(A)成分の存在下、(B)成分を(共)重合する方法(以下、「第2製造方法」と称する。)があげられる。
【0024】
上記の第1製造方法、及び第2製造方法のいずれも、(B)成分の(共)重合反応が行われる。この(共)重合反応としては、(B)成分である、(メタ)アクリル系単量体、又は(メタ)アクリル系単量体及び共重合単量体との単量体混合物を、反応容器に仕込み乳化重合を行うバッチ重合法、前記(B)成分を乳化剤を含有する水に滴下して乳化重合させるモノマー滴下重合法、前記(B)成分を乳化剤を用いて乳化させ、これを滴下する乳化モノマー滴下重合法等の各種の方法がある。これらの方法は、乳化重合の最初から最後まで実質的に同じ組成の重合が進む限りいずれの方法によってもよいが、製造時にエマルジョンの安定性を確保するという点からモノマー滴下重合法、乳化モノマー滴下重合法が好ましい。
【0025】
前記第1製造方法では、前記(A)成分は、(B)成分の乳化重合後に混合されるが、前記第2製造方法においては、(B)成分の乳化重合の前又は重合中に混合される。この第2製造方法において、バッチ重合法を用いる場合は、(A)成分は、反応容器に仕込まれる。また、モノマー滴下重合法、乳化モノマー滴下重合法においては、(A)成分は、反応容器に仕込んでも、滴下液に仕込んでもよく、また両方に仕込んでもよい。
【0026】
前記の乳化剤としては、非重合性の界面活性剤や重合性界面活性剤があげられる。上記非重合性の界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性の界面活性剤があげられる。具体的には、アニオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル等があげられる。
【0027】
また、カチオン性界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド等があげられる。さらに、ノニオン性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等があげられる。
【0028】
上記重合性界面活性剤としては、アニオン性重合性界面活性剤や、ノニオン性重合性界面活性剤等が挙げられる。上記アニオン性重合性界面活性剤の具体例としては、プロペニル−2−エチルヘキシルベンゼンスルホコハク酸エステルナトリウム、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸アンモニウム塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンエステルのリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩の構造を有し、かつイソプロペニル基、アリール基等の重合性を有するもの等があげられる。
【0029】
また、ノニオン性重合性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルベンゼンエーテル(メタ)アクリル酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(メタ)アクリル酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルの構造を有し、かつイソプロペニル基、アリール基等の重合性を有するもの等のノニオン性重合性界面活性剤等が挙げられる。
【0030】
これら乳化剤である非重合性の界面活性剤や重合性界面活性剤の使用は、1種のみの使用であっても、また2種以上の併用であってもよい。
【0031】
また、これらの中でも、アニオン性重合性界面活性剤、ノニオン性重合性界面活性剤のような重合性界面活性剤が、製造時のエマルジョンの安定性、得られる組成物からなる塗膜の耐候性をより向上させることができるので好ましい。
【0032】
上記乳化剤の使用量は、特に限定はされないが、(B)成分の使用量に対して、0.5〜5重量%が好ましく、1〜3重量%がより好ましい。上記乳化剤の使用量が多過ぎると、塗膜の耐水性が低下する傾向がある。一方、上記乳化剤の使用量が少な過ぎると、樹脂粒子が大きくなり易い。樹脂の粒子径は、乳化剤の種類によっても大きな影響を受けるので、その使用量は、使用する乳化剤に応じて、上記範囲内で、さらに適宜、選択する必要がある。
【0033】
前記(B)成分の乳化重合の際に、一般に重合開始剤が使用されるが、このような重合開始剤の具体例としては、過硫酸塩、アゾ系重合開始剤、ハイドロパーオキサイド類、過酸化物等があげられる。
【0034】
また、前記アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、1,1´−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2´−アゾビスイソブチレート、4,4´−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド、2,2´−アゾビス−(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)等があげられる。
【0035】
