説明

シリコンの回収方法および回収装置

【課題】シリコン塊又はシリコンウエハの切断又は研磨によって排出される廃スラリー又はその濃縮分に含まれる、炭素系不純物が付着したシリコン屑を精製してシリコンを回収する方法および装置の提供。
【解決手段】炭素系不純物が付着したシリコン屑を精製してシリコンを回収する方法において、該方法は、シリコン屑からシリコン屑に付着した不純物を剥離する剥離工程と、シリコン屑と剥離した不純物とを分離する分離工程とを有しており、剥離工程において、シリコン屑に超音波を照射することにより、シリコン屑から不純物を剥離させ、しかる後、分離工程において、超音波処理されたシリコン屑と剥離した不純物とを分離することを特徴とするシリコンの回収方法、および超音波発生手段を備えた剥離装置と分離装置とからなる回収装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコンウエハの製造工程等において排出された廃スラリー中のシリコン屑から炭素系微量不純物を分離してシリコンを精製回収する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップや太陽電池用として広く用いられるシリコン単結晶又は多結晶からなる薄板(以下、「シリコンウエハ」と呼ぶ。)の製造工程において、原料シリコンの多くが切断、面取り又は研磨等により廃液中に廃棄されており、製品に対するコスト負荷ならびに廃棄処分に伴う環境への負荷が大きな問題となっている。
【0003】
また、特に近年、太陽電池の生産量は増加の一途をたどっており、原料シリコンの需要も急激な伸びが見られる。このため太陽電池用シリコンの不足が顕在化している。そこで従来、上記の切断又は研磨といったシリコンウエハの製造時に発生する廃液からシリコンを回収する方法が提案されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1では、砥粒をクーラントに分散させたスラリーを用いてシリコン単結晶又は多結晶のインゴットを切断又は研磨する処理から排出される廃スラリーから固形分を回収し、回収した固形分に対して、クーラント等を除去するための有機溶剤洗浄、有機溶剤を洗い流すための水洗浄、廃スラリーに含まれていた金属(鉄、銅など)を酸水溶液(フッ酸水溶液など)に溶解させて除去するための酸洗浄、酸水溶液を洗い流すための水洗浄等が行われている。
【0005】
また、特許文献2には、有機溶媒を用いてシリコン回収用固形分を洗浄することによって、シリコン回収率の向上をさせる方法が示されている。特許文献3には、不純物を含有するスラッジを、1000℃以上、1730℃未満に加熱して、SiOを回収し、不純物を分離する方法が開示されている。特許文献4には、シリコン混在物を100℃程度のアルカリ性水溶液に投入し、シリコン界面にガスを発生させて混在物を崩壊させると共に、ガスが付着したシリコンを浮遊、分離させる方法が開示されている。特許文献5は、回収したシリコン固形分を酸性溶液で洗浄し、200〜1000℃で焼成することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−278612号公報
【特許文献2】特開2009−115040号公報
【特許文献3】WO99/33749号公報
【特許文献4】特開2008−290897号公報
【特許文献5】特開2009−149480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、廃スラリーからシリコンを回収するには、非常に多くの工程が必要とされてきた。また、上記のようにシリコンは、貴重な材料であり、廃スラリーから簡易に多くのシリコンを回収することが望まれている。しかしながら、特許文献1の方法では、多工程を有しており、更にフッ化水素などの有害な物質を使用しなければならない。特許文献2の方法では、大量の有機溶媒を使用しなければならず、その回収、精製など多工程を必要とし、装置としても大きなものになる。特許文献3の方法では、高温を用いなければならず、装置として特別なものが必要であり、また回収されるものはSiOであるため、更に還元工程を必要とする。特許文献4の方法では、高濃度のアルカリを100℃程度の温度で使用するため危険性が高く、同時にガスが発生するなど設備的な負荷が大きい。更に、特許文献1−4では、炭素分の分離に関する明確な記載がない。特許文献5の方法では、やはり高い温度が必要であり、特殊な装置を必要とするなどの問題点を有している。
