説明

シリコンを母材とする複合材料及びその製造方法

【課題】シリコン表面層に形成された非貫通孔内に、めっき法を用いて金属等が空隙を形成することなく充填されている複合材料と、その複合材料の製造方法を提案する。
【解決手段】シリコン100の表面から形成された非貫通孔の底部に位置する第1金属が起点となって、その非貫通孔が、自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的に第2金属又は前記第2金属の合金106により充填されることにより、高精度に充填された、換言すれば、空隙の形成されにくい複合材料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンを母材とする複合材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属皮膜処理法、非金属皮膜処理法、化成処理法等の表面処理方法が研究されている。これまでに、ある金属母材の表面に別の種類の金属膜を形成することにより、様々な機能を備えた複合材料が創出されてきた。
【0003】
幾つかの表面処理方法の中でも代表的なものの一つが、めっき法である。このめっき法は、例えば磁気記録分野においても利用されている。具体的には、母材とするアルミナ(Al)の表面層に形成された多数の孔に、コバルトを交流めっき法によって充填する技術が開示されている(例えば、非特許文献1)。この技術は、高密度磁気記録媒体の製造において重要な地位を占める可能性がある。しかし、交流電源等を必要とするため、設備全体のコストの低減には限度がある等の問題が存在する。また、特殊な基板を用いて、多孔質層を形成した上で、置換めっき法を用いてその多孔質層の孔内にめっき物を充填する技術も開示されている(特許文献1)。しかし、母材となる基板が特殊な構造を有しているため、その製造工程の煩雑化や製造コストの上昇は避けられない。
【0004】
一方、半導体分野やMEMS分野等において最も広範に利用されるシリコンは、安定的な供給が可能である点で磁気記録媒体の母材としても好適な材料となり得る。実際、これまでにシリコンを母材とする磁気記録媒体も提案されている(例えば、特許文献2)。一例としてではあるが、非貫通孔が形成されたシリコンの表面層を高精度に、換言すれば、空隙をできる限り残存させることなくめっき処理する技術の開発は、高密度の磁気記録媒体を製造するための重要な要素技術となり得る。
【非特許文献1】伊藤健一、外1名、「ナノホールパターンドメディア」、雑誌FUJITSU、富士通株式会社、2007年1月、第58巻、第1号、p90−98
【非特許文献2】八重真治(S. Yae)、外4名,“Electrochemistry Communications”,2003年8月,第5巻,p.632
【非特許文献3】辻埜和也(K. Tsujino)、外1名,“Electrochimica Acta”,2007年11月20日,第53巻,p.28
【特許文献1】特開2006−342402号公報
【特許文献2】特開昭57−105826号公報
【特許文献3】特開平11−283829号公報
【特許文献4】特開2003−288712号公報
【特許文献5】特開2004−237429号公報
【特許文献6】特開2005−139376号公報
【特許文献7】特開2007−533983号公報
【特許文献8】米国特許出願公開第2005/0101153号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、めっき法により孔に金属を充填する幾つかの技術が開示されている。しかしながら、電解めっき法を用いた場合、電源や電極を必要とするため設備の小型化や設備コストの低減に限度がある。また、従来の無電解めっき法を用いた孔の充填技術では、複雑な製造工程を要する。
【0006】
他方、例えば、シリコンを母材とする高密度の磁気記録媒体を製造するためには、シリコンの表面層の非貫通孔が磁性材料で高精度に充填されなければならない。また、磁性材料に限らず、様々な高機能材料を得るためにも、孔の充填精度の高いめっき技術の開発が重要となる。しかしながら、簡便であるとともに孔の充填精度の高いめっき技術は未だ確立されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述のような技術課題を解決することにより、各種のシリコンを母材とする機能材料の開発に大きく貢献するものである。発明者らは、シリコンの表面層に形成された孔をめっき材で充填するにあたり、その孔の大小にかかわらず確実に充填される方法を見出すべく鋭意研究を重ねた。一般に、孔が微細化すればするほど、その孔の内部に空隙を形成することなくめっき材を充填することが困難になる。しかし、発明者らは、無電解工程でも、ある特殊な状況を作り出すとともにそれを利用することによって、その孔の底部を起点として充填工程を進行させることができることを見出し、本発明が完成した。