さらに、前記ハイドロパーオキサイド類の具体例としては、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド等があげられ、前記過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等があげられる。
【0036】
また、前記過硫酸塩の具体例としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩が挙げられる。これらのハイドロパーオキサイド類、過酸化物や、過硫酸塩は、次亜硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸等の還元剤と併用してレドックス系重合開始剤として用いられることが多い。これらの開始剤の中でも、耐水性の点でアゾ系の重合開始剤が好ましく用いられる。
【0037】
前記重合開始剤の使用量、乳化重合の反応温度及び反応時間は、適度に反応が進行し、目的とする(共)重合体エマルジョンが得られるように適宜調整して決めればよい。たとえば重合開始剤の使用量は、(B)成分100重量部に対して、通常0.05〜2重量部がよく、0.1〜1重量部が好ましい。また、乳化重合の反応温度は、通常は50〜100℃がよく、60〜90℃が好ましい。また、反応時間は、通常は1〜16時間がよく、2〜10時間が好ましい。
【0038】
本発明のシリコン−アクリル系樹脂組成物においては、このとき、(A)成分と(B)成分の(共)重合体の混合比(重量比、但し、(A)成分と(B)成分又はその(共)重合体との合計量を100重量%とする。)は、(A)/(B)として、0.1/99.9以上が必要で、1/99以上がよい。0.1/99.9より少ないと、耐候性や耐水性が不十分となる傾向がある。一方、その上限は、30/70が必要で、25/75以下がよい。30/70より多いと、エマルジョンの安定性が低下してゲル化を引き起こしたり、得られる重合体の柔軟性が不足して、造膜性が悪化することがある。
【0039】
このようにして得られるエマルジョン体のシリコン−アクリル系樹脂組成物の固形分濃度は、塗料化のしやすさ、塗膜の厚さ維持、塗料の塗布性等の作業性の点から30〜75重量%が好ましく、35〜65重量%がより好ましい。また、粘度は、塗料化のしやすさ、塗料の塗布性等の作業性の点から50〜30,000mPa・sが好ましく、100〜20,000mPa・sがより好ましい。さらに、平均粒子径は0.05〜0.5μmが好ましく、0.08〜0.3μm程度の微粒子より構成されているのがより好ましく、この場合には被膜形成能が優れる。
【0040】
この発明におけるシリコン−アクリル系樹脂組成物中の(A)成分のアルコキシシリル基(−SiOCH等)の多くは、エマルジョン粒子内部に安定な状態で含有されており、シリル基は塗料の状態では縮合しにくく、したがって塗料は安定に保たれる。
【0041】
この発明におけるシリコン−アクリル系樹脂組成物には、コロイダルシリカを加えてもよい。さらに、この発明におけるシリコン−アクリル系樹脂組成物に、さらに顔料を含有させ、シリコン−アクリル系塗料としてもよい。これらのシリコン−アクリル系樹脂組成物や、シリコン−アクリル系塗料は、耐候性、耐汚染性等に優れ、さらに好ましい。
【0042】
前記顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、カオリン、カーボンブラック、ベンガラ、フタロシアニンブルー等があげられる。
【0043】
前記コロイダルシリカを含有させる場合、そのコロイダルシリカの含有量は、シリコン−アクリル系樹脂組成物100重量部(固形分換算)あたり、0.4重量部以上がよく、5重量部以上が好ましい。0.4重量部より少ないと、得られる塗膜の水との接触角が十分小さくならず、耐汚染性改良効果が乏しくなる傾向がある。一方、含有量の上限は、40重量部がよく、20重量部が好ましい。40重量部より多いと、シリカの分散安定性が不十分となったり、塗膜の光沢が低下したりする傾向がある。
【0044】
また、前記顔料を含有させる場合、その顔料の含有量は、シリコン−アクリル系樹脂組成物中の(A)成分と(B)成分との合計量100重量部(固形分換算)あたり、30重量部以上がよく、65重量部以上が好ましい。30重量部より少ないと、隠ぺい性が不十分となる傾向がある。一方、含有量の上限は、250重量部がよく、105重量部が好ましい。250重量部より多いと、塗料の伸びが不足したり、塗膜の光沢が低下する傾向がある。
【0045】
前記の方法で得られたシリコン−アクリル系樹脂組成物や、シリコン−アクリル系塗料は、そのまま、または濃度調整を行なうことにより塗料用樹脂組成物又は塗料として使用することができ、また、要すれば造膜助剤、粘性調製剤、水等を添加して塗料用樹脂組成物とすることもできる。
【0046】
これらのシリコン−アクリル系樹脂組成物や、シリコン−アクリル系塗料は、その目的を阻害しない範囲内で、可塑剤、増粘剤等を加えて着色塗料として用いてもよい。また、使用目的に応じて、さらにハロゲン含有リン酸エステル、ハロゲン含有有機硫黄リン化合物、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の難燃剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系の紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤;消泡剤、防腐防カビ剤、pH調製剤、造膜助剤、湿潤剤、凍結防止剤、水性塗料等を添加することができる。
