説明

シリコンの精錬方法

【課題】スラグ材料に添加物を加えることによって、シリコン中Bのスラグへの移動速度を高め、復B現象を抑制し、シリコン中のB除去効果を高める方法を提供することを目的とする。
【解決手段】溶融シリコンに、アルカリ金属の酸化物もしくは炭酸塩、または、アルカリ土類金属の酸化物または炭酸塩と、SiOまたはAlからなるスラグ用材料を添加することにより、溶融シリコンの上にスラグ層を形成させて、シリコンを高純度化する方法であって、溶融シリコンの上に、カーボンを基材とした物質とスラグ用材料との混合物を添加することを特徴とするシリコンの精錬方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や太陽電池などの分野に用いられる高純度シリコンを製造するための方法である。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体分野では、高純度シリコンは、主に、金属シリコンからモノシランを生成し、還元する方法であるシーメンス法によって製造されている。しかし、このシーメンス法では、十分に高純度なシリコンは得られるものの製造コストが高いという問題がある。
【0003】
特に、半導体レベルの純度を必要としない、太陽電池用シリコンでは、シーメンス法以外の方法が望まれている。
【0004】
このような背景から、半導体分野のみならず太陽電池分野においても、安価に高純度シリコンを製造するための方法が多く提案されている。
【0005】
シリコン中の不純物の大半は、凝固精製によって除去できるが、B、Pなどの一部の不純物は凝固精製でも除去不可能であり、これらの除去方法について多く提案されている。
【0006】
例えば、溶融したアルカリ金属の酸化物や炭酸塩、アルカリ土類金属の酸化物や炭酸塩等から構成されるスラグを、溶融シリコンに接触させ、Bを除去する方法が特許文献1〜特許文献4などで開示されている。
【0007】
具体的には、特許文献1では、あらかじめスラグとシリコンを混合し、この混合物を溶解する方法が開示されており、また、特許文献2では、溶融シリコンに連続的にスラグ材料を添加し、連続的にBを除去する方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献3、特許文献4には、溶融シリコンにキャリアーガスとともにスラグ材料粉を吹き込む方法が開示されている。
【0009】
特許文献1〜4の方法は、いずれも溶融シリコン中のBをスラグにより酸化させることにより除去する方法である。
【0010】
【特許文献1】特開平58-130114号公報
【特許文献2】特開平08-73209号公報
【特許文献3】特開平09-202611号公報
【特許文献4】特開2003-12317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1〜4に開示された方法では、Bの分配比(スラグ中のB濃度/シリコン中のB濃度)は小さい。この結果、スラグによるシリコンの精錬によって、太陽電池用に要求されるレベルの濃度までBを除去するには、多くのスラグ量と時間を要することになる。
【0012】
本発明は、スラグに補助的な作用をする添加物を加えることによって、シリコン中Bのスラグへの移動速度を高め、復B現象を抑制し、シリコン中のB除去効果を高める方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、以下の内容を要旨とする。
(1) 溶融シリコンに、アルカリ金属の酸化物もしくは炭酸塩、または、アルカリ土類金属の酸化物もしくは炭酸塩と、SiOまたはAlからなるスラグ用材料を添加することにより、溶融シリコンの上にスラグ層を形成させて、シリコンを高純度化する方法であって、溶融シリコンの上にスラグ層が形成された後に、カーボンを基材とした物質、または、カーボンを基材とした物質とスラグ用材料との混合物を、スラグ層に添加することを特徴とするシリコンの精錬方法。
(2) 溶融シリコンに、アルカリ金属の酸化物もしくは炭酸塩、または、アルカリ土類金属の酸化物もしくは炭酸塩と、SiOまたはAlからなるスラグ用材料を添加することにより、溶融シリコンの上にスラグ層を形成させて、シリコンを高純度化する方法であって、溶融シリコンの上に、カーボンを基材とした物質とスラグ用材料との混合物を添加することを特徴とするシリコンの精錬方法。
(3) 前記カーボンを基材とした物質が、粒状または粉状であることを特徴とする(1)または(2)に記載のシリコンの精錬方法。
(4) 前記カーボンを基材とした物質の最大直径が2mm以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のシリコンの精錬方法。
(5) 前記カーボンを基材とした物質中のCの量が、スラグ用材料100質量部に対して、0.1〜10質量部であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のシリコンの精錬方法。