【0008】
本発明の1つのシリコンを母材とする複合材料は、シリコンの表面から形成された非貫通孔の底部に位置する第1金属が起点となって、その非貫通孔が、自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的に第2金属又はその第2金属の合金により充填されている。
【0009】
このシリコンを母材とする複合材料によれば、シリコン表面上の第2金属又は第2金属の合金(以下、本段落において便宜上、第2金属等という)の形成が自己触媒型無電解めっき法によるため、第1金属を第2金属等が覆った後も、その第2金属等が触媒となって継続的に第2金属等のイオンの還元に寄与することになる。従って、この複合材料は、非貫通孔の底部に位置する第1金属が起点となって第2金属等がその孔に充填されているため、その孔内に空隙が形成されにくい。
【0010】
また、本発明の1つのシリコンを母材とする複合材料の製造方法は、シリコンの表面に、粒子状、アイランド状、又は膜状の第1金属を分散配置する分散配置工程と、前述のシリコンの表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させることによりそのシリコンの表面から非貫通孔を形成する非貫通孔形成工程と、第2金属のイオン及び還元剤を含有する第3溶液に浸漬することにより、前述の非貫通孔の底部に位置するその第1金属を起点として、その非貫通孔を自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的にその第2金属又はその第2金属の合金で充填する充填工程とを含んでいる。
【0011】
このシリコンを母材とする複合材料の製造方法によれば、まず、第1金属が、シリコンの表面に粒子状、アイランド状、又は膜状に分散配置される。次に、その第1金属を担持したシリコン表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させることにより、そのシリコン表面層に孔が形成される。このとき、あたかも粒子状、アイランド状、又は膜状の前記第1金属がその孔内に侵入したかのように、最終的に形成された非貫通孔の底部にその第1金属が配置される。その後、その孔を充填する第2金属又は第2金属の合金(以下、本段落において便宜上、第2金属等という)の形成が自己触媒型無電解めっき法によるため、第1金属を第2金属等が覆った後も、その第2金属等が触媒となって継続的に第2金属等のイオンの還元に寄与することになる。従って、この複合材料は、非貫通孔の底部に位置する第1金属が起点となって第2金属等がその孔に充填されているため、その孔内に空隙が形成されにくい。
【0012】
また、本発明のもう1つのシリコンを母材とする複合材料の製造方法は、シリコンの表面を第1金属のイオン及びフッ化物イオンを含有する第1溶液に浸漬することによりそのシリコンの表面に粒子状、アイランド状、又は膜状のその第1金属を分散配置する分散配置工程と、前述のシリコンの表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させることによりそのシリコンの表面から非貫通孔を形成する非貫通孔形成工程と、第2金属のイオン及び還元剤を含有する第3溶液に浸漬することにより、前述の非貫通孔の底部に位置するその第1金属を起点として、その非貫通孔を自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的にその第2金属又はその第2金属の合金で充填する充填工程とを含んでいる。
【0013】
このシリコンを母材とする複合材料の製造方法によれば、まず、第1金属のイオン及びフッ化物イオンを含有する第1溶液に浸漬することにより、そのシリコンの表面に粒子状、アイランド状、又は膜状の第1金属が分散配置される。次に、その第1金属を担持したシリコン表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させることにより、そのシリコン表面層に孔が形成される。このとき、あたかも粒子状、アイランド状、又は膜状の前記第1金属がその孔内に侵入したかのように、最終的に形成された非貫通孔の底部にその第1金属が配置される。その後、その孔を充填する第2金属又は第2金属の合金(以下、本段落において便宜上、第2金属等という)の形成が自己触媒型無電解めっき法によるため、第1金属を第2金属等が覆った後も、その第2金属等が触媒となって継続的に第2金属等のイオンの還元に寄与することになる。従って、この複合材料は、非貫通孔の底部に位置する第1金属が起点となって第2金属等がその孔に充填されているため、その孔内に空隙が形成されにくい。
【0014】