【0047】
この発明にかかるシリコン−アクリル系樹脂組成物や、シリコン−アクリル系塗料は、安定性がよく、増粘、ゲル化等しにくく、また、すぐれた耐候性や耐汚染性を発揮することができ、たとえば建築物の内装材、外壁材、自動車、大型構造物、鋼製機器、家電製品、木工製品等の塗装に用いられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の組成物を実施例等に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによりなんら制約を受けるものではない。まず、得られた各物性の測定方法及び原材料について記載する。なお、本実施例(表を含む)においては、顔料を含まない組成物の物性を「皮膜物性」と表記し、顔料を含む組成物の物性を「塗膜物性」と表記する。
【0049】
<物性等の測定方法>
[不揮発分]
JIS K 6833に規定の方法にしたがって行なった。
[粘度]
JIS K 6833に規定の方法にしたがって、BM型粘度計を用いて、25℃、12rpmで測定した。
[pH]
JIS K 6833に規定の方法にしたがって行なった。
【0050】
[最低造膜温度(MFT)の測定]
組成物を0.2mmのアプリケータを用いて、熱勾配試験装置(日理商事(株)製)に塗布し、JIS K6828−2にしたがって、MFTを測定した。
【0051】
[粒子径]
粒子径測定器(大塚電子(株)製:ELS−8000)を用い、散乱強度が8000−12000となるように、試料をイオン水で希釈し、測定した。
【0052】
[試験皮膜の製造]
最低造膜温度(MFT)が0℃となるようにエマルジョンに、後述するCS−12を配合し、乾燥膜厚が約1mmとなるように塗布し、23℃、50%RH条件下で、14日間養生し、試験皮膜を作製する。
【0053】
[吸水率]
得られた試験皮膜を3cm×3cmに裁断し、23℃の水に7日間浸漬した後、試験皮膜を取り出し、表面の水滴を拭き取り、直ちに重量を測定する。そして、下記の式で吸水率を算出する。
吸水率(%)=100×(浸漬後皮膜重量−浸漬前皮膜重量)/浸漬前皮膜重量
【0054】
[溶出率]
上記試験皮膜を3cm×3cmに裁断し、23℃の水に7日間浸漬した後、試験皮膜を取り出し、表面の水滴を拭き取り、105℃の乾燥機で3時間乾燥した後に重量を測定する。そして、下記の式で溶出率を算出する。
溶出率(%)=100×(浸漬前皮膜重量−乾燥後皮膜重量)/浸漬前皮膜重量
【0055】
[接触角]
MFTが0℃となるようにエマルジョンにCS−12を配合し、乾燥膜厚が約0.1mmとなるようにガラス板塗布し、23℃、50%RH条件下で、14日間養生した。
養生後のガラス板をイオン交換水に1日間浸漬した後、23℃、50%RH条件下で乾燥させた。そして、協和界面科学(株)製:Drop Master 500を用いて、水に対する接触角を測定した。
【0056】
[光沢度]
ガラス板上に乾燥塗膜厚が0.15mmとなるようにアプリケータを用いて組成物又は塗料を塗布し、23℃、50%RHで7日間乾燥、養生して塗膜を形成した。
得られた塗膜をJIS K 5400に規定の方法にしたがって、グロスメータ(日本電色工業(株)製、VG−1型)を用い、60゜鏡面の光沢度(%)を測定した。
【0057】
[強度(常温下、低温下)]
上記試験皮膜を、JIS A6909 7.29 伸び試験にしたがって、23℃時、−10℃時の皮膜強伸度を測定した。
【0058】
[雨垂れ汚染性]
スレート板に水性エポキシ系シーラーを塗布、乾燥させた基材に、MFTが0℃となるようにエマルジョンにCS−12と顔料ペーストを配合し、白塗料を作製し、乾燥塗膜が0.25mmとなるように2度塗りで塗布した。23℃、50%RH条件下で14日間養生後、試験体を屋外で暴露し、雨筋汚れの程度を、下記の基準にしたがい、目視で評価した。
○:雨筋汚れのないもの
△:雨筋汚れの程度が少ないもの
×:雨筋汚れの程度が激しいもの
【0059】
<原材料>
[単量体]
・メタクリル酸メチル…三菱レイヨン(株)製、以下、「MMA」と略する。
・アクリル酸2−エチルヘキシル…三菱化学(株)製、以下、「2EHA」と略する。
・アクリル酸…三菱化学(株)製、以下、「AA」と略する。
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル…三菱レイヨン(株)製、以下、「HEMA」と略する。
【0060】
[乳化剤]
・アニオン性反応性乳化剤…(株)ADEKA製:SR−10、以下、「SR−10」と略する。
・アニオン性乳化剤…三洋化成(株)製:ES−70、以下、「ES−70」と略する。
【0061】
[重合開始剤]
・4、4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッド…大塚化学(株)製、以下、「ACVA」と称する。
・2、2−アゾビスイソブチロニトリル…大塚化学(株)製、以下、「AIBN」と称する。