【0008】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、廃スラリーに含まれる、炭素系不純物が付着したシリコン屑から、簡易なプロセスでシリコンを精製回収することができるシリコンの回収方法および回収装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシリコンの回収方法は、炭素系不純物が付着したシリコン屑を精製してシリコンを回収する方法において、
該方法は、前記シリコン屑から前記シリコン屑に付着した不純物を剥離する剥離工程と、前記シリコン屑と前記の剥離した不純物とを分離する分離工程とを有しており、
前記剥離工程において、前記シリコン屑に超音波を照射することにより、前記シリコン屑から前記不純物を剥離させ、しかる後、前記分離工程において、超音波処理されたシリコン屑と剥離した不純物とを分離することを特徴としている。
【0010】
本発明のシリコンの回収装置は、炭素系不純物が付着したシリコン屑を精製してシリコンを回収する回収装置において、
該回収装置は、超音波発生器を有する超音波照射手段を備えた、前記シリコン屑から前記シリコン屑に付着した不純物を剥離する剥離装置と、前記シリコン屑と前記の剥離した不純物とを分離する分離装置とを備えており、
前記剥離装置と前記分離装置とは連結されていることを特徴としている。
【0011】
上記のシリコンの回収方法および回収装置において、炭素系不純物が付着したシリコン屑としては、シリコン塊又はシリコンウエハの切断又は研磨によって排出される廃スラリー又はその濃縮分に含まれるシリコン屑が挙げられる。
【0012】
上記のシリコンの回収方法および回収装置において、分離装置は、遠心力を利用した装置であるのが好ましく、これにより、超音波処理されたシリコン屑と剥離した不純物とが分離される。例えば、遠心力を利用した装置として、遠心分離機またはサイクロンが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリコン塊又はシリコンウエハの切断又は研磨によって排出される廃スラリー又はその濃縮分に含まれるシリコン屑を、廃スラリーまたはその濃縮分に超音波を照射して、シリコン屑から、シリコン屑に付着した不純物を剥離させ、ついで、遠心力を利用した分離装置またはその他の分離装置により、シリコン屑と該不純物を分離することができるので、多工程を要することなく、簡易なプロセスにより、シリコンを回収することができる。
【0014】
特に、本発明の方法・装置を用いると、従来技術における酸・アルカリ水溶液処理や高温処理が不要であり、しかも、残留炭素が100ppm以下の高純度のシリコンを精製回収できるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の回収装置の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(シリコン塊又はシリコンウエハの切断又は研磨)
本発明において、出発物質である炭素系不純物が付着したシリコン屑は、一般的に、シリコン塊又はシリコンウエハの切断又は研磨によって排出される廃スラリーまたはその濃縮分に含まれている。シリコン塊は、たとえば円柱状や四角柱状のシリコンインゴッドであり、シリコンウエハは、例えば、シリコン単結晶を0.5ミリ程度の厚さにスライス、研磨したシリコン基板である。シリコン塊の切断は、通常、砥粒を用いることなくバンドソーにより行われ、シリコンウエハの切断は、通常、砥粒を用いてワイヤーソーにより行われるが、ワイヤーソーに砥粒(ダイヤモンドなど)を電着させた固定砥粒方式と、後述するクーラントに砥粒(炭化ケイ素など)を分散させた遊離砥粒方式とがある。
また、研磨については、ホイール式研磨装置などを用いて、接着材で砥粒を固定したホイールを回転し、シリコンインゴッド等を移動させて研磨が行われる。
【0017】
(砥粒およびクーラント)
砥粒としては、上述のように、ダイヤモンド、炭化ケイ素などの炭素材料が挙げられるが、クーラントとしては、通常、水(純水)が使用されるが、水をベースとして、グリコール系溶媒(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)を加えることもできる。また、ブレードや研磨部材として、ブレードや研磨部材の表面にダイヤモンド粒を施されたものが用いられることが多い。
【0018】
(廃スラリー又はその濃縮分)
上記のように、シリコンインゴッドなどを切断又は研磨すると、シリコンの切断屑、破砕された砥粒、ブレード及び研磨ホイールの摩耗片などが、水に混入したスラリーが得られる。シリコンインゴットやシリコンウエハを製造する工場で発生する廃スラリーには、粒径が通常0.1μm〜10μmの範囲にあるシリコン切断屑が混入している。この廃スラリーをそのまま、あるいは、遠心分離、分離膜を用いて濃縮して得られる濃縮分に、本発明の方法・装置を適用して、炭素系不純物を除去したシリコンを回収することができる。