また、本発明の1つのシリコンを母材とする複合材料の製造装置は、シリコンの表面に、粒子状、アイランド状、又は膜状の第1金属を分散配置する分散配置装置と、前述のシリコンの表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させることによりそのシリコンの表面から非貫通孔を形成する非貫通孔形成装置と、第2金属のイオン及び還元剤を含有する第3溶液に浸漬することにより、前述の非貫通孔の底部に位置するその第1金属を起点として、その非貫通孔を自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的にその第2金属又はその第2金属の合金で充填する充填装置とを備えている。
【0015】
このシリコンを母材とする複合材料の製造装置によれば、まず、第1金属が、シリコンの表面に粒子状、アイランド状、又は膜状に分散配置される。次に、その第1金属を担持したシリコン表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させる装置により、そのシリコン表面層に孔が形成される。このとき、あたかも粒子状、アイランド状、又は膜状の前記第1金属がその孔内に侵入したかのように、最終的に形成された非貫通孔の底部にその第1金属が配置される。その後、その孔を充填する装置によって形成される第2金属又は第2金属の合金(以下、本段落において便宜上、第2金属等という)が自己触媒型無電解めっき法によるため、第1金属を第2金属等が覆った後も、その第2金属等が触媒となって継続的に第2金属等のイオンの還元に寄与することになる。従って、この製造装置によって形成される複合材料は、非貫通孔の底部に位置する第1金属が起点となって第2金属等がその孔に充填されているため、その孔内に空隙が形成されにくい。
【0016】
また、本発明のもう1つのシリコンを母材とする複合材料の製造装置は、シリコンの表面を第1金属のイオン及びフッ化物イオンを含有する第1溶液に浸漬することによりそのシリコンの表面に粒子状、アイランド状、又は膜状のその第1金属を分散配置する分散配置装置と、前述のシリコンの表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させることによりそのシリコンの表面から非貫通孔を形成する非貫通孔形成装置と、第2金属のイオン及び還元剤を含有する第3溶液に浸漬することにより、前述の非貫通孔の底部に位置するその第1金属を起点として、その非貫通孔を自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的にその第2金属又はその第2金属の合金で充填する充填装置とを備えている。
【0017】
このシリコンを母材とする複合材料の製造装置によれば、まず、第1金属のイオン及びフッ化物イオンを含有する第1溶液に浸漬する装置により、そのシリコンの表面に粒子状、アイランド状、又は膜状の第1金属が分散配置される。次に、その第1金属を担持したシリコン表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させる装置により、そのシリコン表面層に孔が形成される。このとき、あたかも粒子状、アイランド状、又は膜状の前記第1金属がその孔内に侵入したかのように、最終的に形成された非貫通孔の底部にその第1金属が配置される。その後、その孔を充填する装置によって形成される第2金属又は第2金属の合金(以下、本段落において便宜上、第2金属等という)が自己触媒型無電解めっき法によるため、第1金属を第2金属等が覆った後も、その第2金属等が触媒となって継続的に第2金属等のイオンの還元に寄与することになる。従って、この製造装置によって形成される複合材料は、非貫通孔の底部に位置する第1金属が起点となって第2金属等がその孔に充填されているため、その孔内に空隙が形成されにくい。
【0018】
なお、大変興味深いことに、シリコン表面からの非貫通孔が非常に微細な孔であり、かつその微細孔が多数形成された状態であっても、上述と同様、空隙の少ない充填が達成される。すなわち、シリコン表面が多孔質状であっても、非常に高精度に第2金属又は第2金属の合金によってそれらの孔内が充填される。また、上述のシリコンを母材とする複合材料が、全て無電解工程で形成される点も特筆に価する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の1つのシリコンを母材とする複合材料、本発明の1つのシリコンを母材とする複合材料の製造方法、又はその製造装置によれば、シリコン表面層に形成された非貫通孔が金属又はその金属の合金によって充填される際に空隙が形成されにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。尚、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしもスケール通りに示されていない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0021】
<第1の実施形態>