(6) 前記カーボンを基材とした物質が、黒鉛粉またはSiC粉であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のシリコンの精錬方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明を用いることによって、溶融シリコン中のBの除去効果を高めることができ、B濃度を、太陽電池シリコン原料として使用可能なレベルである0.3ppm以下に、効率良く速やかに低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、溶融シリコンに、アルカリ金属の酸化物もしくは炭酸塩、または、アルカリ土類金属の酸化物もしくは炭酸塩と、SiOまたはAlからなるスラグ用材料を添加することにより、溶融シリコンの上にスラグ層を形成させて、シリコンを高純度化する方法であって、溶融シリコンの上にスラグ層が形成された後に、カーボンを基材とした物質、または、カーボンを基材とした物質とスラグ用材料との混合物を、スラグ層に添加することにより、溶融シリコンを効率良く速やかに高純度化する方法である。
【0016】
本発明で用いるスラグ用材料は、アルカリ金属の酸化物もしくは炭酸塩、または、アルカリ土類金属の酸化物もしくは炭酸塩と、SiOまたはAlからなるものである。
【0017】
ここで、アルカリ金属元素としては、ナトリウム、カリウム等が好ましく、アルカリ土類金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が好ましい。
【0018】
上記のスラグ用材料を用いて形成したスラグ中のアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物などの酸化作用により、溶融シリコン中のBが酸化されて、スラグに移動すると考えられる。このとき、SiOまたはAlは、アルカリ金属やアルカリ土類金属の蒸発を防ぐ作用があると考えられる。
【0019】
ここで、本発明では、溶融シリコンの上にスラグ層が形成された後に、カーボンを基材とした物質、または、カーボンを基材とした物質とスラグ用材料との混合物を、スラグ層に添加するものである。この様に、カーボンを基材とした物質をスラグ層に添加すると、添加しない場合に比べ、Bの分配比が大きくなることを見出した。
【0020】
カーボンを基材とする物質のスラグへの添加で、分配比が上昇するメカニズムは明らかではないが、添加されたCが、Bの酸化用触媒として作用し、Bの酸化を促進していると推測している。
【0021】
また、本発明者は、カーボンがスラグだけではなく、シリコンに混入した場合、シリコン中のカーボンは加工性を低下させるために、太陽電池性能に悪影響を及ぼすことも知見した。シリコンにカーボンが混入した場合、凝固精製でもシリコンからカーボンを除去することは容易ではない。
【0022】
そのため、カーボンを基材とする物質は、スラグ内に留め、極力、溶融シリコンに入らないようにすることが重要であることを見出した。
【0023】
以上のことから、前記の通り、溶融シリコンの上にスラグ層が形成された後に、カーボンを基材とした物質、または、カーボンを基材とした物質とスラグ用材料との混合物を、スラグ層に添加するという方法を発明するに至った。
【0024】
その結果、本発明により、カーボンを基材とした物質をスラグ層に添加することで、太陽電池用に要求されるシリコン中のB濃度まで下げるのに要する、スラグ量と時間を低減することができる。
【0025】
また、本発明の別の形態としては、溶融シリコンに、アルカリ金属の酸化物もしくは炭酸塩、または、アルカリ土類金属の酸化物もしくは炭酸塩と、SiOまたはAlからなるスラグ用材料を添加することにより、溶融シリコンの上にスラグ層を形成させて、シリコンを高純度化する方法であって、溶融シリコンの上に、カーボンを基材とした物質とスラグ用材料との混合物を添加しても良い。
【0026】
この方法でも、スラグ中のカーボンによりBの分配比を大きくできるとともに、カーボンをスラグ内に極力留めることができる。
【0027】
上述のカーボンを基材とした物質は、取り扱いの点で、通常は、粒状または粉状の形状のものが好ましく、特にサイズは規定するものではないが、目安としては、最大粒径は0.5mm〜2.0mmを、また粉状は0.5mm未満のものが例示できる。
【0028】
カーボンを基材とした物質の最大粒径が2.0mmを超えると、接触面積が小さくなり、触媒としての効果が小さくなると考えられる。また、カーボンを基材とした物質の最大粒径の下限値は特に規定するものではないが、1μm未満のサイズでは、添加する際に舞い上がってしまい、添加しづらいため、1μm以上とすることが好ましい。
【0029】
また、カーボンを基材とした物質中のCの量が、スラグ用材料100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが望ましい。この値が0.1質量部未満であるとCの量が少なすぎてBの酸化の促進効果は得られにくくなり、逆に、10質量部を超えても、その効果はほとんど飽和するためである。
【0030】
実際には、カーボンを基材とした物質としては、カーボン粉(黒鉛粉)またはSiC粉等が、入手しやすいため、好適である。
【0031】
以上の通り、本発明を用いることによって、シリコン中のBを効果的に除去することができ、太陽電池用Siに要求されるB濃度程度まで、B濃度を効率良く、速やかに低減させることができる。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
反応容器内の溶融シリコンに対して、各種のスラグ材料を溶融シリコン上に添加した。添加したスラグ材料が溶融してスラグ層を形成した後、1500℃で30min保持し、溶融シリコンの精錬を行った。その後、シリコンを鋳型に移送し、冷却して凝固させた。
【0033】
こうして得られたシリコンを1工程後シリコンと呼ぶことにする。この1工程後シリコンを再度溶解し、同様の処理を行って得られるシリコンを2工程後シリコンと呼ぶ。これを計6回繰り返し、第6工程後シリコンを得た。