【0019】
(シリコン屑)
上記シリコン屑には、ダイヤモンド、アモルファスカーボンのほか、炭化ケイ素、有機炭素などの炭素系不純物が、シリコン屑に、微量(0.1重量%以下)含まれており、高純度のシリコンを回収するためには、シリコン屑から炭素系不純物を除去する必要がある。
【0020】
廃スラリー又は濃縮分に含まれている炭素系不純物は、通常、粒径が通常0.01〜10μmの範囲にあるが、大部分の炭素系不純物は、シリコンに固着しているので、残留炭素をシリコンから分離するのは容易ではない。
【0021】
本発明者らは、シリコン屑の表面に付着した炭素系不純物が、超音波を照射することにより、該不純物がシリコン屑の表面に固着していても、シリコン屑表面から剥離することを見出した。なお、本発明において、剥離とは、シリコン屑表面に付着している炭素系不純物が、密度差、沈降速度差などを利用した分離手段により、シリコン屑表面から離れて炭素系不純物とが分離可能な状態になることを意味している。
【0022】
シリコン塊又はシリコンウエハの切断又は研磨によって排出される廃スラリー又はその濃縮分に含まれるシリコン屑に超音波を照射するにあたり、廃スラリー又はその濃縮分に含まれるシリコン屑を解砕することが好ましい。解砕は、水を加えて行うが、解砕方法としては、攪拌機、ミキサー、ホモジナイザー、超音波振動器などを用いる方法が挙げられる。用いる水としては、特に限定されるものではないが、微量の付着物を除去し、回収する際に、高純度化されたシリコンへの混入抑制、また、スラリーの凝集を防ぐために、金属、イオンの共存は好ましくない。従って、灰分200ppm以下、より好ましくは100ppm以下の水を使用することが好ましい。
【0023】
本発明で超音波を照射するときのシリコンスラリーとしての固形分濃度は特に限定されるものではないが、一般的に0.1〜50重量%の濃度であり、容積効率、シリコンの分散性を考慮して、0.5〜40重量%、よりこのましくは、1〜30重量%の範囲で実施される。
【0024】
(超音波照射による剥離)
本発明においては、上記のスラリーに超音波が照射され、炭素系不純物が付着したシリコン屑から、炭素系不純物が剥離される。本発明で用いられる超音波を発生する装置としては、特に限定されるものではなく、超音波発生器、超音波ホモジナイザーのような装置を利用することができる。超音波の周波数としても限定されるものではなく、10kHz〜60KHzのものを使用することができるが、振動の伝達、超音波による解砕作用の効率等を考慮して、通常15KHz〜60KHz、より好ましくは、18kHz〜50KHzの周波数を使用する。
【0025】
超音波発生器の出力としては、高い出力であるほど、振動による粒子の破砕、解砕効果が高くなるため、シリコンに付着した炭素分の除去が容易になる。一方で、使用する振動子に由来する不純物混入の可能性があるため、通常、10w〜300wの範囲、分離効率を考慮して20w〜250wの出力を用いることが好ましい。
【0026】
本発明での超音波照射におけるスラリーの温度としては、限定されるものではないが、スラリー温度が変化すると超音波出力が変化し、一定の効果を発揮することが難しい。更に、温度の上昇は超音波の効果を低下させる可能性があることから、0〜60℃の範囲で実施することが好ましく、10〜50℃の範囲がより好ましい。更に、効果を一定範囲に保つために、超音波処理中の温度上昇は20℃以下、より好ましくは10℃以下である。
【0027】
本発明での超音波照射の時間は、使用する超音波照射器の出力および発生器のチップ径に依存するため特定することはできないが、例えば120wの出力で、通常1〜300分の範囲で実施され、微量不純物の量、最終的な除去濃度を考慮して、2〜280分の範囲、より好ましくは、5〜250分の範囲で実施される。実施に当たって、この時間範囲内で連続的に実施してもよいし、間欠的に実施してもよく、超音波照射総時間として、実施時間がこの範囲にあることが有用である。
【0028】
(剥離した不純物の分離)
本発明では、上記の超音波照射により、シリコン屑に付着した不純物をシリコン屑から剥離させ、ついでシリコン屑と剥離した不純物とを分離することのできる分離装置、例えば、密度差、沈降速度差などを利用した分離装置を用いて、シリコン屑と不純物と分離して、シリコンを精製回収することができる。この剥離処理と分離処理の2つの操作は、連続的に行ってもよく、また、超音波照射したスラリーをいったん貯蔵し、その後、分離装置で処理することもできる。更に、分離装置で分離し、微量の不純物を除去したシリコン屑を更に超音波処理、分離装置による分離処理を繰り返し、精製度を上げることもできる。