本実施形態では、1つのシリコンを母材とする複合材料及びその製造方法を示す。図1は、本実施形態におけるシリコン基板表面への第1金属の粒子の分散配置装置10の説明図である。図2は、そのシリコン基板の表面から非貫通孔を形成する非貫通孔形成装置20の説明図である。また、図3は、その非貫通孔への第2金属の充填装置30の説明図である。なお、本実施形態の第1金属は、銀(Ag)であり、その第2金属は、コバルト(Co)である。
【0022】
本実施形態では、まず、図1に示すように、シリコン基板100が、予め5℃に調整された、モル濃度が1mmol(ミリモル)/L(リットル)の硝酸銀(AgNO)とモル濃度が150mmol/Lのフッ化水素(HF)を含有する水溶液(以下、第1溶液ともいう)14を収めた容器12の中に30秒間浸漬される。その結果、粒径が7nm乃至30nmの銀(Ag)の微粒子102が、シリコン基板100の表面上に約1.8×1011個/cmの数密度で略均一に析出していることが確認された。図4は、このときのシリコン基板100の表面の走査電子顕微鏡(以下、SEMという)写真である。なお、本実施形態のシリコン基板100は、p型シリコン基板であった。なお、シリコン基板100は、その浸漬中、シリコン基板100の一部を覆う公知のフルオロカーボン系樹脂製保持具によって保持されているが、図を見やすくするために省略されている。シリコン基板100の保持具の省略は、以下の図2及び図3においても同様である。
【0023】
次に、図2に示すように、前述の銀の微粒子102を担持したシリコン基板100が、暗室26内でモル濃度が7.3mol(モル)/L(リットル)のフッ化水素酸(以下、第2溶液ともいう)24を収めた容器22の中に10分間浸漬される。その結果、シリコン基板100の表面から形成された多数の微細孔である非貫通孔104が確認された。また、大変興味深いことに、それらの非貫通孔104の底部には微粒子Xが存在していることが分かった。図5は、非貫通孔104とその底部にある微粒子Xを示す断面SEM写真である。なお、このSEM写真から、非貫通孔104の孔径は数nm乃至数十nmであることが確認される。すなわち、非貫通孔104の孔径がシリコン基板100の表面上に分散配置された銀の微粒子102の粒径と良く符合していることが分かる。
【0024】
上述のとおり、第2溶液はフッ化水素酸であって、その溶液中には銀と異なる微粒子が存在しない。従って、微粒子Xは、本実施形態では、第1溶液によって形成されたシリコン表面上の銀の微粒子102であると結論付けられる。他方、図5のSEM写真から、非貫通孔104のその深さが平均的に約50nmであることが分かった。また、その非貫通孔104の形成が、シリコン基板100の厚み方向に対してある程度平行な直線状であることも確認された。
【0025】
その後、図3に示すように、金属塩である硫酸コバルト(CoSO)及び還元剤であるジメチルアミンボラン(DMAB)を含有する水溶液(以下、第3溶液ともいう)34をめっき溶液として、上述の非貫通孔104が形成されたシリコン基板100が浸漬される。本実施形態では、シリコン基板100が第3溶液中に無電解の環境下で120秒間浸漬された。図6は、第3溶液中に120秒間浸漬した後のシリコン基板100の表面近傍の断面SEM写真である。第2溶液によって形成された非貫通孔104が、実質的にコバルト(Co)(以下、単にコバルトともいう)106によって空隙が形成されずに充填されていることが確認される。また、前述の浸漬時間を適宜調整することにより、シリコン基板100の表面からそのコバルト(Co)が突出することを防止することも可能である。尚、本実施形態における非貫通孔104の充填物質は、実質的にはコバルト(Co)であるといえるが、極めて正確に表現すれば、ホウ素が原子百分率(atom%)において略0%乃至0.2%であるコバルト−ホウ素合金(Co−B)であるともいえる。
【0026】
本実施形態では、非貫通孔104の底部に位置する銀の微粒子102が起点となって、自己触媒型無電解めっき法によって、コバルト(Co)106がその非貫通孔104を空隙を形成することなく充填している。すなわち、当初の触媒である銀の微粒子102がめっき材であるコバルト(Co)106によって覆われてしまったとしても、そのコバルト(Co)106自身が触媒の機能を発揮するために、その後も継続的にコバルト(Co)を析出させることが可能となる。また、自己触媒型の無電解めっき法により、第2金属の合金によるめっき処理の際に、非貫通孔104の底部に位置する第1金属の微粒子102が起点となるため、多数の非貫通孔が形成された場合であっても、確度が高く、且つ空隙が形成されにくい孔の充填が可能となる。
【0027】
加えて、本実施形態では、上述の図1乃至図3に示す工程の全てが無電解工程で行われている。従って、本実施形態は、汎用性の高い母材を用いた上で量産性の高いめっき法を適用していることに加え、電解めっき法で要求される電極や電源等の設備も不要となるためコスト面でも非常に有利である。