・過酸化アンモニウム…(株)ADEKA製、以下、「APS」と称する。
【0062】
[シリコン系化合物]
<アルキレンオキシド基含有アルコキシシラン縮合物>
・ダイナシラン…Degussa(株)製:ダイナシラン4144、以下、「ダイナシラン4144」と称する。
<アルキレンオキシド基を含有していないアルコキシシラン縮合物>
・KC−89S…信越化学工業(株)製:KC−89S、以下、「KC−89S」と称する。
・SZ−6030…東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製:SZ−6030、以下、「SZ−6030」と称する。
【0063】
[その他]
・造膜助剤…テキサノールイソブチレート(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)(チッソ(株)製:テキサノール CS−12、以下、「CS−12」と称する。)
・白色顔料…チタンペースト(大日本インキ化学工業(株)製:SD−7021、以下、「チタンペースト」と称する。)
【0064】
[実施例1〜5、比較例1]
表1に示す量のAAとシリコン系化合物とを配合し(実施例1,3〜5においては、AAとダイナシラン4144とを配合する。実施例2においては、AAとダイナシラン4144とSZ−6030とを配合する。比較例1においては、AAとKC−89Sとを配合する。)、23℃で24時間、予め加水分解縮合させて、AAとアルコキシシラン縮合物の混合物を得た。その後、表1に記載の残りの各単量体を混合し、予備乳化液を作製した。
次いで、攪拌機、温度調節器、温度計、還流冷却器、滴下ロート及びチッ素ガス導入管を備えた反応容器内に、表1に記載の量の乳化剤及び脱イオン水を仕込み、チッ素ガスを導入しつつ65℃に昇温し、上記予備乳化液、及び重合開始剤を、滴下ロートを用いて、それぞれ3時間かけて滴下し、65〜70℃で重合及び縮合を行なった。滴下終了後、70〜75℃で2.5時間熟成したのち冷却し、組成物を得た。
【0065】
得られたエマルジョン組成物100重量部(固形分)に、CS−12を22重量部加え、皮膜用組成物を調製すると共に、この皮膜用組成物に、さららにチタンペースト53重量部を加えて、塗料用組成物を調製した。
得られた皮膜用組成物及び塗料用組成物を用いて上記の物性等を測定した。その結果を表1に示す。
【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分0.1〜30重量%、及び(B)成分の(共)重合体70〜99.9重量%(但し、(A)成分と(B)成分の(共)重合体との合計量を100重量%とする。)を含むシリコン−アクリル系樹脂組成物。
(A)成分:アルキレンオキシド基含有アルコキシシラン縮合物。
(B)成分:(メタ)アクリル系単量体からなる単量体、又は(メタ)アクリル系単量体と、これと共重合可能な単量体とからなる単量体混合物。
【請求項2】
下記の(A)成分の存在下、(B)成分を(共)重合して得られ、
前記(A)成分0.1〜30重量%に対し、前記(B)成分を70〜99.9重量%を含有する(但し、(A)成分と(B)成分との合計量を100重量%とする。)、シリコン−アクリル系樹脂組成物。
(A)成分:アルキレンオキシド基含有アルコキシシラン縮合物。
(B)成分:(メタ)アクリル系単量体からなる単量体、又は(メタ)アクリル系単量体と、これと共重合可能な単量体とからなる単量体混合物。
【請求項3】
(B)成分中の(メタ)アクリル系単量体と共重合可能な単量体がアルコキシ基を有する単量体であって、単量体混合物中におけるその含有比率が、0.1〜5重量%である請求項1又は2に記載のシリコン−アクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系単量体が、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、及び(メタ)アクリル酸t−ブチルから選ばれる少なくとも1種の単量体である請求項1乃至3のいずれかに記載のシリコン−アクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)成分の(共)重合体に用いられた重合開始剤、又は前記(B)成分の(共)重合に用いられる重合開始剤として、アゾ系重合開始剤が用いられる請求項1乃至4のいずれかに記載のシリコン−アクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のシリコン−アクリル系樹脂組成物100重量部(固形分換算)あたり、コロイダルシリカ0.4〜40重量部(固形分換算)を含有させてなるコロイダルシリカ含有シリコン−アクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のシリコン−アクリル系樹脂組成物に、顔料を含有させた、シリコン−アクリル系塗料。

【公開番号】特開2010−43222(P2010−43222A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209710(P2008−209710)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】