【0029】
分離装置としては、シリコン屑と剥離した炭素系不純物とを分離できるかぎり特に制限されず、遠心力を利用した装置、気流分級装置などを例示することができる。超音波処理されたシリコン屑を含有する廃スラリーを、遠心力を利用した装置により、シリコンよりも低密度の炭素系不純物(有機炭素など)を含有する液相をシリコン屑からなる固相から分離することができる。
また、超音波処理されたシリコン屑を含有する廃スラリーを、遠心力を利用した装置により、シリコンよりも高密度の炭素系不純物(ダイヤモンド、炭化ケイ素など)からなる固相と、シリコン屑を含有する液相とに分離し、該液相からシリコンを分離することができる。なお、遠心力を利用した装置としては、遠心分離器であっても、ハイドロサイクロンのような装置であっても良い。
さらにまた、気流分級装置を利用することにより、超音波処理されたシリコン屑を含有する廃スラリーを乾燥後、気流分級装置に投入し、気流中の飛距離差から、シリコンよりも密度の小さい粒子(有機炭素)またはシリコンよりも密度の大きい粒子(ダイヤモンド、炭化ケイ素など)をシリコン屑から分離することができる。
【0030】
(遠心分離器)
遠心力を利用した装置として、遠心分離器を使用する場合、遠心分離に必要とするGは特に制限されるものではないく、10〜10000Gの範囲で実施されるが、シリコンの回収率および不純物の分離効率を考慮して、通常、100〜9000G、より好ましくは200〜8000Gの範囲で実施される。
【0031】
遠心分離の時間としても特に制限されるものではなく、1秒〜60分の範囲で実施されるが、操作性、経済性を考慮して、通常、10秒〜50分の範囲、より好ましくは、1分〜30分の範囲で実施される。
【0032】
(ハイドロサイクロン)
遠心力を利用した装置として、ハイドロサイクロンを使用する場合、ハイドロサイクロンに付するスラリー濃度としては、特に限定されるものではなく、0.1重量%〜50重量%の範囲で実施できる。容積効率、操作中のスラリーの沈降防止を考慮して、1重量%〜40重量%の範囲で実施する。好ましい態様としては、超音波照射が行われたスラリーがそのまま遠心分離器またはハイドロサイクロンで処理される。
【0033】
ハイドロサイクロンへのスラリーの供給速度も特に限定されるものではなく、通常、毎分50ミリリットル〜100リットルの範囲、より好ましくは、100ミリリットル〜50リットルの範囲で供給する。供給する方法もスラリーポンプを用いても良いし、スラリーに圧力をかけ、圧送する方法を用いてもよい。これによって、ハイドロサイクロンの入り口のスラリー線速度としては、1m/分〜25000m/分の範囲、好ましくは、2m/分〜12500m/分の範囲で実施される。
【0034】
ハイドロサイクロン中での滞留時間としては、挿入される液量に依存することは言うまでもなく、特に限定できないが、通常、0.001秒〜2分の範囲、経済性、ハイドロサイクロンの耐久性を考慮して、0.01秒〜1分の範囲で実施される。ハイドロサイクロンの稼動温度としては、特に限定されないが、スラリーの凝集が強いと、ハイドロサイクロンでの分離効果が小さくなるため好ましくなく、高すぎる温度では、ハイドロサイクロン内での圧力が上昇するため好ましくない。従って、ハイドロサイクロンの稼動温度としては、通常10〜80℃の範囲、より好ましくは、20℃〜60℃の範囲で実施される。
【0035】
(シリコンの回収)
遠心力を利用した装置により分離されたシリコンスラリーは、そのまま乾燥して、シリコンとして取り出してもよいし、更に、超音波照射装置に戻して、不純物除去を行い、より純度の高いシリコンとすることもできる。回収されたシリコンは、ろ過等の方法で水分を除去し、熱風乾燥、真空乾燥などの方法を用いて乾燥されて再利用される他に、耐熱材料、脱酸素剤の製造にも利用可能である。
【0036】
(超音波照射手段を有する剥離装置と分離装置との連結)
本発明に係る回収装置は、超音波照射手段を有する剥離装置と、遠心力を利用した分離装置などの分離装置と、が連結していることが特徴である。両装置が連結することにより、シリコン表面に付着した不純物を剥離して、これを連続してシリコンから分離することにより、効率的にシリコンと微量不純物とを分離して、シリコンの精製を行うことができる。連結とは、超音波照射装置で超音波照射されて、微量不純物が剥離したシリコンをが含有するスラリーが、処理系から取り出されることなく、遠心力を利用する分離装置などの分離装置に供給され、分離操作が行われることを意味する。
【0037】
(回収装置)