【0028】
<第2の実施形態>
本実施形態では、もう1つのシリコンを母材とする複合材料及びその製造方法を示す。但し、本実施形態のシリコンを母材とする複合材料の製造方法は、一部の条件を除いて第1の実施形態のそれと同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0029】
本実施形態では、図1に示す分散配置装置10の装置構成を用いて、シリコン基板表面への第1金属粒子である金(Au)の分散配置を行った。具体的には、予め5℃に調整された、モル濃度が1mmol(ミリモル)/L(リットル)のテトラクロロ金酸(HAuCl)とモル濃度が150mmol/Lのフッ化水素(HF)を含有する水溶液が本実施形態の第1溶液として採用された。その結果、粒径が4nm乃至15nmの金(Au)の微粒子202が、シリコン基板200の表面上に約5.5×1011個/cmの数密度で略均一に析出していることが確認された。図7Aは、本実施形態におけるシリコン基板表面への第1金属粒子である金(Au)の分散配置の様子を示すSEM写真であり、第1の実施形態の図4に相当する。また、図7Bは、第1金属202である金(Au)が分散配置されたシリコン基板200の側面を示す模式図である。
【0030】
次に、前述の金の微粒子202を担持したシリコン基板200が、第1の実施形態と同じ第2溶液中に浸漬された。但し、本実施形態の浸漬時間は15分であった。その結果、シリコン基板200の表面から形成された多数の微細孔である非貫通孔204が確認された。また、本実施形態においても、それらの非貫通孔204の底部には前述の金(Au)と考えられる微粒子が存在していることが分かった。図8は、非貫通孔204とその底部にある金の微粒子202を捉えた断面SEM写真であり、第1の実施形態の図5に相当する。他方、図8のSEM写真から、非貫通孔204のその深さが平均的に約100nmであることが分かった。また、その非貫通孔204の形成が、第1の実施形態と同様、シリコン基板200の厚み方向に対してある程度平行な直線状であることも確認された。
【0031】
その後、金属塩である硫酸コバルト(CoSO)及び還元剤であるホスフィン酸ナトリウム(NaHPO)を含有する水溶液(以下、第3溶液ともいう)をめっき溶液として、上述の非貫通孔204が形成されたシリコン基板200が浸漬される。本実施形態では、シリコン基板200が第3溶液中に無電解の環境下で300秒間浸漬された。その結果、図9に示すように、第2溶液によって形成された非貫通孔204が、第2金属の合金206であるコバルト−リン合金(Co−P)によって空隙が形成されずに充填されていることが確認される。
【0032】
上述のとおり、本実施形態においても、非貫通孔204の底部に位置する金の微粒子202が起点となって、自己触媒型無電解めっき法によって、コバルト−リン合金(Co−P)が、その非貫通孔204を、空隙を形成することなく充填する。すなわち、本実施形態も、上述の全ての工程が無電解工程で行われるため、電解めっき法で要求される電極や電源等の設備も不要となる。また、自己触媒型の無電解めっき法により、第2金属によるめっき処理の際に、非貫通孔204の底部に位置する第1金属の微粒子202が起点となるため、多数の非貫通孔が形成された場合であっても、確度が高く、且つ空隙が形成されにくい孔の充填が可能となる。
【0033】
<第3の実施形態>
本実施形態では、他のシリコンを母材とする複合材料及びその製造方法を示す。但し、本実施形態のシリコンを母材とする複合材料の製造方法は、一部の条件を除いて第1の実施形態のそれと同じである。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略され得る。
【0034】
本実施形態では、図1に示す分散配置装置10の装置構成を用いて、シリコン基板表面への第1金属粒子である銀(Ag)の分散配置を行った。具体的には、予め5℃に調整された、モル濃度が1mmol(ミリモル)/L(リットル)の硝酸銀(AgNO)とモル濃度が150mmol/Lのフッ化水素(HF)を含有する水溶液が本実施形態の第1溶液として採用された。
【0035】
次に、前述の銀(Ag)の微粒子を担持したシリコン基板が、第1の実施形態と同じ第2溶液中に浸漬された。但し、本実施形態の浸漬時間は15分であった。その結果、シリコン基板の表面から形成された多数の微細孔である非貫通孔が確認された。また、本実施形態においても、それらの非貫通孔の底部には前述の銀(Ag)と考えられる微粒子が存在していることが分かった。なお、本実施形態の非貫通孔の深さは、最大で約180nmであり、平均的に約100nmであった。また、その非貫通孔の形成が、第1の実施形態と同様、シリコン基板の厚み方向に対してある程度平行な直線状であることも確認された。
【0036】