【0034】
このとき、初期シリコン量は30Kg、スラグ量は30Kg/工程であった。使用した初期シリコンは金属SiでB濃度が10質量ppm程度のもの、また使用した反応容器はアルミナ製のものを用いた。
【0035】
スラグ材料は表1に示すようにスラグ組成として、NaCOとSiOの混合物(比較例1)、NaCOとAlの混合物(比較例2)、CaCOとSiOの混合物(比較例3)を使用する従来の方法と、各種スラグ材料100質量部に対してカーボン粉を5質量部添加した各混合物を使用する方法(本発明例1、本発明例2、本発明例3)を比較した。添加したカーボン粉は粒子径200〜800μmであった。
【0036】
各スラグ材料を使用した場合における、各工程後シリコンのB濃度を調査した。その結果、表2に示すように、カーボン粉を添加しないケースでの6工程後シリコンは比較例1、比較例2、比較例3の順にB濃度が低いことがわかる。
【0037】
一方、カーボン粉を添加した各ケースでは、4工程後でほぼ平衡に達しており、添加しないケースに比べ、6工程後B値はいずれも低くなっていることがわかる。これはカーボン粉を添加すると、分配比が高くなったことを示している。さらに、カーボン粉を添加したケースではいずれも4工程後で、太陽電池として許容濃度である0.3ppm以下に達していることがわかった。
【0038】
以上のことから、スラグにカーボン粉を添加する本発明法は、カーボン粉を添加しない従来法に比べ、太陽電池レベルのB濃度に下げるのに要するスラグ量と時間を少なくすることができることがわかった。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
(実施例2)
反応容器内の溶融シリコンに対して、各種のスラグ材料を溶融シリコン上に添加した。添加したスラグ材料が溶融してスラグ層を形成した後、1500℃で30min保持し、溶融シリコンの精錬を行った。その後、シリコンを鋳型に移送し、冷却して凝固させた。
【0042】
こうして得られたシリコンを1工程後シリコンと呼ぶことにする。この1工程後シリコンを再度溶解し、同様の処理を行って得られるシリコンを2工程後シリコンと呼ぶ。これを計6回繰り返し、第6工程後シリコンを得た。
このとき、初期シリコン量は30Kg、スラグ量は30Kg/工程であった。使用した初期シリコンは金属SiでB濃度が10質量ppm程度のもの、また使用した反応容器はアルミナ製のものを用いた。
【0043】
スラグ材料は表3に示すようにスラグ組成として、NaCOとSiOの混合物(比較例1)、NaCOとAlの混合物(比較例2)、CaCOとSiOの混合物(比較例3)を使用する従来の方法と、各種スラグ材料100質量部に対してSiC粉(純度100%)を15質量部添加した各混合物を使用する方法(本発明例4、本発明例5、本発明例6)を比較した。添加したSiCは粒子径100〜500μmであった。
【0044】
各スラグを使用した場合における、各工程後シリコンのB濃度を調査した。表4に示すように、SiC粉を添加した各ケースでは、4工程後でほぼ平衡に達しており、添加しないケースに比べ、6工程後B値はいずれも低くなっていることがわかる。これはSiC粉を添加すると、分配比が高くなったことを示している。さらに、SiC粉を添加したケースではいずれも4工程後太陽電池として許容濃度である0.3ppm以下に達していることがわかった。
【0045】
以上のことから、スラグにSiC粉を添加する本発明法は、カーボンを添加しない従来法に比べ、太陽電池レベルのB濃度に下げるのに要するスラグ量と時間を少なくすることができることがわかった。
【0046】
【表3】

【0047】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融シリコンに、アルカリ金属の酸化物もしくは炭酸塩、または、アルカリ土類金属の酸化物もしくは炭酸塩と、SiOまたはAlからなるスラグ用材料を添加することにより、溶融シリコンの上にスラグ層を形成させて、シリコンを高純度化する方法であって、溶融シリコンの上にスラグ層が形成された後に、カーボンを基材とした物質、または、カーボンを基材とした物質とスラグ用材料との混合物を、スラグ層に添加することを特徴とするシリコンの精錬方法。
【請求項2】
溶融シリコンに、アルカリ金属の酸化物もしくは炭酸塩、または、アルカリ土類金属の酸化物もしくは炭酸塩と、SiOまたはAlからなるスラグ用材料を添加することにより、溶融シリコンの上にスラグ層を形成させて、シリコンを高純度化する方法であって、溶融シリコンの上に、カーボンを基材とした物質とスラグ用材料との混合物を添加することを特徴とするシリコンの精錬方法。
【請求項3】
前記カーボンを基材とした物質が、粒状または粉状であることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコンの精錬方法。
【請求項4】
前記カーボンを基材とした物質の最大直径が2mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリコンの精錬方法。
【請求項5】
前記カーボンを基材とした物質中のCの量が、スラグ用材料100質量部に対して、0.1〜10質量部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシリコンの精錬方法。
【請求項6】
前記カーボンを基材とした物質が、黒鉛粉またはSiC粉であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシリコンの精錬方法。