本発明の回収装置の一例の概要を図1に示した。本発明の回収装置は、シリコン屑に付着したシリコンよりも低密度の炭素系不純物を剥離する剥離装置1と、シリコン屑と剥離した炭素系不純物とを分離する分離装置2とから構成されている。
剥離装置1は、シリコン塊又はシリコンウエハの切断又は研磨によって排出される廃スラリー又はその濃縮分Aを受け入れる容器3と超音波振動器4とを備えており、前記廃スラリーまたはその濃縮分Aが容器3に供給され、必要に応じてイオン交換水Bが加えられて、容器3に取り付けられた攪拌機5により攪拌されて、廃スラリー又はその濃縮分に含まれているシリコン屑は解砕されて水に分散する。水に分散したシリコン屑は、超音波振動器4による振動が与えられて、シリコン屑表面に付着している残留炭素系不純物が剥離する。
前記の処理が行われたシリコン屑、剥離した不純物を含むスラリーCは、遠心力を利用した分離装置である、遠心分離機2に送られる。遠心分離機2は、回転軸6、回転軸を回転駆動させる駆動機7、遠心分離処理が行われることにより、遠心分離機の壁面に付着するシリコン屑を集めるスクリュー・コンベア8、スラリーを供給する供給パイプ9、遠心分離後のシリコン屑Dを取り出す取出口10および廃液Eを取り出す取出口11を備えている。
前記超音波処理が行われたスラリーCは、遠心分離機2に送られて、遠心分離により、剥離した炭素系不純物が分離されて、シリコン屑Dは取出口10から取り出され、剥離した炭素系不純物を含む廃液Eは、取出口11から排出される。
1回だけの遠心分離では、シリコン屑Dから完全に炭素系不純物が取り除かれていない場合には、シリコン屑Dは、容器3に入れられ、イオン交換水Bが供給されて、超音波振動器4により解砕されてスラリーCとなり、再度、遠心分離機2に供給されて分離精製が行われる。2回目以降の場合には、超音波振動を与えてもよく、与えなくてもよい。
【0038】
上記のように、本発明によれば、上記の簡単なプロセスにより、廃スラリーまたはその濃縮分から回収された固形分(炭素系不純物付着シリコン屑)をスラリーにして、超音波照射により、シリコンの表面に付着した不純物をシリコン表面から剥離し、遠心力を利用した装置などの分離装置により、シリコンと不純物とを分離することにより、シリコン屑が精製されて純度の高いシリコンを得ることができる。以下、本発明をより詳細に説明するが、本発明が以下の実施例に限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0039】
<実施例1>
シリコン塊を、砥粒を用いることなくバンドソーにより切断し、切断によって排出された固形分濃度50重量%の廃スラリーの濃縮分に、イオン交換水を加え、固形分濃度20重量%のスラリーを作製した。得られたスラリー100mlを超音波照射容器に取り、スラリー温度を30℃に保ちながら、超音波振動器(BRANSON製、Degital Sonifier)にて、120Wで10分、周波数20kHzの超音波振動を加え、3分冷却、この操作を3回繰り返し、合計30分の超音波照射を行った。
得られたスラリーをアズワン製遠心分離HSIAGTAIで3000回転、800Gで分離し、上澄み液を除き、再び、イオン交換水60gを加え、解砕したのち、遠心分離の操作を5回繰り返して、剥離した微量不純物を除去した。
【0040】
得られた精製シリコンをカーボン分析装置(形式EMIA-810 (株)堀場製作所製)を用いて、以下の条件にて分析した。
燃焼ガス:酸素
分析時間:約40〜60秒
焼成温度 1350℃(フラックスなし)
焼成時間 104秒
測定 IR(COを検出)
得られた結果を、表1に示す。
【0041】
<実施例2>
固定砥粒方式のワイヤーソーによりシリコンウエハを切断した際に排出されたシリコンウエハ切削屑含有スラリーから回収された50重量%スラッジにイオン交換水を加え、20重量%スラリーを作製した。得られたスラリー100mlを超音波照射容器に取り、スラリー温度を30℃に保ちながら、超音波振動器(BRANSON製、Degital Sonifier)にて、120Wで10分、周波数20KHzの超音波振動を加え、3分冷却、この操作を3回繰り返し、合計30分の超音波照射を行った。この操作を10回繰り返し、スラリー1000mlを得た。
このスラリーを、毎分300ミリリットルの流速で液体サイクロンにフィードした。サイクロン上層より、100mlを回収し、下層より900ミリリットルを回収した。更に下層をもう一度、液体サイクロンに毎分300ミリリットルの流速で通し、上層90ミリリットル、下層810ミリリットルを回収した。回収した810ミリリットルのスラリーをろ過し、精製シリコンを回収した。回収物の炭素分析結果を表1に示す。
【0042】
<比較例1>