その後、金属塩である硫酸コバルト(CoSO)及び硫酸ニッケル(NiSO)と、還元剤であるジメチルアミンボラン(DMAB)を含有する水溶液(以下、第3溶液ともいう)をめっき溶液として、上述の非貫通孔が形成されたシリコン基板が浸漬される。本実施形態では、シリコン基板が第3溶液中に無電解の環境下で120秒間浸漬された。その結果、第2溶液によって形成された非貫通孔が、コバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)によって空隙が形成されずに充填されていることが確認された。なお、本実施形態において、コバルトは、原子百分率(atom%)において約90%含まれ、ニッケルは、原子百分率(atom%)において約6%含まれ、ホウ素は、原子百分率(atom%)において約4%含まれていた。
【0037】
上述のとおり、本実施形態においても、非貫通孔の底部に位置する銀(Ag)の微粒子が起点となり、自己触媒型無電解めっき法によって、第2金属の合金306であるコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)が空隙を形成することなくその非貫通孔を充填する。図10は、第2金属の合金306であるコバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)が前述の非貫通孔を充填した後のシリコン基板の断面SEM写真である。
【0038】
これまでの実施形態と同様、本実施形態も上述の全ての工程が無電解工程で行われるため、電解めっき法で要求される電極や電源等の設備も不要となる。また、自己触媒型の無電解めっき法により、第2金属によるめっき処理の際に、非貫通孔の底部に位置する第1金属の微粒子が起点となるため、多数の非貫通孔が形成された場合であっても、確度が高く、且つ空隙が形成されにくい孔の充填が可能となる。
【0039】
<その他の実施形態>
上述の各実施形態では、充填されるめっき材が、コバルト(Co)、コバルト−ニッケル−ホウ素合金(Co−Ni−B)、及びコバルト−リン合金(Co−P)であったが、これに限定されない。例えば、ニッケル−ホウ素合金(Ni−B)、ニッケル−リン合金(Ni−P)、及び銅(Cu)をめっき材として、上述の各実施形態と同様、自己触媒型めっき法により多数の微細な非貫通孔を充填することが可能である。
【0040】
具体的には、例えば、ニッケル−ホウ素合金(Ni−B)をめっき材として充填するためには、まず、モル濃度が1mmol(ミリモル)/L(リットル)の硝酸銀(AgNo)と、モル濃度が150mmol/Lのフッ化水素(HF)を含有する水溶液が本実施形態の第1溶液として採用される。次に、第1金属である銀(Ag)が分散配置されたシリコン基板が第1の実施形態と同じ第2溶液中に浸漬される。その後、金属塩である硫酸ニッケル及び還元剤であるジメチルアミンボラン(DMAB)を含有する水溶液が第3溶液として採用されることにより、シリコン基板の非貫通孔内がニッケル−ホウ素合金(Ni−B)で充填される。図11は、非貫通孔が第2金属の合金406であるニッケル−ホウ素合金(Ni−B)で充填されたときのSEM写真である。
【0041】
ところで、上述の各実施形態では、第1溶液にフッ化水素が含有されていたが、これに限定されない。例えば、フッ化水素の代わりにフッ化アンモニウム(NHF)が用いられても本発明の効果と略同様の効果が奏される。
【0042】
また、上述の各実施形態では、第1金属として銀(Ag)、金(Au)、が用いられていたが、これにも限定されない。例えば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、又はロジウム(Rhであっても良い。すなわち、第1金属が、第2金属又は第2金属の合金を自己触媒型のめっき材にするための起点となる触媒であれば、本発明の効果と略同様の効果が奏される。また、第1金属として、上述の各金属の内の複数種の金属がシリコン上に分散配置されていても本発明の効果と同様の効果が奏される。また、上述の各実施形態の説明の中では述べていないが、いずれの実施形態においても、第1金属が、不純物が全く含まれていない純金属である必要はない。通常含まれうる不純物であれば、本発明の実質的な効果は奏される。
【0043】
また、上述の各実施形態の説明の中では述べていないが、非貫通孔内に充填される物質の中には、第2金属又は第2金属の合金の他に、ごく微量ではあるが、炭素(C)、酸素(O)、水素(H)、若しくは、例えば、めっき浴に含有されるホルマリンやサッカリン等の添加物、又は前述の各物質の分解生成物が不純物として含まれ得る。さらに、上述の各実施形態では、第2金属又は第2金属の合金が、非貫通孔を、その開口部に至るまで埋めていたが、上述の通り、各工程時間を調整することにより、非貫通孔の開口部に至らない深さまでを埋めることが可能である。従って、本願において、「充填」とは、非貫通孔の開口部に至らないような第2金属の埋め込み、換言すれば、非貫通孔の不完全な埋め込みを含む概念である。
【0044】
さらに、上述の各実施形態では、シリコン基板表面上に多数の第1金属の粒子を分散配置させているため、シリコン表面から形成される非貫通孔が多孔質状となっていたが、これに限定されない。
【0045】
例えば、図12に示すように、第1金属502であるパラジウム(Pd)膜が公知のメタルマスクを用いた真空蒸着法によってシリコン基板上に厚さ29nmで1辺が85μmの正方形状にパターニングされた場合であっても、本発明の効果と略同様の効果が奏される。具体的には、まず、図13に示すように、そのパターニングされた第1金属の外形にほぼ沿った約30μm深さの非貫通孔504が形成される。この非貫通孔504の底面には、図14に示すように、粒子状、アイランド状、又は膜状のパラジウム(Pd)502が確認された。その後、上述の実施形態と同様に、金属塩を硫酸コバルト(CoSO)とし、還元剤をホスフィン酸ナトリウム(NaHPO)とすることにより、その非貫通孔504を第2金属の合金であるコバルト−リン合金(Co−P)で充填することができる。
【0046】
上述のとおり、第1金属が蒸着膜であっても本発明の効果が奏されることが分かった。従って、シリコンの表面上に、粒子状、アイランド状、又は膜状の第1金属を分散配置する手段は、特に限定されない。例えば、第1金属の粒子が分散している懸濁液をスピンコート法によりシリコン表面上に塗布しても、第1金属がシリコン表面上に分散配置されるため、本発明の効果と同様の効果が奏される。以上、述べたとおり、本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、機能性複合材料の要素技術として広範に利用され得る。例えば、本発明は、高密度の垂直磁気記録媒体に適用することが可能であり、また、各種センサや電極材料としても用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の1つの実施形態におけるシリコン基板表面への第1金属粒子の分散配置装置の説明図である。
【図2】本発明の1つの実施形態におけるシリコン基板の表面から非貫通孔を形成する非貫通孔形成装置の説明図である。
【図3】本発明の1つの実施形態における第2金属又は第2金属の合金の充填装置の説明図である。
【図4】本発明の1つの実施形態におけるシリコン基板表面上の第1金属粒子の分散配置を示すSEM写真である。
【図5】本発明の1つの実施形態における非貫通孔とその底部にある微粒子を示す断面SEM写真である。
【図6】本発明の1つの実施形態における第3溶液中に浸漬した後のシリコン基板表面近傍の断面SEM写真である。
【図7A】本発明の他の実施形態における第1の実施形態の図4に相当するSEM写真である。
【図7B】本発明の他の実施形態における第1金属粒子が分散配置されたシリコン基板の側面を示す模式図である。
【図8】本発明の他の実施形態における第1の実施形態の図5に相当する断面SEM写真である。
【図9】本発明の他の実施形態における第2金属の合金が充填されたシリコン基板の側面を示す模式図である。
【図10】本発明の他の実施形態における第2金属の合金が充填されたシリコン基板の断面SEM写真である。
【図11】本発明の他の実施形態における第2金属の合金が充填されたシリコン基板の断面SEM写真である。
【図12】本発明の他の実施形態における第1金属膜が形成されたシリコン基板表面の光学顕微鏡写真である。
【図13】本発明の他の実施形態における第1金属の形状に沿った非貫通孔を示すSEM写真である。
【図14】本発明の他の実施形態における粒子状、アイランド状、又は膜状の第1金属が非貫通孔の底部に配置された状態を示すSEM写真である。
【符号の説明】
【0049】
10 分散配置装置
12,22,32 容器
14 第1溶液
20 非貫通孔形成装置
24 第2溶液
26 暗室
30 充填装置
34 第3溶液
100,200 シリコン基板
102,202,502 第1金属
104,204,504 非貫通孔
106 第2金属
206,306,406 第2金属の合金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンの表面から形成された非貫通孔の底部に位置する第1金属が起点となって、前記非貫通孔が、自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的に第2金属又は前記第2金属の合金により充填されている
シリコンを母材とする複合材料。
【請求項2】
前記非貫通孔が、粒子状、アイランド状、又は膜状の前記第1金属が分散配置された前記シリコンの表面をフッ化物イオンを含有する溶液に浸漬することにより形成された
請求項1に記載のシリコンを母材とする複合材料。
【請求項3】
前記非貫通孔により前記シリコンの表面が多孔性となる
請求項1に記載のシリコンを母材とする複合材料。
【請求項4】