実施例2と同じシリコンウエハ切削屑含有スラリーから回収された50重量%スラッジにイオン交換水を加え、20重量%スラリーを作製した。超音波照射を行うことなく、遠心分離のみ実施例1と同様に実施した。炭素分析結果を表1に示す。
【0043】
<参考例1>
シリコンウエハ切削屑含有スラリーから回収された50重量%スラッジを80℃にて熱風乾燥24時間し、スラッジを乾燥、精製前のシリコンを回収した。回収物の炭素分析結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記の結果から、超音波照射処理と分離処理とを組み合わせることにより、シリコンウエハ切削屑含有スラリーから、スラリーに含まれる炭素分が除去され、純度の高い精製シリコンを回収することができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
シリコン塊又はシリコンウエハの切断又は研磨によりシリコン屑が混入された廃スラリー
は、従来廃棄されていたが、本発明によれば、この廃スラリーからシリコンを簡易なプロセスで精製回収して、再利用可能とすることができるので、産業上の利用可能性が高い。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施態様を例示的に説明したが、当業者であれば、特許請求の範囲に開示した本発明の範囲及び精神から逸脱することなく多様な修正、付加及び置換ができることが理解可能であろう。
【符号の説明】
【0048】
1 剥離装置
2 分離装置(遠心分離機)
3 容器
4 超音波振動機
5 攪拌機
6 回転軸
7 駆動機
8 スクリュー・コンベア
9 供給パイプ
10 シリコン屑取出口
11 廃液取出口
A 廃スラリー又は濃縮分
B イオン交換水
C 超音波処理されたスラリー
D シリコン屑
E 廃液



【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系不純物が付着したシリコン屑を精製してシリコンを回収する方法において、
該方法は、前記シリコン屑から前記シリコン屑に付着した前記不純物を剥離する剥離工程と、前記シリコン屑と前記の剥離した不純物とを分離する分離工程とを有しており、
前記剥離工程において、前記シリコン屑に超音波を照射することにより、前記シリコン屑から前記不純物を剥離させ、しかる後、前記分離工程において、超音波処理されたシリコン屑と剥離した不純物とを分離することを特徴とするシリコンの回収方法。
【請求項2】
前記炭素系不純物が付着したシリコン屑は、シリコン塊又はシリコンウエハの切断又は研磨によって排出される廃スラリー又はその濃縮分に含まれるシリコン屑である、請求項1に記載のシリコンの回収方法。
【請求項3】
前記分離工程が、遠心力を利用した装置により超音波処理されたシリコン屑と剥離した不純物とを分離する工程である、請求項1または2に記載のシリコンの回収方法。
【請求項4】
前記遠心力を利用した装置が、遠心分離機である、請求項3に記載のシリコンの回収方法。
【請求項5】
前記遠心力を利用した装置が、ハイドロサイクロンである、請求項3に記載のシリコンの回収方法。
【請求項6】
炭素系不純物が付着したシリコン屑を精製してシリコンを回収する回収装置において、
該回収装置は、超音波発生器を有する超音波照射手段を備えた、前記シリコン屑から前記シリコン屑に付着した不純物を剥離する剥離装置と、前記シリコン屑と前記の剥離した不純物とを分離する分離装置とを備えており、
前記剥離装置と前記分離装置とは連結されていることを特徴とするシリコンの回収装置。
【請求項7】
前記炭素系不純物が付着したシリコン屑は、シリコン塊又はシリコンウエハの切断又は研磨によって排出される廃スラリー又はその濃縮分に含まれるシリコン屑である請求項6に記載のシリコンの回収装置。
【請求項8】
前記分離装置が、遠心力を利用した装置である、請求項6または7に記載のシリコンの回収装置。
【請求項9】
前記の遠心力を利用した装置が、遠心分離機である請求項8に記載のシリコンの回収装置。
【請求項10】
前記遠心力を利用した装置が、ハイドロサイクロンである請求項8に記載のシリコンの回収装置。



【図1】
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【公開番号】特開2012−180255(P2012−180255A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45722(P2011−45722)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】