前記第1金属が、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、及びロジウム(Rh)の群から選ばれる少なくとも一種類の金属である
請求項1乃至請求項3に記載のシリコンを母材とする複合材料。
【請求項5】
前記第1金属が銀(Ag)又は金(Au)であり、前記第2金属がコバルト(Co)である
請求項1乃至請求項3に記載のシリコンを母材とする複合材料。
【請求項6】
シリコンの表面に、粒子状、アイランド状、又は膜状の第1金属を分散配置する分散配置工程と、
前記シリコンの表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させることにより前記シリコンの表面から非貫通孔を形成する非貫通孔形成工程と、
第2金属のイオン及び還元剤を含有する第3溶液に浸漬することにより、前記非貫通孔の底部に位置する前記第1金属を起点として、前記非貫通孔を自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的に前記第2金属又は前記第2金属の合金で充填する充填工程とを含む
シリコンを母材とする複合材料の製造方法。
【請求項7】
シリコンの表面を第1金属のイオン及びフッ化物イオンを含有する第1溶液に浸漬することにより前記シリコンの表面に粒子状、アイランド状、又は膜状の前記第1金属を分散配置する分散配置工程と、
前記シリコンの表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させることにより前記シリコンの表面から非貫通孔を形成する非貫通孔形成工程と、
第2金属のイオン及び還元剤を含有する第3溶液に浸漬することにより、前記非貫通孔の底部に位置する前記第1金属を起点として、前記非貫通孔を自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的に前記第2金属又は前記第2金属の合金で充填する充填工程とを含む
シリコンを母材とする複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記非貫通孔を形成することにより前記シリコンの表面を多孔性とする
請求項6又は請求項7に記載のシリコンを母材とする複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記第1金属が、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、及びロジウム(Rh)の群から選ばれる少なくとも一種類の金属である
請求項6又は請求項7に記載のシリコンを母材とする複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記第1金属が銀(Ag)又は金(Au)であり、前記第2金属がコバルト(Co)である
請求項6又は請求項7に記載のシリコンを母材とする複合材料の製造方法。
【請求項11】
シリコンの表面に、粒子状、アイランド状、又は膜状の第1金属を分散配置する分散配置装置と、
前記シリコンの表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させることにより前記シリコンの表面から非貫通孔を形成する非貫通孔形成装置と、
第2金属のイオン及び還元剤を含有する第3溶液に浸漬することにより、前記非貫通孔の底部に位置する前記第1金属を起点として、前記非貫通孔を自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的に前記第2金属又は前記第2金属の合金で充填する充填装置とを備えた
シリコンを母材とする複合材料の製造装置。
【請求項12】
シリコンの表面を第1金属のイオン及びフッ化物イオンを含有する第1溶液に浸漬することにより前記シリコンの表面に粒子状、アイランド状、又は膜状の前記第1金属を分散配置する分散配置装置と、
前記シリコンの表面をフッ化物イオンを含有する第2溶液に浸漬させることにより前記シリコンの表面から非貫通孔を形成する非貫通孔形成装置と、
第2金属のイオン及び還元剤を含有する第3溶液に浸漬することにより、前記非貫通孔の底部に位置する前記第1金属を起点として、前記非貫通孔を自己触媒型無電解めっき法を用いた実質的に前記第2金属又は前記第2金属の合金で充填する充填装置とを備えた
シリコンを母材とする複合材料の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7B】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−209420(P2009−209420A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54506(P2008−54506)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】